(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-25
(45)【発行日】2022-09-02
(54)【発明の名称】食品組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20220826BHJP
A23L 33/175 20160101ALI20220826BHJP
【FI】
A23L33/10
A23L33/175
(21)【出願番号】P 2017072193
(22)【出願日】2017-03-31
【審査請求日】2020-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】398028503
【氏名又は名称】株式会社東洋新薬
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【氏名又は名称】森本 敏明
(72)【発明者】
【氏名】長崎 歩
(72)【発明者】
【氏名】北村 整一
(72)【発明者】
【氏名】山口 和也
(72)【発明者】
【氏名】高垣 欣也
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-012363(JP,A)
【文献】特開2003-000141(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2006-0105263(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0032678(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0302379(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0302310(US,A1)
【文献】乳酸キャベツでおなかすっきり 簡単に作れる発酵食,NIKKEI STYLE [online],2016年07月19日,https://style.nikkei.com/article/DGXMZO04830350U6A710C1000000/
【文献】エイブリー酵素練り(5g×30包),Amazon [online],2017年02月14日,[2021年9月3日検索], インターネット<URL: https://www.amazon.co.jp/%E9%85%B5%E7%B4%A0-%E3%82%A8%E3%82%A4%E3%83%96%E3%83%AA%E3%83%BC%E9%85%B5%E7%B4%A0%E7%B7%B4%E3%82%8A%EF%BC%885g%C3%9730%E5%8C%85%EF%BC%89/dp/B06WVCXY9N>,ACIS: B06WVCXY9N
【文献】DHC美活植物醗酵液(びかつしょくぶつはっこうえき),INTERNET ARCHIVE Wayback Machine [online],2016年05月18日,[2021年9月3日検索], インターネット<URL: https://web.archive.org/web/20160518040833/http://www.dhc.co.jp/goods/goodsdetail.jsp?gCode=32376>
【文献】Bulletin UASVM, Agriculture,2008年,Vol. 65, No. 2,pp. 206-211
【文献】Annals. Food Science and Technology,2014年,Vol. 15, No. 1,pp. 149-153
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/FSTA/AGRICOLA(STN)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トウガラシ乳酸菌発酵処理物とキャベツ乳酸菌発酵処理物とを含むアミノ酸吸収促進用食品組成物。
【請求項2】
アミノ酸をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の
アミノ酸吸収促進用食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は食品組成物に関し、詳しくは、トウガラシ処理物とキャベツ処理物を含むことを特徴とする食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の高齢化の進展によって、たんぱく質やエネルギーの低栄養状態(PEM:protein energy malnutrition)が問題となっている。PEM患者は体重の減少や免疫機能の低下が起こり、罹患率の上昇を引き起こしている。また、PEM患者以外でも、筋力増強や健康のために効率のよいアミノ酸吸収方法が求められている。この様な状況に対して、タンパク質の摂取を促進する食品が複数考案されている。たとえば、特許文献1には、流動性が高く嚥下しやすいタンパク質含有組成物が開示されている。
【0003】
特許文献2には、天然物に微量しか存在しないショウガオール類を収率良く得ることができる合成用中間体が開示されている。さらに、特許文献3には、抗炎症剤の製造を容易にする、関節炎等の予防に有用な複数の成分をアカショウガの抽出成分から得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2005-511641号公報
【文献】特開2003-327574号公報
【文献】特許5303697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、タンパク質の摂取、咀嚼・嚥下性の改善方法や、健康促進用の天然抽出物の合成方法や抽出方法については検討されているが、腸管におけるアミノ酸吸収については十分に検討されているとはいえない。本発明の課題は、アミノ酸の吸収促進作用が飛躍的に向上したアミノ酸の吸収促進剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、アミノ酸の吸収促進を高める成分について鋭意研究したところ、驚くべきことに、トウガラシ処理物とキャベツ処理物とを組み合わせたところ、各処理物単独では見られなかったアミノ酸の吸収促進作用を、飛躍的に向上させることができることを見いだし、本発明を完成するに至った。即ち、トウガラシ処理物とキャベツ処理物とを組み合わせることで、アミノ酸の吸収促進能を向上させることができることを見いだした。このことは、非常に優れたアミノ酸吸収促進作用が得られることを示す。
【0007】
上記の結果として、本発明者らは、身体に有用な組成物、とりわけアミノ酸吸収促進などの用途に供し得る組成物として、トウガラシ処理物とキャベツ処理物とを含有する組成物を創作することに成功した。本発明は、かかる知見や成功例に基づいて完成された発明である。
【0008】
したがって、本発明によれば、以下[1]~[4]の組成物が提供される。
[1]トウガラシ処理物とキャベツ処理物とを含むことを特徴とする食品組成物。
[2]トウガラシ処理物及び/又はキャベツ処理物が発酵処理物であることを特徴とする[1]に記載の食品組成物。
[3]アミノ酸をさらに含むことを特徴とする[1]又は[2]に記載の食品組成物。
[4]アミノ酸吸収促進用であることを特徴とする[1]ないし[3]のいずれか一項に記載の食品組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様の組成物は、含有成分がいずれも日常摂取経験のある成分であり、摂取するに際して安全でありながら、アミノ酸吸収促進作用を通じて低栄養状態の改善や筋肉増強や健康に良好な効果を奏することができる。本発明の一態様の組成物は、このような作用を有することにより、タンパク質・エネルギー欠乏(PEM:Protein energy malnutrition)、低栄養、脱水、認知機能低下、骨量減少、免疫力、筋力、体力低下、罹患率の増加、脱水症状などの症状の予防・改善作用をより高めることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、後述する実施例に記載があるとおりの、パパインで分解したホエイタンパク質由来のアミノ酸の吸収量を測定した結果を示す図である。各棒グラフ直上の数値はアミノ酸吸収量を示す。
【
図2】
図2は、後述する実施例に記載があるとおり、比較例1、2、3、実施例1の溶液を用いた、アミノ酸吸収量を測定した結果を示す図である。各棒グラフ直上の数値はアミノ酸吸収量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一態様である組成物の詳細について説明するが、本発明の技術的範囲は本項目の事項によってのみに限定されるものではなく、本発明はその目的を達成する限りにおいて種々の態様をとり得る。
【0012】
本発明の一態様である組成物は、アミノ酸吸収促進作用に有用な成分として、トウガラシ処理物とキャベツ処理物とを含むことが好ましい。
【0013】
[トウガラシ処理物]
本発明に用いられるトウガラシ処理物において使用できる植物体は、カプサイシン又はカプサイシノイド様物質を含む植物体であれば特に限定されないが、トウガラシ属の植物体が挙げられる。トウガラシ属の植物体は、品種、産地などに特に限定されない。具体的には、トウガラシ品種CH-19甘、伏見甘長、シシトウ、山科、万願寺、鷹の爪、香川本鷹、青森鷹の爪、札幌大長、カリフォルニア・ワンダー、チェリーボムなどが挙げられる。カプサイシノイド様物質を含有する植物体としては、例えば、上記のトウガラシ品種CH-19甘、該品種と他のトウガラシ属植物(カリフォルニアワンダー、シシトウなど)との交配種が挙げられる。上記植物体は、単独で用いても、二以上を組み合わせて用いてもよい。トウガラシ属の植物体が好適に用いられ、特に、伏見甘長は、果実が大ぶりであることに加え、辛味が少ないため、好適に用いられる。
【0014】
トウガラシ処理物を得るためには、植物体は、カプサイシンまたはカプサイシノイド様物質を含有する部位であれば、どの部位を用いてもよい。特に、トウガラシ属の植物体においては、カプサイシンまたはカプサイシノイド様物質は胎座部に多く含まれているため、胎座部または胎座部を含む果実を用いることが好ましい。また、植物体は、生のまま用いてもよいし、植物体の乾燥物やその粉砕物を用いてもよいし、搾汁や抽出物を用いてもよいし、搾汁や抽出物を乾燥させた乾燥粉末等の加工品を用いても良い。これらの植物体を発酵処理することによって、トウガラシ処理物が得られる。
【0015】
上記植物体は、そのまま後述する発酵処理等に供することも可能であるが、植物体の表面積を増加させて効率よく植物体を発酵処理する点から、予め植物体を破砕することが好ましい。例えば、植物体をスライサーまたはダイサーでカットした後に、マスコロイダー、ブレンダー、摩砕ミルなどで、破砕片の粒径が、好ましくは100~3000μm、より好ましくは200~1000μmになるまで破砕する。必要に応じて、水、エタノールなどを適宜加えて破砕してもよい。
【0016】
上記植物体またはその加工物に予め水を加えることが、発酵処理を効率よく行い得るという点から好ましい。加える水の量は、植物体またはその加工物の全質量に対して、等量~10倍量、好ましくは2倍量~5倍量、より好ましくは2倍量~4倍量である。水を加えることによって、加熱処理においては、熱の伝導効率が高まり、そして発酵処理においては、菌の生育環境が好適になる。
【0017】
発酵処理を行う前に、予め植物体またはその加工物に対して加熱処理を行ってもよい。発酵処理前に加熱処理を行うと、加熱処理によって脂肪酸が生成するため、発酵処理の比較的早い段階でこの脂肪酸が資化され、短時間で香りなどの嗜好性を高めることができる。特に、酵母や酢酸菌を用いて発酵を行う場合は、発酵処理前に加熱処理を行うことによって、雑菌の繁殖を抑えることができる。
【0018】
加熱処理は、植物体またはその加工物を、40℃~120℃の範囲の温度で30分~24時間加熱することによって行われる。特に、カプサイシノイド様物質を含有する植物体においては、効率よく分解物(脂肪酸など)を生じさせるために、高い加熱温度で短時間処理することが好ましい。例えば、40℃~60℃にて3時間~24時間、または60℃~120℃にて30分間~3時間処理することが好ましい。また、酢酸、焼成カルシウムなどを用いてpHを5~6.5または8~10に調整することにより、より低い加熱温度で処理することも可能である。このような高温かつ短時間での処理あるいは低温での処理により、カプサイシノイド様物質以外の成分の変性(色素の変化による材料の褐変など)を避けることができる。
【0019】
次いで、植物体またはその加工物を発酵処理する。発酵処理は、例えば、植物体に含まれるカプサイシノイド様物質などを分解する。発酵処理は、有機酸を産生し得、かつカプサイシノイド様物質などの分解により生成する脂肪酸を資化し得る微生物を、上記植物体またはその加工物と接触させて行われる。微生物によって産生される有機酸などによるpHの変化などにより、カプサイシノイド様物質などが分解される。
【0020】
植物体またはその加工物に微生物を接触させる態様としては、例えば、植物体またはその加工物に付着している微生物をそのまま利用することおよび植物体またはその加工物に微生物を添加することが挙げられる。植物体またはその加工物に微生物を添加することがより好ましい。植物体またはその加工物に付着している微生物をそのまま利用する場合には、植物体またはその加工物が腐敗する恐れがあるため注意を要する。
【0021】
発酵としては、乳酸発酵、クエン酸発酵、アルコール発酵、酢酸発酵、これらの組み合わせによる発酵などが挙げられる。発酵の種類に応じて、乳酸菌、酵母菌、酢酸菌などを植物体またはその加工物と接触させる。これらの菌は、単独で発酵に用いてもよいし、複数の菌を同時に添加して発酵に用いてもよいし、段階的に異なる菌を添加して発酵に用いてもよい。これらの中でも、乳酸発酵が好ましい。
【0022】
乳酸発酵は、上記植物体またはその加工物と乳酸菌とを接触させることによって行われる。乳酸発酵は、例えば、カプサイシノイド様物質などを分解し、分解物を資化して有機酸を産生するだけでなく、発酵物を低いpHに維持できるため、他の雑菌の繁殖を防ぐことも可能である。また、乳酸菌により整腸作用を有する有機酸などが作られ、より胃腸機能改善効果の高い発酵物を得ることもできる。
【0023】
乳酸菌としては、ロイコノストック・メセントロイデス、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・ブレビス、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・カゼイ、ストレプトコッカス・サーモフィラス、ストレプトコッカス・フェカリス、ビフィドバクテリウム・ロンガムなどが挙げられ、単独でまたは組み合わせて用いられる。例えば、単独で用いる場合、ラクトバチルス・プランタラムが、その耐酸性、生育温度、および増殖速度の面から好適である。
【0024】
乳酸菌を添加する場合、予め植物体またはその加工物に、植物体の細胞壁を分解する酵素を添加してもよい。このような酵素を添加することにより、植物体の細胞内に含まれる栄養分が溶出し、乳酸菌が資化し得る栄養分が多くなるため、乳酸菌の生育が良くなる。さらに、これらの酵素が植物の細胞壁(膜)へ作用する結果、植物体の乳酸菌発酵液中のセロビオース、セロオリゴ糖などの含量が多くなり、発酵液に機能性が付与されるという効果が得られる。これらの酵素としては、ペクチン分解酵素(例えば、ポリガラクツロナーゼ、ペクチンリアーゼ、ペクチンエステラーゼ、およびプロトペクチナーゼ)、セルロース分解酵素(例えば、セルラーゼ、およびヘミセルラーゼ)などが挙げられる。これらの酵素は混合して用いてもよい。具体的には、プロトペクチナーゼ、ヘミセルラーゼ、およびセルラーゼを含む製剤が好適に用いられる。これらは、植物体またはその加工物に対して0.001質量%~約0.2質量%程度添加されるが、用いる酵素の精製度により異なる。ポリガラクツロナーゼを用いる場合、この酵素の最適pHはアルカリ側にあるので、植物体またはその加工物のpHが低い場合は、注意を要する。
【0025】
乳酸菌が優先的に増殖できる環境をつくるため、植物体またはその加工物を含む反応液のpHを予め低くしておくことも好ましい。例えば、ラクトバチルス・プランタラムでは、pH4.0程度に調整してから発酵を開始すれば、短期間でその発酵を終了できる。植物体またはその加工物を含む反応液のpHを低下させる方法としては、例えば、植物体またはその加工物にpH低下剤を添加すること、あるいは植物体またはその加工物に電気分解処理して酸性化された水(電解水)を添加することが挙げられる。pH低下剤としては、塩酸、グルコン酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、ソルビン酸などが挙げられる。発酵物の酸味を抑制するためには、グルコン酸が好ましい。これらのpH低下剤は、植物体またはその加工物を含む反応液中に約0.1質量%~1.2質量%程度となるように加えることが好ましく、グルコン酸では約1質量%、他の有機酸では約0.3質量%加えることが好ましい。電解水は、該処理に用いた有隔膜の電解槽における陽極側の水を使用する。得られた電解水のpHが低すぎる場合には、イオン交換水の添加によって調整すればよい。
【0026】
また、乳酸菌の優先的な生育のために、グルタミン酸またはその塩を加えてもよい。グルタミン酸の量は、植物体またはその加工物100質量部に対して0.05~1質量部程度、好ましくは0.1~0.5質量部程度となるように添加され得る。
【0027】
乳酸菌代謝性の糖を添加してもよい。この糖の添加は、糖分含量が少ない植物(1質量%未満)を発酵させる場合に有用である。あるいは、発酵の促進および飲料として用いる場合の甘味の付加という目的で添加してもよい。添加される乳酸菌代謝性の糖は、乳酸菌が生育および発酵に利用し得る糖であり、例えば、庶糖、ぶどう糖、果糖、麦芽糖などが挙げられるが、これらに限定されない。これらの糖は、糖分が植物の糖分と合わせて約1~6質量%になるように加えることが好ましい。
【0028】
乳酸菌は、上記植物体またはその加工物100質量部に対して、湿菌体質量で好ましくは0.005~5.0質量部、さらに好ましくは0.01~2.0質量部添加される。なお、市販の乳酸菌乾燥粉末を用いる場合は、約0.0005~1質量部を目安に添加すればよい。発酵温度は、通常4℃~50℃である。発酵時間は、発酵温度に応じて設定すればよく、特に制限はない。例えば、20℃~50℃で発酵を行う場合、6時間~72時間、好ましくは12時間~72時間である。特に、30℃~40℃で発酵を行う場合は、6時間~64時間、好ましくは12時間~64時間である。また、植物体の青臭みを抑えた発酵物を得るために4℃~10℃で発酵を行う場合は、5日間~14日間である。
【0029】
乳酸発酵は、嫌気性条件下で行うことが好ましい。嫌気性条件は、上記植物体またはその加工物を発酵槽に入れた後、脱気することにより、または発酵槽を密封するか、窒素、二酸化炭素などのガスで満たすか、減圧することにより、あるいはそれらを組み合わせることにより得られる。嫌気性条件下で発酵を行うことにより、得られる発酵処理物の風味も良くなる。
【0030】
乳酸発酵においては、乳酸菌非代謝性の糖を加えて発酵を停止させることができる。このような糖としては、糖アルコール(例えば、ソルビトール)、オリゴ糖(例えば、マルトオリゴ糖、キトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖)などが挙げられる。このようなオリゴ糖は、整腸作用、う蝕の予防などに効果があり、得られる発酵処理物に機能性を付与し得る。
【0031】
クエン酸発酵は、上記植物体またはその加工物に、酵母を好気性条件下で接触させて培養することによって行われる。酵母によって産生されるクエン酸も、発酵物のpHを低くし、例えば、カプサイシノイド様物質などの分解を促進し得る。さらに、酵母を用いて発酵処理を行う場合、酵母がビタミン類などを産生するため、栄養価が高く、嗜好性に優れた植物体発酵処理物を得ることができる。
【0032】
酵母としては、清酒酵母、ワイン酵母、ビール酵母、パン酵母などと呼ばれる酵母が挙げられる。好ましくは、サッカロミセス属、シゾサッカロミセス属などに属する酵母が用いられ、例えば、サッカロミセス・セレビシエ、サッカロミセス・パストリアヌス、シゾサッカロミセス・ポンベなどが挙げられる。特にビタミンなどの有用物質を産生する点で、サッカロミセス・セレビシエを用いることが好ましい。
【0033】
酵母の添加量は、特に制限されない。好ましくは、植物体またはその加工物100質量部に対して、湿菌体または乾燥菌体質量で0.01~15質量部程度、好ましくは0.1~10質量部程度を添加する。
【0034】
クエン酸発酵は、植物体またはその加工物と酵母とを発酵槽に入れ、通気攪拌しながら、4℃~40℃、好ましくは10℃~35℃で12時間~14日間行う。
【0035】
アルコール発酵は、酵母を、上記植物体またはその加工物と嫌気性条件下で接触させて培養することによって行われる。アルコール発酵に用いられる酵母の種類および量は、上記クエン酸発酵の場合と同様である。発酵条件も、嫌気性条件にすること以外は、上記クエン酸発酵の場合と同様である。こうしてアルコール発酵で得られた発酵処理物は、さらに以下で述べる酢酸発酵に供することが好ましい。
【0036】
酢酸発酵は、上記植物体またはその加工物にアルコールを添加して、所定のアルコール濃度にした後、酢酸発酵し得る微生物(酢酸菌)を添加して行われる。あるいは上記のアルコール発酵によって得られた発酵処理物に酢酸菌を添加して二段発酵させてもよい。
【0037】
アルコール濃度は、酢酸菌が生育できる濃度であれば、どのような濃度であってもよく、発酵時間などを考慮して、10質量/容量%以下にすることが好ましく、1~6質量/容量%が特に好ましい。
【0038】
酢酸菌としては、アセトバクター属に属する微生物、例えば、アセトバクター・アセチ、アセトバクター・パステウリアヌス、アセトバクター・ハンセニなどが挙げられる。
【0039】
酢酸菌は、適切な培地で15℃~40℃、好ましくは、25℃~35℃で、6~48時間予備培養しておくことが好ましい。予備培養した酢酸菌は、例えば、次のようにして得ることができる。ポテト200g、破砕酵母30g、肝臓エキス25g、肉エキス5g、チオグリコール酸培地10g、グルコース5g、グリセロール15g、および炭酸カルシウム15gを含有する1Lの酢酸菌培地(pH7.0)に酢酸菌を添加して、15℃~40℃で24時間予備培養する。次いで、培養物を遠心分離し、回収した菌を滅菌水で洗浄し、再度遠心分離し、上清を除去して、予備培養した酢酸菌を得る。
【0040】
酢酸菌は、植物体またはその加工物、あるいは発酵処理物100質量部に対して、湿菌体質量で0.0001~1質量部、好ましくは0.01~0.5質量部を添加する。
【0041】
酢酸発酵は、攪拌培養、振盪培養、または静置培養のいずれでも行うことができる。発酵温度は10℃~40℃、好ましくは20℃~35℃の間である。発酵時間は、酢酸菌の添加量に応じて適宜設定され、通常、1日~1週間が好適である。
【0042】
上記のように、カプサイシンおよびカプサイシノイド様物質からなる群より選択される少なくとも1種を含有する植物体またはその加工物を発酵処理することによって、植物体発酵処理物を得ることができる。この発酵処理物を加熱処理してもよい。得られた植物体発酵処理物から発酵処理液を回収してもよい。発酵処理液の回収には当業者が通常用いる方法、例えば、遠心分離、濾過などが適用され得る。
【0043】
上記植物体発酵処理物に、さらに抽出処理を施してもよい。植物体発酵処理物中に含有される成分のうちで、アミノ酸吸収促進作用を有する成分は、主に水、エタノールなどに溶解する成分である。したがって、植物体発酵処理物から抽出を行い、得られた抽出物を用いてもよい。特に、カプサイシノイド様物質を含有する植物体またはその加工物を用いた植物体発酵処理物は、植物体中にはほとんど含有されないカプサイシノイド様物質の分解物、主としてバニリルアルコールを含有する。抽出物は、例えば、該植物体発酵処理物を必要に応じて粉砕し、水、エタノールなどの溶媒を加えて抽出を行い、当業者が通常用いる方法、例えば、遠心分離、濾過などにより植物体処理物の残渣を除去することによって得られる。なお、植物体を粉砕せずに発酵処理を行った場合には、抽出を容易にするために、上記処理後に粉砕してもよい。さらに、抽出物は、抽出に用いた溶媒の一部または全部を除去して、エキスとすることもできる。
【0044】
本発明の組成物は、カプサイシン、またはカプサイシノイド様物質を含有する植物体を用いた場合には、その分解物を含有する。ここで、カプサイシノイド様物質の分解物の含有量は、カプサイシノイド様物質が上記処理によって主にバニリルアルコールと脂肪酸とに分解されることに基づいて、バニリルアルコールの含有量を指標として測定され得る。理論的には、1molのカプサイシノイド様物質が分解すると、1molのバニリルアルコールが生成され得る。したがって、バニリルアルコールの含有量を測定することによって、カプサイシノイド様物質の分解率およびカプサイシノイド様物質の分解物の生成量を知ることができる。バニリルアルコールは、例えば、HPLCによって測定し得る。特に、カプサイシノイド様物質の分解物を含有する場合は、アミノ酸吸収促進効果を効率的に発揮する点から、バニリルアルコールを指標として、乾燥質量換算で0.05質量%~0.3質量%含有することが好ましい。このバニリルアルコールの含有量は、処理前の含有量に比べて、1.5倍~25倍、好ましくは2~20倍に相当する。
【0045】
必要に応じて、本発明の組成物の殺菌処理を行う。殺菌処理は、気流殺菌、高圧殺菌、加熱殺菌などの当業者が通常用いる方法により行われ得る。殺菌は、各種の栄養分を保持するために、できるだけ低温かつ短時間で行うことが好ましい。殺菌処理により、長期間の保存が可能となる。
【0046】
上記のように処理されたトウガラシ処理物の含有量は、アミノ酸吸収促進作用が認められる量であれば特に限定されないが、後述する実施例に記載があるとおり、組成物全体に対して、0.0001~50質量%、好ましくは0.001~40質量%であり、特に好ましくは0.01~30質量%である。
【0047】
[キャベツ処理物]
キャベツ処理物は、キャベツを発酵させることにより得られる。キャベツは通常知られている通りのアブラナ科に属する一年生又は越年生草本であるキャベツ(Brassica Oleracea L.)であれば特に限定されない。
【0048】
キャベツの発酵に用いる菌の種類は特に限定されず、乳酸菌、酵母菌、麹菌、納豆菌などを用いることができるが、発酵物の味が良く、安全性が高いという点から、乳酸菌を用いることが特に好ましい。これらの菌は、単独でキャベツの発酵に用いてもよいし、複数の菌を同時に添加して発酵に用いてもよいし、段階的に異なる菌を添加して発酵に用いてもよい。キャベツを発酵させる方法には、例えば、キャベツに乳酸菌を添加して発酵する方法、乳酸菌は添加せず、キャベツに付着している乳酸菌を利用する方法などがあるが、本発明においてはそれらに限定されない。植物体の加工および発酵方法についてはトウガラシ処理物の記載事項を参照できる。
【0049】
本発明に用いるキャベツ処理物は、アブラナ科に属するキャベツに少なくとも乳酸菌を添加して発酵させることにより得られる物をいう。乳酸菌を添加し、キャベツを発酵させる方法としては、例えば、先ずキャベツを水洗いし、カッターで粉砕し、水および植物性乳酸菌(例えば、ラクトバチルス・プランタラム:乾燥粉末でも良い)を添加し、よく攪拌して、適切な温度で所定時間保持する方法がある。この時、キャベツ粉砕末にキャベツ濃縮液を添加して発酵させてもよい。キャベツを発酵させた後には、発酵物をそのまま発酵エキスとしても良い。または、遠心分離して上清を回収し、減圧濃縮して発酵エキスとして用いても良いし、濃縮後、凍結乾燥などの手段で乾燥粉末(エキス末)としても良い。あるいは、これらのエキスをさらに加熱殺菌し、デキストリンを加えてスプレードライすることにより乾燥粉末(エキス末)とすることもできる。本発明に用いられるキャベツ処理物には、これらの例示したキャベツ処理物、乾燥粉末(エキス末)、ペーストなどが含まれるがこれらに限定されない。このようなキャベツ処理物は、体内のSOD活性の増強作用、美容作用、健胃作用などを有する。
【0050】
上記のように処理されたキャベツ処理物の含有量は、アミノ酸吸収促進作用が認められる量であれば特に限定されないが、後述する実施例に記載があるとおり、組成物全体に対して、0.0001~50質量%、好ましくは0.001~40質量%であり、特に好ましくは0.01~30質量%である。キャベツ処理物の含有量がこれらの範囲内にあることにより、トウガラシ処理物と相乗的なアミノ酸吸収促進作用が得られる組成物とすることができる。
【0051】
[組成物]
トウガラシ処理物およびキャベツ処理物のそれぞれの含有量は上記したとおりであるが、これらの総量及び質量比については、本発明の一態様の組成物がアミノ酸吸収促進作用を示す限りにおいて特に限定されない。例えば、トウガラシ処理物およびキャベツ処理物の質量比(トウガラシ処理物:キャベツ処理物)は1:0.001~10であり、良好なアミノ酸吸収促進作用を得るためには、1:0.003~5であることが好ましく、1:0.005~2であることがより好ましい。
【0052】
本発明の一態様の組成物は、アミノ酸吸収促進作用の程度については特に限定されないが、例えば、トウガラシ処理物およびキャベツ処理物を含有する系について、トウガラシ処理物およびキャベツ処理物の両方を含有しない系やトウガラシ処理物およびキャベツ処理物のいずれか一方のみを含有する系と比べて、アミノ酸吸収促進作用が見られる程度の作用である。
【0053】
本発明の一態様の組成物の具体的な態様は、組成物の総量に対して、トウガラシ処理物を0.0001~50質量%、好ましくは0.001~40質量%、特に好ましくは0.01~30質量%で含有し、キャベツ処理物を0.0001~50質量%、好ましくは0.001~40質量%、特に好ましくは0.01~30質量%で含有し、かつ、トウガラシ処理物及びキャベツ処理物の質量比(トウガラシ処理物:キャベツ処理物)が1:0.001~10、好ましくは1:0.003~5、より好ましくは1:0.005~2である組成物である。
【0054】
上記のトウガラシ処理物とキャベツ処理物とを含む本発明の一態様の組成物の製造方法は特に限定されず、例えば、室温や加温下で、各成分を含有せしめることにより、粉末状、顆粒状又は固形状の組成物とすることができる。または、この組成物を、水などの溶媒に溶解させて液状組成物とすることができる。さらに、各成分の液状物に、他の固形状成分を加えて混合することにより液状組成物とすることができる。なお、得られた液状組成物は、乾燥処理を経て、粉末化しても良い。この場合の乾燥処理の方法としては、噴霧乾燥、凍結乾燥などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
本発明の一態様の組成物は、食品組成物であり、アミノ酸吸収促進効果を期待した種々の形態で利用され得る。剤形は特に限定されないが、例えば、アミノ酸吸収促進用、特に腸からの吸収促進用(腸管吸収用)の食品組成物などの形態をとり得る。
【0056】
食品組成物の具体的な一態様は、例えば、生体に対して一定の機能性を有する食品である機能性飲食品である。機能性飲食品は、例えば、特定保健用飲食品、機能性表示飲食品、栄養機能飲食品、保健機能飲食品、特別用途飲食品、栄養補助飲食品、健康補助飲食品、サプリメント、美容飲食品などのいわゆる健康飲食品に加えて、乳児用飲食品、妊産婦用飲食品、高齢者用飲食品などの特定者用飲食品を包含する。さらに機能性飲食品は、コーデックス(FAO/WHO合同食品規格委員会)の食品規格に基づく健康強調表示(Health claim)が適用される健康飲食品を包含する。
【0057】
本発明の一態様の組成物の摂取量は特に限定されず、摂取者に求められるアミノ酸吸収促進の程度や摂取態様などに応じて適宜設定され得るが、例えば、摂取1回量として、摂取者の体重を基準として、処理物成分の総量について100~2,000mg/kg、好ましくは300~1,500mg/kgであり、特に好ましくは500~1,000mg/kgである。
【0058】
本発明の一態様の組成物の1日の摂取量は特に限定されず、例えば、処理物成分の総量について10~300g、好ましくは30~200gであり、特に好ましくは50~100gである。
【0059】
上述したとおり、本発明の一態様の組成物の利用形態は特に限定されないが、例えば、経口摂取に適した形態、具体的には液状、粉末状、粒状、顆粒状、錠状、棒状、板状、ブロック状、固形状、丸状、ペースト状、ハードカプセルやソフトカプセルのようなカプセル状、カプレット状、タブレット状、ゲル状、スムージー様のとろみのある形状などの各形態が挙げられるが、摂取したときの吸収性が最も良く、効果がより高く得られる液状や顆粒状の形態であることが好ましい。
【0060】
本発明の一態様の組成物は、容器に詰めて密封した容器詰組成物とすることができる。容器は特に限定されないが、例えば、アルミなどの金属、紙、PETやPTPなどのプラスチック、1層又は積層(ラミネート)のフィルム袋、レトルトパウチ、真空パック、アルミ容器、プラスチック容器、瓶、缶などの包装容器が挙げられる。本発明の一態様の組成物は、経時的な変質を避けるために、容器に詰めて密封した後に、加圧及び/又は加熱などにより殺菌処理したものであることが好ましい。
【0061】
本発明の一態様の組成物の使用方法は特に限定されないが、例えば、本発明の一態様の組成物をそのまま、水などとともに、又は水などで希釈するなどして、飲食することにより経口摂取することができる。摂取者の好みなどに応じて、本発明の一態様の組成物と他の固体物や液状物とを混ぜて経口摂取してもよい。本発明の一態様の組成物を口腔崩壊剤形とした場合は、水なしで経口摂取することができる。
【0062】
本発明の一態様の組成物は、トウガラシ処理物とキャベツ処理物とを少なくとも含有すればよいが、これらとその他の成分とを組み合わせたものとすることができる。その他の成分としては特に限定されないが、例えば、増粘剤、光沢剤、製造用剤などをその他の成分として用いることができ、具体的にはアミノ酸等が挙げられる。アミノ酸としては、例えばピープロテイン、ライスプロテイン、アーモンドプロテイン、ホエイプロテイン、シルクプロテイン等のタンパク質に由来するアミノ酸が好ましい。これら以外にも、種々の賦形剤、結合剤、滑沢剤、安定剤、希釈剤、増量剤、乳化剤、着色料、香料、香油などをその他の成分として用いることができる。その他の成分の含有量は、本発明の一態様の組成物の形態などに応じて適宜選択することができる。
【0063】
本発明の一態様の組成物は、そのアミノ酸吸収促進作用を通じた効果により、これを使用することは、タンパク質・エネルギー欠乏(PEM:Protein energy malnutrition)、低栄養、脱水、認知機能低下、骨量減少、免疫力、筋力、体力低下、罹患率の増加、脱水症状などの症状の予防・改善作用に有用である。さらには、本発明の一態様の組成物は、筋力の衰えを感じる健常者、とりわけ中高年者に有用である。
【0064】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
【実施例】
【0065】
以下のとおりに、トウガラシ処理物とキャベツ処理物とをそれぞれ用意し、これらの組み合わせを含有する組成物が格別顕著なアミノ酸の腸管吸収促進作用を有することを以下の通りに実証した。
【0066】
[アミノ酸の腸管吸収促進確認試験]
(1)被験物質
1.トウガラシ処理物
トウガラシ処理物として、株式会社東洋新薬製の「青トウガラシ発酵エキス」を用いた。このトウガラシ処理物は以下の方法に従って調整されたものである。まず、水洗いした伏見甘長トウガラシを3mm角程度にダイスカットし、加水しながらプロセッサーで粉砕した。これにグルコースと乳酸菌を添加し、35℃にて24時間発酵させた。発酵物を60℃、200kPaにて濃縮し、デキストリンを添加した。その後、100℃にて2分間殺菌した。続けて、噴霧乾燥し、トウガラシ処理物を得た。
【0067】
2.キャベツ処理物
キャベツ処理物として、株式会社東洋新薬製の「キャベツ発酵エキス」を用いた。このキャベツ処理物は下記の方法に従って調整されたものである。まず、水洗いしたキャベツを3mm角程度にダイスカットし、加水しながらプロセッサーで粉砕した。これに乳酸菌を添加し、35℃にて24時間発酵させた。発酵物を60℃、200kPaにて濃縮し、デキストリンを添加した。その後、100℃にて2分間殺菌した。続けて、噴霧乾燥し、キャベツ処理物を得た。
【0068】
3.パパイン
パパインとして、未成熟パパイヤの種子から抽出した市販のパパイヤ抽出物粉末(タンパク質分解力価:90,000単位/g)を用いた。
【0069】
4.ホエイタンパク(ホエイ)
ホエイタンパクとして、牛乳中の乳清タンパク質を限外ろ過処理して製造された市販の乳タンパク(タンパク質含量:80%以上)を用いた。
【0070】
(2)被験物質の調製
・HBSS(+)Buffer(以下Bufferとする)
10×HBSS(-)100ml、NaHCO3350mg、CaCl2140mg、MgCl2・6H2O 100mg、MgSO・7H2O 100mgを950mlの超純水に溶解し、1MHCLでpH7.4に調製後、全量を1LにしてHBSS(+)Bufferを調製した。
・アミノ酸供給源濃度検討用のパパインとホエイとの混合溶液
パパインは10mg/mL、ホエイは5mg/mLとなるように上記Bufferに溶解し、等量ずつ混合した(ホエイ5mg/mL+パパイン2.5mg/mL)。混合した溶液を37℃、30minインキュベート後、ホエイ2.5mg/mL+パパイン1.25mg/mL、ホエイ1.25mg/mL+パパイン 0.625mg/mLとなるように希釈して混合溶液を調製した。
・パパインとホエイとの混合溶液にトウガラシ処理物およびキャベツ処理物を組み合わせた溶液
パパインは5000μg/mL、ホエイは2500μg/mLとなるようにBufferに溶解し、等量ずつ混合した(ホエイ2500μg/mL+パパイン1250μg/mL)。混合した溶液を37℃、30minインキュベート後、トウガラシ処理物およびキャベツ処理物と混合し、終濃度がトウガラシ処理物およびキャベツ処理物がそれぞれ200μg/mL、ホエイが1250μg/mL、パパインが625μg/mLとなるように調製した。
【0071】
(3)細胞培養
37℃、5%CO2インキュベーター内で、75cm2フラスコを用いて、通常培地(10%FBS、1%NEAA、1%P/S含有 DMEM)にてヒト大腸癌由来細胞(Caco-2)を培養した。トリプシン処理により浮遊させた細胞を、75cm2フラスコからインサートウェルに4.0×104cells/wellの細胞密度で播種した。37℃、5%CO2インキュベーター内で約10~12日間培養し、monolayerを作製した。培地交換は3~4日置きに実施した。Millicell ERS-2にて電気抵抗値を測定し、300Ω・cm2以上になっているものを使用した。また、被験物質ごとの電気抵抗値の平均が同一となるように群分けした。1000μLのBufferにてインサートウェルの外側を3回、内側を3回洗浄後、600μLのBufferが入った24wellプレート(基底膜側ウェル)に移し、インサートウェル内側(粘膜側ウェル)に100μLのBufferを添加した。CO2インキュベーター内で15分間順化した。
【0072】
(4)アミノ酸供給源(ホエイ+パパイン)濃度の検討
上記細胞の順化後に、アミノ酸供給源として添加するホエイとパパインの濃度を決定するため、上記(2)のように調製した被験物質含有Bufferを、粘膜側ウェルに100μL添加し、CO2インキュベーター内で2時間培養した。また、コントロールには上記(2)のBufferを添加した。培養後、基底膜側ウェルのBufferを回収し、アミノ酸測定キット(L-Amino Acid Quantitation Kit 、BioVision製)を用いてアミノ酸量を測定した。回収したBufferとキット付属の反応試薬を、ブラックプレートにて等量混合し、37℃インキュベーターで30minインキュベートした。インキュベート後、マイクロプレートリーダーにて励起波長(Ex)/蛍光波長(Em)=535nm/587nmを測定した。また、ブランクとしてBufferの蛍光強度を差し引き、キット付属の試薬を用いて作成した検量線にてアミノ酸濃度を算出した。
【0073】
(5)アミノ酸供給源のアミノ酸量の測定結果
測定結果を
図1に示す。コントロールと比較し、ホエイとパパインの混合液を添加したサンプルではアミノ酸濃度が増加していた。したがって、ホエイとパパインの混合液をインキュベートすることによって、ホエイがアミノ酸やペプチドに分解され、Caco2のmonolayerを透過することが確認された。また、ホエイとパパインの濃度依存的に透過したアミノ酸量は増加していたが、濃度が高くなるにつれ透過量の変化が小さくなっていたことから、トウガラシ処理物およびキャベツ処理物との組み合わせに使用するホエイとパパインの濃度は、パパイン 1.25mg/mL+ホエイ 0.625mg/mLとした。
【0074】
(6)アミノ酸供給源とトウガラシ処理物およびキャベツ処理物との組み合わせによるアミノ酸量の測定
ホエイ+パパインの濃度をそれぞれ1250μg/mL+625μg/mLとし、上記(2)に記載のようにキャベツ処理物、トウガラシ処理物と混合した被験物質含有Bufferを表1の濃度となるように調製した。調製後、上記(4)と同様に、粘膜側ウェルに100μL添加し、CO2インキュベーター内で2時間培養後、基底膜側ウェルのBufferを回収し、アミノ酸測定キットを用いてアミノ酸量を測定した。
【0075】
(7)アミノ酸供給源とトウガラシ処理物およびキャベツ処理物との組み合わせのアミノ酸量の測定結果
被験物質の詳細を表1に、測定結果を
図2に示す。トウガラシ処理物はトウガラシとし、キャベツ処理物はキャベツとする。表1の数字の単位はμg/mLである。
【0076】
【0077】
比較例1(ホエイ+パパイン)のアミノ酸透過量と比較して、実施例1(ホエイ+パパイン+トウガラシ200μg/mL+キャベツ200μg/mL)において増加した透過量は、比較例2(ホエイ+パパイン+トウガラシ200μg/mL)と比較例3(ホエイ+パパイン+キャベツ200μg/mL)において増加した透過量を合計した量よりも多かった。つまり、トウガラシ処理物とキャベツ処理物を組み合わせた際のアミノ酸の透過増加効果は、トウガラシ処理物とキャベツ処理物それぞれの単独による透過増加効果を合わせたものよりも大きいことから、それぞれの効果が相加的ではなく、相乗的に働いたことによる効果だとわかった。これより、トウガラシ処理物とキャベツ処理物を組み合わせることによって、腸管におけるアミノ酸吸収促進効果が表れることが示唆された。
【0078】
(8)MTTアッセイ
上記アミノ酸吸収試験における各被験物質の試験区について、MTTアッセイを行い、細胞毒性について確認した。MTTアッセイの試験方法は、以下のように行った。
【0079】
MTT溶液は、MTTを無血清DMEMにて500μg/mLとなるように調製し、フィルター処理後使用した。MTT溶液を300μL添加した24wellプレートに上記試験終了後のインサートウェルを移し、ウェル内にも100μLのMTT溶液を添加した。37℃CO2インキュベーターで約30分インキュベートした。インキュベート後、300μLの2-プロパノールに色素を抽出し、96wellプレートに100μL移した後、570nmおよび650nmの吸光度を測定し、下記式によりMTTアッセイ値を算出した。また、下記式を用いてコントロールに対する生存率を算出した。
MTTアッセイ値 = (Abs 570-blank 570)-(Abs 650-blank 650)
生存率(%) = (Data sample/Data control )×100
【0080】
その結果各試験区において、いずれも高い生存率を示しており、細胞毒性は認められないことが確認された。
【0081】
(9)評価
以上の結果から、トウガラシ処理物およびキャベツ処理物を組み合わせた組成物は、優れたアミノ酸吸収促進作用を示し、特に腸管吸収促進作用を示すことから、腸管までアミノ酸が吸収されることにより、栄養状態の維持又は改善効果、筋肉量の増大又は維持効果、筋肉によるエネルギー産生促進による代謝改善効果、及び、筋力減少による基礎代謝の低下が招くエネルギー消費の低下と食欲不振を防ぐことによる低栄養状態の改善効果が期待できる。
【0082】
以下に、本発明の具体的態様として配合例1~4を例示するが、本発明の組成物は以下の配合例1~4のみによって限定されるものではない。
【0083】
(配合例1:錠剤)
全体を100質量部として、トウガラシ処理物 10質量部、キャベツ処理物 8質量部、ビタミンB1 5質量部、結晶性セルロース 20質量部、乳糖 50質量部、ステアリン酸マグネシウム 4質量部及びコーンスターチ 残部を混合及び打錠することにより、錠剤の態様で本発明の吸収促進用組成物を調製した。この錠剤は、相乗的な吸収促進作用が得られるだけでなく、トウガラシ処理物の辛味や雑味などの呈味が改善されていた。また、トウガラシ処理物の独特の発酵臭を改善し、香り高く風味も好ましいものであった。
【0084】
(配合例2:顆粒剤)
全体を100質量部として、トウガラシ処理物 10質量部、キャベツ処理物 15質量部、乳糖 10質量部、ステアリン酸カルシウム 1質量部及び結晶セルロース 残部を混合及び顆粒化することにより、顆粒剤の態様で本発明の吸収促進用組成物を調製した。この顆粒剤は、相乗的な吸収促進作用が得られるだけでなく、トウガラシ処理物の辛味や雑味などの呈味が改善されていた。また、トウガラシ処理物の独特の発酵臭を改善し、香り高く風味も好ましいものであった。
【0085】
(配合例3:カプセル剤)
全体を100質量部として、トウガラシ処理物 10質量部、キャベツ処理物 20質量部、レシチン 8質量部及びオリーブ油 残部を混合して調製したものを内容液として、これをカプセル殻に内包することにより、カプセル剤の態様で本発明の吸収促進用組成物を調製した。このカプセル剤は、相乗的な吸収促進作用が得られるだけでなく、その内容物のトウガラシ処理物の辛味や雑味などの呈味が改善されていた。また内容物のトウガラシ処理物の独特の発酵臭を改善し、香り高く風味も好ましいものであった。
【0086】
(配合例4:液剤)
全体を100質量部として、トウガラシ処理物 0.84質量部、キャベツ処理物 10質量部、果糖ブドウ糖液糖 10質量部、クエン酸 1質量部、安息香酸ナトリウム 0.02質量部、香料製剤 2質量部、スクラロース 0.05質量部、アセスルファムカリウム 0.03質量部及び精製水 残部を混合して、液剤の態様で本発明の吸収促進用組成物を調製した。この液剤は、相乗的な吸収促進作用が得られるだけでなく、トウガラシ処理物の辛味や雑味などの呈味が改善されていた。また、トウガラシ処理物の独特の発酵臭を改善し、香り高く風味も好ましいものであった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の一態様の組成物は、トウガラシ処理物およびキャベツ処理物を組み合わせることによって、アミノ酸吸収量の増大が確認されており、栄養状態が改善・維持され、吸収されたアミノ酸により筋肉量が増大又は維持され、筋肉によるエネルギー産生促進により代謝が改善し得るものであることから、高齢化社会における低栄養状態の症状に対する効果を望む者の健康維持に利用可能である。