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特許7129399哺乳動物における滑膜炎の予防および/または治療に使用するためのポリアクリルアミドヒドロゲル
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  • 特許-哺乳動物における滑膜炎の予防および/または治療に使用するためのポリアクリルアミドヒドロゲル 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】哺乳動物における滑膜炎の予防および/または治療に使用するためのポリアクリルアミドヒドロゲル
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/785 20060101AFI20220825BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20220825BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220825BHJP
   A61K 9/00 20060101ALI20220825BHJP
   A61P 19/06 20060101ALI20220825BHJP
   A61L 27/16 20060101ALI20220825BHJP
   A61L 27/52 20060101ALI20220825BHJP
【FI】
A61K31/785
A61P19/02
A61P29/00
A61K9/00
A61P29/00 101
A61P19/06
A61L27/16
A61L27/52
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019502138
(86)(22)【出願日】2017-03-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-06-13
(86)【国際出願番号】 DK2017050099
(87)【国際公開番号】W WO2017167348
(87)【国際公開日】2017-10-05
【審査請求日】2020-03-26
(31)【優先権主張番号】16163450.6
(32)【優先日】2016-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518346339
【氏名又は名称】コントゥラ インターナショナル エーエス
【氏名又は名称原語表記】CONTURA INTERNATIONAL A/S
【住所又は居所原語表記】Sydmarken 23 2860 Soeborg Denmark
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】アンコリーナ-シュタルク, イエヴァ
(72)【発明者】
【氏名】クリステンセン, リーセ ハンネ
【審査官】福山 則明
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第02497468(EP,A1)
【文献】国際公開第2008/065756(WO,A1)
【文献】特開平01-207055(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0065389(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
新規の滑膜内層および滑膜下層の形成による哺乳動物の滑膜炎の治療における使用のためのポリアクリルアミドヒドロゲルであって、
前記滑膜下層は元の滑膜の上に形成され、前記新規の滑膜内層は関節腔に面した前記滑膜下層の上に形成され、
前記滑膜下層および/または前記新規の滑膜内層が、最大24ヶ月まで存在/持続する、ポリアクリルアミドヒドロゲル。
【請求項2】
前記ポリアクリルアミドヒドロゲルを無菌条件下での注射によって投与する、請求項1に記載の使用のためのポリアクリルアミドヒドロゲル。
【請求項3】
前記ポリアクリルアミドヒドロゲルを関節内注射によって投与する、請求項1から2のいずれかに記載の使用のためのポリアクリルアミドヒドロゲル。
【請求項4】
0.1~20mlのポリアクリルアミドヒドロゲルを関節内腔への注射によって投与する、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用のためのポリアクリルアミドヒドロゲル。
【請求項5】
0.1~20mlのポリアクリルアミドヒドロゲルを、少なくとも1回、たとえば2回、たとえば3回、たとえば4回、たとえば5回、たとえば6回、たとえば7回、たとえば8回、たとえば9回、たとえば10回、関節内腔への注射によって投与する、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用のためのポリアクリルアミドヒドロゲル。
【請求項6】
0.1~20mlのポリアクリルアミドヒドロゲルを、一定の間隔で、たとえば2週間ごとに1回、たとえば4週間ごと、たとえば6週間ごと、たとえば8週間ごと、たとえば10週間ごと、たとえば12週間ごと、たとえば14週間ごと、たとえば16週間ごと、またはさらにそれ以上の期間ごとに1回、関節内腔への注射によって投与する、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用のためのポリアクリルアミドヒドロゲル。
【請求項7】
前記哺乳動物が、ヒト、レーシング動物またはコンパニオン動物である、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用のためのポリアクリルアミドヒドロゲル。
【請求項8】
前記治療される哺乳動物がヒトであり、前記注射される1つまたは複数の関節が、膝、股関節、肘、手足の中手指節関節および指節間関節、種子骨関節ならびに/または顎関節である、請求項1から7のいずれか一項に記載のポリアクリルアミドヒドロゲル。
【請求項9】
前記治療される哺乳動物がウマであり、前記注射される1つまたは複数の関節が、後肢の球節、蹄、繋、後膝および/または膝関節である、請求項1から7のいずれか一項に記載の使用のためのポリアクリルアミドヒドロゲル。
【請求項10】
前記治療される哺乳動物がイヌであり、前記注射される1つまたは複数の関節が前肢の肘または後肢の膝関節もしくは股関節である、請求項1から7のいずれか一項に記載の使用のためのポリアクリルアミドヒドロゲル。
【請求項11】
前記哺乳動物が滑膜炎に罹患している、請求項1から10のいずれか一項に記載の使用のためのポリアクリルアミドヒドロゲル。
【請求項12】
前記哺乳動物が、変形性関節症もしくは関節リウマチなどの関節炎、狼瘡または痛風に罹患している、請求項1から11のいずれか一項に記載の使用のためのポリアクリルアミドヒドロゲル。
【請求項13】
前記哺乳動物が変形性関節症または関節リウマチに罹患している、請求項12に記載の使用のためのポリアクリルアミドヒドロゲル。
【請求項14】
新規の滑膜内層および滑膜下層の形成による哺乳動物の滑膜炎疼痛の治療における使用のためのポリアクリルアミドヒドロゲルであって、
前記滑膜下層は元の滑膜の上に形成され、前記新規の滑膜内層は関節腔に面した前記滑膜下層の上に形成され、
前記滑膜下層および/または前記新規の滑膜内層が、最大24ヶ月まで存在/持続する、ポリアクリルアミドヒドロゲル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物における滑膜炎の予防および/または治療に使用するためのポリアクリルアミドヒドロゲルに関する。
【背景技術】
【0002】
滑膜炎は、滑膜の炎症の医学用語である。この膜は、滑膜関節として知られる、腔所を有する関節を裏打ちする。その状態は通常痛みを伴い、特に関節を動かした場合に痛みがある。関節は通常、滑液収集に起因して腫脹する。
【0003】
原則として、滑膜の変化は炎症性または非炎症性であり得る。いくつかの良性腫瘍、たとえば腱鞘巨細胞腫、脂肪腫または滑膜軟骨腫症が後者の群に属する。まれな非炎症性変化は蓄積症の群である。炎症性滑膜疾患は、痛風および偽痛風などの結晶誘発性関節症、結核、サルコイドーシスおよび異物反応などの肉芽腫性疾患、ならびに非肉芽腫性滑膜炎の大きな群に分けることができる。この最後の群は圧倒的に最も一般的であり、しばしば組織病理学的所見を確定診断に割り当てるのを困難にする。
【0004】
したがって、滑膜炎は、関節炎ならびに狼瘡、痛風および他の状態と関連して起こり得る。滑膜炎は、他の形態の関節炎よりも関節リウマチにおいてより顕著であり、したがって識別因子としての役割を果たし得るが、変形性関節症(OA)に罹患した多くの関節にも存在する。
【0005】
粘膜補給は、ゲル様物質を関節に注入する工程である。この物質は、関節液への添加物と考えられ、したがって軟骨を潤滑にし、関節の柔軟性を改善する。しかし、この治療法は、現在使用されている物質は数週間から数か月以内に分解可能であるため効果が一時的のみであって、継続的な注射を必要とする。粘膜補給に使用される物質には、ヒアルロン酸またはHA(Legend(登録商標)、Hylartin(登録商標)およびSynacid(登録商標)、Synvisc、Euflexxa、Supartz等)ならびにAdequan(登録商標)などのポリ硫酸化グリコサミノグリカン(PSGAGS)が含まれる。
【0006】
ポリアクリルアミドヒドロゲル(PAAG)は、インビトロでの細胞増殖を支持し、インビボで宿主組織細胞の内殖を可能にするその能力で知られる。これは、マウス、ラット、ウサギ、ブタおよびヒトの軟部皮下組織において実証されている。組織の集積は、PAAG注射の直後にPAAGに対する一種の異物反応として始まる。宿主マクロファージおよび異物巨細胞が最初にPAAGを取り囲み、その後侵入する。その過程で、これらの細胞は徐々に線維芽細胞および内皮細胞に形質転換され、最終的にPAAGの内部に細い血管を有する線維状ネットワークを形成する。しかし、これらの組織におけるPAAGの集積はいずれの内腔表面とも会合しておらず、PAAGは、注射後14ヶ月までマクロファージおよび巨細胞を含んでいた。
【0007】
国際公開第02/16453号は、たとえば関節炎を治療するためのポリアクリルアミドヒドロゲル(PAAG)の使用を開示しており、この治療は、ヒドロゲルの潤滑およびクッション作用に基づくと考えられる。国際公開第2012/123385号は、関節炎に罹患している哺乳動物での関節腫脹および/または骨浮腫の治療および/または予防におけるPAAGの使用を開示する。国際公開第02/16453号または国際公開第2012/123385号のいずれもが、哺乳動物における滑膜炎の予防および/または治療を開示していない。
【0008】
ChristensenとDaugaard(J Arthritis 5: 217; September 16, 2016)は、変形性膝関節症をポリアクリルアミドゲル注射で処置した後の滑膜の組織学的外観に関する症例報告を提供している。
【0009】
哺乳動物におけるすべての種類の滑膜炎に共通の症状には、哺乳動物における様々なレベルの疼痛(pain)が含まれる。滑膜炎の症状は、NSAIDなどの抗炎症薬で治療することができる。別の可能性は、罹患した関節にステロイドを直接注射することである。具体的な治療は、滑膜炎の根底にある原因に依存する。様々な種類の既存治療に共通するのは、それらがすべて難点、たとえば短期間の治療、毒性および副作用を有することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第02/16453号
【文献】国際公開第2012/123385号
【非特許文献】
【0011】
【文献】Christensen and Daugaard (J Arthritis 5: 217; September 16, 2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、哺乳動物における滑膜炎を予防および/または治療するための代替的なまたは改善された方法が必要とされている。また、哺乳動物における滑膜炎の疼痛を予防および/または治療するための代替的なまたは改善された方法も求められている。
【0013】
驚くべきことに、本発明者らは、ポリアクリルアミドヒドロゲル(PAAG)が滑膜炎の予防および/または治療に有用であることを見出した。特定の理論に拘束されるものではないが、滑膜炎に対する鎮痛効果は、結合組織の細い線維で横断される、PAAGの安定で持続的な滑膜下層(sub-synovial layer)、および、滑膜細胞組成またはサイトカイン産生に対する変化によって引き起こされると考えられる。したがって、本発明は、驚くべきことに、新たな滑膜内層(synovial lining layer)が、哺乳動物関節へのPAAGの集積後に形成され、これが少なくとも24ヶ月間持続することを実証した。
【課題を解決するための手段】
【0014】
したがって、本発明の目的は、哺乳動物における滑膜炎の予防および/または治療に関する。本発明の別の目的は、滑膜炎に関連する疼痛の予防および/または治療である。
【0015】
殊に、たとえば短期間の治療、毒性および副作用に関する先行技術の上述した問題を解決または低減する、哺乳動物における滑膜炎を予防および/または治療するための代替的なまたは改善された方法を提供することが本発明の1つの目的である。
【0016】
したがって、本発明の1つの態様は、新規滑膜内層の形成によって哺乳動物における滑膜炎を予防および/または治療するのに使用するためのポリアクリルアミドヒドロゲルに関する。
【0017】
本発明の別の態様は、滑膜下層の形成によって哺乳動物における滑膜炎を予防および/または治療するのに使用するためのポリアクリルアミドヒドロゲルに関する。
【0018】
一実施形態では、本発明は、滑膜下層および新規滑膜内層の形成によって哺乳動物における滑膜炎を予防および/または治療するのに使用するためのポリアクリルアミドヒドロゲルに関する。
【0019】
一実施形態では、本発明は、哺乳動物における滑膜炎の予防および/または治療のための方法であって、前記哺乳動物にポリアクリルアミドヒドロゲルを投与して新規滑膜内層を形成することを含む方法に関する。
【0020】
一実施形態では、本発明は、哺乳動物における滑膜炎の予防および/または治療のための方法であって、前記哺乳動物にポリアクリルアミドヒドロゲルを投与して滑膜下層を形成することを含む方法に関する。
【0021】
一実施形態では、本発明は、哺乳動物における滑膜炎の予防および/または治療のための方法であって、前記哺乳動物にポリアクリルアミドヒドロゲルを投与して滑膜下層および新規滑膜内層を形成することを含む方法に関する。
【0022】
別の実施形態では、本発明は、新規滑膜内層の形成によって哺乳動物における滑膜炎を予防および/または治療するための薬剤を調製するためのポリアクリルアミドヒドロゲルの使用に関する。
【0023】
別の実施形態では、本発明は、滑膜下層の形成によって哺乳動物における滑膜炎を予防および/または治療するための薬剤を調製するためのポリアクリルアミドヒドロゲルの使用に関する。
【0024】
別の実施形態では、本発明は、滑膜下層および新規滑膜内層の形成によって哺乳動物における滑膜炎を予防および/または治療するための薬剤を調製するためのポリアクリルアミドヒドロゲルの使用に関する。
【0025】
本発明のさらなる態様は、新規滑膜内層の形成によって哺乳動物における滑膜炎疼痛(synovitis pain)を予防および/または治療するのに使用するためのポリアクリルアミドヒドロゲルに関する。
【0026】
本発明のさらなる態様は、滑膜下層の形成によって哺乳動物における滑膜炎疼痛を予防および/または治療するのに使用するためのポリアクリルアミドヒドロゲルに関する。
【0027】
本発明のさらなる実施形態は、滑膜下層および新規滑膜内層の形成によって哺乳動物における滑膜炎疼痛を予防および/または治療するのに使用するためのポリアクリルアミドヒドロゲルに関する。
【0028】
本発明のこの態様の一実施形態は、哺乳動物における滑膜炎疼痛の予防および/または治療のための方法であって、前記哺乳動物にポリアクリルアミドヒドロゲルを投与して新規滑膜内層を形成することを含む方法に関する。
【0029】
本発明のこの態様の一実施形態は、哺乳動物における滑膜炎疼痛の予防および/または治療のための方法であって、前記哺乳動物にポリアクリルアミドヒドロゲルを投与して滑膜下層を形成することを含む方法に関する。
【0030】
本発明のこの態様の1つの実施形態は、哺乳動物における滑膜炎疼痛の予防および/または治療のための方法であって、前記哺乳動物にポリアクリルアミドヒドロゲルを投与して滑膜下層および新規滑膜内層を形成することを含む方法に関する。
【0031】
別の実施形態は、新規滑膜内層の形成によって哺乳動物の滑膜炎疼痛の予防および/または治療のための薬剤を調製するためのポリアクリルアミドヒドロゲルの使用に関する。
【0032】
別の実施形態は、滑膜下層の形成によって哺乳動物における滑膜炎疼痛を予防および/または治療するための薬剤を調製するためのポリアクリルアミドヒドロゲルの使用に関する。
【0033】
別の実施形態は、滑膜下層および新規滑膜内層の形成によって哺乳動物における滑膜炎疼痛を予防および/または治療するための薬剤を調製するためのポリアクリルアミドヒドロゲルの使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1図1は、の、PAAGを注射したウサギ正常膝関節の、10日後(a、b)、90日後(c)および180日後(d)を示す。10日目に、PAAGは滑膜内層のすぐ下の腔内にまだ存在し(a、矢印)、増殖中の滑膜細胞によって支配されていた(b、矢印)。90日目および180日目に、滑膜内層は無傷であり(c、d、矢印)、集積したPAAGは、線維状ネットワークと混在する散在性の慢性炎症細胞だけを含んでいた(d、丸で囲んでいる)。HE×60(a)、HEx400(b)、HEx100(c)、HEx300(d)。
図2図2は、OAのためにPAAGで処置したウマ球節関節の、3ヶ月および8ヶ月後(a、b)ならびに24ヶ月後(c、d)を示す。滑膜表層(synovial surface lining)を矢印で示している。dにおいて24ヶ月目のPAAG内部の微細な線維状ネットワークを丸で囲んでいる。HEx200(a)、HEx100(b)、HEx60(c)およびワンギーソン/アルシアンブルーx150(d)。
【発明を実施するための形態】
【0035】
PAAGは、参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第02/16453号およびさらに国際公開第2012/123385号に記載されているように調製される。PAAGは、国際公開第02/16453号および国際公開第2012/123385号に記載されているヒドロゲルの任意の実施形態を含み得る。
【0036】
上記のように、本発明の1つの態様は、滑膜下層の形成および/または新規滑膜内層の形成によって哺乳動物における滑膜炎を予防および/または治療するのに使用するためのポリアクリルアミドヒドロゲルに関する。
【0037】
関連する態様では、本発明は、滑膜下層の形成および/または新規滑膜内層の形成によって哺乳動物における滑膜炎の疼痛を予防および/または治療するのに使用するためのポリアクリルアミドヒドロゲルに関する。
【0038】
一実施形態では、滑膜下層および/または新規滑膜内層は、最大で1ヶ月(M)以上、たとえば2M、たとえば3M、たとえば4M、たとえば5M、たとえば6M、たとえば7M、たとえば8M、たとえば9M、たとえば10M、たとえば11M、たとえば12M、たとえば13M、たとえば14M、たとえば15M、たとえば16M、たとえば17M、たとえば18M、たとえば19M、たとえば20M、たとえば21、たとえば22M、たとえば23M、たとえば24M、たとえば24M、たとえば25M、たとえば26M、たとえば27M、たとえば28M、たとえば29M、たとえば30M、たとえば30~35M、たとえば35~40M、たとえば40~45M、たとえば45~50M、たとえば50~55M、たとえば55~60Mまたは60M超にわたって存在/持続する。
【0039】
本発明によれば、滑膜下層の形成および新規滑膜内層の形成は、関節において、本発明のポリアクリルアミドヒドロゲルを関節腔に注入すると、身体が元の滑膜の上に新規の滑膜下層を付加/形成することを意味する。言い換えれば追加の層が滑膜に付加される。関節腔に面した新規の滑膜下層の上に、新規の滑膜内層が形成/付加される。驚くべきことに、滑膜における付加された新規滑膜下層および新規滑膜内層は、どちらも安定であり、非常に長期間持続する。
【0040】
本発明によれば、疼痛は、Western Ontario and McMaster Universities Arthritis Index(WOMAC)を用いて評価される。これは、医療従事者が、関節の痛み、硬さおよび物理的機能を含む、膝および股関節の変形性関節症を有する患者の状態を評価するために使用する、標準化されたアンケートの独自のセットである。したがって、WOMACは、ヒトにおける膝、股関節、肘、手および足の中手指節関節および指節間関節、種子骨関節ならびに/または顎関節の痛みを評価するために使用される。ウマまたはイヌなどの哺乳動物における疼痛は、獣医師によって主観的に評価される。
【0041】
好ましくは、本発明によれば、ポリアクリルアミドヒドロゲルは無菌条件下での注射によって投与される。一実施形態では、ポリアクリルアミドヒドロゲルは関節内注射によって投与される。
【0042】
PAAGの注射は局所麻酔下で実施され得るが、局所麻酔は必ずしも必要ではない。しかし、この手順は、好ましくは無菌条件下で実施される。注射領域を覆う毛髪をいずれも切り取り、皮膚を、たとえばクロルヘキシジンおよびエタノールで(たとえば交換可能に3回)十分に洗浄する。次いで、カニューレを関節腔に挿入し、関節内に適切に配置されていることを吸引によって確認する。一般に、少なくとも注入することが決定された液体量のために関節を空にし、その後所望の量のPAAGを注入する。関節の医原性感染を防止するために、抗生物質をPAAGに含めてもよい。
【0043】
本発明の一実施形態では、0.1~20mlのポリアクリルアミドヒドロゲルを関節内腔への注射によって投与する。
【0044】
別の実施形態では、0.1~20mlのポリアクリルアミドヒドロゲルを、少なくとも1回、たとえば2回、たとえば3回、たとえば4回、たとえば5回、たとえば6回、たとえば7回、たとえば8回、たとえば9回、たとえば10回、関節内腔への注射によって投与する。さらなる実施形態では、0.1~20mlのポリアクリルアミドヒドロゲルを、全部で少なくとも1~2回、たとえば全部で1~5回、たとえば全部で1~10回、たとえば全部で1~15回、たとえば全部で1~20回、たとえば全部で1~30回、たとえば全部で1~40回、たとえばさらに全部で40回を超えて投与する。投与は、数年、たとえば1年、2、3、4、5、6、7、8、9または10年の間にわたって実施することができる。
【0045】
さらに別の実施形態では、0.1~20mlのポリアクリルアミドヒドロゲルを、規則的な間隔で、たとえば2週間ごとに1回、たとえば4週間ごと、たとえば6週間ごと、たとえば8週間ごと、たとえば10週間ごと、たとえば12週間ごと、たとえば14週間ごと、たとえば16週間ごと、またはさらにそれ以上の期間ごとに1回、関節内腔への注射によって投与する。
【0046】
さらに別の実施形態では、0.1~20mlのポリアクリルアミドヒドロゲルを、たとえば2週間ごとに1回、たとえば4週間ごと、たとえば6週間ごと、たとえば8週間ごと、たとえば10週間ごと、たとえば12週間ごと、たとえば14週間ごと、たとえば16週間ごと、またはさらにそれ以上の期間ごとに1回の間隔で、たとえば合計で2回の注射、たとえば合計3回、たとえば合計4回、たとえば合計5回、たとえば合計6回、たとえば合計7回、たとえば合計8回、たとえば合計9回、たとえば合計10回にわたる関節内腔への注射によって投与する。
【0047】
0.1~20mlのポリアクリルアミドヒドロゲルはまた、1年に1回またはそれ以上、たとえば毎年2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回、11回または12回、1年間またはそれ以上、たとえば2年間、または3年間、または4年間、または5年間、または6年間、または7年間、または8年間、または9年間、または10年間にわたって、関節内腔への注射によって投与し得る。
【0048】
ポリアクリルアミドヒドロゲルの適切な量は、0.1ml~20mlの範囲内、たとえば0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18または19mlである。しかし、関節が拡張されるようなあまりに多くのヒドロゲルを注入することは勧められない。正確な量は、関節の大きさおよび滑膜炎の重症度に基づき、治療する医師または獣医によって決定される。
【0049】
好ましくは、1~2mlまたはそれ以上、たとえば1~3、たとえば1~4、たとえば1~5、たとえば1~6、たとえば1~7、たとえば1~8、たとえば1~9、たとえば1~10、たとえば1~11、たとえば1~12、たとえば1~13、たとえば1~14、たとえば1~15、たとえば1~16、たとえば1~17、たとえば1~18、たとえば1~19mlの量を投与する。
【0050】
本発明の一実施形態では、哺乳動物は、ヒト、レーシング動物またはコンパニオン動物である。最も適切な哺乳動物は、ヒト、ウマおよびラクダなどのレーシング動物、ならびにネコおよびイヌなどのコンパニオン動物であるが、ゾウ、キリン、トラ等のような治療を必要とする他の哺乳動物も該当する。好ましい一実施形態では、哺乳動物は、ヒト、ウマまたはイヌである。さらにより好ましい実施形態では、哺乳動物はヒトである。
【0051】
滑膜炎に罹患した任意の関節が治療され得る。非限定的な例は、ヒトの膝、股関節、肘、手足の中手指節関節および指節間関節、ウマの後肢の球節、蹄、繋、後膝および膝関節、ならびにネコおよびイヌの肘、膝および股関節である。また、種子骨関節および顎関節などの他の関節の治療も適切であり得る。
【0052】
本発明の別の好ましい実施形態では、治療される哺乳動物はヒトであり、治療される1つまたは複数の関節は、膝、股関節、肘、手足の中手指節関節および指節間関節、種子骨関節ならびに/または顎関節である。
【0053】
本発明のさらに別の実施形態では、治療される哺乳動物はウマであり、治療される1つまたは複数の関節は、後肢の球節、蹄、繋、後膝および/または膝関節である。
【0054】
本発明のなおさらなる実施形態では、治療される哺乳動物はイヌであり、治療される1つまたは複数の関節は、前肢の肘または後肢の膝もしくは股関節である。
【0055】
本発明のなおさらなる実施形態では、哺乳動物は滑膜炎に罹患している。
【0056】
本発明の一実施形態では、哺乳動物は、変形性関節症もしくは関節リウマチなどの関節炎、狼瘡または痛風に罹患している。
【0057】
関節炎は、身体の関節への損傷を含む一群の状態である。100を超える異なる形態の関節炎が存在する。最も一般的な形態である変形性関節症(変性関節疾患)は、関節に対する外傷、関節の感染、または加齢の結果である。他の関節炎形態は、関節リウマチ、乾癬性関節炎および関連する自己免疫疾患である。敗血症性関節炎は、関節感染によって引き起こされる。
【0058】
変形性関節症(OA)は、公知の治療法がない、痛みを伴う衰弱性の関節疾患である。これは、熱、痛み、腫脹、関節摩擦音(轢音、カサカサ音または皮膚の下の耳ざわり感もしくは音)、および罹患した関節における運動範囲の減少を特徴とする。ヒトにおいては、手、膝、股関節、脊柱および他の関節を侵す。ウマは、主に蹄、繋、球節、手根および後膝関節において変形性関節症に罹患し、発生率は年齢、体重および品種に依存する。
【0059】
関節リウマチ(RA)は、主に関節を侵す持続性の自己免疫疾患である。
【0060】
狼瘡またはエリテマトーデスは、ヒト免疫系が過活動性になり、関節などの正常で健康な組織を攻撃する自己免疫疾患の集合に与えられる名称である。
【0061】
痛風(母趾の基部の関節を含む場合は足部痛風としても知られる)は、通常、炎症性関節炎の再発性発作-赤く、圧痛があり、熱を持ち、腫脹した関節-を特徴とする。
【0062】
関節炎の種類にかかわらず、すべての関節炎障害に共通の症状には、多様なレベルの疼痛、腫脹、関節の硬さおよび時として関節周囲の持続性の痛みが含まれる。関節炎を患っている個人の主な愁訴は関節の痛みである。痛みはしばしば持続性であり、罹患した関節に局在し得る。関節炎による痛みは、関節の周囲に起こる炎症、疾患による関節の損傷、関節の毎日の損耗および断裂、硬くて痛みのある関節に対する強い運動によって引き起こされる筋緊張ならびに疲労に起因して起こる。
【0063】
本発明の別の実施形態では、哺乳動物は変形性関節症または関節リウマチに罹患している。
【0064】
本発明のさらなる実施形態では、哺乳動物は変形性関節症に罹患している。
【0065】
本発明のなおさらなる実施形態では、哺乳動物は関節リウマチに罹患している。
【0066】
ポリアクリルアミドヒドロゲル(PAAG)の調製
ヒドロゲルは、参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第02/16453号に記載されているように調製され得る。以下では、ポリアクリルアミドヒドロゲルはPAAGと略記され得る。
【0067】
ヒドロゲルは、国際公開第02/16453号および国際公開第2012/123385号に記載されているヒドロゲルの任意の実施形態を含み得る。好ましくは、ヒドロゲルは、ヒドロゲルの総重量に基づき、0.5~25重量%のポリアクリルアミドを含む。ヒドロゲルは、典型的には、少なくとも75重量%の発熱物質不含水または生理食塩水、好ましくは発熱物質不含水をさらに含む。
【0068】
ヒドロゲルは、アクリルアミドと架橋モノマーを組み合わせ、ラジカル開始によって重合を開始させ、発熱物質不含水または生理食塩水で洗浄することによって得られ、前記組み合わせおよび洗浄は、ヒドロゲルの総重量に基づき、約0.5~25重量%のポリアクリルアミドを与えるような量および洗浄である。このようにして得られたヒドロゲルは生体安定性と生体適合性の両方を有し、体内で再吸収されない。
【0069】
典型的には、ヒドロゲルは、アクリルアミドと架橋剤、たとえばN,N'-メチレン-ビス-アクリルアミドを、150:1~1000:1のモル比で組み合わせることによって得られる。N,N'-メチレン-ビス-アクリルアミドなどの架橋剤は、ポリマー鎖間の架橋を提供する働きをし、モル比は、ヒドロゲルの様々な架橋密度を提供するように変化させ得る。ヒドロゲルを得るための条件は、たとえば、ヒドロゲルを注入しようとする関節の性質に応じて変更し得る。弾性などの所望のレオロジー特性は、ヒドロゲルの固形分重量によって少なくとも部分的に制御し得る。本発明のヒドロゲルは、ヒドロゲルの総重量に基づき、約0.5~25重量%のポリアクリルアミドを含む。本発明の適切な実施形態では、ヒドロゲルは、ヒドロゲルの総重量に基づき、15重量%未満のポリアクリルアミド、好ましくは10重量%未満、より好ましくは7.5重量%未満、さらにより好ましくは5重量%未満、最も好ましくは3.5重量%未満のポリアクリルアミドを含む。
【0070】
この組み合わせは、典型的には脱気された、成分試薬であるアクリルアミドと架橋剤、たとえばN,N'-メチレン-ビス-アクリルアミドを、典型的には操作者の接触を最小限に抑える方法で組み合わせることを含む。試薬成分は、任意に、予め組み合わせて不活性混合物を形成してもよい。不活性混合物は、成分試薬の間で化学反応が進行しない混合物である。この組み合わせは、アクリルアミド、N,N'-メチレン-ビス-アクリルアミドなどの架橋剤、および重合を開始させるためのラジカル開始剤成分を組み合わせることを含む。適切な実施形態では、アクリルアミド、N,N'-メチレン-ビス-アクリルアミドなどの架橋剤、およびN,N,N',N'-テトラメチレン-エチレンジアミン(TEMED)の不活性予混合物を過硫酸アンモニウム(AMPS)開始剤溶液と組み合わせる。しかし、これらの成分は、単独として、または選択的な複数の予混合物として組み合わせてもよい。
【0071】
アクリルアミドとN,N'-メチレン-ビス-アクリルアミドなどの架橋剤を、適切には約150:1~1000:1、典型的には約150:1~900:1、好ましくは約175:1~800:1、より好ましくは約200:1~600:1、最も好ましくは250:1~600:1のモル比で組み合わせる。表2および3に示すように、異なる固形分含量およびレオロジー特性のヒドロゲルを制御可能に調製し得る。所望のレオロジー特性を有するヒドロゲルは、アクリルアミドとN,N'-メチレン-ビス-アクリルアミドを約250:1、約260:1、約270:1、約280:1、約290:1、約300:1、約310:1、約320:1、約330:1、約340:1、約350:1、約360:1、約370:1、約380:1、約390:1、約400:1、約410:1、約420:1、約430:1、約440:1、約450:1、約460:1、約470:1、約480:1、約490:1および約500:1の比率で組み合わせることによって得られた。
【0072】
殊に、ヒドロゲルを関節内に注入する実施形態では、ヒドロゲルの弾性が非常に重要である。好ましい実施形態では、本発明のヒドロゲルは、約1~200Pa、たとえば約2~175Pa、典型的には約5~150Pa、たとえば10~100Paの弾性率を有する。当業者は、意図される使用のために適切な弾性を有するヒドロゲルを得る方法がわかるであろう。また、低、中および高弾性のヒドロゲルの調製を説明する以下の実施例も参照されたい。
【0073】
ヒドロゲルは、少なくとも75重量%の発熱物質不含水または生理食塩水、好ましくは発熱物質不含水を含む。本発明の適切な実施形態では、ヒドロゲルは、少なくとも80重量%の発熱物質不含水または生理食塩水、好ましくは少なくとも85重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、さらにより好ましくは少なくとも95重量%の発熱物質不含水または生理食塩水を含む。
【0074】
適切な生理食塩水は、間質液の浸透圧と類似の浸透圧を有する。適切な生理食塩水には、0.25~1%塩化ナトリウム水溶液、リンガー-ロッカール溶液、アール溶液、ハンクス溶液、イーグル培地、0.25~1%グルコース溶液、塩化カリウム溶液および塩化カルシウム溶液を含む群が含まれるが、これらに限定されない。好ましい実施形態では、生理食塩水は、0.8~1%塩化ナトリウム水溶液、たとえば0.8、0.9または1%塩化ナトリウム水溶液、最も好ましくは約0.9%塩化ナトリウム水溶液である。
【0075】
当業者には明らかなように、PAAGの調製および/またはPAAGの洗浄のいずれかのために生理食塩水を使用する実施形態では、PAAGの固形分重量は、ポリアクリルアミドによってもたらされる寄与分より高いが、典型的には追加の1%以下である。
【0076】
本発明のとりわけ適切な実施形態では、ヒドロゲルは、ヒドロゲルの総重量に基づき、約2.5重量%のポリアクリルアミドおよび約97.5%の発熱物質不含水を含む。
【0077】
発熱物質不含水または生理食塩水は、洗浄工程でヒドロゲルを洗浄するために使用される。この洗浄工程は、一部には、モノマーのアクリルアミドおよびN,N'-メチレン-ビス-アクリルアミドなどの架橋剤のほぼすべてを除去する役割を果たす。これらのモノマーは、ヒドロゲルの安定性に有害であるだけでなく、患者に対して毒性である。洗浄工程は、好ましくは、残存するモノマーアクリルアミドおよびN,N'-メチレン-ビス-アクリルアミドなどの架橋剤の濃度が50ppm未満、より好ましくは40ppm未満、たとえば30ppm未満、最も好ましくは20ppm未満、典型的には10ppm未満、殊に好ましくは5ppm未満であるように行う。
【0078】
架橋剤
本発明によるヒドロゲルは、N,N'-メチレン-ビス-アクリルアミド、N,N'-エチレン-ビス-アクリルアミド、エチレン-ビス(オキシエチレンニトリル)-四酢酸オキシド、エチレン-ビス-(オキシエチレンニトリル)四酢酸、およびそれらの混合物からなる群より選択される架橋剤を含み得る。一実施形態では、架橋剤は、N,N'-メチレン-ビス-アクリルアミド、N,N'-エチレン-ビス-アクリルアミド、およびそれらの混合物からなる群よる選択される。さらなる実施形態では、架橋剤はN,N'-メチレン-ビス-アクリルアミドである。
【0079】
本発明の態様の1つに関連して記載される実施形態および特徴は、本発明の他の態様にも適用されることに留意すべきである。
【0080】
本出願において引用されるすべての参考文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0081】
本発明を以下の非限定的な実施例においてさらに詳細に説明する。
【実施例
【0082】
[実施例1]ヒドロゲルの調製
ヒドロゲルの調製:
PAAGは、アクリルアミド(AM)およびN,N'-メチレン-ビス-アクリルアミド(bisAM)のモノマーの重合によって製造されるポリアクリルアミドゲルである。最終生成物は種々の弾性率を有し得る。
【0083】
ヒドロゲルは、典型的には約95%の水を含む。モノマーのアクリルアミドおよびN,N'-メチレン-ビス-アクリルアミドの濃度は、10ppm未満であることが示されており、しばしば5ppm未満で、最終生成物の所望の安定性に十分である。
【0084】
最終生成物は、pH、重金属が含まれていないこと、屈折率、安定性、発熱物質不含であることについて適合しなければならず、また無菌で、実際上不活性であり、実質的にモノマーを含まないものでなければならない。
【0085】
調製1.1
合成による調製は、適切には以下の操作を含む:
1.2つの混合物、A1およびA2を調製する。A1は、水、アクリルアミド、N,N'-メチレン-ビス-アクリルアミド、N,N,N',N'-テトラメチレン-エチレン-ジアミン(TEMED)を含む。A2は、水および過硫酸アンモニウムを含む;
2.2つの混合物を以下の比率、すなわち、A1 1990mL、A2 10mLで組み合わせ、45℃に保持して、窒素下で20秒間脱気する;
3.反応混合物をいくつかの100mLビーカーに流し込む;
4.重合を0.5~1.5時間進行させる;
5.ゲルを離型する;
6.残留モノマーを抽出し、WFI水中で92時間平衡させて、水を数回、典型的には92時間の間に8回交換する;
7.精製されたゲルを、垂直振動格子で摩砕することによって均質化する;
8.シリンジを均質化されたゲル物質で満たす;
9.シリンジのオートクレーブ処理。
【0086】
ヒドロゲルを調製するための典型的な方法は、以下のように要約し得る:
【0087】
調製1.2
工程の要約
ゲルは、アクリルアミド(AM)および架橋剤としてのN,N'-メチレン-ビス-アクリルアミド(bisAM)のモノマー水溶液と、共開始剤としてのN,N,N',N'-テトラメチレンエチレンジアミン(TEMED)およびフリーラジカル開始剤(レドックス系)としての過硫酸アンモニウム(AMPS)とを混合することによって調製する。バルク溶液を窒素下で脱気することによって、重合が開始する。最終的な重合後、ゲルを、ネットトレイを有する洗浄タンクに移し、ゲルをネットトレイの上に置く。水洗浄の間に、ゲルが膨潤し、モノマー残留物が抽出される。膨潤したゲルを供給し、オートクレーブされたシリンジにゲルを送達させる充填ユニット中に排出する。2つの代替的な製剤、すなわち弾性が下端の製剤と上端の製剤を調製した。
【0088】
【表1】
【0089】
上記はヒドロゲルの典型的な製剤であり、一定の範囲内で調整し得る。
【0090】
調製1.3
インライン架橋工程によるポリアクリルアミド製剤
本発明のヒドロゲルを調製する、とりわけ興味深い方法は、インライン架橋工程を含む。2つの個別の最終的に脱気された流れ、すなわち1つはアクリルアミド、N,N'-メチレン-ビス-アクリルアミド(架橋剤)およびTEMEDの予混合物であり、もう1つはAMPS開始剤溶液である流れを、混合、化学的開始および重合が起こるテフロン(登録商標)製または鋼製の管型反応器内へのその後の下流押出のためにスタティックミキサーにポンプで注入する。反応器からのゲルの表面積が大きいため、ゲルの洗浄は簡易化される。
【0091】
モノマー、架橋剤および開始剤の濃度およびそれらの相対モル比を選択すること、ならびに2つの流れの速度および重合温度を調節することによって、架橋度および固体含量が異なるゲルを生成することが可能である。
【0092】
調製1.4
試薬を表2、3および4に記載する比率で組み合わせ、表に記載されているように(特に指示がない限り発熱物質不含水を用いて)洗浄して、低、中および高弾性製剤を得た。0.5~25%ポリアクリルアミドの固形分重量を有するヒドロゲルを調製した。
【0093】
【表2】
【0094】
【表3】
【0095】
【表4】
【0096】
【表5】
【0097】
[実施例2]動物の関節へのPAAG(ポリアクリルアミドヒドロゲル)の集積試験
この組織病理学的試験の目的は、PAAGの関節内注射が正常およびOA動物の関節中に集積されるかどうか、されるとすればどこであるのか、およびこの集積が長時間持続するかどうかを調べることであった。
【0098】
方法
2つの動物の関節種を検討した。第一に、ウサギにおける正常膝関節についての前向きで長期的な対照試験を実施し、第二に、死亡前の種々の時点でPAAGによって処置したOAのウマの関節に関して死後検査を行った。これらすべての症例で使用したPAAGはAquamid Reconstruction(登録商標)(Contura International A/S,Soeborg, Denmark)であった。倫理的承認をDanish Animal Welfare Organization(dyreforsogstilsynet, reference J. nr. 2010/561-1774)から得た。
【0099】
正常ウサギ関節における前向き比較試験
合計10匹の2歳のニュージーランド白色ウサギを使用した。最初の4匹には、2.5%PAAGを右膝に注射し、対照として左膝に生理食塩水を注射した。残りの6匹のウサギにも右膝にPAAGを注射したが、左膝には対照としてとしてヒアルロン酸(HA、Durolane 20mg/ml、Galderma, Switzerland)を注射した。注射したPAAG、生理食塩水またはHAの容量は、各膝につき0.3mlであった。これを、数滴の関節液を除去した後に投与した。ウサギを毎日健康状態に関して観察し、体重を週に1回測定し、標準条件下で対にして維持した。最初の4匹のウサギ(生理食塩水対照群)を10日後に処分した。残りの6匹のウサギは、3、6および12ヶ月後に一度に2匹ずつ処分した。10匹すべてのウサギについて、両膝関節を摘出し、肉眼的に検査した。関節のすべての滑膜、軟骨、腱および脂肪組織を切除し、組織マーカーとしてH&Eおよびワンギーソン/アルシアンブルー染色を用いて組織病理学的検査のために処理した。
【0100】
ウマにおける変形性関節症の関節の試験
この試験には、PAAGで処置されていた、獣医によって診断されたOAの合計13の関節を呈する7頭のウマ(5~13歳、中央値10歳)が含まれた。OAのない5つの関節を対照として用いた。ウマは3つの異なる馬施設で実施された大規模な前向き臨床試験の一部であり、各関節につき1~4(平均2)mlのPAAGを注射し、処置の効果を術後2年まで追跡調査した。その期間中に死亡したウマの脚関節について組織病理学的検査を行った。PAAGによる治療は、以前に7日間から2年間実施されていた。すべてのウマを、PAAG処置とは無関係の原因で安楽死させていた。関節の切開および肉眼的検査後、内包を示すすべての滑膜組織を定期的に固定し、パラフィン包埋して、光学顕微鏡検査用に染色した。軟骨からの試料も検査した(各関節から2つ)。
【0101】
結果-ウサギの試験
正常関節を有するウサギは、注射時にすべて健康であり、試験期間中もそのままで、いずれの時点でも関節運動の変化(たとえば活動の制限または跛行)はなかった。肉眼検査では、注射部位にわずかな包出血があった2例以外は差がなかった。関節腔を開放すると、滑液および滑膜内層の両方が、10日目の生理食塩水処置側と比較して、PAAG処置側でわずかに厚くなっているように見えた。いずれの時点でも、PAAG処置関節とHA処置関節の間で肉眼的な違いは識別できなかった。
【0102】
10日目のPAAG処置側の光学顕微鏡検査は、増殖中の滑膜細胞を含むPAAG(図1b)に起因して、生理食塩水注入側より5~10倍厚い新規の滑膜内層を示した(図1a)。
【0103】
90日目、180日目および360日目に、滑膜層は、PAAG処置側では依然として最大10倍厚く(図1c)、滑膜内層が腔に面したPAAGの上に存在した。この時点で、散在性の滑膜細胞だけが、微細な線維状ネットワークと混在してPAAGの内部に見られ(図1d、関節腔内にはPAAGが認められなかった(図1cおよび1d)。
【0104】
結果-ウマの試験
肉眼的所見:蹄、球節および膝関節がPAAGで処置されていた。3つの未処置の蹄関節と2つの球節関節は対照としての役割を果たした。関節腔を開くと、様々な等級の骨棘形成および/または軟骨欠損が、5つの処置した球節関節のうちの3つにおいてのみ見られた。PAAGは、厚く、滑らかで輝きのある黄色の物質として、または蹄関節では腔に面した前縦腱の内側部分に沿って小さい透明な沈着物として現れた。腔の内部の遊離PAAGは、肉眼検査では関節液と識別できなかった。
【0105】
光学顕微鏡検査所見:短期間では、処置の1週間後および2週間後に、PAAGは、ウサギモデルで見られた組織学と同様に、増殖中の滑膜細胞と混在する滑膜ライニングの内層として現れた。1ヶ月目に、滑膜細胞は明らかに表面の方へ移動しており、3ヶ月目には滑膜細胞の別個の層が集積されたPAAGの上に形成されていた(図2a)。8ヶ月目(図2b)および24ヶ月目(図2cおよび2d)に同じパターンが認められた。一般に、集積されたPAAGの膜厚の減少はなく、より高い倍率では、PAAGは、最初は散在する炎症細胞、おそらく滑膜細胞を有し(図2a)、その後は微細な繊維状ネットワークとごくわずかな炎症細胞を有する(図2d)、厚い集積帯として現れたことが認められた。
【0106】
結果の要約
注射したPAAGの集積は、ウサギでは10日目に、ウマでは14日目までに明らかであり、滑膜細胞の増殖およびPAAGへの侵入を伴った。ウサギ関節では90日目まで、ウマ関節では30日目までに、PAAGは滑膜下層を形成しており、これは、血管を有する結合組織の細い線維によって横断され、関節腔に面した新規の滑膜内層によって覆われていた。この組織学的外観は、ウマ関節では注射後2年まで持続した。
【0107】
結論
PAAGの関節内注射は、結合組織の細い線維で横断されるPAAGの安定で長期間持続性の滑膜下層をもたらす。さらに、注入されたPAAGは、マクロファージおよび巨細胞を含まなかった。巨細胞は感染に応答して生じることがあり、したがって、この状況でのそれらの存在は、PAAGの炎症または不安定な集積の徴候であった可能性がある。したがって、今回の試験は、驚くべきことに、そして独特に、PAAGの集積後の鎮痛性、非毒性、長期間持続性の安定な新規の滑膜内層の形成を実証し、これはいずれの時点でも巨細胞を含まなかった(図1(a、c、d)および図2(a~d))。
【0108】
理論に拘束されるものではないが、哺乳動物における疼痛性滑膜炎の予防および/または治療を提供するのは、滑膜細胞組成またはサイトカイン産生の変化であることが見出されている。したがって、関節内PAAGは関節滑膜中に存在し、長時間にわたって持続する。
【0109】
[実施例3]変形性関節症の関節におけるヒト疼痛スコアの臨床試験
臨床試験の概要
試験の名称:
変形性膝関節症の患者におけるAquamid Reconstruction(登録商標)の後ろ向きおよび前向き観察試験。
【0110】
試験期間:
患者を2010年3月から2015年1月まで治療し、治療後少なくとも12週間追跡調査した。
【0111】
目的:
第一の目的は、Aquamid Reconstruction(登録商標)による治療の少なくとも12週間後のWOMAC疼痛サブスコアにおけるベースラインからの結果を評価することであった。
【0112】
第二の目標は、1)WOMACスコアの合計および硬さと機能性のサブスコアのベースラインからの結果を評価すること;2)Aquamid Reconstruction(登録商標)の注射の少なくとも12週間後の患者の主観的な治療効果の認識を評価することであった。
【0113】
方法:
これは、変形性膝関節症のためにAquamid Reconstruction(登録商標)によって承認適応症外で治療されていた患者の非介入的フォローアップ試験であった。
【0114】
この試験は、患者の医療記録から人口統計学的およびベースライン特性を検索した後ろ向き部分と、ベースラインのWOMAC疼痛サブスコアを有する患者が試験に参加することができた前向きのフォローアップ部分で構成された。前向き部分については、データの大部分が症例報告書から収集された。Aquamid Reconstruction(登録商標)で治療した後、少なくとも12週間後に患者を追跡調査した。
【0115】
患者数:
24名の患者を含み、合計32の膝関節を治療した。
【0116】
診断および選択基準:
この試験に適格であるためには、患者は以下の通りでなければならない:
1)疼痛、腫脹、過剰な関節液および関節の動きの制限などの主観的症状を伴う変形性膝関節症のためにAquamid Reconstruction(登録商標)で治療されており、アメリカリウマチ学会(American College of Rheumatology)によって定められた基準に従って中等度から重度の変形性関節症を有すると分類され、これまでに他の治療に失敗している。
2)インフォームドコンセントフォームに署名している。
【0117】
評価基準:
効果:有効性の主要評価項目は、ベースラインから少なくとも12週間のフォローアップまでのWOMAC疼痛サブスコアの変化である。
【0118】
有効性の副次評価項目は、WOMACスコアの合計の変化およびベースラインから少なくとも12週間までの硬さと機能性のサブスコアならびに患者の治療有効性の主観的認識である。
【0119】
結果:
効果:ベースラインから最後の追跡調査訪問までの、WOMAC疼痛サブスコア(P=0.0002)および3つの有効性の副次評価項目(WOMACスコアの合計ならびに硬さおよび身体機能のサブスコア)の各々(それぞれ(P=0.0012)、(P=0.0008)および(P=0.0048))の平均変化において統計的に有意な改善があった。
【0120】
安全性:重篤な有害事象は報告されなかった。周術期および術後に、少数の患者において腫脹および不快感などの注射に対する一般的な軽度で一過性の副作用が観察されたが、感染などの重大な合併症は認められなかった。追跡調査時に不快感/有害事象を報告した患者はいなかった。
【0121】
結論:
Aquamid Reconstruction(登録商標)は、持続的な効果を有する、膝関節の変形性関節症の患者のための有効で安全な治療である。
【0122】
臨床試験の詳細
Aquamid Reconstruction(登録商標)(AR)は、ポリアクリルアミドヒドロゲル(PAAG)である。
【0123】
1.背景
2010年3月から2015年1月の間に、アメリカリウマチ学会によって定められた基準に基づく膝のOAを有する24名の患者にARを注射した。合計32の膝関節にARによる治療を行った。注射の前に、X線によってOAの診断を確定し、OAの重症度を5つのスコア(0、なし;1、疑わしい;2、軽度;3、中等度;4、重度)からなるKellgren and Lawrence分類に従って等級付けた。
【0124】
有効性評価項目は、最初の治療から少なくとも12週間後のWOMACサブスコアおよび合計スコアの変化ならびに患者の治療成績の主観的認識である。
【0125】
膝関節のOAを有する患者におけるAquamid Reconstruction(登録商標)での治療は、他の治療(非薬理学的および薬理学的)に対して適切な応答がなく、人工膝関節置換術を延期することができるまたは潜在的に完全に回避することができる治療への希望を表明した患者において承認適応症外状況で行われた。
【0126】
1.1 検査装置
ARは、2.5%のポリアクリルアミドおよび97.5%の非発熱性の水を含む。ARは、生体適合性、非生分解性であり、安定で無菌である。
【0127】
ゲルは、滅菌された1mlの密封プレフィルドシリンジ中で提供される。ゲルを、滅菌21G×2インチ(0.8×50mm)針を用いて関節内に注射した。
【0128】
ゲルは、通常の室温(30℃以下)で乾燥した環境で保存すべきである。これは単回使用だけを意図されている。注射前に、パッケージが損傷を受けておらず、目で見える変化がないことを確認すべきである。
【0129】
1.2 投与方法
ARを注射したすべての患者に対して以下のアプローチを用いた:
手順は無菌条件下で行った。注射の前に、注射部位を、注射部位の周りの少なくとも半径5cmで、クロルヘキシジンとアルコールで3回、1分の間隔をおいて拭いた。注射は関節腔内に行った。関節滲出液が存在する場合は、同じ針を用いて注射の前に除去した。21G×2インチ(0.8×50mm)の針を使用した。
【0130】
ヒドロゲルの注射は局所麻酔下で実施した(関節内および注射部位で直接の両方)。
【0131】
注射は、外側近位凹部において超音波を用いて実施した。患者は、横になるかまたは膝を80~90°に曲げて座っていた。
【0132】
シリンジ、針および未使用の物質は治療時間後に廃棄した。
【0133】
1.3 投与
最初に1~5mlを注射した。十分な有効性が得られなかった場合は、少なくとも2週間後に別の1~6mlを注射した。一部の患者には3回まで注射を実施した。表6参照。
【0134】
1.4 試験計画
この非介入試験は、過去のデータを患者の医療記録から検索した後ろ向き部分と、追跡調査訪問時にデータを前向きに収集したフォローアップ部分で構成された。AR注射および関連するデータは、日常的な臨床業務の一部として収集され、そのため具体的なフォローアップ間隔は計画されておらず、また厳密な評価スケジュールにも従わなかった。
【0135】
ベースラインのWOMACスコアを有し、最初のAR注射後少なくとも12週間追跡調査された患者が含まれた。患者の医療記録およびCFRから、治療前および/または治療後に記録された以下のデータを得た:
・治療の日付
・人口統計学的特性(年齢、性別、身長、体重)
・変形性膝関節症の重症度(Kellgren Lawrenceグレーディング)
・AR治療前の他の治療/介入
・治療についての詳細(注入された容量)
・WOMACスコア
・治療成績の主観的認識
・合併症/有害事象
【0136】
患者は、WOMACアンケートを完了し、治療効果の主観的認識を提供するため、およびARによる治療後に患者が経験した可能性のある合併症/医学的問題についての情報を提供するために、診療所を訪れるかまたは電話で連絡を取った。
【0137】
1.5 適格基準
ARによる治療を受けるためには、患者は以下の基準を満たさなければならなかった:
1.アメリカリウマチ学会によって定められた基準に基づく膝のOA
2.署名済みのインフォームドコンセントフォーム
【0138】
2.効果
2.1 Western Ontario and McMaster Universities(WOMAC)変形性関節症指数
Western Ontario and McMaster Universities(WOMAC)変形性関節症指数は、痛み、硬さおよび身体機能を評価するために、股関節および/または膝の変形性関節症を有する患者によって完成されるように設計された疾患特異的アンケートである。WOMACのアンケートは、5ポイントのリッカートタイプおよび100mmの視覚的アナログスケール(VAS)形式で利用可能である。VASとリッカートスケールの回答は高い相関を示すが、リッカートスケールは、連続線上にXのマークを付けるよりも単語や語句に関連するチェックボックスの方が患者は理解しやすいので、実施がより容易であると考えられる。すべての患者に使用されたリッカートスケールバージョンは、すべての項目について以下の記述子:なし、軽度、中等度、重度および極度を使用する。これらは0~4の順序尺度に対応する。
【0139】
スコアを各サブスケールの項目について合計し、可能な範囲は次の通りである:痛み=0~20、硬さ=0~8、身体機能=0~68。総WOMACスコアは、3つすべてのサブスケールの項目を合計して作成される。より高いWOMACスコアは、より悪化した痛み、硬さおよび機能制限を示す。可能な最高合計スコアは96である。
【0140】
WOMAC変形性関節症指数は、3つのサブスケールに分けられた24の項目で構成される:
・痛み(5項目):歩行、階段の使用、就寝、座るまたは横になる、および立っている間
・硬さ(2項目):1日の最初の起床後およびそれより後
・身体機能(17項目):階段の使用、座位からの立ち上がり、立っていること、屈曲、歩行、車の乗り降り、買い物、靴下の着脱、ベッドからの起き上がり、ベッドへの横たわり、風呂に入る/風呂から出ること、便器に座る/便器から離れること、重い家事、軽い家事。
【0141】
アンケートは、本人が直接、電話で、またはコンピュータで完了することができ、主に患者が追跡調査訪問のために訪れた時に診療所で完了されたが、一部は電話で完了された。
【0142】
2.2 患者の主観的認識
患者は、自らの状態を表すための4つの選択肢:痛みなし(治癒)、改善、変化なし、悪化の1つを選択することによって治療成績の認識を示すように求められた。
【0143】
さらに、患者は、人工膝関節置換術を受けるどうかを尋ねられた。
【0144】
2.3 安全性
各追跡調査訪問時に、患者はAR注射以後のAE/医学的問題の発生について尋ねられた。合併症および医学的問題をCRFに記録した。周術期および術後の合併症/AEがあれば、それらを医療記録に記載した。
【0145】
3.統計方法
3.1 サンプルサイズの考察
患者の数を利用可能なデータによって決定した。したがって、サンプルサイズの評価またはパワー計算のいずれも行わなかった。
【0146】
3.2 結果の報告のための一般的なアプローチ
収集されたデータを、記述統計を用いて要約する。連続パラメータの記述統計は、該当する場合、観測値数(n)、欠測値数(nmiss)、平均値、標準偏差(SD)、中央値、最小値(min)および最大値(max)を含み、一方カテゴリパラメータは頻度およびパーセンテージを含む。
【0147】
該当する場合、95%の信頼区間で推定値を提示する。多重度の補正は適用しない。正規仮説検定は行わない。
【0148】
3.3 有効性評価項目の解析および報告
有効性の主要評価項目は、ベースラインから12週間のフォローアップまでのWOMAC疼痛サブスコアの変化である。ベースライン値は、投与の前または投与の当日に評価された最後のWOMAC疼痛サブスコアと定義する。12週間のフォローアップは、12週間目またはそれ以降に評価された最初のWOMAC疼痛サブスコアと定義する(投与日を1日目として、12週間×7日以上を評価の相対日と定義する)。
【0149】
主要評価項目の平均値および標準偏差を含む記述統計を提示する。該当する場合、評価項目の正規分布を仮定した平均値の95%信頼区間を提示する。正規分布を使用するための前提条件は、評価項目の分布を示すことによってグラフで検討する。前提条件が満たされないと考えられる場合は、評価項目の変更またはノンパラメトリック法の使用などの、解析のための他のアプローチを用いる。該当する場合、変化をベースライン値に対して補正する。
【0150】
予備解析のために、応答をベースラインから少なくとも20%の改善と定義することなどの、さらなる応答者の定義を導入してもよい。
【0151】
3.4 安全性評価項目の報告
合併症および有害事象の数を記述的に要約し、全体数としておよびタイミングごとに(投与前と投与後および投与後少なくとも12週間に生じたもの)、および該当する場合は注入順序番号ごとに提示する。
【0152】
【表6】
【0153】
3.5 治療および追跡調査情報
24名の患者で、32の膝にAR治療を行った。治療した32の膝のうち、26の膝(81.3%)に再注射した;23の膝には2回の注射を行い、3つの膝には3回の注射を行った。
【0154】
各関節に注入された総容量の中央値は6.50ml(範囲2.0~11.0)であった。詳細は表6参照。ほとんどの患者は、最初の注射の2~14週間後に2回目の注射を受けた;しかし、3名の患者は、最初の注射から26、32および212週間後に2回目の治療を受けた。
【0155】
【表7】
【0156】
治療前および追跡調査訪問時に、患者はWOMACアンケートを完了した。追跡調査訪問時に、患者はまた、治療成績の認識について、および膝の人工膝関節置換術を受けたかどうかを尋ねられた。最初のAR治療からの追跡調査期間の平均値±SD(中央値)は、428±522(210)日(範囲104~1744日)であった。
【0157】
4.有効性評価データ(データは示していないが、以下に要約する)。
4.1 治療成績の患者の主観的認識
治療成績の患者の主観的評価は、20の膝(62.6%)が「治癒/痛みなし」(6.3%)または「改善」(56.3%)のいずれかに分類されることを示した。8つの膝(25.0%)は「変化なし」と報告され、3つの膝(9.4%)は「悪化」と報告された。1名の患者が、試験期間中に左膝の人工膝関節置換術を受けた(「切除」)。
【0158】
治療成績の患者の主観的認識を表7に示す。
【0159】
【表8】
【0160】
痛みがない(治癒した)または改善したと報告した患者は、WOMAC疼痛サブスコアにおいても最も高い変化を示し、それぞれ(-10.0)および(-4.9)であった。総WOMACスコアおよび2つのサブスコア(硬さと身体機能)についても同様の関係が見られる。患者が報告した治療成績に関連するWOMACスコアについて、結果を表8に示す。
【0161】
【表9】
【0162】
1 患者ID54は、左膝に注射を受け、当初は処置に対して良好な反応があり、2ヶ月後にこれが減少し、患者は戻って2回目の注射を左膝に受けた。同じ時点で、左膝にもまたARを注入された。左右両方の膝に良好な改善が示され、患者は1日に40kmサイクリングした。改善は約6ヶ月間持続し、その後左膝の効果が減少し、患者には膝全置換が予定された。右膝の前処理WOMACは取得されなかったが、この膝は、注射後42ヶ月、優れている。後処理WOMACはAR注入後3.5月に取得された。
【0163】
5.安全性評価
5.1.有害事象
重篤な有害事象は報告されなかった。周術期および術後に、少数の患者において腫脹および不快感などの注射に対する一般的な軽度で一過性の副作用が観察されたが、感染などの重大な合併症は認められなかった。
【0164】
追跡調査時に不快感/有害事象を報告した患者はいなかった。
【0165】
治療された患者の数は限られており、これは、観察された合併症の欠如を説明し得る。しかし、PAAGは、他の適応症において合併症がほとんどない、良好な安全性プロファイルを示している。
【0166】
6.結論
32の膝についての今回の試験、それに続くPAAG治療後平均7ヶ月の追跡調査で見られたWOMACスコアの低下は、総WOMACスコアおよびすべてのサブスコアについて統計的に有意であった。プラセボ効果は、現在の非侵襲的治療では最大6ヶ月間持続することが公知である。その期間後、再注射しなければ症状が再発する。
【0167】
試験の主要評価項目-WOMAC疼痛サブスコアの変化-は、すべてのOA重症度群で約40%有意に低下した(P=0.0002)。OA重症度群1および2は、OA重症度群3および4(中央値変化-2.0)よりも疼痛スコアへの数値的に大きな効果(中央値変化-5.5)を示した。
【0168】
興味深いことに、WOMAC疼痛サブスコアの変化は、OA重症度スコア3および4について有意(P=0.0107)であった。
【0169】
驚くべきことに、本発明者らは、ポリアクリルアミドヒドロゲル(PAAG)が変形性関節症(OA)に罹患しているヒトにおける疼痛の予防および/または治療に有用であることを見出した。
【0170】
滑膜炎は、変形性関節症(OA)に罹患した多くの関節に存在する。したがって、特定の理論に拘束されるものではないが、変形性関節症に罹患しているヒトへの今回の試験で観察された鎮痛効果は、PAAGのヒト関節への集積後の新規の滑膜内層および/または新規の滑膜下層の存在、したがって滑膜疼痛の軽減によってもたらされると考えられる。
【0171】
[実施例4]ヒト患者の膝の組織検査
臨床背景
変形性関節症に罹患している2名の患者の膝関節にPAAG(Aquamid)を注射し、PAAG(Aquamid)は、その受動的集積および滑膜への充填作用によって疼痛の軽減または完全な除去をもたらした。変形性関節症の重症度に依存して、この疼痛軽減は2年5ヶ月まで持続した。その後、TKA(膝関節全置換術、すなわち人工膝関節置換術)が実施された。
【0172】
TKAからの病理学的所見
膝関節の10分の1に相当する、各々の手術においてほぼ同じ量の組織を切除した後、標準的なTKA手術からの骨、軟骨および軟組織を得た。軟組織および軟骨で覆われた骨を小片に切断し、組織学的検査のために処理した。骨の4分の3を除くすべての組織を検査した。軟組織の量は、膝によってわずかに変動があった。
【0173】
TKA手術の間に膝関節組織の10分の1しか切除されず、集積されたAquamidが観察されなかったことは、関節の異なる部分における異なるAquamid取り込みの結果である可能性が最も高い。
【0174】
患者1
臨床:両側重度変形性膝関節症を有する77歳の女性に、2014年8月7日および8月28日にAquamid 5mlを両膝に注射した(各膝当たり合計10ml)。ゲルは、約2年半のうちの最初の2年間は有用であったが、2016年9月12日に、重度の末期OAのために左側のTKAが実施された。
【0175】
完全に一体化されたゲルが、検査したすべての軟組織内で豊富に見られた。血管周囲炎症の領域、結合組織線維の縞模様および明細胞マクロファージの巣も、滑膜軟組織内に見られた。巨細胞を含む深部ゲル沈着物は、軟組織への直接ゲル注入の所見を与え、予想されたように、腔内に対してだけではなかった。軟骨または骨には、ゲルは全く存在しなかった。ゲルは2年5ヶ月前に注射されていた。
【0176】
患者2
臨床:中等度の変形性膝関節症の69歳の女性に、2014年3月17日にAquamid 3mlを注射した。Aquamid注射は、当初は有用であったが、2年後に変形性関節症の痛みが再発し、TKAが実施された。
【0177】
十分に集積されたAquamidゲルが、生検の3分の1で見られた。ゲルは、成熟ネットワークならびに散在性の炎症細胞および線維芽細胞と完全に一体化していた。巨細胞は存在せず、軟組織への直接の深部ゲル注入の所見を与える領域もなかった。軟骨または骨には、ゲルは全く存在しなかった。ゲルは2年前に注射されていた。
【0178】
結論
Aquamidゲルは、滑膜内層転位と周囲の宿主細胞の内殖の組み合わせによって、すなわち滑膜下層および/または新規の滑膜内層の形成によって、滑膜に組み入れられるようになる。ゲル内の細胞充実性は、正常滑膜組織内のものよりも低く、Aquamid注射の疼痛軽減作用の一部は、おそらく、細胞、血管および関連する神経の少なさによってもたらされる。
図1
図2