(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-25
(45)【発行日】2022-09-02
(54)【発明の名称】オーバーハングを有する二本鎖核酸複合体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/113 20100101AFI20220826BHJP
C07H 21/02 20060101ALI20220826BHJP
C07H 21/04 20060101ALI20220826BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220826BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20220826BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220826BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
C07H21/02
C07H21/04 Z
A61K48/00
A61K31/713
A61P25/00
(21)【出願番号】P 2018542948
(86)(22)【出願日】2017-09-29
(86)【国際出願番号】 JP2017035553
(87)【国際公開番号】W WO2018062510
(87)【国際公開日】2018-04-05
【審査請求日】2020-09-07
(31)【優先権主張番号】P 2016191548
(32)【優先日】2016-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、「戦略的創造研究推進事業」チーム型研究(CREST)「新機能創出を目指した分子技術の構築」「画期的な新規核酸医薬の分子技術の構築」「ヘテロ2本鎖核酸の臨床応用のための分子技術の開発」、産業技術力強化法第19条の規定の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横田 隆徳
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 耕太郎
【審査官】白井 美香保
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-524588(JP,A)
【文献】特表2012-502991(JP,A)
【文献】特表2010-503382(JP,A)
【文献】特開2010-068723(JP,A)
【文献】NATURE COMMUNICATIONS,2015年,vol.6:7969,p.1-13,DOI: 10.1038/ncomms8969
【文献】細胞工学,2015年,vol.34 no.10,p.939-945
【文献】大谷木正貴他,核酸医薬による神経変性疾患の治療,生体の科学,2016年08月15日,vol.67, no.4,p.349-353
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
Pubmed
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAPLUS/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1核酸鎖と第2核酸鎖とを含む核酸複合体であって、
該第1核酸鎖は、標的転写産物の少なくとも一部にハイブリダイズすることが可能な塩基配列を含み、
該第1核酸鎖は、標的転写産物に対してアンチセンス効果を有し、
該第2核酸鎖は、該第1核酸鎖に相補的な塩基配列を含む相補的領域と、該相補的領域の5'末端および/または3'末端側に位置する少なくとも1つのオーバーハング領域とを含み、 該第1核酸鎖は、該第2核酸鎖中の相補的領域にアニールしており、
前記第2核酸鎖中のオーバーハング領域の遊離末端から少なくとも1つのヌクレオシドが、修飾ヌクレオシドであり、かつ、前記修飾ヌクレオシドが、二環式糖を含み、
前記第2核酸鎖中のオーバーハング領域の遊離末端から少なくとも2つのヌクレオシド間結合が、修飾ヌクレオシド間結合であり、
前記第2核酸鎖中のオーバーハング領域が、少なくとも9塩基長であり、
前記第2核酸鎖中のオーバーハング領域が、治療用オリゴヌクレオチド領域ではない、核酸複合体。
【請求項2】
前記第1核酸鎖が、13~20塩基長である、請求項1
に記載の核酸複合体。
【請求項3】
前記第2核酸鎖が、30塩基長以下である、請求項1
または2に記載の核酸複合体。
【請求項4】
前記第2核酸鎖中のオーバーハング領域におけるヌクレオシド間結合の少なくとも50%が、修飾ヌクレオシド間結合である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の核酸複合体。
【請求項5】
前記修飾ヌクレオシド間結合が、ホスホロチオエート結合である、請求項
1~4のいずれか一項に記載の核酸複合体。
【請求項6】
前記二環式糖がLNAを含む、請求項1~
5のいずれか一項に記載の核酸複合体。
【請求項7】
前記二環式糖がLNAである、請求項1~
5のいずれか一項に記載の核酸複合体。
【請求項8】
前記第1核酸鎖が、BNA/DNAギャップマー、BNA/DNAミックスマーまたはBNA/RNAミックスマーである、請求項1~
7のいずれか一項に記載の核酸複合体。
【請求項9】
前記第1核酸鎖が、ペプチド核酸および/またはモルホリノ核酸を含む、請求項1~
8のいずれか一項に記載の核酸複合体。
【請求項10】
前記第1核酸鎖が、少なくとも1つの修飾ヌクレオシドを含み、該修飾ヌクレオシドは、2'-O-メチル基を含む糖を含む、請求項1~
9のいずれか一項に記載の核酸複合体。
【請求項11】
前記第2核酸鎖が、標識機能、精製機能、および標的送達機能から選択される機能を有する機能性部分をさらに含む、請求項1~
10のいずれか一項に記載の核酸複合体。
【請求項12】
前記第2核酸鎖中の相補的領域が、少なくとも2個の連続したリボヌクレオシドを含まない、請求項1~
11のいずれか一項に記載の核酸複合体。
【請求項13】
前記第2核酸鎖中のオーバーハング領域が、9~12塩基長である、請求項1~
12のいずれか一項に記載の核酸複合体。
【請求項14】
請求項1~
13のいずれか一項に記載の核酸複合体と、薬学的に許容可能な担体とを含む、組成物。
【請求項15】
静脈内投与、脳室内投与、髄腔内投与、筋肉内注射投与、持続点滴投与、腹腔内投与、吸入、皮膚貼付または皮下投与用である、請求項
14に記載の組成物。
【請求項16】
脳室内投与または髄腔内投与用である、請求項
14に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的遺伝子の発現をアンチセンス効果によって抑制する活性を有する、オーバーハングを有する二本鎖核酸複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、核酸医薬と呼ばれる医薬品の現在進行中の開発において、オリゴヌクレオチドが関心を集めており、また特に、標的遺伝子の高い選択性および低毒性の点から考えて、アンチセンス法を利用する核酸医薬の開発が積極的に進められている。アンチセンス法は、標的遺伝子のmRNA(センス鎖)の部分配列に相補的なオリゴヌクレオチド(例えばアンチセンスオリゴヌクレオチド、すなわちASO)を細胞に導入することにより、標的遺伝子によってコードされるタンパク質の発現を選択的に改変または阻害する方法を含む。同様に、アンチセンス法はまた、miRNAを標的とし、またこのようなmiRNAの活性を改変する働きをする。
【0003】
アンチセンス法を利用した核酸として、本発明者らは、アンチセンスオリゴヌクレオチドとそれに対する相補鎖とをアニーリングさせた二本鎖核酸複合体を開発した(特許文献1)。特許文献1は、標的部位(肝臓)への特異的な送達機能を有するトコフェロールを結合させた相補鎖とアニーリングさせたアンチセンスオリゴヌクレオチドが、肝臓に効率的に送達され、また、高いアンチセンス効果を有することを開示している。
【0004】
本発明者らはまた、エクソンスキッピング効果を有する二本鎖アンチセンス核酸(特許文献2)、ならびに付加ヌクレオチドがギャップマー(アンチセンスオリゴヌクレオチド)の5'末端、3'末端、もしくは5'末端と3'末端の両方に付加されている短いギャップマーアンチセンスオリゴヌクレオチド(特許文献3)を開発した。本発明者らはまた、治療用オリゴヌクレオチドを送達するための二本鎖剤を開発した(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2013/089283号
【文献】国際公開第2014/203518号
【文献】国際公開第2014/132671号
【文献】国際公開第2014/192310号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、アンチセンスオリゴヌクレオチドを生体内へ効率的に送達し、アンチセンス効果をもたらすことができる核酸鎖を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、アンチセンスオリゴヌクレオチドを、オーバーハング領域を有する相補鎖とアニールさせた核酸複合体が、生体内へ効率的に送達され、生体内で高いアンチセンス効果を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は以下を包含する。
[1] 第1核酸鎖と第2核酸鎖とを含む核酸複合体であって、
該第1核酸鎖は、標的転写産物の少なくとも一部にハイブリダイズすることが可能な塩基配列を含み、
該第1核酸鎖は、標的転写産物に対してアンチセンス効果を有し、
該第2核酸鎖は、該第1核酸鎖に相補的な塩基配列を含む相補的領域と、該相補的領域の5'末端および/または3'末端側に位置する少なくとも1つのオーバーハング領域とを含み、
該第1核酸鎖は、該第2核酸鎖中の相補的領域にアニールしている、核酸複合体。
[2] 前記第2核酸鎖中のオーバーハング領域が、少なくとも9塩基長である、[1]に記載の核酸複合体。
[3] 前記第1核酸鎖が、13~20塩基長である、[1]または[2]に記載の核酸複合体。
[4] 前記第2核酸鎖が、30塩基長以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の核酸複合体。
[5] 前記第2核酸鎖中のオーバーハング領域の遊離末端から少なくとも1つのヌクレオシド間結合が、修飾ヌクレオシド間結合である、[1]~[4]のいずれかに記載の核酸複合体。
[6] 前記第2核酸鎖中のオーバーハング領域におけるヌクレオシド間結合の少なくとも50%が、修飾ヌクレオシド間結合である、[1]~[5]のいずれかに記載の核酸複合体。
[7] 前記修飾ヌクレオシド間結合が、ホスホロチオエート結合である、[5]または[6]に記載の核酸複合体。
[8] 前記第2核酸鎖中のオーバーハング領域の遊離末端から少なくとも1つのヌクレオシドが、修飾ヌクレオシドである、[1]~[7]のいずれかに記載の核酸複合体。
[9] 前記修飾ヌクレオシドが、二環式糖を含む、[8]に記載の核酸複合体。
[10] 前記第1核酸鎖が、BNA/DNAギャップマー、BNA/DNAミックスマーまたはBNA/RNAミックスマーである、[1]~[9]のいずれかに記載の核酸複合体。
[11] 前記第1核酸鎖が、ペプチド核酸および/またはモルホリノ核酸を含む、[1]~[10]のいずれかに記載の核酸複合体。
[12] 前記第1核酸鎖が、少なくとも1つの修飾ヌクレオシドを含み、該修飾ヌクレオシドは、2'-O-メチル基を含む糖を含む、[1]~[11]のいずれかに記載の核酸複合体。
[13] 前記第2核酸鎖が、標識機能、精製機能、および標的送達機能から選択される機能を有する機能性部分をさらに含む、[1]~[12]のいずれかに記載の核酸複合体。
[14] 前記第2核酸鎖中のオーバーハング領域が、治療用オリゴヌクレオチド領域ではない、[1]~[13]のいずれかに記載の核酸複合体。
[15] 前記第2核酸鎖中の相補的領域が、少なくとも2個の連続したリボヌクレオシドを含まない、[1]~[14]のいずれかに記載の核酸複合体。
[16] 前記第2核酸鎖中のオーバーハング領域が、二環式糖を含む修飾ヌクレオシドを含み、かつ9~12塩基長である、[1]~[15]のいずれかに記載の核酸複合体。
[17] 前記第2核酸鎖中のオーバーハング領域が、二環式糖を含む修飾ヌクレオシドを含まず、かつ9~17塩基長である、[1]~[15]のいずれかに記載の核酸複合体。
[18] [1]~[17]のいずれかに記載の核酸複合体と、薬学的に許容可能な担体とを含む、組成物。
[19] 静脈内投与、脳室内投与、髄腔内投与、筋肉内注射投与、持続点滴投与、腹腔内投与、吸入、皮膚貼付または皮下投与用である、[18]に記載の組成物。
【0009】
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2016-191548号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、アンチセンスオリゴヌクレオチドを生体内へ効率的に送達し、アンチセンス効果をもたらすことができる核酸鎖が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明に係る核酸複合体の特定の実施形態の例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、機能性部分(「X」)を含む核酸複合体の一部の実施形態の例を示す模式図である。
【
図3】
図3は、アンチセンス法の一般的な機構の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、様々な天然ヌクレオチドまたは非天然ヌクレオチドの構造を示す図である。
【
図5】
図5は、実施例1で用いた核酸の構造の模式図である。それぞれの核酸について、左から、核酸名、各オリゴヌクレオチド名、および構造が示される。
【
図6】
図6は、特定の実施形態に係る核酸複合体による標的遺伝子(ApoB)発現抑制効果を比較した、実施例1に記載される実験の結果を示すグラフである。「**」は、p<0.01を示す。「ns」は、陰性対照(PBSのみ)と比較して有意差がないことを示す。
【
図7】
図7は、実施例2で用いた核酸の構造の模式図である。それぞれの核酸について、左から、核酸名、各オリゴヌクレオチド名、および構造が示される。
【
図8】
図8は、特定の実施形態に係る核酸複合体による標的遺伝子(ApoB)発現抑制効果を比較した、実施例2に記載される実験の結果を示すグラフである。「**」は、p<0.01を示す。「ns」は、対照(ASO)と比較して有意差がないことを示す。
【
図9】
図9は、実施例3で用いた核酸の構造の模式図である。それぞれの核酸について、左から、核酸名、各オリゴヌクレオチド名、および構造が示される。
【
図10】
図10は、特定の実施形態に係る核酸複合体による標的遺伝子(ApoB)発現抑制効果を比較した、実施例3に記載される実験の結果を示すグラフである。「**」は、p<0.01を示す。
【
図11】
図11は、実施例4で用いた核酸の構造の模式図である。それぞれの核酸について、左から、核酸名、各オリゴヌクレオチド名、および構造が示される。
【
図12】
図12は、特定の実施形態に係る核酸複合体による(a)標的遺伝子(ApoB)発現抑制効果および(b)肝臓におけるアンチセンスオリゴヌクレオチド濃度を比較した、実施例4に記載される実験の結果を示すグラフである。「**」は、p<0.01を示す。「ns」は、有意差がないことを示す。
【
図13】
図13は、実施例5で用いた核酸の構造の模式図である。それぞれの核酸について、左から、核酸名、各オリゴヌクレオチド名、および構造が示される。
【
図14】
図14は、特定の実施形態に係る核酸複合体による(a)標的遺伝子(ApoB)発現抑制効果および(b)肝臓におけるアンチセンスオリゴヌクレオチド濃度を比較した、実施例5に記載される実験の結果を示すグラフである。「*」は、p<0.05、「**」は、p<0.01を示す。
【
図15】
図15は、実施例6で用いた核酸の構造の模式図である。それぞれの核酸について、左から、核酸名、各オリゴヌクレオチド名、および構造が示される。
【
図16】
図16は、特定の実施形態に係る核酸複合体による(a)標的遺伝子(ApoB)発現抑制効果および(b)肝臓におけるアンチセンスオリゴヌクレオチド濃度を比較した、実施例6に記載される実験の結果を示すグラフである。「**」は、p<0.01を示す。
【
図17】
図17は、実施例7で用いた核酸の構造の模式図である。それぞれの核酸について、左から、核酸名、各オリゴヌクレオチド名、および構造が示される。
【
図18】
図18は、特定の実施形態に係る核酸複合体による標的遺伝子(SRB1)発現抑制効果を比較した、実施例7に記載される実験の結果を示すグラフである。「**」は、p<0.01を示す。
【
図19】
図19は、実施例8で用いた核酸の構造の模式図である。それぞれの核酸について、左から、核酸名、各オリゴヌクレオチド名、および構造が示される。
【
図20】
図20は、特定の実施形態に係る核酸複合体による標的転写産物(MALAT1)レベル抑制効果を比較した、実施例8に記載される実験の結果を示すグラフである。「*」は、p<0.05、「**」は、p<0.01を示す。
【
図21】
図21は、実施例9で用いた核酸の構造の模式図である。それぞれの核酸について、左から、核酸名、各オリゴヌクレオチド名、および構造が示される。「†」は、アンチセンス効果を有する、同じ塩基配列のポリヌクレオチド領域を示す。
【
図22】
図22は、特定の実施形態に係る核酸複合体による標的転写産物(miR-122)レベル抑制効果を比較した、実施例9に記載される実験の結果を示すグラフである。「*」は、p<0.05、「**」は、p<0.01を示す。
【
図23】
図23は、実施例10に記載されるゲルシフトアッセイの結果を示す図である。
【
図24】
図24は、実施例11に記載される、蛍光相関分光法(fluorescence correlation spectroscopy、FCS)による、核酸剤に結合する血清タンパク質のサイズを評価する実験の結果を示すグラフである。
【
図25】
図25は、実施例12で用いた核酸の構造の模式図である。それぞれの核酸について、左から、核酸名、各オリゴヌクレオチド名、および構造が示される。「Toc」はトコフェロールを示す。
【
図26】
図26は、マウス1匹あたり6μmol(a)または12μmol(bおよびc)の投与量で脳室内投与した、特定の実施形態に係る核酸複合体による標的遺伝子(BACE1)発現抑制効果を比較した、実施例12に記載される実験の結果を示すグラフである。「*」は、p<0.05を示す。
【
図27】
図27は、実施例13で用いた核酸の構造の模式図である。それぞれの核酸について、左から、核酸名、各オリゴヌクレオチド名、および構造が示される。「†」は、アンチセンス効果を有する、同じ塩基配列のポリヌクレオチド領域を示す。
【
図28】
図28は、特定の実施形態に係る核酸複合体による標的遺伝子(PTEN)発現抑制効果を比較した、実施例13に記載される実験の結果を示すグラフである。「**」は、p<0.01を示す。
【
図29】
図29は、実施例14で用いた核酸の構造の模式図である。それぞれの核酸について、左から、核酸名、各オリゴヌクレオチド名、および構造が示される。
【
図30】
図30は、皮下投与した特定の実施形態に係る核酸複合体による標的遺伝子(ApoB)発現抑制効果を比較した、実施例14に記載される実験の結果を示すグラフである。「*」は、p<0.05を示す。
【
図31】
図31は、特定の実施形態に係る核酸複合体による標的遺伝子(PTEN)発現抑制効果を比較した、実施例15に記載される腎臓での実験の結果を示すグラフである。「**」は、p<0.01を示す。
【
図32】
図32は、特定の実施形態に係る核酸複合体による標的遺伝子(SRB1)発現抑制効果を比較した、実施例16に記載される実験の結果を示すグラフである。「**」は、p<0.01を示す。(a)副腎、(b)骨格筋および(c)肺における結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<核酸複合体>
本発明は、核酸複合体に関する。この核酸複合体は、第1核酸鎖と第2核酸鎖とを含む。本発明に係る核酸複合体において、第1核酸鎖は、標的転写産物の少なくとも一部にハイブリダイズすることが可能な塩基配列を含むヌクレオチド鎖である。第1核酸鎖は、標的遺伝子の転写産物または標的転写産物に対してアンチセンス効果を有するヌクレオチド鎖である。
【0013】
第2核酸鎖は、第1核酸鎖に相補的な塩基配列を含む相補的領域と、該相補的領域の5'末端および/または3'末端側に位置する少なくとも1つのオーバーハング領域とを含むヌクレオチド鎖である。「オーバーハング領域」とは、第1核酸鎖と第2核酸鎖がアニールして二重鎖構造を形成した場合、第2核酸鎖の5'末端が第1核酸鎖の3'末端を超えて伸長する、および/または第2核酸鎖の3'末端が第1核酸鎖の5'末端を超えて伸長する、つまり、二重鎖構造から突出する、第2核酸鎖中のヌクレオチド領域を指す。オーバーハング領域は、相補的領域に隣接する領域である。
【0014】
本発明に係る核酸複合体において、第1核酸鎖は、第2核酸鎖中の相補的領域にアニールしている。
【0015】
本発明に係る核酸複合体の代表的な模式図を
図1に示す。第2核酸鎖中のオーバーハング領域は、相補的領域の5'末端側に位置してもよく(
図1a)、3'末端側に位置してもよい(
図1b)。第2核酸鎖中のオーバーハング領域は、相補的領域の5'末端側および3'末端側に位置してもよい(
図1c)。オーバーハング領域は、相補的領域の5'末端側または3'末端側における1つの領域であってもよく、相補的領域の5'末端側および3'末端側における2つの領域であってもよい。
【0016】
「アンチセンス効果」とは、標的転写産物(RNAセンス鎖)の、例えばDNA鎖との、またはより一般的には転写産物等の部分配列に相補的な、アンチセンス効果を引き起こすように設計された鎖との、ハイブリダイゼーションの結果として生じる、標的遺伝子の発現または標的転写産物のレベルを抑制するまたは低下させることを意味する。特定の例においては、翻訳の阻害またはスプライシング機能改変効果、例えばエクソンスキッピングなどが、アンチセンスオリゴヌクレオチド(例えば第1核酸鎖)の転写産物へのハイブリダイゼーションによって引き起こされ得る(
図3中の点線で囲まれている領域の外側の上部の記載を参照)。あるいは、転写産物の分解が、ハイブリダイズされた部分の認識の結果として生じ得る(
図3中の点線で囲まれている領域内の記載を参照)。例えば、翻訳の阻害では、RNAを含むオリゴヌクレオチドがアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)として細胞に導入されると、ASOは、標的遺伝子の転写産物(mRNA)に結合し、部分的二本鎖が形成される。この二本鎖は、リボソームによる翻訳を妨げるためのカバーとしての役割を果たし、このため標的遺伝子によりコードされるタンパク質の発現が阻害される(
図3、上部)。一方、DNAを含むオリゴヌクレオチドがASOとして細胞に導入されると、部分的DNA-RNAヘテロ二本鎖が形成される。この構造がRNase Hによって認識され、その結果、標的遺伝子のmRNAが分解されるため、標的遺伝子によってコードされるタンパク質の発現が阻害される(
図3、下部)。これは、RNase H依存性経路と称される。さらに、特定の例において、アンチセンス効果は、プレ-mRNAのイントロンを標的化することによってもたらされ得る。アンチセンス効果はまた、miRNAを標的化することによってもたらされてもよく、この場合、当該miRNAの機能は阻害され、当該miRNAが通常発現を制御している遺伝子の発現は増加し得る。
【0017】
「アンチセンスオリゴヌクレオチド」または「アンチセンス核酸」は、標的遺伝子の転写産物または標的転写産物の少なくとも一部にハイブリダイズすることが可能な(すなわち、相補的な)塩基配列を含み、主にアンチセンス効果により標的遺伝子の転写産物の発現または標的転写産物のレベルを抑制し得る、一本鎖オリゴヌクレオチドを指す。
【0018】
アンチセンス効果によってその発現が抑制され、変更され、あるいは改変される「標的遺伝子」または「標的転写産物」は特に限定されないが、例えば、本発明に係る核酸複合体を導入する生物由来の遺伝子、例えば、様々な疾患においてその発現が増加する遺伝子が挙げられる。また、「標的遺伝子の転写産物」は、標的遺伝子をコードするゲノムDNAから転写されるmRNAであり、さらにまた、塩基修飾を受けていないmRNA、プロセシングされていないmRNA前駆体などを含む。「標的転写産物」は、mRNAだけでなく、miRNAなどのノンコーディングRNA(non-coding RNA、ncRNA)も含み得る。さらに一般的には、「転写産物」は、DNA依存性RNAポリメラーゼによって合成される任意のRNAであってよい。一実施形態では、「標的転写産物」は、例えば、アポリポタンパク質B(Apolipoprotein B、ApoB) mRNA、スカベンジャー受容体B1(scavenger receptor B1、SRB1) mRNA、転移関連肺腺癌転写産物1(metastasis associated lung adenocarcinoma transcript 1、MALAT1)ノンコーディングRNA、マイクロRNA-122(miR-122)、β-セクレターゼ1(beta-secretase 1、BACE1) mRNA、またはPTEN(Phosphatase and Tensin Homolog Deleted from Chromosome 10) mRNAであってもよい。マウスおよびヒトApoB mRNAの塩基配列を、それぞれ配列番号1および52に示す(但し、mRNAの塩基配列をDNAの塩基配列として示す)。マウスおよびヒトSRB1 mRNAの塩基配列を、配列番号2および53に示す(但し、mRNAの塩基配列をDNAの塩基配列として示す)。マウスおよびヒトMALAT1ノンコーディングRNAの塩基配列を、それぞれ配列番号3および54に示す(但し、RNAの塩基配列をDNAの塩基配列として示す)。マウスmiR-122の塩基配列を、配列番号4に示す。ヒトmiR-122の塩基配列は、マウスのものと同じである。マウスおよびヒトBACE1 mRNAの塩基配列を、それぞれ配列番号5および55に示す(但し、mRNAの塩基配列をDNAの塩基配列として示す)。マウスおよびヒトPTEN mRNAの塩基配列を、それぞれ配列番号6および56に示す(但し、mRNAの塩基配列をDNAの塩基配列として示す)。遺伝子および転写産物の塩基配列は、例えばNCBI(米国国立生物工学情報センター)データベースなどの公知のデータベースから入手できる。マイクロRNAの塩基配列は、例えばmiRBaseデータベース(Kozomara A, Griffiths-Jones S. NAR 2014 42:D68-D73;Kozomara A, Griffiths-Jones S. NAR 2011 39:D152-D157;Griffiths-Jones S, Saini HK, van Dongen S, Enright AJ. NAR 2008 36:D154-D158;Griffiths-Jones S, Grocock RJ, van Dongen S, Bateman A, Enright AJ. NAR 2006 34:D140-D144;Griffiths-Jones S. NAR 2004 32:D109-D111)から入手できる。
【0019】
第1核酸鎖は、標的転写産物の少なくとも一部(例えば、任意の標的領域)にハイブリダイズし得る塩基配列を含む。標的領域は、3'UTR、5'UTR、エキソン、イントロン、コード領域、翻訳開始領域、翻訳終結領域または他の核酸領域を含んでよい。標的転写産物の標的領域は、例えばマウスApoB mRNAの場合は配列番号1の10136~10148位、マウスSRB1 mRNAの場合は配列番号2の2479~2491位、マウスMALAT1ノンコーディングRNAの場合は配列番号3の1316~1331位、miR-122の場合は配列番号4の2~16位、マウスBACE1 mRNAの場合は配列番号5の1569~1581位、マウスPTEN mRNAの場合は配列番号6の59~74位の塩基配列を含んでもよい。
【0020】
本明細書中で使用される用語「核酸」は、モノマーのヌクレオチドまたはヌクレオシドを指してもよいし、複数のモノマーからなるオリゴヌクレオチドを意味してもよい。用語「核酸鎖」または「鎖」もまた、本明細書中でオリゴヌクレオチドを指すために使用される。核酸鎖は、化学的合成法により(例えば自動合成装置を使用して)、または酵素的工程(例えば、限定するものではないが、ポリメラーゼ、リガーゼ、または制限反応)により、全体的にまたは部分的に作製することができる。
【0021】
本明細書中で使用される用語「核酸塩基」または「塩基」とは、別の核酸の塩基と対合可能な複素環部分を意味する。
【0022】
本明細書中で使用される用語「精製または単離された核酸複合体」は、天然には生じない核酸鎖を少なくとも1つ含むか、または天然の核酸物質を本質的に含まない核酸複合体を意味する。
【0023】
本明細書中で使用される用語「相補的」は、水素結合を介して、いわゆるワトソン-クリック塩基対(天然型塩基対)または非ワトソン-クリック塩基対(フーグスティーン型塩基対など)が形成され得る関係を意味する。本発明において、第1核酸鎖は、標的転写産物(例えば、標的遺伝子の転写産物)の少なくとも一部と完全に相補的であることは必ずしも必要ではなく、塩基配列が少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%(例えば、95%、96%、97%、98%、または99%以上)の相補性を有していれば許容される。同様に、第1核酸鎖は、第2核酸鎖中の相補的領域と完全に相補的であることは必ずしも必要ではなく、塩基配列が少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%(例えば、95%、96%、97%、98%、または99%以上)の相補性を有していれば許容される。配列の相補性は、BLASTプログラムなどを使用することによって決定することができる。第1核酸鎖は、配列が相補的である場合に(典型的には、配列が標的転写産物の少なくとも一部の配列に相補的である場合に)、標的転写産物に「ハイブリダイズする」ことができる。第1核酸鎖は、配列が相補的である場合に、第2核酸鎖の相補的領域に「アニールする」ことができる。当業者であれば、鎖間の相補度を考慮して、2本の鎖がアニールまたはハイブリダイズし得る条件(温度、塩濃度等)を容易に決定することができる。このような条件は、典型的には、生理的条件であってよい。またさらに、当業者であれば、例えば標的遺伝子の塩基配列の情報に基づいて、標的転写産物に相補的なアンチセンス核酸を容易に設計することができる。
【0024】
ハイブリダイゼーション条件は、例えば、低ストリンジェントな条件及び高ストリンジェントな条件などのストリンジェントな条件であってもよい。低ストリンジェントな条件は、例えば、30℃、2×SSC、0.1%SDSであってよい。高ストリンジェントな条件は、例えば、65℃、0.1×SSC、0.1%SDSであってよい。温度及び塩濃度などの条件を変えることによって、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを調整できる。ここで、1×SSCは、150mM塩化ナトリウム及び15mMクエン酸ナトリウムを含む。
【0025】
一実施形態では、第2核酸鎖中のオーバーハング領域は、第1核酸鎖にハイブリダイズできない塩基配列を有する。オーバーハング領域は、第1核酸鎖の塩基配列と50%以下、40%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下または0%の相補性を有する塩基配列を含んでよい。
【0026】
一実施形態では、第2核酸鎖中のオーバーハング領域は、治療用オリゴヌクレオチド領域ではない。治療用オリゴヌクレオチドとしては、例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド、マイクロRNA阻害薬(antimiR)、スプライススイッチングオリゴヌクレオチド、一本鎖siRNA、マイクロRNA、プレ-マイクロRNAなどが挙げられる。好ましい一実施形態では、第2核酸鎖中のオーバーハング領域は、細胞内の転写産物に実質的にハイブリダイズする能力を持たず、遺伝子発現には影響を及ぼさない。
【0027】
オーバーハング領域の塩基配列は、例えば、配列番号7~9のいずれかに示される塩基配列、その5'末端側の連続した部分配列(例えば、少なくとも9塩基長、少なくとも11塩基長または少なくとも13塩基長の部分配列)またはそれらの塩基配列において少なくとも一部のTがUに置換された塩基配列、に少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%または100%の同一性を有する塩基配列を含んでもよい。オーバーハング領域は、上記の塩基配列を含む、天然ヌクレオチドおよび/または非天然ヌクレオチドを含んでよい。
【0028】
本発明に係る核酸複合体は、オーバーハング領域に相補的な第3の核酸鎖を含む必要はない。好ましくは、オーバーハング領域は、一本鎖領域である。
【0029】
第1核酸鎖、および第2核酸鎖中の相補的領域は、通常、少なくとも8塩基長、少なくとも9塩基長、少なくとも10塩基長、少なくとも11塩基長、少なくとも12塩基長、少なくとも13塩基長、少なくとも14塩基長または少なくとも15塩基長であってよいが、特に限定されない。第1核酸鎖、および第2核酸鎖中の相補的領域は、35塩基長以下、30塩基長以下、25塩基長以下、24塩基長以下、23塩基長以下、22塩基長以下、21塩基長以下、20塩基長以下、19塩基長以下、18塩基長以下、17塩基長以下または16塩基長以下であってよい。第1核酸鎖、および第2核酸鎖中の相補的領域は、約100塩基長もの長さであってもよいし、または、10~35塩基長、12~25塩基長、13~20塩基長、14~19塩基長、もしくは15~18塩基長であってもよい。第1核酸鎖と、第2核酸鎖中の相補的領域は、同じ長さであっても、異なる長さ(例えば、1~3塩基異なる長さ)であってもよい。第1核酸鎖と、第2核酸鎖中の相補的領域とが形成する二重鎖構造は、バルジを含んでいてもよい。特定の例において、長さの選択は、一般的に、例えば費用、合成収率などの他の因子の中でも特に、アンチセンス効果の強度と標的に対する核酸鎖の特異性とのバランスによって決まる。
【0030】
第2核酸鎖中のオーバーハング領域は、少なくとも9塩基長、少なくとも10塩基長、少なくとも11塩基長、少なくとも12塩基長、または少なくとも13塩基長であってよいが、特に限定されない。オーバーハング領域は、30塩基長以下、29塩基長以下、28塩基長以下、27塩基長以下、26塩基長以下、25塩基長以下、24塩基長以下、23塩基長以下、22塩基長以下、21塩基長以下、20塩基長以下、19塩基長以下、18塩基長以下、17塩基長以下、16塩基長以下、15塩基長以下または14塩基長以下であってもよい。オーバーハング領域は、例えば、9~20塩基長、9~18塩基長、9~17塩基長、9~12塩基長、11~15塩基長であってよい。2つのオーバーハング領域がある場合、オーバーハング領域の長さは互いに同じでも、異なってもよい。
【0031】
第2核酸鎖(相補的領域およびオーバーハング領域を含む)は、特に限定されないが、40塩基長以下、35塩基長以下、30塩基長以下、28塩基長以下、26塩基長以下、24塩基長以下または22塩基長以下であってよい。第2核酸鎖(相補的領域およびオーバーハング領域を含む)は、少なくとも18塩基長、少なくとも20塩基長、少なくとも22塩基長、または少なくとも24塩基長であってもよい。
【0032】
一般に、「ヌクレオシド」は、塩基および糖の組み合わせである。ヌクレオシドの核酸塩基(塩基としても知られる)部分は、通常は、複素環式塩基部分である。「ヌクレオチド」は、ヌクレオシドの糖部分に共有結合したリン酸基をさらに含む。ペントフラノシル糖を含むヌクレオシドでは、リン酸基は、糖の2'、3'、または5'ヒドロキシル部分に連結可能である。オリゴヌクレオチドは、互いに隣接するヌクレオシドの共有結合によって形成され、直鎖ポリマーオリゴヌクレオチドを形成する。オリゴヌクレオチド構造の内部で、リン酸基は、一般に、オリゴヌクレオチドのヌクレオシド間結合を形成するとみなされている。
【0033】
本発明において、核酸鎖は、天然ヌクレオチドおよび/または非天然ヌクレオチドを含み得る。本明細書において「天然ヌクレオチド」は、DNA中に見られるデオキシリボヌクレオチドおよびRNA中に見られるリボヌクレオチドを含む。本明細書において、「デオキシリボヌクレオチド」および「リボヌクレオチド」は、それぞれ、「DNAヌクレオチド」および「RNAヌクレオチド」と称することもある。
【0034】
同様に、本明細書において「天然ヌクレオシド」は、DNA中に見られるデオキシリボヌクレオシドおよびRNA中に見られるリボヌクレオシドを含む。本明細書において、「デオキシリボヌクレオシド」および「リボヌクレオシド」は、それぞれ、「DNAヌクレオシド」および「RNAヌクレオシド」と称することもある。
【0035】
「非天然ヌクレオチド」は、天然ヌクレオチド以外の任意のヌクレオチドを指し、修飾ヌクレオチドおよびヌクレオチド模倣体を含む。同様に、本明細書において「非天然ヌクレオシド」は、天然ヌクレオシド以外の任意のヌクレオシドを指し、修飾ヌクレオシドおよびヌクレオシド模倣体を含む。本明細書において「修飾ヌクレオチド」とは、修飾糖部分、修飾ヌクレオシド間結合、および修飾核酸塩基のいずれか1つ以上を有するヌクレオチドを意味する。本明細書において「修飾ヌクレオシド」とは、修飾糖部分および/または修飾核酸塩基を有するヌクレオシドを意味する。非天然オリゴヌクレオチドを含む核酸鎖は、多くの場合、例えば、細胞取り込みの強化、核酸標的への親和性の強化、ヌクレアーゼ存在下での安定性の増加、または阻害活性の増加等の望ましい特性により、天然型よりも好ましい。
【0036】
本明細書において「修飾ヌクレオシド間結合」とは、天然に存在するヌクレオシド間結合(すなわち、ホスホジエステル結合)からの置換または任意の変化を有するヌクレオシド間結合を指す。修飾ヌクレオシド間結合には、リン原子を含むヌクレオシド間結合、およびリン原子を含まないヌクレオシド間結合が含まれる。代表的なリン含有ヌクレオシド間結合としては、ホスホジエステル結合、ホスホロチオエート結合、ホスホロジチオエート結合、ホスホトリエステル結合、メチルホスホネート結合、メチルチオホスホネート結合、ボラノホスフェート結合、およびホスホロアミデート結合が挙げられるが、これらに限定されない。ホスホロチオエート結合は、ホスホジエステル結合の非架橋酸素原子を硫黄原子に置換したヌクレオシド間結合を指す。リン含有および非リン含有結合の調製方法は周知である。修飾ヌクレオシド間結合は、ヌクレアーゼ耐性が天然に存在するヌクレオシド間結合よりも高い結合であることが好ましい。
【0037】
本明細書において「修飾核酸塩基」または「修飾塩基」とは、アデニン、シトシン、グアニン、チミン、またはウラシル以外のあらゆる核酸塩基を意味する。「非修飾核酸塩基」または「非修飾塩基」(天然核酸塩基)とは、プリン塩基であるアデニン(A)およびグアニン(G)、ならびにピリミジン塩基であるチミン(T)、シトシン(C)、およびウラシル(U)を意味する。修飾核酸塩基の例としては、5-メチルシトシン、5-フルオロシトシン、5-ブロモシトシン、5-ヨードシトシンまたはN4-メチルシトシン; N6-メチルアデニンまたは8-ブロモアデニン;ならびにN2-メチルグアニンまたは8-ブロモグアニンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
本明細書において「修飾糖」とは、天然糖部分(すなわち、DNA(2'-H)またはRNA(2'-OH)中に認められる糖部分)からの置換および/または任意の変化を有する糖を指す。本明細書において、核酸鎖は、場合により、修飾糖を含む1つ以上の修飾ヌクレオシドを含んでもよい。かかる糖修飾ヌクレオシドは、ヌクレアーゼ安定性の強化、結合親和性の増加、または他の何らかの有益な生物学的特性を核酸鎖に付与し得る。特定の実施形態では、ヌクレオシドは、化学修飾リボフラノース環部分を含む。化学修飾リボフラノース環の例としては、限定するものではないが、置換基(5'および2'置換基を含む)の付加、非ジェミナル環原子の架橋形成による二環式核酸(架橋核酸、BNA)の形成、リボシル環酸素原子のS、N(R)、またはC(R1)(R2)(R、R1およびR2は、それぞれ独立して、H、C1-C12アルキル、または保護基を表す)での置換、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0039】
本明細書において、修飾糖部分を有するヌクレオシドの例としては、限定するものではないが、5'-ビニル、5'-メチル(RまたはS)、4'-S、2'-F(2'-フルオロ基)、2'-OCH3(2'-O-Me基もしくは2'-O-メチル基)、および2'-O(CH2)2OCH3置換基を含むヌクレオシドが挙げられる。2'位の置換基はまた、アリル、アミノ、アジド、チオ、-O-アリル、-O-C1-C10アルキル、-OCF3、-O(CH2)2SCH3、-O(CH2)2-O-N(Rm)(Rn)、および-O-CH2-C(=O)-N(Rm)(Rn)から選択することができ、各RmおよびRnは、独立して、Hまたは置換もしくは非置換C1-C10アルキルである。本明細書において「2'-修飾糖」は、2'位で修飾されたフラノシル糖を意味する。
【0040】
本明細書で使用する際、「二環式ヌクレオシド」は、二環式糖部分を含む修飾ヌクレオシドを指す。二環式糖部分を含む核酸は、一般に架橋核酸(bridged nucleic acid、BNA)と称される。本明細書において、二環式糖部分を含むヌクレオシドは、「架橋ヌクレオシド」と称することもある。
【0041】
二環式糖は、2'位の炭素原子および4'位の炭素原子が2つ以上の原子によって架橋されている糖であってよい。二環式糖の例は当業者に公知である。二環式糖を含む核酸(BNA)の1つのサブグループは、4'-(CH2)p-O-2'、4'-(CH2)p-CH2-2'、4'-(CH2)p-S-2'、4'-(CH2)p-OCO-2'、4'-(CH2)n-N(R3)-O-(CH2)m-2'[式中、p、mおよびnは、それぞれ1~4の整数、0~2の整数、および1~3の整数を表し;またR3は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、スルホニル基、およびユニット置換基(蛍光もしくは化学発光標識分子、核酸切断活性を有する機能性基、細胞内または核内局在化シグナルペプチド等)を表す]により架橋された2'位の炭素原子と4'位の炭素原子を有すると説明することができる。さらに、特定の実施形態によるBNAに関し、3'位の炭素原子上のOR2置換基および5'位の炭素原子上のOR1置換基において、R1およびR2は、典型的には水素原子であるが、互いに同一であっても異なっていてもよく、さらにまた、核酸合成のためのヒドロキシル基の保護基、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、スルホニル基、シリル基、リン酸基、核酸合成のための保護基によって保護されているリン酸基、または-P(R4)R5[ここで、R4およびR5は、互いに同一であっても異なっていてもよく、それぞれヒドロキシル基、核酸合成のための保護基によって保護されているヒドロキシル基、メルカプト基、核酸合成のための保護基によって保護されているメルカプト基、アミノ基、1~5個の炭素原子を有するアルコキシ基、1~5個の炭素原子を有するアルキルチオ基、1~6個の炭素原子を有するシアノアルコキシ基、または1~5個の炭素原子を有するアルキル基で置換されているアミノ基を表す]であってもよい。このようなBNAの非限定的な例としては、メチレンオキシ(4'-CH2-O-2')BNA(LNA(Locked Nucleic Acid(登録商標))、2',4'-BNAとしても知られている)、例えば、α-L-メチレンオキシ(4'-CH2-O-2')BNAもしくはβ-D-メチレンオキシ(4'-CH2-O-2')BNA、エチレンオキシ(4'-(CH2)2-O-2')BNA(ENAとしても知られている)、β-D-チオ(4'-CH2-S-2')BNA、アミノオキシ(4'-CH2-O-N(R3)-2')BNA、オキシアミノ(4'-CH2-N(R3)-O-2')BNA(2',4'-BNANCとしても知られている)、2',4'-BNAcoc、3'-アミノ-2',4'-BNA、5'-メチルBNA、(4'-CH(CH3)-O-2')BNA(cEt BNAとしても知られている)、(4'-CH(CH2OCH3)-O-2')BNA(cMOE BNAとしても知られている)、アミドBNA(4'-C(O)-N(R)-2')BNA(R=H、Me)(AmNAとしても知られている)、および当業者に公知の他のBNAが挙げられる。
【0042】
本明細書において、メチレンオキシ(4'-CH2-O-2')架橋を有する二環式ヌクレオシドを、LNAヌクレオシドと称することもある。
【0043】
修飾糖の調製方法は、当業者に周知である。修飾糖部分を有するヌクレオチドにおいて、核酸塩基部分(天然、修飾、またはそれらの組み合わせ)は、適切な核酸標的とのハイブリダイゼーションのために維持されてよい。
【0044】
本明細書において「ヌクレオシド模倣体」は、オリゴマー化合物の1つ以上の位置において糖または糖および塩基、ならびに必ずではないが結合を置換するために使用される構造体を含む。「オリゴマー化合物」とは、核酸分子の少なくともある領域にハイブリダイズ可能な連結したモノマーサブユニットのポリマーを意味する。ヌクレオシド模倣体としては、例えば、モルホリノ、シクロヘキセニル、シクロヘキシル、テトラヒドロピラニル、二環式または三環式糖模倣体、例えば、非フラノース糖単位を有するヌクレオシド模倣体が挙げられる。「ヌクレオチド模倣体」は、オリゴマー化合物の1つ以上の位置において、ヌクレオシドおよび結合を置換するために使用される構造体を含む。ヌクレオチド模倣体としては、例えば、ペプチド核酸またはモルホリノ核酸(-N(H)-C(=O)-O-または他の非ホスホジエステル結合によって結合されるモルホリノ)が挙げられる。ペプチド核酸(Peptide Nucleic Acid、PNA)は、糖の代わりにN-(2-アミノエチル)グリシンがアミド結合で結合した主鎖を有するヌクレオチド模倣体である。モルホリノ核酸の構造の一例は、
図4に示される。「模倣体」とは、糖、核酸塩基、および/またはヌクレオシド間結合を置換する基を指す。一般に、模倣体は、糖または糖-ヌクレオシド間結合の組み合わせの代わりに使用され、核酸塩基は、選択される標的に対するハイブリダイゼーションのために維持される。
【0045】
一般的には、修飾は、同一鎖中のヌクレオチドが独立して異なる修飾を受けることができるように実施することができる。また、酵素的切断に対する抵抗性を与えるため、同一のヌクレオチドが、修飾ヌクレオシド間結合(例えば、ホスホロチオエート結合)を有し、さらに、修飾糖(例えば、2'-O-メチル修飾糖または二環式糖)を有することができる。同一のヌクレオチドはまた、修飾核酸塩基(例えば、5-メチルシトシン)を有し、さらに、修飾糖(例えば、2'-O-メチル修飾糖または二環式糖)を有することができる。
【0046】
核酸鎖における非天然ヌクレオチドの数、種類および位置は、本発明の核酸複合体によって提供されるアンチセンス効果などに影響を及ぼし得る。修飾の選択は、標的遺伝子などの配列によって異なり得るが、当業者であれば、アンチセンス法に関連する文献(例えば、WO 2007/143315、WO 2008/043753、およびWO 2008/049085)の説明を参照することによって好適な実施形態を決定することができる。さらに、修飾後の核酸複合体が有するアンチセンス効果が測定される場合、このようにして得られた測定値が修飾前の核酸複合体の測定値と比較して有意に低くない場合(例えば、修飾後に得られた測定値が、修飾前の核酸複合体の測定値の70%以上、80%以上または90%以上である場合)、関連修飾を評価することができる。
【0047】
アンチセンス効果の測定は、被験核酸化合物を細胞または被験体(例えばマウス)などに導入し、さらにノーザンブロッティング、定量PCR、およびウェスタンブロッティングなどの公知技術を適切に使用することにより、被験候補核酸複合体によって提供されるアンチセンス効果により発現が抑制されている細胞内の標的遺伝子の発現量または標的転写産物のレベル(例えば、mRNA量もしくはマイクロRNAなどのRNA量、cDNA量、タンパク質量など)を測定することによって、例えば以下の実施例に示されるように、実施することができる。アンチセンス効果の測定は、被験体の標的臓器(例えば肝臓または脳)における標的遺伝子の発現量または標的転写産物のレベルを測定することによって、行ってもよい。
【0048】
測定された標的遺伝子の発現量または標的転写産物のレベルが、陰性対照(例えばビヒクル投与または無処置)と比較して、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%または少なくとも50%減少している場合に、被験核酸化合物がアンチセンス効果をもたらし得ることが示される。一実施形態では、本発明に係る核酸複合体は、第1核酸鎖のみより高い(例えば2倍以上高い)アンチセンス効果を有し得る。
【0049】
生体内への核酸の送達能の判定は、被験核酸化合物を被験体(例えばマウス)に投与し、例えば数日後(例えば2~5日後)に、ノーザンブロッティングおよび定量PCRなどの公知技術を適切に使用することにより、被験候補核酸複合体の生体内(例えば肝臓または脳などの標的臓器)における量(濃度)を測定することによって、実施できる。一実施形態では、本発明に係る核酸複合体は、第1核酸鎖のみより、生体内への送達能が高い。投与された核酸複合体の生体内における量(濃度)は、第1核酸鎖のみを投与した場合と比較して、例えば、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、または少なくとも60%増加し得る。
【0050】
第1核酸鎖におけるヌクレオシド間結合は、天然に存在するヌクレオシド間結合および/または修飾ヌクレオシド間結合であってよい。一実施形態では、第1核酸鎖のヌクレオシド間結合の少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または100%は、修飾ヌクレオシド間結合であってよい。修飾ヌクレオシド間結合は、ホスホロチオエート結合であってよい。
【0051】
第1核酸鎖におけるヌクレオシドは、天然ヌクレオシド(デオキシリボヌクレオシド、リボヌクレオシド、または両者)および/または非天然ヌクレオシドであってよい。
【0052】
第1核酸鎖のヌクレオシド組成の1つの実施形態はギャップマー(gapmer)である。本明細書において「ギャップマー」とは、少なくとも4個の連続デオキシリボヌクレオシドを含む中央領域(DNAギャップ領域)と、その5'末端側および3'末端側に配置された非天然ヌクレオシドを含む領域(5'ウイング領域および3'ウイング領域)からなる核酸鎖を指す。非天然ヌクレオシドが架橋ヌクレオシドであるギャップマーを、BNA/DNAギャップマーと称する。5'ウイング領域および3'ウイング領域の長さは、独立して、通常、1~10塩基長、1~7塩基長、または2~5塩基長であってよい。5'ウイング領域および3'ウイング領域は、非天然ヌクレオシドを少なくとも1種含んでいればよく、天然ヌクレオシドをさらに含んでいてもよい。第1核酸鎖は、2もしくは3個の架橋ヌクレオシドを含む5'ウイング領域、2もしくは3個の架橋ヌクレオシドを含む3'ウイング領域、およびそれらの間のDNAギャップ領域を含むBNA/DNAギャップマーであってもよい。架橋ヌクレオシドは、修飾核酸塩基(例えば、5-メチルシトシン)を含んでもよい。ギャップマーは、架橋ヌクレオシドがLNAヌクレオシドであるLNA/DNAギャップマーであってもよい。
【0053】
第1核酸鎖のヌクレオシド組成の1つの実施形態はミックスマー(mixmer)である。本明細書において「ミックスマー」とは、周期的または無作為セグメント長の交互型の天然ヌクレオシド(デオキシリボヌクレオシドおよび/またはリボヌクレオシド)ならびに非天然ヌクレオシドを含み、かつ、4個以上の連続デオキシリボヌクレオシドおよび4個以上の連続リボヌクレオシドを有さない核酸鎖を指す。非天然ヌクレオシドが架橋ヌクレオシドであり、天然ヌクレオシドがデオキシリボヌクレオシドであるミックスマーを、BNA/DNAミックスマーと称する。非天然ヌクレオシドが架橋ヌクレオシドであり、天然ヌクレオシドがリボヌクレオシドであるミックスマーを、BNA/RNAミックスマーと称する。ミックスマーは、必ずしも2種のヌクレオシドだけを含むように制限される必要はない。ミックスマーは、天然もしくは修飾のヌクレオシドまたはヌクレオシド模倣体であるか否かに関わらず、任意の数の種のヌクレオシドを含み得る。例えば、ミックスマーは、架橋ヌクレオシド(例えば、LNAヌクレオシド)により分離された1または2個の連続したデオキシリボヌクレオシドを有してもよい。架橋ヌクレオシドは、修飾核酸塩基(例えば、5-メチルシトシン)を含んでもよい。
【0054】
第1核酸鎖は、全体的または部分的にヌクレオシド模倣体またはヌクレオチド模倣体を含んでもよい。ヌクレオチド模倣体は、ペプチド核酸および/またはモルホリノ核酸であってもよい。第1核酸鎖は、少なくとも1つの修飾ヌクレオシドを含んでもよい。修飾ヌクレオシドは、2'-修飾糖を含んでよい。2'-修飾糖は、2'-O-メチル基を含む糖であってもよい。
【0055】
第2核酸鎖におけるヌクレオシド間結合は、天然に存在するヌクレオシド間結合および/または修飾ヌクレオシド間結合であってよい。
【0056】
一実施形態では、第2核酸鎖中のオーバーハング領域の遊離末端から少なくとも1つ(例えば、少なくとも2つまたは少なくとも3つ)のヌクレオシド間結合は、修飾ヌクレオシド間結合であってもよい。本明細書において、「オーバーハング領域の遊離末端」とは、相補的領域に結合していない、オーバーハング領域の末端を指す。例えば、
図1aに示されるように相補的領域の5'末端側にオーバーハング領域が位置する実施形態では、「オーバーハング領域の遊離末端」は、第2核酸鎖の5'末端を指す。
図1bに示されるように相補的領域の3'末端側にオーバーハング領域が位置する実施形態では、「オーバーハング領域の遊離末端」は、第2核酸鎖の3'末端を指す。
図1cに示されるように相補的領域の5'末端側および3'末端側の両方にオーバーハング領域が位置する実施形態では、「オーバーハング領域の遊離末端」は、第2核酸鎖の両端(5'末端および3'末端)を指す。例えば、第2核酸鎖中のオーバーハング領域の遊離末端から2つのヌクレオシド間結合は、第2核酸鎖中のオーバーハング領域の遊離末端に最も近接するヌクレオシド間結合と、これに隣接する、遊離末端とは反対方向に位置するヌクレオシド間結合とを指す。このような末端における修飾ヌクレオシド間結合は、オーバーハング領域の望ましくない分解を阻止することができるために、好ましい。修飾ヌクレオシド間結合は、ホスホロチオエート結合であってよい。
【0057】
一実施形態では、第2核酸鎖中のオーバーハング領域におけるヌクレオシド間結合の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%(例えば、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%)、または好ましくは100%が、修飾ヌクレオシド間結合であってもよい。第2核酸鎖中のオーバーハング領域におけるヌクレオシド間結合は、オーバーハング領域を構成するヌクレオシド間の結合を指し、第2核酸鎖中のオーバーハング領域と相補的領域との間のヌクレオシド間結合を含まない。例えば、オーバーハング領域が10個のヌクレオシドからなる場合、当該領域におけるヌクレオシド間結合の数は9個である。しかしながら、オーバーハング領域と相補的領域との間のヌクレオシド間結合は、修飾ヌクレオシド間結合であってもよく、または天然ヌクレオシド間結合であってもよい。修飾ヌクレオシド間結合は、ホスホロチオエート結合であってよい。
【0058】
一実施形態では、第2核酸鎖中の相補的領域の遊離末端から少なくとも1つ(例えば、少なくとも2つまたは少なくとも3つ)のヌクレオシド間結合は、修飾ヌクレオシド間結合であってもよい。「相補的領域の遊離末端」とは、オーバーハング領域に結合していない、相補的領域の末端を指す。例えば、
図1aに示されるように相補的領域の5'末端側にオーバーハング領域が位置する実施形態では、「相補的領域の遊離末端」は、第2核酸鎖の3'末端を指す。
図1bに示されるように相補的領域の3'末端側にオーバーハング領域が位置する実施形態では、「相補的領域の遊離末端」は、第2核酸鎖の5'末端を指す。
図1cに示されるように相補的領域の5'末端側および3'末端側の両方にオーバーハング領域が位置する実施形態では、「相補的領域の遊離末端」は、存在しない。修飾ヌクレオシド間結合は、ホスホロチオエート結合であってよい。
【0059】
好ましい実施形態では、第2核酸鎖中のオーバーハング領域における全てのヌクレオシド間結合は、修飾ヌクレオシド間結合であり、かつ、相補的領域の遊離末端から少なくとも2つのヌクレオシド間結合は、修飾ヌクレオシド間結合である。第2核酸鎖の全てのヌクレオシド間結合は、修飾ヌクレオシド間結合であってもよい。修飾ヌクレオシド間結合は、ホスホロチオエート結合であってよい。
【0060】
第2核酸鎖におけるヌクレオシドは、天然ヌクレオシド(デオキシリボヌクレオシド、リボヌクレオシド、または両者)および/または非天然ヌクレオシドであってよい。
【0061】
第2核酸鎖中のオーバーハング領域は、天然ヌクレオシド(デオキシリボヌクレオシド、リボヌクレオシド、または両者)および/または非天然ヌクレオシドを含み得る。一実施形態では、オーバーハング領域のヌクレオシドは、デオキシリボヌクレオシドを含んでよく、またはデオキシリボヌクレオシドからなってよい。別の実施形態では、オーバーハング領域の遊離末端から少なくとも1つ(例えば、少なくとも2つまたは少なくとも3つ、具体的には1~3個)のヌクレオシドは、修飾ヌクレオシドであってもよい。さらに、オーバーハング領域の結合末端から少なくとも1つ(例えば、少なくとも2つまたは少なくとも3つ、具体的には1~3個)のヌクレオシドは、修飾ヌクレオシドであってもよい。本明細書において、「オーバーハング領域の結合末端」とは、相補的領域に結合している、オーバーハング領域の末端を指す。修飾ヌクレオシドは、修飾糖および/または修飾核酸塩基を含んでよい。修飾糖は、二環式糖(例えば、4'-CH2-O-2'基を含む糖)であってよい。修飾核酸塩基は、5-メチルシトシンであってよい。一実施形態では、オーバーハング領域の遊離末端から少なくとも2つのヌクレオシドは、修飾ヌクレオシド(例えば、二環式糖、例えば、4'-CH2-O-2'基を含む糖を含むヌクレオシド)であり得る。オーバーハング領域に二環式糖が含まれる場合は、オーバーハング領域の鎖長は、例えば、9~12塩基であり得る。また、一実施形態では、オーバーハング領域のヌクレオシドは、二環式糖を含まないものとされ得る。他の一実施形態では、オーバーハング領域のヌクレオシドは、修飾ヌクレオシドを含まず、天然のデオキシリボヌクレオシドおよび/またはリボヌクレオシドから成り得る。天然のデオキシリボヌクレオシドおよび/またはリボヌクレオシドの使用は、合成コストの面で有利となり得る。また、天然のデオキシリボヌクレオシドおよび/またはリボヌクレオシドの使用は、望ましくない転写産物とのハイブリダイゼーションを避ける上でも有利となり得る。オーバーハング領域に二環式糖が含まれない場合は、オーバーハング領域の鎖長は、例えば、9~17塩基であり得る。
【0062】
第2核酸鎖中の相補的領域は、天然ヌクレオシド(デオキシリボヌクレオシド、リボヌクレオシド、または両者)および/または非天然ヌクレオシドを含み得る。一実施形態では、第2核酸鎖中の相補的領域は、少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個または少なくとも5個の連続したリボヌクレオシドを含み得る。このような連続したリボヌクレオシドは、第1核酸鎖がギャップマーである場合にDNAギャップ領域と二本鎖を形成し得る。該二本鎖は、RNase Hによって認識され、RNase Hによる第2核酸鎖の切断を促進し得る。連続したリボヌクレオシドは、ホスホジエステル結合で連結されてもよい。別の実施形態では、第2核酸鎖中の相補的領域は、少なくとも2個の連続したリボヌクレオシドを含まないものであってよい。好ましい実施形態では、相補的領域の遊離末端から少なくとも1つ(例えば、少なくとも2つまたは少なくとも3つ)のヌクレオシドは、修飾ヌクレオシドである。修飾ヌクレオシドは、修飾糖および/または修飾核酸塩基を含んでよい。修飾糖は、2'-修飾糖(例えば、2'-O-メチル基を含む糖)であってよい。修飾核酸塩基は、5-メチルシトシンであってよい。具体的には、相補的領域の遊離末端から1~3個のヌクレオシドは、修飾ヌクレオシド(例えば、2'-修飾糖、例えば、2'-O-メチル基を含む糖を含むヌクレオシド)であり、かつ、相補的領域の他のヌクレオシドは、天然ヌクレオシド(デオキシリボヌクレオシド、リボヌクレオシド、または両者)であってよい。一実施形態では、第2核酸鎖中の相補的領域の遊離末端から1~3個のヌクレオシドは、修飾ヌクレオシド(例えば、2'-修飾糖、例えば、2'-O-メチル基を含む糖を含むヌクレオシド)であり、かつ、相補的領域の他のヌクレオシドは、デオキシリボヌクレオシドであってよい。別の実施形態では、第2核酸鎖中の相補的領域のヌクレオシドの少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%が、天然ヌクレオシドであってもよい。
【0063】
第2核酸鎖は、上記の修飾ヌクレオシド間結合および修飾ヌクレオシドの任意の組み合わせを含んでよい。
【0064】
一実施形態では、第2核酸鎖は、ポリヌクレオチドに結合された少なくとも1つの機能性部分を含み得る。機能性部分「X」は、第2核酸鎖の5'末端に連結されていてよく(
図2a)、または3'末端に連結されていてもよい(
図2b)。あるいは、機能性部分は、ポリヌクレオチドの内部のヌクレオチドに連結されていてもよい。他の実施形態において、第2核酸鎖は、2つ以上の機能性部分を含み、これらはポリヌクレオチドの複数の位置に連結されていてもよく、および/またはポリヌクレオチドの1つの位置に一群として連結されていてもよい。
【0065】
第2核酸鎖と機能性部分との間の結合は、直接結合であってもよいし、別の物質によって介在される間接結合であってもよい。しかし、特定の実施形態においては、機能性部分が、共有結合、イオン性結合、水素結合などを介して第2核酸鎖に直接結合されていることが好ましく、またより安定した結合を得ることができるという点から考えると、共有結合がより好ましい。機能性部分はまた、切断可能な連結基を介して第2核酸鎖に結合されていてもよい。例えば、機能性部分は、ジスルフィド結合を介して連結されていてもよい。
【0066】
機能性部分が、核酸複合体および/または機能性部分が結合している鎖に所望の機能を与える限り、特定の実施形態による「機能性部分」の構造について特定の限定はない。所望の機能としては、標識機能、精製機能、および送達機能が挙げられる。標識機能を与える部分の例としては、蛍光タンパク質、ルシフェラーゼなどの化合物が挙げられる。精製機能を与える部分の例としては、ビオチン、アビジン、Hisタグペプチド、GSTタグペプチド、FLAGタグペプチドなどの化合物が挙げられる。
【0067】
一部の実施形態において、機能性部分は、細胞または細胞核への輸送を増強する役割を果たす。例えば、特定のペプチドタグは、オリゴヌクレオチドにコンジュゲートされると、オリゴヌクレオチドの細胞取り込みを増強することが示されている。例としては、HaiFang Yinら、Human Molecular Genetics, Vol. 17(24), 3909-3918 (2008年)およびその参考文献中に開示されるアルギニンリッチペプチドP007およびBペプチドが挙げられる。核内輸送は、m3G-CAP(Pedro M. D. Morenoら、Nucleic Acids Res., Vol. 37, 1925-1935 (2009年)を参照)などの部分をオリゴヌクレオチドにコンジュゲートすることによって増強することができる。
【0068】
さらに、本発明に係る核酸複合体(または第1核酸鎖)を体内の標的部位または標的領域に高特異性および高効率で送達し、これにより関連核酸による標的転写産物(例えば、標的遺伝子)の発現を極めて効果的に抑制するという観点から、本発明の一部の実施形態の核酸複合体を体内の「標的部位」に送達する活性を有する分子が、機能性部分として第2核酸鎖に結合していることが好ましい。
【0069】
「標的送達機能」を有する部分は、本発明の特定の実施形態の核酸複合体を肝臓などに高特異性および高効率で送達し得るという観点から、例えば、脂質であってよい。このような脂質の例としては、コレステロールおよび脂肪酸などの脂質(例えば、ビタミンE(トコフェロール、トコトリエノール)、ビタミンA、およびビタミンD);ビタミンKなどの脂溶性ビタミン(例えば、アシルカルニチン);アシル-CoAなどの中間代謝産物;糖脂質、グリセリド、およびそれらの誘導体もしくは類縁体が挙げられる。しかし、これらの中でも、より高い安全性を有するという点から考えて、特定の実施形態において、コレステロールおよびビタミンE(トコフェロールおよびトコトリエノール)が使用される。しかしながら、本発明の特定の実施形態の核酸複合体は、脂質と結合していないものであってもよい。
【0070】
トコフェロールは、α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール、およびδ-トコフェロールからなる群から選択され得る。トコフェロールの類縁体としては、トコフェロールの種々の不飽和類縁体、例えば、α-トコトリエノール、β-トコトリエノール、γ-トコトリエノール、δ-トコトリエノールなどが挙げられる。好ましくは、トコフェロールは、α-トコフェロールである。
【0071】
コレステロールの類縁体は、ステロール骨格を有するアルコールである、種々のコレステロール代謝産物および類縁体などを指し、限定されるものではないが、コレスタノール、ラノステロール、セレブロステロール、デヒドロコレステロール、およびコプロスタノールなどを含む。
【0072】
さらに、本発明の特定の実施形態の核酸複合体を高特異性および高効率で脳に送達し得るという観点から、特定の実施形態による「機能性部分」の例として、糖(例えば、グルコースおよびスクロース)が挙げられる。
【0073】
また、様々な臓器の細胞表面上に存在する様々なタンパク質に結合することにより本発明の特定の実施形態の核酸複合体を様々な臓器に高特異性および高効率で送達し得るという観点から、特定の実施形態による「機能性部分」の例として、ペプチドまたはタンパク質(例えば、受容体リガンドならびに抗体および/またはそのフラグメント)が挙げられる。
【0074】
このように、本発明の一部の実施形態の核酸複合体の幾つかの好適な例示的実施形態について説明したが、核酸複合体が上記の例示的実施形態に限定されることは意図されない。さらに、当業者であれば、公知の方法を適切に選択することによって、本発明の様々な実施形態による核酸複合体を構成する第1核酸鎖および第2核酸鎖を製造することができる。例えば、本発明の一部の実施形態による核酸は、標的転写産物の塩基配列(または、一部の例においては、標的遺伝子の塩基配列)の情報に基づいて核酸のそれぞれの塩基配列を設計し、市販の自動核酸合成装置(アプライドバイオシステムズ社(Applied Biosystems, Inc.)の製品、ベックマン・コールター社(Beckman Coulter, Inc.)の製品など)を使用することによって核酸を合成し、その後、結果として得られたオリゴヌクレオチドを逆相カラムなどを使用して精製することにより製造することができる。この方法で製造した核酸を適切な緩衝溶液中で混合し、約90℃~98℃で数分間(例えば5分間)変性させ、その後核酸を約30℃~70℃で約1~8時間アニールし、このようにして本発明の一部の実施形態の核酸複合体を製造することができる。アニールした核酸複合体の作製は、このような時間および温度プロトコルに限定されない。鎖のアニーリングを促進するのに適した条件は、当技術分野において周知である。さらに、機能性部分が結合している核酸複合体は、機能性部分が予め結合された核酸種を使用し、上記の合成、精製およびアニーリングを実施することによって製造することができる。機能性部分を核酸に連結するための多数の方法が、当技術分野において周知である。あるいは、一部の実施形態に係る核酸鎖は、塩基配列ならびに修飾部位もしくは種類を指定して、製造業者(例えば、株式会社ジーンデザイン)に注文し、入手することもできる。
【0075】
一部の実施形態による核酸複合体は、従来の一本鎖アンチセンスオリゴヌクレオチドと比較して、血清タンパク質に対する結合が変化していることを本発明者らは後述の実施例で示している。一部の実施形態による核酸複合体は、このような血清タンパク質との結合の変化に少なくとも一部には起因して、生体内に効率的に送達され、アンチセンス効果によって標的遺伝子の発現または標的転写産物のレベルを抑制することができる。したがって、一部の実施形態による核酸複合体は、標的遺伝子の発現または標的転写産物のレベルの抑制に使用するためのものであってよい。
【0076】
<組成物>
アンチセンス効果によって標的遺伝子の発現または標的転写産物のレベルを抑制するための、上記の核酸複合体を有効成分として含む組成物も提供される。本明細書では、用語「標的転写産物のレベル」は、「標的転写産物の発現量」と互換的に用いられる。
【0077】
本発明の一部の実施形態の核酸複合体を含む組成物は、公知の製薬法により製剤化することができる。例えば、本組成物は、カプセル剤、錠剤、丸剤、液剤、散剤、顆粒剤、微粒剤、フィルムコーティング剤、ペレット剤、トローチ剤、舌下剤、解膠剤(peptizer)、バッカル剤、ペースト剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤、乳剤、コーティング剤、軟膏、硬膏剤(plaster)、パップ剤(cataplasm)、経皮剤、ローション剤、吸入剤、エアロゾル剤、点眼剤、注射剤および坐剤の形態で、経口的にまたは非経口的に使用することができる。
【0078】
これらの製剤の製剤化に関して、薬学的に許容可能な担体または食品および飲料品として許容可能な担体、具体的には滅菌水、生理食塩水、植物性油、溶媒、基剤、乳化剤、懸濁化剤、界面活性剤、pH調整剤、安定化剤、香味料、香料、賦形剤、ビヒクル、防腐剤、結合剤、希釈剤、等張化剤、鎮静剤、増量剤、崩壊剤、緩衝剤、コーティング剤、滑沢剤、着色剤、甘味剤、増粘剤、矯味剤、溶解助剤、および他の添加剤を適切に組み込むことができる。
【0079】
本発明の一部の実施形態の組成物の好ましい投与形態には特定の限定はなく、その例としては、経口投与または非経口投与、より具体的には、静脈内投与、脳室内投与、髄腔内投与、皮下投与、動脈内投与、腹腔内投与、皮内投与、気管/気管支投与、直腸投与、眼内投与、および筋肉内投与、ならびに輸血による投与が挙げられる。投与は、筋肉内注射投与、持続点滴投与、吸入、皮膚貼付、または埋め込み型持続皮下投与により行ってもよい。なお、皮下投与は、静脈内投与に比べて投与の簡便性等の観点から有利となり得る。皮下投与は、患者自身による自己注射が可能であり、好ましい。一実施形態において、皮下投与に用いる核酸複合体は、ビタミンE(トコフェロール、トコトリエノール)およびコレステロールなどの脂質を結合していないものであり得る。リガンドを使用する場合は、特定の理論に拘泥されるものではないが、皮下脂肪から抜けて血中に移行するリガンドの適度な脂溶性が必要であると考えられ、例えば、コレステロールリガンドの使用が好ましい。
【0080】
本発明の一部の実施形態の組成物は、被験体としてヒトを含む動物に使用することができる。しかし、ヒトを除く動物には特定の限定はなく、様々な家畜、家禽、ペット、実験動物などが一部の実施形態の被験体となり得る。
【0081】
本発明の一部の実施形態の組成物が投与または摂取される場合、投与量または摂取量は、被験体の年齢、体重、症状および健康状態、組成物の種類(医薬品、食品および飲料品等)などに従って適切に選択することができる。しかし、本発明の特定の実施形態による組成物の摂取有効量は、例えば、核酸複合体0.0000001mg/kg/日~1000000mg/kg/日、0.00001mg/kg/日~10000mg/kg/日または0.001mg/kg/日~100mg/kg/日であり得る。
【0082】
本発明はまた、例えば、遺伝子異常(例えば遺伝子変異、遺伝子欠失、遺伝子挿入、遺伝子変換または反復配列数の異常)、または例えば、標的遺伝子の発現の異常(増加、減少、遺伝子バリアントの異常)に関連する疾患(変性疾患、血管障害、免疫疾患、内分泌代謝疾患、腫瘍および感染症など)を治療または予防するための医薬組成物に関する。
【0083】
一実施形態では、医薬組成物は、中枢神経系疾患および髄腔内の神経根もしくは後根神経節が障害される疾患を治療または予防するために脳室内(髄腔内)に投与するための医薬組成物であってよい。本願の実施例に開示のように、本発明者らは予想外にも、本発明に係る核酸複合体の脳室内(髄腔内)への投与により、従来公知の二本鎖剤よりも優れた効果をもたらし得ることを見出した。一実施形態において、脳室内(髄腔内)投与に用いる核酸複合体は、ビタミンE(トコフェロール、トコトリエノール)およびコレステロールなどの脂質を結合していないものであり得る。
【0084】
治療対象の疾患は、遺伝子異常に関連する神経系疾患で有り得る。神経系は、中枢神経系および末梢神経系に分けられる。よって、治療対象疾患は中枢神経系疾患であり得る。中枢神経系は、脳および脊髄からなる。脳は大脳(大脳皮質、大脳白質、大脳基底核)、間脳(視床、視床下核)、小脳(小脳皮質、小脳核)および脳幹(中脳、黒質、橋、延髄)を含む。脊髄は、頸髄、胸髄、腰髄、仙髄および尾髄を含む。本明細書における中枢神経系は、これらのいずれの領域であってもよいが、特に、大脳皮質(前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉)、小脳、線条体、淡蒼球、前障、海馬、海馬傍回、脳幹、頸髄、胸髄または腰髄であり得る。末梢神経は、脳神経、脊髄神経からなる。よって、治療対象疾患は髄腔内の神経根や馬尾および後根神経節が障害される疾患(例えば、がん性髄膜炎)であり得る。
【0085】
中枢神経系疾患としては、特に限定されないが、例えば、脳腫瘍、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、ハンチントン病などが挙げられる。例えば、アルツハイマー病の治療においては、海馬および/または頭頂葉への薬剤送達が有効となり得る。前頭側頭型認知症(FTD)(前頭側頭葉変性症(FTLD)、意味性認知症(SD)、進行性非流暢性失語(PNFA))、ピック病の治療においては、前頭葉、側頭葉および/または黒質への薬剤送達が有効となり得る。レビー小体型認知症(DLB)、パーキンソン病認知症の治療においては、後頭葉、黒質および/または線条体への薬剤送達が有効となり得る。パーキンソン病の治療においては、黒質および/または線条体への薬剤送達が有効となり得る。皮質基底核変性症(CBD)の治療においては、前頭葉、頭頂葉、大脳基底核および/または黒質への薬剤送達が有効となり得る。進行性核上性麻痺(PSP)の治療においては、前頭葉、大脳基底核および/または黒質への薬剤送達が有効となり得る。筋萎縮性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症の治療においては、前頭葉、頭頂葉、黒質、大脳基底核および/または脊髄の薬剤送達が有効となり得る。脊髄小脳変性症(SCD)SCA1型~SCA34型までの治療においては、脳幹および/または小脳への薬剤送達が有効となり得る。歯状核赤核淡蒼球ルイ体変性症(DRPLA)の治療においては、脳幹、大脳基底核および/または小脳への薬剤送達が有効となり得る。球脊髄性萎縮症(SBMA)の治療においては、骨格筋、脳幹および/または脊髄への薬剤送達が有効となり得る。フリードライヒ失調症(FA)の治療においては、脳幹および/または小脳への薬剤送達が有効となり得る。ハンチントン病の治療においては、線条体、前頭葉、頭頂葉および/または大脳基底核への薬剤送達が有効となり得る。プリオン病(狂牛病、GSS)の治療においては、大脳皮質、大脳白質、大脳基底核および/または黒質への薬剤送達が有効となり得る。大脳白質性脳症の治療においては、大脳白質への薬剤送達が有効となり得る。特に進行性多巣性白質脳症の治療に有効となりうる。脳炎(ウイルス性、細菌性、真菌性、結核性)、髄膜炎(ウイルス性、細菌性、真菌性、結核性)の治療においては、脳全体への薬剤送達が有効となり得る。代謝性脳症、中毒性脳症、栄養障害性脳症の治療においては、脳全体への薬剤送達が有効となり得る。脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、もやもや病、無酸素脳症の治療においては、脳全体への薬剤送達が有効となり得る。びまん性軸索損傷(Diffuse axonal injury)の治療においては、大脳白質への薬剤送達が有効となり得る。頭部外傷の治療においては、脳全体への薬剤送達が有効となり得る。多発性硬化症(MS)、視神経脊髄炎(NMO)の治療においては、大脳白質、大脳皮質、視神経および/または脊髄への薬剤送達が有効となり得る。筋緊張型ジストロフィー症(DM1, DM2)の治療においては、骨格筋、心筋、大脳皮質および/または大脳白質への薬剤送達が有効となり得る。家族性痙性対麻痺(HSP)の治療においては、頭頂葉および/または脊髄への薬剤送達が有効となり得る。福山型筋ジストロフィーの治療においては、骨格筋、大脳皮質および/または大脳白質への薬剤送達が有効となり得る。DLBの治療においては、前頭葉および/または頭頂葉への薬剤送達が有効となり得る。多系統萎縮症(MSA)の治療においては、線条体、大脳基底核、小脳、黒質、前頭葉および/または側頭葉への薬剤送達が有効となり得る。アレキサンダー病の治療においては、大脳白質への薬剤送達が有効となり得る。CADASIL、CARASILの治療においては、大脳白質への薬剤送達が有効となり得る。
【0086】
神経根や馬尾を対象とする疾患としては、特に限定されないがギランバレー症候群、フィッシャー症候群、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー、頚椎症性脊髄根症が有り得る。また、後根神経節を対象とする神経疾患は末梢神経性疼痛疾患、シェーグレン症候群、傍腫瘍症候群が有り得る。
【0087】
したがって、本発明の一部の実施形態は、上記の各疾患を治療するための核酸複合体を含む組成物、またはそのような組成物を投与することを含む治療方法に関する。また、本発明の一部の実施形態は、上記の各部位における転写産物の発現量を調節する(例えば、発現量を減少させる)ための核酸複合体を含む組成物に関する。
【0088】
中枢神経系疾患としては、例えば、ハンチントン病、アルツハイマー病、パーキンソン病、ALS、脳腫瘍などが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0089】
一部の実施形態の核酸複合体は、以下の実施例に開示されるとおり、高効率に体内の部位に送達され、標的遺伝子の発現または標的転写産物のレベルを極めて効果的に改変または抑制することができる。一部の実施形態の核酸複合体が送達される体内の標的部位としては、肝臓、脳、腎臓、副腎、筋肉(例えば、大腿筋などの骨格筋)および肺が挙げられる。本発明に係る組成物は、体内の標的部位に送達され、該標的部位で標的遺伝子または標的転写産物にアンチセンス効果をもたらし得る。
【0090】
したがって、一部の実施形態の核酸複合体または組成物を被験体に投与し、標的遺伝子の発現または標的転写産物のレベルを抑制する方法が提供される。さらに、一部の実施形態の核酸複合体または組成物を被験体に投与することを含む、標的遺伝子の発現または標的転写産物のレベルの増加に関連する疾患を治療または予防する方法もまた提供される。
【実施例】
【0091】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
以下の実施例で用いるオリゴヌクレオチドの配列を表1にまとめて示す。
【0092】
【0093】
[実施例1]
一実施形態による二本鎖核酸剤の有用性を検証するin vivo実験を行った。ヘテロ二重鎖オリゴヌクレオチド(heteroduplex oligonucleotide、以下「HDO」と称する)および本発明の一実施形態のオーバーハング二重鎖オリゴヌクレオチド(overhanging-duplex oligonucleotide、以下「オーバーハング」と称する)の2種類の二本鎖剤を、従来の一本鎖LNA/DNAギャップマー型のアンチセンスオリゴヌクレオチド(以下「ASO」と称する)を対照として用いて評価した。オーバーハング部分単独の有効性も比較した。
【0094】
対照として用いる一本鎖ASOは、マウスのアポリポタンパク質B mRNA(配列番号1)の10136~10148位に相補的な13merのLNA/DNAギャップマーとした。このLNA/DNAギャップマーは、5'末端の2個および3'末端の3個のLNAヌクレオシド、ならびにそれらの間の8個のDNAヌクレオシドを含む。2種の二本鎖剤(「HDO」および「オーバーハング」)は、それぞれ、第1鎖(上記のLNA/DNAギャップマー)と第2鎖(第1鎖にアニールする相補鎖)とからなり、二本鎖構造を形成する。「HDO」では、第2鎖は第1鎖と完全に相補的である。一方、「オーバーハング」では、第2鎖は、第1鎖と相補的な領域の5'末端側に13塩基長のオーバーハング領域を有する。実施例1で用いたポリヌクレオチドの配列、化学修飾および構造は、表1および
図5に示す。
【0095】
上記の二本鎖剤を調製するために、第1鎖と第2鎖とを等モル量で混合し、溶液を95℃で5分間加熱し、その後37℃に冷却して1時間保持し、これにより核酸鎖をアニールして二本鎖核酸複合体を調製した。アニールした核酸を4℃または氷上で保存した。全てのオリゴヌクレオチドは株式会社ジーンデザイン(Gene Design)(大阪、日本)によって委託合成された。
【0096】
(in vivo実験)
体重20~25gの4週齢の雌のICRマウスを使用した。核酸剤を、マウスにそれぞれ尾静脈を通じて0.173μmol/kgの量(n=5)で静脈内注射した。さらにまた、陰性対照群として、(核酸剤の代わりに)PBSのみを注射したマウスも作製した。注射の72時間後、PBSをマウスに灌流させ、その後マウスを解剖して肝臓を摘出した。続いて、RNAを、IsogenIIキット(株式会社ジーンデザイン)を使用してプロトコルに従って抽出した。cDNAは、Transcriptor Universal cDNA Master, DNase (ロシュ・ダイアグノスティックス社(Roche Diagnostics))を使用してプロトコルに従って合成した。定量RT-PCRは、TaqMan(ロシュ・アプライドサイエンス社(Roche Applied Science))により実施した。定量RT-PCRにおいて使用したプライマーは、様々な遺伝子数に基づいて、サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック社(Thermo Fisher Sceientific、旧ライフ・テクノロジーズ社(Life Technologies Corp))によって設計および製造された製品であった。増幅条件(温度および時間)は以下のとおりであった:95℃で15秒、60℃で30秒、および72℃で1秒(1サイクル)を40サイクル繰り返した。このようにして得られた定量RT-PCRの結果に基づいて、アポリポタンパク質B(ApoB)の発現量/GAPDH(内部標準遺伝子)の発現量をそれぞれ計算した。また各群の結果を比較し、さらにボンフェローニ検定によって評価した。
【0097】
(結果)
実施例1の結果は、
図6のグラフに示される。1本鎖「ASO」、「HDO」および「オーバーハング」の3つの核酸試薬は全て、陰性対照(PBSのみ)と比較して、ApoB mRNAの発現の阻害を示した。しかし、本発明の一実施形態である「オーバーハング」によって得られた阻害度は、一本鎖ASOおよびHDOによって得られた阻害度よりも大きく、その差は統計的に有意であった。一方で、オーバーハング部分単独は、ApoB mRNAの発現を阻害しなかった。 これらの結果から、アンチセンスオリゴヌクレオチドを、オーバーハング領域を有する相補鎖とアニールさせた二本鎖核酸複合体は、生体内に効率的に送達され、アンチセンス効果をもたらすことが示された。
【0098】
[実施例2]
第2鎖の突出方向または二本鎖形成部分の化学修飾が異なる、一実施形態による二本鎖核酸剤の有用性を検証するin vivo実験を行った。標的は実施例1と同じApoB mRNAとした。対照(ASO)も実施例1と同じ一本鎖LNA/DNAギャップマーとした。LNA/DNAギャップマー(第1鎖)を相補鎖(第2鎖)とアニールさせることにより、4つの二本鎖剤(「オーバーハング-5'」、「オーバーハング-3'」、「オーバーハングDNA」、および「オーバーハング2'-OMe」と称する)を調製した。「オーバーハング-5'」および「オーバーハング-3'」は、それぞれ5'末端側および3'末端側にオーバーハングを有する。また、「オーバーハング-5'」の第2鎖における第1鎖と相補的な領域は、5'末端側から数えて11個のRNAヌクレオシドおよび2個の2'-O-Me RNAヌクレオシドを含むのに対し、「オーバーハングDNA」では「オーバーハング-5'」のRNAがDNAに置換されており、「オーバーハング2'-OMe」では「オーバーハング-5'」のRNAが2'-O-メチルRNAに置換されている。実施例2で用いたポリヌクレオチドの配列、化学修飾および構造は、表1および
図7に示す。二本鎖剤は実施例1と同様に調製した。
【0099】
(in vivo実験)
核酸剤を、マウスにそれぞれ尾静脈を通じて0.173μmol/kgの量(n=4)で静脈内注射した。用いたマウスおよびApoB mRNA発現解析方法は実施例1に記載したとおりである。
【0100】
(結果)
実施例2の結果は、
図8のグラフに示される。5つの核酸試薬は全て、陰性対照(PBSのみ)と比較して、ApoB mRNAの発現の阻害を示した。特に、3種の二本鎖剤(「オーバーハング-5'」、「オーバーハング-3'」、および「オーバーハングDNA」)によって得られた阻害度は、一本鎖ASOによって得られた阻害度よりも大きく、その差は統計的に有意であった。しかし、第2鎖における第1鎖と相補的な領域の一部をRNase耐性2'-O-メチル化RNAに置換した二本鎖剤(「オーバーハング2'-OMe」)では、一本鎖ASOと比較して阻害効果の向上は見られなかった。
【0101】
[実施例3]
第2鎖のオーバーハング領域の化学修飾が異なる、一実施形態による二本鎖核酸剤の有用性を検証するin vivo実験を行った。標的は実施例1と同じApoB mRNAとした。対照(ASO)も実施例1と同じ一本鎖LNA/DNAギャップマーとした。LNA/DNAギャップマー(第1鎖)を相補鎖(第2鎖)とアニールさせることにより、3つの二本鎖剤(「オーバーハングDNAのみ」、「オーバーハングDNA/LNA」、および「オーバーハングRNA/LNA」と称する)を調製した。「オーバーハングDNAのみ」のオーバーハング領域は、13個のDNAヌクレオシドを含む。「オーバーハングDNA/LNA」のオーバーハング領域は、5'末端側から順に2個のLNAヌクレオシド、8個のDNAヌクレオシド、および3個のLNAヌクレオシドを含む。「オーバーハングRNA/LNA」では、「オーバーハングDNA/LNA」のオーバーハング領域のDNAがRNAに置換されている。実施例3で用いたポリヌクレオチドの配列、化学修飾および構造は、表1および
図9に示す。二本鎖剤は実施例1と同様に調製した。
【0102】
(in vivo実験)
核酸剤を、マウスにそれぞれ尾静脈を通じて0.173μmol/kgの量(n=4)で静脈内注射した。用いたマウスおよびApoB mRNA発現解析方法は実施例1に記載したとおりである。
【0103】
(結果)
実施例3の結果は、
図10のグラフに示される。4つの核酸試薬は全て、陰性対照(PBSのみ)と比較して、ApoB mRNAの発現の阻害を示した。本発明の特定の実施形態に係る3種の二本鎖剤(「オーバーハングDNAのみ」、「オーバーハングDNA/LNA」、および「オーバーハングRNA/LNA」)によって得られた阻害度は、一本鎖ASOによって得られた阻害度よりも大きく、その差は統計的に有意であった。
【0104】
[実施例4]
第2鎖がホスホロチオエート置換によって修飾されたヌクレオシド間結合の数において異なる、一実施形態による二本鎖核酸剤の有用性を検証するin vivo実験を行った。標的は実施例1と同じApoB mRNAとした。対照(ASO)も実施例1と同じ一本鎖LNA/DNAギャップマーとした。LNA/DNAギャップマー(第1鎖)を相補鎖(第2鎖)とアニールさせることにより、3つの二本鎖剤(「オーバーハング」、「オーバーハングPS-10」、および「オーバーハングPS+11」と称する)を調製した。「オーバーハング」では、第2鎖(26塩基長)の25個のヌクレオシド間結合は、5'末端側から順に、12個のホスホロチオエート結合(オーバーハング領域における)、ならびに11個のホスホジエステル結合および2個のホスホロチオエート結合とした。「オーバーハングPS-10」では、「オーバーハング」のオーバーハング領域における12個のホスホロチオエート結合を、5'末端の2個のホスホロチオエート結合以外は、ホスホジエステル結合に置換した。「オーバーハングPS+11」では、第2鎖の全てのヌクレオシド間結合をホスホロチオエート結合とした。実施例4で用いたポリヌクレオチドの配列、化学修飾および構造は、表1および
図11に示す。二本鎖剤は実施例1と同様に調製した。
【0105】
(in vivo実験)
核酸剤を、マウスにそれぞれ尾静脈を通じて0.173μmol/kgの量(n=4)で静脈内注射した。用いたマウスおよびApoB mRNA発現解析方法は実施例1に記載されたとおりであった。加えて、核酸剤の肝臓内濃度をTaqMan Small RNA Assay(ロシュ・アプライドサイエンス社)を用いてプロトコルに従って定量RT-PCRにより測定した。
【0106】
(結果)
実施例4の結果は、
図12のグラフに示される。4つの核酸試薬は全て、陰性対照(PBSのみ)と比較して、ApoB mRNAの発現の阻害を示した。特に、2種の二本鎖剤(「オーバーハング」および「オーバーハングPS+11」)によって得られた阻害度は、一本鎖ASOによって得られた阻害度よりも大きく、その差は統計的に有意であった。一方、第2鎖のオーバーハング領域の多くのホスホロチオエート結合がホスホジエステル結合で置換された二本鎖剤(「オーバーハングPS-10」)によって得られた阻害度は、一本鎖ASOと同程度であった。
この傾向と一致して、「オーバーハング」および「オーバーハングPS+11」の肝臓内濃度は、一本鎖ASOと比較して有意に増加したが、「オーバーハングPS-10」の肝臓内濃度は、一本鎖ASOと同程度であった。
これらの結果から、二本鎖剤の第2鎖のオーバーハング領域におけるホスホロチオエート結合の数が多い場合に、当該二本鎖剤の生体内への送達が促進され、アンチセンス効果が増強されることが示された。
【0107】
[実施例5]
第2鎖が15mer~26merの範囲にある(第2鎖のオーバーハング領域が2塩基長~13塩基長の範囲にある)、一実施形態による二本鎖核酸剤の有用性を検証するin vivo実験を行った。標的は実施例1と同じApoB mRNAとした。対照(ASO)も実施例1と同じ一本鎖LNA/DNAギャップマーとした。LNA/DNAギャップマー(第1鎖)を相補鎖(第2鎖)とアニールさせることにより、6つの二本鎖剤(「オーバーハング26mer DNA」、「オーバーハング24mer DNA」、「オーバーハング22mer DNA」、「オーバーハング20mer DNA」、「オーバーハング18mer DNA」、および「オーバーハング15mer DNA」)を調製した。これらの二本鎖剤のオーバーハング領域は、それぞれ、13、11、9、7、5および2個のDNAヌクレオシドを有する。実施例5で用いたポリヌクレオチドの配列、化学修飾および構造は、表1および
図13に示す。二本鎖剤は実施例1と同様に調製した。
【0108】
(in vivo実験)
核酸剤を、マウスにそれぞれ尾静脈を通じて0.173μmol/kgの量(n=4)で静脈内注射した。用いたマウス、ApoB mRNA発現および肝臓内核酸剤濃度の解析方法は実施例4と同様である。
【0109】
(結果)
実施例5の結果は、
図14のグラフに示される。二本鎖剤のオーバーハング領域の長さが長いほど、ApoB mRNA阻害度および肝臓内核酸剤濃度が増強される傾向が見られた。特に、第2鎖が20mer~26merの範囲にある(すなわち、第2鎖のオーバーハング領域が7~13塩基長、特に9~13塩基長である)二本鎖剤は、高いApoB mRNA阻害度および肝臓内核酸剤濃度を示した。
【0110】
[実施例6]
第2鎖が24merまたは26merであり(第2鎖のオーバーハング領域が11塩基長または13塩基長であり)、かつ、第2鎖のオーバーハング領域の化学修飾が実施例5とは異なる、一実施形態による二本鎖核酸剤の有用性を検証するin vivo実験を行った。標的は実施例1と同じApoB mRNAとした。対照(ASO)も実施例1と同じ一本鎖LNA/DNAギャップマーとした。LNA/DNAギャップマー(第1鎖)を相補鎖(第2鎖)とアニールさせることにより、2つの二本鎖剤(「オーバーハング26mer LNA-Gap」および「オーバーハング24mer LNA-Gap」)を調製した。これらの二本鎖剤のオーバーハング領域は、5'末端側の3個のLNAヌクレオシドおよび3'末端側の2個のLNAヌクレオシド、ならびにそれらの間のDNAヌクレオシドを含み、それぞれ、13塩基長および11塩基長である。実施例6で用いたポリヌクレオチドの配列、化学修飾および構造は、表1および
図15に示す。二本鎖剤は実施例1と同様に調製した。
【0111】
(in vivo実験)
核酸剤を、マウスにそれぞれ尾静脈を通じて0.173μmol/kgの量(n=4)で静脈内注射した。用いたマウス、ApoB mRNA発現および肝臓内核酸剤濃度の解析方法は実施例4と同様である。
【0112】
(結果)
実施例6の結果は、
図16のグラフに示される。第2鎖が24merまたは26merである(すなわち、第2鎖のオーバーハング領域が11塩基長または13塩基長である)場合、得られたApoB mRNA阻害度および肝臓内核酸剤濃度の両者は、一本鎖ASOの場合よりも大きく、その差は統計的に有意であった。
【0113】
[実施例7]
実施例1~6で標的としたApoBとは異なる遺伝子であるスカベンジャー受容体B1(scavenger receptor B1、SRB1)mRNAを標的とし、第2鎖が22merまたは26merである(第2鎖のオーバーハング領域が9塩基長または13塩基長である)、一実施形態による二本鎖核酸剤の有用性を検証するin vivo実験を行った。対照(ASO)は、13merの一本鎖LNA/DNAギャップマーとした。このLNA/DNAギャップマーは、5'末端の2個および3'末端の3個のLNAヌクレオシド、ならびにそれらの間の8個のDNAヌクレオシドを含む。このLNA/DNAギャップマーは、マウスのスカベンジャー受容体B1(SRB1) mRNA(配列番号2)の2479~2491位に相補的である。LNA/DNAギャップマー(第1鎖)を相補鎖(第2鎖)とアニールさせることにより、2つの二本鎖剤(「オーバーハング26mer」および「オーバーハング22mer」)を調製した。これらの二本鎖剤のオーバーハング領域は、それぞれ、13個および9個のDNAヌクレオシドを有する。実施例7で用いたポリヌクレオチドの配列、化学修飾および構造は、表1および
図17に示す。二本鎖剤は実施例1と同様に調製した。
【0114】
(in vivo実験)
核酸剤を、マウスにそれぞれ尾静脈を通じて0.173μmol/kgの量(n=4)で静脈内注射した。用いたマウスおよびSRB1 mRNA発現の解析方法は、SRB1を定量するために定量的RT-PCRで使用したプライマーを除いて、実施例1に記載したとおりである。
【0115】
(結果)
実施例7の結果は、
図18のグラフに示される。第2鎖が26merまたは22merの二本鎖剤は、一本鎖ASOと比較して、SRB1発現阻害の増強を示す傾向が見られた。特に、第2鎖が26merである(すなわち、第2鎖のオーバーハング領域が13塩基長である)二本鎖剤の場合、得られたSRB1 mRNAの阻害度は、一本鎖ASOの場合よりも大きく、その差は統計的に有意であった。
この結果から、本発明の二本鎖核酸複合体の効果はApoB特異的ではなく、二本鎖核酸複合体は様々な遺伝子転写産物を標的とし得ることが示された。
【0116】
[実施例8]
実施例1~7で標的としたApoBおよびSRB1とは異なる遺伝子である転位関連肺腺癌転写産物(metastasis associated lung adenocarcinoma transcript 1、MALAT1)ノンコーディングRNAを標的とし、かつ、第2鎖が21、25または29merである(第2鎖のオーバーハング領域が5塩基長、9塩基長または13塩基長である)、一実施形態による二本鎖核酸剤の有用性を検証するin vivo実験を行った。対照(ASO)は、16merの一本鎖LNA/DNAギャップマーとした。このLNA/DNAギャップマーは、5'末端の3個および3'末端の3個のLNAヌクレオシド、ならびにそれらの間の10個のDNAヌクレオシドを含む。このLNA/DNAギャップマーは、マウスの転位関連肺腺癌転写産物(MALAT1)ノンコーディングRNA(配列番号3)の1316~1331位に相補的である。LNA/DNAギャップマー(第1鎖)を相補鎖(第2鎖)とアニールさせることにより、3つの二本鎖剤(「オーバーハング29mer」、「オーバーハング25mer」および「オーバーハング21mer」)を調製した。これらの二本鎖剤のオーバーハング領域は、それぞれ、13個、9個および5個のDNAヌクレオシドを有する。実施例8で用いたポリヌクレオチドの配列、化学修飾および構造は、表1および
図19に示す。二本鎖剤は実施例1と同様に調製した。
【0117】
(in vivo実験)
核酸剤を、マウスにそれぞれ尾静脈を通じて0.0692μmol/kgの量(n=4)で静脈内注射した。用いたマウスおよびRNA発現の解析方法は、MALAT1 ncRNAを定量するために定量的RT-PCRで使用したプライマーを除いて、実施例1に記載したとおりである。
【0118】
(結果)
実施例8の結果は、
図20のグラフに示される。二本鎖剤のオーバーハング領域の長さが長いほど、MALAT1発現阻害が増強する傾向が見られた。特に、第2鎖が29merおよび25merである(すなわち、第2鎖のオーバーハング領域が13塩基長および9塩基長である)二本鎖剤の場合、得られたMALAT1 ncRNAの阻害度は、一本鎖ASOの場合よりも大きく、その差は統計的に有意であった。
【0119】
[実施例9]
実施例1~8で標的としたApoB、SRB1およびMALAT1とは異なるマイクロRNA-122(miR122)を標的とし、かつ、第2鎖が30merである(第2鎖のオーバーハング領域が15塩基長である)、一実施形態による二本鎖核酸剤の有用性を検証するin vivo実験を行った。対照(antimiR)は、15merの一本鎖LNA/DNAミックスマーとした。このLNA/DNAミックスマーは、マウスmiR122(配列番号4)の2~16位に相補的である。このLNA/DNAミックスマー(第1鎖)を相補鎖(第2鎖)とアニールさせることにより、二本鎖剤(「オーバーハング」および「HDO」)を調製した。「オーバーハング」では、第2鎖は、第1鎖と相補的な領域の5'末端側に15塩基長の、DNAヌクレオシドおよびLNAヌクレオシドからなるオーバーハング領域を有する。「HDO」では、第2鎖は第1鎖と完全に相補的である。「HDO」は、国際公開第2013/089283号に記載される発明の一実施形態である。また、マウスmiR122(配列番号4)の2~16位に相補的な配列の3'末端側に15塩基長の二重鎖核酸構造を有する「HCDO」(hetero-chimera-duplex oligonucleotide)を調製した。「HCDO」は、国際公開第2014/192310号に記載される発明の一実施形態である。実施例9で用いたポリヌクレオチドの配列、化学修飾および構造は、表1および
図21に示す。二本鎖剤は実施例1と同様に調製した。
【0120】
(in vivo実験)
核酸剤を、マウスにそれぞれ尾静脈を通じて5.89nmol/kgの量(n=5)で静脈内注射した。用いたマウスの解析方法は、実施例1に記載したとおりである。マイクロRNAを、IsogenIIキット(株式会社ジーンデザイン)を使用してプロトコルに従って抽出した。cDNA合成および定量RT-PCRは、TaqMan MicroRNA Assays(サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック社)を使用してプロトコルに従って行った。定量RT-PCRにおいて使用したプライマーは、様々な遺伝子数に基づいて、サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック社(Thermo Fisher Sceientific、旧ライフ・テクノロジーズ社(Life Technologies Corp))によって設計および製造された製品であった。このようにして得られた定量RT-PCRの結果に基づいて、miR122の発現量/U6(内部標準遺伝子)の発現量をそれぞれ計算した。また各群の結果を比較し、さらにボンフェローニ検定によって評価した。
【0121】
(結果)
実施例9の結果は、
図22のグラフに示される。本発明の一実施形態に係るオーバーハング領域を有する二本鎖剤(「オーバーハング」)により得られたmiR-122の阻害度は、一本鎖ASO(「antimiR」)の場合よりも大きく、その差は統計的に有意であった(
図22a)。また、本発明の一実施形態に係るオーバーハング領域を有する二本鎖剤(「オーバーハング」)により得られたmiR-122の阻害度は、「HDO」および「HCDO」の場合よりも大きく、その差は統計的に有意であった(
図22b)。
【0122】
[実施例10]
二本鎖核酸剤は、血清タンパク質への結合特性が異なるために、薬物動態が一本鎖核酸剤とは異なることが想定された。これを検証するために、ゲルシフト法を用いて核酸剤の血清タンパク質への結合特性を評価した。
【0123】
(ゲルシフト法)
実施例1で用いた1本鎖ASOまたは二本鎖剤「オーバーハング」を、蛍光色素(Alexa-568)で標識した。ex vivo実験として、蛍光色素標識した一本鎖または二本鎖核酸剤(15pmol)に、ICRマウス血清原液もしくはPBSにより2~8倍希釈した血清(22.5μl)、ならびに10%スクロース(6μl)を混合して、サンプルを調製した。各混合サンプルを、2%アガロースゲルにてトリス-ホウ酸-EDTAバッファー中で電気泳動(100V、25分)した。蛍光色素標識した核酸剤を、ChemiDoc Touchイメージングシステム(バイオ・ラッド社(BIO RAD))を用いて紫外線下で検出した。
【0124】
(結果)
図23に示されるように、一本鎖ASOおよび本発明の一実施形態に係る二本鎖剤(「オーバーハング」)において、非結合核酸剤を示す下方の1バンド(一番下の矢印)は、血清の希釈に伴って増加し、一方、血清タンパク質と結合した核酸剤を示す上方の2バンド(上側の2つの矢印)は、血清の希釈に伴って減少した。特に、血清タンパク質との結合を示す2バンドのうち上方のバンドは、二本鎖剤において、一本鎖ASOと比較して高い強度を示した。この結果から、二本鎖剤は血清タンパク質への結合様式が一本鎖ASOと異なることが示された。
【0125】
[実施例11]
実施例10の結果から、本発明の一実施形態に係る二本鎖剤は、大きい粒子径の血清タンパク質への結合能が一本鎖剤より高いことが示唆された。これを検証するため、蛍光相関分光法(fluorescence correlation spectroscopy、FCS)を用いて核酸剤と血清タンパク質との複合体の拡散時間を測定した。拡散時間は、複合体の粒子径と比例する。拡散時間を用いて、核酸剤が結合しているタンパク質のサイズを評価した。
【0126】
(FCS法)
実施例1で用いた一本鎖ASOまたは二本鎖剤(「オーバーハング」)を、蛍光色素(Alexa-647)で標識した。ex vivo実験として、蛍光色素標識もしくは非標識の一本鎖または二本鎖核酸剤に、ICRマウス血清原液またはPBSにより2~8倍希釈した血清(22.5μl)を混合して、核酸剤の最終濃度が10nMになるようにサンプルを調製した。各混合サンプルにおいて拡散時間をMF 20(オリンパス社(OLYMPUS))を用いて測定した。
【0127】
(結果)
図24に示されるように、本発明の一実施形態に係る二本鎖剤は、一本鎖ASOと比較して血清混合物において有意に長い拡散時間を示した。この結果から、二本鎖剤が結合する血清タンパク質は一本鎖剤が結合するタンパク質とは異なり、二本鎖剤は、より大きなサイズの血清タンパク質と結合することが示された。
【0128】
[実施例12]
一実施形態による二本鎖核酸剤の脳室内投与における脳組織への有用性を検証するin vivo実験を行った。対照(ASO)は、13merの一本鎖LNA/DNAギャップマーとした。このLNA/DNAギャップマーは、5'末端の2個および3'末端の3個のLNAヌクレオシド、ならびにそれらの間の8個のDNAヌクレオシドを含む。このLNA/DNAギャップマーは、マウスのβ-セクレターゼ1(beta-secretase 1、BACE1) mRNA(配列番号5)の1569~1581位に相補的である。LNA/DNAギャップマー(第1鎖)を相補鎖(第2鎖)とアニールさせることにより、3種の二本鎖剤(「オーバーハング」、「HDO」および「Toc-HDO」)を調製した。「オーバーハング」では、第2鎖は、第1鎖と相補的な領域の5'末端側に13塩基長のオーバーハング領域を有する。「HDO」では、第2鎖は第1鎖と完全に相補的である。「Toc-HDO」では、第2鎖は、第1鎖と完全に相補的な鎖の5'末端に結合したトコフェロールを有する。実施例12で用いたポリヌクレオチドの配列、化学修飾および構造は、表1および
図25に示す。二本鎖剤は実施例1と同様に調製した。
【0129】
(in vivo実験)
7週齢雌のICRマウスを、2.5~4%イソフルレン麻酔下にて脳定位固定装置に固定した。その後、耳間に前後2~3cmで皮膚を切開し、ブレグマ(bregma)の1mm左方かつ0.2mm後方に1mm径ドリルで穿孔した。ハミルトン(Hamilton)シリンジ内に核酸剤を充填した。穿孔部より針を3mm程度刺入し、2~3μl/分の速度で、マウス1匹あたり6または12μmolの用量で核酸剤を脳室内投与し(
図26aおよび26bに結果を示す実験ではn=4~5、
図26cに結果を示す実験ではn=3)、ナイロン糸で皮膚縫合した。注射7日後にマウスを安楽死させ、左側の海馬を採取した。その後、BACE1 mRNA発現解析を、BACE1 mRNAを定量するために定量的RT-PCRで使用したプライマーを除いて、実施例1に記載したとおりに行った。
【0130】
(結果)
実施例12の結果は、
図26のグラフに示される。マウス1匹あたり6μmol(
図26a)および12μmol(
図26b)の両方の投与量において、本発明の一実施形態に係る二本鎖剤(「オーバーハング」)によって得られた阻害度は、一本鎖ASOよりも大きく、その差は統計的に有意であった。また、マウス1匹あたり12μmolの投与量において、オーバーハング領域の無い「HDO」および「Toc-HDO」によって得られた阻害度は、一本鎖ASOと同等であった(
図26c)。
この結果から、静脈内投与だけでなく脳室内投与によっても本発明に係る核酸複合体は生体内に効率的に送達され、アンチセンス効果をもたらすことが示された。また、本発明に係る核酸複合体は、従来公知の二本鎖剤よりも優れた効果をもたらし得ることが示された。
【0131】
[実施例13]
実施例1~12で用いた標的遺伝子とは異なるPTEN(Phosphatase and Tensin Homolog Deleted from Chromosome 10) mRNAを標的とする、本発明の一実施形態による二本鎖核酸剤の有用性を、国際公開第2014/192310号に記載される発明の一実施形態と比較して検証するin vivo実験を行った。対照(ASO)は、16merの一本鎖LNA/DNAギャップマーとした。このLNA/DNAギャップマーは、5'末端の3個および3'末端の3個のLNAヌクレオシド、ならびにそれらの間の10個のDNAヌクレオシドを含む。このLNA/DNAギャップマーは、マウスのPTEN mRNA(配列番号6)の59~74位に相補的である。LNA/DNAギャップマー(第1鎖)を相補鎖(第2鎖)とアニールさせることにより、二本鎖剤(「オーバーハング」)を調製した。また、マウスPTEN mRNA(配列番号6)の59~74位に相補的な配列の3'末端側に13塩基長の二重鎖核酸構造を有する「HCDO」を調製した。「HCDO」は、国際公開第2014/192310号に記載される発明の一実施形態である。実施例13で用いたポリヌクレオチドの配列、化学修飾および構造は、表1および
図27に示す。二本鎖剤は実施例1と同様に調製した。
【0132】
(in vivo実験)
核酸剤を、マウスにそれぞれ尾静脈を通じて5.89nmol/kgの量(n=5)で静脈内注射した。用いたマウスおよびRNA発現の解析方法は、PTEN mRNAを定量するために定量的RT-PCRで使用したプライマーを除いて、実施例1に記載したとおりである。
【0133】
(結果)
実施例13の結果は、
図28のグラフに示される。本発明の一実施形態に係るオーバーハング領域を有する二本鎖剤(「オーバーハング」)により得られたPTEN mRNAの阻害度は、「ASO」および「HCDO」の場合よりも大きく、その差は統計的に有意であった。
この結果から、本発明に係る核酸複合体は、従来公知の二本鎖剤よりも優れた効果をもたらし得ることが示された。
【0134】
[実施例14]
一実施形態による二本鎖核酸剤の皮下投与における有用性を検証するin vivo実験を行った。標的は実施例1~6と同じApoB mRNAとした。対照(ASO)も実施例1~6と同じ一本鎖LNA/DNAギャップマーとした。LNA/DNAギャップマー(第1鎖)を相補鎖(第2鎖)とアニールさせることにより、二本鎖剤(「オーバーハング」)を調製した。二本鎖剤のオーバーハング領域は、13個のDNAヌクレオシドを有する。実施例14で用いたポリヌクレオチドの配列、化学修飾および構造は、表1および
図29に示す。二本鎖剤は実施例1と同様に調製した。
【0135】
(in vivo実験)
核酸剤を、マウスにそれぞれ0.173μmol/kgの量(n=4)で皮下注射により投与した。用いたマウスおよびApoB mRNA発現解析方法は実施例1に記載したとおりである。
【0136】
(結果)
実施例14の結果は、
図30のグラフに示される。2つの核酸試薬は共に、陰性対照(PBSのみ)と比較して、ApoB mRNAの発現の阻害を示した。二本鎖剤「オーバーハング」によって得られた阻害度は、一本鎖ASOによって得られた阻害度よりも大きく、その差は統計的に有意であった。
この結果から、皮下投与によっても本発明に係る核酸複合体は生体内に効率的に送達され、アンチセンス効果をもたらすことが示された。
【0137】
[実施例15]
実施例1~14とは異なる標的臓器(腎臓)における、本発明の一実施形態による二本鎖核酸剤の有用性を検証するin vivo実験を行った。標的RNAは実施例13と同じPTEN mRNAとした。実施例13と同じ一本鎖対照(ASO)および二本鎖剤(「オーバーハング」)を用いた。二本鎖剤は実施例1と同様に調製した。
【0138】
(in vivo実験)
核酸剤を、マウスにそれぞれ尾静脈を通じて5.65μmol/kgの量(n=4)で静脈内注射した。注射の72時間後、PBSをマウスに灌流させ、その後マウスを解剖して腎臓を摘出した。用いたマウスおよびRNA発現の解析方法は、PTEN mRNAを定量するために定量的RT-PCRで使用したプライマーを除いて、実施例1に記載したとおりである。
【0139】
(結果)
実施例15の結果は、
図31のグラフに示される。本発明の一実施形態による二本鎖剤(「オーバーハング」)により得られたPTEN mRNAの阻害度は、「ASO」の場合よりも大きく、その差は統計的に有意であった。
この結果から、本発明に係る核酸複合体は、一本鎖ASOと比較して腎臓においても優れたアンチセンス効果をもたらし得ることが示された。
【0140】
[実施例16]
実施例1~15とは異なる標的臓器または組織(副腎、骨格筋および肺)における、本発明の一実施形態による二本鎖核酸剤の有用性を検証するin vivo実験を行った。標的RNAは実施例7と同じSRB1 mRNAとした。実施例7と同じ一本鎖対照(ASO)および二本鎖剤(オーバーハング26mer、
図17b参照)を用いた。二本鎖剤は実施例1と同様に調製した。
【0141】
(in vivo実験)
核酸剤を、マウスにそれぞれ尾静脈を通じて7.02μmol/kgの量(n=4)で静脈内注射した。注射の72時間後、PBSをマウスに灌流させ、その後マウスを解剖して左副腎、左大腿四頭筋(骨格筋)、および左肺を摘出した。用いたマウスおよびRNA発現の解析方法は、SRB1 mRNAを定量するために定量的RT-PCRで使用したプライマーを除いて、実施例1に記載したとおりである。
【0142】
(結果)
実施例16の結果は、
図32のグラフに示される。本発明の一実施形態による二本鎖剤(「オーバーハング」)により得られたSRB1 mRNAの阻害度は、「ASO」の場合よりも大きく、その差は統計的に有意であった。
この結果から、本発明に係る核酸複合体は、一本鎖ASOと比較して副腎、筋肉、および肺においても優れたアンチセンス効果をもたらし得ることが示された。
【0143】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
【配列表】