(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-25
(45)【発行日】2022-09-02
(54)【発明の名称】シートスライド装置
(51)【国際特許分類】
B60N 2/07 20060101AFI20220826BHJP
【FI】
B60N2/07
(21)【出願番号】P 2018150601
(22)【出願日】2018-08-09
【審査請求日】2021-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】598106326
【氏名又は名称】トヨタ車体精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白木 晋
【審査官】齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-036609(JP,A)
【文献】特開平10-100752(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00-90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に取り付け可能であるとともに、底板と、前記底板と対向する上板を備えているロアレールと、
シートに取り付け可能であるとともに、前記ロアレールに対して摺動可能に係合しているアッパレールと、
前記底板と前記上板の間に位置するように前記アッパレールに支持されており、下面が前記底板に接しているローラまたは摺動駒と、
前記ローラまたは摺動駒と前記上板との間に挟まれている楔部材であって、前記ロアレールのレール長手方向に進退可能に前記アッパレールに支持されているとともに前記レール長手方向に沿って先細り形状となる姿勢で配置されている楔部材と、
を備えて
おり、
前記楔部材は、先細りの方向に付勢されている、シートスライド装置。
【請求項2】
車体に取り付け可能であるとともに、底板と、前記底板と対向する上板を備えているロアレールと、
シートに取り付け可能であるとともに、前記ロアレールに対して摺動可能に係合しているアッパレールと、
前記底板と前記上板の間に位置するように前記アッパレールに支持されており、下面が前記底板に接しているローラまたは摺動駒と、
前記ローラまたは摺動駒と前記上板との間に挟まれている楔部材であって、前記ロアレールのレール長手方向に進退可能に前記アッパレールに支持されているとともに前記レール長手方向に沿って先細り形状となる姿勢で配置されている楔部材と、
を備えており、
前記ローラと前記楔部材との間に緩衝材が挟まれてい
る、シートスライド装置。
【請求項3】
前記緩衝材は、楔形状を有しているとともに、当該楔形状の先細りの方向が前記楔部材の先細り方向と逆を向く姿勢で配置されている、請求項
2に記載のシートスライド装置。
【請求項4】
前記アッパレールが前記楔部材の先細りの方向へ移動するときの前記ロアレールに対する摺動抵抗が、前記先細り方向とは逆方向へ移動するときの前記ロアレールに対する摺動抵抗よりも小さい、請求項1から
3のいずれか1項に記載のシートスライド装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、自動車のシートをスライドさせるシートスライド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シートをスライドさせるシートスライド装置は、車体に取り付け可能なロアレールと、シートの下部に取り付け可能なアッパレールを備えている。アッパレールはロアレールに対して摺動可能に係合している。また、シートスライド装置は、ロアレールに対してアッパレールを固定するロック機構を備えている(例えば特許文献1)。
【0003】
特許文献1のシートスライド装置は、アッパレールのロアレールに対する摺動抵抗が、レール長手方向に沿った第1方向と第2方向で異なっている。なお、第1方向と第2方向は互いに逆の方向である。そのようなシートスライド装置は、例えば、シートを車両前方へスライドさせるときの摺動抵抗を大きくし、車両後方へスライドさせるときの摺動抵抗を小さくすることができる。そのような構成は、軽い力でシートを後方へ移動させることができるとともに、前方へのシート移動のスピードが抑えられる。前方へのシートの移動時にシートの急激な移動を抑制することができ、乗員は不安を感じることなく快適にシートを移動させることができる。
【0004】
特許文献1のシートスライド装置では、アッパレールとロアレールの隙間に楔部材が挟まれている。楔部材は、レール長手方向に沿って進退可能にアッパレールに支持されているとともに、レール長手方向に沿って先細りとなる姿勢で挟まれている。以下では、楔部材が挟まれている隙間を楔隙間と称する。アッパレールが楔部材の先細りの方向へ移動するとき、相対的にロアレールは楔部材の細い側から太い側へと移動する。そうすると、ロアレールと楔部材の間の摩擦抵抗によって、楔部材は太い側へ、即ち、楔隙間から抜ける方向へ押される。その結果、楔部材とロアレールの間の接触圧が低くなり、摺動抵抗が下がる。アッパレールが逆に楔部材の細い側から太い側へ移動するとき、相対的にロアレールは楔部材の太い側から細い側へと移動する。そうすると、ロアレールと楔部材の摩擦抵抗によって楔部材は細い側へ、即ち、楔部材を楔隙間に押し込む方向へ押される。その結果、楔部材とロアレールの間の接触圧が高くなり、摺動抵抗が増加する。特許文献1のシートスライド装置は、アッパレールとロアレールの間に楔部材を挟むことで、アッパレールの一方向における摺動抵抗と逆方向における摺動抵抗を異ならしめることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のシートスライド装置では、アッパレールとロアレールの隙間に楔部材を挟む。楔部材は、ロアレールの上板と、その上板の下方に位置するアッパレールの所定部位との間に挟まれる。一方、アッパレールはローラを有しており、そのローラの下面がロアレールの底板に接触している。アッパレールがロアレールに対して移動する際、ローラが回転することでアッパレールが円滑に移動する。楔部材が挟まれる隙間、即ち、ロアレールの上板とアッパレールの所定部位との間の隙間(前述した楔隙間)は、ローラの取り付け高さの誤差に応じてばらつく。すなわち、量産したときの楔隙間がばらつく。楔隙間がばらつくと、楔部材とロアレールの間の接触圧がばらつく。その結果、シートを移動させるのに要する力がばらつくことになる。本明細書は、一方向と逆方向の摺動抵抗が異なるシートスライド装置に関し、量産したときの摺動抵抗のばらつきを小さくする技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書が開示するシートスライド装置は、ロアレール、アッパレール、ローラ、楔部材を備えている。ロアレールは、車体に取り付け可能であるとともに、底板と、底板と対向する上板を備えている。アッパレールは、シートに取り付け可能であるとともに、ロアレールに対して摺動可能に係合している。ローラは、底板と上板の間に位置するようにアッパレールに支持されており、下面が底板に接している。楔部材は、レール長手方向に沿って進退可能にアッパレールに支持されているとともにローラの上面とロアレールの上板との間に挟まれている。楔部材は、ロアレールのレール長手方向に沿って先細り形状となる姿勢で配置されている。なお、ローラの代わりに摺動駒であってもよい。
【0008】
特許文献1のシートスライド装置では楔部材がロアレールとアッパレールの間に挟まれているのに対して、本明細書が開示するシートスライド装置では、楔部材はローラ(または摺動駒)の上面とロアレールの上板の間に挟まれている。従ってアッパレールに対するローラ(または摺動駒)の取り付け高さ誤差の影響を受けない。従って、本明細書が開示するシートスライド装置は、量産したときの楔部材とロアレールの接触面に作用する面圧のばらつきが小さく、その結果摺動抵抗のばらつきが小さくなる。なお、量産したときの寸法公差は様々な箇所に存在するが、本明細書が開示するシートスライド装置は、少なくともローラ(または摺動駒)の取り付け高さ誤差の影響は除去することができる。
【0009】
なお、楔部材の作用効果は、特許文献1の場合と同じであり、アッパレールが楔部材の先細り方向へ移動するときのロアレールに対する摺動抵抗が、先細り方向とは逆方向へ移動するときのロアレールに対する摺動抵抗よりも小さくなる。
【0010】
楔部材は、先細りの方向に付勢されているとよい。付勢力によって、楔部材は常に安定してローラと上板に接するようになり、摺動抵抗の経時的な変化が抑制される。
【0011】
本明細書が開示するシートスライド装置は、ローラと楔部材が直接に接していてもよく、ローラと楔部材との間に緩衝材が挟まれていてもよい。緩衝材を備えることによって、ローラの回転が直接に楔部材に伝わらず、ローラの回転が楔部材とアッパレールの接触面に作用する面圧に影響を与えない。すなわち、緩衝材を挟むことによって、摺動抵抗がローラの回転の影響を受けないようにすることができる。
【0012】
緩衝材は、楔形状を有しており、その先細りの方向が楔部材の先細り方向と逆を向く姿勢で配置されているとよい。この場合、アッパレールの移動によって楔部材が太い側へ押されるとき、ローラに接している緩衝材はローラの回転に引きずられて楔部材とは逆方向へ押される。即ち、楔部材と緩衝材のそれぞれが楔隙間から抜ける方向に押され、摺動抵抗がより小さくなる。アッパレールの移動によって楔部材が細い側へ押されるときは、楔部材と緩衝材のそれぞれが楔隙間に押し込まれる方向に押されることになり、摺動抵抗がより大きくなる。即ち、上記の構造によれば、アッパレールが一方向に動くときの摺動抵抗と逆方向に動くときの摺動抵抗の差を大きくすることができる。
【0013】
本明細書が開示する技術の詳細とさらなる改良は以下の「発明を実施するための形態」にて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例のシートスライド装置の側面図である。
【
図6】第1変形例のシートスライド装置のローラ軸線を通る断面図である。
【
図7】
図6のVII-VII線に沿った断面図である。
【
図8】第2変形例のシートスライド装置のローラ軸線を通る断面図である。
【
図10】第3変形例のシートスライド装置の断面図である。
【
図11】第4変形例のシートスライド装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面を参照して実施例のシートスライド装置2を説明する。
図1に、自動車に取り付けられたシートスライド装置2の側面図を示す。シートスライド装置2は、ロアレール10とアッパレール20で構成されている。アッパレール20は、ロアレール10に対して摺動可能に取り付けられている。ロアレール10は車両のフロアパネル99に固定される。アッパレール20は、シート90のシートクッション91の下部に取り付けられる。
【0016】
ロックレバー(後述)と連動する操作レバー39がアッパレール20の前端よりも前へ延びている。ユーザが操作レバー39を持ち上げると、ロアレール10に対するアッパレール20のロックが解除され、アッパレール20がスライド可能になる。即ちシート90がスライド可能になる。図中の座標系のX方向がロアレール10とアッパレール20のレール長手方向に相当する。Y方向がレール短手方向に相当する。図中の座標系の+Z方向が上方を示す。説明の便宜上、+X方向を「前方」と称し、-X方向を「後方」と称する。座標系の各軸の意味は以下の図でも同じである。
【0017】
図2に、シートスライド装置2の斜視図を示し、
図3にアッパレール20の斜視図を示す。まず、
図2を参照しつつ、ロアレール10の構造を説明する。ロアレール10は、1枚の金属板から折り曲げ加工(ロールフォーミング加工あるいはプレス加工など)によって形成される。ロアレール10は、車体に取り付けられる底板部11と、一対の外縦板部12と、一対の上板部13と、一対の内縦板部14を備えている。一対の外縦板部12は、レール短手方向(図中のY方向)で底板部11の両端のそれぞれから上方に向かって延びている。一対の上板部13は、夫々の外縦板部12の上端からレール短手方向の中央へ向けて横方向に延びている。一対の内縦板部14は、夫々の上板部13の内側端から下方へ延びている。一対の内縦板部14は、互いに対向している。外縦板部12と内縦板部14は略平行である。内縦板部14には、レール長手方向(X方向)に沿って並んでいるロック孔15が設けられている。
【0018】
図3を参照しつつ、アッパレール20の構造を説明する。アッパレール20は、一対の主板部21、一対の下板部22、一対の腕板部23を備えている。一対の主板部21は上下方向に延びており、それらの上部と下部は、互いに離反する方向に開いている。一対の主板部21の下部では、夫々の主板部21の下端から、下板部22がレール短手方向で外側へ向かって延びている。夫々の下板部22の外側の端から上方へ向かって腕板部23が延びている。アッパレール20がロアレール10に組み付けられると、腕板部23は、ロアレール10の外縦板部12と内縦板部14の間に位置することになる。腕板部23には、ローラ24が回転可能に支持されている。ローラ24の下面(周面のうち下側に位置する面)はロアレール10の底板部11に接しており、アッパレール20がロアレール10に対して移動する際、ローラ24が回転することでアッパレール20が円滑に動く。
【0019】
一方の腕板部23のレール長手方向の略中央には複数のロックツメ27が突出している。ロックツメ27は、ロックレバー29と連動して動く。詳しい機構は説明を省略するが、ロックレバー29は操作レバー39(
図1参照)とも連動しており、ユーザが操作レバー39を上げるとロックレバー29が下がる。ロックレバー29が下がることに連動してロックツメ27が腕板部23から後退する。ロックツメ27は、一対の主板部21で挟まれた空間まで後退する。ロックレバー29は不図示のバネで付勢されており、ユーザが操作レバー39へ加える力を解放すると、付勢力によりロックレバー29がもとの位置に戻るとともに、ロックツメ27が腕板部23の外側へ進出する。このとき、ロックツメ27は、主板部21と腕板部23の間に位置するロアレール10の内縦板部14に設けられたロック孔15を貫通する。ロックツメ27がロック孔15を貫通すると、アッパレール20がロアレール10に対してロックされる。ロックツメ27が後退してロック孔15から外れると、ロックが解除され、アッパレール20がロアレール10に対して摺動可能となる。
【0020】
アッパレール20は、楔部材32を備えている。楔部材32は、ローラ24とロアレール10の上板部13との間に挟まれ、ロアレール10に対するアッパレール20の摺動抵抗を調整する。ローラ24は、アッパレール20のレール短手方向の両側に配置されており、夫々のローラ24に対して楔部材32が配置されている。レール短手方向の両側の楔部材は、連結梁31で連結されている。連結梁31は、不図示のバネによって、楔部材32の先細りの方向(図中の座標系の-X方向)に付勢されている。即ち、楔部材32がその先細りの方向に付勢されている。
【0021】
楔部材32が摺動抵抗に影響を与える機構を説明する。
図4に、
図2のIV-IV線に沿った断面図を示し、
図5に
図2のV-V線に沿った断面図を示す。
図4は、前方のローラ24の軸心を通る断面を示している。
図5は、
図4のV-V線に沿った断面でもあり、ロアレール10の底板部11と上板部13とローラ24を通る断面を示す。
図5は、
図4のV-V線に沿った断面に相当する。
図5では、楔部材32を支持する連結梁31(
図3参照)の図示は省略した。
図7、9-11でも同様に連結梁31の図示は省略した。また、以下では、アッパレール20のロックは解除されているものとする。
【0022】
楔部材32は、レール長手方向に沿って先細りとなる姿勢でアッパレール20に支持されている。別言すれば、楔部材32は、レール短手方向(図中のY方向)からみて楔形状となる姿勢で支持されている。
【0023】
楔部材32の上面32aは水平であり、ロアレール10の上板部13の下面に当接している、楔部材32の下面32bは水平に対して傾斜しており、ローラ24の上面に当接している。先に述べたように、楔部材32は、先細りの方向に付勢されている。この付勢力によって、楔部材32の上面32aは常に上板部13に接しており、下面32bは常にローラ24に接している。なお、ローラ24の下面はロアレール10の底板部11に当接している。ローラ24の上面(下面)とは、ローラ24の周面のうち、上方(下方)に位置する面を意味する。
【0024】
アッパレール20が
図5の矢印Mの方向(図中の+X方向)へ移動すると、相対的にロアレール10はアッパレール20に対して後方(図中のーX方向)へ移動する。ロアレール10の上板部13は楔部材32の上面32aに当接しつつ相対的に後方へ移動する。
図5から理解されるように、楔部材32は上板部13との間の摩擦力Fにより、後方(図中のーX方向)に押される。即ち、楔部材32は、上板部13とローラ24の間の隙間に押し込まれる方向に荷重を受ける。先に述べたように、楔部材32は、バネによって先細りの方向(実施例の場合は後方)に付勢されているが、バネの付勢力に摩擦力Fが加わると、楔部材32と上板部13の間の接触面圧Pが高くなる。接触面圧Pが高まると、ロアレール10に対するアッパレール20の摺動抵抗が増加する。
【0025】
逆に、アッパレール20が後方(図中のーX方向)へ移動すると、相対的にロアレール10はアッパレール20に対して前方(図中の+X方向)へ移動する。ロアレール10の上板部13は、図中の+X方向へ移動し、摩擦力により楔部材32を+X方向に荷重する。楔部材32は、上板部13とローラ24の間の隙間から外れる方向に荷重を受けることになる。この荷重はバネによる付勢力の一部を相殺することになり、楔部材32と上板部13の間の接触面圧Pが低下し、ロアレール10に対するアッパレール20の摺動抵抗が低下する。
【0026】
以上の通り、楔部材32によって、アッパレール20の前方への移動の際の摺動抵抗と、後方への移動の際の摺動抵抗が異なる。アッパレール20の移動方向と摺動抵抗の関係は次の通りである。アッパレール20が楔部材32の先細り方向(-X方向)へ移動するときのロアレール10に対する摺動抵抗は、先細り方向とは逆方向(+X方向)へ移動するときのロアレール10に対する摺動抵抗よりも小さくなる。
【0027】
図4、
図5に示されているように、ロアレール10の底板部11と上板部13の間にローラ24と楔部材32が挟まれている。量産の際にローラ24のアッパレール20における取り付け高さにばらつきがあっても、そのばらつきは、楔部材32と上板部13の間の接触面圧P、すなわち、摺動抵抗には影響しない。
【0028】
(第1変形例)
図6、7を参照して第1変形例のシートスライド装置2aを説明する。
図6は、シートスライド装置2aのローラ24の軸線を通る断面を示している。
図7は、
図6におけるVII-VII線に沿った断面を示している。シートスライド装置2aは、アッパレール20に緩衝材25が取り付けられている点で実施例のシートスライド装置2と相違する。そのほかの構造は実施例のシートスライド装置2と同じであるので説明は割愛する。
図6、7では、理解を助けるために、緩衝材25をグレーで塗りつぶしてある。
【0029】
緩衝材25は、アッパレール20の腕板部23の側面に取り付けられている。緩衝材25は、ローラ24と楔部材32の間に位置するように、腕板部23に取り付けられている。緩衝材25は、ローラ24の回転の影響が楔部材32に及ばないようにするために設けられている。緩衝材25は、樹脂あるいはゴムなど、金属よりも柔らかい材料で作られている。
図7において楔部材32が図の右方向に移動すると、緩衝材25を介してローラ24に圧力が加わる。
【0030】
まず、先に説明した実施例のシートスライド装置2の場合にローラ24の回転が楔部材32に与える影響を説明する。
図5を参照して説明したように、アッパレール20の上板部13は楔部材32の上面32aに接しており、アッパレール20が矢印Mの方向へ移動するとき、上板部13との接触による摩擦力Fは、楔部材32を先細りの方向(図中のーX方向)に押すように作用する。一方、アッパレール20が矢印Mの方向に移動するとき、ローラ24は矢印Rの方向に回転する。ローラ24は楔部材32の下面32bと接しているから、その回転は、楔部材32を細い側から太い側へ向かう方向(図中の+X方向)に押すように作用する。即ち、ローラ24の回転は、上板部13が楔部材32に及ぼす摩擦力Fを減じるように作用する。ローラ24の回転は、楔部材32をローラ24と上板部13の間に押し込む方向の力(摩擦力F)を減ずるように作用するので、楔部材32の上面32aに作用する接触面圧Pが下がる。従って、ローラ24の回転は、アッパレール20が+X方向へ移動するときの摺動抵抗を小さくする方向に作用する。同様の理由により、ローラ24の回転は、アッパレール20が-X方向へ移動するときの摺動抵抗を大きくする方向に作用する。即ち、ローラ24の回転は、アッパレール20が+X方向に移動するときの摺動抵抗とーX方向に移動するときの摺動抵抗の差を小さくするように作用する。
【0031】
一方、
図6、
図7に示したシートスライド装置2aの場合、ローラ24は緩衝材25に接しており、楔部材32に接していないから、楔部材32はローラ24の回転の影響を受けない。その結果、実施例のシートスライド装置2と比較して、第1変形例のシートスライド装置2aは、アッパレール20が+X方向へ移動するときの摺動抵抗が大きくなり、―X方向へ移動するときの摺動抵抗が小さくなる。第1変形例のシートスライド装置2aは、実施例のシートスライド装置2と比較して、アッパレール20が+X方向へ移動するときの摺動抵抗と-X方向へ移動するときの摺動抵抗の差が大きくなる。
【0032】
(第2変形例)次に、
図8、9を参照して第2変形例のシートスライド装置2bを説明する。
図8は、シートスライド装置2bのローラ24の軸線を通る断面を示している。
図9は、
図8におけるIX-IX線に沿った断面を示している。シートスライド装置2bは第1変形例のシートスライド装置2aと同様にアッパレール20に緩衝材26が取り付けられている。ただし、緩衝材26は、楔形状を有している点で第1変形例のシートスライド装置2aと相違する。そのほかの構造はシートスライド装置2aと同じであるので説明は割愛する。
図8、9では、理解を助けるために、緩衝材26をグレーで塗りつぶしてある。
【0033】
緩衝材26は、楔形状の先細りの方向がレール長手方向を向く姿勢でアッパレール20の腕板部23に取り付けられている。緩衝材26は、楔の先細りの方向が楔部材32の先細りの方向と逆を向く姿勢で取り付けられている。
図9の例では、楔部材32は先細りの方向が-X方向を向いているのに対して、緩衝材26の先細りの方向は+X方向を向いている。緩衝材26の上面26aは、楔部材32の下面32bと面接触する。
【0034】
先に述べたように、アッパレール20が矢印Mの方向に移動するとき、楔部材32の上面32aには、上板部13から-Xの方向に摩擦力F1が作用する。一方、ローラ24は矢印Rの方向に回転する。この回転により、ローラ24の上面と接している緩衝材26には摩擦力F2が作用する。摩擦力F2は摩擦力F1とは逆を向く。摩擦力F1は、楔部材32を上板部13とローラ24の間に押し込むように作用し、摩擦力F2は、緩衝材26を上板部13とローラ24の間に押し込むように作用する。緩衝材26に作用する摩擦力F2によって、楔部材32と上板部13の間に称する接触面圧Pがさらに高くなる。即ち、アッパレール20が+X方向へ移動するときの摺動抵抗がさらに高くなる。同様の理由により、アッパレール20が-X方向へ移動するときには摺動抵抗がさらに低くなる。第2変形例のシートスライド装置2bは、第1変形例のシートスライド装置2aよりもさらに摺動抵抗の差が大きくなる。
【0035】
(第3変形例)
図10を参照して第3変形例のシートスライド装置2cを説明する。
図8は、シートスライド装置2cの断面を示している。
図10の断面は、
図9の断面に対応する。シートスライド装置2cは、先細り形状を有する緩衝材126を有している。
図10でも理解を助けるために、緩衝材126をグレーで塗りつぶしてある。緩衝材126は、第2変形例のシートスライド装置2bの緩衝材26と同様に、先細りの方向が楔部材32の先細りの方向と逆を向く姿勢で取り付けられており、その上面126aが楔部材32の下面32bと面接触する。さらに緩衝材126の下面126bには、ローラ24の円筒の半径と同じ大きさの曲率半径を持つ窪みが設けられている。緩衝材126の下面126bは、その窪みでローラ24と面接触する。緩衝材126は、その下面126bがローラ24と面接触するので、ローラ24から受ける摩擦力が大きくなる。第3変形例のシートスライド装置2cは、第2変形例のシートスライド装置2bよりもさらに摺動抵抗の差が大きくなる。
【0036】
(第4変形例)
図11を参照して第4変形例のシートスライド装置2dを説明する。
図11は、シートスライド装置2dの断面を示している。
図11の断面は、
図5の断面に対応する。シートスライド装置2dは、シートスライド装置2のローラ24のかわりに摺動駒124を備えている点でシートスライド装置2と相違する。その他の構造はシートスライド装置2と同じである。摺動駒124の下面124bがロアレール10の底板部11と面接触し、上面124aは、楔部材32の下面32bと面接触する。なお、楔部材32の上面32aは、ロアレール10の上板部13と面接触する。アッパレール20がロアレール10に対して移動する際、摺動駒124の下面124bが底板部11と摺動する。ローラ24に替えて摺動駒124を有するシートスライド装置2dも、実施例のシートスライド装置2と同様の効果を奏する。
【0037】
以上、説明したように、実施例のシートスライド装置2、及び、変形例のシートスライド装置2a-2dは、アッパレールが一方向へ移動する際の摺動抵抗と逆方向へ移動する際の摺動抵抗が異なる。そして、量産したときに、それぞれの摺動抵抗のばらつきが小さい。
【0038】
楔部材32は、先細りの方向に付勢されている。楔部材32に付勢力を与える部材は、コイルバネ、板バネ、高弾性のゴムあるいは高弾性の樹脂、そのほか、弾性を有する部材であればよい。
【0039】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0040】
2、2a、2b、2c、2d:シートスライド装置
10:ロアレール
11:底板部
12:外縦板部
13:上板部
14:内縦板部
15:ロック孔
20:アッパレール
21:主板部
22:下板部
23:腕板部
24:ローラ
25、26、126:緩衝材
27:ロックツメ
29:ロックレバー
31:連結梁
32:楔部材
39:操作レバー
124:摺動駒