(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】貫通スリーブ
(51)【国際特許分類】
F16L 5/00 20060101AFI20220825BHJP
【FI】
F16L5/00 Q
(21)【出願番号】P 2021001237
(22)【出願日】2021-01-07
(62)【分割の表示】P 2017193449の分割
【原出願日】2017-10-03
【審査請求日】2021-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000119830
【氏名又は名称】因幡電機産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】特許業務法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】岩松 毅
【審査官】岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】実開平07-021819(JP,U)
【文献】特開2010-175246(JP,A)
【文献】特開2012-166844(JP,A)
【文献】特開2000-240268(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物における壁の、手前側から奥側まで貫通する貫通穴に設置される貫通スリーブであって、
前記貫通穴に前記手前側から挿入される本体部と、
前記本体部における前記奥側の端部に備えられ、前記奥側の径寸法を一定に定めることで、前記本体部を前記奥側が窄まった先窄まり形状とする固定部と、を備え、
前記固定部は、係止部と、当該係止部とは周方向で異なる位置に設けられ、前記係止部
を係止する被係止部を有しており、前記本体部における前記手前側の端部を操作すること
により、前記奥側における前記係止部と前記被係止部との係止状態を解除でき
、当該解除によって前記壁に対する施工を完了できる貫通スリーブ。
【請求項2】
前記固定部は、前記本体部の一部として備えられる、請求項1に記載の貫通スリーブ。
【請求項3】
前記本体部における前記手前側の端部に一体に設けられ、前記壁における前記手前側の壁面に沿うように設置されるカバー部を更に備え、
前記カバー部は、周方向に連結された複数のカバー片から構成され、
周方向に隣り合う前記カバー片同士は、前記本体部における前記周方向端部間に対応する端部を除いて回動可能に接続されている、請求項1または2に記載の貫通スリーブ。
【請求項4】
前記本体部における前記手前側の端部に一体に設けられ、前記壁における前記手前側の壁面に沿うように設置されるカバー部を更に備え、
前記カバー部は、周方向に連結された複数のカバー片から構成され、
前記複数のカバー片のうち一部につき、隣り合うカバー片同士が周方向にスライド可能に接続されている、請求項1または2に記載の貫通スリーブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物における壁の貫通穴に設置される貫通スリーブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物における壁の貫通穴には種々のサイズがある。従来の貫通スリーブは切れ目のない筒状であった。貫通穴のサイズに合わせてバリエーションはあったが、個々の貫通スリーブの径寸法は固定されていた。このため、貫通穴に対して必ずしも貫通スリーブのサイズ(径寸法)がぴったり合うわけではなく、施工現場で貫通穴と貫通スリーブとの隙間に防火パテを詰める等して対応していた。
【0003】
一方、特許文献1に記載の貫通スリーブは、径方向に2分割された一対のスリーブ片と、貫通穴の周囲を目隠しするための一対のプレート片を備えている。そして特許文献1には、前記一対のスリーブ片を、それぞれ重合度合いを調整して貫通穴に挿入することにより、種々の径寸法の貫通穴に合わせられると記載されている。しかし、スリーブ片とプレート片とは別体であって、貫通穴に対して別個に取り付ける必要があったため、特許文献1に記載の貫通スリーブでは、現場での施工性に改良の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4196383号公報(
図1、請求項1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、施工性の良い貫通スリーブを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、建築物における壁の、手前側から奥側まで貫通する貫通穴に設置される貫通スリーブであって、前記貫通穴に前記手前側から挿入される本体部と、前記本体部の軸方向における少なくとも一部の径寸法を一定に定める固定部と、を備え、前記固定部は、係止部と、当該係止部とは周方向で異なる位置に設けられ、前記係止部を係止する被係止部を有しており、前記本体部における前記手前側の端部を操作することにより、前記係止部と前記被係止部との係止状態を解除できる貫通スリーブである。
【0007】
また、前記固定部は、前記本体部における前記奥側の端部に備えられることができる。
【0008】
また、前記固定部は、前記本体部の一部として備えられることができる。
【0009】
また、前記本体部における前記手前側の端部に一体に設けられ、前記壁における前記手前側の壁面に沿うように設置されるカバー部を更に備え、前記カバー部は、周方向に連結された複数のカバー片から構成され、周方向に隣り合う前記カバー片同士は、前記本体部における前記周方向端部間に対応する端部を除いて回動可能に接続されていることができる。
【0010】
また、前記本体部における前記手前側の端部に一体に設けられ、前記壁における前記手前側の壁面に沿うように設置されるカバー部を更に備え、前記カバー部は、周方向に連結された複数のカバー片から構成され、前記複数のカバー片のうち一部につき、隣り合うカバー片同士が周方向にスライド可能に接続されていることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、施工性の良い貫通スリーブを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る貫通スリーブを示し、手前側を上方に示した斜視図である。
【
図2】前記貫通スリーブの、本体部とカバー部との組み立て前の状態を示す斜視図である。
【
図3】前記貫通スリーブのカバー部を単体で示す平面図である。
【
図4】前記貫通スリーブで固定部を備えたものを示し、(a)は全体の概略的な斜視図であり、(b)は係止部を拡大表示したもので、(c)は被係止部を拡大表示したものである。
【
図5】前記貫通スリーブで固定部を備えたものであって、係合部と被係合部とが係合した状態を示し、(a)は全体の概略的な斜視図であり、(b)は固定部を拡大表示したものである。
【
図6】前記貫通スリーブを中空壁(断面表示)に挿入する様子を示す側面図であり、(a)は挿入途中の状態を示し、(b)は挿入後の状態を示す。
【
図7】(a)(b)とも、前記係合部の他の形態の一例を示す要部拡大斜視図である。
【
図8】本発明の他の実施形態に係る貫通スリーブを示す概略的な斜視図であって、(a)はカバー片が離れ方向にスライドした状態を示し、(b)はカバー片が接近方向にスライドした状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明につき、実施形態を取り上げて説明を行う。なお、以下の説明における「手前側」及び「奥側」との表現は、建築物の壁面Wsのそばに立った作業者から見た場合の方向を示す表現である。
【0014】
本実施形態の貫通スリーブ1は、間隔をおいて対向する板状体から構成された中空壁(
図6(a)(b)参照)への施工に好適なものである。なお、本実施形態の貫通スリーブ1を中実壁に対して施工することももちろん可能である。
【0015】
本実施形態の貫通スリーブ1は、
図1に示す形状であって、
図6(b)に示すように、建築物における壁W、具体的には、中空壁Wの、手前側から奥側まで貫通する貫通穴Hに設置される。説明の都合上、壁Wは垂直方向に延びており、貫通穴Hは前記壁Wにおいて水平方向に延びるように設けられていることを前提とする。ただし、本発明の適用対象の壁Wはこの態様に限定されるものではない。この貫通スリーブ1は、平坦な鋼板からなり、本体部2とカバー部3とを備えている。
【0016】
本体部2は、前記貫通穴Hに手前側から挿入される部分である。この本体部2は、平坦な鋼板が丸められた筒状の部分である。鋼板は汎用性が高くて加工が容易な材料のひとつであるから、鋼板を用いることにより貫通スリーブ1の製造コストを低減可能である。そして、鋼板のような剛性の大きい材料のひとつを用いることで、筒状とされた本体部2でも剛性を確保できるので、壁Wが、内部に空間が存在しており本体部2を外側から支持できない中空壁であっても、
図6(a)に示すように、形状を保ちつつ本体部2を確実に貫通穴Hに挿入していくことができる。このように本実施形態の貫通スリーブ1は、貫通穴Hに挿入する際の形態(
図6(a)参照)における剛性が、中空壁における手前側の板部から挿入して空間部を通って奥側の板部まで至らせることのできる剛性とされている。ここで、前記筒状とは、具体的には設置時における、軸方向(手前側と奥側とを結ぶ方向)に直交する断面で「C形」である略円筒状であって、周方向に一箇所「切れ目」のある形状である。この「切れ目」は、手前側の端部から奥側の端部に亘って存在する。このような形状であることに伴い、本体部2は丸められた状態における周方向端部21,21同士は固定的な関係になく、前記端部同士を周方向に離したり、周方向に近づけて径方向に重ね合ったりさせることができる。このため本体部2は、丸められた状態における周方向端部21,21間の距離に応じて径寸法が可変となる。
【0017】
このように、本実施形態の本体部2は径寸法可変に構成される。このため、周方向端部21,21同士を周方向に離すことで、本体部2に径方向の内外に連通した空間2sを確保して、この空間2sに配管または電気配線を入れる作業を容易にできる。そして、前記端部同士を径方向に重ね合わせることで、本体部2の径寸法を縮小させられる。そうすると、後述のように、貫通穴Hに本体部2を挿入する作業を容易にできる。
【0018】
図2に示すように、本体部2における手前側の端縁からは、複数のカバー部係止片22…22が突出している。本実施形態では、本体部2における本体部分と複数のカバー部係止片22…22とは一体に形成されている。各カバー部係止片22は、
図1に示すように、カバー部3を、本体部2における手前側の端部に一体に設けるために用いられる。
【0019】
また、
図4(a)に示すように、本体部2は固定部23を備えている。固定部23は本体部2の軸方向における少なくとも一部の径寸法を一定に定めることのできる部分であって、係止部231と被係止部232とを有する。本実施形態の係止部231は、
図4(b)に示すように、本体部2における一方側の周方向端部21のうちで奥側の端部に備えられる。なお、本実施形態の説明における「端部」とは、端縁及び端縁近傍の領域(端縁の内側の領域)を示す概念である。この係止部231では、本体部2を構成する板状体の、周方向端縁の近傍部分が切り欠かれ、径内側に折り曲げられることで、フック状の固定部係止片2311が形成されている。固定部係止片2311は、手前側及び周方向端部21における端縁の外側に対して開いた形状とされている。
【0020】
一方、被係止部232は、前記係止部231とは周方向で異なる位置に設けられ、前記係止部231を係止することのできる部分である。本実施形態の被係止部232は、
図4(c)に示すように、本体部2における奥側の端部に備えられる。この被係止部232は、本体部2を構成する板状体の奥側端縁の近傍部分が切り欠かれた部分である。
【0021】
図5(a)に示すように、作業者は本体部2における奥側の端部を絞った先窄まり形状に変形させることができる。この際、被係止部232における切り欠かれた部分に、係止部231における固定部係止片2311を、径内方向に差し込んだ上で手前側に移動させる。こうすることで、
図5(b)に示すように、被係止部232に対して係止部231を引っ掛けて、両者を係止状態とすることができる。このように固定部23を係止状態とすることで、本体部2は、
図5(a)に示す先窄まり形状が保持される。
【0022】
そして固定部23は、本体部2における手前側の端部を操作することにより、係止部231と被係止部232との係止状態を解除できるよう構成されている。本実施形態では、本体部2のうち係止部231が設けられた側を、作業者が奥側(
図5(b)に示す方向D)に押すことにより、被係止部232に対する係止部231の引っ掛かりが外れて、係止状態を解除できる。
【0023】
このように、本実施形態の貫通スリーブ1は固定部23を備えたことにより、本体部2の径寸法を貫通穴Hの径寸法よりも小さくした状態で、本体部2を貫通穴Hに挿入できる(
図6(a)参照)。このため、引っ掛かりなく挿入作業できる。特に壁Wが中空壁の場合、奥側の貫通穴端部(
図6(a)の右方に示す)に引っ掛りにくいという利点がある。このため、奥側の貫通穴端部に引っ掛ることにより、中空壁を構成する奥側の板状体を破損してしまうことを防止できる。しかも、挿入作業終了後は容易に係合状態を解除して、貫通穴Hに対して本体部2を沿わせることができる。このため、本実施形態の貫通スリーブ1は、中空壁への施工に好適である。
【0024】
また、本実施形態の固定部23は、本体部2における奥側の端部に備えられる。このため、係止部231と被係止部232とを係止することで、本体部2を容易に先窄まり形状とできる。そして、本体部2の全体を窄める場合に比べて、本体部2の手前側の端部をあまり窄めなくてよい。また、本体部2の全体を窄めることでカバー部3を前記先窄まり形状における先端の径と同径まで窄めようとすると、カバー部3に無理な力がかかって、本体部2の周面側に倒れ変形してしまいやすいが、これを避けることができる。そして、前記倒れ変形が起こらないようにするには、例えばカバー部3を本実施形態の4分割よりも多数に分割するなどして、本体部2の窄まりに対応させる必要があるが、このような対処の必要がない。
【0025】
また、本実施形態の固定部23は、本体部2の一部として備えられている。このため、固定部23を本体部2と別体に形成した構成に比べ、貫通スリーブ1の構成を単純化できる利点がある。
【0026】
次に、カバー部3は、建築物における壁Wにおける手前側の壁面Wsに沿うように設置される部分である。カバー部3が貫通穴Hの周縁を覆うように位置することで、貫通穴Hの周縁(綺麗な形状でないことがある)が露出しなくなるため、美観を保つことができる。このカバー部3は、少なくとも一箇所で本体部2に接続されており、この接続された箇所を除き、本体部2における周方向端部21,21間の距離の変化に追従可能とされている。本実施形態では、
図3上の下端部において、リベット、ハトメ等の接続具4を介して、カバー部3が本体部2に接続されている。
【0027】
カバー部3は、周方向に連結された複数のカバー片31…31から構成されている。各カバー片31は、本体部2と同じく、平坦な鋼板から形成されている。各カバー片31は、本実施形態では、全周が4分割された形状の4半環状体とされている。カバー片31の内径の曲率は、本体部2の曲率と略一致している。各カバー片31の周方向両端部には、周方向に隣り合うカバー片31,31同士を接続するための接続穴311,311が設けられている。本実施形態の接続穴311は円形の穴である。そして、径内方向には本体部2を接続するための接続片312が突出している。各接続片312には、周方向に沿う長穴313が形成されており、この長穴313に本体部2のカバー部係止片22が通される。
図1に示すように各カバー部係止片22を径外側に折り曲げ、カバー部3の接続片312を奥側に折り曲げることで、カバー部3を本体部2に一体に設けることができる。各長穴313の周方向寸法は各カバー部係止片22の周方向寸法よりも大きく形成されている。このため、カバー部3は、本体部2の手前側の端部に対し、周方向のずれを許容するように接続される。従って、カバー部3を本体部2における周方向端部21,21間の距離の変化に容易に追従させられる。
【0028】
本実施形態のカバー部3は、
図3に示すように、4枚のカバー片31…31が周方向端部21に重ねられて接続されている。
図3上で「固定」と示した部分(図示左右部分及び下部分)において、リベット、ハトメ等の接続具4が接続穴311に通されることで、カバー片31,31同士が固定される。なお、カバー片31,31同士は、接続具4を中心に回動可能なように固定される。図示下部の接続穴311に関しては、接続具4が本体部2も一緒に固定する。このため、
図2に示すように本体部2には、接続穴241を有するカバー部接続片24が本体部2における手前側の端縁から突出して、径外側に曲げられて設けられている。
【0029】
ここで、
図3に示す上部分の接続穴311には接続具4が取り付けられず、当該接続穴311の左側に位置するカバー片31と右側に位置するカバー片31とは接続されない状態とされている。このようにカバー片31,31が接続されないことから、接続されない2枚のカバー片31,31は、
図3上で矢印と共に「可動」と示したように、本体部2の丸められた状態における周方向端部21,21同士の、周方向に離れたり近づけたりする状態変化に応じて、周方向に移動する。更に、
図3上で「固定」と示した部分も、接続具4を介して、隣り合う関係にある2枚のカバー片31,31が回動可能となっている。つまり、周方向に隣り合うカバー片31,31同士は、本体部2における前記周方向端部21,21間に対応する端部を除いて回動可能に接続される。このように構成されたカバー部3と本体部2との関係により、カバー部3を本体部2における周方向端部21,21間の距離の変化に容易に追従させられる。従って、カバー部3が本体部2に接続されたことにより、貫通スリーブ1の施工性が低下することはない。
【0030】
次に、本実施形態の貫通スリーブ1の施工手順の一例を簡単に説明する。建築物における壁W(この例では中空壁)の貫通穴Hに配管等が存在していない場合は、本体部2を
図5(a)に示すように先窄まり形状とする。また、貫通穴Hに既に配管等が貫通している場合は、まず、
図4(a)に示すような、本体部2における周方向端部21,21間が周方向に離れ、空間2sが内外連通した状態で、配管等を径内の空間2sに位置させる。その後、本体部2を先窄まり形状とする。先窄まり形状とする際には、
図5(b)に示すように、固定部23において被係止部232に対して係止部231を引っ掛けて、両者を係止状態とする。
【0031】
図5(a)に示す状態の貫通スリーブ1を、
図6(a)に示す矢印方向で、手前側から貫通穴Hに挿入していく。本体部2には剛性が確保されているので、壁Wが中空壁であっても、本体部2を確実に貫通穴Hに挿入していくことができる。本体部2が貫通穴Hの奥側に達し、カバー部3が手前側の壁面Wsに接した状態となったら、作業者は手前側から本体部2を操作して固定部23の係止状態を解除する。すると、本体部2は先窄まり形状ではなくなり、
図6(b)に示すように、貫通穴Hの内面に対して当接した状態となる。このように貫通穴Hに対して本体部2をぴったり合わせることができるので、従来のように施工現場で隙間に防火パテを詰める等して対応する必要がなく、施工を完了できる。なお、必要に応じて、奥側の壁面にも別体のカバー部を取り付けることができる。
【0032】
このように、本実施形態の貫通スリーブ1を用いて施工を実施することにより、本体部2とカバー部3とが一体であるので、貫通穴Hに本体部2を挿入すれば貫通穴の径寸法に本体部2を追従させられ、かつ、壁面Wsにカバー部3が設置された状態とできる。このため、隙間を埋める工程が不要であって、本体部2の挿入後に別にカバー部3を壁面Wsに取り付ける工程も不要となる。更に、カバー部3が本体部2における周方向端部21,21間の距離の変化に追従可能なので、本体部2を挿入するだけで、貫通スリーブ1の壁Wへの取り付け工程を完了できる。よって、現場での施工の手間がかからない利点がある。
【0033】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えることができる。
【0034】
例えば、前記実施形態では、貫通スリーブ1の施工時における挿入方向を手前側から奥側へ向かう方向としたが、逆に、奥側から手前側へ向かい挿入することもできる。
【0035】
また、本体部2とカバー部3は、前記実施形態では鋼板製であったが、種々の材料からなるものとできる。例えば合成樹脂製など、弾性変形及び弾性復帰可能な材料であれば使用できる。ただし、前記実施形態のように、本体部2とカバー部3が鋼板製のような不燃材料からなるものである場合には、本体部2及びカバー部3自体が燃えることによって防火機能が損なわれることはない。このため、防火区画の貫通部に配置することに支障を生じさせないようにできる。
【0036】
また、固定部23の形状は、前記実施形態に限定されず種々に変更することができる。例えば、
図7(a)に示すように、本体部2の一部を周方向端部21に沿って折り曲げることで固定部係止片2311を形成することができる。また、
図7(b)に示すように、
図7(a)に示したもの(2回折り曲げ)よりも簡略化した(1回折り曲げ)構成の固定部係止片2311とすることもできる。
【0037】
また、前記実施形態では、作業者が本体部2(具体的には周方向端部21)を軸方向に移動させることにより、係止(被係止部232に対して係止部231を引っ掛けた状態とする)及び係止解除(被係止部232に対して係止部231を外した状態とする)を行うように、固定部23が構成されていた。しかし、固定部23はこの構成に限定されるものではない。例えば、係止部と被係止部とが穴と突起との組み合わせとされ、径方向への移動により係止及び係止解除がなされるよう構成することもできる。
【0038】
また、前記実施形態の固定部23は本体部2における奥側の端部に備えられていた。しかし、固定部23の備えられる位置はこれに限定されず、種々の位置とできる。
【0039】
また、カバー部3に関し、複数のカバー片31…31のうち一部につき、隣り合うカバー片31,31同士が周方向にスライド可能に接続されることもできる。例えば
図8(a)(b)に示すように、複数のカバー片31…31の一部を周方向にスライド可能に構成することが挙げられる。
図8(a)は、可動とされた2枚のカバー片31,31が本体部2における周方向端部21,21間から離れた方向にスライドした状態を示し、
図8(b)は、可動な2枚のカバー片31,31が本体部2における周方向端部21,21間に接近するように図示矢印方向にスライドした状態を示す。このスライド可能な接続は、
図8(a)(b)に示す構成の他、例えば、隣り合うカバー片31,31のうち一方には周方向に延びる長穴を、他方には前記長穴を貫通する突起等を形成しておくことにより、スライド可能とした構成で実現してもよい。
【0040】
また、固定部23につき、前記実施形態では本体部2の一部として備えられていたが、本体部2とは別体とすることもできる。例えば、本体部2の径外位置に巻き付けることのできるリング状体や紐状体とすることができる。別体とする場合の形状はこれに限定されず、種々の形状とすることができる。
【0041】
また、前記実施形態の貫通スリーブ1の設置対象である「壁」の概念には床や天井も含まれる。このため、前記実施形態の貫通スリーブ1は種々の態様で設置できる。
【0042】
また本発明は、建築物における壁の、手前側から奥側まで貫通する貫通穴に設置される貫通スリーブであって、前記貫通穴に前記手前側から挿入される本体部と、前記本体部における前記手前側の端部に一体に設けられ、前記壁における前記手前側の壁面に沿うように設置されるカバー部と、を備え、前記本体部は、板状体が丸められた筒状であり、その丸められた状態における周方向端部間の距離に応じて当該本体部の径寸法が可変とされており、前記カバー部は、少なくとも一箇所で前記本体部に接続されており、前記接続された箇所を除き、前記本体部における前記周方向端部間の距離の変化に追従可能とされている、貫通スリーブであってもよい。
【0043】
この構成によれば、本体部とカバー部とが一体であるので、貫通穴に本体部を挿入すれば貫通穴の径寸法に本体部を追従させられ、かつ、壁面にカバー部が設置された状態とできる。更に、カバー部が本体部における周方向端部間の距離の変化に追従可能なので、現場での施工の手間がかからない。
【0044】
また、前記本体部の軸方向における少なくとも一部の径寸法を一定に定める固定部を更に備え、前記固定部は、係止部と、当該係止部とは周方向で異なる位置に設けられ、前記係止部を係止する被係止部とを有しており、前記本体部における前記手前側の端部を操作することにより、前記係止部と前記被係止部との係止状態を解除できるよう構成されていてもよい。
【0045】
この構成によれば、固定部により、本体部の径寸法を貫通穴の径寸法よりも小さくした状態で本体部を貫通穴に挿入できる。このため、引っ掛かりなく挿入作業できる。特に壁が中空壁の場合、奥側の貫通穴端部に引っ掛りにくいという利点がある。しかも、挿入作業終了後は容易に係合状態を解除して、貫通穴に対して本体部を沿わせることができる。
【0046】
また、前記固定部は、前記本体部における前記奥側の端部に備えられることができる。
【0047】
この構成によれば、固定部における係止部と被係止部とを係止することで、本体部を容易に先窄まり形状とできる。そして、本体部の全体を窄める場合に比べて、本体部の手前側の端部をあまり窄めなくてよい。また、本体部の全体を窄めることでカバー部を前記先窄まり形状における先端の径と同径まで窄めようとすると、カバー部に無理な力がかかって、本体部の周面側に倒れ変形してしまいやすいが、これを避けることができる。そして、前記倒れ変形が起こらないようにするには、例えばカバー部を多数に分割するなどして、本体部の窄まりに対応させる必要があるが、このような対処の必要がない。
【0048】
また、前記固定部は、前記本体部の一部として備えられることができる。
【0049】
この構成によれば、固定部を本体部と別体に形成した構成に比べ、貫通スリーブの構成を単純化できる。
【0050】
また、前記カバー部は、周方向に連結された複数のカバー片から構成され、周方向に隣り合う前記カバー片同士は、前記本体部における前記周方向端部間に対応する端部を除いて回動可能に接続されていることができる。
【0051】
この構成によれば、複数のカバー片から構成されたカバー部を、隣り合うカバー片同士が回動することにより、本体部における周方向端部間の距離の変化に容易に追従させられる。
【0052】
また、前記カバー部は、周方向に連結された複数のカバー片から構成され、前記複数のカバー片のうち一部につき、隣り合うカバー片同士が周方向にスライド可能に接続されていることができる。
【0053】
この構成によれば、複数のカバー片のうち一部につき、隣り合うカバー片同士が周方向にスライド可能に接続されていることにより、本体部における周方向端部間の距離の変化に容易に追従させられる。
【符号の説明】
【0054】
1 貫通スリーブ
2 本体部
21 周方向端部
23 固定部
231 係止部
232 被係止部
3 カバー部
31 カバー片
W 壁
Ws 壁面
H 貫通穴