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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】フッ素ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/12 20060101AFI20220825BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20220825BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20220825BHJP
【FI】
C08L27/12
C08K3/04
C08K7/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021569788
(86)(22)【出願日】2020-12-14
(86)【国際出願番号】 JP2020046551
(87)【国際公開番号】W WO2021140837
(87)【国際公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2020000967
(32)【優先日】2020-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 和子
(74)【代理人】
【識別番号】100066005
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】日隈 貴博
(72)【発明者】
【氏名】前川 博和
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/051707(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/155975(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/009188(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素ゴム100重量部当り、カーボンファイバー3~20重量部およびカーボンナノチューブ1~8重量部を含有するフッ素ゴム組成物。
【請求項2】
カーボンファイバーとして、平均繊維径が5~20μm、平均繊維長が10~200μmおよびモース硬度が3~6であるものが用いられた請求項1記載のフッ素ゴム組成物。
【請求項3】
カーボンナノチューブとして、平均直径が1~20nmのものが用いられた請求項1記載のフッ素ゴム組成物。
【請求項4】
さらにポリテトラフルオロエチレンを3~20重量部含有せしめた請求項1記載のフッ素ゴム組成物。
【請求項5】
請求項1または4記載のフッ素ゴム組成物の架橋物である架橋成形物。
【請求項6】
シール材として用いられる請求項5記載の架橋成形物。
【請求項7】
トランスミッション用シール部材として用いられる請求項6記載の架橋成形物。
【請求項8】
無段変速車プーリ用シール部材として用いられる請求項7記載の架橋成形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素ゴム組成物に関する。さらに詳しくは、トランスミッション用シール部材等の成形材料として用いられるフッ素ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、低炭素化社会を背景に、自動車への低燃費化の要求が強くなっている。それに伴い、自動車のトランスミッションは、CVT(Continuously Variable Transmission:無段変速機)車用のものの需要が増加する傾向にある。
【0003】
CVTとは、2つのプーリと1本のベルトで構成された無段変速機の一種である。プーリ部はプライマリ部(入力側)とセカンダリ部(出力側)の組み合わせで構成されており、その間をベルトでつなぐ構造になっている。ここでプーリの幅を変化させることで、プーリとベルトの接触半径が変わり、ベルトの回転半径が変化し無段階に変速する機構となっている。
【0004】
このプーリ部の幅の変動による変速の際に、プーリ部は高速回転・往復動を行なうこととなり、プーリ部に使用されるシールも一緒に回転および往復動を行なう。そのため、シール性能の向上は燃費向上に貢献できることとなり、例えば電動オイルポンプの廃止(ユニット重量の削減)、アイドリングストップ機構の適用や被牽引対応などの効果が期待できる。
【0005】
従来より、かかるCVT用プーリ部シールとしてはシールリングが主流であり、プーリを作動させ、油圧を保持している。しかし、シールリングは流体の外部漏れ抑制を目的としたものではなく、油圧回路内での流体の圧力を保持することを目的としたシールであるため、シール性が十分ではなく、電動オイルポンプ廃止でのアイドリングストップシステムを成立させることができないことがあった。
【0006】
一方、OリングやDリング等のスクイーズパッキンは、シールリングよりもシール性をより確保することができることから、近年CVT用プーリ部のシールに用いられている。スクイーズパッキンは、シールリングと比較してシール性にすぐれるとともに、一つの成形体であるため、組み付け時の作業性や製品コストの面において好ましいシール部材である。
【0007】
このようにシール性能の向上は、ゴム製スクィーズパッキンを用いることで、簡単かつ低コストで実現できる。しかし、CVTプーリ部では、シールがベルト回転に伴って微振動するため、ゴム製スクィーズパッキンが摩耗し易い環境にあり、スクィーズパッキンとして用いられるゴム部材には、シール性能に加え耐摩耗性にもすぐれることが要求される。
【0008】
すなわちCVT用プーリのシール部は、入力側のプライマリ部と出力側のセカンダリ部の2箇所あり、プライマリ部、セカンダリ部ともにベルト回転に伴う微振動があるため、シール部材とハウジングが密着している箇所において、高い摩擦力が生じることから、シール部材には耐摩耗性が必要とされる。
【0009】
また、プライマリ部とセカンダリ部ではシール圧が異なり、セカンダリ部の方が高圧な環境である。そのため、セカンダリ部において、はみ出しに起因した過大摩耗が発生してはみ出し部が破損してしまい、その結果シール部材の形態を構成しなくなってしまうおそれがある。よって、CVT用プーリ部シール材には、耐圧性も求められている。
【0010】
このようにトランスミッション用シール部材、特にCVTプーリー用シール部材のように、往復動を伴う条件下においてはシール部材と回転軸との間に摺動が発生するため、シール部材の耐摩耗性が特に重要であり、あわせて耐圧性も求められる。
【0011】
本出願人は先に、特許文献1において、水素化ニトリルゴム100重量部に対して、硬質充填材としてカーボンファイバーまたはウォラストナイトを3~20重量部含有し、平均粒子径が40~50nm、ヨウ素吸着量が35~49g/kg、DBP吸油量が100~160ml/100gであるカーボンブラックを72~87重量部含有してなる、耐摩耗性、耐圧性にすぐれた水素化ニトリルゴム組成物を提案している。
【0012】
一方、耐熱性や耐薬品性が求められる仕様においては、一般的にフッ素ゴム製のシール部材が適用されている。しかしながら、フッ素ゴムに対してカーボンファイバーを配合した場合、フッ素ゴムは基材強度が水素化ニトリルゴムに比べて劣るため、より過酷な環境下においては、十分な強度を担保することができないといった課題があった。
【0013】
また、スクイーズパッキンは、シールリングに比べてシール性が良好である一方で、耐圧性(高油圧時の耐はみだし性)になお課題がみられ、CVTプーリー等の用途の中でも、特に高油圧かつ微振幅の往復動が発生する条件下において用いた場合には、油圧により回転軸とハウジングの微小隙間にシール部材がはみ出し、微振幅の往復動を繰り返し受けることで、はみ出し部が破損する場合もみられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】WO 2015/146862 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、耐摩耗性および耐圧性にすぐれたフッ素ゴム架橋物を与え得るフッ素ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
かかる本発明の目的は、フッ素ゴム100重量部当り、カーボンファイバー3~20重量部およびカーボンナノチューブ1~8重量部を含有するフッ素ゴム組成物によって達成される。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るフッ素ゴム組成物から得られる架橋成形物は、油膜保持性を付与するばかりではなく、補強性の高いカーボンナノチューブを併用することにより、フッ素ゴムの材料強度を向上せしめるといったすぐれた効果を奏する。
【0018】
また、特定性状のカーボンナノチューブを用いることにより、特異的な補強効果を得ることが可能となり、耐圧性の向上にもつながることとなる。すなわち、油圧によるはみ出しを抑制することができるようになるため、致命的な破損を抑制することができる。
【0019】
さらに、カーボンナノチューブの絡み合った繊維内にカーボンファイバーが取り込まれることにより、摺動時にカーボンファイバーが脱落する現象を抑制することができるといった効果も期待される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のフッ素ゴム組成物は、フッ素ゴム100重量部当り、カーボンファイバー3~20重量部およびカーボンナノチューブ1~8重量部、好ましくはさらにポリテトラフルオロエチレン3~20重量部を含有してなる。
【0021】
フッ素ゴムとしては、好ましくはポリオール架橋可能なフッ素ゴムまたは過酸化物架橋可能なフッ素ゴムが用いられる。また、ポリオール架橋可能なフッ素ゴムと過酸化物架橋可能なフッ素ゴムとを併用することもできる。
【0022】
フッ素ゴムとしては、1種または2種以上の含フッ素オレフィンの単独重合体または共重合体を用いることができる。
【0023】
含フッ素オレフィンとしては、例えばフッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロエチレン、トリフルオロクロロエチレン、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニル、パーフルオロアクリル酸エステル、アクリル酸パーフルオロアルキル、パーフルオロメチルビニルエーテル、パーフルオロエチルビニルエーテル、パーフルオロプロピルビニルエーテル等が挙げられる。これらの含フッ素オレフィンは1種または2種以上組み合わせて用いることもできる。
【0024】
本発明で用いられるフッ素ゴムとしては、好ましくはフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン2元共重合体、フッ化ビニリデン-テトラルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン3元共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル3元共重合体等が挙げられる。これらの共重合体は、溶液重合、けん濁重合または乳化重合により得られ、市販品としても入手できる(例えば、デュポン社製品「バイトンA-500」、「バイトンB-600」、ダイキン工業製品「G7401」等)。
【0025】
フッ素ゴムのパーオキサイド架橋を可能とするヨウ素基および/または臭素基の導入は、ヨウ素基および/または臭素基含有飽和または不飽和化合物の存在下での共重合反応によって行うことができる。
【0026】
含フッ素共重合体側鎖として臭素基および/またはヨウ素基を含有させる場合は、例えばパーフルオロ(2-ブロモエチルビニルエーテル)、3,3,4,4,-テトラフルオロ-4-ブロモ-1-ブテン、2-ブロモ-1,1-ジフルオロエチレン、ブロモトリフルオロエチレン、パーフルオロ(2-ヨードエチルビニルエーテル)、ヨードトリフルオロエチレン等の架橋点形成単量体の共重合体が挙げられる。
【0027】
含フッ素共重合体末端としてヨウ素基および/または臭素基を含有させる場合は、一般式X1CnF2nX2(X1:F、Br、I,X2:Br、I,n:1~12)で表される末端ハロゲン化フルオロアルキレン化合物が用いられ、反応性やハンドリングのバランスの点からは、n:1~6の1-ブロモパーフルオロエタン、1-ブロモパーフルオロプロパン、1-ブロモパーフルオロブタン、1-ブロモパーフルオロペンタン、1-ブロモパーフルオロヘキサン、1-ヨードパーフルオロエタン、1-ヨードパーフルオロプロパン、1-ヨードパーフルオロブタン、1-ヨードパーフルオロペンタン、1-ヨードパーフルオロヘキサン等に由来するヨウ素基および/または臭素基を含有する共重合体が好んで用いられる。
【0028】
また、X1およびX2をIおよび/またはBrとすることにより、含フッ素共重合体の末端に架橋点を導入することができる。かかる化合物としては、例えば1-ブロモ-2-ヨードテトラフルオロエタン、1-ブロモ-3-ヨードパーフルオロプロパン、1-ブロモ-4-ヨードパーフルオロブタン、2-ブロモ-3-ヨードパーフルオロブタン、モノブロモモノヨードパーフルオロペンタン、モノブロモモノヨードパーフルオロ-n-ヘキサン、1,2-ジブロモパーフルオロエタン、1,3-ジブロモパーフルオロプロパン、1,4-ジブロモパーフルオロブタン、1,5-ジブロモパーフルオロペンタン、1,6-ジブロモパーフルオロヘキサン、1,2-ジヨードパーフルオロエタン、1,3-ジヨードパーフルオロプロパン、1,4-ジヨードパーフルオロブタン、1,5-ジヨードパーフルオロペンタン、1,6-ジヨードパーフルオロヘキサン等が用いられる。これらの化合物は、連鎖移動剤としても用いることができる。
【0029】
これらの共重合体は、溶液重合、けん濁重合または乳化重合させることにより得られ、市販品としても入手できる(例えば、デュポン社製品「GBL-600S」、「GLT―600S」、ダイキン工業製品「DAIEL-G801」等)。
【0030】
カーボンファイバーとしては、一般的なピッチ系、PAN系等のカーボンファイバーであって、繊維径が約5~20μm、好ましくは約5~15μm、繊維長が約10~200μm、好ましくは約20~100μm、モース硬度が3~6、好ましくは4~6のものが用いられる。カーボンファイバーは、フッ素ゴム100重量部当り3~20重量部、好ましくは5~15重量部の割合で用いられる。カーボンファイバーがこれより少ない割合で用いられると、架橋物の所望の耐摩耗性を担保することができず、一方これより多い割合で用いられると、材料強度および耐摩耗性が向上するものの、潤滑性がなくなってしまうようになる。
【0031】
カーボンナノチューブとしては、単層カーボンナノチューブまたは多層カーボンナノチューブであって、平均直径が約1~20nm、好ましくは約5~15nm、平均繊維長が約1~1000μm、好ましくは約1~100μm、さらに好ましくは1~80μm、BET比表面積が約100~1000m2/g、好ましくは約100~500m2/gのものが、フッ素ゴム100重量部当り約1~8重量部、好ましくは約2~6重量部の割合で用いられる。カーボンナノチューブがこれより少ない割合で用いられると、材料強度および耐圧性が悪化するようになり、一方これより多い割合で用いられると、伸びが不足するようになる。
【0032】
以上の必須成分よりなるフッ素ゴム組成物には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、好ましくは平均粒径約1~20μm、好ましくは約1~15μmのPTFEを、約20重量部以下、一般には約3~20重量部、好ましくは約5~15重量部の割合で用いることができる。PTFEを用いることにより、摺動を伴うシール部材の耐摩耗性をさらに向上せしめることができる。ただし、PTFEがこれより多い割合で用いられると、材料強度が悪化してしまうため好ましくない。
【0033】
また、以上の各成分以外に、カーボンブラック、シリカ等の充填剤または補強剤ワックス、金属石けん、カルナバワックス等の加工助剤;水酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、ハイドロタルサイト等の受酸剤;老化防止剤;熱可塑性樹脂等のような配合剤を添加することができる。
【0034】
フッ素ゴムに各配合成分を分散させる工程は、オープンロール法、密閉式混練法または多軸押出混練法を用いることができる。また、ニーダを用いることもでき、この場合には、約100~200℃、好ましくは約140~180℃で混練が行われる。
【0035】
混合された材料には架橋剤を混合することができ、架橋成形してフッ素ゴム架橋成形物を製造できる。架橋剤としては、ポリオール系架橋剤または有機過酸化物架橋剤が用いられる。
【0036】
ポリオール系架橋剤としては、ビスフェノール類が好ましい。具体的には、例えば2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン[ビスフェノールAF]、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン[ビスフェノールS]、ビスフェノールA・ビス(ジフェニルホスフェート)、4,4′-ジヒドロキシジフェニル、4,4′-ジヒドロキシジフェニルメタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン等のポリヒドロキシ芳香族化合物が挙げられ、好ましくはビスフェノールA、ビスフェノールAF等が用いられる。これらはアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩の形であってもよい。ポリオール系架橋剤は、フッ素ゴム100重量部当り約1~10重量部の割合で用いられる。
【0037】
また、ポリオール系架橋剤として、原料ゴムと架橋剤とを含む市販のマスターバッチを用いてもよい。これらの架橋剤は1種または2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0038】
フッ素ゴム架橋体を製造する上で、架橋促進剤を用いることができ、架橋促進剤としては、例えば第4級ホスホニウム塩を用いることができる。
【0039】
第4級ホスホニウム塩の具体例としては、例えばテトラフェニルホスホニウムクロライド、トリフェニルベンジルホスホニウムクロライド、トリフェニルベンジルホスホニウムブロマイド、トリフェニルメトキシメチルホスホニウムクロライド、(メトキシカルボニルメチル)トリフェニルホスホニウムクロライド、トリフェニルエトキシカルボニルメチルホスホニウムクロライド、トリオクチルベンジルホスホニウムクロライド、トリオクチルメチルホスホニウムブロマイド、トリオクチルエチルホスホニウムアセテート、テトラオクチルホスホニウムクロライド、セチルジメチルベンジルホスホニウムクロライド等が挙げられる。ポリオール系架橋促進剤は、フッ素ゴム100重量部当り約0.1~5重量部の割合で用いられる。
【0040】
架橋促進剤として、原料ゴムと架橋促進剤とを含む市販されているマスターバッチを用いてもよい。また、これらの架橋剤は1種または2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0041】
架橋促進剤としては、第4級アンモニウム塩を単独で、あるいは上記第4級ホスホニウム塩と併用して用いることもできる。第4級アンモニウム塩としては、例えば5-ベンジル-1,5-ジアザビシクロ〔4.3.0〕-5-ノネニウムテトラフルオロボレートまたは5-ベンジル-1,5-ジアザビシクロ〔4.3.0〕-5-ノネニウムヘキサフルオロホスフェート等が挙げられる。
【0042】
これらテトラフルオロボレートまたはヘキサフルオロホスフェートは、それぞれ約80℃または100℃の融点を有し、ロール、ニーダ、バンバリー等による加熱混練時(約100℃)に容易に融解するので、分散性にすぐれている。
【0043】
第4級アンモニウム塩として、原料フッ素ゴムと第4級アンモニウム塩とを含む市販のマスターバッチを用いてもよい。また、これらの架橋促進剤は1種または2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0044】
有機過酸化物系架橋剤としては、例えば2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、第3ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、第3ブチルクミルパーオキサイド、1,1-ジ(第3ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(第3ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(第3ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、1,3-ジ(第3ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、第3ブチルパーオキシベンゾエート、第3ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、n-ブチル-4,4-ジ(第3ブチルパーオキシ)バレレート等が用いられる。これらは、市販品(例えば、日本油脂製品パーヘキサ25B-40等)をそのまま用いることができる。有機過酸化物系架橋剤は、フッ素ゴム100重量部当り約1~10重量部の割合で用いられる。
【0045】
また、パーオキサイド架橋剤として、原料ゴムと架橋剤とを含む市販のマスターバッチを用いてもよい。これらの架橋剤は1種または2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0046】
過酸化物系架橋系に使用可能な架橋促進剤(助剤)としては、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等が用いられる。
【0047】
これらの混練物であるフッ素ゴム組成物は、例えば加圧・加熱加硫して、架橋成形物が成形される。具体的には、得られたフッ素ゴム組成物を、射出成形機、圧縮成形機、加硫プレス機、オーブン等を用いて、通常約140~230℃の温度で約1~120分間程度加熱(一次加硫)することにより、フッ素ゴム架橋成形物が得られる。また必要に応じて、例えば約200~300℃の温度範囲で約1~20時間オーブンによる熱処理を行い、二次加硫が行われる。
【0048】
得られた架橋成形物は、自動車のトランスミッション用、特にCVTプーリ用のシール部材等として有効に用いられる。
【実施例
【0049】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0050】
実施例1
フッ素ゴム(ダイキン工業製品G7401; 100重量部
ポリオール架橋剤含有品)
カーボンブラック(東海カーボン製品シースト3; 15 〃
ヨウ素吸着量80g/kg、DBP吸油量101ml/100g)
カーボンファイバー〔CF〕(大阪ガスケミカル製品 10 〃
ドナカーボ・ミルドS-2404N;平均繊維径13μm、
平均繊維長25~50μm、モース硬度4.5~5)
カーボンナノチューブ〔CNT〕(Nanocyl SA社製品NC7000、 3 〃
平均直径9.5nm、平均繊維長1.5μm、
BET比表面積250~300m2/g)
PTFE(ダイキン工業製品ルブロンL-5;平均粒径5μm) 10 〃
水酸化カルシウム(近江化学製品Caldic♯1000) 6 〃
酸化マグネシウム(協和化学製品キョーワマグ150) 3 〃
以上の各成分を、ニーダおよびオープンロールにて混練し、混練物を加硫プレスにより170℃、15分間の加硫を行ない、長さ150mm、幅100mm、厚さ2mmの試験片を得た。
【0051】
実施例2
実施例1において、カーボンファイバー量が20重量部に変更されて用いられた。
【0052】
実施例3
実施例1において、カーボンナノチューブ量が5重量部に変更されて用いられた。
【0053】
実施例4
実施例1において、PTFEが用いられなかった。
【0054】
比較例1
実施例1において、カーボンファイバーが用いられなかった。
【0055】
比較例2
実施例1において、カーボンファイバー量が25重量部に変更されて用いられた。
【0056】
比較例3
実施例1において、カーボンナノチューブが用いられなかった。
【0057】
比較例4
実施例1において、カーボンナノチューブ量が10重量部に変更されて用いられた。
【0058】
以上の各実施例および比較例で得られたフッ素ゴム架橋成形物について、常態物性の測定、耐摩耗性および耐圧性についての評価が行われた。

常態物性:JIS K6253、K6251に準拠し、硬さ 〔Hs〕、破断強度
〔Tb〕および破断時伸び〔Eb〕を測定
破断強度(単位:MPa)については、17.0以上を◎、13.5~16.9を○、10.0~13.4を△、10.0未満を×と評価、破断時伸び(単位:%)については、130以上を◎、80~129を○、50~79を△、50未満を×と評価

耐摩耗性:次の条件下でDリング DRO 内径121×外径129.2×厚さ2.3
(mm)製品形状での微摺動耐久試験を行い、摺動面外観表面
を目視にて判定
温度:120℃
圧力:2.8MPa
摺動距離:0.3mm
周波数:30Hz
オイル:CVTF
耐久時間:100時間
つぶし代(中央):0.42mm
表面が曇る程度の摩耗を○、表面が凹凸状の摩耗を△、鏡面摩耗(P.L消滅)を×と評価

耐圧性:次の条件下でOval形状 ORY 内径128.6×外径135.8×厚さ2.1
(mm)製品形状での微摺動耐久試験を行い、シール側面の損傷
の有無を目視にて判定
温度:150℃
圧力:4.5MPa
摺動距離:0.5mm
周波数:40Hz
オイル:CVTF
耐久回数:1000万回
つぶし代(Max):0.60mm
損傷無しを◎、幅10mm以下の損傷が5ヶ所以下を○、全周×1/3未満の損傷を△、全周×2/3以上の損傷を×と評価
【0059】
得られた結果は、次の表に示される。