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特許7129886オレフィン系熱可塑性エラストマー架橋発泡粒子、及びオレフィン系熱可塑性エラストマー架橋発泡粒子成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-25
(45)【発行日】2022-09-02
(54)【発明の名称】オレフィン系熱可塑性エラストマー架橋発泡粒子、及びオレフィン系熱可塑性エラストマー架橋発泡粒子成形体
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/18 20060101AFI20220826BHJP
【FI】
C08J9/18 CES
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018206688
(22)【出願日】2018-11-01
(65)【公開番号】P2020070387
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100118131
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 渉
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 翔太
(72)【発明者】
【氏名】平 晃暢
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-076464(JP,A)
【文献】国際公開第2014/042189(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/147775(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/212183(WO,A1)
【文献】特開2016-216527(JP,A)
【文献】特開2014-141551(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00- 9/42
B29C 44/00-44/60、67/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン系熱可塑性エラストマーを基材とし、着色剤を含む架橋発泡粒子であって、
前記架橋発泡粒子は、10℃/分の加熱速度で23℃から200℃まで加熱して得られるDSC曲線において、オレフィン系熱可塑性エラストマーに固有の融解ピーク(固有ピーク)と、固有ピークよりも高温側に1以上の融解ピーク(高温ピーク)とが現れる結晶構造を有し、前記高温ピークの融解熱量が5J/g以上であ架橋発泡粒子の気泡径の平均値が20μm以上50μm未満である、オレフィン系熱可塑性エラストマー架橋発泡粒子。
【請求項2】
前記架橋発泡粒子の熱キシレン不溶分が10~70重量%である、請求項1に記載のオレフィン系熱可塑性エラストマー架橋発泡粒子。
【請求項3】
前記DSC曲線における全融解熱量に対する前記高温ピークの融解熱量の比が0.1~0.6である、請求項1又は2に記載のオレフィン系熱可塑性エラストマー架橋発泡粒子。
【請求項4】
前記架橋発泡粒子の見掛け密度が30~300kg/mである、請求項1~3のいずれかに記載のオレフィン系熱可塑性エラストマー架橋発泡粒子。
【請求項5】
前記架橋発泡粒子の気泡径の変動係数が30%以下である、請求項1~のいずれかに記載のオレフィン系熱可塑性エラストマー架橋発泡粒子。
【請求項6】
前記着色剤の含有量が、前記オレフィン系熱可塑性エラストマー100重量部に対して0.05重量部以上である、請求項1~のいずれかに記載のオレフィン系熱可塑性エラストマー架橋発泡粒子。
【請求項7】
前記オレフィン系熱可塑性エラストマーが、ポリエチレンブロックをハードセグメントとし、エチレン/α-オレフィン共重合体ブロックをソフトセグメントとするブロック共重合体である、請求項1~のいずれかに記載のオレフィン系熱可塑性エラストマー架橋発泡粒子。
【請求項8】
請求項1~のいずれかに記載のオレフィン系熱可塑性エラストマー架橋発泡粒子を型内成形してなるオレフィン系熱可塑性エラストマー架橋発泡粒子成形体。
【請求項9】
前記架橋発泡粒子成形体の引張り強さ(a)[MPa]と引張り伸び(b)[%]との積(a)×(b)が100以上である、請求項に記載のオレフィン系熱可塑性エラストマー架橋発泡粒子成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン系熱可塑性エラストマー架橋発泡粒子、及びオレフィン系熱可塑性エラストマー架橋発泡粒子成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィン系熱可塑性エラストマー(以下、「TPO」ともいう。)は、柔軟であり、反発性に優れ、圧縮永久歪みの小さい材料である。TPOを発泡させることで、これらの特性を維持しつつ、軽量化を図ることができる。TPOの発泡成形体は、押出発泡、プレス発泡、射出発泡などの成形方法で製造されている。
【0003】
発泡粒子を用いた型内成形法は、他の成形方法と比較して、形状の自由度が高く、また、独立気泡構造の発泡成形体を製造することができる成形方法である。しかし、従来のTPO発泡粒子は、汎用樹脂を基材とする発泡粒子に比べて、型内成形性に劣るものであった。柔軟性などのTPOが有する特性を維持しつつ、型内成形性に優れるTPO発泡粒子として、例えば、特許文献1に、ポリエチレンブロックとエチレン/α-オレフィン共重合体ブロックとのマルチブロック共重合体の粒子を架橋して発泡させてなる架橋発泡粒子が開示されている。
TPOの発泡粒子は着色剤を含むと、型内成形性が低下する傾向にあった。型内成形性を改善するために、例えば、特許文献2に、特定の平均表層膜厚みを有する、着色剤を含むTPO発泡粒子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-216527号公報
【文献】特開2018-76464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に開示された技術により、着色TPO発泡粒子の型内成形性を向上させることが可能となった。しかしながら、着色TPO発泡粒子の型内成形体は、着色汎用発泡粒子の型内成形体に比べて、色の均一性に劣るものであった。また、従来よりも型内成形性が向上したものの、汎用樹脂を基材とする発泡粒子に比べると、型内成形時の成形可能範囲が狭いものであった。
【0006】
そこで本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、着色剤を含む架橋発泡粒子であっても型内成形性に優れ、色ムラが少ない、架橋発泡粒子成形体が得られる、オレフィン系熱可塑性エラストマー架橋発泡粒子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、以下に示す構成を採用することにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]オレフィン系熱可塑性エラストマーを基材とし、着色剤を含む架橋発泡粒子であって、
前記架橋発泡粒子は、10℃/分の加熱速度で23℃から200℃まで加熱して得られるDSC曲線において、オレフィン系熱可塑性エラストマーに固有の融解ピーク(固有ピーク)と、固有ピークよりも高温側に1以上の融解ピーク(高温ピーク)とが現れる結晶構造を有し、前記高温ピークの融解熱量が5J/g以上である、オレフィン系熱可塑性エラストマー架橋発泡粒子。
[2]前記架橋発泡粒子の熱キシレン不溶分が10~70重量%である、前記[1]に記載のオレフィン系熱可塑性エラストマー架橋発泡粒子。
[3]前記DSC曲線における全融解熱量に対する前記高温ピークの融解熱量の比が0.1~0.6である、前記[1]又は[2]に記載のオレフィン系熱可塑性エラストマー架橋発泡粒子。
[4]前記架橋発泡粒子の見掛け密度が30~300kg/mである、前記[1]~[3]のいずれかに記載のオレフィン系熱可塑性エラストマー架橋発泡粒子。
[5]前記架橋発泡粒子の気泡径の平均値が20μm以上50μm未満である、前記[1]~[4]のいずれかに記載のオレフィン系熱可塑性エラストマー架橋発泡粒子。
[6]前記架橋発泡粒子の気泡径の変動係数が30%以下である、前記[1]~[5]のいずれかに記載のオレフィン系熱可塑性エラストマー架橋発泡粒子。
[7]前記着色剤の含有量が、前記オレフィン系熱可塑性エラストマー100重量部に対して0.05重量部以上である、前記[1]~[6]のいずれかに記載のオレフィン系熱可塑性エラストマー架橋発泡粒子。
[8]前記オレフィン系熱可塑性エラストマーが、ポリエチレンブロックをハードセグメントとし、エチレン/α-オレフィン共重合体ブロックをソフトセグメントとするブロック共重合体である、前記[1]~[7]のいずれかに記載のオレフィン系熱可塑性エラストマー架橋発泡粒子。
[9]前記[1]~[8]のいずれかに記載のオレフィン系熱可塑性エラストマー架橋発泡粒子を型内成形してなるオレフィン系熱可塑性エラストマー架橋発泡粒子成形体。
[10]前記架橋発泡粒子成形体の引張り強さ(a)[MPa]と引張り伸び(b)[%]との積(a)×(b)が100以上である、前記[9]に記載のオレフィン系熱可塑性エラストマー架橋発泡粒子成形体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、着色剤を含む架橋発泡粒子であっても型内成形性に優れ、色ムラが少ない、架橋発泡粒子成形体が得られる、オレフィン系熱可塑性エラストマー架橋発泡粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態におけるオレフィン系熱可塑性エラストマー架橋発泡粒子の第1回加熱のDSC曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<オレフィン系熱可塑性エラストマー架橋発泡粒子>
本発明のオレフィン系熱可塑性エラストマー架橋発泡粒子は、オレフィン系熱可塑性エラストマーを基材とし、着色剤を含む架橋発泡粒子であって、前記架橋発泡粒子は、10℃/分の加熱速度で23℃から200℃まで加熱して得られるDSC曲線において、オレフィン系熱可塑性エラストマーに固有の融解ピーク(固有ピーク)と、固有ピークよりも高温側に1以上の融解ピーク(高温ピーク)とが現れる結晶構造を有し、前記高温ピークの融解熱量が5J/g以上である架橋発泡粒子である。
このような架橋発泡粒子によれば、着色剤を含む架橋発泡粒子であっても型内成形性に優れ、色ムラが少ない、架橋発泡粒子成形体が得られる。
【0011】
以下、「オレフィン系熱可塑性エラストマー架橋発泡粒子」を「架橋発泡粒子」、及び「オレフィン系熱可塑性エラストマー架橋発泡粒子成形体」を「発泡粒子成形体」又は「成形体」と称することがある。
【0012】
本発明により得られる効果の詳細なメカニズムは明らかではないが、本発明の架橋発泡粒子が特定の結晶構造を有することによるものと考えられる。
【0013】
従来、熱キシレン不溶分の割合が低い架橋発泡粒子を型内成形すると、架橋発泡粒子同士を強固に融着させることは可能であったが、成形型から成形体を離型した後、成形体にヒケが生じ易く、良好な成形体を製造することが困難であった。一方、熱キシレン不溶分の割合が高い架橋発泡粒子を型内成形すると、架橋発泡粒子同士を強固に融着させることが難しく、より融着させようと型内成形時の加熱媒体の温度を高くし過ぎてしまうと、成形型から成形体を離型した後、成形体にヒケが生じてしまった。
このように、TPOを基材とする架橋発泡粒子の成形可能範囲は、汎用樹脂を基材とする発泡粒子よりも狭いものであった。さらに、架橋発泡粒子が着色剤を含むとこれらの現象が顕著になり、より成形可能範囲が狭くなってしまった。
なお、「ヒケ」とは、成形体の気泡内の圧力が大気圧近くまで戻っても、成形体の形状が回復しないような成形体の著しい変形や著しい収縮を意味し、成形体にヒケが生じると、所望の形状の成形体を得ることができなくなる。
本発明の架橋発泡粒子は、DSC曲線においてTPOの固有ピークよりも高温側に高温ピークとして現れる、ラメラの厚い高ポテンシャルの結晶を有しているので、従来よりも熱キシレン不溶分の割合が低い場合であっても、成形型から成形体を離型した後に成形体にヒケが生じない。また、従来と熱キシレン不溶分の割合が同じ場合であっても、加熱媒体の温度を高めても、成形型から成形体を離型した後に成形体にヒケが生じなくなる。そのため、本発明の架橋発泡粒子は、広い熱キシレン不溶分の範囲にわたって、広い成形加熱条件において、融着性に優れる良好な発泡粒子成形体を得ることができる。すなわち、本発明の架橋発泡粒子は、型内成形性に優れる。
【0014】
TPOは、その粘弾性特性のためか、汎用樹脂よりも発泡させることが難しく、さらにTPOが着色剤を含むとTPOを均一に発泡させることがより一層難しくなる。そのため、発泡粒子中の気泡の大きさにばらつきが生じ易く、また、発泡粒子間の発泡倍率にもばらつきが生じ易くなると考えられる。そのため、そのような発泡粒子を型内成形すると、成形体内に気泡膜の薄い部分と厚い部分とが混在することとなる。気泡膜の薄い部分は相対的に色が薄く、気泡膜の厚い部分は相対的に色が濃くなるため、色ムラが大きい発泡粒子成形体となってしまう。
本発明の架橋発泡粒子は、ラメラの厚い高ポテンシャルの結晶を有していることから、TPOが着色剤を含んでいても、気泡径のばらつきが小さく、発泡倍率のばらつきも小さい架橋発泡粒子になるものと考えられる。この高ポテンシャルの結晶は、後述する結晶化工程により、重合体架橋粒子中に均等に生成されるため、この結晶が、発泡時に気泡核として作用し、さらに気泡の成長時に気泡膜内で適度に配向することにより、上記のような良好な気泡構造を有する架橋発泡粒子が得られるものと考えられる。そして、この架橋発泡粒子を型内成形することにより、色ムラの少ない成形体を得ることができる。
さらに、着色剤を含む架橋発泡粒子では、気泡径を小さくしようとすると、発泡時又は型内成形の二次発泡時に気泡膜が破れ易く、連続気泡化してしまうため、型内成形性が低下する傾向にあった。それに対し、本発明の架橋発泡粒子は、高温ピークを示す特定の結晶構造を有することにより、気泡膜が破れ難く、型内成形時にも良好な気泡構造が維持されていると考えられる。そのため、型内成形性を損なわずに気泡を微細化することが可能となり、その結果、発色に優れ、より色むらの少ない成形体を得ることができるようになったものと考えらえる。
【0015】
次に、本発明の着色剤を含む架橋発泡粒子が有する結晶構造の特徴を説明する。
図1に、本発明の一実施形態における架橋発泡粒子の第1回加熱のDSC(Differential scanning calorimetry)曲線を示す。図1は、架橋発泡粒子1~3mgを10℃/分の加熱速度で23℃から200℃まで加熱して得られるDSC曲線の一例である。グラフの縦軸は試験片と基準物質の温度が等しくなるように両者に加えた単位時間当たりの熱エネルギーの入力の差を示し、ベースラインよりも下側へのピークが吸熱ピーク、上側へのピークが発熱ピークであり、横軸は温度を示し、左側が低温側、右側が高温側である。
図1において、DSC曲線は、低温側に頂点温度PTmaを有する融解ピークPと、高温側に頂点温度PTmbを有する融解ピークPとを有する。本発明では、低温側の融解ピークPを固有ピーク、高温側の融解ピークPを高温ピークと称する。以下、それぞれ、固有ピークP、高温ピークPと称することがある。
固有ピークPは、架橋発泡粒子を構成するTPOが元来有する結晶構造に由来する融解ピークであり、高温ピークPは、架橋発泡粒子の製造工程に起因して生成する結晶構造に由来する融解ピークである。
【0016】
固有ピークPの融解熱量、高温ピークPの融解熱量、及びDSC曲線における全融解熱量は、図1に示されるDSC曲線の場合、次のように測定される。
融解終了温度に相当するDSC曲線上の点をβとする。また、融解終了温度(β)から当該温度(β)よりも高温側のDSC曲線のベースラインの接線と、融解終了温度(β)よりも低温側のDSC曲線とが交差するDSC曲線上の点をαとする。また、固有ピークPと高温ピークPとの間の谷間に当たるDSC曲線上の点yから、グラフの縦軸と平行な直線を引き、点αと点βを結ぶ直線(α―β)と交わる点をδとする。
【0017】
固有ピークPの面積(A)は、固有ピークPの融解熱量であり、固有ピークPを示すDSC曲線と、線分(α―δ)と、線分(y-δ)とによって囲まれる部分の面積として求められる。
高温ピークPの面積(B)は、高温ピークPの融解熱量であり、高温ピークPを示すDSC曲線と、線分(δ―β)と、線分(y-δ)とによって囲まれる部分の面積として求められる。
DSC曲線における全融解熱量は、直線(α-β)と、点αと点βの区間におけるDSC曲線とで囲まれるピーク面積であって、固有ピークPの面積(A)と高温ピークPの面積(B)の合計〔(A)+(B)〕である。
【0018】
本発明の架橋発泡粒子は、10℃/分の加熱速度で23℃から200℃まで加熱して得られるDSC曲線において、固有ピークPと高温ピークPとが現れる結晶構造を有し、かつ高温ピークPの融解熱量(B)が5J/g以上である結晶構造を有する。
以下、本発明の架橋発泡粒子及びその製造方法について詳細に説明する。
【0019】
[重合体粒子]
本発明の架橋発泡粒子は、重合体粒子に含まれるTPOを架橋し、この重合体架橋粒子を発泡させることで得られる。
【0020】
(TPO)
TPOとしては、(i)プロピレン系樹脂をハードセグメントとし、エチレン系ゴムをソフトセグメントとする混合物、(ii)ポリエチレンブロックをハードセグメントとし、エチレン/α-オレフィン共重合体ブロックをソフトセグメントとするブロック共重合体等が挙げられる。
【0021】
(i)プロピレン系樹脂をハードセグメントとし、エチレン系ゴムをソフトセグメントとする混合物において、プロピレン系樹脂としては、例えば、プロピレン単独重合体、プロピレンとエチレン或いは炭素数4~8のα-オレフィンとの共重合体等が挙げられる。一方、エチレン系ゴムとしては、例えば、エチレンと炭素数3~8のα-オレフィンとの共重合体、更に5-ビニル-2-ノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-メチレン-2-ノルボルネン、ジシクロペンタジエン等の非共役ジエンとの共重合体等が挙げられる。
【0022】
(ii)ポリエチレンブロックをハードセグメントとし、エチレン/α-オレフィン共重合体ブロックをソフトセグメントとするブロック共重合体において、ポリエチレンブロックとしては、例えば、エチレン単独重合体、エチレンと炭素数3~8のα-オレフィンとの共重合体が挙げられる。一方、エチレン/α-オレフィン共重合体ブロックとしては、例えば、エチレンと炭素数3~20のα-オレフィンとの共重合体のブロック等が挙げられる。
エチレンと共重合する、炭素数3~20のα-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン等が挙げられる。中でも、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテンが好ましく、特に1-オクテンが好ましい。
なお、ポリエチレンブロックに含まれるエチレン成分の割合は、ポリエチレンブロックの重量に対して、好ましくは95重量%以上、より好ましくは98重量%以上である。一方、エチレン/α-オレフィン共重合体ブロックに含まれるα-オレフィン成分の割合は、エチレン/α-オレフィン共重合体ブロックの重量に対して、好ましくは5重量%以上、より好ましくは10重量%以上、更に好ましくは15重量%以上である。
ここで、ポリエチレンブロックに含まれるエチレン成分の割合及びエチレン/α-オレフィン共重合体ブロックに含まれるα-オレフィン成分の割合は、示差走査熱量測定(DSC)又は核磁気共鳴(NMR)から得られるデータに基づいて計算することができる。
【0023】
TPOとして、市販品を用いてもよく、例えば、商品名「サーモラン」(三菱ケミカル社製)、商品名「ミラストマー」(三井化学社製)、商品名「住友TPE」(住友化学社製)、商品名「インフューズ(INFUSE(登録商標))」(ダウ・ケミカル社製)、商品名「アフィニティー」(ダウ・ケミカル社製)、商品名「プライムTPO」(プライムポリマー社製)等が挙げられる。
【0024】
TPOとしては、高温での回復性が向上する観点から、既述の(ii)ポリエチレンブロックをハードセグメントとし、エチレン/α-オレフィン共重合体ブロックをソフトセグメントとするブロック共重合体が好ましく用いられる。なお、ハードブロック及びソフトブロックは、直鎖状に配列していることが好ましい。
ブロック共重合体としては、ジブロック構造、トリブロック構造、及びマルチブロック構造であってもよいが、特に、マルチブロック構造であることが好ましい。
【0025】
(ii)ポリエチレンブロックをハードセグメントとし、エチレン/α-オレフィン共重合体ブロックをソフトセグメントとするマルチブロック共重合体(以下「マルチブロック共重合体」と称す)としては、例えば、特開2013-64137号公報に記載されているものが挙げられる。また、マルチブロック共重合体において市販されているものとしては、例えば、ダウ・ケミカル社製の商品名「インフューズ(INFUSE(登録商標))」等が挙げられる。
【0026】
<密度>
TPOの密度は、好ましくは800~1000g/L、より好ましくは850~920g/L、更に好ましくは870~900g/Lである。
TPOの密度は、ASTM D792-13に準拠して測定される値である。
【0027】
<タイプAデュロメータ硬さ>
TPOのタイプAデュロメータ硬さ(一般に「ショアA硬度」と称する場合もある)は、好ましくは65~90、より好ましくは75~90、更に好ましくは76~88である。
TPOのタイプAデュロメータ硬さが65以上であることで、架橋発泡粒子を型内成形して得られる発泡粒子成形体の寸法回復性をより損ね難くなる。TPOのタイプAデュロメータ硬さが90以下であることで、柔軟性により優れた発泡粒子成形体を得易くなる。
TPOのタイプAデュロメータ硬さとは、ASTM D2240-05に基づく、タイプAデュロメータを用いて測定されるデュロメータ硬さを意味する。なお、デュロメータ硬さを測定する際には、デュロメータを測定試料の表面に押し付けて密着させてから1秒以内にデュロメータの最大指示値を読み取ることとする。
【0028】
<メルトフローレイト(MFR)>
TPOのメルトフローレイト(MFR)は、190℃、荷重2.16kgの条件下で、好ましくは2~10g/10分、より好ましくは3~8g/10分、更に好ましくは4~7g/10分である。
TPOのメルトフローレイトが2g/10分以上であることで、型内成形時に、架橋発泡粒子同士がより融着し易くなる。TPOのメルトフローレイトが10g/10分以下であることで、架橋発泡粒子を型内成形して得られた成形体は、回復性により優れる。
TPOのメルトフローレイトは、JIS K7210-1:2014に準拠して、温度190℃、荷重2.16kgの条件で測定される値である。
【0029】
<曲げ弾性率>
TPOの曲げ弾性率は、好ましくは10~100MPa、より好ましくは15~50MPa、更に好ましくは20~30MPaである。
TPOの曲げ弾性率は、JIS K7171:2008に準拠して測定される値である。
【0030】
<融点>
TPOの融点は、好ましくは80~160℃、より好ましくは90~150℃、更に好ましくは100~130℃、特に好ましくは110~125℃である。
TPOの融点は、JIS K7121-1987に準拠して測定される値である。
【0031】
(その他の重合体)
重合体粒子には、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、TPO以外のその他の重合体(以下「その他の重合体」と称す)を含有させてもよい。
その他の重合体としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリブテン系樹脂)、ポリスチレン系樹脂等の熱可塑性樹脂、TPO以外の熱可塑性エラストマー(例えば、ポリブタジエン系エラストマー、スチレン-ブタジエン、スチレン-イソプレン、スチレン-ブタジエン-スチレン、スチレン-イソプレン-スチレンのブロック共重合体、それらの水添物)等が挙げられる。
その他の重合体の含有量は、重合体粒子を構成するTPO100質量部に対して、好ましくは20重量部以下、より好ましくは10重量部以下、更に好ましくは5重量部以下である。さらに、重合体粒子の基材重合体がTPOのみからなることが特に好ましい。
【0032】
(着色剤)
重合体粒子を構成するTPOには、着色剤を含有させる。
着色剤としては、無機系又は有機系の顔料や染料を用いることができる。
有機顔料としては、例えば、モノアゾ系、縮合アゾ系、アンスラキノン系、イソインドリノン系、複素環系、ペリノン系、キナクリドン系、ペリレン系、チオインジゴ系、ジオキサジン系、フタロシアニン系、ニトロソ系、フタロシアニン顔料、有機蛍光顔料等を挙げることができる。
無機顔料としては、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、チタンイエロー、酸化鉄、群青、コバルトブルー、焼成顔料、メタリック顔料、マイカ、パール顔料、亜鉛華、沈降性シリカ、カドミウム赤等を挙げることができる。
また、染料としては、例えば、アンスラキノン系、複素環系、ペリノン系等の有機染料、塩基性染料、酸性染料、媒染染料等を挙げることができる。
なお、着色剤は、1種単独で用いられてもよいし、2種以上を混合して用いられてもよい。
【0033】
着色剤は、重合体粒子を得る工程において、TPOと共に、押出機に供給して混練することによって、TPOに着色剤を含有させることができる。
より色ムラの少ない成形体を得ることができるという観点から、着色剤の含有量は、重合体粒子を構成するTPO100重量部に対して、好ましくは0.05重量部以上、より好ましくは0.1重量部以上、さらに好ましくは0.2重量部以上である。一方、その上限は、好ましくは7重量部、より好ましくは5重量部、さらに好ましくは3重量部である。
【0034】
(気泡調整剤)
重合体粒子を構成するTPOには、気泡調整剤を含有させることが好ましい。
気泡調整剤としては、例えば、タルク、マイカ、ホウ酸亜鉛、炭酸カルシウム、シリカ、酸化チタン、石膏、ゼオライト、ホウ砂、水酸化アルミニウム、カーボン等の無機粉体が挙げられる他に、リン酸系核剤、フェノール系核剤、アミン系核剤、ポリフッ化エチレン系樹脂粉末等の有機粉体が挙げられる。
なお、気泡調整剤は、1種単独で用いられてもよいし、2種以上を混合して用いられてもよい。
【0035】
気泡調整剤は、重合体粒子を得る工程において、TPOと共に、押出機に供給して混練することにより、TPOに気泡調整剤を含有させることができる。
より融着性に優れ、より色ムラの少ない成形体を得ることができるという観点から、気泡調整剤の含有量は、重合体粒子を構成するTPO100重量部に対して、好ましくは0.01~5重量部、より好ましくは0.05~3重量部、より好ましくは0.05~1重量部である。
【0036】
(その他の添加剤)
重合体粒子を構成するTPOには、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、その他の添加剤を含有させてもよい。
その他の添加剤としては、例えば、スリップ剤、難燃剤、難燃助剤、気泡核剤、可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、導電性フィラー、抗菌剤等が挙げられる。
【0037】
[架橋発泡粒子]
本発明の架橋発泡粒子は、既述の重合体粒子に含まれるTPOを架橋し、この重合体架橋粒子を発泡させることで得られる。
【0038】
<結晶構造>
本発明の架橋発泡粒子は、図1を用いて説明したように、既述のDSC曲線においてTPOに固有の融解ピーク(固有ピークP)と、固有ピークよりも高温側に1以上の融解ピーク(高温ピークP)とが現れる結晶構造を有し、前記高温ピークPの融解熱量(B)が、5J/g以上であり、好ましくは7J/g以上、より好ましくは10J/g以上である架橋発泡粒子である。
上記した高温ピークPの融解熱量(B)が、5J/gで未満である場合、架橋発泡粒子が高温ピークが現れる結晶構造を有する場合でも、得られた成形体の色ムラが改善されず、また、成形可能範囲を広げることもできない。
【0039】
本発明の架橋発泡粒子は、既述のDSC曲線における全融解熱量〔(A)+(B)〕が、好ましくは40~60J/g、より好ましくは45~58J/g、更に好ましくは45~55J/gである結晶構造を有する。
上記した全融解熱量〔(A)+(B)〕が、40J/g以上であることで、TPO中に適度な量のハードセグメントが存在するため、型内成形時に気泡が破泡し難く良好な発泡粒子成形体を得ることができる。
一方、上記した全融解熱量〔(A)+(B)〕が、60J/g以下であることで、架橋発泡粒子は柔軟性を有するものとなる。
また、高温ピークの融解ピーク温度と固有ピークの融解ピーク温度との差は、好ましくは1~10℃、より好ましくは3~9℃、更に好ましくは5~8℃である。
【0040】
本発明の架橋発泡粒子は、既述のDSC曲線における全融解熱量〔(A)+(B)〕に対する高温ピークの融解熱量(B)の比[(B)/〔(A)+(B)〕]が、好ましくは0.1~0.6、より好ましくは0.2~0.5、更に好ましくは0.2~0.4である結晶構造を有する。
上記した比[(B)/〔(A)+(B)〕]が、0.1以上であることで、得られる発泡粒子成形体にヒケを生じ難くすることができる。
一方、上記した比[(B)/〔(A)+(B)〕]が、0.6以下であることで、表面性が良好で、低い成形圧でも発泡粒子同士の融着性に優れた発泡粒子成形体が得られ易い。
【0041】
架橋発泡粒子の全融解熱量は原料として用いられるオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)の種類により定まるものであり、全融解熱量に対する高温ピークの融解熱量の比[(B)/〔(A)+(B)〕]は、特に、後述する架橋発泡粒子の製造方法に含まれる工程A(基材重合体粒子を得る工程)~工程F(発泡工程)の中でも、工程E(結晶化工程)の条件を調整することにより制御することができる。
【0042】
<平均粒子径>
本発明の架橋発泡粒子の平均粒子径は、好ましくは1~10mm、より好ましくは2~8mm、更に好ましくは3~6mmである。
架橋発泡粒子の平均粒子径が上記範囲であると、架橋発泡粒子の製造が容易であると共に、架橋発泡粒子を型内成形するとき、架橋発泡粒子を金型内に充填させることが容易になる。
例えば、重合体粒子の粒子径、及び発泡剤量、発泡温度、発泡圧力等の発泡条件を調整することにより、架橋発泡粒子の平均粒子径を制御することができる。
【0043】
<見掛け密度>
本発明の架橋発泡粒子の見掛け密度は、好ましくは30~300kg/m、より好ましくは50~300kg/m、更に好ましくは100~300kg/mである。
架橋発泡粒子の見掛け密度を上記範囲にすることにより、架橋発泡粒子を型内成形して、軽量性、柔軟性、及び反発性に特に優れた発泡粒子成形体を得ることができる。
【0044】
架橋発泡粒子の平均粒子径及び見掛け密度は、次のようにして測定される。先ず、架橋発泡粒子群を、相対湿度50%、温度23℃、1atmの条件にて2日間放置する。次いで、温度23℃の水が入ったメスシリンダーを用意し、2日間放置した任意の量の架橋発泡粒子群(架橋発泡粒子群の重量W1)を上記メスシリンダー内の水中に金網等の道具を使用して沈める。そして、金網等の道具の体積を考慮し、水位上昇分より読みとられる架橋発泡粒子群の体積V1[L]を測定する。この体積V1をメスシリンダーに入れた架橋発泡粒子の個数(N)にて除する(V1/N)ことにより、架橋発泡粒子1個あたりの平均体積を算出する。そして、得られた平均体積と同じ体積を有する仮想真球の直径をもって架橋発泡粒子の平均粒子径[mm]とする。また、メスシリンダーに入れた架橋発泡粒子群の重量W1(g)を体積V1[L]で除し(W1/V1)、単位換算することにより、架橋発泡粒子の見掛け密度[kg/m]を求めることができる。
【0045】
<気泡径の平均値>
本発明の架橋発泡粒子の気泡径の平均値は、好ましくは20μm以上50μm未満、より好ましくは30μm以上50μm未満、更に好ましくは35μm以上50μm未満である。
架橋発泡粒子の気泡径の平均値が上記の範囲であれば、型内成形時に気泡がより破れ難くなり、また、架橋発泡粒子同士をより強固に融着させることができるため、良好な発泡粒子成形体が得られ、また、より発色性に優れ、より色ムラの少ない発泡粒子成形体が得られる。
架橋発泡粒子の気泡径の平均値は次のようにして求められる。架橋発泡粒子の中心部分を通るように架橋発泡粒子を略二分割し、走査型電子顕微鏡などを用いてその切断面の写真を撮影する。得られた断面写真において、架橋発泡粒子切断面にある気泡を無作為に50個以上選択する。画像解析ソフトなどを使用して各気泡の断面の面積を測定し、その面積と同じ面積を有する仮想真円の直径を各気泡の気泡径とする。この操作を少なくとも10個の架橋発泡粒子について行い、各気泡の気泡径の算術平均値を架橋発泡粒子の気泡径の平均値(平均気泡径)とする。
例えば、発泡剤量、発泡条件、気泡調整剤の配合量を調整するなど従来公知の手法により、架橋発泡粒子の平均気泡径を制御することができる。
【0046】
<気泡径の変動係数>
本発明の架橋発泡粒子の気泡径の変動係数は、好ましくは30%以下である。
架橋発泡粒子の気泡径の変動係数が小さいと、このような発泡粒子は、より型内成形性に優れ、また、より色ムラの少ない発泡粒子成形体が得られる。
架橋発泡粒子の気泡径の変動係数は、架橋発泡粒子の各気泡の気泡径の標準偏差を架橋発泡粒子の気泡の平均気泡径で除することにより求められる。なお、標準偏差の値は、不偏分散の平方根により与えられる値である。
架橋発泡粒子が高温ピークを示す結晶構造を有することにより、その気泡径の変動係数は小さくなる傾向にある。結晶化工程により、重合体粒子中に均等に高ポテンシャルのTPOの結晶が生成され、発泡工程において、この高ポテンシャルの結晶が気泡核として作用し、また発泡時に適度に配向することにより、架橋発泡粒子の気泡径の変動係数の値が小さくなるものと考えられる。
【0047】
<熱キシレン不溶分>
本発明の架橋発泡粒子の熱キシレン不溶分(熱キシレン抽出法によるキシレン不溶分)は、好ましくは10~70重量%、より好ましくは10~50重量%、更に好ましくは10~40重量%である。
なお、「熱キシレン不溶分」とは、架橋発泡粒子の架橋状態を示す指標の一つであり、以下の方法で測定できる。
【0048】
架橋発泡粒子の試料約1gを秤量〔秤量した試料の重量をW1bとする〕してキシレン100mL中で6時間加熱して還流させた後、溶け残った残渣を100メッシュの金網で濾過して分離し、金網上に捕捉された残渣を80℃の減圧乾燥器で8時間乾燥させる。
この際に得られる乾燥物(熱キシレン不溶分)を秤量〔秤量した乾燥物の重量をW2bとする〕し、下記(1)式によって、架橋発泡粒子の熱キシレン不溶分を求めることができる。
熱キシレン不溶分(重量%)=(W2b/W1b)×100 (1)
架橋発泡粒子の熱キシレン不溶分は、後述する架橋発泡粒子の製造方法において、架橋剤の添加量の他に、密閉容器内で重合体粒子に含まれるTPOを架橋させる際の攪拌条件、昇温条件等によっても調節され得る。
【0049】
既述のように、本発明の架橋発泡粒子は、既述のDSC曲線において、固有ピークPと高温ピークPとが現れる結晶構造を有し、かつ高温ピークPの融解熱量(B)が5J/g以上である結晶構造を有する。このため、型内成形後にヒケを生じずに、強固に架橋発泡粒子同士が融着している発泡粒子成形体を製造することができる。
【0050】
また、本発明の架橋発泡粒子の表面にアニオン性界面活性剤を付着させることで、型内成形時の架橋発泡粒子同士の融着性を向上させることができる。
アニオン性界面活性剤は、カルボン酸型、スルホン酸型、硫酸エステル型、リン酸エステル型、高分子型のものが例示される。アニオン性界面活性剤の中でも、特に型内成形時の融着性向上効果に優れる架橋発泡粒子が得られることから、アルカンスルホン酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリアクリル酸スルホン酸共重合体塩等を架橋発泡粒子の表面に付着させることが好ましい。また、アニオン性界面活性剤は、単独または2種以上を混合して使用される。
【0051】
架橋発泡粒子の単位表面積当たりのアニオン性界面活性剤の付着量は、好ましくは2mg/m以上、より好ましくは5mg/m以上、更に好ましくは20mg/m以上である。一方、該付着量の上限は、概ね100mg/m以下である。
アニオン性界面活性剤の架橋発泡粒子に対する被覆量は、TOC(Total Organic Carbon)測定装置を用いて測定した値を基に算出される。なお、(株)島津製作所製全有機炭素計TOC-VCSHなどを用いて、TC-IC法にてTOCを測定することができる。
【0052】
[架橋発泡粒子の製造方法]
本発明の架橋発泡粒子の製造方法は、架橋発泡粒子が、10℃/分の加熱速度で23℃から200℃まで加熱して得られるDSC曲線において、固有ピークPと高温ピークPとが現れる結晶構造を有し、かつ高温ピークPの融解熱量(B)が5J/g以上である結晶構造を有するように制御し得る製造方法であれば、特に制限されない。
本発明で特定する結晶構造を有する架橋発泡粒子を容易に製造する観点から、本発明の架橋発泡粒子の製造方法は、以下に示す工程A~Fを含むことが好ましい。
【0053】
1.工程A(重合体粒子を得る工程)
TPOを含む重合体粒子は、公知の造粒方法により、製造される。
重合体粒子を得る方法は、特に限定されない。例えば、TPOと、着色剤と、必要に応じて気泡調整剤等の添加剤とを、押出機に供給し、TPOを溶融させると共に、これらを混錬して溶融混錬物とする。次いで、該溶融混錬物を押出機に付設されたダイの小孔を通してストランド状に押し出し、該ストランドを水冷した後に、ペレタイザーにて任意の大きさとなるように切断して、重合体粒子を得るストランドカット法が挙げられる。
【0054】
ストランドカット法の他に、該溶融混練物を気相中に押出して直接切断するホットカット法、該溶融混練物を水中に押出して直接切断するアンダーウォーターカット法等により重合体粒子を得ることができる。
【0055】
重合体粒子の1個当たりの平均重量は、好ましくは0.1~10mg、より好ましくは0.5~8mg、更に好ましくは1~6mgである。
なお、「重合体粒子の1個当たりの平均重量」とは、無作為に選んだ100個の重合体粒子の重量(mg)の合計を100で除した値を意味する。
【0056】
2.工程B(分散工程)
密閉容器内で、重合体粒子及び架橋剤を分散媒に分散させる。
架橋剤を分散媒中に分散させるタイミングは特に限定されず、分散媒中に重合体粒子を分散させてから、架橋剤を分散させてもよく、分散媒中に架橋剤を分散させてから、重合体粒子を分散させてもよく、重合体粒子と架橋剤とをほぼ同じタイミングで分散媒中に分散させてもよい。
【0057】
(密閉容器)
密閉容器は、密閉することができる容器であれば、特に限定されないが、加熱及び圧力の上昇に耐え得るものが好ましく使用される。密閉容器としては、例えば、オートクレーブ等が挙げられる。
【0058】
(分散媒)
分散媒は、重合体粒子を溶解しない分散媒であれば、特に限定されない。
分散媒としては、例えば、水、エチレングリコール、グリセリン、メタノール、エタノール等が挙げられ、中でも、水が好ましく使用される。
【0059】
(架橋剤)
重合体粒子に含まれるTPOを架橋するために、架橋剤を用いる。
架橋剤は、TPOを架橋させるものであれば、特に限定されない。架橋剤としては、公知の有機過酸化物を使用することができ、例えば、ジクミルパーオキサイド、tert-ブチルクミルパーオキサイド等のパークミル系化合物、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ-tert-ブチルパーオキサイド等のパーブチル系化合物、tert-ヘキシルパーオキシベンゾエート等のパーヘキシル系化合物、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート等のパーオクタ系化合物等が挙げられる。
これらの中でも、パークミル系化合物、パーブチル系化合物が好ましく、パークミル系化合物がより好ましく、中でも、ジクミルパーオキサイドが好ましい。
なお、架橋剤は、1種単独で用いられてもよいし、2種以上を混合して用いられてもよい。
【0060】
融点がTmであるTPOを原料に用いたとき、架橋剤として、10時間半減期温度がTm-45℃~Tm+20℃の範囲を有するものを用いることが好ましく、Tm-40℃~Tm+10℃の範囲を有するものを用いることがより好ましい。
上記10時間半減期温度を有する架橋剤を用いることで、架橋発泡粒子の熱キシレン不溶分を所望の割合に調整することが容易となる。
【0061】
架橋剤の分散媒への添加量は、重合体粒子100重量部に対して、好ましくは0.2~5.0重量部であり、より好ましくは0.3~3.0重量部であり、さらに好ましくは0.4~0.8重量部である。上記架橋剤の配合量が、上記範囲であると、架橋の効率が向上し、適度な熱キシレン不溶分(ゲル分率)を有する架橋発泡粒子が得られ易くなる。
【0062】
(分散剤)
分散媒には、重合体粒子の相互付着を防ぐために分散剤を添加してもよい。
分散剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、カオリン、マイカ、リン酸マグネシウム、リン酸三カルシウム等が挙げられる。
【0063】
(界面活性剤)
分散媒には、界面活性剤を添加してもよい。
界面活性剤としては、例えば、オレイン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、その他懸濁重合で一般的に使用されるアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0064】
(その他の添加剤)
分散媒には、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、その他の添加剤を添加してもよい。
その他の添加剤としては、例えば、分散媒のpHを調整するpH調整剤(例えば、二酸化炭素等)等が挙げられる。
【0065】
3.工程C(架橋工程)
架橋工程においては、TPOの融点以上の温度、且つ、架橋剤が実質的に分解する温度(以下「架橋温度」と称す)まで加熱してTPOを架橋させる。
架橋工程では、(i)重合体粒子に架橋剤を含浸させてから、架橋剤を分解させてTPOを架橋させてもよく、(ii)重合体粒子に架橋剤を含浸させつつ、架橋剤を分解させてTPOを架橋させてもよい。
なお、「架橋剤が実質的に分解する温度」とは、架橋剤の1分間半減期温度-30℃以上の温度を意味する。
【0066】
(i)の場合、重合体粒子が軟化状態となる温度、且つ、架橋剤が実質的に分解しない温度(以下「架橋剤の含浸温度」と称す)で重合体粒子に架橋剤を含浸させることが好ましい。
具体的には、原料TPOの融点をTmとしたとき、架橋剤の含浸温度は、Tm-20℃~架橋剤の10時間半減期温度の範囲であることが好ましい。なお、架橋剤を2種以上用いる場合は、それらの中で最も低い10時間半減期温度を基準とする。
ここで、含浸温度での保持時間は、好ましくは5~90分、より好ましくは10~60分である。
【0067】
次いで、重合体粒子に含まれるTPOの融点以上の温度、且つ、架橋剤が実質的に分解する温度(架橋温度)まで略一定の昇温速度で昇温し、該架橋温度で一定時間保持して、架橋剤を分解させてTPOを架橋させることが好ましい。
具体的には、TPOの融点をTmとしたとき、架橋温度は、好ましくはTm~Tm+80℃、より好ましくはTm+10℃~Tm+60℃である。
ここで、架橋温度での保持時間は、好ましくは15~60分、より好ましくは30~45分である。
【0068】
(ii)の場合、重合体粒子に含まれるTPOの融点以上の温度、且つ、架橋剤が実質的に分解する温度(架橋温度)まで略一定の昇温速度で昇温し、該架橋温度で一定時間保持することにより、重合体粒子に架橋剤を含浸させつつ、架橋剤を分解させてTPOを架橋させることが好ましい。
具体的には、昇温速度は、好ましくは0.3~5℃/分、より好ましくは0.5~3℃/分である。
上記昇温速度が上記範囲であると、架橋ムラが発生し難くなる。
また、原料TPOの融点をTmとしたとき、架橋温度は、好ましくはTm℃~Tm+80℃、より好ましくはTm+20℃~Tm+60℃である。
ここで、架橋温度での保持時間は、好ましくは5~120分、より好ましくは10~90分、更に好ましくは15~70分である。
【0069】
また、(i)及び(ii)の条件を組み合わせて、重合体粒子に含まれるTPOの架橋を行ってもよい。
更に、少なくとも工程C(架橋工程)において、密閉容器内の重合体粒子を含む容器内容物を撹拌しながら、工程を進めることで、重合体粒子に含まれるTPOの架橋を十分に進めると共に、重合体架橋粒子を球形化することが容易となる。
容器内容物の撹拌は、工程B(分散工程)及び工程C(架橋工程)で行っておくことが好ましく、更に、工程D(発泡剤含浸工程)、工程E(結晶化工程)で行ってもよい。
【0070】
4.工程D(発泡剤含浸工程)
発泡剤含浸工程においては、重合体粒子又は重合体架橋粒子に発泡剤を含浸させる。
発泡剤含浸工程を行うタイミングは、特に制限されず、工程F(発泡工程)の前までのタイミングで行われればよい。
具体的には、工程D(発泡剤含浸工程)は、以下のいずれかのタイミングで行われてもよく、2以上のタイミングで行われてもよい。
・工程B(分散工程)中
・工程B(分散工程)後かつ工程C(架橋工程)の前
・工程C(架橋工程)中
・工程C(架橋工程)後かつ工程E(結晶工程)の前
・工程E(結晶工程)中
・工程E(結晶工程)後かつ工程F(発泡工程)の前
したがって、重合体粒子に含まれるTPOの架橋が開始される前であれば、発泡剤は、重合体粒子に含浸される。また、重合体粒子に含まれるTPOの架橋が進行中であれば、発泡剤は、架橋が進行中の重合体粒子に含浸される。また、重合体粒子に含まれるTPOの架橋が終了した後であれば、発泡剤は、重合体架橋粒子に含浸される。
【0071】
(発泡剤)
発泡剤含浸工程で使用される発泡剤は、重合体架橋粒子を発泡させるものであれば特に限定されない。
発泡剤としては、例えば、空気、窒素、二酸化炭素、アルゴン、ヘリウム、酸素、ネオン等の無機物理発泡剤、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ノルマルヘキサン等の脂肪族炭化水素、シクロヘキサン、シクロペンタン等の脂環式炭化水素、クロロフルオロメタン、トリフルオロメタン、1,1-ジフルオロエタン、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、メチルクロライド、エチルクロライド、メチレンクロライド等のハロゲン化炭化水素、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル等のジアルキルエーテル等の有機物理発泡剤等が挙げられる。
これらの中でもオゾン層の破壊がなく且つ安価な無機物理発泡剤が好ましく、中でも、好ましくは窒素、空気、二酸化炭素であり、特に好ましくは二酸化炭素である。これらを単独又は2種類以上組み合わせて使用することができる。
後述するように、発泡剤を密閉容器内に添加する場合、発泡剤の添加量は、目的とする架橋発泡粒子の見掛け密度、TPOの種類、発泡剤の種類等を考慮して決定される。通常、重合体粒子又は重合体架橋粒子100重量部に対して、有機物理発泡剤で5~50重量部を用いることが好ましく、無機物理発泡剤で0.5~30重量部を用いることが好ましい。
【0072】
(含浸方法)
重合体粒子又は重合体架橋粒子に発泡剤を含浸させる方法は、特に限定されないが、例えば、密閉容器内に発泡剤を添加し、軟化状態の重合体粒子又は重合体架橋粒子或いは両方に発泡剤を含浸させる。密閉容器内の内容物を攪拌しながら、発泡剤の含浸工程を進めることが好ましい。
発泡剤を含浸させる温度は、重合体粒子又は重合体架橋粒子が軟化状態となる温度以上の温度であれば、特に限定されないが、例えば、原料TPOの融点をTmとしたとき、好ましくはTm-20℃~Tm+80℃の範囲である。
【0073】
5.工程E(結晶化工程)
結晶化工程においては、重合体架橋粒子に含まれるTPOの融点付近の温度で一定時間保持することにより、TPOの結晶の一部又は全部を融解させ、融解している結晶の一部を再結晶化させ、高ポテンシャルの結晶を生成させる。
結晶化工程では、工程C(架橋工程)後、(i)密閉容器内を工程C(架橋工程)の架橋温度からTPOの融点付近の温度まで降温させてもよく、(ii)密閉容器内の内容物を冷却し、重合体架橋粒子を密閉容器から抜き出し、その後、同じ又は別の密閉容器内で、分散媒に重合体架橋粒子を分散させ、密閉容器内の温度をTPOの融点付近の温度まで昇温させてもよい。
【0074】
(i)の場合、工程C(架橋工程)後、密閉容器内の温度を架橋温度から略一定の降温速度でTPOの融点付近の温度(以下「結晶化処理温度」と称す)まで降温し、該結晶化処理温度で一定時間保持して、TPOの結晶の一部を再結晶化させ、高ポテンシャルの結晶を生成させることが好ましい。
ここで、TPOの融点付近の温度まで降温させる速度(降温速度)は、好ましくは0.3~5℃/分、より好ましくは0.5~3℃/分である。
【0075】
(ii)の場合、工程C(架橋工程)後、密閉容器内を所定温度まで冷却し、重合体架橋粒子を密閉容器から抜き出し、その後、密閉容器内で分散媒に重合体架橋粒子を分散させ、略一定の昇温速度でTPOの融点付近の温度(結晶化処理温度)まで昇温し、該結晶化処理温度で一定時間保持して、TPOの結晶の一部を再結晶化させ、高ポテンシャルの結晶を生成させることが好ましい。
ここで、TPOの融点付近の温度まで昇温させる速度(昇温速度)は、好ましくは0.3~5℃/分、より好ましくは0.5~3℃/分である。
【0076】
上記(i)の場合又は(ii)の場合の工程E(結晶化工程)を経ることで、重合体架橋粒子中の融解しているTPOの結晶の一部又は全部を融解させ、融解している結晶の一部を再結晶化させ、ラメラの厚い高ポテンシャルの結晶を生成させ易くする。このような高ポテンシャル結晶を有する重合体架橋粒子を次の工程F(発泡工程)にて発泡させると、発泡時の冷却により形成された結晶と高ポテンシャル結晶とを有する結晶構造を有する架橋発泡粒子が得られる。
従って、DSC曲線における固有ピークと高温ピークとが形成される。
【0077】
高ポテンシャルの結晶を生成させるための結晶化処理温度は、原料TPOの融点をTmとしたとき、好ましくはTm-15℃~融解終了温度の範囲である。
なお、結晶化処理は、温度一定で行われてもよく、上記温度範囲内で温度を変化させて行われてもよい。
上記(i)の場合又は(ii)の場合の工程E(結晶化工程)での結晶化処理温度で一定時間保持することが好ましい。ここで、結晶化処理温度の保持時間は、好ましくは1~60分、より好ましくは5~45分である。
結晶化処理温度が高いほど、固有ピークよりも高温側に現れる融解ピーク(高温ピーク)の融解ピーク温度は低くなり、結晶化処理温度の保持時間が長いほど、高温ピークの融解熱量は大きくなる傾向にある。
また、工程D(結晶化工程)における架橋発泡粒子中の発泡剤の含有量が少ないほど、同一結晶化処理条件(結晶化処理温度及び保持時間)では高温ピークの融解熱量は大きくなる傾向にある。
なお、原料TPOの融点Tm及び融解終了温度とは、JIS K7121-1987に記載の熱流束示差走査熱量測定に基づき測定される融解ピーク温度及び補外融解終了温度をそれぞれ意味する。試験片の状態調節としては「(2)一定の熱処理を行なった後、融解温度を測定する場合」を採用し、加熱速度及び冷却速度としては共に10℃/分を採用する。
【0078】
6.工程F(発泡工程)
発泡工程においては、発泡剤を含む重合体架橋粒子を発泡させる。
具体的には、工程D(発泡剤含浸工程)により発泡剤が含浸されている重合体架橋粒子(「発泡性架橋粒子」と称す)を、分散媒と共に、密閉容器から密閉容器内の圧力よりも低い圧力の雰囲気下に放出して、発泡性架橋粒子を発泡させて架橋発泡粒子を作製することが好ましい。
高温ピークが現れる結晶構造を有する架橋発泡粒子を得るためには、放出時の密閉容器内の内容物の温度は、工程E(結晶化工程)での結晶化処理温度と同じ又は同程度の温度とすることが好ましい。また、密閉容器内の圧力と放出雰囲気の圧力との差が、好ましくは1.0~10MPa、より好ましくは1.5~5.0MPaとなるように、密閉容器内の圧力を制御する。
【0079】
密閉容器から発泡性架橋粒子を、分散媒と共に、密閉容器内の圧力よりも低い圧力の雰囲気下に放出する際は、二酸化炭素、空気等で容器内を加圧して、開放した密閉容器内の圧力を一定に保持するか、徐々に高めるように圧力を調整することが好ましい。かかる圧力調整により、得られる架橋発泡粒子の見掛け密度及び気泡径のばらつきをより小さくすることができる。
【0080】
工程A~Fを経て得られた架橋発泡粒子は、該架橋発泡粒子を10℃/分の加熱速度で23℃から200℃まで加熱して得られるDSC曲線において、TPOに固有の融解ピーク(固有ピーク)と、固有ピークよりも高温側に1以上の融解ピーク(高温ピーク)とが現れる結晶構造を有する。高温ピークは、架橋発泡粒子の第1回加熱のDSC曲線には現れるが、第1回加熱の後、10℃/分の冷却速度で200℃から23℃まで冷却し、再び10℃/分の加熱速度で23℃から200℃まで加熱して得られる第2回加熱のDSC曲線には現れない。第2回加熱のDSC曲線には固有ピークと同様な位置に、TPOが本来有する結晶に由来する吸熱ピークのみが現れるため、固有ピークと高温ピークとを、容易に判別できる。
【0081】
[発泡粒子成形体]
本発明の架橋発泡粒子を型内成形することにより発泡粒子成形体を得ることができる。本発明の架橋発泡粒子は、10℃/分の加熱速度で23℃から200℃まで加熱して得られるDSC曲線において、固有ピークPと高温ピークPとが現れる結晶構造を有し、かつ高温ピークPの融解熱量(B)が5J/g以上である結晶構造を有する。これにより、着色剤を含む架橋発泡粒子であっても型内成形性に優れ、色ムラが少ない、発泡粒子成形体が得られる。
【0082】
(型内成形)
架橋発泡粒子を成形型内に充填し、スチーム等の加熱媒体を用いて加熱成形する、従来公知の方法により、発泡粒子成形体を得ることができる。具体的には、架橋発泡粒子を成形型内に充填した後、成形型内にスチーム等の加熱媒体を導入することにより、架橋発泡粒子を加熱して二次発泡させると共に、架橋発泡粒子同士を相互に融着させて成形空間の形状が賦形された発泡粒子成形体を得ることができる。また、架橋発泡粒子を成形型内に充填する方法としては、公知の方法を採用することができる。架橋発泡粒子の二次発泡力を過度に向上させない範囲で、例えば、架橋発泡粒子を加圧気体で加圧処理して、架橋発泡粒子に所定の内圧を付与してから型内に充填する方法(加圧充填法)、架橋発泡粒子を加圧気体で圧縮した状態で加圧された型内に充填し、その後型内の圧力を開放する方法(圧縮充填法)、架橋発泡粒子を型内に充填する前に予め型を開いて成形空間を広げておき、充填後に型を閉じることで架橋発泡粒子を機械的に圧縮する方法(クラッキング充填法)や、これらの組み合わせによる充填方法等も採用することもできる。
【0083】
(成形体密度)
発泡粒子成形体の見掛け密度(成形体密度)は、好ましくは40~300kg/m、より好ましくは40~250kg/m、更に好ましくは45~200kg/m、より更に好ましくは50~180kg/mである。
上記成形体密度が上記範囲であると、軽量性、柔軟性、反発性、回復性、及び引張特性がバランスよく優れている発泡粒子成形体となる。
成形体密度(kg/m)は、成形体の重量W(kg)を、成形体の外形寸法から求められる体積V(m)で除すること(W/V)で求められる。
【0084】
(成形体の引張特性)
JIS K6767:1999に準拠して発泡粒子成形体の引張試験を行った際に下記の引張特性を備えることが好ましい。
発泡粒子成形体の引張強さ(a)は、好ましくは0.30~1.5MPa、より好ましくは0.40~1.5MPa、更に好ましくは0.45~1.3MPa、より更に好ましくは0.48~1.2MPaである。
発泡粒子成形体の引張伸び(b)は、好ましくは150~400%、より好ましくは180~350%、更に好ましくは200~300%、より更に好ましくは200~280%である。
発泡粒子成形体の引張り強さ(a)[MPa]と引張り伸び(b)[%]との積(a)×(b)は、好ましくは100以上、より好ましくは100~300、更に好ましくは100~250、より更に好ましくは110~230である。
上記引張強さ(a)、引張伸び(b)、及び(a)×(b)が上記範囲であると、優れた強度を有しながら柔軟性も有するためシートクッション材、スポーツパッド材、靴底材等の用途に好適なものとなる。
【実施例
【0085】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。
【0086】
以下に示す方法で、実施例1~8、及び比較例1~9の架橋発泡粒子を製造した。
[架橋発泡粒子の製造方法]
<TPO>
基材重合体であるTPOとして、ポリエチレンをハードブロックとし、エチレン/α-オレフィン共重合体をソフトブロックとするマルチブロック共重合体であるオレフォン系熱可塑性エラストマー(ダウ・ケミカル社製「インフューズ(INFUSE(登録商標)) 9530」)(以下「TPO(1)」と称す)を使用した。
TPO(1)の物性は、密度が887g/L、タイプAデュロメータ硬さ(ショアA硬度)が86、メルトフローレイト(MFR)が5.4g/10分(温度190℃、荷重2.16kg)、曲げ弾性率が28MPa、融点が120℃、融解終了温度が125℃であった。
【0087】
<TPOの物性の測定方法>
密度はASTM D792-13に準拠し、タイプAデュロメータ硬さ(ショアA硬度)はASTM D2240-05に準拠し、メルトフローレイト(MFR)はJIS K7210-1:2014に準拠し、曲げ弾性率はJIS K7171:2008に準拠して、それぞれ測定した。
また、融点は、JIS K7121-1987に準拠し、TPOの融解ピーク温度及び融解終了温度を求めた。具体的には、ペレット状のTPO約5mgを試験片として、熱流束示差走査熱量測定法に基づき、試験片の状態調節として「(2)一定の熱処理を行った後、融解温度を測定する場合」を採用し、加熱速度10℃/分及び冷却速度10℃/分、窒素流入量30mL/分の条件下で、TPOの融解ピーク温度(融点)及び融解終了温度を測定した。
なお、測定装置として、熱流束示差走査熱量測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製「DSC7020」)を用いた。
【0088】
<着色剤>
実施例、比較例で使用した着色剤の性状等を表1に示した。
【0089】
【表1】
【0090】
(実施例1)
1.工程A(重合体粒子を得る工程)
基材重合体として既述のTPO(1)と、TPO(1)100重量部に対して、着色剤として表1に示す青色顔料マスターバッチ0.23重量部と、気泡調整剤としてホウ酸亜鉛(ZnB)(富田製薬社製「ホウ酸亜鉛2335」、平均粒子径d50:6μm)0.10重量部とを、押出機に供給し、TPO(1)を溶融させると共に、これらを混錬して溶融混錬物とした。次いで、該溶融混錬物を押出機に付設されたダイの孔径2mmの小孔を通してストランド状に押し出し、該ストランドを水冷した後に、ペレタイザーにて粒子重量が約5mgとなるように切断して、重合体粒子を得た。
【0091】
2.工程B(分散工程)
撹拌機を備えた内容積400Lのオートクレーブ内に、分散媒である水250Lと、上記で得られた重合体粒子50kg(乾燥済み)とを仕込んだ。
更に、分散媒に、分散剤としてカオリン300g(重合体粒子100重量部に対して0.6重量部)と、界面活性剤としてアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム20g(重合体粒子100重量部に対して0.04重量部)と、架橋剤としてジクミルパーオキサイド(10時間半減期温度:116.4℃、1分間半減期温度:175.2℃)275g(重合体粒子100重量部に対して0.55重量部)とを添加し、オートクレーブ内の圧力が1.0MPa(G)となるようにpH調整剤として二酸化炭素を圧入し、撹拌しながら分散媒中に重合体粒子を分散させた。
【0092】
3.工程C(架橋工程)
次いで、撹拌下で、オートクレーブ内の温度を160℃(架橋温度)まで2.0℃/分の昇温速度で昇温し、160℃で60分間保持することにより、重合体粒子に架橋剤を含浸させつつ、重合体粒子に含まれるTPO(1)を架橋させた。
次いで、密閉容器内の温度を50℃(抜き出し温度)まで1.0℃/分の降温速度で降温した後、密閉容器内から重合体架橋粒子を取り出した。
【0093】
4.工程D(発泡剤含浸工程)及び工程E(結晶化工程)
撹拌機を備えた内容積5Lのオートクレーブ内に、分散媒である水3Lと、上記で得られた重合体架橋粒子1kg(乾燥済み)とを仕込み、撹拌しながら分散媒中にて重合体架橋粒子を分散させた。
更に、分散媒に、分散剤としてカオリン3g(重合体架橋粒子100重量部に対して0.3重量部)と、界面活性剤としてアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.04g(重合体架橋粒子100重量部に対して0.004重量部)と、発泡剤としてドライアイス40g(重合体架橋粒子100重量部に対して4.0重量部)とを添加した。
次いで、撹拌下で、オートクレーブ内の温度を119℃(結晶化処理温度)まで2.0℃/分の昇温速度で昇温し、オートクレーブ内の圧力が2.5MPa(G)となるように二酸化炭素を圧入し、119℃で15分間保持することにより、重合体架橋粒子に発泡剤を含浸させると共に、高ポテンシャルの結晶を生成させた。
【0094】
5.工程F(発泡工程)
その後、撹拌を止め、119℃(発泡温度)でオートクレーブ内の内容物を大気圧下に放出して、発泡剤を含む重合体架橋粒子(発泡性架橋粒子)を発泡させて、実施例1の架橋発泡粒子を得た。
なお、オートクレーブ内の内容物を放出させる直前のオートクレーブ内の圧力(発泡圧力)は2.5MPa(G)であった。
【0095】
(実施例2)
発泡剤の添加量を3.0重量部に変更したこと、結晶化処理温度を118℃に変更したこと、オートクレーブ内の圧力が2.2MPa(G)となるように二酸化炭素を圧入したこと、発泡温度を118℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして実施例2の架橋発泡粒子を得た。
なお、発泡圧力は2.2MPa(G)であった。
【0096】
(実施例3)
発泡剤の添加量を3.0重量部に変更したこと、オートクレーブ内の圧力が2.4MPa(G)となるように二酸化炭素を圧入したこと以外は実施例1と同様にして実施例3の架橋発泡粒子を得た。
なお、発泡圧力は2.4MPa(G)であった。
【0097】
(実施例4)
架橋剤の添加量を0.60重量部に変更したこと、発泡剤の添加量を3.0重量部に変更したこと以外は実施例1と同様にして実施例4の架橋発泡粒子を得た。
なお、発泡圧力は2.4MPa(G)であった。
【0098】
(実施例5)
着色剤を表1に示す黄色顔料マスターバッチ0.26重量部に変更したこと、結晶化処理温度を118℃に変更したこと、発泡温度を118℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして実施例5の架橋発泡粒子を得た。
なお、発泡圧力は2.5MPa(G)であった。
【0099】
(実施例6)
着色剤を表1に示す黄色顔料マスターバッチ0.26重量部に変更したこと、発泡剤の添加量を3.0重量部に変更したこと、結晶化処理温度を118℃に変更したこと、オートクレーブ内の圧力が2.2MPa(G)となるように二酸化炭素を圧入したこと、発泡温度を118℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして実施例6の架橋発泡粒子を得た。
なお、発泡圧力は2.2MPa(G)であった。
【0100】
(実施例7)
着色剤を表1に示す黄色顔料マスターバッチ0.26重量部に変更したこと、発泡剤の添加量を3.0重量部に変更し、結晶化処理温度を118℃に変更したこと、オートクレーブ内の圧力が2.4MPa(G)となるように二酸化炭素を圧入したこと、発泡温度を118℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして実施例7の架橋発泡粒子を得た。
なお、発泡圧力は2.4MPa(G)であった。
【0101】
(実施例8)
着色剤を表1に示す黒色顔料マスターバッチ2.00重量部に変更し、結晶化処理温度を118℃に変更し、オートクレーブ内の圧力が2.6MPa(G)となるように二酸化炭素を圧入し、発泡温度を118℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして実施例8の架橋発泡粒子を得た。
なお、発泡圧力は2.6MPa(G)であった。
【0102】
(比較例1)
1.工程A(重合体粒子を得る工程)
基材重合体として既述のTPO(1)と、TPO(1)100重量部に対して、着色剤として表1に示す青色顔料マスターバッチ0.23重量部と、気泡調整剤としてホウ酸亜鉛(ZnB)(富田製薬社製「ホウ酸亜鉛2335」、平均粒子径d50:6μm)0.10重量部とを、押出機に供給し、TPO(1)を溶融させると共に、これらを混錬して溶融混錬物とした。次いで、該溶融混錬物を押出機に付設されたダイの孔径2mmの小孔を通してストランド状に押し出し、該ストランドを水冷した後に、ペレタイザーにて粒子重量が約5mgとなるように切断して、重合体粒子を得た。
【0103】
2.工程B(分散工程)
撹拌機を備えた内容積5Lのオートクレーブ内に、分散媒である水3Lと、上記で得られた重合体粒子1kg(乾燥済み)とを仕込んだ。
更に、分散媒に、分散剤としてカオリン3g(重合体粒子100重量部に対して0.3重量部)と、界面活性剤としてアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.04g(基材重合体粒子100重量部に対して0.004重量部)と、架橋剤としてジクミルパーオキサイド(10時間半減期温度:116.4℃、1分間半減期温度:175.2℃)8g(重合体粒子100重量部に対して0.8重量部)と、発泡剤及びpH調整剤としてドライアイス40g(重合体架橋粒子100重量部に対して4.0重量部)とを添加し、撹拌しながら分散媒中に重合体粒子を分散させた。
【0104】
3.工程C(架橋工程)、工程D(発泡剤含浸工程)、工程F(発泡工程)
次いで、撹拌下で、オートクレーブ内の温度を110℃(架橋剤の含浸温度)まで2.0℃/分の昇温速度で昇温し、110℃で30分間保持し、更に、オートクレーブ内の温度を160℃(架橋温度)まで2.0℃/分の昇温速度で昇温し、160℃で30分間保持した。これらの工程中に、重合体架橋粒子中に発泡剤である二酸化炭素が含浸された。保持終了後、撹拌を止め、オートクレーブ内の内容物を大気圧下に放出して、発泡剤を含む重合体架橋粒子(発泡性架橋粒子)を発泡させて、比較例1の架橋発泡粒子を得た。
なお、発泡圧力は2.5MPa(G)であった。
【0105】
(比較例2)
ドライアイスの添加量を2.5重量部に変更したこと以外は比較例1と同様にして比較例2の架橋発泡粒子を得た。
なお、発泡圧力は1.8MPa(G)であった。
【0106】
(比較例3)
気泡調整剤をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(セイシン企業社製「TFW-1000」、平均粒子径d50:10μm)に変更したこと、ドライアイスの添加量を5.0重量部に変更したこと以外は比較例1と同様にして比較例3の架橋発泡粒子を得た。
なお、発泡圧力は3.0MPa(G)であった。
【0107】
(比較例4)
着色剤の添加量を1.15重量部に変更したこと、ドライアイスの添加量を5.0重量部に変更したこと以外は比較例1と同様にして比較例4の架橋発泡粒子を得た。
なお、発泡圧力は3.0MPa(G)であった。
【0108】
(比較例5)
着色剤を表1に示す黒色顔料マスターバッチ2.80重量部に変更したこと、ドライアイスの添加量を2.0重量部に変更したこと以外は比較例1と同様にして比較例5の架橋発泡粒子を得た。
なお、発泡圧力は1.5MPa(G)であった。
【0109】
(比較例6)
着色剤を表1に示す黒色顔料マスターバッチ0.40重量部に変更したこと、ドライアイスの添加量を3.0重量部に変更したこと以外は比較例1と同様にして比較例6の架橋発泡粒子を得た。
なお、発泡圧力は2.0MPa(G)であった。
【0110】
(比較例7)
着色剤を表1に示す黒色顔料マスターバッチ2.8重量部に変更したこと、ドライアイスの添加量を3.0重量部に変更したこと以外は比較例1と同様にして比較例7の架橋発泡粒子を得た。
なお、発泡圧力は2.0MPa(G)であった。
【0111】
(比較例8)
ドライアイスの添加量を3.5重量部に変更したこと以外は比較例1と同様にして比較例8の架橋発泡粒子を得た。
なお、発泡圧力は2.3MPa(G)であった。
【0112】
(比較例9)
気泡調整剤をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(セイシン企業社製「TFW-1000」、平均粒子径d50:10μm)に変更したこと、架橋剤の添加量を0.60重量部に変更したこと、発泡剤の添加量を5.0重量部に変更したこと、結晶化処理温度を121℃に変更したこと、オートクレーブ内の圧力が3.0MPa(G)となるように二酸化炭素を圧入したこと、発泡温度を121℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして比較例9の架橋発泡粒子を得た。
なお、発泡圧力は3.0MPa(G)であった。
【0113】
[架橋発泡粒子の物性評価]
実施例1~8、及び比較例1~9の架橋発泡粒子を相対湿度50%、23℃、1atmの条件にて2日間放置して、架橋発泡粒子の状態調節を行った後に、以下に示す物性評価を行なった。評価結果を表2及び表4に示した。
【0114】
(見掛け密度)
200mLのメスシリンダーに23℃のエタノールを100mL入れ、予め重量Wa(g)を秤量した嵩体積約50mLの架橋発泡粒子を、金網を使用してエタノール中に沈め、水位が上昇した分の体積Va(cm)を読み取った。Wa/Vaを求め、kg/mに単位換算することにより架橋発泡粒子の見掛け密度(kg/m)とした。
なお、前記測定は、気温23℃、相対湿度50%の大気圧下において行われた。
【0115】
(気泡径の平均値、及び気泡径の変動係数)
架橋発泡粒子群から無作為に10個の発泡粒子を選択した。架橋発泡粒子の中心部分を通るように架橋発泡粒子を略二分割し、その切断面の拡大倍率50倍の拡大写真を撮影した。得られた断面の拡大写真において、架橋発泡粒子切断面にある気泡を無作為に50個選択し、ナノシステム社製の画像処理ソフトNS2K-proを使用して、選択した各気泡の断面の面積を測定し、その面積と同じ面積を有する仮想真円の直径を各気泡の気泡径とした。この操作を10個の発泡粒子について行い、各気泡の気泡径の算術平均値を架橋発泡粒子の気泡径の平均値(平均気泡径)とした。
架橋発泡粒子の気泡径の標準偏差を架橋発泡粒子の気泡の平均気泡径で除することで気泡径の変動係数を求めた。
なお、不偏分散の平方根を前記標準偏差とした。
【0116】
(熱キシレン不溶分)
架橋発泡粒子の試料約1gを秤量し、試料重量W1bとした。秤量した架橋発泡粒子を150mLの丸底フラスコに入れ、100mLのキシレンを加え、マントルヒーターで加熱して6時間還流させた後、溶け残った残査を100メッシュの金網でろ過して分離し、金網上に捕捉された残渣を80℃の減圧乾燥器で8時間乾燥した。この際に得られた乾燥物(熱キシレン不溶分)を秤量し、乾燥物重量W2bとした。この乾燥物重量W2bの試料重量W1bに対する重量百分率[(W2b/W1b)×100](重量%)を、架橋発泡粒子の熱キシレン不溶分とした。
なお、架橋発泡粒子を型内成形する工程においては、熱キシレン不溶分の割合が変化することはなく、発泡粒子成形体においても架橋発泡粒子と同様の熱キシレン不溶分の割合となる。
【0117】
(高温ピークPの温度、固有ピークPの温度、高温ピークPの融解熱量(B)、全融解熱量[(A)+(B)]、(B)/[(A)+(B)])
架橋発泡粒子を略2等分に切断して約2.5mgの試験片とし、図1を用いて説明した既述の手法により、該試験片を熱流束示差走査熱量計によって23℃から200℃まで10℃/分の加熱速度で加熱したときに得られるDSC曲線から高温ピーク熱量(B)と全融解熱量〔(A)+(B)〕を求め、全融解熱量に対する高温ピークの融解熱量の比「(B)/〔(A)+(B)〕」を算出した。
また、固有ピークの融解ピーク温度を固有ピーク温度とし、高温ピークの融解ピーク温度を高温ピーク温度とした。
なお、測定装置として、熱流束示差走査熱量測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製「DSC7020」)を用いた。窒素流入量は30mL/分とした。
【0118】
[発泡粒子成形体の製造方法]
実施例、及び比較例により得られた架橋発泡粒子は、それぞれの密閉容器に投入し、圧縮空気で12時間密閉容器内の圧力を0.2MPa(G)に加圧して、架橋発泡粒子内に内圧を付与した。密閉容器からそれぞれ取り出した架橋発泡粒子の内圧は0.2MPa(絶対圧)であった。
内圧が付与された架橋発泡粒子を縦250mm、横200mm、厚み20mmの平板形状の成形空間を有する金型に、金型を完全に閉めた状態から4mm開いた状態(金型の成形空間の厚み方向の長さ24mm)で充填し、充填完了後、金型を完全に閉じた(クラッキング4mm、20%)。その後、金型内の圧力が0.10MPa(G)となるように、水蒸気を金型内に供給して架橋発泡粒子を加熱し、架橋発泡粒子を二次発泡させると共に架橋発泡粒子同士を相互に融着させた。このときの圧力を以下「成形圧」とも言う。冷却後、金型より発泡粒子成形体を取り出し、さらに該発泡粒子成形体を60℃に調整されたオーブン内で12時間加熱して乾燥させて、平板状の発泡粒子成形体を得た。
成形圧を0.02MPaずつ0.30MPa(G)まで変化させて、同様にして、発泡粒子成形体を製造した。
実施例1~8、及び比較例1~9の発泡粒子成形体を対象として、融着性、外観(ボイドの度合い)、回復性(成形後の膨張又は収縮の回復性)の観点から、以下の基準で成形性を評価した。評価結果を表3及び表5に示した。
【0119】
[発泡粒子成形体の成形性評価]
(融着性)
発泡粒子成形体を折り曲げて破断し、破断面に存在する架橋発泡粒子の数(C1)と破壊した架橋発泡粒子の数(C2)とを求め、上記架橋発泡粒子に対する破壊した架橋発泡粒子の比率(C2/C1×100)を材料破壊率として算出した。異なる試験片を用いて前記測定を5回行い、それぞれの材料破壊率を求め、それらを算術平均した値を発泡粒子成形体の材料破壊率とし、以下の基準で発泡粒子成形体の融着性を評価した。
A:材料破壊率90%以上
B:材料破壊率20%以上90%未満
C:材料破壊率20%未満
【0120】
(外観(ボイドの度合い))
発泡粒子成形体の板面の中央部に100mm×100mmの矩形を描き、矩形状のエリアの角から対角線上に線を引き、その線上の1mm×1mmの大きさ以上のボイド(間隙)の数を数え、以下の基準で発泡粒子成形体の表面外観を評価した。
A:ボイドの数が5個未満
B:ボイドの数が5個以上10個未満
C:ボイドの数が10個以上
【0121】
(回復性)
発泡粒子成形体の中央部分と四隅部分の厚みをそれぞれ測定し、四隅部分のうち最も厚みが厚い部分に対する中央部分の厚みの比を算出し、以下の基準で発泡粒子成形体の回復性を評価した。
A:厚み比が95%以上
B:厚み比が90%以上95%未満
C:厚み比が90%未満
【0122】
(成形範囲)
融着性、外観、及び回復性の全ての評価がAとなる成形圧を成形可能範囲として表2と表4中の「成形性評価」欄の「成形可能範囲」欄に記載した。また、融着性、外観、及び回復性の全ての評価がAとなる成形圧が4点以上ある場合を「A」、3点ある場合を「B」、2点ある場合を「C」、1点ある場合を「D」と評価し、「成形性評価」欄の「評価」欄に示した。
なお、成形圧を変えた場合であっても、広い成形圧範囲にわたって評価の高い発泡粒子成形体が得られる場合には、成形可能条件幅が広く、より型内成形性に優れた架橋発泡粒子であると判断できる。
また、低い成形圧で成形できる場合は、成形サイクルが短縮され生産性が向上するため、発泡粒子成形体の生産性に優れた架橋発泡粒子であるとも言える。
【0123】
[発泡粒子成形体の物性評価]
成形圧を0.20MPa(G)として得られた実施例1~8、及び比較例1~9の発泡粒子成形体を相対湿度50%、23℃、1atmの条件にて2日間それぞれ放置して状態調節した後に、以下に示す物性評価を行なった。評価結果を表2及び表4に示した。
なお、比較例9においては、良好な発泡粒子成形体が得られなかったため、以下に示す物性評価を行なわなかった。
【0124】
(見掛け密度(成形体密度))
発泡粒子成形体の無作為に選択した箇所から、成形時のスキン層が含まれないように、縦50mm×横50mm×厚み25mmの直方体状の試験片を3つ切り出し、それぞれの試験片の重量及び外形寸法を測定した。
試験片の重量W(kg)を試験片の外形寸法から求めた体積V(m)で除することで密度W/V(kg/m)を算出した。3つの試験片の密度をそれぞれ算出して、その算術平均値を発泡粒子成形体の見掛け密度(成形体密度)とした。
【0125】
(引張強さ(a)、引張伸び(b)、(a)×(b))
先ず、JIS K6767:1999に準拠し、バーチカルスライサーを用いて、全ての面が切り出し面となるように、発泡粒子成形体から120mm×25mm×10mmの直方体を切り出して切り出し片を作製した。切り出し片を、糸鋸を用いてダンベル状1号形(測定部の長さ40mm、幅10mm、厚み10mm)に切り抜き、試験片とした。
この試験片について、JIS K6767:1999に基づき、500mm/minの試験速度で引張試験を実施し、発泡粒子成形体の破断時の引張強さ(a)及び引張伸び(b)を測定した。
【0126】
(色ムラ)
発泡粒子成形体表面を目視により観察し、色調の状態を以下に示す3段階の基準で評価した。
○:発泡粒子成形体表面で色調の濃淡はほとんど観察されず、色ムラが少ない発泡粒子成形体が得られた。
△:架橋発泡粒子成形体表面で色調の濃淡が多少観察され、色ムラが多少ある発泡粒子成形体が得られた。
×:発泡粒子成形体表面で色調の濃淡が多数観察され、色ムラが多い発泡粒子成形体が得られた。
【0127】
【表2】


【0128】
【表3】

【0129】
【表4】

【0130】
【表5】
【0131】
(結果のまとめ)
比較例1~8の架橋発泡粒子は、高温ピークが現れる結晶構造を有さなかったことに起因して、色ムラの少ない発泡粒子成形体は得られず、また、実施例の架橋発泡粒子に比べて、型内成形性に劣るものであった。
また、比較例9の架橋発泡粒子は、高温ピークが現れる結晶構造を有するが、高温ピークPの融解熱量(B)が5J/g未満であったことに起因して、良好な発泡粒子成形体が得られなかった。
これに対して、実施例1~8の架橋発泡粒子は、高温ピークが現れる結晶構造を有し、且つ、高温ピークPの融解熱量(B)が5J/g以上であったことに起因して、型内成形性に優れており、且つ、色ムラも少ない発泡粒子成形体が得られた。
【符号の説明】
【0132】
融解ピーク(固有ピーク)
融解ピーク(高温ピーク)
PTma 頂点温度
PTmb 頂点温度
A 固有ピークの面積
B 高温ピークの面積
図1