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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-24
(45)【発行日】2022-09-01
(54)【発明の名称】マレイミド系共重合体及び樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 212/00 20060101AFI20220825BHJP
   C08L 39/00 20060101ALI20220825BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20220825BHJP
   B29C 65/20 20060101ALI20220825BHJP
【FI】
C08F212/00
C08L39/00
C08L101/00
B29C65/20
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022505313
(86)(22)【出願日】2021-06-08
(86)【国際出願番号】 JP2021021771
(87)【国際公開番号】W WO2022044480
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2022-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2020145428
(32)【優先日】2020-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】松本 真典
(72)【発明者】
【氏名】西野 広平
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-093044(JP,A)
【文献】特開平11-158215(JP,A)
【文献】国際公開第2018/139087(WO,A1)
【文献】特開2001-207000(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 212/00
C08L 39/00
C08L 101/00
B29C 65/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
40~65質量%の芳香族ビニル系単量体単位、及び、35~60質量%のマレイミド系単量体単位を有し、芳香族ビニル系単量体の残存量が200~2000質量ppmであり、マレイミド系単量体の残存量が30~400質量ppmである、マレイミド系共重合体からなる、
熱板溶着時の樹脂組成物の糸曳きを抑制する、糸曳き抑制剤。
【請求項2】
前記マレイミド系共重合体が不飽和ジカルボン酸系単量体単位を更に有し、
前記マレイミド系共重合体における、前記不飽和ジカルボン酸系単量体単位の含有量が10質量%以下である、請求項1に記載の糸曳き抑制剤。
【請求項3】
前記マレイミド系共重合体がシアン化ビニル系単量体単位を更に有し、
前記マレイミド系共重合体における、前記シアン化ビニル系単量体単位の含有量が5~20質量%である、請求項1又は2に記載の糸曳き抑制剤。
【請求項4】
マレイミド系共重合体と、
熱可塑性樹脂と、
を含有し、
前記マレイミド系共重合体が40~65質量%の芳香族ビニル系単量体単位、及び、35~60質量%のマレイミド系単量体単位を有し、
前記マレイミド系共重合体における、芳香族ビニル系単量体の残存量が200~2000質量ppmであり、マレイミド系単量体の残存量が30~400質量ppmである、
熱板溶着用樹脂組成物。
【請求項5】
前記マレイミド系共重合体が不飽和ジカルボン酸系単量体単位を更に有し、
前記マレイミド系共重合体における、前記不飽和ジカルボン酸系単量体単位の含有量が10質量%以下である、請求項4に記載の熱板溶着用樹脂組成物。
【請求項6】
前記マレイミド系共重合体がシアン化ビニル系単量体単位を更に有し、
前記マレイミド系共重合体における、前記シアン化ビニル系単量体単位の含有量が5~20質量%である、請求項4又は5に記載の熱板溶着用樹脂組成物。
【請求項7】
前記マレイミド系共重合体の含有量が5~40質量%であり、
前記熱可塑性樹脂の含有量が60~95質量%である、請求項4~6のいずれか一項に記載の熱板溶着用樹脂組成物。
【請求項8】
第一の樹脂面と第二の樹脂面とを熱板溶着により接合する工程を備え、
前記第一の樹脂面及び前記第二の樹脂面の少なくとも一方が、請求項4~7のいずれか一項に記載の熱板溶着用樹脂組成物を含む、成形品の製造方法。
【請求項9】
第一の樹脂面と第二の樹脂面とを溶着させた溶着部を有し、
前記第一の樹脂面及び前記第二の樹脂面の少なくとも一方が、請求項4~7のいずれか一項に記載の熱板溶着用樹脂組成物を含む、成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マレイミド系共重合体、マレイミド系共重合体からなる糸曳き抑制剤、マレイミド系共重合体を含む樹脂組成物、マレイミド系共重合体を含む成形品、及び、マレイミド系共重合体を含む成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ABS樹脂等の樹脂は、優れた機械強度、外観、耐薬品性、成形性等を活かし、自動車、家電、OA機器、住宅建材、日用品等に幅広く使用されている。
【0003】
樹脂製品の接合には、熱板溶着が広く用いられている。熱板溶着では、例えば、2つの樹脂面をそれぞれ熱板により溶融し、溶融した樹脂面同士を合わせて溶着させることにより、2つの樹脂面が接合される。
【0004】
熱板溶着では、樹脂面を熱板から引き離す際に、樹脂が糸状に引き伸ばされる、いわゆる糸曳き現象が生じる場合がある。この糸曳き現象が生じると、糸状体が成形品の表面に付着して外観不良を生じさせたり、作業性が著しく低下したり、といった問題が生じてしまう。この糸曳き現象を改善するため、例えば、特許文献1には、熱可塑性樹脂に特定量のフッ素樹脂を添加する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平09-12902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、熱可塑性樹脂への添加によって、黄色度の増大を抑制しつつ、耐熱性の付与、及び、熱板溶着時の糸曳き現象の抑制という効果を同時に得ることが可能な、マレイミド系共重合体を提供することを目的とする。また、本発明は、上記マレイミド系共重合体からなり、熱可塑性樹脂の熱板溶着時の糸曳き現象を抑制できる糸曳き抑制剤を提供することを目的とする。本発明はまた、上記マレイミド系共重合体を含み、熱板溶着時の糸曳き現象が抑制された樹脂組成物を提供することを目的とする。本発明はまた、上記マレイミド系共重合体を含む成形品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、40~65質量%の芳香族ビニル系単量体単位、及び、35~60質量%のマレイミド系単量体単位を有し、芳香族ビニル系単量体の残存量が200~2000質量ppmであり、マレイミド系単量体の残存量が30~400質量ppmである、マレイミド系共重合体に関する。
【0008】
一態様に係るマレイミド系共重合体は、不飽和ジカルボン酸系単量体単位を更に有していてよく、上記不飽和ジカルボン酸系単量体単位の含有量は10質量%以下であってよい。
【0009】
一態様に係るマレイミド系共重合体は、シアン化ビニル系単量体単位を更に有していてよく、上記シアン化ビニル系単量体単位の含有量は5~20質量%であってよい。
【0010】
本発明の他の一側面は、上記マレイミド系共重合体からなる、熱板溶着時の樹脂組成物の糸曳きを抑制する、糸曳き抑制剤に関する。
【0011】
本発明の更に他の一側面は、上記マレイミド系共重合体と、熱可塑性樹脂と、を含有する、樹脂組成物に関する。
【0012】
一態様に係る樹脂組成物は、上記マレイミド系共重合体の含有量が5~40質量%であってよく、上記熱可塑性樹脂の含有量が60~95質量%であってよい。
【0013】
一態様に係る樹脂組成物は、熱板溶着用であってよい。
【0014】
本発明の更に他の一側面は、第一の樹脂面と第二の樹脂面とを熱板溶着により接合する工程を備え、上記第一の樹脂面及び上記第二の樹脂面の少なくとも一方が、上記樹脂組成物を含む、成形品の製造方法に関する。
【0015】
本発明の更に他の一側面は、第一の樹脂面と第二の樹脂面とを溶着させた溶着部を有し、上記第一の樹脂面及び上記第二の樹脂面の少なくとも一方が、上記樹脂組成物を含む、成形品に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、熱可塑性樹脂への添加によって、黄色度の増大を抑制しつつ、耐熱性の付与、及び、熱板溶着時の糸曳き現象の抑制という効果を同時に得ることが可能な、マレイミド系共重合体が提供される。また、本発明によれば、上記マレイミド系共重合体からなり、熱可塑性樹脂の熱板溶着時の糸曳き現象を抑制できる糸曳き抑制剤が提供される。また、本発明によれば、上記マレイミド系共重合体を含み、熱板溶着時の糸曳き現象が抑制された樹脂組成物が提供される。また、本発明によれば、上記マレイミド系共重合体を含む成形品及びその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0018】
(マレイミド系共重合体)
本実施形態のマレイミド系共重合体は、40~65質量%の芳香族ビニル系単量体単位、及び、35~60質量%のマレイミド系単量体単位を有する。また、本実施形態のマレイミド系共重合体において、芳香族ビニル系単量体の残存量は200~2000質量ppmであり、マレイミド系単量体の残存量は30~400質量ppmである。
【0019】
本実施形態のマレイミド系共重合体は、所定量の芳香族ビニル系単量体単位と所定量のマレイミド系単量体単位とを有し、且つ、芳香族ビニル系単量体及びマレイミド系単量体の残存量が所定の範囲内に調整されている。このため、本実施形態のマレイミド系共重合体は、熱可塑性樹脂への添加時の変色が十分に抑制され、熱可塑性樹脂に対する耐熱性付与効果が高く、また、熱可塑性樹脂への添加によって熱板溶着時の糸曳き現象を顕著に抑制することができる。すなわち、本実施形態のマレイミド系共重合体は、熱可塑性樹脂との混合により、黄色度が十分に低く、耐熱性に優れ、熱板溶着時の糸曳き現象が顕著に抑制された樹脂組成物を提供することができる。
【0020】
上記効果が奏される理由は必ずしも明らかではないが、特定の組成のマレイミド系共重合体において単量体の残存量を上記の特定の範囲内とすることで、残存する単量体が、樹脂組成物の十分な耐熱性及び黄色度を維持しつつ樹脂組成物の糸曳きを効果的に抑制できるため、優れた黄色度、耐熱性付与効果、及び糸曳き現象の抑制効果が同時に得られると考えられる。
【0021】
本実施形態のマレイミド系共重合体の構造は特に限定されず、芳香族ビニル系単量体単位とマレイミド系単量体単位とを含む任意の構造の共重合体を用いることができる。すなわち、共重合体には、大きく分類して、ランダム共重合体、交互共重合体、周期的共重合体、ブロック共重合体の4種類の構造があり、ブロック共重合体の一種にグラフト系共重合体(幹となる高分子鎖に、異種の枝高分子鎖が結合した枝分かれ構造の共重合体)があるが、いずれの構造の共重合体であってもよい。
【0022】
<芳香族ビニル系単量体単位>
芳香族ビニル系単量体単位は、芳香族ビニル系単量体に由来する構造単位(繰り返し単位)を示す。芳香族ビニル系単量体は、炭素-炭素二重結合と当該二重結合に直接結合する少なくとも一つの芳香環とを有する単量体であってよく、好ましくは、芳香環に-C(R)=CH(Rは水素原子又はメチル基)で表される基が結合した単量体である。本実施形態のマレイミド系共重合体は、芳香族ビニル系単量体単位を1種のみ有していてよく、2種以上有していてもよい。
【0023】
芳香族ビニル系単量体単位が有する芳香環としては、ベンゼン環又はナフタレン環が好ましく、ベンゼン環がより好ましい。
【0024】
芳香族ビニル系単量体としては、例えば、
スチレン、及び、スチレンが有する水素原子の一部が置換基で置換されたスチレン誘導体からなる群より選択されるスチレン系単量体、
1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン、及び、これらが有する水素原子の一部が置換基で置換されたビニルナフタレン誘導体からなる群より選択されるビニルナフタレン系単量体、等が挙げられる。
【0025】
各誘導体が有する置換基としては、例えば、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子、好ましくはフッ素原子又は塩素原子)、アルキル基(例えば炭素数1~16のアルキル基、好ましくは炭素数1~8のアルキル基、より好ましくは炭素数1~4のアルキル基)等が挙げられる。これらの基は更に置換基(例えば上記置換基)を有していてもよい。
【0026】
スチレン系単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、エチルスチレン、tert-ブチルスチレン、クロロスチレン及びジクロロスチレンからなる群より選択される化合物が好ましく、スチレン及びα-メチルスチレンからなる群より選択される化合物がより好ましく、スチレンが更に好ましい。
【0027】
ビニルナフタレン系単量体としては、1-ビニルナフタレン及び2-ビニルナフタレンからなる群より選択される化合物が好ましく、2-ビニルナフタレンがより好ましい。
【0028】
芳香族ビニル系単量体としては、スチレン系単量体が好ましい。すなわち、芳香族ビニル系単量体単位としては、スチレン系単量体単位が好ましい。
【0029】
マレイミド系共重合体中の芳香族ビニル系単量体単位の含有量は、40質量%以上であり、好ましくは43質量%以上、より好ましくは45質量%以上、更に好ましくは47質量%以上である。これにより、樹脂組成物の溶融時の流動性がより向上して成形性がより向上する傾向がある。また、これにより、樹脂組成物の耐衝撃性がより向上する傾向がある。
【0030】
また、マレイミド系共重合体中の芳香族ビニル系単量体単位の含有量は、65質量%以下であり、好ましくは63質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは57質量%以下であり、一層好ましくは55質量%以下である。これにより、マレイミド系共重合体の耐熱性付与効果がより向上する傾向がある。すなわち、マレイミド系共重合体中の芳香族ビニル系単量体単位の含有量は、例えば、40~65質量%、40~63質量%、40~60質量%、40~57質量%、40~55質量%、43~65質量%、43~63質量%、43~60質量%、43~57質量%、43~55質量%、45~65質量%、45~63質量%、45~60質量%、45~57質量%、45~55質量%、47~65質量%、47~63質量%、47~60質量%、47~57質量%又は47~55質量%であってよい。
【0031】
<マレイミド系単量体単位>
マレイミド系単量体単位は、マレイミド系単量体に由来する構造単位(繰り返し単位)を示す。マレイミド系単量体は、例えば、下記式(1)で表される基を少なくとも一つ有する単量体であってよい。なお、マレイミド系単量体単位は、必ずしもマレイミド系単量体から形成されたものである必要はなく、例えば、後述の不飽和ジカルボン酸系単量体単位を、アンモニア又は第1級アミンでイミド化して形成されたものであってもよい。本実施形態のマレイミド系共重合体は、マレイミド系単量体単位を1種のみ有していてよく、2種以上有していてもよい。
【化1】
【0032】
マレイミド系単量体としては、マレイミド、N-置換マレイミド(すなわち、窒素原子上に置換基を有するマレイミド)が挙げられる。N-置換マレイミドが有する窒素原子上の置換基としては、例えば、アルキル基(例えば炭素数1~18のアルキル基、好ましくは炭素数1~8のアルキル基、より好ましくは炭素数1~4のアルキル基)、シクロアルキル基(例えば、炭素数3~9のシクロアルキル基、好ましくは炭素数4~8のシクロアルキル基、より好ましくは5~7のシクロアルキル基)、アリール基(例えば炭素数6~10のアリール基、好ましくはフェニル基)等が挙げられる。これらの基は更に置換基(例えば、上記置換基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子、好ましくはフッ素原子又は塩素原子)、アルコキシ基(例えば炭素数1~18のアルコキシ基、好ましくは炭素数1~8のアルコキシ基、より好ましくは炭素数1~4のアルコキシ基)等)を有していてもよい。
【0033】
N-置換マレイミドとしては、例えば、
N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-n-ブチルマレイミド、N-n-オクチルマレイミド等のN-アルキルマレイミド;
N-シクロヘキシルマレイミド等のN-シクロアルキルマレイミド;
N-フェニルマレイミド、N-(4-メトキシフェニル)マレイミド等のN-アリールマレイミド;
等が挙げられる。
【0034】
マレイミド系単量体としては、N-置換マレイミドが好ましく、N-アリールマレイミドがより好ましく、N-フェニルマレイミドが更に好ましい。すなわち、マレイミド系単量体単位(iii)としては、N-置換マレイミド単位が好ましく、N-アリールマレイミド単位がより好ましく、N-フェニルマレイミド単位が更に好ましい。
【0035】
マレイミド系単量体単位は、マレイミド系単量体の重合によって形成されたものであってもよく、不飽和ジカルボン酸系単量体単位(例えば、マレイン酸無水物単位)のイミド化によって形成されたものであってもよい。不飽和ジカルボン酸系単量体単位は、後述の不飽和ジカルボン酸系単量体単位であってよい。イミド化は、例えば、不飽和ジカルボン酸系単量体単位にアンモニア又は第1級アミンを反応させることで実施することができる。
【0036】
マレイミド系共重合体中のマレイミド系単量体単位の含有量は、35質量%以上であり、好ましくは37質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは43質量%以上、一層好ましくは45質量%以上である。これにより、マレイミド系共重合体の耐熱性付与効果がより向上する傾向がある。
【0037】
また、マレイミド系共重合体中のマレイミド系単量体単位の含有量は、60質量%以下であり、好ましくは57質量%以下、より好ましくは55質量%以下、更に好ましくは53質量%以下である。これにより、樹脂組成物の溶融時の流動性がより向上して成形性がより向上する傾向がある。また、これにより、樹脂組成物の耐衝撃性がより向上する傾向がある。すなわち、マレイミド系共重合体中のマレイミド系単量体単位の含有量は、例えば、35~60質量%、35~57質量%、35~55質量%、35~53質量%、37~60質量%、37~57質量%、37~55質量%、37~53質量%、40~60質量%、40~57質量%、40~55質量%、40~53質量%、43~60質量%、43~57質量%、43~55質量%、43~53質量%、45~60質量%、45~57質量%、45~55質量%又は45~53質量%であってよい。
【0038】
本実施形態のマレイミド系共重合体は、芳香族ビニル系単量体単位とマレイミド系単量体単位とから主に構成されている。マレイミド系共重合体中の、芳香族ビニル系単量体単位及びマレイミド系単量体単位の合計含有量は、例えば75質量%以上であり、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、95質量%以上であってもよく、97質量%以上であってもよく、100質量%であってもよい。
【0039】
本実施形態のマレイミド系共重合体は、芳香族ビニル系単量体単位及びマレイミド系単量体単位以外の他の単量体単位を更に有していてもよい。例えば、本実施形態のマレイミド系共重合体は、不飽和ジカルボン酸系単量体単位を更に有していてもよい。また、本実施形態のマレイミド系共重合体は、シアン化ビニル系単量体単位を更に有していてもよい。
【0040】
<不飽和ジカルボン酸系単量体単位>
不飽和ジカルボン酸系単量体単位は、不飽和ジカルボン酸系単量体に由来する構造単位(繰り返し単位)を示す。不飽和ジカルボン酸系単量体としては、例えば、不飽和ジカルボン酸及びその無水物(不飽和ジカルボン酸無水物)等が挙げられる。本実施形態のマレイミド系共重合体は、不飽和ジカルボン酸系単量体を1種のみ有していてよく、2種以上有していてもよい。
【0041】
不飽和ジカルボン酸としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸等が挙げられる。不飽和ジカルボン酸無水物としては、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸等が挙げられる。
【0042】
不飽和ジカルボン酸系単量体単位としては、マレイン酸系単量体単位(マレイン酸単位又は無水マレイン酸単位)が好ましい。
【0043】
マレイミド系共重合体中の不飽和ジカルボン酸系単量体単位の含有量は、例えば15質量%以下であってよく、樹脂組成物の熱安定性がより向上し、熱加工時の分解ガスの発生がより顕著に抑制される観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは7質量%以下、更に好ましくは5質量%以下、一層好ましくは3質量%以下であり、0質量%であってもよい。
【0044】
マレイミド系共重合体が不飽和ジカルボン酸系単量体単位を含有するとき、マレイミド系共重合体中の不飽和ジカルボン酸系単量体単位の含有量は、例えば0.1質量%以上であってよく、塗装により形成される塗膜との密着性がより向上しやすい観点からは、好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上であり、0.7質量%以上又は1質量%以上であってもよい。すなわち、マレイミド系共重合体中の不飽和ジカルボン酸系単量体単位の含有量は、0~15質量%、0~10質量%、0~7質量%、0~5質量%、0~3質量%、0.1~15質量%、0.1~10質量%、0.1~7質量%、0.1~5質量%、0.1~3質量%、0.3~15質量%、0.3~10質量%、0.3~7質量%、0.3~5質量%、0.3~3質量%、0.5~15質量%、0.5~10質量%、0.5~7質量%、0.5~5質量%、0.5~3質量%、0.7~15質量%、0.7~10質量%、0.7~7質量%、0.7~5質量%、0.7~3質量%、1~15質量%、1~10質量%、1~7質量%、1~5質量%又は1~3質量%であってよい。
【0045】
マレイミド系共重合体中の不飽和ジカルボン酸系単量体単位は、その含有量が上記範囲となるように不飽和ジカルボン酸系単量体を重合させて形成されたものであってよい。また、マレイミド系共重合体中の不飽和ジカルボン酸系単量体単位は、マレイミド系単量体単位の形成のためのイミド化反応で未反応であった不飽和ジカルボン酸系単量体単位であってもよい。
【0046】
<シアン化ビニル系単量体単位>
シアン化ビニル系単量体単位は、シアン化ビニル系単量体に由来する構造単位(繰り返し単位)を示す。シアン化ビニル系単量体は、炭素-炭素二重結合と当該二重結合に直接結合する少なくとも一つのシアノ基とを有する単量体であってよい。
【0047】
シアン化ビニル系単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマロニトリル、α-クロロアクリロニトリル等が挙げられる。
【0048】
シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリルが好ましい。すなわち、シアン化ビニル系単量体単位としては、アクリロニトリル単位が好ましい。
【0049】
マレイミド系共重合体中のシアン化ビニル系単量体単位の含有量は、例えば20質量%以下であってよく、マレイミド系共重合体の変色が抑えられやすい観点からは、好ましくは15質量%以下、より好ましくは13質量%以下、更に好ましくは10質量%以下であり、0質量%であってもよい。
【0050】
マレイミド系共重合体がシアン化ビニル系単量体単位を含有するとき、マレイミド系共重合体中のシアン化ビニル系単量体単位の含有量は、樹脂組成物の耐薬品性が向上しやすい観点からは、例えば5質量%以上であってよく、7質量%以上であってもよい。すなわち、マレイミド系共重合体中のシアン化ビニル系単量体単位の含有量は、例えば、0~20質量%、0~15質量%、0~13質量%、0~10質量%、5~20質量%、5~15質量%、5~13質量%、5~10質量%、7~20質量%、7~15質量%、7~13質量%又は7~10質量%であってよい。
【0051】
<他の単量体単位>
本実施形態のマレイミド系共重合体は、上記以外の他の単量体単位を更に有していてもよい。他の単量体単位としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル単位、(メタ)アクリル酸エチル単位、(メタ)アクリル酸ブチル単位、(メタ)アクリル酸単位、(メタ)アクリル酸アミド単位等が挙げられる。
【0052】
マレイミド系共重合体中の他の単量体単位の含有量は、例えば5質量%以下であり、好ましくは3質量%以下、更に好ましくは1質量%以下であり、0質量%であってもよい。
【0053】
なお、本明細書中、各単量体単位の含有量は、13C-NMR法により、以下の装置及び測定条件で測定することができる。
装置名:JNM-ECXシリーズFT-NMR(日本電子株式会社製)
溶媒:重水素化クロロホルム
濃度:2.5質量%
温度:27℃
積算回数:8000回
【0054】
<単量体の残存量>
本実施形態のマレイミド系共重合体には、芳香族ビニル系単量体及びマレイミド系単量体を残存していてよい。言い換えると、本実施形態のマレイミド系共重合体は、芳香族ビニル系単量体及びマレイミド系単量体を含む組成物として存在していてよい。すなわち、本実施形態は、マレイミド系共重合体と、ビニル系単量体と、マレイミド系単量体と、を含む組成物に関するということもできる。
【0055】
本実施形態のマレイミド系共重合体において、芳香族ビニル系単量体の残存量(C)は、200質量ppm以上であり、これにより、樹脂組成物における糸曳き現象が顕著に抑制される。糸曳き抑制効果がより顕著に奏される観点からは、芳香族ビニル系単量体の残存量(C)は、300質量ppm以上、400質量ppm以上、500質量ppm以上、600質量ppm以上、700質量ppm以上、800質量ppm以上、900質量ppm以上又は1000質量ppm以上であってもよい。
【0056】
また、芳香族ビニル系単量体の残存量(C)は、2000質量ppm以下であり、これにより、樹脂組成物の加熱時の揮発分の発生が顕著に抑制される。揮発分の発生がより顕著に抑制される観点からは、芳香族ビニル系単量体の残存量(C)は、1800質量ppm以下、1600質量ppm以下、1400質量ppm以下、1200質量ppm以下又は1100質量ppm以下であってもよい。すなわち、芳香族ビニル系単量体の残存量(C)は、例えば、300~1800質量ppm、300~1600質量ppm、300~1400質量ppm、300~1200質量ppm、300~1100質量ppm、400~1800質量ppm、400~1600質量ppm、400~1400質量ppm、400~1200質量ppm、400~1100質量ppm、500~1800質量ppm、500~1600質量ppm、500~1400質量ppm、500~1200質量ppm、500~1100質量ppm、600~1800質量ppm、600~1600質量ppm、600~1400質量ppm、600~1200質量ppm、600~1100質量ppm、700~1800質量ppm、700~1600質量ppm、700~1400質量ppm、700~1200質量ppm、700~1100質量ppm、800~1800質量ppm、800~1600質量ppm、800~1400質量ppm、800~1200質量ppm、800~1100質量ppm、900~1800質量ppm、900~1600質量ppm、900~1400質量ppm、900~1200質量ppm、900~1100質量ppm、1000~1800質量ppm、1000~1600質量ppm、1000~1400質量ppm、1000~1200質量ppm又は1000~1100質量ppmであってよい。
【0057】
マレイミド系共重合体中に残存する芳香族ビニル系単量体としては、上述の芳香族ビニル系単量体単位を形成し得る芳香族ビニル系単量体が挙げられる。
【0058】
本実施形態のマレイミド系共重合体において、マレイミド系単量体の残存量(C)は、30質量ppm以上であり、これにより、樹脂組成物における糸曳き現象が顕著に抑制される。糸曳き抑制効果がより顕著に奏される観点からは、マレイミド系単量体の残存量(C)は、50質量ppm以上、60質量ppm以上、70質量ppm以上、80質量ppm以上、90質量ppm以上、100質量ppm以上又は110質量ppm以上であってもよい。
【0059】
また、マレイミド系単量体の残存量(C)は、400質量ppm以下であり、これにより、樹脂組成物の加熱時の揮発分の発生、及び、樹脂組成物の色相の悪化が顕著に抑制される。揮発分の発生及び色相の悪化がより顕著に抑制される観点からは、マレイミド系単量体(C)の残存量は、380質量ppm以下、360質量ppm以下、340質量ppm以下、320質量ppm以下、又は、300質量ppm以下であってもよい。すなわち、マレイミド系単量体の残存量(C)は、例えば、30~400質量ppm、30~380質量ppm、30~360質量ppm、30~340質量ppm、30~320質量ppm、30~300質量ppm、50~400質量ppm、50~380質量ppm、50~360質量ppm、50~340質量ppm、50~320質量ppm、50~300質量ppm、60~400質量ppm、60~380質量ppm、60~360質量ppm、60~340質量ppm、60~320質量ppm、60~300質量ppm、70~400質量ppm、70~380質量ppm、70~360質量ppm、70~340質量ppm、70~320質量ppm、70~300質量ppm、80~400質量ppm、80~380質量ppm、80~360質量ppm、80~340質量ppm、80~320質量ppm、80~300質量ppm、90~400質量ppm、90~380質量ppm、90~360質量ppm、90~340質量ppm、90~320質量ppm、90~300質量ppm、100~400質量ppm、100~380質量ppm、100~360質量ppm、100~340質量ppm、100~320質量ppm、100~300質量ppm、110~400質量ppm、110~380質量ppm、110~360質量ppm、110~340質量ppm、110~320質量ppm又は110~300質量ppmであってよい。
【0060】
マレイミド系共重合体中に残存するマレイミド系単量体としては、上述のマレイミド系単量体単位を形成し得るマレイミド系単量体が挙げられる。マレイミド系共重合体中に残存するマレイミド系単量体は、芳香族ビニル系単量体とマレイミド系単量体の重合反応で未反応のまま残存したマレイミド系単量体あってよい。また、マレイミド系共重合体中に残存するマレイミド系単量体は、芳香族ビニル系単量体と不飽和ジカルボン酸系単量体との重合反応で未反応のまま残存した不飽和ジカルボン酸系単量体単位が、イミド化されたものであってもよい。
【0061】
本実施形態のマレイミド系共重合体において、芳香族ビニル系単量体及びマレイミド系単量体の合計残存量(C+C)は、230質量ppm以上であり、これにより、樹脂組成物における糸曳き現象が顕著に抑制される。糸曳き抑制効果がより顕著に奏される観点からは、上記合計残存量(C+C)は、300質量ppm以上、400質量ppm以上、500質量ppm以上、600質量ppm以上、700質量ppm以上、800質量ppm以上、900質量ppm以上、1000質量ppm以上、1100質量ppm以上又は1200質量ppm以上であってもよい。
【0062】
また、上記合計残存量(C+C)は、2400質量ppm以下であり、これにより、樹脂組成物の加熱時の揮発分の発生が顕著に抑制される。揮発分の発生がより顕著に抑制される観点からは、2200質量ppm以下、2000質量ppm以下、1800質量ppm以下、1600質量ppm以下、1400質量ppm以下、1200質量ppm以下、1000質量ppm以下又は900質量ppm以下であってもよい。すなわち、芳香族ビニル系単量体及びマレイミド系単量体の合計残存量(C+C)は、例えば、230~2400質量ppm、230~2200質量ppm、230~2000質量ppm、230~1800質量ppm、230~1600質量ppm、230~1400質量ppm、230~1200質量ppm、230~1000質量ppm、230~900質量ppm、300~2400質量ppm、300~2200質量ppm、300~2000質量ppm、300~1800質量ppm、300~1600質量ppm、300~1400質量ppm、300~1200質量ppm、300~1000質量ppm、300~900質量ppm、400~2400質量ppm、400~2200質量ppm、400~2000質量ppm、400~1800質量ppm、400~1600質量ppm、400~1400質量ppm、400~1200質量ppm、400~1000質量ppm、400~900質量ppm、500~2400質量ppm、500~2200質量ppm、500~2000質量ppm、500~1800質量ppm、500~1600質量ppm、500~1400質量ppm、500~1200質量ppm、500~1000質量ppm、500~900質量ppm、600~2400質量ppm、600~2200質量ppm、600~2000質量ppm、600~1800質量ppm、600~1600質量ppm、600~1400質量ppm、600~1200質量ppm、600~1000質量ppm、600~900質量ppm、700~2400質量ppm、700~2200質量ppm、700~2000質量ppm、700~1800質量ppm、700~1600質量ppm、700~1400質量ppm、700~1200質量ppm、700~1000質量ppm、700~900質量ppm、800~2400質量ppm、800~2200質量ppm、800~2000質量ppm、800~1800質量ppm、800~1600質量ppm、800~1400質量ppm、800~1200質量ppm、800~1000質量ppm、800~900質量ppm、900~2400質量ppm、900~2200質量ppm、900~2000質量ppm、900~1800質量ppm、900~1600質量ppm、900~1400質量ppm、900~1200質量ppm、900~1000質量ppm、1000~2400質量ppm、1000~2200質量ppm、1000~2000質量ppm、1000~1800質量ppm、1000~1600質量ppm、1000~1400質量ppm、1000~1200質量ppm、1100~2400質量ppm、1100~2200質量ppm、1100~2000質量ppm、1100~1800質量ppm、1100~1600質量ppm、1100~1400質量ppm、1100~1200質量ppm、1200~2400質量ppm、1200~2200質量ppm、1200~2000質量ppm、1200~1800質量ppm、1200~1600質量ppm又は1200~1400質量ppmであってよい。
【0063】
本実施形態のマレイミド系共重合体には、芳香族ビニル系単量体及びマレイミド系単量体以外の単量体が残存していてもよい。残存していてよい単量体としては、不飽和ジカルボン酸系単量体、シアン化ビニル系単量体、上述の<他の単量体単位>で例示した単量体等が挙げられる。
【0064】
本実施形態のマレイミド系共重合体において、単量体の残存量は、重合率の制御、単量体除去工程の条件制御等の方法によって適宜調整することができる。
【0065】
本実施形態のマレイミド系共重合体において、芳香族ビニル系単量体及びマレイミド系単量体以外の単量体の残存量は、例えば200質量ppm以下であり、樹脂組成物の加熱時の揮発分の発生がより顕著に抑制される観点からは、好ましくは100質量ppm以下、より好ましくは50質量ppm以下であり、0質量ppmであってもよい。
【0066】
本明細書中、マレイミド系単量体の残存量は、下記条件で測定される。
装置名:GC-2010(島津製作所製)
カラム:キャピラリーカラムDB-5MS(フェニルアレンポリマー)
温度 :注入口280℃、検出器280℃
カラム温度80℃(初期)で昇温分析を行う。
(昇温分析条件)
80℃:ホールド12分
80~280℃:20℃/分で昇温10分
280℃:ホールド10分
検出器:FID
手順 :試料0.5gをウンデカン(内部標準物質)入り1,2-ジクロロエタン溶液(0.014g/L)5mlに溶解させる。その後、n-ヘキサン5mlを加えて振とう器で10~15分間振とうし、析出させる。ポリマーを析出・沈殿させた状態で上澄み液のみをGCに注入する。得られた単量体のピーク面積から、内部標準物質より求めた係数を用いて、定量値を算出する。
【0067】
本明細書中、芳香族ビニル系単量体の残存量は、前処理として、樹脂組成物を50mLの三角フラスコに0.3~0.4g秤量し、内部標準(シクロペンタノール)入りDMFを10mL加え溶解し、次の条件にて測定される。
装置名:GC-12A(株式会社島津製作所製)
検出器:FID
カラム:3mガラスカラム(充填剤:液相PEG20M+TCEP(15+5))
温度:INJ150℃ DET150℃ カラム 115℃
注入量:1μL
【0068】
<マレイミド系共重合体の物性>
マレイミド系共重合体のガラス転移温度(Tg)は、例えば155℃以上であり、好ましくは160℃以上、より好ましくは165℃以上である。また、マレイミド系共重合体のガラス転移温度(Tg)は、例えば210℃以下であり、好ましくは205℃以下、より好ましくは200℃以下である。すなわち、マレイミド系共重合体のガラス転移温度(Tg)は、例えば、155~210℃、155~205℃、155~200℃、160~210℃、160~205℃、160~200℃、165~210℃、165~205℃又は165~200℃であってよい。本実施形態のマレイミド系共重合体は、上述の構成を有し、且つ、このようなガラス転移温度を有することで、耐熱性付与効果及び糸曳き抑制効果がより顕著に奏される。
【0069】
なお、本明細書中、ガラス転移温度(Tg)は、JIS K-7121に準拠して、以下の装置及び測定条件により測定されるマレイミド系共重合体の補外ガラス転移開始温度(Tig)をいう。
装置名:示差走査熱量計 Robot DSC6200(セイコーインスツル株式会社製)
昇温速度:10℃/分
【0070】
マレイミド系共重合体の重量平均分子量(Mw)は、例えば50000以上であり、好ましくは70000以上、より好ましくは80000以上である。これにより、樹脂組成物の耐衝撃性がより向上する傾向がある。また、マレイミド系共重合体の重量平均分子量(Mw)は、例えば170000以下であり、好ましくは160000以下、より好ましく150000以下である。これにより、樹脂組成物の溶融時の流動性がより向上して成形性がより向上する傾向がある。すなわち、マレイミド系共重合体の重量平均分子量(Mw)は、例えば、50000~170000、50000~160000、50000~150000、70000~170000、70000~160000、70000~150000、80000~170000、80000~160000又は80000~150000であってよい。
【0071】
なお、本明細書中、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて測定されるポリスチレン換算の値であり、以下の条件で測定できる。
測定名:SYSTEM-21 Shodex(昭和電工株式会社製)
カラム:PL gel MIXED-B(ポリマーラボラトリーズ社製)を3本直列
温度:40℃
検出:示差屈折率
溶媒:テトラヒドロフラン
濃度:2質量%
検量線:標準ポリスチレン(PS)(ポリマーラボラトリーズ社製)を用いて作成
【0072】
<マレイミド系共重合体の製造方法>
マレイミド系共重合体の製造方法は特に限定されない。マレイミド系共重合体は、例えば、芳香族ビニル系単量体及びマレイミド系単量体を含む単量体成分を重合反応に供して製造することができる。また、マレイミド系共重合体は、例えば、芳香族ビニル系単量体及び不飽和ジカルボン酸系単量体を含む単量体成分を重合反応に供して、芳香族ビニル系単量体単位及び不飽和ジカルボン酸系単量体単位を有する重合体(A’)を形成し、当該重合体(A’)中の不飽和ジカルボン酸系単量体単位の少なくとも一部をマレイミド系単量体単位に変性(イミド化)して、製造することもできる。
【0073】
重合反応の方法は特に限定されず、例えば、塊状重合、溶液重合、懸濁重合等の公知の重合方法を適用してよい。
【0074】
重合反応は、単量体成分と重合開始剤との反応により実施してよい。重合開始剤としては、単量体成分の重合反応を開始できる開始剤であれば特に限定されず、公知の重合開始剤を用いることができる。重合開始剤としては、例えば、有機過酸化物、アゾ系化合物等が例示できる。
【0075】
有機過酸化物としては、例えば、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン等のパーオキシケタール系、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノネート、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルペルオキサセテート等のパーオキシエステル系、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイト、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド系等が挙げられる。
【0076】
アゾ系化合物としては、例えば、2,2-アゾビスイソブチロニトリル、2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)等が挙げられる。
【0077】
重合反応では、連鎖移動剤又は分子量調整剤を使用してもよい。連鎖移動剤又は分子量調整剤としては、公知のものを特に制限なく使用でき、例えば、t-ドデシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類、ターピノーレン、α-メチルスチレンダイマー等を使用できる。
【0078】
不飽和ジカルボン酸系単量体単位の変性は、例えば、重合体(A’)とアンモニア及び/又は第1級アミンとの反応(以下、変性反応ともいう。)により行うことができる。
【0079】
変性反応の反応温度は、例えば120℃~250℃であってよく、好ましくは150℃~230℃である。
【0080】
変性反応は、触媒の存在下で実施してもよい。触媒としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の第3級アミンが好ましく、トリメチルアミンが特に好ましい。触媒の量は、例えば、アンモニア及び第1級アミンの合計量100質量部に対して、0.01~2質量部であってよい。
【0081】
なお、重合体(A’)の重合に関して、芳香族ビニル系単量体と不飽和ジカルボン酸系単量体との共重合は、交互共重合性が強いため、重合初期には芳香族ビニル系単量体と不飽和ジカルボン酸系単量体とが1:1のモル比で重合しやすい。このため、例えば、芳香族ビニル系単量体の仕込み量(モル)が不飽和ジカルボン酸系単量体の仕込み量(モル)より多い場合、重合初期から全量を反応に供すると、重合後期には芳香族ビニル系単量体単位の割合の多い共重合体が生成しやすくなり、組成分布が大きくなり、熱可塑性樹脂との相溶性が低下する場合がある。
【0082】
このため、重合体(A’)は、例えば、芳香族ビニル系単量体と不飽和ジカルボン酸系単量体の一部とを仕込んだ反応液に、不飽和ジカルボン酸系単量体の他部を分添しながら、重合反応を行うことにより、製造してよい。これにより、組成分布の小さい、熱可塑性樹脂との相溶性のより高いマレイミド系共重合体が得られやすくなる。
【0083】
本実施形態の製造方法では、重合温度、重合時間、重合開始剤の量、単量体の添加速度当によって、重合反応の反応速度及び重合率を制御することができる。例えば、重合率の制御によって、芳香族ビニル系単量体及びマレイミド系単量体の残存量を調整することができる。
【0084】
本実施形態の製造方法は、芳香族ビニル系単量体の残存量、及び/又は、マレイミド系単量体の残存量が所定範囲を超えるマレイミド系共重合体から、芳香族ビニル系単量体単位及びマレイミド系単量体単位の少なくとも一部を除去して、芳香族ビニル系単量体の残存量及びマレイミド系単量体の残存量が所定範囲内のマレイミド系共重合体を得る、単量体除去工程を有していてよい。
【0085】
単量体除去工程において、単量体を除去する方法は特に限定されず、例えば、加熱器付きの真空脱揮槽を使用する方法、ベント付き脱揮押出機を使用する方法、それらを組み合わせる方法等が挙げられる。
【0086】
(糸曳き抑制剤)
本実施形態の糸曳き抑制剤は、上記マレイミド系共重合体からなる。本実施形態の糸曳き抑制剤は、熱可塑性樹脂に添加することで、熱可塑性樹脂の熱板溶着時の糸曳き現象を抑制することができる。すなわち、本実施形態の糸曳き抑制剤によれば、熱可塑性樹脂への添加により、熱板溶着時の糸曳き現象が抑制された樹脂組成物を得ることができる。
【0087】
本実施形態の糸曳き抑制剤は、熱可塑性樹脂に耐熱性を付与することもできる。
【0088】
糸曳き抑制剤の添加量は、熱可塑性樹脂及び糸曳き抑制剤の合計100質量%に対して、例えば1質量%以上であってよく、糸曳き現象をより顕著に抑制する観点からは、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましく10質量%以上である。また、糸曳き抑制剤の添加量は、熱可塑性樹脂及び糸曳き抑制剤の合計100質量%に対して、例えば50質量%以下であってよく、耐衝撃性がより向上する観点からは、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましく20質量%以下である。すなわち、糸曳き抑制剤の添加量は、熱可塑性樹脂及び糸曳き抑制剤の合計100質量%に対して、例えば1~50質量%、1~40質量%、1~30質量%、1~20質量%、3~50質量%、3~40質量%、3~30質量%、3~20質量%、5~50質量%、5~40質量%、5~30質量%、5~20質量%、10~50質量%、10~40質量%、10~30質量%又は10~20質量%であってよい。
【0089】
熱可塑性樹脂は、熱板溶着を適用可能な樹脂であれば特に限定されないが、糸曳き抑制剤との相溶性に優れる観点からは、例えば、ABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)、ASA樹脂(アクリロニトリル-エチレン・プロピレン系ゴム-スチレン共重合体)、AES樹脂(アクリロニトリル-エチレン・プロピレン系ゴム-スチレン共重合樹脂)及びSAN樹脂(スチレン-アクリロニトリル共重合体)からなる群より選択されてよい。熱可塑性樹脂は1種を単独で使用してよく、又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0090】
(樹脂組成物)
本実施形態の樹脂組成物は、上記マレイミド系共重合体(糸曳き抑制剤)と熱可塑性樹脂と、を含有する。
【0091】
樹脂組成物中のマレイミド系共重合体の含有量は、例えば1質量%以上であってよく、糸曳き現象をより顕著に抑制する観点からは、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましく10質量%以上である。また、樹脂組成物中のマレイミド系共重合体の含有量は、例えば50質量%以下であってよく、耐衝撃性がより向上する観点からは、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましく20質量%以下である。すなわち、樹脂組成物中のマレイミド系共重合体の含有量は、例えば1~50質量%、1~40質量%、1~30質量%、1~20質量%、3~50質量%、3~40質量%、3~30質量%、3~20質量%、5~50質量%、5~40質量%、5~30質量%、5~20質量%、10~50質量%、10~40質量%、10~30質量%又は10~20質量%であってよい。
【0092】
熱可塑性樹脂は、熱板溶着を適用可能な樹脂であれば特に限定されないが、糸曳き抑制剤との相溶性に優れる観点からは、例えば、ABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)、ASA樹脂(アクリロニトリル-エチレン・プロピレン系ゴム-スチレン共重合体)、AES樹脂(アクリロニトリル-エチレン・プロピレン系ゴム-スチレン共重合樹脂)及びSAN樹脂(スチレン-アクリロニトリル共重合体)からなる群より選択されてよい。熱可塑性樹脂は1種を単独で使用してよく、又は2種以上を混合して使用してもよい。
【0093】
樹脂組成物中の熱可塑性樹脂の含有量は、例えば50質量%以上であってよく、耐衝撃性がより向上する観点からは、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましく80質量%以上である。また、樹脂組成物中の熱可塑性樹脂の含有量は、例えば99質量%以下であってよく、糸曳き現象がより顕著に抑制される観点からは、好ましくは97質量%以下、より好ましくは95質量%以下、更に好ましく90質量%以下である。すなわち、樹脂組成物中の熱可塑性樹脂の含有量は、例えば、50~99質量%、50~97質量%、50~95質量%、50~90質量%、60~99質量%、60~97質量%、60~95質量%、60~90質量%、70~99質量%、70~97質量%、70~95質量%、70~90質量%、80~99質量%、80~97質量%、80~95質量%又は80~90質量%であってよい。
【0094】
本実施形態の樹脂組成物は、マレイミド系共重合体の配合により糸曳き現象が抑制されるため、熱板溶着に好適に用いることができる。すなわち、本実施形態の樹脂組成物は、熱板溶着用樹脂組成物であってよい。
【0095】
本実施形態の樹脂組成物は、色相に優れる(すなわち、黄色度(YI)が低い)ことが好ましい。樹脂組成物の黄色度(YI)は、例えば50以下であり、好ましくは40以下、より好ましくは35以下である。
【0096】
なお、本明細書中、樹脂組成物の黄色度(YI)は、色差計を用いて測定される。
【0097】
本実施形態の樹脂組成物は、耐衝撃性に優れる(すなわち、シャルピー衝撃強度が大きい)ことが好ましい。樹脂組成物のシャルピー衝撃強度は、例えば10kJ/m以上であり、好ましくは15kJ/m以上、より好ましくは20kJ/m以上である。シャルピー衝撃強度の上限は特に限定されない。樹脂組成物のシャルピー衝撃強度は、例えば80kJ/m以下、60kJ/m以下又は40kJ/m以下であってよい。すなわち、樹脂組成物のシャルピー衝撃強度は、例えば、10~80kJ/m、10~60kJ/m、10~40kJ/m、15~80kJ/m、15~60kJ/m、15~40kJ/m、20~80kJ/m、20~60kJ/m又は20~40kJ/mであってよい。
【0098】
なお、本明細書中、樹脂組成物のシャルピー衝撃強度は、JIS K-7111に準拠した方法で測定される。
【0099】
本実施形態の樹脂組成物は、流動性に優れる(すなわち、メルトマスフローレートの値が大きい)ことが好ましい。樹脂組成物のメルトマスフローレートは、例えば1g/10分以上であり、好ましくは3g/10分以上、より好ましくは5g/10分以上である。メルトマスフローレートの上限は特に限定されない。樹脂組成物のメルトマスフローレートは、例えば40g/10分以下、30g/10分以下又は25g/10分以下であってよい。すなわち、樹脂組成物のメルトマスフローレートは、例えば、1~40g/10分、1~30g/10分、1~25g/10分、3~40g/10分、3~30g/10分、3~25g/10分、5~40g/10分、5~30g/10分又は5~25g/10分であってよい。
【0100】
なお、本明細書中、樹脂組成物のメルトマスフローレートは、JIS K7210に準拠して、220℃、98N荷重の条件で測定される値を示す。
【0101】
本実施形態の樹脂組成物は、耐熱性に優れる(すなわち、ビカット軟化点が高い)ことが好ましい。樹脂組成物のビカット軟化点は、例えば104℃以上であり、好ましくは106℃以上、より好ましくは108℃以上である。ビカット軟化点の上限は特に限定されないが、熱板溶着時の温度を低くでき、作業性に優れる観点からは、例えば130℃以下、125℃以下又は120℃以下であってよい。すなわち、樹脂組成物のビカット軟化点は、例えば、104~130℃、104~125℃、104~120℃、106~130℃、106~125℃、106~120℃、108~130℃、108~125℃又は108~120℃であってよい。
【0102】
なお、本明細書中、樹脂組成物のビカット軟化点は、JIS K7206に準拠して、50法(荷重50N、昇温速度50℃/時間)により測定される値を示す。
【0103】
本実施形態の樹脂組成物は、マレイミド系共重合体及び熱可塑性樹脂以外の他の成分を更に含有していてもよい。他の成分としては、例えば、耐衝撃改質材、流動性改質材、硬度改質材、酸化防止剤、艶消し剤、難燃剤、難燃助剤、ドリップ防止剤、摺動性付与剤、可塑剤、滑剤、離型剤、紫外線吸収剤、光安定剤、抗菌剤、抗カビ剤、帯電防止剤、顔料、染料等が挙げられる。
【0104】
本実施形態の樹脂組成物は、無機材料と混合して、複合材料として用いてもよい。無機材料としては、例えば、ガラス繊維、タルク、マイカ等の無機充填材、放熱材、電磁波吸収材等が挙げられる。また、無機材料としては、カーボンブラック、酸化チタン、顔料等も例示できる。
【0105】
本実施形態の樹脂組成物の製造方法は特に限定されず、例えば、上述の各成分を高温下で混合することで製造できる。
【0106】
混合時の温度は、マレイミド系共重合体及び熱可塑性樹脂が流動して混合可能となる温度であればよい。
【0107】
混合方法は特に限定されず、例えば、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー等を用いた公知の方法から適宜選択できる。
【0108】
本実施形態の樹脂組成物は、単独で、又は、無機材料と混合した複合材料として、樹脂成形品の製造に用いることができる。すなわち、本実施形態の樹脂組成物を高温下で流動させて、成形することで、樹脂成形品が製造される。
【0109】
成形時の温度は、樹脂組成物が流動して成形可能となる温度であればよい。例えば、樹脂組成物のビカット軟化点をV(℃)としたとき、成形温度は、V+100℃以上であることが好ましく、V+120℃以上であることがより好ましく、V+130℃以上であることが更に好ましい。また、成形温度は、例えばV+170℃以下であってよく、好ましくはV+160℃以下、より好ましくはV+150℃以下である。すなわち、成形温度は、例えば、V+100℃~V+170℃、V+100℃~V+160℃、V+100℃~V+150℃、V+120℃~V+170℃、V+120℃~V+160℃、V+120℃~V+150℃、V+130℃~V+170℃、V+130℃~V+160℃、又は、V+130℃~V+150℃であってよい。
【0110】
成形方法は特に限定されず、例えば、押出成形、射出成形、ブロー成形、発泡成形等の公知の成形方法から適宜選択できる。本実施形態の樹脂組成物は高温下での流動性に優れるため、成形性に優れており、特に射出成形に適している。
【0111】
本実施形態の樹脂組成物を含む樹脂成形品の用途は特に限定されず、例えば、自動車内外装部品、家電製品、事務機器部品、建材等の用途に好適に用いることができる。
【0112】
本実施形態の樹脂組成物は、熱板溶着に好適に用いることができる。例えば、本実施形態の樹脂組成物を含む樹脂成形品は、本実施形態の樹脂組成物を含む樹脂面において、熱板溶着により容易に他の部材等に接着させることができる。熱板溶着の条件は特に限定されず、例えば、後述の成形品の製造方法に記載の条件等を適宜採用できる。
【0113】
(成形品の製造方法)
本実施形態の成形品の製造方法は、第一の樹脂面と第二の樹脂面とを熱板溶着により接合する工程を備える。本実施形態において、第一の樹脂面及び第二の樹脂面の少なくとも一方は、上記樹脂組成物を含む。これにより、上記樹脂組成物を含む樹脂面において、熱板溶着時の糸曳き現象が抑制される。
【0114】
本実施形態では、第一の樹脂面及び第二の樹脂面のうち一方のみが上記樹脂組成物を含んでいてもよく、第一の樹脂面及び第二の樹脂面の両方が上記樹脂組成物を含んでいてもよい。
【0115】
第一の樹脂面及び第二の樹脂面は、上記樹脂組成物から主に構成された面(例えば、90質量%以上、好ましくは95質量%以上)であることが好ましい。
【0116】
熱板溶着時の温度は、樹脂面を構成する樹脂材料(例えば上記樹脂組成物)のビカット軟化点をV(℃)としたとき、例えばV+125℃以上であってよく、熱板融着加工時間の短縮の観点からは、V+130℃以上であることが好ましく、V+135℃以上であることがより好ましく、V+140℃以上であることが更に好ましい。また、熱板溶着時の温度は、例えばV+170℃以下であってよく、熱板汚れ防止の観点からは、好ましくはV+165℃以下、より好ましくはV+160℃以下である。すなわち、熱板溶着時の温度は、例えば、V+125℃~V+170℃、V+125℃~V+165℃、V+125℃~V+160℃、V+130℃~V+170℃、V+130℃~V+165℃、V+130℃~V+160℃、V+135℃~V+170℃、V+135℃~V+165℃、V+135℃~V+160℃、V+140℃~V+170℃、V+140℃~V+165℃、又は、V+140℃~V+160℃であってよい。
【0117】
本実施形態の成形品の製造方法によれば、第一の樹脂面と第二の樹脂面とを溶着させた溶着部を有し、第一の樹脂面及び第二の樹脂面の少なくとも一方が上記樹脂組成物を含む、成形品が得られる。このような成形品の用途は特に限定されず、例えば、自動車内外装部品、家電製品、事務機器部品、建材等の用途に好適に用いることができる。
【0118】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例
【0119】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0120】
(実施例1-1)
以下の方法でマレイミド系共重合体A-1を製造した。
攪拌機を備えた容積約120リットルのオートクレーブ中に、スチレン65質量部、マレイン酸無水物7質量部、2、4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン0.05質量部、非重合性溶媒であるメチルエチルケトン25質量部を仕込み、系内を窒素ガスで置換した後、温度を92℃に昇温し、マレイン酸無水物28質量部とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.3質量部をメチルエチルケトン(非重合性溶媒)100質量部に溶解した溶液を8時間かけて連続的に添加した。添加後、さらにt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.04質量部を添加して120℃に昇温し、1時間反応させて重合を終了させた。その後、重合液にアニリン32質量部、トリエチルアミン0.6質量部を加え140℃で7時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のマレイミド系共重合体A-1を得た。
【0121】
得られたマレイミド系共重合体A-1の各単量体単位の含有量、残存単量体量、ガラス転移温度及び黄色度を以下の方法で測定した。結果を表1に示す。
<各単量体単位の含有量>
13C-NMR法により、以下の装置及び測定条件で測定した。
装置名:JNM-ECXシリーズFT-NMR(日本電子株式会社製)
溶媒:重水素化クロロホルム
濃度:2.5質量%
温度:27℃
積算回数:8000回
<残存単量体量>
(芳香族ビニル系単量体)
芳香族ビニル系単量体の残存量は、前処理として、マレイミド系共重合体を50mLの三角フラスコに0.3~0.4g秤量し、内部標準(シクロペンタノール)入りDMFを10mL加え溶解し、次の条件にて測定を行った。
装置名:GC-12A(株式会社島津製作所製)
検出器:FID
カラム:3mガラスカラム(充填剤:液相PEG20M+TCEP(15+5))
温度:INJ150℃ DET150℃ カラム 115℃
注入量:1μL
(マレイミド系単量体)
マレイミド系単量体の残存量は、下記条件で測定される値を示す。
装置名:GC-2010(島津製作所製)
カラム:キャピラリーカラムDB-5MS(フェニルアレンポリマー)
温度 :注入口280℃、検出器280℃
カラム温度80℃(初期)で昇温分析を行う。
(昇温分析条件)
80℃:ホールド12分
80~280℃:20℃/分で昇温10分
280℃:ホールド10分
検出器:FID
手順:マレイミド系共重合体0.5gをウンデカン(内部標準物質)入り1,2-ジクロロエタン溶液(0.014g/L)5mlに溶解させる。その後、n-ヘキサン5mlを加えて振とう器で10~15分間振とうし、析出させる。ポリマーを析出・沈殿させた状態で上澄み液のみをGCに注入する。得られた単量体のピーク面積から、内部標準物質より求めた係数を用いて、定量値を算出する。
<ガラス転移温度>
ガラス転移温度(Tg1)は、JIS K-7121に準拠して、以下の装置及び測定条件により測定した補外ガラス転移開始温度(Tig)である。
装置名:示差走査熱量計 Robot DSC6200(セイコーインスツル株式会社製)
昇温速度:10℃/分
<黄色度>
JIS K-7373に準拠して測定した。具体的な手順は以下のとおり。
試験片1gを25mLのテトラヒドロフランに溶解させる。溶解後、測定用の角セルに移す。温度23℃、湿度50%の条件で、CIE標準のD65光源を使用した透過法により、テトラヒドロフラン溶液の角セルをブランクとして色差を求め、その値を黄色度とした。
装置名:SE7700 分光色彩計(日本電色工業株式会社製)
角セル:A02277A 10×36×55H 角セル 2面透過
【0122】
(実施例1-2)
以下の方法でマレイミド系共重合体A-2を製造した。
攪拌機を備えた容積約120リットルのオートクレーブ中に、スチレン65質量部、N-フェニルマレイミド7質量部、2、4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン0.05質量部、メチルエチルケトン25質量部を仕込み、気相部を窒素ガスで置換した後、撹拌しながら40分かけて92℃まで昇温した。昇温後92℃を保持しながら、N-フェニルマレイミド28質量部とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.3質量部をメチルエチルケトン100質量部に溶解した溶液を8時間かけて連続的に添加した。添加後、さらにt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.04質量部を添加して120℃に昇温し、1時間反応させて重合を終了させた。反応終了後の重合液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のマレイミド系共重合体A-2を得た。得られたマレイミド系共重合体A-2の分析結果を表1に示す。
【0123】
(実施例1-3)
以下の方法でマレイミド系共重合体A-3を製造した。
攪拌機を備えた容積約120リットルのオートクレーブ中に、スチレン65質量部、マレイン酸無水物7質量部、2、4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン0.05質量部、メチルエチルケトン25質量部を仕込み、系内を窒素ガスで置換した後、温度を92℃に昇温し、マレイン酸無水物28質量部とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.4質量部をメチルエチルケトン100質量部に溶解した溶液を8時間かけて連続的に添加した。添加後、さらにt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.04質量部を添加して120℃に昇温し、1時間反応させて重合を終了させた。その後、重合液にアニリン32質量部、トリエチルアミン0.6質量部を加え140℃で7時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のマレイミド系共重合体A-3を得た。得られたマレイミド系共重合体A-3の分析結果を表1に示す。
【0124】
(実施例1-4)
以下の方法でマレイミド系共重合体A-4を製造した。
攪拌機を備えた容積約120リットルのオートクレーブ中に、スチレン55質量部、マレイン酸無水物25質量部、2、4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン0.05質量部、メチルエチルケトン75質量部を仕込み、系内を窒素ガスで置換した後、温度を92℃に昇温し、マレイン酸無水物20質量部とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.2質量部をメチルエチルケトン100質量部に溶解した溶液を8時間かけて連続的に添加した。添加後、さらにt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.04質量部を添加して120℃に昇温し、1時間反応させて重合を終了させた。その後、重合液にアニリン41質量部、トリエチルアミン0.8質量部を加え140℃で7時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のマレイミド系共重合体A-4を得た。得られたマレイミド系共重合体A-4の分析結果を表1に示す。
【0125】
(実施例1-5)
以下の方法でマレイミド系共重合体A-5を製造した。
攪拌機を備えた容積約120リットルのオートクレーブ中に、スチレン75質量部、マレイン酸無水物5質量部、2、4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン0.15質量部、メチルエチルケトン25質量部を仕込み、系内を窒素ガスで置換した後、温度を92℃に昇温し、マレイン酸無水物20質量部とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.5質量部をメチルエチルケトン100質量部に溶解した溶液を8時間かけて連続的に添加した。添加後、さらにt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.04質量部を添加して120℃に昇温し、1時間反応させて重合を終了させた。その後、重合液にアニリン23質量部、トリエチルアミン0.4質量部を加え140℃で7時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のマレイミド系共重合体A-5を得た。得られたマレイミド系共重合体A-5の分析結果を表1に示す。
【0126】
(実施例1-6)
以下の方法でマレイミド系共重合体A-6を製造した。
攪拌機を備えた容積約120リットルのオートクレーブ中に、スチレン67質量部、マレイン酸無水物5質量部、アクリロニトリル7質量部、2、4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン0.05質量部、メチルエチルケトン25質量部を仕込み、系内を窒素ガスで置換した後、温度を92℃に昇温し、マレイン酸無水物21質量部とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.2質量部をメチルエチルケトン100質量部に溶解した溶液を8時間かけて連続的に添加した。添加後、さらにt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.04質量部を添加して120℃に昇温し、1時間反応させて重合を終了させた。その後、重合液にアニリン24質量部、トリエチルアミン0.4質量部を加え140℃で7時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のマレイミド系共重合体A-6を得た。得られたマレイミド系共重合体A-6の分析結果を表1に示す。
【0127】
(比較例1-1)
以下の方法でマレイミド系共重合体X-1を製造した。
攪拌機を備えた容積約120リットルのオートクレーブ中に、スチレン65質量部、マレイン酸無水物7質量部、2、4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン0.05質量部、メチルエチルケトン25質量部を仕込み、系内を窒素ガスで置換した後、温度を92℃に昇温し、マレイン酸無水物28質量部とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.1質量部をメチルエチルケトン100質量部に溶解した溶液を8時間かけて連続的に添加した。添加後、さらにt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.04質量部を添加して120℃に昇温し、1時間反応させて重合を終了させた。その後、重合液にアニリン32質量部、トリエチルアミン0.6質量部を加え140℃で7時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のマレイミド系共重合体X-1を得た。得られたマレイミド系共重合体X-1の分析結果を表1に示す。
【0128】
(比較例1-2)
以下の方法でマレイミド系共重合体X-2を製造した。
攪拌機を備えた容積約120リットルのオートクレーブ中に、スチレン80質量部、マレイン酸無水物4質量部、2、4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン0.3質量部、メチルエチルケトン25質量部を仕込み、系内を窒素ガスで置換した後、温度を92℃に昇温し、マレイン酸無水物16質量部とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.5質量部をメチルエチルケトン100質量部に溶解した溶液を8時間かけて連続的に添加した。添加後、さらにt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.04質量部を添加して120℃に昇温し、1時間反応させて重合を終了させた。その後、重合液にアニリン18質量部、トリエチルアミン0.3質量部を加え140℃で7時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のマレイミド系共重合体X-2を得た。得られたマレイミド系共重合体X-2の分析結果を表1に示す。
【0129】
(比較例1-3)
以下の方法でマレイミド系共重合体X-3を製造した。
攪拌機を備えた容積約120リットルのオートクレーブ中に、スチレン65質量部、マレイン酸無水物7質量部、2、4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン0.05質量部、メチルエチルケトン25質量部を仕込み、系内を窒素ガスで置換した後、温度を92℃に昇温し、マレイン酸無水物28質量部とt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.6質量部をメチルエチルケトン100質量部に溶解した溶液を8時間かけて連続的に添加した。添加後、さらにt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.04質量部を添加して120℃に昇温し、1時間反応させて重合を終了させた。その後、重合液にアニリン32質量部、トリエチルアミン0.6質量部を加え140℃で7時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のマレイミド系共重合体X-3を得た。得られたマレイミド系共重合体X-3の分析結果を表1に示す。
【0130】
(比較例1-4)
以下の方法でマレイミド系共重合体X-4を製造した。
攪拌機を備えた容積約120リットルのオートクレーブ中に、スチレン50質量部、マレイン酸無水物50質量部、2、4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン0.05質量部、メチルエチルケトン75質量部を仕込み、系内を窒素ガスで置換した後、温度を92℃に昇温し、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.1質量部をメチルエチルケトン100質量部に溶解した溶液を8時間かけて連続的に添加した。添加後、さらにt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.04質量部を添加して120℃に昇温し、1時間反応させて重合を終了させた。その後、重合液にアニリン46質量部、トリエチルアミン0.9質量部を加え140℃で7時間反応させた。反応終了後のイミド化反応液をベントタイプスクリュー式押出機に投入し、揮発分を除去してペレット状のマレイミド系共重合体X-4を得た。得られたマレイミド系共重合体X-4の分析結果を表1に示す。
【0131】
【表1】
【0132】
(実施例2-1)
以下の方法で、樹脂組成物を得た。
上記で得られたマレイミド系共重合体(A-1)15質量%と、一般に市販されているABS樹脂「GR-3000」(デンカ社製)85質量%とを、二軸押出機TEM-35B(東芝機械株式会社製)を用いて混合及び押出し、ペレット化した樹脂組成物を得た。
【0133】
得られた樹脂組成物を以下の方法で評価した。結果を表2に示す。
<糸曳き性の評価>
糸曳き性はJIS K-7171の曲げ試験に使用される寸法80mm×10mm×4mmの試験片を用い、250℃の熱板に1kg荷重で10秒間押し付けた後、10cm/秒の速度で引き上げた時の糸曳き長さにより以下の5段階で評価した。
AA:糸曳きが1.0cm以下で切れる。
A:1.0cm~4.0cmで切れる。
B:4.0cm~10.0cmで切れる。
C:10cm以上糸曳きする。
<黄色度(YI)の測定>
射出成形機(IS-50EP、東芝機械社製)により、プレート(9cm×5cm)を成形温度240℃で成形し、色差計(COLOR-7e、倉敷紡績社製)により黄色度YIを測定した。
<揮発分の測定>
マレイミド系共重合体の芳香族ビニル系単量体及びマレイミド系単量体の<残存単量体量>の測定と同じ測定を実施し、合計量を揮発分とした。
<シャルピー衝撃強度の測定>
JIS K-7111に準拠して、ノッチあり試験片を用い、打撃方向はエッジワイズを採用して相対湿度50%、雰囲気温度23℃で測定した。なお、測定機は東洋精機製作所社製デジタル衝撃試験機を使用した。
<メルトマスフローレートの測定>
JIS K7210に準拠して、220℃、98N荷重にて測定した。
<ビカット軟化点の測定>
JIS K7206に準拠して、50法(荷重50N、昇温速度50℃/時間)で、10mm×10mm×4mmの試験片を用いて測定した。なお、測定機は東洋精機製作所社製HDT&VSPT試験装置を使用した。
【0134】
(実施例2-2~2-6)
マレイミド系共重合体A-1に代えて、マレイミド系共重合体A-2、A-3、A-4、A-5又はA-6を用いたこと以外は、実施例2-1と同様にして、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物について、実施例2-1と同様の方法で評価した。結果を表2に示す。
【0135】
(比較例2-1~2-4)
マレイミド系共重合体A-1に代えて、マレイミド系共重合体X-1、X-2、X-3又はX-4を用いたこと以外は、実施例2-1と同様にして、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物について、実施例2-1と同様の方法で評価した。結果を表2に示す。
【0136】
【表2】