(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】黄色ブドウ球菌感染および関連状態を治療および予防する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/085 20060101AFI20220825BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20220825BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20220825BHJP
A61K 39/39 20060101ALI20220825BHJP
A61K 39/116 20060101ALI20220825BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220825BHJP
A61K 39/385 20060101ALI20220825BHJP
C07K 14/31 20060101ALN20220825BHJP
【FI】
A61K39/085 ZNA
A61P37/04
A61P31/04
A61K39/39
A61K39/116
A61P43/00 121
A61K39/385
C07K14/31
(21)【出願番号】P 2020146494
(22)【出願日】2020-09-01
(62)【分割の表示】P 2018231287の分割
【原出願日】2012-06-19
【審査請求日】2020-09-24
(32)【優先日】2011-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511060836
【氏名又は名称】ニューヨーク・ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】トーレス ビクター ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】アロンゾ フランシス
【審査官】六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-539979(JP,A)
【文献】FEBS Letters,1998年,436,p.202-208
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00-39/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における黄色ブドウ球菌(S. aureus)
に対する免疫応答を発生させるための組成物であって:
SEQ ID NO:11のアミノ酸残基29~311の配列に対して少なくとも
85%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、単離されたロイコシジンE(LukE)ポリペプチド;および
薬学的に許容される担体
を含む、組成物。
【請求項2】
前記単離されたLukEポリペプチドの配列がSEQ ID NO:11のアミノ酸残基29~311の配列に対して少なくとも90%の配列同一性を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記単離されたLukEポリペプチドの配列がSEQ ID NO:11のアミノ酸残基29~311の配列に対して少なくとも95%の配列同一性を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
SEQ ID NO:22のアミノ酸残基27~327のアミノ酸配列を含む単離されたロイコシジンD(LukD)ポリペプチドをさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
アジュバントをさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記アジュバントが、フラジェリン、フロイント完全アジュバント、フロイント不完全アジュバント、水酸化アルミニウム、リゾレシチン、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油乳剤、ジニトロフェノール、イスコマトリックス、およびリポソームポリカチオンDNA粒子からなる群から選択される、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
対象における黄色ブドウ球菌
に対する免疫応答を発生させるための組成物であって:
SEQ ID NO:22のアミノ酸残基27~327の配列に対して少なくとも
85%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、単離されたロイコシジンD(LukD)ポリペプチド;および
薬学的に許容される担体
を含む、組成物。
【請求項8】
前記単離されたLukDポリペプチドの配列がSEQ ID NO:22のアミノ酸残基27~327の配列に対して少なくとも90%の配列同一性を含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記単離されたLukDポリペプチドの配列がSEQ ID NO:22のアミノ酸残基27~327の配列に対して少なくとも95%の配列同一性を含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
SEQ ID NO:11のアミノ酸残基29~311のアミノ酸配列を含む単離されたロイコシジンE(LukE)ポリペプチドをさらに含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項11】
アジュバントをさらに含む、請求項7に記載の組成物。
【請求項12】
前記アジュバントが、フラジェリン、フロイント完全アジュバント、フロイント不完全アジュバント、水酸化アルミニウム、リゾレシチン、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油乳剤、ジニトロフェノール、イスコマトリックス、およびリポソームポリカチオンDNA粒子からなる群から選択される、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
対象における黄色ブドウ球菌に対する免疫応答を発生させるための組成物であって:
SEQ ID NO:11の50~200のアミノ酸残基のアミノ酸配列を含む、LukEポリペプチド;および
薬学的に許容される担体
を含む、組成物。
【請求項14】
対象における黄色ブドウ球菌に対する免疫応答を発生させるための組成物であって:
SEQ ID NO:22の50~200のアミノ酸残基のアミノ酸配列を含む、LukDポリペプチド;および
薬学的に許容される担体
を含む、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、2011年6月19日出願の米国仮特許出願第61/498,596号の利益を主張するものである。
【0002】
発明の分野
本発明は、黄色ブドウ球菌感染および黄色ブドウ球菌関連状態をスクリーニング、治療、および予防する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus("S.aureus"))は、人口の25%超に片利共生的に定着する細菌である。重要なことに、この生物は、その初期の定着部位を破壊することができ、細菌性播種および疾患をもたらす。黄色ブドウ球菌は、院内感染の主な原因であり、感染性心内膜炎ならびに皮膚および軟組織感染の最も一般的な病原因子であり、食中毒の4つの主な原因のうちの1つである。総計で、黄色ブドウ球菌は、米国の病院内で年間120万人超の患者に感染している。ヒトの健康に対する黄色ブドウ球菌の脅威は、黄色ブドウ球菌感染に対する防御の最終手段とされる抗生物質、バンコマイシンに耐性のある菌株を含む、耐抗生物質菌株(すなわち、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)菌株)の出現によってさらに強調される。これらの事実は、この重要な病原体に対する新規の治療製剤の開発の重要性を強調する。
【0004】
黄色ブドウ球菌は、この細菌が、異なる種類の免疫細胞、特に、身体の主要な防御システムを構成する白血球の亜種による攻撃を無力化し、かつそれに耐えることを可能にする多様な病原性因子および毒素を産生する。これらの病原性因子および毒素の産生は、黄色ブドウ球菌に感染状態を維持させる(Nizet、"Understanding How Leading Bacterial Pathogens Subvert Innate Immunity to Reveal Novel Therapeutic Targets,"J. Allergy Clin.Immunol.120(1):13-22(2007)(非特許文献1)を参照のこと)。これらの病原性因子の中で、黄色ブドウ球菌は、2つの非関連性タンパク質またはサブユニットの相乗層状作用によって宿主防御細胞および赤血球の膜を損傷させる、いくつかの二成分性ロイコトキシンを産生する(Menestrinaら、"Mode of Action of Beta-Barrel Pore-Forming Toxins of the Staphylococcal Alpha-Hemolysin Family,"Toxicol.39(11):1661-1672(2001)(非特許文献2)を参照のこと)。これらの二成分性ロイコトキシンの中で、γ-溶血素(HlgABおよびHlgCB)ならびにパントンバレンタインロイコシジン(PVL)は、最も特徴的である。
【0005】
哺乳類細胞に対するロイコシジンの毒性は、2つの成分またはサブユニットの作用を伴う。第1のサブユニットは、Sサブユニット(すなわち、「緩徐溶出」)と命名され、第2のサブユニットは、Fサブユニット(すなわち、「急速溶出」)と命名されている。SおよびFサブユニットは、相乗的に作用して、単核細胞、大食細胞、樹状細胞、および好中球(集合的に食細胞として既知である)を含む白血球上に孔を形成する(Menestrinaら、"Mode of Action of Beta-Barrel Pore-Forming Toxins of the Staphylococcal Alpha-Hemolysin Family,"Toxicol.39(11):1661-1672(2001)(非特許文献2)を参照のこと)。それによって二成分性毒素が標的細胞膜内に孔を形成するメカニズムは、完全には理解されていない。これらの毒素の作用の提案されたメカニズムは、多くの場合は受容体を通じてSサブユニットが標的細胞膜に結合した後、FサブユニットがSサブユニットに結合し、それによって、オリゴマーを形成し、その後、該オリゴマーは、標的細胞膜中に挿入するプレポアを形成することを含む(Jayasingheら、"The Leukocidin Pore:Evidence for an Octamer With Four LukF Subunits and Four LukS Subunits Alternating Around a Central Axis,"Protein.Sci.14(10):2550-2561(2005)(非特許文献3))。二成分性ロイコトキシンによって形成される孔は、典型的にはカチオン選択性である。孔形成は、溶解を介して細胞死を引き起こし、それは標的白血球の場合、カチオンの流入に起因する浸透不均衡の結果であると報告されている(Milesら、"The Staphylococcal Leukocidin Bicomponent Toxin Forms Large Ionic Channels,"Biochemistry40(29):8514-8522(2001)(非特許文献4))。
【0006】
PVL(ロイコシジンS/F-PVまたはLukSF-PVとしても既知である)ならびにγ溶血素(HlgABおよびHlgCB)に加えて、黄色ブドウ球菌によって産生される二成分性ロイコトキシンのレパートリーとしては、ロイコシジンE/D(「LukE/D」)、ロイコシジンA/B(「LukAB」)およびロイコシジンM/F(「LukMF」)が含まれることが既知である。したがって、これらの二成分性ロイコシジンのS型サブユニットとしては、HlgA、HlgC、LukE、LukS-PV、LukA、およびLukMが挙げられ、またF型サブユニットとしては、HlgB、LukD、LukF-PV、LukB、およびLukF'-PVが挙げられる。黄色ブドウ球菌SおよびFサブユニットは、ロイコシジン特異的ではない。すなわち、それらは互換的であり、したがって、他の二成分性の組み合わせが白血球内で機能的な孔を作製することを可能にし、ロイコトキシンのレパートリーを大いに増加させる(Meyerら、"Analysis of the Specificity of Panton-Valentine Leucocidin and Gamma-Hemolysin F Component Binding,"Infect.Immun.77(1):266-273(2009)(非特許文献5))。
【0007】
MRSA感染を治療するのに有効な療法を設計することは、特に困難である。メチシリンおよび関連する抗生物質に対する耐性に加えて、MRSAは、マクロライド(例えば、エリトロマイシン)、βラクタマーゼ阻害因子の組み合わせ(例えば、ユナシン、アウグメンチン)、およびフルオロキノロン(例えば、シプロフロキサシン)、ならびにクリンダマイシン、トリメトプリム/スルファメトキサゾール(sulfamethoxisol)(Bactrim)、およびリファンピンに対する著しいレベルの耐性を有することも見出されている。重篤な黄色ブドウ球菌感染の場合、臨床医は、静脈内投与バンコマイシンを最後の手段として用いてきた。しかしながら、バンコマイシンに対する黄色ブドウ球菌の耐性に関する報告も存在している。したがって、黄色ブドウ球菌感染に効果的に効く新規の治療を開発する必要がある。
【0008】
本発明は、当該技術分野におけるこれらおよび他の制限の打開を対象とする。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Nizet、"Understanding How Leading Bacterial Pathogens Subvert Innate Immunity to Reveal Novel Therapeutic Targets,"J. Allergy Clin.Immunol.120(1):13-22(2007)
【文献】Menestrinaら、"Mode of Action of Beta-Barrel Pore-Forming Toxins of the Staphylococcal Alpha-Hemolysin Family,"Toxicol.39(11):1661-1672(2001)
【文献】Jayasingheら、"The Leukocidin Pore:Evidence for an Octamer With Four LukF Subunits and Four LukS Subunits Alternating Around a Central Axis,"Protein.Sci.14(10):2550-2561(2005)
【文献】Milesら、"The Staphylococcal Leukocidin Bicomponent Toxin Forms Large Ionic Channels,"Biochemistry40(29):8514-8522(2001)
【文献】Meyerら、"Analysis of the Specificity of Panton-Valentine Leucocidin and Gamma-Hemolysin F Component Binding,"Infect.Immun.77(1):266-273(2009)
【発明の概要】
【0010】
本発明の第1の態様は、治療的に有効な量の単離されたロイコシジンE(LukE)タンパク質もしくはそのポリペプチド、単離されたロイコシジンD(LukD)タンパク質もしくはそのポリペプチド、またはそれらの組み合わせ、および薬学的に許容される担体を含む組成物に関する。
【0011】
本発明の別の態様は、対象における黄色ブドウ球菌感染に対して免疫化する方法に関する。本方法は、本発明の組成物を、対象における黄色ブドウ球菌感染に対して免疫化するのに有効な量で投与することを含む。
【0012】
本発明の別の態様は、治療的に有効な量のLukE抗体、LukD抗体、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される抗体、および薬学的に許容される担体を含む組成物に関する。
【0013】
本発明の別の態様は、対象における黄色ブドウ球菌感染および/または黄色ブドウ球菌関連状態を予防する方法に関する。本方法は、LukE抗体、LukD抗体、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される抗体を含む組成物を、対象における黄色ブドウ球菌感染および/または黄色ブドウ球菌関連状態を予防するのに有効な量で投与することを含む。
【0014】
本発明のさらに別の態様は、対象における黄色ブドウ球菌感染および/または黄色ブドウ球菌関連状態を治療する方法に関する。本方法は、LukE/D媒介性細胞毒性の阻害因子の1つ以上を含む組成物を、対象における黄色ブドウ球菌感染および/または黄色ブドウ球菌関連状態を治療するのに有効な量で投与することを含む。
【0015】
本発明のさらに別の態様は、黄色ブドウ球菌感染の重症度を予測する方法に関する。本方法は、感染した対象由来の流体試料または組織試料を介して該対象から得られた黄色ブドウ球菌を培養することと、培養された黄色ブドウ球菌におけるLukEおよび/またはLukD発現を定量化することとを含む。対象由来の試料中のLukEおよび/またはLukDの定量化された量は、LukEおよび/もしくはLukDをほとんど産生しないかまたは検出不可能な量のLukEおよび/もしくはLukDを産生する対照試料中のLukEおよび/またはLukDの量と比較され、該比較に基づいて、黄色ブドウ球菌の重症度が予測される。
【0016】
本発明の別の態様は、黄色ブドウ球菌感染を有する対象を治療する方法に関する。本方法は、感染した対象由来の流体試料または組織試料を介して該対象から得られた黄色ブドウ球菌を培養することと、培養された黄色ブドウ球菌におけるLukEおよび/またはLukD発現を定量化することとを含む。対象由来の試料中のLukEおよび/またはLukDの定量化された量は、LukEおよび/もしくはLukDをほとんど産生しないかまたは検出不可能な量のLukEおよび/もしくはLukDを産生する対照試料中のLukEおよび/またはLukDの量と比較され、この比較に基づいて、対象にとって好適な治療が決定される。方法は、決定された好適な治療を対象に施して、黄色ブドウ球菌感染を治療することをさらに含む。
【0017】
本発明の別の態様は、LukE/D細胞毒性の阻害因子を特定する方法に関する。本方法は、細胞集団、LukE/Dを含む調製物、および候補LukE/D阻害因子を供給すること含む。細胞集団は、候補阻害因子の存在下および不在下で、LukE/Dを含有する調製物に曝露され、LukE/D媒介性細胞毒性が、候補阻害因子の存在下および不在下で測定される。候補阻害因子の存在下および不在下で測定された細胞毒性の量が比較され、この比較に基づいてLukE/D細胞毒性の阻害因子が特定される。
【0018】
本発明の別の態様は、LukE/D媒介性孔形成の阻害因子を特定する方法に関する。本方法は、白血球の集団、LukEおよびLukDを含有する調製物、ならびに候補阻害因子を供給することを含む。白血球集団は、候補阻害因子の存在下および不在下で、LukEおよびLukDを含有する調製物に曝露され、白血球集団上の孔形成が、候補阻害因子の存在下および不在下で測定される。候補阻害因子の存在下および不在下で測定された孔形成の量が比較され、この比較に基づいてLukE/D媒介性孔形成の阻害因子が特定される。
【0019】
本発明の別の態様は、LukEおよび/またはLukD白血球結合の阻害因子を特定する方法に関する。本方法は、白血球の集団、検出可能に標識されたLukEおよびLukDを含有する調製物、ならびに候補阻害因子を供給することを含む。細胞集団は、候補阻害因子の存在下および不在下で、検出可能に標識されたLukEおよびLukDを含有する調製物に曝露され、候補阻害因子の存在下および不在下で、白血球集団に結合している標識されたLukEおよび/またはLukDが測定される。候補阻害因子の存在下および不在下で測定されたLukEおよび/またはLukD白血球結合の量が比較され、その比較に基づいてLukEおよび/またはLukD白血球結合の阻害因子が特定される。
【0020】
黄色ブドウ球菌の病原体としての驚異的な成功は、一部には、宿主を傷つける因子の貯蔵を示すその能力に起因する。これらの因子の中には、それらが宿主細胞を死滅させることによって作用する、細胞外環境中へと分泌される多数の細菌タンパク質毒素がある。ロイコシジンE/D(LukE/D)は、黄色ブドウ球菌によって産生される、特徴決定が十分でない毒素である。本明細書で示されるように、この毒素は、黄色ブドウ球菌感染から宿主を保護することに関与する重要な免疫細胞である宿主白血球を標的にし、かつ死滅させる。LukE/Dが生体内での病原性に極めて重要であるという発見は、疾患過程におけるこの毒素の重要性を強調する。本明細書に説明されるように、LukEおよび/またはLukDによる免疫化は、黄色ブドウ球菌に対する中和抗体を発生させる。したがって、能動的および/または受動的ワクチン戦略は、黄色ブドウ球菌感染を予防する新規の治療戦略を提供する。それに加えて、LukE/D媒介性細胞毒性の直接的阻害は、黄色ブドウ球菌感染を有する個体を治療する新規の手段を提供する。
[本発明1001]
治療的に有効な量の単離されたLukEタンパク質もしくはそのポリペプチド、単離されたLukDタンパク質もしくはそのポリペプチド、またはそれらの組み合わせと、
薬学的に許容される担体と
を含む、組成物。
[本発明1002]
前記単離されたLukEタンパク質がSEQ ID NO:11のアミノ酸配列を含む、本発明1001の組成物。
[本発明1003]
前記単離されたLukEポリペプチドがSEQ ID NO:11のアミノ酸残基48~291を含む、本発明1001の組成物。
[本発明1004]
前記単離されたLukDタンパク質がSEQ ID NO:22のアミノ酸配列を含む、本発明1001の組成物。
[本発明1005]
前記単離されたLukDポリペプチドがSEQ ID NO:22のアミノ酸残基46~307を含む、本発明1001の組成物。
[本発明1006]
前記組成物の前記単離されたタンパク質またはそのポリペプチドが、免疫原性担体分子に連結されている、本発明1001の組成物。
[本発明1007]
前記免疫原性担体分子が、免疫原性のタンパク質またはペプチドに共有結合または非共有結合で結合している、本発明1006の組成物。
[本発明1008]
前記免疫原性担体分子が、ウシ血清アルブミン、ニワトリ卵オボアルブミン、キーホールリンペットヘモシアニン、破傷風トキソイド、ジフテリアトキソイド、サイログロブリン、肺炎球菌莢膜多糖、CRM197、および髄膜炎菌性外膜タンパク質からなる群から選択される、本発明1006の組成物。
[本発明1009]
α溶血素抗原、プロテインA、血清型336多糖抗原、コアグラーゼ、クランピング因子A、クランピング因子B、フィブロネクチン結合タンパク質、フィブリノーゲン結合タンパク質、コラーゲン結合タンパク質、エラスチン結合タンパク質、MHC類似タンパク質、多糖類細胞内接着、β溶血素、δ溶血素、γ溶血素、パントンバレンタインロイコシジン、ロイコシジンA、ロイコシジンB、ロイコシジンM、表皮剥脱毒素A、表皮剥脱毒素B、V8プロテアーゼ、ヒアルロン酸リアーゼ、リパーゼ、スタフィロキナーゼ、エンテロトキシン、毒素性ショック症候群毒素-1、ポリ-N-スクシニルβ-1→6グルコサミン、カタラーゼ、βラクタマーゼ、テイコ酸、ペプチドグリカン、ペニシリン結合タンパク質、走化性阻害タンパク質、補体阻害因子、Sbi、5型抗原、8型抗原、リポテイコ酸、および、宿主分子を認識する微生物表面成分からなる群から選択される1つ以上のさらなる黄色ブドウ球菌抗原をさらに含む、本発明1001の組成物。
[本発明1010]
アジュバントをさらに含む、本発明1001の組成物。
[本発明1011]
前記アジュバントが、フラジェリン、フロイント完全または不完全アジュバント、水酸化アルミニウム、リゾレシチン、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油乳剤、ジニトロフェノール、イスコマトリックス、およびリポソームポリカチオンDNA粒子からなる群から選択される、本発明1010の組成物。
[本発明1012]
対象における黄色ブドウ球菌感染に対して免疫化する方法であって、
本発明1001の組成物を、該対象における黄色ブドウ球菌感染に対して免疫化するのに有効な量で投与すること
を含む、方法。
[本発明1013]
前記組成物が、α溶血素抗原、プロテインA、血清型336多糖抗原、コアグラーゼ、クランピング因子A、クランピング因子B、フィブロネクチン結合タンパク質、フィブリノーゲン結合タンパク質、コラーゲン結合タンパク質、エラスチン結合タンパク質、MHC類似タンパク質、多糖類細胞内接着、β溶血素、δ溶血素、γ溶血素、パントンバレンタインロイコシジン、ロイコシジンA、ロイコシジンB、ロイコシジンM、表皮剥脱毒素A、表皮剥脱毒素B、V8プロテアーゼ、ヒアルロン酸リアーゼ、リパーゼ、スタフィロキナーゼ、エンテロトキシン、毒素性ショック症候群毒素-1、ポリ-N-スクシニルβ-1→6グルコサミン、カタラーゼ、βラクタマーゼ、テイコ酸、ペプチドグリカン、ペニシリン結合タンパク質、走化性阻害タンパク質、補体阻害因子、Sbi、5型抗原、8型抗原、リポテイコ酸、および、宿主分子を認識する微生物表面成分からなる群から選択される1つ以上のさらなる黄色ブドウ球菌抗原をさらに含む、本発明1012の方法。
[本発明1014]
前記組成物がアジュバントをさらに含む、本発明1012の方法。
[本発明1015]
前記対象に、単離されたLukEタンパク質、単離された免疫原性LukEフラグメント、単離されたLukDタンパク質、単離された免疫原性LukDフラグメント、またはこれらの組み合わせを含む前記組成物の投与前、投与後、または投与と同時に、アジュバントを投与すること
をさらに含む、本発明1012の方法。
[本発明1016]
前記投与が、前記対象における黄色ブドウ球菌に対する中和免疫応答を誘発する、本発明1012の方法。
[本発明1017]
前記黄色ブドウ球菌感染が、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染またはメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)感染である、本発明1012の方法。
[本発明1018]
前記投与が、経口で、吸入によって、鼻腔内滴下によって、局所的に、経皮的に、非経口で、皮下的に、静脈内注入で、動脈内注入で、筋肉内注入で、胸膜内で、腹腔内で、または粘膜への塗布によって行われる、本発明1012の方法。
[本発明1019]
前記投与を繰り返すことをさらに含む、本発明1012の方法。
[本発明1020]
前記対象が、幼児、若年者、成人、または高齢者である、本発明1012の方法。
[本発明1021]
前記対象が、免疫無防備状態の若年者、成人、または高齢者である、本発明1012の方法。
[本発明1022]
ロイコシジンE(LukE)抗体、ロイコシジンD(LukD)抗体、またはこれらの組み合わせと、
薬学的に許容される担体と
を含む、組成物。
[本発明1023]
LukE抗体を含む、本発明1022の組成物。
[本発明1024]
前記LukE抗体が、SEQ ID NO:11のアミノ酸配列中のエピトープを認識する、本発明1023の組成物。
[本発明1025]
LukD抗体を含む、本発明1022の組成物。
[本発明1026]
前記LukD抗体が、SEQ ID NO:22のアミノ酸配列中のエピトープを認識する、本発明1025の組成物。
[本発明1027]
1つ以上の中和抗体を含む、本発明1022の組成物。
[本発明1028]
α溶血素抗原、プロテインA、血清型336多糖抗原、コアグラーゼ、クランピング因子A、クランピング因子B、フィブロネクチン結合タンパク質、フィブリノーゲン結合タンパク質、コラーゲン結合タンパク質、エラスチン結合タンパク質、MHC類似タンパク質、多糖類細胞内接着、β溶血素、δ溶血素、γ溶血素、パントンバレンタインロイコシジン、ロイコシジンA、ロイコシジンB、ロイコシジンM、表皮剥脱毒素A、表皮剥脱毒素B、V8プロテアーゼ、ヒアルロン酸リアーゼ、リパーゼ、スタフィロキナーゼ、エンテロトキシン、毒素性ショック症候群毒素-1、ポリ-N-スクシニルβ-1→6グルコサミン、カタラーゼ、βラクタマーゼ、テイコ酸、ペプチドグリカン、ペニシリン結合タンパク質、走化性阻害タンパク質、補体阻害因子、Sbi、5型抗原、8型抗原、リポテイコ酸、および、宿主分子を認識する微生物表面成分からなる群から選択される1つ以上の黄色ブドウ球菌抗原を認識する1つ以上の抗体をさらに含む、本発明1022の組成物。
[本発明1029]
対象における黄色ブドウ球菌感染および/または黄色ブドウ球菌関連状態を治療または予防する方法であって、
本発明1022の組成物を、該対象における黄色ブドウ球菌感染および/または黄色ブドウ球菌関連状態を予防するのに有効な量で投与すること
を含む、方法。
[本発明1030]
抗感染剤、抗生物質、および抗菌物質からなる群から選択される作用物質を投与すること
をさらに含む、本発明1029の方法。
[本発明1031]
前記黄色ブドウ球菌感染がMRSA感染またはMSSA感染である、本発明1029の方法。
[本発明1032]
前記黄色ブドウ球菌関連状態が、皮膚創傷および皮膚感染、組織膿瘍、毛包炎、骨髄炎、肺炎、熱傷様皮膚症候群、敗血症、敗血性関節炎、心筋炎、心内膜炎、ならびに毒素性ショック症候群からなる群から選択される、本発明1029の方法。
[本発明1033]
前記投与が、経口で、吸入によって、鼻腔内滴下によって、局所的に、経皮的に、非経口で、皮下的に、静脈内注入で、動脈内注入で、筋肉内注入で、胸膜内で、腹腔内で、または粘膜への塗布によって行われる、本発明1029の方法。
[本発明1034]
前記投与を繰り返すことをさらに含む、本発明1029の方法。
[本発明1035]
前記対象が、幼児、若年者、成人、または高齢者である、本発明1029の方法。
[本発明1036]
前記対象が、免疫無防備状態の若年者、成人、または高齢者である、本発明1029の方法。
[本発明1037]
対象における黄色ブドウ球菌感染および/または黄色ブドウ球菌関連状態を治療する方法であって、
LukE/D媒介性細胞毒性の阻害因子の1つ以上を含む組成物を、該対象における該黄色ブドウ球菌感染および/または該黄色ブドウ球菌関連状態を治療するのに有効な量で投与すること
を含む、方法。
[本発明1038]
前記阻害因子が、タンパク質もしくはペプチド阻害因子、核酸阻害因子、または小分子阻害因子である、本発明1037の方法。
[本発明1039]
前記LukE/D媒介性細胞毒性の阻害因子がLukE阻害因子である、本発明1037の方法。
[本発明1040]
前記LukE阻害因子が、SEQ ID NO:11のアミノ酸配列中のエピトープを認識する抗体である、本発明1039の方法。
[本発明1041]
前記LukE/D媒介性細胞毒性の阻害因子がLukD阻害因子である、本発明1037の方法。
[本発明1042]
前記LukD阻害因子が、SEQ ID NO:22のアミノ酸配列中のエピトープを認識する抗体である、本発明1041の方法。
[本発明1043]
前記LukE/D媒介性細胞毒性の阻害因子が、LukE/D受容体拮抗物質を含む、本発明1037の方法。
[本発明1044]
前記LukE/D媒介性細胞毒性の阻害因子が、LukEとLukDの相互作用を阻害する、本発明1037の方法。
[本発明1045]
前記LukE/D媒介性細胞毒性の阻害因子が、白血球の原形質膜へのLukE、LukD、またはLukE/Dの結合を阻害する、本発明1037の方法。
[本発明1046]
前記LukE/D媒介性細胞毒性の阻害因子が、LukE/Dオリゴマー複合体形成を阻止する、本発明1037の方法。
[本発明1047]
前記LukE/D媒介性細胞毒性の阻害因子が、LukE/D媒介性細胞孔を阻害する、本発明1037の方法。
[本発明1048]
前記LukE/D媒介性細胞毒性の阻害因子がシクロデキストリン化合物を含む、本発明1047の方法。
[本発明1049]
前記LukE/D媒介性細胞毒性の阻害因子が、毒素リプレッサー(Rot)を誘発する作用物質である、本発明1037の方法。
[本発明1050]
抗感染剤、抗生物質、および抗菌物質からなる群から選択される作用物質を投与すること
をさらに含む、本発明1037の方法。
[本発明1051]
前記黄色ブドウ球菌感染がMRSA感染またはMSSA感染である、本発明1037の方法。
[本発明1052]
前記黄色ブドウ球菌関連状態が、皮膚創傷および皮膚感染、組織膿瘍、毛包炎、骨髄炎、肺炎、熱傷様皮膚症候群、敗血症、敗血性関節炎、心筋炎、心内膜炎、ならびに毒素性ショック症候群からなる群から選択される、本発明1037の方法。
[本発明1053]
前記投与が、経口で、吸入によって、鼻腔内滴下によって、局所的に、経皮的に、非経口で、皮下的に、静脈内注入で、動脈内注入で、筋肉内注入で、胸膜内で、腹腔内で、または粘膜への塗布によって行われる、本発明1037の方法。
[本発明1054]
前記投与を繰り返すことをさらに含む、本発明1037の方法。
[本発明1055]
前記対象が、幼児、若年者、成人、または高齢者である、本発明1037の方法。
[本発明1056]
前記対象が、免疫無防備状態の若年者、成人、または高齢者である、本発明1037の方法。
[本発明1057]
対象における黄色ブドウ球菌感染の重症度を予測する方法であって、
感染した該対象から得られた流体試料または組織試料由来の黄色ブドウ球菌を培養することと、
培養された該黄色ブドウ球菌におけるLukEおよび/またはLukD発現または産生を定量化することと、
該対象由来の該試料中のLukEおよび/またはLukDの定量化された量を、LukEおよび/もしくはLukDをほとんど産生しないかまたは検出不可能な量のLukEおよび/もしくはLukDを産生する対照試料中のLukEおよび/またはLukDの量と比較することと、
該比較に基づいて、該黄色ブドウ球菌感染の重症度を予測することと
を含む、方法。
[本発明1058]
前記定量化が、
前記培養された黄色ブドウ球菌におけるLukEおよび/またはLukDタンパク質産生のレベルを測定すること
を含む、本発明1057の方法。
[本発明1059]
前記定量化が、
前記培養された黄色ブドウ球菌におけるlukEおよび/またはlukD mRNA発現のレベルを測定すること
を含む、本発明1057の方法。
[本発明1060]
黄色ブドウ球菌感染を有する対象を治療する方法であって、
感染した該対象から得られた流体試料または組織試料由来の黄色ブドウ球菌を培養することと、
培養された該黄色ブドウ球菌におけるLukEおよび/またはLukD発現または産生を定量化することと、
該対象由来の該試料中のLukEおよび/またはLukDの定量化された量を、LukEおよび/もしくはLukDをほとんど産生しないかまたは検出不可能な量のLukEおよび/もしくはLukDを産生する対照試料中のLukEおよび/またはLukDの量と比較することと、
該比較に基づいて、該対象に好適な治療を決定することと、
決定された該治療を該対象に施して、該黄色ブドウ球菌感染を治療することと
を含む、方法。
[本発明1061]
前記定量化が、
前記培養された黄色ブドウ球菌におけるLukEおよび/またはLukDタンパク質産生のレベルを測定すること
を含む、本発明1060の方法。
[本発明1062]
前記定量化が、
前記培養された黄色ブドウ球菌におけるlukEおよび/またはlukD mRNA発現のレベルを測定すること
を含む、本発明1060の方法。
[本発明1063]
LukE/D細胞毒性の阻害因子を特定する方法であって、
細胞集団を供給することと、
LukEおよびLukDを含有する調製物を供給することと、
候補阻害因子を供給することと、
該候補阻害因子の存在下および不在下で、該細胞集団を、LukEおよびLukDを含有する該調製物に曝露することと、
曝露された該細胞の集団におけるLukE/D媒介性細胞毒性レベルを測定することと、
該候補阻害因子の存在下および不在下で測定されたLukE/D細胞毒性のレベルを比較することと、
該比較に基づいて、LukE/D細胞毒性の阻害因子を特定することと
を含む、方法。
[本発明1064]
前記候補阻害因子の不在下と比較した、該候補阻害因子の存在下における前記LukE/D媒介性細胞毒性のレベルの減少により、LukE/D細胞毒性の阻害因子が特定される、本発明1063の方法。
[本発明1065]
細胞毒性の標識マーカーを供給することと、
前記曝露の前、該曝露と同時に、または該曝露の後に、前記細胞集団を該細胞毒性の標識マーカーと接触させることと、
該細胞毒性の標識マーカーを検出することと、
該検出に基づいて、該細胞の集団におけるLukE/D媒介性細胞毒性レベルを測定することと
をさらに含む、本発明1063の方法。
[本発明1066]
前記細胞毒性の標識マーカーが、細胞生死判別色素、細胞非透過性色素、および/または、細胞溶解のマーカーである、本発明1065の方法。
[本発明1067]
前記細胞集団が白血球の集団を含む、本発明1063の方法。
[本発明1068]
LukE/D媒介性孔形成の阻害因子を特定する方法であって、
白血球の集団を供給することと、
LukEおよびLukDを含有する調製物を供給することと、
候補阻害因子を供給することと、
該候補阻害因子の存在下および不在下で、該白血球集団を、LukEおよびLukDを含有する該調製物に曝露することと、
該候補阻害因子の存在下および不在下で、該白血球集団における孔形成を測定することと、
該候補阻害因子の存在下および不在下で測定された孔形成の量を比較することと、
該比較に基づいて、LukE/D媒介性孔形成の阻害因子を特定することと
を含む、方法。
[本発明1069]
前記候補阻害因子の不在下と比較した、該候補阻害因子の存在下における孔形成の減少により、LukE/D媒介性孔形成の阻害因子が特定される、本発明1068の方法。
[本発明1070]
LukEおよび/またはLukD-白血球結合の阻害因子を特定する方法であって、
白血球の集団を供給することと、
検出可能に標識されたLukEおよびLukDを含有する調製物を供給することと、
候補阻害因子を供給することと、
該候補阻害因子の存在下および不在下で、細胞集団を、該検出可能に標識されたLukEおよびLukDを含有する該調製物に曝露することと、
該候補阻害因子の存在下および不在下で、該白血球集団に結合している標識されたLukEおよび/またはLukDを測定することと、
該候補阻害因子の存在下および不在下で測定されたLukEおよび/またはLukD-白血球結合の量を比較することと、
該比較に基づいて、LukEおよび/またはLukD-白血球結合の阻害因子を特定することと
を含む、方法。
[本発明1071]
前記候補阻害因子の不在下と比較した、該候補阻害因子の存在下におけるLukEおよび/またはLukD-白血球結合の減少により、LukEおよび/またはLukD-白血球結合の阻害因子が特定される、本発明1070の方法。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1Aおよび1Bは、agr遺伝子座を欠損する黄色ブドウ球菌内のrot遺伝子の欠失(ΔagrΔrot)が、マウスにおける病原性を野生型(「WT」)レベルに回復し、またLukE/Dの過剰産生をもたらすことを示す。
図1Aは、ΔagrΔrot二重変異体が、マウスにおいてWT病原性特徴を呈することを示す生存率曲線である。マウスの生存率を、約1×10
7CFUの黄色ブドウ球菌WT、Δagr、またはΔagrΔrot二重変異体の静脈内注入後に監視した。一群あたりのマウスの総数はN=6であった。曲線間の統計的有意性は、Log-rank(Mantel-Cox)試験を用いて決定した。***,p≦0.0005。
図1Bでは、ロイコトキシンの産生が、ΔagrΔrot二重変異体において回復されている。次の菌株:WT、Δagr、およびΔagrΔrotの、TCA沈殿細菌培養上清(RPMI+CAS内で5時間成長させた)由来のタンパク質試料の免疫ブロットが図示される。陰性対照レーンは、それぞれのロイコトキシン欠失変異体(ΔlukE/D、ΔlukA/B、Δhla、ΔhlgC)由来のTCA沈殿上清を含む。ΔlukE/DΔhlgACB二重変異体細胞外タンパク質も同様に、LukE抗体交差反応に対する対照として、全てのLukE免疫ブロットにおいて調査した。
【
図2】
図2A~2Cは、rot単独の欠失が、動物における高い病原性、抑制解除、および、結果として生じたLukE/Dの過剰産生によって引き起こされる表現型をもたらすことを例証する。
図2Aの生存率曲線は、親WT菌株と比較したΔrot変異体の高い病原性を示す。マウスの生存率を、約1×10
7CFUの黄色ブドウ球菌WTおよびΔrot菌株の静脈内注入後に監視した。一群あたりのマウスの総数WT、N=17;Δrot、N=12。LukE/Dの産生は、転写リプレッサーRotの不在下で増大され、一方、他のロイコトキシンの産生は、概して影響を受けていない。次の菌株:WTおよびΔrotの、TCA沈殿細菌培養上清(RPMI+CAS内で5時間成長させた)由来のタンパク質試料が、
図2Bの免疫ブロットに示される。陰性対照レーンは、それぞれの毒素-rot二重変異体(ΔrotΔlukE/D、ΔrotΔlukA/B、ΔrotΔhla、およびΔrotΔhlgACB)由来のTCA沈殿上清を含む。ΔrotΔlukE/DΔhlgACB三重変異体細胞外タンパク質も同様に、LukE抗体交差反応に対する対照として、全てのLukE免疫ブロットにおいて調査した。
図2Cの生存率曲線によって示されるように、Δrot変異体の高い病原性は、LukE/Dの増大された産生に起因する。マウスの生存率を、約1×10
7CFUの黄色ブドウ球菌WT、Δrot、およびΔrotΔlukE/Dの静脈内注入後に監視した。生存率曲線間の統計的有意性を、Log-rank(Mantel-Cox)試験を用いて決定した。**,p≦0.005、***,p≦0.0005。
【
図3】
図3Aおよび3Bは、Rotが、lukE/Dプロモータに結合し、遺伝子発現を抑制することを示す。
図3Aに示されるように、最適なlukE/D遺伝子発現は、Rotの抑制解除に依存する。GFPに対するlukE/Dプロモータ領域の転写融合体を使用して、次の菌株バックグランド(WT、Δagr、Δrot、およびΔagrΔrot)におけるブロス培養中のプロモータの活性化を測定した。GFP蛍光を、経時的に測定し、600nmにおける細菌光学密度に対する正規化後、それぞれの蛍光単位(RFU)として値を表した。示される値は、3通りで実施された3つの実験の結果である。
図3Bでは、Rotは、lukE/Dプロモータに結合する。
図3Bは、ビオチン化遺伝子内DNA(非特異的)か、M280ストレプトアビジン磁気ビーズに結合し、かつ黄色ブドウ球菌全細胞溶解物と共にインキュベートされたlukE/DプロモータDNAかのいずれかの、プロモータプルダウンの免疫ブロットである。Rotを、抗Rot抗体を用いて免疫ブロットを介して検出した。
【
図4】
図4A~4Fは、ΔlukE/D単一変異体が、全身感染のマウスモデルにおける病原性に対して著しく弱毒化されることを例証する。
図4Aおよび4Bは、黄色ブドウ球菌NewmanにおけるlukE/D欠失の根拠を示す。
図4Aでは、lukE特異的プライマーを伴う黄色ブドウ球菌ゲノムDNAのPCRが示される。
図4Bには、次の菌株:WT、ΔlukE/D、ΔlukE/D::plukE/D、ΔhlgACB、およびΔhlgACBの、TCA沈殿細菌培養上清(RPMI+CAS内で5時間成長させた)由来のタンパク質試料の免疫ブロットが示される。ΔlukE/D変異体細胞外タンパク質も同様に、LukE抗体交差反応に対する対照として調査した。
図4C~4Fは、ΔlukE/D変異体は、マウスにおける病原性に対して重度に損なわれることを示す。
図4Cおよび4Dでは、マウスの生存率を、約1×10
7CFU(
図4C)または約1×10
8CFU(
図4D)の黄色ブドウ球菌WT、ΔlukE/D、およびΔlukE/D::plukE/D菌株の静脈内注入後に監視した。一群あたりのマウスの総数は、N=6であった。生存率曲線間の統計的有意性を、Log-rank(Mantel-Cox)試験を用いて決定した。**,p≦0.005、***,p≦0.0005。
図4Eおよび4Fは、
図4Cおよび4Dで説明される菌株と同一の菌株の約1×10
7CFUでの感染から96時間後の腎臓由来の細菌性CFU(
図4E)と肉眼所見(
図4F)との列挙を示す。矢印は、腎臓膿瘍の場所を指す。統計的有意性を、Tukeyの多重比較ポストテストによる一元配置ANOVAを用いて決定した。**,p≦0.005、***,p≦0.0005。
【
図5】
図5A~5Eは、LukE/Dが、ヒト免疫細胞に対して毒性であり、ヒト免疫細胞内に孔を形成することを示す。
図5Aは、精製された組み換えLukE/Dが、ヒト単核細胞様細胞株THP-1に対して毒性であることを示す細胞生存性曲線である。THP-1細胞株は、組み換えLukE、LukD、またはLukE+LukD混合物(LukE/D)で中毒化された。細胞生存性を、培地で処理した細胞を100%生存率に設定したCellTiterを用いて、中毒の1時間後に監視した。結果は、3通りの試料の平均±S.D.を表す。
図5Bの細胞生存性曲線に示されるように、精製された組み換えLukE/Dは、ヒトHL60細胞株に対して毒性ではない。HL60細胞株を、上述のように中毒化し、細胞生存性を、培地で処理した細胞を100%生存率に設定したCellTiterを用いて、中毒の1時間後に監視した。対照的に、
図5Cの細胞生存性曲線は、精製された組み換えLukE/Dは、一次ヒト(左のグラフ)と一次ネズミ(右のグラフ)好中球(多形核好中球またはPMNとしても既知である)の両方に対して毒性であることを示す。PMNを、上述のように中毒化し、細胞生存性を、培地で処理した細胞を100%生存率に設定したCellTiterを用いて、中毒の1時間後に監視した。
図5Dに示される通り、LukE/Dは、細胞膜内に孔を形成することによって、宿主細胞THP-1細胞に対する細胞毒性を媒介する。THP-1およびHL60細胞を、精製されたLukE/Dと共にインキュベートし、孔形成を、臭化エチジウム取り込み分析で測定した。THP-1およびHL60の両方に対して、3通りの実験の平均蛍光を示す。
図5Eは、処理されたLukE/D(30μg/ml)と対照(毒素無し)THP-1細胞との臭化エチジウム摂取の蛍光顕微鏡画像を示す。
【
図6】
図6Aおよび6Bが、LukE/D細胞毒性は、アフィニティー精製されたα-LukEポリクローナル抗体で中和されることを例証する。THP-1細胞を、1.5μgの組み換えLukE/Dで中毒化させ、次に、0.1μgのα-LukEポリクローナル抗体または免疫前血清と共にインキュベートした。細胞生存性(
図6A)および孔形成(
図6B)を、それぞれ、CellTiterおよび臭化エチジウムを用いて監視した。CellTiter分析に関して、培地で処理した細胞を、100%生存率に設定した。結果は、2通りの試料の平均±標準偏差(S.D.)を表す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
発明の詳細な説明
本発明の第1の態様は、治療的に有効な量の単離されたLukEタンパク質もしくはそのポリペプチド、単離されたLukDタンパク質もしくはそのポリペプチド、またはそれらの組み合わせ、および薬学的に許容される担体を含む組成物に関する。
【0023】
本発明の一実施形態では、組成物は、単離されたLukEタンパク質またはポリペプチドを含む。本発明の別の態様では、組成物は、単離されたLukDタンパク質またはポリペプチドを含む。本発明のまた別の実施形態では、組成物は、LukEタンパク質またはポリペプチドとLukDタンパク質またはポリペプチドの両方を含む。
【0024】
本発明の本態様によると、好適な単離されたLukEタンパク質には、黄色ブドウ球菌の任意の菌株に由来するものが挙げられる。本発明の組成物に好適な黄色ブドウ球菌の様々な菌株に由来するLukEタンパク質のアミノ酸配列は、下の表1に示される(すなわち、SEQ ID NO:1~10)。表1のSEQ ID NO:11は、様々な黄色ブドウ球菌株のLukEタンパク質にわたる高レベルの配列同一性を実証するLukE共通配列である。したがって、本発明の一実施形態では、単離されたLukEタンパク質は、SEQ ID NO:11のアミノ酸配列を含む。本発明の別の実施形態では、単離されたLukEタンパク質は、SEQ ID NO:11と約70~80%の配列類似性、より好ましくはSEQ ID NO:11と約80~90%の配列類似性、またより好ましくはSEQ ID NO:11と90~95%の配列類似性、かつ最も好ましくはSEQ ID NO:11と約95~99%の配列類似性を有するアミノ酸配列を含む。
【0025】
本発明の別の実施形態では、組成物は、LukEの単離された免疫原性ポリペプチドを含む。好適なLukEポリペプチドは、約50~約100アミノ酸長である。より好ましくは、LukEポリペプチドは、約100~200アミノ酸長、より好ましくは約200~250アミノ酸長、また最も好ましくは250~300アミノ酸長である。全長LukEのN末端アミノ酸残基は、天然の分泌/シグナル配列を表す。したがって、LukEの「成熟」分泌型は、SEQ ID NO:1~10およびSEQ ID NO:11のそれぞれにおけるアミノ酸残基29~311によって表される。それに対応して、SEQ ID NO:1~10およびSEQ ID NO:11のそれぞれのアミノ酸残基1~311は、LukEの「未成熟」型と称される。したがって、本発明の一実施形態では、LukEポリペプチドは、SEQ ID NO:11のアミノ酸残基29~311を含む。別の方法として、本発明のLukEポリペプチドは、SEQ ID NO:11のアミノ酸残基48~291、アミノ酸29~301、またはアミノ酸48~301を含む。これらのLukEポリペプチドは、LukE活性を欠損しているが、抗原性は維持する。いずれの場合でも、好適なLukEポリペプチドとしては同様に、SEQ ID NO:11のアミノ酸残基29~311、SEQ ID NO:11のアミノ酸残基48~291、SEQ ID NO:11のアミノ酸残基29~301、またはSEQ ID NO:11のアミノ酸残基48~301に対して、約70~80%の配列類似性、好ましくは80~90%の配列類似性、より好ましくは90~95%の配列類似性、かつ最も好ましくは95~99%の配列類似性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドが挙げられる。
【0026】
本発明の本態様によると、好適な単離されたLukDタンパク質には、黄色ブドウ球菌の任意の菌株に由来するタンパク質が挙げられる。本発明の組成物に好適な黄色ブドウ球菌の様々な菌株に由来するLukDタンパク質のアミノ酸配列は、下の表2に示される(すなわち、SEQ ID NO:12~21)。表2のSEQ ID NO:22は、様々な黄色ブドウ球菌株のLukDタンパク質にわたる高レベルの配列同一性を実証するLukD共通配列である。したがって、本発明の一実施形態では、単離されたLukDタンパク質は、SEQ ID NO:22のアミノ酸配列を含む。本発明の別の実施形態では、単離されたLukDタンパク質は、SEQ ID NO:22に対して約70~80%の配列類似性、好ましくは、SEQ ID NO:22に対して約80~90%の配列類似性、またより好ましくはSEQ ID NO:22に対して90~95%の配列類似性、また最も好ましくはSEQ ID NO:22に対して約95~99%の配列類似性を有するアミノ酸配列を含む。
【0027】
本発明の別の実施形態では、組成物は、LukDの単離された免疫原性ポリペプチドを含む。好適なLukDポリペプチドは、約50~約100アミノ酸長である。より好ましくは、LukDポリペプチドは、約100~200アミノ酸長、より好ましくは約200~250アミノ酸長、また最も好ましくは250~300アミノ酸長である。全長LukDのN末端アミノ酸残基は、天然の分泌/シグナル配列を表す。したがって、LukDの成熟分泌型は、SEQ ID NO:12~21およびSEQ ID NO:22のそれぞれにおけるアミノ酸残基27~327によって表される。それに対応して、SEQ ID NO:12~21およびSEQ ID NO:22のアミノ酸残基1~327は、LukDの「未成熟」型と称される。したがって、本発明の一実施形態では、LukEポリペプチドは、SEQ ID NO:22のアミノ酸残基27~327を含む。別の方法として、本発明のLukEポリペプチドは、SEQ ID NO:22のアミノ酸残基46~307、27~312、および46~312を含む。これらのLukDポリペプチドは、LukD活性を欠損しているが、抗原性は維持する。いずれの場合にも、好適なポリペプチドとして、SEQ ID NO:22のアミノ酸残基27~327、SEQ ID NO:22のアミノ酸残基46~307、SEQ ID NO:22のアミノ酸残基27~312、またはSEQ ID NO:22のアミノ酸残基46~312に対して、約70~80%の配列類似性、好ましくは80~90%の配列類似性、より好ましくは90~95%の配列類似性、かつ最も好ましくは95~99%の配列類似性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドも含まれる。
【0028】
(表1)黄色ブドウ球菌LukE配列アラインメント
→は、分泌されたLukEタンパク質の開始を示す
【0029】
(表2)LukDアミノ酸配列アラインメント
→は、分泌されたLukDタンパク質の開始を示す
【0030】
したがって、別途示されない限り、天然のLukEおよびLukDの未成熟型と成熟型の両方、ならびに天然のLukEおよびLukDと100%未満の類似性を有する配列(すなわち、天然配列および同様の類似体、本明細書で集合的に「LukE」および「LukD」と称される)が、本発明の方法に使用され得る。
【0031】
本発明のLukEおよびLukDタンパク質およびポリペプチドは、1つ以上の追加のアミノ酸挿入、置換、または欠失、例えば、SEQ ID NO:1~22内の1つ以上のアミノ酸残基が、機能的等価物として作用し、サイレント変化をもたらす、類似の極性の別のアミノ酸によって置換されることができるという点で、それぞれ、SEQ ID NO:1~11および12~22として称される天然ポリペプチドと異なる。すなわち、天然配列に関連する変化は、天然のLukEまたはLukDの基本的特性を明らかに減少はしないと考えられる。LukEまたはLukDの任意のかかる類似体は、天然のLukEまたはLukDの活性を維持しているかを決定するために、本明細書に開示のプロトコール(例えば、細胞毒性分析および膜損傷分析)に従ってスクリーニングされることができる。これらのロイコシジン内の置換は、アミノ酸が属するクラスの他のメンバーから、選択されてもよい。例えば、無極性(疎水性)アミノ酸としては、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、およびメチオニンが挙げられる。中極性アミノ酸としては、グリシン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、およびグルタミンが挙げられる。正荷電(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、リジン、およびヒスチジンが挙げられる。負荷電(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸およびグルタミン酸が挙げられる。
【0032】
他の実施形態では、非保存的変更(例えば、1つまたはアミノ酸置換、欠失、および/または追加)が、LukEおよび/またはLukDを無毒化する目的のために行われ得る。無毒化されたLukEおよびLukDは、活性ワクチン組成物に使用されてもよい。分子変更は、単一標準鋳型(Kunkelら、Proc.Acad.Sci.,USA82:488-492(1985)、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)、二重標準DNA鋳型(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、PapworthらのStrategies9(3):3-4(1996))を用いて、またPCRクローニング(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Braman,J.(ed.),IN VITRO MUTAGENESIS PROTOCOLS,2nd ed.Humana Press,Totowa,N.J.(2002))によって、プラスミド鋳型上のプライマー伸長を含む、当該技術分野において周知の方法によって達成することができる。LukEおよびLukDにおける所与の分子変更が、LukE/D細胞毒性を低下させかを決定する方法は、本明細書に説明される。
【0033】
本発明の好ましい実施形態では、高度に精製されたLukE/LukD調製物が用いられる。例としては、表1および2に例示される様々な菌株から精製されたLukEおよびLukDタンパク質またはポリペプチドが挙げられる。LukEおよびLukD 毒素を精製する方法は、当該技術分野において既知である(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Gravetらの"Characterization of a Novel Structural Member,LukE-LukD,of the Bi-Component Staphylococcal Leucotoxins Family,"FEBS436:202-208(1998))。本明細書で使用される「単離された」タンパク質またはポリペプチドは、それが天然に会合される他のタンパク質、脂質、および核酸から分離されているタンパク質またはポリペプチドを指す。純度は、任意の適切な標準方法、例えば、HPLC分析のカラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動法によって測定することが可能である。本発明の単離されたタンパク質またはポリペプチドは、組み換えDNA技術によって、または化学的方法によって生産される天然の供給源から精製され得る。
【0034】
本発明の本態様の一実施形態では、組成物の単離されたLukEまたはLukDタンパク質またはそのポリペプチドは、免疫原性担体分子に連結されている。場合によっては、免疫原性担体分子は、免疫原性のタンパク質またはペプチドに共有結合または非共有結合で結合してもよい。例示的な免疫原性担体分子としては、ウシ血清アルブミン、ニワトリ卵オボアルブミン、キーホールリンペットヘモシアニン、破傷風トキソイド、ジフテリアトキソイド、サイログロブリン、肺炎球菌莢膜多糖、CRM197、および髄膜炎菌性外膜タンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
本発明の特定の実施形態では、組成物は、1つ以上のさらなる黄色ブドウ球菌抗原をさらに含有してもよい。好適な黄色ブドウ球菌抗原としては、α溶血素抗原、プロテインA、血清型336多糖抗原、コアグラーゼ、クランピング因子A、クランピング因子B、フィブロネクチン結合タンパク質、フィブリノーゲン結合タンパク質、コラーゲン結合タンパク質、エラスチン結合タンパク質、MHC類似タンパク質、多糖類細胞内接着、β溶血素、δ溶血素、γ溶血素、パントンバレンタインロイコシジン、ロイコシジンA、ロイコシジンB、ロイコシジンM、表皮剥脱毒素A、表皮剥脱毒素B、V8プロテアーゼ、ヒアルロン酸リアーゼ、リパーゼ、スタフィロキナーゼ、エンテロトキシン、毒素性ショック症候群毒素-1、ポリ-N-スクシニルβ-1→6グルコサミン、カタラーゼ、βラクタマーゼ、テイコ酸、ペプチドグリカン、ペニシリン結合タンパク質、走化性阻害タンパク質、補体阻害因子、Sbi、5型抗原、8型抗原、リポテイコ酸、および、宿主タンパク質を認識する微生物表面タンパク質(例えば、鉄表面決定基、セリン-アスパラギン酸リピートタンパク質)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
本発明の本態様によると、組成物は、1つ以上のアジュバントをさらに含んでもよい。好適なアジュバントは当該技術分野において既知であり、フラジェリン、フロイント完全または不完全アジュバント、水酸化アルミニウム、リゾレシチン、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油乳剤、ジニトロフェノール、イスコマトリックス、およびリポソームポリカチオンDNA粒子が挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
治療的組成物が活性ワクチンとしての使用のために意図される実施形態では、LukEおよび/またはLukDタンパク質またはポリペプチドは、低下した毒性を示すように変更されてもよい。LukEおよびLukDの毒性を低下させる目的のための変更としては、化学的処理(例えば、上述の特定のアミノ酸残基の改質)または別の部分(例えば、細菌多糖類または細菌糖タンパク質等の別の細菌抗原)へのコンジュゲートが挙げられる。無毒化(または毒性の低下)の目的のための他の黄色ブドウ球菌毒素への化学的変更は、既知である。所与の変更が、LukEまたはLukD毒性を低下させたかを決定する方法は、当該技術分野において既知であり、および/または本明細書に説明される。
【0038】
本発明の治療的組成物は、LukEおよびLukDを、薬学的に許容される担体、および所望により薬学的に許容される賦形剤と共に製剤化することによって調整される。本明細書で使用するとき、用語「薬学的に許容される担体」および「薬学的に許容される賦形剤」(例えば、希釈剤、免疫刺激剤、アジュバント、抗酸化剤、防腐剤、および可溶化剤等の添加剤)は、用いられる用量および濃度において、それに曝露される細胞または哺乳類に非毒性である。薬学的に許容される担体の例としては、例えば、ホスフェート、シトレート、および別の有機酸で緩衝化された水が挙げられる。本発明において有用な可能性がある薬学的に許容される賦形剤の代表的な例としては、例えば、アスコルビン酸等の抗酸化剤、低分子量(約10残基未満)ポリペプチド、例えば、血清アルブミン、ゼラチン、もしくは免疫グロブリン等のタンパク質、アジュバント(アジュバント誘発性毒性を回避するように選択される、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、米国特許第6,355,625号に説明されるβ-グルカン、もしくは顆粒球コロニー刺激因子(GCSF))、例えば、ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー、例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、もしくはリジン等のアミノ酸、単糖類、二糖類、およびグルコース、マンノース、もしくはデキストリンを含む他の炭水化物、例えば、EDTA等のキレート化剤、例えば、マンニトールもしくはソルビトール等の糖アルコール、例えば、ナトリウム等の塩形成対イオン、ならびに/または例えば、TWEEN(登録商標)、ポリエチレングリコール(PEG)、およびPLURONICS(登録商標)等の非イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0039】
本発明の治療的組成物は、所望の度合いの純度を有する活性材料を、薬学的に許容される担体ならびに任意の賦形剤および/またはさらなる活性物質と混合することによって、凍結乾燥製剤または水溶液の形式で保管用に調製されてもよい。
【0040】
本発明の別の態様は、対象における黄色ブドウ球菌感染に対して免疫化する方法に関する。本方法は、本発明の組成物を、対象における黄色ブドウ球菌感染に対して免疫化するのに有効な量で投与することを含む。本発明の本態様による治療に好適な対象は、黄色ブドウ球菌感染を発症する危険性のある対象である。
【0041】
本発明の本態様によると、黄色ブドウ球菌感染に対して免疫化するための対象への投与のための組成物の治療的に有効な量は、体液性(すなわち、抗体媒介性)免疫応答を発生させるのに必要な量である。好ましくは、治療的に有効な量の本発明の組成物の投与は、対象における黄色ブドウ球菌に対する中和免疫応答を誘発する。対象における有効な免疫応答を達成するため、組成物は、上述に説明される、1つ以上のさらなる黄色ブドウ球菌抗原、またはアジュバントをさらに含有してもよい。本発明の本態様の代替的実施形態では、アジュバントは、本発明の組成物の投与前、投与後、または投与と同時に、組成物と別々に対象に投与される。
【0042】
本発明の本態様に関する投与および治療的に有効な投薬の様式は、以下に説明される。
【0043】
本発明の別の態様は、ロイコシジンE(LukE)抗体、ロイコシジンD(LukD)抗体、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される治療的に有効な量の抗体、および薬学的に許容される担体を含む組成物に関する。
【0044】
本発明の本態様の一実施形態では、組成物は、LukE抗体またはその抗原結合フラグメントを含む。好適なLukE抗体としては、SEQ ID NO:11のアミノ酸配列中の1つ以上のエピトープを認識する抗体が挙げられる。同様に、別の実施形態では、組成物は、LukD抗体またはその抗原結合フラグメントを含む。好適なLukD抗体は、SEQ ID NO:22のアミノ酸配列中の1つ以上のエピトープを認識する。本発明の別の実施形態では、組成物は、LukEとLukD抗体の両方、またはそれらの抗原結合フラグメントを含む。好ましくは、組成物は、1つ以上のLukEおよび/またはLukD中和抗体を含む。また別の実施形態では、抗LukEおよび/または抗LukD抗体組成物は、多価であり、すなわち、別の細菌抗原に特異的に結合する(および、所望により他の細菌抗原を中和する)抗体も含有する。例えば、組成物は、上述に説明される黄色ブドウ球菌抗原のうちの1つ以上を含むがそれに限定されない、1つ以上のさらなる黄色ブドウ球菌抗原を認識する1つ以上の抗体を含んでもよい。
【0045】
本発明の目的に関して、用語「抗体」は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、抗体フラグメント、抗体の遺伝子組み換え形態、およびそれらの組み合わせを含む。より具体的には、用語「抗体」は、用語「免疫グロブリン」と互換的に使用され、全長(すなわち、天然に発生するか、または正常な免疫グロブリン遺伝子フラグメント組み換え過程によって形成される)免疫グロブリン分子(例えば、IgG抗体)およびその免疫学的に活性なフラグメント(すなわち、全長免疫グロブリン分子の特異的結合部分を含む)を含み、それらはまた天然に発生し得るか、または天然の合成物質であり得る。したがって、用語「抗体フラグメント」は、F(ab')2、F(ab)2、Fab'、Fab、Fv、scFv等の抗体の一部分を含む。構造に関わらず、抗体フラグメントは、全長抗体によって認識される同一の抗原と結合し、本発明の文脈においては、特にLukE、LukD、またはLukE/D複合体と結合する。抗体フラグメントを作製およびスクリーニングする方法は、当該技術分野において周知である。
【0046】
本発明において、抗LukE抗体は、HlgC、LukS-PVL、HlgA、LukS-I、LukA、およびLukM等の他のブドウ球菌ロイコシジンSサブユニットとのいくらかの交差反応を有することができる。同様に、いくつかの実施形態では、本発明の抗LukD抗体は、LukF'-PV、LukF-PV、LukB、LukF-I、およびHlgB等の他のブドウ球菌ロイコシジンF-サブユニットとのいくらかの交差反応を有することができる。抗LukEおよび/または抗LukD抗体は、それぞれ、LukE活性およびLukD活性を阻害するかまたは低下させることができる。いくつかの実施形態では、抗LukEおよび/または抗LukD抗体は、それぞれ、LukEおよびLukD活性を中和する(例えば、実質的に排除する)。
【0047】
天然に発生する抗体は典型的には、各軽鎖が鎖間ジスルフィド結合によって重鎖に共有結合で連結されている、2つの同一の重鎖と2つの同一の軽鎖とを有し、かつ、複数のジスルフィド結合は、2つの重鎖を互いにさらに連結する。個々の鎖は、同様の寸法(110~125アミノ酸)および構造を有するが異なる機能を有するドメインに、折り畳まれることができる。軽鎖は、1つの可変ドメイン(VL)および/または1つの定常ドメイン(CL)を含むことができ、重鎖もまた、1つの可変ドメイン(VH)および/または、抗体のクラスまたはアイソタイプに応じて、3つもしくは4つの定常ドメイン(CHI、CH2、CH3、およびCH4)を含むことができる。ヒトの場合、アイソタイプは、IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMであり、IgAおよびIgGはさらにサブクラスまたはサブタイプ(IgA1~2およびIgG1~4)に分けられる。
【0048】
概して、可変ドメインは、特に、抗原結合部位において、ある抗体から次の抗体への相当なアミノ酸配列可変性を示す。高度可変性領域または相補性決定領域(CDR)と呼ばれる3つの領域が、VLおよびVHのそれぞれに見出され、それらはフレームワーク可変領域と呼ばれる可変性の少ない領域によって支持される。本発明の抗体は、IgGモノクローナル抗体、および抗体フラグメントまたは改変された形態を含む。これらは、例えば、Fvフラグメント、または例示の抗体のCDRおよび/もしくは可変ドメインが、単鎖抗原結合タンパク質として改変されるタンパク質である。
【0049】
VLおよびVHドメインからなる抗体の部分は、Fv(可変フラグメント)と称され、抗原結合部位を構成する。単鎖Fv(scFvまたはSCA)は、1つのポリペプチド鎖上にVLドメインとVHドメインとを含有する抗体フラグメントであり、1つのドメインのN末端と他のドメインのC末端とが、可撓性リンカーによって接合される。単鎖抗体を産生するために使用されるペプチドリンカーは、典型的には、VLドメインおよびVHドメインの適切な三次元の折り畳みが発生することを確実にするように選択される、可撓性ペプチドである。リンカーは概して、10~50個のアミノ酸残基であり、また例えば、約10~30個のアミノ酸残基、または12~30個のアミノ酸残基、またさらには15~25個のアミノ酸残基等、より短い場合もある。かかるリンカーペプチドの例としては、1つのセリン残基が続く4つのグリシン残基の反復が挙げられる。
【0050】
単鎖抗体は、それらが由来する全抗体の定常ドメインの、一部または全部を欠損する。したがって、単鎖抗体は、全抗体の使用に関連する問題のいくつかを打開することができる。例えば、単鎖抗体は、重鎖定常領域と他の生体分子との間の特定の望ましくない相互作用を含まない傾向がある。それに加えて、単鎖抗体は、全抗体よりもはるかに小さく、全抗体よりも大きい透過性を有し得、単鎖抗体が局在化し、かつ標的抗原結合部位により効率的に結合することを可能にする。さらに、相対的に小型の単鎖抗体は、全抗体よりも、受容者における不慮の免疫応答を引き起こしにくくする。
【0051】
Fab(抗原結合フラグメント)とは、VL、CL、VH、およびCH1ドメインからなる抗体のフラグメントを指す。単純にパパイン消化後に発生されるものは、Fabと称され、重鎖ヒンジ領域を保持しない。ペプシン消化後、重鎖ヒンジを保持する様々なFabが発生される。完全な鎖間ジスルフィド結合を有するフラグメントは、F(ab')2と称され、一方ジスルフィド結合が保持されない場合は、単一のFab'が生じる。F(ab')2フラグメントは、抗原に対して、一価のFabフラグメントよりも高い結合活性を有する。
【0052】
Fc(フラグメント結晶化)は、対になった重鎖定常ドメインを含む抗体の部分またはフラグメントを指す。IgG抗体の場合、例えば、Fcは、CH2およびCH3ドメインを含む。IgAまたはIgM抗体のFcは、CH4ドメインをさらに含む。Fcは、Fc受容体結合、補体媒介性細胞毒性の活性化、および抗体依存性細胞障害活性(ADCC)に関連する。複合IgG様タンパク質の複合体であるIgAおよびIgM等の抗体に関して、複合体形成は、Fc定常ドメインを必要とする。
【0053】
最後に、ヒンジ領域は、抗体のFab部分とFc部分とを分離し、Fabの互いに対する、およびFcに対する可動性を提供し、また2本の重鎖の共有結合のための複数のジスルフィド結合を含む。
【0054】
抗体「特異性」とは、抗原の特定のエピトープに対する抗体の選択的認識を指す。用語「エピトープ」とは、免疫グロブリンまたはT細胞受容体に特異的に結合すること、ないしは他の方法で分子と相互作用することが可能な任意のタンパク質決定基を含む。エピトープ決定基は概して、アミノ酸または炭水化物または糖側鎖等の、分子の化学的に活性な表面群からなり、かつ概して、特異的な三次元構造特徴および特異的な荷電特徴を有する。エピトープは、「直鎖状」であってもよいか、または「立体配座」であってもよい。直鎖状エピトープでは、タンパク質と相互作用する分子(例えば、抗体等)との間の相互作用点の全てが、タンパク質の一次アミノ酸配列に沿って直鎖状に発生する。立体配座エピトープでは、相互作用点は、互いに分離されたタンパク質上のアミノ酸残基、すなわち、タンパク質の三次の折り畳みによって並置された非隣接アミノ酸にわたって発生する。隣接するアミノ酸から形成されるエピトープは典型的には、変性溶媒への曝露に際して保持され、一方、三次の折り畳みによって形成されるエピトープは典型的には、変性溶媒を伴う処理に際して失われる。エピトープは、典型的には、独特な空間立体配座にて、少なくとも3個、またより通常では少なくとも5個または8~10個のアミノ酸を含む。同一のエピトープを認識する抗体は、別の抗体の標的抗原への結合を遮断するある抗体の能力を示す、単純な免疫学的分析にて検証することができる。
【0055】
本発明のモノクローナル抗体は、マウス、ヒト、ヒト化、またはキメラであってよい。ヒト化抗体は、1つの種由来の抗体、例えば、げっ歯類、ウサギ、イヌ、ヤギ、ウマ、またはニワトリ抗体(または、任意の他の好適な動物抗体)のCDRが、ヒト重鎖および軽鎖可変ドメイン内へと伝達される、組み換えタンパク質である。抗体分子の定常ドメインは、ヒト抗体の定常ドメイン由来である。ヒト化抗体を作製するための方法は、当該技術分野において周知である。キメラ抗体は、好ましくは、実質的にまたは排他的にヒト抗体定常領域に由来する定常領域と、実質的または排他的に、ヒト以外の哺乳類由来の可変領域の配列に由来する可変領域とを有する。キメラ化過程は、マウス(または他の非ヒト哺乳類)抗体の高度可変領域または相補性決定領域(CDR)以外の可変領域を、対応するヒト配列で置換することによって、より効果的になされることができる。CDR以外の可変領域は、可変フレームワーク領域(FR)としても既知である。本発明のまた他のモノクローナル抗体は、二重特異性であり、すなわちLukEとLukDの両方に対する特異性を有する。二重特異性抗体は、好ましくはヒトまたはヒト化である。
【0056】
上述の抗体は、標準的な技術によって得ることができる。例えば、LukE、LukD、またはLukEもしくはLukDの免疫学的に活性なフラグメントが、対象(例えば、ヒトまたはマウス等の哺乳類)に投与することができる。ロイコシジンは、それ自体免疫原として使用され得るか、または担体タンパク質、もしくはセファロースビーズ等の他の物体に付着され得る。哺乳類が抗体を産生した後、脾細胞等の抗体産生細胞の混合物が単離され、それからポリクローナル抗体を得ることができる。モノクローナル抗体は、個々の抗体産生細胞を混合物から単離し、それらを、例えば、骨髄腫細胞等の腫瘍細胞と共に溶解することによって等、不死化することによって産生することができる。得られたハイブリドーマは、培養液中に保存され、モノクローナル抗体は、培養培地から採取される。
【0057】
本発明の別の態様は、対象における黄色ブドウ球菌感染および/または黄色ブドウ球菌関連状態を予防する方法に関する。この方法は、ロイコシジンE(LukE)抗体、ロイコシジンD(LukD)抗体、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される抗体を含む本発明の組成物を、対象における黄色ブドウ球菌感染および/または黄色ブドウ球菌関連状態を予防するのに有効な量で投与することを含む。
【0058】
本発明の本態様によると、黄色ブドウ球菌関連状態としては、皮膚創傷および皮膚感染、組織膿瘍、毛包炎、骨髄炎、肺炎、熱傷様皮膚症候群、敗血症、敗血性関節炎、心筋炎、心内膜炎、ならびに毒素性ショック症候群が挙げられるが、これらに限定されない。
【0059】
本発明の本態様に関する投与および治療的に有効な投薬の様式は、以下に説明される。
【0060】
本発明のさらなる態様は、対象における黄色ブドウ球菌感染および/または黄色ブドウ球菌関連状態を治療する方法に関する。この方法は、LukE/D媒介性細胞毒性の阻害因子の1つ以上を含む組成物を、対象における黄色ブドウ球菌感染および/または黄色ブドウ球菌関連状態を治療するのに有効な量で投与することを含む。
【0061】
本発明の本態様によると、LukE/D媒介性細胞毒性の好適な阻害因子としては、タンパク質もしくはペプチド阻害因子、核酸阻害因子、または小分子阻害因子が挙げられる。
【0062】
本発明の一実施形態では、LukE/D媒介性細胞毒性の阻害因子は、LukE阻害因子である。好適なLukE阻害因子としては、SEQ ID NO:11のアミノ酸配列中のエピトープを認識する抗体または抗体フラグメントが挙げられる。本発明の別の実施形態では、LukE/D媒介性細胞毒性の阻害因子は、LukD阻害因子である。好適なLukD阻害因子としては、SEQ ID NO:22のアミノ酸配列中のエピトープを認識する抗体または抗体フラグメントが挙げられる。
【0063】
本発明の本態様の別の実施形態では、LukE/D媒介性細胞毒性の阻害因子は、LukEとLukDの相互作用を阻害する。本実施形態による好適な阻害因子としては、LukEまたはLukDの相互作用領域を標的にする抗LukEおよび/またはLukD抗体が挙げられる。または、好適な阻害因子としては、LukEおよび/またはLukDの相互作用領域に結合する小分子が挙げられる。これらの相互作用領域は、SEQ ID NO:11のアミノ酸3~13、SEQ ID NO:11のアミノ酸32~47、SEQ ID NO:11のアミノ酸126~139、SEQ ID NO:11のアミノ酸151~156、およびSEQ ID NO:11のアミノ酸272~283を含んでもよい。相互作用領域はまた、SEQ ID NO:22のアミノ酸3~17、SEQ ID NO:22のアミノ酸33~51、SEQ ID NO:22のアミノ酸94~113、SEQ ID NO:22のアミノ酸115~131、およびSEQ ID NO:22のアミノ酸229~2741を含んでもよい。
【0064】
本発明の本態様の別の実施形態では、LukE/D媒介性細胞毒性の阻害因子は、白血球の原形質膜へのLukE/Dの結合を阻害する。好適な阻害因子としては、白血球の原形質膜と相互作用するLukEおよび/またはLukDのエピトープを認識する抗体または小分子が挙げられる。原形質膜と相互作用するLukEおよびLukDの領域には、LukEのリムドメインを包含するアミノ酸が含まれる。これらのアミノ酸領域は、SEQ ID NO:11のLukEアミノ酸57~75、SEQ ID NO:11のアミノ酸162~198、およびSEQ ID NO:11のアミノ酸230~273、ならびにSEQ ID NO:22のLukDアミノ酸59~75、SEQ ID NO:22のアミノ酸170~220、およびSEQ ID NO:22のアミノ酸253~268を含む。したがって、LukEおよび/またはLukDのこれらのエピトープを認識する抗体は、本発明の本実施形態に特に好適である。
【0065】
本発明の本態様の別の実施形態では、LukE/D媒介性細胞毒性の阻害因子は、LukE/Dオリゴマー複合体形成を阻止する作用物質、LukE/LukD媒介性孔形成を遮断する作用物質、またはLukE/LukD孔を遮断する作用物質である。本実施形態によると、LukE/LukD媒介性孔の好適な阻害因子としては、シクロデキストリンおよび関連の化合物、ならびにタンパク質もしくはペプチド阻害因子、核酸阻害因子、または小分子阻害因子を含む任意の他の孔阻害因子が挙げられる。
【0066】
本発明の本態様のまた別の実施形態では、LukE/D媒介性細胞毒性の阻害因子は、LukE/D発現の内因性リプレッサーまたはアクチベーターの発現および/または活性を調節する作用物質である。したがって、lukEおよびlukD発現のリプレッサーである、毒素リプレッサー(「Rot」)の発現およびまたは活性を誘発または模倣する作用物質の投与は、毒素産生を遮断するという理由で、LukE/D媒介性細胞毒性を阻害する。Rot発現および活性を模倣し、かつ本発明の方法における使用に適した、好適な作用物質は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、McNamaraの米国特許出願公開第2003/0171563号に開示される。同様に、lukEおよびlukD発現のアクチベーターである、SaeRSの発現または活性を阻害する作用物質の投与は、毒素産生を遮断するという理由で、LukE/D媒介性細胞毒性を阻害する。
【0067】
本発明の本態様および他の態様の目的のため、標的「対象」は、任意の動物、好ましくは哺乳類、より好ましくはヒトを包含する。対象における黄色ブドウ球菌感染を予防する目的のための本発明の組成物の投与の文脈において、標的対象は、黄色ブドウ球菌に感染している危険性のある任意の対象を包含する。特に感染しやすい対象としては、幼児および若年者、ならびに免疫障害を有する若年者、成人、および高齢者が挙げられる。しかしながら、黄色ブドウ球菌感染への危険性のある任意の幼児、若年者、成人、もしくは高齢者、または免疫障害を有する個人が、本発明の方法にしたがって治療されることができる。対象における黄色ブドウ球菌感染を治療する目的のための本発明の組成物の投与の文脈において、標的対象集団は、黄色ブドウ球菌に感染している任意の対象を包含する。特に好適な対象としては、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)またはメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)に感染する危険性のある対象、またはそれらに感染している対照が挙げられる。
【0068】
能動または受動ワクチン接種のいずれかを介して、黄色ブドウ球菌感染を予防するために本発明の治療的組成物を使用する文脈において、組成物中のLukEおよびLukDタンパク質もしくはポリペプチドまたは抗LukEおよび抗LukD抗体の濃度は、黄色ブドウ球菌感染の予防、特に感染しやすい集団における黄色ブドウ球菌感染の予防を達成するのに適する。黄色ブドウ球菌感染を治療するために治療的組成物を使用する文脈において、LukE/D媒介性細胞毒性を阻害する抗LukEおよび抗LukD抗体または作用物質の量は、多数の症状における軽減、少なくとも1つの症状の重症度の減少、または少なくとも1つの症状のさらなる進行の遅延、またはさらには感染の全体的緩和を達成することができる。
【0069】
治療的に有効な量のLukE、LukD、抗LukEおよび抗LukD抗体、ならびにLukE/D媒介性細胞毒性を阻害する作用物質は、例えば、組成物中のこれらの活性物質の濃度、投与の様式および頻度、治療される(または予防される)黄色ブドウ球菌感染の重症度、ならびに、年齢、体重、および健康全般および免疫状態等を含む対象の詳細を含む、多数の因子を考慮する標準的手順に従って決定することができる。一般的な手引きは、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、International Conference on HarmonizationおよびREMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCES(Mack Publishing Company1990)の出版物において見出すことができる。臨床医は、LukEおよびLukDまたは抗LukEおよび抗LukD抗体を、投薬量が所望のまたは必要とされる予防または治療効果に到達するまで、投与してよい。この療法の進捗は、従来の分析法によって容易に監視することができる。
【0070】
免疫化のためのLukEおよびLukDの治療的に有効な量は、アジュバントの不在下ではより多量の投薬が必要とされるため、アジュバントが同時投与されるかどうかに依存すると考えられる。投与のためのLukEおよびLukDの量は、患者1人あたり1μg~500μg、より通常ではヒト投与の1回の注入あたり5~500μgにわたることがある。時として、1回の注入あたり1~2mgのより高い用量が使用される。典型的には、約10、20、50、または100μgが、ヒトの各注入に使用される。好ましくは、LukEおよびLukDの量は、実質的に同一である。注入のタイミングは、1日1回から、1年に1回、10年に1回まで著しく異なり得る。概して、有効な投薬量は、流体試料、概して、血清試料を対象から得ることと、当該技術分野において周知であり、測定される特定の抗原に容易に適合可能な方法を用いて、LukEおよびLukDタンパク質またはポリペプチドに対して成長した抗体の力価を決定することとによって監視することができる。理想的には、試料は、初回投薬の前に採取され、その後の試料は各免疫化の後に採取および力価測定される。概して、1:100の血清希釈において、対照または、「バックグラウンド」より少なくとも4倍大きい検出可能な力価を提供する投薬または投薬計画が望ましく、バックグランドは、対照血清と比較して、またはELISA分析におけるプレートバックグラウンドと比較して定義される。
【0071】
治療的に有効な量のLukEおよびLukD抗体組成物は典型的には、投薬1回あたり、または毎日、体重1キログラムあたり少なくとも50mgの組成物(mg/kg)であり、少なくとも100mg/kg、少なくとも150mg/kg、少なくとも200mg/kg、少なくとも250mg/kg、少なくとも500mg/kg、少なくとも750mg/kg、および少なくとも1000mg/kgを含む。モノクローナル抗体組成物に関する投薬量は、少なくとも約5mg/kg、少なくとも約10mg/kg、少なくとも約15mg/kg、少なくとも約20mg/kg、または少なくとも約25mg/kg等、非モノクローナル抗体組成物の約10分の1等、より低い傾向がある。いくつかの方法では、異なる結合特性を有する2つ以上のモノクローナル抗体が、同時に投与され、その場合、投与される各抗体の投薬量は、指示される範囲内である。抗体は通常、複数回投与される。単一の投薬間の間隔は、毎週、毎月、または毎年であってよい。間隔はまた、対象における抗体の血中レベルを測定することによって示されるように、不規則であってもよい。別の方法としては、抗体は、持続放出剤として投与されることもでき、この場合、より少ない頻度の投薬が必要とされる。投薬量および頻度は、対象における抗体の半減期に応じて変動する。概して、ヒト抗体が最長の半減期を示し、続いてヒト化抗体、キメラ抗体、および非ヒト抗体である。投薬量および投与の頻度は、治療が予防的であるか治療的であるかに応じて変動することができる。予防的用途では、長期間にわたって、相対的に低頻度の間隔で相対的に低用量が投与される。治療的用途では、疾患の進行が軽減または終了するまで、また好ましくは対象が疾患の症状の部分的または完全な改善を示すまで、相対的に短い間隔で相対的に高用量が必要とされる場合がある。
【0072】
本発明の治療的組成物は、治療される黄色ブドウ球菌感染の本質に応じて、別の活性物質と共に併用療法の一部として投与されることもできる。かかるさらなる活性物質としては、抗感染剤、抗生物質、および抗菌物質が挙げられる。本発明において有用な可能性のある代表的な抗感染剤としては、バンコマイシンおよびリソスタフィンが挙げられる。本発明において有用な可能性のある代表的な抗生物質および抗菌物質としては、バンコマイシン、リソスタフィン、ペニシリンG、アンピシリン、オキサシリン、ナフシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、セファロチン、セファゾリン、セファレキシン、セフラジン、セファマンドール、セフォキシチン、イミペネム、メロペネム、ゲンタマイシン、テイコプラニン、リンコマイシン、およびクリンダマイシンを含む、ペニシリナーゼ耐性ペニシリン、セファロスポリン、およびカルバペネムが挙げられる。これらの抗生物質の投薬量は、当該技術分野において周知である。例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、MERCK MANUAL OF DIAGNOSIS AND THERAPY,Section 13,Ch.157,100thEd.(Beers&Berkow,eds.,2004)を参照されたい。抗炎症剤、抗感染剤、抗生物質、および/または抗菌物質は、投与の前に組み合わされてもよく、または(同一の組成物の一部として、もしくは異なる組成物として)同時に投与されてもよく、または本発明の発明的治療的組成物と連続してもよい。特定の実施形態では、投与は繰り返される。対象は、幼児、若年者、成人、または高齢者であってよい。対象はまた、免疫無防備状態の若年者、成人、または高齢者であってもよい。
【0073】
本発明の治療的組成物は、単回投与で投与されてもよく、または複数回投薬プロトコールに従って投与されてもよい。例えば、1回または2回といった、相対的に少ない治療的組成物の投薬が施される。概して数日または数週にわたる複数回投薬に関与する従来の抗生物質療法を含む実施形態では、抗生物質は、例えば、少なくとも5日、10日、またさらには14日以上等の期間、1日に1回、2回、もしくは3回またはそれ以上、摂取されることができ、一方、抗体組成物は通常、1回または2回しか投与されない。しかしながら、異なる投薬量、投薬タイミング、および治療的組成物と抗生物質との相対量は、当業者によって選択および調整されることができる。
【0074】
本発明のための組成物は、予防的および/または治療的療法のために、非経口、局所的、静脈内、経口、皮下的、腹腔内、鼻腔内、または筋肉内手段によって投与されることができる。その他も同等に有効であるが、最も典型的な投与経路は皮下である。次に最も一般的なものは、筋肉内注入である。この種類の注入は、最も典型的には、腕または脚の筋肉に行われる。静脈内注入、および腹腔内注入、動脈内注入、頭蓋内注入、または皮内注入もまた、免疫応答を発生させるのに有効である。
【0075】
本発明の薬剤は、非経口投与のために製剤化されてもよい。薬剤の溶液または懸濁液は、ヒドロキシプロピルセルロース等の界面活性剤と好適に混合される水中で調製することができる。分散体もまた、油中のグリセロール、液体ポリエチレングリコール、およびそれらの混合物中で調製することができる。例証的な油は、石油、動物油、植物油、または例えば、ピーナツ油、大豆油、もしくは鉱油等の合成有機油である。概して、水、生理食塩水、水性デキストロースおよび関連する糖溶液、ならびにプロピレングリコールまたはポリエチレングリコール等のグリコールは、特に注入可能溶液のために、好ましい液体担体である。通常の保管および使用条件下では、これらの調製物は、微生物の成長を阻止するための防腐剤を含有する。
【0076】
注入可能な使用に好適な薬学的製剤としては、無菌注入可能な溶液または分散体のその場での調製のための、無菌水溶液または分散体および無菌粉末が挙げられる。全ての場合において、形態は無菌でなくてはならず、注射器によって容易に採取できる範囲まで流動性を有していなくてはならない。それは、製造および保管の条件下にて安定性でなくてはならず、また細菌および菌類等の微生物の汚染作用に対して保存されていなくてはならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール)、それらの好適な混合物、および植物油を含有する、溶媒または分散体媒質であることができる。
【0077】
本発明の薬剤を全身に送達することが望ましい場合は、それらは、注入による、例えば、ボーラス注入または持続注入による非経口投与のために製剤化されてもよい。注入用の製剤は、単位投与形態で、例えば、アンプルまたは複数の投薬容器内に、追加の防腐剤とともに提供されてもよい。組成物は、油性または水性ビヒクル中の懸濁液、溶液、または乳剤の形態をとってもよく、懸濁剤、安定剤、および/または分散剤等の調合剤を含有してもよい。
【0078】
本発明の該剤の腹腔内または髄腔内投与もまた、Medtronic,Northridge,CAによって説明されるもの等の点滴ポンプデバイスを用いて、達成されることができる。かかるデバイスは、所望の化合物の連続的点滴を可能にし、複数の注入および複数の取り扱いを回避する。
【0079】
先に説明された製剤に加えて、該剤は、デポー製剤として製剤化されることもできる。このような長時間作用する製剤は、好適なポリマー材料もしくは疎水性材料(例えば、許容可能な油中の乳剤)またはイオン交換樹脂と共に、または、例えば、難溶性の塩等、難溶性の誘導体として製剤化されてもよい。
【0080】
本発明のさらなる態様は、黄色ブドウ球菌感染の重症度を予測する方法に関する。この方法は、感染した対象由来の流体試料または組織試料を介して該対象から得られた黄色ブドウ球菌を培養することと、培養された黄色ブドウ球菌におけるLukEおよび/またはLukD発現を定量化することとを含む。対象由来の試料中のLukEおよび/またはLukDの定量化された量は、LukEおよび/もしくはLukDをほとんど産生しないかまたは検出不可能な量のLukEおよび/もしくはLukDを産生する対照試料中のLukEおよび/またはLukDの量と比較され、該比較に基づいて、黄色ブドウ球菌感染の重症度が予測される。
【0081】
本発明の別の態様は、黄色ブドウ球菌感染を有する対象を治療する方法に関する。この方法は、感染した対象由来の流体試料または組織試料を介して該対象から得られた黄色ブドウ球菌を培養することと、培養された黄色ブドウ球菌におけるLukEおよび/またはLukD発現を定量化することとを含む。対象由来の試料中のLukEおよび/またはLukDの定量化された量は、LukEおよび/もしくはLukDをほとんど産生しないかまたは検出不可能な量のLukEおよび/もしくはLukDを産生する対照試料中のLukEおよび/またはLukDの量と比較され、この比較に基づいて、対象にとって好適な治療が決定される。方法は、決定された好適な治療を対象に施して、黄色ブドウ球菌感染を治療することをさらに含む。
【0082】
本発明のこれらの態様によると、対象由来の試料中のLukEおよびLukD発現の定量化は、LukEおよび/またはLukD mRNA発現またはタンパク質産生のレベルを測定することを含む。試料中のmRNAおよびタンパク質発現レベルを定量化する方法は、当該技術分野において周知である。対照試料と比較して、対象由来の試料中のLukEおよび/またはLukD mRNA発現またはタンパク質産生の増大されたレベルは、より深刻な黄色ブドウ球菌感染を有する対象を示すか、または予測する。同様に、対象由来の試料中のLukEおよび/またはLukD mRNA発現またはタンパク質産生の増大されたレベルは、感染を有する対象に好適な治療は、LukE/D媒介性細胞毒性を阻害する1つ以上の作用物質に関与することを示す。LukE/D細胞毒性を阻害するのに好適な作用物質は、上述に開示される。
【0083】
本発明の別の態様は、LukE/D細胞毒性の阻害因子を特定する方法に関する。この方法は、細胞集団、LukEおよびLukDを含有する調製物、ならびに候補LukE/D阻害因子を供給することを含む。細胞集団は、候補阻害因子の存在下および不在下で、LukEおよびLukDを含有する調製物に曝露され、LukE/D媒介性細胞毒性が、候補阻害因子の存在下および不在下で測定される。候補阻害因子の存在下および不在下で測定された細胞毒性の量が比較され、LukE/D細胞毒性の阻害因子が、この比較に基づいて特定される。
【0084】
本発明の本態様によると、抗LukEおよび抗LukD抗体、ならびにそのフラグメント、ならびに可能性のある他の治療的部分(例えば、小有機分子)は、LukE/D媒介性細胞毒性を阻害するそれらの能力を評価するためにスクリーニングされてもよい。後述されるように、様々な方法が、LukE/D媒介性細胞毒性およびヒト白血球の溶解につながるカスケード内の事象のいくつかの側面を阻害する作用物質を特定するように設計されている。方法はまた、その生来の対応物と比較して低下した毒性を有するLukEおよびLukDの変更された形態を特定するように設計される。カスケードの一部である標的化される事象としては、例えば、LukEおよび/またはLukDの白血球原形質膜への結合、LukEとLukDとの間の相互作用(LukE/Dオリゴマー化)、ならびにLukE/Dオリゴマーによって形成される膜孔の遮断が挙げられる。分析フォーマットは概して、ヒト白血球(または、そのLukEもしくはLukD膜結合部分)、好適な培養培地、および精製されたLukEおよびLukDを必要とする。
【0085】
当業者は、以下のプロトコールは単に例証的であり、反応条件、検出可能な標識の選択、装置(例えば、検出および定量化のための計器類)等の様々な操作パラメータは、適切と見なされるように変化されてもよいことを理解するであろう。
【0086】
以下の方法は概して、影響されるカスケード内の正確な事象を必ずしも明らかにしなくても、LukE/D細胞毒性を阻害する作用物質を特定することに関する。
【0087】
LukE/D細胞毒性の阻害因子を特定するために、ヒト白血球(例えば、THP-1)が、384ウェルの透明底黒色組織培養処理プレート(Corning)に、5×103細胞/ウェルにて、10%の加熱不活性化されたウシ胎仔血清(FBS)で補完された50μLの最終体積のRPMI(Gibco)中で定置されてもよい。細胞は次に、試験化合物/分子(約5μL/異なる濃度)と接触/混合/反応/処理されてもよく、次に、好ましい実施形態では実質的に精製され(5μLの約0.01~5μM溶液)、より好ましくは、一緒に添加される、LukEおよびLukDで、LukEおよびLukDによる白血球の中毒を可能にする培養条件下で、例えば、5%CO2、37℃で1時間、中毒化されてもよい。対照として、細胞を、培養培地(100%生存率)で、および0.1体積/体積%のトリトンX100(100%死亡)で処理してもよい。
【0088】
これらの実施形態では、上述に説明されるように処理された細胞は、次に、CellTiter(Promega)(細胞の代謝活性の定量化によって培養液中の生存可能細胞の数を測定することによって、吸収度を介して細胞生存性を決定することができる)等の細胞生存性を監視するために、色素と共にインキュベートされてもよく、かつさらなる期間(例えば、37℃で約2時間、5%CO2)インキュベートされてもよい。細胞生存性は次に、プレートリーダー、例えば、Envision2103Multi-label Reader(Perkin-Elmer)を用いて、例えば、492nmにおける比色反応を測定することによって、決定されてもよい。生存可能細胞率(%)は、例えば、次の等式を用いて、算出されることができる。生存率%=100×[(Ab492試料-Ab492TritonX)/(Ab492組織培養培地)。100%生存率における増大は、LukE/D媒介性細胞毒性の阻害を示唆する。
【0089】
この分析の変形は、膜損傷分析と称される。これらの実施形態では、上述に説明されるように(例えば、試験化合物/分子で細胞を処理すること、および次に細胞を精製されたLukEおよびLukDで中毒化することまで、ならびにそれらを含む)処理された細胞は次に、SYTOXグリーン(0.1μM、Invitrogen)(製造者の指示に従う)等の細胞非透過性蛍光色素と共にインキュベートされてもよく、また例えば、暗所で室温にてさらに15分間インキュベートされてもよい。蛍光は次に、膜損傷の指標として、励起485nm、放出535nmのEnvision2103Multilabel Reader(Perkin-Elmer)等のプレートリーダーを用いて測定されてもよい。蛍光における減少は、LukE/D細胞毒性の阻害を示唆する。
【0090】
この分析の別の変形では、上述に説明されるように(例えば、試験化合物で細胞を処理すること、および次に細胞を精製されたLukEおよびLukDで中毒化することまで、ならびにそれらを含む)処理された細胞は次に、細胞溶解のマーカーと共にインキュベートされてもよく、また暗所で室温にてさらなる期間インキュベートされてもよい。細胞溶解のマーカーは測定され、化合物の存在下での細胞溶解レベルの減少は、LukE/D細胞毒性の阻害を示唆する。
【0091】
これらの分析は共に、白血球細胞に対するLukE/Dの細胞毒性効果を阻害するかまたは低下させる化合物の特定を促進すると考えられる。
【0092】
追加の方法が、独立して、または、特に上述の方法が阻害活性を示す場合に、上述に説明される方法と共に、使用されてもよく、それは当業者が、生化学的カスケード中のどの事象が作用物質によって影響を受けているまたは標的化されているのかをより正確に決定することを可能にするであろう。これらの事象としては、LukEおよび/またはLukDの白血球膜への結合、LukEのLukDへの結合(LukE/Dオリゴマー化)、ならびにLukE/Dオリゴマーによって形成される膜孔の遮断が挙げられる。
【0093】
本発明の別の態様は、標的細胞へのLukE、LukD、および/またはLukE/D結合の阻害因子を特定する方法を含む。この方法は、白血球または他の標的細胞の集団、検出可能に標識されたLukE、LukD、またはLukE/Dを含有する調製物、および候補阻害因子を供給することを含む。細胞集団は、候補阻害因子の存在下および不在下で、検出可能に標識されたLukE、LukD、またはLukE/Dを含有する調製物に曝露され、白血球集団への標識されたLukE、LukD、またはLukE/Dの結合が、候補阻害因子の存在下および不在下で測定される。候補阻害因子の存在下および不在下で測定されたLukE、LukD、またはLukE/D結合の量が比較され、この比較に基づいて、LukE、LukD、またはLukE/D-白血球結合の阻害因子が特定される。
【0094】
中毒過程の第1の工程である標的細胞へのLukE、LukD、またはLukE/D結合を遮断するかまたは低下させる阻害因子に関してスクリーニングするため、ヒト白血球(例えば、THP-1細胞)が、384ウェルの平底組織培養処理プレート(Corning)に、2.5×103細胞/ウェルにて、10%の加熱不活性化されたウシ胎仔血清(FBS)で補完された50μLの最終体積のRPMI(Gibco)中で定置されてもよい。細胞は次に、試験化合物/分子(約5μL/異なる濃度)で処理されてもよく、かつ精製され蛍光標識されたLukE、LukD、および/またはLukE/D(例えば、FITC、Cy3、Cy5、APC、PE)の5μLの約0.01~5μM溶液と共に、4℃、5%CO2にて1時間インキュベートされてもよい。試験化合物/分子の有効性を評価するため、細胞関連性の蛍光が、LukE、LukD、またはLukE/Dの細胞への結合の指標として、例えば、高含有スクリーニングおよび高含有分析用に設計された自動蛍光顕微鏡画像化システム(例えば、Cellomics ArrayScan HCS Reader(Thermo Scientific)(励起485nm、放出535nm))を用いて、測定されてもよい。本発明の本態様によると、候補阻害因子の不在下と比較した、候補阻害因子の存在下でのLukE、LukD、またはLukE/D-白血球結合における減少により、結合阻害因子が特定される。
【0095】
中毒過程の第2の工程である、LukE/LukD相互作用を遮断するかまたは低下させる阻害因子に関してスクリーニングするため、ヒト白血球(例えば、THP-1細胞)が、384ウェルの平底組織培養処理プレート(Corning)に、2.5×103細胞/ウェルにて、10%の加熱不活性化されたウシ胎仔血清(FBS)で補完された50μLの最終体積のRPMI(Gibco)中で定置されてもよい。細胞は次に、試験化合物/分子で処理されてもよく、次に、LukDがFITC、Cy3、Cy5、APC、およびPE等の蛍光分子で蛍光標識された、精製されたLukEと精製されたLukDとの混合物と共に中毒化されてもよく、また中毒過程を完了するまで(例えば、37℃、5%CO2にて1時間)放置されてもよい。試験化合物/分子の有効性を評価するため、細胞関連性のLukD-FITC蛍光が、LukE/LukD-FITC相互作用の指標として、例えば、高含有スクリーニングおよび高含有分析用に設計された自動蛍光顕微鏡画像化システム(例えば、Cellomics ArrayScan HCS Reader(Thermo Scientific)(励起485nm、放出535nm)を用いて、測定されてもよい。同様の実験が、LukDの代わりに蛍光標識されたLukEを用いて実施されてもよい。
【0096】
本発明の別の態様は、LukE/D媒介性孔形成の阻害因子を特定する方法に関する。この方法は、白血球の集団、LukEおよびLukDを含有する調製物、ならびに候補阻害因子を供給することを含む。白血球集団は、候補阻害因子の存在下および不在下で、LukEおよびLukDを含有する調製物に曝露され、白血球集団上の孔形成が、候補阻害因子の存在下および不在下で測定される。候補阻害因子の存在下および不在下で測定された孔形成の量が比較され、この比較に基づいて、LukE/D媒介性孔形成の阻害因子が特定される。
【0097】
LukE/D孔、細胞溶解につながるエフェクター分子の形成を遮断または阻害する阻害因子に関してスクリーニングするため、ヒト白血球(例えば、THP-1細胞)が、384ウェルの透明底黒色組織培養処理プレート(Corning)に、2.5×103細胞/ウェルにて、10%の加熱不活性化されたウシ胎仔血清(FBS)で補完された50μLの最終体積のRPMI(Gibco)中で定置されてもよい。細胞は次に、試験化合物/分子(約5μL、異なる濃度を含む)で処理されてもよく、また次に、精製されたLukEおよびLukDまたはLukE/D(約0.01~5μM)で、37℃、5%CO2にて15分間、中毒化されてもよい。対照として、細胞は、培養培地(陰性対照)で、および0.1体積/体積%のTritonX100(陽性対照)で処理されてもよい。
【0098】
宿主細胞の表面上のLukE/D孔を直接評価するために、臭化エチジウム(EB)流入分析を使用することができる。EBは、健康な宿主細胞内へは非透過性の小型のカチオン性色素である。LukE/Dによるカチオン性孔の形成に際して、EBは、細胞内に入り、DNAに結合して、蛍光をもたらす。この様式で処理された細胞を、次に、暗所で室温にてさらに5分間、EB(5μM)でインキュベートすることができる。LukE/D孔形成の阻害における試験化合物/分子の有効性を評価するために、蛍光を、励起530nm、放出590nmにおいて、Envision2103Multilabel Reader(Perkin-Elmer)等のプレートリーダーを用いて、孔形成の指標として測定することができる。この分析は、LukE/D媒介性毒性を緩和すると考えられる、LukE/D孔を遮断または阻害することができる分子の特定を促進すると考えられる。
【0099】
宿主細胞の表面上のLukE/D孔を直接評価するために、臭化エチジウム(EB)流入分析を使用することができる。EBは、健康な宿主細胞内へは非透過性の小型のカチオン性色素である。LukE/Dによるカチオン性孔の形成に際して、EBは、細胞内に入り、DNAに結合して、蛍光をもたらす(例えば、
図5Eを参照のこと)。LukE/D孔形成を引き起こす作用物質で処理された細胞は、次に暗所で室温にてさらに5分間、EB(5μM)でインキュベートすることができる。LukE/D孔形成の阻害における試験化合物/分子の有効性を評価するために、蛍光を、励起530nm、放出590nmにおいて、Envision2103Multilabel Reader(Perkin-Elmer)等のプレートリーダーを用いて、孔形成の指標として測定することができる。この分析は、LukE/D媒介性毒性を緩和すると考えられる、LukE/D孔を遮断または阻害することができる分子の特定を促進すると考えられる。
【0100】
本明細書に説明される分析に用いられる候補化合物は、本質的に、生物学的機能または相互作用に影響を与えることが可能とされる任意の化合物または組成物であってよい。化合物または組成物は、化合物または組成物のライブラリの一部であってもよい。別の方法としては、化合物または組成物は、本発明のLukE、LukD、またはLukE/Dの生物学的活量と相互作用または干渉するように特異的に設計されてもよい。
【実施例】
【0101】
以下の実施例は、本発明の実施例を例証するために提供されるが、その範囲を制限することを決して意図されない。
【0102】
実施例1-rotの不活性化はagr欠損黄色ブドウ球菌株の病原性を強化する
近年の研究において、補助遺伝子調節因子(「Agr」)および転写因子毒素リプレッサー(「Rot」)として既知である両方の主要調節因子を欠損する黄色ブドウ球菌変異体菌株(すなわち、ΔagΔrrot)は、高度に弱毒化されたΔagr変異体と比較して、全身感染のマウスモデルにおける強化された病原性を示すことが見出されている。Δagr単一欠失変異体は、感染後の期間にわたる生存率によって測定した際に、病原性に対して高度に弱体化されるのに対し、ΔagrΔrot二重変異体は、親菌株(WT Newman)のものと同様の病原性特徴を示す(
図1A)。ΔagrΔrot二重変異体において観察された増大された病原性は、これらの毒素の多くはAgr-Rot依存性の様式において調節されると考えられるため、黄色ブドウ球菌ロイコトキシンの強化された発現に起因する可能性があると考えられた。実際、黄色ブドウ球菌野生型、Δagr、およびΔagrΔrot変異体菌株によって産生された毒素の免疫ブロット分析は、ΔagrΔrot二重変異体では多くの毒素がWTレベルに回復されるという仮説を確証した(
図1B)。際立ったことに、LukE/Dは、他の毒素と比較して、ΔagrΔrot菌株によって大幅に過剰産生されることが観察された(
図1B)。このデータは、Rotによる重要な病原性因子の抑制が、黄色ブドウ球菌における最適な病毒力にとって決定的であるということ、またロイコトキシンLukE/Dが、他のロイコトキシンと比較して、Rot依存性様式において大きく抑制されるということを実証する。
【0103】
実施例2-LukE/Dはrot欠損黄色ブドウ球菌株によって示される強化された病原性の一因となる
図1Aおよび1Bに示される結果は、agr
+菌株におけるrotの不活性化もまた、恐らくLukE/D依存性様式において、増大された病原性をもたらす可能性があることを示した。ΔagrΔrot二重変異体(
図1A)と同様に、Δrot単一欠失変異体も、WTに感染したものと比較した、Δrotに感染した動物の生存率(%)における減少によって立証される通り、全身感染のマウスモデルにおける強化された病原性をもたらすことが観察された(
図2A)。初期の観察は、Rotが、ロイコトキシンLukE/Dの主要リプレッサーである可能性が高いことを実証した。単一Δrot欠失変異体の文脈におけるこれらの発見を確証するため、免疫ブロットを実施した。これらの実験は、実際にLukE/Dが、LukAB、γ-溶血素(HlgC)、またはα-毒素と対照的に、rotの不在下でより高度に産生されることを明らかにした(Hla、
図2B)。これらの発見は、LukE/Dは、Δrot変異体の病原性における増大の原因である主要なRot抑制された因子であるという仮定、およびLukE/Dは、黄色ブドウ球菌の生体内病原性において重要な役割を担う可能性があるという仮定を、さらに強めた。LukE/D過剰産生が、Δrotの強化された病原性表現型の原因であったかを決定するため、ΔrotΔlukE/D二重変異体が構築され、感染のマウスモデルにおけるその病原性が分析された。ΔrotΔlukE/D二重変異体は、WTおよびΔrot変異体の両方と比較した死亡率における際立った低下によって立証される通り、病原性に関して著しく損なわれた(
図2C)。これらの結果は、LukE/Dは、Δrot変異体に関連した高い病原性に決定的である主要なRot抑制された因子であるということ、またLukE/Dは、一般的な疾患に対する主要な寄与因子であるということを実証する。これらの結果はさらに、標的遺伝子のRot媒介性抑制を強化する薬物は、黄色ブドウ球菌病原性を低下させるであろうことを示す。
【0104】
実施例3-RotはLukE/Dプロモータに直接結合することによってLukE/D発現を抑制する
lukE/D遺伝子発現へのRotの影響をさらに検証するために、緑色蛍光タンパク質(GFP)に関してコードする遺伝子に対するlukE/Dプロモータ領域の転写融合体が構築され、蛍光が、WT、Δagr、Δrot、およびΔagrΔrot菌株を用いたブロス培養において経時的に測定された。疑われた通り、lukE/Dの遺伝子発現は、Rotを欠損する菌株においてWTを上回って増大され、一方多量のRotを発現する菌株(Δagr変異体は、増大されたRotレベルを示す)は、発現において減少された。RotによるlukE/Dの抑制が直接的かどうかを分析するために、lukE/Dプロモータに結合するRotの能力を、プロモータプルダウン戦略を用いて調査した。細菌性全細胞溶解物が、lukE/DプロモータDNAまたは磁気ビーズに結合された非特異性遺伝子間DNAと共にインキュベートされた。結合されたタンパク質の免疫ブロットは、Rotが実際に、特異的様式においてlukE/Dプロモータに結合することを実証した(
図3B)。これらの結果は、lukE/D遺伝子発現の直接的なリプレッサーとしてのRotを暗示する。したがって、Rotレベルにおける変更は、LukE/Dの産生を実質的に増大または減少させることができ、結果によって、黄色ブドウ球菌の病毒力を調節する。
【0105】
実施例4-LukE/Dは黄色ブドウ球菌病原性に著しく寄与する
ΔrotΔlukE/D二重欠失変異体は、rot欠失に関連した高い病原性を排除するだけでなく、また同様に病原性全体を実質的に低下させる(
図3BのWT生存率をΔrotΔlukE/D生存率と比較されたい)。LukE/Dが黄色ブドウ球菌敗血症感染の発病に主要な役割を果たすかどうかを試験するために、菌株Newman中にΔlukE/D変異体が構築され(
図4Aおよび4B)、病原性へのlukE/D欠失単独の影響が検査された。経時的生存率は、10
7CFUか10
8CFUかのいずれかのΔlukE/D 変異体に感染したマウスに関して、野生型と比較して飛躍的に増大した。全ての野生型マウスは、10
7投薬量において250時間までに(
図4C)、また10
8投薬量において100時間までに(
図4D)感染によって死亡した。しかしながら、どちらの場合においても、ΔlukE/D変異体に感染したマウスの100%近くが、感染後少なくとも300時間まで生存し、表現型は完全にΔlukE/D::plukE/D菌株と相補する(
図4Bおよび4C)。それに加えて、腎臓への細菌の負担は、野生型または相補性菌株と比較して、10倍まで低下され(
図4E)、また膿瘍形成は著しく低下される(
図4F)。これらの結果は、LukE/Dが実際に、黄色ブドウ球菌感染に対して決定的な病原性因子であることを示す。したがって、LukE/Dは、黄色ブドウ球菌感染に対抗するための新規の治療法の開発のための、魅力的な新規の標的である。
【0106】
実施例5-LukE/Dは白血球を標的にして死滅させる
LukE/Dの作用の潜在的メカニズムを決定するために、大腸菌由来の組み換えLukEおよびLukDタンパク質が発現され、精製された。これらのタンパク質の潜在的毒性を試験するために、ヒト単核細胞様細胞(THP-1)およびヒト前骨髄球性白血病細胞(HL60)が、異なる濃度の個々のサブユニット(すなわち、LukEまたはLukD)かLukE+LukDの混合物(LukE/D)かのいずれかと共にインキュベートされた。細胞は、LukE単独か、LukD単独か、またはLukE/Dかのいずれかの用量応答を伴って中毒化され、中毒化の1時間後に、CellTiterが添加され、中毒後の生存可能細胞パーセントが測定された。ヒト単核細胞様細胞株、THP-1は、毒素の両方のサブユニットが一緒にされた状態で中毒に対して唯一感受性があったが、個々のサブユニットに対してはそうではなかった。細胞に対する毒素の強度は、投薬量依存性であり、また両方のサブユニットの存在を強く必要とした(
図5A)。対照的に、HL60は、サブユニット単独でも、共にインキュベートされた場合も影響を受けなかった(
図5B)。細胞株に加えて、主要ヒトおよびマウスPMNに対するLukE/Dの活量も同様に調査された。細胞は、LukE単独か、LukD単独か、またはLukE/Dかのいずれかの用量応答を伴って中毒化され、中毒の1時間後に、CellTiterが添加され、中毒後の生存可能細胞パーセントが測定された。LukE/Dは、ヒト由来およびマウス由来の両方のPMNに対して極めて細胞毒性であったが、LukEまたはLukDはそうではなかった(
図5C)。
【0107】
LukE/DがTHP-1に対して毒性であるメカニズムを調査するために、細胞が、正常では宿主細胞膜に対して非透過性であるが、毒素孔を介して細胞への接近することができる小型のカチオン性色素である臭化エチジウムの存在下で中毒化された。両方の毒素サブユニットの添加後、臭化エチジウムは、中毒化されていない対照および中毒化されたPMN-HL60と比較した相対的蛍光における増大によって反映されるように、細胞内へ迅速に取り込まれた(
図5Dおよび5E)。これらの実験は、合わせて考えると、LukEおよびLukDは、特定のヒト免疫細胞型に対して細胞毒性を表すが他のものには表さないことを実証し、この毒素の特異性を強調している。
【0108】
実施例6-LukEに対する抗体はLukE/D細胞毒性を強力に中和した
LukEに対して成長させたポリクローナル抗体が、LukE/Dの細胞毒性を中和することができるかを決定するために、中和分析を実施した。精製した抗LukE抗体とのLukE/Dのインキュベーションは、CellTiterで測定した際に、THP-1細胞に対するLukE/D媒介性細胞毒性を強力に阻害した(
図6A)。
図5A~5Eに示される通り、LukE/Dは、標的細胞の原形質膜内に透過性孔を形成することによって、その毒性作用を発揮するようである。抗LukEがLukE/D細胞毒性を中和するメカニズムについての洞察を得るために、精製した抗LukE抗体の存在下で、LukE/D中毒化させた細胞におけるLukE/D孔の形成を監視した。LukE/D孔形成は、抗LukE抗体によって強力に阻害されることが観察された(
図6B)。これらのデータは、LukEによる免疫化が、抗LukE中和抗体を発生させることを実証し、LukE特異的抗体が、黄色ブドウ球菌感染に効く新規の治療となり得ることを示している。
【0109】
本発明を、例証の目的のために詳細に説明してきたが、かかる詳細は、単にその目的のためであり、変更が、以下の特許請求の範囲によって定義される本発明の精神および範囲から逸脱することなくそのなかでなされ得ることが、当業者によって理解される。
【配列表】