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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-25
(45)【発行日】2022-09-02
(54)【発明の名称】床免震システム
(51)【国際特許分類】
   E04F 15/18 20060101AFI20220826BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20220826BHJP
【FI】
E04F15/18 601B
F16F15/02 E
F16F15/02 L
E04F15/18 601L
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018008336
(22)【出願日】2018-01-22
(65)【公開番号】P2019127704
(43)【公開日】2019-08-01
【審査請求日】2020-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】安川 真知子
(72)【発明者】
【氏名】高木 政美
(72)【発明者】
【氏名】欄木 龍大
【審査官】山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-003371(JP,A)
【文献】特開2008-116039(JP,A)
【文献】登録実用新案第3183707(JP,U)
【文献】特開昭53-032925(JP,A)
【文献】特開2015-010377(JP,A)
【文献】特開2010-189998(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0107166(US,A1)
【文献】特開2003-269008(JP,A)
【文献】特開2008-232362(JP,A)
【文献】特開平09-184542(JP,A)
【文献】実開平06-037435(JP,U)
【文献】特開2007-225016(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 15/18
F16F 15/02
E04B 1/98
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の摩擦領域を備えた滑り免震を備えた床免震システムであって、低摩擦領域と高摩擦領域隣接配置されており、
それぞれの摩擦領域の滑り免震は、スラブ又は固定板からなる固定体と、該固定体の上面に設ける滑り性素材と、該滑り性素材の上面に設置される滑り床板とを備えており、
隣接する摩擦領域に間隙があって、当該間隙には、空隙及び/又は減衰材が配置されていることを特徴とする床免震システム。
【請求項2】
低摩擦領域から非免震領域に向けて段階的に高摩擦となる床領域を配置したことを特徴とする請求項1記載の床免震システム。
【請求項3】
滑り床板の下面に設けられた荷重支持部は、接地部が球面状であることを特徴とする請求項1又は2記載の床免震システム。
【請求項4】
摩擦領域を構成するすべり材は、表面加工によって摩擦性が調整されたすべり材であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の床免震システム。
【請求項5】
摩擦領域を構成するすべり材は、ビーズと潤滑剤の組合せによって摩擦性が調整されたすべり材であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の床免震システム。
【請求項6】
減衰材は、弾性体及び/又はゲル体であることを特徴とする請求項3~5のいずれかに記載の床免震システム。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の床免震システムを配置した床面がフラットであることを特徴とする部屋。
【請求項8】
請求項1~6のいずれかに記載の床免震システムを配置した部屋を設けたことを特徴とする建築物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床免震技術に関する。特に、試験設備や工場、薬品庫などにおける部分免震に関する。
【背景技術】
【0002】
床免震技術はいくつか提案されている。例えば、床が滑って、機器に入力される加速度を抑え、滑らない床に乗り上げて停止する機構を備えた免震方式(図7参照)などがある。
その他、いくつかの提案がなされている。
特許文献1 特開2015-10377号公報には、構造床と、構造床よりも上方に設けられた免震床と、構造床と免震床との間に設けられた免震装置と、を備えた床免震システムであって、免震装置は、免震床を免震支持する支承部と、構造床と免震床とが水平方向に相対変位することによる振動を減衰する減衰部材であって、所定変位よりも大きい変位で発生する減衰力が、所定変位以下の変位で発生する減衰力よりも大きいオイルダンパーを設けて、応答加速度を抑制する性能を保持しつつ過大な変形を防止する免震床システム(図8参照)が開示されている。
特許文献2 特開2008-106583号公報には、基礎3の上にそれぞれ剛滑り支承23あるいは転がり支承29を介して移動可能に支持された複数の重床体5、歩廊床体7および通常床体9と、隣り合う重床体5、歩廊床体7および通常床体9同士を相互に移動を許容し、横方向には移動を抑制するように連結する接合体11と、一部の重床体5、歩廊床体7および通常床体9と基礎3との間に介装され、復元を行うコイルばね13と、を備え、重床体5、歩廊床体7および通常床体9が複数の剛滑り支承23あるいは転がり支承29で支持されている場合には、それらは同一種類の剛滑り支承23あるいは転がり支承29によって構成された、微小振動の増幅を抑え、中小地震でも安定した免震性能を発揮できる床免震システムが開示されている。
特許文献3 特開2005-307695号公報には、柱5、5間に架設されたH形鋼からなる梁1上に、平面視方形状の床スラブ2が載置され、床スラブ2は梁1上を水平方向に摺動できるようになっている。床スラブ2と梁1…とは、天然ゴムからなる棒状または帯板状のゴムバンド3によって連結されており、ゴムバンド3の一端は、床スラブ2下面の隅角部に設けられて下方に突出する突起部2aに固定され、他端は梁1中央部の側面1aに固定されている。梁1の上面には、ポリ4フッ化エチレンからなる摩擦部材4が貼着され、床スラブ2の水平移動時の摩擦減衰力を調整するとともに、移動時の騒音を防止している。また、床スラブ2が水平方向に移動した際、柱5に衝突しないように、床スラブ2と柱5との取り合い部にはクリアランス6が設けられた、取替えも容易なうえ、床面の高さも変化しない床免震構造が開示されている。
特許文献4 特開平10-176380号公報には、建造物10の構造床11に床免震装置12を配置し、床免震装置12上に免震床13を配置する床免震装置の取付構造1において、構造床11に凹部15を形成し、凹部15内に床免震装置12を配置した、階高を低くすることが可能な床免震装置の取付構造が開示されている。
本発明では、機器直下の床は低摩擦のすべり材による免震とし、機器の周りに設置される作業床を高摩擦のすべり材および減衰材により構成することで、機器のまわりに壁がない場合においても減衰機構を付加でき、さらに作業床と機器直下の床との段差をなくすことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-10377号公報
【文献】特開2008-106583号公報
【文献】特開2005-307695号公報
【文献】特開平10-176380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、簡素な機構で機器や設備などの用途に応じた床免震システムを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明はすべり免震機構によって低摩擦領域と高摩擦領域を組み合わせて簡素な部分床免震システムを構成し、低摩擦領域から高摩擦領域へ順次当接させて、地震エネルギーの吸収をなだらかにする発明である。
(1)複数の摩擦領域を備えた滑り免震を備えた床免震システムであって、低摩擦領域と高摩擦領域隣接配置されており、
それぞれの摩擦領域の滑り免震は、スラブ又は固定板からなる固定体と、該固定体の上面に設ける滑り性素材と、該滑り性素材の上面に設置される滑り床板とを備えており、
隣接する摩擦領域に間隙があって、当該間隙には、空隙及び/又は減衰材が配置されていることを特徴とする床免震システム。
(2)低摩擦領域から非免震領域に向けて段階的に高摩擦となる床領域を配置したことを特徴とする(1)記載の床免震システム。
(3)滑り床板の下面に設けられた荷重支持部は、接地部が球面状であることを
特徴とする(1)又は(2)記載の床免震システム。
(4)摩擦領域を構成するすべり材は、表面加工によって摩擦性が調整されたすべり材であることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の床免震システム。
(5)摩擦領域を構成するすべり材は、ビーズと潤滑剤の組合せによって摩擦性が調整されたすべり材であることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の床免震システム。
(6)減衰材は、弾性体及び/又はゲル体であることを特徴とする(3)~(5)のいずれかに記載の床免震システム。
(7)(1)~(6)のいずれかに記載の床免震システムを配置した床面がフラットであることを特徴とする部屋。
(8)(1)~(6)のいずれかに記載の床免震システムを配置した部屋を設けたことを特徴とする建築物。
【発明の効果】
【0006】
1.本発明は、簡素な機構であるすべり免震機構を利用して摩擦性能が異なる低摩擦領域と高摩擦領域を組み合わせて床免震システム構成を実現した。低摩擦領域と高摩擦領域を設けることにより、低摩擦領域から高摩擦領域へ順次当接させて、地震エネルギーをなだらかにするので、低摩擦領域に設けた機器類のダメージが軽減する。
2.摩擦係数を段階的に複数設定することにより、地震エネルギーの吸収をよりなだらかにできる。摩擦係数は免震対象の機材に応じて設定できる。
高摩擦領域を作業員用の作業スペースや通路にして、中規模程度の地震では床面は固定あるいは微小な揺れに設定することにより、安全に地震対応措置をすることができる。
3.低摩擦領域と高摩擦領域の間に空隙及び/又は減衰材を設けることにより、受ける地震の大きさに応じて対応できる。さらに、摩擦領域の機能を何種類かに調整することで、地震の衝撃吸収を柔軟に受け止める機能を付加できる。
例えば、小地震では、低摩擦領域が空隙部分の巾内の振幅で吸収する。やや大きな地震では、減衰材までの圧縮で吸収し高摩擦領域は固定状態である。さらに、大きな地震の場合は、高摩擦領域まで移動して吸収する。さらに大きな地震では、固定領域で受け止める。固定領域と高摩擦領域の間に空隙のほか減衰材を介在させるとさらに細かに制御することができる。低摩擦領域と高摩擦領域の移行も中摩擦領域を設けて、摩擦係数をきめ細かくすることで、一層細かに制御することができる。
複数の摩擦領域を設けることにより、一つの免震機構で対処する場合よりも、空隙(クリアランス)を小さくできる。また、原点復帰機能および減衰機能を付加する場合、免震床周りに壁を必要としない。
非免震建物にも、容易に適用できる免震システムである。
4.ダンパーなどの機器類を使用せずに、摩擦係数をコントロールした滑り免震機構を用いることにより、薄くできて、固定されている通常の床面とレベルを同一あるいはレベル差を小さくできる。仕上げ床の下に機材を配置する必要もない。極めて簡素な機構で実現でき、利用性の低下も極めて少ない。摩擦の調整は、摩擦板の素材、摩擦面の粗面化処理、塗料などの付加剤、ビーズなどの球体、グリスなどの潤滑剤などを組み合わせて行う。
5.減衰材は、ゴム体やウレタンゴム、弾性発泡体、ゲル体など薄くできる材料を採用する。これにより高さを必要とする機械的な減衰機構を用いる必要はない。
6.本発明は、滑り免震機構を用いているので、薄くでき、免震床と作業床との間に段差がなくなり、フラットにできる。
7.本発明は、耐震では地震時に損傷が生じる可能性があるが,高性能な免震が要求されない個所や免震建物でもさらに衝撃を吸収する必要のある個所に適用できる。
例えば、半導体製造装置などの精密機器類、検査・測定装置、薬品棚、薬品庫などの設備や機器類を備えた部屋や建物に適している。
これらの設備や機器を据える個所を低摩擦領域とし、高摩擦領域を作業床や通路とすることにより、設備の床面と作業員用の床面がフラットに形成される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】多機能床免震の実施態様を示す図
図2】クリアランスを設けた多機能床免震の実施態様を示す図
図3】減衰材を設けた多機能免震の実施態様を示す図
図4】複数の多機能床免震システムを配置した部屋の模式図
図5】すべり免震機構の例
図6】すべり免震機構の例
図7】すべり床免震の従来例を示す図
図8】特許文献1記載の従来例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、簡素な機構であるすべり免震機構を利用して摩擦性能が異なる低摩擦領域と高摩擦領域を組み合わせた床免震システムである。上方の滑り床下方の固定板との間の滑り性を調整して低摩擦領域と高摩擦領域を設けて床免震システムを構成した。この構成によって、地震の際に低摩擦領域から高摩擦領域へ順次当接させて、地震エネルギーをなだらかに吸収して、低摩擦領域に設けた機器類のダメージを軽減する。
低摩擦領域と高摩擦領域の間に空隙や減衰材を配置することで、地震の衝撃を柔らかく吸収できる。さらに、摩擦領域を多段階に設定することにより、さらに地震の衝撃をなだらかに吸収できる。
本発明は、地震対策をしていない建物や、耐震建物などにも適用でき、薄くできる滑り免震機構であるので、フラットな床面を構成でき、作業性が悪化しない。
摩擦機構を調整する材料としては次のようなものがある。
滑り材料としては、エンボス加工した鋼板、微小凹凸形成鋼板、突起、点接触用突起、ビーズなどがある。
滑り素材としては、ポリアミド、ポリイミド、ウレタンアクリレート、黒鉛、グリスなどを利用できる。
減衰材は、弾性体や塑性変形する材料を使用する。弾性体としては、天然ゴムや樹脂製ゴムを利用する。例えば、ウレタンを利用することができる。塑性変形する材料は発泡体やガラス繊維充填プラスチックなどを利用できる。あるいは、ゲル体などを封入した袋等を利用することができる。
【0009】
本発明の実施態様1を図1に示す。
図示はスラブ5の上に直接免震機構を設けているが、単純化して表したもので、滑り免震機構は、2重床や仕上げ床面など、それぞれの設置環境に応じて設けられる。
スラブ5の上に低摩擦領域1と高摩擦領域2が隣接配置された多機能床免震システムAの例である。(a)図は立面図であり、(b)図は平面図である。
低摩擦領域1は、スラブ5の上に低摩擦滑り材11を配置しその上にすべり床板12を載せた構成である。高摩擦領域2は高摩擦滑り材21を配置しその上にすべり床板22を載せた構成である。
この低摩擦領域1には、機材・装置類6を設置する。高摩擦領域2は、作業員等7が作業や移動するスペースである。低摩擦滑り材11は高摩擦滑り材21よりも低摩擦に設定してある。
この例では、低摩擦領域1の滑り床板12が移動すると、高摩擦領域2に当接して停止あるいは衝撃が大きいと高摩擦領域2の滑り床板22が移動して衝撃を緩和する。
【0010】
本発明の実施態様2を図2に示す。
実施態様1の構成に加えて低摩擦領域1と高摩擦領域2との間にクリアランス(空隙)4を配置した構成である。
この例では、低摩擦領域1の滑り床板12が移動して、小規模な地震の衝撃はクリアランスの範囲内で停止する。さらに大きい衝撃を受けると、高摩擦領域2に当接して停止あるいは衝撃が大きいと高摩擦領域2の滑り床板22が移動して衝撃を緩和することとなる。
【0011】
本発明の実施態様3を図3に示す。
実施態様2の構成に加えて低摩擦領域1と高摩擦領域2との間に配置したクリアランス(空隙)4の高摩擦領域2側に減衰材3を配置し、さらに高摩擦領域2の外側にクリアランス4を配置した構成である。
この例では、低摩擦領域1の滑り床板12が移動して、小規模な地震の衝撃はクリアランスの範囲内で停止する。さらに大きい衝撃を受けると、減衰材3に当接して衝撃が吸収され、またさらに大きな地震衝撃は、高摩擦領域2に当接して停止あるいは衝撃が大きいと高摩擦領域2の滑り床板22が移動して衝撃を緩和することとなる。そして、さらに高摩擦領域2の外側のクリアランス4を衝撃が超えると、固定領域(非免震領域)9に伝わる。
このように地震の衝撃の大きさに応じて、何段階もに分けて、衝撃を緩和する床免震のシステムを構築する。
【0012】
なお、低摩擦領域1と高摩擦領域2の間には、クリアランス4を設けずに、減衰材3を配置することができる。その場合、低摩擦領域1を超える衝撃は減衰材3に伝わり、減衰材の能力で吸収できる範囲は減衰材の変形で抑えられ、それを超える衝撃が高摩擦領域2に伝わって、調整される。
【0013】
実施態様4を図4に示す。図4は、工場や建造物に多機能床免震システムAを複数配置した多機能免震床システム部屋Bを模式的に表している。
本例では、対象とする機器や設備に応じて設定した4つの多機能床免震システムAが配置されている。このように、必要に応じて適宜多機能床免震システムAを設計して配置することができる。
【0014】
<すべり免震機構の例>
すべり免震機構の例を図5に示す。図5(a)はビーズ・グリス摩擦調整機構81、図(b)は滑り面機構82、(c)はエンボス機構83、(d)は滑り性素材付着機構84を示している。これらの滑り免震機構は、いずれも薄くすることができるので、床免震機構をほぼフラットに形成することができる。
図5(a)に示すビーズ・グリス摩擦調整機構81は、スラブ8bと滑り床板8aの間にビーズ81aによる滑り性とグリス81bによる抵抗を利用して滑り性能を調整する機構である。この機構を、下部筐体81cと上部筐体81dに装置した。下部筐体81cは上部筐体81dよりも大きくして、上部筐体81dの移動余裕を規定している。
スラブ8b等の上面に下部筐体81cを載せ、滑り床板8aの下面に上部筐体81dを固定し、下部筐体81cと上部筐体81dとの間にビーズ81aとグリス81bを封入してある。
ビーズ81aの転動性とグリス81bの粘性を組み合わせて、すべり抵抗性を調整する機構である。ビーズは樹脂製あるいは鋼製を採用し、小径にすることができる。上と下の筐体の大きさの差が衝撃の吸収差となる。上下の筐体の差を超える衝撃は、隣接する高摩擦領域で吸収する。
【0015】
図5(b)に示すすべり面機構82は、鋼板等82bの上に滑り素材82aを載せてその間を滑り面82cとする滑り機構を下のスラブ8bと滑り床板8aの間に介在させて構成する。滑り素材を選択して、滑り性を調整する方法である。
滑り素材は、ポリアミド、ポリイミド、ウレタンアクリレートなどを利用できる。
【0016】
図5(c)に示すエンボス機構83は、鋼板等をエンボス加工することにより点接触状態とした滑り面83cを利用する方法である。エンボスの程度によって、滑り性を調整する。
エンボス層83aを形成した鋼板等を滑り床板8aに固定し、スラブ8bとの間に介在させてエンボス機構83を構成する。
【0017】
図5(d)に示す滑り性素材付着機構は、上下に配置した下部鋼板等84bあるいは上部鋼板等に滑り性素材84aを付着させて、上下鋼板等の間に滑り面84cを形成する方法である。図5(d)に示す例は、スラブ8bの上に滑り性素材84aを付着させた下部鋼板等84bを載せ、滑り床板8aの下面に荷重支持部84dを形成した例である。荷重支持部84dと滑り性素材84aを付着した下部鋼板等84bとの間にすべり面84cが形成される。滑り素材は、ポリアミド、ポリイミド、ウレタンアクリレートなどである。付着する滑り素材を選択して調整する。
【0018】
図6に他の滑り機構の例を示す。
図6(a)は、黒鉛塗膜を利用した黒鉛潤滑(1)、図6(b)は黒鉛混入モルタルを利用した黒鉛潤滑(2)、図6(c)は、鋳鉄材荷重支持部87を利用する手段である。
これらの図示の例では、いずれも滑り床板8aの下面に荷重支持部を設けている。
黒鉛塗膜を利用した黒鉛潤滑(1)85は、スラブ8bの上に黒鉛膜層85aを設け、上部の滑り床板8aの下面に荷重支持部85bを設けて、黒鉛膜層85aと荷重支持部85bの間にすべり面85cを形成している。
黒鉛潤滑(2)86は、スラブ8bの上に黒鉛混入モルタル層86aを設け、上部の滑り床板8aの下面に荷重支持部86bを設けて、黒鉛混入モルタル層86aと荷重支持部86bの間に滑り面86cを形成している。
鋳鉄材荷重支持部87は、下面に鋳鉄材荷重支持部87bを設けた滑り床板8aを、スラブ8bの上に載せ、スラブ8bの上面を滑り面87cとした構成である。
【0019】
(減衰材)
減衰材は、弾性体や塑性変形する材料を使用する。ゴム弾性体を使用すると、圧縮と反発があるので、地震の衝撃による押圧を押し返して復帰作用がある。塑性変形する材料は、圧縮を変形で吸収する。
弾性体は、天然ゴムや樹脂製ゴムを利用する。例えば、ウレタンを利用することができる。塑性変形する材料は発泡体やガラス繊維充填プラスチックなどを利用できる。あるいは、ゲル体などを封入した袋等を利用することができる。
本発明は、段階的に変化する滑り免震を利用しているので、地震が収まった後に押し戻す作業をすることにより、容易に機材や装置を原点に復帰させることができる。
本発明の減衰体は、弾性体と塑性変形する材料を併用することもできる。
【0020】
本発明は、最も免震化したい部分に適用する。例えば、免震化したい機器が設置された床の部分に摩擦係数を低くした低摩擦領域を適用する。そして、免震化しなくてもいい部分(動かしたくない部分)である機器操作用の床面などに摩擦係数を高くした高摩擦領域を適用する。高摩擦領域には減衰材を用いて減衰効果を付加することができる。この構成によって、地震時に低摩擦領域が滑って、高摩擦領域にぶつかり、高摩擦領域が衝撃を吸収し、減衰効果を発揮する。
【符号の説明】
【0021】
A 多機能床免震システム
B 多機能免震床システム部屋
1. 低摩擦領域
11. 低摩擦滑り材
12. すべり床板
2. 高摩擦領域
21. 高摩擦滑り材
22. すべり床板

3. 減衰材

4. クリアランス
5. スラブ

6. 機材・装置類
7. 作業員等
8. 滑り床機構
8a. 滑り床板
8b. スラブ
81. ビーズ・グリス摩擦調整機構
81a.ビーズ
81b.グリス
81c.下部筐体
81d.上部筐体

82. 滑り面機構
82a.滑り素材
82b.鋼板等
82c.滑り面

83. エンボス機構
83a.エンボス層

83c.滑り面

84. 滑り性素材付着機構
84a.滑り性素材
84b.下部鋼板等
84c.滑り面
84d.荷重支持部
85. 黒鉛潤滑(1)
85a.黒鉛膜層
85b.荷重支持部
85c.すべり面
86. 黒鉛潤滑(2)
86a.黒鉛混入モルタル層
86b.荷重支持部
86c.滑り面
87. 鋳鉄材荷重支持部
87b.鋳鉄材荷重支持部
87c.滑り面

9. 固定領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8