(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】差分処理方法、差分処理装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01C 5/00 20060101AFI20220825BHJP
G01C 7/02 20060101ALI20220825BHJP
【FI】
G01C5/00 Z
G01C7/02
(21)【出願番号】P 2021188272
(22)【出願日】2021-11-19
【審査請求日】2021-11-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000135771
【氏名又は名称】株式会社パスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 清敬
【審査官】飯村 悠斗
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-217107(JP,A)
【文献】特許第4545219(JP,B1)
【文献】国際公開第2004/042675(WO,A1)
【文献】特開2020-165921(JP,A)
【文献】特開2017-207438(JP,A)
【文献】王 春永,地球観測衛星データとWebコンテンツの統合による新築建造物および地形変化の検出,第73回(平成23年)全国大会講演論文集(1) アーキテクチャ ソフトウェア科学・工学 データベースとメディア,日本,一般社団法人情報処理学会,2011年03月02日,1-789~1-790
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 1/00- 1/14
G01C 5/00-15/14
G01S 7/48- 7/51
G01S 17/00-17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの標高値データの一方における単位領域ごとに斜面の方位を特定する特定ステップ、
前記2つの標高値データにおける前記単位領域ごとの標高差を算出する算出ステップ、
算出された前記標高差の代表値を前記方位ごとに求め、前記単位領域ごとに、当該単位領域の前記方位について求めた前記代表値を前記標高差から差し引く補正ステップ、
を含む差分処理方法。
【請求項2】
前記2つの標高値データは、異なる時期に計測されたものである請求項1記載の差分処理方法。
【請求項3】
前記代表値は平均値である請求項1又は2記載の差分処理方法。
【請求項4】
2つの標高値データの一方における単位領域ごとに斜面の方位を特定する特定手段と、
前記2つの標高値データにおける前記単位領域ごとの標高差を算出する算出手段と、
算出された前記標高差の代表値を前記方位ごとに求め、前記単位領域ごとに、当該単位領域の前記方位について求めた前記代表値を前記標高差から差し引く補正手段と、
を備える差分処理装置。
【請求項5】
コンピュータを、
2つの標高値データの一方における単位領域ごとに斜面の方位を特定する特定手段、
前記2つの標高値データにおける前記単位領域ごとの標高差を算出する算出手段、
算出された前記標高差の代表値を前記方位ごとに求め、前記単位領域ごとに、当該単位領域の前記方位について求めた前記代表値を前記標高差から差し引く補正手段、
として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、差分処理方法、差分処理装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
航空機に搭載したレーザ測距装置により地形形状を計測する航空レーザ測量技術がある。この技術を用いることにより、森林で覆われ航空写真等で地形が確認できない地点や人が立ち入ることが困難な山岳地帯などを含め、現地での地上測量と比較して広範囲の測量を安価にかつ精度よく行うことができる。また、異なるタイミングで計測された同一領域の航空レーザ計測結果の標高値の差分を取ることにより、地形の変化地点や変化量を検出することができる。この差分解析手法により、土砂災害発生時に速やかに、斜面の崩壊、侵食状況や流された土砂の堆積状況などの土砂災害の発生領域や発生規模の情報を得ることができる。
【0003】
しかしながら、航空レーザ計測では、複数回の計測結果の間で若干の位置ずれを生じる場合がしばしばある。したがって、これらを比較したときに、全体に見かけ上の標高の変化が現れることになり、その結果、災害などで実際に生じた標高の変化が特定しづらくなる。
【0004】
これに対し、非特許文献1では、一方の計測結果に対して他方の計測結果を平行移動及び回転移動させて標高の差分値の総和を算出して、この総和が最小となる移動量及び回転量を2回の計測データにおける水平位置のずれ量とする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】航空レーザ測量による地形変化把握のための標高差分値の最適化、平川泰之、砂防学会誌、2006年、第58巻、第6号、p.18-22
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、何度も繰り返し平行移動及び回転移動の量を定めて広い範囲の差分値を求めるのは、計算機の演算能力やメモリ容量、及び計算時間を必要とするので、手軽に行うことができないという課題がある。
【0007】
この発明の目的は、2つの標高値データの間に生じている位置ずれをより簡便に低減させることのできる差分処理方法、差分処理装置及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、
2つの標高値データの一方における単位領域ごとに斜面の方位を特定する特定ステップ、
前記2つの標高値データにおける前記単位領域ごとの標高差を算出する算出ステップ、
算出された前記標高差の代表値を前記方位ごとに求め、前記単位領域ごとに、当該単位領域の前記方位について求めた前記代表値を前記標高差から差し引く補正ステップ、
を含む差分処理方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明に従うと、2つの標高値データの間に生じている位置ずれをより簡便に低減させることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態の差分処理装置である情報処理装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図2】2つの標高値データにおける位置ずれについて説明する図である。
【
図3】斜面の方位の算出について説明する図である。
【
図4】方位ごとの差分値の平均値の例を示す図表である。
【
図5】標高差分布出力処理の制御手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態の差分処理装置である情報処理装置1の機能構成を示すブロック図である。
【0012】
情報処理装置1は、通常のコンピュータ(PC)であってよく、CPU11(Central Processing Unit)(特定手段、算出手段、補正手段)と、記憶部12と、通信部13と、表示部14と、操作受付部15などを備える。
【0013】
記憶部12は、揮発性メモリ(RAM;Random Access Memory)と不揮発性メモリとを有する。RAMは、CPU11に作業用のメモリ空間を提供し、一時データを記憶する。一時データには、外部から取得した標高値データ122やその処理データなどが含まれる。不揮発性メモリは、プログラム121や設定データなどを記憶する。不揮発性メモリは、例えば、フラッシュメモリ及び/又はHDD(Hard Disk Drive)であってよい。
【0014】
通信部13は、インターネット回線やLAN(Local Area Network)などのネットワークを経由して外部と通信を行う。外部には、標高値データを記憶するデータベース装置などが含まれていてもよい。
【0015】
表示部14は、表示画面を有し、CPU11の制御に基づいて表示を行う。表示画面は、特には限られないが、例えば、液晶画面や有機EL(Electro-Luminescent)画面などである。
【0016】
操作受付部15は、ユーザからの操作を受け付けて操作信号をCPU11に出力する。操作受付部15は、特には限られないが、例えば、キーボードやポインティングデバイス(マウスなど)を有する。
【0017】
次に、本実施形態の差分処理について説明する。
情報処理装置1は、2つの標高値データ122を取得して記憶部12に記憶させ、同一の水平位置での標高値の差分値(標高差)の分布を算出して表示する。2つの標高値データ122は、例えば、互いに異なる時期(タイミング)に計測されたものである。例えば、データベース装置などに記憶されているデータの計測日時を表示部14により一覧表示させ、当該リスト表示内からユーザが操作受付部15を介して行う入力操作により選択することで、2つの標高値データ122が取得されるのであってもよい。各標高値データ122は、標高差の分布を出力する対象となる共通のエリアが含まれていればよく、取得されたデータに対して更に当該共通のエリア(出力対象エリア)の設定が行われる。
【0018】
標高値データ122は、適宜なサイズで二次元マトリクス状に区切られた単位領域のそれぞれについて三次元座標が定められたものであり、例えば、DEMデータ(Digital Elevation Model;数値標高モデルなどと呼ばれる)として知られているものであってもよい。このような単位領域は、グリッド、セル又はメッシュなどと称されるが、以下ではメッシュと称する。地表の標高値は、上空からのレーザ計測、すなわち、航空機などから照射したレーザ光が反射して戻ってくるまでの時間によって得られる。レーザ計測では、レーザ光の反射点(計測点)の位置が三次元座標で得られるが、樹木や人工物などにより地表面に届かずに反射したり、吸収、減衰されてそもそも反射波が戻ってこなかったりする点もあることから、地表面の計測は、その間隔や密度が不均一となり得る。DEMデータでは、各メッシュ内の計測点の計測データが集約、平均化されて等間隔かつ等密度なデータとして得られる。メッシュの2辺は、緯度経度に沿っていてよく、例えば、各辺が1メートルであってもよいが、緯度方向についての長さと経度方向についての長さとが異なっていてもよい。出力対象エリア内の各メッシュは、適宜な座標又は識別番号などにより識別可能とされればよい。
【0019】
これら2つの標高値データ122の水平位置を合わせて標高値の差分を取ることで、原理上は標高差、すなわち、2回の計測日時の間での標高の変化量が得られる。新しい方の計測データから古い方の計測データを差し引くことで、差分値の正負と変化方向の符号が一致する、すなわち、正の値が堆積や流入、負の値が侵食や流出を表す。反対に古い方の計測データから新しい方の計測データが差し引かれてもよい。
【0020】
しかしながら、計測における水平方向の位置は、2回の計測の間で必ずしも正確に一致しない。すなわち、2つの標高値データ122において水平位置が同一とされている単位領域であっても実際には水平方向にずれている場合がある。また、標高値が垂直方向にずれている場合がある。
【0021】
図2は、2つの標高値データ122における位置ずれについて説明する図である。若干のずれには、
図2(a)の破線と実線とにより示すような垂直方向へのずれと、
図2(b)の破線と実線とで示すような水平方向へのずれとが含まれ得る。水平方向へのずれは、例えば、水平位置の特定精度上のずれが影響し、垂直方向へのずれは、例えば、地盤の隆起又は沈降などが影響する。
【0022】
局所的な地形の変化、例えば、土砂崩れなどを検出したい場合に、全体に上記のようなずれが生じていると、空間全体に非ゼロの差分値の領域が広がることになり、本来の検出対象である地形変化を一見して見分けるのが難しくなる。したがって、地形変化によらないこのような差分値を低減させる必要がある。
【0023】
本実施形態の情報処理装置1では、平均的な差分値をそれぞれ得られている差分値から差し引く。このとき、垂直方向への位置ずれは、全体で一様に差分値のずれが生じる。一方で、水平方向への位置ずれでは、ずれ方向に対する斜面の傾きの向きによって差分値の大きさや正負が異なる。そこで、情報処理装置1では、斜面の向き(方位)を複数の方位、例えば8つに区分け(分類)して、方位ごとに差分値の平均値を算出する。
【0024】
平均値をとる範囲となる上記出力対象エリアに対して実際の地形変化を生じている範囲が大きいと、求める平均値への当該地形変化の影響が大きくなるので、地形変化を生じているメッシュの数よりも数桁(3-4桁)以上多いメッシュを含むように出力対象エリアが定められるのがよい。一方で、大地震による地殻変動などで広範囲な変化が非一様に含まれるほど広大な範囲が定められないほうがよく、出力対象エリアは、例えば、数十~百キロメートル四方よりは小さく定められるのがよい。例えば、法律などで定められた図郭の範囲、例えば、1-2km四方の矩形範囲が出力対象エリアとして定められてもよい。
【0025】
図3は、斜面の方位の算出について説明する図である。
情報処理装置1では、斜面の方位、すなわち、斜面の法線方向の水平成分は、メッシュの二次元配列方向に沿った2軸方向についての傾きの大きさ(正負を含む)の比により特定される。
図3(a)において、メッシュA0(A0は、出力対象エリア内の任意のメッシュである)の傾きは、当該メッシュA0を中心とする3×3のメッシュA0~A8の標高値Z(Ak)(k=0~8)に基づいて算出される。例えば、x方向(例えば経度方向)についての標高値の変化は、数式1~6に基づいて数式7のように求められる。
Z(P0)=(Z(A1)+Z(A2))/2 … (数式1)
Z(P1)=(Z(A2)+Z(A3))/2 … (数式2)
Z(A0x+)=(Z(P0)+Z(P1))/2
=(Z(A1)+2・Z(A2)+Z(A3))/4 … (数式3)
Z(P2)=(Z(A5)+Z(A6))/2 … (数式4)
Z(P3)=(Z(A6)+Z(A7))/2 … (数式5)
Z(A0x-)=(Z(P2)+Z(P3))/2
=(Z(A5)+2・Z(A6)+Z(A7))/4 … (数式6)
dZ(A0)/dx=(Z(A0x+)+Z(A0))/2-(Z(A0)+Z(A0x-))/2
=(Z(A0x+)-Z(A0x-))/2 … (数式7)
また、y方向(例えば緯度方向)についての標高値の変化は、例えば、数式8~13に基づいて数式14のように求められる。
Z(P4)=(Z(A1)+Z(A8))/2 … (数式8)
Z(P5)=(Z(A8)+Z(A7))/2 … (数式9)
Z(A0y+)=(Z(P4)+Z(P5))/2
=(Z(A1)+2・Z(A8)+Z(A7))/4 … (数式10)
Z(P6)=(Z(A4)+Z(A5))/2 … (数式11)
Z(P7)=(Z(A3)+Z(A4))/2 … (数式12)
Z(A0y-)=(Z(P6)+Z(P7))/2
=(Z(A3)+2・Z(A4)+Z(A5))/4 … (数式13)
dZ(A0)/dy=((Z(A0y+)+Z(A0))/2-(Z(A0)+Z(A0y-))/2
=(Z(A0y+)-Z(A0y-))/2 … (数式14)
数式7及び数式14に基づいて、傾斜面の方位角φは、以下の数式15で表される。
φ=180/π・tan
-1((dZ(A0)/dx)/(dZ(A0)/dy)) … (数式15)
逆正接により求められるφは±90の範囲であるので、dZ(A0)/dxの符号に応じて±180の範囲に拡張されればよい。また、マイナス側の数値に360を加算して一周期ずらし、0~360の範囲としてもよい。このようにして斜面の方位(方位角)が表される。ここでは、方位角φの基準方向(φ=0)は真北方向であるが、これに限られない。また、傾斜面の方位角φは、その他の周知の方法で求められてもよい。
【0026】
図3(b)に示すように、得られた方位角φが複数の角度範囲、例えば、それぞれ45度幅で、337.5≦φ<360及び0≦φ<22.5を北、22.5≦φ<67.5を北東、67.5≦φ<112.5を東、112.5≦φ<157.5度未満を南東、157.5≦φ<202.5を南、202.5≦φ<247.5を南西、247.5≦φ<292.5を西、292.5≦φ<337.5を北西として分割されることでメッシュA0における傾斜の方位角を分類する。なお、傾斜がなく水平である場合、すなわち、((dZ(A0)/dx)
2+(dZ(A0)/dy)
2)
1/2がほぼゼロである(基準値未満)場合には、平地であるとして上記方位角の分類から除外してもよい。このような場合を水平面の分類として別個に区分けしてもよいし、いずれの分類にも含めなくてもよい。水平面の分類に含まれるメッシュは、水平方向への位置のずれに伴う見かけ上の標高差が無視可能な程度に小さい。
【0027】
図4は、上記の方法で求められた8つの方位ごとの差分値の平均値の例を示す図表である。反対向きの方位についての平均値の符号が反対でほぼ同じような値を示していることから、主に水平方向の位置ずれが生じていることが分かる。各々求められた差分値から、当該差分値が属する方位についての平均値を差し引くことで、系統的な差分値は大きく低減される。実際の土砂崩れなどによる局所的な地形変化は、傾きの方向とは関係なく生じるので、系統的な差分値が大きく低減された標高差の分布を示す画像の中で容易に検出可能となる。
【0028】
なお、水平方向への位置ずれに応じた差分値は、傾斜が急であるほど大きくなるので、平均値を算出した領域内でメッシュごとの傾斜角度のばらつきが大きい場合には、当該ばらつきに応じて差分値が多少残る場合があるが、残る範囲と大きさが低減されていれば、解析者の負担などは十分に低減される。また、このような場合に、ユーザが入力操作などにより適宜傾斜角のばらつきを抑えた範囲となるように出力対象エリアを設定することが可能であってもよい。
【0029】
補正された差分値の分布は、例えば、カラーコンターなどで表示部14により表示出力される。すなわち、メッシュごとに差分値に応じた色を割り当てて塗りつぶし表示させる。また、このカラーコンター表示に対して、例えば、等高線などの線画による地形図や、航空写真などを重ねて透過表示させることで、地形の変化が生じている範囲をより容易に知得できるようにしてもよい。
【0030】
図5は、本実施形態の差分処理方法を含む標高差分布出力処理の制御手順を示すフローチャートである。この処理は、例えば、ユーザによる所定の入力操作により開始される。また、この処理は、CPU11が全て自動で順番に実行するのであってもよいし、ユーザの入力操作などに基づいて逐次実行されるのであってもよい。
【0031】
標高差分布出力処理が開始されると、CPU11は、比較対象の標高値データを2つ取得する(ステップS101)。CPU11は、取得された2つの標高値データに対して共通の出力対象エリアを設定する(ステップS102)。
【0032】
特定手段は、一方の標高値データ122について、メッシュ(単位領域)ごとに斜面の方位(方位角)を求め、8分割された方位のいずれに該当するかを特定する(ステップS103;特定ステップ)。
【0033】
算出手段は、メッシュごとに標高差を算出する(ステップS104;算出ステップ)。補正手段は、方位ごとに標高差を積算してそれぞれ平均値(代表値)を算出する(ステップS105)。
【0034】
補正手段は、メッシュごとに求められている標高差から当該メッシュの方位について求めた平均値をそれぞれ差し引く(ステップS106)。ステップS105,S106の処理が本実施形態の補正ステップを構成している。CPU11は、補正された標高差の分布を出力する(ステップS107)。そして、CPU11は、標高差分布出力処理を終了する。
【0035】
図6は、標高差分布の出力を模式的に示す図である。
図6(a)に示すように、図の上下方向(南北方向など)に水平位置ずれが生じている場合には、尾根筋Rや谷筋を挟んで反対側の斜面で方位角も反対向きになるので、水平位置ずれによる正の標高差が算出された北向き斜面の領域Pb1、Pb2と、水平位置ずれによる負の標高差が算出された南向き斜面の領域Nb1、Nb2が斜面に広く生じる。この中で、左下側の尾根の北側斜面直下で斜面崩壊などが発生して、谷下まで土砂が流下すると、当該斜面に標高の低下(負の標高差)した領域Nrが生じ、谷筋に沿って崩れた土砂が堆積して標高が上昇(正の標高差)した領域Prが生じるが、これらの領域Nr、Prは、上記斜面全体に広がる見かけ上のずれに埋もれて見づらくなっている。
【0036】
図6(b)に示すように、データ間の位置ずれに基づく標高差が除去されると、本来の検出対象である領域Nr、Prの標高差が残り、地形変化の生じた部分が容易に検出可能となる。例えば、
図6(b)の例では、領域Nr、Prが組になっていることが読みとりやすくなり、斜面崩壊が発生したと推測することが容易になる。
【0037】
[変形例]
なお、本開示は、上記実施の形態に限られるものではなく、様々な変更が可能である。
例えば、上記実施の形態では、8方位に区分けする例を示したが、方位の数はこれに限定されない。例えば、16方位に区分けして分類してもよい。また、平地を別途区分しなくてもよく、わずかでも傾斜がある場合には対応する方位のデータに含めてもよい。また、方位角の基準方向(0度方向)は北向きである必要はない。
【0038】
また、河川、湖沼や海の水面、及び満ち引きや波が影響する海岸線沿いの土地のように、地形変化とは関係なく水位の変化に伴って上下するような領域を別途識別して、本開示に係る処理から除外してもよい。また、出力対象エリアが矩形である必要はなく、上述したようなメッシュ数が含まれる任意の形状が定められてもよい。
【0039】
また、上記実施の形態では、方位ごとに得られた差分値の平均値を求めてこれを各差分値から差し引くこととして説明したが、差し引く値は平均値に限られるものではない。差し引く値は、見かけ上のずれの大きさを代表するような値であればよく、例えば、中央値や、所定の距離幅で求めた頻度分布の最頻値などであってもよい。
【0040】
また、上記差分処理は、単一の情報処理装置1で実行されなくてもよい。複数のコンピュータ(CPU)などで分散して処理されてもよい。また、表示データを他のコンピュータに出力して、情報処理装置1の外部の表示装置に表示させてもよいし、プリントデータを出力してプリント用紙などにプリント表示させてもよい。
【0041】
また、標高差の分布の表示は、カラーコンターではなくてもよい。グレースケールであってもよいし、標高差の分布が等高線のように表示されてもよい。また、三次元的に標高差を立体表示させた斜視図などが表示されてもよい。
【0042】
また、以上の説明では、本発明の差分処理の制御に係るプログラム121を記憶するコンピュータ読み取り可能な媒体としてHDDやフラッシュメモリなどの不揮発性メモリなどを有する記憶部12を例に挙げて説明したが、これらに限定されない。その他のコンピュータ読み取り可能な媒体として、MRAMなどの他の不揮発性メモリや、CD-ROM、DVDディスクなどの可搬型記録媒体を適用することが可能である。また、本発明に係るプログラムのデータを通信回線を介して提供する媒体として、キャリアウェーブ(搬送波)も本発明に適用される。
【0043】
以上のように、本実施形態の差分処理方法では、2つの標高値データ122の一方におけるメッシュごとに斜面の方位を特定する特定ステップ、2つの標高値データ122におけるメッシュごとの標高差を算出する算出ステップ、算出された標高差の代表値、例えば平均値を方位の範囲ごとに求め、メッシュごとに標高差から当該メッシュの方位について求めた代表値を差し引く補正ステップ、を含む。
このような処理によれば、相対位置をずらしながら繰り返しずれの総和を算出する必要がなく、一度の差分値の算出結果をそのまま補正することができるので、簡便な処理により低負荷かつ速やかに、2つの標高値データの間に生じている位置ずれを低減させることができる。
そして、このように、簡便な処理で標高値データ間における位置ずれを低減させることで、より迅速かつ適切に斜面崩壊などの地形変化を検出することができる。特に、災害時などには時間をかけて正確な処理を行うよりも速やかに災害発生箇所を特定する方が大事なことが多いので、従来に比して遥かに軽い処理で地形変化の検出精度を向上させることで、処理能力の高いコンピュータなどを用いる必要もなく、不要な待ち時間を大きく短縮して解析者の作業時間の短縮を図り、解析処理や結果の出力を円滑に行うことができる。
【0044】
また、比較対象の2つの標高値データ122は、異なる時期に計測されたものであってもよい。これにより、地形の時間変化をより容易に解析者が知得することができるようになる。
【0045】
また、代表値は平均値であってもよい。傾斜のばらつきに応じたずれ量のばらつきを平均的に低減する点から、平均値を用いることでバランスよく見かけ上のずれ量を低減することができる。
【0046】
また、本実施形態の差分処理装置である情報処理装置1は、CPU11を備える。CPU11は、特定手段として、2つの標高値データ122の一方におけるメッシュごとに斜面の方位を特定し、算出手段として、2つの標高値データ122におけるメッシュごとの標高差を算出し、補正手段として、算出された標高差の代表値を方位ごとに求め、メッシュごとにその標高差から当該メッシュの方位について求めた代表値を差し引く。
このような情報処理装置1は、必ずしも高い演算能力や膨大なメモリ容量を必要とせず、簡便な処理により低負荷かつ速やかに、2つの標高値データの間に生じている位置ずれを低減させることができる。
【0047】
また、上記の差分処理方法に係るプログラム121をコンピュータにインストールして実行することで、一般的なPCなどにおいて特別なハードウェアを必要とせず簡便かつ迅速に標高差の分布を取得することができ、解析者による作業の場所、時間、手間などの制約を減らして、地形変化の検出作業の円滑化を図ることができる。
【0048】
その他、上記実施の形態で示した具体的な構成、処理動作の内容及び手順などは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。本発明の範囲は、特許請求の範囲に記載した発明の範囲とその均等の範囲を含む。
【符号の説明】
【0049】
1 情報処理装置
11 CPU
12 記憶部
121 プログラム
122 標高値データ
13 通信部
14 表示部
15 操作受付部
Nr、Pr、Nb1、Nb2、Pb1、Pb2 領域
【要約】
【課題】複数回の航空計測の結果の間に生じている位置ずれをより簡便に低減させることのできる差分処理方法、差分処理装置及びプログラムを提供する。
【解決手段】差分処理方法は、2つの標高値データの一方における単位領域ごとに斜面の方位を特定する特定ステップ(S103)、2つの標高値データにおける単位領域ごとの標高差を算出する算出ステップ(S104)、算出された標高差の代表値を方位ごとに求め(S105)、単位領域ごとに、単位領域の方位について求めた代表値を標高差から差し引く補正ステップ(S106)、を含む。
【選択図】
図5