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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】エレメントの製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
   B21D 53/14 20060101AFI20220825BHJP
   B21D 28/00 20060101ALI20220825BHJP
   F16G 5/16 20060101ALI20220825BHJP
   B21D 28/02 20060101ALI20220825BHJP
【FI】
B21D53/14
B21D28/00 B
F16G5/16 C
B21D28/02 E
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019067572
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020163439
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(73)【特許権者】
【識別番号】398076124
【氏名又は名称】株式会社エムアイ精巧
(73)【特許権者】
【識別番号】593055306
【氏名又は名称】岡野工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】朝見 徹
(72)【発明者】
【氏名】宮田 和久
(72)【発明者】
【氏名】端 啓孝
(72)【発明者】
【氏名】岡野 雅行
【審査官】堀内 亮吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-187676(JP,A)
【文献】特開2016-124020(JP,A)
【文献】特開2010-105033(JP,A)
【文献】特開2010-89122(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 53/14
B21D 28/00
F16G 5/16
B21D 28/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
均一な厚みの帯板状の素材を各プレス位置に順送し、前記各プレス位置において前記素材に対してプレス加工を行なうことにより、無段変速機の一対のプーリ間に巻き架けられる伝動ベルトを構成すると共に厚肉部と薄肉部とを有するエレメントを製造するエレメントの製造方法であって、
前記各プレス位置において行なうプレス加工として、
周囲の素材につながるつなぎ部を残して該つなぎ部以外の切り離し部が該周囲の素材から切り離されると共に、前記切り離し部が前記周囲の素材に対して板厚方向に重ならないように打ち抜く予備抜き工程と、
前記予備抜き工程の後に、前記切り離し部の前記薄肉部に相当する領域を圧縮してつぶすつぶし工程と、
前記つぶし工程の後に、前記切り離し部を前記エレメントに対応する外形に打ち抜く打ち抜き工程と、
を備えるエレメントの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のエレメントの製造方法であって、
前記エレメントは、幅方向における両側に前記プーリと接触する側面部を有すると共に前記幅方向に直交する前記伝動ベルトの径方向における内周側に前記薄肉部を有し、
前記径方向における外周側の端部同士が向かい合った状態で2個一対のエレメントが成形されるようにプレス加工し、
前記予備抜き工程の前に、後工程において前記素材を位置決めするためのパイロット穴を、前記素材の前記端部同士の間の中央を通り且つ前記幅方向に平行な直線上に位置するように形成するパイロット穴形成工程を備え、
前記予備抜き工程は、前記端部同士の間に相当する位置に前記つなぎ部を形成する、
エレメントの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載のエレメントの製造方法であって、
前記エレメントは、前記側面部と前記薄肉部とを含む胴部と、ヘッド部と、前記胴部の前記幅方向における中央部から前記径方向へ延びて前記胴部と前記ヘッド部とを連結するネック部とを有し、
前記ヘッド部の頂部同士が向かい合った状態で2個一対のエレメントが成形されるようにプレス加工し、
前記予備抜き工程は、前記ヘッド部の頂部同士に相当する位置に前記つなぎ部を形成する、
エレメントの製造方法。
【請求項4】
請求項2または3に記載のエレメントの製造方法であって、
前記予備抜き工程は、前記つなぎ部を成形するに際して、前記つぶし工程により前記切り離し部が圧縮される面と同側で前記周囲の素材に対して板厚方向に生じる段差の稜線が曲線状となるようにプレス加工する、
エレメントの製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか1項に記載のエレメントの製造方法であって、
前記つぶし工程の後に、前記切り離し部の前記厚肉部となる領域を圧縮して板厚を調整する板厚調整工程を備える、
エレメントの製造方法。
【請求項6】
均一な厚みの帯板状の素材を各プレス位置に順送し、前記各プレス位置において前記素材に対してプレス加工を行なうことにより、無段変速機の伝動ベルトを構成すると共に厚肉部と薄肉部とを有するエレメントを製造するエレメントの製造装置であって、
第1のプレス位置に設けられ、周囲の素材につながるつなぎ部を残して該つなぎ部以外の切り離し部が周囲の素材から切り離されると共に、前記切り離し部が前記周囲の素材に対して板厚方向に重ならないように打ち抜く予備抜き加工を行なう予備抜き用金型と、
前記第1のプレス位置よりも順送方向における下流の第2のプレス位置に設けられ、前記切り離し部の前記薄肉部に相当する領域を圧縮してつぶすつぶし加工を行なうつぶし用金型と、
前記第2のプレス位置よりも順送方向における下流の第3のプレス位置に設けられ、前記切り離し部を前記エレメントに対応する外形に打ち抜く打ち抜き加工を行なう打ち抜き用金型と、
を備えるエレメントの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、エレメントの製造方法および製造装置について開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のエレメントの製造方法としては、無段変速機のプーリに当接する左右の側辺を有すると共に下向きに先細りのテーパ部(あるいは下方に延びる平行薄肉部)を有するボディ部と、ボディ部から上方に延びるネック部と、ネック部から上方に延びる三角形状のヘッド部とからなるエレメントを、厚さが一様の帯状素材から打ち抜き加工によって製造するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。エレメントの製造方法では、帯状素材に対してヘッド部が互いに向かい合わせになる形態で隣り合う一対のエレメントを打ち抜くものである。この製造方法における工程としては、ボディ部の左右の側辺の輪郭に余肉を加えて描かれる線とボディ部の下辺の輪郭に余肉を加えて描かれる線とが打ち抜き線となるように素材を打ち抜く打ち抜き工程と、向かい合わせた一対のヘッド部の間に略長方形状のスリットを打ち抜き形成するスリット形成工程と、板厚が小さくなるように素材に対して塑性加工を施して素材に一対のテーパ部を形成する塑性加工工程(つぶし工程)と、帯状素材から製品としてエレメントを打ち抜く第2打ち抜き工程と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO2010/125876
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したエレメントの製造方法では、素材の板厚を小さくしてボディ部(胴部)にテーパ部を形成する際の材料の流動先を確保するために、打ち抜き工程やスリット形成工程により事前に胴部の周囲に大きなスリットを形成する必要があるため、スリットの大きさの分だけ素材に無駄が発生し、製品の歩留まりが悪化するという問題がある。
【0005】
本開示のエレメントの製造方法および製造装置は、均一な厚みの帯板状の素材から厚肉部と薄肉部とを有するエレメントを打ち抜き加工により成形する際に、薄肉部を精度よく成形しつつ、製品の歩留まりを向上させることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のエレメントの製造方法および製造装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本開示のエレメントの製造方法は、
均一な厚みの帯板状の素材を各プレス位置に順送し、前記各プレス位置において前記素材に対してプレス加工を行なうことにより、無段変速機の一対のプーリ間に巻き架けられる伝動ベルトを構成すると共に厚肉部と薄肉部とを有するエレメントを製造するエレメントの製造方法であって、
前記各プレス位置において行なうプレス加工として、
周囲の素材につながるつなぎ部を残して該つなぎ部以外の切り離し部が該周囲の素材から切り離されると共に、前記切り離し部が前記周囲の素材に対して板厚方向に重ならないように打ち抜く予備抜き工程と、
前記予備抜き工程の後に、前記切り離し部の前記薄肉部に相当する領域を圧縮してつぶすつぶし工程と、
前記つぶし工程の後に、前記切り離し部を前記エレメントに対応する外形に打ち抜く打ち抜き工程と、
を備えることを要旨とする。
【0008】
この本開示のエレメントの製造方法では、均一な厚みの帯板状の素材を各プレス位置に順送し、各プレス位置において素材に対してプレス加工を行なうことにより無段変速機の伝動ベルトを構成すると共に厚肉部と薄肉部とを有するエレメントを製造するものである。各プレス位置において行なうプレス加工として、周囲の素材につながるつなぎ部を残してつなぎ部以外の切り離し部が周囲の素材から切り離されると共に切り離し部が周囲の素材に対して板厚方向に重ならないように打ち抜く予備抜き工程と、予備抜き工程の後に切り離し部の薄肉部に相当する領域を圧縮してつぶすつぶし工程と、つぶし工程の後に切り離し部をエレメントに対応する外形に打ち抜く打ち抜き工程とを備える。このように、切り離し部を周囲の素材に対して板厚方向に重ならないように打ち抜いてから、切り離し部を圧縮してつぶすため、圧縮された材料を面方向に円滑に流動させることができる。これにより、エレメントを成形した際に薄肉部を精度よく形成することができる。また、これにより、つぶし工程における材料の流動先を確保するために事前に素材の周囲にスリットを形成する必要をなくしたり、必要なスリットを小さくしたりすることができるため、素材からエレメントを効率良く取り出すことができ、製品の歩留まりを向上させることができる。この結果、均一な厚みの帯板状の素材から厚肉部と薄肉部とを有するエレメントを打ち抜き加工により成形する際に、薄肉部を精度よく成形しつつ、製品の歩留まりを向上させることができる。なお、予備抜き工程の前に、後工程において素材を位置決めするためのパイロット穴を素材に形成するパイロット穴形成工程を備える場合には、切り離し部と周囲の素材とが板厚方向にずれているため、つぶし工程によって圧縮された材料がパイロット穴に向かって流動し、パイロット穴に悪影響が生じるのを抑制することができる。
【0009】
本開示のエレメントの製造装置は、
均一な厚みの帯板状の素材を各プレス位置に順送し、前記各プレス位置において前記素材に対してプレス加工を行なうことにより、無段変速機の伝動ベルトを構成すると共に厚肉部と薄肉部とを有するエレメントを製造するエレメントの製造装置であって、
第1のプレス位置に設けられ、周囲の素材につながるつなぎ部を残して該つなぎ部以外の切り離し部が周囲の素材から切り離されると共に、前記切り離し部が前記周囲の素材に対して板厚方向に重ならないように打ち抜く予備抜き加工を行なう予備抜き用金型と、
前記第1のプレス位置よりも順送方向における下流の第2のプレス位置に設けられ、前記切り離し部の前記薄肉部に相当する領域を圧縮してつぶすつぶし加工を行なうつぶし用金型と、
前記第2のプレス位置よりも順送方向における下流の第3のプレス位置に設けられ、前記切り離し部を前記エレメントに対応する外形に打ち抜く打ち抜き加工を行なう打ち抜き用金型と、
を備えることを要旨とする。
【0010】
この本開示のエレメントの製造装置では、上述した本開示のエレメントの製造方法の各工程を実現するためのプレス加工を行なう金型(予備抜き用金型,つぶし用金型および打ち抜き用金型)を備えるから、本開示のエレメントの製造方法が奏する効果と同様の効果、すなわち均一な厚みの帯板状の素材から厚肉部と薄肉部とを有するエレメントを打ち抜き加工により成形する際に、薄肉部を精度よく成形しつつ、製品の歩留まりを向上させる効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】伝動ベルトを有する無段変速機の概略構成図である。
図2】伝動ベルトの概略構成図である。
図3】エレメントの製造装置の概略構成図である。
図4】エレメントの製造工程を示す説明図である。
図5】予備抜き用金型の概略構成図である。
図6】予備抜き用金型の概略構成図である。
図7】予備抜き後の帯板素材の外観斜視図である。
図8】予備抜き後の帯板素材の断面図である。
図9】予備抜き後の帯板素材の側面図である。
図10】予備抜き後の帯板素材の背面図である。
図11】予備抜き後の帯板素材の正面図である。
図12】段差つぶし成形用金型の概略構成図である。
図13】段差つぶし成形後の帯板素材の外観斜視図である。
図14】段差つぶし成形後の帯板素材の側面図である。
図15】段差つぶし成形により材料が流動する様子を示す説明図である。
図16】板厚つぶし成形用金型の概略構成図である。
図17】板厚つぶし成形後の帯板素材の外観斜視図である。
図18】板厚つぶし成形後の帯板素材の側面図である。
図19】エンボス成形用金型の概略構成図である。
図20】エンボス成形後の帯板素材の外観斜視図である。
図21】エンボス成形後の帯板素材の側面図である。
図22】半抜き用金型の概略構成図である。
図23】半抜き後の帯板素材の外観斜視図である。
図24】半抜き後の帯板素材の側面図である。
図25】抜き落とし用金型の概略構成図である。
図26】他の実施形態のエレメントを含む伝動ベルトの概略構成図である。
図27】他の実施形態のエレメントの製造工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、図面を参照しながら、本開示を実施するための形態について説明する。
【0013】
図1は、伝動ベルトを有する無段変速機の概略構成図であり、図2は、伝動ベルトの概略構成図である。無段変速機1は、図1に示すように、駆動側回転軸としてのプライマリシャフト2と、当該プライマリシャフト2に設けられたプライマリプーリ3と、プライマリシャフト2と平行に配置される従動側回転軸としてのセカンダリシャフト4と、当該セカンダリシャフト4に設けられたセカンダリプーリ5とを有する。伝動ベルト10は、プライマリプーリ3のプーリ溝(V字状溝)とセカンダリプーリ5のプーリ溝(V字状溝)とに巻き掛けられる。
【0014】
プライマリシャフト2は、図示しない前後進切換機構を介して、エンジン(内燃機関)などの動力発生源に連結された図示しないインプットシャフトに連結される。プライマリプーリ3は、プライマリシャフト2と一体に形成された固定シーブ3aと、ボールスプライン等を介してプライマリシャフト2により軸方向に摺動自在に支持される可動シーブ3bとを有する。また、セカンダリプーリ5は、セカンダリシャフト4と一体に形成された固定シーブ5aと、ボールスプライン等を介してセカンダリシャフト4により軸方向に摺動自在に支持されると共にリターンスプリング8により軸方向に付勢される可動シーブ5bとを有する。
【0015】
更に、無段変速機1は、プライマリプーリ3の溝幅を変更するための油圧式アクチュエータであるプライマリシリンダ6と、セカンダリプーリ5の溝幅を変更するための油圧式アクチュエータであるセカンダリシリンダ7とを有する。プライマリシリンダ6は、プライマリプーリ3の可動シーブ3bの背後に形成され、セカンダリシリンダ7は、セカンダリプーリ5の可動シーブ5bの背後に形成される。プライマリシリンダ6とセカンダリシリンダ7とには、プライマリプーリ3とセカンダリプーリ5との溝幅を変化させるべく図示しない油圧制御装置から作動油が供給され、それにより、エンジン等からインプットシャフトや前後進切換機構を介してプライマリシャフト2に伝達されたトルクを無段階に変速してセカンダリシャフト4に出力することができる。セカンダリシャフト4に出力されたトルクは、ギヤ機構、デファレンシャルギヤおよびドライブシャフトを介して車両の駆動輪(何れも図示省略)に伝達される。
【0016】
伝動ベルト10は、図2に示すように、弾性変形可能な複数(本実施形態では、例えば9個)のリング材11を厚み方向(リング径方向)に積層することにより構成された2個の積層リング12と、積層リング12の内周面に沿って環状に配列(結束)される複数(例えば、数百個)のエレメント20とを有する。積層リング12を構成する複数のリング材11は、それぞれ鋼板製のドラムから切り出された弾性変形可能なものであって、概ね同一の厚みおよびそれぞれについて予め定められた異なる周長を有するように加工されている。また、各リング材11は、軸方向の中央部が径方向外側に僅かに突出するように緩やかに湾曲させられている。
【0017】
各エレメント20は、均一な板厚を有する金属製の帯板状の素材(帯板素材)50からプレス加工により打ち抜かれたものであり、図2に示すように、図中水平に延びる胴部21と、当該胴部21の幅方向における中央部から伝動ベルト10の外周側(伝動ベルト10や積層リング12の径方向における外側)に延出されたネック部22と、胴部21から離間するようにネック部22から胴部21の幅方向における両側に延出された一対のイヤー部23aを含むヘッド部23とを有する。胴部21の幅は、ヘッド部23の幅と同一若しくはそれよりも大きく、胴部21、ネック部22およびヘッド部23の各イヤー部23aにより2つのリング収容部(凹部)24が画成される。また、ヘッド部23の正面(一方の表面)の幅方向における中央部には、1個の突起(ディンプル)23pが形成されており、ヘッド部23の背面(他方の表面)には、突起23pの裏側に位置するように窪み23rが形成されている。
【0018】
各エレメント20のリング収容部24には、当該エレメント20を両側から挟み付けるように積層リング12が嵌め込まれ、各エレメント20の突起23pは、隣り合うエレメント20の窪み23rに遊嵌される。これにより、2個の積層リング12により多数のエレメント20が環状に配列された状態で結束される。また、リング収容部24を画成する胴部21の表面(図2における上面)は、積層リング12(最内層のリング材11)の内周面に接触するサドル面21aとなる。すなわち、サドル面21aは、ネック部22の幅方向における両側に位置する。
【0019】
各サドル面21aは、積層リング12側に湾曲する凸曲面である。すなわち、各サドル面21aは、幅方向における中央部付近を頂部として当該頂部から幅方向における外側およびネック部22側に向かうにつれて図中下方に緩やかに傾斜した左右対称の凸曲面形状(クラウニング形状)を有する。これにより、サドル面21aとの摩擦により積層リング12に頂部Tに向かう求心力を付与し、当該積層リング12をセンタリングすることが可能となる。ただし、サドル面21aは、伝動ベルト10等の径方向における外側に湾曲する凸曲面を複数含むものであってもよい。また、サドル面21a(凸曲面)の曲率半径は、最内層のリング材11(積層リング12)の軸方向に沿った湾曲の曲率半径よりも小さく定められている。
【0020】
また、各エレメント20の胴部21は、伝動ベルト10の内周側から外周側(伝動ベルト等の径方向における外側)に向かうにつれて互いに離間するように形成された一対の側面21fを有する。各側面21fは、プライマリプーリ3のプーリ溝やセカンダリプーリ5のプーリ溝の表面に摩擦接触してプーリ3,5からの挟圧力を受け、摩擦力によりプライマリプーリ3からセカンダリプーリ5へとトルクを伝達するトルク伝達面(フランク面)となる。本実施形態において、各側面21fの表面には、図示するように、各エレメント20とプライマリプーリ3やセカンダリプーリ5との接触部を潤滑・冷却するための作動油を保持するための凹凸(複数の溝)が形成されている。
【0021】
更に、図2に示すように、本実施形態のエレメント20の正面(突起23p側の表面)は斜面21sを含み、その背面は平坦に形成されている。すなわち、胴部21の外周側(伝動ベルト10等の径方向における外側)の一部、ネック部22およびヘッド部23は、略一定の厚みを有し、胴部21には、サドル面21aよりも内周側(伝動ベルト10等の径方向における内側)の位置から更に内周側に向かうにつれて背面に近接する斜面21sが形成されている。また、胴部21の内周部(図2における下端部)には、当該胴部21の斜面21sを含む部分よりも肉薄かつ略一定の厚みを有する段差部21bが形成されている。そして、ネック部22やヘッド部23等を含む平坦部と斜面21sとの境界部分は、伝動ベルト10の進行方向において隣り合うエレメント20同士を接触させて両者の回動の支点となるロッキングエッジ25を形成する。すなわち、各エレメント20において、ロッキングエッジ25は、各サドル面21aよりも内周側に位置する。
【0022】
次に、こうして構成されるエレメント20の製造工程について説明する。図3は、エレメントの製造装置の概略構成図であり、図4は、エレメントの製造工程を示す説明図である。エレメントの製造装置100は、図3に示すように、帯板素材50が巻回されたコイル材Cを巻き解すアンコイラ101と、アンコイラ101によって巻き解された帯板素材50を長手方向に送る送り装置102と、送り装置102により送られた帯板素材50を打ち抜いてエレメント20を成形するプレス加工機105とを有する。エレメント20の製造は、送り装置102により帯板素材50をその長手方向に沿ってプレス加工機105の各プレス位置に順送し、プレス加工機105により各プレス位置において帯板素材50に対してプレス加工することにより行なわれる。各プレス位置において行なわれるプレス加工工程としては、順送方向における上流側から順に、パイロット穴抜き・スリット穴抜き工程(S1),予備抜き工程(S2),段差つぶし成形工程(S3),板厚つぶし成形工程(S4),エンボス成形工程(S5),半抜き工程(S6),抜き落とし工程(S7)が含まれる。プレス加工機105は、パイロット穴抜き・スリット穴抜き工程(S1)で用いられるパイロット穴抜き・スリット穴抜き用金型110と、予備抜き工程(S2)で用いられる予備抜き用金型120と、段差つぶし成形工程(S3)で用いられる段差つぶし成形用金型130と、板厚つぶし成形工程(S4)で用いられる板厚つぶし成形用金型140と、エンボス成形工程(S5)で用いられるエンボス成形用金型150と、半抜き工程(S6)で用いられる半抜き用金型160と、抜き落とし工程(S7)で用いられる抜き落とし用金型170とを有する。このプレス加工機105は、図4に示すように、帯板素材50の長手方向にヘッド部23の頂部23t(ヘッド部23の胴部21側とは反対側の端部)同士が向かい合った状態で2個一対のエレメント20が成形されるようにプレス加工を行なう。
【0023】
パイロット穴抜き・スリット穴抜き工程(S1)は、パイロット穴抜き・スリット穴抜き用金型110を用いて帯板素材50に対して2個の円形のパイロット穴50pと1個の楕円形(オーバル形)のスリット穴50sとを形成する工程である。2個のパイロット穴50pは、後工程のプレス加工(例えばエンボス成形工程など)において帯板素材50を位置決めするために用いられ、成形される2個一対のエレメント20の向かい合うヘッド部23の頂部23t同士の間の中央を通り且つ胴部21の幅方向(帯板素材50の幅方向)に平行な直線上であって、当該幅方向における中央部からそれぞれ等距離離間した位置に形成される。また、スリット穴50sは、後工程の予備抜き工程においてプレス加工した際の材料の流動先を確保するために用いられ、成形される2個一対のエレメント20の胴部21の内周部に相当する位置から帯板素材50の長手方向に所定距離離間した位置に、帯板素材50の幅方向に延出するように形成される。
【0024】
予備抜き工程(S2)は、予備抜き用金型120を用いて2個一対のエレメント20のヘッド部23の頂部23t同士の間に相当する位置をつなぎ部53として周囲の帯板素材50に残すと共に、当該つなぎ部53を除く2個一対のエレメント20を含む領域が切り離し部51,52として周囲の帯板素材50から切り離されるように打ち抜く工程である。図5および図6は、予備抜き用金型の概略構成図であり、図7は、予備抜き後の帯板素材の外観斜視図であり、図8は、図7の帯板素材のA-A断面図であり、図9は、図7の帯板素材をB方向から見た側面図であり、図10は、図7の帯板素材をC方向から見た背面図であり、図11は、図7の帯板素材のD方向から見た正面図である。予備抜き用金型120は、図5および図6に示すように、2つの開口部121oを有するダイ121と、帯板素材50を背面(エレメント20の背面側となる表面、すなわち図中、上方の面)側から押圧してダイ121の2つの開口部121oに押し付けるパンチ122と、ダイ121の2つの開口部121oの内部にパンチ122と対向するように配置され帯板素材50の正面(エレメント20の正面側となる表面、すなわち図中、下方の面)と当接する2つのノックアウト123と、パンチ122の周囲にダイ121と対向するように配置されて帯板素材50を押さえるストリッパ124とを備える。
【0025】
ダイ121の2つの開口部121oは、ヘッド部23の頂部23t同士が向かい合った状態の2個一対のエレメント20の輪郭に余肉部を加えた線を打ち抜き線として帯板素材50が打ち抜かれるように形成される。ダイ121は、図5および図6に示すように、2つの開口部121oの隔壁をなすと共にパンチ122の表面(図中、下方の面)に形成される凹部122oに対向するように形成され、周囲の表面よりも一段低い表面を有する段差部121aを備える。段差部121aは、つなぎ部53を板厚方向における端部において周囲の帯板素材50とつながるように半抜きする半抜き部として構成される。
【0026】
こうして構成された予備抜き用金型120により、切り離し部51,52は、図6図9に示すように、正面(エレメント20の正面側となる表面、すなわち図中、下方の面)側が背面(エレメント20の背面側となる表面、すなわち図中、下方の面)側よりも周囲の帯板素材50に対して板厚方向に離間し且つ板厚方向に重ならないように切り離される。つなぎ部53は、半抜きにより板厚方向における端部において周囲の帯板素材50とつながり、当該周囲の帯板素材50に対して板厚方向に段差が生じる。この段差は、パンチ122側の表面(切り離し部51,52の背面側)には、図10に示すように、帯板素材50の長手方向に平行な直線状の稜線53aが形成されるように成形され、ダイ121側の表面(切り離し部51,52の正面側)には、図11に示すように、帯板素材50の幅方向(短手方向)における外側に脹らむ円弧状(凸曲面)の稜線53bが形成されるように成形される。これにより、つなぎ部53の強度(周囲の帯板素材50との連結強度)を十分に確保しつつ、切り離し部51,52の範囲を大きく取ることができる。
【0027】
段差つぶし成形工程(S3)は、段差つぶし成形用金型130を用いて切り離し部51,52の正面側のエレメント20の胴部21の斜面21sおよび段差部21bに相当する領域を圧縮して板厚方向につぶす工程である。図12は、段差つぶし成形用金型の概略構成図であり、図13は、段差つぶし成形後の帯板素材の外観斜視図であり、図14は、段差つぶし成形後の帯板素材の側面図である。段差つぶし成形用金型130は、図12に示すように、切り離し部51,52の正面(エレメント20の正面側となる表面)を押圧するノックアウト131~134と、ノックアウト131~134の周囲に配置されて当該ノックアウト131~134を保持するノックアウトホルダ135と、ノックアウト131~134に対向するように配置されると共に切り離し部51,52の背面(エレメント20の背面側となる表面)を押さえる押さえパンチ136とを備える。
【0028】
ノックアウト131,132は、切り離し部51,52の正面側に配置されると共に切り離しにより形成された帯板素材50の開口部50oよりも大きな外径により形成され、切り離し部51,52の正面側の胴部21の斜面21sおよび段差部21tに相当する領域に当接する当接面(押圧面)を有する。ノックアウト133,134は、ノックアウト131,132の内部に配置され、切り離し部51,52の正面側の胴部21の平坦部とヘッド部23とネック部22とに相当する領域に当接する平坦面を有する。押さえパンチ136は、切り離し部51,52の背面側に切り離しにより形成された帯板素材50の開口部50oを隔てて配置されると共に当該開口部50oよりも一回り小さな外形により形成され、当該開口部50oに挿通されて切り離し部51,52の背面側の胴部21の一部とネック部22とヘッド部23に相当する領域に当接する平坦面を有する。
【0029】
ノックアウト131,132の当接面(押圧面)には、図12に示すように、切り離し部51,52の正面(エレメント20の正面側となる表面)に斜面51s,52sおよび段差部51b,52b(図14参照)が形成されるよう斜面形成部131s,132sおよび段差部形成部131b,132bを有する。斜面51s,52sは、切り離し部51,52から2個一対のエレメント20が成形された際に、それぞれのエレメント20の胴部21の正面に形成される斜面21sとなる。また、段差部51b,52bは、切り離し部51,52から2個一対のエレメント20が成形された際に、それぞれのエレメント20の胴部21の正面に形成される段差部21bとなる。
【0030】
上述したように、切り離し部51,52は、帯板素材50の長手方向にヘッド部23の頂部23t同士が向かい合った状態で2個一対のエレメント20が成形されるように且つ周囲の帯板素材50から板厚方向に重ならないように打ち抜かれているから、図12に示すように、段差つぶし成形用金型130を用いて切り離し部51,52をプレス加工(つぶし成形)した際に外方(図中、左右)へ流動する材料は、周囲の帯板素材50と干渉しない。これにより、切り離し部51,52に斜面51s、52sや段差部51b、52bを高い精度で形成することができる。すなわち、切り離し部51,52から2個一対のエレメント20を成形した際に、それぞれのエレメント20の胴部21に斜面21sや段差部21bを高い精度で形成することができる。
【0031】
また、上述したように、つなぎ部53は、前工程の予備抜き工程(S2)において切り離し部51,52の背面側に形成される段差の稜線53aが帯板素材50の長手方向に平行な直線状に形成されると共に切り離し部51,52の正面側に形成される段差の稜線53bが帯板素材50の幅方向(短手方向)における外側に脹らむように円弧状に形成されるため、段差つぶし成形工程(S3)において切り離し部51,52をプレス加工した際に、図15に示すように、内方へ流動する材料がつなぎ部53を介して帯板素材50のパイロット穴50pが形成された領域へ流動するのを阻止することができ、当該パイロット穴50pの位置ずれや変形を抑制することができる。更に、2個のパイロット穴50pは両切り離し部51,52の中央を通り且つ帯板素材50の幅方向に平行な直線上に位置するように形成されているから、段差つぶし成形工程(S3)において切り離し部51,52をプレス加工した際にパイロット穴50pへ材料が流動するものとしても、図15に示すように、材料の流動によるパイロット穴50pの位置ずれ方向は互いに逆向きとなってキャンセルされる。これにより、パイロット穴50pの位置ずれを抑制することができる。
【0032】
板厚つぶし成形工程(S4)は、板厚つぶし成形用金型140を用いて切り離し部51,52のエレメント20の胴部21の平坦部,ネック部22およびヘッド部23に相当する領域を板厚方向につぶして板厚調整を行なう工程である。図16は、板厚つぶし成形用金型の概略構成図であり、図17は、板厚つぶし成形後の帯板素材の外観斜視図であり、図18は、板厚つぶし成形後の帯板素材の側面図である。板厚つぶし成形用金型140は、図16に示すように、切り離し部51,52の正面(エレメント20の正面側となる表面)を押圧するノックアウト141と、ノックアウト141と対向するように配置され切り離し部51,52の背面(エレメント20の背面側となる表面)を押さえる押さえパンチ142とを備える。
【0033】
押さえパンチ142は、切り離し部51,52の背面側に切り離しにより形成された帯板素材50の開口部50oを隔てて配置されると共に当該開口部50oよりも一回り小さな外形により形成され、当該開口部50oに挿通されて切り離し部51,52の背面に当接する平坦面を有する。ノックアウト141は、押さえパンチ142と略同じ外形により形成され、切り離し部51,52の正面に当接する平坦面を有する。ノックアウト141と押さえパンチ142とにより切り離し部51,52を板厚方向に圧縮することにより、図17および図18に示すように、切り離し部51,52のエレメント20の胴部21の平坦部,ネック部22およびヘッド部23に相当する領域の板厚を調整することができる。本実施形態では、板厚つぶし成形工程(S4)は、段差つぶし成形工程(S3)の後に、段差つぶし成形工程(S3)とは独立して行なわれるため、切り離し部51,52の胴部21の平坦部,ネック部22およびヘッド部23に相当する領域の板厚を精度よく調整することができる。
【0034】
エンボス成形工程(S5)は、エンボス成形用金型150を用いて切り離し部51,52の正面側のエレメント20のヘッド部23に相当する領域に突起51p,52pを形成すると共にその背面側に窪み51r,52rを形成する工程である。図19は、エンボス成形用金型の概略構成図であり、図20は、エンボス成形後の帯板素材の外観斜視図であり、図21は、エンボス成形後の帯板素材の側面図である。エンボス成形用金型150は、図19に示すように、小径かつ円筒状の2つの開口部151oを有するエンボスダイ151と、開口部151oよりも僅かに小さな外径により円柱状に形成され切り離し部51,52を背面(エレメント20の背面側となる表面)側から押圧してエンボスダイ151の2つの開口部151oに押し付ける2つのエンボスパンチ152と、2つのエンボスパンチ152の周囲に配置されて当該2つのエンボスパンチ152を支持するストリッパ153とを備える。
【0035】
ストリッパ153は、切り離し部51,52の背面側に切り離しにより形成された帯板素材50の開口部50oを隔てて配置されると共に当該開口部50oよりも一回り小さな外形により形成され、当該開口部50oに挿通されて切り離し部51,52の背面側の胴部21の一部とネック部22とヘッド部23に相当する領域に当接する平坦面を有する。2つのエンボスパンチ152は、先端部がストリッパ153の平坦面から突出するようにストリッパ153に対して支持される。エンボスダイ151とエンボスパンチ152とにより切り離し部51,52がプレス加工されることにより、図20および図21に示すように、切り離し部51,52の正面に突起51p,52pが形成され、切り離し部51,52の背面に突起51p,52pの裏側に位置するように窪み51r,52rが形成される。突起51p,52pは、切り離し部51,52から2個一対のエレメント20が成形された際に、それぞれのエレメント20のヘッド部23の正面に形成される突起21pとなる。また、窪み51r,52rは、切り離し部51,52から2個一対のエレメント20が成形された際に、それぞれのエレメント20のヘッド部23の背面に形成される窪み21rとなる。
【0036】
半抜き工程(S6)は、半抜き用金型160を用いて切り離し部51,52から余肉部51e,52eを除いた2個一対のエレメント20の外形の輪郭線を打ち抜き線として切り離し部51,52を半抜きする工程である。図22は、半抜き用金型の概略構成図であり、図23は、半抜き後の帯板素材の外観斜視図であり、図24は、半抜き後の帯板素材の側面図である。半抜き用金型160は、図22に示すように、2つの開口部161oを有するダイ161と、切り離し部51,52を背面(エレメント20の背面側となる表面)側から押圧してダイ161の2つの開口部161oに押し付けるパンチ162と、ダイ161の2つの開口部161oの内部にパンチ162に対向するように配置され切り離し部51,52の正面(エレメント20の正面側となる表面)と当接する2つのノックアウト163とを備える。
【0037】
ダイ161の2つの開口部161oは、ヘッド部23の頂部23t同士が向かい合う2個一対のエレメント20の外形と略同一の内形となるように形成される。パンチ162は、ダイ161の2つの開口部161oと概ね同一形状の外形により形成され、切り離し部51,52の背面(エレメント20の背面側となる表面)に当接する平坦面を有する。2つのノックアウト163は、パンチ162の外径と略同じ外形により形成されると共に当該2つの開口部161oの内部にパンチ162と対向するように配置され、表面が切り離し部51,52の正面(エレメント20の正面側となる表面)の形状に倣うように形成される当接面を有する。半抜き用金型160により切り離し部51,52がプレス加工されることにより、図23および図24に示すように、板厚方向における端部において切り離し部51,52の余肉部51e,52eと全周に亘ってつながった状態で、エレメント20に相当するエレメント成形部55,56が成形される。
【0038】
抜き落とし工程(S7)は、抜き落とし用金型170を用いて切り離し部51,52のエレメント成形部55,56と余肉部51e,52eとを切り離す工程である。図25は、抜き落とし用金型の概略構成図である。抜き落とし用金型170は、図25に示すように、2つの開口部171oを有するダイ171と、ダイ171の2つの開口部171oに向かってエレメント成形部55,56を押圧する2つのパンチ172とを備える。ダイ171の2つの開口部171oは、図示しない搬出口と連通しており、抜き落とされたエレメント成形部55,56は、開口部171oを介して搬出口からプレス加工機105の機外へと搬出される。そして、機外へ排出されたエレメント成形部55,56は、研磨などの仕上げ工程を経て、それぞれエレメント20として完成される。なお、抜き落とし工程(S7)は、2つのエレメント成形部55,56の抜き落としを1つの抜き落とし用金型170を用いて一度に行なうものとしたが、2つのエレメント成形部55,56の抜き落としを2つ抜き落とし用金型を用いてそれぞれ別工程で行なうものとしてもよい。
【0039】
上述した実施形態では、パイロット穴抜き・スリット穴抜き工程(S1)において、後工程の予備抜き工程(S2)において流動する材料を逃がすためのスリット穴50sを形成するものとしたが、予備抜き工程において流動する材料は僅かであるから、スリット穴50sを省略するものとしてもよい。
【0040】
上述した実施形態では、切り離し部51,52に対して一回のプレス加工(エンボス成形工程)で突起51p,52pおよび窪み51r,52r(エンボス)を成形するものとしたが、複数回(2回)のプレス加工によりエンボスを成形するものとしてもよい。この場合、後に行なわれるプレス加工を半抜き工程に含めて同一工程で行なうものとしてもよい。
【0041】
上述した実施形態では、帯板素材50の長手方向にヘッド部23の頂部23t同士が向かい合った状態で2個一対のエレメント20が成形されるようにプレス加工するものとしたが、帯板素材50の幅方向(短手方向)にヘッド部23の頂部23t同士が向かい合った状態で2個一対のエレメント20が成形されるようにプレス加工するものとしてもよい。
【0042】
図26は、他の実施形態のエレメントを含む伝動ベルトを示す概略構成図である。伝動ベルト210は、弾性変形可能な複数(本実施形態では、例えば9個)のリング材11を厚み方向(リング径方向)に積層することにより構成された1個の積層リング12と、1個のリテーナリング15と、積層リング12の内周面に沿って環状に配列(結束)される複数(例えば、数百個)のエレメント220とを有する。
【0043】
リテーナリング15は、例えば鋼板製のドラムから切り出された弾性変形可能なものであり、リング材11と概ね同一若しくはそれよりも薄い厚みを有する。また、リテーナリング15は、積層リング12の最外層のリング材11の外周長よりも長い内周長を有する。これにより、積層リング12とリテーナリング15とが同心円状に配置された状態(張力が作用しない無負荷状態)では、図26に示すように、最外層のリング材11の外周面とリテーナリング15の内周面との間に、環状のクリアランスが形成される。
【0044】
各エレメント220は、均一な板厚を有する金属製の帯板状の素材(帯板素材)50からプレス加工により打ち抜かれたものであり、図26に示すように、図中水平に延びる胴部221と、当該胴部221の両端部から同方向に延出された一対のピラー部222と、各ピラー部222の遊端側に開口するように一対のピラー部222の間に画成された単一のリング収容部(凹部)224とを有する。一対のピラー部222は、リング収容部224の底面であるサドル面224aの幅方向における両側から伝動ベルト210の径方向における外側(伝動ベルト210の内周側から外周側に向かう方向、すなわち図中上方)に延出されており、各ピラー部222の遊端部には、サドル面224aの幅方向に突出するフック部222fが形成されている。一対のフック部222fは、積層リング12(リング材11)の幅よりも若干長く、かつリテーナリング15の幅よりも短い間隔をおいて互いに対向する。
【0045】
リング収容部224内には、図26に示すように、積層リング12が配置され、当該リング収容部224のサドル面224aは、積層リング12(最内層のリング材11)の内周面に接触する。サドル面224aは、幅方向における中央部を頂部として幅方向外側に向かうにつれて図中下方に緩やかに傾斜した左右対称の凸曲面形状(クラウニング形状)を有する。これにより、サドル面224aとの摩擦により積層リング12に頂部に向かう求心力を付与して、当該積層リング12をセンタリングすることが可能となる。ただし、サドル面224aは、積層リング12の径方向における外側に湾曲する凸曲面を複数含むものであってもよい。
【0046】
また、リテーナリング15は、すべてのエレメント220のリング収容部224内に積層リング12が配置された状態で、弾性変形させられて各エレメント220の一対のフック部222fの間を介してリング収容部224に嵌め込まれる。そして、リテーナリング15は、積層リング12の最外層のリング材11の外周面と各エレメント220のフック部222fとの間に配置されて積層リング12を包囲し、各エレメント220が積層リング12から脱落するのを規制する。これにより、複数のエレメント220は、積層リング12の内周面に沿って環状に結束(配列)される。
【0047】
また、エレメント220の正面は斜面221sを含み、その背面は平坦に形成されている。すなわち、胴部221の外周側(伝動ベルト210等の径方向における外側)の一部およびピラー部222は、略一定の厚みを有し、胴部221には、サドル面224aよりも内周側(伝動ベルト210等の径方向における内側)の位置から更に内周側に向かうにつれて背面に近接する斜面221sが形成されている。斜面221sの外周側の縁部(エレメント220の厚みが変化する境界部分)は、伝動ベルト10の進行方向において隣り合うエレメント220同士を接触させて両者の回動の支点となるロッキングエッジ225を形成する。これにより、ロッキングエッジ225は、サドル面224aよりも内周側に位置する。また、胴部221の正面(一方の表面)の幅方向における中央部には、1個の突起(ディンプル)221pが形成されており、胴部221の背面(他方の表面)には、突起221pの裏側に位置するように窪み211rが形成されている。更に、エレメント220の胴部221は、伝動ベルト210等の内周側から外周側(伝動ベルト210等の径方向における外側)に向かうにつれて互いに離間するように形成されてフランク面として機能する一対の側面221fを有する。
【0048】
こうして構成されたエレメント220は、本実施形態のエレメント20と同様に、順送プレス加工機を用いて帯板素材50を打ち抜くことにより製造することができる。すなわち、エレメント220の製造は、帯板素材50をプレス加工機の各プレス位置に順送し、各プレス位置において帯板素材50に対してプレス加工を行なうことにより行なわれる。エレメント220のプレス加工工程としては、図27に示すように、エレメント20のプレス加工工程と同様に、パイロット穴抜き・スリット穴抜き工程(S1)と、予備抜き工程(S2)と、段差つぶし成形工程(S3)と、板厚つぶし成形工程(S4)と、エンボス成形工程(S5)と、半抜き工程(S6)と、抜き落とし工程(S7)と、を有する。各工程のプレス加工は、帯板素材50の長手方向にピラー部222の遊端側同士が向かい合った状態で2個一対のエレメント220が成形されるように打ち抜くことにより行なうことができる。
【0049】
以上説明したように本開示のエレメントの製造方法は、均一な厚みの帯板状の素材(50)を各プレス位置に順送し、前記各プレス位置において前記素材(50)に対してプレス加工を行なうことにより、無段変速機(1)の一対のプーリ(3,5)間に巻き架けられる伝動ベルト(10)を構成すると共に厚肉部(22,23)と薄肉部(21s,21b)とを有するエレメント(20)を製造するエレメントの製造方法であって、前記各プレス位置において行なうプレス加工として、周囲の素材(50)につながるつなぎ部(53)を残して該つなぎ部(53)以外の切り離し部(51,52)が該周囲の素材(50)から切り離されると共に、前記切り離し部(51,52)が前記周囲の素材(50)に対して板厚方向に重ならないように打ち抜く予備抜き工程(S2)と、前記予備抜き工程(S2)の後に、前記切り離し部(51,52)の前記薄肉部(21s、21b)に相当する領域を圧縮してつぶすつぶし工程(S3)と、前記つぶし工程(S3)の後に、前記切り離し部(51,52)を前記エレメント(20)に対応する外形に打ち抜く打ち抜き工程(S6~S8)と、を備えることを要旨とする。
【0050】
この本開示のエレメントの製造方法では、均一な厚みの帯板状の素材を各プレス位置に順送し、各プレス位置において素材に対してプレス加工を行なうことにより無段変速機の伝動ベルトを構成すると共に厚肉部と薄肉部とを有するエレメントを製造するものである。各プレス位置において行なうプレス加工として、周囲の素材につながるつなぎ部を残してつなぎ部以外の切り離し部が周囲の素材から切り離されると共に切り離し部が周囲の素材に対して板厚方向に重ならないように打ち抜く予備抜き工程と、予備抜き工程の後に切り離し部の薄肉部に相当する領域を圧縮してつぶすつぶし工程と、つぶし工程の後に切り離し部をエレメントに対応する外形に打ち抜く打ち抜き工程とを備える。このように、切り離し部を周囲の素材に対して板厚方向に重ならないように打ち抜いてから、切り離し部を圧縮してつぶすため、圧縮された材料を面方向に円滑に流動させることができる。これにより、エレメントを成形した際に薄肉部を精度よく形成することができる。また、これにより、つぶし工程における材料の流動先を確保するために事前に素材の周囲にスリットを形成する必要をなくしたり、必要なスリットを小さくしたりすることができるため、素材からエレメントを効率良く取り出すことができ、製品の歩留まりを向上させることができる。この結果、均一な厚みの帯板状の素材から厚肉部と薄肉部とを有するエレメントを打ち抜き加工により成形する際に、薄肉部を精度よく成形しつつ、製品の歩留まりを向上させることができる。なお、予備抜き工程の前に、後工程において素材を位置決めするためのパイロット穴を素材に形成するパイロット穴形成工程を備える場合には、切り離し部と周囲の素材とが板厚方向にずれているため、つぶし工程によって圧縮された材料がパイロット穴に向かって流動し、パイロット穴に悪影響が生じるのを抑制することができる。
【0051】
こうした本開示のエレメントの製造方法において、前記エレメント(20)は、幅方向における両側に前記プーリ(3,5)と接触する側面部(21f)を有すると共に前記幅方向に直交する前記伝動ベルト(10)の径方向における内周側に前記薄肉部(21s,21r)を有し、前記径方向における外周側の端部(23)同士が向かい合った状態で2個一対のエレメント(20)が成形されるようにプレス加工し、前記予備抜き工程(S2)の前に、後工程(S5)において前記素材(50)を位置決めするためのパイロット穴(50p)を、前記素材(50)の前記端部(23)同士の間の中央を通り且つ前記幅方向に平行な直線上に位置するように形成するパイロット穴形成工程(S1)を備え、前記予備抜き工程(S2)は、前記端部(23)同士の間に相当する位置に前記つなぎ部(53)を形成するものとしてもよい。こうすれば、つぶし工程において切り離し部の径方向における内周側に相当する領域を圧縮した際に、圧縮された材料が径方向における外周側へ流動しつなぎ部を介してパイロット穴へ向かうものとしても、材料の流動によるパイロット穴の位置ずれ方向は互いに逆向きとなってキャンセルされる。これにより、パイロット穴の位置ずれを抑制することができる。この場合、前記エレメント(20)は、前記側面部(21f)と前記薄肉部(21s,21b)とを含む胴部(21)と、ヘッド部(23)と、前記胴部(21)の前記幅方向における中央部から前記径方向へ延びて前記胴部(21)と前記ヘッド部(23)とを連結するネック部(22)とを有し、前記ヘッド部(23)の頂部(23t)同士が向かい合った状態で2個一対のエレメント(20)が成形されるようにプレス加工し、前記予備抜き工程(S2)は、前記ヘッド部(23)の頂部(23t)同士の間に相当する位置に前記つなぎ部(53)を形成するものとしてもよい。
【0052】
また、パイロット穴形成工程を備える態様の本開示のエレメントの製造方法において、前記予備抜き工程(S2)は、前記つなぎ部(53)を成形するに際して、後の前記つぶし工程(S3)により前記切り離し部(51,52)が圧縮される面と同側で前記周囲の素材(50)に対して板厚方向に生じる段差の稜線(53b)が曲線状となるようにプレス加工するものとしてもよい。こうすれば、つなぎ部の強度(切り離し部と周囲の素材との連結強度)を十分に確保しつつ、切り離し部の範囲を大きく取ることができる。また、つぶし成形工程において切り離し部をプレス加工した際に材料がつなぎ部を介して素材のパイロット穴が形成された領域へ流動するのを抑制することができ、パイロット穴の位置ずれや変形を抑制することができる。ここで、切り離し部が圧縮される面と同側で周囲の素材に対して板厚方向に生じる段差の稜線(53b)は、素材の幅方向における外側に膨らむ凸曲線であってもよい。また、切り離し部が圧縮される面と反対側で周囲の素材に対して板厚方向に生じる段差の稜線(53a)は、直線状であってもよい。
【0053】
また、エレメントの製造方法において、前記つぶし工程(S3)の後に、前記切り離し部(51,52)の前記厚肉部(22,23)に相当する領域を圧縮して板厚を調整する板厚調整工程(S4)を備えるものとしてもよい。板厚調整工程をつぶし工程とは別に設けることにより、厚肉部の板厚調整を精度よく行なうことができる。
【0054】
本開示のエレメントの製造装置は、均一な厚みの帯板状の素材(50)を各プレス位置に順送し、前記各プレス位置において前記素材(50)に対してプレス加工を行なうことにより、無段変速機(1)の一対のプーリ(3,5)間に巻き架けられる伝動ベルト(10)を構成すると共に厚肉部(22,23)と薄肉部(21s,21b)とを有するエレメント(20)を製造するエレメントの製造装置であって、第1のプレス位置に設けられ、周囲の素材(50)につながるつなぎ部(53)を残して該つなぎ部(53)以外の切り離し部(51,52)が周囲の素材(50)から切り離されると共に、前記切り離し部(51,52)が前記周囲の素材(50)に対して板厚方向に重ならないように打ち抜く予備抜き加工を行なう予備抜き用金型(120)と、前記第1のプレス位置よりも順送方向における下流の第2のプレス位置に設けられ、前記切り離し部(53)の前記薄肉部(21s,21r)となる領域を圧縮してつぶすつぶし加工を行なうつぶし用金型(130)と、前記第2のプレス位置よりも順送方向における下流の第3のプレス位置に設けられ、前記つなぎ部(53)および前記切り離し部(51,52)を前記エレメント(20)に対応する外形に打ち抜く打ち抜き加工を行なう打ち抜き用金型(160,170)と、を備えることを要旨とする。
【0055】
この本開示のエレメントの製造装置では、上述した本開示のエレメントの製造方法の各工程を実現するためのプレス加工を行なう金型(予備抜き用金型,つぶし用金型および打ち抜き用金型)を備えるから、本開示のエレメントの製造方法が奏する効果と同様の効果、すなわち均一な厚みの帯板状の素材から厚肉部と薄肉部とを有するエレメントを打ち抜き加工により成形する際に、薄肉部を精度よく成形しつつ、製品の歩留まりを向上させる効果を奏することができる。
【0056】
以上、本開示の実施の形態について説明したが、本開示はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本開示は、エレメントの製造産業に利用可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 無段変速機、2 プライマリシャフト、3 プライマリプーリ、3a 固定シーブ、3b 可動シーブ、4 セカンダリシャフト、5 セカンダリプーリ、5a 固定シーブ、5b 可動シーブ、6 プライマリシリンダ、7 セカンダリシリンダ、8 リターンスプリング、10 伝動ベルト、11 リング材、12 積層リング、20,220 エレメント、21,221 胴部、21a,224a サドル面、21b 段差部、21f,221f 側面、21s,221s 斜面、22 ネック部、23 ヘッド部、23a イヤー部、23p,221p 突起、23r,221r 窪み、23t 頂部、24,224 リング収容部、25,225 ロッキングエッジ、50 帯板素材、50o 開口部、50p パイロット穴、50s スリット穴、51,52 切り離し部、51s,52s 斜面、51r,52r 段差部、51p,52p 突起、51r,52r 窪み、51e,52e 余肉部、53 つなぎ部、53a,53b 稜線、100 エレメントの製造装置、101 アンコイラ、102 送り装置、105 プレス加工機、110 パイロット穴抜き・スリット穴抜き用金型、120 予備抜き用金型、121 ダイ、121a 段差部、121o 開口部、122 パンチ、122o 凹部、123 ノックアウト、124 ストリッパ、130 段差つぶし用金型、131~134 ノックアウト、131s,132s 傾斜形成部、131b,132b 段差部形成部、135 ノックアウトホルダ、136 押さえパンチ、140 板厚つぶし成形用金型、141 ノックアウト、142 押さえパンチ、150 エンボス成形用金型、151 エンボスダイ、151o 開口部、152 エンボスパンチ、153 ストリッパ、160 半抜き用金型、161 ダイ、161o 開口部、162 パンチ、163 ノックアウト、170 抜き落とし用金型、171 ダイ、171o 開口部、172 パンチ、222 ピラー部、222f フック部、C コイル材。
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