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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】ロチゴチン安定化方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/381 20060101AFI20220825BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20220825BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20220825BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20220825BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20220825BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220825BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20220825BHJP
【FI】
A61K31/381
A61K9/70 401
A61K47/32
A61K47/22
A61K47/10
A61P25/00
A61P25/16
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020572141
(86)(22)【出願日】2020-01-23
(86)【国際出願番号】 JP2020002302
(87)【国際公開番号】W WO2020166298
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2021-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2019025151
(32)【優先日】2019-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000160522
【氏名又は名称】久光製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒川 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】荒木 浩行
(72)【発明者】
【氏名】駒谷 季実子
【審査官】吉川 阿佳里
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/084969(WO,A1)
【文献】特開2013-079220(JP,A)
【文献】特開2012-140407(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61P 1/00-43/00
A61K 9/00-9/72
A61K 47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体層及び粘着剤層を備え、かつ、前記粘着剤層がロチゴチン及び/又はその薬学的に許容される塩とスチレン系熱可塑性エラストマーとを含有するロチゴチン含有貼付剤において、前記ロチゴチン及び/又はその薬学的に許容される塩を安定化する方法であり、
前記粘着剤層に、架橋ポリビニルピロリドンを前記粘着剤層における含有量が3~25質量%となるようにさらに含有させ、かつ、脂環族飽和炭化水素樹脂をさらに含有させる、
ロチゴチン安定化方法。
【請求項2】
前記ロチゴチン及び/又はその薬学的に許容される塩の前記粘着剤層における含有量を、ロチゴチン遊離体換算で、5~15質量%とする、請求項1に記載のロチゴチン安定化方法。
【請求項3】
前記ロチゴチン及び/又はその薬学的に許容される塩のロチゴチン遊離体に換算した含有量と前記架橋ポリビニルピロリドンの含有量との前記粘着剤層における質量比(ロチゴチン及び/又はその薬学的に許容される塩のロチゴチン遊離体換算含有量:架橋ポリビニルピロリドン含有量)を、15:3~5:25とする、
請求項1又は2に記載のロチゴチン安定化方法。
【請求項4】
前記粘着剤層に、イミダゾール系抗酸化剤をさらに含有させる、請求項1~3のうちのいずれか一項に記載のロチゴチン安定化方法。
【請求項5】
前記イミダゾール系抗酸化剤の前記粘着剤層における含有量を、0.05~2質量%とする、請求項4に記載のロチゴチン安定化方法。
【請求項6】
前記粘着剤層に、脂肪族アルコールをさらに含有させる、請求項1~5のうちのいずれか一項に記載のロチゴチン安定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はロチゴチン安定化方法に関するものであり、より詳しくは、支持体層及び粘着剤層を備え、かつ、前記粘着剤層がロチゴチン及び/又はその薬学的に許容される塩を含有するロチゴチン含有貼付剤において、前記ロチゴチン及び/又はその薬学的に許容される塩を安定化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロチゴチンは化合物(-)-5,6,7,8-テトラヒドロ-6-[プロピル-[2-(2-チエニル)エチル]-アミノ]1-ナフタレノールの国際一般的名称であり、I型及びII型の結晶多形が存在することが特表2011-504902号公報(特許文献1)に記載されている。ロチゴチンはD1/D2/D3ドーパミンレセプターアゴニストであり、主にパーキンソン病やレストレスレッグス症候群の症状の治療に用いられている。
【0003】
ロチゴチン投与のための製剤としては、例えば、「ニュープロ(登録商標)パッチ」が国内外において市販されている。また、特表2002-509878号公報(特許文献2)には、マトリックスの成分に対して不活性の裏当て層とロチゴチンを含有する自己接着性マトリックス層とを含み、マトリックスがロチゴチンの溶解度が5%(w/w)以上であり非水溶性のアクリレート系又はシリコーン系のポリマー接着剤を基剤とする、経皮治療システムが記載されている。さらに、特表2015-503541号公報(特許文献3)には、活性物質に不透過性である裏打ち層と、感圧接着剤、薬物、及び架橋ポリビニルピロリドンの粒子を含むマトリックス層と、を含む経皮治療システムが記載されており、前記薬物としてロチゴチンが、前記感圧接着剤としてシリコーンポリマーが、それぞれ記載されている。
【0004】
また、ゴム系粘着剤を用いたロチゴチン投与のための製剤としては、例えば、特開2014-177428号公報(特許文献4)において、支持体と、ロジン系樹脂及びゴム系粘着成分を含有するゴム系粘着剤、並びに、ロチゴチン又はその製薬上許容できる塩を含有する薬物含有層と、を含む経皮吸収型貼付製剤が記載されており、特開2013-079220号公報(特許文献5)において、支持体と、ゴム系粘着剤、ロチゴチン又はその塩、並びに、ロチゴチンの分解生成物の生成抑制剤を含有する薬物含有層と、を含む経皮吸収型貼付剤が記載されている。
【0005】
さらに、ロチゴチン投与のための製剤としては、例えば、特表2006-513195号公報(特許文献6)及び特表2012-504609号公報(特許文献7)において、ロチゴチンを非晶質(アモルファス)型で含有させることが記載されており、特表2013-515041号公報(特許文献8)には、ロチゴチンに対して特定の重量割合にてポリビニルピロリドン(非架橋)を用い、ポリビニルピロリドン及び非晶質形態のロチゴチンを含む固体分散体を提供する工程を含むロチゴチンの安定化方法が記載されている。
【0006】
また、特表2017-515871号公報(特許文献9)には、ロチゴチン結晶析出の防止を目的として、ロチゴチン及び抗酸化剤を特定の重量比で混合する経皮吸収製剤の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2011-504902号公報
【文献】特表2002-509878号公報
【文献】特表2015-503541号公報
【文献】特開2014-177428号公報
【文献】特開2013-079220号公報
【文献】特表2006-513195号公報
【文献】特表2012-504609号公報
【文献】特表2013-515041号公報
【文献】特表2017-515871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ロチゴチン及び/又はその薬学的に許容される塩を含有するロチゴチン含有貼付剤について、本発明者らがさらなる検討を行ったところ、貼付剤の粘着剤層中に含有させる粘着基剤として、従来からロチゴチンと組み合わせて多用されていたシリコーン系粘着基剤やアクリル系粘着剤を用いたり、或いは、ポリイソブチレン等のゴム系粘着剤を単に用いても、特に過酷な保存条件下においては、ロチゴチン及び/又はその薬学的に許容される塩の長期間の安定性が十分とはいえない場合があり、より高水準の長期安定性が要求されることを本発明者らは見い出した。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、スチレン系熱可塑性エラストマーを含有する貼付剤の粘着剤層におけるロチゴチン及び/又はその薬学的に許容される塩を高水準で安定化することが可能なロチゴチン安定化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、支持体層及び粘着剤層を備える貼付剤であり、前記粘着剤層にロチゴチン及びその薬学的に許容される塩からなる群から選択される少なくとも1種(以下、場合により「ロチゴチン及び/又はその薬学的に許容される塩」という)と、スチレン系熱可塑性エラストマーと、を含有するロチゴチン含有貼付剤において、さらに、前記粘着剤層に、架橋ポリビニルピロリドンを特定の含有量範囲内となるように含有させることにより、ロチゴチン及び/又はその薬学的に許容される塩を、長期間、過酷条件下であっても、高水準で安定化させることが可能となることを見い出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明のロチゴチン安定化方法は、
支持体層及び粘着剤層を備え、かつ、前記粘着剤層がロチゴチン及び/又はその薬学的に許容される塩とスチレン系熱可塑性エラストマーとを含有するロチゴチン含有貼付剤において、前記ロチゴチン及び/又はその薬学的に許容される塩を安定化する方法であり、
前記粘着剤層に、架橋ポリビニルピロリドンを前記粘着剤層における含有量が3~25質量%となるようにさらに含有させ、かつ、脂環族飽和炭化水素樹脂をさらに含有させることを特徴とするものである。
【0012】
本発明のロチゴチン安定化方法においては、前記ロチゴチン及び/又はその薬学的に許容される塩の前記粘着剤層における含有量を、ロチゴチン遊離体換算で、5~15質量%とすることが好ましい。
【0013】
また、本発明のロチゴチン安定化方法としては、前記ロチゴチン及び/又はその薬学的に許容される塩のロチゴチン遊離体に換算した含有量と前記架橋ポリビニルピロリドンの含有量との前記粘着剤層における質量比(ロチゴチン及び/又はその薬学的に許容される塩のロチゴチン遊離体換算含有量:架橋ポリビニルピロリドン含有量)を、15:3~5:25とする、ことが好ましい。
【0014】
さらに、本発明のロチゴチン安定化方法においては、前記粘着剤層に、イミダゾール系抗酸化剤をさらに含有させることが好ましく、また、前記イミダゾール系抗酸化剤の前記粘着剤層における含有量を、0.05~2質量%とすることがより好ましい。
【0015】
さらに、本発明のロチゴチン安定化方法としては、前記粘着剤層に、脂肪族アルコールをさらに含有させることが好ましい
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、スチレン系熱可塑性エラストマーを含有する貼付剤の粘着剤層におけるロチゴチン及び/又はその薬学的に許容される塩を高水準で安定化することが可能なロチゴチン安定化方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。本発明のロチゴチン安定化方法は、
支持体層及び粘着剤層を備え、かつ、前記粘着剤層がロチゴチン及び/又はその薬学的に許容される塩とスチレン系熱可塑性エラストマーとを含有するロチゴチン含有貼付剤において、前記ロチゴチン及び/又はその薬学的に許容される塩を安定化する方法であり、
前記粘着剤層に、架橋ポリビニルピロリドンを前記粘着剤層における含有量が3~25質量%となるようにさらに含有させる、方法である。
【0018】
本発明に係るロチゴチン含有貼付剤は、支持体層及び粘着剤層を備える。前記支持体層としては、後述の粘着剤層を支持し得るものであれば特に制限されず、貼付剤の支持体層として公知のものを適宜採用することができる。本発明に係る支持体層の材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;エチレン-酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル-塩化ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル等;ナイロン等のポリアミド;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;セルロース誘導体;ポリウレタンなどの合成樹脂や、アルミニウムなどの金属が挙げられる。これらの中でも、薬物非吸着性や薬物非透過性の観点からは、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。前記支持体層の形態としては、例えば、フィルム;シート、シート状多孔質体、シート状発泡体等のシート類;織布、編布、不織布等の布帛;箔;及びこれらの積層体が挙げられる。また、前記支持体層の厚みとしては、特に制限されないが、貼付剤を貼付する際の作業容易性及び製造容易性の観点からは、5~1000μmの範囲内であることが好ましい。
【0019】
本発明に係るロチゴチン含有貼付剤は、前記粘着剤層の前記支持体層とは反対の面上に剥離ライナーをさらに備えるものであってもよい。かかる剥離ライナーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;エチレン-酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル-塩化ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル等;ナイロン等のポリアミド;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル;セルロース誘導体;ポリウレタンなどの合成樹脂や、アルミ、紙などの材質からなるフィルムやシート及びこれらの積層体が挙げられる。これらの剥離ライナーとしては、前記粘着剤層から容易に剥離できるように該粘着剤層と接触する側の面に含シリコーン化合物コートや含フッ素化合物コート等の離型処理が施されたものであることが好ましい。
【0020】
<ロチゴチン及びその薬学的に許容される塩>
本発明に係る粘着剤層は、薬物としてロチゴチン及びその薬学的に許容される塩からなる群から選択される少なくとも1種(ロチゴチン及び/又はその薬学的に許容される塩)を含有する。本発明において前記粘着剤層中に含有されるロチゴチンの形態としては、遊離体(フリー体)であってもその薬学的に許容される塩であってもよく、製造中及び/又は製造された製剤中においてロチゴチンの薬学的に許容される塩が脱塩されてフリー体となったものであってもよく、これらのうちの1種であっても2種以上の混合物であってもよい。ロチゴチンの薬学的に許容される塩としては、酸付加塩が挙げられ、前記酸付加塩の酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、亜リン酸、臭化水素酸、マレイン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、酒石酸、ラウリン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ミリスチン酸、ラウリル硫酸、リノレン酸、フマル酸が挙げられる。これらの中でも、本発明に係る粘着剤層としては、ロチゴチンを遊離体の形態で含有していることが好ましい。
【0021】
本発明のロチゴチン安定化方法において、前記粘着剤層中に含有されるロチゴチン及び/又はその薬学的に許容される塩の含有量(ロチゴチンの含有量又はロチゴチンの薬学的に許容される塩の含有量、或いは、両者がいずれも含有されている場合にはその合計含有量、以下同じ)としては、ロチゴチン遊離体換算で、前記粘着剤層の全質量(本明細書中、「粘着剤層の全質量」は、製造後(下記の架橋ポリビニルピロリドン、及び必要に応じてイミダゾール系抗酸化剤、脂肪族アルコール、石油系樹脂及び/又はテルペン系樹脂を含有させた後、以下同じ)の貼付剤における粘着剤層の全質量を示す)に対して5~15質量%とすることが好ましく、7~15質量%とすることがより好ましく、7~12質量%とすることがさらに好ましく、8~10質量%とすることがさらにより好ましい。ロチゴチン及び/又はその薬学的に許容される塩の含有量が前記下限未満であると、ロチゴチンの皮膚透過性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、架橋ポリビニルピロリドンを粘着剤層に含有させなくともロチゴチン及び/又はその薬学的に許容される塩が安定化する傾向にあり、また、ロチゴチン及び/又はその薬学的に許容される塩の結晶が析出したり、非晶質型が生じたり、粘着剤層の粘着力が低下しやすくなったりする傾向にある。
【0022】
<スチレン系熱可塑性エラストマー>
本発明に係る粘着剤層は、粘着基剤としてスチレン系熱可塑性エラストマーを含有する。本発明に係るスチレン系熱可塑性エラストマーとは、熱を加えると軟化して流動性を示し、冷却すればゴム状弾性体に戻る熱可塑性を示すスチレン系エラストマーである。このうち、十分な粘着性付与及び経時安定性の観点からは、スチレン系ブロック共重合体が好ましい。
【0023】
前記スチレン系ブロック共重合体としては、具体的には、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-エチレン/ブチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン/プロピレンブロック共重合体、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソブチレンブロック共重合体、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、前記において、「エチレン/ブチレン」はエチレン及びブチレンの共重合体ブロックを示し、「エチレン/プロピレン」はエチレン及びプロピレンの共重合体ブロックを示す。これらの中でも、本発明に係るスチレン系熱可塑性エラストマーとしては、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体であることがより好ましい。
【0024】
前記スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体としては、粘度平均分子量が30,000~2,500,000であることが好ましく、100,000~1,700,000であることがより好ましい。前記粘度平均分子量が前記下限値未満であると、貼付剤の製剤物性(特に粘着剤層の凝集力)が低下する傾向にあり、他方、前記上限値を超えると、粘着剤層中に含有される他の成分との相溶性が低下して貼付剤の製造が困難となる傾向にある。
【0025】
本発明のロチゴチン安定化方法において、前記粘着剤層中に含有される前記スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量としては、前記粘着剤層の全質量に対して5~80質量%であることが好ましく、5~50質量%であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましく、10~30質量%であることがさらに好ましい。前記スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量が前記下限未満であると、粘着剤層の凝集力や保形性等が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、粘着剤層の凝集力が過度に増加して、粘着剤層の粘着力が低下したり相容性が低下したりする傾向にある。
【0026】
<架橋ポリビニルピロリドン>
本発明のロチゴチン安定化方法においては、少なくとも前記ロチゴチン及び/又はその薬学的に許容される塩とスチレン系熱可塑性エラストマーとを含有する粘着剤層に、架橋ポリビニルピロリドン(「架橋PVP」ともいう)を含有させる。
【0027】
本発明に係る架橋ポリビニルピロリドンとしては、架橋されたN-ビニルピロリドン重合体が挙げられる。前記N-ビニルピロリドン重合体としては単独重合体であっても共重合体であってもよく、例えば、N-ビニルピロリドンの単独重合体、N-ビニルピロリドンと多官能モノマーとの共重合体が挙げられる。これらの中でも、本発明に係る架橋ポリビニルピロリドンとしては、1-ビニル-2-ピロリドンの架橋ホモポリマー(「クロスポビドン」ともいう)であることが好ましい。クロスポビドンとしては、コリドンCL、コリドンCL-M(BASFジャパン株式会社製);ポリプラスドンXL、ポリプラスドンXL-10、ポリプラスドンINF-10(ISPジャパン株式会社製)等の市販のものを用いてもよい。
【0028】
前記粘着剤層中に含有させる架橋ポリビニルピロリドンの量としては、前記粘着剤層の全質量に対する含有量が3~25質量%となる量であることが必要である。前記粘着剤層における架橋ポリビニルピロリドンの含有量が前記下限未満であると、ロチゴチン及び/又はその薬学的に許容される塩を特に過酷条件下において長期間安定化するロチゴチン安定化効果が十分に奏されなくなる。他方、前記上限を超えると、ロチゴチンの皮膚透過性が低下したり、製造時に粘着剤層組成物における相容性が低下して製造が困難となったりする。前記粘着剤層における架橋ポリビニルピロリドンの含有量としては、同様の観点から、3~20質量%であることがより好ましく、3~15質量%であることがさらに好ましく、4~15質量%であることがさらにより好ましい。
【0029】
また、本発明のロチゴチン安定化方法においては、前記ロチゴチン及び/又はその薬学的に許容される塩のロチゴチン遊離体に換算した含有量と架橋ポリビニルピロリドンの含有量との前記粘着剤層における質量比(ロチゴチン及び/又はその薬学的に許容される塩のロチゴチン遊離体換算含有量:架橋ポリビニルピロリドン含有量)を、15:3~5:25とすることが好ましく、15:3~5:20とすることがより好ましく、15:3~5:15とすることがさらに好ましい。前記ロチゴチン及び/又はその薬学的に許容される塩に対する架橋ポリビニルピロリドンの含有量が前記下限未満であると、ロチゴチン及び/又はその薬学的に許容される塩の結晶が析出する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、優れたロチゴチンの皮膚透過性を達成することが困難となる傾向にある。
【0030】
さらに、前記粘着剤層中に含有させる架橋ポリビニルピロリドンの量としては、前記粘着剤層の全質量に対する含有量が4質量%未満(好ましくは、3.95質量%以下)である場合には、前記粘着剤層における質量比(ロチゴチン及び/又はその薬学的に許容される塩のロチゴチン遊離体換算含有量:架橋ポリビニルピロリドン含有量)を、15:3~12:3又は7:3~5:15(より好ましくは、ロチゴチン及び/又はその薬学的に許容される塩の結晶析出や非晶質型生成の抑制等の観点から、7:3~5:15)とすることも好ましい。
【0031】
<抗酸化剤>
本発明のロチゴチン安定化方法としては、前記粘着剤層に、抗酸化剤をさらに含有させることが好ましい。本発明においては、架橋ポリビニルピロリドンに加えて抗酸化剤を前記粘着剤層に含有させることによって、さらに高水準の経時安定性が達成される傾向にある。
【0032】
前記抗酸化剤としては、例えば、イミダゾール系抗酸化剤(2-メルカプトベンズイミダゾール等)が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよいが、中でも、前記抗酸化剤としては、2-メルカプトベンズイミダゾールであることが特に好ましい。
【0033】
このとき、前記粘着剤層中に含有させる前記抗酸化剤の含有量(2種以上の組み合わせである場合にはそれらの合計含有量、以下同じ。好ましくはイミダゾール系抗酸化剤の含有量、より好ましくは2-メルカプトベンズイミダゾールの含有量)としては、前記粘着剤層の全質量に対して0.05~2質量%とすることが好ましく、0.05~1.5質量%とすることがより好ましく、0.05~1.0質量%とすることがさらに好ましい。前記抗酸化剤の含有量が前記下限未満であると、該抗酸化剤によるさらなる安定化効果が十分に奏されなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、粘着剤層の接着性等の物性が低下する可能性がある。
【0034】
<石油系樹脂・テルペン系樹脂>
本発明のロチゴチン安定化方法としては、前記粘着剤層に、石油系樹脂及びテルペン系樹脂からなる群から選択される少なくとも1種(石油系樹脂及び/又はテルペン系樹脂)をさらに含有させることが好ましい。本発明のロチゴチン安定化方法においては、前記粘着剤層に前記石油系樹脂及び/又はテルペン系樹脂を含有させることによって、高水準の皮膚透過性が達成され、また、ロチゴチンの類縁物質の生成が抑制されて経時安定性がより向上する傾向にある。
【0035】
(石油系樹脂)
本発明に係る石油系樹脂としては、例えば、C5系合成石油樹脂(イソプレン、シクロペンタジエン、1,3-ペンタジエン、及び1-ペンテンのうちの少なくとも2種の共重合体;2-ペンテン及びジシクロペンタジエンのうちの少なくとも2種の共重合体;1,3-ペンタジエン主体の樹脂等)、C9系合成石油樹脂(インデン、スチレン、メチルインデン、及びα-メチルスチレンのうちの少なくとも2種の共重合体等)、ジシクロペンタジエン系合成石油樹脂(ジシクロペンタジエンを主体とするイソプレン及び/又は1,3-ペンタジエンとの共重合体)が挙げられる。また、別の分類の観点から、例えば、脂環族系石油樹脂(脂環族飽和炭化水素樹脂等)、脂環族系水添石油樹脂、脂肪族系石油樹脂(脂肪族炭化水素樹脂等)、脂肪族系水添石油樹脂、芳香族系石油樹脂が挙げられ、より具体的には、アルコンP-70、アルコンP-85、アルコンP-90、アルコンP-100、アルコンP-115、アルコンP-125(以上、商品名、荒川化学工業株式会社製)、エスコレッツ8000(商品名、エッソ石油化学株式会社製)が挙げられる。本発明に係る石油系樹脂としては、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、皮膚に対する好適な付着性が得られやすい、臭い等が少ないため使用感が良好である、またロチゴチンの類縁物質の生成がより抑制される、といった観点から、脂環族飽和炭化水素樹脂であることがより好ましい。
【0036】
本発明において、前記脂環族飽和炭化水素樹脂とは、脂環族飽和炭化水素モノマーの単独重合体又は共重合体である樹脂のことをいう。前記脂環族飽和炭化水素樹脂としては、重量平均分子量が1,000~1,500であることが好ましく、1,200~1,400であることがより好ましい。
【0037】
(テルペン系樹脂)
本発明に係るテルペン系樹脂としては、例えば、ピネン重合体(α-ピネン重合体、β-ピネン重合体等)、テルペン重合体、ジペンテン重合体、テルペン-フェノール重合体、芳香族変性テルペン重合体、ピネン-フェノール共重合体が挙げられ、より具体的には、YSレジン(YSレジンPXN(1150N、300N)、YSレジンPX1000、YSレジンTO125、YSレジンTO105等)、クリアロンP105、クリアロンM115、クリアロンK100(以上、商品名、ヤスハラケミカル株式会社製)、タマノル901(商品名、荒川化学工業株式会社製商品名)が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、本発明に係るテルペン系樹脂としては、皮膚に対する好適な付着性が得られやすい、臭い等が少ないため使用感が良好であるという観点から、ピネン重合体であることがより好ましい。
【0038】
本発明において、前記粘着剤層中に含有させる前記石油系樹脂及び/又はテルペン系樹脂の含有量(石油系樹脂又はテルペン系樹脂の含有量、或いは、両者をいずれも含有させる場合にはその合計含有量、以下同じ)としては、前記粘着剤層の全質量に対して5~80質量%であることが好ましく、10~70質量%であることがより好ましく、10~60質量%であることがさらに好ましく、20~60質量%であることが特に好ましい。前記石油系樹脂及び/又はテルペン系樹脂の含有量が前記下限未満であると、粘着剤層の粘着力や皮膚への付着性が低下したり、ロチゴチンの類縁物質の生成抑制効果が十分に発揮されなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、薬物の経皮吸収性や粘着剤層の保形性が低下する傾向にある。
【0039】
<脂肪族アルコール>
本発明のロチゴチン安定化方法としては、前記粘着剤層に、脂肪族アルコールをさらに含有させることが好ましい。本発明において、脂肪族アルコールとは、飽和又は不飽和の、直鎖状又は分岐鎖状の、1価又は2価以上の脂肪族アルコールのことをいう。
【0040】
本発明に係る脂肪族アルコールとしては、1価であることが好ましい。また、本発明に係る脂肪族アルコールの炭素数としては、3~23であることが好ましく、12~23であることがより好ましく、経時安定性の観点からは、17~23であることがさらに好ましく、19~21であることが特に好ましく、皮膚透過性の観点からは、12~20であることが特に好ましい。前記脂肪族アルコールの炭素数が前記下限未満であると、沸点が低くなるために製剤中における含有量を一定に保つことが困難となって経時安定性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、粘着基剤や他の成分との相容性が低下する傾向にある。
【0041】
本発明に係る脂肪族アルコールとしては、例えば、イソプロパノール、ヘキシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オクチルドデカノール、オレイルアルコール、リノレニルアルコール、ヘキシルデカノールが挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、上記の経時安定性及び相容性の観点に加えて、ロチゴチンの皮膚透過性を特に向上させる傾向にあるという観点から、本発明に係る脂肪族アルコールとしては、オクチルドデカノール及びラウリルアルコールからなる群から選択される少なくとも1種であることが特に好ましい。
【0042】
本発明において、前記粘着剤層中に含有させる前記脂肪族アルコールの含有量としては、2種以上である場合には合計で、前記粘着剤層の全質量に対して1~15質量%であることが好ましく、1~10質量%であることがより好ましく、2~7質量%であることがさらに好ましく、3~7質量%であることが特に好ましい。前記脂肪族アルコールの含有量が前記下限未満であると、ロチゴチンの皮膚透過性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、粘着基剤や他の成分との相容性が低下する傾向にある。
【0043】
<その他成分>
本発明のロチゴチン安定化方法の対象となるロチゴチン含有貼付剤の粘着剤層としては、本発明の効果を阻害しない範囲内において、ロチゴチン及びその薬学的に許容される塩以外の他の薬物;前記スチレン系熱可塑性エラストマー以外の他の粘着基剤;前記石油系樹脂及びテルペン系樹脂以外の他の粘着付与剤;前記脂肪族アルコール以外の他の吸収促進剤;吸着剤、脱塩剤、可塑剤、溶解剤、充填剤、安定化剤、保存剤等の添加剤をさらに含有していてもよい。
【0044】
(他の薬物)
前記ロチゴチン及びその薬学的に許容される塩以外の他の薬物としては、例えば、非ステロイド性消炎鎮痛剤(ジクロフェナク、インドメタシン、ケトプロフェン、フェルビナク、ロキソプロフェン、イブプロフェン、フルルビプロフェン、チアプロフェン、アセメタシン、スリンダク、エトドラク、トルメチン、ピロキシカム、メロキシカム、アンピロキシカム、ナプロキセン、アザプロパゾン、サリチル酸メチル、サリチル酸グリコール、バルデコキシブ、セレコキシブ、ロフェコキシブ、アンフェナク等)、解熱鎮痛薬(アセトアミノフェン等)、抗ヒスタミン剤(ジフェンヒドラミン、クロルフェニラミン、メキタジン、ホモクロルシクロジン等)、降圧剤(ジルチアゼム、ニカルジピン、ニルバジピン、メトプロロール、ビソプロロール、トランドラプリル等)、抗パーキンソン剤(ぺルゴリド、ロピニロール、ブロモクリプチン、セレギリン等)、気管支拡張剤(ツロブテロール、イソプレテノロール、サルブタモール等)、抗アレルギー剤(ケトチフェン、ロラタジン、アゼラスチン、テルフェナジン、セチリジン、アシタザノラスト等)、局所麻酔剤(リドカイン、ジブカイン等)、神経障害性疼痛治療薬(プレガバリン等)、非麻薬性鎮痛薬(ブプレノルフィン、トラマドール、ペンタゾシン)、麻酔系鎮痛剤(モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル等)、泌尿器官用剤(オキシブチニン、タムスロシン等)、精神神経用剤(プロマジン、クロルプロマジン等)、ステロイドホルモン剤(エストラジオール、プロゲステロン、ノルエチステロン、コルチゾン、ヒドロコルチゾン等)、抗うつ剤(セルトラリン、フルオキセチン、パロキセチン、シタロプラム等)、抗痴呆薬(ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン等)、抗精神病薬(リスペリドン、オランザピン等)、中枢神経興奮剤(メチルフェニデート等)、骨粗しょう症治療薬(ラロキシフェン、アレンドロネート等)、乳がん予防薬(タモキシフェン等)、抗肥満薬(マジンドール、ジブトラミン等)、不眠症改善薬(メラトニン等)、抗リウマチ薬(アクタリット等)が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
本発明において、これらの他の薬物が前記粘着剤層中にさらに含有される場合、その含有量としては、2種以上である場合には合計で、前記粘着剤層の全質量に対して10質量%以下であることが好ましい。
【0046】
(他の粘着基剤)
前記スチレン系熱可塑性エラストマー以外の他の粘着基剤としては、例えば、前記スチレン系熱可塑性エラストマー以外のゴム系粘着基剤、アクリル系粘着基剤、及びシリコーン系粘着基剤が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
前記スチレン系熱可塑性エラストマー以外のゴム系粘着基剤としては、イソプレンゴム、ポリイソブチレン(PIB)、ポリブテン等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、粘着剤層の粘着性及び凝集力がより向上する傾向にある観点から、ポリイソブチレンを用いることが好ましく、その場合にはスチレン系熱可塑性エラストマー(より好ましくはスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体)とポリイソブチレンとの質量比(スチレン系熱可塑性エラストマーの質量:PIBの質量)が1:2~30:1(さらに好ましくは1:1~10:1の範囲)であることがより好ましい。
【0048】
前記アクリル系粘着基剤としては、「医薬品添加物事典2016(日本医薬品添加剤協会編集)」に粘着剤として収載されているアクリル酸・アクリル酸オクチルエステル共重合体、アクリル酸2-エチルヘキシル・ビニルピロリドン共重合体、アクリル酸エステル・酢酸ビニルコポリマー、アクリル酸2-エチルヘキシル・メタクリル酸2-エチルヘキシル・メタクリル酸ドデシル共重合体、アクリル酸メチル・アクリル酸2-エチルヘキシル共重合樹脂、アクリル酸2-エチルヘキシル・アクリル酸メチル・アクリル酸・メタクリル酸グリシジル共重合体、アクリル酸2-エチルヘキシル・酢酸ビニル・アクリル酸ヒドロキシエチル・メタクリル酸グリシジル共重合体、アクリル酸2-エチルヘキシル・ジアセトンアクリルアミド・メタクリル酸アセトアセトキシエチル・メタクリル酸メチル共重合体、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー、アクリル樹脂アルカノールアミン液に含有されるアクリル系高分子等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
前記シリコーン系粘着基剤としては、ポリジメチルシロキサン(ASTMD-1418による表示ではMQと表されるポリマー等)、ポリメチルビニルシロキサン(ASTMD-1418による表示ではVMQと表されるポリマー等)、ポリメチルフェニルシロキサン(ASTMD-1418による表示ではPVMQと表されるポリマー等)等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
本発明において、これらの他の粘着基剤がさらに含有される場合、その含有量としては、2種以上である場合には合計で、前記粘着剤層の全質量に対して10質量%以下であることが好ましい。
【0051】
(他の粘着付与剤)
本発明に係るロチゴチン含有貼付剤において、粘着付与剤は、主に前記粘着基剤の粘着性を高めることを目的として配合される。前記他の粘着付与剤としては、前記石油系樹脂及びテルペン系樹脂以外の粘着付与樹脂、例えば、ロジン系樹脂、フェノール系樹脂及びキシレン系樹脂が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明において、これらの他の粘着付与剤がさらに含有される場合、その含有量としては、2種以上である場合には合計で、前記粘着剤層の全質量に対して10質量%以下であることが好ましい。
【0052】
(他の吸収促進剤(経皮吸収促進剤))
前記他の吸収促進剤としては、前記脂肪族アルコール以外の薬物の経皮吸収促進作用を有するものが挙げられ、例えば、炭素数6~20の脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、又は脂肪族アルコールエーテル;芳香族有機酸;芳香族アルコール;芳香族有機酸エステル又はエーテル;POE硬化ヒマシ油類;レシチン類;リン脂質;大豆油誘導体;トリアセチンが挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明において、これらの吸収促進剤がさらに含有される場合、その含有量としては、2種以上である場合には合計で、前記粘着剤層の全質量に対して10質量%以下であることが好ましい。
【0053】
(添加剤)
〔吸着剤〕
前記吸着剤としては、吸湿性を有する無機及び/又は有機の物質が挙げられ、より具体的には、タルク、カオリン、ベントナイト等の鉱物;フュームドシリカ(アエロジル(登録商標)等)、含水シリカ等のケイ素化合物;酸化亜鉛、乾燥水酸化アルミニウムゲル等の金属化合物;乳酸、酢酸等の弱酸;デキストリン等の糖;ポリビニルピロリドン(非架橋PVP)、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、カルボキシビニルポリマー及びブチルメタクリレートメチルメタクリレートコポリマー等の高分子ポリマーが挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明において、これらの吸着剤が前記粘着剤層中にさらに含有される場合、その含有量としては、2種以上である場合には合計で、前記粘着剤層の全質量に対して10質量%以下であることが好ましい。
【0054】
〔脱塩剤〕
前記脱塩剤は、主に塩基性薬物の全部又は一部を遊離体に変換することを目的として配合される。このような脱塩剤としては、特に限定はされないが、例えば、前記薬物として薬物の酸付加塩を配合して遊離体の薬物を含有する製剤を得る場合には、塩基性物質であることが好ましく、金属イオン含有脱塩剤、塩基性窒素原子含有脱塩剤であることがより好ましい。前記金属イオン含有脱塩剤としては、酢酸ナトリウム(無水酢酸ナトリウムを含む)、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、クエン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、本発明に係る粘着剤層としては、前記塩基性薬物及び前記脱塩剤に由来する化合物(例えば、塩酸ロチゴチンと酢酸ナトリウムとを組み合わせた場合には、塩化ナトリウム)をさらに含有していてもよい。本発明において、これらの脱塩剤、並びに、塩基性薬物及び脱塩剤に由来する化合物が前記粘着剤層中にさらに含有される場合、その含有量としては、2種以上である場合には合計で、前記粘着剤層の全質量に対して10質量%以下であることが好ましい。
【0055】
〔可塑剤〕
前記可塑剤は、主に前記粘着剤層の粘着物性、前記粘着剤層の製造における流動特性、前記薬物の経皮吸収特性等を調整することを目的として配合される。このような可塑剤としては、例えば、シリコーンオイル;パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル及び芳香族系プロセスオイル等の石油系オイル;スクワラン、スクワレン;オリーブ油、ツバキ油、ひまし油、トール油及びラッカセイ油等の植物系オイル;ジブチルフタレート及びジオクチルフタレート等の二塩基酸エステル;ポリブテン及び液状イソプレンゴム等の液状ゴム;ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、前記可塑剤としては、シリコーンオイル、流動パラフィン、及び液状ポリブテンからなる群から選択される1種又は2種以上の組み合わせが好ましい。本発明において、これらの可塑剤が前記粘着剤層中にさらに含有される場合、その含有量としては、2種以上である場合には合計で、粘着剤層の粘着力の向上及び/又は剥離時の局所刺激性の緩和という観点から、前記粘着剤層の全質量に対して5~30質量%であることが好ましく、10~20質量%であることがより好ましい。
【0056】
〔溶解剤・充填剤〕
前記溶解剤としては、例えば、酢酸等の有機酸、界面活性剤が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、前記充填剤は主に前記粘着剤層の粘着力を調整することを目的として配合され、該充填剤としては、例えば、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム;ケイ酸アルミニウムやケイ酸マグネシウム等のケイ酸塩;ケイ酸、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、亜鉛酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化チタンが挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
〔安定化剤〕
前記安定化剤としては、例えば、アスコルビン酸又はその金属塩若しくはエステル(好ましくは、ナトリウム塩、パルミチン酸エステル)、イソアスコルビン酸又はその金属塩(好ましくは、ナトリウム塩)、エチレンジアミン四酢酸又はその金属塩(好ましくは、カルシウム二ナトリウム塩、四ナトリウム塩)、システイン、アセチルシステイン、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、没食子酸プロピル、ペンタエリスリチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール、酢酸トコフェロール、チモール、大豆レシチン、ルチン、ジヒドロキシ安息香酸、ジクロイソシアヌール酸カリウム、クエルセチン、ヒドロキノン、ヒドロキシメタンスルフィン酸金属塩(好ましくは、ナトリウム塩)、メタ重亜硫酸金属塩(例えば、ナトリウム塩)、亜硫酸金属塩(好ましくは、ナトリウム塩)、チオ硫酸金属塩(好ましくは、ナトリウム塩)が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記において、金属塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩が挙げられる。また、エステルとしては、パルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、ミリスチン酸エステルなどが挙げられる。
【0058】
本発明において、これらの安定化剤が前記粘着剤層中にさらに含有される場合、その含有量としては、2種以上である場合には合計で、前記粘着剤層の全質量に対して10質量%以下であることが好ましい。
【0059】
〔保存剤〕
前記保存剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸誘導体、ベンジルアルコール、フェノール、クレゾール等が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
上記の添加剤が前記粘着剤層中にさらに含有される場合、その含有量としては、2種以上である場合には合計で、前記粘着剤層の全質量に対して40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0061】
本発明に係る粘着剤層としては、特に制限されないが、単位面積(貼付面の面積)あたりの質量(製造後の厚さ)が20~200g/mであることが好ましく、30~100g/mであることがより好ましく、30~70g/mであることがさらに好ましい。また、本発明に係る粘着剤層の貼付面の面積(製造後の面積)としては、治療の目的や適用対象に応じて適宜調整することができ、特に制限されないが、通常、0.5~200cmの範囲である。
【0062】
本発明のロチゴチン安定化方法は、前記ロチゴチン含有貼付剤の前記粘着剤層に、架橋ポリビニルピロリドンを上記の所定量となるように含有させる方法である。
【0063】
前記ロチゴチン含有貼付剤は、特に制限されず、公知の貼付剤の製造方法を適宜採用することによって製造することができる。例えば、先ず、ロチゴチン及び/又はその薬学的に許容される塩、前記スチレン系熱可塑性エラストマー、及び必要に応じて溶媒や前記その他成分を常法にしたがって練合して均一な粘着剤層組成物を得る。前記ロチゴチン及び/又はその薬学的に許容される塩としてロチゴチン遊離体を用いる場合には、そのI型結晶であってもII型結晶であっても非晶質型であってもよく、I型結晶、II型結晶、及び非晶質型のうちの少なくとも2種以上の混合物であってもよい。また、前記ロチゴチン及び/又はその薬学的に許容される塩としては、前記溶媒に溶解させたものを用いてもよい。前記溶媒としては、無水エタノール、トルエン、ヘプタン、メタノール、酢酸エチル、ヘキサン、及びこれらのうちの少なくとも2種以上の混合液等が挙げられる。
【0064】
次いで、この粘着剤層組成物を前記支持体層の面上(通常は一方の面上)に所望の単位面積あたり質量となるように展延した後、必要に応じて加温して前記溶媒を乾燥除去して粘着剤層を形成し、さらに必要に応じて所望の形状に裁断することにより、本発明に係るロチゴチン含有貼付剤を得ることができる。
【0065】
また、前記ロチゴチン含有貼付剤の製造方法としては、前記粘着剤層の前記支持体層と反対の面上に前記剥離ライナーを貼り合わせる工程をさらに含んでいてもよく、前記粘着剤層組成物を先ず前記剥離ライナーの一方の面上に所望の単位面積あたり質量となるように展延して粘着剤層を形成した後に、前記粘着剤層の前記剥離ライナーと反対の面上に前記支持体層を貼り合わせ、必要に応じて所望の形状に裁断することによって本発明に係るロチゴチン含有貼付剤を得てもよい。さらに、得られた貼付剤は、必要に応じて、保存用包装容器(例えば、アルミラミネート袋)に封入して包装体としてもよい。
【0066】
本発明のロチゴチン安定化方法において、前記粘着剤層に架橋ポリビニルピロリドンを含有させる方法としては、特に制限されず、例えば、前記ロチゴチン含有貼付剤の製造方法において、ロチゴチン及び/又はその薬学的に許容される塩、前記スチレン系熱可塑性エラストマー、及び必要に応じて前記溶媒やその他成分に、架橋ポリビニルピロリドンの含有量が上記の所定量となるように添加して、さらに必要に応じて、前記抗酸化剤、前記石油系樹脂及び/又はテルペン系樹脂、前記脂肪族アルコール等を添加して、常法にしたがって練合し、均一な粘着剤層組成物を得て、これを前記粘着剤層組成物として用いる方法が挙げられる。
【実施例
【0067】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、各実施例及び比較例において、皮膚透過試験及び安定性評価は、それぞれ、以下に示す方法により行った。
【0068】
<皮膚透過試験(インビトロ(in vitro)ヘアレスマウス皮膚透過試験)>
先ず、ヘアレスマウス胴体部の皮膚を剥離して脂肪を除去した脂肪除去皮膚片の角質層側に1.0cmの正方形に切断して剥離ライナーを除去した貼付剤を貼付して試験サンプルとした。これを真皮側がレセプター液に接するようにフロースルー型拡散セルにセットし、前記セルにレセプター溶液(リン酸緩衝生理食塩水)を満たした。次いで、レセプター溶液が32℃に保温されるように、暖めた循環水を外周部に循環させながら約5mL/hrの流速でレセプター溶液を送液し、2時間毎に24時間までレセプター溶液を採取した。採取したレセプター溶液中のロチゴチン濃度を高速液体クロマトグラフ法により測定し、それぞれ、次式:
ロチゴチン皮膚透過量(μg/cm)={レセプター溶液中のロチゴチン濃度(μg/mL)×流量(mL)}/貼付剤面積(cm
により、粘着剤層の単位面積あたりにおけるロチゴチン皮膚透過量を算出し、1時間あたりの皮膚透過量(皮膚透過速度(μg/cm/hr))を求めた。測定はそれぞれ2つの試験サンプルについて行い、各皮膚透過速度の24時間内における最大値の平均値を最大皮膚透過速度(Jmax)とした。
【0069】
<安定性評価>
各実施例及び比較例で得られた貼付剤をアルミラミネート製袋に封入して試験サンプルとし、これを60℃において2週間保存した。保存後の貼付剤から剥離ライナーを除き、粘着剤層をテトラヒドロフランに溶解させた溶液に、下記の移動相液を全量が50mLとなるように加えてフィルターで濾過したものを試料溶液として、高速液体クロマトグラフィー装置(株式会社島津製作所製、カラム:ODSカラム、移動相液:アセトニトリルと0.01mol/Lのドデシル硫酸ナトリウムを含む0.1%リン酸緩衝液との混液(55:45)、検出波長:225nm)を用いて、試料溶液中のロチゴチンのピークエリア面積を求めた。また、保存前(製造直後)の試験サンプルについても同様にして試料溶液中のロチゴチンのピークエリア面積を求めた。次いで、下記式:
ロチゴチン含有量変化[質量%]=A/B×100
[式中、Aは保存後の試験サンプルにおけるロチゴチンのピークエリア面積を示し、Bは保存前の試験サンプルにおけるロチゴチンのピークエリア面積を示す。]
により、各貼付剤の保存による粘着剤層中のロチゴチン含有量変化[質量%]を算出し、安定性評価の値とした。なお、6.5付近の位置に現れるピークエリアをロチゴチンのピークエリアとした。
【0070】
(実施例1)
先ず、ロチゴチン(遊離体)9.0質量部、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体13.36質量部、ポリイソブチレン5.72質量部、脂環族飽和炭化水素樹脂48.66質量部、流動パラフィン15.26質量部、及びオクチルドデカノール5質量部に、架橋ポリビニルピロリドン(架橋PVP)3質量部を添加し、適量の溶媒(無水エタノール及びトルエン)に加えて混合し、粘着剤層組成物を得た。次いで、得られた粘着剤層組成物を剥離ライナー(離型処理が施されたポリエチレンテレフタレート製フィルム)上に展延し、溶媒を乾燥除去して、単位面積あたり質量が50g/mとなるように粘着剤層を形成した。得られた粘着剤層の前記剥離ライナーと反対の面上に支持体層(ポリエチレンテレフタレート製フィルム)を積層し、支持体層/粘着剤層/剥離ライナーの順に積層された貼付剤を得た。
【0071】
(実施例2~6、比較例1~3)
粘着剤層組成物の組成(溶媒を除く)を下記の表1に示す組成となるようにしたこと以外は実施例1と同様にして、各貼付剤を得た。
【0072】
実施例1~6及び比較例1~3で得られた貼付剤について皮膚透過試験及び安定性評価(製造2週間後、60℃)を実施した。安定性評価の結果を各実施例及び比較例の粘着剤層組成物の組成(溶媒を除く)とあわせてそれぞれ表1に示す。なお、皮膚透過試験の結果、実施例1~6においては、十分に優れた最大皮膚透過速度(Jmax)[μg/cm/hr]が達成されることが確認された(例えば、実施例6で12.5μg/cm/hr)。
【0073】
【表1】
【0074】
(実施例7~9)
粘着剤層組成物の組成(溶媒を除く)を下記の表2に示す組成となるようにしたこと以外は実施例1と同様にして、各貼付剤を得た。
【0075】
実施例7~9で得られた貼付剤について安定性評価(製造2週間後、60℃)を実施した。安定性評価の結果を各実施例の粘着剤層組成物の組成(溶媒を除く)とあわせてそれぞれ表2に示す。
【0076】
【表2】
【0077】
表1~表2に示した結果から明らかなように、所定量の架橋ポリビニルピロリドンを粘着剤層中に含有させた貼付剤(例えば、実施例1~9)においては、温度60℃という過酷条件下、製造2週間後においても、粘着剤層中におけるロチゴチン含有量は製造直後と変わらずに高い水準のまま維持されており、ロチゴチンが高水準で安定化されていることが確認された。また、2-メルカプトベンズイミダゾールを粘着剤層中にさらに含有させることにより(例えば、実施例2、5、6)、さらに優れた安定性が発揮されることが確認された。他方、比較例1~3で得られた貼付剤においては、保存後のロチゴチン含有量は十分に高いものの、本発明のロチゴチン安定化方法を実施した貼付剤に比べるとその安定性は低く(例えば、比較例1)、抗酸化剤である2-メルカプトベンズイミダゾールを粘着剤層中にさらに含有させても(例えば、比較例2~3)、本発明のロチゴチン安定化方法を実施した貼付剤程にはロチゴチンの安定性が向上しないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0078】
以上説明したように、本発明によれば、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体を含有する貼付剤の粘着剤層におけるロチゴチン及び/又はその薬学的に許容される塩を高水準で安定化することが可能なロチゴチン安定化方法を提供することが可能となる。