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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-25
(45)【発行日】2022-09-02
(54)【発明の名称】フィリング用油中水型乳化油脂組成物
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20220826BHJP
   A23D 7/01 20060101ALI20220826BHJP
   A23D 9/013 20060101ALI20220826BHJP
   A23L 9/20 20160101ALI20220826BHJP
【FI】
A23D7/00 508
A23D7/01
A23D9/013
A23L9/20
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018004082
(22)【出願日】2018-01-15
(65)【公開番号】P2018113961
(43)【公開日】2018-07-26
【審査請求日】2020-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2017004839
(32)【優先日】2017-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000165284
【氏名又は名称】月島食品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【識別番号】100145920
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】宮本 薫
【審査官】吉海 周
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-050351(JP,A)
【文献】特開2016-111985(JP,A)
【文献】特開2000-253816(JP,A)
【文献】特開2009-034082(JP,A)
【文献】特開2015-139428(JP,A)
【文献】特開平08-000170(JP,A)
【文献】特開昭59-071643(JP,A)
【文献】特開2013-132273(JP,A)
【文献】特開2006-273925(JP,A)
【文献】特開2001-008617(JP,A)
【文献】米国特許第06146672(US,A)
【文献】特開2011-193734(JP,A)
【文献】特開2009-232733(JP,A)
【文献】特開2011-205938(JP,A)
【文献】田尻明日香ほか,低脂肪スプレッドの解乳化に有機酸モノグリセリドが与える影響,日本調理科学会誌,2000年,33(3),333-338
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
A23L 9/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベーカリー製品にトッピング、注入、塗布、又はサンドにより添えられる副食材であるフィリング用油中水型乳化油脂組成物であって、
ポリグリセリン脂肪酸エステル及び有機酸モノグリセリドからなる群から選ばれる1種又は2種以上の乳化剤を含有し、
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルにおける脂肪酸残基の80質量%以上がパルミチン酸及びステアリン酸であり、ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLB値が10以上であり、
前記有機酸モノグリセリドが、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、ヨウ素価10以下の酢酸モノグリセリドからなる群から選ばれる1種又は2種以上の有機酸モノグリセリドであり、
水の含有量が5~35質量%であり、両親媒性蛋白質を含有する、前記油中水型乳化油脂組成物(但し、固体粉末を含有するものは除く)
【請求項2】
0.005~0.2質量%のジアセチル酒石酸モノグリセリドを含有する、請求項1に記載のフィリング用油中水型乳化油脂組成物(但し、固体粉末を含有するものは除く)
【請求項3】
0.005~1質量%のクエン酸モノグリセリドを含有する、請求項1に記載のフィリング用油中水型乳化油脂組成物(但し、固体粉末を含有するものは除く)
【請求項4】
0.02~0.5質量%のヨウ素価10以下の酢酸モノグリセリドを含有する、請求項1に記載のフィリング用油中水型乳化油脂組成物(但し、固体粉末を含有するものは除く)
【請求項5】
0.005~3質量%のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する、請求項1に記載のフィリング用油中水型乳化油脂組成物(但し、固体粉末を含有するものは除く)
【請求項6】
ポリグリセリン脂肪酸エステル及び有機酸モノグリセリドからなる群から選ばれる1種又は2種以上の乳化剤を含有し、水の含有量が5~35質量%である、ベーカリー製品にトッピング、注入、塗布、又はサンドにより添えられる副食材であるフィリング用油中水型乳化油脂組成物(但し、固体粉末を含有するものは除く)を調製するための油脂組成物であって、
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルにおける脂肪酸残基の80質量%以上がパルミチン酸及びステアリン酸であり、ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLB値が10以上であり、
前記有機酸モノグリセリドが、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、ヨウ素価10以下の酢酸モノグリセリドからなる群から選ばれる1種又は2種以上のモノグリセリドである、前記油脂組成物。
【請求項7】
0.005~0.7質量%のジアセチル酒石酸モノグリセリドを含有する、請求項に記載の油脂組成物。
【請求項8】
0.005~3.5質量%のクエン酸モノグリセリドを含有する、請求項又はに記載の油脂組成物。
【請求項9】
0.02~2質量%のヨウ素価10以下の酢酸モノグリセリドを含有する、請求項のいずれかに記載の油脂組成物。
【請求項10】
0.005~10質量%のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する、請求項のいずれかに記載の油脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口に含んだときに油性感がなく、良好な口溶けを示し、糖、乳製品、その他の呈味成分の風味を感じさせるフィリング用油中水型乳化油脂組成物、及び当該油中水型乳化油脂組成物を調製するための油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
バター、マーガリン、ファットスプレッド、バタークリーム等の食品用油中水型乳化油脂組成物は、食品分野で広く利用されている。これらの食品用油中水型乳化油脂組成物の連続相は油相であるから、これらの食品用油中水型乳化油脂組成物を口に含んだときには油性感があり、また、これらの食品用油中水型乳化油脂組成物の口溶けが悪く、油中水型乳化油脂組成物の水相に含まれる呈味成分(糖類、乳製品、ジャム類、塩類、酸味料、香料等)の味を感じにくいという問題があった。
【0003】
そこで、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル及びHLB8以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する、口に含んだときに速やかに油中水型から水中油型に転相し、口溶け、油性感が良好である油中水型食品が検討された(例えば、特許文献1参照)。また、水相中に乳蛋白質を0.001~2.5質量%及び乳清ミネラルを固形分として0.001~10質量%含有し、油相中に主要構成脂肪酸が不飽和であり、HLBが9以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する、良好な口溶けを示す油中水型クリームが検討された(例えば、特許文献2参照)。これらの油中水型クリームは口溶け、油性感が良好であるが、油中水型クリームについて更なる口溶け、油性感の改善が求められている。
【0004】
さらに、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド等の有機酸モノグリセリドと乳蛋白質との複合体、油脂、乳固形分及び水が混合され、脂肪酸分解酵素、蛋白質分解酵素及び乳糖分解酵素からなる群から選ばれる1種又は2種以上を作用させ、分解処理した酵素分解処理物を含有する乳化油脂組成物が検討された(例えば、特許文献3参照)。これらの乳化油脂組成物の一形態であるマーガリン、ファットスプレッド等の油中水型油脂組成物は、菓子、パン等の食品用生地に練り込んで使用され得るが、直接口に含まれるフィリング用途ではなかった。また、これらの油脂組成物に関する発明は、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド等の有機酸モノグリセリドと乳蛋白質との複合体を酵素処理することにより、優れた乳風味を有する酵素分解処理物を得ることを目的とした発明であり、油中水型乳化油脂組成物に添加された糖、乳製品、その他の呈味成分の風味をより強く感じさせる効果に関しては何ら示唆されておらず、また、これらの油脂組成物の製造方法は、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド等の有機酸モノグリセリドと乳蛋白質との複合体を調製するための煩雑な工程を含んでいた。
【0005】
直接口に含まれるフィリング用油中水型油脂組成物として、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有し、油相が60重量%以下であって、36℃付近における電気伝導度が300秒以内に0.2mS/cm以上に上昇するスプレッド(例えば、特許文献4参照)、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有し、脂肪率40重量%以下であって、36℃付近における電気伝導度が300秒以内に0.1mS/cm以上に上昇するスプレッド(例えば、特許文献5参照)が検討された。これらのスプレッドの水の比率は比較的高く、したがって、これらのスプレッドは油中水型構造を保つために、乳化力が強いポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを必須成分としている。また、糖、その他の呈味成分のこれらのスプレッドへの配合により、配合成分の風味をより強く感じさせる効果は検討されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-193734号公報
【文献】特開2009-195161号公報
【文献】特開平11-28057号公報
【文献】国際公開第99/27797号パンフレット
【文献】国際公開第99/15025号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、口に含んだときに油性感がなく、良好な口溶けを示し、糖、乳製品、その他の呈味成分の風味を感じさせるフィリング用油中水型乳化油脂組成物が望まれていたが、このようなフィリング用油中水型乳化油脂組成物は提供されていなかった。本発明の課題は、口に含んだときに油性感がなく、良好な口溶けを示し、糖、乳製品、その他の呈味成分の風味を感じさせるフィリング用油中水型乳化油脂組成物を提供することにある。さらに、本発明の別の課題は、当該油中水型乳化油脂組成物を調製するための油脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために、フィリング用油中水型乳化油脂組成物に乳化剤として含有される化合物を鋭意検討した。その結果、一定量以上の飽和脂肪酸がエステル結合するポリグリセリン脂肪酸エステル、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリド、ヨウ素価が10以下の酢酸モノグリセリドからなる群から選ばれる1種又は2種以上の乳化剤を含有し、水の含有量が5~35質量%であるフィリング用油中水型乳化油脂組成物が、口に含んだときに油性感がなく、良好な口溶けを示し、糖、乳製品、その他の呈味成分の風味を感じさせることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
[1]ポリグリセリン脂肪酸エステル及び有機酸モノグリセリドからなる群から選ばれる1種又は2種以上の乳化剤を含有するフィリング用油中水型乳化油脂組成物であって、ポリグリセリン脂肪酸エステルにおける脂肪酸残基の80質量%以上が飽和脂肪酸であり、有機酸モノグリセリドが、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリド、ヨウ素価10以下の酢酸モノグリセリドからなる群から選ばれる1種又は2種以上の有機酸モノグリセリドであり、水の含有量が5~35質量%であるフィリング用油中水型乳化油脂組成物、
[2]0.005~0.2質量%のジアセチル酒石酸モノグリセリドを含有する、[1]に記載のフィリング用油中水型乳化油脂組成物、
[3]0.005~1質量%のクエン酸モノグリセリドを含有する、[1]又は[2]に記載のフィリング用油中水型乳化油脂組成物、
[4]0.02~1.5質量%のコハク酸モノグリセリドを含有する、[1]~[3]のいずれかに記載のフィリング用油中水型乳化油脂組成物、
[5]0.02~0.5質量%のヨウ素価10以下の酢酸モノグリセリドを含有する、[1]~[4]のいずれかに記載のフィリング用油中水型乳化油脂組成物、
[6]ポリグリセリン脂肪酸エステルに結合する脂肪酸残基の80質量%以上がパルミチン酸及びステアリン酸であり、ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLB値が10以上である、[1]~[5]のいずれかに記載のフィリング用油中水型乳化油脂組成物、
[7]0.005~3質量%のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する、[1]~[6]のいずれかに記載のフィリング用油中水型乳化油脂組成物、
[8]更に、両親媒性蛋白質を含有する、[1]~[7]のいずれかに記載のフィリング用油中水型乳化油脂組成物に関する。
【0010】
更に、本発明は、
[9]ポリグリセリン脂肪酸エステル及び有機酸モノグリセリドからなる群から選ばれる1種又は2種以上の乳化剤を含有し、水の含有量が5~35質量%であるフィリング用油中水型乳化油脂組成物を調製するための油脂組成物であって、ポリグリセリン脂肪酸エステルにおける脂肪酸残基の80質量%以上が飽和脂肪酸であり、有機酸モノグリセリドが、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリド、ヨウ素価10以下の酢酸モノグリセリドからなる群から選ばれる1種又は2種以上の有機酸モノグリセリドである、油脂組成物、
[10]0.005~0.7質量%のジアセチル酒石酸モノグリセリドを含有する、[9]に記載の油脂組成物、
[11]0.005~3.5質量%のクエン酸モノグリセリドを含有する、[9]又は[10]に記載の油脂組成物、
[12]0.02~5質量%のコハク酸モノグリセリドを含有する、[9]~[11]のいずれかに記載の油脂組成物、
[13]0.02~2質量%のヨウ素価10以下の酢酸モノグリセリドを含有する、[9]~[12]のいずれかに記載の油脂組成物、
[14]0.005~10質量%のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する、[9]~[13]のいずれかに記載の油脂組成物に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のフィリング用油中水型乳化油脂組成物は口に含んだときに油性感がなく、良好な口溶けを示し、糖、乳製品、その他の呈味成分の風味を感じさせるものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のフィリング用油中水型乳化油脂組成物は、ポリグリセリン脂肪酸エステル及び有機酸モノグリセリドからなる群から選ばれる1種又は2種以上の乳化剤を含有する。当該ポリグリセリン脂肪酸エステルにおける脂肪酸残基の80質量%以上、好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上が飽和脂肪酸である。当該ポリグリセリン脂肪酸エステルにおける飽和脂肪酸残基の含有割合が80質量%未満であると、フィリング用油中水型乳化油脂組成物は良好な口溶けを示さず、糖、乳製品、その他の呈味成分の風味を感じさせない。
【0013】
当該飽和脂肪酸残基の飽和脂肪酸は特定の脂肪酸に限定されない。当該飽和脂肪酸の具体例は、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸である。好ましい当該飽和脂肪酸はラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸であり、より好ましくはパルミチン酸、ステアリン酸である。
【0014】
当該ポリグリセリン脂肪酸エステルの好ましいHLB値は10以上、特に好ましい当該HLB値は12以上である。本発明のフィリング用油中水型乳化油脂組成物における当該ポリグリセリン脂肪酸エステルの好ましい含有量は0.005~3質量%であり、より好ましい含有量は0.01~2質量%であり、更に好ましい含有量は0.01~1質量%である。
【0015】
本発明のフィリング用油中水型乳化油脂組成物が含有する有機酸モノグリセリドは、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリド、ヨウ素価10以下の酢酸モノグリセリドからなる群から選ばれる1又は2以上のモノグリセリドである。
【0016】
これらの有機酸モノグリセリドにおける脂肪酸は特定の脂肪酸に限定されない。当該脂肪酸の具体例は、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等の飽和脂肪酸;パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、イコセン酸、イコペンタエン酸、エルカ酸等の不飽和脂肪酸である。好ましい脂肪酸は、パルミチン酸、ステアリン酸であり、より好ましい脂肪酸はステアリン酸である。
【0017】
本発明のフィリング用油中水型乳化油脂組成物におけるジアセチル酒石酸モノグリセリドの好ましい含有量は0.005~0.2質量%であり、より好ましい含有量は0.01~0.1質量%であり、更に好ましい含有量は0.01~0.05質量%である。
【0018】
本発明のフィリング用油中水型乳化油脂組成物におけるクエン酸モノグリセリドの好ましい含有量は0.005~1質量%であり、より好ましい含有量は0.01~0.8質量%であり、更に好ましい含有量は0.01~0.4質量%である。
【0019】
本発明のフィリング用油中水型乳化油脂組成物におけるコハク酸モノグリセリドの好ましい含有量は0.02~1.5質量%であり、より好ましい含有量は0.04~0.8質量%であり、更に好ましい含有量は0.04~0.4質量%である。
【0020】
本発明のフィリング用油中水型乳化油脂組成物におけるヨウ素価10以下の酢酸モノグリセリドの好ましい含有量は0.02~0.5質量%であり、より好ましい含有量は0.04~0.3質量%であり、更に好ましい含有量は0.04~0.15質量%である。
【0021】
ポリグリセリン脂肪酸エステル及び有機酸モノグリセリドからなる群から選ばれる2種以上の乳化剤を併用する場合、これらを単独で用いるときの風味を感じやすくする効果等を勘案してその含有量を決定できる。
【0022】
本発明のフィリング用油中水型乳化油脂組成物及び油脂組成物が含有する好ましい乳化剤は、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリドであり、より好ましい当該乳化剤はジアセチル酒石酸モノグリセリドである。ジアセチル酒石酸モノグリセリドを含有する本発明のフィリング用油中水型乳化油脂組成物の口溶けは極めて早く、特に糖、乳製品、その他の呈味成分の風味を感じさせやすい。更に、ジアセチル酒石酸モノグリセリドは一般的に安価である。
【0023】
本発明のフィリング用油中水型乳化油脂組成物及び油脂組成物は、前記の、エステル結合する脂肪酸残基の80質量%以上が飽和脂肪酸であるポリグリセリン脂肪酸エステル、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリド、ヨウ素価10以下の酢酸モノグリセリド以外にも、本発明の効果を損なわない範囲で、乳化安定性、クリーミング性、抱蜜性を向上させる目的等で従来から用いられる乳化剤を含有できる。こうした乳化剤の具体例は、大豆レシチン、卵黄レシチン、大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン、グリセリンモノ脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド等である。風味低下の防止の観点から、本発明のフィリング用油中水型乳化油脂組成物及び油脂組成物の一態様は、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含まないか、0.005重量%より少ない量を含む。
【0024】
一般的に、食品分野におけるフィリングは、パン、菓子等のベーカリー製品のような基材となる食品にトッピング、注入、塗布、サンド等により添えられる副食材である。本発明のフィリング用油中水型油脂組成物は、フィリングとして用いられるマーガリン、ファットスプレッド、バタークリームを包含する。上記マーガリンは油脂含有量80%以上、ファットスプレッドは油脂含有量80%未満であり、糖類、乳製品、ジャム類、塩類、酸味料、調味料、香料等の呈味成分を含む水相が、油相と混合、乳化されている油中水型乳化油脂組成物である。上記バタークリームは、水を含むマーガリン、ファットスプレッド、あるいは実質的に水を含まない可塑性油脂組成物(ショートニング)に糖類、乳製品、ジャム類、塩類、酸味料、調味料、香料等の呈味成分や水を分散又は乳化させた油中水型乳化油脂組成物である。上記呈味成分は、水の含有量を目的の範囲に調整する意味で、炭水化物を含有する呈味成分(ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖等の糖類;ソルビトール、マルチトール、還元水飴、エリスリトール等の糖アルコール類;水飴;異性化糖;ジャム;マーマレード;加糖練乳;ミルクジャム等)であることが好ましい。
【0025】
本発明の油脂組成物は、糖類、乳製品、ジャム類、塩類、酸味料、調味料、香料等の呈味成分や水を分散又は乳化させたフィリング用油中水型乳化油脂組成物を構成するために用いるマーガリン、ファットスプレッド、可塑性油脂組成物又は可塑性のない油脂組成物であってよい。前記の可塑性のない油脂組成物として、マーガリン、ファットスプレッドを製造する際に油相に用いるための油脂組成物が例示される。
【0026】
本発明の油脂組成物はポリグリセリン脂肪酸エステル及び有機酸モノグリセリドからなる群から選ばれる1種又は2種以上の乳化剤を含有する。当該ポリグリセリン脂肪酸エステルにおける脂肪酸残基の80質量%以上、好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上は飽和脂肪酸である。当該ポリグリセリン脂肪酸エステルにおける飽和脂肪酸残基の含有割合が80質量%未満であると、当該油脂組成物から調製されたフィリング用油中水型乳化油脂組成物は良好な口溶けを示さず、糖、乳製品、その他の呈味成分の風味を感じさせない。
【0027】
当該飽和脂肪酸残基の飽和脂肪酸は特定の脂肪酸に限定されない。当該飽和脂肪酸の具体例は、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸である。好ましい当該飽和脂肪酸はラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸であり、より好ましくはパルミチン酸、ステアリン酸である。
【0028】
当該ポリグリセリン脂肪酸エステルの好ましいHLB値は10以上、特に好ましい当該HLB値は12以上である。本発明のフィリング用油中水型乳化油脂組成物を調製するための油脂組成物における当該ポリグリセリン脂肪酸エステルの好ましい含有量は、0.005~10質量%であり、より好ましい含有量は0.01~7質量%である。
【0029】
本発明のフィリング用油中水型乳化油脂組成物を調製するための油脂組成物におけるジアセチル酒石酸モノグリセリドの好ましい含有量は0.005~0.7質量%であり、より好ましい含有量は0.01~0.35質量%である。
【0030】
本発明のフィリング用油中水型乳化油脂組成物を調製するための油脂組成物におけるクエン酸モノグリセリドの好ましい含有量は0.005~3.5質量%であり、より好ましい含有量は0.01~3質量%である。
【0031】
本発明のフィリング用油中水型乳化油脂組成物を調製するための油脂組成物におけるコハク酸モノグリセリドの好ましい含有量は0.02~5質量%であり、より好ましい含有量は0.04~3質量%である。
【0032】
本発明のフィリング用油中水型乳化油脂組成物を調製するための油脂組成物におけるヨウ素価10以下の酢酸モノグリセリドの好ましい含有量は0.02~2質量%であり、より好ましい含有量は0.04~1質量%である。
【0033】
本発明のフィリング用油中水型乳化油脂組成物は両親媒性蛋白質を含有してよい。両親媒性蛋白質は油相と水相に配向する蛋白質である。両親媒性蛋白質として、カゼイン、カゼインの塩又はホエー蛋白質を主成分とする乳蛋白質、卵由来の卵黄蛋白質、卵由来の卵白蛋白質、大豆蛋白質、小麦蛋白質、エンドウ豆蛋白質、これらの加工品が例示される。風味の観点から、好ましい両親媒性蛋白質は乳蛋白質である。
【0034】
両親媒性蛋白質は、本発明のフィリング用油中水型乳化油脂組成物にフレーバーリリース効果を付与するが、その含有量が多すぎると、加熱殺菌工程で焦げつきを起こしやすくする。本発明のフィリング用油中水型乳化油脂組成物における両親媒性蛋白質の好ましい含有量は0.03~2.0質量%である。
【0035】
本発明のフィリング用油中水型乳化油脂組成物及び油脂組成物は食用油脂を含む。当該食用油脂は特定の油脂に制限されず、なたね油、サフラワー油、オリーブ油、綿実油、コーン油、こめ油、大豆油、ヒマワリ油、パーム油、パーム軟質油、パーム核油、ヤシ油等の植物性油脂;ラード、牛脂、乳脂、魚油等の動物性油脂;及びそれらの水素添加油、分別油、エステル交換油を包含する。その他、健康、ヘルシーなどの栄養特性を有する油脂、例えば中鎖脂肪酸含有油脂などが使用されてもよい。これらの油脂は単独で、又は2種以上が配合されて用いられる。油相の好ましい融点は20℃以上であり、更に好ましくは25℃以上である。
【0036】
本発明のフィリング用油中水型乳化油脂組成物の油相部の含有量が少なくなると、本発明のフィリング用油中水型乳化油脂組成物は口溶けがより早くなり、糖、乳製品、その他の呈味成分の風味を感じさせやすい傾向がある。本発明のフィリング用油中水型乳化油脂組成物の油相部の含有量は、好ましくは30~97質量%であり、より好ましくは30~85質量%であり、更に好ましくは30~60質量%である。本発明のフィリング用油中水型乳化油脂組成物の水相部の含有量は、好ましくは3~70質量%であり、より好ましくは15~70質量%であり、更に好ましくは40~70質量%である。
【0037】
本発明のフィリング用油中水型乳化油脂組成物の水の含有量は5~35質量%であり、好ましくは10~30質量%であり、更に好ましくは15~25質量%である。本発明の油脂組成物の水の含有量は0~35質量%であり、好ましくは5~30質量%であり、更に好ましくは10~25質量%である。
【0038】
本発明のフィリング用油中水型乳化油脂組成物は炭水化物を含有することが好ましい。炭水化物を含有することで水相部における水の含有量を目的の範囲とすることが容易になる。炭水化物には、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、乳糖などの単糖類、二糖類からなる糖類、ソルビトール、マルチトールなどの糖アルコール、オリゴ糖、多糖類、食物繊維が含まれ、特に糖類又は糖アルコールを主成分とすることが好ましい。本発明のフィリング用油中水型乳化油脂組成物の炭水化物の含有量は、好ましくは0~53重量%であり、より好ましくは7.5~53重量%であり、更に好ましくは15~50重量%であり、最も好ましくは20~40重量%である。
【0039】
本発明において、特定の乳化剤がどのような作用機序で効果を発揮しているのかは定かではない。しかし、本発明のフィリング用油中水型乳化油脂組成物が、水に分散しやすい傾向がみられる。本発明のフィリング用油中水型乳化油脂組成物は口中で唾液に分散されて、水中油型に転相し、口中で油性感がなく、口溶けが良好で、糖、乳製品、その他の呈味成分の風味を感じさせやすいと考えられる。
【0040】
本発明のフィリング用油中水型乳化油脂組成物の調製方法は、特定の方法に限定されない。当該調製方法は、上記特定のポリグリセリン脂肪酸エステル及び有機酸モノグリセリドから選ばれる1種又は2種以上の乳化剤が食用油脂に添加され、公知の方法で油脂中に均一に溶解又は分散される工程を含んでいてよい。さらに、本発明のフィリング用油中水型油脂組成物は、本発明のフィリング用油中水型油脂組成物を調製するための油脂組成物、呈味成分、水等が配合されて、本発明のフィリング用油中水型油脂組成物を調製するための油脂組成物が1.03~3.5倍に希釈されて調製されてもよい。
【0041】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されない。調製されたフィリング用油中水型乳化油脂組成物の風味は以下のとおりに評価された。
【0042】
(1)加糖ファットスプレッドの風味の評価
10名のパネラーが調製された加糖ファットスプレッドを食し、甘味及び乳風味を以下の5段階の基準に従って評価し、スコアの平均を四捨五入して評価点とした。
1…風味をとても感じにくい、2…風味を感じにくい、3…風味を感じやすい、4…風味をとても感じやすい、5…風味を最も感じやすい
評価にあたっては、後述の比較例1をスコア「1」、予備試験で評価の高かった実施例10をスコア「5」の基準とした。
【0043】
(2)バタークリームの風味の評価
10名のパネラーが調製されたバタークリームを食し、甘味及び乳風味の強さを、強い順に3、2、1の3段階で評価し、平均点を算出した。2.5以上3以下をexcellent、2以上2.5未満をgood、1以上2未満をfairとした。評価にあたっては比較例9を3段階の「1」の基準とした。
【0044】
フィリング用油中水型乳化油脂組成物に添加されている乳化剤とそれらの乳化剤の構成脂肪酸が表1に示されている。脂肪酸組成の分析は基準油脂分析試験法2.1.1.3-2013の方法に準じて行い、炭素数6以上の脂肪酸について定量した。乳化剤Bがクエン酸モノグリセリドであることをカタログで確認し、その脂肪酸組成を分析しなかった。
【0045】
【表1】
【0046】
実施例1~8及び比較例1~8
なたね油とエステル交換油(原料はパーム核油及びパーム油)を質量比3:7で混合して油脂を調製した。0.4質量部の不飽和モノグリセリド(花王(株)製エキセルO-95R)、0.1質量部の大豆レシチン(辻製油(株)製)及び0.04質量部の表2に示される乳化剤A~E、H~J、N又はOを、52.96質量部の約70℃に加温した油脂に溶解し、油相を得た。一方、25質量部の水飴(水分含有量29.5質量%、炭水化物含有量70.5質量%)、10質量部の砂糖・異性化液糖(水分含有量24.5質量%、炭水化物含有量75.5質量%)、5質量部の加糖練乳(水分含有量26質量%、炭水化物含有量56.1質量%)、6.5質量部の水及び0.04質量部の表2に示される乳化剤F、G、K、L又はMを混合し、水相を得た。当該水相を当該油相に添加し、約60℃で攪拌し、その後、0.1質量部のミルクフレーバーを添加した。得られた混合物を冷却しながら練り、フィリング用油中水型乳化油脂組成物である加糖ファットスプレッドを調製した。各加糖ファットスプレッドの水含有量と風味の評価を表2及び3に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
実施例9~33
油脂と乳化剤の量を表4~7に示すとおりに代える以外、実施例1~8と同様にして加糖ファットスプレッドを調製し、各加糖ファットスプレッドの風味と臭いを評価した。結果を表4~7に示す。
【0050】
【表4】
【0051】
【表5】
【0052】
【表6】
【0053】
【表7】
【0054】
実施例34及び35、比較例9
なたね油、エステル交換油(原料はパーム核油及びパーム油)、パーム核極度硬化油が質量比30:65:5で混合された油脂を調製した。0.3質量部の不飽和モノグリセリド(花王(株)製エキセルO-95R)、0.2質量部の大豆レシチン(辻製油(株)製)及び表8に示される質量の乳化剤Cを、表8に示される質量の約70℃に加温された油脂に溶解し、油相を得た。次に、表8に示される質量の乳化剤Gを約60℃に加温した19.22質量部の水に溶解し水相を得た。当該水相を当該油相に添加して撹拌、乳化を行い、得られた混合物を冷却しながら練り、ベースマーガリンを調製した。その後、29.98質量部の水飴(水分含有量29.5質量%、炭水化物含有量70.5質量%)、10質量部の砂糖・異性化液糖(水分含有量24.5質量%、炭水化物含有量75.5質量%)、10質量部の加糖練乳(水分含有量26質量%、炭水化物含有量56.1質量%)及び0.1質量部のミルクフレーバーを、ホバートミキサーのワイヤーホイッパーで軽く撹拌したベースマーガリンに添加し、更にホバートミキサーのワイヤーホイッパーで撹拌し、バタークリームを調製した。調製されたバタークリームの風味を上記方法に従って評価した。各結果を表8に示す。
【0055】
【表8】
【0056】
実施例36~51
なたね油とエステル交換油(原料はパーム核油及びパーム油)を質量比3:7で混合して油脂を調製した。0.4質量部の不飽和モノグリセリド(花王(株)製エキセルO-95R)、0.1質量部の大豆レシチン(辻製油(株)製)及び0.04質量部の表9及び10に示される乳化剤を、52.96質量部の約60℃に加温した油脂に溶解し、油相を得た。次に、表9及び10に示される質量の水飴(水分含有量29.5質量%、炭水化物含有量70.5質量%)、10質量部の砂糖・異性化液糖(水分含有量24.5質量%、炭水化物含有量75.5質量%)、表9及び10に示される質量の加糖練乳(水分含有量26質量%、炭水化物含有量56.1質量%)又は脱脂粉乳、分離大豆蛋白(ソレイ社製SUPRO710)、エンドウ豆蛋白(第一化成(株)製プロテインGP)及び表9及び10に示される質量の水を当該油相に添加し、約60℃で攪拌し、その後、0.1質量部のミルクフレーバーを添加した。得られた混合物を冷却しながら練り、フィリング用油中水型乳化油脂組成物である加糖ファットスプレッドを調製した。日本食品標準成分表2015年版(七訂)によると、加糖練乳中の乳蛋白質の質量は7.7g/100g、脱脂粉乳中の乳蛋白質の質量は34g/100gであり、加糖練乳又は脱脂粉乳の添加量から算出した各加糖ファットスプレッド中の乳蛋白質の質量を、各加糖ファットスプレッドの水含有量と風味の評価と共に表9及び10に示す。また、分離大豆蛋白については、製品の蛋白質含量を規格値(90%以上)を基に90%として、エンドウ豆蛋白については、製品の蛋白質含有量(84%)を基に、それぞれの添加量から蛋白質量を算出し、表9及び10に示す。なお、加糖練乳及び脱脂粉乳に含まれる乳蛋白質、分離大豆蛋白に含まれる大豆蛋白質、エンドウ豆蛋白に含まれるエンドウ豆蛋白質は両親媒性蛋白質である。
【0057】
【表9】
【0058】
【表10】
【0059】
実施例36~51の結果から、両親媒性蛋白質を含む加糖ファットスプレッドの風味は、両親媒性蛋白質を含まない加糖ファットスプレッドの風味より良い傾向がある。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のフィリング用油中水型乳化油脂組成物は、口中で油性感がなく、良好な口溶けを示し、糖、乳製品、その他の呈味成分の風味を感じさせる。そのため、本発明のフィリング用油中水型乳化油脂組成物は、食品用フィリングとして好適に使用される。