(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-25
(45)【発行日】2022-09-02
(54)【発明の名称】断熱塗料
(51)【国際特許分類】
C09D 1/02 20060101AFI20220826BHJP
C09D 5/33 20060101ALI20220826BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20220826BHJP
【FI】
C09D1/02
C09D5/33
C09D7/61
(21)【出願番号】P 2018141850
(22)【出願日】2018-07-27
【審査請求日】2021-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000244084
【氏名又は名称】明星工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102048
【氏名又は名称】北村 光司
(72)【発明者】
【氏名】河野 哲也
(72)【発明者】
【氏名】長治 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】山城 博隆
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】特表平10-508049(JP,A)
【文献】特開昭56-121661(JP,A)
【文献】特表平11-513349(JP,A)
【文献】特開昭58-019366(JP,A)
【文献】特開平06-240174(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化リチウムとケイ酸リチウムを含むアルカリシリケート樹脂水性塗料100質量部に対して、耐アルカリ性ガラス繊維を5質量部、シリカエアロゲル粉粒体10質量部を添加混合してある断熱塗料。
【請求項2】
前記耐アルカリ性ガラス繊維はφ13μmで6mm長の繊維であり、
前記シリカエアロゲル粉粒体は平均粒径0.01~1.2mmである請求項1に記載の断熱塗料。
【請求項3】
前記シリカエアロゲル粉粒体100質量部に対して酸化チタン粉粒体を0よりも大で20質量部以下を添加してある請求項1または2に記載の断熱塗料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、断熱塗料としては、シリコーン樹脂塗料に対してガラス中空ビーズの微小粒体を添加混入してあるものがあった(業界で周知)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した従来の断熱塗料では、耐熱性が約250℃で、しかも熱伝導率を更に低下させるのが困難で、且つ、塗膜を短期間で厚く形成するのが困難であるという問題点がある。
【0004】
従って、本発明の目的は、上記問題点を解消し、より耐熱性が高く、且つ、熱伝導率を従来の断熱塗料よりも更に低下させることができ、且つ、塗膜を短期でより厚く形成できるようにするところにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の特徴構成は、水酸化リチウムとケイ酸リチウムを含むアルカリシリケート樹脂水性塗料100質量部に対して、耐アルカリ性ガラス繊維を5質量部、シリカエアロゲル粉粒体10質量部を添加混合したところにある。
【0006】
本発明の第1の特徴構成によれば、アルカリシリケート樹脂水性塗料は、従来のシリコーン樹脂塗料よりも耐熱性があり、そのアルカリシリケート樹脂水性塗料に耐アルカリ性ガラス繊維を添加することにより、流動性が低下して短時間で厚みを増やせる塗料になる。
その上、シリカエアロゲル粉粒体を添加することにより、従来品の様にガラス中空ビーズの微小粒体を添加するよりも断熱性能が向上する。
【0008】
成膜が良好で、断熱性能が従来品よりも向上した塗料を提供できる。
水酸化リチウムとケイ酸リチウムを含むアルカリシリケート樹脂水性塗料は、耐熱性が高く、従来の断熱塗料よりも高い耐熱性能を発揮する。
【0009】
本発明の第2の特徴構成は、前記耐アルカリ性ガラス繊維はφ13μmで6mm長の繊維であり、前記シリカエアロゲル粉粒体は平均粒径0.01~1.2mmである。
【0010】
本発明の第2の特徴構成によれば、平均粒径が0.01~1.2mmのシリカエアロゲル粉粒体により、熱伝導率低下させることができる。
【0011】
本発明の第3の特徴構成は、前記シリカエアロゲル粉粒体100質量部に対して酸化チタン粉粒体を0よりも大で20質量部以下を添加してある。
【0012】
本発明の第3の特徴構成によれば、前記シリカエアロゲル粉粒体100質量部に対して酸化チタン粉粒体を0よりも大で20質量部以下を添加することにより、更に平均熱伝導率が低下し、より断熱性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】熱伝導率測定実験装置で、(a)は平面図、(b)は縦断正面図である。
【
図2】従来例と本発明の断熱塗料の断熱性能比較実験のグラフである。
【
図3】酸化チタンを添加混合した塗料の熱伝導率の変化グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態を説明する。
水酸化リチウムとケイ酸リチウムを含むアルカリシリケート樹脂水性塗料((株)ゼットアールシー・ジャパン製、商品名:ゼロVOC水性常温亜鉛めっきZRC-液状)を100質量部に対して、φ13μmで6mm長の耐アルカリ性ガラス繊維(日本電気硝子(株)製、商品名:Alkali Resistant Glass Fiber 品番ACS6H-103(20)/V)を5質量部、平均粒径0.01~1.2mmのシリカエアロゲル粉粒体(Cabot Corporation製、商品名:P200)の10質量部を添加して撹拌混合して断熱塗料を構成してある。
【0015】
前記断熱塗料は、アルカリシリケート樹脂水性塗料を使用してあることにより、シリカエアロゲルのナノサイズ中空個体の構造を壊さずに添加できると共に、耐熱温度を約300℃まで上げられ、また、耐アルカリ性ガラス繊維の添加により、前記水性塗料とシリカエアロゲルとの接着強度を強くし、つまり、シリカエアロゲル粉粒体が、絡み合った多数本の耐アルカリ性ガラス繊維間の隙間に保持され、全体として安定した塗装の層を形成できる。
その上、アルカリシリケート樹脂水性塗料の使用により、従来のような有機溶媒を使用した塗料に比べて人体への影響が少なくなる。
【0016】
シリカエアロゲル粉粒体は、網目状の微細構造を持ち、骨格間に10nmに満たない細孔があって、三次元的で微細な多孔性の構造をしているために優れた断熱性を示し、融点が1200℃で、高温環境下での断熱にも利用できるという利点がある。
しかも、曲げには脆いが自重の2000倍もの重さを支える強度を持つものもあることが知られている。
従って、シリカエアロゲル粉粒体を混入した断熱塗料によって形成された塗装膜は、熱伝導率が従来の断熱塗料よりも、低い為、従来よりも断熱性を得る。その為、従来よりも塗装膜厚みを薄くでき、母材にかかる塗布重量を減少させることができ、施工期間の短縮が可能となる。
【0017】
〔実験1〕
そこで、シリカエアロゲル粉粒体の適切な粒径を調べるべく、粒子サイズの違いによる熱伝導率を調べ、表1に示した。
【0018】
【0019】
上記表1からは、粒子サイズ0.01~1.2mmのものが、熱伝導率が0.0198W/m・Kと最も低かった。
【0020】
〔実験2〕
断熱塗料の配合率の選定実験を行い、表2~表4に示した。
【0021】
【0022】
【0023】
【0024】
表2では、水性塗料の割合を100質量部にすると共に、エアロゲルを10質量部で一定にし、ガラス繊維の添加割合を変動させた。
この場合、ガラス繊維の添加割合がないと、ガラス繊維による補強効果がないために表面のひび割れが多く発生し、表面剥離しやすくなり、また、ガラス繊維が多過ぎれば、ガラス繊維同士の絡み付きが少なく、ほつれない。その結果、施工個所は表面剥離しやすくなり、結局、ガラス繊維は5質量部が良いことになる。
【0025】
表3では、水性塗料の割合を100質量部にすると共に、ガラス繊維を5質量部で一定にし、エアロゲルの添加割合を変動させた。
この場合、エアロゲルが少ないと流動性が高すぎ、多過ぎると流動性が低下して混ぜにくくなる。
結局、シリカエアロゲルの添加割合は10質量部が適切であることになる。
【0026】
表4では、エアロゲル5質量部、ガラス繊維10質量部で固定した状態で、水性塗料の割合を変動させた。
この場合、水性塗料が少ないと、流動性が低くて混ぜにくくなり、ガラス繊維がほつれにくくなり、多過ぎると、流動性が高くなるために、全体として混ぜやすくなるものの、完成後の欠けや、剥離がしやすくなる。
結局、水性塗料は、100質量部が良いことになる。
【0027】
表2~表4から判断すると、総合的には、アルカリシリケート樹脂水性塗料100~130質量部に対して、耐アルカリ性ガラス繊維を0よりも大で5質量部以下、シリカエアロゲル粉粒体を5~10質量部添加混合するのが適切である。
【0028】
〔実験3〕
従来例で示す断熱塗料と、本発明の断熱塗料との性能の比較実験を行った。
従来例は、シリコーン樹脂塗料に対してガラス中空ビーズの微小粒体と有機溶媒を添加混合した断熱塗料であって、これに対し、本発明の断熱塗料は、アルカリシリケート樹脂水性塗料に対して、耐アルカリ性ガラス繊維、シリカエアロゲル粉粒体を添加混入した断熱塗料を使用した。
尚、本発明の断熱塗料の溶媒は水であり、従来例と本発明の夫々の断熱塗料を
図1(a)、(b)に示す実験装置により、熱源であるホットプレート1からの熱(鋼板温度は、100℃、150℃、200℃の各段階で測定、外気温は夫々23.0℃)により加熱された鋼板2上の断熱塗料3(夫々の厚みは3mm)の塗膜界面4と塗膜表面5と外気温6の測定温度と塗膜厚みから夫々の温度の熱伝導率を測定した。
尚、測定装置については、測定箇所の鋼板2、塗膜界面4と塗膜表面5、外気温6は、K型熱電対を用いて測定した。また、鋼板2の熱電対は、温度調節器7に接続している。その温度調節器7は、空間8を挟んだ下方位置にあるホットプレート1に接続させており、各設定温度(各測定温度)になるようホットプレートの電源は、ON/OFFを繰り返しながら、温度が調節される構造である。
その結果は、
図2のグラフに示すように、本発明の断熱塗料3の平均熱伝導率が0.0308W/m・K(鋼板100℃、150℃、200℃での断熱塗料3の各測定温度の平均値)であるのに対し、従来例の断熱塗料の平均熱伝導率が0.0713W/m・K(鋼板100℃、150℃、200℃での断熱塗料の各測定温度の平均値)であり、熱伝導率の差は明らかで、本発明の断熱塗料の方が、断熱性能がよい。
【0029】
〔別実施形態〕
〔実験4〕
アルカリシリケート樹脂水性塗料100質量部に対して、耐アルカリ性ガラス繊維を5質量部、シリカエアロゲル粉粒体を10質量部添加混合した本発明の断熱塗料において、シリカエアロゲル10質量部に対して輻射遮蔽材である酸化チタン(TiO
2)を、0.1~10質量部(1~100%)添加混合した断熱塗料で断熱性能の向上の有無を測定した。
測定結果は、
図3に示すように、酸化チタン粉粒体の添加量は、0よりも大で20質量部以下において(0%よりも大で21%以下)断熱性能(熱伝導率)の向上が見られた。
尚、
図3のグラフから、シリカエアロゲル粉粒体の1/10の添加量がベストであることがわかる。
【符号の説明】
【0030】
1 ホットプレート
2 鋼板
3 断熱塗料
4 塗膜界面
5 塗膜表面
6 外気
7 温度調節器
8 空間