(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-25
(45)【発行日】2022-09-02
(54)【発明の名称】表皮付き発泡成形品およびその製造方法ならびにプラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
C23C 16/26 20060101AFI20220826BHJP
C23C 16/02 20060101ALI20220826BHJP
C23C 16/50 20060101ALI20220826BHJP
B29C 41/18 20060101ALI20220826BHJP
B29C 39/20 20060101ALI20220826BHJP
B29C 44/00 20060101ALI20220826BHJP
B29C 44/06 20060101ALI20220826BHJP
B29C 44/36 20060101ALI20220826BHJP
B60R 13/08 20060101ALI20220826BHJP
H05H 1/46 20060101ALI20220826BHJP
B60K 37/00 20060101ALI20220826BHJP
B32B 5/18 20060101ALI20220826BHJP
B32B 18/00 20060101ALI20220826BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20220826BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20220826BHJP
B29K 27/06 20060101ALN20220826BHJP
B29K 75/00 20060101ALN20220826BHJP
B29K 105/04 20060101ALN20220826BHJP
B29L 9/00 20060101ALN20220826BHJP
B29L 31/58 20060101ALN20220826BHJP
【FI】
C23C16/26
C23C16/02
C23C16/50
B29C41/18
B29C39/20
B29C44/00 A
B29C44/06
B29C44/36
B60R13/08
H05H1/46 M
B60K37/00 A
B32B5/18
B32B18/00 C
B32B27/32 C
B32B27/40
B29K27:06
B29K75:00
B29K105:04
B29L9:00
B29L31:58
(21)【出願番号】P 2018190950
(22)【出願日】2018-10-09
【審査請求日】2021-08-06
(73)【特許権者】
【識別番号】390026538
【氏名又は名称】ダイキョーニシカワ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野田 穂積
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 哲也
(72)【発明者】
【氏名】白倉 昌
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-165793(JP,A)
【文献】特開2010-021282(JP,A)
【文献】特開2012-020519(JP,A)
【文献】特開平05-050567(JP,A)
【文献】特開平09-137273(JP,A)
【文献】国際公開第2004/080686(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00-16/56
H05H 1/00-1/54
B32B 5/18-5/20
B32B 18/00
B32B 27/32
B32B 27/40
B29C 39/20
B29C 41/18
B29C 44/00-44/60
B60R 13/08
B60K 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ塩化ビニルからなる表皮材(9)と、該表皮材(9)の裏側に一体成形された発泡ポリウレタンからなる発泡体(11)と、を備えた表
皮付き発泡成形品であって、
前記表皮材(9)の裏面には、非晶質炭素膜(27)が設けられ
、
前記非晶質炭素膜(27)の厚さは、10nm以上且つ200nm以下であり、
107℃の環境下で400時間経過した時点での前記表皮材(9)に含まれる可塑剤の減少率が6.0%以下である
ことを特徴とする表皮付き発泡成形品。
【請求項2】
請求項1に記載された表皮付き発泡成形品において、
前記非晶質炭素膜(27)は、グラファイト結合とダイヤモンド結合とを併せ持ち、水素を含有した水素化非晶質炭素からなる
ことを特徴とする表皮付き発泡成形品。
【請求項3】
ポリ塩化ビニルからなる表皮材(9)を準備する表皮材準備工程と、
前記表皮材(9)の裏面にプラズマエッチングを施して清浄化および改質を行う前処理工程と、
前記表皮材(9)の清浄化および改質された裏面に非晶質炭素膜(27)を形成する炭素膜形成工程と、
前記非晶質炭素膜(27)を介して前記表皮材(9)の裏側に発泡ポリウレタンからなる発泡体(11)を形成する発泡体形成工程と、を含
み、
前記炭素膜形成工程では、前記非晶質炭素膜(27)を10nm以上且つ200nm以下の厚さで形成し、
107℃の環境下で400時間経過した時点での前記表皮材(9)に含まれる可塑剤の減少率が6.0%以下である表皮付き発泡成形品(1)を製造する
ことを特徴とする表皮付き発泡成形品の製造方法。
【請求項4】
ポリ塩化ビニルからなる表皮材(9)を準備する表皮材準備工程と、
前記表皮材(9)の裏面にプラズマエッチングを施して清浄化および改質を行う前処理工程と、
前記表皮材(9)の清浄化および改質された裏面に非晶質炭素膜(27)を形成する炭素膜形成工程と、
前記非晶質炭素膜(27)を介して前記表皮材(9)の裏側に発泡ポリウレタンからなる発泡体(11)を形成する発泡体形成工程と、を含み、
前記表皮材準備工程では、前記表皮材(9)を、金型(31)を用いたスラッシュ成形により成形して準備し、
前記前処理工程では、前記金型(31)を、前記表皮材(9)が成形後に付着したままの状態でプラズマ放電を発生させるための電極として利用する
ことを特徴とする表皮付き発泡成形品の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載された表皮付き発泡成形品の製造方法において、
前記炭素膜形成工程では、前記金型(31)を、前記表皮材(9)が成形後に付着したままの状態でプラズマ放電を発生させるための電極として利用し、前記非晶質炭素膜(27)をプラズマ化学気相成長法により形成する
ことを特徴とする表皮付き発泡成形品の製造方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載された表皮付き発泡成形品の製造方法において、
前記表皮材準備工程で成形した前記表皮材(9)を冷却する冷却工程を含み、
前記炭素膜形成工程を前記冷却工程中に行う
ことを特徴とする表皮付き発泡成形品の製造方法。
【請求項7】
表皮材(9)のスラッシュ成形に用いられる金型(31)と、
前記金型(31)のうち前記表皮材(9)が成形される成形面(33)との間にチャンバー(59)を形成するチャンバー形成体(61)と、
前記チャンバー(59)内の圧力を減圧する減圧装置(63)と、
前記チャンバー(59)内に処理ガスを供給するガス供給装置(65)と、
前記チャンバー(59)内で前記金型(31)の成形面(33)と対向する対向電極(67)と、
前記対向電極(67)に接続されて電圧を印加する電源(69)と、を備え、
前記チャンバー形成体(61)には、前記減圧装置(63)および前記ガス供給装置(65)が接続されており、
前記金型(31)は、前記チャンバー形成体(61)と接合および分離が可能であり、前記チャンバー形成体(61)と接合された状態で前記チャンバー(59)を形成して接地され、
前記対向電極(67)と前記金型(31)とは、前記電源(69)による電圧の印加により互いの間にプラズマ放電を発生させるプラズマ発生部(71)を構成する
ことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項8】
請求項7に記載されたプラズマ処理装置において、
前記金型(31)を冷却する冷却装置(57)をさらに備え、
前記冷却装置(57)は、前記金型(31)を前記チャンバー形成体(61)と接合した状態で、当該金型(31)の背面側に位置する
ことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項9】
請求項7または8に記載されたプラズマ処理装置において、
前記ガス供給装置(65)は、前記処理ガスとして非晶質炭素膜(27)の原料ガスを前記チャンバー(59)内に供給し、
前記プラズマ発生部(71)は、前記対向電極(67)と前記金型(31)との間に発生させたプラズマ放電により原料ガスを解離させて、前記表皮材(9)の裏面に非晶質炭素膜(27)を成膜する
ことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項10】
請求項7~9のいずれか1項に記載されたプラズマ処理装置において、
前記ガス供給装置(65)は、前記処理ガスとしてエッチングガスを前記チャンバー(59)内に供給し、
前記プラズマ発生部(71)は、前記対向電極(67)と前記金型(31)との間に発生させたプラズマ放電によりエッチングガスを解離させて、前記表皮材(9)の裏面にプラズマエッチングを施す
ことを特徴とするプラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、表皮材の裏側に発泡体が一体成形された表皮付き発泡成形品およびその製造方法ならびに当該表皮付き発泡成形品の製造に用いるプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、インストルメントパネルなどの車両用内装部品としては、基材の表面を表皮材で被覆した表皮材付きのものが知られており、当該内装部品の表面にクッション性(ソフト感)を持たせるべく、表皮材の裏側に発泡体を一体成形してなる表皮付き発泡成形品が多く用いられている。当該表皮付き発泡成形品において、表皮材の材料には、安価で、耐擦傷性や耐摩耗性に優れるポリ塩化ビニル(PVC)が好適に用いられている。
【0003】
一方、発泡体の材料には、柔軟性に優れていて弾力性に富む発泡ポリウレタンが好適に用いられている。発泡ポリウレタンは、一般的に、ポリオールとイソシアネートとを発泡剤や触媒、その他助剤の存在下で混合し、発泡反応させることで得られる。発泡ポリウレタンを発泡反応させるための触媒には、第3級アミンが使用されている。そのため、表皮付き発泡成形品の発泡体には、触媒として用いたアミンが残留している。
【0004】
このような表皮付き発泡成形品では、高温環境下におかれるなどして熱劣化を起こしたときに、発泡体に残留したアミン(残留アミン)が表皮材に悪影響を及ぼして、表皮材に含まれている可塑剤が発泡体に移行するのを促すため、表皮材の機械特性(例えば柔軟性)が低下すると共に経年劣化による収縮が大きくなるなど、表皮材の劣化が促進される。そこで、こうした発泡体の残留アミンに起因する表皮材の劣化促進への対策を講じる技術が予てより提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、表皮付き発泡成形品において、表皮材(表皮層)と発泡体(ポリウレタン成形体)との間にアミンキャッチャー剤層を設け、アミンキャッチャー剤層にて発泡体の残留アミンを表皮材に移行する前に不活性な化合物に変化させるか、あるいは吸着して保持させることが開示されている。アミンキャッチャー剤層をなすアミンキャッチャー剤としては、トリクロロエタンなどの含ハロゲン化合物や活性炭が挙げられている。
【0006】
また、特許文献2には、スラッシュ成形品の成形材料に、平均重合度が1200~2000の懸濁重合によって得られた塩化ビニル樹脂が100重量部、平均粒子径が3μm以下で、平均重合度が1400~2000の塩化ビニル系ペースト樹脂が5~15重量部、ピロメット酸エステル系可塑剤が70~100重量部、および安定剤が1~10重量部からなる塩化ビニル系樹脂組成物を用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特公平04-026303号公報
【文献】特開平06-279642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に開示された表皮付き発泡成形品では、アミンキャッチャー剤層の材料に含ハロゲン化合物や活性炭を用いているが、これら含ハロゲン化合物や活性炭からなるアミンキャッチャー剤層は設けること自体が難しい。具体的には、アミンキャッチャー剤として含ハロゲン化合物を用いる場合、含ハロゲン化合物は、揮発性が高いため膜状に形成し難く、しかも毒性を持つ物質であるため取扱いが難しい。他方、アミンキャッチャー剤として活性炭を用いる場合、活性炭は固体なので表皮への成形性が悪い。
【0009】
また、特許文献2に開示された塩化ビニル系樹脂組成物では、表皮材の成形材料に採用しても発泡体の残留アミンに起因する表皮材の劣化促進を抑制するのに十分な効果が得られないおそれがある。さらに、表皮材を車両内装部品に求められる性能にするためには、当該樹脂組成物に可塑剤を多く含有する必要があるが、可塑剤が表皮材に多く含有されていると、発泡体への可塑剤の移行量が多くなってしまい、当該塩化ビニル系樹脂組成物による劣化抑制効果が低下するため、低温性能を満足しない。
【0010】
本開示の技術は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、発泡体の残留アミンに起因した表皮材の劣化促進を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本開示の技術では、発泡体の残留アミンが表皮材に悪影響を及ぼすのを抑制すべく、表皮材と発泡体とを化学安定性の比較的良好な非晶質炭素膜により隔てるようにした。
【0012】
具体的には、本開示の技術に係る第1の態様は、ポリ塩化ビニルからなる表皮材と、その表皮材の裏側に一体成形された発泡ポリウレタンからなる発泡体とを備えた表皮付き発泡成形品を対象とする。この第1の態様に係る表皮付き発泡成形品は、表皮材の裏面に、非晶質炭素膜が設けられている。
【0013】
この構成によると、表皮材の裏面に非晶質炭素膜を設け、その非晶質炭素膜によって表皮材と発泡体とを隔てるようにしたから、発泡体の残留アミンが表皮材に悪影響を及ぼし難くなり、表皮材に含まれている可塑剤が発泡体に移行するのを抑えることができる。これにより、発泡体の残留アミンに起因した表皮材の劣化促進を抑制することができる。
【0014】
こうした表皮付き発泡成形品において、非晶質炭素膜は、ダイヤモンドライクカーボン(DLC:Diamond-Like Carbon)膜とも呼ばれ、グラファイト結合とダイヤモンド結合とを併せ持つ炭素膜である。非晶質炭素膜には、水素原子を0~50原子%含有するものも含まれる。非晶質炭素膜は、そのように水素を含有した水素化非晶質炭素からなることが好ましい。水素化非晶質炭素は、ダイヤモンド結合成分と水素含有量の調整次第によって、高硬度、耐化学性、耐摩耗性、気体および化学成分の低透過性などに優れるため、表皮材と発泡体とを隔てる膜材料として好適である。
【0015】
本開示の技術に係る第2の態様は、表皮付き発泡成形品の製造方法を対象とする。この第2の態様に係る表皮発泡成形品の製造方法は、ポリ塩化ビニルからなる表皮材を準備する表皮材準備工程と、表皮材の裏面にプラズマエッチングを施して清浄化および改質を行う前処理工程と、表皮材の清浄化および改質された裏面に非晶質炭素膜を形成する炭素膜形成工程と、非晶質炭素膜を介して表皮材の裏側にウレタン樹脂からなる発泡体を成形する発泡体成形工程とを含む。
【0016】
この構成によると、炭素膜形成工程にて表皮材に非晶質炭素膜を形成する前に、前処理工程にて表皮材のうち非晶質炭素膜を形成する裏面をプラズマエッチングにより清浄化および改質するようにしたから、表皮材の裏面に対する非晶質炭素膜の密着性が高められて、非晶質炭素膜を表皮材の裏面に強固に形成することができる。よって、当該第2の態様に係る表皮付き発泡成形品の製造方法は、上記第1の態様に係る表皮付き発泡成形品を製造するのに適している。
【0017】
こうした表皮付き発泡成形品の製造方法において、表皮材準備工程では、表皮材を、金型を用いたスラッシュ成形により成形して準備してもよい。ここで、表皮材を成形して準備することには、表皮材を固化させる前の溶融樹脂層の状態で準備することを含む。上記のように金型を用いて表皮材を成形する場合、前処理工程では、スラッシュ成形に用いた金型を、表皮材が成形後に付着したままの状態でプラズマ放電を発生させるための電極として利用することが好ましい。
【0018】
この構成によると、前処理工程にて表皮材の裏面にプラズマエッチングを施すのに、表皮のスラッシュ成形に用いた金型をプラズマ放電発生用の電極として利用するようにしたので、表皮付き発泡成形品の製造システムを簡略化することができる。さらに、プラズマ放電発生用の電極として金型を利用するときには、当該金型に表皮材を成形後に付着させたままにするようにしたから、表皮材の成形工程に連続して前処理工程を行うことができ、前処理工程での表皮材裏面に対するプラズマエッチングの未処理品が次工程に流れるのを防げる。
【0019】
さらに、炭素膜形成工程では、スラッシュ成形に用いた金型を、表皮材が成形後に付着したままの状態でプラズマ放電を発生させるための電極として利用し、非晶質炭素膜をプラズマ化学気相成長法(CVD:Chemical Vapor Deposition)により形成することが好ましい。
【0020】
この構成によると、炭素膜形成工程にて表皮材の裏面にプラズマCVDによって非晶質炭素膜を形成するのに、表皮材のスラッシュ成形に用いた金型をプラズマ放電発生用の電極として利用するようにしたので、表皮付き発泡成形品の製造システムを簡略化することができる。さらに、プラズマ放電発生用の電極として金型を利用するときには、当該金型に表皮材を成形後に付着させたままにするようにしたから、表皮材の成形工程に連続して前処理工程および炭素膜形成工程を行うことができ、炭素膜形成工程での表皮材裏面に対する炭素膜の未形成品が次工程に流れるのを防げる。
【0021】
また、上記表皮付き発泡成形品の製造方法は、表皮材準備工程で成形した表皮材を冷却する冷却工程を含んでいてもよい。この場合、炭素膜形成工程を冷却工程の中で行うことが好ましい。
【0022】
この構成によると、冷却工程の中で炭素膜形成工程を行う、つまり表皮材を成形後に冷却する過程で表皮材の裏面に非晶質炭素膜を形成するようにしたので、非晶質炭素膜の形成によって表皮付き発泡成形品の製造時間が長くなるのを抑制できる。また、表皮材をスラッシュ成形したときの高温状態を利用して表皮材に非晶質炭素膜を形成することができるから、表皮付き発泡成形品の製造に要するエネルギー効率が良い。
【0023】
本開示の技術に係る第3の態様は、表皮付き発泡成形品の製造に用いられるプラズマ処理装置を対象とする。この第3の態様に係るプラズマ処理装置は、表皮材のスラッシュ成形に用いられる金型と、金型のうち表皮材が成形される成形面との間にチャンバーを形成するチャンバー形成体と、チャンバー内の圧力を減圧する減圧装置と、チャンバー内に処理ガスを供給するガス供給装置と、チャンバー内で金型の成形面と対向する対向電極と、対向電極に接続されて電圧を印加する電源とを備える。チャンバー形成体には、減圧装置およびガス供給装置が接続されている。金型は、チャンバー形成体と接合および分離が可能であり、チャンバー形成体と接合された状態でチャンバーを形成して接地される。対向電極と金型とは、電源による電圧の印加により互いの間にプラズマ放電を発生させるプラズマ発生部を構成する。
【0024】
この構成によると、表皮材の裏面にプラズマ処理を施すプラズマ処理装置において、表皮材のスラッシュ成形に用いられる金型をプラズマ放電発生用の電極として対向電極と共にプラズマ発生部に用いるようにしたから、表皮付き発泡成形品の製造システムを簡略化することができる。このプラズマ処理装置にて表皮材の裏面にプラズマ処理を施す際には、金型に表皮材が付着したままの状態とすることができるので、表皮材裏面に対するプラズマ処理の未処理品が次工程に流れるのを防げる。よって、当該第3の態様に係るプラズマ処理装置は、上記第1の態様に係る表皮付き発泡成形品を製造するのに適している。
【0025】
こうしたプラズマ処理装置は、金型を冷却する冷却装置をさらに備えていてもよい。この場合、冷却装置は、金型をチャンバー形成体と接合した状態で、当該金型の背面側に位置するようになっていることが好ましい。
【0026】
この構成によると、チャンバー形成体と接合された金型の背面側に冷却装置を設けるようにしたので、表皮材を成形後に冷却する過程で表皮材の裏面にプラズマ処理を施すことができる。そのことで、プラズマ処理により表皮付き発泡成形品の製造時間が長くなるのを抑制できる。また、表皮材をスラッシュ成形したときの高温状態を利用して表皮材にプラズマ処理を施すことができるから、表皮付き発泡成形品の製造に要するエネルギー効率が良い。
【0027】
また、上記のプラズマ処理装置において、ガス供給装置は、処理ガスとして非晶質炭素膜の原料ガスをチャンバー内に供給し、プラズマ発生部は、対向電極と金型との間に発生させたプラズマ放電により原料ガスを解離させて、表皮材の裏面に非晶質炭素膜を成膜するようになっていてもよい。
【0028】
この構成によると、表皮材のスラッシュ成形に用いられる金型を利用してプラズマCVDにより表皮材の裏面に非晶質炭素膜を成膜するようにしたから、表皮材をスラッシュ成形したときの高温状態を利用して表皮材に非晶質炭素膜を形成することができる。
【0029】
また、上記のプラズマ処理装置において、ガス供給装置は、処理ガスとしてエッチングガスをチャンバー内に供給し、プラズマ発生部は、対向電極と金型との間に発生させたプラズマによりエッチングガスを解離させて、表皮材の裏面にプラズマエッチングを施すようになっていてもよい。
【0030】
この構成によると、表皮材のスラッシュ成形に用いられる金型を利用して表皮材の裏面にプラズマエッチングを施すようにしたから、表皮材をスラッシュ成形したときの高温状態を利用して表皮材の裏面にプラズマエッチングによる清浄化および改質を行うことができる。
【発明の効果】
【0031】
上記第1の態様に係る表皮付き発泡成形品によれば、発泡体の残留アミンに起因した表皮材に含まれる可塑剤の発泡体への移行が非晶質炭素膜により阻止されて、表皮材の劣化促進を抑制することができる。その結果、表皮材の機械特性が低下したり、経年劣化による収縮が大きくなったりするのを防止できる。
【0032】
上記第2の態様に係る表皮付き発泡成形品の製造方法によれば、表皮材の裏面に対する非晶質炭素膜の密着性を高めて同膜を強固に設けることができるので、発泡体の残留アミンに起因した表皮材の劣化促進が抑制される効果を奏する表皮付き発泡成形品を好適に実現することができる。
【0033】
上記第3の態様に係るプラズマ処理装置によれば、表皮付き発泡成形品の製造システムを簡略化することができ、且つ表皮材裏面に対するプラズマ処理の未処理品が次工程に流れるのを防げるので、発泡体の残留アミンに起因した表皮材の劣化促進が抑制される効果を奏する表皮付き発泡成形品の製造に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】
図1は、車両用インストルメントパネルにおけるアッパパネルの右側半分を構成するパネル構成部材の平面図である。
【
図2】
図2は、
図1のパネル構成部材のII-II線における断面図である。
【
図3】
図3は、パネル構成部材の製造方法における表皮材成形工程でスラッシュ成形金型を加熱する様子を示す図である。
【
図4】
図4は、パネル構成部材の製造方法における表皮材成形工程でスラッシュ成形金型を原料収容ボックスにセットした状態を示す図である。
【
図5】
図5は、パネル構成部材の製造方法における表皮材成形工程で原料収容ボックスを反転させてスラッシュ成形金型の成形面に粉体樹脂原料を溶融し付着させている様子を示す図である。
【
図6】
図6は、パネル構成部材の製造方法における表皮材成形工程で原料収容ボックスを元の姿勢に戻して粉体樹脂原料を原料収容ボックスに回収しスラッシュ成形金型の成形面に表皮材が成形された状態を示す図である。
【
図7】
図7は、パネル構成部材の製造方法における前処理工程で表皮材の裏面にプラズマエッチングを施す様子を示す図である。
【
図8】
図8は、パネル構成部材の製造方法における炭素膜形成工程で表皮材の裏面にプラズマCVDにより非晶質炭素膜を形成する様子を示す図である。
【
図9】
図9は、パネル構成部材の製造方法において表皮材をスラッシュ成形金型から脱型している様子を示す図である。
【
図10】
図10は、パネル構成部材の製造方法における発泡体成形工程で型開きされた発泡成形金型に表皮材および基材をセットした状態を示す図である。
【
図11】
図11は、パネル構成部材の製造方法における発泡体成形工程で発泡体を成形した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、例示的な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0036】
-パネル構成部材の構成-
図1に、車両用インストルメントパネルにおけるアッパパネルの右側半分を構成するパネル構成部材1の平面図を示す。
図2に、
図1のパネル構成部材1のII-II線における断面図を示す。
図1に示すパネル構成部材1は、この実施形態に係る表皮付き発泡成形品であって、左ハンドル車用のもので運転席右隣の助手席側に配置される。
【0037】
パネル構成部材1は、裏側を構成する基材7と、表側を構成する表皮材9と、これら基材7と表皮材9との間に設けられた発泡体11とを備えている。基材7は、表皮材9および発泡体11とは別個に射出成形により成形され、例えば、ポリプロピレン(PP)やアクリルニトリルブタジエンスチレン(ABS)からなる。表皮材9は、スラッシュ成形により成形され、ポリ塩化ビニル(PVC)からなる。発泡体11は、型内発泡成形により表皮材の裏側に一体成形され、発泡ポリウレタン(PU)からなる。
【0038】
基材7の外周端末部には、表側に開口する凹部13が全周に亘って形成されている。一方、表皮材9の外周端末部15は、裏側に全周に亘って略直角に折れ曲がっており、基材7における凹部13の外側縦壁17の内面に密着している。これら基材7の外側縦壁17と表皮材9の外周端末部15とは、発泡体11端末のシール箇所を構成している。基材7の略中央部には、基材7と表皮材9との間に発泡ウレタン原料を注入するための注入口19が形成されている。この注入口19は、基材7の裏面側からシール材21が貼り付けられて閉塞されている。
【0039】
表皮材9の裏面には、非晶質炭素膜27が全体に亘って設けられている。非晶質炭素膜27は、グラファイト結合とダイヤモンド結合とを併せ持つダイヤモンドライクカーボン(DLC)からなる、いわゆるDLC膜であって、プラズマCVDによって形成される。この実施形態での非晶質炭素膜27は、水素を含有した水素化非晶質炭素(水素含有非晶質炭素)からなる。水素化非晶質炭素は、ダイヤモンド結合成分と水素含有量の調整次第によって、高硬度、耐化学性、耐摩耗性、気体および化学成分の低透過性などに優れる。非晶質炭素膜27の厚さは、例えば10nm以上且つ200nm以下程度であり、好ましくは20nm以上且つ100nm以下程度である。この実施形態のパネル構成部材1では、このように表皮材9と発泡体11とが非晶質炭素膜27によって隔てられているので、発泡体11の残留アミンが表皮材9に悪影響を及ぼし難くなり、表皮材9に含まれている可塑剤が発泡体11に移行するのを抑えられる。
【0040】
- パネル構成部材の製造方法 -
次に、上記の如く構成されたパネル構成部材1の製造方法とそれに用いるプラズマ処理装置55について、
図3~
図11を参照しながら説明する。
【0041】
図3~
図6は、パネル構成部材1の製造方法における表皮材成形工程の様子を示す図である。
図7は、パネル構成部材1の製造方法における前処理工程の様子を示す図である。
図8は、パネル構成部材1の製造方法における炭素膜形成工程の様子を示す図である。
図9は、パネル構成部材1の製造方法において表皮材9を脱型している様子を示す図である。
図10および
図11は、パネル構成部材1の製造方法における発泡体成形工程の様子を示す図である。
【0042】
パネル構成部材1の製造方法は、表皮材成形工程と、前処理工程と、炭素膜形成工程と、表皮材冷却工程と、基材準備工程と、発泡体成形工程とを含む。ここで、表皮成形工程は、表皮材9を準備する表皮準備工程の一例である。
【0043】
<表皮材成形工程>
表皮材成形工程では、表皮材9をスラッシュ成形によって成形する。表皮材9の成形には、
図3~
図6に示すシェル状のスラッシュ成形金型31を用いる。スラッシュ成形金型31は、導電性を有する材料からなる。当該スラッシュ成形金型31は、表皮材9が成形される成形面33を有する凹状の成形本体部35と、成形本体部35の周囲全体、つまり当該金型31の外周部位に設けられたフランジ部37とを備えている。成形本体部35のうち成形面33の外周縁寄りの部分には、環状の突条39が設けられている。
【0044】
この表皮成形工程では、まず、
図3に示すように、スラッシュ成形金型31を、成形面33が下になるようにして加熱炉41に搬入し、加熱炉41が備える上下の加熱ヒータ43,45により例えば250℃以上且つ270℃以下に加熱する。
【0045】
次いで、
図4に示すように、加熱されたスラッシュ成形金型31を、成形面33が下になるようにした状態で、ポリ塩化ビニル(PVC)からなる粉体樹脂原料Rが収容された原料収容ボックス47の開口周縁にフランジ部37を重ね合わせて、原料収容ボックス47にセットする。そして、原料収容ボックス47側に設けられた図示しないクランプ治具でスラッシュ成形金型31のフランジ部37を挟持して、当該金型31のフランジ部37と原料収容ボックス47との合わせ面にシール材49を挟み込んで密閉する。
【0046】
続いて、
図5に示すように、原料収容ボックス47を図示しない回転装置により水平な回転軸51周りに回転させることを以て上下方向に180°回転させ、原料収容ボックス47内に収容された粉体樹脂原料Rをスラッシュ成形金型31の成形面33に供給して付着させる。成形面33に付着した粉体樹脂原料Rは、型温により加熱されて溶融し、表皮材9となる溶融樹脂層53(
図5に点線で示す)が形成される。さらに、
図6に示すように、原料収容ボックス47を上下方向に180°反転させて元の姿勢に戻し、余剰の粉体樹脂原料Rを原料収容ボックス47内に落下させて回収する。
【0047】
しかる後、スラッシュ成形金型31を原料収容ボックス47から取り外して分離する。そして、スラッシュ成形金型31を再加熱して、成形面33に付着した未溶融の粉体樹脂材料Rを完全に溶融させる。こうすることで、スラッシュ成形金型31の成形面33に溶融状態の表皮材9が形成される。
【0048】
<前処理工程・炭素膜形成工程>
前処理工程では、表皮材9の裏面にプラズマエッチングを施して清浄化および改質を行う。続いて行う炭素膜形成工程では、表皮材9の清浄化および改質された裏面に非晶質炭素膜27を形成する。これら前処理工程および炭素膜形成工程は、
図7および
図8に示す同一のプラズマ処理装置55を用いて行われる。このプラズマ処理装置55では、表皮材成形工程にて表皮材9の成形に用いられるスラッシュ成形金型31を構成の一部としている。
【0049】
具体的には、プラズマ処理装置55は、スラッシュ成形金型31と、スラッシュ成形金型31を冷却する冷却装置57と、スラッシュ成形金型31の成形面33との間にチャンバー59を形成するチャンバー形成体61と、チャンバー59内の圧力を減圧する減圧装置63と、チャンバー59内に処理ガスを供給するガス供給装置65と、チャンバー59内でスラッシュ成形金型31の成形面33と対向して配置されるプレート状のシャワーヘッド67と、交流電源69とを備えている。シャワーヘッド67とスラッシュ成形金型31とは、交流電源69による交流電圧の印加により互いの間にプラズマ放電を発生させるプラズマ発生部71を構成する。
【0050】
冷却装置57は、スラッシュ成形金型31が設置される冷却ボックス73と、冷却ボックス73の底面に設置された複数の水噴射ノズル75とを備えている。スラッシュ成形金型31は、成形面33を冷却ボックス73の開口方向に臨ませた姿勢で、冷却ボックス73の開口周縁にフランジ部37を重ね合わせて、成形本体部35を冷却ボックス73の内部に入り込ませた状態に、冷却ボックス73にセットされる。スラッシュ成形金型31とフランジ部37と冷却ボックス73との合わせ面は、シール材77を挟み込んで密閉される。水噴射ノズル75は、冷却ボックス73にセットされたスラッシュ成形金型31の背面に向けて冷却水Wを噴射する。冷却ボックス73の底面には、冷却水Wを外部に排出する排水ダクト79が接続されている。
【0051】
チャンバー形成体61は、スラッシュ成形金型31における成形本体部35の凹状開口を覆う形状とされており、冷却ボックス73にセットされたスラッシュ成形金型31のフランジ部37に外周部分を重ね合わせて、スラッシュ成形金型31にセットされる。チャンバー形成体61とスラッシュ成形金型31のフランジ部37との合わせ面は、シール材81を挟み込んで密閉される。スラッシュ成形金型31は、冷却ボックス73ともチャンバー形成体61とも接合および分離が可能である。そして、スラッシュ成形金型31は、チャンバー形成体61と接合された状態では、チャンバー59を形成すると共に接地され、プラズマ放電を発生させるための接地電極として機能する。
【0052】
チャンバー形成体61には、排気ダクト83を介して減圧装置63に接続された排気口85が形成されている。減圧装置63は、真空ポンプなどによって構成されている。排気ダクト83には、図示しないゲートバルブが設けられている。そして、チャンバー59は、減圧装置63の作動により内部を真空引きすることにより、減圧状態(真空状態)に維持することができるように構成されている。
【0053】
また、チャンバー形成体61には、ガス供給装置65に接続されたガス供給口87が形成されている。ガス供給装置65は、プラズマエッチング用のエッチングガスとして例えば酸素(O2)ガスを貯留するエッチングガスタンク89と、非晶質炭素膜形成用の原料ガスとして例えばアセチレン(C2H2)ガスを貯留する原料ガスタンク91と、これら両ガスタンク89,91に接続された供給配管93とを備えている。供給配管93は、エッチングガスタンク89と原料ガスタンク91とに独立に接続された分岐配管95,97を有している。これら両方の分岐配管95,97には、ゲートバルブ99,101がそれぞれ設けられている。
【0054】
シャワーヘッド67は、スラッシュ成形金型31の成形面33に臨む複数の放出口103を有し、供給配管93に接続されており、供給配管93から供給された処理ガスを各放出口103から金型31の成形面33に向けて放出するようになっている。このシャワーヘッド67は、対向電極の一例であって、プラズマ放電を発生させるための非接地電極を兼ねており、交流電源69と接続されている。交流電源69は、プラズマ発生部71に高周波電力を供給する高周波電源である。
【0055】
前処理工程では、
図7に示すように、スラッシュ成形金型31を溶融状態の表皮材9が成形後に付着したままの状態で冷却ボックス73にセットし、チャンバー形成体61をスラッシュ成形金型31にセットする。そして、水噴射ノズル75からスラッシュ成形金型31の背面に向けて冷却水Wを噴射することにより、当該金型31を水冷して、金型31に付着している溶融状態の表皮材9を冷却し固化させると共に表皮材9の温度を80℃以上且つ100℃以下程度にまで下げる。また、そうした金型31の水冷と併せて、減圧装置63を作動させ、チャンバー59内の気圧を、例えば2.6664Pa(0.02Torr)程度にまで減圧する。
【0056】
次いで、エッチングガスタンク89のゲートバルブ99を開けて、シャワーヘッド67の各放出口103から酸素ガス(O2ガス)をチャンバー59内に供給させる。そして、チャンバー59内の気圧を例えば133.32Pa(0.1Torr)程度を保つように減圧装置63の作動を調整しつつ、交流電源69を起動させて、シャワーヘッド67に高周波電圧を印加することにより、チャンバー59内でシャワーヘッド67とスラッシュ成形金型31との間にプラズマ放電を発生させる。
【0057】
チャンバー59内にプラズマ放電が発生すると、酸素ガスが解離されてプラズマ化し、生成された酸素プラズマPにより表皮材9の裏面にプラズマエッチングが施される。そのことで、表皮材9の裏面の有機物が除去されるなどして清浄化されると共に、表皮材9裏面の物理的および化学的特性が改質される。このようにして、スラッシュ成形金型31を、表皮材9が成形後に付着したままの状態でプラズマ放電を発生させるための電極として利用して、表皮材9の裏面にプラズマエッチングを施す。しかる後、エッチングガスタンク89のゲートバルブ99を閉じて、交流電源69の駆動を停止させる。
【0058】
炭素膜形成工程では、
図8に示すように、原料ガスタンク91のゲートバルブ101を開けて、シャワーヘッド67の各放出口103からアセチレンガス(C
2H
2ガス)をチャンバー59内に供給させる。そして、チャンバー59内の気圧を例えば133.32Pa(0.1Torr)程度を保つように減圧装置63の作動を調整しつつ、交流電源を69起動させて、シャワーヘッド67に高周波電圧を印加することにより、チャンバー59内でシャワーヘッド67とスラッシュ成形金型31との間にプラズマ放電を発生させる。
【0059】
チャンバー59内にプラズマ放電が発生すると、アセチレンガスが解離されてプラズマ化し、ラジカルやイオンといった活性種Sが生成される。生成された活性種Sは、スラッシュ成形金型31側に飛散し、成形面33に付着している表皮材9の裏面に到達して堆積していく。そのことで、膜が成長して、ダイヤモンドライクカーボンからなる非晶質炭素膜(DLC膜)27が表皮材9の裏面に形成される。このようにして、スラッシュ成形金型31を表皮材9が成形後に付着したままの状態でプラズマ放電を発生させるための電極として利用して、表皮材9の裏面に非晶質炭素膜27を形成する。しかる後、原料ガスタンク91のゲートバルブ101を閉じて、交流電源69の駆動を停止させる。
【0060】
さらに、水噴射ノズル75からスラッシュ成形金型31の背面に向けて冷却水Wを噴射することにより、当該金型31を水冷して、金型31に付着している表皮材9を常温にまで冷却する。そして、チャンバー59を大気圧に開放して、チャンバー形成体61をスラッシュ成形金型31から取り外して分離させた後、スラッシュ成形金型31を冷却ボックス73から取り外して分離させる。
【0061】
スラッシュ成形金型31に成形された表皮材9は、突条39で囲まれた内側部分が製品部分であるので、
図9に示すように、表皮材9のうち不要部分である外側部分を手で引っ張るなどして表皮材9をスラッシュ成形金型31から脱型した後、当該外側部分を突条39に対応する薄肉部から切除し、残った製品部分をパネル構成部材1の製造に供する。
【0062】
このようにして、非晶質炭素膜27が裏面に設けられた表皮材9を準備する。表皮材9は、上述の如く表皮材成形工程で成形されてから前処理工程および炭素膜形成工程にて段階的に冷却される。すなわち、パネル構成部材1の製造方法は、前処理工程から炭素膜形成工程にかけての期間に表皮材9を冷却する冷却工程を含んでおり、前処理工程および炭素膜形成工程は冷却工程中に行う。
【0063】
<基材準備工程>
基材準備工程では、公知の射出成形により基材7を成形して準備する。
【0064】
<発泡体成形工程>
発泡体成形工程では、表皮材9の裏側に対し非晶質炭素膜27を介して発泡体11を成形する。発泡体11の成形には、
図10および
図11に示す発泡成形金型105を用いる。発泡成形金型105は、表皮材9がセットされる第1型107と、基材7がセットされる第2型109とを備えている。
【0065】
第1型107は、ベース111上に設けられており、上面に表皮材9がセットされるセット面113を有している。この第1型107の一側部には、先端にストライカ115を有する被係合アーム117が設けられている。また、第1型107の被係合アーム117とは反対側に位置する他側部には、先端に回転軸119を有する支持アーム121が設けられている。第1型107は、支持アーム121を介して回転軸119により第2型109と回転自在に連結されている。
【0066】
第2型109は、第1型107との対面に基材7がセットされるセット面123を有している。この第2型109には、第1型107に対して進退移動させる移動機構125が設けられている。移動機構125は、支持プレート127と、支持プレート127と第2型109との距離を可変とする複数の油圧シリンダ129とを含んで構成されている。第2型109は、第1型107と対向して配置された状態で油圧シリンダ129が伸長作動すると、第1型107に接近して発泡成形金型105を型閉じし、第1型107との間にキャビティ131を形成する。
【0067】
支持プレート127の一側部には、回転軸119を介して第1型107の支持アーム121に連結される連結部133が設けられている。支持プレート127のうち連結部133とは反対側に位置する他側部には、第1型107側のストライカ115に係合されるフック135を先端に有する係合アーム137が設けられている。そして、第2型109の略中央部には、発泡ウレタン原料をキャビティ131に注入する注入ノズル139が設置されている。この注入ノズル139は、発泡ウレタン原料を供給する図示しない注入装置に接続されている。
【0068】
発泡体成形工程では、まず、
図10に示すように、発泡成形金型105の第2型109を回転軸119周りに上方に回転させて当該金型105を型開きし、表皮材9を発泡体11側の面が外側を向くように第1型107のセット面113にセットし、基材7を発泡体11側の面が外側を向くようにして第2型109のセット面123にセットする。この段階では、油圧シリンダ129は収縮作動していて、第2型109は支持プレート127に近接している。
【0069】
次いで、
図11に示すように、第2型109を回転軸119周りに下方に回転させて第1型107の上方に対向して配置させた後、油圧シリンダ129を伸長作動させて第2型109を下降させて発泡成形金型105を型閉じする。このとき、基材7の外周端末部における凹部13の外側縦壁17内面に表皮材9の外周端末部15を内側から密着させて当該箇所をシールする。さらに、第2型109の係合アーム137先端のフック135を第1型107の被係合アーム117先端のストライカ115に係合させて、発泡成形金型105の型閉じ状態を保持する。
【0070】
その状態で、注入ノズル139は基材7の注入口19に接続されており、ポリオールとイソシアネートとを発泡剤や第3級アミンを含む触媒、その他助剤と混合してなる発泡ウレタン原料を注入装置から注入ノズル139を経て発泡成形金型105内の基材7と表皮材9との間に形成されたキャビティ131に注入し、発泡ウレタン原料を金型105内で発泡させることにより、基材7と表皮材9との間に発泡ポリウレタンからなる発泡体11を一体に成形し、パネル構成部材1を得る。
【0071】
しかる後、発泡成形金型105を型開きして、当該金型105からパネル構成部材1を取り出し、基材7に注入口19を閉塞するシール材21を貼り付ける。以上のようにして、パネル構成部材1を製造することができる。
【0072】
この実施形態に係るパネル構成部材1によれば、発泡体11の残留アミンに起因した表皮材9に含まれる可塑剤の発泡体11への移行が非晶質炭素膜27により阻止されて、表皮材9の劣化促進を抑制することができる。その結果、表皮材9の機械特性が低下したり、経年劣化による収縮が大きくなったりするのを防止できる。
【0073】
また、この実施形態に係るパネル構成部材1の製造方法によれば、表皮材9の裏面に対する非晶質炭素膜27の密着性を高めて同膜27を強固に設けることができるので、発泡体11の残留アミンに起因した表皮材9の劣化促進が抑制される効果を奏するパネル構成部材1を好適に実現することができる。
【0074】
また、この実施形態に係るプラズマ処理装置55によれば、パネル構成部材1の製造システムを簡略化することができ、且つ表皮材9裏面に対するプラズマ処理の未処理品が次工程に流れるのを防げるので、発泡体11の残留アミンに起因した表皮材9の劣化促進が抑制される効果を奏するパネル構成部材1の製造に好適に使用することができる。
【0075】
- 表皮付き発泡成形品の性能評価 -
以下に示す実施例1および2に係る表皮付き発泡成形品と比較例に係る表皮付き発泡成形品とを製造し、それら表皮付き発泡成形品の経年劣化の状態と機械特性をそれぞれ評価した。なお、以下では、便宜上、実施例1,2および比較例に係る表皮付き発泡成形品について、上記実施形態のパネル構成部材1と同様な参照符号を付して説明する。
【0076】
[実施例1]
実施例1に係る表皮付き発泡成形品は、上記実施形態のパネル構成部材1と同じく基材7と表皮材9との間に発泡体11が一体成形された構造を有している。表皮材9は、ポリ塩化ビニルからなり、スラッシュ成形により成形した。発泡体11は、発泡ポリウレタンからなり、型内発泡成形により成形した。この発泡体11の厚さは5.5mmであり、当該発泡体11の質量は0.175g/cm2とされている。表皮材9の裏面には、ダイヤモンドライクカーボンからなる非晶質炭素膜27を設けた。
【0077】
実施例1に係る表皮付き発泡成形品の非晶質炭素膜27は、原料ガスにアセチレンガスを用いてプラズマCVDにより100nmの厚さに形成した。この非晶質炭素膜27の成膜時において、高周波電力は13.56MHzの周波数で表皮材9の表面積当たり2kW/m2であり、成膜速度は2.5nm/sであり、表皮材9の温度は常温である。この実施例1に係る表皮付き発泡成形品では、非晶質炭素膜27の形成に先立って前処理工程を行っていない。つまり、非晶質炭素膜27は、表皮材9の裏面にプラズマエッチングによる清浄化や改質を行わずに形成してある。
【0078】
[実施例2]
実施例2に係る表皮付き発泡成形品は、上記実施形態のパネル構成部材1と同じく基材7と表皮材9との間に発泡体11が一体成形された構造を有している。基材7、表皮材9および発泡体11の材料および成形方法、その他の態様(発泡体11の厚さおよび質量など)は、実施例1の表皮付き発泡成形品と同じである。そして、表皮材9の裏面には、プラズマCVDによりダイヤモンドライクカーボンからなる非晶質炭素膜27を100nmの厚さに設けた。この非晶質炭素膜27の成膜時における条件は、実施例1と同じである。この実施例2に係る表皮付き発泡成形品では、非晶質炭素膜27の形成に先立って前処理工程を行った。前処理工程では、表皮材9の裏面に酸素ガスを用いたプラズマエッチングを30秒間施した。
【0079】
[比較例]
比較例に係る表皮付き発泡成形品も、基材7と表皮材9との間に発泡体11が一体成形された構造を有している。基材7、表皮材9および発泡体11の材料および成形方法、その他の態様(発泡体11の厚さおよび質量など)は、実施例1の表皮付き発泡成形品と同じである。但し、表皮材9の裏面には、非晶質炭素膜27を設けていない。この比較例に係る表皮付き発泡成形品では、非晶質炭素膜27を設けていないため、前処理工程も行っていない。
【0080】
これら実施例1,2および比較例に係る表皮付き発泡成形品について、107℃の環境下で400時間経過した時点での表皮材9に含まれる可塑剤の減少率の測定を行った。当該可塑剤の減少率の測定は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC:High Performance Liquid Chromatography)を用いて行った。
【0081】
比較例に係る表皮付き発泡成形品における表皮材9に含まれる可塑剤の減少率は、17.7%以上且つ18.0%以下であった。これに対し、実施例1および2に係る表皮付き発泡成形品の表皮材9に含まれる可塑剤の減少率は、3.0%以上且つ6.0%以下であった。こうした可塑剤の減少率の測定結果から、表皮材9の裏面に非晶質炭素膜27を設けることにより、表皮材9に含まれる可塑剤が発泡体11に移行するのが抑制されて、表皮材9の劣化促進を抑制できることが確認された。
【0082】
また、実施例1,2および比較例に係る表皮付き発泡成形品について、表皮材9と発泡体11との間の密着性の評価を行った。当該密着性の評価は、表皮付き発泡成形品から表皮材9を引き剥がし、表皮材9を引き剥がした剥離界面の表面状態を目視で確認することにより、表皮材9と発泡体11との間の密着性を評価した。
【0083】
比較例に係る表皮付き発泡成形品の表皮材9を引き剥がした剥離界面は、発泡体11の表層が破断した状態となっていた。また、実施例1に係る表皮付き発泡成形品の表皮材9を引き剥がした剥離界面は、非晶質炭素膜27と表皮材9との界面で剥離した状態となっていた。これに対し、実施例2に係る表皮付き発泡樹脂成形品の表皮材9を引き剥がした剥離界面は、比較例に係る表皮付き発泡成形品と同様に、発泡体11の表層が破断した状態となっていた。こうした表皮材9と発泡体11との間の密着性を評価結果から、表皮材9の裏面に非晶質炭素膜27を設けていても、非晶質炭素膜27の形成に先立って前処理工程を行っていることにより、表皮材9と発泡体11との間の密着性を良くできることが確認された。
【0084】
以上のように、本開示の技術の例示として、好ましい実施形態について説明した。しかし、本開示の技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。また、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須でない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることを以て、直ちにそれらの必須でない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0085】
例えば、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0086】
上記実施形態では、非晶質炭素膜27が水素化非晶質炭素からなるとしたが、これに限らない。水素化非晶質炭素は、非晶質炭素膜27の材料の一例であって、テトラへドラル非晶質炭素などの水素非含有非晶質炭素(いわゆる水素フリー非晶質炭素)からなっていてもよい。
【0087】
また、上記実施形態では、非晶質炭素膜27が表皮材9の裏面全体に亘って設けられているとしたが、これに限らない。非晶質炭素膜27は、表皮材9の裏面に部分的に設けられていてもよい。表皮材9が裏面に所定の機能層を有している場合、非晶質炭素膜27は、その機能層の外面に設けられていればよい。
【0088】
また、上記実施形態では、パネル構成部材1の製造方法において表皮材9をスラッシュ成形により成形するとしたが、これに限らない。表皮材9は、真空成形法などの他の成形方法によって成形されてもよい。
【0089】
また、上記実施形態では、プラズマ処理装置55について、シャワーヘッド67が非接地電極(対向電極)を兼ね、シャワーヘッド67に交流電圧が印加される構成を例に挙げて説明したが、これに限らない。例えば、プラズマ処理装置55は、シャワーヘッド67とは別に対向電極としての電極板をチャンバー59内の上部に備えていてもよいし、スラッシュ成形金型31に交流電圧(高周波電圧)を印加するようになっていてもよい。ここで、交流電圧を印加しない側の電極、つまりスラッシュ成形金型、シャワーヘッドまたは電極板は接地していることが好ましい。
【0090】
また、上記実施形態では、パネル構成部材1の製造方法において前処理工程でのプラズマエッチングに用いるエッチングガスが酸素ガスであることを例示したが、これに限らない。前処理工程でのプラズマエッチングに用いるエッチングガスは、窒素(N2)ガスやアルゴン(Ar)ガス、フッ化炭素(CF4、C2F6)ガスなどの他の反応性ガスであってもよい。
【0091】
また、上記実施形態では、パネル構成部材1の製造方法において非晶質炭素膜27の形成に先立って前処理工程(プラズマエッチングによる表皮材9裏面の清浄化および改質)を行うとしたが、これに限らない。前処理工程は行われなくてもよい。つまり、パネル構成部材1の製造方法は、当該前処理工程を含んでいなくてもよい。
【0092】
また、上記実施形態では、パネル構成部材1の製造方法において炭素膜形成工程でのプラズマCVDに用いる原料ガスがアセチレン(C2H2)ガスであることを例示したが、これに限らない。炭素膜形成工程でのプラズマCVDに用いる原料ガスは、エチレン(C2H4)やプロピレン(C3H6)などの不飽和炭化水素化合物を含むガス、メタン(CH4)やエタン(C2H6)、プロパン(C3H8)などの飽和炭化水素化合物を含むガス、ベンゼン(C6H6)やトルエン(C7H8)、キシレン(C8H10)などの芳香族系炭化水素化合物を含むガスなどの他の炭化水素ガスであってもよく、複数種類の炭化水素ガスを原料ガスとしても構わない。
【0093】
また、上記実施形態では、非晶質炭素膜27がプラズマCVDによって表皮材9の裏面に形成されるとしたが、これに限らない。非晶質炭素膜27は、上記実施形態の如く低圧真空中でのプラズマCVDの他、大気圧雰囲気下でのプラズマCVD、物理気相成長法(PVD:Physical Vaper Deposition)、例えば、イオンビーム蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法などによって表皮材9の裏面に形成されていてもよい。
【0094】
また、上記実施形態では、プラズマ処理装置55が備える交流電源69が高周波電源であるとしたが、これに限らない。プラズマ処理装置55が備える電源69は、プラズマ発生部71に電力を供給してプラズマ放電を発生させ得るものであれば、マイクロ波電源であってもよいし、パルス波電源であっても構わず、その他の電源を採用することも可能である。
【0095】
また、上記実施形態では、本開示の技術に係る表皮付き発泡成形品としてパネル構成部材1を例に挙げて説明したが、これに限らない。本開示の技術は、アームレストやコンソールボックスのリッド部品、メーターフードなどのその他の車両用内装部品、さらには他用途の表皮付き発泡成形品にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本開示の技術は、ポリ塩化ビニル製の表皮材の裏側に発泡ポリウレタン製の発泡体が一体成形された表皮付き発泡成形品およびその製造方法ならびに当該表皮付き発泡成形品の製造に用いるプラズマ処理装置に有用である。
【符号の説明】
【0097】
1…パネル構成部材(表皮付き発泡成形品)、7…基材、9…表皮材、11…発泡体、
13…凹部、15…外周端末部、17…外側縦壁、19…注入口、21…シール材、
27…非晶質炭素膜、31…スラッシュ成形金型、33…成形面、35…成形本体部、
37…フランジ部、39…突条、41…加熱炉、43,45…加熱ヒータ、
47…原料収容ボックス、49…シール材、51…回転軸、53…溶融樹脂層、
55…プラズマ処理装置、57…冷却装置、59…チャンバー、
61…チャンバー形成体、63…減圧装置、65…ガス供給装置、
67…シャワーヘッド(対向電極)、69…交流電源、71…プラズマ発生部、
73…冷却ボックス、75…水噴射ノズル、77…シール材、79…排水ダクト、
81…シール材、83…排気ダクト、85…排気口、87…ガス供給口、
89…エッチングガスタンク、91…原料ガスタンク、93…供給配管、
95,97…分岐配管、99,101…ゲートバルブ、103…放出口、
105…発泡成形金型、107…第1型、109…第2型、111…ベース、
113…セット面、115…ストライカ、117…被係合アーム、119…回転軸、
121…支持アーム、123…セット面、125…移動機構、127…支持プレート、
129…油圧シリンダ、131…キャビティ、133…連結部、135…フック、
137…係合アーム、139…注入ノズル