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  • 特許-痒みの温熱治療のためのデバイス 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】痒みの温熱治療のためのデバイス
(51)【国際特許分類】
   A61F 7/00 20060101AFI20220825BHJP
   A61L 15/18 20060101ALI20220825BHJP
   A61K 41/00 20200101ALI20220825BHJP
   A61P 17/04 20060101ALI20220825BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220825BHJP
   A61F 7/03 20060101ALI20220825BHJP
【FI】
A61F7/00 300
A61L15/18 100
A61K41/00
A61P17/04
A61P43/00 125
A61F7/08 332S
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019523179
(86)(22)【出願日】2017-07-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-03
(86)【国際出願番号】 EP2017067544
(87)【国際公開番号】W WO2018011263
(87)【国際公開日】2018-01-18
【審査請求日】2020-04-30
(31)【優先権主張番号】16179093.6
(32)【優先日】2016-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】16193220.7
(32)【優先日】2016-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519010075
【氏名又は名称】デルマファーム アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】ビュンガー ダニエル
【審査官】小野田 達志
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-540050(JP,A)
【文献】特表2015-515906(JP,A)
【文献】中国実用新案第2163627(CN,Y)
【文献】特表平03-501816(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 7/00
A61F 7/08
A61L 15/18
A61K 41/00
A61P 17/04
A61P 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)少なくとも1つの治療面(1)と、
b)前記治療面(1)の温度を調節するための制御デバイス(6)と、
を備える、痒みの温熱治療のためのデバイスであって、
前記制御デバイス(6)は、加熱段階において少なくとも1つの発熱体(2)を42℃と56℃の間の治療温度に加熱することによって前記治療面(1)を調節でき、治療段階において前記治療温度は2秒~12秒の時間にわたって維持可能であり、ハードウェアで実現された温度コントローラが前記治療面(1)の最大温度を54℃と58℃の間の値、好ましくは約56℃、に可逆的に制限し、
短絡または無制御な連続加熱の場合に安全ヒューズ(11)が前記デバイスを遮断
前記デバイスは、前記治療面(1)の温度を測定するための少なくとも1つの第1温度センサ(4)を備え、前記制御デバイス(6)は、前記温度センサ(4)の測定データに基づき、前記少なくとも1つの発熱体(2)の温度を調節し、
前記ハードウェアで実現された温度コントローラは、前記治療面(1)の温度を測定するための少なくとも1つの第2温度センサ(3)と比較器(5)とを備え、前記比較器(5)は、前記治療面(1)の温度を前記最大温度と比較し、前記治療面(1)の温度が前記最大温度を超えている間、前記制御デバイス(6)による前記少なくとも1つの発熱体(2)の調節とは独立に前記少なくとも1つの発熱体(2)への電力供給を遮断し、前記治療面(1)の温度が前記最大温度未満に再び下がるや否や、前記遮断を中止する、ことを特徴とする、デバイス。
【請求項2】
前記少なくとも1つの発熱体の調節とは独立に、最大温度を超えたときに前記少なくとも1つの発熱体の電源のスイッチオフが前記ハードウェアで実現された温度コントローラによって行われることを特徴とする、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記安全ヒューズ(11)は、前記治療面(1)を1秒間にわたって65℃に加熱することに相当する最大電流のための閾値を有することを特徴とする、請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記安全ヒューズ(11)の前記閾値は、好ましくは1Aと2.5Aの間、特に好ましくは約2A、であることを特徴とする、請求項に記載のデバイス。
【請求項5】
前記治療面(1)は、セラミックおよび/または金を含むことを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項6】
前記治療面(1)は、治療サイクル中、点灯するマーカによって囲まれることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項7】
前記デバイスは、前記加熱段階の開始、前記治療温度への到達、前記治療段階の継続、および/または前記治療段階の終了を音響および/または光信号で通知する光学表示器(7)および/または音発生器(8)を備えることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項8】
前記デバイスは、水密筐体を備えることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項9】
前記デバイスは、電源ユニット(13)ならびに前記電源ユニット(13)の電圧を監視する電圧コントローラ(10)を備えることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項10】
前記制御デバイス(6)は少なくとも1つのマイクロプロセッサを備えることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項11】
前記マイクロプロセッサ、前記少なくとも1つの発熱体(2)、および前記少なくとも1つの温度センサ(3、4)は印刷回路基板(PCB)上に設置され、少なくとも前記発熱体(2)および前記温度センサ(3、4)は、保護ラッカーで被覆されることを特徴とする、請求項10に記載のデバイス。
【請求項12】
前記デバイスは、システムデータおよび/またはエラーメッセージを記憶するためのデータメモリを備えることを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項13】
前記デバイスの始動時に起動されて前記治療面(1)の温度調節を少なくとも案内するファームウェアが前記制御デバイス(6)上に設置され、前記制御デバイス(6)は、前記ファームウェアが実行されているかどうかを監視するハードウェアで実現されたウォッチドッグカウンタ(WDC)を備えることを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば昆虫刺傷の後の、痒みの温熱治療のためのデバイスであって、治療中、治療面が好ましくは42℃と56℃の間の温度に2秒~12秒の時間にわたって調節され、ハードウェアで実現された温度コントローラが治療面の最大温度を制限し、短絡または無制御な連続加熱の場合はヒューズがデバイスを遮断する、デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
痒み(掻痒)は、皮膚または粘膜に起こる主観的に不快な知覚である。それは、局所的に限定されていることも、全身を冒すこともある。
【0003】
多くの場合、痒みは焼けるような、刺すような、またはヒリヒリするような、感覚を伴い、冒された人間は、この感覚を引っ掻き、ひっかき、こすり、つねり、揉み、または摩擦によって軽減しようとすることが多い。したがって、痒みは、引っ掻き傷、開放創、痂皮形成、および皮膚感染などの追加の病理学的皮膚症状に至ることが多い。専門家らは、痒みは皮膚の疼痛受容体によって媒介され、交感神経系を介して脳に伝えられると想定する。痒みは、多くの要因を有し得る。痒みは、乾燥肌、水分不足、またはアレルギーに加え、外的影響および皮膚刺激、例えば、蚊刺傷またはイラクサとの接触、によっても発生し得る。痒みは、化学的、機械的、または熱刺激に対する反応でもあり得る。痒みは、外部刺激、例えば、化学物質、例えば、ヒスタミン(蚊刺傷)、アパミン(蜂刺傷)、との接触、アレルギー性免疫反応、圧力または摩擦、あるいは熱または日光暴露、膨疹、蕁麻疹、および痒みを伴う他の皮膚反応によっても引き起こされ得る。医学的観点から、痒みをもたらす要因または潜在的な病気は、広範囲の皮膚および内部疾患にわたる。
【0004】
痒みの症状の薬学的治療のためのいくつかの医薬品または化粧品が公知である。例えば、短期冷却を生じさせるために、特にメントール、チモール、または樟脳を含む、精油が使用されている。加えて、クリームまたはローションなどのスキンケア剤は、皮膚の含水率の上昇による鎮痛作用を有し得る。更に、抗ヒスタミン剤は、例えば、マレイン酸ジメチンデンまたはメピラミンの投与を含む、有効な治療選択肢となる。追加の医薬品として、局所グルココルチコイド、麻酔薬、亜鉛華軟膏、カルシニューリン阻害剤、またはカプサイシンが挙げられる。
【0005】
加えて、狩蜂または花蜂刺傷を治療するために、刺傷の部位をアンモニア水で治療することもあるが、これは、痒みの短期軽減しかもたらさず、膨れを僅かに減らすだけである。
【0006】
ただし、刺傷部位に或る量の熱を加えることによって痒みの進行を減らすことも従来技術から公知である。特に蚊刺傷の、局所的熱治療のためのデバイスが特許文献1に記載されている。このデバイスは、サイズが約0.2cmの熱板を有する。この熱板が昆虫刺傷に接触しているときに、この熱板を50℃と65℃の間の温度に加熱する。この温熱治療によって痒みを永続的に軽減できる。一方では、この加熱は、痒みの原因である易熱性昆虫毒素の破壊を引き起こす。他方、熱伝達は、他の温度関連の皮膚感覚によって、痒みをマスクする。したがって、このような治療の結果として、引っ掻きによる皮膚の二次負傷、例えば昆虫刺傷の炎症、も効果的に回避され得る。このようにして、温熱治療は、昆虫刺傷に伴う膨疹の発達も効果的に減らす。
【0007】
温熱治療の可能な用途は、ヘルペス性疾患にも及ぶ。ヘルペス性疾患の治療のためのデバイスが特許文献2から公知である。このデバイスは、好適サイズが20mmの熱板を備える。この熱板は、治療のために好ましくは10~15秒にわたって49℃~53℃に加熱される。この治療時間中、この熱板は、唇の冒された皮膚部位、例えば、発赤面域または水膨れが既に形成されている場所、に接触する。加熱は、一方では、単純疱疹ウイルスに対する中和作用によって原因細菌の増殖を抑制する。他方、短時間の治療は、感温神経の刺激によってヘルペス性疾患からの痒みをマスクする。したがって、このデバイスは、ヘルペス性疾患の症状、例えば、ほてり、膨れまたは発赤の発達、あるいは痒み、の低減を特徴とする。
【0008】
加えて、昆虫刺傷の温熱治療のために50℃の治療温度をもたらす器具が特許文献3の従来技術から同様に公知である。この器具は、痒みを軽減するプロセスがこの温度では未だトリガされていない、または完全にはトリガされていない、という欠点を有する。昆虫刺傷、ヘルペス性疾患、クラゲによる刺傷、または痒みを伴う他の疾患の症状の軽減に寄与する温熱治療のために必須のプロセスのうちの一部は、50℃と56℃の間、特に50℃と53℃の間、の温度範囲内でのみ活性化される。
【0009】
従来技術から公知の温熱治療のための諸デバイスは、昆虫刺傷、ヘルペス性疾患、クラゲによる刺傷、または痒みを伴う他の疾患の症状の軽減における使用のための多くの可能性によって特徴付けられる。ただし、これらデバイスは欠点も有する。
【0010】
例えば、公知の諸デバイスにおいては、例外的に所望の治療温度を超えることがある。ただし、温度センサを使用して治療温度を制御することも従来技術から公知である。例えば湿気との接触による、器具の損傷は、電子制御構成の制御回路を損ない得る。これは、特に、治療温度の制御が常用制御回路に組み込まれている場合である。この場合、所望の治療温度を超える温度上昇の可能性を排除できない。熱板または治療面の接触位置によっては、これは望ましくない結果をもたらす。短時間であっても65℃を超える温度上昇は、冒された皮膚部位に長期的負傷を引き起こし得る。これは、特に、熱に敏感な皮膚部位、例えば、疱疹治療中の唇、または昆虫刺傷が存在する薄い皮膚部位、の場合である。
【0011】
皮膚症状の温熱治療のための器具が特許文献3から公知である。この器具においては、温度制御された発熱体を使用して治療面を少なくとも5秒間にわたって、しかし一般にはこれより長い時間にわたって、38℃~67℃の温度に加熱し、過熱に対する保護のためにヒューズを使用している。過熱に対するこの保護方法は、過熱によるトリガ後、ヒューズの交換が必要であるという欠点を有する。加えて、冗長的な安全機構が存在しないため、ヒューズが故障した場合、治療面の長時間過熱の恐れがある。更に、60℃以上の温度は、特に数秒以上にわたると、極めて不快と感じられ、皮膚を損傷し得る。これにより、高温によって引き起こされる不快な皮膚感覚のために治療が時期尚早に中断され、少なくとも治療の成功が危うくされ得る。この器具は、加熱によってバクテリアを破壊し、皮膚刺激物を殺すという治療概念に基づく。ただし、この治療の継続時間および/または温度は、特定の受容体の標的型刺激および免疫系の改変による痒みの永続的な軽減には適さない。他方、42℃未満の温度は、温熱感による治療効果の実現には適さない。
【0012】
特許文献4には、さまざまな用途のための温熱パッドが記載されている。これら用途のうちの一部は医療用であり、38℃~71℃の温度を少なくとも数分にわたって電気的に生じさせる。直列に接続された複数の非復帰型温度ヒューズが冗長的な安全機能として示唆されている。したがって、いかにも冗長的な安全機構が存在するが、これは可逆的ではなく、トリガ後に交換が必要である。温度ヒューズの使用の第2の欠点は、これらヒューズは、閾値を超えた温度が加わった後にのみ溶解することである。したがって、温度ヒューズは、この臨界温度が加えられた後、或る反応時間の経過後にのみ反応するので、ひいては安全ヒューズに比べおそらく遅すぎる。安全ヒューズは、閾値を超えた電流で早くも開く。このような電流は、長時間にわたって流れると、過度の温度を引き起こし得る。加えて、これら加熱プロセスの温度範囲および継続時間はどちらも確かにいくつかの用途に適切であるが、加熱による掻痒の永続的軽減には適さない。
【0013】
したがって、温熱治療の利点を実現すると同時に、好ましくは過熱に対する冗長的な、しかし実用的でもあり、高い規格を満たす、安全機構の使用によって、安全性の危険を最小化するデバイスを供給できることが望ましいであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】欧州特許1231875B1号
【文献】独国特許出願公開第102005002946A1号明細書
【文献】米国特許出願公開第2007/0049998A1号明細書
【文献】米国特許出願公開第2011/0184502A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、本発明の1つの課題は、従来技術の諸欠点を排除する温熱治療のためのデバイスを供給することであろう。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本課題は、本発明によると、独立請求項に記載のデバイスによって達成される。従属請求項は、本発明の好適な実施形態を提示する。
【0017】
好適な一実施形態において、本発明は、痒みの温熱治療のためのデバイスに関する。本デバイスは、
a)少なくとも1つの治療面と、b)この治療面の温度を調節するための制御デバイスとを備え、この制御デバイスは、加熱段階において少なくとも1つの発熱体を42℃と56℃の間の治療温度に加熱することによって治療面を調節でき、治療段階においてこの治療温度を2~12秒にわたって保持可能であり、ハードウェアで実現された温度コントローラが治療面の最大温度を54℃と58℃の間の値、好ましくは約56℃、に制限し、短絡または無制御な連続加熱の場合はヒューズがデバイスへの電力供給を遮断する。
【0018】
用語「痒みの温熱治療」は、本発明の意味において、痒みの発生を通常伴う病気の治療として定義されることが好ましい。上記のように、これは、特に、昆虫刺傷または有毒な刺胞動物または植物との接触の後に発生し得る痒みの治療を含む。加えて、痒みの温熱治療のためのデバイスの好適な一用途は、痒みを伴う発赤、膨れまたは他の不快な症状を引き起こすヘルペス性疾患または他の皮膚炎の治療である。痒みは、寄生虫によって引き起こされ得るばかりでなく、好ましくは皮膚の、機械的または化学的(例えば、環境の毒素または医薬品への)暴露によっても引き起こされ得る。ただし、皮膚の痒みは、或る食品の摂取、内部寄生虫、ならびに自己免疫反応、皮膚真菌、アレルギー、乾皮症、老年性掻痒、冬季掻痒、腎または肝疾患、代謝異常、腫瘍、温度変動、水接触、または精神的混乱によっても引き起こされ得る。これら種々の疾患の症状、特に痒み、を軽減するために、本発明によるデバイスは、冒された皮膚部位に載置されることが好ましい。皮膚部位との治療面の接触後、制御デバイスが本発明による治療面の温度調節の実施を保証する。この目的のために、加熱段階中、治療面は最初に42℃と56℃の間の治療温度に加熱されることが好ましい。治療段階は長時間かからないことが好ましい。加熱段階の所要時間は、10秒以下が好ましく、3秒以下が特に好ましい。加熱段階の後、治療面の温度は所定の治療温度に保持されることが好ましい。この目的のために、治療温度は上記の範囲、42℃と56℃の間、に含まれる一定温度であることが好ましい。
【0019】
この治療温度は、治療段階中、一定に維持されることが好ましい。ただし、治療温度が一定に維持されないことも好適であり得る。例えば、治療面を42℃と56°の間の治療温度範囲内の最大温度に或る温度傾斜で加熱することもできる。その後、温度は、この治療温度範囲未満に一時的に下げられことが好適であり得る。その後、温度を再び或る傾斜で上昇させ得る。この好適な変形例は、驚くべきことに、痒みをもたらす一部の皮膚疾患の場合、一定の治療温度を維持するより有利であることが分かっている。例えば、極めて短時間の温度上昇によって最大温度に達し、その後にいくらか傾斜状に再び冷却することが有利であり得る。
【0020】
治療段階とは、温度が42℃~56℃の治療温度範囲内である継続時間を意味することが好ましい。治療段階の継続時間は、2秒と12秒の間が特に好ましく、3秒と6秒の間が最も特に好ましい。治療段階は一続きの時間であることが特に好適である。ただし、温度を傾斜状に制御することによって、治療段階を短時間中断することも可能である。この場合、治療段階の時間は、治療面の温度が42℃~56℃の治療温度範囲内である時間を示すことが好ましい。
【0021】
2秒と12秒の間、好ましくは4秒と6秒の間、の治療段階にわたって治療面の温度を42℃と56℃の間の温度に調節することによって、熱パルスが生成される。熱パルスは、明確に規定された量の熱を皮膚面域に制御された方法で加えることを可能にする。このようにして、好都合なことに、例えば狩蜂または花蜂による、昆虫刺傷によって発生した痒みを驚くべき速さで効果的に軽減できる。一方では、加熱は、痒みの原因である易熱性昆虫毒素の破壊を引き起こす。他方、熱パルスは、神経刺激を引き起こす。これは、冒された部位における痒みの主観的知覚を大幅に減らす。驚くべきことに、熱伝達は、温度関連の他の皮膚感覚によって痒みをマスクする。疼痛受容体の調節によって掻痒感を標的とする従来の掻痒治療方法と異なり、好適な熱治療は、C繊維の自由神経終末を活性化する。C繊維は、特に、体性感覚系の遅伝導神経繊維を指し、痛覚を担当する。このプロセスにおいて、特に、侵害受容体とも呼ばれる、C繊維の自由端は、重要な役割を果たす。これら繊維の神経終末は、組織ホルモン(例えば、ヒスタミン、セロトニン、サブスタンスP)によって活性化される。加えて、これら神経終末の近傍のマスト細胞は、メディエータトリプターゼの放出によって当該プロセスに関与し得る。特に、これら繊維によってトリガされた知覚を熱治療によって驚くほど調節するために、掻痒における作用機序の知識が使用される。昆虫刺傷の場合の痒みを治療するためのデバイスの特に好適な使用に加え、これら時間および温度値は、ヘルペス性疾患の治療、更には驚くべきことに、例えば、イラクサなどの有毒な刺胞動物または植物との接触後の、他の痒み疾患の治療も可能にする。
【0022】
好適な一変形例は、42℃と56℃の間、特に好ましくは50℃と53℃の間、の治療温度を使用する。極めて驚くべきことに、痒みの特に大きな低減が上記パラメータで可能であることが判明している。42℃と56℃の間の治療温度、50℃と53℃の間の特に好適な治療温度、は痒みを素早く且つ効果的に軽減する効果を皮膚部位に対して有する。特に、温度およびカプサイシン受容体、TRPV1およびTRPV2、が冒された皮膚部位において局所的に同時に活性化された場合、掻痒感が特に顕著にマスクされることが認められている。
【0023】
TRPV1は、健康な皮膚における熱による鋭い痛みに関与し、例えば、45°~50℃の温度における熱感を調節する。加えて、TRPV2は、52℃超の温度で発生する特に強い有痛性熱感の場合に、活性化される。TRPV1の活性化閾値は40℃と45℃の間であり、TRPV2の活性化閾値は50℃と53℃の間である(2011年ヤオ(Yao)等、2015年ソモギー(Somogyi)等、2014年コーヘン(Cohen)等、2014年メルグラー(Mergler)等)。
【0024】
温度センサとしてのTRPV1およびTRPV2受容体の作用形態の初期理解は、当該文献で最近発表された研究成果から生まれたが、痒みの知覚におけるこれら受容体の役割は未知である。したがって、当業者は、当該文献を知っていても、これら受容体の活性化が掻痒感の特に効果的なマスクを具体的に可能にするだろうとは想定していないであろう。これは、驚くべき観察であり、特に、治療面の温度調節を50℃と53℃の間の狭い範囲内でもたらす上記の特に好適な実施形態において特に利用される。50℃と53℃の間の狭い範囲内での治療面の温度調節は、治療されている人間に不快なほどに強い痛覚を引き起こさずに、両受容体の同時活性化を驚くほど効果的に可能にする。特に最適化された動作範囲としてのTRPV2の活性化閾値の範囲の決定は、実験によって可能であった。この範囲内では、副作用を引き起こさずに痒みを特に効果的にマスクするフィードバック機構が受容体間に発達すると想定される。これら皮膚部位の好適な治療は、驚くべきことに治療後数時間にわたって継続する掻痒感の軽減をもたらす。この好適な実施形態の長時間継続する作用形態は、熱伝達による免疫調節に少なくとも部分的に帰することができる。したがって、痛覚がマスクされるばかりでなく、免疫系の調節によって局所的皮膚炎が能動的に抑止される。したがって、好都合なことに、1回の治療によって既に掻痒感の永続的軽減がもたらされ得る。ただし、治療が時系列順に数回実施されることも好適であり得る。治療段階での2秒~12秒、または特に好ましくは4秒~6秒、のインターバル状熱伝達は、悪影響を引き起こさずに、痒みの信号経路に対して最適な効果を実現する。
【0025】
本発明の意味において、治療面とは、治療中に治療温度に加熱して皮膚部位に直接熱接触させるデバイスの面域を示すことが好ましい。治療面は、一続きの表面面域であり得る。ただし、治療面がいくつかの非隣接部分面域から成ることも好適であり得る。治療面のサイズは、疾患に応じて、および痒みを伴う疾患の症状によって冒された各皮膚部位のサイズに応じて、決められることが好ましい。昆虫刺傷の場合、治療面のサイズは、10mmと100mmの間であり、特に好ましくは20mmと60mmの間である。疱疹の治療において、治療面は、好ましくは10mmと80mmの間、特に好ましくは20mmと50mmの間である。加えて、これら小さな皮膚部位のための治療面は円形であることが特に好適である。このようにして選択された治療面のサイズおよび形状の結果として、原因に最適に適合化された治療が行われ得る。これは、効率および快適さを最適化し、ひいては治療のより長期的な成功に寄与する。例えば有毒クラゲとの接触後の、痒みを伴う大面積の皮膚疾患の治療には、1cm~18cm、好ましくは6cmと9cmの間、の治療面が好適であり得る。これまで専門家らが想定していたのは、複数の皮膚部位が大面積の治療に含まれる場合は、皮膚の焼けるような感覚または高熱痛覚などの強いマイナスの逆効果によって痒みの確実な軽減がマスクされ得るということであった。ただし、約cm~18cmの、好ましくは6cmと9cmの間の、より大きな治療面では、掻痒によって冒された驚くほど大面積の皮膚部位も治療され得ることが認められた。例えば、皮膚発疹の場合、対応する皮膚部位に治療面を都合よく簡単にあてがうことによって、掻痒感が熱でマスクされて我慢できる痛覚に変換されることが可能である。このようにして、皮膚の二次負傷、例えば、引っ掻きによる傷の形成、が効果的に回避され得る。より小さな治療面を有するデバイスでは、大面積の皮膚部位を治療するために、複数の異なる位置に複数回あてがうことが必要であろう。ただし、この場合、時間の経過により、同じ効果は達成できない。
【0026】
7cmと18cmの間の治療面の使用も好適であり得る。掻痒感を誘発し得る本質的に化学的、機械的、または物理的な外部刺激は、3つの異なる受容体細胞(感覚細胞)によって知覚される。これら感覚細胞は、所謂開放神経終末であり、その刺激受容構造は表皮およびその下にある真皮にあり、その神経突起は、知覚された刺激に関する信号を脊髄に伝達する。これら感覚細胞において、無髄C繊維は特に重要である。その受容構造は、場合によっては皮膚表面の下0.1mmにある。これらC繊維の場合、機械および熱感受性の多モード繊維と機械非感受性のC繊維とが区別されるが、これらC繊維は熱による刺激も可能である。C繊維は、起痒性刺激を検出するばかりでなく、侵害受容体(疼痛受容体)の役割も果たす。当該文献には、反対刺激としての熱刺激が掻痒感を抑制できることが示されていた。個々のC繊維は、皮膚の特定面域からの刺激を感知し、規定された皮膚面域が感覚細胞によって神経支配される。この領域は、受容野と称される。C繊維の受容野は重なり合うこともあり得る。所謂マイクロマッピングを使用した人体における調査は、機械非感受性のC繊維はサイズが最大5cmの受容野を有し、機械感受性のC繊維の受容野はいくらかより小さく、サイズが最大2cmであることを示している。したがって、7cmと18cmの間の好適な治療サイズでは、これら異なる種類のC繊維の受容野が驚くほどマスクされ、加えて、水平に流出する熱の影響が打ち消される。
【0027】
治療面のサイズは、皮膚部位が熱パルスを受ける接触面域全体に相関することが好ましい。いくつかの部分面域から成る治療面の場合、治療面のサイズは、個々の部分面域の合計に相当することが好ましい。痒みによる疾患のいくつかの症状発現においては、いくつかの身体部位の治療におけるように、このような複数の部分面域への分割が有利であり得る。
【0028】
治療面は、少なくとも1つの発熱体の助けを借りて治療温度に加熱されることが好ましい。好適な一実施形態において、治療面は、発熱体を用いて加熱される熱板の表面積に相当し、例えば、半導体部品が使用され得る。ただし、治療面は、いくつかの発熱体によって温度制御される均質な材料面も表し得る。例えば、治療面を特に一様に且つ急速に治療温度に加熱するために、2つまたは4つの発熱体の使用が好適であり得る。発熱体を備えた熱板を被覆することも好適であり得る。この場合、治療面は、熱板上の被膜として定義されることが好ましい。したがって、治療温度は、患者の皮膚部位に存在する温度を常に指定することが好ましい。使用分野に応じて好適な治療面と発熱体との組み合わせに関連する実施形態によると、効率、小型化、および治療の成功の点で最適化されたデバイスが提供され得る。
【0029】
制御デバイスは、治療温度が治療面に存在するように、発熱体の加熱を調整できることが好ましい。このようにして、治療温度の最適制御を保証でき、治療面の望ましくない過熱を防止できる。
【0030】
本発明によると、制御デバイスは、治療温度のために予め指定された値に従って、少なくとも1つの発熱体の助けを借りて、治療面の温度を調節するように構成されたプロセッサ、プロセッサチップ、マイクロプロセッサ、またはマイクロコントローラであることが好ましい。このような制御デバイスは、小型化、信頼性、費用効率、低消費電力、および高い制御効率を特徴とする。
【0031】
少なくとも1つの発熱体は、従来技術からのさまざまな実施形態が十分に公知である構成要素である。例えば、発熱体は、電流の流量に応じて明確に規定された温度を発生させる電力型抵抗器を備え得る。発熱体を通る電流の流量を量的に制御するために、電界効果トランジスタ(FET:field effect transistor)を使用できることが好ましい。ただし、FET自体を発熱体として使用することも好適であり得る。ここで、トランジスタ自体におけるエネルギー放散が熱を発生させて治療面を治療温度にするために使用される。FETは、その寸法が小さい故に、デバイスの小型化を可能にするので、発熱体として特に好適である。加えて、FETは、特に反応性が高く、極めて動的な発熱および放熱により、発熱体の特に高速な応答挙動を保証する。
【0032】
制御デバイスは、発熱体への電流供給の事前設定によって、治療面に存在する温度を制御できることが好ましい。例えば、キャリブレーションを用いて、発熱体における電圧および/または電流の流量と治療面における温度との間の相関関係が求められるので、このキャリブレーションに基づき、42℃と56℃の間の望ましい治療温度を常に設定できる。ただし、フィードバックループを使用する制御デバイスによって治療温度を調節することも好適であり得る。したがって、治療面の温度を測定する温度センサの使用が好適であり得る。この場合、制御デバイスは、この温度データに基づき、発熱体への電流供給を調節する。この目的のために、例えば、制御デバイスは、測定データを評価して電流パラメータを確立できるマイクロプロセッサを備え得る。このようにして、温度を極めて効率的且つ確実に制御できる。
【0033】
デバイスは、治療面の温度を制御する追加の安全要素を少なくとも2つ備えることが特に好ましい。
【0034】
一方では、デバイスは、治療面の最大温度を54℃と58℃の間の値、好ましくは約56℃、に制限する、ハードウェアで実現された温度コントローラを備える。この最大温度は、治療段階中に治療面が達する最大温度を表すことが好ましい。ハードウェアで実現された温度コントローラは、好都合なことに、最大温度が54℃と58℃の間の値、好ましくは約56℃、を超えないことを保証することを可能にする。本発明の意味において、約(about)、ほぼ(approximately)、殆ど(nearly)などの記述、または同義的概念は、±10%未満、好ましくは±5%未満、特に好ましくは±1%未満、の許容差範囲を示すことが好ましい。本発明の意味において、「ハードウェアで実現された温度コントローラ」は、治療面のための発熱体への電力供給をオフに切り換えることができる、治療面のためのハードウェアベースの温度制御システムを示すことが好ましい。特に、「ハードウェアで実現された温度コントローラ」は、最大温度を超えたときに、制御デバイス、ひいては例えばマイクロプロセッサ、による発熱体の調節とは独立に、発熱体への電力供給をオフに切り換えられることが好ましい。例えば、発熱体を調節するためのファームウェアプログラムが制御デバイス上に既にインストールされている場合、このファームウェアの障害または不正実行の場合でも、ハードウェアで実現された温度コントローラが治療面の最大温度を確実に制限することが好ましい。
【0035】
このようにして、デバイスの治療面が最大温度を超えないことを簡素な設計手段によって特に効果的に保証することが可能である。例えば液体の侵入後、制御デバイスに制御エラーが発生した場合でも、ハードウェアベースの温度コントローラのために、治療面が54℃と58℃の間の値、好ましくは約56℃、の最大温度を超えないことをいつでも有利に保証できる。この追加の温度制御用技術要素により、温熱治療のためのデバイスの機能に干渉せずに、優れた安全規格を保証できる。
【0036】
驚くべきことに、最大温度が54℃と58℃の間の値、好ましくは約56℃、であると、治療の成功を脅かすことも、皮膚に不快な感覚を生じさせることもないので、この最大温度は、過熱を防止するために理想的な第1の安全ステップとなることが分かった。
【0037】
本発明によるデバイスは、デバイスにおける短絡またはデバイスの無制御な連続加熱の場合に、デバイスへの電力供給を遮断する安全ヒューズを追加の安全要素として有する。本発明による意味において、安全ヒューズは、電流の強さが限界値をしばらく超えたと判定されるや否や、電気回路を、例えばヒューズ要素の溶融によって、遮断できる過大電流保護機構として定義されることが好ましい。安全ヒューズは、デバイスにおいて、デバイスへの電源電圧入力部とデバイス自体との間に、位置することが好適である。デバイスに供給される電源電圧からの無制御な大電流の流れによって特徴付けられる機能不良が万一発生した場合、安全ヒューズはデバイスへの電力供給を好都合に完全に遮断する。安全ヒューズは、十分に迅速な保護をもたらす一方で、極めて確実な保護ももたらす。
【0038】
デバイスの欠点のない設計、更にはハードウェアで実現された温度コントローラの供給、によっても、極めて稀ではあるが誤動作に起因する発熱体の連続加熱の発生を排除することは不可能であることが判明している。発熱体の連続加熱とは、本発明の意味において、発熱体の温度が無制御に、すなわち、制御デバイスによる温度ベースの調節なしに、上昇することを意味することが好ましい。このようなブレークダウン中にハードウェアで実現された温度コントローラが故障すると、治療面は所望の治療温度をはるかに超えた温度、例えば65℃をはるかに超えた温度、に制御不能に上昇し得る。
【0039】
このような望ましくない連続加熱の発生は極めて稀であるとしても、重度の負傷を患者に引き起こし得る。これは、特に、温熱療法で治療される皮膚部位は、通常、特に傷付き易く、例えば、発赤、膨れ、または傷の形成によって特徴付けられるという事実による。明らかに65℃を超えて上昇した温度は、局所的な激しい痛みをこれら部位にもたらし、皮膚に熱傷を引き起こし得る。
【0040】
デバイスの特殊な使用状況および関連の安全要件を考慮して、最も起こりそうもない機能不良の場合でも、治療面の加熱がオフに切り換えられることを保証可能にするには、上記の安全ヒューズが特に好都合である。例えば、安全ヒューズの助けを借りて、何れの温度測定とも独立に、例えば欠陥のある温度センサに起因する、治療面の過剰加熱を抑止できる。デバイスへの電力供給は、最も高い安全要件を満たす中心調節界面となることが認められた。デバイスに供給するための電流の流れに安全ヒューズを組み込むことによって、最大供給電流を或る時間にわたって超えないことを保証できる。発熱体の連続加熱および所望温度を超える無制御な加熱は、電流流量の増加に関連するので、このようにして、治療面の過熱を特に確実に回避できる。特に、電流コントローラは、電流がその強度に対応する温度を発生させるほど長く存在する前に、極めて迅速に反応できる。純粋に温度に基づく最後の安全機構も、関与する複数の構成要素の熱慣性の故に、十分に高速ではあり得ない。
【0041】
本発明によるデバイスにおいてはハードウェアで実現された温度コントローラと安全ヒューズとの併用の特に有利な相乗効果が見られる。
【0042】
例えば、安全ヒューズの1つの欠点は、1回のトリガの後で、デバイスからの電源電圧の永久的な切り離しに至ることである。安全ヒューズのトリガ後にデバイスの使用を再開するには、技術者による修理、例えば安全ヒューズの交換、を必要とする。費用の観点から、デバイスは、安全ヒューズのトリガによって、通常、使用不能になる。
【0043】
ただし、好都合なことに、ハードウェアで実現された温度コントローラは、デバイスへの電力供給の永久的な遮断が不要であるように、設定される。代わりに、ハードウェアで実現された温度コントローラは、治療面の温度が最大温度を超えたときに最大温度を超えている間は発熱体への電力供給が中断されるように、設計される。したがって、ハードウェアで実現された温度コントローラによる電流遮断は、好都合なことに可逆的である、すなわち、治療面の温度が最大温度未満に再び下がるや否や、発熱体は再び温まり得る。
【0044】
したがって、機能不良が1回発生した後でも、デバイスの通常使用を継続できる。最大温度の選択、温度コントローラの独立性および有効性、の結果として、ユーザが不快と感じる温度は発生せず、デバイスは、次の使用時に再び完璧に機能できるので、ユーザは機能不良に気付かないであろう。
【0045】
ハードウェアで実現された温度コントローラの安全機能と安全ヒューズとの組み合わせは、安全バリア階層の故に、最大可能な経済的手段によって驚くほど信頼性が高い温度制御を可能にする。
【0046】
ハードウェアで実現された温度コントローラの安全機能と安全ヒューズとの組み合わせによる追加の相乗効果は、可能性は低いが起こり得る制御デバイスの一回限りの障害がハードウェアで実現された温度コントローラによって可逆的に阻止されるという事実に見られる。ただし、ハードウェアで実現された温度コントローラを含む極めて起こり得ないより大きな問題が万一発生した場合は、最終手段として安全ヒューズが作動する。ただし、これは不可逆的であるので、このような状況下では危険な更なる使用をユーザは行えず、技術者または専門店に足を運ぶことになる。
【0047】
治療面の温度は、制御デバイスの助けを借りて既に生じていることが好ましい。例えば電子機器の障害の故に、制御デバイスが故障した場合、ハードウェアで実現された温度コントローラは、制御デバイスとは独立に、発熱体の遮断を可能にする。制御デバイスのこのような機能不良の場合でも、安全ヒューズはトリガされないであろう。制御デバイスおよびハードウェアで実現された温度コントローラの両方が故障するという極めて稀な場合にのみ、例えば、対応する構造要素の損傷の場合に、安全ヒューズが最後の制御要素を保証する。高温加熱のために発熱体のための電流要求が増加した場合、安全ヒューズはデバイスへの電力供給を完全に停止させる。これら安全機構の階層化により、制御デバイスの1回限りの機能不良を極めて安全に回避できる。ハードウェアで実現された温度コントローラは、デバイスの有用性に影響を及ぼさずに、目立たず速やかに介入する。下流の安全ヒューズによって更に高い安全性レベルの実現が可能であるので、一般に効果的で安全な治療デバイスをユーザに提供できる。
【0048】
驚くべきことに、これら安全バリアを次々と接続することによって、治療面が患者を危険にさらし得る温度範囲に入らないことを保証できる。
【0049】
本発明の好適な一実施形態において、デバイスは、治療面の温度を測定するための第1温度センサを少なくとも1つ備え、この温度センサの測定データに基づき、制御デバイスは少なくとも1つの発熱体の温度を調節する。このような温度センサにより、治療面の温度は制御デバイスによって極めて確実に調節され得る。
【0050】
本発明の意味において、温度センサは、温度に応じて電気信号を発生させる電気または電子制御要素であることが好ましい。多くの温度センサが従来技術から公知であり、例えば、半導体温度センサ、抵抗温度センサ、焦電材料、熱電対、または水晶振動子が挙げられる。制御デバイスは、熱板の調節を行うために、温度センサからの測定値を受信して評価できるように、更に構成されることが好ましい。発熱板の調節は、電流または電圧の印加によって行えることが好ましい。温度センサは治療面の温度を直接測定する、すなわち、温度センサは治療面に接触する、ことが特に好適であり、温度センサは、治療面の内側および治療面の外側の両方に存在し得る、または治療面の内部に実装され得る。ただし、温度センサを治療面に直接接触させて監視せず、代わりに、発熱体に、または発熱体と治療面との間の材料点に、接触させて監視することも好適であり得る。例えば、いくつか発熱体で治療面を加熱する場合、温度センサを発熱体の間に載置することも好適であり得る。同様に、これら発熱体にわたる、または治療面から一定距離にある測定部位における、温度の測定データから治療面の温度に関する結論が引き出され得る。本発明の意味において、治療面の温度は、治療面の平均温度を意味することが好ましい。
【0051】
治療面の温度の評価は、治療面の最適な温度分布、ひいては治療対象の皮膚部位への熱伝達、を保証するために、少なくとも1つの発熱体の特に精確な調節を可能にする。特に、痒みを伴うさまざまな疾患を治療するためのデバイスの多くの用途可能性を考慮して、最適な温度値での確実な温熱治療を実施するためには、制御デバイスの助けを借りた温度ベースのフィードバック調節が適している。
【0052】
本発明の好適な一実施形態において、ハードウェアで実現された温度コントローラは、治療面の温度を測定するための少なくとも1つの第2温度センサと比較器とを備え、比較器は、治療面の温度を最大温度と比較し、最大温度を超えた場合は、少なくとも1つの発熱体への電流供給を停止する。本発明の意味において、比較器は、2つの電圧を比較するための電子回路を表すことが好ましい。この場合、出口において、2つの電圧のどちらがより高いかがバイナリ比較で示される。従来技術においては、どちらの入力電圧がより高いかを示す1つのバイナリ出力信号を出力するために、2つのアナログ電圧の使用に適した種々の比較器が十分に周知である。シュミットトリガは、比較回路の一例として挙げられ得る。比較器の一方の入力には、電圧分割器を使用して電圧の基準値が印加されることが好ましい。この基準値は、治療面の温度が最大温度に等しい場合、第2温度センサが示す電圧値に相当することが好ましい。比較器の第2入力には、治療面の温度に依存する温度センサの出力電圧が存在することが好ましい。特に好適な温度センサは、NTCサーミスタ、すなわち熱抵抗器、を有する。これは負の温度係数を有するので、温度上昇時に抵抗が下がり、より大きな電流が流れる。ただし、温度上昇時に抵抗が高まり、流れる電流が減るように、正の温度係数を有するポジスタ、すなわちPTCサーミスタ、も使用され得る。
【0053】
治療面の温度が上昇すると、第2温度センサによって調節される、比較器における電圧値は、最大温度に相当する電圧基準値に向かって変化する。温度が最大温度を超えるとすぐに、比較器の出力信号がバイナリ式に変化する。比較器は、発熱体の電源に組み込まれることが好ましい。換言すると、治療面の温度が最大温度に達する前、比較器は発熱体の電源電圧を遮断していないことが好ましい。ただし、温度が最大温度より高くなるとすぐに、比較器の出口が遮断され、発熱体への電力供給が中断される。治療面の温度が再び下がると、比較器によって好都合に電源電圧が再び遮断解除される。その結果、治療面の温度が最大温度を超えている時間だけ、発熱体の可逆的なオンおよびオフ切り換えを行える。加えて、比較器は、デバイスがオンにされたときに、制御デバイスによってロック解除されることが好ましいことがある。したがって、デバイスの正しい始動が行われなかった場合は、比較器は始動段階で発熱体への電流供給が中断されるように構成される。
【0054】
上記のハードウェアで実現された温度コントローラの好適な実施形態は、特に堅牢で信頼性が高いことが複数の試験において実証されている。安全スイッチの可逆性および簡単な設計の故に、この好適な実施形態は製造および保守コストが低いことによっても特徴付けられる。
【0055】
制御デバイスから独立した設計および専用の温度センサの故に、制御デバイスの構成要素の障害の場合でも、確実な動作を保証できる。
【0056】
加えて、比較器を使用する上記形態のハードウェアで実現された温度コントローラは、特に高速である。その理由は、比較器は、信頼性ならびに高速切り換え能力において卓越した広範に使用されている電子部品であることによる。したがって、例えば、切り換え時間がナノ秒以下の比較器の利用が可能である。驚くべきことに、比較器を回路に使用すると、その速い動作速度の故に、治療面を過熱から保護するために特に効果的な機構が構築され得ることが分かった。
【0057】
本発明の好適な一実施形態において、デバイスは、65℃と70℃の間の値、好ましくは65℃、への治療面の1秒間にわたる加熱に相当する最大電流のための閾値を安全ヒューズが有することを特徴とする。65℃超への1秒超にわたる温度上昇のみが痛覚のために極めて危険であり、皮膚部位の損傷を引き起こし得ることが複数の試験で示されている。好都合なことに、これらパラメータ値用に安全ヒューズを設定することによって、治療面の温度上昇が危険でない場合は、安全ヒューズは時期尚早にトリガされない。このようにして、安全性について妥協することなく、経済効率を高めることが可能である。示された値を保証するために、発熱体の電気パラメータに基づき、どの安全ヒューズを選択すべきかは当業者は分かっている。この目的のために、治療面の温度を測定しながら、同時に電流の流量が測定され得る。加えて、電流増加に対して好ましくは20ms未満で反応する速動式の安全ヒューズの使用が特に好適である。したがって、20ms未満の短時間の電流増加であっても、治療面の熱慣性のために、1秒超にわたる温度上昇に至り得ることが認められた。
【0058】
溶融によって同様に機能する、純粋に温度依存の非復帰型温度ヒューズに比べ、ここで使用される電流依存式の安全ヒューズはいくつかの利点を有する。純粋に温度依存の非復帰型温度ヒューズの場合は、閾値を超える電流の印加時に溶融が起こらず、規定された最大温度より高い外部温度が加わったときにのみ溶融が起こる。したがって、純粋に温度依存の非復帰型温度ヒューズとは異なり、電流依存式の安全ヒューズは、或る望ましくない温度に達する前でも、相対的に長時間にわたって作用する大電流の結果として、反応し得る。同様に、純粋に温度依存の非復帰型温度ヒューズは、規定された最大温度を超える外部温度の存在下でも一定の反応時間を常に必要とする。これにより、危険な更なる温度上昇が発生し得る。これに対し、電流依存式の安全ヒューズは、システム関連の最小待ち時間で、より迅速に反応する。
【0059】
本発明の好適な一実施形態において、デバイスは、安全ヒューズの閾値が好ましくは1Aと2.5Aの間、特に好ましくは約2A、であることを特徴とする。好適な発熱体に関して、上記の閾値は、治療面の温度が65℃~70℃の温度を1秒超にわたって超えないことを特に十分な信頼性で保証することが複数の試験で示されている。したがって、1A~2.5A超での安全ヒューズの溶融によって、治療面の温度が健康に危険な範囲内に入らないことを保証することが可能である。したがって、標準的な治療の場合、2.5A未満、好ましくは1A、の標準的な治療電流が生じる。機能不良が生じると、例えば連続加熱の場合、大電流が流れる。この場合、ヒューズが介入し、無制御な加熱を効果的に防止する。
【0060】
ハードウェアで実現された温度コントローラの最大温度を約54℃と58℃の間の値、好ましくは約56℃、に好都合に選択することによって、閾値を超えた電流値による安全ヒューズのトリガ温度からの隔たりが十分に大きいことを保証することも可能である。例えば、ハードウェアで実現された温度コントローラを含む重大な機能不良が存在しない限り、少なくともヒューズの交換に至る、安全ヒューズの未故意のトリガを回避できる。
【0061】
本発明の好適な一実施形態において、デバイスは、治療面が0.2mmと5mmの間、好ましくは0.5mmと2mmの間、特に好ましくは1mmと1.5mmの間、の厚さを有し、50℃における熱伝導率が20W/mKと400W/mKの間、好ましくは100と350W/mKの間である材料で構成される、ことを特徴とする。(熱伝達係数としても公知の)熱伝導率は、治療面を製造した材料の熱的特性を特徴付けることが好ましい。熱伝導率は、或る温度勾配が治療面に加えられたときに治療面に流れる熱の量を示す。熱輸送は、熱伝導率に加え、治療面の厚さ、治療面のサイズ、および治療面の内側(発熱体との接触面)と治療面の外側(皮膚との接触面)との間の温度差にも依存する。熱伝導率は、ケルビン(K)単位の単位温度差当たりの、およびメートル(m)当たりの、輸送される熱出力の比としてワット(W)単位で報告されることが好ましい。ただし、熱伝導率は、ミリケルビン(mK)単位の単位温度差当たりの輸送される熱出力の比としてもワット(W)単位で報告され得ることが好ましい。熱伝導率は温度に応じても変化し得るので、本ケースにおいては、基準温度が50℃として与えられる。治療面の厚さは、皮膚に接触する最外面と発熱体が当てがわれる最内面との間の治療面域のサイズも優先的に表す。
【0062】
0.2mmと5mmの間、好ましくは0.5mmと2mmの間、特に好ましくは1mmと1.5mmの間、の治療面の厚さにおいて、50℃における100W/mKと350W/mKの間の好適な熱伝導率と組み合わされると、皮膚への特に治療的に効果的な放熱が行われる。実験条件下において、上記の好適なパラメータは驚くほど有利であることが証明された。例えば、このように設計された治療面は、不快な刺すような痛みを引き起こし得る、侵された皮膚部位への過度に急速な放熱を回避する。それにも拘わらず、放熱は、受容体を効果的に活性化させて痒みをマスクするために十分に急速である時間中に行われる。したがって、上記のパラメータは、当業者に明白でなかった最適な選択を表す。加えて、これらパラメータは、好ましくは、治療段階中、予熱の出現が危険とならないように、治療面からの熱が急速且つ効果的に皮膚部位に放出されることを保証する。
【0063】
好適な一実施形態において、治療面はセラミックまたは金を含む。治療面は、金またはセラミックで構成されることが特に好ましい。材料であるセラミックおよび金は、一方では、実験によって求められた好適な熱伝導率範囲内に収まる。加えて、これら材料は、材料自体が好ましくは熱を長時間蓄積しないので、相対的に急速に温まり、再び相対的に急速に冷える。これは、治療段階後、治療面からの熱が予熱故の危険とならないことを保証できるので、安全性を向上させる。加えて、セラミックおよび金はどちらも、好適な治療温度における高い生体適合性によって特徴付けられる。これら材料が選択されると、アレルギー性反応または他の悪影響を特に効果的に回避できる。
【0064】
本発明の好適な一実施形態において、デバイスは、治療サイクルに応じて点灯するマーカによって治療面域が囲まれることを特徴とする。例えば、治療面をマーカとしての光ガイドで囲むことが有利であり得る。光ガイドは、例えば、加熱段階中、または治療段階中、点灯可能である。治療面の位置の明示的な点灯通知を使用することによって温熱治療の成功が高められ得ることが判明している。例えば、可視マーキングは、冒された皮膚部位の中心への印加を促すので、熱パルスはこれら皮膚部位に狙いどおりに印加され得る。照光式マーカによって、デバイスは暗がりでも、例えば夜間に屋外のテント内でも、問題なく使用可能である。
【0065】
本発明の追加の好適な一実施形態において、デバイスは、デバイスが加熱段階の開始、治療温度への到達、治療段階の継続、および/または治療段階の終了、を音または光信号で通知する光学表示器または音発生器を備えることを特徴とする。光学表示は、発光ダイオード(LED:light-emitting diode)、電球、液晶(LCD:liquid crystal)表示器、または他の種類の公知の光学表示器によって行われ得ることが好ましい。機能に合わせたカラーコードが使用されることが好ましい。例えば、加熱段階は橙色の信号で示され、治療段階は赤色の信号で示され、治療段階の終了は緑色の信号で示され得る。音信号の発生は、好ましくは、短い、またはより長い、ビープ音を放出するスピーカによって実現されることが好ましい。光および/または音信号によって、ユーザは準備または治療段階の何れの時点においても、デバイスのステータスを知る。驚くべきことに、これは、生成された信号への集中によって痒みを一層減らすという追加の心理的効果を引き起こす。加えて、この好適な実施形態では、操作の容易さおよび安全性、ならびに患者のコンプライアンス、が大きく向上される。更に、光および/または音信号は、追加の安全機構の導入を可能にする。例えば、温度が許容最大値を超えたことをユーザに速やかに明確に通知できる。その結果、ユーザは、皮膚損傷が発生する前に、治療面を皮膚部位から取り外すことができる。痛覚への自己防衛反応は、光および/または音による警告信号への反応より明らかに遅いので、信号の発生はデバイスの追加の効果的な安全機能となることが判明している。
【0066】
追加の好適な一実施形態において、デバイスは水密筐体を備える。この筐体は、特に、制御デバイスおよび他の電子部品を取り囲む、デバイスのための外側ケーシングであることが好ましい。筐体は、筐体ヘッドと筐体ハンドルとを有することが好ましい。この場合、治療面は、筐体ヘッドの下部に位置することが好ましい。治療面の温度を制御および管理するために、筐体は切り欠きを適切な位置に有することが好ましい。好適な実施形態において、筐体は、全ての切り欠きが、例えば電池室が存在する場合は電池室も、水密であるように設計される。例えば、この目的のために、おそらくエラストマー製の、シールまたは適したガスケットが使用され得る。ただし、当業者は、水密筐体を設計するための他の多くの技術的可能性を熟知している。筐体の水密設計は、追加の安全要素となる。その理由は、これにより、液体の浸透による制御デバイスまたは他の電子部品の損傷を効果的に回避できるからである。加えて、水密筐体は、腐食の回避、ひいてはデバイスの耐用寿命の延長、をもたらす。
【0067】
特に、本発明は、この好適な実施形態では、照光式マーカとの組み合わせにおいて、特殊な条件下での、例えば、文明から遠い、時には熱い、湿潤気候地域への遠征時における、使用にも適している。
【0068】
本発明の別の好適な実施形態において、デバイスは、デバイスが電源ユニット、ならびにこの電源ユニットの電圧を監視する電圧コントローラ、を備えることを特徴とする。本発明の意味において、電源ユニットは、デバイスを作動させるための電気エネルギーを供給することが好ましい。好適な電源ユニットは、通常の電池または充電式電池である。これらは、通常、直流の供給によって電気エネルギーを供給する。この好適な実施形態において、電源ユニットによって供給される電圧は、電圧コントローラを用いて監視される。本発明の意味において、電圧コントローラは、電源ユニットの電圧を測定でき、この電圧が所定の限界値未満に下がった場合にアクションをトリガできる電気スイッチであることが好ましい。従来技術においては、電圧コントローラのいくつかの変形例が公知であり、当業者はどの種類の電源ユニットのために、すなわち、特に通常の電池または充電式電池のために、どの電圧コントローラが適しているかを知っている。電圧コントローラが電源ユニットの或る値未満への電圧降下を検出した場合、電圧コントローラは、制御デバイスに遮断要求(IRQ)を送信することが好ましい。この制御デバイスは、マイクロプロセッサであることが好ましい。この時間中に治療サイクル、すなわち、加熱段階または治療段階、が稼働中である場合、遮断要求は治療サイクルの終了をもたらす。これは、追加の安全機構である。したがって、電源ユニットにおける不十分な電圧は、制御デバイス、例えばマイクロプロセッサ、の障害を引き起こし得ることが分かった。この場合、治療温度の温度調節が制御デバイスによって正しく行われず、治療面の無制御な加熱が発生することがあり得る。したがって、電圧コントローラは、デバイスの安全性の向上および、例えば欠陥のある電池の場合の、健康リスクの回避にも寄与し得る。
【0069】
好適な一実施形態において、デバイスは、制御デバイスがマイクロプロセッサを備えることを特徴とする。本発明の意味において、マイクロプロセッサは、数mm範囲内の小さな寸法を特徴とするデータ処理デバイス、すなわちプロセッサ、であることが好ましい。この場合、プロセッサの全てのビルディングブロックがマイクロチップまたは集積回路(IC:integrated circuit)上にあることが好ましい。マイクロプロセッサは、プロセッサに加え、追加の周辺要素がマイクロチップ上に組み込まれた、例えばデータメモリも有する、マイクロコントローラでもあり得ることが好ましい。マイクロプロセッサが印刷回路基板(PCB:printed circuit board)上に設置されることも好適である。マイクロプロセッサに加え、発熱体および温度センサもPCB上に設置されることが好ましい。この好適な実施形態は、デバイスの極めてコンパクト且つ堅牢なアーキテクチャと、マイクロプロセッサを使用した特にインテリジェントな温度調節とを可能にする。したがって、マイクロプロセッサは、測定された温度データを評価し、これを発熱体の制御に変換できるばかりでなく、エラーメッセージおよびユーザ入力などの追加パラメータを速やか且つ確実に考慮に入れることができる。
【0070】
本発明の好適な一実施形態において、デバイスは、マイクロプロセッサ、発熱体、および少なくとも1つの温度センサが印刷回路基板(PCB)上に設置され、少なくとも発熱体および温度センサは保護ラッカーで被覆されることを特徴とする。本発明の意味において、保護ラッカーは、PCBの構成要素を環境の影響から保護するためのラッカーまたは塗料であることが好ましい。この目的のために、保護ラッカーは電気絶縁体として機能し、耐水性である。電気絶縁性は、表面抵抗または表面絶縁抵抗(SIR:surface insulation resistance)に基づき定量化できることが好ましい。SIRは、例えば導体板の構成要素間の漏洩電流を用いて、測定可能であることが好ましい。高い抵抗は、良好な電気絶縁性に相当する。耐水性とは、高い大気湿度または浸水においても、ラッカー塗装された電子部品が無傷のままであり、短絡が起こらないことを意味することが好ましい。例えば、耐水性は、高い大気湿度条件下でのSIRの測定によっても求めることができる。使用のために優先的に適している多数の保護ラッカーが従来技術において公知である。複数の例として、アクリレート、シリコーン、またはポリウレタン系の保護ラッカーが挙げられ得る。保護ラッカーを発熱体および温度センサの面域に塗布することによって、これらは堆積物から効果的に保護されるので、温度センサによる不正確な測定を回避できる。一方では、これは、治療温度の調整精度を高め、他方では、これは、不正確な温度測定に起因する治療面の過熱を回避する。
【0071】
上記構成要素を被覆すると、驚くべきことに、特に簡単でコスト的に有利な技術手段を使用したデバイスの信頼性の高い追加の熱的保護の実現を可能にする。驚くべきことに、PCB上への構成要素の設置は、構成要素の被覆のために特に有利であることが実証されている。
【0072】
本発明の好適な一実施形態において、デバイスは、デバイスがシステムデータおよび/またはエラーメッセージを記憶するためのデータメモリを備えることを特徴とする。好適なシステムデータは、複数の異なる種類の治療サイクルの使用を好ましくは個別に数える治療サイクル用カウンタを含む。例えば、より短い、またはより長い、治療サイクルの選択が可能な場合、これは個別に数えられる。加えて、システムデータは、ブートカウンタ、すなわち、デバイスが何回始動されたかを示すカウンタと、現在のエラーステータス付きのエラーメッセージに関する情報とを含むことが好ましい。
【0073】
以下のエラーメッセージが記憶され得ることが好ましい。「リセット(Reset)」は、電圧コントローラがリセットをトリガしたことを示す。「ウォッチドッグ(Watchdog)」は、ウォッチドッグリセット、すなわち、ソフトウェアエラーに基づくシステム再起動、がファームウェアにおいて行われたことを示す。エラー報告のために、エラー発生時に装置が動作していたプログラムモードを判定可能であることが好ましい。「温度が高すぎる(Temperature too high)」は、温度センサで測定された温度が高すぎる、または温度センサに欠陥がある、ことを示し得る。「温度が低過ぎる(Temperature too low)」は、温度センサで測定された温度が低過ぎる、または温度センサに欠陥があることを示し得る。「治療温度に到達(Treatment temperature reached)」は、所望の治療温度に達したか、予熱段階中にエラーが発生したかを示し得る。
【0074】
好都合なことに、記憶されたシステムデータおよびエラーメッセージは、デバイスの問題の診断および処理のために使用可能である。例えば、顧客が不良装置を送り込んできたときに、これらデータを読み出すことができる。これらデータに基づき、発生したエラー、例えば、「温度が高すぎる」、を治療サイクル数またはウォッチドッグのリセット回数に関する追加のシステムデータに関連付けることが可能である。したがって、これらデータに基づき、開発段階中、およびそれ以降に、デバイスの安全機能の連続的な最適化が可能である。したがって、デバイスがシステムデータおよびエラーメッセージの記憶域を備える可能性は、有意なデータに基づく、ハードウェアおよびソフトウェア構成要素の連続的改良を可能にする。
【0075】
追加の一実施形態において、デバイスは、治療面の温度調節を少なくとも制御するファームウェアが制御デバイスにインストールされていることを特徴とする。このファームウェアは、このファームウェアが実行されているかどうかを監視するウォッチドッグカウンタ(WDC:watchdog counter)を備える。本発明の意味において、ファームウェアとは、ソフトウェアとして、すなわち、制御デバイスに、好ましくはマイクロプロセッサに、埋め込まれた、コンピュータによって具現化されるプロセスのための命令群として、定義されることが好ましい。換言すると、ファームウェアは、デバイスのハードウェアに、すなわち、特に発熱体および温度センサに、機能的にリンクしているソフトウェアを備えることが好ましい。ファームウェアは、デバイスの始動時に実行され、デバイスのこれらハードウェア構成要素の監視および制御機能を引き継ぐことが好ましい。したがって、好ましくはファームウェアベースの、制御デバイスは、治療サイクル中に発熱体のための電流供給を制御するために、例えば、温度センサの測定データおよびユーザ入力を評価する。本発明の意味において、ハードウェアで実現された構成要素は、ファームウェアの正常実行とは独立に、その機能が保証される構成要素であることが好ましい。上記のように、温度コントローラはハードウェアで実現されるので、その機能、すなわち、最大温度の制限、は、制御デバイス上のファームウェアの正常実行とは独立に、行われ得る。したがって、ファームウェアのシステム障害の場合でも、ハードウェアで実現された温度コントローラは、治療面の最大温度を素早く且つ正しく制限できる。
【0076】
特に好適な実施形態において、制御デバイスのファームウェアは、ハードウェアで実現されたウォッチドッグカウンタの助けを借りて、監視される。これは、タイムアウトウォッチドッグであることが特に好ましい。タイムアウトウォッチドッグは、治療段階の開始前に、ファームウェアによって起動されることが好ましい。治療段階中、ファームウェアは、或る所定の時間間隔内にタイムアウトウォッチドッグをリセットするための信号をタイムアウトウォッチドッグに送信する。タイムアウトウォッチドッグがリセットされない場合は、ファームウェアの再起動に至ることが好ましい。この時間間隔は、ファームウェアによる発熱体の温度測定および調節の実施のために計画された時間に基づくことが好ましく、例えば2msと10msの間になり得る。このようなタイムアウトウォッチドッグを使用すると、デバイスの少なくとも治療段階中、ファームウェアが正常に機能しており、治療面の温度が監視されていることを好都合に確認できる。好ましくは例えばタイムアウトウォッチドッグの助けを借りて、ファームウェアを監視するためのハードウェアで実現されたウォッチドッグを使用することによって、ファームウェアが正常に機能せず、所定の時間間隔が維持されない場合に、治療段階を確実に中断させることができる。したがって、上記の安全機能に加え、デバイスの追加の安全機能が存在する。これは、特に、ハードウェアで実現された温度コントローラとの相互作用において、ファームウェアが正常に機能していない場合でも、治療面の過熱が排除されることを保証する。この場合、安全ヒューズは、最後の追加の安全ステップとして存在する。
【0077】
これは、治療が温熱治療のために最適化されたパラメータで常に実施されることを保証し、追加の安全バリアとして治療面を過熱から保護できる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
図1】デバイスの好適な一実施形態のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0079】
図1は、デバイスの好適な一実施形態のブロック図を示す。治療面1は、少なくとも1つの発熱体の助けを借りて治療温度に加熱される。治療面1は、セラミックまたは金製の接触パッドであることが好ましい。特に、FET、より好ましくはMOSFET、などの半導体素子が発熱体として有利であることが実証されている。これらは、小型であることに加え、極めて動的な発熱および放熱、更には特に高速の応答挙動、によって特徴付けられる。治療面1の温度調節は、制御デバイス6の助けを借りて行われる。制御デバイス6は、好ましくはマイクロコントローラであり、発熱体への電流供給を制御する。治療面1の温度は、好ましくはNTCサーミスタである、第1温度センサ4によって監視される。温度センサ4によって測定された温度に基づき、制御デバイス6は、治療温度を所望の時間にわたって一定に維持するために最適な電流供給を設定できる。デバイスの動作中、可視表示器7、好ましくはLED、および音発生器8、好ましくはブザー、が治療サイクルの段階をユーザに示す。したがって、例えば、加熱段階の開始時に、音発生器8はブザー音を発生でき、光学表示器7を発光させることができる。好適な治療時間が入力要素9を介して入力される。入力要素9は、好ましくは押しボタンスイッチである。治療面1の温度調節および種々のプログラムシーケンスは、制御デバイスによって制御される。デバイスの電流または電圧供給は、電源ユニット13、例えば電池、によってもたらされる。
【0080】
例えば欠陥のある電子機器のため、治療面1の温度を制御するための制御デバイス6が故障した場合は、最大温度を超えた場合、ハードウェアで実現された温度コントローラは発熱体2を遮断させることができる。この目的のために、デバイスは、比較器5に接続された第2温度センサ3、好ましくはNTCサーミスタ、を有する。治療面1の温度が上昇すると、第2温度センサ3によって調節される、比較器5における電圧値は、所定の最大温度に相当する電圧基準値に向かって変化する。治療面1の温度が最大温度を超えるとすぐに、比較器5に対する出力信号がバイナリ式に変化し、発熱体2のための電源電圧を遮断する。
【0081】
デバイスは、ハードウェアで実現された温度コントローラに加え、追加の安全要素として機能する安全ヒューズ11を更に有する。治療段階中、動作が順調な場合、発熱体2は、規定された治療電力を電源ユニット13から引き出す。或る欠陥が発熱体2の連続加熱を引き起こすと、供給電流が大幅に増加する。最大電流を超えると、好都合なことに安全ヒューズ11がトリガされる。このようにして、デバイスの短絡の場合でも、治療面1の無制御な加熱を回避できる。好都合なことに、この安全機構は、制御デバイス6およびハードウェアで実現された温度コントローラの両方による温度調節が適正に機能している間は、介入する必要がない。電源ユニット13の更なる制御のために、デバイスは、電源逆極性保護装置12および電圧コントローラ10、好ましくは電源電圧スーパーバイザ(SVS:supply voltage supervisor)、を更に備える。
【符号の説明】
【0082】
1 治療面
2 発熱体(単数または複数)
3 ハードウェアで実現された温度コントローラのための第2温度センサ
4 制御デバイスによる調節のための第1温度センサ
5 ハードウェアで実現された温度コントローラの比較器
6 制御デバイス
7 光学表示器
8 音発生器
9 治療時間の入力要素
10 電圧コントローラ
11 安全ヒューズ
12 電圧供給逆極性保護
13 電流供給ユニット
図1