(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】沸騰伝熱部材および沸騰冷却装置
(51)【国際特許分類】
H01L 23/427 20060101AFI20220825BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20220825BHJP
F28D 15/02 20060101ALI20220825BHJP
H05K 7/20 20060101ALN20220825BHJP
【FI】
H01L23/46 A
H01L23/36 D
F28D15/02 102G
F28D15/02 101L
F28D15/02 M
F28D15/02 E
F28D15/02 104A
H05K7/20 Q
(21)【出願番号】P 2018209867
(22)【出願日】2018-11-07
【審査請求日】2021-08-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109911
【氏名又は名称】清水 義仁
(74)【代理人】
【識別番号】100071168
【氏名又は名称】清水 久義
(74)【代理人】
【識別番号】100099885
【氏名又は名称】高田 健市
(72)【発明者】
【氏名】山内 忍
(72)【発明者】
【氏名】古川 裕一
【審査官】正山 旭
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-082510(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0083835(US,A1)
【文献】特開2017-007172(JP,A)
【文献】特開2010-016277(JP,A)
【文献】特開2014-201786(JP,A)
【文献】特開2012-153944(JP,A)
【文献】特開2018-188711(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/427
H01L 23/36
F28D 15/02
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相変化により熱を輸送する液相冷媒に接触する沸騰伝熱面を備えた沸騰伝熱部材であって、
金属-炭素粒子複合材によって構成され、
金属-炭素粒子複合材は、金属層と、炭素粒子が分散した炭素粒子分散層とが交互に積層された積層体によって構成され、
金属-炭素粒子複合材が積層方向に対し平行な面で切断された切断面を沸騰伝熱面として構成され、
沸騰伝熱面に、金属-炭素粒子複合材における金属と炭素粒子とが分散して存在していることを特徴とする沸騰伝熱部材。
【請求項2】
炭素粒子は、炭素繊維、カーボンナノチューブ、グラフェン、天然黒鉛粒子および人造黒鉛粒子の中から選択される少なくとも1種の粒子によって構成されている請求項1に記載の沸騰伝熱部材。
【請求項3】
金属は、アルミニウムまたは銅によって構成されている請求項1または2に記載の沸騰伝熱部材。
【請求項4】
金属-炭素粒子複合材における炭素粒子の体積比率が5%~70%である請求項1~3のいずれか1項に記載の沸騰伝熱部材。
【請求項5】
沸騰伝熱面における炭素粒子の面積比率が5%~70%である請求項1~4のいずれか1項に記載の沸騰伝熱部材。
【請求項6】
炭素粒子分散層における積層方向のピッチを層ピッチとして、その層ピッチが15μm~60μmに設定されている請求項1~5のいずれか1項に記載の沸騰伝熱部材。
【請求項7】
外部から熱を受ける中空状受熱部と、受熱部の上方に設けられ、かつ外部に熱を放出する中空状放熱部と、受熱部および放熱部間を連通する冷媒流通部とを有する冷媒封入部を備え、相変化により潜熱として熱を輸送する冷媒が前記冷媒封入部内に封入されて受熱部に液相状態で貯留されるようにした沸騰冷却装置であって、
受熱部における周壁の一部が、請求項1~6のいずれか1項に記載の沸騰伝熱部材によって構成され、
沸騰伝熱部材の沸騰伝熱面が受熱部の内部に臨んで液相状態の冷媒に接触するように配置されるとともに、
沸騰伝熱部材における沸騰伝熱面に対し反対側の面である外面が発熱体取付部として構成され、
発熱体取付部に取り付けられる発熱体の熱が沸騰伝熱部材に伝達されるように構成されている沸騰冷却装置。
【請求項8】
冷媒封入部に封入される冷媒として、ハイドロカーボン、アルコール、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテルおよびハイドロフルオロオレフィンの中から選択された冷媒が用いられる請求項7に記載の沸騰冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、液相冷媒を沸騰させて発熱体の熱を吸収するようにした沸騰伝熱部材、およびその沸騰伝熱部材を用いた沸騰冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車(HV)、電気自動車(EV)等の電動機、産業機械、家電、情報端末等の電力機器の主電力を制御するのに用いられる電力用半導体素子は、大電力を取り扱うために大きな発熱を伴う。このような機器の半導体素子から発生する熱を放出するのに有効な手段の一つとして、冷媒の相変化を伴う沸騰冷却装置が注目されている。
【0003】
一方、近年の電気自動車の電力用半導体素子やサーバー用のコンピュータ機器のCPU(半導体素子)は、出力や処理速度が年々増大し、発熱量特に、発熱密度が大きくなっており、それに伴い、沸騰冷却装置の冷却性能の向上も強く求められている。
【0004】
沸騰冷却装置は、中空状の受熱部と、中空状の放熱部と、両熱部間を連通する冷媒流通部とを有する冷媒封入部を備え、冷媒封入部内に封入された冷媒のうち、液相状態の冷媒が受熱部内に収容されている。さらに受熱部の底壁は沸騰伝熱部材によって構成されており、沸騰伝熱部材における液相冷媒と接触する内面が沸騰伝熱面として機能するように、外面側に半導体素子等の発熱体が取り付けられている。そして発熱体から発生する熱が沸騰伝熱部材を伝わって、その熱が沸騰伝熱面上において液相冷媒の蒸発(沸騰)によって潜熱として吸収されることにより、発熱体が冷却されるようになっている。
【0005】
このような沸騰冷却装置においては、沸騰伝熱面での発泡を促進させて沸騰性能(冷却性能)を向上させるようにした種々の構成が採用されている。
【0006】
例えば下記特許文献1に示す沸騰冷却装置においては、金属材によって構成された沸騰伝熱部材の沸騰伝熱面に、金属材を起立させて円弧状に屈曲形成した多数の板状フィンを形成することによって、沸騰伝熱面の表面積を増大させて、沸騰性能を向上させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の沸騰冷却装置においては、沸騰伝熱部材に緻密で繊細な機械加工を施して沸騰伝熱面を形成するものであるため、高精度の機械加工が必要となり、沸騰伝熱部材の製作が困難であるばかりか、生産効率が低下してコストが増大するという課題があった。
【0009】
また機械加工による沸騰伝熱面の表面積増大には限界があり、この方法だけでは、今後予想される出力の増大化に十分に対応することは困難であると考えられ、蒸発性能をさらに向上させることが切望されているのが現状である。
【0010】
この発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、低コストで簡単に製造できる上さらに、十分に沸騰性能を向上させることができる沸騰伝熱部材および沸騰冷却装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の手段を備えるものである。
【0012】
[1] 相変化により熱を輸送する液相冷媒に接触する沸騰伝熱面を備えた沸騰伝熱部材であって、
金属-炭素粒子複合材によって構成され、
沸騰伝熱面に、金属-炭素粒子複合材における金属と炭素粒子とが分散して存在していることを特徴とする沸騰伝熱部材。
【0013】
[2]炭素粒子は、炭素繊維、カーボンナノチューブ、グラフェン、天然黒鉛粒子および人造黒鉛粒子の中から選択される少なくとも1種の粒子によって構成されている前項1に記載の沸騰伝熱部材。
【0014】
[3]金属は、アルミニウムまたは銅によって構成されている前項1または2に記載の沸騰伝熱部材。
【0015】
[4]金属-炭素粒子複合材における炭素粒子の体積比率が5%~70%である前項1~3のいずれか1項に記載の沸騰伝熱部材。
【0016】
[5]沸騰伝熱面における炭素粒子の面積比率が5%~70%である前項1~4のいずれか1項に記載の沸騰伝熱部材。
【0017】
[6]金属-炭素粒子複合材は、金属層と、炭素粒子が分散した炭素粒子分散層とが交互に積層された積層体によって構成され、
炭素粒子分散層における積層方向のピッチを層ピッチとして、その層ピッチが15μm~60μmに設定されている前項1~5のいずれか1項に記載の沸騰伝熱部材。
【0018】
[7]外部から熱を受ける中空状受熱部と、受熱部の上方に設けられ、かつ外部に熱を放出する中空状放熱部と、受熱部および放熱部間を連通する冷媒流通部とを有する冷媒封入部を備え、相変化により潜熱として熱を輸送する冷媒が前記冷媒封入部内に封入されて受熱部に液相状態で貯留されるようにした沸騰冷却装置であって、
受熱部における周壁の一部が、前項1~6のいずれか1項に記載の沸騰伝熱部材によって構成され、
沸騰伝熱部材の沸騰伝熱面が受熱部の内部に臨んで液相状態の冷媒に接触するように配置されるとともに、
沸騰伝熱部材における沸騰伝熱面に対し反対側の面である外面が発熱体取付部として構成され、
発熱体取付部に取り付けられる発熱体の熱が沸騰伝熱部材に伝達されるように構成されている沸騰冷却装置。
【0019】
[8]冷媒封入部に封入される冷媒として、ハイドロカーボン、アルコール、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテルおよびハイドロフルオロオレフィンの中から選択された冷媒が用いられる前項7に記載の沸騰冷却装置。
【発明の効果】
【0020】
発明[1]の沸騰伝熱部材によれば、沸騰伝熱面に、蒸気の発砲を促進する炭素粒子と、液との濡れ性が高く液を引き寄せる金属とが分散して存在しているため、核沸騰を十分に促進することができる上さらに、沸騰伝熱部材自体、熱伝導率が高いアルミニウム-炭素粒子複合材によって構成されている。このため例えば、低熱流束であっても液相冷媒の沸騰を開始させることができて、沸騰熱伝達を十分に向上させることができる。また本発明の沸騰伝熱部材は、金属-炭素粒子複合材を用いるだけのものであるため、例えば沸騰伝熱面に面倒な機械加工を施す必要がなく、簡単に製造できてコストも削減することができる。
【0021】
発明[2]~[6]の沸騰伝熱部材によれば、上記の効果をより確実に得ることができる。
【0022】
発明[7]の沸騰冷却装置によれば、上記発明の沸騰伝熱部材を用いるものであるため、上記と同様に、蒸発性能を十分に向上させることができるとともに、簡単かつ低コストで製造することができる。
【0023】
発明[8]の沸騰冷却装置によれば、上記の効果をより一層確実に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1はこの発明の実施形態である沸騰冷却装置を示す断面図である。
【
図2】
図2は実施形態の沸騰冷却装置に適用されたアルミニウム-炭素粒子複合材による沸騰伝熱部材の沸騰伝熱面を模式的に示す平面図であって、図(a)は炭素粒子として黒鉛粒子が用いられた沸騰伝熱面を示す平面図、図(b)は炭素粒子として炭素繊維が用いられた沸騰伝熱面を示す平面図である。
【
図3】
図3は実施例および比較例の沸騰伝熱部材による伝熱特性試験で使用された沸騰冷却装置を模式化して示すブロック図である。
【
図4】
図4は実施例および比較例の沸騰伝熱部材における沸騰熱伝達率と熱流束との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1はこの発明の実施形態である沸騰冷却装置を示す断面図である。なお本明細書および特許請求の範囲において、「アルミニウム」という用語は、特に明示した場合を除き、純アルミニウムの他に、アルミニウム合金も含む意味で用いられ、「銅」という用語は、特に明示した場合を除き、純銅の他に、銅合金も含む意味で用いられている。
【0026】
同図に示すように、この沸騰冷却装置は、アルミニウム製の冷媒封入部(ケーシング)1を備えている。冷媒封入部1は、その冷媒封入部1の下側部を構成し、かつ外部からの熱を受ける中空状受熱部2と、冷媒封入部1の上側部を構成し、かつ外部に熱を放出する中空状放熱部3と、受熱部2および放熱部3間を連通する冷媒流通部4とを備えている。
【0027】
冷媒封入部1内には、冷媒10が封入されている。冷媒10は受熱部2において液相状態で貯留されており、相変化により潜熱として熱を放熱部3に輸送できるように構成されている。
【0028】
本実施形態において、冷媒10としては例えば、ハイドロカーボン、アルコール、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテルおよびハイドロフルオロオレフィンの中から選択された1種の冷媒を用いるのが良く、より好ましくは、R-1234ze(E)を用いるのが良い。冷媒は、冷媒封入部1内に真空状態にして封入されている。なおこの真空状態とは、作動を妨げないレベルまで不凝縮ガスを除いた状態であれば良い。
【0029】
冷媒封入部1における受熱部2の底壁21の一部(一壁部)は沸騰伝熱部材5によって構成されている。すなわち受熱部2の底壁21の中央には開口22が形成されており、その底壁21の下面(外面)における開口22の周縁部に、板状の沸騰伝熱部材5の沸騰伝熱面51が液冷媒に一部または全部が接触する状態で固定されている。これにより沸騰伝熱部材5の沸騰伝熱面51が開口22を介して受熱部2の内部に臨むように配置されている。換言すると、受熱部2における底壁21の一部(周壁の一部)が沸騰伝熱部材5によって構成されて、その沸騰伝熱部材5の沸騰伝熱面51が受熱部2内の液相冷媒10に接触するように構成されている。
【0030】
なお本実施形態の沸騰冷却装置において採用される沸騰伝熱部材5の詳細な構成については後に説明するものとする。
【0031】
沸騰伝熱部材5における沸騰伝熱面51に対し反対側の面である外面(下面)が発熱体取付部52として構成されている。発熱体取付部52には、銅製等のヒートスプレッダ6がサーマルインターフェイスマテリアル(TIM)を介して取り付けられる。さらにヒートスプレッダ6の下面には、電力用半導体素子等の発熱体7がTIMやハンダ等を介して取り付けられる。
【0032】
また冷媒封入部1の放熱部3内に、冷却流体循環管31の主要部分が配置されており、冷媒封入部1の外部から液相または気相の冷却流体が放熱部3内の冷却流体循環管31に供給されるとともに、その冷却流体循環管31内の冷却流体が冷媒封入部1の外部に戻されるように構成されている。そして冷却流体循環管31を循環する冷却流体によって放熱部3内の気相冷媒が冷却されるように構成されている。
【0033】
この沸騰冷却装置において、発熱体7から発せられる熱は、ヒートスプレッダ6および沸騰伝熱部材5を介して受熱部2内の冷媒10に伝達され、沸騰伝熱部材5の沸騰伝熱面51における冷媒10との接触部分において、液相冷媒10が沸騰気化して気相(ガス)状態となり、その気相冷媒による気泡が沸騰伝熱面51から液相冷媒10中に放出される。液相冷媒10中に放出された気相冷媒としての気泡は液相冷媒10を上昇し、液相冷媒10の液面から気相部に放出され、冷媒流通部4を通って放熱部3に至る。放熱部3において気相冷媒は、冷却流体循環管31を流通する冷却流体に放熱して凝縮液化し、冷媒流通部4を流下して受液部2内に戻る。このような動作が連続的に生じることによって、発熱体7から発せられる熱が、冷媒蒸気により潜熱として放熱部3に輸送されて、放熱部3から冷却流体を介して放熱される。このように相変化を伴う冷媒10の循環が行われることによって発熱体7が効率良く冷却されるようになっている。なお本発明においては、ヒートスプレッダ3は必ずしも必要ではなく、省略しても良い。
【0034】
次に本実施形態における沸騰伝熱部材5の構成について詳細に説明する。本実施形態において沸騰伝熱部材5は、板状の金属-炭素粒子複合材によって構成されている。金属-炭素粒子複合材は、金属マトリックスと、金属マトリックス中に分散した炭素粒子とを含むものである。このような複合材は、金属基炭素粒子複合材とも呼ばれている。
【0035】
金属マトリックスの金属の種類は限定されるものではなく、可及的に高い熱伝導性を有する金属であることが望ましく、具体的にはアルミニウムや銅等を用いるのが好ましい。
【0036】
炭素粒子の種類は限定されるものではなく、特に、炭素繊維、カーボンナノチューブ、グラフェン、グラファイト(天然黒鉛粒子および人造黒鉛粒子)からなる群より選択される少なくとも一種以上であることが好ましい。さらに炭素繊維、カーボンナノチューブ、グラフェンおよび天然黒鉛粒子からなる群より選択される少なくとも一種であることがより好ましい。その理由は、高い熱伝導率を有する金属-炭素繊維複合材得ることができる上さらに、金属マトリックスがアルミニウムである場合にはアルミニウムと炭素繊維との複合化を確実に行うことができるからである。
【0037】
炭素繊維としては、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等が用いられる。
【0038】
カーボンナノチューブとしては、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維(VGCF(登録商標)を含む)等が用いられる。
【0039】
グラフェンとしては、単層グラフェン、多層グラフェン等が用いられる。
【0040】
天然黒鉛粒子としては、鱗片状黒鉛粒子例えば、高熱伝導性鱗片状黒鉛粒子等が用いられる。
【0041】
人造黒鉛粒子としては、等方性黒鉛粒子、異方性黒鉛粒子、熱分解黒鉛粒子等が用いられる。
【0042】
炭素粒子の大きさは特に限定されるものではないが、炭素粒子3が炭素繊維である場合、平均炭素長さが10μm~2mmの短炭素繊維が特に好適に用いられる。炭素繊維がカーボンナノチューブである場合、平均長さが1μm~10μmのカーボンナノチューブが特に好適に用いられる。炭素繊維が天然黒鉛粒子および人造黒鉛粒子である場合、最長軸方向の平均長さが10μm~3mmの天然黒鉛粒子および人造黒鉛粒子が特に好適に用いられる。
【0043】
アルミニウム-炭素粒子複合材の製造方法は、特に限定されるものではなく、溶融したアルミニウムに炭素粒子としての炭素繊維を入れて撹拌混合し冷却凝固する方法、空隙を有する炭素成形体内に溶融したアルミニウムを押し込む方法、アルミニウム粉末と炭素粒子としての炭素粉末との混合物を加圧加熱焼成する方法、アルミニウム粉末と炭素粒子としての炭素粉末との混合物を押出加工する方法等を例示することができる。
【0044】
本実施形態においては、アルミニウム箔の上に多数の炭素粒子としての炭素繊維や黒鉛粒子(グラファイト)を付着させてプリフォーム箔を形成し、そのプリフォーム箔を多数積層した積層体を焼結等によって一体化する方法を好適に採用することができる。
【0045】
この方法によって製造されたアルミニウム-炭素粒子複合材は
図2に示すように、炭素粒子56を含まないアルミニウム(金属55)の金属層55aと、アルミニウム(金属55)中に炭素粒子56が分散して配置された炭素粒子分散層56aとが交互に積層された積層体によって構成されている。そしてこのアルミニウム-炭素粒子複合材を積層方向Lに対し平行な面で切断し、その切断面を沸騰伝熱面51とする板状の沸騰伝熱部材5を得るものである。なお同図(a)は炭素粒子56としてグラファイトが用いられた沸騰伝熱部材5の沸騰伝熱面51を示し、同図(b)は炭素粒子56として炭素繊維が用いられた沸騰伝熱部材5の沸騰伝熱面51を示している。
【0046】
この沸騰伝熱部材5の沸騰伝熱面51においては、炭素粒子分散層56aが積層方向Lに適宜間隔をおきながら、各炭素粒子分散層56aが、積層方向Lに対し直交する方向(
図2(a)(b)の左右方向)に沿って筋状に配置されている。
【0047】
ここで本実施形態においては、沸騰伝熱面51における炭素粒子分散層56aにおける積層方向Lのピッチを層ピッチPとして定義している。なお複数の炭素粒子分散層56aの各間の各ピッチが一定でないような場合には、各間の各ピッチの平均値を層ピッチとしている。
【0048】
この沸騰伝熱部材5は、沸騰伝熱面51に蒸気の発泡を促進する炭素粒子56と、液との濡れ性が高く液を引き寄せるアルミニウム(金属)55とが分散して存在しているため、沸騰伝熱面51としての沸騰面は核沸騰を十分に促進することができる上さらに、沸騰伝熱部材5自体、熱伝達率が高いアルミニウム-炭素粒子複合材によって構成されている。このため、この沸騰伝熱部材5を用いた本実施形態の沸騰冷却装置においては、発熱体7からの熱が発生し始めた直後の低熱流束であっても直ちに液相冷媒10の沸騰が開始されるようになり、熱の発生直後から十分な蒸発性能(沸騰性能)が得られ、さらにその十分な沸騰性能が終始維持される。従って優れた冷却性能を確実に得ることができる。
【0049】
また本実施形態の冷却装置においては、熱が発生してから冷媒10の沸騰が開始されるまでの時間が短いため例えば、冷媒10の沸騰が開始される前に発熱体7周辺温度が不用意にも急上昇してしまうような現象を防止でき、半導体素子等の発熱体7を含む沸騰冷却装置全体における熱の悪影響を確実に回避できて、信頼性を向上させることができる。
【0050】
また本実施形態の沸騰冷却装置においては、沸騰伝熱部材5として、アルミニウム-炭素粒子複合材を用いるだけで簡単に実現できるため、大がかりな設計変更等は必要なく、従来の沸騰冷却装置を部分的に変更するだけで、簡単かつ低コストで製作することができる。
【0051】
さらに本実施形態の沸騰伝熱部材5は、その沸騰伝熱面51に機械加工等を施す必要もないので、より一層容易に製作することができる。
【0052】
ここで本実施形態においては、沸騰伝熱部材5を構成する金属-炭素粒子複合体の総体積に対する炭素粒子56が占有する体積の比率を10%~70%に設定するのが好ましく、さらに沸騰伝熱面51において、総面積に対する炭素粒子56が占有する面積の比率を10%~70%に設定するのが好ましい。すなわち炭素粒子56の体積比率を上記の特定範囲に設定した場合、または炭素粒子56の面積比率を上記の特定範囲に設定した場合には、金属55および炭素粒子56間の量的なバランスが良くなり、既述したように、十分な沸騰性能および冷却性能を確実に得ることができる。
【0053】
また本実施形態においては、沸騰伝熱部材5の沸騰伝熱面51の層ピッチP(
図2参照)を25μm~60μmに設定するのが好ましい。すなわちこの層ピッチPを上記の特定範囲に設定した場合には、沸騰伝熱面51における金属55および炭素粒子56を均等に分散させて配置することができ、既述したように、十分な沸騰性能および冷却性能を確実に得ることができる。
【0054】
なお本実施形態においては、沸騰伝熱部材5の沸騰伝熱面51における金属55の露出面をレーザー加工等によって液との接触面積を拡大するような加工を施しても良い。
【0055】
<伝熱特性試験>
以下に本発明の効果を立証するための沸騰伝熱部材の伝熱特性試験について説明する。
【0056】
図3は伝熱特性試験に用いられた実験装置を説明するためのブロック図である。同図に示すようにこの実験装置は、受熱部2と、放熱部に相当し、かつアルミニウム製扁平多孔孔管を用いた凝縮器3Aと、凝縮器3Aに風を送る送風機3Bと、冷媒流通部に相当し、かつ受熱部2の上端部と凝縮器3Aの入口とを連結する流出管4Aと、冷媒流通部に相当し、かつ凝縮器3Aの出口と受熱部2の周壁下部とを連結する流入管4Bとを備えている。受熱部2はその底壁21に開口22が形成され、その開口22に、後述の実施例または比較例の沸騰伝熱部材5が取り付けられて、その沸騰伝熱部材5の上面である沸騰伝熱面51が、受熱部2の内部に臨むように配置されている。また受熱部2には、沸騰伝熱面51の状況を視認するための覗き窓25が設けられている。この実験装置における冷媒封入部における総内容積は2.69×10
-4m
3である。
【0057】
また沸騰伝熱部材5の下面側である発熱体取付部52には、無酸素銅製の加熱ブロック8が設けられる。加熱ブロック8は、半導体素子等の発熱体を模した第1ブロック7Aと、第1ブロック7A上に設けられた立方形状の第2ブロック6Aとを備えている。第1ブロック7A内には、熱を発生させるためにカートリッジヒータ(図示省略)が挿入配置されている。第2ブロック6Aの上面は正方形であり、その上面の面積、つまり沸騰伝熱部材5との接触面積は14mm×14mm=196mm2である。また沸騰伝熱部材5の沸騰伝熱面51は円形に設定されており、沸騰伝熱面積は直径φ20mm×3.14=314mm2である。従って面積拡大率は、314mm2/196mm2=1.6となる。
【0058】
試験条件として、環境温度は20℃であり、送風機3Bの平均風速は2.5m/sであり、作動流体(冷媒)としてR-1234ze(E)を用いた。冷媒封入部における作動流体の体積充填率は、以前の実験で最適値と判断された43%~45%としている。
【0059】
この試験装置では、加熱ブロック8から発生される熱は、沸騰伝熱部材5を介して受熱部2内の液相冷媒に伝達され、沸騰伝熱面51において液相冷媒が沸騰して気泡となって液相冷媒内に放出される。この気相冷媒の気泡は液相冷媒を上昇していき、流出管4Aを通って凝縮器3Aに導かれ、そこで凝縮液化し、流入管4Bを通って受液部2内に戻る。この動作が繰り返されて、加熱ブロック8の熱が冷媒を介して外部に放出されるものである。
【0060】
この装置を用いて、以下に説明するように本発明に関連した実施例の沸騰伝熱部材と、本発明の要旨を逸脱する比較例の沸騰伝熱部材とを用いて、伝熱特性を評価した。
【0061】
<実施例>
実施例の沸騰伝熱部材は、
図2に示すように、金属層(アルミニウム層)55aと、炭素粒子が分散する炭素粒子分散層56aとが交互に積層されたアルミニウム-炭素粒子複合材を用いた。アルミニウムとしては、合金番号A1100の純アルミニウムを用いた。炭素粒子としては、鱗片状黒鉛粒子を用いた。炭素粒子の体積比率は40%、沸騰伝熱面における炭素粒子の面積比率は30~50%である。さらに層ピッチは、20μmである。
【0062】
この沸騰伝熱部材5を
図3の試験装置に設置するに際して、沸騰伝熱面51をその積層方向L(
図2参照)が、冷媒流入方向RI(
図3参照)に一致するように配置されている。
【0063】
そして、この実施例の沸騰伝熱部材が適用された試験装置において、加熱ブロック8における第2ブロック6Aの上面(チップ表面)から沸騰伝熱部材5への投入熱流束(kW/m
2)と、その投入熱流束(kW/m
2)に対する沸騰伝達部材5の沸騰熱伝達率(kW/m
2K)を測定した。その測定結果を
図4のグラフに示す。
【0064】
図4のグラフにおいて、縦軸に沸騰熱伝達率(kW/m
2K)を示し、横軸に投入熱流束(kW/m
2)を示す。
【0065】
縦軸に示す沸騰熱伝達率(kW/m2K)は、沸騰面(沸騰伝熱面)の中心部温度を基に、沸騰面表面温度を計算した値から算出した値である。なお、沸騰面の中心部の温度は、第2ブロック6Aに加熱ブロック8から沸騰部材5に向かって等間隔に配置した熱電対による温度測定値から外挿して評価した。さらに沸騰伝熱部材5の熱伝達率には異方性があるが、事象が過度に複雑になるのを避けるため、本実験においては、後述の比較例と同様に、熱伝達率が等方性で227W/mKとした。
【0066】
横軸に示す投入熱流束(kW/m2)は、入熱量と第2ブロック6Aの面積に基づいて測定した。
【0067】
<比較例>
比較例においては、合金番号A1100の純アルミニウム製の沸騰伝熱部材を用いた以外は、上記実施例と同様に伝熱特性を評価した。その評価結果を
図4のグラフに合わせて示す。
【0068】
図4のグラフから明らかなように、本発明に関連した実施例の沸騰伝熱部材は、アルミ平滑面である比較例の沸騰伝熱部材と比較して、測定した熱流束(kW/m
2)の全ての範囲内で、沸騰熱伝達率(kW/m
2K)が高い値を示している。従って本発明の沸騰伝熱部材を用いた沸騰冷却装置は、熱の発生直後から沸騰が始まり、終始高い沸騰熱伝達率を維持できるため、十分な沸騰性能を得ることができ、優れた冷却性能を得ることができると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
この発明の沸騰伝熱部材は、冷媒の相変化によって発熱体を冷却する沸騰冷却装置に好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0070】
1:冷媒封入体
10:冷媒
2:受熱部
21:底壁
3:放熱部
4:冷媒流通部
5:沸騰伝熱部材
51:沸騰伝熱面
52:発熱体取付部
55:金属
55a:金属層
56:炭素粒子
56a:炭素粒子分散層
7:発熱体
L:積層方向
P:層ピッチ