(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】制振装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20220825BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20220825BHJP
F16F 15/03 20060101ALI20220825BHJP
H02K 33/16 20060101ALI20220825BHJP
H02K 41/03 20060101ALI20220825BHJP
【FI】
F16F15/02 C
E04H9/02 341D
F16F15/03 Z
H02K33/16 A
H02K41/03 A
(21)【出願番号】P 2018158137
(22)【出願日】2018-08-27
【審査請求日】2021-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】509338994
【氏名又は名称】株式会社IHIインフラシステム
(74)【代理人】
【識別番号】100141173
【氏名又は名称】西村 啓一
(72)【発明者】
【氏名】早野 哲央
(72)【発明者】
【氏名】今関 正典
(72)【発明者】
【氏名】風間 睦広
(72)【発明者】
【氏名】井澤 竜生
(72)【発明者】
【氏名】長井 悠
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-149029(JP,A)
【文献】特開2016-130431(JP,A)
【文献】特開2015-190572(JP,A)
【文献】特開2006-084035(JP,A)
【文献】特開平06-183394(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/00- 15/36
E04H 9/00- 9/16
H02K 33/00- 33/18
H02K 41/00- 41/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースと、
前記ベース上に設けられた一方向に延びるガイド装置と、
前記ガイド装置に往復移動可能に保持された移動架台と、
前記移動架台に駆動力を付与するリニアモータと、
前記移動架台
の上側に搭載され
ると共に、前記移動架台に対する相対位置が固定されて配置される可動マスと、
前記可動マスに設けられ、前記移動架台に対して前記可動マスをジャッキアップ処理するために伸長したジャッキが接触するジャッキアップポイントと、を備え、
前記移動架台は、前記往復移動方向に複数分割された架台分割体で構成され、
前記リニアモータは、
前記ベース側に取り付けられた固定子と、
前記移動架台の往復移動方向に沿い配列された複数の可動子を有し、
前記各可動子は、前記各架台分割体に取り付けられ、
前記可動マスが前記ジャッキアップ処理によりジャッキアップされたとき、前記各架台分割体は、互いに分割可能であ
り、
前記架台分割体それぞれは、前記架台分割体それぞれの上方に突出するピンを、前記可動マスの下側に配置された位置決めプレートの嵌合孔に嵌合させることにより、前記可動マスとの相対的な位置関係が固定される、
ことを特徴とする制振装置。
【請求項2】
前記ベースは、前記移動架台の往復移動方向と直交する方向の両縁部が、前記移動架台の両外側に張り出す構成を備え、
前記可動マスは、前記移動架台の往復移動方向と直交する方向の両縁部が、前記移動架台の両外側に張り出す構成を備え、
前記ジャッキアップポイントは、前記可動マスの両側縁部における前記移動架台の両外側に張り出す領域に設けられた
請求項1に記載の制振装置。
【請求項3】
前記移動架台における前記架台分割体への分割数、および、前記リニアモータにおける前記可動子の配列数は、3以上の複数とされた
請求項1または2に記載の制振装置。
【請求項4】
前記可動マスは、前記移動架台の往復移動方向に複数分割されたマス分割体が取り外し可能に連結された構成を備えた
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の制振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータを備えたマスダンパー型の制振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地震や風などによる構造物の振動を低減する制振装置の一つとしては、マスダンパー型の制振装置が知られている。
【0003】
マスダンパー型の制振装置としては、可動マスに駆動力を付与するアクチュエータを備えたアクティブ方式の制振装置、および、ハイブリッド方式の制振装置が知られている。 この種のマスダンパー型の制振装置に備えるアクチュエータとしては、リニアモータを用いることが従来提案されている。
【0004】
更に、マスダンパー型の制振装置に備えるリニアモータについては、制振対象となる構造物側に、可動マスの移動方向に沿う配置とされた固定子を備え、可動マス側に、共通の固定子に対応する2つの可動子を、可動マスの移動方向(以下、マス移動方向という)に沿い配列した状態で備えた構成とすることが従来提案されている(たとえば、特許文献1(
図1)参照)。
【0005】
かかる構成の制振装置は、リニアモータの2つの可動子から可動マスに対して駆動力を付与することができるため、1つの可動子のみを備える構成に比して、可動マスを、より大きな駆動力で駆動することができる。
【0006】
更に、リニアモータの2つの可動子から可動マスに対し駆動力を作用させる状態と、1つの可動子から可動マスに対し駆動力を作用させる状態とを切り替えることで、きめ細かい制振制御を行うことができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、制振装置は、制振対象となる構造物が大型化し、重量が増加すると、それに対応して、可動マスの質量を増大することが求められる。
【0009】
このように可動マスの質量が増大した場合は、制振装置に備えるリニアモータについて、可動マスに付与する駆動力を、より大きくすることが望まれる。
【0010】
制振装置から可動マスに付与する駆動力の増大化を図る手法の一つとしては、リニアモータを、3以上の複数の可動子を備える構成とすることが考えられる。
【0011】
ところが、3以上の複数の固定子を備えたリニアモータを採用する場合、可動マス側に、共通の固定子に対応する3以上の複数の可動子を、マス移動方向に沿い配列した状態で備えた構成とすると、制振装置の整備に手間を要するというのが実状である。
【0012】
すなわち、前記リニアモータでは、マス移動方向に沿い配列された複数の可動子のうち、マス移動方向の一端寄り位置と他端寄り位置に配置されている2つの可動子については、作業者が、マス移動方向の両端側から近づくことができる。よって、この2つの可動子の整備性は、比較的良好である。
【0013】
これに対し、マス移動方向の中間部に位置する可動子は、マス移動方向の両側に別の可動子が存在しているため、作業者が、マス移動方向に沿う方向から近づいて、整備作業を行うことは困難である。
【0014】
更に、リニアモータは、固定子と可動子との間隔が、たとえば0.1mmなど、設定された値に保持されることが必要とされる。そのため、リニアモータの固定子および可動子は、特許文献1に示されたように、可動マスの支持と移動の案内を行う一対のガイド装置の間に配置されることが多い。
【0015】
したがって、マス移動方向の中間部に位置する可動子については、ガイド装置の存在により、マス移動方向に直交する方向から作業者が接近して整備作業することは阻まれる。
【0016】
なお、可動マスを一旦取り外して、可動子が取り付けられている可動マスの下面側を露出させれば、マス移動方向の中間部に位置する可動子の整備を行うことは可能になると考えられる。
【0017】
しかし、この手法を実施するためには、取り外した可動マスを一時的に置くための保管場所を、制振装置の設置個所とは別に確保する必要がある。
【0018】
また、可動マスを保管場所まで搬送するには、クレーンを使用する必要がある。更に、制振装置の上方には、可動マスを吊り上げて保管場所まで搬送するクレーンを配置するための空間を確保する必要がある。
【0019】
したがって、クレーンの用意や、保管場所の確保、制振装置の上方の空間の確保などに多くの手間と時間を要する。
【0020】
そこで、本発明は、可動マスを駆動するアクチュエータとして、可動マスの移動方向に配列された複数の可動子を備える形式のリニアモータを採用し、且つ整備性の向上化を図ることができる制振装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、前記課題を解決するために、ベースと、前記ベース上に設けられた一方向に延びるガイド装置と、前記ガイド装置に往復移動可能に保持された移動架台と、前記移動架台に駆動力を付与するリニアモータと、前記移動架台の上側に搭載されると共に、前記移動架台に対する相対位置が固定されて配置される可動マスと、前記可動マスに設けられ、前記移動架台に対して前記可動マスをジャッキアップ処理するために伸長したジャッキが接触するジャッキアップポイントと、を備え、前記移動架台は、前記往復移動方向に複数分割された架台分割体で構成され、前記リニアモータは、前記ベース側に取り付けられた固定子と、前記移動架台の往復移動方向に沿い配列された複数の可動子を有し、前記各可動子は、前記各架台分割体に取り付けられ、前記可動マスが前記ジャッキアップ処理によりジャッキアップされたとき、前記各架台分割体は、互いに分割可能であり、前記架台分割体それぞれは、前記架台分割体それぞれの上方に突出するピンを、前記可動マスの下側に配置された位置決めプレートの嵌合孔に嵌合させることにより、前記可動マスとの相対的な位置関係が固定される、制振装置とする。
【0022】
前記ベースは、前記移動架台の往復移動方向と直交する方向の両縁部が、前記移動架台の両外側に張り出す構成を備え、前記可動マスは、前記移動架台の往復移動方向と直交する方向の両縁部が、前記移動架台の両外側に張り出す構成を備え、前記ジャッキアップポイントは、前記可動マスの両側縁部における前記移動架台の両外側に張り出す領域に設けられた構成としてもよい。
【0023】
前記移動架台における前記架台分割体への分割数、および、前記リニアモータにおける前記可動子の配列数は、3以上の複数とされた構成としてもよい。
【0024】
前記可動マスは、前記移動架台の往復移動方向に複数分割されたマス分割体が取り外し可能に連結された構成を備えた構成としてもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明の制振装置によれば、可動マスを駆動するアクチュエータとして、可動マスの移動方向に配列された複数の可動子を備える形式のリニアモータを採用し、且つ整備性の向上化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】制振装置の第1実施形態を示す概略平面図である。
【
図4】制振装置の整備状況を示す概略側面図である。
【
図5】制振装置の別の整備状況を示す概略側面図である。
【
図6】制振装置の第2実施形態を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本開示の制振装置について、図面を参照して説明する。
【0028】
[第1実施形態]
図1は、制振装置の第1実施形態を示す概略平面図である。
図2は、
図1の制振装置の概略側面図である。
図3は、
図2のA-A方向矢視図である。
図4は、制振装置の整備状況として、可動マスがジャッキアップされた状態を示す概略側面図である。
図5は、制振装置の別の整備状況として、一部の架台分割体を、ジャッキアップされた可動マスの下方から移動させた状態を示す概略側面図である。
【0029】
本実施形態の制振装置は、
図1、
図2、
図3に符号1で示すものである。
【0030】
本開示では、説明の便宜上、
図1に示すように、水平面内で直交する2軸方向における一方の軸方向をX方向、他方の軸方向をY方向といい、本開示の制振装置1の構成は、後述する可動マス2の往復移動の方向が、X方向に一致するものとして説明する。なお、このX方向およびY方向は、東西南北などの方位に関連するものではなく、また、本開示の制振装置1を図示しない制振対象の構造物に設置する際の向きを規定するものでもない。
【0031】
本実施形態の制振装置1は、制振対象の構造物(図示せず)に設置されるベース3と、ベース3上にX方向に沿う姿勢で設けられた一対のガイド装置4と、ガイド装置4にX方向に沿い往復移動可能に保持された移動架台5と、移動架台5に駆動力を付与するアクチュエータとしてのリニアモータ6と、移動架台5の上側に搭載された可動マス2と、可動マス2に設けられたジャッキアップポイント7と、を備えた構成とされている。
【0032】
更に、移動架台5は、移動架台5がX方向に3分割された構造の架台分割体8a,8b,8cを備えていて、各架台分割体8a,8b,8cが、ガイド装置4に、X方向に沿い往復移動可能に保持された構成とされている。また、リニアモータ6は、Y方向に間隔を隔てて配置されている一対のガイド装置4の間に、ベース3に取り付けられた固定子9と、X方向に配列された3つの可動子10a,10b,10cとを備え、各可動子10a,10b,10cが、移動架台5の各架台分割体8a,8b,8cの下面側に、個別に取り付けられた構成とされている。
【0033】
ベース3は、本実施形態では、X方向に延びる矩形のプレート状の部材とされている。
【0034】
ベース3のX方向の寸法は、ガイド装置4のレール11に必要とされるX方向の寸法に対応して設定されている。なお、ガイド装置4のレール11のX方向の寸法の設定手法については後述する。
【0035】
また、ベース3は、
図3に示すように、ベース3のY方向の両側縁部が、移動架台5のY方向の両端部より、Y方向の両外側に或る寸法で張り出すように、ベース3のY方向の寸法が設定されている。これにより、ベース3は、Y方向の両側縁部における移動架台5よりもY方向の両外側に張り出す領域に、可動マス2のジャッキアップ処理に使用する二点鎖線で示す如きジャッキ12を載置できるようにしてある。
【0036】
ガイド装置4は、
図1から
図3に示すように、ベース3の上側にX方向に延びる姿勢で設置されたレール11と、レール11にスライド可能に取り付けられた複数のブロック13とを備えた構成とされている。
【0037】
ガイド装置4は、ベース3上に、Y方向に設定された間隔を隔てて2台一組で設けられている。
【0038】
各ガイド装置4は、6個ずつのブロック13を備えていて、一方のガイド装置4の2個のブロック13と、他方のガイド装置4の2個のブロック13とによる計4個のブロック13が、それぞれ移動架台5の各架台分割体8a,8b,8cの下面側の四隅部に取り付けられている。これにより、各架台分割体8a,8b,8cは、対応するブロック13を介して、レール11にX方向に往復移動可能に保持される。
【0039】
なお、ガイド装置4としては、リニアガイドといわれる直動転がり案内方式のガイド装置4を使用することが好ましいが、移動架台5の各架台分割体8a,8b,8cを介して各ブロック13に可動マス2の荷重を受けた状態の下で、各ブロック13がレール11に沿い往復移動可能となっていれば、任意の形式のガイド装置4を採用してよいことは勿論である。
【0040】
移動架台5は、各架台分割体8a,8b,8cを互いに突き合わせるか、または、近接させてX方向に集合させて配置した状態で、3つの架台分割体8a,8b,8cの上側に、X方向に延びる1つの可動マス2が搭載されている。この状態で、可動マス2は、ベース3上で、移動架台5の各架台分割体8a,8b,8cと、各ガイド装置4を介して支持されると共に、各架台分割体8a,8b,8cが集合した移動架台5と一緒にX方向に往復移動可能となる。
【0041】
一方、移動架台5は、後述する可動マス2のジャッキアップ処理により、各架台分割体8a,8b,8cによる可動マス2の支持を解除することができ、このように可動マス2の支持を解除した状態では、各架台分割体8a,8b,8cは、個別にX方向に移動させることができる。
【0042】
リニアモータ6は、ベース3に取り付けられた固定子9が永久磁石とされ、各架台分割体8a,8b,8cに取り付けられた3つの可動子10a,10b,10cがコイルを備えた構成とされている。
【0043】
これにより、リニアモータ6は、各可動子10a,10b,10cのコイルに電流を流して磁場を発生させることで、各可動子10a,10b,10cを、固定子9に対してX方向に動作させることができる。したがって、本実施形態の制振装置1は、移動架台5の各架台分割体8a,8b,8cに可動マス2が搭載された状態では、リニアモータ6の各可動子10a,10b,10cで発生させるX方向の力を、移動架台5の各架台分割体8a,8b,8cを介して、可動マス2に、X方向に往復動作させるための駆動力として付与することができる。
【0044】
リニアモータ6では、X方向に配列された複数の可動子10a,10b,10cにより、X方向に沿う同一方向への力を同期して発生させるためには、各可動子10a,10b,10cの固定子9の磁極に対する相対位置を揃えることが必要とされる。
【0045】
なお、各可動子10a,10b,10cの固定子9の磁極に対する相対位置にずれが生じている場合は、各可動子10a,10b,10cでX方向に沿う同一方向へ力を発生させるタイミングにずれが生じるため、可動マス2に付与する駆動力が低下したり、各可動子10a,10b,10cで発生する力が互いに打ち消しあうことで、可動マス2の駆動が不能になったりする可能性がある。
【0046】
本実施形態の制振装置1は、後述するように、可動マス2のジャッキアップ処理により、各架台分割体8a,8b,8cによる可動マス2の支持を一旦解除し、その後、各架台分割体8a,8b,8cに可動マス2を再び搭載する処理を行うことがある。
【0047】
そのため、本実施形態の制振装置1では、移動架台5の各架台分割体8a,8b,8cに可動マスが再搭載されたときに、各架台分割体8a,8b,8cに取り付けられている各可動子10a,10b,10cの固定子9の磁極に対する相対位置が、初期状態に復帰することが求められる。
【0048】
そこで、本実施形態の制振装置1は、
図4に示すように、各架台分割体8a,8b,8cに、上方に突出する位置決め用のピン14a,14b,14cを備え、且つ、可動マス2の下端側に位置決めプレート15を備えると共に、位置決めプレート15に、各ピン14a,14b,14cを下方から挿入して嵌合させる3つの嵌合孔16a,16b,16cを備えた構成とされている。
【0049】
位置決めプレート15は、各嵌合孔16a,16b,16cを機械加工により形成してある。
【0050】
かかる構成を備えた本実施形態の制振装置1は、移動架台5の各架台分割体8a,8b,8cの上に可動マス2を搭載するときには、位置決めプレート15の各嵌合孔16a,16b,16cに、それぞれ対応する架台分割体8a,8b,8cのピン14a,14b,14cを嵌合させる。この状態で、X方向に配列された各架台分割体8a,8b,8cは、互いの相対位置が、位置決めプレート15によって位置決めされ、その位置決めの精度が、機械加工の精度で担保される。
【0051】
この位置決めプレート15による各架台分割体8a,8b,8cの位置決めは、各架台分割体8a,8b,8cの上に可動マス2を搭載するたびに、毎回同様に実施される。
【0052】
更に、本実施形態の制振装置1は、位置決めプレート15による各架台分割体8a,8b,8cの位置決めが行われた状態のときに、各可動子10a,10b,10cが固定子9の磁極幅の整数倍の寸法で配列された配置となるよう、各架台分割体8a,8b,8cにおける各可動子10a,10b,10cの取り付け位置が決められている。
【0053】
これにより、本実施形態の制振装置1は、各架台分割体8a,8b,8cの上に可動マス2を搭載するたびに、リニアモータ6における各可動子10a,10b,10cの固定子9の磁極に対する相対位置を、毎回同様に揃えることができる。
【0054】
可動マス2は、
図3に示すように、可動マス2のY方向の両側縁部が、移動架台5のY方向の両端部より、Y方向の両外側に或る寸法で張り出すように、可動マス2のY方向の寸法が設定されている。更に、可動マス2は、Y方向の両側縁部における移動架台5よりもY方向の両外側に張り出す領域であって、可動マス2の四隅部の下面側となる4個所に、ジャッキアップポイント7が設けられている。
【0055】
これにより、本実施形態の制振装置1では、ベース3のY方向の両側縁部における各ジャッキアップポイント7の真下となる位置にジャッキ12をそれぞれ配置し、次いで、各ジャッキ12を伸長作動させて、可動マス2のジャッキアップポイント7を下方から押し上げることにより、
図4に示すように、可動マス2のジャッキアップ処理を行うことができる。よって、本実施形態の制振装置1では、可動マス2の重量を、移動架台5の各架台分割体8a,8b,8cから、各ジャッキ12へ受け代えることができて、各架台分割体8a,8b,8cによる可動マス2の支持を解除することができる。
【0056】
この際、可動マス2のジャッキアップ処理を、
図4に示すように、可動マス2の位置をX方向の一端側(
図4では左側)へ寄せて配置した状態で行うことにより、各架台分割体8a,8b,8cのうち、X方向の他端側から中間部までに配置されている架台分割体8bと、架台分割体8cを、可動マス2の下方位置から、X方向の他端側へ引き出すことができる。
【0057】
よって、本実施形態の制振装置1では、移動架台5の各架台分割体8a,8b,8cのうち、X方向の中間部に配置された架台分割体8bを、可動マス2の下方から引き出すことができ、この状態で、作業者は、架台分割体8b、および、架台分割体8bに取り付けられているリニアモータ6の可動子10bについても、容易に近づいて整備を行うことができる。
【0058】
なお、本実施形態の制振装置1では、前記のように、X方向の中間部に配置された架台分割体8bを、可動マス2の下方から引き出すという点に鑑みて、ガイド装置4のレール11と可動マス2のX方向の寸法は、以下のように設定すればよい。
【0059】
各架台分割体8a,8b,8cと、対応する可動子10a,10b,10cなどの整備を行うときに、各架台分割体8a,8b,8cをガイド装置4から取り外さない場合は、
図5に示すように、ガイド装置4のレール11のX方向の長さ寸法と、可動マス2のX方向の寸法との差の寸法Dが、X方向の片方の端部側からX方向の中間部までの各架台分割体、
図5では、架台分割体8cと架台分割体8bのX方向の寸法と、作業者による整備作業に必要とされる作業スペース分とを足し合わせた寸法よりも大となるように設定すればよい。
【0060】
これに対し、図示しないが、各架台分割体8a,8b,8cをガイド装置4から取り外して整備作業を行う場合は、ガイド装置4のレール11のX方向の長さ寸法と、可動マス2のX方向の寸法との差の寸法Dは、可動マス2の下方から架台分割体8c、架台分割体8bを順次引き出して取り外す作業に必要とされる作業スペースよりも大となるように設定すればよい。
【0061】
本実施形態の制振装置1は、制振対象の構造物に生じた振動の検出と、その振動の検出結果に基づいてリニアモータ6による駆動力を付与して可動マス2を往復動作させる手法は、従来使用されているか、または、従来提案されているアクティブ方式のマスダンパー型の制振装置と同様の手法を採用すればよい。
【0062】
また、本実施形態の制振装置1は、可動マス2に図示しないばね要素を接続した構成として、ハイブリッド方式のマスダンパー型の制振装置としてもよい。この場合は、制振対象の構造物に生じた振動の検出と、その振動の検出結果に基づいてリニアモータ6による駆動力を付与して可動マス2を往復動作させる手法は、従来使用されているか、または、従来提案されているハイブリッド方式のマスダンパー型の制振装置と同様の手法を採用すればよい。
【0063】
これにより、本実施形態の制振装置1は、制振対象の構造物に振動が生じると、アクティブ方式またはハイブリッド方式のマスダンパー型の制振機能を発揮することができる。
【0064】
次に、本実施形態の制振装置1の整備を行う手順について説明する。
【0065】
本実施形態の制振装置1は、整備を行うときには、先ず、可動マス2を移動架台5と共に、ガイド装置4に沿わせて、
図4に示す如きX方向の一方の端部側へ寄せた配置とする。この場合の可動マス2の移動は、リニアモータ6(
図1参照)の駆動により行うようにすればよい。
【0066】
次に、作業者は、ベース3上で、且つ可動マス2の各ジャッキアップポイント7の真下となる位置に、ジャッキ12を配置し、次いで、各ジャッキ12を伸長作動させることにより、可動マス2のジャッキアップ処理を行う。このジャッキアップ処理により、移動架台5の各架台分割体8a,8b,8cは、可動マス2を支持する状態が解除される。なお、この際、ジャッキアップされた状態の可動マス2と、ベース3との間には、図示しない仮設の支持台を介装する等、万一、ジャッキ12が外れても、可動マス2が落下しないようにするための対策を図るようにしてもよい。
【0067】
その後、作業者は、
図5に示すように、移動架台5の各架台分割体8a,8b,8cのうち、可動マス2を寄せた側とは反対側に位置する架台分割体8cから、X方向の中間部の架台分割体8bまでを、ガイド装置4に沿い可動マス2の下方から引き出す。この場合の各架台分割体8c,8bの移動は、作業者が手動で行うようにすればよい。
【0068】
これにより、作業者は、X方向の他方の端部側に位置する架台分割体8cに加えて、X方向の中間部の架台分割体8bにも容易に近づいて整備の作業を行うことができる。よって、この状態で、本実施形態の制振装置1は、各架台分割体8c,8bに取り付けられている可動子10c,10b(
図1参照)についても、整備性を良好なものとすることができる。
【0069】
なお、この際、作業者は、各架台分割体8c,8bを、ガイド装置4から取り外して、可動子10c,10b、および、ガイド装置4のブロック13などの整備を行うようにしてもよい。
【0070】
各架台分割体8c,8bの整備が終了した後は、作業者は、前記とは逆の手順で本実施形態の制振装置1を、整備以前と同様の状態に復帰させればよい。
【0071】
また、本実施形態の制振装置1について、X方向の一方の端部側に位置する架台分割体8aの整備を行うときには、可動マス2を前記とは逆の端部側へ寄せた配置としてから、可動マス2のジャッキアップ処理を行うようにすればよい。
【0072】
これにより、作業者は、架台分割体8aを可動マス2の下方から引き出すことができ、この状態で、架台分割体8aに容易に近づいて整備の作業を行うことができる。よって、本実施形態の制振装置1は、架台分割体8aに取り付けられている可動子10a(
図1参照)についても、整備性を良好なものとすることができる。
【0073】
なお、X方向の中間部に位置する架台分割体8bの整備を、X方向の一方の端部側に位置する架台分割体8aの整備と一緒に行うようにしてもよいことは勿論である。
【0074】
架台分割体8aの整備が終了した後は、作業者は、前記とは逆の手順で本実施形態の制振装置1を、整備以前と同様の状態に復帰させればよい。
【0075】
このように、本実施形態の制振装置によれば、可動マス2に駆動力を付与するリニアモータ6として、X方向に3つの可動子10a,10b,10cを備えた構成のリニアモータを採用した場合、X方向の両端側に位置する可動子10aと可動子10cのみならず、X方向の中間部に位置する可動子10bについても、作業者が近づいて整備を行うことができる。
【0076】
更に、本実施形態の制振装置1は、X方向の中間部に位置する可動子10bの整備を行うときに、可動マス2は、ベース3上でジャッキアップ処理するのみでよい。したがって、本実施形態の制振装置1は、可動子10bなどの整備を行うときに、可動マス2をクレーンで吊って移動させる必要がないため、クレーンの用意、可動マス2の保管場所の確保、本実施形態の制振装置1の上方にクレーンを配置するための空間の確保といった準備は、必要としない。
【0077】
したがって、本実施形態の制振装置1は、可動マス2を駆動するアクチュエータとして、可動マス2の移動方向に配列された複数の可動子10a,10b,10cを備える形式のリニアモータ6を採用することができ、また、整備性の向上化を図ることができる。
【0078】
[第2実施形態]
図6は、制振装置の第2実施形態を示す概略平面図である。
図7は、
図6の制振装置の概略側面図である。
【0079】
なお、
図6、
図7において、第1実施形態と同一のものには、同一符号を付して、その説明を省略する。
【0080】
本実施形態の制振装置は、第1実施形態と同様の構成において、移動架台5がX方向に3分割された構造の架台分割体8a,8b,8cを備える構成に代えて、移動架台5を、X方向に4分割された構造の架台分割体8d,8e,8f,8gを備える構成としたものである。
【0081】
更に、本実施形態では、可動マス2を、X方向に2分割された構造のマス分割体17a,17bを備える構成としてある。
【0082】
一方のマス分割体17aは、X方向の一端寄りの2つの架台分割体8d,8eの上に搭載され、他方のマス分割体17bは、X方向の他端寄りの2つの架台分割体8f,8gの上に搭載されている。
【0083】
本実施形態では、位置決めプレート15a,15bも、X方向の一端寄りの2つの架台分割体8d,8eと、他端寄りの2つの架台分割体8f,8gにそれぞれ対応する2分割構造とされている。
【0084】
更に、本実施形態では、各マス分割体17a,17bの四隅部の下面側となる4個所に、ジャッキアップポイント7が設けられている。
【0085】
なお、マス分割体17a,17b同士は、本実施形態の制振装置1を使用するときには、一体の可動マス2として往復動作するように、取り外し可能な図示しない連結手段により連結されている。
【0086】
図6、
図7では、便宜上、各架台分割体8d,8e,8f,8gに取り付けられた可動子には、符号10が付してあり、各架台分割体8d,8e,8f,8gに備えるピンには、符号14が付してあり、各位置決めプレート15a,15bに備える嵌合孔には、符号16が付してある。
【0087】
以上の構成としてある本実施形態の制振装置1は、第1実施形態の制振装置1と同様に使用して、制振対象となる構造物の制振効果を同様に得ることができる。
【0088】
また、本実施形態の制振装置1の整備を行う場合は、第1実施形態の制振装置と同様の手順で行うようにすればよく、その際、ジャッキアップ処理を行う前に、図示しない連結手段によるマス分割体17a,17b同士の連結を解除することにより、ジャッキ12(
図4参照)を用いて、マス分割体17aとマス分割体17bを個別にジャッキアップすることができる。これにより、本実施形態の制振装置1は、たとえば、可動マス2が大型である場合に、整備の作業性を向上させるのに有利な構成とすることができる。
【0089】
更に、本実施形態の制振装置1では、X方向の一端寄りの2つの架台分割体8d,8eについての整備を行う場合は、可動マス2をX方向の他端側に寄せて配置した状態で、一方のマス分割体17aのみをジャッキアップ処理し、その後、各架台分割体8d,8eを、マス分割体17aの下方から引き出すようにすればよい。
同様に、X方向の他端寄りの2つの架台分割体8f,8gについての整備を行う場合は、可動マス2をX方向の一端側に寄せて配置した状態で、他方のマス分割体17bのみをジャッキアップ処理し、その後、各架台分割体8f,8gを、マス分割体17bの下方から引き出すようにすればよい。
【0090】
このことによっても、本実施形態の制振装置1は、整備の作業性を向上させるのに有利な構成とすることができる。
【0091】
なお、本発明は、前記各実施形態にのみ限定されるものではない。
【0092】
各図に示した本開示の制振装置1の各構成機器の配置、形状、サイズ、各構成機器同士のサイズの比は、図示するための便宜上のものであって、実際の各構成機器の配置、形状、サイズ、各構成機器同士のサイズの比を反映したものではない。
【0093】
第2実施形態の制振装置1は、可動マス2と位置決めプレート15が分割構造を備えていなくてもよい。
【0094】
移動架台5に備えるX方向に分割された架台分割体の数は、5以上の複数であってもよい。更には、移動架台5に備える架台分割体の数は、2であってもよい。いずれの構成であっても、本開示の制振装置1は、ジャッキアップした可動マス2の下方から、架台分割体を引き出して整備を行うことができるため、整備性の向上化を図ることができる。
【0095】
その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0096】
2 可動マス
3 ベース
4 ガイド装置
5 移動架台
6 リニアモータ
7 ジャッキアップポイント
8a,8b,8c,8d,8e,8f,8g 架台分割体
9 固定子
10,10a,10b,10c 可動子
17a,17b マス分割体