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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-25
(45)【発行日】2022-09-02
(54)【発明の名称】SiCエピタキシャルウェハの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20220826BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20220826BHJP
   H01L 21/66 20060101ALI20220826BHJP
   C30B 29/36 20060101ALI20220826BHJP
   C30B 25/20 20060101ALI20220826BHJP
【FI】
H01L21/205
H01L21/20
H01L21/66 N
C30B29/36 A
C30B25/20
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018211273
(22)【出願日】2018-11-09
(65)【公開番号】P2020077807
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2021-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】西原 禎孝
【審査官】長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-094700(JP,A)
【文献】特開2009-088223(JP,A)
【文献】特開2013-058709(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205
H01L 21/20
H01L 21/66
C30B 29/36
C30B 25/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC基板の第一面の基底面転位密度を測定する測定工程と、
前記測定工程の測定結果に基づいて、前記SiC基板の前記第一面に積層するエピタキシャル層の層構成を決定する層構成決定工程と、
前記層構成決定工程の結果に基づいて、前記SiC基板の第一面にエピタキシャル層を積層する積層工程と、を有し、
前記層構成決定工程では、前記基底面転位密度が所定値未満の場合は、
前記エピタキシャル層を前記SiC基板側から変換層と、ドリフト層とし、
前記層構成決定工程では、前記基底面転位密度が所定値以上の場合は、
前記エピタキシャル層を前記SiC基板側から変換層と、再結合層と、ドリフト層とし、
前記変換層は、前記SiC基板より低い不純物濃度を有し、
前記再結合層は、前記変換層と同等かそれより不純物濃度が高い、SiCエピタキシャルウェハの製造方法。
【請求項2】
前記所定値を500/cmとする、請求項1に記載のSiCエピタキシャルウェハの製造方法。
【請求項3】
前記測定工程の前に、代表基板を決定する代表基板決定工程を有し、
前記代表基板決定工程は、同一のSiCインゴットから切り出された複数のSiC基板のうち、少なくとも1枚のSiC基板を代表基板として決定する工程であり、
前記測定工程は、第1工程と、第2工程とを有し、
前記第1工程は、前記代表基板の第一面の基底面転位密度を測定する工程であり、
前記第2工程は、前記複数のSiC基板の基底面転位密度は、前記代表基板の基底面転位密度と同一であると判断する工程である、請求項1または2に記載のSiCエピタキシャルウェハの製造方法。
【請求項4】
前記代表基板決定工程は、
前記SiCインゴットの成長終了位置を0とし、前記SiCインゴットの成長開始位置を1としたとき、
前記代表基板の少なくとも1枚を、0.35~0.45の位置から切り出されたSiC基板から決定する、請求項3に記載のSiCエピタキシャルウェハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はSiCエピタキシャルウェハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて絶縁破壊電界が1桁大きく、バンドギャップが3倍大きく、熱伝導率が3倍程度高い。そのため、炭化珪素(SiC)は、パワーデバイス、高周波デバイス、高温動作デバイス等への応用が期待されている。
【0003】
SiCデバイスの実用化の促進には、高品質かつ低コストのSiCエピタキシャルウェハ、及びエピタキシャル成長技術の確立が求められている。
【0004】
SiCデバイスは、SiC基板と当該基板上に積層されたエピタキシャル層とを備えるSiCエピタキシャルウェハに形成される。SiC基板は、昇華再結晶法等で成長させたSiCのバルク単結晶から加工して得られる。エピタキシャル層は、化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition:CVD)等によって作製され、デバイスの耐圧維持領域となる。
【0005】
エピタキシャル層は、より具体的には、(0001)面から<11-20>方向にオフ角を有する面を成長面とし、SiC基板上に形成される。エピタキシャル層は、SiC基板上にステップフロー成長(原子ステップからの横方向成長)し、4H-SiCとなる。
【0006】
SiCエピタキシャルウェハにおいて、SiCデバイスに致命的な欠陥を引き起こすデバイスキラー欠陥の一つとして、基底面転位(Basal plane dislocation:BPD)が知られている。たとえば、バイポーラデバイスに順方向に電流を流した際に、流れるキャリアの再結合エネルギーによって、SiC基板からエピタキシャル層に引き継がれた基底面転位の部分転位が移動、拡張し高抵抗な積層欠陥を形成する。そして、デバイス内に高抵抗部が生じると、デバイスの信頼性低下を引き起こす(順方向劣化)。そのため、エピタキシャル層に引き継がれる基底面転位の低減がこれまで行われてきた。
【0007】
SiC基板中における基底面転位の多くは、エピタキシャル層が形成される際に欠陥拡張が生じない貫通刃状転位(Threading edge dislocation:TED)に変換することができる(特許文献1)。
しかし、順方向に大電流を流した場合には、SiC基板とエピタキシャル層の界面で貫通刃状転位に変換された基底面転位もまた、エピタキシャル層中で積層欠陥(Stacking Fault:SF)に拡張することが近年明らかになってきた。そのため、今後の市場拡大が予想される大電流パワーデバイスは、基底面転位を貫通刃状転位に変換しただけでは積層欠陥の形成を十分に抑制できず、デバイスの信頼性悪化の懸念が常に付きまとう。
【0008】
特許文献2には、SiCエピタキシャルウェハ内に通常のエピタキシャル層とは別に、さらに不純物濃度の高いエピタキシャル層を形成することで、SiC基板とエピタキシャル層の界面での基底面転位から貫通刃状転位への変換効率を高めることが記載されている。基底面転位への変換効率を高めることで、基底面転位の伸長および拡張が抑制できる。基底面転位の伸長及び拡張は、デバイスの順方向劣化の原因である。そのため、高不純物濃度のエピタキシャル層の形成は、SiCエピタキシャルウェハを用いたSiCデバイスの順方向劣化を抑制する有力な解決策と考えられてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2009-88223号公報
【文献】国際公開第2017/094764号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、SiC基板よりも不純物濃度の高いエピタキシャル層(再結合層)を形成する工程を追加することで、元々高価なSiCエピタキシャルウェハのコストはさらに増大し、ひいてはSiCデバイスの生産における製造コストの増大につながる。一方で、順方向劣化はSiCデバイスの初期特性評価で検知することが難しく、順方向劣化を生じやすいSiCデバイスを流出させてしまう恐れがあるため、順方向劣化が生じにくいSiCエピタキシャルウェハが強く求められている。
【0011】
従って、順方向に電流を流した際に、順方向劣化が生じにくく、かつ低コストなSiCエピタキシャルウェハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明は、鋭意検討の結果、SiC基板上にエピタキシャル層を形成する場合に、再結合層を設ける方が良い場合と、逆に設けない方が良い場合とがあることを見出した。またSiC基板の基底面転位密度を基に、再結合層を形成すべきか否かを判断できることを見出した。
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0013】
(1)本発明の一態様に係るSiCエピタキシャルウェハの製造方法は、SiC基板の第一面の基底面転位密度を測定する測定工程と、前記測定工程の測定結果に基づいて、前記SiC基板の前記第一面に積層するエピタキシャル層の層構成を決定する層構成決定工程と、前記層構成決定工程の結果に基づいて、前記SiC基板の第一面にエピタキシャル層を積層する積層工程と、を有し、前記層構成決定工程では、前記基底面転位密度が所定値未満の場合は、前記エピタキシャル層を前記SiC基板側から変換層と、ドリフト層とし、前記層構成決定工程では、前記基底面転位密度が所定値以上の場合は、前記エピタキシャル層を前記SiC基板側から変換層と、再結合層と、ドリフト層とし、前記変換層は、前記SiC基板より低い不純物濃度を有し、前記再結合層は、前記変換層と同等かそれより不純物濃度が高い。
【0014】
(2)上記態様に係るSiCエピタキシャルウェハの製造方法は、前記所定値を500cm-2としてもよい。
【0015】
(3)上記態様にかかるSiCエピタキシャルウェハの製造方法は、前記測定工程の前に、代表基板を決定する代表基板決定工程を有し、前記代表基板決定工程は、同一のSiCインゴットから切り出された複数のSiC基板のうち、少なくとも1枚のSiC基板を代表基板として決定する工程であり、前記測定工程は、第1工程と、第2工程とを有してもよく、前記第1工程は、前記代表基板の第一面の基底面転位密度を測定する工程であり、前記第2工程は、前記複数のSiC基板の基底面転位密度は、前記代表基板の基底面転位密度と同一であると判断する工程であってもよい。
【0016】
(4)上記態様にかかるSiCエピタキシャルウェハの製造方法は、前記代表基板決定工程において、前記SiCインゴットの成長終了位置を0とし、前記SiCインゴットの成長開始位置を1としたとき、前記代表基板の少なくとも1枚を、0.35~0.45の位置から切り出されたSiC基板から決定してもよい。
【発明の効果】
【0017】
上記態様に係るSiCエピタキシャルウェハの製造方法によれば、順方向に電流を流した際に、順方向劣化が生じにくい低コストなSiCエピタキシャルウェハの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係るSiCエピタキシャルウェハの製造方法により製造されるSiCエピタキシャルウェハの斜視図である。
図2】本発明の一実施形態にかかるSiCエピタキシャルウェハの製造方法により製造されるSiCエピタキシャルウェハの要部の斜視図である。
図3】SiCインゴット内におけるBPD密度の分布の一例を示すグラフである。
図4】本発明の一実施形態にかかるSiCエピタキシャルウェハの製造方法により製造されるSiCエピタキシャルウェハの断面図である。
図5】本発明の一実施形態にかかるSiCエピタキシャルウェハの製造方法により製造されるSiCエピタキシャルウェハの別の例の断面図である。
図6】BPD密度と、SiCエピタキシャルウェハに生じる順方向劣化の程度と、の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本実施形態について添付図面を参照して、本実施形態について詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴を分かりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材質、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0020】
(SiCエピタキシャルウェハの製造方法)
本実施形態にかかるSiCエピタキシャルウェハの製造方法は、SiC基板の第一面の基底面転位密度を測定する測定工程と、測定工程の測定結果に基づいて、SiC基板の第一面に積層するエピタキシャル層の層構成を決定する層構成決定工程と、層構成決定工程の結果に基づいて、SiC基板の第一面にエピタキシャル層を積層する積層工程と、を有する。
【0021】
図1は、本実施形態にかかるSiCエピタキシャルウェハの製造方法により製造されるSiCエピタキシャルウェハの斜視図である。SiCエピタキシャルウェハ1は、SiC基板10とエピタキシャル層20とを有する。SiC基板10は、昇華法等により作製されたSiC単結晶をスライスすること等により得られる。エピタキシャル層20は、化学気相成長法等によりSiC基板10上に形成された層である。本明細書において、SiCエピタキシャルウェハ1はエピタキシャル層20を形成後のウェハを意味し、SiC基板10はエピタキシャル膜20を形成前のウェハを意味する。
【0022】
(測定工程)
測定工程では、SiC基板10の第一面10aの基底面転位密度を測定する。基底面転位密度とは、SiC基板10に存在する基底面転位の密度のことをいう。
図2は、SiCエピタキシャルウェハ1の要部の斜視図である。図2(a)は、順方向に電流を流す前のSiCエピタキシャルウェハ1であり、図2(b)は、順方向に電流を流した後のSiCエピタキシャルウェハ1である。
【0023】
SiC基板10には、基底面転位(BPD)11が存在する。基底面転位11は、SiC単結晶の基底面である(0001)面に存在する転位のことをいう。基底面転位11には、エピタキシャル層20内において、貫通刃状転位12に変換されるものと、基底面転位11として残存するものと、がある。貫通刃状転位12は、基底面から直交する向きに生じる転位のことをいう。基底面転位11または基板とエピタキシャル層の界面で変換した貫通刃状転位12は、順方向に電流を流した際に、積層欠陥13を形成するものがある。積層欠陥13は、抵抗成分となるため、積層欠陥13が生じることにより順方向の抵抗が増大する。積層欠陥13は、順方向劣化(VF劣化)の原因となる。
【0024】
測定工程を行うにあたって、まず、SiC基板10を準備する。SiC基板10の製造方法は特に問わない。例えば、昇華法等で得られたSiCインゴットをスライスすることで得られる。
SiC基板10は、例えば、窒素がドーピングされている。SiC基板10の不純物濃度は、例えば1×1018cm-3以上、2×1019cm-3以下である。
【0025】
次に、用意したSiC基板の結晶欠陥を測定する。測定した結晶欠陥のうち、基底面転位密度(BPD密度)を測定する。測定の手法は特に問わないが、X線トポグラフィ測定等を用いて行う。
X線トポグラフィ測定では、例えばシンクロトロン放射光をSiC基板の面方位(11-28)に対して放射する。放射したSiCウェハから反射されるX線回折光を観測する。観測したX線回折光からトポグラフィ像を取得する。記録媒体として高解像度のX線フィルム、原子核乾板等を用いる。記録媒体として当該構成を上記の物質を用いることにより、観測したX線回折光による画像から基底面転位、貫通刃状転位ほか種々の貫通転位、積層欠陥を分類することができる。反射X線トポグラフィを行い、測定された基底面転位の数および測定した領域の大きさからBPD密度を測定する。
【0026】
反射X線トポグラフィはエッチング等の破壊的な手法を併用しないため、結晶欠陥の位置の検出を非破壊的に行うことができる。
【0027】
(代表基板決定工程)
測定工程の前に代表基板決定工程をさらに有しても良い。代表基板決定工程は、同一のSiCインゴットから切り出された複数のSiC基板のうち、測定工程を行う代表基板を少なくとも1枚決定する工程である。
【0028】
SiC基板の基底面転位や貫通刃状転位など各種転位密度について、SiCインゴットから切り出されたSiC基板のうち少なくとも1枚を測定することで、同一のSiCインゴットから切り出されたSiC基板の転位密度が所定値以下かどうか判断することが可能である。一般的に、SiCインゴット内の転位密度には分布があり、個々のSiCインゴットが内包する転位密度が異なっても、その分布は同様の傾向を持っていることが知られている。図3は、2つのSiCインゴットにおけるBPD密度の分布を示したものである。横軸はSiCインゴットの先端の位置を0とし、根元の位置を1としたSiCインゴットに対して、切り出したSiC基板の相対的な位置を表す。すなわち、SiCインゴットの成長終了位置を0とし、成長開始位置を1としたSiCインゴットに対して、切り出したSiC基板の相対的な位置を表す。
【0029】
図3の結果から、例えば、SiCインゴットの0.35~0.45の位置から切り出したSiC基板のBPD密度を測定することで、そのSiCインゴットから作製したSiC基板のBPD密度の最大値として扱うことができる。代表基板決定工程において代表基板は、SiCインゴットから切り出された任意のSiC基板を決定することができる。好ましくは、前述の相対的な位置が0.35~0.45の位置から切り出したSiC基板とすることができる。
また、代表基板決定工程は、同一のSiCインゴットから切り出された複数のSiC基板を代表基板としてもよい。複数のSiC基板を代表基板とする場合、好ましくは、複数のSiC基板のうち1枚を相対位置が0.35~0.45の範囲から切り出すことが好ましく、より好ましくは、複数枚のSiC基板を0.35~0.45の範囲から切り出す。代表基板決定工程を行う際は、基板同一視工程をさらに行うことが好ましい。
【0030】
代表基板決定工程を行う場合、第1工程と第2工程とを有する測定工程を行う。
第1工程は、代表基板決定工程で決定された代表基板の第一面のBPD密度を測定する工程である。代表基板のBPD密度の測定は、代表基板決定工程を有さない場合のBPD密度の測定と同様の方法で行うことができる。
【0031】
(第2工程)
第2工程は、同一のSiCインゴットから切り出された複数のSiC基板のBPD密度は、代表基板のBPD密度と同一であると判断する工程である。
複数の基板を代表基板として決定した場合は、図3に示すBPD密度の分布と、測定した複数の代表基板のBPD密度と、を参考に同一のSiCインゴットから切り出された複数のSiC基板のBPD密度を適宜決定することができる。相対位置の近いSiC基板のBPD密度を同一とみなしても良いし、BPD密度が最大の基板と同一またはそれ未満とみなしても良い。
【0032】
例えば、相対位置が0.35~0.45の代表基板のBPD密度が500未満だった場合、同一のSiCインゴットから切り出されたSiC基板のBPD密度は、すべて前記代表基板と同一またはそれ未満であるとみなしても良い。
また、相対位置が0.3、0.4、0.5のSiC基板をそれぞれ代表基板A、B、Cとする。代表基板A、B、CのBPD密度が450、600、450であった場合を例とする。この場合、相対位置が0~0.3のSiC基板のBPD密度を代表基板AのBPD密度と同一とみなし、0.5~1のSiC基板のBPD密度を代表基板BのBPD密度と同一とみなす。相対位置が0.3~0.5のSiC基板のBPD密度は、代表基板Aと同一とみなしても良いし、代表基板Bと同一とみなしても良い。あるいは、相対位置が0~0.35のSiC基板は、代表基板AのBPD密度と同一とみなし、相対位置が0.35~0.45のSiC基板は、代表基板BのBPD密度と同一とみなし、相対位置が0.45~1.0のSiC基板は、代表基板CのBPD密度と同一とみなしてもよい。
【0033】
代表基板決定工程と、第1工程と第2工程とを有する測定工程と、を行うことで、測定を行うSiC基板の枚数を抑え、測定工程に係る工数を削減できるためSiCエピタキシャルウェハの製造コストダウンに繋がる。
【0034】
(層構成決定工程)
層構成決定工程は、SiC基板10の第一面10aに積層するエピタキシャル層20の層構成を決定する。図4および図5は、本実施形態にかかるSiCエピタキシャルウェハの製造方法により製造されるSiCエピタキシャルウェハの断面図である。
【0035】
図4に示すSiCエピタキシャルウェハ1Aは、SiC基板10とエピタキシャル層20Aとを有する。エピタキシャル層20Aは、変換層21とドリフト層23とを有する。変換層21及びドリフト層23は、不純物がドープされている。変換層21は、SiC基板10より不純物濃度が低い。ドリフト層23は、ドリフト電流が流れ、デバイスとして機能する層である。ドリフト電流とは、半導体に電圧が印加された際に、キャリアの流れにより生じる電流である。ドリフト層23の不純物濃度は、例えば1×1014cm-3以上である。
【0036】
図5に示すSiCエピタキシャルウェハ1Bは、SiC基板10とエピタキシャル層20Bとを有する。エピタキシャル層20Bは、変換層21と再結合層22とドリフト層23とを有する。変換層21、再結合層22及びドリフト層23は、不純物がドープされている。再結合層22は、変換層21と同等かそれより不純物濃度が高い層である。
【0037】
層決定工程では、SiC基板10に積層されるエピタキシャル層20A,20Bの層構成を決定する。すなわち、エピタキシャル層をエピタキシャル層20Aとするか、エピタキシャル層20Bとするかを決定する。
【0038】
図6は、BPD密度と、SiCエピタキシャルウェハ1のVF劣化の程度と、の関係を表すグラフである。横軸は、SiC基板10の第一面10aにおけるBPD密度である。縦軸は、VF劣化の度合いを示す指標である。具体的には、ある電流値でのVF劣化量ΔVFを初期電圧値VFで割って規格化した値である。グラフ中の丸は、図4に示す構成のエピタキシャル層20Aに生じるVF劣化の程度を示す。グラフ中の四角は、図5に示す構成のエピタキシャル層20Bに生じるVF劣化の程度を示す。
【0039】
図6のグラフから、SiC基板10の第一面10aのBPD密度が所定値より大きい場合、図5に示す構成のSiCエピタキシャルウェハ1Bの方が、図4に示す構成のSiCエピタキシャルウェハ1Aと比してVF劣化が生じにくい。
しかしながら、SiC基板10の第一面10aのBPD密度が小さい程、SiCエピタキシャルウェハ1AのVF劣化が小さい。これに対して、SiCエピタキシャルウェハ1BのVF劣化の程度は、BPD密度に関わらず一定である。そのため、BPD密度が所定値より小さい場合、図4に示す構成のSiCエピタキシャルウェハ1Aは、図5で示す構成のSiCエピタキシャルウェハ1Bと比してVF劣化が生じにくい。この原因は、明確ではないが、以下のように考えられる。図4で示される構成をとるSiCエピタキシャウェハ1Aは、VF劣化に寄与するBPDが少なくなることで劣化量が減少する一方、図5で示される構成をとるSiCエピタキシャルウェハ1Bは、再結合層を形成した分、エピタキシャル層の膜厚が増加し、拡張した積層欠陥の面積も増加することで劣化量が増大する。そのため、図4に示す構成のSiCエピタキシャルウェハ1Aは、図5に示す構成のSiCエピタキシャルウェハ1Bと比してVF劣化が生じにくいと考えられる。
【0040】
図6に示すようにSiC基板10の第一面10aのBPD密度によって、VF劣化が生じにくいエピタキシャル層20の層構成が異なる。
【0041】
測定工程で測定したBPD密度が所定値以上の場合は、SiCエピタキシャルウェハ1Bの構成を選択する。すなわち、エピタキシャル層20BをSiC基板10側から変換層21、再結合層22、ドリフト層23、とする。
これに対し、BPD密度が所定値未満の場合は、SiCエピタキシャルウェハ1Aの構成を選択する。すなわち、エピタキシャル層20AをSiC基板10側から変換層21、ドリフト層23、とする。つまり、BPD密度が所定値未満の場合は再結合層22を設けない方が、VF劣化を抑制できる。
【0042】
代表基板決定工程と、第1工程と第2工程を有する測定工程を行った場合、第2工程で判断したそれぞれのSiC基板のBPD密度を、所定値と照らし合わせて層構成を決定する。
【0043】
(積層工程)
積層工程では、層構成決定工程の結果に基づいて、SiC基板10の第一面10aにエピタキシャル層20を積層する。
エピタキシャル層20の層構成は、SiC基板10のBPD密度が所定値と比して大きいか小さいかに応じて、異なる。BPD密度が所定値以上の場合、エピタキシャル層20Bとし、BPD密度が所定値よりも小さい場合、エピタキシャル層20Aとする。
【0044】
SiC基板10の第一面10aにエピタキシャル層20をエピタキシャル成長させる手法は、特に問わない。例えば、化学気成長法(Chemical Vapor Deposition:CVD)等により成長させる。エピタキシャル層20にドープする不純物は、窒素、ホウ素、チタン、バナジウム、アルミニウム、ガリウム、リン等を用いることができる。
【0045】
以下、変換層21と、再結合層22と、ドリフト層23と、の各層について詳細に記載する。
【0046】
変換層21は、例えば、窒素がドーピングされているエピタキシャル層20である。変換層21は、SiC基板10よりも低不純物濃度のn型ないしp型半導体である。変換層21は、基底面転位11を貫通刃状転位12に変換する。
【0047】
変換層21の不純物濃度は、SiC基板10より低いことが好ましく、また再結合層22の不純物濃度以下であることが好ましい。変換層21の不純物濃度の値は、1×1017cm-3以上であることが好ましい。変換層21の不純物濃度の値は、2×1019cm-3以下であることが好ましい。変換層21の不純物濃度は、SiC基板10とドリフト層23の格子不整合を緩和するために、両者の不純物濃度の中間になるよう設定する。
【0048】
再結合層22は、SiCエピタキシャルウェハ1にBPDを有するバイポーラデバイスの順方向に電圧を印加した場合に、少数キャリアがSiC基板10に到達する確率を低減する。その結果、BPDが拡張しエピタキシャル層20にショックレー型の積層欠陥が形成されることを抑制できる。つまり、再結合層22は、デバイスの順方向劣化を抑制するための層である。
【0049】
再結合層22を形成する場合、SiC基板10のBPD密度から、再結合層22のキャリア濃度及び膜厚を決定することが好ましい。
【0050】
再結合層22は、電子-ホール再結合を促進することで、再結合層22と変換層21との界面およびSiC基板中にあるBPD近傍でのキャリア再結合を抑制する。これにより、再結合層より下の変換層やSiC基板に存在するBPDの拡張が抑制され、バイポーラ型のSiCデバイスのVF劣化を抑制できる。具体的には、ボディダイオードを備えたSiC‐MOSFETのオン抵抗増大などを防ぐことができる。
【0051】
ドリフト層23は、SiCデバイスが形成される層である。ドリフト層23にBPDが含まれると、SiCデバイスの順方向劣化の要因となる。ドリフト層23の不純物濃度は、再結合層22よりも低く、1×1014cm-3程度以上であることが好ましい。ドリフト層23の膜厚は、5μm以上程度であることが好ましい。
【0052】
上述のように、本実施形態にかかるSiCエピタキシャルウェハの製造方法によれば、SiC基板10に対して適正なエピタキシャル層の層構成を決定し、積層することで、順方向劣化のしづらいSiCデバイスを形成することができる。また、所定値よりBPD密度の小さいSiC基板10に対しては、再結合層22を形成せずにすむため製造コストの削減ができる。所定値よりも大きいBPD密度のSiC基板10に対しては、必要と考えられる不純物濃度及び厚さの再結合層22を積層することにより、BPD密度の大きい基板を使用しても、高い歩留まりでデバイスが製造可能となる。
【0053】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上のように、本発明にかかるSiCエピタキシャルウェハの製造方法は、SiC基板のBPD密度の測定を行い、高品質なSiCエピタキシャルウェハを製造するために適切な層構成の層を形成することにより、SiCデバイスの順方向に電流を印加した場合でも劣化が起こりづらいSiCエピタキシャルウェハの低コストでの製造に有用である。
【符号の説明】
【0055】
1、1A、1B SiCエピタキシャルウェハ
10 SiC基板
11 基底面転位(BPD)
12 貫通刃状転位(TED)
13 積層欠陥(SF)
20、20A、20B エピタキシャル層
21 変換層
22 再結合層
23 ドリフト層
図1
図2
図3
図4
図5
図6