(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】偏心揺動型減速装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20220825BHJP
F16H 57/04 20100101ALI20220825BHJP
【FI】
F16H1/32 A
F16H57/04 J
(21)【出願番号】P 2018192349
(22)【出願日】2018-10-11
【審査請求日】2021-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】田村 光拡
(72)【発明者】
【氏名】淡島 裕樹
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-022829(JP,A)
【文献】特開平05-172194(JP,A)
【文献】特開2005-226827(JP,A)
【文献】実開昭58-049049(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと一体化された内歯歯車と、
前記内歯歯車に噛み合う外歯歯車と、
前記外歯歯車の軸方向一方側に配置された第1キャリヤと、
前記ケーシングと前記第1キャリヤの間に配置された第1主軸受と、を備えた偏心揺動型減速装置であって、
前記内歯歯車は、ピン溝が設けられた内歯歯車本体と、前記ピン溝に配置され、内歯を構成するピン部材とを有し、
前記第1主軸受と前記外歯歯車との間に配置され、前記ピン部材の脱落を防止する第1脱落防止部材を更に備え、
前記第1主軸受と前記第1脱落防止部材との間には、前記内歯歯車本体と前記第1脱落防止部材との間の隙間空間と前記第1主軸受の内部空間とを連通する径方向隙間が設けられ
、
前記第1脱落防止部材は、前記第1主軸受の外輪及び内輪とは別部材であり、前記第1主軸受の内輪と軸方向に対向して配置されるとともに、前記第1主軸受の外輪との間に前記径方向隙間を設ける偏心揺動型減速装置。
【請求項2】
前記第1脱落防止部材は、径方向において、前記第1キャリヤと前記ピン部材との間に配置され、
前記第1脱落防止部材と前記第1キャリヤとの間には径方向隙間が設けられ、
前記第1脱落防止部材と前記第1キャリヤとの間の径方向隙間は、前記ピン溝又は前記第1脱落防止部材と前記ピン部材との間の径方向でのクリアランスよりも大きい請求項1に記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項3】
前記第1脱落防止部材の外周部において前記第1主軸受側にある第1外周縁部は、前記第1主軸受の内輪よりも径方向外側に位置する請求項1または2に記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項4】
前記第1主軸受の前記外輪の内周部において前記第1脱落防止部材側にある第1内周縁部は、前記内歯歯車本体の内周面よりも径方向内側に位置し、
前記径方向隙間は、前記第1脱落防止部材の外周部において前記第1主軸受側にある第1外周縁部と前記第1主軸受の前記外輪の前記第1内周縁部との間に設けられる請求項1から3のいずれかに記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項5】
前記内歯歯車本体は、前記外歯歯車との干渉を回避するための環状溝を備え、
前記環状溝は、潤滑剤を溜める潤滑剤溜まりを構成する請求項1から4のいずれかに記載の偏心揺動型減速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏心揺動型減速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内歯歯車と、内歯歯車と噛み合う外歯歯車と、を備えた偏心揺動型減速装置が提案される。この種の減速装置では、内歯歯車の内歯をピン部材により構成し、そのピン部材の脱落を脱落防止部材により防止することがある(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の構造のもとでは、外歯歯車や脱落防止部材と内歯歯車との間に隙間空間が形成され、その隙間空間が他の空間に対して隔離されている。このような隙間空間に潤滑剤を収めた場合、各歯車の歯面の潤滑に用いられる潤滑剤が少なくなり、潤滑剤の早期の劣化が懸念される。
【0005】
本発明のある態様は、こうした状況に鑑みてなされ、その目的の1つは、潤滑剤の早期の劣化を抑えられる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は偏心揺動型減速装置に関し、ケーシングと一体化された内歯歯車と、前記内歯歯車に噛み合う外歯歯車と、前記外歯歯車の軸方向一方側に配置された第1キャリヤと、前記ケーシングと前記第1キャリヤの間に配置された第1主軸受と、を備えた偏心揺動型減速装置であって、前記内歯歯車は、ピン溝が設けられた内歯歯車本体と、前記ピン溝に配置され、内歯を構成するピン部材とを備え、前記第1主軸受と前記外歯歯車との間に配置され、前記ピン部材の脱落を防止する第1脱落防止部材を更に備え、前記第1主軸受と前記第1脱落防止部材との間には、前記内歯歯車本体と前記第1脱落防止部材との間の隙間空間と前記第1主軸受の内部空間とを連通する径方向隙間が設けられる。
【発明の効果】
【0007】
本発明のある態様によれば、潤滑剤の早期の劣化を抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態の減速装置の側面断面図である。
【
図6】第2実施形態の減速装置の側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態、変形例では、同一の構成要素に同一の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面では、説明の便宜のため、構成要素の一部を適宜省略したり、構成要素の寸法を適宜拡大、縮小して示す。本明細書での「接触」とは、特に明示がない限り、言及している条件を二者が直接的に満たす場合の他に、他の部材を介して満たす場合も含む。
【0010】
(第1の実施の形態)
図1は、第1実施形態の偏心揺動型減速装置10の側面断面図である。減速装置10は、主に、入力軸12と、クランク軸14と、外歯歯車16、18と、内歯歯車20と、キャリヤ22、24と、ケーシング26と、主軸受50、52と、を備える。
【0011】
減速装置10は、外歯歯車16、18の揺動により外歯歯車16、18及び内歯歯車20の一方の自転を生じさせ、その生じた自転成分を出力部材46から被駆動装置に出力可能である。以下、内歯歯車20の中心軸線CL1に沿った方向を「軸方向」といい、その中心軸線CL1を中心とする円の円周方向及び半径方向のそれぞれを「周方向」、「径方向」とする。
【0012】
入力軸12は、駆動装置(不図示)から入力される回転動力によって回転可能である。駆動装置は、たとえば、モータ、ギヤモータ、エンジン等である。駆動装置は、入力軸12より軸方向の片側(
図1の右側。以下、入力側という)に配置される。以下、軸方向の片側とは反対側を反入力側という。
【0013】
クランク軸14は、入力軸12に入力される回転動力によって、自らを通る回転中心線CL2周りに回転可能である。本実施形態のクランク軸14は入力軸12が兼ねている。本実施形態の減速装置10は、クランク軸14の回転中心線CL2が内歯歯車20の中心軸線CL1と同軸線上に設けられるセンタークランクタイプである。
【0014】
クランク軸14は、軸方向に沿って延びる軸部28と、軸部28と一体的に回転可能に設けられる偏心体30と、を備える。偏心体30は、クランク軸14の回転中心線CL2に対して自らの軸芯CL3が偏心しており、外歯歯車16、18を揺動させることが可能である。本実施形態の偏心体30は、クランク軸14の軸部28と別体に構成されるが、その軸部28と同じ部材の一部として構成されてもよい。本実施形態のクランク軸14は複数の偏心体30を備え、複数の偏心体30の偏心方向の位相はずれている。本実施形態では2個の偏心体30が設けられ、隣り合う偏心体30の位相は180°ずれている。
【0015】
外歯歯車16、18は、複数の偏心体30に個別に対応して設けられる。外歯歯車16、18は、偏心軸受32を介して対応する偏心体30に回転自在に支持される。外歯歯車16、18は、反入力側に配置される第1外歯歯車16と、入力側に配置される第2外歯歯車18とを含む。
【0016】
図2は、
図1のA-A断面の一部を示す図である。
図1、
図2に示すように、内歯歯車20は、複数の外歯歯車16、18の径方向外側に設けられ、外歯歯車16、18と噛み合う。内歯歯車20は、筒状の内歯歯車本体34と、内歯歯車本体34の内周部に設けられる内歯36と、を備える。内歯歯車20の内歯数(内歯36の数)は、本実施形態において、外歯歯車16、18の外歯数より一つ多い。内歯歯車20の内歯歯車本体34は、ケーシング26と一体化されている。
【0017】
図3は、
図2の拡大図である。
図1、
図3に示すように、本実施形態の内歯歯車本体34の内周部には複数のピン溝38が設けられる。複数のピン溝38は周方向に間隔を空けて形成される。本実施形態の内歯36は複数のピン溝38に個別に対応して設けられ、その対応するピン溝38に回転自在に支持される第1ピン部材40が構成する。本実施形態の第1ピン部材40は円柱状をなす。ピン溝38は第1ピン部材40を嵌め込み可能な断面形状、詳しくは、円弧状の断面形状である。
【0018】
図1に戻る。キャリヤ22、24は、外歯歯車16、18の反入力側に配置される反入力側キャリヤ22(第1キャリヤ)と、外歯歯車16、18の入力側に配置される入力側キャリヤ24(第2キャリヤ)とを含む。キャリヤ22、24は円盤状をなし、入力軸軸受44を介して入力軸12を回転自在に支持する。
【0019】
ケーシング26は、全体として筒状をなし、その内側には外歯歯車16、18が配置される。
【0020】
被駆動装置に回転動力を出力する部材を出力部材46とし、減速装置10を支持するための外部部材に固定される部材を被固定部材48という。本実施形態の出力部材46は反入力側キャリヤ22であり、被固定部材48はケーシング26である。出力部材46は、被固定部材48に主軸受50、52を介して回転自在に支持される。
【0021】
図4は、
図1の拡大図である。主軸受50、52には、ケーシング26と反入力側キャリヤ22の間に配置された第1主軸受50と、ケーシング26と入力側キャリヤ24の間に配置された第2主軸受52とが含まれる。
【0022】
主軸受50、52は転がり軸受である。主軸受50、52は、複数の転動体54と、転動体54が転動する外輪56と、転動体54が転動する内輪58と、を備える。複数の転動体54は周方向に間を置いて設けられる。本実施形態の転動体54は球体であるが、ころ等でもよい。複数の転動体54は、不図示のリテーナにより回転自在に支持され、それらの相対位置が保持される。本実施形態の外輪56は、ケーシング26とは別体に設けられるが、ケーシング26が外輪56を兼ねていてもよい。本実施形態の内輪58は、キャリヤ22、24とは別体に設けられるが、キャリヤ22、24が内輪58を兼ねていてもよい。
【0023】
減速装置10は、キャリヤ22、24に支持される複数の第2ピン部材60を備える。第2ピン部材60は、各外歯歯車16、18に形成される挿通孔62に挿通される。第2ピン部材60は、各キャリヤ22、24とは別部材が構成しているが、いずれかのキャリヤ22、24の一部と同じ部材が構成してもよい。第2ピン部材60には、外歯歯車16、18の自転成分を受けて外歯歯車16、18と一体的に回転(公転)する、または、その自転を拘束する内ピン64が含まれる。本実施形態のように反入力側キャリヤ22が出力部材46となる場合、内ピン64は公転し、反入力側キャリヤ22が被固定部材48となる場合、内ピン64は外歯歯車16、18の自転を拘束する。
【0024】
以上の減速装置10の動作を説明する。駆動装置から入力軸12に回転動力が伝達されると、クランク軸14が回転中心線CL2周りに回転し、その偏心体30により外歯歯車16、18が揺動する。このとき、外歯歯車16、18は、自らの軸芯CL3が回転中心線CL2周りを回転するように揺動する。外歯歯車16、18が揺動すると、外歯歯車16、18と内歯歯車20の噛合位置が順次に周方向にずれる。この結果、クランク軸14が一回転する毎に、外歯歯車16、18と内歯歯車20との歯数差に相当する分、外歯歯車16、18及び内歯歯車20の一方の自転が発生する。
【0025】
本実施形態のように、反入力側キャリヤ22が出力部材46となり、ケーシング26が被固定部材48となる場合、外歯歯車16、18の自転が発生する。一方、ケーシング26が出力部材46となり、キャリヤ22、24が被固定部材48となる場合、内歯歯車20の自転が発生する。出力部材46は、外歯歯車16、18又は内歯歯車20の自転成分と同期して回転することで、その自転成分を被駆動装置に出力する。このとき、入力軸12の回転は、外歯歯車16、18と内歯歯車20の歯数差に応じた減速比で減速されたうえで被駆動装置に出力される。
【0026】
ここで、減速装置10は、脱落防止部材66、68、70を備える。脱落防止部材66、68、70には、外歯歯車16と第1主軸受50との間に配置される第1脱落防止部材66と、外歯歯車18と第2主軸受52との間に配置される第2脱落防止部材68と、複数の外歯歯車16、18の間に配置される第3脱落防止部材70とが含まれる。
【0027】
図5は、
図1のB-B断面の一部を示す図である。
図2、
図4、
図5に示すように、各脱落防止部材66、68、70はリング状をなす。各脱落防止部材66、68、70は、複数の第1ピン部材40に径方向内側から接触可能な位置に配置され、それらとの接触によりピン溝38からの第1ピン部材40の脱落を防止する。第1ピン部材40は、外歯歯車16、18と噛み合うことで撓み変形しようとする。複数の脱落防止部材66、68、70を用いることで、このような第1ピン部材40の撓み変形を効果的に抑えられる。
【0028】
第1脱落防止部材66は、第1ピン部材40の反入力側(軸方向一方側)の一端部と反入力側キャリヤ22(第1キャリヤ)との間に配置される。第2脱落防止部材68は、第1ピン部材40の入力側(軸方向他方側)の他端部と入力側キャリヤ24(第2キャリヤ)との間に配置される。第3脱落防止部材70は、第1ピン部材40と第2ピン部材60の間に配置される。
【0029】
第3脱落防止部材70は、複数の外歯歯車16、18と接触することで、その軸方向移動を規制する役割も持つ。外歯歯車16、18は、本実施形態において、第3脱落防止部材70とは軸方向で反対側に配置される他部材(キャリヤ22、24)とも接触することで、その軸方向移動が規制される。なお、第3脱落防止部材70は、第1ピン部材40の脱落を防止する機能を持たなくともよい。
【0030】
各脱落防止部材66、68、70の外径R1、R2、R3は、実質的に同じとなるように設定される。本明細書での「実質的」とは、言及している条件を厳密に満たす場合に限らず、寸法公差や製造誤差等の誤差の分だけ位置がずれる場合も含まれる。脱落防止部材66、68、70の外径R1、R2、R3は、ピン溝38又は脱落防止部材66、68、70と第1ピン部材40との間に僅かなクリアランス(不図示)を形成できる大きさに設定される。このクリアランスは、複数の第1ピン部材40の回転を許容するために設けられる。
【0031】
第1脱落防止部材66は、反入力側キャリヤ22との間に僅かな隙間72を空けて設けられる。第2脱落防止部材68は、入力側キャリヤ24との間に僅かな隙間74を空けて設けられる。これにより、キャリヤ22、24が自転したときに、脱落防止部材66、68との間で摺動抵抗が生じるのを避けられる。なお、隙間72、74の径方向寸法は、上述したピン溝38又は脱落防止部材66、68、70と第1ピン部材40との間の径方向でのクリアランスより大きい。
【0032】
内歯歯車本体34は、他部材との間に潤滑剤76が収められる隙間空間78を形成する。潤滑剤76は、たとえば、グリース、潤滑油等である。ここでの「他部材」とは、内歯歯車本体34と径方向内側に対向する部材をいい、本実施形態では各脱落防止部材66、68、70、各外歯歯車16、18が該当する。
【0033】
本実施形態の隙間空間78は、内歯歯車本体34と外歯歯車16、18の間に形成される第1空間80と、内歯歯車本体34と脱落防止部材66、68、70の間に形成される第2空間82とが構成する。第1空間80と第2空間82は互いに連通している。第1空間80の径方向寸法は、外歯歯車16、18の揺動に伴い変化する。第1空間80内の潤滑剤76は、その第1空間80の径方向寸法の変化に伴い、その周方向の全域に行き渡るように流動できる。第2空間82は、隣り合う第1ピン部材40の間に形成される複数のピン間空間84(
図3参照)により構成される。
【0034】
本実施形態の隙間空間78は、第1ピン部材40と径方向に重なる軸方向範囲Raにおいて、隙間空間78の径方向内側に形成される内側空間86に対して径方向に隔離される。この内側空間86は、前述の「他部材」となる各外歯歯車16、18や各脱落防止部材66、68、70によって、隙間空間78に対して径方向に隔離される。これら外歯歯車16、18や各脱落防止部材66、68、70は、内側空間86に対して隙間空間78を径方向に隔離する隔離部材として機能する。この内側空間86は、これら隔離部材やキャリヤ22、24とクランク軸14との間に形成される。
【0035】
ここでの「隔離」とは、言及している二つの対象(隙間空間78と内側空間86)の間での潤滑剤76の流動を完全に遮断するように隔離する場合の他に、その潤滑剤76のわずかな流動を許容するように隔離する場合が含まれる。この潤滑剤76のわずかな流動は、たとえば、複数の隔離部材の間や、その隔離部材と他部材(主軸受50、52、キャリヤ22、24等)の間を通して行われる。
【0036】
第1主軸受50と第1脱落防止部材66との間には、第1主軸受50の内部空間94(以下、第1軸受内部空間94という)と隙間空間78とを連通する第1径方向隙間88が設けられる。第1軸受内部空間94は、第1主軸受50の外輪56と内輪58の間の空間をいう。ここでの隙間空間78とは、内歯歯車本体34と第1脱落防止部材66との間の隙間空間をいう。ここでの径方向隙間とは、言及している二つの対象の間で径方向に広がるように設けられる隙間をいう。
【0037】
第1径方向隙間88は、第1主軸受50と第1脱落防止部材66の軸方向で対向する箇所(面)において、第1主軸受50の外輪56と第1脱落防止部材66との間に設けられる。詳しくは、第1径方向隙間88は、外輪56の内周部にて軸方向で第1脱落防止部材66がある側にある第1内周縁部90と、第1脱落防止部材66の外周部にて軸方向で第1主軸受50がある側にある第1外周縁部92との間に設けられる。本実施形態では、径方向隙間は、第1主軸受50の内輪58と第1脱落防止部材66との間には設けられない。つまり、第1主軸受50の内輪58と第1脱落防止部材66とは、全周に亘って軸方向に当接している。
【0038】
第2主軸受52と第2脱落防止部材68との間には、第2主軸受52の内部空間102(以下、第2軸受内部空間102という)と隙間空間78とを連通する第2径方向隙間96が設けられる。第2軸受内部空間102は、第2主軸受52の外輪56と内輪58の間の空間をいう。ここでの隙間空間78とは、内歯歯車本体34と第2脱落防止部材68との間の隙間空間をいう。
【0039】
第2径方向隙間96は、第2主軸受52と第2脱落防止部材68の軸方向で対向する箇所(面)において、第2主軸受52の外輪56と第2脱落防止部材68との間に設けられる。詳しくは、第2径方向隙間96は、外輪56の内周部にて軸方向で第2脱落防止部材68がある側にある第2内周縁部98と、第2脱落防止部材68の外周部にて軸方向で第2主軸受52がある側にある第2外周縁部100との間に設けられる。本実施形態では、径方向隙間は、第2主軸受52の内輪58と第2脱落防止部材68との間には設けられない。つまり、第2主軸受52の内輪58と第2脱落防止部材68とは、全周に亘って軸方向に当接している。
【0040】
ケーシング26は、他部材との間に隙間空間78を含む外周側空間104を形成する。本実施形態の外周側空間104には、前述の隙間空間78の他に、第1軸受内部空間94、第2軸受内部空間102が含まれる。また、本実施形態の外周側空間104には、第1軸受内部空間94に対して軸方向で隙間空間78とは反対側にてケーシング26と反入力側キャリヤ22の間に形成される第3空間106が含まれる。ここでの「他部材」とは、ケーシング26と径方向内側に対向する部材をいう。本実施形態では、各脱落防止部材66、68、70、各外歯歯車16、18、各キャリヤ22、24が該当する。
【0041】
外周側空間104は、第1ピン部材40に対して反入力側(軸方向一方側)に配置される第1封止部材108により封止される。本実施形態の第1封止部材108は、ケーシング26と反入力側キャリヤ22の間に配置されるオイルシールである。
【0042】
外周側空間104は、第1ピン部材40に対して入力側(軸方向他方側)に配置される第2封止部材110により封止される。本実施形態の第2封止部材110は、第2主軸受52に組み込まれる軸受シールである。第2封止部材110は、第2主軸受52の転動体54より入力側に配置される。第2封止部材110は、ケーシング26と入力側キャリヤ24の間に配置されるとも捉えられる。
【0043】
本実施形態の外周側空間104は、第1ピン部材40と径方向に重なる軸方向範囲Ra以外においても、前述の内側空間86に対して隔離される。このような内側空間86にも、外歯歯車16、18や偏心軸受32等の可動部品を潤滑するための潤滑剤(不図示)が封入される。
【0044】
以上の減速装置10の効果を説明する。
【0045】
(A)第1主軸受50と第1脱落防止部材66との間には第1径方向隙間88が設けられる。よって、第1径方向隙間88を通して、第1主軸受50の第1軸受内部空間94と隙間空間78の間で潤滑剤76を入れ換えられる。これは、第1主軸受50の転動体54や、外歯歯車16、18の動きによって、隙間空間78や第1軸受内部空間94の潤滑剤76を流動させることで達成される。これに伴い、各歯車16、18、20の歯面の潤滑に用いられる潤滑剤76の量を増やすことができ、隙間空間78内の潤滑剤76の早期の劣化を抑えられる。
【0046】
(B)第2主軸受52と第2脱落防止部材68との間には第2径方向隙間96が設けられる。よって、第2径方向隙間96を通して、第2主軸受52の第2軸受内部空間102と隙間空間78との間でも潤滑剤76を入れ換えられる。これは、第2主軸受52の転動体54や、外歯歯車16、18の動きによって、隙間空間78や第2軸受内部空間102の潤滑剤76を流動させることで達成される。これに伴い、各歯車16、18、20の歯面の潤滑に用いられる潤滑剤76の量を更に増やすことができ、隙間空間78内の潤滑剤76の早期の劣化をより抑えられる。
【0047】
(C)減速装置10は、二つの外歯歯車16、18の間に配置され、第1ピン部材40の脱落を防止する第3脱落防止部材70を備える。これにより、内歯歯車本体34と第3脱落防止部材70との間に隙間空間78の一部となる第2空間82を形成でき、その分、隙間空間78の容積を増大できる。これに伴い、各歯車16、18、20の歯面の潤滑に用いられる潤滑剤76の量を更に増やすことができ、隙間空間78内の潤滑剤76の早期の劣化をより抑えられる。
【0048】
(D)径方向隙間は、第1主軸受50の内輪58と第1脱落防止部材66の間に設けられない。よって、これらの間を通して、第1軸受内部空間94から内側空間86に潤滑剤76が漏れ難くなり、隙間空間78に潤滑剤76をとどめたままにし易くなる。
【0049】
(E)径方向隙間は、第2主軸受52の内輪58と第2脱落防止部材68の間に設けられない。よって、これらの間を通して、第2軸受内部空間102から内側空間86に潤滑剤76が漏れ難くなり、隙間空間78に潤滑剤76をとどめたままにし易くなる。
【0050】
(F)潤滑剤76が封入される隙間空間78は、第1ピン部材40と径方向に重なる軸方向範囲Raにおいて、その径方向内側の内側空間86に対して径方向に隔離されている。よって、隙間空間78から内側空間86に潤滑剤76が広がり難くなり、隙間空間78に潤滑剤76をとどめたままにし易くなる。
【0051】
隙間空間78を含む外周側空間104は、ケーシング26とキャリヤ22、24の間に配置される各封止部材108、110により封止される。よって、外周側空間104から他の空間への潤滑剤76の漏れが生じ難くなり、その潤滑剤76を隙間空間78に更にとどめやすくなる。
【0052】
このように隙間空間78に潤滑剤76をとどめることで、隙間空間78を形成する各歯車16、18、20の歯面での潤滑剤76の油膜切れを安定して抑えられる。これに伴い、各歯車16、18、20の長寿命化を図れる。特に、流動性の低い潤滑剤76を用いる場合、この利点を大きく得られる。
【0053】
本実施形態の減速装置10の他の特徴を説明する。
図3、
図4を参照する。内歯歯車本体34は環状溝114を備える。外歯歯車16、18が揺動するとき、外歯歯車16、18の外歯112が環状溝114内に入り込むことで、内歯歯車本体34との干渉を回避できる。環状溝114は、各外歯歯車16、18に個別に対応して設けられ、その対応する外歯歯車16、18の径方向外側に形成される。環状溝114は、対応する外歯歯車16、18より大きい軸方向寸法を持つ。
【0054】
内歯歯車本体34は、環状溝114を形成するとともに径方向内側に突き出る環状突部116を備える。環状突部116の内周部には前述の複数のピン溝38が形成され、その径方向内側には前述の脱落防止部材66、68、70が配置される。
【0055】
(G)環状溝114は、前述の隙間空間78を形成し、潤滑剤76を溜める潤滑剤溜まりを構成する。これにより、隙間空間78の容積を増大できる。これに伴い、各歯車16、18、20の歯面の潤滑に用いられる潤滑剤76の量を更に増やすことができ、隙間空間78内の潤滑剤76の早期の劣化をより抑えられる。
【0056】
(第2の実施の形態)
図6は、第2実施形態の減速装置10の側面断面図である。本実施形態の隙間空間78を含む外周側空間104は、他の空間に連通している。詳しく説明する。
【0057】
ケーシング26は、入力側キャリヤ24に対して入力側に設けられ、入力軸12が貫通する貫通孔26aが形成される貫通壁部26bを備える。ケーシング26の貫通壁部26bと入力側キャリヤ24との間には第4空間118が形成される。
【0058】
減速装置10は、前述の第2封止部材110を備えておらず、外周側空間104は第4空間118に連通されている。この第4空間118は、たとえば、ケーシング26の貫通孔26aと入力軸12の間に配置されるオイルシール等の第3封止部材120により封止される。本実施形態でも、前述した(A)~(G)の効果を得られる。
【0059】
なお、外周側空間104から他の空間(第4空間118)に潤滑剤76が漏れたとしても、その流動により、もとの隙間空間78まで潤滑剤76を戻すことができる。特に、流動性の高い潤滑剤76を用いた場合、このように潤滑剤76を戻し易くなる。このため、本実施形態でも、第1実施形態と同様、前述の(D)~(F)で説明したような、隙間空間78に潤滑剤76をとどめたままにし易くなる効果を得られる。
【0060】
以上、実施形態をもとに本発明を説明した。次に、各構成要素の変形例を説明する。
【0061】
実施形態の偏心揺動型減速装置は、センタークランクタイプを例に説明したが、その種類は特に限定されない。たとえば、内歯歯車20の中心軸線CL1からオフセットした位置に複数のクランク軸14が配置される振り分けタイプの偏心揺動型減速装置に適用されてもよい。
【0062】
出力部材46はケーシング26であり、被固定部材48はキャリヤ22、24でもよい。
【0063】
減速装置10は、本実施形態のように、少なくとも二つの外歯歯車16、18を備えていてもよい。外歯歯車16、18とは異なる一つ以上の外歯歯車を備えていてもよいということである。減速装置10は、一つの外歯歯車16、18のみを備えてもよい。三つ以上の外歯歯車16、18を備える場合、全ての外歯歯車16、18の間に第3脱落防止部材70を配置してもよい。この他にも、全て又は一部の外歯歯車16、18の間に第3脱落防止部材70を配置しなくともよい。
【0064】
第1キャリヤは反入力側キャリヤ22であり、第2キャリヤは入力側キャリヤ24である例を説明した。第1キャリヤは入力側キャリヤ24であり、第2キャリヤは反入力側キャリヤ22でもよい。いずれの捉え方をした場合でも、減速装置10は第1キャリヤのみを備え、第2キャリヤを備えなくともよい。この場合、減速装置10は、第2キャリヤの他に、第2主軸受52、第2脱落防止部材68を備えなくともよい。
【0065】
内歯歯車本体34には環状溝114が形成されていなくともよい。
【0066】
隙間空間78と内側空間86は、第1ピン部材40と径方向に重なる軸方向範囲Raにおいて、前述の隔離部材(外歯歯車16、18、脱落防止部材66、68、70)が形成する他の空間を介して連通されていてもよい。
【0067】
第1封止部材108は、オイルシールである例を説明したが、その具体例は特に限定されない。第1封止部材108は、たとえば、第1主軸受50に組み込まれる軸受シールでもよい。第2封止部材110は、軸受シールである例を説明したが、その具体例は特に限定されない。第2封止部材110は、たとえば、オイルシールでもよい。
【0068】
第1径方向隙間88は、第1主軸受50の内輪58と第1脱落防止部材66との間にも設けられてもよい。第2径方向隙間96は、第2主軸受52の内輪58と第2脱落防止部材68との間にも設けられてもよい。
【0069】
以上、本発明の実施形態や変形例について詳細に説明した。前述した実施形態や変形例は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態や変形例の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して強調しているが、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。以上の構成要素の任意の組み合わせも、本発明の態様として有効である。図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【符号の説明】
【0070】
10…偏心揺動型減速装置、16。18…外歯歯車、20…内歯歯車、22…反入力側キャリヤ(第1キャリヤ)、24…入力側キャリヤ(第2キャリヤ)、26…ケーシング、34…内歯歯車本体、36…内歯、38…ピン溝、40…第1ピン部材、50…第1主軸受、52…第2主軸受、56…外輪、58…内輪、66…第1脱落防止部材、68…第2脱落防止部材、70…第3脱落防止部材、76…潤滑剤、78…隙間空間、86…内側空間、88…第1径方向隙間、96…第2径方向隙間、114…環状溝。