(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】弁インサート及び空気抜き弁
(51)【国際特許分類】
B29C 33/10 20060101AFI20220825BHJP
B29C 35/02 20060101ALI20220825BHJP
B29L 30/00 20060101ALN20220825BHJP
【FI】
B29C33/10
B29C35/02
B29L30:00
(21)【出願番号】P 2019555950
(86)(22)【出願日】2018-04-12
(86)【国際出願番号】 FI2018050264
(87)【国際公開番号】W WO2018189424
(87)【国際公開日】2018-10-18
【審査請求日】2021-04-05
(32)【優先日】2017-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519363177
【氏名又は名称】ダブリューディー レーシング オイ
(74)【代理人】
【識別番号】100120857
【氏名又は名称】渡邉 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100116872
【氏名又は名称】藤田 和子
(72)【発明者】
【氏名】ペンッキマキ ペッカ
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開実用新案第20-2013-0004969(KR,U)
【文献】中国実用新案第201483675(CN,U)
【文献】特開2015-024501(JP,A)
【文献】特開平09-141660(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106246928(CN,A)
【文献】特開2005-178383(JP,A)
【文献】特開2006-110954(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00-33/76
B29C 35/00-35/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用タイヤの加硫金型の空気抜き弁(1)において使用するための弁インサート(4)であって、前記弁インサート(4)は、前記空気抜き弁(1)の弁スリーブ(3)の中へと挿入されるように構成された弁棒(6)を備え、前記弁棒(6)の第1端は弁体(7)を備え、前記弁棒(6)の第2端は、前記弁インサート(4)を前記弁スリーブ(3)に脱着可能に取り付けるための、および前記弁インサート(4)の開ストロークを制限するための弾性的に圧縮可能な保持部材(8)を備えており、
前記保持部材(8)は、前記弁スリーブ(3)
の出口開口(12)の端面(16)に当接して、これにより前記弁インサート(4)の前記開ストロークを制限するように配置された停止面(14)を備え
、前記保持部材(8)は、前記保持部材(8)の圧縮を成し遂げるためのスロット(10)を備え、前記スロット(10)は、前記弁棒(6)の前記第2端から前記弁棒(6)の前記第1端に向かって
前記保持部材(8)を越えて前記スロット(10)の終端まで延在し、前記スロット(10)は、前記弁棒(6)を前記弁棒(6)の半径方向に突き抜けて延在し、
前記弁棒(6)は、前記弁スリーブ(3)からの空気除去を向上させるための少なくとも1つの切り欠き部(18)を備え、前記切り欠き部(18)は、前記スロット(10)により前記弁棒(6)の外周面よりも半径方向内側に位置する輪郭を有し、前記切り欠き部(18)の前記輪郭は、前記弁棒(6)の前記第2端から前記スロット(10)の前記終端まで前記弁棒(6)の長手方向に沿って延在し、前記保持部材(8)は、前記切り欠き部(18)の前記輪郭から前記弁棒(6)の半径方向に突出しないことを特徴とする弁インサート(4)。
【請求項2】
前記停止面(14)は、前記弁棒(6)の長手方向軸(17)に垂直であることを特徴とする請求項1に記載の弁インサート(4)。
【請求項3】
停止面(14)は湾曲していないことを特徴とする請求項1または2に記載の弁インサート(4)。
【請求項4】
切り欠き部(18)の場所における前記弁棒(6)の直径は、前記切り欠き部(18)に隣接した場所における前記弁棒(6)の直径よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の弁インサート(4)。
【請求項5】
前記切り欠き部(18)表面は、湾曲しておらずおよび/または前記弁棒(6)の長手方向軸(17)と平行であることを特徴とする請求項1または4に記載の弁インサート(4)。
【請求項6】
車両用タイヤの加硫金型から空気を除去するための通気弁(1)であって、前記通気弁(1)は、弁スリーブ(3)、前記弁スリーブ(3)の第1端における入口開口、および前記弁スリーブ(3)の第2端における出口開口(12)を備え、請求項1~5のいずれか一項に記載の弁インサート(4)が前記弁スリーブ(3)に脱着可能に取り付けられていることを特徴とする通気弁(1)。
【請求項7】
前記弁スリーブ(3)の端面(16)は、前記弁インサート(4)の前記停止面(14)と平行であることを特徴とする請求項6に記載の通気弁(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気抜き弁の弁インサート、及び加硫金型から、例えば車両用タイヤの加硫金型から空気を除去するための空気抜き弁に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用タイヤの加硫金型では、金型の内のり寸法よりも小さいタイヤブランクが金型内部に置かれ、その後で金型が閉じられる。閉鎖後、このタイヤブランクが膨張するようにされ、これによりタイヤブランクは、可塑性の状態で金型の表面に押し付けられ、タイヤのサイズ及び形状を得る。この加硫プロセスの間、タイヤブランクの表面が金型表面と密接するために、タイヤブランクと金型表面との間にある空気は、取り除かれる必要がある。加硫金型は、タイヤブランクと金型表面との間の空間から空気を除去するときに利用できる通気孔を備える。タイヤと金型との間に空気溜りが残らないように、典型的には、加硫金型は、金型の各点で空気を完全に除去するために数百の通気孔を備える。
【0003】
この通気孔の使用の欠点は、タイヤ材料のゴム材料が、加硫プロセスの間に通気管に流れ込むことである。結果として、完成したタイヤの外面は、糸状の突起部を有し、この突起部は加硫後に取り除く必要があり、このことが、タイヤの製造コスト及び製造時間を上昇させる。あるいは、この突起部はタイヤ表面に残る可能性があり、このことは、今度はタイヤの美観を弱める。この糸状の突起部は、ちぎれて通気孔の中に留まる可能性もあり、これが起こると、金型からの空気除去が損なわれたり阻まれたりする。
【0004】
加硫金型の通気孔は、加硫プロセスの間の通気孔へのタイヤ材料の侵入を防ぐために、通気弁(通気バルブ)を備えることができる。この通気弁は、典型的には、弁スリーブとこの弁スリーブの内部に配置された通気管とを備える。弁体(弁頭)を備える可動式の弁インサートがこの通気管の中に置かれる。この弁体を金型壁から離れるようにタイヤブランクに向かって押し付けるためのコイルばねが弁インサートの周囲に配置されている。従って、空気は、弁体と弁スリーブとの間のクリアランスを経由して、さらには弁インサートの棒(ステム)と弁スリーブの内面との間のクリアランスを経由して金型から出ることができる。加硫されようとしているタイヤ材料が金型表面に向かって動くにつれて、そのタイヤ材料は、弁体を閉位置に向かって押し、最後に弁体を弁スリーブに向かって押し付け、このようにして通気管を閉じ、このため、加硫されようとしているタイヤ材料は通気管に近づくことができない。タイヤブランクが金型から取り外されている間は、このコイルばねは空気抜き弁を開ける。
【0005】
欧州特許第774333B号明細書の
図5は、弁スリーブから取り外すことができる着脱式の弁インサートを備える通気弁を開示する。この弁インサートは、円錐形(円錐台形)の弁体と、弁スリーブに円錐台状の対向面とを備える。加えて、この弁インサートは圧縮可能な保持部材を備え、この圧縮可能な保持部材は、圧縮されることが可能であり、従って弁スリーブから弁インサートを取り外すことができる。この保持部材は、弁が開かれる時に弁スリーブの端と接触し、従って弁インサートの開ストロークを制限する円錐(円錐穴)状の当接面を備える。
【0006】
欧州特許第1998946B号明細書は、同様に着脱式の弁インサートを備える通気弁を開示する。この弁スリーブは、弁部材の取り外し及び挿入を容易にするために弾性的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】欧州特許第774333B号明細書
【文献】欧州特許第1998946B号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の通気弁の欠点は、弁インサートが弁体の下方面及び保持部材の当接面という2つの円錐面を有し、このことは、弁の開ストロークを所望の限度内に維持するために、高い寸法精度を要求するということである。寸法精度が高い円錐面を製作することは困難であるので、弁の開ストロークは、許容される限度を超える可能性がある。
【0009】
本発明の目的は、上述の課題を低減することができる解決策を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る目的は、請求項1に係る弁インサート及び請求項10に係る空気抜き弁によって成し遂げることができる。
【0011】
本発明に係る弁インサートは、空気抜き弁の弁スリーブの中へと挿入されるように構成された弁棒を備える。この弁棒の第1端は弁体を備え、上記弁棒の第2端は、上記弁インサートを上記弁スリーブに脱着可能に取り付けるため、及び上記弁インサートの開ストロークを制限するための弾性的に圧縮可能な保持部材を備える。この保持部材は、上記弁スリーブの端面に接触し、従って上記弁インサートの開ストロークを制限するように配置された停止面を備える。
【0012】
顕著な利点が、本発明によって成し遂げられうる。本発明の一実施形態によれば、本発明に係る弁インサートは、この弁インサートの長手方向軸に垂直である停止面を備える。この種の湾曲していない(真っ直ぐな)停止面は、従来の通気弁で利用されている円錐状の停止面よりも、所望の寸法に製作するのが容易である。このため、通気弁の開ストロークを所望の限界内に維持することができる。
【0013】
本発明の別の実施形態によれば、上記弁棒は、少なくとも切り欠き部を備え、この切り欠き部は、弁棒の外面と、弁スリーブの内面及び出口開口との間のクリアランスを増大させ、従ってこの弁スリーブを通る通気を増大させる。
【0014】
以下では、本発明は、添付の図面を参照して、実施例を用いてより詳細に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る空気抜き弁を示す。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る空気抜き弁を示す。
【
図4】
図4は、
図3の側面図に対して90°回転した、
図1及び
図2の空気抜き弁のインサートの別の側面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1及び
図2は、加硫金型、例えば車両用タイヤの加硫金型から空気を除去するための通気弁(通気バルブ)1を示す。典型的には、この加硫金型は、1000~4000個の通気弁1を備える。通気弁1は、弁スリーブ(バルブスリーブ)3と、弁スリーブ3の中へと挿入される弁インサート4とを備える。弁スリーブ3は、例えば圧入によって加硫金型の通気孔に取り付けられる。弁スリーブ3は、円筒形である。弁スリーブ3の外径は、典型的には、1.5~4mmである。
図2では、弁スリーブ3は断面として示されている。
【0017】
弁インサート4は弁棒(バルブステム)6を備え、この弁棒6の第1端は弁体(バルブディスク)7を備え、第2端は、弁インサート4を弁スリーブ3に脱着可能に取り付けるための機構又は手段8を備える。弁インサート4は、着脱式接続によって弁スリーブ3に取り付けられる。弁インサート4は、
図3~
図5により詳細に示されている。弁スリーブ3の第1端は円錐状座面9を備え、この円錐状座面9に対して、
図1及び
図2に示すように、弁体7の円錐面5が通気弁1の閉位置に配置されている。通気弁1は、弁インサート4を開位置に向かって移動させるためのばね2を備え、開位置では、弁体7の円錐面5は、弁スリーブ3の円錐面9から一定の距離がある。ばね2は、つる巻きばねであり、弁棒6の周囲に配置される。ばね2の一端は、弁体7の下方面に接触しており、他端は、弁スリーブ3の支持面15に接触している。
【0018】
弁インサートを弁スリーブに脱着可能に取り付けるための手段は、弁棒6の第2端に備えられる弾性的に圧縮可能かつ/又は弾性的に変形可能な保持部材8を備える。保持部材8は、弁インサート4が弁スリーブ3の中へと挿入され、保持部材8が弁スリーブ3の出口開口12を通って挿入される時に、圧縮されるように構成されている。
【0019】
弁インサート4は、弁棒6の第2端にスロット10を備え、このスロット10により、保持部材8の圧縮が成し遂げられる。スロット10は、弁棒6の第2端から弁棒6の第1端に向かって延在する。スロット10は、弁棒6を半径方向に突き抜けて延在する。この半径方向は、弁棒の長手方向軸17に垂直である。加えて、保持部材8はカラー11を備える。スロット10はカラー11を突き抜けて延在する。
【0020】
保持部材8の非圧縮状態におけるカラー11の外径は、弁スリーブ3の出口開口12の内径よりも大きい。カラー11は円錐面13を備え、この円錐面13は、弁インサート4が弁スリーブ3の中へと挿入され、カラー11が出口開口12を通る時に、開口12の縁に当接するように構成されている。
【0021】
さらに、保持部材8は停止面14を備え、この停止面14は、弁インサート4が開位置に向かって動かされる時に、弁スリーブ3の端面16に当接し、従って弁インサート4の開ストロークを制限するように構成されている。停止面14は、弁体7を向いている。停止面14は、弁インサートの長手方向軸17に垂直である。停止面14は、弁スリーブの端面16と平行であり、通気弁1の最大の開位置では、停止面14は端面16に接触して配置されている。弁インサート4の長手方向軸17は、弁インサート4の開閉の動きの方向と平行である。弁体7が座面9に接触している時、停止面14は、弁スリーブ3の端面16から一定の距離を置いている。停止面14が弁スリーブの端面16に接触している時、上記弁体の円錐面5は、座面9から一定の距離を置いている。停止面14は平坦であるか又は湾曲していない。上記弁スリーブの端面16は平坦であるか又は湾曲していない。
【0022】
弁棒6は、出口開口12を通る弁スリーブ3からの空気除去及び弁スリーブ12を通る通気量を増大させるための少なくとも1つの切り欠き部18を備える。切り欠き部18は、弁棒6の第2端から、又は保持部材8から弁体7に向かって延在する。切り欠き部は、弁インサート4が開位置にある時には、弁スリーブ3の出口開口12を突き抜けて延在する。切り欠き部18の場所における弁棒6の直径D1は、弁棒6の周方向において切り欠き部18に隣接した場所における弁棒6の直径D2よりも小さい。切り欠き部18の場所における保持部材8の直径D1は、出口開口12の直径よりも小さい。保持部材8が非圧縮状態にあるとき、切り欠き部18に隣接した場所における保持部材8の直径は、出口開口12の直径よりも大きい。切り欠き部18の表面は湾曲していない(真っ直ぐである)。切り欠き部18は、通気弁1を通る断面方向の気流面積を増大させる。切り欠き部18は、スロット10の底のレベルまで延在する。
【0023】
図面に示された実施形態では、弁棒6は、2つの切り欠き部18を備える。これらの切り欠き部18は、弁棒6の両側(互いに裏側)に配置されている。弁棒6の両側での切り欠き部表面は平行である。これらの切り欠き部は同一である。典型的には、弁棒6は、上記のとおり1~4つの切り欠き部18を備える。
【0024】
弁スリーブ3の壁は、弁スリーブ3からの空気除去を増大させるための少なくとも1つの孔19、典型的には複数の孔19を備える。孔19は、弁スリーブ3の壁を貫通して延在する。孔19は、弁スリーブ3の内面から弁スリーブ3の外面まで延在する。弁スリーブ3は、上方部分3.1及び下方部分3.2を備える。下方部分3.2の外径は、上方部分3.1の直径よりも小さい。孔(1又は複数)19は、弁スリーブの下方部分3.2に位置している。従って、空気は、弁スリーブ3から孔(1又は複数)19を通って、及び下方部分3.2と加硫金型の通気孔との間の隙間を通って排出される。複数の孔19は、弁スリーブ3の周方向に隣り合わせに配置され、かつ/又は重なるように配置される。
【0025】
弁インサート4及び弁インサート4を囲むばね2は、保持部材8が弁スリーブ3の第1端の入口開口を通って弁スリーブ3の中へと挿入されるように、弁スリーブ3へと差し込まれる。保持部材8の円錐面13は、弁スリーブ3の第2端の出口開口12の縁に当接し、保持部材8が出口開口12を通して引き出されうるように弾性的に圧縮される。
【0026】
弁インサート4は、弁インサート4が弁スリーブ3の内部で出口開口12を通して引き出されうるように保持部材8を圧縮することにより、弁スリーブから脱着される。保持部材8は、例えば保持部材8を圧縮するための寸法を有する円錐形の開口又は凹部を有する工具によって圧縮される。その後、弁インサート4及びばね2を弁スリーブ3から取り外すことができる。