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特許7129804コンクリート構造物の表面保護層に対する健全性評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-25
(45)【発行日】2022-09-02
(54)【発明の名称】コンクリート構造物の表面保護層に対する健全性評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/20 20060101AFI20220826BHJP
   G01N 27/00 20060101ALI20220826BHJP
   E01D 22/00 20060101ALN20220826BHJP
【FI】
G01N27/20 Z
G01N27/00 L
E01D22/00 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018063179
(22)【出願日】2018-03-28
(65)【公開番号】P2019174295
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】505398952
【氏名又は名称】中日本高速道路株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505398963
【氏名又は名称】西日本高速道路株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507194017
【氏名又は名称】株式会社高速道路総合技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】391023518
【氏名又は名称】一般社団法人日本建設機械施工協会
(74)【代理人】
【識別番号】100104570
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 光弘
(72)【発明者】
【氏名】長尾 千瑛
(72)【発明者】
【氏名】長田 光司
(72)【発明者】
【氏名】福永 靖雄
(72)【発明者】
【氏名】藤野 和雄
(72)【発明者】
【氏名】谷倉 泉
(72)【発明者】
【氏名】榎園 正義
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第97/044659(WO,A1)
【文献】特開2000-214122(JP,A)
【文献】特開昭61-294348(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0361796(US,A1)
【文献】特開2003-245015(JP,A)
【文献】実開昭56-021755(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00 - G01N 27/10
G01N 27/14 - G01N 27/24
E01D 22/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ンクリート構造物の表面保護層に対する健全性評価方法であって、
前記表面保護層に、前記コンクリート構造物の所定のコンクリート部位に到達する穴を形成し、当該穴が第一の導電性流体で満たされるように前記所定のコンクリート部位を含む前記表面保護層上の領域に前記第一の導電性流体を塗布し、
プレート状に形成された一方の電極を、前記穴を塞ぐように、前記所定のコンクリート部位を含む前記第一の導電性流体が塗布された前記表面保護層上の領域に設置するとともに、プレート状に形成された他方の電極を、第二の導電性流体を介して、前記表面保護層の評価対象領域に設置して、両電極間の電気抵抗値を測定し、
測定した電気抵抗値を基準値と比較することにより、前記表面保護層の評価対象領域の健全性を評価する
ことを特徴とするコンクリート構造物の表面保護層に対する健全性評価方法。
【請求項2】
ンクリート構造物の表面保護層に対する健全性評価方法であって、
前記コンクリート構造物に、前記表面保護層を貫通して前記コンクリート構造物の所定のコンクリート部位に到達する穴を形成して、当該穴に第一の導電性流体を充填して、バー状に形成された一方の電極を差し込むことにより、前記一方の電極を前記所定のコンクリート部位に設置するとともに、プレート状に形成された他方の電極を、第二の導電性流体を介して、前記表面保護層の評価対象領域に設置して、両電極間の電気抵抗値を測定し、
測定した電気抵抗値を基準値と比較することにより、前記表面保護層の評価対象領域の健全性を評価する
ことを特徴とするコンクリート構造物の表面保護層に対する健全性評価方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のコンクリート構造物の表面保護層に対する健全性評価方法であって、
前記基準値は、健全性が保証された状態で測定された前記両電極間の電気抵抗値である
ことを特徴とするコンクリート構造物の表面保護層に対する健全性評価方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一項に記載のコンクリート構造物の表面保護層に対する健全性評価方法であって、
前記第二の導電性流体は、粘性流体である
ことを特徴とするコンクリート構造物の表面保護層に対する健全性評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の表面保護層に対する健全性評価技術に関し、特に、壁高欄、橋脚等の立てられたコンクリート構造物の表面保護層に対する健全性評価技術に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物の健全性評価技術として特許文献1に記載の技術がある。この技術では、アスファルト舗装された路面上に検査車両を走行させて、検査車両の荷重によりアスファルト舗装で覆われたコンクリート床版に変形を生じさせ、この変形時にコンクリート床版から発生するアコースティックエミッション(AE)を、検査車両に搭載したAEセンサで検知し、この検知結果によりコンクリート床版の劣化状況を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-61786号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、海岸線付近のコンクリート構造物等においては、海水等による塩害を防止するべく、コンクリート構造物の表面に、防水機能および遮塩機能を備えた表面保護層が形成されている。この表面保護層に亀裂・ひび割れ等が生じると、そこから海水等が浸入してコンクリート構造物に到達し、コンクリート構造物を劣化させる可能性がある。このため、表面保護層に対しても健全性の評価を行うことが好ましい。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、コンクリート構造物(コンクリート床版)の健全性を評価する技術であって、コンクリート構造物の表面保護層の健全性を評価するものではない。また、特許文献1に記載の技術は、アスファルト舗装で覆われたコンクリート床版を評価対象としているが、壁高欄、橋脚等の、立てられたコンクリート構造物の表面保護層を評価対象として想定していない。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、コンクリート構造物の表面保護層に対する健全性評価技術を提供することであり、特に、壁高欄、橋脚等の、立てられたコンクリート構造物の表面保護層の健全性評価に好適な健全性評価技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、一方の電極を、第一の導電性流体を介して、コンクリート構造物自体に設置するとともに、他方の電極をプレート状とし、第二の導電性流体を介して、表面保護層の評価対象領域上に設置して、両電極間の電気抵抗値を測定する。そして、測定した電気抵抗値を基準値と比較することにより、表面保護層の評価対象領域の健全性を評価する。ここで、第二の導電性流体は粘性流体であることが好ましい。
例えば、本発明の第1の態様は、
コンクリート構造物の表面保護層に対する健全性評価方法であって、
前記表面保護層に、前記コンクリート構造物の所定のコンクリート部位に到達する穴を形成し、当該穴が第一の導電性流体で満たされるように前記所定のコンクリート部位を含む前記表面保護層上の領域に前記第一の導電性流体を塗布し、
プレート状に形成された一方の電極を、前記穴を塞ぐように、前記所定のコンクリート部位を含む前記第一の導電性流体が塗布された前記表面保護層上の領域に設置するとともに、プレート状に形成された他方の電極を、第二の導電性流体を介して、前記表面保護層の評価対象領域に設置して、両電極間の電気抵抗値を測定し、
測定した電気抵抗値を基準値と比較することにより、前記表面保護層の評価対象領域の健全性を評価する。
また、本発明の第2の態様は、
コンクリート構造物の表面保護層に対する健全性評価方法であって、
前記コンクリート構造物に、前記表面保護層を貫通して前記コンクリート構造物の所定のコンクリート部位に到達する穴を形成して、当該穴に第一の導電性流体を充填して、バー状に形成された一方の電極を差し込むことにより、前記一方の電極を前記所定のコンクリート部位に設置するとともに、プレート状に形成された他方の電極を、第二の導電性流体を介して、前記表面保護層の評価対象領域に設置して、両電極間の電気抵抗値を測定し、
測定した電気抵抗値を基準値と比較することにより、前記表面保護層の評価対象領域の健全性を評価する。
【発明の効果】
【0008】
コンクリート構造物のコンクリート構造物本体は、水分を含んだ抵抗体であるのに対して、コンクリート構造物の表面保護層は、防水機能を備えた絶縁体もしくはコンクリート構造物本体よりも遥かに高抵抗の抵抗体である。このため、表面保護層の評価対象領域が健全である場合、両電極間の抵抗値は無限大もしくは非常に高くなる。一方、表面保護層の評価対象領域に亀裂・ひび割れ等の欠陥がある場合、第二の導電性流体がそこに浸入するため、表面保護層の評価対象領域が健全な場合に比べて両電極間の電気抵抗値が低くなる。したがって、表面保護層の評価対象領域が健全な場合における両電極間の電気抵抗値を基準値として、これと比較することにより、評価対象領域における表面保護層の健全性を評価することができる。
【0009】
特に、第二の導電性流体として粘性流体を用いることにより、壁高欄、橋脚等の、立てられたコンクリート構造物において、第二の導電性流体が表面保護層の評価対象領域から垂れ落ち難くなるので、そこにプレート状の電極を設置するだけで、効率的に、表面保護層の評価対象領域にある亀裂・ひび割れ等に導電性流体をより確実に浸入させることができる。このため、壁高欄、橋脚等の、立てられたコンクリート構造物の表面保護層に対する健全性評価に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1(A)および図1(B)は、本発明の一実施の形態に係るコンクリート構造物の表面保護層に対する健全性評価方法の原理を説明するための図である。
図2図2は、表面保護層が形成されたコンクリート構造物の試験片に対する試験結果を示す図である。
図3図3(A)は、本発明の一実施の形態に係るコンクリート構造物の表面保護層に対する健全性評価方法の準備処理を説明するためのフロー図であり、図3(B)は、本発明の一実施の形態に係るコンクリート構造物の表面保護層に対する健全性評価方法の本処理を説明するためのフロー図である。
図4図4は、本発明の一実施の形態に係るコンクリート構造物の表面保護層に対する健全性評価方法の変形例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照して説明する。
【0012】
図1(A)および図1(B)は、本実施の形態に係るコンクリート構造物の表面保護層に対する健全性評価方法の原理を説明するための図である。
【0013】
本実施の形態においては、海水等による塩害を防止するための表面保護層2が形成された壁高欄、橋脚等の、沿岸地域(海岸線付近等)に設置されたコンクリート構造物1を点検対象として、その表面保護層2に対する健全性を評価する。ここで、表面保護層2は、エポキシ樹脂系塗料、フッ素樹脂系塗料等の合成樹脂系塗料をコンクリート構造物本体5のコンクリート表面に塗布するか含浸させることにより形成される。
【0014】
図1(A)に示すように、コンクリート構造物1において、コンクリート構造物本体5のコンクリート表面(表面保護層2が形成されておらず、コンクリート構造物本体5のコンクリート表面が露出している所定のコンクリート部位)6に、導電性を有する粘性流体である導電性ジェル4aを塗布してから、電気抵抗計3の一方のプレート型電極30を取り付けるとともに、表面保護層2の評価対象領域に、導電性を有する粘性流体である導電性ジェル4bを塗布してから、電気抵抗計3の他方のプレート型電極31を押し当てて取り付ける。そして、電気抵抗計3により両プレート型電極30、31間の電気抵抗値を測定し、この電気抵抗値を所定の基準値と比較することにより、評価対象領域における表面保護層2の健全性を評価する。
【0015】
コンクリート構造物1において、コンクリート構造物本体5は、水分を含んだ抵抗体(電気抵抗率:約1×10Ω・m以下)である。一方、コンクリート構造物本体5の表面を覆う表面保護層2は、エポキシ樹脂系塗料、フッ素樹脂系塗料等の合成樹脂系塗料で形成された絶縁体、もしくはコンクリート構造物本体5よりも遥かに高抵抗の抵抗体(電気抵抗率:約1×10Ω・m以上)であり、防水機能および遮塩機能を備えている。
【0016】
上述のようにコンクリート構造物1に装着された電気抵抗計3の両プレート型電極30、31間の電気抵抗は、コンクリート構造物本体5の電気抵抗および表面保護層2の電気抵抗を直列接続した場合における合成抵抗となる。ここで、表面保護層2の評価対象領域が健全である場合、表面保護層2の評価対象領域に塗布された導電性ジェル4bは、表面保護層2の防水機能により表面保護層2内には浸入せず、したがって、表面保護層2の電気抵抗には影響しない。一方、表面保護層2に亀裂・ひび割れ等の欠陥が生じている場合、表面保護層2の評価対象領域に塗布された導電性ジェル4bは、他方のプレート型電極31が表面保護層2の評価対象領域に押し当てられることにより亀裂・ひび割れ等の欠陥から表面保護層2内部に浸入するため、表面保護層2の電気抵抗に大きく影響する。
【0017】
表面保護層2の電気抵抗は、コンクリート構造物1の電気抵抗に比べて遥かに大きいため、表面保護層2の電気抵抗が大きく変動すると、電気抵抗計3により計測される両プレート型電極30、31間の電気抵抗値も大きく変動する。そこで、本実施の形態では、表面保護層2の健全性が保証された状態のコンクリート構造物1において、上記と同様な方法により電気抵抗計3で電気抵抗値をあらかじめ基準値として測定しておき(準備処理)、表面保護層2の評価対象領域に対して電気抵抗計3により測定された電気抵抗値をその基準値と比較する。これにより、表面保護層2の評価対象領域の健全性を評価している。
【0018】
本発明者は、コンクリート構造物本体5として所定サイズ(長さ29cm、幅7cm、高さ14cm)のコンクリートブロックを用い、表面保護層2(厚さ0.2cm)としてエポキシ樹脂系塗料を用いて、上面に表面保護層2から一部露出したコンクリート表面6を有するコンクリート構造物本体5の試験片を新たに作製し、この試験片の電気抵抗値を測定する試験をつぎの要領で実施した。
【0019】
まず、試験片において、表面保護層2から一部露出したコンクリート表面6に、導電性ジェル4aとしてグリセリンペーストを塗布してから、電気抵抗計3の一方のプレート型電極30を取り付けた。また、表面保護層2が、亀裂・ひび割れ等の欠陥が存在しない健全な状態であることを目視等により確認してから、上面のコンクリート表面6から所定距離(約7cm)だけ離れた表面保護層2の評価対象領域に導電性ジェル4bとしてグリセリンペーストを塗布し、それから電気抵抗計3の他方のプレート型電極31を押し当てて取り付けた。そして、電気抵抗計3により両プレート型電極30、31間の電気抵抗値を表面保護層2が健全であるときの電気抵抗値、すなわち基準値として測定した。
【0020】
つぎに、表面保護層2の評価対象領域に、コンクリート構造物本体5のコンクリート表面まで到達する直径1.2mm程度のピンホールを形成してから、導電性ジェル4bとしてグリセリンペーストを塗布し、それから電気抵抗計3の他方のプレート型電極31を押し当てて取り付けた。そして、電気抵抗計3により両プレート型電極30、31間の電気抵抗値を、表面保護層2が不健全であるときの電気抵抗値として測定した。
【0021】
図2は、上述の試験片に対する試験結果を示す図である。
【0022】
図2において、グラフ50は、表面保護層2が健全であるときの試験片の電気抵抗値であり、グラフ51は、表面保護層2が不健全であるときの試験片の電気抵抗値である。
【0023】
図示するように、表面保護層2が不健全であるときの試験片の電気抵抗値は、表面保護層2が健全であるときの電気抵抗値に対して100分の1程度にまで低下しており、両者間の電気抵抗値に有意な差が見られた。
【0024】
なお、上記においては、電気抵抗計3の一方の電極としてプレート側電極30を用いて、このプレート側電極30を、コンクリート構造物1の表面保護層2が形成されていない所定のコンクリート表面6に導電性ジェル4aを塗布してから取り付けているが、電気抵抗計3の一方の電極とコンクリート構造体本体5との接続形態はどのようものであってもよい(下記載の準備処理および本処理においても同様)。
【0025】
例えば、点検対象のコンクリート構造物1において、コンクリート構造体本体5に導電性ジェル4aを介して端子があらかじめ埋め込まれ、この端子が表面保護層2から露出している場合には、この端子に対応する電極を一方の電極として有する電気抵抗計3を用いて、この端子に電気抵抗計3の一方の電極を接続するようにしてもよい。
【0026】
また、点検対象のコンクリート構造物1において、コンクリート構造体本体5のコンクリート表面がすべて表面保護層2で覆われている場合、測定に先立ち、図1(B)に示すように、コンクリート構造物1の所定位置にドリル加工を施して、表面保護層2を貫通してコンクリート構造体本体5内まで到達する適当な深さの穴を形成し、この穴に導電性ジェル4aを充填してから電気抵抗計3の一方の電極(プレート型電極30に代えてバー型電極32)を差し込んでもよい。あるいは、測定に先立ち、所定位置の表面保護層2に、コンクリート構造物本体5のコンクリート表面(所定のコンクリート部位)にまで到達するピンホール等の細孔(バー型電極32の面積よりも開口面積の小さな穴)を少なくとも一つ設けて、この穴が導電性ジェル4aで満たされるように、この穴を含む表面保護層2の部位に導電性ジェル4aを塗布し、それから、この穴を塞ぐように表面保護層2にプレート型電極30を押し当てて取り付けてもよい。後者の場合、コンクリート構造物本体5に比べて修復が容易な表面保護層2の加工のみで済むため、健全性評価にかかるコストを低く抑えることができる。前者の場合には、ドリル加工された穴は、測定終了後、防水性・遮塩性を有するシール材を充填してもよいが、着脱可能なキャップを被せておくことで、検査の度にドリル加工・修復を行う必要がなくなるため、健全性評価にかかるコストを低く抑えることができる。
【0027】
本実施の形態に係るコンクリート構造物の表面保護層に対する健全性評価方法は、(1)表面保護層2の健全性が保証されているコンクリート構造物1において、その表面保護層2の評価対象領域毎に電気抵抗値を測定して、これを基準値に設定する準備処理と、(2)保守点検時に、コンクリート構造物1の表面保護層2の評価対象領域毎に電気抵抗値を測定して、これを基準値と比較することによりコンクリート構造物1の表面保護層2の健全性を評価する本処理と、を含んで構成される。
【0028】
(1)準備処理
図3(A)は、本実施の形態に係るコンクリート構造物の表面保護層に対する健全性評価方法の準備処理を説明するためのフロー図である。このフローは、コンクリート構造物1の表面保護層2の形成直後等、コンクリート構造物1の表面保護層2の健全性が保証されている状態において実施される処理であり、コンクリート構造物1ごとに実行してコンクリート構造物1ごとの基準値を得てもよいし、試作品、サンプル等に対して実行して、同タイプのコンクリート構造物1に対して共通に用いる基準値を得てもよい。
【0029】
まず、コンクリート構造物1の所定部位のコンクリート表面(表面保護層2が形成されておらず、コンクリート構造物本体5のコンクリート表面が露出している所定のコンクリート部位)6に導電性ジェル4aを塗布してから電気抵抗計3の一方のプレート型電極30を取り付ける(S10)。
【0030】
つぎに、表面保護層2の表面をプレート型電極31の大きさで分割すること等により定めた複数の評価対象領域のうち、基準値が未登録であるいずれかの評価対象領域に導電性ジェル4bを塗布する(S11)。それから、この導電性ジェル4bが塗布された表面保護層2の評価対象領域に、電気抵抗計3の他方のプレート型電極31を押し付けて取り付ける(S12)。
【0031】
つぎに、電気抵抗計3により両プレート型電極30、31間の電気抵抗値を測定し(S13)、この測定値を、プレート型電極31が取り付けられている表面保護層2の評価対象領域の基準値として登録する(S14)。
【0032】
つぎに、表面保護層2の複数の評価対象領域について、基準値をすべて登録したか否かを判断する(S15)。基準値が未登録の評価対象領域があるならば(S15でNO)、S11に戻る。一方、すべての評価対象領域について基準値を登録したならば(S15でYES)、このフローを終了する。
【0033】
(2)本処理
図3(B)は、本実施の形態に係るコンクリート構造物の表面保護層に対する健全性評価方法の本処理を説明するためのフロー図である。このフローは、準備処理後の例えばコンクリート構造物1の保守点検時に実施される。
【0034】
まず、準備処理と同様、コンクリート構造物1の所定部位(準備処理のときと同じ部位)6のコンクリート表面6に、導電性ジェル4aを塗布してから電気抵抗計3の一方のプレート型電極30を取り付ける(S20)。
【0035】
つぎに、準備処理により基準値が登録された表面保護層2の複数の評価対象領域のうち、健全性が未評価であるいずれかの評価対象領域に導電性ジェル4bを塗布する(S21)。それから、この導電性ジェル4bが塗布された表面保護層2の評価対象領域に電気抵抗計3の他方のプレート型電極31を押し付けて取り付ける(S22)。
【0036】
つぎに、電気抵抗計3により両プレート型電極30、31間の電気抵抗値を測定し(S23)、この測定値を、プレート型電極31が取り付けられている表面保護層2の評価対象領域の基準値と比較することにより、この評価対象領域の健全性を評価する(S24)。例えば、測定値が基準値の所定パーセント未満である場合には、評価対象領域に亀裂・ひび割れ等の欠陥が発生して健全性が損なわれている状態と判断し、それ以外の場合には、評価対象領域を健全状態と判断する。
【0037】
つぎに、表面保護層2の複数の評価対象領域について、健全性をすべて評価したか否かを判断する(S25)。健全性が未評価の評価対象領域があるならば(S25でNO)、S21に戻る。一方、すべての評価対象領域について健全性を評価したならば(S25でYES)、このフローを終了する。
【0038】
以上、本発明の一実施の形態について説明した。
【0039】
コンクリート構造物1は、水分を含んだ抵抗体であるのに対して、コンクリート構造物1の表面保護層2は、防水機能を備えた絶縁体もしくはコンクリート構造物1より遥かに高抵抗の抵抗体であるため、表面保護層2の評価対象領域が健全な状態である場合、コンクリート構造物1に取り付けた両プレート型電極30、31間の電気抵抗値は無限大もしくは非常に高くなる。一方、表面保護層2の評価対象領域に亀裂・ひび割れ等の欠陥がある場合、評価対象領域に塗布された導電性ジェル4bが、評価対象領域に押し当てられたプレート型電極31によって亀裂・ひび割れ等に浸入するため、評価対象領域が健全な場合に比べて両プレート型電極30、31間の電気抵抗値が低くなる。本実施の形態によれば、評価対象領域が健全な場合における両プレート型電極30、31間の電気抵抗値を基準値として、これと比較することにより、表面保護層2の評価対象領域の健全性を効率的に評価することができる。
【0040】
また、本実施の形態では、表面保護層2の評価対象領域に導電性ジェル4bを塗布している。導電性ジェル4は、壁高欄、橋脚等の、立てられたコンクリート構造物1の例えば側壁面上の表面保護層2の評価対象領域に塗布されても、その粘性により表面保護層2の評価対象領域から垂れ落ち難い。このため、表面保護層2の評価対象領域にプレート型電極31を押し当てるだけで、簡単に、表面保護層2の評価対象領域にある亀裂・ひび割れ等の内部に、表面保護層2の評価対象領域上に留まっている導電性ジェル4bを、より確実に浸入させることができる。このため、本実施の形態は、壁高欄、橋脚等の立てられたコンクリート構造物1の表面保護層2に対する健全性評価に好適である。
【0041】
なお、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形が可能である。
【0042】
例えば、上記の実施の形態では、コンクリート構造物1のコンクリート表面6への電気抵抗計3の一方のプレート型電極30を取付けに先立って、このコンクリート表面6上に導電性ジェル4aを塗布しているが、本発明はこれに限定されない。本発明は、導電性ジェル4aに限らず、コンクリート構造物1とプレート型電極30との間を確実に電気接続可能な導電性を有する流体をコンクリート表面6上に塗布するものであればよい。同様に、表面保護層2の評価対象領域への電気抵抗計3の他方のプレート型電極31の取付けに先立って、この評価対象領域上に導電性ジェル4bを塗布しているが、本発明はこれに限定されない。本発明は、導電性ジェル4bに限らず、評価対象領域の欠陥内部に侵入可能な、導電性を有する流体を評価対象領域上に塗布するものであればよい。
【0043】
また、上記の実施の形態では、コンクリート構造物1のコンクリート表面6に、導電性を有する粘性流体である導電性ジェル4aを塗布してから電気抵抗計3の一方のプレート型電極30を取り付けるとともに、表面保護層2の評価対象領域に、導電性を有する粘性流体である導電性ジェル4bを塗布してから電気抵抗計3の他方のプレート型電極31を押し当てて取り付けている。しかし、本発明はこれに限定されない。
【0044】
例えば、電気抵抗計3の他方のプレート型電極31側に、導電性を有する粘性流体である導電性ジェル4bを塗布してもよい。
【0045】
また、表面保護層2の上に適当な間隔をおいて設定された一対の評価対象領域に電気抵抗計3のプレート型電極30、31をそれぞれ導電性ジェル4bを塗布してから押し当てて取付けて、両プレート型電極30、31間の電気抵抗値を測定するようにしてもよい。例えば、図4に示すように、電気抵抗計3のプレート型電極30、31を適当な長さのアーム33で連結するとともに、アーム33の中央部に、表面保護層2に塗布された導電性ジェル4bを拭き取る拭取部材34を配置する。このようにすることにより、表面保護層2上に一定の間隔をおいて両プレート型電極30、31を配置することができるとともに、両プレート型電極30、31が表面保護層2上の導電性ジェル4bにより電気的に接続されるのを防止することができる。
【0046】
図4において、表面保護層2が絶縁体である場合には、導電性ジェル4bを介してプレート型電極30、31が取り付けられた評価対象領域の少なくとも一方が健全であると、両プレート型電極30、31間は健全な表面保護層2によって絶縁される。このため、両プレート型電極30、31間の電気抵抗値は無限大となる。これに対して、導電性ジェル4を介してプレート型電極30、31が取り付けられた評価対象領域の両方に、コンクリート構造物本体5のコンクリート表面まで到達する亀裂・ひび割れ等の欠陥があると(例えば、評価対象領域間に亀裂・ひび割れが入っている場合等)、プレート型電極30、31とコンクリート表面との間が、表面保護層2の亀裂・ひび割れ等の欠陥に浸入した導電性ジェル4bによって短絡される。このため、両プレート型電極30、31間の電気抵抗値は、コンクリート構造物本体5の電気抵抗値に近い値まで低下する。
【0047】
また、表面保護層2がコンクリート構造物本体5よりも遥かに高抵抗の抵抗体である場合には、導電性ジェル4bを介してプレート型電極30、31が取り付けられた評価対象領域の少なくとも一方に亀裂・ひび割れ等の欠陥があると、この亀裂・ひび割れ等の欠陥に浸入した導電性ジェル4bにより、両プレート型電極30、31間の電気抵抗値が低下する。
【0048】
したがって、表面保護層2上に間隔をおいて設定された一対の評価対象領域に、電気抵抗計3のプレート型電極30、31を、それぞれ導電性ジェル4を塗布してから押し当てて取り付けて、両プレート型電極30、31間の電気抵抗値を測定する場合でも、測定値を基準値と比較することで、表面保護層2の評価対象領域の健全性を評価することができる。
【符号の説明】
【0049】
1:コンクリート構造物 2:表面保護層 3:電気抵抗計 4a,4b:導電性ジェル 5:コンクリート構造物本体 30、31:プレート型電極 32:バー型電極 33:アーム 34:拭取部材
図1
図2
図3
図4