(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体の製造方法、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体、及び重合体組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 20/40 20060101AFI20220825BHJP
C08F 4/00 20060101ALI20220825BHJP
【FI】
C08F20/40
C08F4/00
(21)【出願番号】P 2020525534
(86)(22)【出願日】2019-06-07
(86)【国際出願番号】 JP2019022787
(87)【国際公開番号】W WO2019240049
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2020-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2018111333
(32)【優先日】2018-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 宗弘
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-235277(JP,A)
【文献】特開2018-059073(JP,A)
【文献】特開2002-145933(JP,A)
【文献】特開平06-100628(JP,A)
【文献】特開平05-097869(JP,A)
【文献】米国特許第4943648(US,A)
【文献】SIMON, Peter F.W. et al.,Kinetic Investigation of Self-Condensing Group Transfer Polymerization,Macromolecules,2004年,Vol.37, No.20,p.7548-7558
【文献】Takada Kenji et al.,Controlled Polymerization of Methyl Acrylate for High-Molecular-Weight Polymers by Pentafluorophenylbis(triflyl)methane-Promoted Group Transfer Polymerization Using Triisopropylsilyl Ketene Acetal,JOURNAL OF POLYMER SCIENCE PART A: POLYMER CHEMISTRY,2012年,Vol 50,p.3560-3566
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 20/00 - 20/70
C08F 220/00 - 220/70
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類を含む単量体成分を、炭素-炭素二重結合を有するシラン化合物、及び、触媒の存在下でグループトランスファー重合する工程を含
み、
該触媒は、有機リン化合物、N-ヘテロ環状カルベン、フッ素イオン含有化合物、環状アミン化合物、及び、アンモニウム塩化合物からなる群より選択される少なくとも一種であることを特徴とするビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体の製造方法。
【化1】
(式中、R
1は、水素原子又はメチル基を表す。R
2及びR
3は、同一又は異なって、水素原子又は有機基を表す。R
4は、水素原子又は有機基を表す。nは、1以上の整数を表す。)
【請求項2】
重合開始時の溶媒中の酸素濃度が1000ppm以下であることを特徴とする請求項
1に記載のビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体の製造方法。
【請求項3】
重合開始時の溶媒中の水分量が1000ppm以下であることを特徴とする請求項1
又は2に記載のビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体の製造方法。
【請求項4】
前記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体は、
下記一般式(5)で表される構造単位を有し、主鎖に炭素-炭素二重結合を有するシラン化合物由来の末端基を有することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体の製造方法。
【化2】
(式中、R
1
は、水素原子又はメチル基を表す。R
2
及びR
3
は、同一又は異なって、水素原子又は有機基を表す。R
4
は、水素原子又は有機基を表す。nは、1以上の整数を表す。)
【請求項5】
前記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体は、
更に、下記一般式(9)で表される末端構造を有することを特徴とする請求項4に記載のビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体の製造方法。
【化3】
(式中、R
1
は、水素原子又はメチル基を表す。R
2
及びR
3
は、同一又は異なって、水素原子又は有機基を表す。R
4
は、水素原子又は有機基を表す。Xは、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ヒドロキシメチル基、アリル基又はプロパルギル基を表す。nは、1以上の整数を表す。)
【請求項6】
前記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体は、数平均分子量が1000~1000000であることを特徴とする請求項4又は5に記載のビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体の製造方法。
【請求項7】
前記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体は、重量平均分子量が50000以上であり、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が2.5以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体の製造方法。
【請求項8】
前記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体は、重合体をゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により測定して得られる微分分子量分布曲線において、該微分分子量分布曲線の最大値の点をTとし、該微分分子量分布曲線上Tの5%高さの点を低分子量側からL
0
及びL
1
とする場合に、T-L
0
-L
1
で囲まれた三角形の面積(A)と、該微分分子量分布曲線とL
0
-L
1
を結ぶ線で囲まれた部分の面積(B)との比(A/B)が、0.8~2.0であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体の製造方法。
【請求項9】
前記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体は、酢酸エチル、トルエン、又は、テトラヒドロフランに対する不溶分の量が、重合体100質量%に対して10質量%以下であることを特徴とする請求項4~8のいずれかに記載のビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体の製造方法、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体、及び重合体組成物に関する。より詳しくは、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体を容易かつ効率的に製造することができる方法、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体、及び重合体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ラジカル重合性基とイオン重合性基を分子内に併せ持つ異種重合性モノマーとして、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類が知られている。このような異種重合性モノマーを重合して得られる重合体は、工業的に汎用性が高く有用であり、各種用途において広く使用されている。
【0003】
ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類は、モノマー内にビニルエーテル基と(メタ)アクリロイル基を有する。そのため、ビニルエーテル基のみをカチオン重合させると(メタ)アクリロイル基ペンダント型ポリビニルエーテルを得ることができる。一方、(メタ)アクリロイル基のみを重合させるとビニルエーテルペンダント型アクリルポリマーを得ることができる。このように、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類は2種の重合性基を有するため、所望の重合体を得るためには最適な重合方法を選択する必要がある。
【0004】
なかでも、(メタ)アクリロイル基のみを重合させて、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体を得る方法について、これまでにいくつか提案されている。
例えば、特許文献1には、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類を必須に含むモノマー成分を、ラジカル重合開始剤を用いてラジカル重合することによりビニルエーテル基ペンダントラジカル重合体を製造する方法が記載されている。
また例えば、特許文献2には、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類を含む単量体組成物の少なくとも一部、及び/又は、ラジカル重合開始剤組成物の少なくとも一部を反応系に添加することにより、上記重合体を製造する方法が記載されている。
また例えば、非特許文献1には、アニオン重合により、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類の(メタ)アクリロイル基を重合させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-155114号公報
【文献】特開2003-226717号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Polym.Chem.,2011,2,1837-1848
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類を原料としてラジカル重合を行うと、(メタ)アクリロイル基が優先的に重合するものの、少量のビニルエーテル基も重合するため、高転化率の条件下では架橋を起こし、得られる重合体がゲル化してしまうといった問題があった。
【0008】
また、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類を原料として上記非特許文献1のアニオン重合を行う場合、重合開始剤や中間体であるカルボアニオンと水との反応性が非常に高いため、反応系内の水分量を厳密に制御する必要があった。また、その反応性の高さゆえ、不純物が存在すると、容易に失活して反応が効率良く進まなくなるという問題があった。更には、モノマーとエステルとの反応を抑制するために、-70℃程度の極低温条件で反応を行う必要があった。このように、アニオン重合による製法では、水分量や不純物量、温度等の条件を考慮する必要があり、これらを制御するには製造工程が煩雑となるため、工業的製造方法として好適であるとは言い難い。
【0009】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体を容易に効率良く製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、ビニルエーテル基と(メタ)アクリロイル基を有する、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類の重合方法について種々検討したところ、炭素-炭素二重結合を有するシラン化合物と触媒の存在下でグループトランスファー重合を行うことで、(メタ)アクリロイル基のみを重合させた重合体を容易に効率良く得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、下記一般式(1)で表されるビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類を含む単量体成分を、炭素-炭素二重結合を有するシラン化合物、及び、触媒の存在下でグループトランスファー重合する工程を含むことを特徴とするビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体の製造方法である。
【0012】
【0013】
(式中、R1は、水素原子又はメチル基を表す。R2及びR3は、同一又は異なって、水素原子又は有機基を表す。R4は、水素原子又は有機基を表す。nは、1以上の整数を表す。)
【0014】
上記触媒は、有機リン化合物、N-ヘテロ環状カルベン、フッ素イオン含有化合物、環状アミン化合物、及び、アンモニウム塩化合物からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0015】
上記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体の製造方法において、重合開始時の溶媒中の酸素濃度が1000ppm以下であることが好ましい。
【0016】
上記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体の製造方法において、重合開始時の溶媒中の水分量が1000ppm以下であることが好ましい。
【0017】
本発明はまた、下記一般式(5)で表される構造単位を有し、主鎖に炭素-炭素二重結合を有するシラン化合物由来の末端基を有することを特徴とするビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体である。
【0018】
【0019】
(式中、R1は、水素原子又はメチル基を表す。R2及びR3は、同一又は異なって、水素原子又は有機基を表す。R4は、水素原子又は有機基を表す。nは、1以上の整数を表す。)
【0020】
上記重合体は、更に、一般式(9)で表される末端構造を有することが好ましい。
【0021】
【0022】
(式中、R1は、水素原子又はメチル基を表す。R2及びR3は、同一又は異なって、水素原子又は有機基を表す。R4は、水素原子又は有機基を表す。Xは、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ヒドロキシメチル基、アリル基又はプロパルギル基を表す。nは、1以上の整数を表す。)
【0023】
上記重合体は、数平均分子量が1000~1000000であることが好ましい。
【0024】
本発明はまた、重量平均分子量が50000以上であり、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が2.5以下であることを特徴とするビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体である。
【0025】
本発明はまた、重合体をゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により測定して得られる微分分子量分布曲線において、上記微分分子量分布曲線の最大値の点をTとし、上記微分分子量分布曲線上Tの5%高さの点を低分子量側からL0及びL1とする場合に、T-L0-L1で囲まれた三角形の面積(A)と、該微分分子量分布曲線とL0-L1を結ぶ線で囲まれた部分の面積(B)との比(A/B)が、0.8~2.0であることを特徴とするビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体である。
【0026】
上記重合体において、酢酸エチル、トルエン、又は、テトラヒドロフランに対する不溶分の量が、重合体100質量%に対して10質量%以下であることが好ましい。
【0027】
上記重合体は、上述したビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体の製造方法により得られることが好ましい。
【0028】
本発明はまた、下記一般式(5)で表される構造単位を有し、主鎖に、下記一般式(6)、(7)又は(8)で表される第一の末端基、及び、下記一般式(10)で表される第二の末端基を有することを特徴とするビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体の中間体でもある。
【0029】
【0030】
(式(5)中、R1は、水素原子又はメチル基を表す。R2及びR3は、同一又は異なって、水素原子又は有機基を表す。R4は、水素原子又は有機基を表す。nは、1以上の整数を表す。
式(6)中、R5及びR6は、同一又は異なって、水素原子又は有機基を表す。R7は、有機基を表す。
式(7)及び(8)中、R5、R6及びR7’は、同一又は異なって、水素原子又は有機基を表す。
式(10)中、R8、R9及びR10は、同一又は異なって、有機基を表す。R11は、-(O-CHR2CHR3)n-O-CH=CHR4(式中、R2及びR3は、同一又は異なって、水素原子又は有機基を表す。R4は、水素原子又は有機基を表す。nは1以上の整数を表す。)を表す。R12は、水素原子又はメチル基を表す。)
【0031】
本発明はまた、上述したビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体を含む重合体組成物であって、上記重合体組成物は、残存モノマーの含有量が上記重合体組成物中の重合体100質量%に対して10質量%以下であることを特徴とする重合体組成物でもある。
【発明の効果】
【0032】
本発明のビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体の製造方法によれば、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体を容易かつ効率的に製造することができる。本発明の製造方法により得られるビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体は、粘・接着剤、印刷用インク組成物、レジスト用組成物、コーティング剤、成形材等に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】GPC法により得られる分子量分布曲線の概略図を示した図である。
【
図2】実施例1の重合体の
1H-NMRスペクトルを示した図である。
【
図3】実施例2の重合体の
1H-NMRスペクトルを示した図である。
【
図4】実施例3の重合体の
1H-NMRスペクトルを示した図である。
【
図5】実施例4の重合体の
1H-NMRスペクトルを示した図である。
【
図6】比較例1の重合体の
1H-NMRスペクトルを示した図である。
【
図7】比較例2の重合体の
1H-NMRスペクトルを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
本明細書において、「(メタ)アクリル酸」は、「アクリル酸及び/又はメタクリル酸」を意味し、「(メタ)アクリロイル基」は、「アクリロイル基及び/又はメタクリロイル基」を意味する。
【0035】
<1.ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体の製造方法>
本発明のビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体の製造方法は、下記一般式(1)で表されるビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類を含む単量体成分を、炭素-炭素二重結合を有するシラン化合物、及び、触媒の存在下でグループトランスファー重合する工程を含むことを特徴とする。
【0036】
【0037】
(式中、R1は、水素原子又はメチル基を表す。R2及びR3は、同一又は異なって、水素原子又は有機基を表す。R4は、水素原子又は有機基を表す。nは、1以上の整数を表す。)
【0038】
本発明の製造方法で用いるグループトランスファー重合は、炭素-炭素二重結合を有するシラン化合物を重合開始剤としてモノマーを重合させるアニオン重合の一種である。炭素-炭素二重結合を有するシラン化合物が、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類の(メタ)アクリロイル基に付加し、新たに形成された重合体の成長末端のシリルケテンアセタールが次々と重合体分子の末端へと移ってゆくことにより重合体が得られる。
このようなグループトランスファー重合を用いることにより、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類の重合反応を、室温等の、制御が比較的容易な温度範囲で行うことができる。また、反応系内の水分量を厳密に制御する必要もなく、上記重合反応を行うことができる。更に、上記重合を用いれば、不純物の生成が少なく、高転化率でビニルエーテル基を残存させたままビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体を製造することができる。
【0039】
このように、触媒の存在下でのグループトランスファー重合を用いると、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類の(メタ)アクリロイル基のみを重合させた、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体を極めて容易かつ効率的に製造することができる。
【0040】
本発明の製造方法における重合工程では、重合開始剤として炭素-炭素二重結合を有するシラン化合物を用い、触媒の存在下で、上記一般式(1)で表されるビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類を含む単量体成分を重合させる。
具体的には、反応前に、上記単量体成分、触媒、炭素-炭素二重結合を有するシラン化合物のうちいずれか2つを反応容器内に仕込み、残り1つを添加することにより重合が開始する。これらを添加する順序については特に限定されず、任意の方法で添加して重合を開始することができる。
また、上記炭素-炭素二重結合を有するシラン化合物、触媒、及び、単量体成分は、それぞれ、使用する全量を一度に添加してもよいし、少量ずつ連続的に添加してもよいし、数回に分けて添加してもよい。
【0041】
上記単量体成分を重合して得られる重合体の分子量は、上記単量体成分の種類及び量や、上記炭素-炭素二重結合を有するシラン化合物の種類及び量、上記触媒の種類及び量、使用する溶媒の種類や量により適宜制御することができる。
【0042】
上記炭素-炭素二重結合を有するシラン化合物の使用量は、所望の重合体が得られるのであれば特に限定されないが、より効率的に重合体を製造できる点で、使用する単量体成分に対して、1×10-4~10モル%であることが好ましく、1×10-3~5モル%がより好ましく、1×10-2~1モル%であることが更に好ましい。
【0043】
上記触媒の使用量は、所望の重合体が得られるのであれば特に限定されないが、より効率的に重合体を製造できる点で、使用する単量体成分に対して、1×10-4~10モル%であることが好ましく、1×10-3~5モル%がより好ましく、1×10-2~1モル%であることが更に好ましい。
【0044】
上記重合反応は、溶媒を使用せずに行うこともできるが、溶媒を使用することが好ましい。使用する溶媒としては、原料、触媒、重合開始剤、重合体を溶解させることのできる溶媒であれば制限されないが、重合反応が効率良く進行し得る点で、非プロトン性溶媒が好ましい。
【0045】
本発明において使用する溶媒としては、具体的には、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;クロロベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、バレロニトリル等のニトリル系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド系溶媒;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2-ジメトキシエタン(DME)、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン(THP)、アニソール、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)、ジエチレングリコールエチルエーテル(カルビトール)、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)等のエーテル系溶媒;ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロシクロヘキサン、ペンタフルオロベンゼン、オクタフルオロトルエン等のフッ素系溶媒;DMSO、ニトロメタン等が挙げられる。
なかでも、重合反応がより一層効率良く進行し得る点で、上記溶媒としては、芳香族炭化水素系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、ケトン系溶媒、ハロゲン化炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、及びニトリル系溶媒からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、芳香族炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒であることがより好ましい。
上記溶媒は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
上記溶媒の使用量としては、使用する単量体成分総量100質量%に対して、好ましくは10~10000質量%、より好ましくは50~5000質量%、更に好ましくは100~1000質量%が挙げられる。
【0047】
また、上記重合においては、重合開始時の溶媒中の酸素濃度が1000ppm以下であることが好ましい。重合開始時の溶媒中の酸素濃度が上述の範囲であると、上記炭素-炭素二重結合を有するシラン化合物や触媒等の活性がより低下しにくくなるため、重合反応がより良好に進行し、所望の重合体をより効率良く製造することができる。上記酸素濃度は、800ppm以下であることがより好ましく、0~500ppmであることが更に好ましい。
上記酸素濃度は、ポーラロ方式溶存酸素計により測定することができる。
【0048】
また、上記重合においては、重合開始時の溶媒中の水分量が1000ppm以下であることが好ましい。重合開始時の溶媒中の水分量が上述の範囲であると、上記炭素-炭素二重結合を有するシラン化合物が分解を起こしにくく触媒等の活性がより低下しにくくなるため、重合反応がより良好に進行し、所望の重合体をより効率良く製造することができる。上記水分量は、500ppm以下であることがより好ましく、300ppm以下であることが更に好ましい。
上記水分量は、カールフィッシャー水分測定法により測定することができる。
【0049】
上記重合における反応温度は、特に制限されないが、分子量及び分子量分布の制御や触媒活性の維持ができる点で、-20~100℃が好ましく、-10~50℃がより好ましく、0~30℃が更に好ましい。また、製造コスト低減の観点から、室温±20℃で重合する工程を含むことも、本発明の製造方法の好ましい形態の一つである。
反応時間は、特に制限されないが、10分~48時間が好ましく、30分~36時間がより好ましく、1~24時間が更に好ましい。
【0050】
上記重合における反応雰囲気下は、大気下でもよいが、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下であることが好ましい。
また上記重合における雰囲気中の酸素濃度は、10000ppm以下であることが好ましく、1000ppm以下であることがより好ましく、100ppm以下であることが更に好ましい。
【0051】
上記重合反応で得られる重合体は、主鎖末端に重合開始剤のシリル基を含むシリルケテンアセタール構造又はエノレートアニオン構造となっており、反応系内に水、アルコール、又は酸を添加して、重合体の片末端のシリルケテンアセタール又はエノレートアニオンをカルボン酸又はエステルに変換させることにより、重合反応を停止させることができる。
上記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等が挙げられる。
上記酸としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸や、酢酸、安息香酸等の有機酸が挙げられる。
水、アルコール又は酸の使用量としては特に限定されないが、使用する炭素-炭素二重結合を有するシラン化合物1molに対し、好ましくは1~1000mol、より好ましくは1~100mol、更に好ましくは1~10molである。
【0052】
また、上記水、アルコール、又は酸の代わりに、求電子剤を添加してもよい。求電子剤を添加することにより、目的の官能基を導入して、重合反応を停止させることができる。上記求電子剤としては、例えば、ヨウ素や臭素等のハロゲン、ハロゲン化コハク酸イミド化合物、ハロゲン化アルキル、ハロゲン化アリル、ハロゲン化プロパルギル、アルデヒド、酸クロライド等が挙げられる。
上記求電子剤の使用量としては、特に限定されないが、使用するシリルケテンアセタール1molに対し、好ましくは0.5~1.5mol、より好ましくは0.6~1.3mol、更に好ましくは0.8~1.2molである。
【0053】
次に、本発明の製造方法において使用する単量体成分、炭素-炭素二重結合を有するシラン化合物、及び、触媒について説明する。
【0054】
本発明では、単量体成分として、上記一般式(1)で表されるビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類を使用する。
上記一般式(1)において、R1は、水素原子又はメチル基を表す。
【0055】
上記一般式(1)において、R2及びR3は、同一又は異なって、水素原子又は有機基を表す。
R2又はR3で表される有機基としては、例えば、炭素数1~20の鎖状若しくは環状の1価の炭化水素基、又は、これらの炭化水素基を構成する原子の少なくとも一部を、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子又は硫黄原子に置換したもの等が挙げられる。
【0056】
上記鎖状の炭化水素基としては、直鎖状又は分岐状の脂肪族炭化水素基が挙げられる。
上記脂肪族炭化水素基としては、アルキル基等の飽和炭化水素基、アルケニル基等の不飽和炭化水素基が挙げられ、好ましくは飽和炭化水素基が挙げられる。
上記脂肪族炭化水素基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、ヘプチル基、2-メチルヘキシル基、3-メチルヘキシル基、2,2-ジメチルペンチル基、2,3-ジメチルペンチル基、2,4-ジメチルペンチル基、3-エチルペンチル基、2,2,3-トリメチルブチル基、オクチル基、メチルヘプチル基、ジメチルヘキシル基、2-エチルヘキシル基、3-エチルヘキシル基、トリメチルペンチル基、3-エチル-2-メチルペンチル基、2-エチル-3-メチルペンチル基、2,2,3,3-テトラメチルブチル基、ノニル基、メチルオクチル基、3,7-ジメチルオクチル基、ジメチルヘプチル基、3-エチルヘプチル基、4-エチルヘプチル基、トリメチルヘキシル基、3,3-ジエチルペンチル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基等のアルキル基;ビニル基、n-プロペニル基、イソプロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、2-メチル-1-ブテニル基、2-メチル-2-ブテニル基、3-メチル-1-ブテニル基、1-ヘキセニル基、2-ヘキセニル基、1-ヘプテニル基、2-ヘプテニル基、1-オクテニル基又2-オクテニル基等のアルケニル基;等が挙げられる。
【0057】
上記環状の炭化水素基としては、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基が挙げられる。
上記脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基等のシクロアルキル基が挙げられる。
上記芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、ビフェニレル基、メトキシフェニル基、トリクロロフェニル基、エチルフェニル基、トリル基、キシリル基、ベンジル基等の芳香族炭化水素基が挙げられる。
上記ハロゲン原子としては、塩素、臭素、又はフッ素が好ましく、フッ素がより好ましい。
【0058】
なかでも、上記有機基としては、炭素数1~10のアルキル基、炭素数3~10のシクロアルキル基、炭素数1~5のハロゲン化アルキル基、炭素数6~12の芳香族炭化水素基が好ましく、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~5のハロゲン化アルキル基、又は炭素数6~11の芳香族炭化水素基がより好ましく、炭素数1~2のアルキル基、炭素数1~2のハロゲン化アルキル基、炭素数6~8の芳香族炭化水素基がより好ましい。
【0059】
上記一般式(1)において、R4は、水素原子又は有機基を表す。
R4で表される有機基としては、例えば、上述したR2及びR3で表される有機基と同じものを挙げることができる。なかでも、上記R4で表される有機基は、炭素数1~11の鎖状又は環状の炭化水素基であることが好ましく、炭素数1~10のアルキル基、炭素数3~10のシクロアルキル基、炭素数6~11の芳香族炭化水素基であることがより好ましく、炭素数1~3のアルキル基であることが更に好ましい。
【0060】
上記一般式(1)で表されるビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類としては、具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸2-(ビニロキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2-ビニロキシエチル等を好ましく挙げることができる。
【0061】
上記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
上記単量体成分は、上記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類以外の、他の重合性単量体を含んでいてもよい。
上記他の重合性単量体としては、例えば、電子不足二重結合を有する重合性単量体が挙げられ、これらは製造する重合体の目的、用途に応じて適宜選択することができる。
上記電子不足二重結合を有する重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸-tert-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸2-(アセトアセトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸アリル、アクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、カプロラクトン変性ヒドロキシ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシメチルシクロヘキシルメチル等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸(3-エチルオキセタン-3-イル)メチル等の環状エーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸オクタフルオロペンチル、(メタ)アクリル酸ヘプタドデカフルオロデシル、(メタ)アクリル酸パーフロロオクチルエチル等のハロゲン含有(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸N,N’-ジメチルアミノエチル、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン等の窒素原子含有重合性単量体類;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の多官能性重合性単量体類;2-(メタ)アクロイルオキシエチルイソシアネート、(メタ)アクロイルイソシアネート等のイソシアネート基含有重合性単量体類;4-(メタ)アクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、1-(メタ)アクリロイル-4-シアノ-4-(メタ)アクリロイルアミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン等の紫外線安定性重合性単量体類;メチレンブチロラクトン、メチルメチレンブチロラクトン等の重合性環状ラクトン単量体類;(メタ)アクリロニトリル;無水マレイン酸;等が挙げられる。
【0063】
また、上記他の重合性単量体は、炭素数が1~22であることが好ましく、1~18であることがより好ましく、3~15であることが更に好ましい。
上記他の重合性単量体は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
単量体成分として、上記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類と上記他の重合性単量体を含む場合、それぞれの成分の含有量は、得ようとする重合体の目的・用途に応じて適宜設計することができる。
【0065】
本発明において使用する炭素-炭素二重結合を有するシラン化合物としては、例えば、下記一般式(2):
【0066】
【0067】
(式中、R5及びR6は、同一又は異なって、水素原子又は有機基を表す。R7、R8、R9及びR10は、同一又は異なって、有機基を表す。R5とR6又はR6とR7は、結合して環構造を形成していてもよい。R8、R9及びR10は、これらのうち2つ以上が結合して環構造を形成していてもよい。)
で表されるシリルケテンアセタール、下記一般式(3):
【0068】
【0069】
(式中、R5、R6及びR7’は、同一又は異なって、水素原子又は有機基を表す。R8、R9及びR10は、同一又は異なって、有機基を表す。R5とR6又はR6とR7’は、結合して環構造を形成していてもよい。R8、R9及びR10は、これらのうち2つ以上が結合して環構造を形成していてもよい。)
で表されるビニルシラン化合物、及び、下記一般式(4):
【0070】
【0071】
(式中、R5、R6及びR7’は、同一又は異なって、水素原子又は有機基を表す。R8、R9及びR10は、同一又は異なって、有機基を表す。R5とR6又はR6とR7’は、結合して環構造を形成していてもよい。R8、R9及びR10は、これらのうち2つ以上が結合して環構造を形成していてもよい。)
で表されるアリルシラン化合物の1種又は2種以上が好ましく挙げられる。
なかでも、反応性が高く、効率良く重合が進行する点で、上記シリルケテンアセタールがより好ましく挙げられる。
【0072】
上記一般式(2)、(3)、(4)において、R5及びR6は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~12の炭化水素基であることが好ましい。
上記炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、芳香族炭化水素基等が挙げられる。上記炭化水素基は、上記炭化水素基を構成する原子の少なくとも一部が、酸素原子、窒素原子又は硫黄原子に置換されていてもよいし、上記炭化水素基を構成する水素原子の一つ以上が、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;水酸基;アルコキシ基等の置換基で置換されていてもよい。
なかでも、R5及びR6で表される炭化水素基としては、炭素数1~6のアルキル基、シクロアルキル基、ハロアルキル基、芳香族炭化水素基であることがより好ましく、炭素数1~6のアルキル基、シクロアルキル基であることが更に好ましく、炭素数1~6のアルキル基であることが更により好ましく、メチル基、エチル基であることが特に好ましい。
【0073】
R7及びR7’の有機基は、炭素数1~22の炭化水素基であることが好ましく、炭素数1~12のアルキル基、シクロアルキル基、芳香族炭化水素基であることがより好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、tert-ブチル基、アダマンチル基、シクロヘキシル基、2-エチルヘキシル基、フェニル基であることが更に好ましく、メチル基、エチル基、tert-ブチル基であることが特に好ましい。
【0074】
また、R5とR6又はR6とR7若しくはR7’は、結合して環構造を形成していてもよい。
上記環構造としては、例えば、シクロヘキシル、シクロペンチル等のシクロアルキル等の脂環式炭化水素構造、ジヒドロフラン環、テトラヒドロフラン環、ジヒドロピラン環、テトラヒドロピラン環等の含酸素ヘテロ環構造等が挙げられる。
【0075】
R8、R9、及びR10は、同一又は異なって、炭素数1~12の炭化水素基、アルコキシ基、トリメチルシリル基であることが好ましく、炭素数1~6の炭化水素基、アルコキシ基であることがより好ましく、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基、トリメチルシリル基であることが更に好ましい。
【0076】
また、上記R7、R7’、R8、R9又はR10で表される炭化水素基は、上記炭化水素基を構成する原子の少なくとも一部が、酸素原子、窒素原子又は硫黄原子に置換されていてもよいし、上記炭化水素基を構成する水素原子の一つ以上が、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;水酸基;アルコキシ基等の置換基で置換されていてもよい。また、上記R8、R9又はR10で表される炭化水素基のうち2つ以上が結合して環構造を形成していてもよい。
【0077】
上記一般式(2)、(3)、(4)中の-SiR8R9R10で表される基としては、具体的には、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、トリイソブチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基、トリフェニルシリル基、メチルジフェニルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基等が挙げられる。なかでも、入手容易であることや合成容易である点で、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基、トリエトキシシリル基、トリフェニルシリル基が好ましい。
【0078】
上記一般式(2)で表されるシリルケテンアセタールとしては、具体的には、例えば、メチル(トリメチルシリル)ジメチルケテンアセタール、メチル(トリエチルシリル)ジメチルケテンアセタール、メチル(トリイソプロピルシリル)ジメチルケテンアセタール、メチル(tert-ブチルジメチルシリル)ジメチルケテンアセタール、メチル(トリメチルシリル)ジエチルケテンアセタール、メチル(トリフェニルシリル)ジメチルケテンアセタール、メチル(メチルジフェニルシリル)ジメチルケテンアセタール、メチル(ジメチルフェニルシリル)ジメチルケテンアセタール、メチル(トリエトキシシリル)ジメチルケテンアセタール、エチル(トリメチルシリル)ジメチルケテンアセタール、2-エチルヘキシル(トリメチルシリル)ジメチルケテンアセタール、tert-ブチル(トリメチルシリル)ジメチルケテンアセタール、1-[(1-メトキシ-2-メチル-1-プロペニル)オキシ]-1-メチルシラシクロブタン等が挙げられる。
これらの中でも、入手容易である点や合成容易な点、また安定性の点から、メチル(トリメチルシリル)ジメチルケテンアセタール、メチル(トリイソプロピルシリル)ジメチルケテンアセタール、エチル(トリメチルシリル)ジメチルケテンアセタールが好ましい。
上記シリルケテンアセタールは、1種のみ用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
上記一般式(3)で表されるビニルシラン化合物としては、具体的には、例えば、ビニルトリメチルシラン、1-トリメチルシリルヘキセン、1-トリメチルシリルオクテン、1-トリメチルシリル-1-フェニルエチレン、1-トリメチルシリル-2-フェニルエチレン、ビニル-tert-ブチルジメチルシラン、1-tert-ブチルジメチルシリルヘキセン、1-tert-ブチルジメチルシリルオクテン、1-tert-ブチルジメチルシリル-2-フェニルエチレン、ビニルトリス(トリメチルシリル)シラン、1-トリス(トリメチルシリル)シリルヘキセン、1-トリス(トリメチルシリル)シリルオクテン、1-トリス(トリメチルシリル)シリル-2-フェニルエチレン等が挙げられる。
【0080】
上記一般式(4)で表されるアリルシラン化合物としては、具体的には、例えば、3-(トリメチルシリル)-1-プロペン、3-(トリエチルシリル)-1-プロペン、3-(ジメチルエチルシリル)-1-プロペン、3-(トリイソプロピルシリル)-1-プロペン、3-(ジメチルイソプロピルシリル)-1-プロペン、3-(トリノルマルプロピルシリル)-1-プロペン、3-(ジメチルノルマルプロピルシリル)-1-プロペン、3-(トリノルマルブチルシリル)-1-プロペン、3-(ジメチルノルマルブチルシリル)-1-プロペン、3-(トリフェニルシリル)-1-プロペン、3-(ジメチルフェニルシリル)-1-プロペン、2-メチル-3-(トリメチルシリル)-1-プロペン、3-(トリメチルシリル)-2-メチル-1-プロペン、3-(トリフェニルシリル)-2-メチル-1-プロペン等が挙げられる。
【0081】
本発明において使用する触媒としては、ブレンステッド塩基やルイス塩基等の塩基性触媒として作用するものが好ましく挙げられ、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物等の無機塩基;トリアルキルアミン、ピリジン等の有機塩基;等が挙げられる。
なかでも、上記触媒としては、上記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類の重合をより一層効率良く行うことができる点で、有機リン化合物、N-ヘテロ環カルベン、フッ素イオン含有化合物、環状アミン化合物、及び、アンモニウム塩化合物からなる群より選択される少なくとも一種が好ましい。これらの特定の触媒を使用する場合、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類において、ビニルエーテル基のカチオン重合やビニルエーテルの分解が起こりにくく、(メタ)アクリロイル基のみをより一層効率良く重合させることができる。
【0082】
上記有機リン化合物としては、例えば、1-tert-ブチル-4,4,4-トリス(ジメチルアミノ)-2,2-ビス[トリス(ジメチルアミノ)ホスホラニリデンアミノ]-2λ5,4λ5-カテナジ(ホスファゼン)(ホスファゼン塩基P4-t-BuP4)、1-tert-オクチル-4,4,4-トリス(ジメチルアミノ)-2,2-ビス[トリス(ジメチルアミノ)ホスホラニリデンアミノ]-2λ5,4λ5-カテナジ(ホスファゼン)(ホスファゼン塩基P4-tOct)、1-tert-ブチル-2,2,4,4,4-ペンタキス(ジメチルアミノ)-2λ5,-4λ5-カテナジ(ホスファゼン)(ホスファゼン塩基P2-t-Bu)、1-エチル-2,2,4,4,4-ペンタキス(ジメチルアミノ)-2λ5,4λ5-カテナジ(ホスファゼン)(ホスファゼン塩基P2-t-Et)、tert-ブチルイミノ-トリス(ジメチルアミノ)ホスホラン(ホスファゼン塩基P1-t-Bu)、tert-ブチルイミノ-トリ(ピロリジノ)ホスホラン(BTPP)、2-tert-ブチルイミノ-2-ジエチルアミノ-1,3-ジメチルペルヒドロ-1,3,2-ジアザホスホリン等のホスファゼン塩基;トリス(2,4,6-トリメトキシフェニル)ホスフィン、トリブチルホスフィン、トリス(ジメチルアミノホスフィン)、2,8,9-トリイソブチル-2,5,8,9-テトラアザ-1-ホスファビシクロ[3,3,3]ウンデカン、2,8,9-トリメチル-2,5,8,9-テトラアザ-1-ホスファビシクロ[3,3,3]ウンデカン、2,8,9-トリイソプロピルー2,5,8,9-テトラアザ-1-ホスファビシクロ[3,3,3]ウンデカン;等が挙げられる。なかでも、塩基性が強く、シリルケテンアセタールを効果的に活性化できる点で、ホスファゼン塩基P4-t-BuP4、2,8,9-トリイソブチル-2,5,8,9-テトラアザ-1-ホスファビシクロ[3,3,3]ウンデカンが好ましい。
【0083】
上記N-ヘテロ環カルベンとしては、例えば、1,3-ジメチルイミダゾール-2-イリデン、1,3-ジエチルイミダゾール-2-イリデン、1,3-ジ-tert-ブチルイミダゾール-2-イリデン、1,3-ジ-シクロヘキシルイミダゾール-2-イリデン、1,3-ジ-イソプロピルイミダゾール-2-イリデン、1,3-ジ(1-アダマンチル)イミダゾール-2-イリデン、1,3-ジ-メシチルイミダゾール-2-イリデン等が挙げられる。なかでも、シリルケテンアセタールを効果的に活性化できる点で、1,3-ジ-tert-ブチルイミダゾール-2-イリデン、1,3-ジ-イソプロピルイミダゾール-2-イリデンが好ましい。
【0084】
上記フッ素イオン含有化合物としては、例えば、フッ化テトラ-n-ブチルアンモニウム(TBAF)、トリス(ジメチルアミノ)スルホニウムビフルオリド(TASHF2)、フッ化水素-ピリジン、テトラブチルアンモニウムビフルオリド、フッ化水素カリウム等が挙げられる。なかでも、入手容易である点やシリルケテンアセタールを効果的に活性化できる点で、フッ化テトラ-n-ブチルアンモニウム(TBAF)、テトラブチルアンモニウムビフルオリド、トリス(ジメチルアミノ)スルホニウムビフルオリド(TASHF2)が好ましい。
【0085】
上記環状アミン化合物としては、例えば、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノン-5-エン、7-メチル-1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン等が挙げられる。
【0086】
上記アンモニウム塩化合物としては、例えば、テトラブチルアンモニウムビスアセテート、テトラブチルアンモニウムアセテート、テトラブチルアンモニウムベンゾエート、テトラブチルアンモニウムビスベンゾエート、テトラブチルアンモニウムメタクロロベンゾエート、テトラブチルアンモニウムシアネート、テトラブチルアンモニウムメトキシド、テトラブチルアンモニウムチオレート、テトラブチルアンモニウムビブロマイド、及び、これらのアンモニウム塩化合物のアンモニウムカチオンをテトラメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、ベンジルトリブチルアンモニウム、N-メチル-N-ブチルピペリジニウム、N-メチル-N-ブチルピロリジニウムカチオンに変えたものやピリジニウムカチオンに変えたもの等が挙げられる。
【0087】
また、上記の他に1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノン-5-エン、7-メチル-1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エンのような塩基性の強い含窒素複素環化合物も用いることができる。
【0088】
上記触媒は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0089】
上記重合においては、本発明の効果に影響を与えない範囲において、上述した成分以外に、更に他の成分を使用してもよい。上記他の成分としては、例えば、重合反応において通常使用される重合開始剤、連鎖移動剤、重合促進剤、重合禁止剤等の公知の添加剤等が挙げられる。これらは、必要に応じて適宜選択することができる。
【0090】
本発明の製造方法は、上記重合反応工程以外の他の工程を含んでいてもよい。上記他の工程としては、例えば、熟成工程、中和工程、重合開始剤や連鎖移動剤の失活工程、希釈工程、乾燥工程、濃縮工程、精製工程等が挙げられる。これらの工程は、公知の方法により行うことができる。
【0091】
<2.重合体>
次に、本発明の製造方法により得られるビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体の好ましい一例について説明する。本発明の製造方法を用いれば、下記一般式(5)で表される構造単位、及び、主鎖に上記炭素-炭素二重結合を有するシラン化合物由来の末端基を有するビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体を容易に効率良く得ることができる。このようなビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体もまた本発明の一つである。
【0092】
【0093】
(式中、R1は、水素原子又はメチル基を表す。R2及びR3は、同一又は異なって、水素原子又は有機基を表す。R4は、水素原子又は有機基を表す。nは、1以上の整数を表す。)
なお、本明細書において、上記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体を「本発明の第一の重合体」とも称する。また、この第一の重合体と、後述する「本発明の第二の重合体」と「本発明の第三の重合体」とを合わせて、「本発明のビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体」又は「本発明の重合体」とも称する。
【0094】
本発明のビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体は、上記一般式(5)で表される構造単位を有する。上記一般式(5)で表される構造単位は、上述した一般式(1)で表されるビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類に由来する繰り返し単位である単量体単位である。
上記一般式(5)中の、R1、R2、R3及びR4は、上述した一般式(1)中のR1、R2、R3及びR4とそれぞれ同じである。
【0095】
上記重合体は、上記一般式(5)で表される構造単位の他に、他の構造単位を有していてもよい。上記他の構造単位としては、上述の製造方法において記載した他の重合性単量体由来の単量体単位が挙げられる。
【0096】
上記一般式(5)で表される構造単位や上記他の構造単位の含有割合は、重合体の目的・用途に応じて適宜設計するとよい。
【0097】
上記重合体は、主鎖開始末端側に上記炭素-炭素二重結合を有するシラン化合物由来の末端基を有することが好ましい。上述したように、本発明の製造方法では、重合開始剤として上述の炭素-炭素二重結合を有するシラン化合物を使用するので、得られる重合体の片末端はその開始剤由来の構造となる。
【0098】
上記炭素-炭素二重結合を有するシラン化合物由来の末端基としては、例えば、上記シリルケテンアセタール由来の末端基、上記ビニルシラン化合物由来の末端基、又は、上記アリルシラン化合物由来の末端基が挙げられる。
【0099】
上記シリルケテンアセタール由来の末端基としては、具体的には、下記一般式(6)で表される構造が挙げられる。
【0100】
【0101】
(式中、R5及びR6は、同一又は異なって、水素原子又は有機基を表す。R7は、有機基を表す。)
【0102】
上記一般式(6)において、R5、R6及びR7は、上記一般式(2)中のR5、R6及びR7とそれぞれ同じである。
【0103】
上記ビニルシラン化合物由来の末端基としては、具体的には、下記一般式(7)で表される構造が挙げられる。
【0104】
【0105】
(式中、R5、R6及びR7’は、同一又は異なって、水素原子又は有機基を表す。)
上記一般式(7)中、R5、R6及びR7’は、上記一般式(3)中のR5、R6及びR7’とそれぞれ同じである。
【0106】
上記アリルシラン化合物由来の末端基としては、具体的には、下記一般式(8)で表される構造が挙げられる。
【0107】
【0108】
(式中、R5、R6及びR7’は、同一又は異なって、水素原子又は有機基を表す。)
上記一般式(8)中、R5、R6及びR7’は、上記一般式(4)中のR5、R6及びR7’とそれぞれ同じである。
【0109】
上記重合体はまた、更に、下記一般式(9)で表される末端構造を有することが好ましい。下記一般式(9)で表される末端構造を有すると、重合体に所望の機能を付与することができる。上記炭素-炭素二重結合を有するシラン化合物由来の末端基は、重合体の重合開始側末端に相当し、下記一般式(9)で表される末端構造は、重合体の重合終了側末端に相当する。
【0110】
【0111】
(式中、R1は、水素原子又はメチル基を表す。R2及びR3は、同一又は異なって、水素原子又は有機基を表す。R4は、水素原子又は有機基を表す。Xは、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ヒドロキシメチル基、アリル基又はプロパルギル基を表す。nは、1以上の整数を表す。)
【0112】
上記一般式(9)中、R1、R2、R3及びR4は、上記一般式(1)中のR1、R2、R3及びR4とそれぞれ同じである。
【0113】
Xは、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ヒドロキシメチル基、アリル基又はプロパルギル基を表す。上記アルキル基としては、炭素数1~8のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~6のアルキル基であることがより好ましい。
上記Xは、なかでも、重合体の末端基を統一できる点では水素原子であることが好ましく、重合体に機能を付与しやすい点ではプロパルギル基であることが好ましく、重合体の安定性を高める点ではアルキル基であることが好ましい。
【0114】
上記重合体は、数平均分子量が1000~1000000の範囲であることが好ましい。上記重合体の数平均分子量が上述の範囲であると、粘・接着剤、印刷用インク組成物、レジスト用組成物、コーティング、成形材等各種用途に好適に用いることができる。上記重合体の数平均分子量は、1000~500000の範囲であることがより好ましく、5000~200000の範囲であることが更に好ましい。
本明細書において、上記数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)により、後述の実施例に記載した方法にて求めることができる。
【0115】
上記重合体は、重量平均分子量が1000~1000000の範囲であることが好ましい。上記重合体の数平均分子量が上述の範囲であると、粘・接着剤、印刷用インク組成物、レジスト用組成物、コーティング、成形材等各種用途に好適に用いることができる。上記重合体の重量平均分子量は、1000~500000の範囲であることがより好ましく、5000~200000の範囲であることが更に好ましく、10000~200000の範囲であることが特に好ましい。
本明細書において、上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)により、後述の実施例に記載した方法にて求めることができる。
【0116】
上記重合体は、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が5.0以下であることが好ましい。分子量分布が5.0以下であると、重合体の諸物性のばらつきを抑制することができる。上記分子量分布は、3.5以下であることがより好ましく、2.5以下であることが更に好ましい。下限値は、通常1.0以上である。
上記分子量分布は、重量平均分子量を数平均分子量で除することにより求めることができる。
【0117】
なかでも、上記重合体は、上記重量平均分子量が50000以上であり、上記分子量分布が2.5以下であることが好ましい。上記範囲の重量平均分子量と分子量分布を有する重合体は、硬化物や組成物とした場合に物性を容易に調整することができる。このような所定範囲の重量平均分子量と分子量分布を有するビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体もまた、本発明の一つである。すなわち、本発明の第二の重合体は、重量平均分子量が50000以上であり、分子量分布が2.5以下であるビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体である。
【0118】
上記重合体におけるビニルエーテル基の含有量は、特に限定されず、上記重合体の目的、用途に応じて適宜調整することができるが、例えば、1~100モル%、好ましくは2~100モル%である。上記ビニルエーテル基の含有量は、ガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィー、1H-HMR等を用いて、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステルやそれ以外のモノマーの反応率の比や1H-NMRの該当する積分値の比較 の方法により得られる値である。
【0119】
本発明の製造方法により、上記重合体を製造した場合、上記重合体に含まれるゲル成分の量を低く抑えることができる。
本発明の製造方法によって得られる上記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体におけるゲル成分の含有量は、上記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体100質量%に対して、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが更に好ましく、0.5質量%以下であることが特に好ましい。
上記ゲル成分は、好ましくは酢酸エチル、トルエン又はテトラヒドロフランに対して不溶な成分であり、25℃での溶解度が、酢酸エチル、トルエン又はテトラヒドロフラン100gに対して0.5g以下、好ましくは0.1g以下である。
【0120】
このような、酢酸エチル、トルエン又はテトラヒドロフランに対する不溶分の量が、上記重合体100質量%に対して10質量%以下であるビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体も本発明の好ましい形態の一つである。上記不溶分の量は、上記重合体100質量%に対して、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが更に好ましく、0.5質量%以下であることが特に好ましい。
上記不溶分の量は、上記重合体の濃度が約33質量%となるように、酢酸エチル、トルエン又はテトラヒドロフランを加え、室温で充分に攪拌した後、孔径4μmのフィルターに通し、そのフィルター上に残った不溶分の乾燥後の質量を(b)とし、初期の重合体の質量を(a)とする場合に、(b)/(a)×100より求めることができる。具体的には、後述する実施例に記載の方法で求めることができる。
【0121】
本発明の重合体は、上記重合体をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定して得られる微分分子量分布曲線において、上記微分分子量分布曲線の最大値の点をTとし、上記微分分子量分布曲線上Tの5%高さの点を低分子量側からL
0及びL
1とする場合に、T-L
0-L
1で囲まれた三角形の面積(A)と、該微分分子量分布曲線とL
0-L
1を結ぶ線で囲まれた部分の面積(B)との比(A/B)が、0.8~2.0であることが好ましい。上記重合体が上述の範囲の比を満たすことにより、重合体のゲル化が抑制されていると言える。上記比(A/B)は、0.8~1.5であることがより好ましい。
なお、
図1に、GPC法により測定して得られる微分分子量分布曲線の概略図と、上記T、L
0、L
1を示す。
上記GPCの測定条件は、後述する実施例に記載の方法と同様である。
【0122】
このような所定範囲の比(A/B)を有するビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体もまた、本発明の一つである。すなわち、本発明の第三の重合体は、重合体をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定して得られる微分分子量分布曲線において、上記微分分子量分布曲線の最大値の点をTとし、上記微分分子量分布曲線上Tの5%高さの点を低分子量側からL0及びL1とする場合に、T-L0-L1で囲まれた三角形の面積(A)と、該微分分子量分布曲線とL0-L1を結ぶ線で囲まれた部分の面積(B)との比(A/B)が、0.8~2.0であるビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体である。
【0123】
本発明の重合体は、上述した製造方法で製造されることが好ましい。本発明の重合体を上述した製造方法で製造する場合、重合工程において、上記一般式(5)で表される構造単位を有し、主鎖に、上記一般式(6)、(7)又は(8)で表される第一の末端基を有し、更に、下記一般式(10)で表される第二の末端基を有する、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体の中間体が生成される。このような中間体もまた本発明の一つである。
【0124】
【0125】
(式中、R8、R9及びR10は、同一又は異なって、有機基を表す。R11は、-(O-CHR2CHR3)n-O-CH=CHR4(式中、R2及びR3は、同一又は異なって、水素原子又は有機基を表す。R4は、水素原子又は有機基を表す。nは1以上の整数を表す。)を表す。R12は、水素原子又はメチル基を表す。)
【0126】
上記一般式(10)中のR8、R9及びR10は、上記一般式(2)中のR8、R9及びR10とそれぞれ同じである。
R11は、-(O-CHR2CHR3)n-O-CH=CHR4(式中、R2及びR3は、同一又は異なって、水素原子又は有機基を表す。R4は、水素原子又は有機基を表す。nは1以上の整数を表す。)を表す。上記R2、R3及びR4は、上記一般式(1)中のR2、R3及びR4とそれぞれ同じである。
【0127】
例えば、単量体成分として、上記一般式(1)で表されるビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類のみを使用して、重合開始剤として上記シリルケテンアセタールを使用して、上述の製造方法で重合体を製造する場合、下記一般式(11)で表される中間体が生成される。
【0128】
【0129】
上記一般式(11)中、R1、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11及びR12は、それぞれ上述したものと同じである。
【0130】
本発明の重合体は、ラジカル硬化性、カチオン硬化性、光硬化性等の特性を有する。また、ビニルエーテル基を起点としラジカル重合やカチオン重合を行うことでグラフトポリマーを得たり、ビニルエーテル基を酸や求電子剤と反応させることで各種官能基を導入することができたりする。本発明の重合体は、粘・接着剤、印刷用インク組成物、レジスト用組成物、コーティング、成形材等に好適に使用することができる。
【0131】
<3.重合体組成物>
本発明の製造方法によりビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体を含む重合体組成物を得ることができる。本発明の製造方法によれば、重合に使用する単量体成分の転化率が非常に高く、残存モノマー量が非常に少ない。このように、本発明の製造方法により得られた重合体組成物は、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体を含み、かつ、残存モノマー量が少ないものである。このような重合体組成物も本発明の好ましい形態の一つである。すなわち、本発明はまた、上述したビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体を含む重合体組成物であって、上記重合体組成物は、残存モノマーの含有量が上記重合体組成物中の重合体100質量%に対して10質量%以下であることを特徴とする重合体組成物である。
【0132】
上記重合体組成物における残存モノマーの含有量は、重合体組成物中の重合体100質量%に対して10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、0~3質量%であることが更に好ましい。
残存モノマーの含有量は、1H-NMRやガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定することができる。
【0133】
本発明の重合体組成物として、上述した製造方法により得られた重合体を含む重合体組成物をそのまま用いることができる。
また、上述の製造方法により得られた、ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体を含む重合体組成物について、精製等を行って、残存モノマーの量を適宜調整してもよい。
【0134】
本発明の重合体組成物に含まれるビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体は、上述した「2.重合体」に記載のビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体と同様のものである。
【0135】
上記重合体組成物における、上記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体の含有量は、特に限定されず、重合体組成物の目的、用途に応じて適宜設計すればよいが、例えば、固形分総量100質量%に対して1~99質量%、好ましくは2~98質量%、より好ましくは3~97質量%である。
なお、本明細書において、「固形分総量」とは、硬化物を形成する成分(硬化物の形成時に揮発する溶媒等を除く)の総量を意味する。
【0136】
上記重合体組成物は、上記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体以外に、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。
上記他の成分としては、例えば、溶媒、重合開始剤、連鎖移動剤、分散剤、酸化防止剤、レベリング剤、無機微粒子、カップリング剤、硬化剤、硬化助剤、可塑剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤、消泡剤、帯電防止剤、酸発生剤、樹脂、重合性化合物等の1種又は2種以上の任意の成分が挙げられる。これらは、重合体組成物の目的、用途に応じて、公知のものから適宜選択するとよい。また、その使用量も適宜設計することができる。
【0137】
上記重合体組成物は、上記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル重合体を含むので、ラジカル硬化性、カチオン硬化性、光硬化性等の特性を有する。そのため、本発明の重合体組成物は、例えば、粘・接着剤、印刷用インク組成物、レジスト用組成物、コーティング、成形材等に好適に使用することができる。
【実施例】
【0138】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。各実施例における重合体等の分析は以下のようにして行った。
【0139】
<1H-NMR測定>
装置:アジレント・テクノロジー社製核磁気共鳴装置(600MHz)
測定溶媒:重クロロホルム
サンプル調製:得られた重合体組成物の数mg~数十mgを測定溶媒に溶解した。
【0140】
<分子量測定>
得られた重合体組成物を、テトラヒドロフランで溶解・希釈し、孔径0.45μmのフィルターで濾過したものを、下記ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)装置、及び条件で測定した。
・装置:HLC-8020GPC(東ソー社製)
・溶出溶媒:テトラヒドロフラン
・標準物質:標準ポリスチレン(東ソー社製)
・分離カラム:TSKgel SuperHM-M、TSKgel SuperH-RC(東ソー社製)
【0141】
<モノマー残存率測定>
得られた重合体組成物約0.1gと基準物質アニソール約0.02gを、酢酸エチル5mLで希釈した溶液を、下記ガスクロマトグラフ分析装置及び条件で測定し、サンプルと基準物質とのピーク面積比からモノマーの残存量を求めた。
装置:GC-2010((株)島津製作所製)
カラム:キャピラリーカラムInertCap Pure-WAX(ジーエルサイエンス(株)製、カラム長:30m、カラム内径:0.25mm、キャピラリー内フィルム厚:0.25μm)
キャリアガス:窒素
カラム温度 :40℃で3分保持、8℃/分で昇温、220℃で5分間保持
注入口温度 :300℃
検出器温度 :300℃(FID)
検出される物質と保持時間:アニソール(10.9分)、VEEA(19.7分)
【0142】
(実施例1)
50mLのシュレンクフラスコに、メタクリル酸2-(ビニロキシエトキシ)エチル(以下、「VEEM」と称する。)(4.0g、20mmol)、脱水トルエン(8mL)、メチル(トリメチルシリル)ジメチルケテンアセタール(40μL、0.2mmol)を入れ、窒素気流下、室温で攪拌しながら1-tert-ブチル-4,4,4-トリス(ジメチルアミノ)-2,2-ビス[トリス(ジメチルアミノ)ホスホラニリデンアミノ]-2λ
5、4λ
5-カテナジ(ホスファゼン)(以下、「ホスファゼン塩基P4-t-Bu」と称する。)(0.8Mトルエン溶液、125μL、0.1mmol)を加えた。室温で24時間攪拌した後、少量のメタノールを加え、反応溶液を濃縮し、VEEM重合体を含む重合体組成物を得た。なお、重合開始時の溶媒中の水分量は84ppmであった。
得られた重合体組成物を
1H-NMRで確認したところ、6.5ppm付近にビニルエーテル由来のピークを確認し、積分値からビニルエーテル基がすべて残存していることが分かった(
図2)。このことから、VEEMのメタクリロイル基のみが重合した重合体が得られたことが確認された。一方、モノマーであるVEEMのピーク(6.5ppm、6.1ppm、及び5.6ppm付近のピーク)は確認されなかった。
また、得られた重合体の重量平均分子量(Mw)は112555、数平均分子量(Mn)は38224であり、分子量分布(Mw/Mn)は2.94であった。
【0143】
(実施例2)
50mLのシュレンクフラスコに、VEEM(4.0g、20mmol)、脱水トルエン(8mL)、メチル(トリメチルシリル)ジメチルケテンアセタール(40μL、0.2mmol)を入れ、窒素気流下、室温で攪拌しながらホスファゼン塩基P4-t-Bu(0.8Mトルエン溶液、125μL、0.1mmol)を加えた。室温で24時間攪拌した後、少量のメタノールを加え、反応溶液を濃縮し、VEEM重合体を含む重合体組成物を得た。なお、重合開始時の溶媒中の水分量は164ppmであった。
得られた重合体組成物を
1H-NMRで確認したところ、6.5ppm付近にビニルエーテル由来のピークを確認し、積分値からビニルエーテル基がすべて残存していることが分かった(
図3)。このことから、VEEMのメタクリロイル基のみが重合した重合体が得られたことが確認された。一方、モノマーであるVEEMのピークは確認されなかった。
また、得られた重合体の重量平均分子量は103748、数平均分子量は30344であり、分子量分布(Mw/Mn)は、3.42であった。
【0144】
(実施例3)
50mLのシュレンクフラスコにVEEM(2.0g、10mmol)、メタクリル酸メチル(以下、「MMA」と称する。)(1.0g、10mmol)、脱水テトラヒドロフラン(8mL)、メチル(トリメチルシリル)ジメチルケテンアセタール(41μL、0.2mmol)を入れ、窒素気流下、室温で攪拌しながらホスファゼン塩基P4-t-Bu(0.8Mトルエン溶液、63μL)を加えた。室温で終夜(約20時間)攪拌した後、少量のメタノールを加え、反応溶液を濃縮し、VEEM-MMA共重合体を含む重合体組成物を得た。
得られた重合体組成物を
1H-NMRで確認したところ、6.5ppm付近にビニルエーテル由来のピークを確認し、積分値からビニルエーテル基がすべて残存していることが分かった(
図4)。このことから、VEEMのメタクリロイル基のみが重合した重合体が得られたことが確認された。一方、モノマーであるVEEMのピークは確認されなかった。
また、得られた重合体の重量平均分子量は27671、数平均分子量は10589であり、分子量分布(Mw/Mn)は、2.61であった。
【0145】
(実施例4)
50mLのシュレンクフラスコにアクリル酸2-(ビニロキシエトキシ)エチル(以下、「VEEA」と称する。)(3.7g、20mmol)、脱水トルエン(8mL)、メチル(トリメチルシリル)ジメチルケテンアセタール(41μL、0.2mmol)を入れ、窒素気流下、30℃で攪拌しながらホスファゼン塩基P4-t-Bu(0.8Mトルエン溶液、100μL、0.08mmol)を加えた。30℃で終夜(約24時間)攪拌した後、少量のメタノールを加え、反応溶液を濃縮し、VEEA重合体を含む重合体組成物を得た。
得られた重合体組成物を
1H-NMRで確認したところ、6.5ppm付近にビニルエーテル由来のピークを確認し、積分値からビニルエーテル基がすべて残存していることが分かった(
図5)。このことから、VEEAのアクリロイル基のみが重合した重合体が得られたことが確認された。一方、モノマーであるVEEAのピーク(6.5ppm、6.2ppm、及び5.8ppm付近のピーク)は確認されなかった。また、得られた重合体の重量平均分子量は19404、数平均分子量は7553であり、分子量分布(Mw/Mn)は、2.57であった。
【0146】
(実施例5)
50mLのシュレンクフラスコに、VEEA(0.37g、2.0mmol)、MMA(1.80g、18mmol)、脱水トルエン(8mL)、メチル(トリメチルシリル)ジメチルケテンアセタール(40μL、0.20mmol)を入れ、窒素気流下、室温で攪拌しながらホスファゼン塩基P4-t-Bu(0.8Mトルエン溶液、100μL、0.08mmol)を加えた。室温で5時間攪拌した後、少量のメタノールを加え、反応溶液を濃縮し、VEEA-MMA共重合体を含む重合体組成物を得た。なお、重合開始時の溶媒中の水分量は19ppmであった。
得られた共重合体組成物を1H-NMRで確認したところ、ビニルエーテル由来のピーク(6.5ppm付近)を確認し、積分値からビニルエーテル基がすべて残存していることが分かった。一方、モノマーであるVEEAのピークは確認されなかった。
得られた重合体の重量平均分子量は19300、数平均分子量は6600であり、分子量分布(Mw/Mn)は、2.92であった。
【0147】
(実施例6)
50mLのシュレンクフラスコに、脱水トルエン(8mL)、メチル(トリメチルシリル)ジメチルケテンアセタール(40μL、0.20mmol)、ホスファゼン塩基P4-t-Bu(0.8Mトルエン溶液、25μL、0.02mmol)を入れ、窒素気流下、室温で攪拌しながら、モノマー混合液(VEEA(0.37g、2.0mmol)、アクリル酸n-ブチル(以下、「BA」と称する。)(2.3g、18mmol))をゆっくり滴下した。室温で5時間攪拌した後、少量のメタノールを加え、反応溶液を濃縮し、VEEA-BA共重合体を含む重合体組成物を得た。
得られた重合体組成物を1H-NMRで確認したところ、ビニルエーテル由来のピークを確認し、積分値からビニルエーテル基がすべて残存していることが分かった。またモノマー残存率を測定したところ、VEEAの残存量は4%程度であった。得られた重合体の重量平均分子量は15700、数平均分子量は6900であり、分子量分布(Mw/Mn)は、2.28であった。
【0148】
(実施例7)
50mLのシュレンクフラスコに、VEEA(0.30g、1.6mmol)、BA(1.2g、9.2mmol)、アクリル酸-2-エチルヘキシル(以下、「EHA」と称する。)(1.7g、9.2mmol)、脱水トルエン(8mL)、メチル(トリメチルシリル)ジメチルケテンアセタール(40μL、0.20mmol)を入れ、窒素気流下、0℃で攪拌しながらホスファゼン塩基P4-t-Bu(8.0mMトルエン溶液、2.5mL、0.02mmol)を加えた。室温で5時間攪拌した後、反応溶液を酢酸エチルで希釈し、シリカゲルショートカラムに通すことで触媒を除去した。得られた溶液を濃縮し、VEEA-BA-EHA共重合体を含む重合体組成物を得た。
得られた重合体組成物を1H-NMRで確認したところ、ビニルエーテル由来のピークを確認し、積分値からビニルエーテル基がすべて残存していることが分かった。一方、モノマーであるVEEAのピークは確認されなかった。得られた重合体の重量平均分子量は41300、数平均分子量は15200であり、分子量分布(Mw/Mn)は、2.72であった。
【0149】
(実施例8)
50mLのシュレンクフラスコに、脱水トルエン(8mL)、メチル(トリメチルシリル)ジメチルケテンアセタール(40μL、0.20mmol)、ホスファゼン塩基P4-t-Bu(0.8Mトルエン溶液、25μL、0.02mmol)を入れ、窒素気流下、室温で攪拌しながら、モノマー混合液(VEEM(0.4g、2.0mmol)、MMA(1.8g、18mmol))をゆっくり滴下した。室温で5時間攪拌した後、少量のメタノールを加え、反応溶液を濃縮し、VEEM-MMA共重合体を含む重合体組成物を得た。
得られた重合体組成物を1H-NMRで確認したところ、ビニルエーテル由来のピークを確認し、積分値からビニルエーテル基がすべて残存していることが分かった。一方、モノマーであるVEEMのピークは確認されなかった。得られた重合体の重量平均分子量は26200、数平均分子量は12200であり、分子量分布(Mw/Mn)は、2.15であった。
【0150】
(実施例9)
50mLのシュレンクフラスコに、VEEM(0.43g、2.1mmol)、メタクリル酸2-エチルヘキシル(以下、「EHMA」と称する。)(3.60g、18.1mmol)、脱水トルエン(8mL)、メチル(トリメチルシリル)ジメチルケテンアセタール(40μL、0.20mmol)を入れ、窒素気流下、室温で攪拌しながらホスファゼン塩基P4-t-Bu(0.8Mトルエン溶液、25μL、0.02mmol)を加えた。室温で終夜攪拌した後、反応溶液を酢酸エチルで希釈し、シリカゲルショートカラムに通すことで触媒を除去した。得られた溶液を濃縮し、VEEM-EHMA共重合体を含む重合体組成物を得た。
得られた重合体組成物を1H-NMRで確認したところ、ビニルエーテル由来のピークを確認し、積分値からビニルエーテル基がすべて残存していることが分かった。一方、モノマーであるVEEMのピークは確認されなかった。得られた重合体の重量平均分子量は34800、数平均分子量は20100であり、分子量分布(Mw/Mn)は、1.73であった。
【0151】
(実施例10)
50mLのシュレンクフラスコに、VEEM(0.43g、2.1mmol)、EHMA(3.57g、18.0mmol)、脱水トルエン(8mL)、メチル(トリメチルシリル)ジメチルケテンアセタール(40μL、0.20mmol)を入れ、窒素気流下、室温で攪拌しながらホスファゼン塩基P4-t-Bu(0.08Mトルエン溶液、75μL、6μmol)を加えた。室温で終夜攪拌した後、反応溶液を酢酸エチルで希釈し、シリカゲルショートカラムに通すことで触媒を除去した。
得られた重合体組成物を1H-NMRで確認したところ、ビニルエーテル由来のピークを確認し、積分値からビニルエーテル基がすべて残存していることが分かった。一方、モノマーであるVEEMのピークは確認されなかった。得られた重合体の重量平均分子量は38600、数平均分子量は24300であり、分子量分布(Mw/Mn)は、1.59であった。
【0152】
(実施例11)
50mLのシュレンクフラスコに、VEEA(3.7g、20mmol)、脱水トルエン(8mL)、メチル(トリイソプロピルシリル)ジメチルケテンアセタール(60μL、0.20mmol)を入れ、窒素気流下、0℃で攪拌しながらホスファゼン塩基P4-t-Bu(8.0mMトルエン溶液、2.5mL、0.02mmol)を加えた。室温で5時間攪拌した後、反応溶液を酢酸エチルで希釈し、シリカゲルショートカラムに通すことで触媒を除去した。得られた溶液を濃縮し、VEEA重合体を含む重合体組成物を得た。
得られた重合体組成物を1H-NMRで確認したところ、ビニルエーテル由来のピークを確認し、積分値からビニルエーテル基がすべて残存していることが分かった。またモノマー残存率を測定したところ、VEEAの残存量は2%程度であった。得られた重合体の重量平均分子量は47400、数平均分子量は10100であり、分子量分布(Mw/Mn)は、4.69であった。
【0153】
(実施例12)
50mLのシュレンクフラスコに、脱水テトラヒドロフラン(8mL)、メチル(トリメチルシリル)ジメチルケテンアセタール(40μL、0.20mmol)、テトラブチルアンモニウムビスベンゾエート(文献Macromolecules,1990,23,4034-4041に基づいて合成されたもの)(0.05Mテトラヒドロフラン溶液、40μL、2.0μmol)を入れ、窒素気流下、室温で攪拌しながら、VEEM(4.0g、20mmol)をゆっくり滴下した。室温で5時間攪拌した後、反応溶液を酢酸エチルで希釈し、シリカゲルショートカラムに通すことで触媒を除去した。得られた溶液を濃縮し、VEEM重合体を含む重合体組成物を得た。
得られた重合体組成物を1H-NMRで確認したところ、ビニルエーテル由来のピークを確認し、積分値からビニルエーテル基がすべて残存していることが分かった。一方、モノマーであるVEEMのピークは確認されなかった。得られた重合体の重量平均分子量は36900、数平均分子量は25400であり、分子量分布(Mw/Mn)は、1.45であった。
【0154】
(実施例13)
50mLのシュレンクフラスコに、脱水テトラヒドロフラン(8mL)、メチル(トリメチルシリル)ジメチルケテンアセタール(40μL、0.20mmol)、テトラブチルアンモニウムベンゾエート(Sigma-Aldrich社製、0.05Mテトラヒドロフラン溶液、40μL、2.0μmol)を入れ、窒素気流下、室温で攪拌しながら、VEEM(4.0g、20mmol)をゆっくり滴下した。室温で5時間攪拌した後、反応溶液を酢酸エチルで希釈し、シリカゲルショートカラムに通すことで触媒を除去した。得られた溶液を濃縮し、VEEM重合体を含む重合体組成物を得た。
得られた重合体組成物を1H-NMRで確認したところ、ビニルエーテル由来のピークを確認し、積分値からビニルエーテル基がすべて残存していることが分かった。一方、モノマーであるVEEMのピークは確認されなかった。得られた重合体の重量平均分子量は25700、数平均分子量は18000であり、分子量分布(Mw/Mn)は、1.42であった。
【0155】
(実施例14)
50mLのシュレンクフラスコに、脱水テトラヒドロフラン(8mL)、メチル(トリメチルシリル)ジメチルケテンアセタール(40μL、0.20mmol)、テトラブチルアンモニウムフルオリド(0.1Mテトラヒドロフラン溶液、20μL、2.0μmol;テトラブチルアンモニウムフルオリド三水和物(東京化成工業社製)をテトラヒドロフランに溶解させたもの)を入れ、窒素気流下、室温で攪拌しながら、VEEM(4.0g、20mmol)をゆっくり滴下した。室温で5時間攪拌した後、反応溶液を酢酸エチルで希釈し、シリカゲルショートカラムに通すことで触媒を除去した。得られた溶液を濃縮し、VEEM重合体を含む重合体組成物を得た。
得られた重合体組成物を1H-NMRで確認したところ、ビニルエーテル由来のピークを確認し、積分値からビニルエーテル基がすべて残存していることが分かった。一方、モノマーであるVEEMのピークは確認されなかった。得られた重合体の重量平均分子量は59800、数平均分子量は21400であり、分子量分布(Mw/Mn)は、2.80であった。
【0156】
(実施例15)
50mLのシュレンクフラスコに、トルエン(8mL)、メチル(トリメチルシリル)ジメチルケテンアセタール(40μL、0.20mmol)、ホスファゼン塩基P4-t-Bu(0.8Mトルエン溶液、25μL、0.02mmol)を入れ、窒素気流下、室温で攪拌しながら、モノマー混合液(VEEM(3.6g、18mmol)、N,N-ジメチルアクリルアミド(0.11g、2.0mmol))をゆっくり滴下した。室温で3時間攪拌した後、酢酸エチルで希釈しシリカゲルショートカラムに通すことで触媒を除去した。得られた溶液を濃縮し、VEEM-(N,N-ジメチルアクリルアミド)共重合体を含む重合体組成物を得た。
得られた重合体組成物を1H-NMRで確認したところ、ビニルエーテル由来のピークを確認し、積分値からビニルエーテル基がすべて残存していることが分かった。一方、モノマーであるVEEMのピークは確認されなかった。得られた重合体の重量平均分子量は35500、数平均分子量は19800であり、分子量分布(Mw/Mn)は、1.79であった。
【0157】
(実施例16)
50mLのシュレンクフラスコに、脱水テトラヒドロフラン(8mL)、メチル(トリメチルシリル)ジメチルケテンアセタール(40μL、0.20mmol)、2,8,9-トリイソプロピルー2,5,8,9-テトラアザ-1-ホスファビシクロ[3,3,3]ウンデカン(Sigma-Aldrich社製、1.0Mトルエン溶液、20μL、2.0μmol)を入れ、窒素気流下、室温で攪拌しながら、VEEM(4.0g、20mmol)をゆっくり滴下した。室温で5時間攪拌した後、酢酸エチルで希釈しシリカゲルショートカラムに通すことで触媒を除去した。得られた溶液を濃縮し、重合体組成物を得た。
得られた重合体組成物を1H-NMRで確認したところ、ビニルエーテル由来のピークを確認し、積分値からビニルエーテル基がすべて残存していることが分かった。一方、モノマーであるVEEMのピークは確認されなかった。得られた重合体の重量平均分子量は50400、数平均分子量は35500であり、分子量分布(Mw/Mn)は、1.42であった。
【0158】
(比較例1)
50mLのシュレンクフラスコに、1,1-ジフェニルエチレン(102mg,0.56mmol)、THF(19mL)を入れ、-78℃に冷却した。この際の溶媒中の水分量は16ppmであった。これに、sec-BuLi(sec-ブチルリチウム、1.04M、300μl、0.3mmol)をゆっくり滴下した。15分同温度で攪拌後、VEEM(1.88g、9.39mmol、水分量12.5ppm)をゆっくり加えた。これを、-78℃を維持しながら12時間攪拌した。少量のメタノールを加えて反応を停止させ、反応溶液を濃縮し、VEEM重合体を含む重合体組成物を得た。
得られた重合体組成物を
1H-NMRで確認したところ、6.5ppm付近にビニルエーテル由来のピークを確認し、積分値からビニルエーテル基がすべて残存していることが分かった(
図6)。このことから、VEEMのメタクリロイル基のみが重合した重合体が得られたことが確認された。一方、モノマーであるVEEMのピークは確認されなかった。
また、得られた重合体の重量平均分子量は6978、数平均分子量は5584であり、分子量分布(Mw/Mn)は、1.25であった。
【0159】
(比較例2)
50mLのシュレンクフラスコに、1,1-ジフェニルエチレン(102mg、0.56mmol)、THF(19mL)を入れ、-78℃に冷却した。この際の溶媒中の水分量は16ppmであった。これに、sec-BuLi(1.04M、300μl、0.3mmol)をゆっくり滴下した。15分同温度で攪拌後、反応溶液を室温まで昇温させた。VEEM(1.88g、9.39mmol、水分量12.5ppm)をゆっくり加えた後、12時間攪拌し、少量のメタノールを加えて反応を停止させ、反応溶液を濃縮し、VEEM重合体を含む重合体組成物を得た。
得られた重合体組成物を
1H-NMRで確認したところ、6.5ppm付近に重合体のビニルエーテル由来のピークを確認したが、モノマーのピークも同時に確認した(
図7)。このことから、アニオン重合を室温で行うとVEEMのメタクリロイル基のみが重合した重合体が得られるが、完全に重合が進行しないことがわかった。
【0160】
(比較例3)
撹拌装置と還流管、温度センサー、窒素吹込み口を装備したフラスコにVEEA(8質量部)、MMA(24質量部)、溶媒としてメチルエチルケトン(128質量部)、連鎖移動剤としてn-ドデシルメルカプタン(0.16質量部)、重合開始剤としてV-65(富士フイルム和光純薬社製)(0.04質量部)を仕込み、容器内部を窒素で置換した後、80℃に昇温し、窒素雰囲気下、撹拌しながら、MMA(8質量部)とn-ドデシルメルカプタン(0.04質量部)の混合溶液とV-65の6質量%メチルエチルケトン溶液(31質量部)をそれぞれ5時間かけて滴下した。その後同温で1時間撹拌し、重合体溶液を得た。この重合体溶液をヘキサンを用いて再沈殿することにより、VEEA-MMA共重合体を含む重合体組成物を得た。得られた重合体の重量平均分子量は204830、数平均分子量は16237であり、分子量分布(Mw/Mn)は12.6であった。
【0161】
実施例7、11及び14の重合体組成物の不溶分率(質量%)について、下記の方法で測定した。
すなわち、得られた重合体組成物約2~3gに、固形分が約33質量%となるよう酢酸エチルを添加し、室温で充分に攪拌した後、得られた溶液を孔径が4μmのフィルターに通した。フィルター上の残渣を更に約7~10gの酢酸エチルを用いて洗浄した後、残渣を室温で5分間乾燥させ、乾燥後の残渣の質量(b)を測定した。重合体組成物の質量を(a)とし、下記式より、不溶分率を算出した。結果を表1に示す。
不溶分率(質量%)=(b)/(a)×100
【0162】
【0163】
表1より、実施例の重合体組成物は不溶分が非常に少ないことが確認された。
【0164】
また、実施例1~16及び比較例3の重合体組成物について、上記分子量測定で得られた微分分子量分布曲線において、
図1に示すように、最大値の点をTとし、上記微分分子量分布曲線上Tの5%高さの点を低分子量側からL
0及びL
1とした場合の、T-L
0-L
1で囲まれた三角形の面積(A)と、上記微分分子量分布曲線とL
0-L
1を結ぶ線で囲まれた部分の面積(B)との比(A/B)を求めた。結果を表2に示す。
【0165】
【0166】
表2より、実施例の重合体組成物は、A/Bが1.02~1.59であり、ゲル化は生じていなかった。一方、比較例の重合体組成物は、A/Bが0.77であり、ゲル化が生じていた。これらより、A/Bの値が0.8~2.0であると、重合体組成物のゲル化が生じていないことが考えられる。
【符号の説明】
【0167】
1 微分分子量分布曲線