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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-25
(45)【発行日】2022-09-02
(54)【発明の名称】台車用カバー
(51)【国際特許分類】
   B61F 3/14 20060101AFI20220826BHJP
   B61D 49/00 20060101ALI20220826BHJP
【FI】
B61F3/14
B61D49/00 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018093148
(22)【出願日】2018-05-14
(65)【公開番号】P2019199114
(43)【公開日】2019-11-21
【審査請求日】2021-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】712004783
【氏名又は名称】株式会社総合車両製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩波 健
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 知幸
(72)【発明者】
【氏名】横山 大雅
(72)【発明者】
【氏名】古屋 大
【審査官】姫島 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-125635(JP,A)
【文献】特開2011-143763(JP,A)
【文献】特開2013-231268(JP,A)
【文献】特表2011-523672(JP,A)
【文献】特開2001-240646(JP,A)
【文献】特開2012-024955(JP,A)
【文献】国際公開第2015/071926(WO,A1)
【文献】特開2015-024728(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61F 3/14
B61D 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の台車の少なくとも一部を下方から覆う台車用カバーであって、
板状の不織布製基材で構成される少なくとも1枚の母材の、前記台車に取り付けられた状態で少なくとも外側を向く面に、ポリウレア樹脂の被膜が設けられ
前記母材は、複数の板状の不織布製基材が、溶融樹脂を用いた熱溶着により接合されて構成されていることを特徴とする台車用カバー。
【請求項2】
前記被膜が、前記母材の全ての面に設けられたことを特徴とする請求項1記載の台車用カバー。
【請求項3】
前記母材の前記台車に対する固定部分及びその近傍の領域は、不織布が圧縮されて他の領域よりも厚みが小さくなっていることを特徴とする請求項1又は2記載の台車用カバー。
【請求項4】
平面視で前記台車の中心点に対して位相が互いに180°異なるように配置される、同形状を有する少なくとも1組の部位が、平面方向に並べられて前記台車に固定されることで形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の台車用カバー。
【請求項5】
前記台車に取り付けられた状態で、鉄道車両の進行方向を基準とした前方側の端縁に、前記前方に向かうにつれて上方側へと湾曲して延びる前方流線部が設けられると共に、鉄道車両の進行方向を基準とした後方側の端縁に、前記後方に向かうにつれて上方側へと湾曲して延びる後方流線部が設けられることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の台車用カバー。
【請求項6】
前記複数の板状の不織布製基材は、前記前方流線部を形成する湾曲した板状の不織布製基材と、前記後方流線部を形成する湾曲した板状の不織布製基材とを含むことを特徴とする請求項5記載の台車用カバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の台車の少なくとも一部を下方から覆う台車用カバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の台車には、主電動機やブレーキ装置等をはじめとして、鉄道車両を軌道に沿って進行させるための様々な機材が搭載されている。このため、台車の下部には様々な機材により凹凸が形成されており、この凹凸によって鉄道車両の進行時に空気の流れが乱されることに起因して、特に高速で進行する鉄道車両において、騒音の発生や、路盤から跳ね上げられる飛来物(バラストや雪が押し固められた氷塊等)の衝突が問題視されている。これを解決するために、台車の下部にカバーを設置することで、台車の下部を平滑化して空気の流れを整風する発案がなされている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-125635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したようなカバーを設置した場合であっても、依然として、路盤から跳ね上げられる飛来物が存在しており、この飛来物が衝突することでカバーが破損し、破損具合によっては落下した破損物により鉄道車両の運行に影響が出ることが懸念される。更に、鉄道車両の高速化の観点から、台車に取り付けられるカバーについても軽量化が求められる。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、軽量かつ高剛性な台車用カバーを実現し、鉄道車両の運行に影響を与えるような台車用カバーの破損を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本願発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0006】
鉄道車両の台車の少なくとも一部を下方から覆う台車用カバーであって、板状の不織布製基材で構成される少なくとも1枚の母材の、前記台車に取り付けられた状態で少なくとも外側を向く面に、ポリウレア樹脂の被膜が設けられ、前記母材は、複数の板状の不織布製基材が、溶融樹脂を用いた熱溶着により接合されて構成されている台車用カバー(請求項1)。
【0007】
本項に記載の台車用カバーは、鉄道車両の台車の少なくとも一部を下方から覆うことで、台車の下部を平滑化し、台車の下部の凹凸に起因する騒音を抑制するものである。又、この台車用カバーは、例えば熱成形等で加工された、板状の不織布製基材で構成される少なくとも1枚の母材に、例えば吹き付け等により、ポリウレア樹脂の被膜が設けられた構造を有している。ポリウレア樹脂は、一般的に、軽量でありながらも柔軟性及び強度に優れており、更に、硬化が早く作業性にも優れている。又、母材に用いられる不織布も軽量であり、引張強度等が優れたものもあるため、そのような不織布を用いることが好ましい。このような母材に対し、台車用カバーが台車に取り付けられた状態で少なくとも外側を向く面に、ポリウレア樹脂の被膜が設けられていることで、鉄道車両の走行風等によって跳ね上げられた飛来物は、台車用カバーのポリウレア樹脂が設けられた面に衝突することになる。このため、飛来物の衝突エネルギーがポリウレア樹脂によって効果的に吸収・分散されつつ、不織布及びポリウレア樹脂が有する強度によって、鉄道車両の運行に影響を与えるような台車用カバーの破損が防止されるものである。
【0008】
更に、不織布製基材で構成される母材と、ポリウレア樹脂の被膜との双方が軽量であるため、鉄道車両の高速化にも寄与するものとなる。又、本項に記載の台車用カバーは、上記のような構成を有しているため、万が一破損したとしても、破損部分を補うように不織布を配置してポリウレア樹脂で被覆することで修復され、更に、破損個所が小さい場合はポリウレア樹脂のみで修復することも考えられる。加えて、母材の不織布製基材を構成する不織布の積層数及び圧縮率や、被膜を構成するポリウレア樹脂の膜厚及び品種等、調整可能なパラメータを多く有しているため、様々な要求に対応するものとなる。
又、本項に記載の台車用カバーは、複数の板状の不織布製基材によって母材が構成されるものであり、これら複数の不織布製基材が、溶融樹脂を用いた熱溶着によって接合される。この際、接合する不織布製基材の位置関係に応じて、例えば、不織布製基材の突き合わせ部間に溶融樹脂を配置して熱溶着してもよく、不織布製基材の端部に接合代を設け、溶融樹脂を挟み込んで接合代同士を重ね合わせて熱溶着してもよい。又、それと同時に、接合部分を覆うようにして不織布製の薄膜を溶融樹脂により貼り付けてもよい。このようにして構成された母材は、その後、ポリウレア樹脂の被膜によって一体的に覆われることになる。
【0009】
(2)上記(1)項において、前記被膜が、前記母材の全ての面に設けられた台車用カバー(請求項2)。
本項に記載の台車用カバーは、ポリウレア樹脂の被膜が母材の全ての面に設けられることにより、ポリウレア樹脂によって付与される強度や柔軟性が、より一層向上するものである。このため、飛来物の衝突に起因する、鉄道車両の運行に影響を与えるような台車用カバーの破損が、より確実に防止されるものとなる。
【0010】
(3)上記(1)(2)項において、前記母材の前記台車に対する固定部分及びその近傍の領域は、不織布が圧縮されて他の領域よりも厚みが小さくなっている台車用カバー(請求項3)。
本項に記載の台車用カバーは、母材の台車に対する固定部分及びその近傍の領域が、不織布が圧縮されて他の領域よりも厚みが小さくなっているものである。すなわち、母材の台車に対する固定部分及びその近傍の領域は、不織布の積層数等が他の領域と同等のままで圧縮され、厚みが小さくなり密度が上昇する。これにより、母材の台車への固定部分及びその近傍領域の強度が向上するため、固定部分への応力集中に因るクラックの発生等が防止されるものとなる。
【0011】
(4)上記(1)から(3)項において、平面視で前記台車の中心点に対して位相が互いに180°異なるように配置される、同形状を有する少なくとも1組の部位が、平面方向に並べられて前記台車に固定されることで形成されている台車用カバー(請求項4)。
本項に記載の台車用カバーは、同形状を有する少なくとも1組の部位により形成されるものであり、これらの各部位が、不織布製基材で構成される母材に、ポリウレア樹脂の被膜が設けられた構造を有している。そして、少なくとも1組の部位は、平面視で台車の中心点に対して位相が互いに180°異なるように、平面方向に並べられて配置された状態で、台車に固定されている。
【0012】
すなわち、台車用カバー全体は、平面視で台車の中心点に対して点対称形状を有しており、その点対称形状が、互いに位相が180°異なる同形状に2分割された一方の側に、少なくとも1組の部位の一方の部位が含まれ、2分割された他方の側に、少なくとも1組の部位のもう一方の部位が含まれることになる。このように、少なくとも1組の部位により形成される分割構造を有することで、各部位の大きさが小さくなるため、台車用カバーの取り付け時等の作業負荷が軽減される。更に、各組の部位同士が同形状であるため、製作が容易になると共に、取り付け時の作業性が向上するものである。
【0013】
(5)上記(1)から(4)項において、前記台車に取り付けられた状態で、鉄道車両の進行方向を基準とした前方側の端縁に、前記前方に向かうにつれて上方側へと湾曲して延びる前方流線部が設けられると共に、鉄道車両の進行方向を基準とした後方側の端縁に、前記後方に向かうにつれて上方側へと湾曲して延びる後方流線部が設けられる台車用カバー(請求項5)。
本項に記載の台車用カバーは、台車に取り付けられた状態で、鉄道車両の進行方向を基準とした前方側の端縁及び後方側の端縁に、前方流線部及び後方流線部が設けられたものである。前方流線部は、前方に向かうにつれて上方側へと湾曲して延びており、後方流線部は、後方に向かうにつれて上方側へと湾曲して延びている。このように、鉄道車両の進行方向を基準とした前方側及び後方側の双方に、流線形に類似した湾曲構造を備えることにより、鉄道車両の進行時に、台車用カバーに沿って、空気がより滑らかに流れるようになるため、騒音の発生がより抑制されることになる。更に、鉄道車両の進行方向が反対向きになったとしても、問題なく騒音の発生が抑制されるものである。
【0014】
(6)上記(5)項において、前記複数の板状の不織布製基材は、前記前方流線部を形成する湾曲した板状の不織布製基材と、前記後方流線部を形成する湾曲した板状の不織布製基材とを含む台車用カバー(請求項6)。
本項に記載の台車用カバーは、母材を構成する複数の不織布製基材に、前方流線部を形成する湾曲した板状の不織布製基材と、後方流線部を形成する湾曲した板状の不織布製基材とが含まれている。又、複数の不織布製基材に、台車に下方から対向するように配置される平板部や、鉄道車両の幅方向を基準とした両側の端縁に、上方に向かって立設される側壁部等が含まれていてもよい。更に、不織布製基材の加工時に大きさの制約を受けて、2つ以上に分けて加工した不織布製基材が含まれていてもよい。
【0015】
そして、上述したような複数の不織布製基材は、上記(1)項に記載したように、溶融樹脂を用いた熱溶着によって接合され、その後、ポリウレア樹脂の被膜によって一体的に覆われることになる。すなわち、前方流線部や後方流線部等の湾曲した形状を含む、複雑な構造であっても、溶融樹脂を用いた不織布製基材間の熱溶着と、ポリウレア樹脂の被膜とによって、複数の不織布製基材が強固に接合された台車用カバーが、容易に製作されるものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明は上記のような構成であるため、軽量かつ高剛性な台車用カバーを実現し、鉄道車両の運行に影響を与えるような台車用カバーの破損を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態に係る台車用カバーが取り付けられた台車を示しており、(a)は平面図、(b)は側面図である。
図2図1に示した台車用カバーの平面図である。
図3図1に示した台車用カバーの同形状を有する1組の部位のうち、一方の部位を示す斜視図である。
図4図1に示した台車用カバーの構造を示す断面図である。
図5図1に示した台車用カバーの同形状を有する1組の部位のうち、一方の部位の母材を構成する複数の不織布製基材を示す平面図である。
図6図5に示した母材を構成する複数の不織布製基材のうち、直交して接続される基材間の接続構造を示すイメージ図である。
図7図5に示した母材を構成する複数の不織布製基材のうち、同平面上で接続される基材間の接続構造を示すイメージ図である。
図8図1に示した台車用カバーの複数の支持部材の取り付け位置を示す概略的な平面図である。
図9図8に示した台車用カバーの複数の支持部材の取り付け位置及びその近傍領域の断面図である。
図10図8に示した台車用カバーと台車或いは取付フレームとの固定構造を示すイメージ図であり、(a)は第1形態のボルトとナットとを用いた形態、(b)は第1形態のボルトとねじ座とを用いた形態である。
図11図10に示した支持部材の平面図である。
図12図1に示した台車用カバーの取付構造を示しており、(a)は斜視図、(b)は側面からの内部透視イメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面に基づいて説明する。ここで、従来技術と同一部分、若しくは相当する部分については、詳しい説明を省略することとし、又、図面の全体を通して、同一部分若しくは相当する部分は、同一の符号で示している。
図1は、鉄道車両の台車70に取り付けた状態の、本発明の実施の形態に係る台車用カバー10を模式的に示しており、図2は、台車用カバー10単体の平面図である。説明の便宜上、図1(a)では、台車用カバー10で覆われる台車70の範囲をハッチングで示しており、又、図1及び図2では、図中左方向を鉄道車両の進行方向として説明する。
【0019】
まず、図1を参照して、本実施例における台車70の構成について簡単に説明すると、台車70は、一対の側梁とそれらを接続する横梁とを含む台車枠72、夫々2つの車輪76を有する一対の輪軸74、車輪76毎に設けられたブレーキ装置78、輪軸74を回転させるための一対の主電動機80、主電動機80の回転動力を減速させながら輪軸74へと伝える一対の歯車装置82、台車枠72と車体90との間に配置される一対の空気ばね84、及び、蛇行動を抑える一対のヨーダンパ86等を含んでいる。そして、図1(a)で確認できるように、台車70は、ヨーダンパ86を除いた上記の各構成要素が、平面視で台車70の中心点70bを基準とした点対称位置に配置されている。
【0020】
上記のような台車70に対し、台車用カバー10は、輪軸74、車輪76、ブレーキ装置78、歯車装置82、空気ばね84の一部、及び、ヨーダンパ86を除いた、台車枠72の一部や主電動機80等を含む、台車70の大部分を下方から覆うように、後述する取付フレーム60を介して取り付けられている。より詳しくは、台車用カバー10は、図2に示すように、平面視で中心点10aを基準とする点対称形状を有しており、台車用カバー10の中心点10aが、平面視で台車70の中心点70bと重なる位置に設置されている。又、本実施例の台車用カバー10は、上述の如く台車70を覆いながらも一部を露出させるように、平面視で鉄道車両の進行方向を基準とした前方側及び後方側(図中左側及び右側)の端縁に、複数の凹凸が形成されている。なお、図示の台車用カバー10の形状は一例であり、台車用カバー10の形状を限定するものではない。
【0021】
更に、本実施例において、台車用カバー10は、同形状を有する1組の部位24A、24Bが、平面方向に並べられて台車70に固定されることで形成されている。部位24A、24Bの各々は、図3に示すような形状を有しており、このような同一の形状を有する1組の部位24A、24Bが、図2で確認できるように、平面視で台車70の中心点70bに対して、位相が互いに180°異なるように配置されている。なお、台車用カバー10を形成する同形状を有する部位の組数は、1組に限定されるものではなく、2組以上であってもよい。2組以上の場合であっても、同形状を有する部位同士が、中心点70bに対して位相が互いに180°異なるように配置されることになる。
【0022】
台車用カバー10は、1組の部位24A、24Bが上記のように配置された状態で、台車用カバー10の基礎部分を構成する平板部30、平板部30の平面視での各端縁に沿って設けられた、前方流線部26、後方流線部28、及び、側壁部32を含んでいる。図2及び図3を参照して、平板部30は、台車用カバー10が台車70に取り付けられた状態で、路盤と対向して配置される平板状の部分であり、本実施例では、部位24Aに含まれる平板部30Aと、部位24Bに含まれる平板部30Bとで構成されている。前方流線部26は、平板部30の、鉄道車両の進行方向を基準とした前方側(図2中左側)の端縁に沿って設けられ、前方に向かうにつれて上方側(図2中左側に向かうにつれて図2中紙面手前側)へと、湾曲して延びている。
【0023】
又、上述したように、台車用カバー10の前方側の端縁には、複数の凹凸が形成されているため、これら複数の凹凸に対応するように、本実施例では、前方流線部26として4つの前方流線部26A~26Dが設けられている。ここで、台車用カバー10の前方側の端縁の中で、最も前方側に突出すると共に、最も幅方向(図2中上下方向)の長さが大きい端縁に設けられた、前方流線部26Cは、他の前方流線部26A、26B、26Dと比較して、湾曲の曲率が小さくなっている。なお、前方流線部26A、26Bは部位24A側に含まれ、前方流線部26C、26Dは部位24B側に含まれている。
【0024】
後方流線部28は、平板部30の、鉄道車両の進行方向を基準とした後方側(図2中右側)の端縁に沿って設けられ、後方に向かうにつれて上方側(図2中右側に向かうにつれて図2中紙面手前側)へと、湾曲して延びている。又、上述したように、台車用カバー10の後方側の端縁には、複数の凹凸が形成されているため、これら複数の凹凸に対応するように、本実施例では、後方流線部28として4つの後方流線部28A~28Dが設けられている。ここで、台車用カバー10の後方側の端縁の中で、最も後方側に突出すると共に、最も幅方向(図2中上下方向)の長さが大きい端縁に設けられた、後方流線部28Bは、他の後方流線部28A、28C、28Dと比較して、湾曲の曲率が小さくなっている。なお、後方流線部28A、28Bは部位24A側に含まれ、後方流線部28C、28Dは部位24B側に含まれている。
【0025】
一方、側壁部32は、鉄道車両の進行方向(図2中左右方向)に沿って、平板部30から上方側(図2中紙面手前側)へ向かって立設されるものであり、本実施例では、8つの側壁部32A~32Hが設けられている。側壁部32B、32Fは、平板部30の、鉄道車両の幅方向を基準とした両側(図2中下側及び上側)の端縁に沿って設けられ、他の側壁部32は、前方流線部26同士或いは後方流線部28同士を接続するように設けられている。具体的に、側壁部32Aは、前方流線部26A、26B間を接続するように、側壁部32Hは、前方流線部26B、26C間を接続するように、側壁部32Gは、前方流線部26C、26D間を接続するように、夫々設けられている。又、側壁部32Cは、後方流線部28A、28B間を接続するように、側壁部32Dは、後方流線部28B、28C間を接続するように、側壁部32Eは、後方流線部28C、28D間を接続するように、夫々設けられている。なお、側壁部32A~32Dは部位24A側に含まれ、側壁部32E~32Hは部位24B側に含まれている。
【0026】
ここで、上述したように、台車用カバー10は、同一形状を有する1組の部位24A、24Bが、平面視で台車70の中心点70bに対して、位相が互いに180°異なるように配置されて形成され、その際に台車70の中心点70bと重なる台車用カバー10の中心点10aを基準として、平面視で点対称形状を有している。このため、以下に列挙する各部の組は、平面視で向きが180°異なるだけの同形状の部分である。すなわち、図3に示すように、前方流線部26A及び後方流線部28D、前方流線部26B及び後方流線部28C、後方流線部28A及び前方流線部26D、後方流線部28B及び前方流線部26C、平板部30A及び平板部30B、側壁部32A及び側壁部32E、側壁部32B及び側壁部32F、側壁部32C及び側壁部32G、側壁部32D及び側壁部32Hは、夫々、同形状の部分である。
【0027】
次に、本発明の実施の形態に係る台車用カバー10の構造について説明する。台車用カバー10は、その全体にわたって、図4に示すような断面構造を有しており、板状の不織布製基材14で構成された母材12の両面に、ポリウレア樹脂の被膜20が設けられている。母材12に用いられる不織布は、例えば、プレス型で熱成形をするように圧縮されて、板状に成形される。又、母材12に用いられる不織布の材料として、例えば、PP(ポリプロピレン)繊維とガラス繊維との組み合わせが挙げられ、入手性や強度等の観点から、特にホモポリマーPP繊維とロービングガラス繊維との組み合わせが好ましい。しかしながら、状況に応じて、他の材料の不織布を用いてもよい。
【0028】
ポリウレア樹脂の被膜20は、例えば、母材12に吹き付け等で形成される。被膜20に用いられるポリウレア樹脂は、一般的に、軽量性、柔軟性及び強度に優れており、母材12に粘り強い変形追従性を付加する。又、本発明の実施の形態に係る台車用カバー10に用いるポリウレア樹脂は、難燃性に優れた配合のものを用いることが好ましい。一例として、母材12の厚みt1及び被膜20の厚みt2を挙げると、母材12の厚みt1は5mm程度、被膜20の厚みt2は2mm程度であるが、これらに限定されることなく、台車用カバー10に要求される性能等に応じて、適切な値を取り得るものである。又、本実施例では、母材12の両面にポリウレア樹脂の被膜20が設けられているが、これに限定されることなく、母材12の、台車70に取り付けられた状態で外側を向く面12aにのみ、ポリウレア樹脂の被膜20が設けられていてもよい。
【0029】
上記のような断面構造を有する台車用カバー10は、まず、複数の板状の不織布製基材14が組み合わされて、台車用カバー10を形成する1つの部位24の母材12が形成された後に、ポリウレア樹脂の被膜20が設けられる。図5には、台車用カバー10を形成する1組の部位24A、24Bのうち、一方の部位24の母材12を示している。これに限定されるものではないが、図5の例において、母材12は、10枚の板状の不織布製基材14A~14Jが接合されて形成されている。更に図3も参照して、具体的に、10枚の板状の不織布製基材14A~14Jは、部位24の以下の部分を構成するものである。
【0030】
すなわち、不織布製基材14Cは前方流線部26A又は後方流線部28Dを、不織布製基材14Dは前方流線部26B又は後方流線部28Cを、不織布製基材14Eは後方流線部28A又は前方流線部26Dを、不織布製基材14Fは後方流線部28B又は前方流線部26Cを、夫々構成するものである。これら4枚の不織布製基材14C~14Fは、湾曲した板状に成形される。又、不織布製基材14A及び14Bは平板部30A又は30Bを、不織布製基材14Gは側壁部32A又は側壁部32Eを、不織布製基材14Hは側壁部32B又は側壁部32Fを、不織布製基材14Iは側壁部32C又は側壁部32Gを、不織布製基材14Jは側壁部32D又は側壁部32Hを、夫々構成するものである。これら6枚の不織布製基材14A、14B、14G~14Jは、平坦な板状に成形される。なお、本実施例では、不織布製基材14を成形する成形機の大きさの制約が考慮されて、平板部30A又は30Bを構成する不織布製基材14が、不織布製基材14Aと14Bとに分けられている。
【0031】
上述した10枚の不織布製基材14A~14Jは、例えば、図6及び図7に示すような、溶融樹脂34を利用した熱溶着によって接合される。図6には、不織布製基材14Aと14Hとの接合や、不織布製基材14Cと14Hとの接合等の、略直交する位置関係で接合される不織布製基材14同士の接合方法を示している。この接合方法では、まず、接合する2つの不織布製基材14の突き合わせ部の間に、接合用の溶融樹脂34を流し込んで2つの不織布製基材14を接合する。更に、この接合箇所の延在方向(図6における紙面と直交する方向)に沿って、接合箇所を両側から挟み込むようにして、2枚の不織布製の薄膜36を溶融樹脂34により貼り付けるものである。
【0032】
一方、図7には、不織布製基材14Aと14Bとの接合等の、同平面上で接合される不織布製基材14同士の接合方法を示している。この接合方法では、まず、接合する2枚の不織布製基材14の双方に、同じ面積の接合代14aを、互いに向き合うように接合箇所に沿って形成する。この接合代14aは、不織布製基材14を他の領域の1/2程度の厚みまで圧縮することによって形成する。そして、2枚の不織布製基材14の接合代14aの間に溶融樹脂34を流し込み、接合代14a同士を密着させて、全体が平坦になるように接合するものである。なお、この接合方法で接合する不織布製基材14は、接合代14aを形成することを考慮した大きさに、予め成形しておくものとする。又、不織布製基材14同士の接合方法は、上記の方法に限定されるものではなく、溶融樹脂34を用いた別の接合方法や、溶融樹脂34を用いない他の接合方法であってもよい。
【0033】
続いて、図8には、本発明の実施の形態に係る台車用カバー10に設けられる、複数の支持部材42の位置を模式的に示している。これら複数の支持部材42は、台車用カバー10が台車70に対して取り付けられる際に用いられるものであり、図示の例では、部位24A、24B毎に16箇所の、合計で32箇所に支持部材42が設けられている。各支持部材42が設けられた位置は、台車70に対する固定部分となる。そして、台車用カバー10は、図9に示すように、不織布製基材14で構成される母材12の、台車70に対する固定部分及びその近傍の領域12bが、他の領域よりも厚みが小さくなっている。このような母材12の固定部分及びその近傍の領域12bは、不織布製基材14が圧縮されることで形成される。一例として、母材12の固定部分及びその近傍の領域12bの厚みt3は、母材12の他の領域の厚みt1の45~55%であるが、これに限定されることなく、他の値であってもよい。
【0034】
なお、不織布製基材14が圧縮されることで形成される、母材12の厚みが小さい領域は、上述した母材12の固定部分及びその近傍の領域12bに限定されることはなく、例えば、台車用カバー10の剛性を高めることが要求される、任意の部分的な領域に形成してもよい。更に、上述した母材12の固定部分及びその近傍の領域12bを含み、台車用カバー10の剛性を部分的に高める方法は、不織布製基材14を圧縮して母材12の厚みを小さくする方法に限定されるものではなく、他の方法であってもよい。例えば、母材12の一方の面の任意領域に金属板を配置し、ポリウレア樹脂の被膜20によって金属板ごと覆うことで、金属板を配置した領域の剛性を高めることとしてもよい。
【0035】
図8に示した複数の支持部材42の各々は、例えば金属製で、図10及び図11に示すような形状を有しており、本実施例では、台車用カバー10の台車70への取り付け時に、頭部52及び軸部54を有する第1形態のボルト(六角ボルト)50が挿入される。より詳しくは、支持部材42は、有底の円筒状をなしており、その底部42aに挿通孔44を備えると共に、開放端42bには外周方向に広がるフランジ部46が形成されている。支持部材42は、その内部にボルト50の頭部52を配置可能な内径を有しており、挿通孔44は、ボルト50の頭部52の頭部径より小さく、ボルト50の軸部54の軸部径より大きい内径を有している。
【0036】
そして、上記のような形状の支持部材42は、図10に示すように、底部42a側を先端にして、母材12に設けられた貫通孔16に挿入又は圧入されている。この際、支持部材42は、開放端42bに設けられたフランジ部46が、貫通孔16の軸方向一方側(図中下側)の周縁に設けられた座繰り部18に当接するまで、挿入又は圧入される。すなわち、母材12には、複数の支持部材42を挿入又は圧入するための複数の貫通孔16が形成され、各貫通孔16の軸方向一方側の周縁に座繰り部18が設けられている。例えば、貫通孔16は、母材12が繰り抜かれることで形成され、座繰り部18は、母材12が僅かに圧縮されることで形成される。
【0037】
更に、支持部材42は、上記のように母材12に挿入又は圧入された状態で、少なくともフランジ部46が被膜20により覆われることで、台車用カバー10に固定されている。図示の例では、ポリウレア樹脂の被膜20が、支持部材42の内部まで入り込んでおり、又、母材12の図中上側の面に設けられた被膜20が、支持部材42の底部42a側を僅かに覆っている。すなわち、台車用カバー10は、図5のような母材12が形成された後、上述したように複数の支持部材42が母材12に挿入又は圧入され、この状態でポリウレア樹脂の被膜20が設けられることで、図3に示した部位24A及び24Bが形成されるものである。なお、図2及び図3では、支持部材42の図示を省略している。
【0038】
ここで、図10に示されている台車用カバー10の領域は、図9に示した母材12の固定部分及びその近傍の領域12bに対応する部分である。又、母材12の貫通孔16の周縁には、座繰り部18が設けられていなくてもよく、この場合は、フランジ部46が貫通孔16の周縁に当接するまで、支持部材42が貫通孔16に挿入又は圧入され、この状態で少なくともフランジ部46が被膜20により覆われる。更に、図10の例における支持部材42は、母材12の貫通孔16に挿入又は圧入された状態で、母材12の図中上側の面から、その面に設けられる被膜20の厚みと略同じ距離まで突出しているが、被膜20の厚みよりも大きく突出していてもよい。
【0039】
次に、図10図12を参照して、本発明の実施の形態に係る台車用カバー10の取付構造について説明する。図12に示すように、台車用カバー10の取付構造40は、複数の衝撃吸収部材48と、取付フレーム60とを含んでいる。複数の衝撃吸収部材48は、図8に示した台車用カバー10の複数の支持部材42の位置に対応した32箇所に配置される。衝撃吸収部材48の各々は、例えばゴム等の弾性を有する材料で形成され、本実施例では円筒状をなしている。又、衝撃吸収部材48は、図10に示すように、図中上下方向に貫通した中空部48aが、ボルト50の軸部径より僅かに大きい内径を有している。そして、衝撃吸収部材48は、支持部材42の貫通孔44と中空部48aとが連通するように配置される。
【0040】
又、図12を参照して、本実施例では、32箇所に配置される衝撃吸収部材48のうち、符号48Aで示す衝撃吸収部材48から図中左上方向に並ぶ4つの衝撃吸収部材48と、符号48Bで示す衝撃吸収部材48から図中右下方向に並ぶ4つの衝撃吸収部材48とを除いた、残り24箇所の衝撃吸収部材48の上に、取付フレーム60が設置される。取付フレーム60は、衝撃吸収部材48を介して台車用カバー10に固定されるフレーム部60aと、フレーム部60aから上方へ延びる複数の脚部60bとを含んでいる。そして、衝撃吸収部材48の上に取付フレーム60が設置された状態で、図10(a)に示すように、本実施例では、頭部52及び軸部54を有する第1形態のボルト(六角ボルト)50と、このボルト50に対応するナット56とによって、台車用カバー10に対して取付フレーム60が固定される。
【0041】
具体的には、ボルト50が軸部54側を先端にして、支持部材42の開放端42bから底部42aの挿通孔44に挿入され、挿通孔44に続いて衝撃吸収部材48の中空部48aに挿入される。更に、衝撃吸収部材48の上に設置された取付フレーム60の、フレーム部60aに予め設けられた挿入孔60cに挿入された後、軸部54の先端からナット56が締め付けられている。なお、ナット56と取付フレーム60のフレーム部60aとの間には、スプリングワッシャ58が介在している。
【0042】
上記のようにして、取付フレーム60が固定された台車用カバー10は、図1(b)に示したように、取付フレーム60側を上方にして、下方から台車70に対して取り付けられる。このとき、取付フレーム60の複数の脚部60bの先端が、台車70の適切な箇所に固定されると共に、取付フレーム60が固定されていない台車用カバー10の残りの固定部分は、台車70(本実施例では主電動機80)に直結される。すなわち、図12に示した、衝撃吸収部材48Aから図中左上方向に並ぶ4つの衝撃吸収部材48と、衝撃吸収部材48Bから図中右下方向に並ぶ4つの衝撃吸収部材48とは、図1に示す台車70の一対の主電動機80に下方から当接する。そして、図10(a)に示すように、ボルト50の軸部54が、主電動機80に予め設けられた挿入孔80aに挿入され、ナット56により締め付けられることで、主電動機80に対して台車用カバー10が直結される。なお、台車用カバー10を直結する台車70の部位は、主電動機80以外の部位であってもよい。
【0043】
ここで、台車用カバー10を、取付フレーム60又は台車70に固定する際に使用する締結部材は、第1形態のボルト50とナット56とに限定されるものではなく、他の組み合わせであってもよい。例えば、図10(b)には、ナット56に代えて、取付フレーム60又は台車70に溶接されたタップ穴付のねじ座57を利用した形態を示している。この形態の場合、ボルト50の頭部52と支持部材42の底部42aとの間に、スプリングワッシャ58が介在した状態で、ねじ座57に対して第1形態のボルト50が締め付けられることで、台車用カバー10と取付フレーム60或いは台車70とが固定される。
【0044】
加えて、第1形態のボルト50は、六角ボルトに限定されるものではなく、六角穴ボルト等の、頭部52と軸部54とを有する他のボルトであってもよい。更に、第1形態のボルト50に代えて、頭部52を有さずに軸部54を有する、植込みボルト等の第2形態のボルトを利用してもよい。この場合は、図10(a)を参照して、支持部材42の挿通孔44と、衝撃吸収部材48の中空部48aと、取付フレーム60の挿入孔60c或いは主電動機80の挿入孔80aとに、第2形態のボルトが挿通される。そして、支持部材42側の第2形態のボルトの先端と、取付フレーム60或いは主電動機80側の第2形態のボルトの先端との双方から、第2形態のボルトに対応するナットが締め付けられることによって、台車用カバー10と取付フレーム60又は主電動機80とが固定される。
【0045】
さて、上記構成をなす本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。すなわち、本発明の実施の形態に係る台車用カバー10は、図1に示すように、鉄道車両の台車70の少なくとも一部を下方から覆うことで、台車70の下部70aを平滑化し、台車70の下部70aの凹凸に起因する騒音を抑制可能なものである。又、この台車用カバー10は、図4に示すように、例えば熱成形等で加工された、板状の不織布製基材14で構成される少なくとも1枚の母材12に、例えば吹き付け等により、ポリウレア樹脂の被膜20が設けられた構造を有している。
【0046】
ポリウレア樹脂は、一般的に、軽量でありながらも柔軟性及び強度に優れており、更に、硬化が早く作業性にも優れている。又、母材12に用いられる不織布も軽量であり、引張強度等が優れたものもある。このような母材12に対し、台車用カバー10が台車70に取り付けられた状態で少なくとも外側を向く面12aに、ポリウレア樹脂の被膜20が設けられていることで、鉄道車両の走行風等によって跳ね上げられた飛来物は、台車用カバー10のポリウレア樹脂が設けられた面に衝突することになる。このため、飛来物の衝突エネルギーをポリウレア樹脂によって効果的に吸収・分散しつつ、不織布及びポリウレア樹脂が有する強度によって、鉄道車両の運行に影響を与えるような台車用カバー10の破損を防止することができる。
【0047】
更に、不織布製基材14で構成される母材12と、ポリウレア樹脂の被膜20との双方が軽量であるため、鉄道車両の高速化にも寄与することができる。又、本発明の実施の形態に係る台車用カバー10は、上記のような構成を有しているため、万が一破損したとしても、破損部分を補うように不織布を配置してポリウレア樹脂で被覆することで修復することができ、更に、破損個所が小さい場合はポリウレア樹脂のみで修復することも可能である。加えて、母材12の不織布製基材14を構成する不織布の積層数及び圧縮率や、被膜20を構成するポリウレア樹脂の膜厚及び品種等、調整可能なパラメータを多く有しているため、様々な要求に対応することが可能となる。
【0048】
又、本発明の実施の形態に係る台車用カバー10は、ポリウレア樹脂の被膜20が、母材12の外側を向く面12aだけではなく、母材12の全ての面に設けられていてもよい。この場合には、ポリウレア樹脂によって付与される強度や柔軟性を、より一層向上することができるため、飛来物の衝突に起因する、鉄道車両の運行に影響を与えるような台車用カバー10の破損を、より確実に防止することが可能となる。
加えて、本発明の実施の形態に係る台車用カバー10は、図2及び図3に示すように、同形状を有する少なくとも1組の部位24、図示の例では1組の部位24A、24Bにより形成されるものである。そして、これらの各部位24A、24Bが、不織布製基材14で構成される母材12に、ポリウレア樹脂の被膜20が設けられた構造を有している。これら1組の部位24A、24Bは、平面視で台車70の中心点70bに対して位相が互いに180°異なるように、平面方向に並べられて配置された状態で、台車70に固定されている。
【0049】
すなわち、台車用カバー10全体は、平面視で台車70の中心点70bに対して点対称形状を有しており、その点対称形状が、互いに位相が180°異なる同形状に2分割された一方の側に、1組の部位24の一方の部位24Aが含まれ、2分割された他方の側に、1組の部位24のもう一方の部位24Bが含まれることになる。このように、1組の部位24により形成される分割構造を有することで、各部位24A、24Bの大きさが小さくなるため、台車用カバー10の取り付け時等の作業負荷を軽減することができる。更に、各組の部位24同士が同形状であるため、製作が容易になると共に、取り付け時の作業性を向上することができる。
【0050】
又、本発明の実施の形態に係る台車用カバー10は、台車70に取り付けられた状態で、鉄道車両の進行方向を基準とした前方側(図2中左側)の端縁及び後方側(図2中右側)の端縁に、前方流線部26及び後方流線部28が設けられたものである。前方流線部26は、前方に向かうにつれて上方側へと湾曲して延びており、後方流線部28は、後方に向かうにつれて上方側へと湾曲して延びている。このように、鉄道車両の進行方向を基準とした前方側及び後方側の双方に、流線形に類似した湾曲構造を備えることにより、鉄道車両の進行時に、台車用カバー10に沿って、空気がより滑らかに流れるようになるため、騒音の発生をより抑制することができる。更に、鉄道車両の進行方向が反対向きになったとしても、問題なく騒音の発生を抑制することができる。
【0051】
又、本発明の実施の形態に係る台車用カバー10は、図5に示すように、複数の板状の不織布製基材14によって母材12が構成されるものである。これら複数の不織布製基材14には、前方流線部26を形成する湾曲した板状の不織布製基材(14C及び14D、或いは、14E及び14F)と、後方流線部28を形成する湾曲した板状の不織布製基材14(14E及び14F、或いは、14C及び14D)とが含まれている。又、図示の例では、複数の不織布製基材14に、台車70に下方から対向するように配置される平板部30(図2及び図3参照)を構成する不織布製基材14A、14Bが含まれており、これらは、不織布製基材14の加工時の大きさの制約を加味して、2つに分けて加工されている。更に、複数の不織布製基材14として、鉄道車両の幅方向を基準とした両側の端縁に沿って上方に向かって立設される、側壁部32(図2及び図3参照)を構成する不織布製基材14G~14Jが含まれている。
【0052】
そして、上述したような複数の不織布製基材14は、図6及び図7に示すように、溶融樹脂34を用いた熱溶着によって接合される。この際、接合する不織布製基材14の位置関係に応じて、図6のように、不織布製基材14の突き合わせ部間に溶融樹脂34を配置して熱溶着してもよく、図7のように、不織布製基材14の端部に接合代14aを設け、溶融樹脂34を挟み込んで接合代14a同士を重ね合わせて熱溶着してもよい。又、それらと同時に、接合部分を覆うようにして不織布製の薄膜36を溶融樹脂34により貼り付けてもよい。このようにして構成された母材12は、その後、ポリウレア樹脂の被膜20によって一体的に覆われることになる。すなわち、前方流線部26や後方流線部28等の湾曲した形状を含む、複雑な構造であっても、溶融樹脂34を用いた不織布製基材14間の熱溶着と、ポリウレア樹脂の被膜20とによって、複数の不織布製基材14を強固に接合することができ、このような台車用カバー10を、容易に製作することが可能となる。
【0053】
更に、本発明の実施の形態に係る台車用カバー10は、図9に示すように、母材12の台車70に対する固定部分及びその近傍の領域12bが、不織布が圧縮されて他の領域よりも厚みが小さくなっている(t3<t1)ものである。すなわち、母材12の台車70に対する固定部分及びその近傍の領域12bは、不織布の積層数等が他の領域と同等のままで圧縮されることで、厚みが小さくなり密度が上昇する。これにより、母材12の台車70への固定部分及びその近傍領域12bの強度が向上するため、固定部分への応力集中に因るクラックの発生等を防止することができる。なお、母材12の全体を圧縮することも考えられるが、この場合、台車用カバー10全体の剛性は高まるものの、弾性力が低くなるので、鉄道車両の運行に影響を与えるような台車用カバー10の破損を防止できない虞がある。このため、必要な箇所だけ母材12を圧縮して剛性を高めるようにすることが望ましい。
【符号の説明】
【0054】
10:台車用カバー、12:母材、12a:外側を向く面、12b:固定部分及びその近傍の領域、14(14A~14J):不織布製基材、20:被膜、24(24A、24B):部位、26(26A~26D):前方流線部、28(28A~28D):後方流線部、34:溶融樹脂、70:台車、70b:中心点、t1:母材の厚み、t3:母材の固定部分及びその近傍の領域の厚み
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12