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特許71294841,3-プロパンジオール生成能を有する変異微生物及びこれを用いた1,3-PDOの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】1,3-プロパンジオール生成能を有する変異微生物及びこれを用いた1,3-PDOの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20220825BHJP
   C12P 7/18 20060101ALI20220825BHJP
   C12N 15/53 20060101ALN20220825BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20220825BHJP
   C12N 15/60 20060101ALN20220825BHJP
   C12N 15/52 20060101ALN20220825BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20220825BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12P7/18
C12N15/53
C12N15/54
C12N15/60
C12N15/52 Z
C12N15/31
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020540381
(86)(22)【出願日】2019-01-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-13
(86)【国際出願番号】 KR2019000571
(87)【国際公開番号】W WO2019143089
(87)【国際公開日】2019-07-25
【審査請求日】2020-09-04
(31)【優先権主張番号】10-2018-0005451
(32)【優先日】2018-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】514291196
【氏名又は名称】コリア アドバンスト インスティチュート オブ サイエンス アンド テクノロジー
(73)【特許権者】
【識別番号】520263899
【氏名又は名称】ハンファ ソルーションズ コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】HANWHA SOLUTIONS CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】イ サンヨプ
(72)【発明者】
【氏名】チョ ジェソン
(72)【発明者】
【氏名】キム ジェウン
(72)【発明者】
【氏名】コ ユソン
(72)【発明者】
【氏名】プラボウォ シンディ プリシリア スーリヤ
(72)【発明者】
【氏名】ハン テヒ
(72)【発明者】
【氏名】キム ウィトク
(72)【発明者】
【氏名】チェ ジェウォン
(72)【発明者】
【氏名】チョ チャンヒ
(72)【発明者】
【氏名】イ チュンキュ
【審査官】幸田 俊希
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0301935(US,A1)
【文献】国際公開第2016/200239(WO,A1)
【文献】APPLIED AND ENVIRONMENTAL MICROBIOLOGY, 2008, Vol.74, pp.6216-6222
【文献】SCIENTIFIC REPORTS, 2017, Vol.7, No.42246
【文献】Current Opinion in Biotechnology, 2003, Vol.14, pp.454-459
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00
C12P 7/00
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセロールを単一炭素源として活用不可能なコリネバクテリウムグルタミクムに、グリセロールキナーゼをコードする遺伝子であるglpK、グリセロールデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子であるglpD、グリセロールファシリテーター(glycerol facilitator)をコードする遺伝子であるglpF、グリセロールデヒドラターゼをコードする遺伝子とグリセロールリアクティバーゼ(glycerol reactivase)をコードする遺伝子であるdhaB/gdrAB及び大腸菌由来の1,3-プロパンジオールオキシドリダクターゼをコードする遺伝子であるyqhDが導入され、グリセロールを含む炭素源から1,3-プロパンジオール生成能を有する変異微生物。
【請求項2】
前記遺伝子は、tac、trc、H36及びtufからなる群から選ばれる強力なプロモーターによって過発現することを特徴とする、請求項1に記載の変異微生物。
【請求項3】
次の段階を含む、グリセロールから1,3-プロパンジオールを製造する方法:(a)請求項1又は2に記載の変異微生物をグリセロール含有培地で培養して1,3-プロパンジオールを生成させる段階;及び(b)前記生成された1,3-プロパンジオールを得る段階。
【請求項4】
前記培地にブドウ糖を補助炭素源として添加することを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記培地に添加されるブドウ糖:グリセロールが重量比で1:2~9であることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリセロールから1,3-プロパンジオール(1,3-PDO)生成能を有する変異微生物及びこれを用いた1,3-PDOの製造方法に関し、より詳細には、グリセロールを単一炭素源として活用不可能な微生物にグリセロール分解代謝回路及び1,3-PDO生合成回路を導入した変異微生物及びこれを用いた1,3-PDOの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,3-プロパンジオール(1,3-propanediol;1,3-PDO)は、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリトリメチレンテレフタレート(polytrimethylene terephthalate;PTT)のような高分子合成の単量体として用いられる化学物質である。1,3-PDOに対する既存の生産方法は主に化学的な合成方法であり、アクロレイン(acrolein)の水和、エチレンオキシドをホスフィン(phosohine)の存在下でヒドロホルミル化(hydroformylation)する方法、或いはグリセロールを酵素的に転換する方法などが用いられている。このような化学的な生産方法は高費用である他に環境有害生産工程が含まれているため、限界がある(Lee et al.,Renewable and Sustainable Energy Reviews,42(Supplement C):963-972;米国登録特許第8,236,994B2)。
【0003】
生物学的な方法は微生物を用いて1,3-PDOを生産する方法であって、主にクレブシエラ(Klebsiella)、クロストリジウム(Clostridia)、エンテロバクター(Enterobacter)、シトロバクター(Citrobacter)、ラクトバチルス(Lactobacilli)などの微生物を用いて行う。これらはいずれも、グリセロールを連続した2つの代謝回路を経て1,3-PDOに直接転換し、グリセロールデヒドラターゼ(glycerol dehydratase)でグリセロールを3-ヒドロキシプロピオンアルデヒド(3-hydroxyproprionaldehyde,3-HPA)に転換した後、1,3-PDOオキシドレダクターゼで3-HPAを1,3-PDOに還元させる代謝回路である(図1)。デュポン社は既に、前記代謝回路を大腸菌に導入して1,3-PDOの商業化に成功した。しかし、1,3-PDOを生合成する大腸菌を含む前記大部分の微生物は、ギ酸塩(formate)、酢酸塩(acetate)、乳酸塩(lactate)、エタノール、2,3-ブタンジオールなどの種々の副産物が共に生産されるという短所がある。
【0004】
コリネバクテリウムグルタミクムは、グラム陽性の通性嫌気性菌であり、アミノ酸生産発酵工程に広く用いられており、また、コリネバクテリウムグルタミクムを用いて種々の化学物質、燃料などを生産するために、ブドウ糖、キシロースなどの種々の炭素源を摂取できるように代謝工学的に多く研究されてきたが、1,3-PDOを生産する研究は殆どなく、コリネバクテリウムグルタミクムにおいてブドウ糖及びグリセロールを炭素源として用い、ブドウ糖で細胞成長を図り、グリセロールで1,3-PDOを生産してグルタミン酸を同時生産する研究が報告されている(Huang et al.,Scientific Reports,7:42246,2017)。
【0005】
そこで、本発明者らはグリセロールを単一炭素源とし、より効率的に1,3-PDOを生産しようと努力した結果、グリセロールを単一炭素源として活用できない微生物にグリセロール分解代謝回路を構築するために、グリセロールファシリテーター(glycerol facilitator)をコードする遺伝子、グリセロールキナーゼをコードする遺伝子、及びグリセロールデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を導入し、1,3-PDO生合成のために、グリセロールリアクティバーゼ(glycerol reactivase)をコードする遺伝子及び1,3-プロパンジオールオキシドリダクターゼをコードする遺伝子をさらに導入した変異微生物をグリセロール単一炭素源で培養する場合、1,3-PDOを生産することを確認し、本発明を完成するに至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、グリセロール分解代謝回路が導入され、グリセロールを単一炭素源にして成長できる変異微生物を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、前記変異微生物への1,3-POD生合成経路の導入により、グリセロールを単一炭素源として活用して1,3-PDOを生成できる変異微生物を提供することにある。
【0008】
本発明のさらに他の目的は、グリセロールだけを単一炭素源として活用する変異微生物を用いた1,3-PDOの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、グリセロールを単一炭素源として活用不可能な微生物に、グリセロールファシリテーター(glycerol facilitator)をコードする遺伝子、グリセロールキナーゼをコードする遺伝子、及びグリセロールデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子が導入されており、グリセロールを単一炭素源にして成長可能である変異微生物を提供する。
【0010】
本発明はまた、グリセロールを単一炭素源として活用不可能な微生物に、グリセロールファシリテーター(glycerol facilitator)をコードする遺伝子、グリセロールキナーゼをコードする遺伝子、グリセロールデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子、グリセロールデヒドラターゼをコードする遺伝子、グリセロールリアクティバーゼ(glycerol reactivase)をコードする遺伝子、及び1,3-プロパンジオールオキシドリダクターゼをコードする遺伝子が導入されており、グリセロールから1,3-プロパンジオール生成能を有する変異微生物を提供する。
【0011】
本発明はまた、(a)グリセロールから1,3-プロパンジオール生成能を有する変異微生物をグリセロール含有培地で培養して1,3-プロパンジオールを生成させる段階;及び(b)前記生成された1,3-プロパンジオールを得る段階を含む、グリセロールから1,3-プロパンジオールを製造する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】コリネバクテリウムグルタミクム内の1,3-PDO生合成代謝回路及びグリセロール分解代謝回路を含む全体的な代謝回路模式図である。
【0013】
図2】グリセロール分解代謝回路をコードするglpF、glpK及びglpD遺伝子が挿入されたpCSglpFKD組換えベクターを示す図である。
【0014】
図3】野生型コリネバクテリウムグルタミクムATCC13032菌株にpCSglpFKDベクターを導入し、初期グリセロール濃度18g/L、20g/L及び40g/Lに対してフラスコ培養時に観測された細胞成長結果を示す図である。
【0015】
図4】pCSglpFKDが導入された野生型コリネバクテリウムグルタミクムATCC13032菌株を用いて初期グリセロール濃度20g/Lから40g/LまでのALE方法に対する模式図である。
【0016】
図5】ALE方法により、pCSglpFKDが導入された野生型コリネバクテリウムグルタミクムATCC13032菌株の細胞成長速度がフラスコ培養時に初期グリセロール濃度40g/Lに対して大きく増加することを示す図である。
【0017】
図6】3-HPA生合成代謝回路の構築のためにグリセロールデヒドラターゼ及びグリセロールリアクティバーゼをコードするdhaB1234/gdrAB遺伝子クラスターを挿入して製造したpEK-dg組換えベクターを示す図である。
【0018】
図7】3-HPA生合成代謝回路の構築のためにグリセロールデヒドラターゼをコードするpduCDEGH遺伝子クラスターを挿入して製造したpEK-pdu組換えベクターを示す図である。
【0019】
図8】1,3-PDO生合成代謝回路の構築のために大腸菌1,3-PDOオキシドレダクターゼ(oxidoreductase)をコードするyqhD遺伝子をpEK-dgベクターに挿入して製造したpEK-dgyE組換えベクターを示す図である。
【0020】
図9】1,3-PDO生合成代謝回路の構築のためにクレブシエラニュモニエDSMZ2026 1,3-PDOオキシドレダクターゼをコードするyqhD遺伝子をpEK-dgベクターに挿入して製造したpEK-dgyE組換えベクターを示す図である。
【0021】
図10】1,3-PDO生合成代謝回路の構築のためにクレブシエラニュモニエDSMZ2026 1,3-PDOオキシドレダクターゼをコードするdhaT遺伝子をpEK-dgベクターに挿入して製造したpEK-dgyE組換えベクターを示す図である。
【0022】
図11】1,3-PDO生合成代謝回路の構築のために大腸菌1,3-PDOオキシドレダクターゼをコードするyqhD遺伝子をpEK-pduベクターに挿入して製造したpEK-pduyE組換えベクターを示す図である。
【0023】
図12】1,3-PDO生合成代謝回路の構築のためにクレブシエラニュモニエDSMZ2026 1,3-PDOオキシドレダクターゼをコードするyqhD遺伝子をpEK-pduベクターに挿入して製造したpEK-pduyE組換えベクターを示す図である。
【0024】
図13】1,3-PDO生合成代謝回路の構築のためにクレブシエラニュモニエDSMZ2026 1,3-PDOオキシドレダクターゼをコードするdhaT遺伝子をpEK-pduベクターに挿入して製造したpEK-pduyE組換えベクターを示す図である。
【0025】
図14】1,3-PDO生合成代謝回路の構築のために作製した6種の組換えベクター(pEK-dgyE、pEK-dgyK、pEK-dgdK、pEK-pduyE、pEK-pduyK、pEK-pdudK)が導入されたコリネバクテリウムグルタミクム変異微生物に対してフラスコ培養時に観測された1,3-PDO生産結果を示す図である。
【0026】
図15】フラスコ培養時にエアレーション条件によってMBEL-HCC-C-13PDO1菌株の1,3-PDO生産結果を示す図である。
【0027】
図16】グリセロールを単一炭素源として活用する時、MBEL-HCC-C-13PDO1菌株の流加式発酵培養結果を示す図である。
【0028】
図17】ブドウ糖とグリセロールの重量比率によるMBEL-HCC-C-13PDO1菌株のフラスコ培養時に観測された1,3-PDO生産結果を示す図である。
【0029】
図18】ブドウ糖とグリセロールの重量比を1:3にして用いる時、MBEL-HCC-C-13PDO1菌株の流加式発酵培養結果を示す図である。
【0030】
図19】ブドウ糖とグリセロールの重量比を1:2にして活用する時、MBEL-HCC-C-13PDO1菌株の流加式発酵培養結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
特に定義されない限り、本明細書で使われた全ての技術的及び科学的用語は、本発明の属する技術の分野における熟練した専門家によって通常理解されるのと同じ意味を有する。一般に、本明細書における命名法は、本技術分野でよく知られており、通常用いられるものである。
【0032】
本発明では、グリセロールを単一炭素源として活用してグリセロール分解代謝回路の構築によって細胞成長が可能であると同時に、1,3-PDO生合成代謝回路の構築によって1,3-PDO生産も図る変異微生物を作製した。本発明では、自然的にグリセロールを単一資源として活用できない微生物に対して、グリセロール分解代謝回路を担当するグリセロールファシリテーター(glycerol facilitator)をコードする遺伝子、グリセロールキナーゼをコードする遺伝子、及びグリセロールデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を導入した変異微生物を作製し、該変異微生物がグリセロールを単一炭素源として含む培地で成長することを確認した。
【0033】
したがって、本発明は、一観点において、グリセロールを単一炭素源として活用できない微生物に、グリセロールファシリテーター(glycerol facilitator)をコードする遺伝子、グリセロールキナーゼをコードする遺伝子、及びグリセロールデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子が導入されており、グリセロールを単一炭素源にして成長することができる変異微生物に関する。
【0034】
本発明において、前記グリセロールファシリテーター(glycerol facilitator)をコードする遺伝子、前記グリセロールキナーゼをコードする遺伝子及び前記グリセロールデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子はそれぞれ、大腸菌W3110由来glpF、glpK及びglpDであることを特徴とし得る。
【0035】
本発明において、前記グリセロールを単一炭素源として活用できない微生物は、コリネバクテリウム属、ラクトバシルスパニス(Lactobacillus panis)、クロストリジウムアセトブチリクム(Clostridium acetobutylicum)、クロストリジウムベエイジェリンキー(Clostridium beijerinckii)、マイコバクテリウムチューバキュロウセス(Mycobacterium tuberculosis)、ロドバクターカプスラティス(Rhodobacter capsulatis)などの微生物を用いることができるが、これに限定されない。
【0036】
本発明において、前記遺伝子は、tac、trc、H36、tufなどの強いプロモーターによって過発現することを特徴とし得る。
【0037】
本発明の一様態では、自然的にグリセロール拡散は可能である微生物であるが、単一炭素源として活用時に細胞成長が可能でない微生物であるコリネバクテリウムグルタミクムにグリセロール分解のために、グリセロールキナーゼ、グリセロールデヒドロゲナーゼを導入し、グリセロールファシリテーター(glycerol facilitator)はグリセロール取り込み率(uptake rate)を増加させるために導入した。前記“導入”とは、コリネバクテリウムグルタミクムゲノムに挿入したり、或いは当該酵素を発現するベクターを導入して形質転換することを意味する。
【0038】
本発明の一態様では、グリセロール分解代謝回路が導入された微生物或いはグリセロールを活用時に細胞成長が非常に阻害されるか遅い微生物に対して取り込み率を増加させるためにALE(adaptive laboratory evolution)を施した。ALEは、細胞を新しい培地に持続的で連続的に移して培養することを意味し、細胞を移す時点は、前培養培地で細胞成長が観測された時に次の培養培地に前培養液を接種する。終わる時点は、所望のグリセロール濃度の下に単一炭素源で培養するとき、向上した細胞成長を示す時である。
【0039】
本発明は、(a)グリセロールを単一炭素源にして成長できる変異微生物を、グリセロールを単一炭素源として含有する培地で培養する段階;(b)(a)段階で成長した変異微生物を含有する培養液の一部を、グリセロールを単一炭素源として含有する新しい培地に接種する段階;及び(c)(a)及び(b)を数回反復して誘導期(lag phase)が減少した変異微生物を得る段階を含む、グリセロールを唯一炭素源とする培地で変異微生物の誘導期を短縮させる方法を提供する。
【0040】
本発明の一態様では、自然的にグリセロールを単一資源として活用できない微生物であるコリネバクテリウムグルタミクムで1,3-PDO生産能を有する微生物において、グリセロールを用いて細胞成長が可能なように、グリセロール分解代謝経路を担当する遺伝子であるグリセロールファシリテーター(glycerol facilitator)をコードする遺伝子、グリセロールキナーゼをコードする遺伝子、及びグリセロールデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を導入し、また、1,3-PDOの生合成を担当する酵素をコードする遺伝子であるグリセロールデヒドラターゼをコードする遺伝子、グリセロールリアクティバーゼ(glycerol reactivase)をコードする遺伝子及び1,3-プロパンジオールオキシドリダクターゼをコードする遺伝子を導入して内在的活性に比べて強化されるように変形させて1,3-PDO生産性の向上した変異微生物を作製し、該作製された変異微生物がグリセロールを単一炭素源とする条件で細胞成長と同時に1,3-PDOを生産することを確認した。
【0041】
したがって、本発明は他の観点において、グリセロールファシリテーター(glycerol facilitator)をコードする遺伝子、グリセロールキナーゼをコードする遺伝子、グリセロールデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子、グリセロールデヒドラターゼをコードする遺伝子、グリセロールリアクティバーゼ(glycerol reactivase)をコードする遺伝子及び1,3-プロパンジオールオキシドリダクターゼをコードする遺伝子が導入されており、グリセロールから1,3-プロパンジオール生成能を有する変異微生物に関する。
【0042】
本発明において、前記グリセロールファシリテーター(glycerol facilitator)をコードする遺伝子、グリセロールキナーゼをコードする遺伝子、及びグリセロールデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子はそれぞれglpF、glpK及びglpDであることを特徴とし得る。
【0043】
本発明において、前記グリセロールデヒドラターゼをコードする遺伝子、グリセロールリアクティバーゼ(glycerol reactivase)をコードする遺伝子及び1,3-プロパンジオールオキシドリダクターゼをコードする遺伝子はそれぞれ、pduCDEG及びyqhDであることを特徴とし得る。
【0044】
本発明において、前記グリセロールを単一炭素源として活用できない微生物は、コリネバクテリウム属、ラクトバシルスパニス(Lactobacillus panis)、クロストリジウムアセトブチリクム(Clostridium acetobutylicum)、クロストリジウムベエイジェリンキー(Clostridium beijerinckii)、マイコバクテリウムチューバキュロウセス(Mycobacterium tuberculosis)、ロドバクターカプスラティス(Rhodobacter capsulatis)などの微生物を用いることができるが、これに限定されない。
【0045】
本発明において、前記遺伝子は、tac、trc、H36及びtufから構成された群から選ばれる強いプロモーターによって過発現することを特徴とし得る。
【0046】
本発明の一態様において、1,3-PDO生産能を付与又は強化するために導入されるグリセロールデヒドラターゼをコードする遺伝子、グリセロールリアクティバーゼ(glycerol reactivase)をコードする遺伝子及び1,3-プロパンジオールオキシドリダクターゼをコードする遺伝子は、クレブシエラニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)DSMZ2026由来のものを使用し、このとき、グリセロールデヒドラターゼをコードする遺伝子及びグリセロールリアクティバーゼをコードする遺伝子は、遺伝子クラスター単位であるdhaB1234gdrAB又はpduCDEGHであり、1,3-PDOオキシドリダクターゼをコードする遺伝子はyqhD又はdhaT、或いは大腸菌由来の1,3-PDOオキシドリダクターゼをコードする遺伝子はyqhDを使用することができる。
【0047】
本発明の他の態様では、まず、グリセロール分解代謝回路回路を、グリセロールファシリテーター、グリセロールキナーゼ、グリセロールデヒドロゲナーゼを導入して構築し、ALEにより、約40g/Lの初期グリセロール濃度で単一炭素源として用いられる時に細胞成長が大きく増加することが確認できた。
【0048】
前記結果から、グリセロールを単一炭素源として用いる時、細胞成長に優れた菌株を選別した後、グリセロールデヒドラターゼ、グリセロールリアクティバーゼ、1,3-PDOオキシドレダクターゼを導入して1,3-PDO生合成代謝回路を構築し、約6種のPDO生合成代謝回路が構築又は強化された変異微生物に対してグリセロールデヒドラターゼ及びグリセロールリアクティバーゼをコードするクレブシエラニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)DSMZ2026由来pduCDEGH遺伝子、1,3-PDOオキシドレダクターゼをコードする大腸菌由来yqhD遺伝子が最高レベルの1,3-PDOを生産することを確認した。
【0049】
前記結果から知られたグリセロールデヒドラターゼ、グリセロールリアクティバーゼ、1,3-PDOオキシドレダクターゼの過発現による1,3-PDO生合成代謝回路が強化され、生産が可能であることが確認できた。
【0050】
したがって、本発明は更に他の観点において、(a)前記グリセロールから1,3-プロパンジオール生成能を有する変異微生物をグリセロール含有培地で培養して1,3-プロパンジオールを生成させる段階;及び(b)前記生成された1,3-プロパンジオールを得る段階を含む、グリセロールから1,3-プロパンジオールを製造する方法に関する。
【0051】
本発明において、前記培地にブドウ糖を添加することを特徴とし、培地に添加されるブドウ糖:グリセロールは重量比で1:2~9であることを特徴とし得る。
【0052】
本発明の他の態様では、前記変異菌株培養時のエアレーション条件を最適化することによって、一定の微好気性(micro-aerobic)条件の下に1,3-PDO生産能が最も高いことが確認できた。前記作製したグリセロールを単一炭素源として活用するとき、細胞成長に優れるとともに1,3-PDO生産能が付与又は強化された変異微生物を、MBEL-HCC-C-13PDO1と命名した。
【0053】
本発明のさらに他の態様では、MBEL-HCC-C-13PDO1菌株を用いた流加式発酵培養を進行したが、最適化されたエアレーション条件に合わせるので特にこれに制限されないが、0.25vvm、600rpm下にpH7、温度30℃で培養した。当該条件下に約47.3g/Lの1,3-PDOがグリセロールを単一資源として用いる時に生産されることを確認した。前記結果から、約44.0g/Lの3-HPが副産物として観測されたが、これはコリネバクテリウムグルタミクム内に自然的に存在する任意のアルデヒドデヒドロゲナーゼ(aldehyde dehydrogenase)酵素が1,3-PDO生産に必要な還元力を提供するべく内在的活性が生成又は強化されたものと判断した。したがって、一定比率のブドウ糖の添加によるペントースリン酸経路(pentose phosphate pathway)活性化とこれによる還元力の供給によって3-HP生産代謝回路の内在的活性を減らす目的でブドウ糖及びグリセロールを一定比率下に炭素源として用いて培養し、その結果、一定比率に対して3-HP生産量は減少し、1,3-PDO生産量が増加することを確認した。これは、1,3-PDO生産能が与えられた微生物のうち、3-HP生産能を示す微生物に限って3-HP生産代謝回路に関与するアルデヒドデヒドロゲナーゼを欠失又は弱化させる時に1,3-PDO生産能が向上することを示す。
【0054】
このような結果から、ブドウ糖の添加による還元力供給が強化されてアルデヒドデヒドロゲナーゼの活性が弱化したと判断し、観測された比率下に流加式発酵培養を進行した結果、MBEL-HCC-C-13PDO1菌株において60.3g/Lの1,3-PDOが生産されることを確認した。このとき、ブドウ糖比率をより上げて還元力供給をより強化し、アルデヒドデヒドロゲナーゼの活性をより弱化させた結果、最終的に77.3g/Lの1,3-PDOが生産されることを確認した。
【0055】
本発明で使われる用語“内在的活性”とは、本来、微生物が変形されていない状態で持っている酵素の活性状態を意味し、“内在的活性に比べて強化されるように変形”されるという意味は、変形前の状態の酵素活性と比較して当該活性が新規に導入されたり或いはより向上したことを意味する。
【0056】
本発明において“酵素活性の強化”とは、酵素自体の活性が新しく導入されたり増大して本来機能以上の効果を導出することを含むだけでなく、内在的遺伝子活性の増加、内部又は外部要因から内在的遺伝子の増幅、前記遺伝子発現の抑制調節因子の欠失、遺伝子コピー数の増加、外部からの遺伝子導入、発現調節配列の変形、特にプロモーターの交替又は変形及び遺伝子内突然変異による酵素活性の増加などによってその活性が増加することを含む。
【0057】
本発明において“内在的活性に比べて強化されるように変形”されたということは、活性を示す遺伝子が導入されたり又は当該遺伝子のコピー数の増加、前記遺伝子発現の抑制調節因子の欠失又は発現調節配列の変形、例えば改良されたプロモーターの使用などのような操作がなされる前の微生物が有する活性に比べて、操作がなされた後の微生物が持っている活性が増加した状態を意味する。
【0058】
本発明において“欠失”とは、該当の遺伝子の一部又は全部の塩基を変異、置換又は削除させる方法を用いて当該遺伝子が発現しないようにするか或いは発現しても酵素活性を示さないようにすることを包括する概念であり、当該遺伝子の酵素が関与する生合成経路を遮断する全てを含む。
【0059】
本発明において“過発現”とは、普通の状態で細胞内該当の遺伝子が発現するレベルよりも高いレベルの発現のことを指し、遺伝体上に存在する遺伝子のプロモーターを強力なプロモーターに置換したり、或いは発現ベクターに該当の遺伝子をクローニングして細胞に形質転換させる方法を用いて発現量を増加させることなどを含む概念である。
【0060】
本発明において、“ベクター(vector)”は、適当な宿主内でDNAを発現させ得る適当な調節配列に作動可能に連結されたDNA配列を含有するDNA製造物を意味する。ベクターは、プラスミド、ファージ粒子、又は簡単に潜在的ゲノム挿入物であり得る。適当な宿主に形質転換されると、ベクターは宿主ゲノムに関係なく複製し機能可能であるか、或いは一部の場合にはゲノム自体に統合され得る。現在、プラスミドがベクターの最も一般に用いられる形態であるので、本発明の明細書において“プラスミド(plasmid)”及び“ベクター(vector)”は、しばしば同じ意味で使われる。本発明の目的上、プラスミドベクターを用いる方が好ましい。このような目的に使用可能な典型的なプラスミドベクターは、(a)宿主細胞当たりに数百個のプラスミドベクターを含むように複製が効率よくなされるようにする複製開始点、(b)プラスミドベクターで形質転換された宿主細胞が選抜され得るようにする抗生剤耐性遺伝子、及び(c)外来DNA切片が挿入され得る制限酵素切断部位を含む構造を有している。適切な制限酵素切断部位が存在しなくても、通常の方法による合成オリゴヌクレオチドアダプター(oligonucleotide adaptor)又はリンカー(linker)を使用すれば、ベクターと外来DNAを容易にライゲーション(ligation)することができる。
【0061】
ライゲーション後に、ベクターは適切な宿主細胞に形質転換される必要がある。本発明において、選好される宿主細胞は原核細胞である。適切な原核宿主細胞は、E.coli DH5α、E.coli JM101、E.coli K12、E.coli W3110、E.coli X1776、E.coli XL-1Blue(Stratagene)、E.coli B、E.coli B21などを含む。しかし、FMB101、NM522、NM538及びNM539のようなE.coli菌株及び他の原核生物の種(speices)及び属(genera)なども利用可能である。前述したE.coliに加えて、アグロバクテリウムA4のようなアグロバクテリウム属菌株、バチルスサブティリス(Bacillus subtilis)のようなバシリ( bacilli)、サルモネラティフィムリウム(Salmonella typhimurium)又はセラチアマルセッセンス(Serratia marcescens)のような他の腸内細菌及び様々なシュードモナス(Pseudomonas)属の菌株が宿主細胞として用いられてもよい。
【0062】
原核細胞の形質転換は、Sambrook et al.,supraの1.82セクションに記述されたカルシウムクロリド方法によって容易に達成可能である。選択的に、電気穿孔法(electroporation)(Neumann et al.,EMBO J.,1:841,1982)もこのような細胞の形質転換に用いられ得る。
【0063】
本発明に係る遺伝子の過発現のために用いられるベクターは、当業界に公知の発現ベクターであり得、pET系列ベクター(Novagen)を用いることが好ましい。前記pET系列ベクターを用いてクローニングを行えば、発現するタンパク質の末端にヒスチジン基が結合して出るので、前記タンパク質を効果的に精製することができる。クローニングされた遺伝子から発現しているタンパク質を分離するためには当業界に公知の一般的な方法を用いることができ、具体的に、Ni-NTA His-結合レジン(Novagen)を使用するクロマトグラフィー方法を用いて分離することができる。本発明において、前記組換えベクターはpET-SLTI66であることを特徴とし、前記宿主細胞は大腸菌又はアグロバクテリウムであることを特徴とし得る。
【0064】
本発明において“発現調節配列(expression control sequence)”という表現は、特定の宿主生物において作動可能に連結されたコーディング配列の発現に必須なDNA配列を意味する。このような調節配列は、転写を実施するためのプロモーター、かかる転写を調節するための任意のオペレーター配列、適切なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、及び転写及び解読の終結を調節する配列を含む。例えば、原核生物に適切な調節配列はプロモーター、任意にオペレーター配列及びリボソーム結合部位を含む。真核細胞は、プロモーター、ポリアデニル化シグナル及びエンハンサーを含む。プラスミドにおいて遺伝子の発現量に最も影響を及ぼす因子はプロモーターである。高発現用のプロモーターとしてSRαプロモーターとサイトメガロウイルス(cytomegalovirus)由来プロモーターなどが好適に用いられる。本発明のDNA配列を発現させるために、非常に様々な発現調節配列のうち、いずれをもベクターに使用可能である。有用な発現調節配列には、例えば、SV40又はアデノウイルスの初期及び後期プロモーター、lacシステム、trpシステム、TAC又はTRCシステム、T3及びT7プロモーター、ファージラムダの主要オペレーター及びプロモーター領域、fdコードタンパク質の調節領域、3-ホスホグリセレートキナーゼ又は他のグリコール分解酵素に対するプロモーター、前記フォスファターゼのプロモーター、例えば、Pho5、酵母アルファ-交配システムのプロモーター及び原核細胞又は真核細胞又はウイルスの遺伝子発現を調節するものと知られたその他の配列及びそれらの様々な組合せが含まれる。T7プロモーターは大腸菌において本発明のタンパク質を発現させるのに有用である。
【0065】
核酸は他の核酸配列と機能的関係で配置される時に“作動可能に連結(operably linked)”される。これは、適切な分子(例えば、転写活性化タンパク質)は調節配列に結合する時に遺伝子発現を可能にする方式で連結された遺伝子及び調節配列であり得る。例えば、前配列(pre-sequence)又は分泌リーダー(leader)に対するDNAはポリペプチドの分泌に参加する前タンパク質として発現する場合、ポリペプチドに対するDNAに作動可能に連結され;プロモーター又はエンハンサーは配列の転写に影響を及ぼす場合、コーディング配列に作動可能に連結されたり;又はリボソーム結合部位は配列の転写に影響を及ぼす場合、コーディング配列に作動可能に連結されたり;又はリボソーム結合部位は翻訳を容易にするよう配置される場合、コーディング配列に作動可能に連結される。一般に、“作動可能に連結された”は、連結されたDNA配列が接触し、また分泌リーダーの場合は、接触しリーディングフレーム内に存在することを意味する。しかし、エンハンサー(enhancer)は接触する必要がない。これらの配列の連結は、便利な制限酵素部位においてライゲーション(連結)によって行われる。そのような部位が存在しない場合、通常の方法による合成オリゴヌクレオチドアダプター(oligonucleotide adaptor)又はリンカー(linker)を用いる。
【0066】
本願明細書に使われた用語“発現ベクター”は、通常、異種のDNAの断片が挿入された組換えキャリア(recombinant carrier)であり、一般に二本鎖のDNAの断片を意味する。ここで、異種DNAは、宿主細胞から天然的に発見されないDNAである異型DNAを意味する。発現ベクターは、一旦宿主細胞内にあれば、宿主染色体DNAに関係なく複製することができ、ベクターの数個のコピー及びその挿入された(異種)DNAが生成され得る。
【0067】
当業界に周知のように、宿主細胞において形質感染遺伝子の発現レベルを高めるためには、当該遺伝子が、選択された発現宿主内で機能を発揮する転写及び解読発現調節配列に作動可能なように連結される必要がある。好ましくは、発現調節配列及び当該遺伝子は、細菌選択マーカー及び複製開始点(replication origin)を共に含んでいる一つの発現ベクター内に含まれる。宿主細胞が真核細胞である場合には、発現ベクターは真核発現宿主内で有用な発現マーカーをさらに含む必要がある。
【0068】
上述した発現ベクターによって形質転換又は形質感染された宿主細胞は、本発明のさらに他の側面を構成する。本願明細書に使われた用語“形質転換”は、DNAを宿主に導入してDNAが染色体外の因子として又は染色体統合完成によって複製可能になることを意味する。本願明細書に使われた用語“形質感染”は、任意のコーディング配列が実際に発現しようとそうでなかろうと発現ベクターが宿主細胞によって収容されることを意味する。
【0069】
勿論、全てのベクターと発現調節配列が本発明のDNA配列を発現する上で全て同等に機能を発揮するわけではないことを理解すべきである。同様に、全ての宿主が同一の発現システムに対して同一に機能を発揮するわけではない。しかし、当業者であれば、過度な実験的負担無しで本発明の範囲を逸脱することなく様々ベクター、発現調節配列及び宿主の中から適切な選択が可能である。例えば、ベクターを選択するに当たっては宿主を考慮しなければならないが、これはベクターがその宿主内で複製されなければならないためである。ベクターの複製数、複製数を調節できる能力及び当該ベクターによってコードされる他のタンパク質、例えば抗生剤マーカーの発現も考慮される必要がある。発現調節配列を選定するに当たっても様々な因子を考慮しなければならない。例えば、配列の相対的強度、調節可能性及び本発明のDNA配列との相溶性など、特に、可能性ある二次構造と関連して考慮する必要がある。単細胞宿主は、選ばれたベクター、本発明のDNA配列によってコードされる産物の毒性、分泌特性、タンパク質を正確にフォルディングさせ得る能力、培養及び発酵要件、本発明のDNA配列によってコードされる産物を宿主から精製することの容易性などの因子を考慮して選ばれる必要がある。これらの変数の範囲内で、当業者は本発明のDNA配列を発酵又は大規模の動物培養において発現させ得る各種ベクター/発現調節配列/宿主組合せを選定することができる。発現クローニングによって本発明に係るタンパク質のcDNAをクローニングしようとする時のスクリーニング法として、バインディング法(binding)、パンニング法(panning)、フィルムエマルジョン法(film emulsion)などが適用され得る。
【0070】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は単に本発明を例示するためのもので、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されるものと解釈されないことは、当業界で通常の知識を有する者にとって明らかであろう。
【0071】
特に、下記実施例では、コリネバクテリウムグルタミクムを宿主微生物として用いたが、他の大腸菌や、バクテリア、酵母及びかびを使用してもよいことは当業者にとって自明な事項であろう。また、下記実施例では導入対象遺伝子として特定菌株由来の遺伝子だけを例示したが、導入される宿主細胞で発現して同一活性を示すものであれば制限がないということは当業者にとって明らかであろう。
【0072】
実施例1:グリセロールを単一炭素源にして成長可能な組換えコリネバクテリウムグルタミクムの製造
【0073】
1-1:グリセロール分解代謝回路の構築のためのpCSglpFKDベクター作製
【0074】
コリネバクテリウムグルタミクムはグリセロールを単一炭素源として用いて細胞成長できないものとして知られている。したがって、グリセロール分解代謝回路を構築するためにまず、大腸菌W3110由来のグリセロール分解代謝回路を担当する酵素をコードする遺伝子を、コリネバクテリウムグルタミクムシャトルベクターであるpCES208s-H36-S3を用いて発現させた。
【0075】
大腸菌W3110(ATCC39936)の染色体DNAを鋳型とし、配列番号1及び2のプライマーでPCRを行って、グリセロールファシリテーターとグリセロールキナーゼオペロン酵素をコードするglpFK遺伝子切片を得、配列番号3及び4のプライマーでPCRを行って、グリセロール―3-リン酸デヒドロゲナーゼをコードするglpD遺伝子切片を得た。前記glpFK遺伝子切片(配列番号19)と前記glpD遺伝子切片(配列番号20)を接合させるために配列番号1及び4のプライマーでオーバーラッピングPCRを行ってglpFKD遺伝子切片を作製した。pCES208s-H36-S3ベクター(pCES208-H36ベクター(大韓民国特許公開第10-2013-0022691号又はYim SS et al.,Biotechnol Bioeng,110:2959,2013)のKm抗生剤をスペクチノマイシン(Spectinomycin)抗生剤に置換したベクター、配列番号21)を線形化させるために配列番号5及び6のプライマーを用いてPCRを行い、また、前記製造されたglpFKD遺伝子切片とギブソンアセンブリ(Gibson assembly)方法を用いてpCSglpFKDベクターを作製した(図2)。
【0076】
【表1】
【0077】
1-2:組換えコリネバクテリウムグルタミクムの作製及びグリセロール分解による細菌成長の向上
【0078】
野生型コリネバクテリウムグルタミクムATCC13032菌株に、1-1で作製したpCSglpFKDベクターを導入して、glpFKD遺伝子が導入された組換え菌株ライブラリーを作製し、またグリセロールを炭素源とし、グリセロール分解による細胞成長を確認するためにフラスコ培養を行った。
【0079】
まず、前記glpFKD遺伝子が導入された組換え菌株ライブラリーを10mLのBHIS培地(37g/Lブレインハートインフュージョン(Brain Heart Infusion;BHI)、91g/Lソルビトール(sorbitol))が含まれたテストチューブに接種して30℃で16時間前培養させた後、前培養した培養液1mLを250mLバッフルフラスコ(Baffle flask)で25mLのCGXII培地(表2)に接種して培養した。培地の初期グリセロール濃度は10g/L、20g/L及び40g/Lに設定し、3倍数フラスコ培養を48時間行った。
【0080】
その結果、図3に示すように、組換え菌株ライブラリーの全ての菌株が非常に長い誘導期(lag phase)を有しており、20g/Lの初期グリセロール濃度下に培養された菌株のうち、最も早い細胞成長を示すWSG201菌株を選別した。該選別されたWSG201菌株のグリセロール取り込み率を高めるために、ALE(Adaptive Laboratory Evolution)を行った。
【0081】
ALEは、図4に示すように、前培養した培養液250μLを、250mLフラスコで25mLのCGXII培地に接種して培養した。ALEは20g/Lの初期グリセロール濃度から始めて合計8つのジェネレーション(generation)を行ったが、5番目のジェネレーションから40g/Lの初期グリセロール濃度を使用した。
【0082】
その結果、図5に示すように、グリセロール含有培地で培養時に非常に長かった菌株の誘導期が大きく減少し、細胞成長も増加することが確認できた。すなわち、このような結果は、ALEにより、前記形質転換された組換え菌株が40g/Lの初期グリセロール濃度下に誘導期が大きく減少し、細胞成長が非常に向上したということがわかる。
【0083】
【表2】
【0084】
実施例2:組換えコリネバクテリウムグルタミクムにおいてグリセロールを単一炭素源として用いる時に1,3-PDO生産確認及び生産最適化
【0085】
2-1:1,3-PDO生合成代謝回路の構築のためのpEK-dgyE、pEK-dgyK、pEK-dgdk、pEK-pduyE、pEK-pduyk、pEK-pdudkベクターの作製
【0086】
実施例1-2においてグリセロールを単一炭素源として用いて細胞成長が確認された組換えコリネバクテリウムグルタミクムに1,3-PDO生合成代謝回路を構築するために、コリネバクテリウムグルタミクムのpEKEx1シャトルベクター(Eikmanns et al.,Gene 102:93,1991、配列番号22)を用いてクレブシエラニュモニエ(Klebsiella pneumoniae)DSMZ2026(KCTC4952)と大腸菌W3110由来の外来酵素を発現させた。
【0087】
まず、クレブシエラニュモニエDSMZ2026菌株の染色体DNAを鋳型とし、配列番号7及び8のプライマーでPCRを行って、グリセロールデヒドラターゼ及びグリセロールリアクティバーゼをコードするdhaB1234/gdrAB遺伝子クラスター(gene cluster)切片を得た。また、クレブシエラニュモニエDSMZ2026菌株の染色体DNAを鋳型とし、配列番号9及び10のプライマーでPCRを行って、他のグリセロールデヒドラターゼ及びグリセロールリアクティバーゼをコードするpduCDEGH遺伝子クラスター切片を得た。前記得られたdhaB1234/gdrAB遺伝子切片及びpduCDEGH遺伝子切片をシャトルベクターpEKEx1ベクターに接合させるために制限酵素EcoRI及びPstIで処理した後、ギブソンアセンブリで接合させてpEK-dgベクター(図6)及びpEK-pduベクター(図7)をそれぞれ作製した。
【0088】
pTac15kyqhD組換えベクター(pTac15kベクター(p15A origin,tac promoter,Km)にE.coli W3110由来yqhDが挿入されている組換えベクター、配列番号23)を鋳型とし、配列番号11及び12のプライマーでPCRを行って1,3-PDOオキシドレダクターゼをコードするyqhD遺伝子切片を得、クレブシエラニュモニエDSMZ2026菌株の染色体DNAを鋳型とし、配列番号11及び13のプライマー、配列番号11及び14のプライマーでそれぞれPCRを行って、他の1,3-PDOオキシドレダクターゼをコードするyqhD遺伝子及びdhaT遺伝子切片をそれぞれ得た。
【0089】
前記得られた遺伝子切片をそれぞれpEK-dgベクターに接合させるために制限酵素StuIを処理し、ギブソンアセンブリで接合させて、pEK-dgyEベクター(図8)、pEK-dgyKベクター(図9)、pEK-dgdKベクター(図10)をそれぞれ作製した。
【0090】
前記pTac15kyqhD組換えベクターを鋳型とし、配列番号15及び16のプライマーでPCRを行って、1,3-PDOオキシドレダクターゼをコードするyqhD遺伝子切片を得、クレブシエラニュモニエDSMZ2026菌株の染色体DNAを鋳型とし、配列番号15及び17のプライマー、配列番号15及び18のプライマーでそれぞれPCRを行って、他の1,3-PDOオキシドレダクターゼをコードするyqhDとdhaT遺伝子切片をそれぞれ得た。
【0091】
前記得られた遺伝子切片をそれぞれpEK-pduベクターに接合させるために制限酵素DraIを処理し、ギブソンアセンブリで接合させて、pEK-pduyEベクター(図11)、pEK-pduyKベクター(図12)及びpEK-pdudKベクター(図13)をそれぞれ作製した。
【0092】
【表3】
【0093】
2-2:グリセロールから1,3-PDOを生産する変異微生物の作製
【0094】
実施例2-1で作製された総6種の組換えベクターpEK-dgyE、pEK-dgyK、pEK-dgdk、pEK-pduyE、pEK-pduyK及びpEK-pdudKを、実施例1-2で確保した(ALEにより40g/Lの初期グリセロール濃度下に誘導期が大きく減少し、細胞成長が向上した)組換え菌株に導入した後、25μg/Lカナマイシン(Kanamycin)が添加されたBHIS平板培地(37g/Lブレインハートインフュージョン(BHI)、91g/Lソルビトール、15g/L寒天)で選別した。
【0095】
前記選別された6種の組換え菌株を10mLのBHIS培地(37g/Lブレインハートインフュージョン(BHI)、91g/Lソルビトール)が含まれたテストチューブに接種して30℃で16時間前培養した後、前培養した培養液1mLを250mLバッフルフラスコに25mLのCGXII培地に接種して培養した。初期グリセロール濃度は40g/Lに設定し、培地に酵母エキス10g/Lを追加し、3倍数フラスコ培養を48時間行った。
【0096】
その結果、図14に示すように、pEK-pduyEベクターを導入した組換え菌株がグリセロールを単一炭素源として用いて最も高い1,3-PDOを生産することを確認し、該菌株をMBEL-HCC-C-13PDO1と命名した。
【0097】
2-3:1,3-PDO増産のためのフラスコ培養条件の最適化
【0098】
実施例2-2においてグリセロールを単一炭素源として用いる時に細胞成長と共に1,3-PDO生産能を確認した後、1,3-PDO生産を向上させるためにフラスコ培養条件を最適化した。
【0099】
1,3-PDO生合成代謝回路に関与するグリセロールデヒドラターゼと1,3-PDOオキシドレダクターゼの活性化濃度が酸素濃度に敏感(反比例関係)であると知られており、よって、フラスコ種類及びフラスコを閉じる栓の種類によってエアレーション条件に変化を与えてフラスコ培養を行った。
【0100】
まず、MBEL-HCC-C-13PDO1菌株を10mLのBHIS培地が含まれているテストチューブに接種して30℃で16時間前培養を行った後、前培養した培養液1mLを250mLバッフルフラスコ又は250mLエルレンマイヤーフラスコ(Erlenmeyer flask)で25mLのCGXII培地に接種して培養した。初期グリセロール濃度は40g/Lに設定し、培地に酵母エキス10g/Lを追加し、3倍数フラスコ培養を48時間行った。この時、フラスコ種類としてバッフルフラスコ及びエアレーションが相対的に低いエルレンマイヤーフラスコを選択し、栓としては綿栓及びエアレーションが相対的に低いシリコン栓(SiliStopper)を選択した。
【0101】
その結果、図15に示すように、MBEL-HCC-C-13PDO1菌株をエルレンマイヤーフラスコ及び綿栓を使用した時(やや微好気性条件)に最も多量の1,3-PDOが生産されることを確認した。このような結果は、1,3-PDO生合成代謝回路に関与する2つの酵素がエアレーション条件に影響を受け、最適化されたエアレーション条件で1,3-PDO生産が増加することを示す。
【0102】
2-4:流加式発酵培養を用いた1,3-PDOを生産する変異微生物
【0103】
実施例2-3で確立されたフラスコ種類及びエアレーション条件でMBEL-HCC-C-13PDO1菌株の1,3-PDO生産能を調べるために流加式培養を行った。
【0104】
まず、MBEL-HCC-C-13PDO1菌株をカナマイシン及びスペクチノマイシンが添加されたBHIS平板培地(37g/Lブレインハートインフュージョン(BHI)、91g/Lソルビトール、15g/L寒天)に塗抹して30℃で48時間培養し、形成されたコロニーを実施例2-3で選別した250mLエルレンマイヤーフラスコに綿栓を使用して50mLのBHIS培地に接種した後、16時間30℃で培養した。前培養液は4個の250mLバッフルフラスコ(発酵器シード)でそれぞれ50mLのCGXII培地に(培養液開始OD600=0.1)接種し、200rpmの振盪培養器(shaking incubator)に30℃で24時間培養した。この時、CGXII培地に初期グリセロール濃度は40g/Lに設定し、酵母エキス10g/Lを追加し、MOPSは除外した。次に、総200mLの前培養液は1.8LのCGXII発酵培地(総体積6L発酵器)に接種し(開始OD600=3.0~4.0)、開始グリセロールは40g/Lを添加し、酵母エキス10g/Lを追加し、MOPSは除外した。また、MgSO-7HO、ビオチン(biotin)、チアミン(thiamine)、プロトカテク酸(protocatechuic acid)、カナマイシン、スペクチノマイシンはそれぞれ濾過後に添加した。また、1mMのIPTGをバッチ期間(batch period)が終わって最初フィーディング時に添加した。
【0105】
流加式発酵培養時にアンモニア水(28%、Junsei Chemical Co.,Ltd.,Tokyo,Japan)を用いてpH7.0に維持し、温度及び撹拌はP-I-Dモード(proportional-integral-derivaive)でそれぞれ30℃及び600rpmに維持させた。エアレーション速度(Aeration rate)は0.25vvmを維持し、培養時に発生する泡はantifoam 204(Sigma-Aldrich)で処理した。フィーディング溶液の組成は800g/Lグリセロールであり、残余グリセロール濃度が10g/Lに減少する時に100mLを添加した。
【0106】
その結果、図16に示すように、MBEL-HCC-C-13PDO1菌株において流加式発酵培養時にグリセロールを単一炭素源として用いて約47.3g/Lの1,3-PDOが生産されることを確認した。したがって、グリセロール代謝分解回路及び1,3-PDO生合成代謝回路の構築を用いて、MBEL-HCC-C-13PDO1菌株が細胞成長と共に1,3-PDOを生産できることを確認した。
【0107】
実施例3:組換えコリネバクテリウムグルタミクムにおいてグリセロール及びブドウ糖を炭素源として用いる時に1,3-PDO増産
【0108】
3-1:組換えコリネバクテリウムグルタミクムにおいてグリセロールとブドウ糖の比率最適化を用いた1,3-PDO増産
【0109】
実施例2-4に実施した流加式発酵培養結果のように、MBEL-HCC-C-13PDO1菌株はグリセロールを単一炭素源として用いて細胞成長と共に高い量の1,3-PDOを生産した。しかし、前記条件では1,3-PDOと類似な量の3-HPを副産物として生産することが見られた。
【0110】
1,3-PDO生合成代謝回路及び3-HP生合成代謝回路に関与する酵素が補助因子として使用する酸化還元バランス(redox balance)を考慮するとき、1,3-PDO生産に必要な還元力(reducing power)であるNADPHを供給するために、コリネバクテリウムグルタミクム内に存在するアルデヒドデヒドロゲナーゼ酵素が3-HP生合成代謝回路を活性化させたと判断した(図1)。これは、グリセロールを単一炭素源として用いる時にペントースリン酸(pentose phosphate)代謝回路を使用できず、不足したNADPHを供給するために3-HP生合成代謝回路がより活性化されたものと判断した(図1)。
【0111】
コリネバクテリウムグルタミクムは、ペントースリン酸代謝回路を通じて約70%のNADPHを供給すると知られており、よって、ブドウ糖を添加する場合、1,3-PDOの生産が増加するかどうかを調べるために、フラスコ培養比較実験を行った。
【0112】
まず、MBEL-HCC-C-13PDO1菌株を10mLのBHIS培地が含まれたチューブに接種して30℃で16時間前培養した後、前培養した培養液1mLを250mLエルレンマイヤーフラスコに25mLのCGXII培地に接種して培養した。初期ブドウ糖とグリセロールの比率は重量比で1:1、1:3、1:9及び1:19添加し、培地に酵母エキス10g/Lを追加し、3倍数フラスコ培養を48時間行った。
【0113】
その結果、図17に示すように、ブドウ糖とグリセロールを重量比1:3で使用した時、菌株の1,3-PDO生産が最高を示し、3-HPは生産されないことを確認した。また、ブドウ糖に対するグリセロール比率が増加するほど(ブドウ糖量が減少するほど)3-HP生産が増加することを確認し、逆に、減少するほど(ブドウ糖量が増加するほど)3-HP生産が減少することを確認した。すなわち、このような結果は、MBEL-HCC-C-13PDO1菌株がグリセロールを単一炭素源として使用するとき、1,3-PDOを生産するのに必要な還元力を3-HP生合成代謝回路を活性化させつつ提供されることを示し、一定のブドウ糖とグリセロールの比率が1,3-PDO増産に効率的であることを示す。
【0114】
3-2:ブドウ糖とグリセロールを1:3で添加時に流加式発酵培養を用いた1,3-PDOを生産する変異微生物
【0115】
実施例3-1で選別したブドウ糖とグリセロールの重量比を適用して、MBEL-HCC-C-13PDO1菌株の1,3-PDO生産能を調べるために流加式培養を行った。
【0116】
まず、MBEL-HCC-C-13PDO1菌株をカナマイシン及びスペクチノマイシンが添加されたBHIS平板培地に塗抹して30℃で48時間培養して形成されたコロニーを、実施例2-3で選別した250mLエルレンマイヤーフラスコに綿栓を用いて50mLのBHIS培地に接種した後、16時間30℃で培養した。前培養液は、4個の250mLバッフルフラスコ(発酵器シード)でそれぞれ50mLのCGXII培地に(培養液開始OD600=0.1)接種し、200rpmの振盪培養器(shaking incubator)に30℃で24時間培養した。この時、CGXII培地の初期グリセロール濃度は40g/Lに設定し、酵母エキス10g/Lを追加し、MOPSは除外した。次に、総200mLの前培養液は1.8LのCGXII発酵培地(総体積6L発酵器)に接種し(開始OD600=3.0~4.0)、開始グリセロールは40g/Lを添加し、酵母エキス10g/Lを追加し、MOPSは除外した。また、MgSO-7HO、ビオチン、チアミン、プロトカテク酸、カナマイシン、スペクチノマイシンはそれぞれ濾過した後に添加した。また、1mMのIPTGをバッチ期間が終わって最初のフィーディング時に添加した。
【0117】
流加式発酵培養時にアンモニア水(28%、Junsei Chemical Co.,Ltd.,Tokyo,Japan)を用いてpHを7.0に維持し、温度及び撹拌はP-I-Dモード(proportional-integral-derivative)でそれぞれ30℃及び600rpmに維持した。エアレーション速度は0.25vvmを維持し、培養時に発生する泡はantifoam 204(Sigma-Aldrich)で処理した。フィーディング溶液は800g/Lグリセロール溶液及び800g/Lブドウ糖溶液を準備した後、残余グリセロール濃度が10g/Lに減少する時にそれぞれ50mLずつ添加した。
【0118】
その結果、図18に示すように、MBEL-HCC-C-13PDO1菌株において流加式発酵培養時にブドウ糖とグリセロールを重量比で1:3添加し、約60.1g/Lの1,3-PDOが生産されることが確認できた。すなわち、ブドウ糖とグリセロールを重量比で1:3添加した時、MBEL-HCC-C-13PDO1菌株が細胞成長と共に、より効率よく1,3-PDOを生産することを確認した。
【0119】
3-3:ブドウ糖とグリセロール重量比1:2添加時に流加式発酵培養を用いた1,3-PDOを生産する変異微生物
【0120】
実施例3-2においてブドウ糖とグリセロールを重量比で1:3添加した後、MBEL-HCC-C-13PDO1菌株の1,3-PDO生産能を、流加式発酵培養から確認した。しかし、依然として多量の3-HPが副産物として生産されることを確認し、実施例3-1に示したブドウ糖量が増加するにつれて3-HPが減少した現象を適用させるためにブドウ糖とグリセロールを重量比1:2で添加してMBEL-HCC-C-13PDO1菌株の流加式発酵培養を行った。
【0121】
流加式培養は実施例3-2と同一に行い、フィーディング(Feeding)溶液は800g/Lグリセロール溶液と800g/Lブドウ糖溶液、200g/LのMgSO-7HO、200X TMS溶液を準備した後、残余グリセロール濃度が10g/Lに減少する時にそれぞれ50mL、100mL、5mL及び5mL添加した。このとき、使用したTMS溶液組成は次の通りである。
【0122】
【表4】
【0123】
その結果、図19に示すように、MBEL-HCC-C-13PDO1菌株において流加式発酵培養時に、ブドウ糖とグリセロールを重量比1:2で添加して約77.5g/Lの1,3-PDOが生産されることを確認した。また、3-HPは約7.2g/Lと大きく減少したことを確認した。すなわち、ブドウ糖とグリセロールを重量比1:2で添加した時、MBEL-HCC-C-13PDO1菌株が細胞成長と共に、より効率よく1,3-PDOを生産することを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明によれば、低価の原料であるグリセロールを単一炭素源として用いて、1,3-PDO生産能を有する変異微生物を成長させると同時に、1,3-PDOを生産することができ、経済的に1,3-PDOを生産するのに有用である。
【0125】
以上、本発明内容の特定の部分を詳細に記述してきたところ、当業界における通常の知識を有する者にとって、このような具体的記述は単に好ましい実施態様であるだけで、これによって本発明の範囲が制限されない点は、明らかであろう。したがって、本発明の実質的な範囲は添付の請求項及びそれらの等価物によって定義されるといえよう。
図1
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【配列表】
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