(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】摩擦係合装置
(51)【国際特許分類】
F16D 25/12 20060101AFI20220825BHJP
F16D 25/063 20060101ALI20220825BHJP
F16D 13/64 20060101ALI20220825BHJP
F16D 13/74 20060101ALI20220825BHJP
F16D 55/40 20060101ALI20220825BHJP
F16D 65/12 20060101ALI20220825BHJP
F16D 69/00 20060101ALI20220825BHJP
【FI】
F16D25/12 C
F16D25/063 Z
F16D13/64 Z
F16D13/74 A
F16D55/40 F
F16D65/12 H
F16D65/12 S
F16D69/00 G
(21)【出願番号】P 2018186612
(22)【出願日】2018-10-01
【審査請求日】2021-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】特許業務法人青海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 健志
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】実開昭63-86430(JP,U)
【文献】実開平4-132225(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 13/00
F16D 25/00
F16D 55/00
F16D 65/00
F16D 69/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルが供給される油圧室と、
第1摩擦プレートと、
前記第1摩擦プレートに対向して設けられる第2摩擦プレートと、
前記油圧室にオイルが供給されることによって、前記第1摩擦プレートと前記第2摩擦プレートが近接する係合方向へ移動し、前記油圧室からオイルが排出されることによって、前記第1摩擦プレートと前記第2摩擦プレートが離間する解放方向へ移動するピストン部材と、
前記油圧室に開口する第1開口部と、前記第1摩擦プレートおよび前記第2摩擦プレートの少なくとも一方に対向して開口する第2開口部とを連通する第1油路と、
を備え
、
前記第1摩擦プレートは、
前記第1摩擦プレートの外周面に設けられ、前記第2開口部に対向するように開口する第3開口部と、前記第1摩擦プレートと前記第2摩擦プレートとの接触面において開口する第4開口部と、前記第3開口部と前記第4開口部とを連通する第2油路を備える摩擦係合装置。
【請求項2】
前記第1摩擦プレートおよび第2摩擦プレートを複数備え、
前記複数の第1摩擦プレートおよび前記複数の第2摩擦プレートは交互に配される請求項1に記載の摩擦係合装置。
【請求項3】
前記第1開口部は、
前記ピストン部材が所定位置よりも係合方向側に位置している場合に前記油圧室と連通し、前記ピストン部材が所定位置よりも解放方向側に位置している場合に前記ピストン部材によって前記油圧室と遮断される位置に設けられる請求項1または2に記載の摩擦係合装置。
【請求項4】
前記第1油路における所定区間の断面積を絞るオリフィス部を備える請求項1から3のいずれか一項に記載の摩擦係合装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に用いられる摩擦係合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、摩擦係合装置において、駆動側の摩擦プレートと従動側の摩擦プレートとの間にオイルを介在させた状態で両摩擦プレートを係合させて動力の伝達を行う湿式多板クラッチが知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、所謂、ジャダー(車両動揺)の発生を低減させるために、摩擦プレートの摺接面に溝を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の摩擦係合装置においては、摩擦プレート同士が係合する際に、摩擦プレートの油膜切れに起因するジャダーが発生する場合があった。
【0006】
本発明は、摩擦プレートにおける油膜切れを抑制することができる摩擦係合装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の摩擦係合装置は、オイルが供給される油圧室と、第1摩擦プレートと、第1摩擦プレートに対向して設けられる第2摩擦プレートと、油圧室にオイルが供給されることによって、第1摩擦プレートと第2摩擦プレートが近接する係合方向へ移動し、油圧室からオイルが排出されることによって、第1摩擦プレートと第2摩擦プレートが離間する解放方向へ移動するピストン部材と、油圧室に開口する第1開口部と、第1摩擦プレートおよび第2摩擦プレートの少なくとも一方に対向して開口する第2開口部とを連通する第1油路と、を備え、第1摩擦プレートは、第1摩擦プレートの外周面に設けられ、第2開口部に対向するように開口する第3開口部と、第1摩擦プレートと第2摩擦プレートとの接触面において開口する第4開口部と、第3開口部と第4開口部とを連通する第2油路を備える。
【0008】
また、第1摩擦プレートおよび第2摩擦プレートを複数備え、複数の第1摩擦プレートおよび複数の第2摩擦プレートは交互に配されてもよい。
【0009】
また、第1開口部は、ピストン部材が所定位置よりも係合方向側に位置している場合に油圧室と連通し、ピストン部材が所定位置よりも解放方向側に位置している場合にピストン部材によって油圧室と遮断される位置に設けられてもよい。
【0010】
また、第1油路における所定区間の断面積を絞るオリフィス部を備えてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、摩擦プレートにおける油膜切れを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図3】後進ブレーキにおける第1摩擦プレートおよび第2摩擦プレートの解放状態を示した概略図である。
【
図4】後進ブレーキにおける第1摩擦プレートおよび第2摩擦プレートの係合状態を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0015】
図1は、車両1の駆動系の構成を示す図である。
図1に示すように、車両1は、駆動源としてエンジン2を備える。エンジン2は、燃焼室における爆発圧力によりピストンを往復動させる。ピストンにはクランクシャフト2aが連結されている。ピストンの往復運動がクランクシャフト2aの回転運動に変換される。
【0016】
クランクシャフト2aには、トルクコンバータ3が接続される。トルクコンバータ3は、フロントカバー3a、ポンプインペラ3b、タービンランナ3c、タービンシャフト3dおよびステータ3eを備える。フロントカバー3aは、クランクシャフト2aに接続される。フロントカバー3aの内部には、作動流体が封入される。ポンプインペラ3bは、フロントカバー3aに固定される。タービンランナ3cは、フロントカバー3a内において、ポンプインペラ3bに対向配置される。タービンランナ3cには、タービンシャフト3dが接続される。ステータ3eは、ポンプインペラ3bおよびタービンランナ3cの間の内周側に配置される。
【0017】
ポンプインペラ3bおよびタービンランナ3cは、それぞれ多数のブレードを備える。ポンプインペラ3bが回転すると、作動流体がタービンランナ3cに送出され、タービンランナ3cが回転する。これにより、クランクシャフト2aからタービンランナ3cに動力が伝達される。つまり、エンジン2の動力がタービンシャフト3dに伝達される。
【0018】
ステータ3eは、タービンランナ3cから送出された作動流体の流動方向を変化させてポンプインペラ3bに還流させる。これにより、ポンプインペラ3bの回転が促進され、トルクコンバータ3の伝達動力が増幅される。
【0019】
タービンシャフト3dには、前後進切換機構4が接続される。前後進切換機構4は、ダブルピニオン式の遊星歯車20、前進クラッチ40および後進ブレーキ(摩擦係合装置)50を備える。前後進切換機構4は、前進クラッチ40および後進ブレーキ50の係合状態および解放状態が切り換えられることにより、プライマリ軸5の回転方向を切り換える。なお、前後進切換機構4の詳細は後述する。
【0020】
プライマリ軸5には、無段変速機6が接続される。無段変速機6は、プライマリプーリ7、セカンダリプーリ8、ベルト9を含む構成とされる。プライマリプーリ7は、プライマリ軸5に接続される。セカンダリプーリ8は、プライマリ軸5に対して平行に配置された平行軸11に接続される。ベルト9は、例えばリンクプレートをローカーピン10で連結したチェーンベルトで構成される。ベルト9は、プライマリプーリ7とセカンダリプーリ8との間に張架され、プライマリプーリ7とセカンダリプーリ8との間で動力を伝達する。
【0021】
プライマリプーリ7は、一対のシーブ7a、7bで構成される。一対のシーブ7a、7bは、プライマリ軸5の軸方向に対向して設けられる。また、一対のシーブ7a、7b双方の対向面が、略円錐形状のコーン面7cとなっており、このコーン面7cによってベルト9が張架される溝が形成されている。
【0022】
同様に、セカンダリプーリ8は、一対のシーブ8a、8bで構成される。一対のシーブ8a、8bは、平行軸11の軸方向に対向して設けられる。また、一対のシーブ8a、8b双方の対向面が、略円錐形状のコーン面8cとなっており、このコーン面8cによってベルト9が張架される溝が形成される。
【0023】
そして、プライマリプーリ7のシーブ7bは、油圧により、プライマリ軸5の軸方向の位置が変化する。また、セカンダリプーリ8のシーブ8aは、油圧により、平行軸11の軸方向の位置が変化する。
【0024】
このように、プライマリプーリ7、セカンダリプーリ8は、一対のシーブ7a、7b、一対のシーブ8a、8bそれぞれの対向間隔が可変である。そのため、コーン面7c、8cの対向間隔が変わり、ベルト9が張架される位置が変わる。例えば、コーン面7cの対向間隔が広くなると、プライマリプーリ7においてベルト9が張架される溝の幅が広くなる。その結果、コーン面7cのうち、ベルト9の張架される位置が内径側となり、ベルト9の巻き掛け径が小さくなる。一方、コーン面7cの対向間隔が狭くなると、プライマリプーリ7においてベルト9が張架される溝の幅が狭くなる。その結果、コーン面7cのうち、ベルト9の張架される位置が外径側となり、巻き掛け径が大きくなる。こうして、無段変速機6は、プライマリ軸5と平行軸11との間の伝達動力を無段変速する。
【0025】
平行軸11は、ギヤ機構12を介して出力軸13に接続される。出力軸13は、車輪14に接続され、ギヤ機構12を介して伝達された動力を車輪14に出力する。なお、出力軸13には、出力軸13の回転を規制するためのパーキングギヤ15が設けられる。
【0026】
図2は、前後進切換機構4の断面図である。
図2に示すように、前後進切換機構4の遊星歯車20(
図1参照)は、サンギヤ21、第1ピニオンギヤ22a、第2ピニオンギヤ22b、ピニオンシャフト23、リングギヤ24およびキャリア25を備える。サンギヤ21は、タービンシャフト3dに接続され、タービンシャフト3dと一体的に回転する。第1ピニオンギヤ22aおよび第2ピニオンギヤ22bは、ピニオンシャフト23に回転可能に支持される。
【0027】
第1ピニオンギヤ22aは、サンギヤ21の回転方向に互いに離隔して複数設けられる。第2ピニオンギヤ22bは、第1ピニオンギヤ22aと同様、サンギヤ21の回転方向に互いに離隔して複数設けられる。第1ピニオンギヤ22aおよび第2ピニオンギヤ22bは、サンギヤ21の回転方向に交互に配される。サンギヤ21は、第1ピニオンギヤ22aに噛合する。第2ピニオンギヤ22bは、リングギヤ24に噛合する。1つの第1ピニオンギヤ22aと、1つの第2ピニオンギヤ22bとが互いに噛合している。
【0028】
ピニオンシャフト23の両端は、キャリア25に支持されている。キャリア25は、プライマリ軸5に接続され、プライマリ軸5と一体的に回転する。プライマリ軸5は、タービンシャフト3dと同軸上に配置される。
【0029】
タービンシャフト3dには、クラッチドラム26が連結される。タービンシャフト3dとクラッチドラム26とが一体回転する。クラッチドラム26の内周面、および、キャリア25の外周面の間には、前進クラッチ40が介在される。前進クラッチ40は、摩擦プレート41、42、ピストン部材43、係止部材44およびバネ45を備える。摩擦プレート41は、タービンシャフト3dの軸方向(以下では、単に軸方向と呼ぶ)に沿って複数離隔して設けられる。摩擦プレート41は、軸方向に沿って移動可能にクラッチドラム26の内周面に設けられる。
【0030】
摩擦プレート42は、軸方向に沿って、複数離隔して設けられる。摩擦プレート42は、キャリア25の外周面に、摩擦プレート41と対向するように設けられる。
【0031】
ピストン部材43は、軸方向に沿って移動可能に、クラッチドラム26の内周面側に配置される。係止部材44は、ピストン部材43に対向するように、クラッチドラム26の内周面側に固定される。ピストン部材43と係止部材44との間には、バネ45が介在される。
【0032】
クラッチドラム26の内周面と、ピストン部材43とに挟まれた空間は、FWD油圧室46として形成される。FWD油圧室46には、不図示のオイルポンプから油圧制御弁を介してオイル(作動油)が供給される。
【0033】
前進クラッチ40は、FWD油圧室46にオイルが供給されていないときに解放状態となる。解放状態では、バネ45の弾性力により、ピストン部材43が摩擦プレート41から離隔している。このとき、前進クラッチ40では、摩擦プレート41と摩擦プレート42とが離隔し、動力伝達が遮断される。
【0034】
一方、前進クラッチ40は、FWD油圧室46にオイルが供給されたときに係合状態となる。FWD油圧室46にオイルが供給されると、ピストン部材43は、供給されたオイルの油圧によって、バネ45の弾性力に抗して摩擦プレート41側に移動される。前進クラッチ40では、摩擦プレート41が摩擦プレート42側に移動すると、摩擦プレート41、42が接触する。これにより、クラッチドラム26とキャリア25とが一体的に回転する。キャリア25が回転すると、プライマリ軸5が回転する。
【0035】
また、リングギヤ24およびケーシング27の間には、後進ブレーキ50が介在される。後進ブレーキ50は、第1摩擦プレート51、第2摩擦プレート52、ピストン部材53、係止部材54、バネ55、および第1油路60を備える。第1摩擦プレート51は、軸方向に沿って複数離隔して設けられる。第1摩擦プレート51は、軸方向に沿って移動可能にケーシング27の内周面に設けられる。第2摩擦プレート52は、軸方向に沿って、複数離隔して設けられる。第2摩擦プレート52は、リングギヤ24の外周面に、第1摩擦プレート51と対向するように設けられる。複数の第1摩擦プレート51および複数の第2摩擦プレート52は交互に配される。
【0036】
ピストン部材53は、軸方向に沿って移動可能に、ケーシング27の内周面側に配置される。係止部材54は、ピストン部材53に対向するように、ケーシング27の内周面側に固定される。ピストン部材53と係止部材54との間には、バネ55が介在される。
【0037】
ケーシング27の内周面と、ピストン部材53とに挟まれた空間は、REB油圧室56として形成される。REB油圧室56には、不図示のオイルポンプから油圧制御弁を介してオイル(作動油)が供給される。
【0038】
後進ブレーキ50は、REB油圧室56に作動油が供給されていないときに解放状態となる。解放状態では、バネ55の弾性力により、ピストン部材53が第1摩擦プレート51から離隔している。このとき、後進ブレーキ50では、第1摩擦プレート51と第2摩擦プレート52とが離隔する。これにより、リングギヤ24は回転自在となる。
【0039】
一方、後進ブレーキ50は、REB油圧室56に作動油が供給されたときに係合状態となる。REB油圧室56に作動油が供給されると、バネ55の弾性力に抗してピストン部材53が第1摩擦プレート51側に移動される。後進ブレーキ50では、第1摩擦プレート51が第2摩擦プレート52側に移動すると、第1摩擦プレート51、第2摩擦プレート52が接触する。これにより、リングギヤ24は回転不能となる。
【0040】
車両1には、不図示のシフトレバーが設けられている。シフトレバーは、パーキングレンジ、ドライブレンジ、ニュートラルレンジ、リバースレンジの4つのシフトポジションに切換可能である。シフトレバーがドライブレンジに保持された状態では、FWD油圧室46にオイルが供給され、REB油圧室56からオイルが排出される。したがって、シフトポジションがドライブレンジである場合には、前進クラッチ40が係合状態となり、後進ブレーキ50が解放状態になる。このとき、タービンシャフト3d、サンギヤ21、クラッチドラム26、キャリア25およびプライマリ軸5が同一方向に一体回転する。
【0041】
また、シフトレバーがリバースレンジに保持された状態では、REB油圧室56にオイルが供給され、FWD油圧室46からオイルが排出される。したがって、シフトポジションがリバースレンジである場合には、後進ブレーキ50が係合状態となり、前進クラッチ40が解放状態になる。このとき、第1ピニオンギヤ22aがサンギヤ21と逆方向に回転する。また、第2ピニオンギヤ22bが、第1ピニオンギヤ22aと逆方向、すなわち、サンギヤ21と同一方向に回転する。
【0042】
ただし、後進ブレーキ50が係合状態にあるため、リングギヤ24の回転が規制されている。そのため、第2ピニオンギヤ22bは、リングギヤ24からの反力により、サンギヤ21の回転方向と逆方向に公転する。これにより、プライマリ軸5が、タービンシャフト3dと逆方向に回転する。このように、前後進切換機構4は、前進クラッチ40および後進ブレーキ50を係合状態また解放状態に切り換えることにより、プライマリ軸5の回転方向を切り換える。
【0043】
ところで、従来、後進ブレーキ50が解放状態から係合状態へと切り換わる際、すなわち、第1摩擦プレート51および第2摩擦プレート52が解放状態から係合状態へと切り換わる際に、第1摩擦プレート51と第2摩擦プレート52との間の油膜切れに起因するジャダーが発生する場合があった。ジャダーの発生は運転者に違和感や不快感を与えるおそれがあるため、ジャダーの発生を抑制する必要がある。そこで、本実施形態では、摩擦プレートにおける油膜切れを抑制することを目的とする。
【0044】
図3は、後進ブレーキ50における第1摩擦プレート51および第2摩擦プレート52の解放状態を示した概略図である。第1摩擦プレート51および第2摩擦プレート52は、REB油圧室56にオイルが供給されていないときに解放状態となる。
【0045】
第1摩擦プレート51および第2摩擦プレート52の解放状態では、バネ55の弾性力により、ピストン部材53が第1摩擦プレート51から離間する解放方向側(
図3中右側)へ位置している。このとき、第1摩擦プレート51と第2摩擦プレート52とが離隔する。これにより、リングギヤ24は回転自在となる。
【0046】
第1油路60は、ケーシング27の直上部に形成されている。第1油路60は、REB油圧室56に開口する第1開口部62と、第1摩擦プレート51および第2摩擦プレート52の少なくとも一方に対向して開口する第2開口部64とを連通する。ここでは、4つの第2開口部64が設けられている。
【0047】
また、第1油路60は、第1油路60における断面積を絞るオリフィス部66を備える。オリフィス部66では、第1開口部62の断面積よりも、4つの第2開口部64の合計の断面積が小さくなるように、第1油路60を縮径している。オリフィス部66によって、REB油圧室56内のオイルの圧力が大きく低下することを抑制することが可能となる。
【0048】
なお、本実施形態では、4つの第2開口部64に対してそれぞれにオリフィス部66が設けられる場合を示したが、例えば、第1油路60の途中に共通のオリフィス部を設けてもよい。すなわち、オリフィス部66は、第1油路60における所定区間の断面積を絞ることができればよい。
【0049】
また、第1摩擦プレート51は、第2開口部64に対向するように開口する第3開口部51aが外周面に形成されている。第3開口部51aは、外周面における直上部に設けられている。
【0050】
また、第1摩擦プレート51は、第1摩擦プレート51と第2摩擦プレート52との接触面において開口する第4開口部51bと、第3開口部51aと第4開口部51bとを連通する第2油路51cを備える。
図3に示すように、1つの第3開口部51aに対応して、2つの第4開口部51bが設けられている。第4開口部51bは、第2摩擦プレート52の表面側および裏面側において対応する位置に設けられている。
【0051】
また、第2摩擦プレート52における第1摩擦プレート51との接触面には、摩擦材52aが貼付されている。また、第4開口部51bは、摩擦材52aの径方向略中央部に位置する。これにより、第4開口部51bを介して摩擦材52aへと供給されるオイルを、摩擦材52a全体へ効率よく行き渡らせることが可能となる。
【0052】
第1開口部62は、第1摩擦プレート51および第2摩擦プレート52の解放状態において、ピストン部材53によって覆われる位置に設けられている。すなわち、第1摩擦プレート51および第2摩擦プレート52の解放状態においては、第1開口部62はピストン部材53によってREB油圧室56と遮断されるため、REB油圧室56内から第1開口部62へオイルは導入されない。
【0053】
図4は、後進ブレーキ50における第1摩擦プレート51および第2摩擦プレート52の係合状態を示した概略図である。第1摩擦プレート51および第2摩擦プレート52は、REB油圧室56にオイルが供給されたときに係合状態となる。
【0054】
REB油圧室56にオイルが供給されると、バネ55の弾性力に抗してピストン部材53が第1摩擦プレート51に近接する係合方向側(
図4中左側)に移動される。このとき、第1摩擦プレート51が第2摩擦プレート52側に移動すると、第1摩擦プレート51と第2摩擦プレート52とが接触した後、第1摩擦プレート51と第2摩擦プレート52とが係合して係合状態となる。これにより、リングギヤ24は回転不能となる。
【0055】
第1油路60の第1開口部62は、ピストン部材53が所定位置よりも係合方向側に位置している場合にREB油圧室56と連通し、ピストン部材53が所定位置よりも解放方向側に位置している場合にピストン部材53によってREB油圧室56と遮断される位置に設けられる。
【0056】
本実施形態では、上記の所定位置として、第1摩擦プレート51および第2摩擦プレート52の接触が開始される際のピストン部材53の位置が設定されている。したがって、第1摩擦プレート51および第2摩擦プレート52の接触が開始すると、ピストン部材53による第1開口部62の遮蔽が解除され、第1油路60とREB油圧室56とが連通する。これにより、REB油圧室56内のオイルが第1開口部62へ導入される。
【0057】
第1開口部62へ導入されたオイルは、第1油路60を経由して、第2開口部64から排出される。第2開口部64から排出されたオイルは、第1摩擦プレート51および第2摩擦プレート52の表面へと供給される。このようにして第2開口部64を介して第1摩擦プレート51および第2摩擦プレート52の表面へと供給されたオイルは、第1摩擦プレート51と第2摩擦プレート52との接触面を潤滑する。
【0058】
また、本実施形態においては、第2開口部64から排出されたオイルの一部が、第3開口部51aを介して第2油路51c内へと導入される。そして、第2油路51c内へと導入されたオイルは、第4開口部51bから排出される。第1摩擦プレート51および第2摩擦プレート52の接触開始から係合の間においては、第1摩擦プレート51および第2摩擦プレート52が接触しているため、第4開口部51bから排出されたオイルは、第2摩擦プレート52の摩擦材52aへと供給されることとなる。
【0059】
このように、第1摩擦プレート51および第2摩擦プレート52の接触開始以降に、REB油圧室56内のオイルが第1開口部62へ導入される。そのため、第1摩擦プレート51と第2摩擦プレート52との接触が開始するよりも前において、ピストン部材53を移動させるためのオイルの圧力が大きく低下することを抑制することが可能となる。なお、第1開口部62へのオイルの導入の前後で、REB油圧室56内におけるオイルの圧力が大きく低下しないように、REB油圧室56内に供給するオイルの圧力を増加させてもよい。
【0060】
また、第1摩擦プレート51および第2摩擦プレート52の接触が開始すると、第1摩擦プレート51および第2摩擦プレート52の接触面にオイルが供給されることとなるため、第1摩擦プレート51または第2摩擦プレート52における油膜切れを抑制することが可能となる。
【0061】
以上、添付図面を参照しながら本発明の一実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0062】
上記実施形態では、摩擦係合装置として、前後進切換機構4における後進ブレーキ50を挙げて説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、前後進切換機構4における前進クラッチ40に本発明を適用してもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、第1油路60が、ケーシング27の直上部に設けられる場合を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、第1油路60を、ケーシング27の周方向に沿って、第1摩擦プレート51または第2摩擦プレート52を取り囲むように、等間隔に複数設けてもよい。この場合、複数の第1油路60の第2開口部64のそれぞれに対向するように、第1摩擦プレート51の第3開口部51aも等間隔に複数設けてもよい。
【0064】
また、上記実施形態では、所定位置として、第1摩擦プレート51および第2摩擦プレート52の接触が開始される際にピストン部材53の位置が設定される場合を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、第1摩擦プレート51および第2摩擦プレート52の接触が開始される際のピストン部材53の位置と、第1摩擦プレート51および第2摩擦プレート52の係合状態におけるピストン部材53の位置との中間に所定位置を設定してもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、第1摩擦プレート51に第2油路51cを設ける場合を示したが、第1摩擦プレート51に第2油路51cを設ける構成は必須ではない。すなわち、第1摩擦プレート51および第2摩擦プレート52の少なくとも一方に対向して設けられた第2開口部64から供給されたオイルによって、第1摩擦プレート51および第2摩擦プレート52の接触面を潤滑することができればよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、車両に用いられる摩擦係合装置に関する。
【符号の説明】
【0067】
50 後進ブレーキ(摩擦係合装置)
51 第1摩擦プレート
51a 第3開口部
51b 第4開口部
51c 第2油路
52 第2摩擦プレート
53 ピストン部材
56 REB油圧室(油圧室)
60 第1油路
62 第1開口部
64 第2開口部
66 オリフィス部