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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-25
(45)【発行日】2022-09-02
(54)【発明の名称】耐水性に優れた低融点ガラス組成物
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/093 20060101AFI20220826BHJP
   A61C 13/083 20060101ALI20220826BHJP
   A61C 5/70 20170101ALI20220826BHJP
【FI】
C03C3/093
A61C13/083
A61C5/70
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018011983
(22)【出願日】2018-01-26
(65)【公開番号】P2019127429
(43)【公開日】2019-08-01
【審査請求日】2021-01-12
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(74)【代理人】
【識別番号】100173657
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬沼 宗一郎
(72)【発明者】
【氏名】河田 圭太
(72)【発明者】
【氏名】後藤 正憲
(72)【発明者】
【氏名】河野 顕志
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-047167(JP,A)
【文献】特開2002-037641(JP,A)
【文献】特開2004-067455(JP,A)
【文献】特開平01-212248(JP,A)
【文献】特開2016-108173(JP,A)
【文献】特開平11-021145(JP,A)
【文献】国際公開第2011/065293(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C
A61C
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO2 55.0~75.0重量%
B2O3 6.1~12.0重量%
Al2O3 2.0~8.0重量%
ZnO 2.0~8.5重量%
2種類以上のアルカリ金属酸化物10.5~20.0重量%
からなり、
600℃未満の軟化点(Ts)を有し、
ISO 6872:2015に準拠した25℃~400℃の範囲における熱膨張係数が、7.0~11.0×10-6K-1である歯科用低融点ガラス組成物。
【請求項2】
SiO2 55.0~75.0重量%
B2O3 6.1~12.0重量%
Al2O3 2.0~8.0重量%
ZnO 2.0~8.5重量%
2種類以上のアルカリ金属酸化物10.5~20.0重量%
からなり、
600℃未満の軟化点(Ts)を有し、
ISO6872:2015に準拠した酸に対する溶解量が、35μg/cm2以下である歯科用低融点ガラス組成物。
【請求項3】
SiO 2 55.0~75.0重量%
B 2 O 3 6.1~12.0重量%
Al 2 O 3 2.0~8.0重量%
ZnO 2.0~8.5重量%
2種類以上のアルカリ金属酸化物10.5~20.0重量%
MgO 0.0~3.0重量%
CaO 0.0~3.0重量%
ZrO2 0.0~4.0重量%
TiO2 0.0~3.0重量%
F 0.0~2.0重量%
からなり、
600℃未満の軟化点(Ts)を有し、
ISO 6872:2015に準拠した25℃~400℃の範囲における熱膨張係数が、7.0~11.0×10 -6 K -1 である歯科用低融点ガラス組成物。
【請求項4】
SiO 2 55.0~75.0重量%
B 2 O 3 6.1~12.0重量%
Al 2 O 3 2.0~8.0重量%
ZnO 2.0~8.5重量%
2種類以上のアルカリ金属酸化物10.5~20.0重量%
MgO 0.0~3.0重量%
CaO 0.0~3.0重量%
ZrO 2 0.0~4.0重量%
TiO 2 0.0~3.0重量%
F 0.0~2.0重量%
からなり、
600℃未満の軟化点(Ts)を有し、
ISO6872:2015に準拠した酸に対する溶解量が、35μg/cm 2 以下である歯科用低融点ガラス組成物。
【請求項5】
ISO6872:2015に準拠した酸に対する溶解量が、35μg/cm2以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の歯科用低融点ガラス組成物。
【請求項6】
請求項1~のいずれかに記載の歯科用低融点ガラス組成物を配合した歯科用陶材。
【請求項7】
請求項1~のいずれかに記載の歯科用低融点ガラス組成物を配合した歯科セラミックス用着色材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯科用陶材または歯科セラミックス用着色材料に使用することができる低融点ガラス組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科用陶材は、長石などを原料としたガラスセラミックス材料であり、主に欠損歯の歯冠補綴修復に用いられる。使用方法により分類すると、金属製フレーム上に焼き付けるメタルボンド用陶材、ジルコニア製フレーム上に焼き付けるジルコニア用陶材、また歯科用陶材単独で補綴装置を作製する場合もある。
また、歯科セラミックス用着色材料は、歯科用陶材と同様、ガラス材料もしくはガラスセラミックス材料をベースとし、様々な着色材成分(顔料)を配合させている。歯科用陶材や歯科用セラミックス材料(アルミナ、ジルコニアなど)の色調調整に用いられるものである。
近年、歯科用陶材及び歯科セラミックス用着色材料には以下のような特性が求められている。様々なコア材料(金属、リチウムシリケートガラスセラミックス、ジルコニア、マイカガラスセラミック等)への適用が可能となる低温融解性、口腔内で長期安定であるための耐酸性などが挙げられる。また、歯科用陶材及び歯科セラミックス用着色材料の経年劣化による性能低下を抑制するため、多湿環境下における保存安定性も要求されてきている。
【0003】
特許文献1には、850℃未満の焼成温度を有する非晶質のガラス相からなる歯科用陶材組成物が開示されている。
特許文献1には、酸化ホウ素(B2O3)は熱膨張係数及び焼成温度を下げる働きがあるとの記載がある。特許文献1に記載の組成は、酸化ホウ素(B2O3)を2.6~6.0重量%の範囲で含んでいるため、全ての組成が600℃未満の軟化点(Ts)を満たすのは困難である。
【0004】
特許文献2には、低温焼結カリウム-亜鉛―ケイ酸塩ガラスが開示されている。
特許文献2に記載の組成は、酸化ケイ素(SiO2)をガラス骨格に、2種類のアルカリ金属で低温融解性を付与している。しかし、この組成範囲のガラスは、酸化亜鉛(ZnO 8.5~20.0重量%)が多量に含まれていることから、耐酸性及び多湿環境下での保存安定性を維持することが困難である。
【0005】
特許文献3には、11.5~12.5×10-6K-1[30℃‐430℃]の熱膨張係数を有する、義歯に使用するための低融解温度の陶材組成物が開示されている。
特許文献3に記載の組成は、成分組成中に酸化亜鉛(ZnO)を含まずして低温融解性を与えていることから、耐酸性及び多湿環境下での保存安定性を維持することが困難である。
【0006】
特許文献4には、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ホウ素、酸化亜鉛および酸化ナトリウムを主成分として含有するガラス質粒子を2種類含んでなる歯科用陶材組成物であって、第2のガラス質粒子は、第1のガラス質粒子の軟化点より20~80℃高い軟化点を有する、ことを特徴とする歯科用陶材組成物が開示されている。
特許文献4に記載の第1のガラス質粒子は、酸化ホウ素(B2O3)を15~25質量%の範囲で含んでいるため、耐酸性及び多湿環境下での保存安定性を維持することが困難である。また、第2のガラス質粒子は、軟化点が第1のガラス質粒子より20℃以上高いことから、600℃未満の軟化点を満たすのは困難である。
【0007】
特許文献5には、750~900℃の範囲内の温度で焼成可能、且つ焼成後において30~450℃の温度範囲で8.8~9.8×10-6/℃の範囲の熱膨張係数を有することを特徴とする歯科用陶材が開示されている。
特許文献5に記載の組成は、歯科用陶材の黄変を抑制するためSb2O3及びCeO2を必須元素として含有している。
【0008】
いずれの先行技術も、高い耐酸性及び優れた多湿環境下における保存安定性を維持しつつ、600℃未満の軟化点を達成することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第4716633号
【文献】特開2002-53339
【文献】特許第4209946号
【文献】特開2009-185001
【文献】特許第4481937号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
歯科用陶材または歯科セラミックス用着色材料として使用することができるガラス組成物であって、歯科用陶材または歯科セラミックス用着色材料に要求される低温融解性、耐酸性、多湿環境下における保存安定性を有したガラス組成物、及びそのガラス組成物粉末を含む歯科用陶材または歯科セラミックス用着色材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、
構成成分として、
SiO2 55.0~75.0重量%
B2O3 6.1~12.0重量%
Al2O3 2.0~8.0重量%
ZnO 2.0~8.5重量%
2種類以上のアルカリ金属酸化物10.5~20.0重量%
を含む
600℃未満の軟化点(Ts)を有する低融点ガラス組成物である。
【0012】
本発明は、構成成分として、
SiO2 55.0~75.0重量%
B2O3 6.1~12.0重量%
Al2O3 2.0~8.0重量%
ZnO 2.0~8.5重量%
2種類以上のアルカリ金属酸化物10.5~20.0重量%
を含み
さらに下記成分のうち少なくとも1つを含む、600℃未満の軟化点(Ts)を有する低融点ガラス組成物であることが好ましい。
MgO 0.0~3.0重量%
CaO 0.0~3.0重量%
ZrO2 0.0~4.0重量%
TiO2 0.0~3.0重量%
F 0.0~2.0重量%
【0013】
ISO 6872:2015に準拠した25℃~400℃の範囲における熱膨張係数が、7.0~11.0×10-6K-1であることを特徴とする請求項1又は2に記載の低融点ガラス組成物であることが好ましい。
ISO6872:2015に準拠した酸に対する溶解量が、35μg/cm2以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の低融点ガラス組成物であることが好ましい。
請求項1~4のいずれかに記載の低融点ガラス組成物を配合した歯科用陶材であることが好ましい。
請求項1~4のいずれかに記載の低融点ガラス組成物を配合した歯科セラミックス用着色材料であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の低融点ガラス組成物を基材に使用した歯科用陶材または歯科セラミックス用着色材料は、下地となる各種コア材(金属、リチウムシリケートガラスセラミックス、ジルコニア、リューサイトガラスセラミックス、マイカガラスセラミックス等)の焼結温度よりも低い焼成温度に設定できるため、下地を変形させることのない低い温度にて使用することが可能である。
本発明の低融点ガラス組成物を基材に使用した歯科用陶材は、低い焼成温度であり、熱膨張係数が適合している、リチウムシリケートガラスセラミックス、ジルコニア等の熱膨張係数が8.0~13.0×10-6K-1範囲内のコア材への使用が好ましい。
本発明の低融点ガラス組成物を基材に使用した歯科セラミックス用着色材料は、低い焼成温度であるため、使用する材料の熱膨張係数の差による応力の影響を受けにくいことから各種コア材及びそれらに使用する歯科用陶材に使用することが可能である。より好ましくはリチウムシリケートガラスセラミックス、ジルコニア、リチウムシリケートガラスセラミックス用の歯科用陶材、ジルコニア用の歯科用陶材への使用が好ましい。
本発明の低融点ガラス組成物を基材に使用した歯科用陶材または歯科セラミックス用着色材料は、優れた耐酸性を有することから、口腔内で長期間、安定に使用することが可能である。
本発明の低融点ガラス組成物を基材に使用した歯科用陶材または歯科セラミックス用着色材料は、湿気などの環境的要因による品質の劣化がほとんど無い。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の低融点ガラス組成物は、構成成分として、
SiO2 55.0~75.0重量%
B2O3 6.1~12.0重量%
Al2O3 2.0~8.0重量%
ZnO 2.0~8.5重量%
2種類以上のアルカリ金属酸化物10.5~20.0重量%
を含み
600℃未満の軟化点(Ts)を有することが特徴である。
【0016】
本発明の低融点ガラス組成物は、構成成分として、より好ましくは、
SiO2 60.0~70.0重量%
B2O3 6.5~9.0重量%
Al2O3 4.0~7.0重量%
ZnO 2.5~6.5重量%
2種類以上のアルカリ金属酸化物12.5~19.0重量%の範囲で含むことを特徴とする。
【0017】
構成成分として、
SiO2 55.0~75.0重量%
B2O3 6.1~12.0重量%
Al2O3 2.0~8.0重量%
ZnO 2.0~8.5重量%
2種類以上のアルカリ金属酸化物10.5~20.0重量%
からなり、
さらに下記成分のうち少なくとも1つを含み、600℃未満の軟化点(Ts)を有することを特徴とする低融点ガラス組成物。
MgO 0.0~3.0重量%
CaO 0.0~3.0重量%
ZrO2 0.0~4.0重量%
TiO2 0.0~3.0重量%
F 0.0~2.0重量%
【0018】
本発明の低融点ガラス組成物は、ガラス形成酸化物としてSiO2を55.0~75.0重量%、より好ましくは60.0~70.0重量%の範囲で含有する。ガラス中でのSiO2の存在はガラス骨格の形成に寄与し、SiO2含有量が少ない場合は、耐酸性及び多湿環境下における保存安定性が著しく低下する。また、SiO2含有量が多い場合は、SiO2を主とする結晶の析出や軟化点の上昇を招く。
【0019】
本発明の低融点ガラス組成物の必須成分B2O3は、一般的に軟化点を低下させるために用いられる。しかし、過剰なB2O3は耐酸性及び多湿環境下における保存安定性を悪くする傾向がある。本発明ではB2O3を6.1~12.0重量%、より好ましくは6.5~9.0重量%の範囲で含有することにより、ガラス骨格の形成及びガラス骨格の修飾の両方に寄与することができ、耐酸性及び多湿環境下における保存安定性を損なうことなく、軟化点を低下させることが可能である。B2O3含有量が少ないと、本発明の特徴でもある軟化点が600℃未満を満たすことができない。
【0020】
本発明の低融点ガラス組成物の必須成分Al2O3は、ガラス組成物を安定化させるための成分である。本発明ではAl2O3を2.0~8.0重量%、より好ましくは4.0~7.0重量%の範囲で含有することにより、耐酸性及び多湿環境下における保存安定性の向上に寄与する。Al2O3含有量が少なくなると、本発明の特徴である耐酸性及び多湿環境下における保存安定性が著しく低下する。また、Al2O3含有量が多くなると、結晶析出による透明性の変化、軟化点の上昇を招く。
【0021】
本発明の低融点ガラス組成物の必須成分ZnOは、ガラス組成物の軟化点を低下させる効果がある。本発明ではZnOを2.0~8.5重量%、より好ましくは2.5~6.5重量%の範囲で含有することにより、軟化点の低下及び多湿環境下における保存安定性に寄与する。ZnO含有量が少ないと本発明の特徴でもある軟化点が600℃未満及び高い保存安定性を満たすことができない。ZnO含有量が多いと、Znを主成分とする結晶析出により透明性が変化し、また耐酸性及び多湿環境下における保存安定性の低下を招く。
【0022】
本発明の低融点ガラス組成物の必須成分であるアルカリ金属酸化物は、ガラスの軟化点を下げるために添加される。具体的なアルカリ金属酸化物は、Li、Na、Kである。しかし、過剰なアルカリ金属酸化物の添加は、耐酸性及び多湿環境下における保存安定性の低下を招く。アルカリ金属酸化物を1種類のみ配合した場合は、先に述べた特徴により、軟化点と耐酸性、軟化点と保存安定性との間にトレードオフの関係を生じる。しかし、2種類以上のアルカリ金属酸化物(好ましくは3種類以上)を配合させることで、混合アルカリ効果を発現させ、耐酸性を損なうことなく軟化点を低下させること、軟化点の低下と保存安定性の両立が可能となる。本発明では、2種類以上のアルカリ金属酸化物を10.5~20.0重量%、より好ましくは3種類以上のアルカリ金属酸化物を10.5~20.0重量%、さらに好ましくは3種類以上のアルカリ金属酸化物を12.5~19.0重量%の範囲で含有し、耐酸性及び多湿環境下における保存安定性を損なうことなく、ガラス軟化点の低下させることが可能である。アルカリ金属酸化物含有量が少ない組成で、本発明の特徴である軟化点が600℃未満を満たした場合、耐酸性の低下を招く。一方、アルカリ金属酸化物含有量が多いと、耐酸性及び多湿環境下における保存安定性の低下を招く。
【0023】
ここで、好ましくは本発明の低融点ガラス組成物は、MgOを3.0重量%以下で含むものである。MgOは、低温融解性、耐酸性や保存安定性を向上させるため、本発明の低融点ガラス組成物には必須ではないが上記割合を上限として含まれることが好ましい。なお、MgO量が過剰になると耐酸性や保存安定性が低下するため、MgOを含む場合は、3.0重量%以下に留めることが好ましい。よりこのましくは、MgOの含有量は2.3重量%以下である。
【0024】
ここで、好ましくは本発明の低融点ガラス組成物は、CaOを3.0重量%以下で含むものである。CaOは、低温融解性、耐酸性や保存安定性を向上させるため、本発明の低融点ガラス組成物には必須ではないが上記割合を上限として含まれることが好ましい。なお、CaO量が過剰になると耐酸性や保存安定性が低下するため、CaOを含む場合は、3.0重量%以下に留めることが好ましい。よりこのましくは、CaOの含有量は2.6重量%以下である。
【0025】
ここで、好ましくは本発明の低融点ガラス組成物は、ZrO2を4.0重量%以下で含むものである。ZrO2は、耐酸性や保存安定性を向上させるため、本発明の低融点ガラス組成物には必須ではないが上記割合を上限として含まれることが好ましい。なお、ZrO2量が過剰になるとガラスが不透明かつ高融点になり易いため、ZrO2を含む場合は、4.0重量%以下に留めることが好ましい。より好ましくは、ZrO2の含有量は2.7重量%以下である。
【0026】
ここで、好ましくは本発明の低融点ガラス組成物は、TiO2を3.0重量%以下で含むものである。TiO2は、耐酸性や保存安定性を向上させるため、本発明の低融点ガラス組成物には必須ではないが上記割合を上限として含まれることが好ましい。なお、TiO2量が過剰になるとガラスが高融点になり易いため、TiO2を含む場合は、3.0重量%以下に留めることが好ましい。よりこのましくは、TiO2の含有量は2.6重量%以下である。
【0027】
ここで、好ましくは本発明の低融点ガラス組成物は、Fを2.0重量%以下で含むものである。Fは、低温融解性を向上させるため、本発明の低融点ガラス組成物には必須ではないが上記割合を上限として含まれることが好ましい。なお、F量が過剰になると耐酸性や保存安定性の低下に影響をおよぼすため、Fを含む場合は、2.0重量%以下に留めることが好ましい。よりこのましくは、Fの含有量は1.5重量%以下である。
【0028】
上記組成範囲内の低融点ガラス組成物は、ISO 6782:2015に準拠した熱膨張係数が7.0~11.0×10-6K-1の範囲であり、より好ましくは、7.5~9.5×10-6K-1の範囲である。本発明の低融点ガラス組成物の主な使用方法の一つは、リチウムシリケートガラスセラミックスやジルコニア等のフレーム材(コア材)の上部に積層して歯冠補綴装置を作製することである。歯科用リチウムシリケートガラスセラミックスやジルコニアの熱膨張係数は、約10.0~11.0×10-6K-1であるため、本発明の低融点ガラス組成物の熱膨張係数をこれより少し低く設定することで補綴装置作製時のクラック発生を抑制することができる。
【0029】
上記組成範囲内の低融点ガラス組成物は、ISO 6872:2015に準拠した酸に対する溶解量が35μg/cm2以下、より好ましくは10μg/cm2以下である。当該ISO規格の要求値は、溶解量100μg/cm2以下である。本発明では、各ガラス成分の量を調整することで、この要求値を大きく下回る溶解量の低融点ガラス組成物を得ることができる。
【0030】
本発明の低融点ガラス組成物の作製は、当該業者が保有する一般的なガラス組成物の製造方法により制限なく実施可能である。一般的な製造方法としては、目的とするガラス組成物が得られるように各種の無機化合物を配合し、ガラス溶融炉で1300~1500℃で溶融する。溶融した融液を水中に流し急冷し(クエンチ)ガラスフリットを得る方法である。
【0031】
本発明の低融点ガラス組成物を歯科用陶材または歯科セラミックス用着色材料として応用するには、低融点ガラス組成物を粉末状にすることが必要となる。低融点ガラス組成物粉末を作製するには、例えば、先に述べたガラスフリットを、ボールミル、ジェットミル等の粉砕機で粉砕する方法がある。
このとき、目的とする歯科用陶材または歯科セラミックス用着色材料の特性に合わせて、低融点ガラス組成物粉末の粒子径を調整することが必要である。一般的な歯科用陶材、歯科セラミックス用着色材料の場合、平均粒子径が100μm以下である。粉末の操作特性を向上させたり、薄い層で使用することを目的とする場合、原料となる低融点ガラス組成物粉末の平均粒子径を50μm以下とすることがより好ましい。
【0032】
本発明の低融点ガラス組成物を歯科用陶材または歯科セラミックス用着色材料として応用する場合、顔料(着色剤)、蛍光顔料(蛍光材)および不透明材(乳白剤)などを制限なく含有することが可能である。
【実施例
【0033】
以下、実施例及び比較例を参照して本発明のさらに具体的な説明をするが、本発明は、これらの実施例及び比較例に何等限定されるものではない。
【0034】
実施例及び比較例における組成物の熱膨張係数、軟化点、耐酸性及び多湿環境下における保存安定性の評価方法を以下に示す。
【0035】
(熱膨張係数及び軟化点の評価)
実施例及び比較例の各ガラス粉末を蒸留水で練和し、練和物をシリコン製の棒状(6×6×25mm)型に充填し、コンデンスと吸水を繰り返し、成形体を作製した。
作製した成形体をシリコン型から取り出し、歯科技工用ポーセレン焼成炉 エステマットスリム(松風製)を用いて、真空焼成1回、大気焼成1回の計2回行った。
得られた2回焼成物の両端を研磨し平行面を出して、5×5×20mmの大きさに調整した試料を試験体として、熱膨張計TM8140C(リガク製)を用いて、熱膨張係数及び軟化点を測定した。
【0036】
(耐酸性の評価)
実施例及び比較例の各ガラス粉末を蒸留水で練和し、練和物をシリコン製の円盤(φ12mm×2mm)型に充填し、コンデンスと吸水を繰り返し、成形体を作製した。作製した成形体をシリコン型から取り出し、歯科技工用ポーセレン焼成炉エステマットスリム(松風製)を用いて、真空焼成を行い10個の試験体を製作した。この試験体の両面を平面研磨後、2回目の大気焼成を行った。この試験体をISO 6872:2015の手順に準じ、酸への溶解性試験を行った。
【0037】
(多湿環境下における保存安定性の評価)
実施例及び比較例の各ガラスを、粉砕したガラス粉末を70℃- 湿度100%環境下にて30日間保存した。保存後のガラス粉末を蒸留水で練和し、練和物をシリコン製の円盤(φ12mm×2mm)型に充填し、コンデンスと吸水を繰り返し、成形体を作製した。作製した成形体をシリコン型から取り出し、歯科技工用ポーセレン焼成炉エステマットスリム(松風製)を用いて、真空焼成を行い、焼成物を試験体とした。この試験体を、目視により透明性を評価した。多湿環境保存前の標準試験体との比較により、透明性が著しく損なわれていない場合を○と判定した。透明性が損なわれている場合×と判定した。
【0038】
<実施例1~12、比較例1~11>
表1に記載のガラス組成になるように、各種無機化合物を調合・溶融して実施例1~12及び比較例1~11のガラスフリットを製造した(重量%表記)。実施例1~12及び比較例1~11のガラスフリットを粉砕し、平均粒子径約20μmのガラス粉末を得た。
得られたガラス粉末の熱膨張係数、軟化点、耐酸性及び多湿環境下における保存安定性を試験した。結果を表2に示す。


【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
すべての実施例において、溶解量は35μg/cm2以下と高い耐酸性を示し、また、保存安定性試験後も透明性であり、優れた多湿環境下における保存安定性を示した。
一方で、比較例2、4、6~10では、溶解量が高く(35μg/cm2より多い)、十分な耐酸性が得られなかった。また、比較例1、3、5、11では、保存安定性試験前後で透明性が変化したため、十分な多湿環境下における保存安定性が得られなかった。
すべての実施例において、熱膨張係数は7.5~8.6×10-6K-1と7.0~11.0×10-6K-1の範囲を満たし、また、軟化点が600℃未満であり、低温溶解性を示した。
一方で、比較例の一部において、熱膨張係数が7.0~11.0×10-6K-1の範囲、及び、軟化点600℃以下を逸脱する値であった。また、比較例において、熱膨張係数及び軟化点が設定した範囲内であっても、溶解量が35μg/cm2より多いか、保存安定性試験後に透明性が変化することから、十分な耐酸性または多湿環境下における保存安定性が得られなかった。
【0042】
以上の結果から、本発明のガラス組成物は、従来のガラス組成物では達成することができなかった低融点でありながら高い耐酸性及び優れた多湿環境下における保存安定性を満足する良好な結果を示した。これは、ガラス組成を特定の酸化物含有量範囲にしたことに起因しているものと考えられる。
よって、本発明のガラス組成物は、従来のガラス組成物の低温融解性を維持しつつ耐酸性及び多湿環境下における保存安定性を飛躍的に改善したものである。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は低融点ガラス組成物に関するものであり、歯科用陶材または歯科セラミックス用着色材料に使用することができる為、産業上の利用可能である。