(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】コロイダルシリカ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/141 20060101AFI20220825BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20220825BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20220825BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20220825BHJP
【FI】
C01B33/141
B24B37/00 H
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
H01L21/304 622B
H01L21/304 622D
(21)【出願番号】P 2021577183
(86)(22)【出願日】2021-12-23
(86)【国際出願番号】 JP2021047847
【審査請求日】2022-03-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000238164
【氏名又は名称】扶桑化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中野 智陽
(72)【発明者】
【氏名】小島 文歌
(72)【発明者】
【氏名】田島 誉大
(72)【発明者】
【氏名】小澤 秀太
(72)【発明者】
【氏名】千葉 年輝
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-116209(JP,A)
【文献】特開昭63-074911(JP,A)
【文献】特開2010-269985(JP,A)
【文献】特開昭62-148316(JP,A)
【文献】特開平05-170424(JP,A)
【文献】特開2019-172853(JP,A)
【文献】特開平09-142827(JP,A)
【文献】特開2017-112207(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 - 33/193
B24B 37/00
C09G 1/02
C09K 3/14
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水及びシリカ粒子を含み、
前記シリカ粒子の平均粒子径は
110~130nmであり、
前記シリカ粒子に含まれる粒径0.2μm以上の粗大シリカ粒子含有量が、シリカ粒子濃度を1質量%とした時に10,000,000個/mL以下であることを特徴とする、コロイダルシリカ。
【請求項2】
請求項1に記載のコロイダルシリカを含む、研磨用組成物。
【請求項3】
アルコール、アルカリ触媒及び水を含む母液に、下記(1)~(3)の反応条件にてアルコキシシランとアルコールとを含むアルコキシシラン溶液を注入して反応液を得る工程を含む、請求項1又は2に記載のコロイダルシリカの製造方法。
(1)母液中のアルカリ触媒濃度:0.40mol/L以上0.90mol/L以下
(2)反応液中の水含有量:アルコキシシランの注入量1molあたり5mol以上12.0mol以下
(3)アルコキシシラン溶液中のアルコール濃度:5.0mol/L以上
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コロイダルシリカ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体加工における化学機械研磨工程においては、研磨後の基板表面をナノメートルレベルで平滑化する必要があり、基板表面の平滑化が不十分、すなわち研磨後の基板表面が粗い場合は、配線の脱線や短絡が起こり、結果として半導体の電気接続的な信頼性が損なわれ、機能上での致命的な欠陥となる。
【0003】
特に、半導体線幅の微細化が進むにつれて、研磨後の基板表面をより一層高精度に平滑化することが求められている。
【0004】
研磨後の基板表面の粗さは研磨スラリーに含有される砥粒の粒子径の影響を受けることが知られており、一般的に砥粒の粒子径が大きいほど研磨後の表面粗さは悪化する(非特許文献1)。また、砥粒としてシリカナノ粒子を含有する研磨スラリー中に、サブミクロンサイズの粗大粒子を添加すると、研磨後の基板表面の粗さが悪化することが知られている。(非特許文献2)
【0005】
そこで、特許文献1には、コロイダルシリカ作製時のアルコキシシランの加水分解及び重縮合における反応条件を所定の条件とすることにより、10μm以上の粒径の粗大粒子の少ないコロイダルシリカを作製できることが開示されている。
【0006】
特許文献2及び3には、製造したコロイダルシリカを精密フィルターで濾過することにより、サブミクロンサイズの粗大粒子を除去する方法が開示されている。
【0007】
しかしながら、主粒子の平均粒子径が60nm以上であるコロイダルシリカにおいて、粒径0.2μm以上の粗大粒子を効果的に除去することは極めて困難であり、上記特許文献に開示される方法でも、粗大粒子を効果的に除去できるとは言い難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】Lee M. COOK (2001) CHEMICAL PROCESSES IN GLASS POLISHING
【文献】G. B. Basim et. al. (2000) Effect of Particle Size of Chemical Mechanical Polishing Slurries for Enhanced Polishing with Minimal Defects
【文献】日本国特開2012-6781号公報
【文献】日本国特開2019-157121号公報
【文献】日本国特許第6751578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のような事情に鑑み、本発明の目的とするところは、化学機械研磨工程において被研磨面の表面粗さを低減できる研磨スラリーの砥粒として用いることができるコロイダルシリカ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、母液中のアルカリ触媒濃度等の各種条件を所定のものとすることにより、平均粒子径が60~130nmで、0.2μm以上の粗大粒子量が所定量以下に低減されたコロイダルシリカを製造可能であることを見出した。本発明者らは、かかる知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、以下のコロイダルシリカ及びその製造方法を提供する。
項1.
水及びシリカ粒子を含み、
前記シリカ粒子の平均粒子径は60~130nmであり、
前記シリカ粒子に含まれる粒径0.2μm以上の粗大シリカ粒子含有量が、シリカ粒子濃度を1質量%とした時に10,000,000個/mL以下であることを特徴とする、コロイダルシリカ。
項2.
項1に記載のコロイダルシリカを含む、研磨用組成物。
項3.
アルコール、アルカリ触媒及び水を含む母液に、下記(1)~(3)の反応条件にてアルコキシシランとアルコールとを含むアルコキシシラン溶液を注入して反応液を得る工程を含む、コロイダルシリカの製造方法。
(1)母液中のアルカリ触媒濃度:0.40mol/L以上
(2)反応液中の水含有量:アルコキシシランの注入量1molあたり4mol以上
(3)アルコキシシラン溶液中のアルコール濃度:5.0mol/L以上
【発明の効果】
【0012】
以上にしてなる本発明に係るコロイダルシリカを研磨スラリー用の砥粒として用いることで、化学機械研磨の際に被研磨面の表面粗さを低減できると期待される。また、以上にしてなる本発明に係るコロイダルシリカの製造方法によれば、粗大粒子の少ないコロイダルシリカを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(1.コロイダルシリカ)
本発明のコロイダルシリカは、水及びシリカ粒子を含んで構成される。本発明のコロイダルシリカは、水及びシリカ粒子以外の物質を、その効果及び目的を損なわない範囲で含んでもよいが、水及びシリカ粒子のみからなる態様であることも好ましい。
【0014】
本発明のコロイダルシリカに含まれるシリカ粒子の平均粒子径は、60nm以上であり、80nm以上であることが好ましく、110nm以上であることがより好ましい。シリカ粒子の平均粒子径が60nmに満たない場合、十分な研磨レートを得ることができない。
【0015】
また、コロイダルシリカに含まれるシリカ粒子の平均粒子径は、130nm以下である。シリカ粒子の平均粒子径が130nmを超えると、本発明のコロイダルシリカを使用して化学機械研磨を行った際、被研磨面の表面粗さが十分に低減されないリスクが高くなってしまう。
【0016】
シリカ粒子の平均粒子径は定法により測定・算出することが可能であり、特に限定はない。例えば、動的光散乱法により測定することができる。
【0017】
本発明のコロイダルシリカに含まれる粗大粒子の含有量は、シリカ粒子濃度を1質量%とした時に10,000,000個/mL以下であり、9,000,000個/mL以下であることが好ましく、8,000,000個/mL以下であることがより好ましい。粗大粒子量がシリカ粒子濃度を1質量%とした時に10,000,000個/mLを超えると、本発明のコロイダルシリカを使用して化学機械研磨を行う際に、被研磨面の表面粗さが十分に低減されないリスクが高くなってしまう。
【0018】
コロイダルシリカに含まれる粗大粒子の含有量の下限値としては特に限定はなく、例えばシリカ粒子濃度を1質量%とした時に1,000個/mLとすることができる。もちろん、全く含まれない(0個/mL)ことも好ましい。
【0019】
本明細書において上記の「粗大粒子」とは、コロイダルシリカ中に含まれる粒径が0.2μm以上のシリカ粒子であると定義される。
【0020】
シリカ粒子濃度を1質量%としたときの粗大粒子数は、コロイダルシリカに水(好ましくは超純水)を加えてシリカ粒子濃度が1質量%となるように調整した後、粒度分布測定装置等を使用して粒径が0.2μm以上の粗大粒子数を測定するとよい。
【0021】
コロイダルシリカに含まれるシリカ粒子のBET比表面積は、15m2/g以上とすることが好ましく、20m2/g以上とすることがより好ましく、25m2/g以上とすることがさらに好ましい。また、シリカ粒子のBET比表面積は、110m2/g以下とすることが好ましく、100m2/g以下とすることがより好ましく、90m2/g以下とすることがさらに好ましい。
【0022】
シリカ粒子のBET比表面積は、コロイダルシリカをホットプレートの上で予備乾燥後、800℃で1時間熱処理したサンプルを用いて測定するとよい。
【0023】
本発明のコロイダルシリカは、上記したとおり水及びシリカ粒子を含んで構成される。しかしながら、シリカ粒子の分散媒として、水以外に有機溶媒を含むことも好ましい。
【0024】
有機溶媒は、通常、親水性の有機溶媒であり、その例としては、アルコール(例:メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール)、ケトン(例:アセトン、メチルエチルケトン)、エステル(例:酢酸エチル)が挙げられる。これらの有機溶媒は単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0025】
コロイダルシリカ中のシリカ粒子の含有量は、研磨用組成物の原料として用いる際に添加剤の配合量を調整しやすくなるという理由から5質量%以上であることが好ましく、8質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、12質量%以上であることがさらに好ましい。
【0026】
(2.研磨用組成物)
本発明は、上記したコロイダルシリカを含む研磨用組成物に係る発明を包含する。当該研磨用組成物は、化学機械研磨用として好適に使用することができる。
【0027】
本発明の研磨用組成物は、上記した本発明のコロイダルシリカを含む限り、特に制限されず、さらに添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、希釈剤、酸化剤、pH調整剤、防食剤、安定化剤、界面活性剤などが挙げられる。これらは単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0028】
研磨用組成物中のシリカ粒子の含有量は、例えば0.01~20質量%とすることが好ましく、0.05~10質量%とすることがより好ましく、0.1~5質量%とすることがさらに好ましい。
【0029】
(3.コロイダルシリカの製造方法)
本発明は、上記したコロイダルシリカの製造方法に係る発明を包含する。
【0030】
本発明のコロイダルシリカの製造方法は、アルコール、アルカリ触媒及び水を含む母液に、アルコキシシランとアルコールとを含むアルコキシシラン溶液を注入して反応液を得る工程(以下、当該工程を「工程1」ともいう。)を含む。
【0031】
(3.1.工程1)
工程1は、下記(1)~(3)の反応条件にて実施する。
(1)母液中のアルカリ触媒濃度:0.40mol/L以上
(2)反応液中の水含有量:アルコキシシランの注入量1molあたり4mol以上
(3)アルコキシシラン溶液中のアルコール濃度:5.0mol/L以上
【0032】
母液に含まれるアルコールとしては、当該技術分野において使用される公知のアルコールを広く使用可能であり、特に限定はない。具体的には、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオールを挙げることができる。これらは一種のみを単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0033】
母液に含まれるアルコールの濃度は、局所的なアルコキシシランの加水分解反応の発生を防ぎ、ゲル状物の発生を抑制するという理由から、10.0mol/L以上とすることが好ましく、13.0mol/L以上とすることがより好ましく、15.0mol/L以上とすることがさらに好ましい。また、母液に含まれるアルコールの濃度は、アルコキシシランの未反応物の残存を防ぐという理由から、23.0mol/L以下とすることが好ましく、22.5mol/L以下とすることがより好ましく、22.0mol/L以下とすることがさらに好ましい。
【0034】
アルカリ触媒についても、当該技術分野において使用される公知のアルカリ触媒を使用することが可能であり、特に限定はない。かかるアルカリ触媒としては、金属不純物の混入を回避する点で、金属成分を含まない有機塩基触媒が好ましく、中でも窒素を含有する有機塩基触媒が好ましい。このような有機系塩基触媒としては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、アンモニア、尿素、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、テトラメチルグアニジン、3-エトキシプロピルアミン、ジプロピルアミン、トリエチルアミンなどが挙げられる。これらは単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。触媒作用に優れるとともに、揮発性が高く後工程で容易に除去することができる点からは、アンモニアが好ましい。シリカ粒子の真比重を高くする観点からは、反応温度を高くしても揮発しにくいように、沸点が90℃以上の有機系塩基触媒を選択することが好ましく、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド及び3-エトキシプロピルアミンから選択される少なくとも一種がより好ましい。
【0035】
母液中のアルカリ触媒の含有量は、0.40mol/L以上であり、0.41mol/L以上であることが好ましく、0.42mol/L以上であることがより好ましい。母液中のアルカリ触媒の含有量が0.40mol/Lに満たない場合、シリカ粒子の合成過程で生じる核粒子の安定性が低下し、核粒子の凝集が進行して、0.2μm以上の粗大シリカ粒子の量が増大する。
【0036】
また、母液中のアルカリ触媒の含有量の上限値については、アルコキシシランの加水分解及び脱水縮合反応が過度に進行し、合成されるシリカ粒子の粒子径が過度に増大してしまうことを考慮し、0.90mol/L以下とすることが好ましく、0.80mol/L以下とすることがより好ましい。
【0037】
母液中のアルカリ触媒の含有量はアルコキシシランの注入量1molあたり0.10mol以上とすることが好ましく、0.20mol以上とすることがより好ましい。母液中のアルカリ触媒の含有量をアルコキシシランの注入量1molあたり0.10mol以上とすることで、凝集粒子の生成が抑制され、0.2μm以上の粗大シリカ粒子の量がより一層低減される。但し、工程1において後述するアルカリ触媒溶液を併せて母液に注入する場合には、母液及びアルカリ触媒溶液に含まれるアルカリ触媒の総量として、アルコキシシランの注入量1molあたり0.10mol以上とすることが好ましく、0.20mol以上とすることがより好ましい。
【0038】
また、母液中のアルカリ触媒の含有量はアルコキシシランの注入量1molあたり1.20mol以下とすることが好ましく、1.10mol以下とすることがより好ましい。母液中のアルカリ触媒の含有量をアルコキシシランの注入量1molあたり1.20mol以下とすることでアルコキシシランの加水分解反応を緩やかに進行させることができ、凝集粒子の発生量がより一層低減される。但し、工程1において後述するアルカリ触媒溶液を併せて母液に注入する場合には、母液及びアルカリ触媒溶液に含まれるアルカリ触媒の総量として、アルコキシシランの注入量1molあたり1.20mol以下とすることが好ましく、1.10mol以下とすることがより好ましい。
【0039】
母液中の水の含有量は、1.00mol/L以上とすることが好ましく、2.00mol/L以上とすることがより好ましい。母液中の水の含有量を1.00mol/L以上とすることで、アルコキシシランの未反応物の残存量が低減され、合成されたシリカ粒子の分散安定性が向上し、凝集粒子の発生がより一層抑制される。
【0040】
また、母液中の水の含有量は、15.00mol/L以下とすることが好ましく、14.00mol/L以下とすることがより好ましい。母液中の水の含有量を15.00mol/L以下とすることで、アルコキシシランの加水分解反応を緩やかに進行させることができ、凝集粒子の発生量がより一層低減される。
【0041】
母液中の水の含有量はアルコキシシランの注入量1molあたり4mol以上であり、4.5mol以上であることが好ましく、5mol以上であることがより好ましい。母液及びアルコキシシラン溶液に含まれる水の総量が、アルコキシシランの注入量1molあたり4molに満たない場合、アルコキシシランの未反応物が残存し、合成されたシリカ粒子の分散安定性が悪化する原因となる。但し、工程1において後述するアルカリ触媒溶液を併せて母液に注入する場合には、母液及びアルカリ触媒溶液に含まれる水の総量として、アルコキシシランの注入量1molあたり4mol以上であり、4.5mol以上であることが好ましく、5mol以上であることがより好ましい。
【0042】
また、母液中の水の含有量はアルコキシシランの注入量1molあたり12.0mol以下とすることが好ましく、11.0mol以下とすることがより好ましい。母液中の水の含有量をアルコキシシランの注入量1molあたり12.0mol以下とすることで、アルコキシシランの加水分解反応を緩やかに進行させることができ、凝集粒子の発生量がより一層低減される。但し、工程1において後述するアルカリ触媒溶液を併せて母液に注入する場合には、母液及びアルカリ触媒溶液に含まれる水の総量として、アルコキシシランの注入量1molあたり12.0mol以下とすることが好ましく、11.0mol以下とすることがより好ましい。
【0043】
アルコキシシラン溶液に含まれるアルコールとしては、上記した母液に使用するアルコールと同様のアルコールを使用することができる。これらの有機溶媒は単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。但し、母液に使用する有機溶媒と同一の有機溶媒を使用してもよいし、異なる有機溶媒を使用してもよい。
【0044】
アルコキシシラン溶液中のアルコール濃度は、5.0mol/L以上であり、6.0mol/L以上であることが好ましい。当該アルコール濃度が5.0mol/Lに満たない場合、アルコキシシランの加水分解及び脱水縮合反応が局所的に進行し、0.2μm以上の粗大シリカ粒子の量が増大する。
【0045】
アルコキシシラン溶液中のアルコール濃度の上限値については特に限定はなく、例えば23mol/L以下とすることが好ましい。
【0046】
アルコキシシラン溶液に含まれるアルコキシシランとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシランなどのテトラC1-8アルコキシシランが挙げられる。これらは単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。これらのうち、テトラC1-4アルコキシシランが好ましく、テトラメトキシシラン及び/又はテトラエトキシシランがさらに好ましい。
【0047】
アルコキシシラン溶液中のアルコキシシラン濃度については、2.0mol/L以上とすることが好ましく、4.0mol/L以上とすることがより好ましい。同様に、当該アルコキシシラン濃度については、5.4mol/L以下とすることが好ましく、5.2mol/L以下とすることがより好ましい。かかる構成を採用することにより、0.2μm以上の粗大シリカ粒子の発生を抑制しつつ、高い生産性でコロイダルシリカを製造することができる。
【0048】
アルコキシシラン溶液に加えて、アルカリ触媒溶液を併せて母液に注入することも好ましい。アルカリ触媒溶液に含まれるアルカリ触媒としては、母液に含まれるアルカリ触媒と同様のものを使用することが可能である。
【0049】
アルカリ触媒溶液に含まれるアルカリ触媒量は、2.0質量%以上とすることが好ましく、2.5質量%以上とすることがより好ましく、3.0質量%以上とすることがさらに好ましい。また、当該アルカリ触媒量は、10.0質量%以下とすることが好ましく、9.0質量%以下とすることがより好ましく、8.0質量%以下とすることがさらに好ましい。かかる構成を採用することにより、凝集粒子の発生を抑制しつつ、アルコキシシランの未反応物の残存を防ぐことができる。
【0050】
アルカリ触媒溶液におけるアルカリ触媒の溶媒としては、アルコール、水等を好適に使用することが可能であり、特に限定はない。中でも、水を使用することが好ましい。
【0051】
工程1におけるアルコキシシランの注入速度は、アルコキシシラン濃度の局所的な増大を抑制し、凝集粒子の発生を抑制するという理由から、母液100質量部あたり0.90質量部/min以下とすることが好ましく、0.85質量部/min以下とすることがより好ましい。また、工程1におけるアルコキシシランの注入速度は、生産性を向上させるという理由から、母液100質量部あたり0.10質量部/min以上とすることが好ましい。尚、アルカリ触媒溶液を使用する場合には、母液に対して、アルコキシシラン溶液及びアルカリ触媒溶液を同時に併せて注入することが好ましい。
【0052】
反応液における反応を進行させる際の反応温度は、15℃以上とすることが好ましく、18℃以上とすることがより好ましい。かかる構成を採用することにより、シリカ粒子の合成過程で生じる核粒子の安定性が向上し、核粒子の凝集が抑制され、0.2μm以上の粗大シリカ粒子の発生が抑制される。
【0053】
また、上記反応温度は、40℃以下とすることが好ましく、34℃以下とすることがより好ましい。かかる構成を採用することにより、アルコキシシランの反応性を抑制し、過度な粒子径の増大を防ぐことができる。
【0054】
(3.2.工程2)
本発明のコロイダルシリカの製造方法は、さらに工程1で得られた反応液中の液体成分を水に置換する工程(単に「工程2」ともいう。)を含むことも好ましい。
【0055】
当該工程2は、当該技術分野において採用される公知の置換方法を広く採用することが可能であり、特に限定はない。例えば、工程1で得られた反応液を留去した後に、水を添加する方法を挙げることができる。
【0056】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例】
【0057】
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。
【0058】
(実施例1)
メタノール100質量部、超純水11質量部、及び28質量%アンモニア水6質量部を混合して母液を作製した。母液に使用したメタノール100質量部に対して、テトラメトキシシラン50質量部とメタノール14質量部を混合してアルコキシシラン溶液とした。超純水34質量部と28質量%アンモニア水5質量部とを混合してアルカリ触媒溶液とした。原料溶液とアルカリ触媒溶液を、母液の温度を25℃に維持しつつ、60分かけて母液中に定速注入し、反応液を得た。母液のアルカリ触媒濃度は0.68mol/Lであった。アルコキシシラン溶液中のアルコール濃度は6.5mol/Lであった。反応系中の水の総仕込み量は、テトラメトキシシランの注入量1molあたり8.9molであった。得られた反応液100質量部に対して、加熱して溶媒を留去させながら190質量部の超純水を添加することにより、体積を一定に維持しながら溶媒成分を完全に水に置換し、コロイダルシリカを得た。
【0059】
(実施例2)
メタノール100質量部、超純水11質量部、及び28質量%アンモニア水6質量部を混合して母液を作製した。母液に使用したメタノール100質量部に対して、テトラメトキシシラン50質量部とメタノール12質量部を混合してアルコキシシラン溶液とした。超純水34質量部と28質量%アンモニア水5質量部とを混合してアルカリ触媒溶液とした。原料溶液とアルカリ触媒溶液を、母液の温度を25℃に維持しつつ、60分かけて母液中に定速注入し、反応液を得た。母液のアルカリ触媒濃度は0.68mol/Lであった。アルコキシシラン溶液中のアルコール濃度は6.0mol/Lであった。反応系中の水の総仕込み量は、テトラメトキシシランの注入量1molあたり8.9molであった。得られた反応液100質量部に対して、加熱して溶媒を留去させながら190質量部の超純水を添加することにより、体積を一定に維持しながら溶媒成分を完全に水に置換し、コロイダルシリカを得た。
【0060】
(実施例3)
メタノール100質量部、超純水30質量部、及び28質量%アンモニア水4質量部を混合して母液を作製した。母液に使用したメタノール100質量部に対して、テトラメトキシシラン119質量部とメタノール32質量部を混合してアルコキシシラン溶液とした。超純水34質量部と28質量%アンモニア水9質量部とを混合してアルカリ触媒溶液とした。原料溶液とアルカリ触媒溶液を、母液の温度を20℃に維持しつつ、150分かけて母液中に定速注入し、反応液を得た。母液のアルカリ触媒濃度は0.43mol/Lであった。アルコキシシラン溶液中のアルコール濃度は6.5mol/Lであった。反応系中の水の総仕込み量は、テトラメトキシシランの注入量1molあたり5.2molであった。得られた反応液100質量部に対して、加熱して溶媒を留去させながら190質量部の超純水を添加することにより、体積を一定に維持しながら溶媒成分を完全に水に置換し、コロイダルシリカを得た。
【0061】
(比較例1)
メタノール100質量部、超純水11質量部、及び28質量%アンモニア水6質量部を混合して母液を作製した。母液に使用したメタノール100質量部に対して、テトラメトキシシラン50質量部をアルコキシシランとして使用した(アルコキシシランは溶媒に溶解させなかった)。超純水34質量部と28質量%アンモニア水5質量部を混合してアルカリ触媒溶液とした。原料溶液とアルカリ触媒溶液を、母液の温度を25℃に維持しつつ、60分かけて母液中に定速注入し、反応液を得た。母液のアルカリ触媒濃度は0.68mol/Lであった。反応系中の水の総仕込み量は、テトラメトキシシランの注入量1molあたり8.9molであった。得られた反応液100質量部に対して、加熱して溶媒を留去させながら190質量部の超純水を添加することで、体積を一定に維持しながら溶媒成分を完全に水に置換し、コロイダルシリカを得た。
【0062】
(比較例2)
比較例1のコロイダルシリカをろ過精度0.2μmの精密フィルター(ロキテクノ社製SLF-002)でろ過し、比較例2のコロイダルシリカを得た。
【0063】
平均粒子径測定
各実施例及び比較例のコロイダルシリカに0.3質量%クエン酸水溶液を加えて、シリカ粒子濃度が1.0質量%となるように希釈した。希釈液を測定用サンプルとした。当該測定用サンプルを用いて、動的光散乱法(大塚電子株式会社製「ELSZ-2000」)により平均粒子径を測定した。
【0064】
粗大粒子数測定
各実施例及び比較例のコロイダルシリカに超純水を加えてシリカ濃度として1.0質量%となるように希釈した。希釈液を測定用サンプルとし、Particle sizing system Inc.社製Accusizer FX-nano を用いて0.2μm以上の粗大粒子数を測定した。測定条件は以下の通りとした。
<System Setup>
・Stirred Vessel Volume : 13.22 mL
・Sample Loop Volume : 0.52 mL
・Autodilution delay time : 3 sec.
・Normal Speed Flow Rate : 15 mL/min
<Sensor Setup Menu>
・FX-Nano HG Minimum Size : 0.15 μm
・FX-Nano HG Maximum Size : 0.27 μm
・FX-Nano HG Collection Time : 60 sec.
・HG Starting Concentration : 8000 #/mL
【0065】
被研磨面の表面粗さの評価
各実施例及び比較例のコロイダルシリカに超純水を加えてシリカ濃度として3.0質量%となるように希釈し、研磨用組成物とした。得られた研磨用組成物を用いて、酸化ケイ素膜が表面に成膜されている3 cm四方のシリコンウェーハを以下の条件で研磨した。
研磨機:株式会社ナノファクター製NF-300CMP
研磨パッド:ニッタ・デュポン株式会社製IC1000TMPad
スラリー供給速度:50 mL/min
ヘッド回転速度:32 rpm
プラテン回転速度:32 rpm
研磨圧:4 psi
研磨時間:2 min
研磨後のウェーハに関して、原子間力顕微鏡を用いて下記の条件で被研磨面の表面粗さを評価した。
原子間力顕微鏡:株式会社島津製作所製SPM-9700HT
カンチレバー:OLYMPUS製MICRO CANTILEVER OMCL-AC240TS-R3
観察モード:ダイナミック
走査範囲:3.0 μm四方
走査速度:1.00 Hz
観察視野数:研磨後のウェーハ1枚あたり5視野を観察した。
表面粗さの算出方法:5視野の二乗平均平方根粗さの平均値を算出し、被研磨面の表面粗さとした。
【0066】
下記表1に示すとおり、実施例1、実施例2及び実施例3では、平均粒子径が60~130nmであり、且つ、粒径0.2μm以上の粗大粒子量の少ないコロイダルシリカを得ることができた。また、研磨試験の結果から、比較例1及び比較例2に比べて実施例1、実施例2及び実施例3を用いた場合では被研磨面の表面粗さが低減されていることが確認された。
【0067】
【要約】
水及びシリカ粒子を含み、
前記シリカ粒子の平均粒子径は60~130nmであり、
前記シリカ粒子に含まれる粒径0.2μm以上の粗大シリカ粒子含有量が、シリカ粒子濃度を1質量%とした時に10,000,000個/mL以下であることを特徴とする、コロイダルシリカ。