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特許7129624X線検出器及び当該X線検出器の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-25
(45)【発行日】2022-09-02
(54)【発明の名称】X線検出器及び当該X線検出器の制御方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/207 20180101AFI20220826BHJP
【FI】
G01N23/207
【請求項の数】 17
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018126106
(22)【出願日】2018-07-02
(65)【公開番号】P2019015725
(43)【公開日】2019-01-31
【審査請求日】2021-06-16
(31)【優先権主張番号】17179774.9
(32)【優先日】2017-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クハルチク ダミアン
(72)【発明者】
【氏名】マイヤー マティアス
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-228474(JP,A)
【文献】特表2015-523548(JP,A)
【文献】特開平08-068771(JP,A)
【文献】特開2001-095789(JP,A)
【文献】特開2005-055315(JP,A)
【文献】特表2015-517672(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-G01N 23/2276
A61B 6/00-A61B 6/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被調査試料によって回折されるX線ビームを測定するX線分析システムで用いられるX線検出器であって、
相互に関節接続される少なくとも2つのX線検出器モジュールであって、前記少なくとも2つのX線検出器モジュールはそれぞれ独立したX線検出器として設計される、X線検出器モジュールと、
前記試料の周りに前記少なくとも2つの関節接続されるX線検出器モジュールを位置設定するように構成される駆動機構、
前記X線検出器と前記試料との間の選択された距離に依存する曲率を有する事前計算された曲線に沿って前記試料の周りに配置されるように前記少なくとも2つのX線検出器モジュールを相互に動かすように前記駆動機構を制御するように構成される制御ユニット、
を有するX線検出器。
【請求項2】
請求項1に記載のX線検出器であって、前記少なくとも2つのX線検出器モジュールが沿って配置される前記曲線の曲率は、前記X線検出器と前記試料との間の距離の減少とともに増大する、X線検出器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のX線検出器であって、前記少なくとも2つのX線検出器モジュールが沿って配置される前記曲線の曲率は、前記X線検出器と前記試料との間の距離に依存して計算され、その際前記試料は前記曲線の曲率の中心に位置する、X線検出器。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のX線検出器であって、
前記駆動機構は少なくとも1つの枢動機構を有し、かつ、
前記少なくとも2つの検出器モジュールの移動は枢動軸で前記X線検出器モジュールを相互に枢動する動きを含む、
X線検出器。
【請求項5】
請求項4に記載のX線検出器であって、前記少なくとも2つのX線検出器モジュールは、前記X線検出器と前記試料との間の距離に依存する曲率を有する結合検出器表面を構成するように、相互に枢動可能である、X線検出器。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のX線検出器であって、中央X線検出器モジュールと少なくとも2つの横に配置されるX線検出器モジュールを含む少なくとも3つの前記X線検出器モジュールを有し、かつ、前記横に配置されるX線検出器モジュールは、前記中央X線検出器モジュールと、該中央X線検出器モジュールの対向する側面で関節接続される、X線検出器。
【請求項7】
請求項6に記載のX線検出器であって、前記少なくとも2つの横に配置されるX線検出器モジュールは、前記中央X線検出器モジュールに対して個別に枢動可能である、X線検出器。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のX線検出器であって、
前記少なくとも2つの横に配置されるX線検出器モジュールは枢動可能で、それにより前記少なくとも2つの横に配置されるX線検出器モジュールのうちの前記中央X線検出器モジュールの一の側部に設けられるものは、前記中央X線検出器モジュールと共に、第1曲率を有する第1部分検出器表面を構成し、かつ、
前記少なくとも2つの横に配置されるX線検出器モジュールのうちの前記中央X線検出器モジュールの他の側部に設けられるものは、前記中央X線検出器モジュールと共に、第2曲率を有する第2部分検出器表面を構成する、
X線検出器。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載のX線検出器であって、前記関節接続されるX線検出器モジュールは、前記曲線の曲率が変化するときにも前記曲線に沿った隣接するX線検出器モジュール間での距離が変化しないように枢動される、X線検出器。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載のX線検出器であって、前記少なくとも2つのX線検出器モジュールは、2次元平面X線検出器として設計される、X線検出器。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか一項に記載のX線検出器であって、前記少なくとも2つのX線検出器モジュールは、特定の選択された前記X線検出器と前記試料との間の距離において、少なくとも134°である、2θの範囲をカバーするように設計される、X線検出器。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか一項に記載のX線検出器であって、
前記少なくとも2つのX線検出器モジュールを受け入れる筐体、及び、
前記少なくとも2つのX線検出器モジュールの前面に配置される曲率を有するX線透明窓、
のうちの少なくとも1つを有する、X線検出器。
【請求項13】
試料上でX線回折を実行するX線分析システムであって、
X線ビームを生成して被調査試料へ結像するように構成されるX線光学デバイス、
前記試料を保持及び位置設定して入射X線ビームに対する方位を設定するように構成される試料台、並びに、
散乱X線ビームを測定する請求項1乃至12のいずれか一項に記載のX線検出器、
を有するX線分析システム。
【請求項14】
相互に関節接続される少なくとも2つのX線検出器モジュールであって、前記少なくとも2つのX線検出器モジュールはそれぞれ独立したX線検出器として設計される、X線検出器モジュール、及び、前記少なくとも2つの関節接続されるX線検出器モジュールを互いに対して移動させるように構成される駆動機構を有する、回折X線ビームを測定するX線分析システムで用いられるX線検出器の動作を制御する方法であって、
被調査試料と前記X線検出器との間の所望の距離を調節する段階、及び、
前記X線検出器と前記試料との間の調節された距離に依存する曲率を有する事前計算された曲線に沿って前記試料の周りに配置されるように前記少なくとも2つのX線検出器モジュールを相互に動かす段階、
を有する方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法であって、
受信した入力信号に基づいて所望の距離を決定する段階、及び、
前記X線検出器と前記試料との間の調節された距離に依存して前記曲線を計算する段階であって、前記の計算された曲線の曲率は、前記X線検出器と前記試料との間の半径方向の距離に依存して調節される段階、
のうちの少なくとも1つの段階を有する、方法。
【請求項16】
コンピュータ上で実行されるときに請求項14又は15に記載の方法を実行するコンピュータプログラムコードを有する、コンピュータプログラム。
【請求項17】
請求項16に記載のコンピュータプログラムを格納したコンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概してX線分析の分野に関する。より具体的には本発明は、X線分析システムで用いられるX線検出器及び被調査試料によって回折されるX線ビームを測定する対応X線分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
X線分析-たとえばX線回折(XRD)-は、試料の非破壊分析を行うため、非常に人気が出てきた。たとえばX線回折は、結晶試料、多結晶試料、又は粉末試料の構造特性を調査する基本的な実験手法の1つとなってきた。X線回折の一般的原理は以下の通りである。X線の単色ビームがX線源によって生成される。生成されたX線ビームは、対応X線光学系によってコリメートされ、かつ、被調査試料へ導かれる。入射X線ビームは試料によって回折され、かつ、開設されたビームは対応検出器によって検出される。回折パターンは、入射X線ビームの入射角を変化させ、かつ、同時に様々な入射角で回折ビームを測定することによって得ることができる。入射角の変化は、入射X線ビームに対して試料を回転させることによって、又は、X線光学系と共にX線源を回転させることによって実現され得る。回折ビームは、ブラッグの条件が満たされる入射角(つまり試料の結晶格子からのコヒーレント散乱が期待できる角度)でしか得ることが期待できないので、検出器の面積が回折ビームの範囲をカバーし、かつ、入射角の変化に依存してX線検出の間に移動しなければならないであろうことは明らかである。上述のX線回折を実行するため、以下の構成要素を有するX線回折システムすなわちX線回折計が利用可能である。その構成要素とは、単色X線ビーム(たとえばCuのKα線)を生成するX線源、前記X線源と光学的に結合され、かつ、前記の生成されたX線ビームをコリメートして前記被調査試料へ集束させるように構成されるX線光学系(たとえばゴーベル光学系又はモンテル光学系)、前記試料を保持及び位置設定して前記入射ビームに対する方位を設定するように構成される試料台とゴニオメータ、並びに、前記回折ビームを検出するように構成される検出器(たとえば写真乾板又は半導体系X線検出器)である。X線検出器は通常、広い立体角範囲にわたって回折ビームの強度を捕獲及び測定するため、試料の周りを移動する。
【0003】
測定時間を短縮するため、X線検出器は、様々な角度の回折ビームが単一の画像で捕獲され得るように広い立体角範囲をカバーすることが望ましい。大きな立体角範囲をカバーするためには、検出器は大面積で設計されなければならず、かつ、被調査試料と検出器との間の距離は短くなければならない。しかし(CCD/CMOS技術に基づき、又は、撮像板を用いることによって)様々な大きさの2次元領域を有する検出器が今日利用可能であるとはいえ、そのような検出器によってカバーされる立体角範囲は、利用可能なCCD/CMOSセンサの大きさによって、かつ、検出器と試料との間の距離に依存して制限される。つまり検出器によってカバーされる立体角は、検出器を試料へ近づけるように位置設定することによって減少し得る。しかしあるX線回折用途-たとえば巨大分子結晶試料でのX線回折実験-では、検出器と試料との間の距離は、近接する回折ビームの分解能を改善するために小さすぎてはならない。
【0004】
検出器を試料へ近づけすぎる位置設定にすることなく大きな立体角範囲をカバーするため、曲率を有する撮像板検出器が提案されてきた。そのような曲率を有する撮像板検出器は特許文献1から既知である。特許文献1に記載の曲率を有する撮像板検出器は、-60°~+144°の2θゴニオメータ範囲をカバーするように設計され、かつ、特別なレーザー系レーダーによって読み取られる。ほとんど円筒形に設計された撮像板は、被調査試料を取り囲む。換言すると、試料は円筒形状の撮像板内部に配置され、かつ、試料と撮像板との間の距離は固定されている。
【0005】
撮像板の使用は、感度と検出速度の観点で、現状のCCD/CMOS検出と比較して不利益があるので、複数の2次元半導体系検出器で構成される検出器システムが提案されてきた。複数の検出器は、被調査試料の周りの曲線に沿って固定された状態で配置される。そのような検出器システムは特許文献2から既知である。特許文献2に記載の曲率を有する検出器システムでは、複数の平坦な半導体系検出器が測定領域の周りで多角形をなすように配置される。検出器モジュールは互いに固定された状態で接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第6418190号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1229351号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、柔軟な方法で大きな立体角範囲をカバーし、かつ、様々なX線分析の要求について柔軟に利用可能なX線検出器を提供することである。本発明のさらなる目的は、測定性能を向上させるのと同時により迅速なX線回折測定が実行可能となるようにX線検出器を制御する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の問題及び他の問題を解決するため、本発明は、被調査試料によって回折されるX線ビームを測定するX線分析システムで用いられるX線検出器を供する。当該X線検出器は、相互に関節接続される少なくとも2つのX線検出器モジュール、前記試料の周りに前記少なくとも2つの関節接続されるX線検出器モジュールを位置設定するように構成される駆動機構、及び、前記X線検出器と前記試料との間の選択された距離に依存する曲率を有する事前計算された曲線に沿って前記試料の周りに配置されるように前記少なくとも2つのX線検出器モジュールを相互に動かすように前記駆動機構を制御するように構成される制御ユニットを有する。
【0009】
前記少なくとも2つの関節接続されるX線検出器モジュールは、前記駆動機構によって、前記事前に計算された曲線に沿って配置されるように動かされてよい。前記曲線は、前記制御ユニット又は他の論理ユニットによって事前計算(要するに計算)されてよい。前記曲線は、該曲線の曲率が前記X線検出器と前記試料との間の(半径)距離の減少に伴って増加するように計算されてよい。同様に、前記曲線は、該曲線の曲率が前記X線検出器と前記試料との間の(半径)距離の増加に伴って減少するように計算されてよい。
【0010】
一の変化型によると、前記少なくとも2つのX線検出器モジュールが沿って配置される前記曲線の曲率は、前記X線検出器と前記試料との間の(半径)距離に依存して計算されてよい。その際前記試料は(常に)前記曲線の中心に位置する。つまり、前記の計算された曲線は、前記被調査試料が(常に)前記曲線の中心に位置するように前記試料を取り囲む円をなす線であってよい。そのような配置では、前記X線検出器の各検出器モジュールは、前記試料への同一の垂直距離を有し、前記同一の垂直距離は前記の計算された円の半径に相当する。垂直距離とは、前記X線検出器モジュールの中心が前記円の半径に対して垂直に位置することを意味し得る。
【0011】
前記駆動機構は、前記試料の周りの前記計算された曲率に沿って結合X線検出器(つまり結合X線検出センサ)を構成するように、前記少なくとも2つの関節接続されるX線検出器モジュールを動かすように構成されてよい。ここで結合検出器表面(つまり隣接するX線検出器モジュール間での間隙の有無にかかわらず実質的に連続な検出器表面)は、円周方向において前記の計算された曲線の曲率に実質的に従う表面曲率を有する。各X線検出器モジュールは、平面2次元検出器として設計され得るので、結合検出器表面は、円周方向において前記事前計算された円の線を近似する多角形形状を有してよい。この近似は、個々の平面検出器の寸法の大小に依存して粗くてもよいし又は細かくてもよい。前記駆動機構は枢動機構を有してよい。前記少なくとも2つのX線検出器モジュールの移動は少なくとも1つの枢動軸で前記X線検出器モジュールを相互に枢動する動きを含んでよい。前記少なくとも2つのX線検出器モジュールのうちの隣接するX線検出器モジュールが、該隣接するX線検出器モジュールの間で、かつ、前記被調査試料に対向する前記隣接するX線検出器モジュールの前端部に位置する各々独自の枢動軸で枢動し得るように、前記枢動機構は設計されてよい。前記枢動機構は、様々な曲率の曲線に沿った前記少なくとも2つのX線検出器モジュールの配置を可能にする。それにより隣接するX線検出器モジュールの前端部での該隣接するX線検出器モジュール間のとり得る距離(間隙)は、従うべき前記曲線の曲率にかかわらずほとんど変化しない。よって上述した枢動機構によって、前記の計算された曲線の曲率に従った上述の結合検出器表面を実現することが可能である。
【0012】
前記駆動機構は、前記試料の周りで前記少なくとも2つのX線検出器モジュールを一緒に回転させるように構成される回転機構をさらに有してよい。前記試料の周りで前記少なくとも2つのX線検出器モジュールを一緒に回転させることによって、様々な回折ビームの2θ角度範囲がX線回折測定中にカバーされ得る。またさらに前記駆動機構は、前記試料と前記X線検出器モジュールとの間の半径距離を調節するため、前記少なくとも2つの検出器モジュールを半径方向に一緒に動かすように構成される移動機構を有してよい。
【0013】
一の変化型によると、当該X線検出器は、中央X線検出器モジュールと少なくとも2つの横に配置されるX線検出器モジュールを含む少なくとも3つのX線検出器モジュールを有してよい。前記横に配置されるX線検出器モジュールは、前記中央X線検出器モジュールと、該中央X線検出器モジュールの対向する側面で関節接続されてよい。この配置では、前記少なくとも2つの横に配置されるX線検出器モジュールの各々は、前記中央X線検出器モジュールに対して個別に枢動可能であってよい。前記少なくとも2つの横に配置されるX線検出器モジュールは、前記中央X線検出器モジュールと共に、前記の計算された曲線の曲率に従う前記試料の周りの上述の結合検出器表面を構成するように、前記中央X線検出器モジュールに対して個別に枢動可能であってよい。
【0014】
他の変化型によると、前記少なくとも2つの横に配置されるX線検出器モジュールのうちの前記中央X線検出器モジュールの一の側部に設けられるものは、前記中央X線検出器モジュールと共に、計算された第1曲線の曲率に従う第1部分検出器表面(第1X線センサ表面)を構成するように、個別に枢動可能であってよい。前記少なくとも2つの横に配置されるX線検出器モジュールのうちの前記中央X線検出器モジュールの他の側部に設けられるものは、前記中央X線検出器モジュールと共に、計算された第2曲線の曲率に従う第2部分検出器表面(第2X線センサ表面)を構成するように、枢動可能であってよい。従って前記中央X線検出器モジュールの他の側部に設けられる前記少なくとも2つの横に配置されるX線検出器モジュールは、前記中央X線検出器モジュールに対して非対称的に枢動可能で、かつ、2つの異なる曲線に従ってよい。
【0015】
前記少なくとも2つのX線検出器モジュールは、独立したX線検出器として設計されてよい。独立とは、各X線検出器モジュールが独自のX線検出センサと読み取り電子機器を有することを意味し得る。前記X線検出センサは、平面2次元X線検出センサとして設計されてよい。平面2次元X線検出センサとして、半導体系X線検出センサが用いられてよい。前記少なくとも2つのX線検出器モジュールの前記平面X線検出センサは、大きな立体角範囲をカバーするような寸法であってよい。一の変化型によると、前記少なくとも2つの検出器モジュールは、少なくとも134°の2θ範囲をカバーするように設計される。
【0016】
当該X線検出器は、前記少なくとも2つのX線検出器モジュールを受ける筐体をさらに有してよい。それに加えて当該X線検出器は、前記少なくとも2つのX線検出器モジュールの前面(つまり前記試料に対向する面)に配置される曲率を有するX線透明窓を有してよい。前記X線透明窓は一定の曲線上に設けられてよい。あるいはその代わりに前記X線透明窓は、前記X線検出器モジュールの計算された曲線に対応して移動可能であってよい。つまり前記X線透明窓は、前記の曲率を有する窓の曲率が前記X線検出器モジュールの曲率を有する位置に対して調節できるように柔軟に設計されてよい。
【0017】
他の態様によると、試料上でX線回折を実行するX線分析システム-特にX線回折システム-が供される。当該X線分析システムは、X線ビームを生成して被調査試料へ結像するように構成されるX線光学デバイス、前記試料を保持及び位置設定して前記入射ビームに対する方位を設定するように構成される試料台、並びに、前記の回折X線ビームを測定する上述のX線検出器を有する。
【0018】
前記X線光学デバイスはX線源とX線光学系を有してよい。前記X線源は、固有波長のX線放射線を生成するように構成される。前記X線光学系は、前記X線源に結合され、かつ、前記の生成されたX線ビームをコリメートして試料へ導くように構成される。この目的のため、前記X線光学系は、少なくとも1つの反射素子-たとえば(横方向又は深さ)傾斜したD型多層ミラー-を有するX線集束光学系として設計されてよい。
【0019】
当該X線分析システムは制御ユニットをさらに有してよい。前記制御ユニットは、事前計算された曲線に沿って配置されるように前記X線検出器モジュールを動かすように当該X線検出器の駆動機構を制御するように構成される電子制御ユニットであってよい。前記制御ユニットはまた、前記試料からの半径距離に依存して前記曲線を計算するように設計されてもよい。さらに前記制御ユニットは、前記検出器の半径方向と円周方向の移動を制御するように構成されてよい。それに加えて前記制御ユニットは、前記X線光学系と前記試料台の移動を制御するように設計されてよい。上述の機能を実行するため、前記制御ユニットは、集中ユニットとして、又は、特定の機能を実行する分配制御(サブ)モジュールを有する分散ユニットとして設計されてよい。集中制御ユニットであるか分散制御ユニットであるかとは独立に、前記制御ユニットは、当該システムの構成要素の移動を計算及び調整する1つ以上の論理ユニットを有する。
【0020】
本発明の他の態様によると、相互に関節接続される少なくとも2つのX線検出器モジュール、及び、記少なくとも2つの関節接続されるX線検出器モジュールをいに大して移動させるように構成される駆動機構を有する、回折X線ビームを測定するX線分析システムで用いられるX線検出器の動作を制御する方法が供される。当該方法は、被調査試料と前記X線検出器との間の所望の距離を調節する段階、及び、前記X線検出器と前記試料との間の調節された距離に依存する曲率を有する事前計算された曲線に沿って前記試料の周りに配置されるように前記少なくとも2つのX線検出器モジュールを相互に動かす階を有する。当該方法はさらに、前記X線検出器と前記試料との間の調節された距離に依存して前記曲線を計算する段階であって、前記の計算された曲線の曲率は、前記X線検出器と前記試料との間の半径方向の距離に依存して調節される段階、及び、前記曲線に従うように前記少なくとも2つのX線検出器モジュールを動かすように前記駆動機構を制御する段階を有してよい。前記の計算された曲線は、前記試料が前記円の中心に位置するように前記被調査試料を取り囲む円であってよい。
【0021】
前記試料と前記X線検出器との間の距離を調節する段階は、前記駆動機構又は別個の移動機構によって実行され、かつ、前記X線検出器が前記被調査試料から所望の半径距離を有するように前記X線検出器モジュールを半径方向に一緒に動かす段階を有してよい。
【0022】
当該方法は、前記調節する段階に先立って、受信した入力信号に基づいて所望の距離を決定する段階をさらに有してよい。前記受信した入力信号は、前記試料からの前記検出器の所望の距離を示唆するユーザー入力信号であってよい。
【0023】
本発明のさらに他の態様によると、コンピュータプログラム製品が供される。当該コンピュータプログラム製品は、該コンピュータプログラム製品がコンピュータデバイス上で実行されるときに、上述の方法(方法の段階)を実行するプログラムコードを有する。当該コンピュータプログラム製品は、(非一時的)コンピュータ可読記録媒体に格納されてよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
本願で説明する本開示のさらなる詳細、態様、及び利点は、以下の図面から明らかとなる。
図1】本発明によるX線検出器を有するX線分析システムの概略図である。
図2図1のX線分析システムとX線検出器の動作を表す概略図である。
図3図1のX線分析システムとX線検出器の動作を制御する方法を表す流れ図である。
図4a】本発明の一実施形態によるX線検出器を有するX線分析システムの平面図である。図中、X線検出器は第1動作モードである。
図4b】X線透明窓のない図4aのX線検出器の3次元正面図である。
図5図4aのX線分析システムを表している。図中、X線検出器は第2動作モードである。
図6】第3動作モードをとる図4aのX線分析システムのX線検出器を表している。
図7図4aのX線分析システムを示している。図中、X線検出器は特定の動作位置にある。
図8図4aのX線検出器の3次元正面図である。
図9図4aのX線検出器の3次元背面図である。
図10】本発明のX線検出器を従来のX線検出器と対比する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以降の説明では、限定ではない説明目的で、本願で与えられるX線検出器及びX線分析システムの完全な理解を供するために具体的詳細が明らかにされる。当業者には、開示されたX線分析システム及びX線検出器が、以降で明らかにされる具体的詳細から保護の範囲内で変化し得ることは明らかである。
【0026】
以降では図1を参照する。図1は、本発明によるX線分析システム100の具体的な図を表している。X線分析システム100は、結晶性、多結晶性、又は粉末の試料300でのX線回折分析を実行するように設計されるX線回折計である。X線分析システム100は、X線光学デバイス110、試料台120、及びX線検出器130を有する。X線光学デバイス110は同様に、X線源112、及び、X線源112に結合されるX線光学系114を有する。さらにX線分析システム100は、X線検出器130、試料台120、及びX線光学デバイス110のうちの少なくとも1つの動作を制御するように設計される少なくとも1つの制御ユニット140を有する。
【0027】
X線光学デバイス110のX線源112は、X線放射線を生成するように構成される。この目的のため、強電場によって加速される高速電子を静止若しくは回転する金属標的又は液体金属標的(たとえばエクシルムの液体金属噴流X線源)に衝突させることによってX線を発生させるように構成される従来のX線発生装置が用いられてよい。金属標的としては、クロム(Cr)、コバルト(Co)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)又は鉄(Fe)の標的が用いられてよい。
【0028】
X線光学系114は、X線源112と試料台120との間に配置される。X線光学系114は、X線源112と光学的に結合される。光学系114は、X線源112のX線から所定形状のコリメートされた単色X線ビーム210を生成し、かつ、試料300が設けられ得る特定の領域にビーム210を結像するように構成される。この目的のため、X線光学系114は、少なくとも1つの反射素子-たとえば(横方向又は深さ)傾斜したD型多層ミラー-を有するX線集束光学系として設計されてよい。
【0029】
試料台120は、X線光学系114によって出力されるX線ビーム210に対する所定方位に試料300を保持するように構成される。入射X線ビーム210に対して試料300の方位を設定するため、試料台120は、面内で回転可能(図1の矢印440)で、かつ、面外で回転可能(図1の矢印430)であってよい。しかも入射ビーム領域に対する試料300の位置を設定するため、試料台120は、x、y、z方向(図1の座標系を参照)での併進運動を実行するように設計されてよい。x、y、z方向での運動のみならず
(面内及び面外での)回転も、試料台120に結合される対応駆動ユニットによって実装されてよいことは明らかである(簡明を期すために駆動ユニットは図1では省略されており、かつ、試料台120の可能な運動のみが矢印430,440によって示されていることに留意して欲しい)。
【0030】
X線検出器130は、試料300によって散乱されるX線の強度、空間分布、スペクトル、及び/又は他の特性を測定するように構成される。本発明によると、X線検出器130は、相互に関節接続される少なくとも2つのX線検出器モジュールを有する。図1に表された実施例では、X線検出器130は、相互に関節接続される少なくとも3つの独立するX線検出器モジュール130a,130b,130cを有する(図1の関節接続132a,132bを参照のこと)。つまり独立するX線検出器モジュール130a,130b,130cは共に、曲率を有する結合検出器表面を有するX線検出器130を構成する。X線検出器モジュール130a,130b,130cの各々は、X線ビームを独立に検出できるように平坦2次元半導体系X線検出センサを有する。関節接続されるX線検出器モジュール130a,130b,130cは共に、大きな立体角範囲にわたって回折X線ビームを検出する機能を有する大きな曲率を有するセンサ領域を構成する。
【0031】
X線検出器モジュール130a,130b,130cの各々のX線検出センサの寸法は事前決定されてよい。大きな立体角をカバーするため、大きな平面X線検出センサを有する2次元検出器が好ましいことは明らかである。あるいはその代わりに、大きな立体角範囲は、小さな平面センサを備えるX線検出器モジュール130a,130b,130cを用いることによってカバーされてもよい。そのような場合、3つ以上のX線検出器モジュール(図1では限定ではない説明目的で3つのX線検出器モジュール130a,130b,130cのみが表されている。)が、大きな立体角範囲をカバーするために互いに関節接続されてよい。X線検出器130及びX線検出器モジュール130a,130b,130cの実装について、以降の図と共により詳細に説明する。
【0032】
以降では、図1のX線分析システム100の一の動作について、図2と共により詳細に説明する。図2では、簡明を期すため、X線分析システム100の制御ユニット140は省略された。
【0033】
動作中、X線源112は、X線を生成して反射光学系114へ向けて放出する。その後反射光学系114は、所定の断面積及び断面形状のX線ビームである、選ばれた波長のX線(たとえばCu Kα X線)を、結晶性、多結晶性、又は粉末の被調査試料300へ向かうように反射する。X線ビームの形状及び断面積が、X線光学系の設計に依存し、かつ、設計実装が異なれば変化し得ることは明らかである。
【0034】
試料300は、試料台120上に載置され、かつ、入射ビーム210が試料300によって回折され得るようにビーム領域内へ動かされる。試料300の構造を検出するため、X線ビーム210の様々な入射角θでの測定が実行される。入射角θは、入射ビーム210に対して試料300を回転させる(θ-2θ走査を実行する矢印430によって表されるω回転)か、又は、試料を固定してX線光学デバイス110を試料300の周りで回転させる(図2の矢印420で表される回転)ことによって変化し得る。入射角θを変化させることによって、回折ビームスポットは、ブラッグ条件が満たされる対応2θ位置でのみ得ることができる。従って回折ビーム220を測定するため、X線検出器130は、各入射角θについての対応角2θの位置に設けられなければならない。つまりX線検出器130が所望の2θを既にカバーしない場合、X線検出器130は全体として(つまりすべてのX線検出器モジュール130a,130b,130c)、X線検出器130(つまりX線検出器モジュール130a,130b,130cのうちの一)が所望の角度位置をカバーするように円周方向に(一緒に)動かなくてはならない。この角度運動は、必要に応じて回転機構
図2には示されていない)によって実行され、かつ、図2の矢印460a,460bで示される。さらに角度θは入射ビーム210と試料台120の平坦面122とのなす角で、かつ、角度2θは回折ビーム220と試料300を通り抜ける入射ビーム210とのなす角である(図2参照)。
【0035】
実験の要求に依存して、X線検出器130と被調査試料300との間の半径距離を調節することが大抵の場合望ましい。たとえば、大きな分子の試料は、非常に近接した回折ビームを生成し、その場合、試料300までのX線検出器130の距離は、近接した回折ビームスポットの分解能を改善するように増大されなければならない。試料300からの検出器の距離を調節するため、試料300(又は試料台120)に対するX線検出器130の半径位置を変化させるように構成される移動機構が供されてよい。この試料300に対する半径運動は図2の矢印462によって示されている。
【0036】
本発明によると、X線検出器130は全体として半径方向に移動可能(つまり試料300に対して半径方向に前後可能)なだけでなく、関節接続されるX線検出器モジュール130a,130b,130cは、試料300までの半径距離に依存する曲率を有する結合検出器曲面を構成するように互いに移動(枢動)可能である。つまりX線検出器モジュール130a,130b,130cは、X線検出器130が全体として(つまりすべてのX線検出器モジュール130a,130b,130c)、事前計算された想像上の曲線510,520(図2では2つの異なる検出器距離r1とr2について点線520及び一点鎖線510として示されている)に沿って配置されるように、枢動機構(図2では枢動は矢印450a,450bによって示されている。)によって枢動される。事前計算された曲線510,520は、試料300を取り囲む想像上の円をなす線である。その際、試料300は円の中心に位置し、かつ、試料300からの検出距離は円の半径r1,r2に対応する。よって円をなす線の曲率が、関係式K=1/rに従って円の中心までの半径距離と相関するので、X線検出器モジュール130a,130b,130cの相互の運動(枢動)の大きさは、試料300までの検出距離に依存する。
【0037】
上述した試料300までの検出距離に依存するX線検出器モジュール130a,130b,130cの枢動の大きさの変化は、図2でさらに概略的に表されている。図中、X線検出器130の2つの動作モードが示されている。第1動作モードでは、X線検出器130は試料300から相対的に大きな距離r1を有し、かつ、半径r1の事前に計算された円をなす線510の曲率に従わなければならない関節接続するX線検出器モジュール130a,130b,130cは、相互に穏やかに枢動する。第1動作モードでは、X線検出器130は試料300から相対的に小さな距離r2を有し、かつ、半径r2の事前に計算された円をなす線520の曲率に従わなければならない関節接続するX線検出器モジュール130a,130b,130cは、相互により強く枢動する。両方の検出動作モードを十分に識別するため、第2動作モードのX線検出器130は点線で表されている。
【0038】
X線検出器モジュール130a,130b,130cは、事前に計算された円をなす線510,520に従うように動かされるので、試料300までの半径(垂直)距離はすべて同一である。この文脈では、垂直距離は、X線検出器モジュール130a,130b,130cの各々の中心が円の半径に対して垂直に位置することを意味する。よってX線検出器モジュール130a,130b,130cが強い曲率の円をなす線に沿って配置されるのか、又は、小さな曲率の円をなす線に沿って配置されるのかとは独立に、すべてのX線検出器モジュール130a,130b,130cでは常に、試料300までの半径距離はすべて同一である。これにより、各異なるX線検出器モジュール130a,130b,130cを起源とするX線測定の評価が容易になる。なぜなら、分解能、信号対雑音比、及びデータ取得評価に影響を及ぼす他の検出パラメータの観点で、X線検出器モジュール130a,130b,130cは同程度となるからである。具体的には、試料300までのすべてのX線検出器モジュール130a,130b,130cの距離が同一であることで、測定データの処理、及び、広い2θ角度範囲にわたる単一の回折パターンへの処理済みデータの併合が容易になる。
【0039】
以降では、X線回折測定中でのX線検出器130の動作についてさらに説明する。図3は、動作中でのX線検出器130の制御方法10を表す流れ図を示している。
【0040】
第1段階S12では、少なくとも2つの関節接続されるX線検出器モジュールで構成されるX線検出器130(図2の実施形態ではX線検出器130は3つのX線検出器モジュール130a,130b,130cを有する)と試料300との間の所望の距離が決定される。所望の距離とは、特定の試料を測定するために好適に設定された距離を意味する。所望の距離は被測定試料によって変化してよい。所望の距離は、使用者から受け取る入力信号から決定され、かつ、所望の検出器距離を示唆してよい。それに加えて、X線検出器130の現在位置を測定する位置センサ信号が読み取られてよい。
【0041】
その後第2段階S14では、検出器距離は、所望の距離(及びX線検出器130の現在位置)に基づいて調節される。これは、X線検出器130を全体として(つまりすべてのX線検出器モジュール130a,130b,130cを共同で)試料300に対して半径方向に動かすことによって行われる。X線検出器130の現在位置が試料に対して近過ぎる場合、X線検出器130は、所望の距離が得られるまで半径方向外側へ動かされる。X線検出器130の現在位置が試料に対して遠過ぎる場合、X線検出器130は全体として、所望の距離が得られるまで半径方向内側へ動かされる。
【0042】
さらなる段階S16では、曲線510,520が計算される。曲線510,520は、試料300とX線検出器130との間の調節された距離に依存する曲率を有する計算された曲線510,520は、X線検出器モジュール130a,130b,130c(より厳密にはX線検出器モジュール130a,130b,130cのX線検出センサ)が配置される際に沿う想像上の軌跡である。曲線510,520は、配置されるX線検出器モジュール130a,130b,130cがX線測定中(たとえばθ-2θ走査を実行するとき)に動く際に従う軌跡をも表す。この軌跡は、試料300の位置と一致する中心、及び、試料300からの検出器距離に相当する半径を有する円である。
【0043】
段階S18では、X線検出器モジュール130a,130b,130cは、曲線510,520に沿って配置されるように相互に動かされる。つまりX線検出器モジュール130a,130b,130cは、円をなす線510,520の曲率に従うように相互に枢動される。
【0044】
任意のさらなる段階S20では、X線検出器モジュール130a,130b,130cを計算された円をなす線に沿って配置した後にX線検出器130がカバーしている立体角範囲が決定される。しかも2θ測定角がカバーされる立体角範囲外であると判断される場合、X線検出器130は全体として、X線検出器モジュール130a,130b,130cのうちの少なくとも1つが所望の2θ角度位置となるまで、円をなす線510,520に沿って円周方向に動かされる。
【0045】
上述の方法は、X線分析システム100の集中制御ユニット140(たとえば図1の制御ユニット140)又はX線検出器130に係る別個の制御ユニット若しくは制御サブモジュールによって実行されてよい。この目的のため、制御ユニット又は制御サブモジュールは、上述の方法を実装するプログラムコード(プログラム命令)を実行する処理ユニット(プログラミングされたマイクロプロセッサ、用途特定集積回路(ASIC))を有する。制御ユニット又は制御サブモジュールは、プログラムコードを一時記憶又は格納するように構成される少なくとも1つのメモリをさらに有してよい。
【0046】
図4と共に、本発明によるX線検出器の一の実施形態についてさらに説明する。図4aは、(カッパ型)ゴニオメータ124、試料台120、及びX線検出器1300を有するX線分析システム100aの平面図を表している。X線分析システム100aまた、簡明を期すために図4aには示されていないがX線光学デバイスをも有する。X線光学デバイスは、図1図2で説明したX線光学デバイス110と同様に設計されてよい。さらに試料台120は、図1図2の試料台120に相当し、かつ、図1図2で説明したのと同様に機能してよい。
【0047】
以降では、X線検出器1300についてさらに詳細に説明する。X線検出器1300は、3つの独立するX線検出器モジュール1300a,1300b,1300cを有する。X線検出器モジュール1300a,1300b,1300cは筐体1310によって収容される。筐体1310は、曲率を有するX線透明窓1314の前面で閉じられている(図4a参照)。X線検出器モジュール1300a,1300b,1300cの各々は、回折X線ビーム220を検出する機能を有する独立したX線検出器モジュールとして設計されることに留意して欲しい。X線検出器モジュール1300a,1300b,1300cの各々は、平面2次元半導体系X線検出センサ1322(たとえば2次元CCD又はCMOSセンサ)、読み取り電子機器1320、及び、X線検出器1322と読み取り電子機器1320を受ける筐体1318を有する。しかもX線検出器モジュール1300a,1300b,1300cの各々には、電源及び信号通信用に独自の電気接続が供される。さらにX線検出器モジュール1300a,1300b,1300cの各々には、読み取り電子機器1320及び/若しくはX線検出器1322を冷却する冷却流体(たとえば水)又は冷却気体を受け、かつ循環させるように構成される冷却回路が供される。各冷却回路は、冷却流体又は冷却気体が冷却回路に対して流入出する少なくとも1つの流入出ポート1430を有してよい。またさらにX線検出器モジュール1300a,1300b,1300cの各々には、X線検出センサ1322用の保護気体/真空、又は、X線検出センサ1322を取り囲む空間を供する真空/気体ポート(図4aには表されていない)が供されてよい。X線検出器モジュール1300a,1300b,1300cは同じように設計されているが、簡明を期すため、図4X線検出器モジュール1300bの構成要素にしか参照番号は付されていない。3つの別個で独立に動作するX線検出器モジュール1300a,1300b,1300cを供することの利点は、1つのX線検出器モジュールが故障した場合に、残りのX線検出器モジュールは依然として動作可能で、X線検出器は使用可能となることである。それに加えて所望の設計によって、迅速で簡単な修理が容易になる。なぜなら故障したモジュールは交換され、かつ、この交換は、残りの動作しているX線検出器モジュールを取り外さなくても可能だからである。
【0048】
さらに図4aに表されているように、X線検出器モジュール1300a,1300b,1300cは相互に関節接続される。そのような関節接続を実現するため、2つの横に配置されるX線検出器モジュール1300b,1300cの各々と中央に配置されるX線検出器モジュール1300aとの間には枢動機構が供される。2つの横に配置されるX線検出器モジュール1300b,1300cが、中央に配置されるX線検出器モジュール1300aに対して枢動可能となるように、枢動機構は中央に配置される検出器モジュール1300aの両側面に供される。さらに中央に配置されるX線検出器モジュール1300aは、レール1460上で移動可能なように設けられ、かつ、(図2には示されていない線形駆動ユニットによって)試料300又は試料台120に対してレール1460に沿って前後するように動かされてよい。レール1460も同様に試料台120の周りで枢動可能である。試料台120の周りでのレール1460の枢動によって、中央に配置されるX線検出器モジュール1300aも、試料台120の周りで回転する。2つの横に配置されるX線検出器モジュール1300b,1300cは中央に配置されるX線検出器モジュール1300aに接続されるので、上述のレール1460上での軸方向運動及び試料台120の周りでの回転運動もまた、2つの横に配置されるX線検出器モジュール1300b,1300cによって実行される。
【0049】
図4aと図4bを参照して、枢動機構についてさらに説明する。2つの枢動機構の各々は、枢動ベアリング1332及び枢動ドライブ1330を有する。枢動ベアリング1332は、透明窓1314が取り除かれたX線検出器1300の3次元正面図を表す図4bでのみ視認可能である。図4bからわかるように、枢動ベアリング1332は上部枢動ベアリング部1332a及び下部枢動ベアリング部1332bを有する。上部枢動ベアリング部1332a及び下部枢動ベアリング部1332bは、横に配置されるX線検出器モジュール1300b,1300cから中央に配置されるX線検出器モジュール1300aへ遷移する場所に設けられる。従って2つの枢動ベアリング1332の対応する上部枢動ベアリング部1332aと下部枢動ベアリング部1332bは、中央に配置されるX線検出器モジュール1300aと対応する横に配置されるX線検出器モジュール1300b,1300cとの間に生成される遷移間隙1338内に設けられる対応する枢動軸1334,1336を構成する。上部枢動ベアリング部1332aと下部枢動ベアリング部1332bの各々は、枢動ピン及び該枢動ピンを受ける対の孔を有してよい。図4bに表された実施形態によると、枢動ピンは、対応するX線検出器モジュール筐体1318の上部と下部に配置される一方で、対応する対の孔は筐体1310内に配置される。上部枢動ベアリング部1332aと下部枢動ベアリング部1332bは、X線検出センサ1322の上方と下方に配置され、かつ、間隙1338内にまでは延在しないので、隣接するX線検出センサ1322間の間隙1338は小さく保たれてよい。又は換言すると、複数のX線検出センサ1322は、検出器前面での間隙1338を小さくするために可能な限り近づけて配置される。
【0050】
2つの枢動ドライブ1330は、中央に配置されるX線検出器モジュール1300aの対向する両側面に配置される。ドライブは、横に配置されるX線検出器モジュール1300b,1300cを中央に配置されるX線検出器モジュール1300aに対して枢動させるように設計される。この目的のため、各枢動ドライブ1330は、シャフト1332及び該シャフト1332上で可動となるように設けられているスリーブ1334を有するように設計される。スリーブ1334はシャフト1332上で前後に移動可能となるように設計される。スリーブ1334のこのような軸運動は、液圧で(たとえばスリーブ1334と圧力発生流体回路とを結合することによって)又は電子機械的に(たとえば上述のシャフトスリーブユニットをスピンドル・ナットドライブとして実装することによって)作動されてよい。2つの枢動機構の各々はさらに、枢動レバー1336を有する。枢動レバー1336は、スリーブ1334上の第1端部1337、及び、対応X線検出器モジュール1300b,1300c上の対向する第2端部1338によって枢動可能となるように設けられている。スリーブ1334を前後(つまり試料台120へ向かう方向及び試料台120から遠ざかる方向)に動かすことによって、対応枢動レバー1336は、横に配置されるX線検出器モジュール1300b,1300cが外側又は内側に枢動されるように、選択的に枢動可能となる。
【0051】
上述の枢動機構によると、横に配置されるX線検出器モジュール1300b,1300cは、中央に配置されるX線検出器モジュール1300aに対して枢動可能であることに留意して欲しい。しかも枢動機構1330の設計は、2つの横に配置されるX線検出器モジュール1300b,1300cの各々が、対応枢動軸1334,1335の周りで中央に配置されるX線検出器モジュール1300aに対して枢動するようになされる。つまり横に配置されるX線検出器モジュール1300b,1300cは羽根のように移動可能で、かつ、枢動の大きさに依存して、3つのX線検出器モジュール1300a,1300b,1300cは、曲率が可変である結合検出器を構成する。
【0052】
さらに図4aを参照して、X線検出器1300の典型的な第1動作モードについてさらに説明する。図4aは、X線検出器1300が試料300から離れた位置に設けられるため、3つのX線検出器モジュール1300a,1300b,1300cの曲率が小さくなる動作モードを表している。つまり図視されている動作モードでは、X線検出器モジュール1300a,1300b,1300cは、半径103mmの円をなす線に沿って設けられる。このことは、X線検出器モジュール1300a,1300b,1300cの各々(より厳密にはX線検出器モジュール1300a,1300b,1300cの各々の沿面のX線検出センサ1322)が、試料300まで103mmの垂直距離を有することを意味する。繰り返しになるが垂直距離とは、円の半径が検出器表面に対して垂直である場合における試料とX線検出器モジュール1300a,1300b,1300cのとの間の距離を意味する。
【0053】
図5を参照して、X線検出器1300の典型的な第2動作モードについて説明する。この動作モードでは、中央に配置されるX線検出器モジュール1300a(ひいてはX検出器1300全体)は、X線検出器1300が試料300に非常に近づいた位置に設けられるように、レール1460上で軸方向に動かされる。図示された例では、この距離は約50mmに及ぶ。さらに横に配置されるX線検出器モジュール1300b,1300cは、X線検出器1300全体の曲率を増大させるため、中央に配置されるX線検出器1300aに対してほぼ完全に外側に枢動される。つまり横に配置されるX線検出器モジュール1300b,1300cは、該横に配置されるX線検出器モジュール1300b,1300cのX線検出センサ1322が試料300に対して同一である50mmの垂直距離を有するように、中央に配置されるX線検出器モジュール1300aに対して外側に枢動される。又は換言すると、横に配置されるX線検出器モジュール1300b,1300cは、該横に配置されるX線検出器モジュール1300b,1300cの2次元X線検出センサ1322が、円の中心に配置される試料300に対して円をなす線上に存在するように外側に枢動される。上述の距離のずれでは、3つすべてのX線検出器モジュール1300a,1300b,1300cのX線検出センサ1322が、試料300に対して同一の半径(垂直)距離を有するように、他のX線検出器モジュールの試料までの距離が調節され、かつ、横に配置されるX線検出器モジュール1300b,1300cは枢動される。
【0054】
図6を参照しながら、X線検出器1300の第3動作モードについて説明する。この動作モードは、横に配置されるX線検出器モジュール1300b,1300cが非対称に供されている点で図4a及び図5の第2動作モードとは異なる。横に配置されるX線検出器モジュール1300b,1300cのいずれも、個々の枢動機構によって中央に配置されるX線検出器1300aと接続されるので、いずれの枢動機構も独立に動作し得る。このため、一の横に配置されるX線検出器モジュール1300cが、対向して横に配置されるX線検出器モジュール1300bよりも強く枢動される配置が可能となる。そのような場合、中央に配置されるX線検出器モジュール1300aのX線検出センサ1322が、一の横に配置されるX線検出器モジュール1300cのX線検出センサ1322と共に、第1曲率の円(図5aの典型例では半径r=103mmの円が形成されている)となる線を構成し、かつ、対向する横に配置されるX線検出器モジュール1300bのX線検出センサ1322と共に、第2曲率の円(図5aの典型例では半径r=50mmの円が形成されている)となる線を構成するような検出器配置を実現することが可能である。本発明が上述の曲線の半径に限定されないことは明らかである。実験上の要求に依存して、他の曲線半径が、上述の関節接続されるX線検出器モジュール1300a,1300b,1300cによって実現されてもよい。
【0055】
図7を参照しながら、X線検出器1300のさらに他の位置について説明する。図7には、X線検出センサ1322が半径50mmの円をなす線上に配置されるように、横に配置されるX線検出器モジュール1300b,1300cが枢動される配置が示されている。しかもX線検出器1300は全体として、3つの独立するX線検出器モジュール1300a,1300b,1300cが(ほとんど)シームレスに0°~134°の2θ角度範囲をカバーするように試料300の周りで回転する。2θ角度が0°ということは、回折ビームが入射ビームに対して平行であることを意味する。さらに2θ角度が134°というのは、CuのKα X線波長であれば、試料の格子間隔d(つまり回折分解能)が0.837Åであることに相当する。これは、結晶構造の発表についての国際結晶学会(IUCr)の要件である。よって説明したX線検出器1300によって、範囲が0°~134°の回折ビームは、X線検出器1300を回転させなくても検出され得る。その結果、測定速度は顕著に増大する。
【0056】
図8図9と共に、X線検出器1300についてさらに詳細に説明する。図8は、X線検出器1300の3次元正面図を表している。図は、X線検出器モジュール1300a,1300b,1300c用の筐体1310,1318、及び、筐体1310の前面1312上の曲率を有する窓を表している。曲率を有する窓1314はX線に対して透明である。曲率を有する窓1314は、70mmの曲率半径を有してよいし、可撓性を有してもよいし、あるいは、モジュール内部の位置に対応して曲率半径を変化させてもよい。
【0057】
図9は、筐体1310,1318並びに電源及び電気通信用の様々な電気接続1410,1420を有するX線検出器1300の3次元背面図を表している。読み取り電子機器1320及び/若しくはX線検出センサ1322を冷却する冷却気体又は冷却流体(たとえば冷却水)供給用の流入出ポート1430がさらに示されている。この目的のため、1次流入出ポート1430aが、筐体1310の背面端部に配置される。X線検出器1300は、1次流入出ポート1430aを介して外部冷却源(図9には示されていないがたとえば熱交換器)に結合されてよい。しかも2次流入出ポート1430は、横に配置されるX線検出器モジュール1300b,1300cの筐体1310の側面端部及び筐体1318の背面端部に配置される。1次流入出ポート1430aと2次流入出ポート1430は、X線検出器モジュール1300a,1300b,1300cの冷却回路を実現するため、対応するホース1432(図7参照)によって結合される。外部冷却源によって供される冷却流体又は冷却気体は、1次流入ポート1430aを介して冷却源から中央に配置されるX線検出器1300aへ流れ、かつ、2次流入ポート1430を介して冷却源から横に配置されるX線検出器モジュール1300b,1300cへ流れる。さらに冷却流体又は冷却気体は、2次流入ポート1430を介して体は、1次流入ポート1430aへ戻されるように流れ、1次流入ポート1430aから冷却源へ流れる。図9には表されていない他の実施形態によると、X線検出センサ1322用の保護気体/真空、又は、X線検出センサ1322を取り囲む空間を供する真空/気体ポートを供するため、さらなる流入出ポートが、筐体1310及び/若しくはモジュール筐体1318の背面端部又は側面端部に供されてよい。
【0058】
上述のX線検出器モジュール1300a,1300b,1300cは、独立する電子機器及び電気接続1410,1420を備える独立のX線検出器モジュールとして設計される。代替実施形態によると、各異なるX線検出器モジュール1300a,1300b,1300cは、独立したモジュールとして設計される必要はなく、各異なる電子機器及び電気接続1410,1420を共有してよい。しかも一の実施形態によると、検出器モジュールは、筐体1310にまとめられる共通電源を供給してよい。
【0059】
請求項に係る発明は、3つのX線検出器モジュール1300a,1300b,1300cの説明した実施形態-中央に配置されるモジュール1300aが固定されたモジュール(枢動不可能)で、横に配置されるモジュール1300b,1300cだけが固定されたモジュール1300aに対して枢動可能である-に限定されないことにさらに留意して欲しい。代替実施形態によると、相互に枢動可能な2つのX線検出器モジュールだけ供されることも考えられ得る。他の実施形態によると、各々が試料300を取り囲む円をなす線に沿って配置されるように枢動可能な4つ以上のX線検出器モジュールが供されることも考えられ得る。
【0060】
図10を参照しながら、本願のX線検出器の設計の利点についてさらに論じる。説明してきたX線検出器130,1300は、既知の検出器の設計と比較して以下の利点を有する。円をなす線に沿ってX線検出器モジュール130a-c、1300a-cの配置を自由に行えるので、各X線検出器モジュール(又はX線検出センサ)は、試料300に対して同一の半径(垂直)距離を有する(図10参照)。これにより、測定が改善され、かつ、データ処理が容易になる。なぜなら各X線検出器モジュールは、信号対雑音比及び分解能について同一の品質を有するからである。対照的に、(図10において線610aと610bで定められる)同一の立体角範囲600をカバーするように設計される大きな単一平面X線検出器700は、中央領域としての試料300からはるかに離れた周辺領域を有する。X線検出器によって測定される散乱X線のバックグラウンド強度(回折ビーム強度の下での意図しないX線強度)は半径距離に依存する(2乗に反比例する関係である)ので、大きな単一平面X線検出器700は、測定されたバックグラウンド強度が中央から周辺までで大きく変化する像を示す。他方モジュール130a-c、1300a-cにわたって広範に同一の半径距離を有する関節接続されるX線検出器130,1300は、複数の像(又は結合された像)にわたって、ソフトウエア画像処理によってより容易に除去されるより略一定の測定バックグラウンドを有することで、回折ビーム強度をより正確に記録する。
【0061】
しかも図10に示されているように、回折ビーム220は、ほとんど同一の入射角620a(つまり検出器表面の法線に対する回折ビームの角度)でX線検出器モジュール130a-c、1300a-cに衝突する。つまり入射角620aは、検出器中央から検出器周辺まで大きくは変化しない。回折ビームは、関節接続X線検出器130の(垂直方向からの)小さな斜角620aに対して大きな斜角620bで大きな単一平面X線検出器700に衝突する。回折ビームのX線強度の測定精度は、検出器表面へのビームの入射角度に依存する。入射斜角が大きくなると、検出器表面上での回折ビームの結像サイズが増大する。その結果検出領域上での画素にわたる強度が広がってしまう。回折ビームの測定強度は、隣接画素の群から記録される強度の合計である。各画素の読み取り電子機器の感度と利得は微妙に異なり、かつ、各画素は各異なるX線バックグラウンドの強度を測定し得るので、回折ビーム強度の正確な値の決定が問題となる。従って、入射角がX線検出器モジュールの中央から周辺まであまり変化せず、かつ、角度の斜度が小さい(つまり垂直方向に近い)ときに、回折ビームのより正確な測定を行うことができる。このことは、関節接続X線検出器130には当てはまるが、大きな単一平面X線検出器700には当てはまらない。
【0062】
またさらに、本願の検出器の設計によって、短距離で関心立体角範囲全部をカバーすることが可能となる。よって測定中で検出器を動かす必要はなくなるし、最短可能な測定時間での測定が可能となる。
図1
図2
図3
図4a
図4b
図5
図6
図7
図8
図9
図10