(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-25
(45)【発行日】2022-09-02
(54)【発明の名称】樹脂組成物および成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 77/00 20060101AFI20220826BHJP
C08K 7/14 20060101ALI20220826BHJP
C08K 5/098 20060101ALI20220826BHJP
C08K 3/01 20180101ALI20220826BHJP
【FI】
C08L77/00
C08K7/14
C08K5/098
C08K3/01
(21)【出願番号】P 2018027588
(22)【出願日】2018-02-20
【審査請求日】2021-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】山田 隆介
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-210590(JP,A)
【文献】特開2008-133465(JP,A)
【文献】特開2017-210591(JP,A)
【文献】特開2012-062418(JP,A)
【文献】特開2012-062417(JP,A)
【文献】特開2007-302866(JP,A)
【文献】特開2015-124260(JP,A)
【文献】特開2011-063681(JP,A)
【文献】特開平05-078575(JP,A)
【文献】国際公開第2010/087192(WO,A1)
【文献】特開2017-210514(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂と、ガラス繊維と、無機結晶核剤と、離型剤を含む樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物に含まれるガラス繊維の割合が58~
70質量%であり、
前記離型剤が、炭素鎖数20以上の脂肪酸金属塩であり、
前記樹脂組成物に含まれるポリアミド樹脂以外の全成分の合計に対する、無機結晶核剤の割合が、0.1~0.4質量%である、樹脂組成物。
【請求項2】
前記樹脂組成物に含まれるポリアミド樹脂の割合が25~42質量%である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記樹脂組成物に含まれる無機結晶核剤の割合が0.01~0.3質量%である、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記樹脂組成物に含まれる離型剤の割合が0.1~1.0質量%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、着色剤を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリアミド樹脂が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、前記ジアミン由来の構成単位の30モル%以上がメタキシリレンジアミンである、請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成された成形品。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂組成物を金型を用いて成形することを含む、成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物および成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリアミド樹脂の機械的強度を向上させるために、ポリアミド樹脂に無機強化繊維を配合することが行われている。例えば、特許文献1には、ポリアミド樹脂(A)と扁平率が2.5以上である長手形状断面のガラス繊維(B)とを含有し、さらに、必要に応じ、直径が3~30μmである円形断面のガラス繊維(C)を含有し、成分(B):(C)の割合が3:7~10:0(重量比)であり、成分(A)の割合が60~34重量%、成分(B)の割合または成分(B)および(C)の合計量の割合が40~66重量%であり(但し上記の各成分の合計は100重量%である)、ISO試験片について測定した引張強度が200MPa以上であることを特徴とする携帯電子機器用ポリアミド樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、機械的強度を高めようと、無機強化繊維を配合した場合、ポリアミド樹脂の結晶化速度が遅いと、離型性が劣るという問題がある。そこで、無機結晶核剤を配合することによって、結晶化速度を速くし、離型性を高めることが考えられた。しかしながら、無機結晶核剤の配合量が適切でないと、金型からの離型性が不十分であったり、高い機械的強度が得られないことが分かった。本発明はかかる課題を解決することを目的とするものであって、機械的強度が高く、かつ、金型からの離型性に優れた樹脂組成物および成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、無機結晶核剤を所定量配合し、かつ、特定の離型剤を配合することにより、上記課題を解決し得ることを見出した。具体的には、下記手段<1>により、好ましくは<2>~<8>により、上記課題は解決された。
<1>ポリアミド樹脂と、無機強化繊維と、無機結晶核剤と、離型剤を含む樹脂組成物であって、前記樹脂組成物に含まれる無機強化繊維の割合が58~75質量%であり、前記離型剤が、炭素鎖数20以上の脂肪酸金属塩であり、前記樹脂組成物に含まれるポリアミド樹脂以外の全成分の合計に対する、無機結晶核剤の割合が、0.1~0.4質量%である、樹脂組成物。
<2>前記樹脂組成物に含まれるポリアミド樹脂の割合が25~42質量%である、<1>に記載の樹脂組成物。
<3>前記樹脂組成物に含まれる無機結晶核剤の割合が0.01~0.3質量%である、<1>または<2>に記載の樹脂組成物。
<4>前記樹脂組成物に含まれる離型剤の割合が0.1~1.0質量%である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<5>さらに、着色剤を含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<6>前記ポリアミド樹脂が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、前記ジアミン由来の構成単位の30モル%以上がメタキシリレンジアミンである、<1>~<5>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<7><1>~<6>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成された成形品。
<8><1>~<6>のいずれか1つに記載の樹脂組成物を金型を用いて成形することを含む、成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、機械的強度が高く、かつ、金型からの離型性に優れた樹脂組成物および成形品を提供可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0008】
本発明の樹脂組成物は、ポリアミド樹脂と、無機強化繊維と、無機結晶核剤と、離型剤を含む樹脂組成物であって、前記樹脂組成物に含まれる無機強化繊維の割合が58~75質量%であり、前記離型剤が、炭素鎖数20以上の脂肪酸金属塩であり、前記樹脂組成物に含まれるポリアミド樹脂以外の全成分の合計に対する、無機結晶核剤の割合が、0.1~0.4質量%であることを特徴とする。このような構成とすることにより、機械的強度に優れ、かつ、離型性に優れた樹脂組成物が得られる。
すなわち、本発明者は、無機強化繊維を高充填した樹脂組成物に、0.1質量%以上の無機結晶核剤を配合することにより、高い機械的強度を達成しつつ、ポリアミド樹脂の結晶化速度を速くして、離型性を向上させることを試みた。しかしながら、無機結晶核剤の配合量が多いと、機械的強度が劣ってしまうことが分かった。そこで、本発明では、無機結晶核剤の量を0.4質量%以下とすることにより、機械的強度を向上させた。しかしながら、無機結晶核剤の量を少なくすると、結晶化速度が必ずしも速くならず、金型からの離型性に劣る場合があることが分かった。本発明では、所定の離型剤を配合することによって、この点を解決した。
以下、本発明について説明する。
【0009】
<(A)ポリアミド樹脂>
本発明の樹脂組成物は、ポリアミド樹脂を含む。
本発明で用いるポリアミド樹脂は、その種類を特に定めるものではなく、公知のポリアミド樹脂を用いることができる。例えば、ポリアミド樹脂としては、特開2011-132550号公報の段落0011~0013の記載を参酌することができる。
本発明で用いるポリアミド樹脂は、半芳香族ポリアミド樹脂であることが好ましい。ここで、半芳香族ポリアミド樹脂とは、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位およびジカルボン酸由来の構成単位の合計構成単位の20~80モル%が芳香環を含む構成単位であることをいう。このような半芳香族ポリアミド樹脂を用いることにより、得られる樹脂成形品の機械的強度を高くすることができる。半芳香族ポリアミド樹脂としては、テレフタル酸系ポリアミド樹脂(ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミド10T)、後述するキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂などが例示される。
【0010】
本発明で用いるポリアミド樹脂は、少なくとも1種が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、前記ジアミン由来の構成単位の30モル%以上がキシリレンジアミン(好ましくはメタキシリレンジアミン)に由来することが好ましい。以下、このようなポリアミド樹脂を、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂ということがある。さらに、本発明では、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂のジカルボン酸由来の構成単位の50モル%以上が、炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来するポリアミド樹脂が好ましい。
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂のジアミン由来の構成単位は、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは60モル%以上、一層好ましくは70モル%以上、より一層好ましくは80モル%以上、さらに一層好ましくは90モル%以上がキシリレンジアミンに由来する。キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂のジカルボン酸由来の構成単位は、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、一層好ましくは90モル%以上、より一層好ましくは95モル%以上が、炭素数が4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する。
【0011】
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の原料ジアミン成分として用いることができるメタキシリレンジアミンおよびパラキシリレンジアミン以外のジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2-メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-トリメチル-ヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等の脂環式ジアミン、ビス(4-アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン等の芳香環を有するジアミン等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0012】
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の原料ジカルボン酸成分として用いるのに好ましい炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸としては、例えばコハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、アジピン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸が例示でき、1種または2種以上を混合して使用できるが、これらの中でもポリアミド樹脂の融点が成形加工するのに適切な範囲となることから、アジピン酸またはセバシン酸がより好ましく、アジピン酸がさらに好ましい。
【0013】
上記炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、テレフタル酸、オルソフタル酸等のフタル酸化合物、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、1,7-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸といったナフタレンジカルボン酸の異性体等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0014】
本発明におけるキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の好ましい一実施形態として、ジアミン由来の構成単位の50モル%以上(好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上)がメタキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の50モル%以上(好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上)がアジピン酸に由来するものが例示される。
また、本発明におけるキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の好ましい他の一実施形態として、ジアミン由来の構成単位の30モル%以上(好ましくは30~70モル%)がメタキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の50モル%以上(好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上)がセバシン酸に由来するポリアミド樹脂が例示される。
このようなキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂は、結晶化速度が遅いため、無機結晶核剤の添加効果が顕著である。
【0015】
なお、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を主成分として構成されるが、これら以外の構成単位を完全に排除するものではなく、ε-カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等の脂肪族アミノカルボン酸類由来の構成単位を含んでいてもよいことは言うまでもない。ここで主成分とは、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を構成する構成単位のうち、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位の合計数が全構成単位のうち最も多いことをいう。本発明では、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂における、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位の合計は、全構成単位の90%以上を占めることが好ましく、95%以上を占めることがより好ましい。
【0016】
ポリアミド樹脂の融点は、150~350℃であることが好ましく、180~330℃であることがより好ましく、200~300℃であることがさらに好ましく、200~250℃であることが一層好ましい。
融点は、示差走査熱量に従い、JIS K7121およびK7122に準じて測定できる。
【0017】
ポリアミド樹脂は、数平均分子量(Mn)の下限が、6,000以上であることが好ましく、8,000以上であることがより好ましく、10,000以上であることがさらに好ましく、15,000以上であることが一層好ましく、20,000以上であることがより一層好ましく、22,000以上であることがさらに一層好ましい。上記Mnの上限は、35,000以下が好ましく、30,000以下がより好ましく、28,000以下がさらに好ましく、26,000以下が一層好ましい。このような範囲であると、耐熱性、弾性率、寸法安定性、成形加工性がより良好となる。
【0018】
本発明の樹脂組成物におけるポリアミド樹脂の割合は、下限値が、25質量%以上であることが好ましく、28質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。前記含有量の上限値は、42質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、38質量%以下であることがさらに好ましく、36質量%以下であることが一層好ましい。
ポリアミド樹脂は1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合は、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0019】
本発明の樹脂組成物は、ポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。本発明の樹脂組成物は、ポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂の含有量が本発明の樹脂組成物の5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが一層好ましい。
本発明の樹脂組成物は、特に、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂が樹脂成分の90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることがより好ましい。
本発明の樹脂組成物は、ポリアミド樹脂を、1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0020】
<(B)無機強化繊維>
本発明の樹脂組成物は、無機強化繊維を含む。
無機強化繊維としては、炭素繊維およびガラス繊維が例示され、ガラス繊維を含むことが好ましい。
【0021】
本発明における無機強化繊維とは、繊維状の無機材料を意味し、より具体的には、1,000~10,000本の無機強化繊維を集束し、所定の長さにカットされたチョップドが好ましい。
本発明における無機強化繊維は、数平均繊維長が0.5~10mmのものが好ましく、1~5mmのものがより好ましい。このような数平均繊維長の無機強化繊維を用いることにより、機械的強度をより向上させることができる。数平均繊維長は光学顕微鏡の観察で得られる画像に対して、繊維長を測定する対象の無機強化繊維をランダムに抽出してその長辺を測定し、得られた測定値から数平均繊維長を算出する。観察の倍率は20倍とし、測定本数は1,000本以上として行う。概ね、カット長に相当する。
また、無機強化繊維の断面は、円形および非円形(楕円形、長円形、長方形、長方形の両短辺に半円を合わせた形状、まゆ型等)のいずれであってもよい。ここでの円形は、数学的な意味での円形に加え、本発明の技術分野において通常円形と称されるものを含む趣旨である。
無機強化繊維が非円形断面を有する場合、繊維の長さ方向に直角な断面の長径をD2、短径をD1とするときの長径/短径比(D2/D1)で示される扁平率が、例えば、1.5~10であり、中でも2.5~10、さらには2.5~8、特に2.5~5であることが好ましい。かかる扁平ガラスについては、特開2011-195820号公報の段落番号0065~0072の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0022】
次に、本発明で好ましく用いられるガラス繊維について説明する。
ガラス繊維は、一般的に供給されるEガラス、Cガラス、Aガラス、Sガラス、および耐アルカリガラス等のガラスを溶融紡糸して得られる繊維が用いられるが、ガラス繊維にできるものであれば使用可能であり、特に限定されない。本発明では、Eガラスを含むことが好ましい。
【0023】
本発明で用いるガラス繊維は、例えば、γ-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤等の表面処理剤で表面処理されていることが好ましい。表面処理剤の付着量は、ガラス繊維の0.01~1質量%であることが好ましい。さらに必要に応じて、脂肪酸アミド化合物、シリコーンオイル等の潤滑剤、第4級アンモニウム塩等の帯電防止剤、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の被膜形成能を有する樹脂、被膜形成能を有する樹脂と熱安定剤、難燃剤等の混合物で表面処理されたものを用いることもできる。
【0024】
ガラス繊維は市販品として入手できる。市販品としては、例えば、日本電気硝子社製、T286H、T756H、T289H、オーウェンスコーニング社製、DEFT2A、PPG社製、HP3540、日東紡社製、CSG3PA-820等が挙げられる。
【0025】
本発明の樹脂組成物における無機強化繊維の割合は、下限値が、58質量%以上であり、59質量%以上であることが好ましい。前記含有量の上限値は、75質量%以下であり、70質量%以下であることが好ましく、65質量%以下であることがより好ましい。
本発明の樹脂組成物は、無機強化繊維を、1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0026】
<(C)無機結晶核剤>
本発明の樹脂組成物は、無機結晶核剤を含む。
無機結晶核剤は、溶融加工時に未溶融であり、冷却過程において結晶の核となり得るものであれば、特に限定されないが、中でもタルクおよび炭酸カルシウムが好ましく、タルクがより好ましい。
無機結晶核剤の粒子径は、下限値が、0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、3μm以上であることがより好ましい。無機結晶核剤の粒子径は、上限値が、40μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましく、28μm以下であることが一層好ましく、15μm以下であることがより一層好ましく、10μm以下であることがさらに一層好ましい。
【0027】
本発明では、樹脂組成物に含まれるポリアミド樹脂以外の全成分の合計に対する、無機結晶核剤の割合が、0.1~0.4質量%であり、0.15質量%以上が好ましく、また、0.35質量%以下が好ましい。
また、樹脂組成物に含まれるポリアミド樹脂の合計に対する、無機結晶核剤の割合が、0.20~1.0質量%であることが好ましく、0.20~0.85質量%以下がより好ましく、0.20~0.65質量%以下であることがさらに好ましい。
本発明の樹脂組成物における無機結晶核剤の割合は、0.01~0.3質量%であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、また、0.25質量%以下であることがより好ましい。
本発明の樹脂組成物は、無機結晶核剤を、1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0028】
<(D)離型剤>
本発明の樹脂組成物は、離型剤を含む。離型剤は、炭素鎖数20以上の脂肪酸金属塩である。
脂肪酸金属塩の炭素鎖数は、下限値が、22以上であることが好ましく、24以上であることがより好ましく、26以上であることがさらに好ましい。脂肪酸金属塩の炭素鎖数は、上限値が、40以下であることが好ましく、36以下であることがより好ましく、32以下であることがさらに好ましく、30以下であることが一層好ましい。炭素鎖数とは、脂肪酸を構成する炭素原子の数をいう。
脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸は、飽和脂肪酸であっても、不飽和脂肪酸であってもよく、飽和脂肪酸が好ましい。
脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸は、一価の脂肪酸であっても、多価の脂肪酸であってもよいが、一価の脂肪酸であることが好ましい、
脂肪酸の例としては、アラキジン酸、ヘンイコシル酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸が例示され、モンタン酸が好ましい。
脂肪酸金属塩を構成する金属は、アルカリ金属(ナトリウム、カリウム、リチウム等)、アルカリ土類金属(バリウム、カルシウム、マグネシウム)、亜鉛、アルミニウム等が挙げられ、アルカリ土類金属が好ましく、カルシウムがより好ましい。
【0029】
本発明の樹脂組成物における離型剤の割合は、0.1~1.0質量%であることが好ましく、0.2質量%以上であることより好ましく、また、0.8質量%以下であることがより好ましく、0.6質量%以下であることがさらに好ましく、0.4質量%以下であることが一層好ましい。
本発明の樹脂組成物は、離型剤を、1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0030】
本発明の樹脂組成物は、炭素鎖数20以上の脂肪酸金属塩以外の離型剤を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。
本発明の樹脂組成物は、炭素鎖数20以上の脂肪酸金属塩以外の離型剤を実質的に含まない構成とすることができる。実質的に含まないとは、炭素鎖数20以上の脂肪酸金属塩以外の離型剤の含有量が、炭素鎖数20以上の脂肪酸金属塩の含有量の5質量%以下であることをいい、3質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。
【0031】
炭素鎖数20以上の脂肪酸金属塩以外の離型剤としては、例えば、ステアリン酸、パルミチン酸等の炭素原子数14以上の長鎖脂肪族カルボン酸および脂肪族カルボン酸その誘導体(例えば、エステル、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アミド等)、ステアリルアルコール等の炭素原子数14以上の高級脂肪族アルコールおよびその誘導体、ステアリルアミン等の炭素原子数14以上のアミンおよびその誘導体、低分子量ポリエチレンワックス、パラフィン素ワックス等のワックス類、シリコーンオイル、シリコーンガム等が挙げられる。
【0032】
<(E)その他の添加剤>
本発明の樹脂組成物は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で他の添加剤を含んでいてもよい。このような添加剤としては、難燃剤、熱安定剤、光安定剤、蛍光増白剤、滴下防止剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、着色剤などが挙げられる。これらの成分は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
本発明の一実施形態として、樹脂組成物がさらに、着色剤を含む態様が例示される。着色剤としては、カーボンブラックが例示される。着色剤を配合する場合、その割合は、樹脂組成物の0.01~1質量%であることが好ましく、0.1~0.5質量%であることがより好ましい。
【0033】
<樹脂組成物の物性>
本発明の樹脂組成物は、ISO178に準拠して、ISO引張り試験片(4mm厚)に成形したときの、23℃の温度における曲げ強さが440MPa以上であることが好ましく、450MPa以上であってもよい。前記曲げ強さの上限値は、特に定めるものではないが、例えば、550MPa以下、さらには500MPa以下でも十分に実用レベルである。
本発明の樹脂組成物は、ISO178に準拠して、ISO引張り試験片(4mm厚)に成形したときの、23℃の温度で曲げ弾性率が20GPa以上であることが好ましく、22GPa以上であることがより好ましい。前記曲げ強さの上限値は、特に定めるものではないが、例えば、30GMPa以下、さらには26GPa以下でも十分に実用レベルである。
本発明の樹脂組成物は、ISO178に準拠して、ISO引張り試験片(4mm厚)に成形したときの、シャルピー衝撃強さ(ノッチ有り)が15kJ/m2以上であることが好ましく、20kJ/m2以上であってもよい。シャルピー衝撃強さ(ノッチ有り)の上限値については、特に定めるものではないが、例えば、28kJ/m2以下でも十分に実用レベルである。
本発明の樹脂組成物は、ISO178に準拠して、ISO引張り試験片(4mm厚)に成形したときの、シャルピー衝撃強さ(ノッチ無し)が50kJ/m2以上であることが好ましく、53kJ/m2以上であってもよい。シャルピー衝撃強さ(ノッチ有り)の上限値については、特に定めるものではないが、例えば、70kJ/m2以下でも十分に実用レベルである。
本発明の樹脂組成物は、冷却結晶化温度(Tcc)の下限が193℃以上であることが好ましく、194℃以上であることがより好ましい。このように、Tccの下限を193℃以上と高くすることにより、離型時の変形をより効果的に抑制することが可能になる。また、本発明の樹脂組成物は、冷却結晶化温度(Tcc)の上限については、特に定めるものではないが、210℃以下であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましい。
【0034】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明において、樹脂組成物の製造方法は、特に定めるものではなく、公知の熱可塑性樹脂組成物の製造方法を広く採用できる。具体的には、各成分を、タンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸押出機、二軸押出機、ニーダーなどで溶融混練することによって樹脂組成物を製造することができる。
【0035】
また、例えば、各成分を予め混合せずに、または、一部の成分のみを予め混合し、フィーダーを用いて押出機に供給して溶融混練して、樹脂組成物を製造することもできる。
さらに、例えば、一部の成分を予め混合し押出機に供給して溶融混練することで得られる樹脂組成物をマスターバッチとし、このマスターバッチを再度残りの成分と混合し、溶融混練することによって樹脂組成物を製造することもできる。
【0036】
<成形品>
本発明では、また、本発明の樹脂組成物から形成された成形品を開示する。
成形品の形状としては、特に制限はなく、成形品の用途、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、板状、プレート状、ロッド状、シート状、フィルム状、円筒状、環状、円形状、楕円形状、歯車状、多角形形状、異形品、中空品、枠状、箱状、パネル状のもの等が挙げられる。
【0037】
成形品を成形する方法としては、特に制限されず、従来公知の成形法を採用でき、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、異形押出法、トランスファー成形法、中空成形法、ガスアシスト中空成形法、ブロー成形法、押出ブロー成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、回転成形法、多層成形法、2色成形法、インサート成形法、サンドイッチ成形法、発泡成形法、加圧成形法等が挙げられる。
本発明の成形品は、本発明の樹脂組成物を金型を用いて成形することが好ましく、本発明の樹脂組成物を金型に射出成形して得ることがより好ましい。
【0038】
本発明で得られた成形品は、種々の用途、例えば、各種保存容器、電気・電子機器部品、オフィスオートメート(OA)機器部品、家電機器部品、機械機構部品、車両用部材などに適用できる。特に、食品用容器、薬品用容器、油脂製品容器、車両用中空部品(各種タンク、インテークマニホールド部品、カメラ筐体、ヘッドランプを支持するブラケットなど)、車両用電装部品(各種コントロールユニット、イグニッションコイル部品など)モーター部品、各種センサー部品、コネクター部品、スイッチ部品、ブレーカー部品、リレー部品、コイル部品、トランス部品、ランプ部品、カメラ部品などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0039】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0040】
<原料>
(A)ポリアミド樹脂
MXD6:ポリメタキシリレンアジパミド、三菱ガス化学社製、MXナイロン 6000
PA66:ヘキサメチレンアジパミド、ソルベイ社製、Stabamid 26AE1K
【0041】
(B)無機強化繊維
CSG3PA-810S:扁平断面ガラス繊維(日東紡社製、Eガラス、チョップドストランド、扁平率4)
T275H:円形断面ガラス繊維(日本電気硝子社製、Eガラス、チョップドストランド、数平均繊維径10μm、扁平率1)
【0042】
(C)無機結晶核剤
5000A:タルク(林化成社製、数平均粒子径7μm)
5000S:タルク(林化成社製、数平均粒子径5μm)
GH50:タルク(林化成社製、数平均粒子径20μm)
【0043】
(D)離型剤
CS8CP:モンタン酸カルシウム(日東化成工業社製、炭素鎖数28の脂肪酸金属塩)
ステアリン酸バリウム:(堺化学社製、炭素鎖数18の脂肪酸金属塩)
カオワックスT1:ケトンワックス(花王社製、脂肪酸金属塩ではない)
【0044】
(E)着色剤
CB#45:カーボンブラック(三菱ケミカル社製)
【0045】
実施例1~5、比較例1~10
<コンパウンド>
後述する下記表1または表2に示す組成となるように、各成分をそれぞれ秤量し、無機強化繊維を除く成分をタンブラーにてブレンドし、二軸押出機(東芝機械社製、TEM26SS)の根元から投入し、溶融した後で、無機強化繊維をサイドフィードしてポリアミド樹脂ペレットを作製した。二軸押出機の温度設定は、280℃とした。
【0046】
<曲げ強さおよび曲げ弾性率>
上記ポリアミド樹脂ペレットを120℃で3時間乾燥させた後、射出成形機(日精樹脂工業社製、「NEX140III」)にて、シリンダー温度280℃、金型温度130℃、成形サイクル50秒の条件で、ISO引張り試験片(4mm厚)を射出成形した。
ISO178に準拠して、上記ISO引張り試験片(4mm厚)を用いて、23℃の温度で曲げ強さ(単位:MPa)および曲げ弾性率(単位:GPa)を測定した。
【0047】
<シャルピー衝撃強さ>
上記ポリアミド樹脂ペレットを120℃で3時間乾燥させた後、射出成形機(日精樹脂工業社製、「NEX140III」)にて、シリンダー温度280℃、金型温度130℃、成形サイクル50秒の条件で、ISO引張り試験片(4mm厚)を射出成形した。
ISO179規格に従い、シャルピー衝撃強さ(ノッチ有りおよびノッチ無し)の測定を行った(単位:kJ/m2)。
【0048】
<冷却結晶化温度(Tcc)>
ポリアミド樹脂組成物の示差走査熱量の測定はJIS K7121およびK7122に準じて行った。示差走査熱量計を用い、上記で得られたポリアミド樹脂組成物ペレットを砕いて示差走査熱量計の測定パンに仕込み、窒素雰囲気下にて昇温速度10℃/分で300℃まで昇温し、急冷する前処理を行った後に測定を行った。測定条件は、昇温速度10℃/分で、300℃で5分保持した後、降温速度-20℃/分で100℃まで測定を行い、冷却結晶化温度(Tcc)および融点(Tm)を求めた。示差走査熱量計としては、セイコーインスツル社製「DSC7020」を用いた。
【0049】
<離型時の変形>
上記ポリアミド樹脂ペレットを120℃で3時間乾燥させた後、射出成形機(日精樹脂工業社製、「NEX140III」)にて、シリンダー温度280℃、金型温度130℃、成形サイクル30秒の条件で、100mm×100mm×2mmの平板を射出成形し、成形品を金型から取り出す際の反りの有無を確認した。材料のTccが極端に低いと、平板成形品は固化が不十分な状態で金型の四隅の突出しピンによって突き出されてしまい、変形し、反りとして確認される。また、離型剤の選定が不適切であると、平板成形品の離型抵抗が高まり、突出しピンに強く押されることによって、変形し、反りとして確認される。
A:反りは確認されなかった
B:反りが確認された
【0050】
【0051】
上記結果から明らかなとおり、本発明の樹脂組成物は、機械的強度に優れ、かつ、離型時の変形を効果的に抑制できた(実施例1~5)。特に、扁平ガラス繊維を用いた場合、機械的強度の改善効果が高かった(実施例1と実施例4の比較)。
これに対し、無機結晶核剤を配合しない場合、離型時の変形が大きかった(比較例1)。無機結晶核剤を配合しても、その配合量が多い場合(比較例2、比較例3、比較例6、比較例7、比較例8、比較例9、および比較例10)、曲げ硬度が劣っていた。また、離型剤の炭素鎖数が20未満の脂肪酸金属塩である場合(比較例4)、離型性が劣っていた。さらに、離型剤として、脂肪酸金属塩以外のものを配合した場合(比較例5)、曲げ強度が劣っていた。また、無機強化繊維の割合が少ない場合(比較例7、比較例8、比較例9、比較例10)、曲げ強度が劣っていた。
すなわち、本発明では、無機強化繊維と無機結晶核剤の量を適切に調整し、かつ、所定の構造の離型剤を用いることにより、高い機械的強度と離型性を有する樹脂組成物が得られた。