(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】導電性高分子分散液、導電性積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/12 20060101AFI20220825BHJP
C08K 5/5435 20060101ALI20220825BHJP
C08L 25/18 20060101ALI20220825BHJP
C08K 5/5415 20060101ALI20220825BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20220825BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20220825BHJP
H01B 1/20 20060101ALI20220825BHJP
H01B 1/12 20060101ALI20220825BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20220825BHJP
H01B 5/14 20060101ALI20220825BHJP
B32B 17/10 20060101ALI20220825BHJP
C08L 65/00 20060101ALI20220825BHJP
C08K 5/05 20060101ALI20220825BHJP
【FI】
C08L101/12
C08K5/5435
C08L25/18
C08K5/5415
C08L83/04
C08K5/09
H01B1/20 A
H01B1/12 F
H01B13/00 503B
H01B5/14 A
B32B17/10
C08L65/00
C08K5/05
(21)【出願番号】P 2018168781
(22)【出願日】2018-09-10
【審査請求日】2021-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】神戸 康平
(72)【発明者】
【氏名】松林 総
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-102304(JP,A)
【文献】特開2015-117364(JP,A)
【文献】特開2015-117366(JP,A)
【文献】特開平10-251518(JP,A)
【文献】特開2006-129802(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
B32B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、シリケートと、
ポリエーテル変性シリコーンと、分散媒と
、エポキシ基含有アルコキシシランと、を含有
し、
前記分散媒が、水と標準気圧での沸点が100℃未満の低沸点アルコールと標準気圧での沸点が100℃以上150℃以下の高沸点アルコールとを含み、
前記分散媒の総質量に対して、前記低沸点アルコールの含有量が30質量%以上50質量%以下、前記高沸点アルコールの含有量が5質量%以上15質量%以下、水の含有量が40質量%以上60質量%以下であり、
スプレー塗工の用途で用いられる、導電性高分子分散液。
【請求項2】
前記低沸点アルコールがエタノールであり、前記高沸点アルコールがプロピレングリコールモノメチルエーテルである、請求項1に記載の導電性高分子分散液。
【請求項3】
前記導電性高分子分散液の総質量に対する、前記導電性複合体の含有量が0.1質量%以上20質量%以下である、請求項1又は2に記載の導電性高分子分散液。
【請求項4】
前記シリケートの含有量は、前記導電性複合体100質量部に対し、SiO
2
単位含有量に換算して1質量部以上100000質量部以下である、請求項1~3の何れか一項に記載の導電性高分子分散液。
【請求項5】
前記ポリエーテル変性シリコーンの固形分濃度が、前記導電性高分子分散液の総質量に対して0.001質量%以上1質量%以下である、請求項
1~4
の何れか一項に記載の導電性高分子分散液。
【請求項6】
(前記導電性高分子分散液に含まれる前記エポキシ基含有アルコキシシランの質量)/(前記導電性高分子分散液に含まれる前記ポリアニオンの質量)で表される質量比が、0.50以上30以下である、請求項1~5の何れか一項に記載の導電性高分子分散液。
【請求項7】
前記π共役系導電性高分子が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である、請求項1~
6のいずれか一項に記載の導電性高分子分散液。
【請求項8】
前記ポリアニオンが、ポリスチレンスルホン酸である、請求項1~
7のいずれか一項に記載の導電性高分子分散液。
【請求項9】
さらに、ガリック酸、及びガリック酸のエステルからなる群から選択される少なくとも1種を含有する、請求項1~
8のいずれか一項に記載の導電性高分子分散液。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか一項に記載の導電性高分子分散液を
ガラス基材に
スプレーを用いて塗工し、導電層を形成することを含む、導電性積層体の製造方法。
【請求項11】
前記ガラス基材が無アルカリガラス基材である、請求項
10に記載の導電性積層体の製造方法。
【請求項12】
前記
ガラス基材
は液晶セル
に備えられたガラス板である、請求項
10に記載の導電性積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、π共役系導電性高分子を含有する導電性高分子分散液、導電性積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タブレット型コンピュータ、スマートフォン及び携帯ゲーム機等の携帯電子機器においては、入力装置として静電容量式タッチパネルが広く使用されている。
携帯電子機器は持ち運びやすさの点から薄型化が求められることが多く、その要求に応えるため、入力装置としてインセル型静電容量式タッチパネルが使用されることがある。インセル型静電容量式タッチパネルは、静電容量式タッチパネルがディスプレイの内部に組み込まれたものであり、ディスプレイの電極とタッチパネルの電極が共用されることで薄型化されている(例えば特許文献1)。
インセル型静電容量式タッチパネルは、基材の表面に導電層が形成された導電性積層体を備えている。この導電性積層体における導電層は、導電性が低すぎると、液晶分子帯電による表示不具合が生じることがある。一方、導電層の導電性が高すぎると、タッチパネルの静電容量変化の検知に悪影響を及ぼすことがある。そのため、導電層においては、適度な導電性、例えば1×107Ω/□以上1×1012Ω/□以下程度の表面抵抗が求められる。
このような表面抵抗を得るための導電材として、導電性高分子を使用することがある。導電性高分子を含む導電層の形成方法としては、例えば、π共役系導電性高分子とポリアニオンの導電性複合体を含む導電性高分子分散液を基材表面に塗工する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
導電層においては、液晶表示ユニット組み立て工程時の傷付き防止のために、高い硬度が求められる。導電層の硬度を向上させる方法としては、オルトケイ酸テトラエチル等のシリケートを導電性高分子分散液に含有させて導電層にSiO2を含ませる方法が考えられる。
しかし、導電性複合体とシリケートと水と有機溶剤とを含有する導電性高分子分散液を基材に塗工した際に、導電性高分子分散液に泡が発生して導電層内に気泡が形成されることがあった。また、シリケートを含む導電性高分子分散液は基材に弾かれやすい傾向にあった。これらのことにより、シリケートを含む導電性高分子分散液から形成された導電層においては、外観不良が生じることがあった。導電層の外観不良は、導電性高分子分散液をスプレーによって基材に塗工した際に特に生じやすい傾向にあった。
本発明は、硬度が高く且つ外観に優れた導電層を容易に形成できる導電性高分子分散液を提供することを目的とする。また、本発明は、硬度が高く且つ外観に優れた導電層を備える導電性積層体を容易に製造できる導電性積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の態様を包含する。
[1] π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、シリケートと、界面活性剤、分散媒とを含有する、導電性高分子分散液。
[2] 前記分散媒が水を含む、[1]に記載の導電性高分子分散液。
[3] さらにエポキシ基含有アルコキシシランを含有する、[1]又は[2]に記載の導電性高分子分散液。
[4] 前記界面活性剤がポリエーテル変性シリコーンである、[1]~[3]のいずれか一項に記載の導電性高分子分散液。
[5] 前記ポリエーテル変性シリコーンの固形分濃度が、前記導電性高分子分散液の総質量に対して0.001質量%以上1質量%以下である、[4]に記載の導電性高分子分散液。
[6] 前記π共役系導電性高分子が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である、[1]~[5]のいずれか一項に記載の導電性高分子分散液。
[7] 前記ポリアニオンが、ポリスチレンスルホン酸である、[1]~[6]のいずれか一項に記載の導電性高分子分散液。
[8] さらに、ガリック酸、及びガリック酸のエステルからなる群から選択される少なくとも1種を含有する、[1]~[7]のいずれか一項に記載の導電性高分子分散液。
[9] [1]~[8]のいずれか一項に記載の導電性高分子分散液を基材に塗工し、導電層を形成することを含む、導電性積層体の製造方法。
[10] 前記塗工がスプレーを用いた塗工である、[9]に記載の導電性積層体の製造方法。
[11] 前記基材がガラス基材である、[9]に記載の導電性積層体の製造方法。
[12] 前記ガラス基材が無アルカリガラス基材である、[11]に記載の導電性積層体の製造方法。
[13] 前記基材が液晶セルである、[9]に記載の導電性積層体の製造方法。
[14] 基材と、[1]~[8]のいずれか一項に記載の導電性高分子分散液から形成された導電層とを有する、導電性積層体。
【発明の効果】
【0006】
本発明の導電性高分子分散液によれば、硬度が高く且つ外観に優れた導電層を容易に形成できる。
本発明の導電性積層体の製造方法によれば、硬度が高く且つ外観に優れた導電層を備える導電性積層体を容易に製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<導電性高分子分散液>
本発明の導電性高分子分散液の一態様について説明する。
本態様の導電性高分子分散液は、導電性複合体と、シリケートと、界面活性剤と、分散媒とを含有する。
本態様における導電性複合体は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む。前記ポリアニオンは前記π共役系導電性高分子に配位し、ポリアニオンのアニオン基がπ共役系導電性高分子にドープするため、導電性を有する導電性複合体を形成する。
ポリアニオンにおいては、全てのアニオン基がπ共役系導電性高分子にドープせず、余剰のアニオン基を有している。余剰のアニオン基は、水に対して導電性複合体の分散性を向上させる役割を果たす。
【0008】
(π共役系導電性高分子)
π共役系導電性高分子としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であれば本発明の効果を有する限り特に制限されず、例えば、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン類及びポリアニリン系導電性高分子が好ましく、透明性の面から、ポリチオフェン系導電性高分子がより好ましい。
【0009】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン)、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)が挙げられる。
ポリピロール系導電性高分子としては、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルピロール)、ポリ(3-エチルピロール)、ポリ(3-n-プロピルピロール)、ポリ(3-ブチルピロール)、ポリ(3-オクチルピロール)、ポリ(3-デシルピロール)、ポリ(3-ドデシルピロール)、ポリ(3,4-ジメチルピロール)、ポリ(3,4-ジブチルピロール)、ポリ(3-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルピロール)、ポリ(3-ヒドロキシピロール)、ポリ(3-メトキシピロール)、ポリ(3-エトキシピロール)、ポリ(3-ブトキシピロール)、ポリ(3-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)が挙げられる。
ポリアニリン系導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリ(2-メチルアニリン)、ポリ(3-イソブチルアニリン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、ポリ(3-アニリンスルホン酸)が挙げられる。
上記π共役系導電性高分子のなかでも、導電性、透明性、耐熱性の点から、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
導電性複合体に含まれるπ共役系導電性高分子は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0010】
[ポリアニオン]
ポリアニオンとは、アニオン基を有するモノマー単位を、分子内に2つ以上有する重合体である。このポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性を向上させる。
ポリアニオンのアニオン基としては、スルホ基、又はカルボキシ基であることが好ましい。
このようなポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、スルホ基を有するポリアクリル酸エステル、スルホ基を有するポリメタクリル酸エステル(例えば、ポリ(4-スルホブチルメタクリレート、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリメタクリロイルオキシベンゼンスルホン酸)、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸等のスルホ基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリルカルボン酸、ポリメタクリルカルボン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸、ポリアクリル酸等のカルボキシ基を有する高分子が挙げられる。ポリアニオンは、これらの単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。
これらポリアニオンのなかでも、導電性をより高くできることから、スルホ基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
前記ポリアニオンは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリアニオンの質量平均分子量は2万以上100万以下であることが好ましく、10万以上50万以下であることがより好ましい。ポリアニオンの質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて溶出時間を測定し、分子量既知のポリスチレン標準物質から予め得た、溶出時間対分子量の校正曲線に基づいて求めた質量基準の分子量のことである。
【0011】
ポリアニオンが、π共役系導電性高分子に配位することによって導電性複合体を形成する。
ただし、ポリアニオンにおいては、全てのアニオン基がπ共役系導電性高分子にドープせず、余剰のアニオン基を有している。この余剰のアニオン基は親水基であるため、導電性複合体は水分散性を有する。
【0012】
導電性複合体中の、ポリアニオンの含有割合は、π共役系導電性高分子100質量部に対して1質量部以上1000質量部以下の範囲であることが好ましく、10質量部以上700質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上500質量部以下の範囲であることがさらに好ましい。ポリアニオンの含有割合が前記下限値以上であれば、π共役系導電性高分子へのドーピング効果が強くなる傾向にあり、導電性がより高くなる。一方、ポリアニオンの含有量が前記上限値以下であれば、π共役系導電性高分子を充分に含有させることができるから、充分な導電性を確保できる。
【0013】
導電性高分子分散液の総質量に対する、前記導電性複合体の含有量は、例えば、0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、0.5質量%以上10質量%以下がより好ましく、1.0質量%以上5.0質量%以下がさらに好ましい。
【0014】
(シリケート)
本態様において使用されるシリケートは、ケイ酸エステルであり、下記化学式(I)で表される化合物が挙げられる。
シリケートとしては、例えば、オルトケイ酸テトラエチル、オルトケイ酸テトラメチル、メチル基及びエチル基の少なくとも一方を有するケイ酸オリゴマーよりなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0015】
【0016】
式(I)中、R1、R2、R3、及びR4はそれぞれ独立して炭素数1~4のアルキル基であり、sは、1~100の整数である。
炭素数1~4のアルキル基としては、直鎖状又は分岐鎖状であってもよく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられる。
sは1~50が好ましく、1~25がより好ましく、1~10がさらに好ましい。
【0017】
ケイ酸オリゴマーとしては、安定性の点から、下記化学式(II)で示される化合物及び下記化学式(III)で示される化合物の少なくとも一方がより好ましい。
SinOn-1(OCH3)2n+2 (nは2以上100以下である。) (II)
SimOm-1(OCH2CH3)2m+2 (mは2以上100以下である。)(III)
本態様において使用されるシリケートは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0018】
ケイ酸オリゴマーとしては、本態様の導電性高分子分散液から形成される導電層の硬度がより高くなることから、ケイ素原子を1分子内に2つ以上有するケイ酸エステルであることが好ましい。ケイ酸オリゴマーにおける1分子内のケイ素原子の数は、3つ以上であることがより好ましく、4つ以上であることがさらに好ましい。ケイ酸オリゴマーにおける1分子内のケイ素原子の数は、30以下であることがより好ましく、20以下であることがさらに好ましい。
ケイ酸オリゴマーのSiO2単位の含有量はシリケートの総質量に対して40質量%以上70質量%以下であることが好ましく、50質量%以上60質量%以下であることがより好ましい。ケイ酸オリゴマーのSiO2単位の含有量が前記下限値以上であれば、該導電性高分子分散液から形成される導電層の硬度がより高くなり、前記上限値以下であれば、該導電性高分子分散液から形成される導電層の導電性低下を防ぐことができる。
ここで、シリケートのSiO2単位の含有量は、シリケートの分子量100質量%に対する、シリケートに含まれるSiO2単位(-O-Si-O-単位)の質量の割合のことであり、元素分析により測定できる。シリケートを2種以上使用する場合のSiO2単位の含有量は各シリケートのSiO2単位含有量の平均値である。
【0019】
本態様の導電性高分子分散液におけるシリケートの好ましい含有量は、シリケートのSiO2単位の含有量に応じて適宜選択される。シリケートのSiO2単位の含有量が前記好ましい範囲である場合には、シリケートの含有量は、導電性複合体100質量部に対し、SiO2単位含有量に換算して1質量部以上100000質量部以下であることが好ましく、10質量部以上10000質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上1000質量部以下であることがさらに好ましい。シリケートの含有量が前記下限値以上であれば、該導電性高分子分散液から形成される導電層の硬度を充分に高くでき、前記上限値以下であれば、該導電性高分子分散液から形成される導電層の導電性低下を防ぐことができる。
【0020】
(界面活性剤)
界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性等が挙げられる。なかでも、ノニオン界面活性剤が好ましく、ポリエーテル変性シリコーンがより好ましい。
【0021】
本態様において使用されるポリエーテル変性シリコーンは、シリコーン鎖に、ポリエーテル鎖が結合しているポリマーである。なお、ポリエーテル変性シリコーンは、分子内にエポキシ基を有さない。ポリエーテル変性シリコーンは、シリコーン鎖の側鎖にポリエーテル鎖が結合したものが好ましい。ポリエーテル鎖としては、ポリオキシアルキレン基を有するものが好ましく、ポリオキシアルキレン基としては、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基が挙げられる。具体的には、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)の水酸基が、シリコーン鎖の側鎖の水酸基と、エーテル結合を形成した化合物が好ましい。ポリエーテル変性シリコーンは、シリコーン鎖によって親油性を有し、ポリエーテル鎖によって親水性を有するため、界面活性剤として機能する。シリコーンは、直鎖状でもよいし、分岐状でもよい。シリコーン鎖は、ポリエーテル鎖に加えて、アルキル鎖を有していてもよい。
ポリエーテル変性シリコーンの質量平均分子量としては、100以上10万以下であることが好ましく、200以上5万以下であることがより好ましい。ポリエーテル変性シリコーンの質量平均分子量が前記範囲内であれば、基材が導電性高分子分散液を弾くことをより防止できる。ポリエーテル変性シリコーンの質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて溶出時間を測定し、分子量既知のポリスチレン標準物質から予め得た、溶出時間対分子量の校正曲線に基づいて求めた質量基準の分子量のことである。
ポリエーテル変性シリコーンの具体例としては、例えば、PEG-11メチルエーテルジメチコン、PEG/PPG-20/22ブチルエーテルジメチコン、PEG-9ジメチコン、PEG-3ジメチコン、PEG-9メチルエーテルジメチコン、PEG-10ジメチコン、PEG-32メチルエーテルジメチコン、セチルPEG/PPG-10/1ジメチコン、PEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン、ラウリルPEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン等が挙げられる。
界面活性剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
本態様の導電性高分子分散液の総質量に対する界面活性剤の固形分濃度は0.001質量%以上1質量%以下であることが好ましく、0.005質量%以上0.5質量%以下であることがより好ましく、0.005質量%以上0.1質量%以下であることがさらに好ましい。導電性高分子分散液における界面活性剤の固形分濃度が前記下限値以上であれば、導電性高分子分散液を塗工する際に、特にスプレー塗工する際に泡の発生をより防止でき、また、導電性高分子分散液が基材、特にガラス基材に弾かれることをより抑制できる。これにより、導電層の外観不良をより防止できる。導電性高分子分散液における界面活性剤の固形分濃度が前記上限値以下であれば、導電層の導電性低下を防止できる。ここで「固形分」とは、溶媒を留去した後に残る残留分(不揮発分)のことである。
【0023】
(分散媒)
本態様における分散媒は、導電性複合体を分散させる液体であり、水と有機溶剤とを含む混合液である。
本態様において使用される有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、窒素原子含有化合物系溶剤等が挙げられる。有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、アリルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
エーテル系溶剤としては、例えば、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールジアルキルエーテル等が挙げられる。
ケトン系溶剤としては、例えば、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等が挙げられる。
芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン等が挙げられる。
窒素原子含有化合物系溶剤としては、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
【0024】
本態様では、導電性複合体及びシリケートの両方を容易に分散できることから、有機溶剤として、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤を用いることが好ましく、アルコール系溶剤を用いることがより好ましい。
特に、有機溶剤は、標準気圧での沸点が100℃未満の低沸点アルコールと、標準気圧での沸点が100℃以上150℃以下の高沸点アルコールとを含むことが好ましい。ここで、標準気圧とは、1013hPaのことである。有機溶剤が低沸点アルコールと高沸点アルコールを含有すれば、導電性高分子分散液の保存安定性をより向上させることができる。
低沸点アルコールとしては、例えば、メタノール(沸点65℃)、エタノール(沸点78℃)、1-プロパノール(沸点97℃)、2-プロパノール(沸点82℃)、2-メチル-2-プロパノール(沸点83℃)、2-ブタノール(沸点99℃)、アリルアルコール(沸点97℃)等が挙げられる。
高沸点アルコールとしては、例えば、1-ブタノール(沸点117℃)、2-メチル-1-プロパノール(沸点108℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点120℃)、エチレングリコールモノメチルエーテル(沸点124℃)等が挙げられる。
【0025】
分散媒が低沸点アルコールと高沸点アルコールを含有する場合には、分散媒の組成は、低沸点アルコールが25質量%以上70質量%以下、高沸点アルコールが5質量%以上15質量%以下、水が20質量%以上60質量%以下の組成であることが好ましい(水と低沸点アルコールと高沸点アルコールの合計は100質量%である。)。
より好ましい分散媒の組成は、低沸点アルコールが30質量%以上50質量%以下、高沸点アルコールが5質量%以上15質量%以下、水が40質量%以上60質量%以下の組成である。
分散媒が前記組成であると、基材、特にガラス基材に対する導電性高分子分散液の濡れ性がより高くなると共に乾燥に伴う塗膜収縮を抑制できて、導電層の形成がより容易になり、該導電性高分子分散液から形成される導電層の外観がより良好になる。
【0026】
分散媒における水の含有量は、分散媒の総質量に対して20質量%以上80質量%以下であることが好ましく、30質量%以上70質量%以下であることがより好ましく、40質量%以上60質量%以下であることがさらに好ましい。分散媒における水の含有量が前記範囲内であれば、本態様の導電性高分子分散液の保存安定性をより向上させることができる。
【0027】
(エポキシ基含有アルコキシシラン)
本態様の導電性高分子分散液には、エポキシ基含有アルコキシシランが含まれていてもよい。
エポキシ基含有アルコキシシランとは、分子内にエポキシ基及びアルコキシ基を有する化合物である。
エポキシ基含有アルコキシシランとしては、例えば、1分子中のエポキシ基の数が1つで、かつ1分子中のアルコキシ基の数が1つ以上3つ以下のものが挙げられる。
エポキシ基含有アルコキシシランとしては、下記式(IV)で表される化合物又は下記式(V)で表される化合物が好ましい。
【0028】
【0029】
式(IV)において、R5及びR6としては、各々独立して炭素数1~4のアルキレン基が挙げられ、具体的にはエチレン基、プロピレン基、ブチレン基等が挙げられる。
R7,R8及びR9としては、各々独立して水素原子、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4のアルコキシ基が挙げられ、R7,R8及びR9のうち少なくとも1つは炭素数1~4のアルコキシ基である。炭素数1~4のアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基等が挙げられる。炭素数1~4のアルコキシ基としては、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n-ブトキシ基、t-ブトキシ基等が挙げられる。
式(V)において、環Aは4~8員環のシクロアルカンである。シクロアルカンとしては、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンが挙げられる。R11は炭素数1~4のアルキレン基が挙げられる。炭素数1~4のアルキレン基としては、具体的にはエチレン基、プロピレン基、ブチレン基等が挙げられる。
R12,R13及びR14としては、各々独立して水素原子、炭素数1~4のアルキル基又は炭素数1~4のアルコキシ基が挙げられ、R12,R13及びR14のうち少なくとも1つは炭素数1~4のアルコキシ基である。炭素数1~4のアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基等が挙げられる。炭素数1~4のアルコキシ基としては、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n-ブトキシ基、t-ブトキシ基等が挙げられる。
【0030】
式(IV)で表されるエポキシ基含有アルコキシシランの具体例としては、例えば、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
式(V)で表されるエポキシ基含有アルコキシシランの具体例としては、例えば、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。
これらアルコキシシランは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0031】
本態様の導電性高分子分散液において、エポキシ基含有アルコキシシランの含有量はポリアニオンとの質量比で規定されることが好ましい。具体的には、(エポキシ基含有アルコキシシランの質量)/(ポリアニオンの質量)で表される質量比Bが、0.50以上30以下であることが好ましく、0.71以上28.6以下であることがより好ましい。前記質量比Bが前記範囲内であると、導電性高分子分散液の保存安定性がより高くなる。
【0032】
エポキシ基含有アルコキシシランは、ポリアニオンの一部のアニオン基と反応するものである。エポキシ基含有アルコキシシランは、導電性高分子分散液中で一部のアニオン基と反応していてもよいし、後述する導電性積層体の製造方法において、導電性高分子分散液を基材に塗工した後加熱乾燥する際に一部のアニオン基と反応してもよい。
【0033】
(酸化防止剤)
本態様の導電性高分子分散液は、該導電性高分子分散液から形成される導電層の酸化劣化を防ぐために、酸化防止剤が含まれていてもよい。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、糖類等が挙げられる。これら酸化防止剤のなかでも、導電層の酸化防止性が高いことから、フェノール系酸化防止剤が好ましい。フェノール系酸化防止剤のなかでは、ガリック酸(没食子酸)及びガリック酸のエステルのうち少なくとも一方が好ましい。ガリック酸及びガリック酸のエステルは、π共役系導電性高分子を含む液又は層において、高い酸化防止性能を発揮すると共に導電性を向上させる効果も有する。
ガリック酸のエステルとしては、ガリック酸の炭素数1~3のアルキルエステル、具体的には、ガリック酸のメチルエステル、ガリック酸のエチルエステル、ガリック酸のプロピルエステルが挙げられる。
【0034】
本態様の導電性高分子分散液において、酸化防止剤の含有量は導電性複合体100質量部に対して10質量部以上10000質量部以下であることが好ましく、20質量部以上1000質量部以下であることがより好ましい。酸化防止剤の含有量が前記下限値以上であれば、該導電性高分子分散液から形成される導電層の酸化防止性がより高くなり、前記上限値以下であれば、該導電性高分子分散液から形成される導電層の導電性低下を防ぐことができる。
【0035】
(高導電化剤)
導電性高分子分散液は、導電性をより向上させるために、高導電化剤を含んでもよい。ここで、前述したπ共役系導電性高分子、ポリアニオン、シリケート、エポキシ基含有アルコキシシラン、ポリエーテル変性シリコーン、酸化防止剤及び有機溶剤は、高導電化剤に分類されない。
高導電化剤は、糖類、窒素含有芳香族性環式化合物、2個以上のヒドロキシ基を有する化合物、1個以上のヒドロキシ基および1個以上のカルボキシ基を有する化合物、アミド基を有する化合物、イミド基を有する化合物、ラクタム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
導電性高分子分散液に含有される高導電化剤は、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
高導電化剤の含有割合は導電性複合体100質量部に対して、1質量部以上10000質量部以下であることが好ましく、10質量部以上5000質量部以下であることがより好ましく、20質量部以上2500質量部以下であることがさらに好ましい。高導電化剤の含有割合が前記下限値以上であれば、高導電化剤添加による導電性向上効果が充分に発揮され、前記上限値以下であれば、π共役系導電性高分子濃度の低下に起因する導電性の低下を防止できる。
【0036】
(その他の添加剤)
導電性高分子分散液には、公知のその他の添加剤が含まれてもよい。
添加剤としては、本発明の効果が得られる限り特に制限されず、例えば、無機導電剤、消泡剤、カップリング剤、紫外線吸収剤などを使用できる。ただし、添加剤は、前述したπ共役系導電性高分子、ポリアニオン、シリケート、エポキシ基を有するシランカップリング剤、ポリエーテル変性シリコーン、酸化防止剤、有機溶剤及び高導電化剤以外の化合物からなる。
無機導電剤としては、金属イオン類、導電性カーボン等が挙げられる。なお、金属イオンは、金属塩を水に溶解させることにより生成させることができる。
消泡剤としては、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコーンオイル等が挙げられる。
カップリング剤としては、ビニル基又はアミノ基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オキサニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
導電性高分子分散液が上記添加剤を含有する場合、その含有割合は、添加剤の種類に応じて適宜決められるが、例えば、導電性複合体の固形分100質量部に対して、0.001質量部以上5質量部以下の範囲とすることができる。
【0037】
(導電性高分子分散液の製造方法)
本態様の導電性高分子分散液を製造する方法としては、例えば、次のような方法が挙げられる。
まず、ポリアニオン及び分散媒を含む溶液中でπ共役系導電性高分子を形成するモノマーを化学酸化重合して導電性複合体の水分散液を調製する。次いで、その水分散液に有機溶剤、シリケート、界面活性剤、必要に応じてエポキシ基含有アルコキシシラン、酸化防止剤、高導電化剤及びその他の添加剤を添加して、導電性高分子分散液を得る。
前記化学酸化重合には、公知の触媒を適用してもよい。例えば、触媒及び酸化剤を用いることができる。触媒としては、例えば、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、塩化第二銅等の遷移金属化合物等が挙げられる。酸化剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩が挙げられる。酸化剤は、還元された触媒を元の酸化状態に戻すことができる。
前記水分散液に、有機溶剤、シリケート、界面活性剤、エポキシ基含有アルコキシシラン、酸化防止剤、高導電化剤及びその他の添加剤を添加する順序には特に制限はない。
【0038】
(作用効果)
本態様の導電性高分子分散液において、シリケートが加水分解してシラノール基を生成し、ガラス基材の表面ヒドロキシ基と結合できる。そのため、本態様の導電性高分子分散液によれば、ガラス基材に容易に導電層を形成できる。したがって、本態様の導電性高分子分散液は、ガラス基材に塗工するのに好適である。
本態様の導電性高分子分散液がエポキシ基含有アルコキシシランを含有する場合、エポキシ基含有アルコキシシランのエポキシ基がポリアニオンのアニオン基と反応することにより、導電性複合体とガラス基材に対する密着性が高くなる。また、エポキシ基含有アルコキシシランのエポキシ基がポリアニオンの一部のアニオン基と反応して導電性高分子分散液の酸性度を低下させることができる。これにより、シリケートの加水分解を抑制して導電性高分子分散液の保存安定性を向上させることができる。導電性高分子分散液の保存安定性が向上することで、保管後の導電性高分子分散液から形成した導電層内に導電性複合体を均一に含ませることができるため、導電性が低くなる又は導電性が過度に高くなるといった問題が生じにくくなる。
【0039】
本態様の導電性高分子分散液に含まれるシリケートは、加水分解されてシリカを形成する。ただし、本態様では、分散媒が有機溶剤を含んでおり、また、エポキシ基含有アルコキシシランが存在する場合には、導電性高分子分散液の酸性度が下げられ、酸による加水分解が抑制されているため、導電性高分子分散液中でのシリケートの加水分解は起こり難くなっている。シリケートからシリカの形成は、主に、導電性高分子分散液から導電層を形成する際に生じる。
シリケートから形成されたシリカが導電層に含まれることによって導電層の硬度を高めることができる。さらに、本態様の導電性高分子分散液は界面活性剤を含有するため、導電層表面の滑り性を高めることができ、その結果、導電層の硬度がより高くなる。したがって、本態様の導電性高分子分散液を基材に塗工することにより、硬度が高い導電層を形成できる。
また、本態様の導電性高分子分散液は界面活性剤を含有することにより、導電性高分子分散液を塗工する際の泡の発生を防止でき、また、導電性高分子分散液が基材に弾かれることを防止できる。そのため、界面活性剤を含有する導電性高分子分散液から形成される導電層は外観不良が起きにくく、優れた外観を有する。特に、本態様の導電性高分子分散液によれば、塗工方法として、泡が発生しやすいスプレーを適用した場合でも、導電層の外観不良を抑制できる。
【0040】
<導電性積層体及びその製造方法>
以下、本発明の導電性積層体の製造方法の一態様について説明する。
本態様における導電性積層体は、基材と、該基材の少なくとも一方の面に形成された導電層とを備える。
基材としては、ガラス基材及びプラスチック基材のいずれであってもよいが、上記の本態様の導電性高分子分散液はガラス基材に好適に使用できる。ガラス基材としては、例えば、無アルカリガラス基材、ソーダ石灰ガラス基材、ホウケイ酸ガラス基材、石英ガラス基材等が挙げられる。基材にアルカリ成分が含まれると、導電層の導電性が低下する傾向にあるため、前記ガラス基材のなかでも、無アルカリガラスが好ましい。ここで、無アルカリガラスとは、アルカリ酸化物の含有量がガラス組成物の総質量に対し、0.1質量%以下のガラス組成物のことである。
ガラス基材の平均厚さとしては、100μm以上3000μm以下であることが好ましく、100μm以上1000μm以下であることがより好ましい。ガラス基材の平均厚さが前記下限値以上であれば、破損しにくくなり、前記上限値以下であれば、導電性積層体を使用する部材の薄型化に充分に寄与できる。
本明細書における平均厚さは、マイクロメーターを用いて、任意の10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
基材は液晶セルであってもよい。ここで、液晶セルは、一対のガラス板と、該一対のガラス板の間に設けられた一対の電極層と、該一対の電極層の間に設けられた液晶層とを備えるものが好ましい。液晶層は、一対の配向層の間に液晶分子が封入された層であるものが好ましい。
【0041】
導電層は、上記導電性高分子分散液が硬化した塗膜であり、導電性複合体とシリケート由来のシリカとを含む。導電層がシリカを含むことにより、硬度を向上させることができる。ここでシリカとは、導電性高分子分散液が硬化する際に、シリケートが加水分解して生成する化合物である。一般に、シリカはシラノール基を有する。
【0042】
導電層の平均厚さとしては、10nm以上2μm以下であることが好ましく、20nm以上500nm以下であることがより好ましく、20nm以上200nm以下であることがさらに好ましい。導電層の平均厚さが前記下限値以上であれば、充分に高い導電性と充分に高い硬度を発揮でき、前記上限値以下であれば、導電層を容易に形成できる。
【0043】
本態様の導電性積層体の製造方法は、基材の少なくとも一方の面に本態様の導電性高分子分散液を塗工することを含んで、導電性積層体を製造する方法である。
塗工においては、基材の片面のみに前記導電性高分子分散液を塗工して基材の片面のみに導電層を形成してもよいし、基材の両面に前記導電性高分子分散液を塗工して基材の両面に導電層を形成してもよい。
【0044】
前記導電性高分子分散液を塗工する方法としては、例えば、スリットコーター、スプレーコーター、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファウンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等のコーターを用いた塗工方法、ディップ等の浸漬方法等を適用できる。
前記塗工方法のうちスプレーコーターを用いた塗工方法では、導電性高分子分散液をスプレー吐出口から吐出するため、空気を巻き込み、泡が発生しやすい。しかし、前記態様の導電性高分子分散液は泡が発生しにくくなっているから、スプレーコーターを適用しても泡が発生しにくい。
【0045】
本態様の導電性積層体においては、塗工の後に、塗工した導電性高分子分散液を乾燥することを含むことが好ましい。塗工した導電性高分子分散液を乾燥すれば、導電性高分子分散液を硬化して導電層を形成することが容易になる。
乾燥方法としては、加熱乾燥、真空乾燥等が挙げられる。加熱乾燥としては、例えば、熱風加熱や、赤外線加熱などの通常の方法を採用できる。
加熱乾燥を適用する場合、加熱温度は、使用する分散媒に応じて適宜設定されるが、通常は50℃以上150℃以下の範囲であり、好ましくは100℃以上150℃以下、より好ましくは100℃以上130℃以下の範囲内である。ここで、加熱温度は、乾燥装置の設定温度である。
また、充分に分散媒を除去する点で、乾燥時間は5分以上であることが好ましい。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0047】
(製造例1)ポリスチレンスルホン酸の製造
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃にて攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、その溶液を12時間攪拌した。得られたスチレンスルホン酸ナトリウム含有溶液に、10質量%に希釈した硫酸を1000ml添加し、限外ろ過法を用いてポリスチレンスルホン酸含有溶液の1000ml溶液を除去し、残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶液を除去した。上記の限外ろ過操作を3回繰り返した。さらに、得られたポリスチレンスルホン酸溶液に約2000mlのイオン交換水を添加し、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶液を除去した。この限外ろ過操作を3回繰り返した。得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形物を得た。得られたポリスチレンスルホン酸についてGPC(ゲル濾過クロマトグラフィー)カラムを用いたHPLC(高速液体クロマトグラフィー)システムを用いて、昭和電工株式会社製プルランを標準物質として重量平均分子量を測定した結果、分子量は30万であった。
【0048】
(製造例2)PEDOT-PSS水溶液の製造
14.2gの3,4-エチレンジオキシチオフェンと、製造例1で得た36.7gのポリスチレンスルホン酸を2000mlのイオン交換水に溶かした溶液とを20℃で混合した。これにより得られた混合溶液を20℃に保ち攪拌を行いながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64gの過硫酸アンモニウムと8.0gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくりと添加し、3時間攪拌して反応させた。
得られた反応液に2000mlのイオン交換水を添加し、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶媒を除去した。この操作を3回繰り返した。次に、得られた溶液に、200mlの10質量%に希釈した硫酸と2000mlのイオン交換水とを加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶媒を除去した。残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法を用いて約2000mlの溶媒を除去し、ポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT-PSS)を水洗した。この操作を8回繰り返して、固形分濃度1.2質量%、PEDOT:PSS=1:2.5(質量比)の青色のPEDOT-PSS水分散液を得た。
【0049】
(実施例1)
製造例2で製造したPEDOT-PSS水分散液16.67g(固形分濃度1.2質量%、PEDOT:PSS=1:2.5(質量比)、固形分0.2g)に、オルトケイ酸テトラエチル(以下、「TEOS」という。)2g、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学株式会社製KBM-403)0.2g、ポリエーテル変性シリコーン(日信化学工業株式会社製SJM002、表中では「A」と表記する。)0.02g、ガリック酸メチル0.06gを添加した。
また、分散媒が、水(PEDOT-PSS水分散液由来の水を含む):エタノール:プロピレングリコールモノメチルエーテル=50:40:10(質量比率)の混合液となるよう二倍希釈して調製し、実施例1の導電性高分子分散液を得た。実施例1の導電性高分子分散液におけるポリエーテル変性シリコーンの固形分濃度は0.01質量%である。
得られた導電性高分子分散液を、スプレーを用いて無アルカリガラス基材に吹き付けることにより塗工して、塗工膜を形成した。その塗工膜を、乾燥温度120℃、乾燥時間30分間加熱乾燥し、導電性積層体を得た。
【0050】
(実施例2)
ポリエーテル変性シリコーンの添加量を0.002gとし、導電性高分子分散液におけるポリエーテル変性シリコーンの固形分濃度を0.001質量%とした以外は実施例1と同様にして導電性積層体を得た。
【0051】
(実施例3)
ポリエーテル変性シリコーンの添加量を0.01gとし、導電性高分子分散液におけるポリエーテル変性シリコーンの固形分濃度0.005質量%とした以外は実施例1と同様にして導電性積層体を得た。
【0052】
(実施例4)
ポリエーテル変性シリコーンの添加量を0.2gとし、導電性高分子分散液におけるポリエーテル変性シリコーンの固形分濃度を0.1質量%とした以外は実施例1と同様にして導電性積層体を得た。
【0053】
(実施例5)
ポリエーテル変性シリコーンの添加量を2gとし、導電性高分子分散液におけるポリエーテル変性シリコーンの固形分濃度を1質量%とした以外は実施例1と同様にして導電性積層体を得た。
【0054】
(実施例6)
ポリエーテル変性シリコーン(日信化学工業株式会社製SJM002)を、ポリエーテル変性シリコーン(日信化学工業株式会社製SJM005、表中では「B」と表記する。)に変更した以外は実施例1と同様にして導電性積層体を得た。
【0055】
(実施例7)
ポリエーテル変性シリコーン(日信化学工業株式会社製SJM002)を、ポリエーテル変性シリコーン(日信化学工業株式会社製SJM003、表中では「C」と表記する。)に変更した以外は実施例1と同様にして導電性積層体を得た。
【0056】
(実施例8)
TEOS2gをシリケート(三菱ケミカル社製、MKCシリケートMS51、前記化学式(I)で示されるシリケート、ケイ素原子の数が4から6までの混合物、SiO2単位の含有量52±1%、表中では「MS51」と表記する。)1gに変更したこと以外は実施例1と同様にして導電性積層体を得た。
【0057】
(比較例1)
ポリエーテル変性シリコーンを添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして導電性積層体を得た。
【0058】
<評価>
各例の導電性積層体における導電層の硬度及び導電層の外観を、以下の方法により評価した。評価結果を表1及び2に示す。
【0059】
(導電層の硬度)
導電層の表面において、鉛筆ひっかき試験機を用い、荷重750gの条件で鉛筆硬度を測定した。また顕微鏡倍率100倍で観察し、表中、鉛筆硬度が6Hより硬いものを「A」と記載し、6H以下(すなわち7Hより軟らかい)のものを「B」と記載する。「A」は充分な硬度を有するものであり、「B」は硬度が不充分なものである。
【0060】
(導電層の外観)
導電層の表面を目視で観察し、以下の基準で評価した。
A:導電層の表面の外観が良好である。
B:導電層の表面の外観が損なわれており不良である。
【0061】
【0062】
【0063】
ポリエーテル変性シリコーンを含有する導電性高分子分散液を用いて作製した各実施例の導電性積層体は、導電層の硬度が高く、外観が優れていた。
ポリエーテル変性シリコーンを含有しない導電性高分子分散液を用いて作製した比較例1の導電性積層体は、導電層の硬度が低く、外観不良が見られた。