(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】乗員保護装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/08 20060101AFI20220825BHJP
B60R 21/015 20060101ALI20220825BHJP
B60R 21/20 20110101ALI20220825BHJP
【FI】
B60R21/08 Z
B60R21/015 312
B60R21/20
(21)【出願番号】P 2018185780
(22)【出願日】2018-09-28
【審査請求日】2021-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長澤 勇
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-289562(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第10024810(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第19727598(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第102018118902(DE,A1)
【文献】特開2004-001591(JP,A)
【文献】特開2017-165148(JP,A)
【文献】特開2009-208758(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/00 - 21/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
座席シートに着座した乗員の脚部の踵の前後位置を検知する脚部位置検知装置と、
前記乗員の踵が載置される床部に配置され、車両の前後方向に複数の気室を有するエアバッグと、
車両の衝突または衝突予測を検知する衝突検知装置と、
前記衝突検知装置が衝突または衝突予測を検知した場合、前記エアバッグの展開において、前記脚部位置検知装置に検知された踵位置よりも前方の気室を展開させる展開制御装置と、
を備えたことを特徴とする車両の乗員保護装置。
【請求項2】
前記展開制御装置は、
前記踵位置の下部に配置されたエアバッグの気室も展開させるとともに、前記踵位置よりも前方の気室は前記踵位置の気室よりも上方に展開させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の車両の乗員保護装置。
【請求項3】
前記展開制御装置は、
前記衝突検知装置が衝突予測を検知した場合には、前記エアバッグを低速で展開させ、
前記衝突検知装置が衝突を検知した場合には、前記エアバッグを高速で展開させる、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両の乗員保護装置。
【請求項4】
前記エアバッグの上部に車両の前後方向に複数に分離された補助部材を設け、
前記エアバッグの展開される気室に対応する補助部材は、前記気室の展開とともに前記座席シートの方向に回動される、
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の車両の乗員保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
衝突等から乗員を保護するため、自動車などの車両では、エアバッグ装置が用いられている。
そして、前突時に膝部と内装部材との衝突による障害の低減や、上体の回転軸となる腰の位置のズレを防止し、上半身の挙動も安定させる膝部前面で展開するニーエアバッグが提案されている。
【0003】
例えば、インストルメントパネル(ここでは、ダッシュボードと同義として使用されている)内に、展開時に着座状態の乗員の両膝にそのまま対応できるように幅方向には折り畳まれずにニーエアバッグが収納された車両用ニーエアバッグ装置が提案されている。この車両用ニーエアバッグ装置は、左右に折り畳まれずに収納されているので、膨張初期状態から左右の幅が広く、乗員が両膝を開いた状態で着座していても、両膝の前にニーエアバッグが展開し、乗員の脚部を確実に保護できるようにしている(特許文献1参照)。
【0004】
一方、人間の足裏からの荷重に対する耐久性は意外に強く、大腿部では「1トン」の荷重でも耐えられることができる。そのため、前突時に乗員が脚を踏ん張ることができれば、骨格の耐衝撃性による傷害値の低減を図ることができることが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のニーエアバッグ装置は、乗員が脚を踏ん張ることを想定したものではない。例えば、乗員の下肢部が直線状となると、脚を踏ん張り易くなるが、従来のニーエアバッグ装置は、内装部品と、乗員の膝下との間、脛の前方で展開するので、乗員は下肢部を直線状とはし難く、踏ん張りには不向きである。
【0007】
本発明は、このような従来の問題を解決するためになされたもので、乗員に身を守る姿勢を取り易くさせて乗員保護を行うことができる乗員保護装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る車両の乗員保護装置は、座席シートに着座した乗員の脚部の踵の前後位置を検知する脚部位置検知装置と、前記乗員の踵が載置される床部に配置され、車両の前後方向に複数の気室を有するエアバッグと、車両の衝突または衝突予測を検知する衝突検知装置と、前記衝突検知装置が衝突または衝突予測を検知した場合、前記エアバッグの展開において、前記脚部位置検知装置に検知された踵位置よりも前方の気室を展開させる展開制御装置と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、前記展開制御装置は、前記踵位置の下部に配置されたエアバッグの気室も展開させるとともに、前記踵位置よりも前方の気室は前記踵位置の気室よりも上方に展開させる、ようにしてもよい。
【0010】
さらに、前記展開制御装置は、前記衝突検知装置が衝突予測を検知した場合には、前記エアバッグを低速で展開させ、前記衝突検知装置が衝突を検知した場合には、前記エアバッグを高速で展開させる、ようにしてもよい。
【0011】
さらに、前記エアバッグの上部に車両の前後方向に複数に分離された補助部材を設け、前記エアバッグの展開される気室に対応する補助部材は、前記気室の展開とともに前記座席シートの方向に回動される、ようにしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、乗員に身を守る姿勢を取り易くさせて乗員保護を行うことができる乗員保護装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態における乗員保護装置を備えた車両の一部の概略を示す断面図である。
【
図2】踵位置も展開させる乗員保護装置を備えた車両の一部の概略断面図である。
【
図3】補助ボードを設けた乗員保護装置を備えた車両の一部の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の形態における乗員保護装置を備えた車両の一部の概略を示す断面図である。なお、
図1(a)は、本実施の形態の乗員保護装置の作動前の概略断面図であり、
図1(b)は、本実施の形態の乗員保護装置の作動後の概略断面図である。
【0015】
(車両1の構成)
図1に示すように、車両1には、乗員室と床下空間を区切るフロアパネル5が設けられており、乗員室の上部にはルーフ4が設けられている。また、車両1の下部には、図示しないアンダーフロアが設けられている。さらに、フロアパネル5には、座席シート10およびフロアマット3が配備されている。また、フロアパネル5には、乗員保護装置31が設けられている。なお、乗員保護装置31の一部は、フロアパネル5とアンダーフロアの間の床下空間等に設けられていてもよい。
【0016】
座席シート10は、車両1に乗車した乗員Pが着座するものである。また、座席シート10は、乗員Pの臀部から大腿部を支えるシートクッション11(座部)と、リクライニング可能に設けられたシートバッグ12(背もたれ部)と、乗員Pの頭部を支えるヘッドレスト13(ヘッド部)と、を備えている。
【0017】
(乗員保護装置31の構成)
乗員保護装置31は、車載カメラ40と、インフレータ121と、エアバッグ131と、車両制御装置(以下、ECUという)201と、を備えている。なお、ECU201は、衝突検知装置、および、展開制御装置たるエアバッグ展開制御ユニット(以下、ACUという)の機能も備えている。また、衝突検知装置およびACUは、ECU201と別体で設けるようにしてもよい。さらに、乗員保護装置31は、上体エアバッグ装置50、図示しないニーエアバッグ装置等を備えるものであってもよい。
【0018】
(車載カメラ40)
車載カメラ40は、主に車両1の外部の状況を撮影し、撮影した画像データをECU201に出力し、ECU201が車両1に対する衝突予測および衝突判定を行うための情報を取得するものである。なお、ECU201が画像データによる衝突予測および衝突判定を行うものでなければ、車載カメラ40を備えていなくてもよい。
また、車載カメラ40は、座席シート10に着座した乗員Pの脚部の状態を検知する、脚部位置検知装置として機能するものであってもよい。具体的には、車載カメラ40は、乗員Pの踵の位置を検知し、車両1の前後方向に対してどこにあるかを、ECU210に出力する。これにより、ECU201は、乗員Pの踵位置を判定することができる。なお、本実施の形態では、乗員Pの踵が載置される床部の上、例えば、フロアマット3に配置された後述する圧力センサにより検知するものとする。
【0019】
上体エアバッグ装置50は、ECU201(ACU)に制御され、乗員Pの頭部および胸部等を主に保護するものである。また、上体エアバッグ装置50は、図示しない上体インフレータと、上体エアバッグ袋体51と、を有している。
上体エアバッグ装置50は、ECU201(衝突検知装置)により車両1の衝突検知または衝突予測が行われると、上体インフレータにより上体エアバッグ袋体51が膨張され、座席シート10方向に展開して、乗員Pの頭部および胸部等に対する、車両1の衝突の衝撃を緩和するものである。
【0020】
また、ニーエアバッグ装置を設ける場合、乗員Pの脚の踏ん張りに対して、邪魔にならないように展開させる。
【0021】
(インフレータ121)
インフレータ121は、ECU201による作動信号により、火薬に点火し、燃焼による化学反応でガスを発生させるものである。また、インフレータ121に発生されたガスは、エアバッグ131に圧入される。
なお、インフレータ121は、ECU201から入力された作動信号により、エアバッグ131の後述する第1バッグ131a、第2バッグ131b、第3バッグ131c、第4バッグ131dに対して、それぞれ独立してガスを供給することができる。
【0022】
(エアバッグ131)
エアバッグ131は、インフレータ121によってガスが圧入される袋体であって、非作動時は小さく折り畳まれて、フロアマット3とフロアパネル5の間に収納されている。また、エアバッグ131は、インフレータ121からガスが圧入されると、フロアマット3よりも上方に膨張展開するものである。
このとき、エアバッグ131は、上部のフロアマット3を引き裂いて上方に突出する。また、エアバッグ131は、上部のフロアマット3ごと上方に突出するものであってもよい。この場合でも、エアバッグ131は、フロアマット3の一部を引き裂くもの、例えば、エアバッグ131の周縁部のフロアマット3を切り裂いて突出するものであることが望ましい。
【0023】
また、エアバッグ131は、複数の気室を有し、車両1の前後方向に複数に分割されている。なお、車両1の幅方向にも複数に分割されていてもよい。本実施の形態では、エアバッグ131は、車両1の前後方向に4つの気室に分割されているものとする。
また、エアバッグ131は、分割されたそれぞれの気室が、独立して膨張展開できるようになっている。そこで、エアバッグ131の気室を、車両1の前方からそれぞれ、第1バッグ131a、第2バッグ131b、第3バッグ131c、第4バッグ131dとする。また、以下では、第1バッグ131a、第2バッグ131b、第3バッグ131c、第4バッグ131dを総称して、エアバッグ131のバッグともいう。
【0024】
また、エアバッグ131のバッグのそれぞれに対して対応するように、図示しない圧力センサが設けられている。この圧力センサは、エアバッグ131のバッグの1つに対して1つではなく、複数設けられている。そして、座席シート10に着座した乗員Pの足裏の位置を検出できるようになっている。すなわち、圧力センサは、車両1の前後方向に対する乗員Pの踵の位置、踵の前後位置を検知する脚部位置検知装置として機能する。
【0025】
(ECU201)
ECU201は、車両1全体を制御するためものである。また、ECU100は、中央演算処理装置としてのCPU(Central Processing Unit)、CPUにより実行される制御プログラム、データテーブル、各コマンドやデータ等の記憶を行うROM(Read Only Memory)、一時的にデータを記憶するRAM(Random Access Memory)、書き換え可能な不揮発性のメモリからなるEEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)および入出力インターフェース回路を備え、車両1の制御を統括するようになっている。
【0026】
また、ECU201は、圧力センサから検知情報を入力する。そして、ECU201は、圧力センサの検知情報から、乗員Pの踵の位置を検出する。
また、ECU201は、車載カメラ40から車両1の外部の情報を入力し、外部状況を把握、判定するものである。具体的には、ECU201は、車載カメラ40から入力した画像データに基づいて、車両1に対する衝突予測および衝突判定を行う。なお、ECU201は、車載カメラ40から入力した情報にかかわらず、加速度センサ(Gセンサ)や、衝撃センサ(圧力センサ)等による情報から衝突予測および衝突判定を行うものであってもよい。
【0027】
ECU201は、衝突予測を検知すると、検出した乗員Pの踵位置に基づいて、エアバッグ131の所定のバッグを展開させる作動信号を、インフレータ121に出力する。
なお、ECU201は、衝突予測時には、乗員Pの踵位置よりも前のエアバッグ131のバッグに対して展開させるように、インフレータ121に作動信号を出力する。
【0028】
すなわち、ECU201は、検出した乗員Pの踵位置が、第2バッグ131bの上であったら、第1バッグ131aを展開させる作動信号を出力する。また、踵位置が、第3バッグ131cの上であったら、第1バッグ131aと第2バッグ131bを展開させる作動信号を出力する。また、踵位置が、第4バッグ131dの上であったら、第1バッグ131aと第2バッグ131bと第3バッグ131cを展開させる作動信号を出力する。
【0029】
なお、本実施の形態では、乗員Pの踵位置よりも前のエアバッグ131のバッグの全てを展開させるようにしたが、これに限らず、乗員Pの踵位置よりも前のエアバッグ131の1つのバッグだけを展開させるようにしてもよいし、乗員Pの踵位置よりも前のエアバッグ131の所定の数分のバッグを展開させるようにしてもよい。
また、本実施の形態では、エアバッグ131の展開するバッグの展開量を特に変えていないが、例えば、前方ほど展開量を大きくしてもよい。このようにすると、例えば、エアバッグ131のバッグにおいて、車両1の前後方向の幅を小さく、また、数を多くすると、乗員Pの踵からつま先に向かうほど、エアバッグ131のバッグを高くすることができ、乗員Pの踏ん張りをより効果的に補助することができる。
【0030】
(乗員保護装置31の動作)
以下、乗員Pが、エアバッグ131の第3バッグ131cの上に踵を載せて、車両1を走行させている場合を例に、説明する。
乗員保護装置31は、ECU201(衝突検知装置)が車両1の衝突予測を行うと、上体エアバッグ装置50およびインフレータ121を作動させる。なお、ECU201が車両1の衝突検知を行った時の動作は、衝突予測を行った時の動作を同様であるので、説明を省略する。
【0031】
具体的には、ECU201は、衝突予測を行うと、上体インフレータに作動信号を出力する。上体インフレータは、作動信号が入力されると、ガスを発生させ、上体エアバッグ袋体51にガスを供給する。これにより、上体エアバッグ袋体51が膨張し、乗員Pの前面に展開される。
【0032】
また、ECU201は、車両1の衝突予測を行うと、圧力センサの検知信号に基づいて、乗員Pの踵の位置を検出する。ここでは、ECU201は、乗員Pの踵の位置が、エアバッグ131の第3バッグ131cの上であると検出する。ECU201は、乗員Pの踵の位置が、エアバッグ131の第3バッグ131cの上であると検出すると、インフレータ121に、エアバッグ131の第1バッグ131aと第2バッグ131bとを展開させる作動信号を出力する。
【0033】
インフレータ121は、このECU201から入力した作動信号により、ガスを発生させ、発生させたガスを、エアバッグ131の第1バッグ131aと第2バッグ131bとに供給する。
これにより、エアバッグ131の第1バッグ131aと第2バッグ131bとが膨張し、上部のフロアマット3を引き裂いて上方に突出する。したがって、乗員Pの足裏の踵よりも前の部分が盛り上がり、高くなるので、脚を踏ん張り易くなる。このため、車両1の衝突に対して、乗員Pが身を守り易くなり(自力で傷害値の低減を図ることができ)、乗員保護を行うことができる。
【0034】
(踵位置も展開させる乗員保護装置)
次に、乗員Pの踵の位置に対応するエアバッグのバッグも展開させる乗員保護装置について、説明する。
図2は、乗員保護装置を備えた車両の一部の概略を示す断面図である。なお、
図2(a)は、乗員保護装置の作動前の概略断面図であり、
図2(b)は、乗員保護装置の作動後の概略断面図である。
【0035】
(乗員保護装置32の構成)
図2に示すように、乗員保護装置32は、インフレータ122と、エアバッグ132と、ECU202と、図示しない車載カメラと、を備えている。
車載カメラは、上記実施の形態の車載カメラ40と同様のものであるので、説明を省略する。
【0036】
(インフレータ122)
インフレータ122は、上記実施の形態のインフレータ121と同様のものであるが、エアバッグ132の後述する第1バッグ132a、第2バッグ132b、第3バッグ132c、第4バッグ132dに対して、それぞれ独立して異なるガス量を供給することができるものである。なお、上記実施の形態のインフレータ121については、特にこの機能を有していなくてもよい。
【0037】
(エアバッグ132)
エアバッグ132は、上記実施の形態のエアバッグ131と同様のものであり、複数の気室を有している。また、エアバッグ132の気室を、車両1の前方からそれぞれ、第1バッグ132a、第2バッグ132b、第3バッグ132c、第4バッグ132dとする。また、以下では、第1バッグ132a、第2バッグ132b、第3バッグ132c、第4バッグ132dを総称して、エアバッグ132のバッグともいう。
また、エアバッグ132のバッグのそれぞれは、供給されるガス量に応じて、異なる大きさで展開ができるようになっている。
【0038】
また、上記実施の形態と同様に、エアバッグ132のバッグのそれぞれに対して対応するように、図示しない圧力センサが設けられている。
【0039】
(ECU202)
ECU202は、上記実施の形態のECU201と同様のものであるが、衝突予測時には、乗員Pの踵位置よりも前のエアバッグ132のバッグに対して展開させるように、インフレータ122に作動信号を出力するとともに、乗員Pの踵位置のエアバッグ132のバッグに対しても展開させるように、インフレータ122に作動信号を出力する。
ここで、ECU202は、乗員Pの踵位置のエアバッグ132のバッグに対しては、供給するガスの量を抑え、乗員Pの踵位置よりも前のエアバッグ132のバッグの方が高くなるように、ガスの供給量を制御した作動信号を、インフレータ122に対して出力するようになっている。
【0040】
(乗員保護装置32の動作)
以下、乗員Pが、エアバッグ132の第3バッグ132cの上に踵を載せて、車両1を走行させている場合を例に、説明する。
乗員保護装置32は、ECU202が車両1の衝突予測を行うと、上体エアバッグ装置およびインフレータ122を作動させる。
【0041】
具体的には、ECU202は、衝突予測を行うと、上記実施の形態と同様に、上体インフレータに作動信号を出力する。上体インフレータは、作動信号が入力されると、ガスを発生させ、上体エアバッグ袋体にガスを供給する。これにより、上体エアバッグ袋体が膨張し、乗員Pの前面に展開される。
【0042】
また、ECU202は、車両1の衝突予測を行うと、圧力センサの検知信号に基づいて、乗員Pの踵の位置を検出する。ここでは、ECU202は、乗員Pの踵の位置が、エアバッグ132の第3バッグ132cの上であると検出する。ECU202は、乗員Pの踵の位置が、エアバッグ132の第3バッグ132cの上であると検出すると、インフレータ122に、エアバッグ132の第1バッグ132aと第2バッグ132bとを展開させる作動信号を出力するとともに、第3バッグ132cも展開させる作動信号を出力する。ただし、第3バッグ132cを展開させるガス量は調整し、第3バッグ132cよりも、第1バッグ132aおよび第2バッグ132bの方が高くなるようにする。
【0043】
インフレータ122は、このECU202から入力した作動信号により、ガスを発生させ、発生させたガスを、エアバッグ132の第1バッグ132aと第2バッグ132bと第3バッグ132cとに、指定された量だけ供給する。
これにより、エアバッグ132の第1バッグ132aと第2バッグ132bと第3バッグ132cとが膨張し、上部のフロアマット3を引き裂いて上方に突出するとともに、第1バッグ132aと第2バッグ132bとが、第3バッグ132cよりも高く膨張展開する。
【0044】
ここで、乗員Pの踵部分が第3バッグ132cの膨張展開により上方に持ち上げられるため、乗員Pは、脚を直線状にし易くなる。そして、踵位置の第3バッグ132cの高さよりも、前方にある第1バッグ132aおよび第2バッグ132bの方が高くなっている。したがって、乗員Pの足裏の踵よりも前の部分が盛り上がり、高くなるので、脚を踏ん張り易く、車両1の衝突に対して、乗員Pが身を守り易くなり、乗員保護に役立つことができる。
【0045】
(補助ボードを設けた乗員保護装置)
次に、エアバッグの上部に補助部材(補助ボード)を設けた乗員保護装置について、説明する。
図3は、乗員保護装置を備えた車両の一部の概略を示す断面図である。なお、
図3(a)は、乗員保護装置の作動前の概略断面図であり、
図3(b)は、乗員保護装置の作動後の概略断面図である。
【0046】
(乗員保護装置33の構成)
図3に示すように、乗員保護装置33は、インフレータ123と、エアバッグ133と、補助ボード153と、ECU203と、図示しない車載カメラと、を備えている。
車載カメラは、上記実施の形態の車載カメラ40と同様のものであるので、説明を省略する。
【0047】
(インフレータ123)
インフレータ123は、上記実施の形態のインフレータ121、122と同様のものである。
【0048】
(エアバッグ133)
エアバッグ133は、上記実施の形態のエアバッグ131、132と同様のものである。また、エアバッグ133は、複数の気室を有している。エアバッグ133の気室を、車両1の前方からそれぞれ、第1バッグ133a、第2バッグ133b、第3バッグ133c、第4バッグ133dとする。
また、以下では、第1バッグ133a、第2バッグ133b、第3バッグ133c、第4バッグ133dを総称して、エアバッグ133のバッグともいう。
【0049】
(補助ボード153)
補助ボード153は、エアバッグ133の上部に設けられた板状の部材であり、エアバッグ133の展開時に足裏を支えるための補助部材である。
また、補助ボード153は、車両1の前後方向に複数に分離されており、第1バッグ133a、第2バッグ133b、第3バッグ133c、第4バッグ133dにそれぞれ対応するように、第1ボード153a、第2ボード153b、第3ボード153c、第4ボード153dを有している。
【0050】
補助ボード153の第1ボード153a、第2ボード153b、第3ボード153c、第4ボード153dは、エアバッグ133の第1バッグ133a、第2バッグ133b、第3バッグ133c、第4バッグ133dの上部に、それぞれ設けられている。また、第1ボード153a、第2ボード153b、第3ボード153c、第4ボード153dは、車両1の後方側にそれぞれ回転軸を有し、この回転軸を中心に回転することができるようになっている。
【0051】
したがって、第1バッグ133a、第2バッグ133b、第3バッグ133c、第4バッグ133dが展開すると、それぞれ第1ボード153a、第2ボード153b、第3ボード153c、第4ボード153dが回動し、各補助ボード153の車両1の前方側が、上方に立ち上がるようになっている。
また、以下では、第1ボード153a、第2ボード153b、第3ボード153c、第4ボード153dを総称して、補助ボード153のボードともいう。
【0052】
なお、本実施の形態では、補助ボード153のボードは、エアバッグ133のバッグに、それぞれ対となるように設けたが、対とはならないように設けてもよい。
また、上記実施の形態と同様に、エアバッグ133のバッグおよび補助ボード153のボードのそれぞれに対して対応するように、図示しない圧力センサが設けられている。
【0053】
(ECU203)
ECU203は、上記実施の形態のECU201、ECU202と同様機能を有している。また、ECU203は、上記に加え、補助ボード153の制御も行うことができるようになっていてもよい。
【0054】
(乗員保護装置33の動作)
以下、乗員Pが、エアバッグ133の第3バッグ133cの上に踵を載せて、車両1を走行させている場合を例に、説明する。
乗員保護装置33は、ECU203が車両1の衝突予測を行うと、上体エアバッグ装置、インフレータ123を作動させる。
【0055】
具体的には、ECU203は、衝突予測を行うと、上記実施の形態と同様に、上体インフレータに作動信号を出力する。上体インフレータは、作動信号が入力されると、ガスを発生させ、上体エアバッグ袋体にガスを供給する。これにより、上体エアバッグ袋体が膨張し、乗員Pの前面に展開される。
【0056】
また、ECU203は、車両1の衝突予測を行うと、圧力センサの検知信号に基づいて、乗員Pの踵の位置を検出する。ここでは、ECU203は、乗員Pの踵の位置が、エアバッグ133の第3バッグ133cの上であると検出する。ECU203は、乗員Pの踵の位置が、エアバッグ133の第3バッグ133cの上であると検出すると、インフレータ123に、エアバッグ133の第1バッグ133aと第2バッグ133bとを展開させる作動信号を出力する。
【0057】
インフレータ123は、このECU203から入力した作動信号により、ガスを発生させ、発生させたガスを、エアバッグ133の第1バッグ133aと第2バッグ133bとに供給する。
これにより、エアバッグ133の第1バッグ133aと第2バッグ133bとが膨張展開する。
【0058】
また、補助ボード153は、エアバッグ133の第1バッグ133aと第2バッグ133bとが膨張展開することにより、補助ボード153の第1ボード153aと第2ボード153bとの軸が回転され、補助ボード153の第1ボード153aおよび第2ボード153bの車両1の前方側が立ち上がる。
これにより、第1ボード153aおよび第2ボード153bが、乗員P側に向くこととなる。
【0059】
また、第1バッグ133aおよび第2バッグ133bの上部には、それぞれ第1ボード153aおよび第2ボード153bが存在することとなり、乗員Pが脚を踏ん張る際に、第1バッグ133aおよび第2バッグ133bから十分な反力を得ることができることとなる。また、乗員Pの足裏が第2ボード153bに載ることとなるので、第2バッグ133bで足裏を支えるよりも、支えやすくすることができる。したがって、車両1の衝突に対して、乗員Pが身を守り易くなり、乗員保護に役立つことができる。
なお、本実施の形態においても、乗員Pの踵位置に当たる、第3ボード153cおよび第3バッグ133cを上昇させるようにしてもよい。
【0060】
(衝突予測時と衝突検知時とで異なる動作)
次に、衝突予測時と衝突検知時とで異なる動作をさせる場合について、説明する。
ここでは、乗員保護装置の構成は、上記実施の形態の乗員保護装置33を用いて、説明する。なお、乗員保護装置31および乗員保護装置32の構成を用いても、同様の動作を行うことができる。
【0061】
乗員保護装置33は、ECU203が車両1の「衝突検知」を行うと、上体エアバッグ装置、インフレータ123を(高速で)作動させる。また、乗員保護装置33は、ECU203が車両1の「衝突予測」を行った場合にも、上体エアバッグ装置、インフレータ123を作動させる。ただし、乗員保護装置33は、「衝突予測」を行った場合には、インフレータ123に対して、「衝突検知」を行った場合よりも、低速で作動する作動信号を出力する。また、上体エアバッグ装置に対しては、衝突までの予測時間に応じて、作動信号の出力タイミングを図ってもよい。
【0062】
例えば、ECU202は、車両1の「衝突予測」を行うと、乗員Pの踵の位置を検出し、この踵の位置よりも前のエアバッグ133のバッグを展開させる作動信号をインフレータ123に出力するが、インフレータ123のガスが、作動させるエアバッグ133のバッグに対して、少量ずつ、断続的に供給されるようにする。
【0063】
これにより、エアバッグ133のバッグが、ゆっくりと立ち上がることとなり、踵よりも前の補助ボード153のボードも、ゆっくりと立ち上がることとなる。したがって、乗員Pは、「衝突予測」が行われたことを認識することができ、衝突前にいち早く衝撃に対応する準備を行うことができる。
【0064】
これに対し、乗員保護装置33は、ECU203が車両1の「衝突検知」を行った際には、上体エアバッグ装置およびインフレータ123をすぐに高速(例えば、最大作動速度)で作動させるので、補助ボード153のボードが、瞬時に立ち上がることとなる。したがって、「衝突検知」は、乗員Pに、いち早く衝撃対応姿勢をとらせることができる。
【0065】
なお、「衝突予測」時の作動速度が「ゆっくり」(低速)とは、「衝突検知」の場合の作動速度(高速)よりも遅いという意味を示すもので、一般的な遅さではなく、ある程度速いスピードで行われる。また、「衝突検知」時の高速とは、特別な速さではなく、一般的なインフレータや、エアバッグにおける通常の速度である。
また、本実施の形態においても、乗員Pの踵位置に当たる、第3バッグ133cを上昇させて、第3ボード153cを上昇させるようにしてもよい。
【0066】
以上のように、本実施の形態における乗員保護装置は、乗員の踵位置よりも前方にエアバッグを展開させるので、車両の衝突に対して、乗員が身を守り易くなり、乗員保護を行うことができる。
【符号の説明】
【0067】
1 車両、3 フロアマット、4 ルーフ、5 フロアパネル、10 座席シート、11 シートクッション、12 シートバッグ、13 ヘッドレスト、20 ダッシュボード、31、32、33、34 乗員保護装置、40 車載カメラ、50 上体エアバッグ装置、51 上体エアバッグ袋体、121、122、123 インフレータ、131、132、133 エアバッグ、131a、132a、133a 第1バッグ、131b、132b、133b 第2バッグ、131c、132c、133c 第3バッグ、131d、132d、133d 第4バッグ、153 補助ボード、153a 第1ボード、153b 第2ボード、153c 第3ボード、153d 第4ボード、201、202、203 車両制御装置(ECU)