(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-25
(45)【発行日】2022-09-02
(54)【発明の名称】エンジン制御方法およびエンジン制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 29/02 20060101AFI20220826BHJP
F02D 41/10 20060101ALI20220826BHJP
F02D 9/02 20060101ALI20220826BHJP
F02D 41/12 20060101ALI20220826BHJP
【FI】
F02D29/02 F
F02D41/10
F02D9/02 311
F02D9/02 315B
F02D41/12
(21)【出願番号】P 2018055493
(22)【出願日】2018-03-23
【審査請求日】2020-11-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110002549
【氏名又は名称】弁理士法人綾田事務所
(72)【発明者】
【氏名】神谷 光平
(72)【発明者】
【氏名】大滝 綾一
(72)【発明者】
【氏名】高村 昌平
(72)【発明者】
【氏名】江尻 紀明
(72)【発明者】
【氏名】間瀬 至紀
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-020388(JP,A)
【文献】特開2000-110632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 29/02
F02D 41/10
F02D 9/02
F02D 41/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のコントローラが、
アクセル操作に応じたドライバ要求トルクを生成し、前記ドライバ要求トルクに応じた目標吸入空気量に基づきエンジンのスロットル開度を制御するにあたり、
アクセルオフのコースト状態では、前記エンジンの回転数を目標回転数に維持するための回転保持空気量と、前記エンジンに対する負圧要求を満たす負圧要求空気量と、のうち大きな方を
アイドル・スピード・コントロール(以下、ISC)指令空気量とし、前記
ISC指令空気量を前記目標吸入空気量
に加算して前記目標吸入空気量を補正するISC制御を実施し、
前記コースト状態からアクセルオンされた場合には、前記
ISC制御に加え、前記エンジンの補機の負荷トルクを補償するための補機負荷補償空気量から前記
ISC指令空気量を減じ
て、前記負荷トルクに対して不足する吸入空気量のトルク換算値である不足分補正トルクを求め、前記不足分補正トルクを前記ドライバ要求トルクに加算して前記ドライバ要求トルクを補正するドライバ要求トルク補正制御を実施するエンジン制御方法。
【請求項2】
請求項
1に記載のエンジン制御方法において、
前記コントローラは、
前記コースト状態からアクセルオンされた場合、前記負圧要求空気量が、前記補機の停止時における前記回転保持空気量よりも大きい
とき、前記ISC制御および前記ドライバ要求トルク補正制御を共に実施し、前記負圧要求空気量が、前記補機の停止時における前記回転保持空気量以下であるとき、前記ISC制御のみを実施するエンジン制御方法。
【請求項3】
請求項
2に記載のエンジン制御方法において、
前記コントローラは、
前記ドライバ要求トルク補正制御中、前記負圧要求空気量が、前記補機の停止時における前記回転保持空気量よりも大きく、かつ、前記補機の作動時における前記回転保持空気量以下である場合には、前記補機の作動時における前記回転保持空気量から前記補機の停止時における前記回転保持空気量を減じた補機負荷補正空気量に対する、前記負圧要求空気量と前記補機の停止時における前記回転保持空気量との差分の割合
を補正係数とし、前記補機の負荷トルクに前記補正係数を乗じて前記不足分補正トルクを演算するエンジン制御方法。
【請求項4】
請求項
3に記載のエンジン制御方法において、
前記コントローラは、
前記ドライバ要求トルク補正制御中、前記負圧要求空気量が、前記補機の作動時における前記回転保持空気量よりも大きい場合には、前記補機負荷補正空気量を前記
不足分補正トルクとするエンジン制御方法。
【請求項5】
アクセル操作に応じたドライバ要求トルクを生成し、前記ドライバ要求トルクに応じたエンジンの目標吸入空気量に基づきスロットル開度を制御するコントローラを備えたエンジン制御装置において、
前記コントローラは、
前記ドライバ要求トルクに応じた目標吸入空気量を演算する目標吸入空気量演算部と、
アクセルオフ時およびアクセルオフからアクセルオンへの移行時、前記エンジンの回転数を目標回転数に維持するための回転保持空気量と、前記エンジンに対する負圧要求を満たす負圧要求空気量と、のうち大きな方である
アイドル・スピード・コントロール(以下、ISC)指令空気量を演算する
ISC指令空気量演算部と、
前記目標吸入空気量に前記
ISC指令空気量を加算
して前記目標吸入空気量を補正する目標吸入空気量補正部と、
アクセルオフのコースト状態になると、前記エンジンの補機の負荷トルクを補償するための補機負荷補償空気量から前記
ISC指令空気量を減じて
、前記負荷トルクに対して不足する吸入空気量のトルク換算値である不足分補正トルクを演算する
不足分補正トルク演算部と、
前記アクセルオフのコースト状態からアクセルオンされた
とき、前記
ドライバ要求トルクに前記
不足分補正トルクを加算
して前記ドライバ要求トルクを補正するドライバ要求トルク補正部と、
を有するエンジン制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン制御方法およびエンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、アクセルオフのコースト状態(惰性走行状態)におけるエンジン回転数が目標回転数となるように、エンジンの目標吸入空気量を補正する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術において、アクセルオフのコースト状態からアクセルオンにより加速する際の車両のショックを低減して欲しいとのニーズがあった。
本発明の目的は、コースト状態からアクセルオンにより加速する際の車両のショックを低減できるエンジン制御方法およびエンジン制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、アクセルオフのコースト状態では、エンジンの回転数を目標回転数に維持するための回転保持空気量と、エンジンに対する負圧要求を満たす負圧要求空気量と、のうち大きな方をアイドル・スピード・コントロール(以下、ISC)指令空気量とし、ISC指令空気量を目標吸入空気量に加算して目標吸入空気量を補正するISC制御を実施し、コースト状態からアクセルオンされた場合には、ISC制御に加え、エンジンの補機の負荷トルクを補償するための補機負荷補償空気量からISC指令空気量を減じて、負荷トルクに対して不足する吸入空気量のトルク換算値である不足分補正トルクを求め、不足分補正トルクをドライバ要求トルクに加算してドライバ要求トルクを補正する。
【発明の効果】
【0006】
よって、コースト状態からアクセルオンにより加速する際の車両のショックを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態1のエンジン制御装置1の構成図である。
【
図2】実施形態1のISC指令空気量演算部8の構成図である。
【
図3】実施形態1の不足分補正トルク演算部5の構成図である。
【
図4】実施形態1のコントローラ3によるドライバ要求トルク補正制御の流れを示すフローチャートである。
【
図5】実施形態1のドライバ要求トルク補正作用を示すタイムチャートである。
【
図6】アクセルオフによるコースト状態からアクセルオンされたときのアクセル開度APO、ドライバ要求トルクTdrv、ドライブシャフトトルクTおよび前後加速度Gのタイムチャートである。
【
図7】エンジン回転数NeとISC指令空気量Qiscとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔実施形態1〕
図1は、実施形態1のエンジン制御装置1の構成図である。
エンジン制御装置1は、駆動力源としてエンジン2を有する車両に搭載されている。コントローラ3は、エンジン2のスロットルバルブ2aの開度を制御する。コントローラ3は、ドライバ要求トルク演算部4、不足分補正トルク演算部5、ドライバ要求トルク補正部6、目標吸入空気量演算部7、アイドル・スピード・コントロール(以下、ISC)指令空気量演算部(第1補正空気量演算部)8、目標吸入空気量補正部9、目標スロットル開度演算部10およびスロットル開度制御部11を有する。
【0009】
ドライバ要求トルク演算部4は、アクセル開度APOおよびエンジン回転数Neから、あらかじめ設定されたマップを参照し、ドライバ要求トルクTdrvを演算する。ドライバ要求トルクTdrvは、アクセル開度APOがゼロのときゼロであり、アクセル開度APOが高いほど増大する特性を持つ。また、ドライバ要求トルク演算部4は、アクセルオフによるコースト状態(惰性走行状態)からアクセルオンされた場合、ドライバ要求トルクTdrvを、ゼロ付近の正の値まで上昇させた後、所定時間一定に保持し、所定時間経過後にアクセル開度APOに応じた値まで上昇させる。
【0010】
不足分補正トルク演算部(第2補正空気量演算部)5は、ISC指令空気量演算部8の内部で演算された各情報に基づき、コースト状態からドライバのアクセルオンにより加速する際、エンジン2の補機の負荷トルク(補機負荷トルク)Tamに対して不足する吸入空気量のトルク換算値である不足分補正トルク(第2補正空気量)Tcを演算する。エンジン2の補機は、例えば、エアコン、オルタネータ、ウォータポンプ等であるが、実施形態1では、簡単のため、補機をエアコンのみとし、補機負荷トルクTamをエアコンの負荷トルクとする。不足分補正トルク演算部5の詳細は後述する。
【0011】
ドライバ要求トルク補正部(第2目標空気量補正部)6は、ドライバ要求トルクTdrvに不足分補正トルクTcを加算し、補正後ドライバ要求トルクTdrv_cを演算する。
目標吸入空気量演算部7は、エンジンパラメータ(エンジン回転数Ne、点火タイミング、空燃比等)に基づき、補正後ドライバ要求トルクTdrv_cを発生するための目標吸入空気量Qtを演算する。
ISC指令空気量演算部8は、エンジン回転数Ne、補機負荷情報INFamおよび負圧要求Dnpから、エンジン回転数Neを所定の目標回転数(アイドル回転数)Netに維持するためのISC指令空気量(第1補正空気量)Qiscを演算する。補機負荷情報INFamは、補機(エアコン)の作動状態を示す各パラメータである。負圧要求Dnpは、エンジン2の潤滑オイルが気筒内に入り込む、いわゆるオイル上がり抑制や、ブレーキ負圧の過度な上昇を防止するために必要な負圧の最大値である。ISC指令空気量演算部8の詳細は後述する。
【0012】
目標吸入空気量補正部(第1目標空気量補正部)9は、目標吸入空気量QtにISC指令空気量Qiscを加算し、補正後目標吸入空気量Qt_cを演算する。
目標スロットル開度演算部10は、補正後目標吸入空気量Qt_cを実現するための目標スロットル開度TVOtを演算する。
スロットル開度制御部11は、実際のスロットル開度TVOが目標スロットル開度TVOtと一致するようにスロットルバルブ2aのバルブ開度をフィードバック制御する。
【0013】
図2は、実施形態1のISC指令空気量演算部8の構成図である。
補機停止時回転保持空気量演算部8aは、エンジン回転数Neから補機(エアコン)停止時においてエンジン回転数Neを所定の目標回転数Netに保持するための吸入空気量である補機停止時回転保持空気量Qamoffを演算する。
補機負荷トルク演算部8bは、補機負荷情報INFamから補機負荷トルクTamを演算する。
負圧要求空気量演算部8cは、エンジン回転数Neおよび負圧要求Dnpから負圧要求Dnpを満たす吸入空気量である負圧要求空気量Qnpを演算する。
【0014】
補機負荷補正空気量演算部8dは、補機負荷トルクTamに相当する吸入空気量である補機負荷補正空気量Qdを演算する。
回転保持空気量演算部8eは、補機停止時回転保持空気量Qamoffに補機負荷補正空気量Qdを加算して補機作動時回転保持空気量Qamonを演算する。なお、補機の非作動時には、補機負荷トルクTamがゼロであり、補機負荷補正空気量Qdもゼロとなるため、この場合、補機作動時回転保持空気量Qamonは補機停止時回転保持空気量Qamoffとなる。
セレクトハイ部8fは、補機作動時回転保持空気量Qamonと負圧要求空気量Qnpとのセレクトハイにより、値の大きな方をISC指令空気量Qiscとして出力する。
【0015】
図3は、実施形態1の不足分補正トルク演算部5の構成図である。
埋もれ量演算部5aは、負圧要求空気量Qnpから補機停止時回転保持空気量Qamoffを減じて、負圧要求空気量Qnpに対する補機負荷補正空気量Qdの埋もれ量Qbを演算する。
補正係数演算部5bは、補正係数Kを演算する。補正係数Kは、負圧要求空気量Qnpと補機停止時回転保持空気量Qamoffまたは補機作動時回転保持空気量Qamonとの大小関係に応じて、以下のように求める。
(1) Qnp<Qamoffの場合(Qb<0の場合)
K=0
(2) Qamoff≦Qnp<Qamonの場合(0≦Qb<Qd)
K=Qb/Qd
(3) Qnp≧Qamonの場合(Qb≧Qd)
K=1
不足分補正トルク演算部5cは、補機負荷トルクTamに補正係数Kを乗じて不足分補正トルクTcを演算する。
【0016】
図4は、実施形態1のコントローラ3によるドライバ要求トルク補正制御の流れを示すフローチャートである。
ステップS1では、車両がアクセルオフのコースト状態であるか否かを判定する。YESの場合はステップS2へ進み、NOの場合はステップS1を繰り返す。
ステップS2では、負圧要求空気量Qnpに対する補機負荷補正空気量Qdの埋もれ量Qbから補正係数Kを求め、補機負荷トルクTamに補正係数Kを乗じて不足分補正トルクTcを演算する。
ステップS3では、アクセルがオンされたか否かを判定する。YESの場合はステップS4へ進み、NOの場合はステップS1へ戻る。
ステップS4では、ドライバ要求トルクTdrvに不足分補正トルクTcを加算して補正後ドライバ要求トルクTdrv_cを演算する。すなわち、不足分補正トルクTcによりドライバ要求トルクTdrvを増加補正する。
【0017】
図5は、実施形態1のドライバ要求トルク補正作用を示すタイムチャートである。前提として、車両はアクセルオフのコースト状態であり、補機(エアコン)が作動中である。
時刻t1では、ドライバがアクセルの踏み込みを開始したため、ドライバ要求トルクTdrvが立ち上がり、エンジン回転数Neは上昇に転じる。エンジン回転数Neの上昇に伴い補機作動時回転保持空気量Qamonおよび負圧要求空気量Qnpも増加を開始する。時刻t1からt2までの区間では、負圧要求空気量Qnpが補機停止時回転保持空気量Qamoffを下回る、すなわち、負圧要求空気量Qnpに対する補機負荷補正空気量Qdの埋もれ量Qbが負であるため、補正係数K=0であり、不足分補正トルクTc=0となるため、ドライバ要求トルクTdrvは補正されない。
【0018】
時刻t2では、負圧要求空気量Qnpが補機停止時回転保持空気量Qamoffと一致する。時刻t2からt3までの区間では、負圧要求空気量Qnpが補機停止時回転保持空気量Qamoff以上、かつ、補機作動時回転保持空気量Qamon未満、すなわち、負圧要求空気量Qnpに対する補機負荷補正空気量Qdの埋もれ量Qbがゼロ以上、かつ、補機負荷補正空気量Qd未満であるため、補正係数K=Qb/Qdとなり、ドライバ要求トルクTdrvは、補機負荷トルクTamに補正係数K=Qb/Qdを乗じた不足分補正トルクTcにより増加補正される。
【0019】
時刻t3では、負圧要求空気量Qnpが補機作動時回転保持空気量Qamonと一致する。時刻t3以降の区間では、負圧要求空気量Qnpが補機作動時回転保持空気量Qamon以上、すなわち、負圧要求空気量Qnpに対する補機負荷補正空気量Qdの埋もれ量Qbが補機負荷補正空気量Qd以上であるため、補正係数K=1となり、ドライバ要求トルクTdrvは、補機負荷トルクTamに補正係数K=1を乗じた不足分補正トルクTcにより増加補正される。
【0020】
図6は、アクセルオフによるコースト状態からアクセルオンされたときのアクセル開度APO、ドライバ要求トルクTdrv、ドライブシャフトトルクTおよび前後加速度Gのタイムチャートである。
コースト状態からドライバがアクセルペダルを踏み込むと、ドライブシャフトトルクTの符号が負から正へと反転し、駆動系のガタ(例えば、トランスミッションのギアのバックラッシュ)が詰められる際に、ガタ打ちショックが発生する。ガタ打ちショックはドライブシャフトトルクTの振動を増幅するため、車両のショックとなる。そこで、実施形態1のドライバ要求トルク演算部4では、コースト状態からアクセルオンされた場合、ドライバ要求トルクTdrvを、ゼロ付近の正の値まで上昇させた後、所定時間一定に保持し、所定時間経過後にアクセル開度APOに応じた値まで上昇させている。これにより、ガタ通過時におけるドライブシャフトトルクTの変化が小さくなるため、ガタ打ちショックを抑制でき、車両のショックが抑えられる。
【0021】
また、実施形態1では、アクセルオフ時、目標吸入空気量QtにISC指令空気量Qiscを加算することにより、エンジン回転数Neを目標回転数Netに維持する、いわゆるISC制御を実施している。このISC制御は、アクセルオン時も継続して実施されるため、アクセルオフからアクセルオンへの移行時において、ISC制御により目標吸入空気量Qtに加算されるISC指令空気量Qiscが、常に補機負荷トルクTamを補償するために必要な空気量である補機負荷補償空気量Qam_t以上であれば、補機負荷の有無に依らず、ドライブシャフトトルクTのガタ通過時において、上述した狙いのトルクプロフィールを実現できる。
【0022】
ところが、エンジン回転数Neが比較的高い領域では、アクセルオンへの移行時、ISC制御による目標吸入空気量Qtの補正のみでは、補機負荷補償空気量Qam_tを確保できない。この場合、
図6に破線で示すように、ドライブシャフトトルクTはゼロ付近の負の値で所定時間一定に保持され、その後アクセル開度APOに応じた値まで上昇する。よって、ガタ通過時のドライブシャフトトルクTの変化が大きくなるため、ガタ打ちショックが抑えられず、ドライブシャフトトルクTが大きく変動する。以下、
図7を用いてISC指令空気量Qiscのみでは補機負荷補償空気量Qam_tを確保できないケースについて詳細に説明する。
【0023】
図7は、エンジン回転数NeとISC指令空気量Qiscとの関係を示す図である。
ISC制御において、補機停止時におけるISC指令空気量Qiscは、補機停止時回転保持空気量Qamoffと負圧要求空気量Qnpとのセレクトハイにより決定される。一方、補機作動時におけるISC指令空気量Qiscは、補機作動時回転保持空気量Qamonと負圧要求空気量Qnpとのセレクトハイにより決定される。ここで、補機作動時回転保持空気量Qamonは、補機停止時回転保持空気量Qamoffに対し、補機負荷トルクTamに相当する補機負荷補正空気量Qdを加算したものである。補機停止時回転保持空気量Qamoffおよび補機作動時回転保持空気量Qamonは、エンジン回転数Neが高いほど増大する特性を持つ。一方、負圧要求空気量Qnpについても、エンジン回転数Neが高いほど増大するが、オイル上がり抑制やブレーキ負圧の過多防止等の要請から、その増加勾配は補機停止時回転保持空気量Qamoffおよび補機作動時回転保持空気量Qamonよりも大きい。
【0024】
このため、補機停止時におけるISC指令空気量Qiscは、エンジン回転数Neが、補機停止時回転保持空気量Qamoffと負圧要求空気量Qnpとが一致する第1回転数Ne1よりも小さい場合には、補機停止時回転保持空気量Qamoffとなり、エンジン回転数Neが第1回転数Ne1以上の場合には、負圧要求空気量Qnpとなる。一方、補機作動時におけるISC指令空気量Qiscは、エンジン回転数Neが、補機作動時回転保持空気量Qamonと負圧要求空気量Qnpとが一致する第2回転数Ne2よりも小さい場合には、補機作動時回転保持空気量Qamonとなり、エンジン回転数Neが第2回転数Ne2以上の場合には、負圧要求空気量Qnpとなる。したがって、補機作動中のアクセルオフからアクセルオンへの移行時には、エンジン回転数Neが第1回転数Ne1以上の領域において、補機負荷トルクTamを補うために必要な補機負荷補正空気量Qdの一部または全部が、負圧要求空気量Qnpに埋もれてしまう。したがって、目標吸入空気量QtにISC指令空気量Qiscを加算するISC制御のみでは、補機負荷トルクTamを補償するために必要な補機負荷補償空気量Qam_tを確保できない。
図7の斜線領域A,Bは、補機負荷補償空気量Qam_tに対するISC指令空気量Qiscの不足分の空気量を示している。
【0025】
これに対し、実施形態1のコントローラ3によるドライバ要求トルク補正制御では、コースト状態からアクセルオンされた場合、負圧要求空気量Qnpから補機停止時回転保持空気量Qamoffを減じて埋もれ量Qbを算出し、埋もれ量Qbに基づき不足分補正トルクTcを算出し、ドライバ要求トルクTdrvに不足分補正トルクTcを加算して補正後ドライバ要求トルクTdrv_cを求める。ここで、不足分補正トルクTcは、補機負荷補償空気量Qam_tからISC指令空気量Qiscを減じた空気量(
図7の斜線領域A,B)に相当するトルクである。つまり、実施形態1のドライバ要求トルク補正制御では、補機負荷補償空気量Qam_tからISC指令空気量Qiscを減じた空気量に相当する不足分補正トルクTcを算出し、不足分補正トルクTcをドライバ要求トルクTdrvに加算して補正後ドライバ要求トルクTdrv_cを求め、補正後ドライバ要求トルクTdrv_cから目標吸入空気量を算出している。これにより、補機負荷補償空気量Qam_tに対するISC指令空気量Qiscの不足分を補償できるため、ドライブシャフトトルクTのガタ通過時において、狙いのトルクプロフィールを実現できる。この結果、コースト状態からアクセルオンにより加速する際の車両のショックを低減できる。
【0026】
また、実施形態1のドライバ要求トルク補正制御では、アクセルオフ時には補機負荷分の空気量を補わないため、コースト状態における吸入空気量過多に伴うエンジン回転数の高止まりを防止できる。この結果、コースト状態における減速感および燃費の悪化や、騒音の増大等を抑制できる。加えて、マニュアルトランスミッションを搭載した車両では、マニュアルトランスミッションのシフト操作時における違和感を抑制できる。
さらに、実施形態1のドライバ要求トルク補正制御は、ISC制御と干渉しないため、既存のISC制御ロジックの変更が不要である。
【0027】
コントローラ3は、負圧要求空気量Qnpが補機停止時回転保持空気量Qamoffよりも大きい場合に、不足分補正トルクTcによるドライバ要求トルクTdrvの増加補正を実施する。すなわち、負圧要求空気量Qnpに対して補機負荷補正空気量Qdの一部または全部が埋もれているか否かを見ることにより、補機負荷補償空気量Qam_tに対してISC指令空気量Qiscが不足しているのか否かを正確に判定でき、補機負荷を適切に補償できる。
【0028】
不足分補正トルク演算部5は、負圧要求空気量Qnpが補機停止時回転保持空気量Qamoffよりも大きく、かつ、補機作動時回転保持空気量Qamon以下である場合には、補機負荷補正空気量Qdに対する、負圧要求空気量Qnpから補機停止時回転保持空気量Qamoffを減じた埋もれ量Qbの割合(Qb/Qd)を補正係数Kとし、補機負荷トルクTamに補正係数Kを乗じて不足分補正トルクTcを演算する。Qamoff<Qnp≦Qamonの場合、補機負荷トルクを補うために必要な空気量の一部が負圧要求空気量Qnpに埋もれている。このとき、
図7の斜線領域Aの空気量、すなわち、補機負荷補償空気量Qam_tからISC指令空気量Qiscを減じた空気量は、負圧要求空気量Qnpから補機停止時回転保持空気量Qamoffを減じた埋もれ量Qbに等しい。また、補機負荷補正空気量Qdは補機負荷トルクTamに相当する空気量であるから、補機負荷補正空気量Qdに対する埋もれ量Qbの割合を補正係数Kとし、補機負荷トルクTamに乗じることにより、斜線領域Aの空気量に相当する不足分補正トルクTcを正確に算出できる。
【0029】
不足分補正トルク演算部5は、負圧要求空気量Qnpが補機作動時回転保持空気量Qamonよりも大きい場合には、補正係数Kを1とし、補機負荷トルクTamに補正係数Kを乗じて不足分補正トルクTcを演算する。Qnp>Qamonの場合、補機負荷トルクを補うために必要な空気量の全部が負圧要求空気量Qnpに埋もれている。このとき、
図7の斜線領域Bの空気量、すなわち、補機負荷補償空気量Qam_tからISC指令空気量Qiscを減じた空気量は、補機負荷補正空気量Qdに等しい。よって、不足分補正トルクTcを補機負荷トルクTamとすることにより、斜線領域Bの空気量に相当する不足分補正トルクTcを正確に算出できる。
【0030】
(他の実施形態)
以上、本発明を実施するための形態を説明したが、本発明の具体的な構成は、実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。
例えば、エンジン2にスロットルバルブ2aを迂回するISCバルブが設けられている場合には、ISC制御時にISCバルブの開度を制御してもよい。
負圧要求空気量Qnp、補機停止時回転保持空気量Qamoff、補機作動時回転保持空気量Qamon、補機負荷補正空気量Qd、補機負荷トルクTamの一部または全部を不足分補正トルク演算部5の内部で演算してもよい。
実施形態1では、不足分補正トルクTcをドライバ要求トルクTdrvに加算したが、不足分補正トルクTcに相当する不足分空気量を目標吸入空気量Qtに加算してもよい。
埋もれ量Qbからあらかじめ設定されたマップを用いて不足分補正トルクTcを求めてもよい。
【符号の説明】
【0031】
1 エンジン制御装置
2 エンジン
2a スロットルバルブ
3 コントローラ
4 ドライバ要求トルク演算部
5 不足分補正トルク演算部(第2補正空気量演算部)
5a 量演算部
5b 補正係数演算部
5c 不足分補正トルク演算部
6 ドライバ要求トルク補正部(第2目標空気量補正部)
7 目標吸入空気量演算部
8 ISC指令空気量演算部(第1補正空気量演算部)
8a 補機停止時回転保持空気量演算部
8b 補機負荷トルク演算部
8c 負圧要求空気量演算部
8d 補機負荷補正空気量演算部
8e 回転保持空気量演算部
8f セレクトハイ部
9 目標吸入空気量補正部(第1目標空気量補正部)
10 目標スロットル開度演算部
11 スロットル開度制御部