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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】ゴム組成物及び空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20220825BHJP
   C08L 21/02 20060101ALI20220825BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20220825BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20220825BHJP
   C08L 33/06 20060101ALI20220825BHJP
【FI】
C08L9/00
C08L21/02
B60C1/00 A
C08L21/00
C08L33/06
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018170673
(22)【出願日】2018-09-12
(65)【公開番号】P2020041083
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【弁理士】
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【弁理士】
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(72)【発明者】
【氏名】木村 拓也
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-534312(JP,A)
【文献】特開平08-319378(JP,A)
【文献】特開2012-057111(JP,A)
【文献】特開2017-206628(JP,A)
【文献】国際公開第2015/155965(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
B60C1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴムに微粒子複合体を配合してなるゴム組成物であって、
前記微粒子複合体が、有機微粒子ラテックスおよびゴムラテックスからなる混合物の固形成分であり、前記有機微粒子ラテックスが、ガラス転移点が-70~0℃かつ平均粒径が10~100nmの有機微粒子を含むラテックスであり、
前記有機微粒子が下記一般式(1)で表される構成単位を有する重合体からなり、
前記ジエン系ゴムおよび前記ゴムラテックス由来のゴム分の合計100質量部に対し、前記有機微粒子を1~100質量部含有する、
ことを特徴とするゴム組成物。
【化1】
(式中、R は水素原子又はメチル基であり、同一分子中のR は同一でも異なっていてもよく、R は炭素数8~18のアルキル基であり、同一分子中のR は同一でも異なっていてもよい。)
【請求項2】
請求項に記載のゴム組成物を用いて作製された空気入りタイヤ。
【請求項3】
ガラス転移点が-70~0℃かつ平均粒径が10~100nmであり下記一般式(1)で表される構成単位を有する重合体からなる有機微粒子を含む有機微粒子ラテックスと、ゴムラテックスとを混合した後、その混合物から固形成分を分離して微粒子複合体を調製する工程と、
得られた微粒子複合体をジエン系ゴムに配合する工程と、
を含むことを特徴とするゴム組成物の製造方法。
【化2】
(式中、R は水素原子又はメチル基であり、同一分子中のR は同一でも異なっていてもよく、R は炭素数8~18のアルキル基であり、同一分子中のR は同一でも異なっていてもよい。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物、及びそれを用いた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、タイヤに用いられるゴム組成物においては、湿潤路面におけるグリップ性能(ウェットグリップ性能)と低燃費性に寄与する転がり抵抗性能を高次元でバランスさせることが求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ウェットグリップ性能と転がり抵抗性能を高次元でバランスさせるために、重量平均分子量が5000~100万でありかつガラス転移点が-70~0℃である(メタ)アクリレート系重合体をゴム組成物に配合することが記載されている。また、特許文献2には、ガラス転移点が-70~0℃かつ平均粒径が10nm以上100nm未満である(メタ)アクリレート系重合体からなる有機微粒子をゴム組成物に配合することが記載されている。かかる有機微粒子を配合することにより、転がり抵抗性能の悪化を抑えながらウェットグリップ性能を向上することはできるが、機械的特性が損なわれることが判明した。
【0004】
一方、特許文献3には、ウェットグリップ性能および転がり抵抗性能を向上するために、有機微粒子のエマルジョンおよびゴムラテックスからなる混合物の固形成分からなる微粒子複合体をゴム組成物に配合することが記載されている。しかしながら、特定のガラス転移点を持つ有機微粒子を用いて微粒子複合体を得ることは記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2015/155965A1
【文献】特開2017-110069号公報
【文献】特開2017-206628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の実施形態は、例えばタイヤ用途に用いたときのウェットグリップ性能および転がり抵抗性能と引張破断強度などの機械的特性とのバランスに優れたゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態に係るゴム組成物は、ジエン系ゴムに微粒子複合体を配合してなるゴム組成物であって、前記微粒子複合体が、有機微粒子ラテックスおよびゴムラテックスからなる混合物の固形成分であり、前記有機微粒子ラテックスが、ガラス転移点が-70~0℃かつ平均粒径が10~100nmの有機微粒子を含むラテックスであり、前記ジエン系ゴムおよび前記ゴムラテックス由来のゴム分の合計100質量部に対し、前記有機微粒子を1~100質量部含有するものである。
【0008】
本発明の実施形態に係る空気入りタイヤは、該ゴム組成物を用いて作製されたものである。
【0009】
本発明の実施形態に係るゴム組成物の製造方法は、ガラス転移点が-70~0℃かつ平均粒径が10~100nmの有機微粒子を含む有機微粒子ラテックスと、ゴムラテックスとを混合した後、その混合物から固形成分を分離して微粒子複合体を調製する工程と、得られた微粒子複合体をジエン系ゴムに配合する工程と、を含むものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、上記特定の微粒子複合体を配合することにより、タイヤ用途に用いたときのウェットグリップ性能および転がり抵抗性能と引張破断強度などの機械的特性とのバランスを向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態に係るゴム組成物は、ジエン系ゴム(A)および微粒子複合体(B)を配合してなるものである。
【0012】
ゴム成分としてのジエン系ゴム(A)は、主鎖に炭素-炭素二重結合を有するゴムであり、硫黄加硫可能なゴムである。ジエン系ゴム(A)しては、例えば、天然ゴム(NR)、合成イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、スチレン-イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム等が挙げられる。これらはいずれか1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも、NR、BR及びSBRからなる群から選択された少なくとも1種であることが好ましい。
【0013】
上記で列挙した各ジエン系ゴムの具体例には、その分子末端又は分子鎖中において、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルコキシシリル基、及びエポキシ基からなる群から選択された少なくとも1種の官能基が導入されることで、当該官能基により変性された変性ジエン系ゴムも含まれる。変性ジエン系ゴムとしては、変性SBR及び/又は変性BRが好ましい。一実施形態において、ジエン系ゴム(A)は、変性ジエン系ゴム単独でもよく、変性ジエン系ゴムと未変性ジエン系ゴムとのブレンドでもよい。
【0014】
微粒子複合体(B)は、有機微粒子ラテックス(B1)およびゴムラテックス(B2)からなる混合物の固形成分からなる。
【0015】
有機微粒子ラテックス(B1)は、ガラス転移点(Tg)が-70~0℃でありかつ平均粒径が10~100nmである有機微粒子を含むラテックスであり、すなわち、該有機微粒子を水性媒質(例えば、水、または、水と水以外のプロトン性溶媒との混合溶媒)中に分散させた系である。このような特定のガラス転移点と平均粒径を持つ有機微粒子を含有させることにより、ウェットグリップ性能と転がり抵抗性能を改善することができる。
【0016】
詳細には、有機微粒子のガラス転移点は-70℃以上0℃以下の範囲にあり、ガラス転移点が0℃以下であることにより、ウェットグリップ性能の改善効果を発揮しつつ、低温性能の悪化を抑えることができる。また、ガラス転移点が-70℃以上であることにより、ウェットグリップ性能の改善効果を高めることができる。有機微粒子のガラス転移点は、-50~-10℃であることが好ましく、より好ましくは-40~-20℃である。
【0017】
また、有機微粒子の平均粒径は10nm以上100nm以下の範囲にあり、このような微細な粒子であることにより、転がり抵抗性能とウェットグリップ性能の改善効果を高めることができる。有機微粒子の平均粒径は、より好ましくは20~90nmであり、更に好ましくは30~80nmである。ここで、平均粒径は、動的光散乱法(DLS)により測定される粒度分布における積算値50%での粒径(50%径:D50)である。
【0018】
有機微粒子としては、下記一般式(1)で表されるアルキル(メタ)アクリレート単位を構成単位(繰り返し単位とも称される。)として有する(メタ)アクリレート系重合体からなるものを用いることが好ましい。
【0019】
【化1】
【0020】
式(1)中、Rは、水素原子又はメチル基であり、同一分子中のRは同一でも異なっていてもよい。Rは、炭素数4~18のアルキル基であり、同一分子中のRは同一でも異なっていてもよい。Rのアルキル基は直鎖でも分岐していてもよい。Rは、炭素数6~16のアルキル基であることが好ましく、より好ましくは炭素数8~15のアルキル基である。
【0021】
該(メタ)アクリレート系重合体は、1種又は2種以上のアルキル(メタ)アクリレートを含むモノマーを重合してなるものである。ここで、(メタ)アクリレートとは、アクリレート及びメタクリレートのうちの一方又は両方を意味する。また、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸及びメタクリル酸のうちの一方又は両方を意味する。
【0022】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸n-ペンチル、アクリル酸n-ヘキシル、アクリル酸n-ヘプチル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸n-ノニル、アクリル酸n-デシル、アクリル酸n-ウンデシル、アクリル酸n-ドデシル、アクリル酸n-トリデシル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸n-ペンチル、メタクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸n-ヘプチル、メタクリル酸n-オクチル、メタクリル酸n-ノニル、メタクリル酸n-デシル、メタクリル酸n-ウンデシル、及びメタクリル酸n-ドデシル等の(メタ)アクリル酸n-アルキル; アクリル酸イソブチル、アクリル酸イソペンチル、アクリル酸イソヘキシル、アクリル酸イソヘプチル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸イソノニル、アクリル酸イソデシル、アクリル酸イソウンデシル、アクリル酸イソドデシル、アクリル酸イソトリデシル、アクリル酸イソテトラデシル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸イソペンチル、メタクリル酸イソヘキシル、メタクリル酸イソヘプチル、メタクリル酸イソオクチル、メタクリル酸イソノニル、メタクリル酸イソデシル、メタクリル酸イソウンデシル、メタクリル酸イソドデシル、メタクリル酸イソトリデシル、及びメタクリル酸イソテトラデシル等の(メタ)アクリル酸イソアルキル; アクリル酸2-メチルブチル、アクリル酸2-エチルペンチル、アクリル酸2-メチルヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸2-エチルヘプチル、メタクリル酸2-メチルペンチル、メタクリル酸2-メチルヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、及びメタクリル酸2-エチルヘプチルなどが挙げられる。これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0023】
ここで、イソアルキルとは、アルキル鎖端から2番目の炭素原子にメチル側鎖を有するアルキル基をいう。例えば、イソデシルとは、鎖端から2番目の炭素原子にメチル側鎖を持つ炭素数10のアルキル基をいい、8-メチルノニル基だけでなく、2,4,6-トリメチルヘプチル基も含まれる概念である。
【0024】
一実施形態として、(メタ)アクリレート系重合体は、式(1)で表される構成単位として下記一般式(2)で表される構成単位を有する重合体であることが、本実施形態による効果を高める上で好ましい。
【0025】
【化2】
【0026】
式(2)中、Rは、水素原子又はメチル基であり(好ましくはメチル基)、同一分子中のRは同一でも異なってもよい。Zは、炭素数1~15のアルキレン基であり、同一分子中のZは同一でも異なってもよい。Zは直鎖でも分岐していてもよい。
【0027】
このような構成単位を生じる(メタ)アクリレートとしては、上記の(メタ)アクリル酸イソアルキルが挙げられる。かかるイソアルキル基を有する(メタ)アクリレート(より好ましくは、メタクリレート)を用いることにより、本実施形態による効果を高めることができる。式(2)中のZは、炭素数5~12のアルキレン基であることが好ましく、より好ましくは炭素数6~10のアルキレン基である。特に好ましくは、炭素数7のアルキレン基であり、一例として、(メタ)アクリレート系重合体は、メタクリル酸イソデシルを含むモノマーの重合体であることが好ましい。
【0028】
本実施形態に係る有機微粒子を構成する(メタ)アクリレート系重合体は、上記のアルキル(メタ)アクリレートの単独重合体でもよいが、より好ましい実施形態によれば、アルキル(メタ)アクリレートを、多官能ビニルモノマーの存在によって架橋してなる架橋構造の重合体である。すなわち、好ましい実施形態において、(メタ)アクリレート系重合体は、式(1)で表される構成単位とともに、多官能ビニルモノマーに由来する構成単位を含み、該多官能ビニルモノマーに由来する構成単位を架橋点とする架橋構造を有する。
【0029】
多官能ビニルモノマーとしては、フリーラジカル重合によって重合可能な少なくとも2個のビニル基を有する化合物が挙げられ、例えば、ジオールまたはトリオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、トリメチロールプロパンなど)のジ(メタ)アクリレートまたはトリ(メタ)アクリレート; メチレンビス-アクリルアミドなどのアルキレンジ(メタ)アクリルアミド; ジイソプロペニルベンゼン、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼンなどの少なくとも2個のビニル基を持つビニル芳香族化合物などが挙げられ、これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0030】
(メタ)アクリレート系重合体は、基本的には式(1)の構成単位からなり、即ち式(1)の構成単位を主成分とするが、効果を損なわない範囲で他のビニル系化合物を併用してもよい。特に限定するものではないが、(メタ)アクリレート系重合体を構成する全構成単位(全繰り返し単位)に対する式(1)の構成単位のモル比が50モル%以上であることが好ましく、より好ましくは80モル%以上であり、更に好ましくは90モル%以上である。式(1)の構成単位のモル比の上限は、特に限定しないが、例えば上記の多官能ビニルモノマーを添加する場合、99.5モル%以下でもよく、99モル%以下でもよい。多官能ビニルモノマーに基づく構成単位のモル比は、0.5~20モル%でもよく、1~10モル%でもよく、1~5モル%でもよい。
【0031】
一実施形態において、(メタ)アクリレート系重合体が式(2)の構成単位を有する重合体である場合、当該重合体の全構成単位に対する式(2)の構成単位のモル比は25モル%以上であることが好ましく、より好ましくは35モル%以上であり、50モル%以上でもよく、80モル%以上でもよい。当該モル比の上限は、特に限定しないが、例えば多官能ビニルモノマーを上記のモル比で添加する場合、99.5モル%以下でもよく、99モル%以下でもよい。
【0032】
(メタ)アクリレート系重合体としては、反応性シリル基を持たないものを用いることが好ましい。ここで、反応性シリル基とは、式≡Si-Xで表される官能基(式中、Xはヒドロキシルまたは加水分解可能な基である。)であり、1~3個のヒドロキシル基又は加水分解可能な1価の基が4価のケイ素原子に結合した構造を有する基である。Xとしては、ヒドロキシル基、アルコキシ基、及びハロゲン原子が挙げられる。
【0033】
有機微粒子ラテックス(B1)の製造方法は、特に限定されず、公知の乳化重合や懸濁重合、分散重合、沈殿重合、ミニエマルション重合、ソープフリー乳化重合(無乳化剤乳化重合)およびマイクロエマルション重合などの重合方法を利用することができる。
【0034】
有機微粒子ラテックス(B1)中に含まれる有機微粒子の量は、特に限定されず、例えば、5~50質量%でもよく、10~40質量%でもよい。
【0035】
ゴムラテックス(B2)は、天然ゴムラテックスまたは合成ゴムラテックスである。合成ゴムラテックスとしては、例えば、イソプレン系、ブタジエン系、スチレンブタジエン系、アクリロニトリルブタジエン系のラテックスを挙げることができる。
【0036】
ゴムラテックス(B1)中に含まれるゴム分(固形分)の量は、特に限定されず、例えば、20~80質量%でもよく、30~70質量%でもよい。
【0037】
上記の有機微粒子ラテックス(B1)とゴムラテックス(B2)を混合し、得られた混合物(混合液)から水性媒質が除去された固形成分が微粒子複合体(B)である。すなわち、微粒子複合体(B)は、有機微粒子ラテックス(B1)に含まれる有機微粒子とゴムラテックス(B2)の固形成分であるゴムとの複合体である。ゴムラテックス(B2)由来のゴムは上記ジエン系ゴム(A)とともにゴム組成物のゴム成分を構成するものであるため、このゴムと有機微粒子とが複合化された微粒子複合体(B)を用いることにより、有機微粒子をゴム組成物中に高分散化させることができる。
【0038】
微粒子複合体(B)において、有機微粒子とゴムラテックス(B2)由来のゴム分との比率は特に限定されない。有機微粒子の質量をW1とし、ゴムラテックス(B2)由来のゴム分の質量をW2として、両者の比W1/W2は1/20~4/1でもよく、1/10~2/1でもよい。このような比率に設定することにより、有機微粒子をゴム組成物中に高分散化させる効果を高めることができる。
【0039】
本実施形態に係るゴム組成物において、微粒子複合体(B)の配合量は、有機微粒子の含有量がゴム成分100質量部に対して1~100質量部となるように設定されることが好ましい。換言すれば、ゴム組成物のゴム成分は上記ジエン系ゴム(A)とゴムラテックス(B2)由来のゴム分からなるため、ゴム成分、即ちジエン系ゴム(A)およびゴムラテックス(B2)由来のゴム分の合計100質量部に対し、有機微粒子を1~100質量部含有することが好ましい。より好ましくは、有機微粒子の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、2~50質量部であり、更に好ましくは3~30質量部である。有機微粒子の含有量が1質量部以上であることにより、ウェットグリップ性能および転がり抵抗性能の改善効果を高めることができ、また100質量部以下であることにより、機械的特性の低下を小さくすることができる。
【0040】
ゴム組成物に含まれるジエン系ゴム(A)とゴムラテックス(B2)由来のゴム分との比率は特に限定されない。ジエン系ゴム(A)の質量をW0とし、ゴムラテックス(B2)由来のゴム分の質量をW2として、両者の比W0/W2は95/5~30/70でもよく、90/10~40/60でもよく、80/20~50/50でもよい。
【0041】
本実施形態に係るゴム組成物には、上記ジエン系ゴム(A)および微粒子複合体(B)の他に、補強性充填剤、シランカップリング剤、オイル、亜鉛華、ステアリン酸、老化防止剤、ワックス、加硫剤、加硫促進剤など、ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。
【0042】
補強性充填剤としては、湿式シリカ(含水ケイ酸)等のシリカおよび/またはカーボンブラックが好ましく用いられる。より好ましくは、転がり抵抗性能とウェットグリップ性能のバランスを向上するために、シリカを用いることであり、シリカ単独又はシリカとカーボンブラックの併用が好ましい。補強性充填剤の配合量は、特に限定されず、例えば、ゴム成分100質量部に対して20~150質量部でもよく、30~100質量部でもよい。シリカの配合量も特に限定されず、例えば、ゴム成分100質量部に対して20~150質量部でもよく、30~100質量部でもよい。
【0043】
シリカを配合する場合、シランカップリング剤を併用することが好ましく、その場合、シランカップリング剤の配合量は、シリカ質量の2~20質量%であることが好ましく、より好ましくは4~15質量%である。
【0044】
上記加硫剤としては、硫黄が好ましく用いられる。加硫剤の配合量は、特に限定するものではないが、ゴム成分100質量部に対して0.1~10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5~5質量部である。また、上記加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チウラム系、チアゾール系、及びグアニジン系などの各種加硫促進剤が挙げられ、いずれか1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。加硫促進剤の配合量は、特に限定するものではないが、ゴム成分100質量部に対して0.1~7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5~5質量部である。
【0045】
本実施形態に係るゴム組成物の製造方法は、有機微粒子ラテックス(B1)とゴムラテックス(B2)とを混合した後、その混合物から固形成分を分離して微粒子複合体(B)を調製する工程と、得られた微粒子複合体(B)をジエン系ゴム(A)に配合する工程と、を含む。
【0046】
有機微粒子ラテックス(B1)とゴムラテックス(B2)を混合する方法としては、液体同士を均一に混合することができる各種方法を用いることができ、例えば公知の攪拌機を用いて混合することができる。
【0047】
次いで、得られた混合物から固形成分としての微粒子複合体(B)を分離する方法としては、混合物に含まれる水などの水性媒質を除去することができれば特に限定されず、例えば、ろ過や遠心分離などの固液分離法、および/または、熱風乾燥や真空乾燥などの乾燥方法が挙げられる。一実施形態として、混合物をメタノールやエタノール中に投入することにより沈殿させ、これをろ過することにより水性媒質を除去してもよい。
【0048】
得られた微粒子複合体(B)をジエン系ゴム(A)に配合する方法、即ち、微粒子複合体(B)とジエン系ゴム(A)とを混合してゴム組成物を調製する方法は特に限定されない。例えば、通常に用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、常法に従い混練することにより、ゴム組成物を調製することができる。より詳細には、例えば、第一混合段階で、ジエン系ゴム(A)に対し、微粒子複合体(B)とともに、加硫剤及び加硫促進剤を除く他の添加剤を添加混合し、次いで、得られた混合物に、最終混合段階で加硫剤及び加硫促進剤を添加混合することによりゴム組成物を調製することができる。
【0049】
このようにして得られたゴム組成物は、タイヤ用、防振ゴム用、コンベアベルト用などの各種ゴム部材に用いることができる。好ましくは、タイヤ用であり、乗用車用タイヤ、トラックやバスの大型タイヤなど各種用途、各種サイズの空気入りタイヤのトレッド部、サイドウォール部などタイヤの各部位に適用することができる。すなわち、該ゴム組成物は、常法に従い、例えば、押出加工によって所定の形状に成形され、他の部品と組み合わせてグリーンタイヤを作製した後、例えば140~180℃でグリーンタイヤを加硫成形することにより、空気入りタイヤを製造することができる。これらの中でも、タイヤのトレッド用配合として用いることが特に好ましく、そのため一実施形態に係る空気入りタイヤは、上記ゴム組成物からなるトレッドゴムを含むものである。
【実施例
【0050】
以下、実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0051】
[平均粒径の測定方法]
有機微粒子の平均粒径は、動的光散乱法(DLS)により測定される粒度分布における積算値50%での粒径(50%径:D50)であり、大塚電子株式会社製のダイナミック光散乱光度計「DLS-8000」を用いた光子相関法(JIS Z8826準拠)により測定した(入射光と検出器との角度90°)。
【0052】
[Tgの測定方法]
有機微粒子のTgは、JIS K7121に準拠して示差走査熱量測定(DSC)法により、昇温速度:20℃/分にて測定した(測定温度範囲:-150℃~150℃)。
【0053】
[合成例1:有機微粒子ラテックスおよび有機微粒子の合成]
150.0gのメタクリル酸2,4,6-トリメチルヘプチル(即ち、メタクリル酸イソデシル)、3.94gのエチレングリコールジメタクリレート、19.1gのドデシル硫酸ナトリウム、1200gの水および130.5gのエタノールを混合し、1時間撹拌させることによりモノマーを乳化させ、1.79gの過硫酸カリウムを添加した後、1時間の窒素バブリングを実施し、溶液を70℃で8時間保持し、ラテックス溶液を得た。
【0054】
得られたラテックス溶液について動的光散乱法(DLS)により平均粒径を測定したところ、平均粒径68nmの有機微粒子が生成していることが確認された。このラテックス溶液を有機微粒子ラテックスとする。
【0055】
該有機微粒子ラテックスの一部を撹拌しているメタノール中に投入することにより有機微粒子を沈殿させ、ろ過により液体を除去し、真空乾燥器で70℃、1.0×10Paの条件下で乾燥することにより、固形成分としての有機微粒子を得た。有機微粒子のTgは-37℃であった。
【0056】
有機微粒子について、13C-NMRにより、重合体の化学構造を分析したところ、メタクリル酸2,4,6-トリメチルヘプチル由来の式(2)の構成単位とともに、エチレングリコールジメタクリレート由来の構成単位(以下、EGDM構成単位)を有し、各構成単位のモル比は、式(2)の構成単位が97モル%、EGDM構成単位が3.0モル%であった。
【0057】
[合成例2:微粒子複合体1]
合成例1で得られた有機微粒子ラテックスと天然ゴムラテックス(レヂテックス社製「HA-NR」、DRC(乾燥ゴム分):60質量%)とを、有機微粒子の質量W1と天然ゴムラテックス由来のゴム分の質量W2との比W1/W2が1/8となるように混合して混合物を得た。得られた混合物を撹拌しているメタノール中に投入することにより固形成分を沈殿させ、ろ過により液体を除去し、真空乾燥器で70℃、1.0×10Paの条件下で乾燥することにより、混合物の固形成分を得た。得られた固形成分を微粒子複合体1(W1/W2=1/8)とする。
【0058】
[合成例3:微粒子複合体2]
合成例1で得られた有機微粒子ラテックスと天然ゴムラテックス(レヂテックス社製「HA-NR」、DRC(乾燥ゴム分):60質量%)とを、有機微粒子の質量W1と天然ゴムラテックス由来のゴム分の質量W2との比W1/W2が1/4となるように混合して混合物を得た。得られた混合物を撹拌しているメタノール中に投入することにより固形成分を沈殿させ、ろ過により液体を除去し、真空乾燥器で70℃、1.0×10Paの条件下で乾燥することにより、混合物の固形成分を得た。得られた固形成分を微粒子複合体2(W1/W2=1/4)とする。
【0059】
[合成例4:微粒子複合体3]
合成例1で得られた有機微粒子ラテックスと天然ゴムラテックス(レヂテックス社製「HA-NR」、DRC(乾燥ゴム分):60質量%)とを、有機微粒子の質量W1と天然ゴムラテックス由来のゴム分の質量W2との比W1/W2が3/8となるように混合して混合物を得た。得られた混合物を撹拌しているメタノール中に投入することにより固形成分を沈殿させ、ろ過により液体を除去し、真空乾燥器で70℃、1.0×10Paの条件下で乾燥することにより、混合物の固形成分を得た。得られた固形成分を微粒子複合体3(W1/W2=3/8)とする。
【0060】
[合成例5:微粒子複合体4]
合成例1で得られた有機微粒子ラテックスと天然ゴムラテックス(レヂテックス社製「HA-NR」、DRC(乾燥ゴム分):60質量%)とを、有機微粒子の質量W1と天然ゴムラテックス由来のゴム分の質量W2との比W1/W2が3/4となるように混合して混合物を得た。得られた混合物を撹拌しているメタノール中に投入することにより固形成分を沈殿させ、ろ過により液体を除去し、真空乾燥器で70℃、1.0×10Paの条件下で乾燥することにより、混合物の固形成分を得た。得られた固形成分を微粒子複合体4(W1/W2=3/4)とする。
【0061】
[ゴム組成物の評価]
ラボミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従って、まず、第一混合段階で、ジエン系ゴムに対し硫黄及び加硫促進剤を除く他の配合剤を添加し混練した(排出温度=160℃)。次いで、得られた混練物に、最終混合段階で、硫黄と加硫促進剤を添加し混練して(排出温度=90℃)、ゴム組成物を調製した。表1中の各成分の詳細は、以下の通りである。
【0062】
・SBR:アルコキシ基及びアミノ基末端変性溶液重合SBR、JSR(株)製「HPR350」
・NR:天然ゴムラテックス(レヂテックス社製「HA-NR」、DRC(乾燥ゴム分):60質量%)をメタノール中に投入することにより沈殿させ、これをろ過することにより得られた天然ゴム
・シリカ:東ソー・シリカ(株)製「ニップシールAQ」
・シランカップリング剤:ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、エボニック社製「Si69」
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華1種」
・老化防止剤:大内新興化学工業(株)製「ノクラック6C」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS-20」
・硫黄:細井化学工業(株)製「ゴム用粉末硫黄150メッシュ」
・加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーCZ」
・2次加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーD」
・有機微粒子:合成例1で合成したもの
・微粒子複合体1~4:合成例2~5で合成したもの
【0063】
得られた各ゴム組成物について、160℃×20分で加硫して所定形状の試験片を作製し、得られた試験片を用いて、動的粘弾性試験を行って0℃及び60℃でのtanδを測定するとともに、引張破断強度と引裂強度を測定した。測定方法は次の通りである。
【0064】
・0℃tanδ:UBM社製レオスペクトロメーターE4000を用いて、周波数10Hz、静歪み10%、動歪み2%、温度0℃の条件で損失係数tanδを測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、tanδが大きく、ウェットグリップ性能に優れることを示す。
【0065】
・60℃tanδ:温度を60℃に変え、その他は0℃tanδと同様にしてtanδ測定し、測定値の逆数について、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、tanδが小さく、従って発熱しにくく、タイヤでの転がり抵抗が小さくて転がり抵抗性能(即ち、低燃費性)に優れることを示す。
【0066】
・引張破断強度:JIS K6251に準拠した試験片の引張破断強度を測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、引張破断強度が高いことを示す。
【0067】
・引裂強度:JIS K6252に準拠した試験片の引裂強度を測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、引裂強度が高く、耐引裂性能に優れることを示す。
【0068】
【表1】
【0069】
結果は表1に示す通りである。コントロールである比較例1に対し、有機微粒子を配合した比較例2~5であると、ウェットグリップ性能と転がり抵抗性能の改善効果が得られ、有機微粒子の含有量が多いほど改善効果が大きかった。しかしながら、引張強度及び引裂強度が低下し、有機微粒子の含有量が多いほど低下幅が大きかった。
【0070】
これに対し、有機微粒子ラテックスおよびゴムラテックスからなる混合物の固形成分である微粒子複合体1~4を配合した実施例1~4であると、それぞれ有機微粒子の含有量が同じである対応する比較例2~5に対して、引張破断強度および引裂強度が明確に改善されていた。そのため、実施例1~4は、コントロールである比較例1に対して、引張破断強度および引裂強度の低下を抑えながら、ウェットグリップ性能と転がり抵抗性能の改善効果が得られており、ウェットグリップ性能および転がり抵抗性能と、機械的特性と、のバランスに優れていた。