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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-25
(45)【発行日】2022-09-02
(54)【発明の名称】レンズユニット
(51)【国際特許分類】
   G02B 7/02 20210101AFI20220826BHJP
   G03B 30/00 20210101ALI20220826BHJP
【FI】
G02B7/02 B
G02B7/02 C
G02B7/02 Z
G03B30/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018156182
(22)【出願日】2018-08-23
(65)【公開番号】P2020030334
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】日本電産サンキョー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(74)【代理人】
【識別番号】100194146
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 明
(74)【代理人】
【識別番号】100194283
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 大勇
(74)【代理人】
【識別番号】100141324
【弁理士】
【氏名又は名称】小河 卓
(72)【発明者】
【氏名】中島 知昭
【審査官】登丸 久寿
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-032418(JP,A)
【文献】特開2017-053932(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/02
G03B 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のレンズと、
前記複数のレンズが収容された内側筒部と、前記内側筒部から径方向外側に離れた外側筒部と、前記内側筒部の外周面から前記外側筒部の内周面に放射状に延びる複数のリブと、を備える鏡筒と、
を有し、
前記内側筒部の内周面には、径方向内側に向かって突出する複数の調芯用突出部を備え、
前記複数の調芯用突出部のそれぞれは、前記複数のリブにおける隣り合うリブ同士の間に形成され
前記内側筒部と前記外側筒部との間に環状溝が形成されていることを特徴とするレンズユニット。
【請求項2】
前記調芯用突出部は、突出寸法の異なる第1調芯用突出部と第2調芯用突出部を有し、
前記第2調芯用突出部は、前記第1調芯用突出部から前記内周面の内側に突出し、レンズ外周面に当接し、
前記第1調芯用突出部は、周方向の位置関係において、前記リブと重ならないことを特徴とする請求項に記載のレンズユニット。
【請求項3】
前記鏡筒において、前記鏡筒を成形した際に形成された樹脂の注入位置を示すゲートは、前記外側筒部に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のレンズユニット。
【請求項4】
前記複数のリブの像側端面は、撮像素子を備える電子部材との位置決めを行う位置決め部を有していることを特徴とする請求項1からまでのいずれかに記載のレンズユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズユニットに係り、例えば、複数のレンズとそれらを保持する鏡筒とを備えるレンズユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、レンズユニット全体での光学特性に対する要求が厳しくなっており、各レンズの精度向上が求められている。例えば、鏡筒(レンズバレルとも言う)の内周面の真円度精度を向上させるため、鏡筒を内側筒部とその外側に円周溝を介して形成された外側筒部とからなる構成とし、円周溝により肉厚を薄くすることで樹脂のヒケ発生を防止し真円度を向上させる技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。この技術では、内側筒部と外側筒部との間に、それらを連結するように放射状に形成された複数のリブが設けられている。さらに、内側筒部の内周面には、周方向に等間隔で複数の突条(調芯用突出部)が形成される。その突条には、レンズ調芯機能として設けられ、レンズ圧入の際のレンズ歪みを緩和している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-53932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に開示の技術によると、レンズ収容部となる鏡筒の内側筒部の真円度を向上させレンズユニットの高性能化を実現できた。しかしながら、レンズユニットの一層の高性能化が求められるなかで、鏡筒の形状によっては歪みが生じ、従来では許容されていた範囲の歪みであってもその影響を抑制する必要が出てきており、別の技術が求められていた。
【0005】
本発明は、上記の状況に鑑みなされたものであって、鏡筒が内側筒部と外側筒部とで構成されるようなレンズユニットにおいて、内側筒部の内周面に調芯用突出部を設けた場合に、鏡筒を成形する際に、成形時において調芯用突出部に対する影響を抑制し、レンズユニットの高解像度化を図ることができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、複数のレンズと、前記複数のレンズが収容された内側筒部と、前記内側筒部から径方向外側に離れた外側筒部と、前記内側筒部の外周面から径方向外側に向かって放射状に延びる複数のリブと、を備える鏡筒と、を有し、前記内側筒部の内周面には、径方向内側に向かって突出する複数の調芯用突出部を備え、複数の調芯用突出部のそれぞれは、複数のリブにおける隣り合うリブ同士の間に形成されている。成形時に内側筒部を形成する樹脂がリブ側に引っ張られてしまっても、調芯用突出部は影響の少ない隣り合うリブ同士の間に形成され、前記内側筒部と前記外側筒部との間に環状溝が形成されている。したがって、調芯用突出部によって、高い精度でレンズを鏡筒内に収容することができるため、レンズユニットの高解像度化を図ることができる。内側筒部と外側筒部とは、環状溝によって分離している。
【0008】
前記調芯用突出部は、突出寸法の異なる第1調芯用突出部と第2調芯用突出部を有し、前記第2調芯用突出部は、前記第1調芯用突出部から前記内周面の内側に突出し、レンズ外周面に当接し、前記第1調芯用突出部は、周方向の位置関係において、前記リブと重ならなくてもよい。
【0009】
前記鏡筒において、前記鏡筒を成形した際に形成された樹脂の注入位置を示すゲートは、前記外側筒部に形成されてもよい。鏡筒を樹脂で成形する際の樹脂の注入位置(すなわちゲート)は、レンズを保持する内側筒部から離れている。したがって、成形時において樹脂がゲート位置からこの内側筒部に到達したときには樹脂の流れが十分に落ちているので、樹脂の流れの強弱および樹脂の流れの乱れに起因する変形を抑えることができ、真円度を向上させることができる。
【0010】
前記複数のリブの像側端面は、撮像素子を備える電子部材との位置決めを行う位置決め部を有してもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、鏡筒が内側筒部と外側筒部とで構成されるようなレンズユニットにおいて、内側筒部の内周面に調芯用突出部を設けた場合に、鏡筒を成形する際に、成形時において調芯用突出部に対する影響を抑制し、レンズユニットの高解像度化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態に係る、レンズユニットの全体を示す図である。
図2】実施形態に係る、レンズユニットの縦断面図(Y-Z断面図)である。
図3】実施形態に係る、鏡筒の斜視図である。
図4】実施形態に係る、鏡筒の底面側からみた斜視図である。
図5】実施形態に係る、鏡筒の底面図である。
図6】実施形態に係る、鏡筒の縦断面図(Y-Z断面図)である。
図7】実施形態に係る、鏡筒の縦断面斜視図である。
図8】実施形態に係る、鏡筒の横断面斜視図である。
図9】実施形態に係る、図6の領域A1を拡大した図である。
図10】実施形態に係る、鏡筒の内側筒部の横断面図である。
図11】実施形態に係る、図10の領域A2を拡大した図である。
図12】実施形態に係る、金型の製造工程を示す図である。
図13】実施形態の変形例に係る、鏡筒の底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という)を、図面を参照しつつ説明する。図1は本実施形態に係るレンズユニット1の全体を示す図であり、図1(a)は正面図、図1(b)は斜視図である。また、図2は縦断面図であり、図示でY-Z断面に相当する。
【0014】
レンズユニット1は、車載周辺監視カメラ、監視カメラ、ドアホン等に組み込まれるレンズアッシである。なお、本実施形態における「物体側L1」および「像側L2」とは、光軸L方向における物体側および像側をいい、「光軸方向」とは光軸Lに平行する方向をいう。
【0015】
(全体構成)
レンズユニット1は、複数の円盤状レンズを同軸上に配置したレンズ群2と、レンズ群2を収納する鏡筒3とを備える。レンズ群2は、例えば図2に示すように、光軸Lに沿って物体側L1から像側L2に向かって密着して配置された第1レンズ21、第2レンズ22、第3レンズ23、第4レンズ24、第5レンズ25、および第6レンズ26の6枚のレンズにより構成される。
【0016】
レンズ群2を構成するレンズのうち、第1レンズ21は、最も物体側L1に配置される。第2レンズ22は、第1レンズ21の像側L2に位置する。第3レンズ23は、第2レンズ22の像側L2に位置する。第4レンズ24は、第3レンズ23の像側に位置する。第4レンズ24は、樹脂製のレンズホルダ4に圧入固定され更に接着剤による補強固定された状態で鏡筒3に配置される。第5レンズ25は、第4レンズ24の像側L2に位置する。第6レンズ26は、第5レンズ25の像側L2に位置する。第5レンズ25と第6レンズ26はそれぞれ接合レンズ素子であって、接合レンズを構成する。また、第2レンズ22と第3レンズ23の間に遮光シート27が、第3レンズ23と第4レンズ24の間には絞り28が配置される。
【0017】
第1レンズ21には、最も物体側に位置する第1レンズ21の物体側レンズ面が露出している場合でも第1レンズ21の物体側レンズ面に傷が付きにくくするという観点からガラスレンズが用いられる。第2レンズ22、第3レンズ23、第5レンズ25、および第6レンズ26には、レンズの加工性および経済性に優れるという点から、プラスチックレンズが用いられる。第4レンズ24には、レンズの面精度や温度変化に対する屈折率等の光学特性に優れるという観点からガラスレンズが用いられる。
【0018】
レンズ群2を構成する第1レンズ21、第2レンズ22、第3レンズ23、レンズホルダ4、第5レンズ25と第6レンズ26とにより構成される接合レンズは、その外周面が鏡筒3(内側筒部31)の内周面60に支持されることにより光軸L方向に位置決めされている。
【0019】
第5レンズ25における像側L2の面の周縁に形成された平坦部25aが、鏡筒3の像側L2において周方向内側に延びる環状の平坦部61に載置される。その上に、順次、第4レンズ24、第3レンズ23及び第2レンズ22が配置される。その後、第2レンズ22の物体側L1の面の周縁が鏡筒3の内周面60の物体側L1の端部に設けられたカシメ部35に係止される。
【0020】
このようにして、第2レンズ22、第3レンズ23、レンズホルダ4(第4レンズ24)、第5レンズ25(およびそれと接合した第6レンズ26)が、光軸L方向に位置決めされる。ここでは、第2レンズ22、第3レンズ23、レンズホルダ4(第4レンズ24)、第5レンズ25の挿入順の間違い防止の観点から、像側L2のレンズほど外径が小さく、かつそれらに対応して内周面が狭く形成されている。
【0021】
内周面60の像側L2の端部(底面)には、第6レンズ収容部69が形成されており、その底部中央には開口69aが形成され、第6レンズ26の像側レンズ面が像側L2に露出している。開口69aより像側L2には、第6レンズ26と接触しない位置で、赤外線カットフィルタ38が取りつけられ、さらに、赤外線カットフィルタ38より像側L2には後述する係止用リブ41により撮像素子等を備えた電子部材99の位置決めがなされている。
【0022】
鏡筒3の上面に形成された段部の凹部64にOリング5を配置した後、段部上部に第1レンズ21を配置する。このとき、第1レンズ21は、段部に形成された受け部34上に、必要に応じてスペーサー39を介して載置される。
【0023】
第1レンズ21は、径方向の位置が調整された後、鏡筒3の物体側L1の端部に形成されたカシメ部36により、物体側L1から周端部がカシメられる。これにより、第1レンズ21は、光軸L方向で位置決めされる。このときの像側L2への押圧力によりOリング5が圧縮され、シールされる。これにより、外からの水等の浸入が抑えられる。
【0024】
なお、本実施形態におけるレンズユニット1のレンズ群2は上記6枚のレンズにより構成されているが、レンズの枚数は限定されることはなく、また、レンズの材質についても限定されることなく、また、接合レンズを備えない構成としても良い。
【0025】
(鏡筒の構造の特徴)
つづいて、鏡筒3の構造に関して、本実施形態で特徴的な部分に着目して説明する。図3は鏡筒3の斜視図であり、図1(b)のレンズユニット1の斜視図からレンズ群2を取り除いて示している。図4は鏡筒3の底面側から見た斜視図である。図5は鏡筒3の底面図である。図6は鏡筒3のY-Z断面図であって、図2のレンズユニット1からレンズ群2を取り除いて示している。図7は鏡筒3の断面斜視図(X-Z断面)である。図8は、X-Y断面斜視図である。
【0026】
鏡筒3は、樹脂製の円筒状の玉枠であり、レンズ群2を構成する各レンズの外周面に沿いながら、像側L2に向かって内周面60が形成されている。より具体的には、鏡筒3は、内周面60が形成される内側筒部31と、内側筒部31から径方向外側に離れた外側筒部32と、内側筒部31の外周面31aから径方向外側に向かって放射状に延びる複数(ここでは12箇所の)のリブ40と、を備える。
【0027】
本実施形態では、外側筒部32の像側L2の端部33は、上面視で外形が略正方形となっている。図5に示すように、外側筒部32の端部33には、樹脂成形時のゲート位置(ゲート口)であったことを示すゲート痕Gが、各辺中央の計4箇所に形成されている。
【0028】
本実施形態では、鏡筒3は射出成形により成形される。鏡筒3を射出成形する際の樹脂の注入位置(図5に示すゲート痕G)は、内側筒部31から離れている。このような構成によると、樹脂成形時において樹脂がゲート(すなわちゲート痕G)から内側筒部31に到達したときには樹脂の流れが十分に落ち着いている。その結果、樹脂の流れの強弱および樹脂の流れの乱れに起因する変形を抑えることができ、内側筒部31の内周面60の真円度を向上させることができる。
【0029】
内側筒部31の内周面60には、径方向内側に向かって突出する複数(ここでは12箇所)の調芯用突出部80が形成されている。詳細は後述するが、調芯用突出部80のそれぞれは、周方向の位置関係において、複数のリブ40における隣り合うリブ40同士の間に形成されている。
【0030】
内側筒部31と外側筒部32は、環状溝49によって分離されている。すなわち、内側筒部31の外周面31aと外側筒部32の内周面32aとの間には、像側L2から凹んだ環状溝49が形成されている。例えば、図2に示すように、凹の最深部(すなわち物体側L1の先端部分)は、レンズ群2が配置されたときに、光軸L方向で、第3レンズ23と第4レンズ24の境界、すなわち絞り28が配置される位置以上となっている。
【0031】
環状溝49では、内側筒部31の外周面31aから外側筒部32の内周面32aに向かって、上述した複数のリブ40、より具体的には、周方向(X-Y平面上)において30度間隔で12個のリブ40が形成されている。リブ40は、像側L2の端部に係止形状と呈する位置決め部42を備えた係止用リブ41と、位置決め部42を備えていない基本リブ43の2種類がある。例えば、図や図に示すように、X軸と平行な方向に延びる2個のリブ40が基本リブ43であり、それら以外の10個のリブ40が係止用リブ41である。
【0032】
係止用リブ41には、基板に実装された撮像素子、基板を保持する保持部材等を備えた電子部材99が、直接またはスペーサ部材を介して係止され固定される。電子部材99は、外形が平面視で略四角形である。リブ40を8箇所以上設けることで、電子部材99の外形の辺中心部分や角部近傍を的確に位置決めすることができる。その結果、電子部材99の位置精度を向上させることができる。また、外側筒部32から離れた内側筒部31の像側L2の端部(実際にはリブ40の係止用リブ41)に、電子部材99を固定できるので、外部からの衝撃等が電子部材99に直接作用することを防止でき、故障を抑制できる。
【0033】
また、環状溝49が内側筒部31と外側筒部32の間の肉抜きとして機能するため、鏡筒3を成形する際に、ヒケを抑えることができる。すなわち、鏡筒3の成形精度を向上させることができ、レンズユニット1のさらなる高解像度化を図ることができる。また、リブ40に電子部材99との位置決め部42を設けたため、電子部材99を固定するための部材・構造を設ける必要が無く、部品点数の削減による組立作業の簡素化・低コスト化を図ることができる。
【0034】
また、複数のリブ40によって内側筒部31が補強されるため、レンズ群2を収容する内側筒部31の強度を確保することができる。また、外部からの振動による内側筒部31の共振現象を抑制できる。リブ40の形状等を調整することで、様々な共振(共振周波数)に対して対応することができる。
【0035】
位置決め部42は、電子部材99を載置する載置面44と、径方向での位置を規制する突出部45と、を備える。Y軸方向に平行な二つの係止用リブ41(図5では、上下方向に延びる係止用リブ41)は、突出部45のみが内側筒部31の像側L2の端面に一部掛かるように形成されている。載置面44と、内側筒部31の像側L2の端面は、同一平面上に形成されており、載置面44と内側筒部31の像側L2の端面に電子部材99が載置され固定される。固定された電子部材99は、突出部45により、XY平面上の位置決めがなされる。なお、電子部材99は、載置面44にのみ載置される構成であってもよい。
【0036】
(内周面の構造)
図9~12を参照して、内周面60には形成されている調芯用突出部80について具体的に説明する。図9図6の領域A1を拡大した図である。図10は、XY断面において、内側筒部31について示している図である。図11は、図10の領域A2、すなわち一つの調芯用突出部80を拡大して示す図である。図12は、調芯用突出部80に対応する鏡筒金型90の形状を作る工程を説明する図である。
【0037】
内周面60は、物体側L1から像側L2に向かって(例えば図9では上から下に向かって)、第2レンズ22を収容する円筒状の第2レンズ収容部72、第3レンズ23を収容する円筒状の第3レンズ収容部73、第4レンズ24(実際にはレンズホルダ4)を収容する円筒状の第4レンズ収容部74、第5レンズ25を収容する円筒状の第5レンズ収容部75を有する。
【0038】
第2~第5レンズ収容部72~75は、上述のレンズの外形に対応して物体側L1の第2レンズ収容部72の外形が一番大きく、像側L2へ向かって徐々に外形が小さくなっている。第2~第5レンズ収容部72~75は、それぞれ周方向に等間隔に調芯用突出部80を有する。
【0039】
上述のように調芯用突出部80は、周方向に等間隔で複数箇所に、ここでは30度間隔で12箇所に、調芯用突出部80が径方向内側に凸状(膨出した形状)で形成されている。リブ40も30度間隔で形成されている。そして、調芯用突出部80は、周方向の位置関係において、リブ40が形成されている位置ではなく、15度ずれた位置、すなわち隣り合うリブ40同士の間に形成されている。
【0040】
調芯用突出部80は、内周面60から径方向内側に突出(膨出)する第1調芯用突出部81と、第1調芯用突出部81から径方向内側に突出する第2調芯用突出部82とを備える。ここでは、第2調芯用突出部82が二つの第1調芯用突出部81に左右から挟まれるように形成されている。このように、調芯用突出部80は、内周面60からの突出量が異なる2段突出構造となっている。
【0041】
上述のように30度間隔で12個の調芯用突出部80が設けられている。したがって、例えば、第2レンズ22、第3レンズ23、第4レンズ24(レンズホルダ4)、第5レンズ25のように、ゲートカット部を有する場合、調芯用突出部80を12個以上とすることで、ゲートカット部において調芯用突出部80が当たらない場合でも、残りの調芯用突出部80によって十分な調芯機能を作用させることができる。
【0042】
ここで、複数のリブ40が内側筒部31の外周面31aから径方向外側に延びている場合、成形時に内側筒部31を形成する樹脂がリブ40の側に引っ張られてしまうことがある。このような場合、リブ40の近傍の内側筒部31の内周面60の真円度精度が出しづらい可能性がある。そこで、成形時に内側筒部31を形成する樹脂がリブ40の側に引っ張られてしまっても、影響の少ない隣り合うリブ40同士の間に調芯用突出部80を形成する。その結果、調芯用突出部80によって、高い精度でレンズ群2を鏡筒内に収容することができるため、レンズユニット1の高解像度化を図ることができる。
【0043】
なお、調芯用突出部80は、第2~第5レンズ収容部72~75のいずれに形成される場合でも、基本的な構造は同一であるが、収容されるレンズの構造・形状や鏡筒3の金型部品の製造工程等によって異なってくることは当業者にとって容易に想到されるものである。
【0044】
二つの第1調芯用突出部81は、円弧状の内周面60から内部方向に突出しているが、同一の平面C1上に形成されている。さらに、平面C1に形成された第1調芯用突出部81には、断面が曲面C2となった第2調芯用突出部82が形成されている。すなわち、第2調芯用突出部82は、光軸方向に平行に延びる長軸状のリブとして突出している。これら第2調芯用突出部82に、それぞれのレンズ等(第2レンズ22、第3レンズ23、レンズホルダ4、第5レンズ25)が圧入され強固に保持される。
【0045】
ここで、第1調芯用突出部81は平面C1で形成されているが、周方向に形成される12個の第1調芯用突出部81により、より具体的には、平面C1の最も内側に突出した12個の位置C3が、光軸Lを中心とする同心円Rx、すなわちレンズ外周の上にある。なお、複数の平面部である第1調芯用突出部81の突出量は狙いの同心円Rxに合わせるため、それぞれ異なってもよい。また、同心円Rxは必ずしもレンズ外周の上にある必要はなく、例えば、レンズ外周から数ミクロン程度隙間を空けた仮想円を同心円Rxとしてもよい。
【0046】
このように、狙いの同心円Rxとなるように複数の平面部である第1調芯用突出部81を形成することで、真円補正が容易になる。すなわち、第1調芯用突出部81を平面部(平面C1)とするため、製造するための金型を製造・修正する際の基準を取りやすくなり、精度出しが容易になる。
【0047】
なお、第1調芯用突出部81を平面C1で形成したがこれに限らず、例えば、第2調芯用突出部82と同じように断面が曲面のリブ形状であってもよい。その場合、第1調芯用突出部81と第2調芯用突出部82の形状は、条件式(1)を満たし、第1調芯用突出部81が第2調芯用突出部82より十分に緩やかな曲面とすることが望ましい。
2×R2≦R1・・・条件式(1)
R1:第1調芯用突出部81の曲率半径
R2:第2調芯用突出部82の曲率半径
このような条件式(1)を満たす第1調芯用突出部81、第2調芯用突出部82の形状とすることで、両方ともリブ形状とした場合でも、第1調芯用突出部81の同心円Rxとなる位置C3を、所望の精度を出すことが比較的容易にできる。
【0048】
(金型について)
つづいて、図12を参照して、鏡筒3を射出成形により製造する際に用いる金型、特に、内周面60及びそれに形成された調芯用突出部80に対応する鏡筒金型90について説明する。この鏡筒金型90は、円柱状(または円筒状)で断面が円形となった金型部品である。円柱状の中空を有する別の金型部品の内部に配置し、その内周面と鏡筒金型90の外周面(内周面60の内周面形成面91)との間の空間に樹脂を射出により導入し内周面60を製造する。
【0049】
ここで、内周面60の調芯用突出部80を形成するための金型形状として、鏡筒金型90は、図12(c)に示すように、第1調芯用突出部81の平面C1に対応する平坦部92と、第2調芯用突出部82に対応する凹曲面93とを有する。
【0050】
まず、鏡筒金型90に調芯用突出部80に対応する形状(凹曲面93、平坦部92a)を形成していない状態で、鏡筒3を射出成形により製造する。これにより調芯用突出部80(第1調芯用突出部81、第2調芯用突出部82)を備えない鏡筒3(内周面60)が成形される。この状態で内周面60の真円度を計測・分析する。すなわち、図12(a)に示すように、内周面形成面91において平面E1で削り取る領域D1を決定する。削りとる領域D1、すなわちそれに対応する第1調芯用突出部81の突出量は、それぞれにおいて異なってもよい。
【0051】
つづいて、上述の領域D1を削りとり図12(b)に示すように、内周面形成面91に平坦部92が形成される。削り取った部分の中央部分E2が、対象となるレンズの仮想同心円(図11(b)では、レンズの外周、すなわち同心円Rxに相当する)に位置する。これを周方向に等間隔で所定数、上述の例では30度間隔で12個形成する。
【0052】
つづいて、図12(c)に示すように、平坦部92の中心部分に、断面が長軸状の円弧E3となる凹曲面93を縦方向に形成する。これによって、平坦部92は、凹曲面93を挟むように二つの平坦部92aに分けられる。凹曲面93は、第2調芯用突出部82に対応する。なお、凹曲面93の深さ、すなわち軽圧入に用いる第2調芯用突出部82の突出量は、全ての第2調芯用突出部82において同一であることが望ましい。
【0053】
このような工程で鏡筒金型90に平面で成る平坦部92を形成するため、基準が取りやすく加工が容易であり、所望の仮想同心円を得ることが容易になる。すなわち、単にリブのみでレンズの仮想同心円の位置出しと軽圧入の構造とを実現する真円補正の場合であれば、精度出し調整が難しく時間がかかっていたが、本実施形態では、精度出し調整を容易にし、調整時間を大幅に短縮できる。
【0054】
本実施形態の特徴を纏めると次の通りである。
レンズユニット1は、複数のレンズ(レンズ群2)と、複数のレンズ(レンズ群2)を収容する鏡筒3とを備える。鏡筒3は、レンズ群2を収容する内側筒部31と、内側筒部31から径方向外側に離れた外側筒部32と、内側筒部31の外周面31aから径方向外側に向かって放射状に延びる複数のリブ40と、を備える。内側筒部31の内周面60には、径方向内側に向かって突出する複数の調芯用突出部80を備える。複数の調芯用突出部80のそれぞれは、複数のリブ40における隣り合うリブ40同士の間に形成されている。このような構成のレンズユニット1において、鏡筒3が成形される際に、内側筒部31を形成する樹脂がリブ40側に引っ張られてしまっても、調芯用突出部80は影響の少ない隣り合うリブ40同士の間に形成されている。したがって、調芯用突出部80によって、高い精度でレンズ群2を鏡筒3内に収容することができるため、レンズユニット1の高解像度化を図ることができる。
【0055】
複数のリブ40と外側筒部32との間には環状溝49が形成されている。すなわち、内側筒部31と外側筒部32は、環状溝49にて分離している。
【0056】
調芯用突出部80は、突出寸法の異なる第1調芯用突出部81と第2調芯用突出部82とを有する。第2調芯用突出部82は、第1調芯用突出部81から内周面60の内側に突出し、レンズ外周面(第1レンズ21、第2レンズ22、第3レンズ23、レンズホルダ4、第5レンズ25の各外周面)に当接する。第1調芯用突出部81は、周方向において、リブ40と重ならない。
【0057】
鏡筒3において、鏡筒3を成形した際に形成された樹脂の注入位置を示すゲートは、外側筒部32に形成されている。鏡筒3を樹脂成形する際の樹脂の注入位置(すなわちゲート痕G)は、内側筒部31から離れている。したがって、成形時において樹脂がゲート痕Gからこの内側筒部31に到達したときには樹脂の流れが十分に落ちている。その結果、樹脂の流れの強弱および樹脂の流れの乱れに起因する変形を抑えることができ、内側筒部31の内周面60の真円度を向上させることができる。
【0058】
複数のリブ40の像側端面は、撮像素子を備える電子部材99との位置決めを行う位置決め部42を有している。上述の実施形態では、リブ40のうち、係止用リブ41の先端に位置決め部42が設けられている。外側筒部32から離れた内側筒部31の像側L2の端部(実際にはリブ40の係止用リブ41)に、電子部材99を固定できるので、外部からの衝撃等が電子部材99に直接作用することを防止でき、故障を抑制できる。
【0059】
以上、本発明を、実施の形態をもとに説明したが、この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素の組み合わせ等にいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0060】
図13は、変形例の鏡筒103の背面図を示しており、上述の図5に対応するものである。上述の実施形態と異なる点は、リブ140が外側筒部132から内側筒部131へ向かって形成されている点にある。具体的には、内側筒部131の外周面131aと外側筒部132の内周面132aとの間に環状溝149が形成されている。外側筒部132の内周面132aから、内側筒部131に向かってリブ140が形成されている。リブ140は、内側筒部131の外周面131aとは接触することなく離間している。
【0061】
リブ140は係止用リブ141であり、電子部材99を係止・固定することに用いられる。外側筒部132の像側L2の端部133には、ゲート痕Gが形成されている。係止用リブ141の位置決め部142は、取りつけられる電子部材99の構造・大きさに応じて、実施形態で説明した載置面44と突出部45と同様の構造の両方または一方が設けられる。このような鏡筒103を有するレンズユニットでは、電子部材99を外側筒部132固定する場合に、内側筒部131への直接的な影響を排除できるため、鏡筒103に取りつけられたレンズ群2がズレてしまうことを防止できる。
【符号の説明】
【0062】
1 レンズユニット
2 レンズ
3、103 鏡筒
4 レンズホルダ
5 Oリング
21 第1レンズ
22 第2レンズ
23 第3レンズ
24 第4レンズ
25 第5レンズ
26 第6レンズ
27 遮光シート
28 絞り
31、131 内側筒部
31a、131a 外周面
32、132 外側筒部
32a、132a 内周面
33、133 端部
34 受け部
35、36 カシメ部
38 赤外線カットフィルタ
39 スペーサー
40、140 リブ
41、141 係止用リブ
42 位置決め部
43 基本リブ
44 載置面
45 突出部
49、149 環状溝
60 内周面
61 平坦部
64 凹部
69 第6レンズ収容部
69a 開口
72 第2レンズ収容部
73 第3レンズ収容部
74 第4レンズ収容部
75 第5レンズ収容部
80 調芯用突出部
81 第1調芯用突出部
82 第2調芯用突出部
90 鏡筒金型
91 内周面形成面
92、92a 平坦部
93 凹曲面
99 電子部材
G ゲート痕
L 光軸
L1 物体側
L2 像側
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13