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特許7129917コークスまたは石炭からのグラフェンシートの電気化学的製造
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  • 特許-コークスまたは石炭からのグラフェンシートの電気化学的製造 図1
  • 特許-コークスまたは石炭からのグラフェンシートの電気化学的製造 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-25
(45)【発行日】2022-09-02
(54)【発明の名称】コークスまたは石炭からのグラフェンシートの電気化学的製造
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/19 20170101AFI20220826BHJP
   H01M 4/62 20060101ALN20220826BHJP
   B02C 13/00 20060101ALN20220826BHJP
【FI】
C01B32/19
H01M4/62 Z
B02C13/00 Z
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2018566845
(86)(22)【出願日】2017-06-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-09-19
(86)【国際出願番号】 US2017035770
(87)【国際公開番号】W WO2018004999
(87)【国際公開日】2018-01-04
【審査請求日】2020-03-18
(31)【優先権主張番号】15/193,090
(32)【優先日】2016-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518190776
【氏名又は名称】ナノテク インストゥルメンツ,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Nanotek Instruments,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ツァーム,アルナ
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ボア ゼット.
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-536141(JP,A)
【文献】特開2014-196206(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0161199(US,A1)
【文献】特表2015-507320(JP,A)
【文献】特表2015-516931(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0028778(US,A1)
【文献】米国特許第07790285(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0001089(US,A1)
【文献】特表2017-512736(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
H01M 4/00-4/62
B02C 13/00
B82Y 30/00、40/00
C25B 1/00、11/00、11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ある層間隔で六角形炭素原子の領域および/または六角形炭素原子中間層を中に含むコークスまたは石炭の粉末の供給材料から単離グラフェンシートを製造する方法において:
(a)インターカレーション反応器中で行われる電気化学的インターカレーション手順によって、インターカレートされたコークスまたは石炭の化合物を形成するステップにおいて、前記反応器が、(i)インターカレーティング剤を含む液体溶液電解質と;(ii)前記液体溶液電解質にイオン接触する活物質として前記コークスまたは石炭の粉末を含む作用電極であって、前記コークスまたは石炭の粉末が、石油コークス、石炭由来コークス、メソフェーズコークス、合成コークス、レオナルダイト、無煙炭、褐炭、瀝青炭、天然石炭鉱物粉末、またはそれらの組合せから選択される作用電極と;(iii)前記液体溶液電解質にイオン接触する対極とを含み、前記インターカレーティング剤の前記層間隔中への電気化学的インターカレーションが生じるのに十分な時間の間、ある電流密度で前記作用電極および前記対極に電流が印加されるステップと;
(b)超音波処理、熱衝撃曝露、機械的剪断処理、またはそれらの組合せを用いて、前記インターカレートされたコークスまたは石炭の化合物から前記六角形炭素原子中間層を剥離し分離して、前記単離グラフェンシートを製造するステップと、
を含み、
前記コークスまたは石炭の粉末の複数の粒子が、前記液体溶液電解質中に分散され、作用電極区画内に配置され、それに電子的に接触する集電体によって支持される、もしくは閉じ込められ、前記作用電極区画と、その上に支持されるもしくはその中に閉じ込められる前記複数の粒子とは、前記対極に電子的に接触しないことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記複数の粒子が互いに密集して、電子伝導経路の網目構造を形成することを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、前記反応器が、前記液体溶液電解質中に溶解したグラフェン面湿潤剤をさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法において、前記グラフェン面湿潤剤が、メラミン、硫酸アンモニウム、ドデシル硫酸ナトリウム、アンモニア、カルバミド、ヘキサメチレンテトラミン、有機アミン、ピレン、1-ピレンカルボン酸、1-ピレン酪酸、1-ピレンアミン、ポリ(ナトリウム-4-スチレンスルホネート)、またはそれらの組合せから選択されることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法において、前記方法が断続的または連続的に行われ、前記コークスまたは石炭の粉末の供給材料および前記液体溶液電解質が前記反応器中に断続的または連続的に供給されることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法において、前記方法が断続的または連続的に行われ、前記コークスまたは石炭の粉末の供給材料および前記液体溶液電解質が前記作用電極区画内に断続的または連続的に供給されることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法において、前記作用電極区画内の前記コークスまたは石炭の粉末が20重量%を超える濃度で前記液体溶液電解質中に分散されることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法において、前記作用電極区画内の前記コークスまたは石炭の粉末が50重量%を超える濃度で前記液体溶液電解質中に分散されることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法において、前記機械的剪断処理が、エアミル粉砕、エアジェットミル粉砕、ボールミル粉砕、回転ブレード機械的剪断、またはそれらの組合せを行うステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法において、前記電流の印加によって0.1~600A/m2の範囲内の電流密度が得られることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法において、前記電流の印加によって1~500A/m2の範囲内の電流密度が得られることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法において、前記電流の印加によって10~300A/m2の範囲内の電流密度が得られることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項1に記載の方法において、前記熱衝撃曝露が、前記インターカレートされたコークスまたは石炭の化合物を300~1,200℃の範囲内の温度に15秒~2分の時間加熱するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1に記載の方法において、前記単離グラフェンシートが単層グラフェンを含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項1に記載の方法において、前記単離グラフェンシートが、2~10個の六角形炭素原子中間層またはグラフェン面を有する数層グラフェンを含むことを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項3に記載の方法において、前記電気化学的インターカレーションが、前記インターカレーティング剤および前記湿潤剤の両方の前記層間隔中へのインターカレーションを含むことを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項1に記載の方法において、電気化学的または化学的インターカレーション方法を用いて前記単離グラフェンシートの再インターカレーションを行って、インターカレートされたグラフェンシートを得るステップと、超音波処理、熱衝撃曝露、水溶液への曝露、機械的剪断処理、またはそれらの組合せを用いて、前記インターカレートされたグラフェンシートの剥離および分離を行って、単層グラフェンシートを製造するステップとをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項1に記載の方法において、前記インターカレーティング剤が、リン酸(HPO)、ジクロロ酢酸(ClCHCOOH)から選択されるブレンステッド酸、またはメタンスルホン酸(MeSOH)、エタンスルホン酸(EtSOH)、もしくは1-プロパンスルホン酸(n-PrSOH)から選択されるアルキルスルホン酸、またはそれらの組合せから選択される化学種を含むことを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項1に記載の方法において、前記インターカレーティング剤が金属ハロゲン化物を含むことを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項1に記載の方法において、前記インターカレーティング剤が、MCl(M=Li、Na、K、Cs)、MCl(M=Zn、Ni、Cu、Mn)、MCl(M=Al、Fe、Ga)、MCl(M=Zr、Pt)、MF(M=Zn、Ni、Cu、Mn)、MF(M=Al、Fe、Ga)、MF(M=Zr、Pt)、およびそれらの組合せからなる群から選択される金属ハロゲン化物を含むことを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項1に記載の方法において、前記インターカレーティング剤が、過塩素酸リチウム(LiClO)、過塩素酸ナトリウム(NaClO)、過塩素酸カリウム(KClO)、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム(NaPF)、ヘキサフルオロリン酸カリウム(KPF)、ホウフッ化ナトリウム(NaBF)、ホウフッ化カリウム(KBF)、ヘキサフルオロヒ化ナトリウム、ヘキサフルオロヒ化カリウム、トリフルオロメタスルホン酸ナトリウム(NaCFSO)、トリフルオロメタスルホン酸カリウム(KCFSO)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドナトリウム(NaN(CFSO)、トリフルオロメタンスルホンイミドナトリウム(NaTFSI)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドカリウム(KN(CFSO)、ナトリウムイオン液体塩、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、ヘキサフルオロヒ化リチウム(LiAsF)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCFSO)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム(LiN(CFSO)、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiBOB)、オキサリルジフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、オキサリルジフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、硝酸リチウム(LiNO)、Li-フルオロアルキル-ホスフェート(LiPF(CFCF)、ビスパーフルオロエチスルホニルイミドリチウム(LiBETI)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム、ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム、トリフルオロメタンスルホンイミドリチウム(LiTFSI)、イオン液体リチウム塩、またはそれらの組合せから選択されるアルカリ金属塩を含むことを特徴とする方法。
【請求項22】
請求項1に記載の方法において、前記インターカレーティング剤が、1,3-ジオキソラン(DOL)、1,2-ジメトキシエタン(DME)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)、ポリ(エチレングリコール)ジメチルエーテル(PEGDME)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(DEGDBE)、2-エトキシエチルエーテル(EEE)、スルホン、スルホラン、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル、γ-ブチロラクトン(γ-BL)、アセトニトリル(AN)、酢酸エチル(EA)、ギ酸プロピル(PF)、ギ酸メチル(MF)、トルエン、キシレン、酢酸メチル(MA)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ビニレンカーボネート(VC)、アリルエチルカーボネート(AEC)、ヒドロフロロエーテル(hydrofloroether)、またはそれらの組合せから選択される有機溶媒を含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により本明細書に援用される2016年6月26日に出願された米国特許出願第15/193,090号明細書の優先権を主張する。
【0002】
本発明は、天然石炭または石炭誘導体(たとえばニードルコークス)から単離された薄いグラフェンシートを直接製造する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
単層グラフェンシートは、2次元の六角形格子を占める炭素原子から構成される。多層グラフェンは、2つ以上のグラフェン面から構成されるプレートレットである。個別の単層グラフェンシートおよび多層グラフェンプレートレットは、本明細書では一括してナノグラフェンプレートレット(NGP)またはグラフェン材料と記載される。NGPとしては、純粋なグラフェン(実質的に99%炭素原子)、わずかに酸化されたグラフェン(<5重量%の酸素)、酸化グラフェン(≧5重量%の酸素)、わずかにフッ素化されたグラフェン(<5重量%のフッ素)、フッ化グラフェン(≧5重量%のフッ素)、他のハロゲン化グラフェン、および化学官能化グラフェンが挙げられる。
【0004】
NGPは、一連の独特の物理的、化学的、および機械的性質を有することが分かっている。たとえば、グラフェンは、あらゆる既存の材料の中で最も高い固有強度および最も高い熱伝導率を示すことが分かった。グラフェンの実際の電子デバイス用途(たとえば、トランジスタ中の主要要素としてのSiの代替)は、今後5~10年の間に実現するとは考えられていないが、複合材料中、およびエネルギー貯蔵装置の電極材料中のナノフィラーとしてのその用途は目前に迫っている。加工可能グラフェンシートを大量に利用できることが、グラフェンの複合物用途、エネルギー用途、および別の用途の開発に成功するために重要である。
【0005】
本発明者らの研究グループは、グラフェンを最初に発見した[B.Z.Jang and W.C.Huang,“Nano-scaled Graphene Plates”、2002年10月21日に提出された米国特許出願第10/274,473号明細書;現在は米国特許第7,071,258号明細書(07/04/2006)]。NGPおよびNGPナノ複合物の製造方法は本発明者らによって最近レビューされている[Bor Z.Jang and A Zhamu,“Processing of Nano Graphene Platelets (NGPs) and NGP Nanocomposites:A Review,”J.Materials Sci.43(2008)5092-5101]。本発明者らの研究によって、以下に概略を示すナノグラフェンプレートレットの確立された製造方法には従わないという点で新規である、単離ナノグラフェンプレートレットのケミカルフリー製造方法が得られた。さらに、この方法は、費用対効果が高く、大幅に少ない環境影響で新規グラフェン材料が得られるという点で有用性が高い。NGPを製造するために4つの主要な従来技術の方法が採用されてきた。これらの利点および欠点を以下に簡潔にまとめている。
【0006】
方法1:酸化黒鉛(GO)プレートレットの化学的形成および還元
第1の方法(図1)は、黒鉛インターカレーション化合物(GIC)、または実際には酸化黒鉛(GO)を得るために、インターカラントおよび酸化剤(たとえば、それぞれ濃硫酸および硝酸)を用いた天然黒鉛粉末の処理を伴う[William S.Hummers,Jr.,et al.,Preparation of Graphitic Oxide,Journal of the American Chemical Society,1958,p.1339]。インターカレーションまたは酸化の前、黒鉛は約0.335nmのグラフェン面間隔を有する(L=1/2 d002=0.335nm)。インターカレーションおよび酸化処理を行うと、グラフェン間隔は、典型的には0.6nmを超える値まで増加する。これは、この化学的経路中に黒鉛材料に生じる第1の膨張段階である。得られたGICまたはGOは、次に、熱衝撃曝露、または溶液系の超音波支援グラフェン層剥離方法のいずれかを用いることでさらに膨張する(多くの場合で剥離と呼ばれる)。
【0007】
熱衝撃曝露方法では、典型的には依然として互いに相互接続する黒鉛フレークから構成される「黒鉛ワーム」の形態である剥離またはさらに膨張した黒鉛を形成するために、GICまたはGOを高温(典型的には800~1,050℃)に短時間(典型的には15~60秒)曝露して、GICまたはGOを剥離または膨張させる。この熱衝撃手順によって、一部分離した黒鉛フレークまたはグラフェンシートを製造することができるが、通常は、黒鉛フレークの大部分は相互接続されたままである。典型的には、次に、剥離した黒鉛または黒鉛ワームに対して、エアミル粉砕、機械的剪断、または水中の超音波処理を用いたフレーク分離処理が行われる。したがって、方法1は、基本的に、第1の膨張(酸化またはインターカレーション)と、さらなる膨張(または「剥離」)と、分離との3つの異なる手順を伴う。
【0008】
溶液系分離方法では、膨張または剥離したGO粉末を水中または水性アルコール溶液中に分散させ、これに対して超音波処理を行う。これらの方法において、超音波処理は、黒鉛のインターカレーションおよび酸化の後(すなわち第1の膨張の後)、ならびに典型的には得られたGICまたはGOの熱衝撃曝露の後(第2の膨張の後)に使用することに留意することが重要である。あるいは、面間空間内に存在するイオン間の反発力がグラフェン間ファンデルワールス力に打ち勝って、結果としてグラフェン層が分離するように、水中に分散させたGO粉末のイオン交換または長時間の精製手順が行われる。
【0009】
この従来の化学的製造方法に関連したいくつかの大きな問題が存在する:
(1)この方法は、硫酸、硝酸、および過マンガン酸カリウムもしくは塩素酸ナトリウムなどのいくつかの望ましくない化学物質を多量に使用する必要がある。
(2)化学処理方法は、典型的には5時間から5日間の長いインターカレーションおよび酸化の時間を必要とする。
(3)強酸によって、「黒鉛中に入り込むこと」によるこの長いインターカレーションまたは酸化プロセス中に、多量の黒鉛が消費される(黒鉛が二酸化炭素に変換され、これがプロセス中に失われる)。強酸および酸化剤中に浸漬した黒鉛材料の20~50重量%が失われることは珍しくない。
(4)熱で誘発される剥離方法および溶液で誘発される剥離方法の両方は、非常に時間のかかる洗浄および精製のステップを必要とする。たとえば、洗浄して1グラムのGICを回収するために典型的には2.5kgの水が使用され、適切な処理が必要となる多量の廃水が生じる。
(5)熱で誘発される剥離方法および溶液で誘発される剥離方法の両方では、得られる生成物は、酸素含有量を減少させるためのさらなる化学的還元処理を行う必要があるGOプレートレットである。典型的には、還元後でさえも、GOプレートレットの導電率は、純粋なグラフェンの導電よりもはるかに低いままである。さらに、この還元手順は、ヒドラジンなどの毒性化学物質の利用を伴うことが多い。
(6)さらに、排液後にフレーク上に保持されるインターカレーション溶液の量は、黒鉛フレーク100重量部当たり20~150部(pph)の溶液の範囲、より典型的には約50~120pphの範囲となりうる。
(7)高温剥離中、フレークによって保持される残存インターカレート(intercalate)種(例えば、硫酸および硝酸)は分解して硫黄化合物および窒素化合物の種々の化学種(たとえば、NOおよびSO)を生成し、これらは望ましくない。流出液は、環境に対して悪影響が生じないようにするために費用のかかる改善手順が必要となる。
【0010】
上記概略の制限を克服するために本発明が作られた。
【0011】
方法2:純粋なナノグラフェンプレートレットの直接形成
2002年に、本発明者らの研究チームは、ポリマーまたはピッチ前駆体から得られた部分的に炭化または黒鉛化されたポリマー炭素から単層および多層のグラフェンシートを単離することに成功した[B.Z.Jang and W.C.Huang,“Nano-scaled Graphene Plates”、2002年10月21日に提出された米国特許出願第10/274,473号明細書;現在は米国特許第7,071,258号明細書(07/04/2006)]。Mackら[“Chemical manufacture of nanostructured materials”米国特許第6,872,330号明細書(2005年3月29日)]は、黒鉛にカリウム金属溶融物をインターカレートさせるステップと、結果としてKがインターカレートされた黒鉛をアルコールと接触させて、NGPを含む剥離黒鉛を乱暴に生成するステップとを含む方法を開発した。カリウムおよびナトリウムなどの純アルカリ金属は水分に対して非常に敏感であり、爆発の危険が生じるので、この方法は、真空中または非常に乾燥したグローブボックス環境中で注意深く行う必要がある。この方法は、NGPの大量生産には適していない。上記概略の制限を克服するために本発明が作られた。
【0012】
方法3:無機結晶表面上でのナノグラフェンシートのエピタキシャル成長および化学蒸着
基板上の超薄グラフェンシートの小規模製造は、熱分解に基づくエピタキシャル成長およびレーザー脱離イオン化技術によって行うことができる[Walt A.DeHeer,Claire Berger,Phillip N.First,“Patterned thin film graphite devices and method for making same” 米国特許第7,327,000B2号明細書(2003年6月12日)]。わずか1層または数層の原子層を有する黒鉛のエピタキシャル膜は、それらの特有の特性およびデバイス基板としての大きな可能性のため、技術的および化学的に重要である。しかし、これらの方法は、複合材料およびエネルギー貯蔵用途の単離されたグラフェンシートの大量生産には適していない。
【0013】
方法4:ボトムアップ方法(小分子からのグラフェンの合成)
Yangら[“Two-dimensional Graphene Nano-ribbons,”J.Am.Chem.Soc.130(2008)4216-17]は、1,4-ジヨード-2,3,5,6-テトラフェニル-ベンゼンと4-ブロモフェニルボロン酸との鈴木-宮浦カップリングから開始する方法を用いて最長12nmの長さのナノグラフェンシートを合成した。結果として得られるヘキサフェニルベンゼン誘導体をさらに誘導体化させ環を縮合させて小さいグラフェンシートを得た。これは、これまでは非常に小さいグラフェンシートが生成されている遅いプロセスである。
【0014】
したがって、望ましくない化学物質の量の減少(またはこれらの化学物質すべての除去)、短縮された処理時間、より少ないエネルギー消費、より低いグラフェン酸化度、望ましくない化学種の排液中(たとえば、硫酸)または空気中(たとえば、SOおよびNO)への流出の減少または排除が要求されるグラフェン製造方法が緊急に必要とされている。この方法によって、より純粋(より少ない酸化および損傷)で、より高い導電性で、より大きい/より幅広のグラフェンシートが製造可能となるべきである。
【0015】
さらに、従来技術のグラフェン製造方法のすべては、高純度の天然黒鉛を用いて開始される。黒鉛鉱石の精製は、望ましくない化学物質の使用を伴う。明らかに、グラフェンシート(特に単層グラフェンおよび数層グラフェンシート)を石炭または石炭誘導体から直接製造する費用対効果のより高い方法を有する必要性が存在する。このような方法は、環境を汚染する黒鉛鉱石精製手順が回避されるだけでなく、低コストのグラフェンの利用も可能となる。現在、非常に高いグラフェンのコストのために、グラフェン系製品が市場に広く受け入れられることが妨害されることが主な理由で、産業としてのグラフェンは、まだ現れていない。
【発明の概要】
【0016】
本発明は、ある層間隔(グラフェン面間隔)で六角形炭素原子中間層(グラフェン面またはグラフェン領域)を有するコークスまたは石炭の粉末から、10nm未満の平均厚さを有する単離グラフェンシート(好ましくはおよび典型的には単層グラフェンまたは数層グラフェン)を直接製造する方法を提供する。この方法は:
(a)インターカレーション反応器中で行われる電気化学的インターカレーション手順によって、インターカレートされたコークスまたは石炭の化合物を形成するステップにおいて、反応器が、(i)インターカレーティング剤を含む液体溶液電解質と;(ii)上記液体溶液電解質にイオン接触する活物質としてコークス(石油または石炭源からのニードルコークスなど)または石炭の粉末を含む作用電極であって、上記コークスまたは石炭の粉末が、石油コークス、石炭由来コークス、メソフェーズコークス、合成コークス、レオナルダイト、無煙炭、褐炭、瀝青炭、天然石炭鉱物粉末(たとえば1,500℃を超える温度であらかじめ熱処理されていないか、1,500℃を超える黒鉛化温度で黒鉛化されているかのいずれかのあらゆる石炭またはコークスの粉末を含む)、またはそれらの組合せから選択される作用電極と;(iii)液体溶液電解質にイオン接触する対極とを含み、インターカレーティング剤の層間隔中への電気化学的インターカレーションが生じるのに十分な時間の間、ある電流密度で作用電極および対極に電流が印加されるステップと;
(b)超音波処理、熱衝撃曝露、機械的剪断処理、またはそれらの組合せを用いて、インターカレートされたコークスまたは石炭の化合物から六角形炭素原子中間層を剥離し分離して、単離グラフェンシートを製造するステップと
を含む。
【0017】
ある実施形態では、コークスまたは石炭の粉末の複数の粒子は、作用電極区画中に配置された液体溶液電解質中に分散され、それらに電子的に接触する集電体によって支持され、もしくは閉じ込められ、ここで、作用電極区画と、それらの上に支持される、もしくはそれらの中に閉じ込められるこれらの複数の粒子とは、対極には電子的に接触していない。好ましくは、コークス(たとえばニードルコークス)または石炭のこれらの複数の粒子は互いに密集して、電子伝導経路の網目構造を形成する。
【0018】
ある実施形態では、反応器は、液体溶液電解質中に溶解したグラフェン面湿潤剤をさらに含む。好ましくは、グラフェン面湿潤剤は、メラミン、硫酸アンモニウム、ドデシル硫酸ナトリウム、(エチレンジアミン)ナトリウム、テトラアルキアンモニウム(tetraalkyammonium)、アンモニア、カルバミド、ヘキサメチレンテトラミン、有機アミン、ピレン、1-ピレンカルボン酸、1-ピレン酪酸、1-ピレンアミン、ポリ(ナトリウム-4-スチレンスルホネート)、またはそれらの組合せから選択される。驚くべきことに、この物質は、グラフェンシートの電気化学的インターカレーション、剥離、および/または分離の促進において非常に有効であることが分かっている。
【0019】
本方法は、断続的または連続的に行われるプロセスにしたがって行うことができ、コークスもしくは石炭の粉末および液体溶液電解質の供給は反応器中に断続的または連続的に行われる。ある実施形態では、作用電極区画内のコークスまたは石炭の粉末は、20重量%を超える濃度で液体溶液電解質中に分散される。ある実施形態では、作用電極区画内のコークスまたは石炭の粉末は、50重量%を超える濃度で液体溶液電解質中に分散される。
【0020】
本発明による方法では、機械的剪断処理は、エアミル粉砕、エアジェットミル粉砕、ボールミル粉砕、回転ブレード機械的剪断、またはそれらの組合せを行うステップを含むことができる。ある実施形態では、電圧の印加によって、0.1~600A/mの範囲内、好ましくは1~500A/mの範囲内、さらに好ましくは10~300A/mの範囲内の電流密度が得られる。
【0021】
ある実施形態では、熱衝撃曝露は、上記インターカレートされたコークスまたは石炭の化合物を300~1,200℃の範囲内の温度に15秒~2分の時間加熱するステップを含む。
【0022】
ある実施形態では、単離されたグラフェンシートは、単層グラフェン、または2~10の六角形炭素原子中間層もしくはグラフェン面を有する数層グラフェンを含む。
【0023】
ある実施形態では、電気化学的インターカレーションは、インターカレーティング剤および湿潤剤の両方の層間隔中へのインターカレーションを含む。
【0024】
ある実施形態では、本方法は、電気化学的または化学的インターカレーション方法を用いて単離グラフェンシート(単層ではない場合)の再インターカレーションを行って、インターカレートされたグラフェンシートを得るステップと、超音波処理、熱衝撃曝露、水溶液への曝露、機械的剪断処理、またはそれらの組合せを用いて、インターカレートされたグラフェンシートの剥離および分離を行って、単層グラフェンシートを製造するステップとをさらに含む。
【0025】
ある実施形態では、インターカレーティング剤は、リン酸(HPO)、ジクロロ酢酸(ClCHCOOH)から選択されるブレンステッド酸、またはメタンスルホン酸(MeSOH)、エタンスルホン酸(EtSOH)、もしくは1-プロパンスルホン酸(n-PrSOH)から選択されるアルキルスルホン酸、またはそれらの組合せから選択される化学種を含む。インターカレーティング剤は金属ハロゲン化物を含むことができる。
【0026】
ある実施形態では、インターカレーティング剤は、MCl(M=Li、Na、K、Cs)、MCl(M=Zn、Ni、Cu、Mn)、MCl(M=Al、Fe、Ga)、MCl(M=Zr、Pt)、MF(M=Zn、Ni、Cu、Mn)、MF(M=Al、Fe、Ga)、MF(M=Zr、Pt)、およびそれらの組合せからなる群から選択される金属ハロゲン化物を含む。
【0027】
好ましい実施形態では、インターカレーティング剤は、好ましくは、過塩素酸リチウム(LiClO)、過塩素酸ナトリウム(NaClO)、過塩素酸カリウム(KClO)、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム(NaPF)、ヘキサフルオロリン酸カリウム(KPF)、ホウフッ化ナトリウム(NaBF)、ホウフッ化カリウム(KBF)、ヘキサフルオロヒ化ナトリウム、ヘキサフルオロヒ化カリウム、トリフルオロメタスルホン酸ナトリウム(NaCFSO)、トリフルオロメタスルホン酸カリウム(KCFSO)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドナトリウム(NaN(CFSO)、トリフルオロメタンスルホンイミドナトリウム(NaTFSI)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドカリウム(KN(CFSO)、ナトリウムイオン液体塩、過塩素酸リチウム(LiClO)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、ヘキサフルオロヒ化リチウム(LiAsF)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCFSO)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム(LiN(CFSO)、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiBOB)、オキサリルジフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、オキサリルジフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、硝酸リチウム(LiNO)、Li-フルオロアルキル-ホスフェート(LiPF(CFCF)、ビスパーフルオロエチスルホニルイミドリチウム(LiBETI)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム、ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム、トリフルオロメタンスルホンイミドリチウム(LiTFSI)、イオン液体リチウム塩、またはそれらの組合せから選択されるアルカリ金属塩を含む。
【0028】
インターカレーティング剤は、1,3-ジオキソラン(DOL)、1,2-ジメトキシエタン(DME)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)、ポリ(エチレングリコール)ジメチルエーテル(PEGDME)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(DEGDBE)、2-エトキシエチルエーテル(EEE)、スルホン、スルホラン、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル、γ-ブチロラクトン(γ-BL)、アセトニトリル(AN)、酢酸エチル(EA)、ギ酸プロピル(PF)、ギ酸メチル(MF)、トルエン、キシレン、酢酸メチル(MA)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ビニレンカーボネート(VC)、アリルエチルカーボネート(AEC)、ヒドロフロロエーテル(hydrofloroether)、またはそれらの組合せから選択される有機溶媒を含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、本発明による単離グラフェンシートの製造方法の一実施形態を示すフローチャートである。
図2図2は、石炭またはコークスの電気化学的インターカレーションのための装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
炭素材料は、実質的に非晶質の構造(ガラス状炭素)、高度に組織化された結晶(黒鉛)、または種々の比率およびサイズの黒鉛微結晶および欠陥が非晶質マトリックス中に分散することを特徴とするあらゆる種類の中間構造を想定することができる。典型的には、黒鉛微結晶は、底面に対して垂直の方向であるc軸方向でファンデルワールス力によって互いに結合する多数のグラフェンシートまたは底面から構成される。これらの黒鉛微結晶は、典型的にはミクロンサイズまたはナノメートルサイズである。これらの黒鉛微結晶は、黒鉛フレーク、炭素/黒鉛繊維セグメント、炭素/黒鉛ウィスカー、または炭素/黒鉛ナノファイバーであってよい黒鉛粒子中の結晶の欠陥または非晶質相の中に分散している、またはそれらと連結している。炭素または黒鉛繊維セグメントの場合、グラフェン面は、特徴的な「乱層構造」の一部となりうる。
【0031】
基本的に、黒鉛材料は、面間隔を有して互いに積層された多くのグラフェン面(六角形炭素原子中間層)から構成される。これらのグラフェン面は、剥離および分離によって、六角形炭素原子の1つのグラフェン面または数個のグラフェン面をそれぞれ含むことが可能な単離グラフェンシートを得ることができる。さらに、天然黒鉛は、典型的には一連の浮遊選鉱および酸処理による黒鉛鉱物(採掘された黒鉛鉱石または黒鉛石)の精製によって製造される黒鉛材料を意味する。天然黒鉛の粒子は、次に、背景技術の項で議論したようなインターカレーション/酸化、膨張/剥離、および分離/単離の処理が行われる。本発明は、他の場合には多量の汚染性化学物質を発生させる黒鉛精製手順を行う必要がない。実際、本発明の方法では、グラフェンシートを製造するための出発物質として一緒に天然黒鉛を使用することが回避される。その代わり、本発明者らは、石炭およびその誘導体(コークス、特にニードルコークスなど)から開始する。濃硫酸、硝酸、および過マンガン酸カリウムなどの望ましくない化学物質は、本発明による方法には使用されない。
【0032】
本発明の特定の好ましい一実施形態は、ナノグラフェンプレートレット(NGP)とも呼ばれる単離グラフェンシートを石炭粉末から精製せずに直接製造する方法である。驚くべきことに本発明者らは、石炭(たとえばレオナルダイトまたは褐炭)の粉末が、5nm~1μmの長さまたは幅に及ぶグラフェン様領域または芳香族分子を内部に含むことを発見した。これらのグラフェン様領域は、ある層間隔で六角形炭素原子の面および/または六角形炭素原子中間層を含む。これらのグラフェン様の面または分子または中間層は、典型的にはC、O、N、P、および/またはHを含む不規則な化学基と典型的には相互接続される。本発明による方法では、中間層のインターカレーション、剥離、および分離、および/または周囲の不規則な化学種からのグラフェン様の面もしくは領域の分離によって、単離グラフェンシートを得ることができる。
【0033】
グラフェンシートは、炭素原子の2次元六角形構造の1つまたは複数の面を含む。各グラフェンシートは、グラフェン面と平行な長さおよび幅、ならびにグラフェン面と直交する厚さを有する。定義によると、NGPの厚さは100ナノメートル(nm)以下(より典型的には<10nm、最も典型的で望ましくは<3.4nmであり、単一シートのNGP(単層グラフェン)は0.34nmの薄さである。NGPの長さおよび幅は、典型的には5nm~10μmの間であるが、より長いまたはより短い場合もあり得る。一般に、本発明による方法を用いて石炭またはコークスの粉末から製造されるグラフェンシートは、単層グラフェンまたは数層グラフェン(互いに積層された2~10のグラフェン面)である。
【0034】
一般的に言えば、図1中に概略的に示されるように、コークスまたは石炭の粉末10を、10nm未満、より典型的には5nm未満、さらにより典型的には3.4nm未満の平均厚さを有する単離グラフェンシート16(多くの場合、大部分が単層グラフェン)に変換する方法が開発された。この方法は、(a)(i)溶解したインターカレーティング剤およびグラフェン面湿潤剤を含む液体溶液電解質と;(ii)液体溶液電解質中に浸漬された石炭またはコークスの粉末10の複数の粒子を含む作用電極(たとえばアノード)と;(iii)対極(たとえば金属または黒鉛の棒を含むカソード)とを含む反応器中で行われる電気化学的インターカレーション手順によって、インターカレートされたコークスまたは石炭の化合物12を形成するステップであって、電気化学的インターカレーションが生じるのに十分な時間の間、ある電流密度で作用電極および対極に電流が印加されるステップと;(b)インターカレートされたコークスまたは石炭の化合物12に対して、熱衝撃、水溶液曝露、および/または超音波処理(または別の機械的剪断)の処理を行うステップとを含む。
【0035】
このステップ(b)では、一部の有機種がグラフェン面間の空間にインターカレートした場合に、熱衝撃曝露を行って、分離したグラフェンシートを得ることができる。アノードがステージ1のインターカレーションコークス化合物を含む場合、熱衝撃単独で分離したグラフェンシート16を得ることができる。他の場合では、熱衝撃によって剥離コークス14(コークスワームとも呼ばれる)が形成され、それに対して次に機械的剪断処理または超音波処理を行うことで、所望の単離グラフェンシート16が形成される。インターカレーション化合物が、主としてアルカリ金属イオン(Li、Na、および/またはK)をグラフェン面間の空間内に含む場合、得られるアルカリ金属がインターカレートされた化合物は、水または水アルコール溶液中に浸漬して(音波処理ありまたはなし)、グラフェンシートの剥離および分離を生じさせることができる。
【0036】
剥離ステップは好ましくはインターカレートされた化合物を300~1,200℃の範囲内の温度に10秒~2分の時間の間、最も好ましくは600~1,000℃の範囲内の温度で30~60秒の時間の間加熱するステップを含む。本発明の剥離ステップは、従来の硫酸または硝酸がインターカレートされた黒鉛化合物の剥離ステップの一般的な副生成物であるNOおよびSOなどの望ましくない化学種の発生を伴わない。
【0037】
本発明の好ましい一実施形態によるコークスまたは石炭の電気化学的インターカレーションに使用できる装置を(一例として)図2中に概略的に示している。この装置は、電極および電解質を収容するための容器32を含む。アノードは、液体溶液電解質(たとえば、Nacl水溶液と混合したナトリウム(エチレンジアミン))中に分散される複数のコークスまたは石炭の粉末粒子40から構成され、多孔質アノード支持要素34、好ましくはニッケル、チタン、またはステンレス鋼などの多孔質金属板によって支持される。粉末粒子40は、好ましくはアノード支持板34に対して電子伝導経路の連続網目構造を形成するが、液体溶液電解質中のインターカレートに到達可能である。ある好ましい実施形態では、このような電子伝導経路の網目構造は、>20重量%(好ましくは>30重量%、より好ましくは>40重量%)のコークスまたは石炭の粉末、および一部の任意選択の導電性フィラーを電解質中に分散させ充填することによって実現される。内部短絡を防止するために、電気絶縁性多孔質セパレータ板38(たとえば、Teflon布またはガラス繊維マット)が、アノードおよびカソード36の間に配置される。アノード支持要素34およびカソード36に電流を供給するためにDC電流源46が使用される。電気化学反応に使用される電流の印加によって、好ましくは1.0~600A/mの範囲内、より好ましくは100~400A/mの範囲内の電流密度が得られる。新しい電解質(インターカレート)は、パイプ48および制御弁50を介して電解質源(図示せず)から供給することができる。過剰の電解質は弁52を介して排出することができる。ある実施形態では、電解質は、その中で分散される石炭またはコークス粉末を含むことができ、追加の量のこのコークス/石炭粉末含有電解質(スラリー状に見える)をインターカレーションチャンバー中に連続的または断続的に導入することができる。これによって連続プロセスとなる。
【0038】
たとえば、ある実施形態では、本発明は、ある層間隔で六角形炭素原子中間層を有する黒鉛鉱物材料から、10nm未満(主に2nm未満)の平均厚さを有する単離グラフェンシートを直接製造する方法において:
(a)インターカレーション反応器中で行われる電気化学的インターカレーション手順によって、インターカレートされたコークス/石炭の化合物を形成するステップであって、反応器が、(i)溶解したインターカレーティング剤およびグラフェン面湿潤剤(簡潔に「湿潤剤」)を含む液体溶液電解質と;(ii)液体溶液電解質にイオン接触する活物質としてコークス/石炭の粉末を含む作用電極(たとえばアノード)と;(iii)液体溶液電解質にイオン接触する対極(たとえばカソード)とを含み、インターカレーティング剤および/または湿潤剤の層間隔中への電気化学的インターカレーションが生じるのに十分な時間の間、ある電流密度で作用電極および対極に電流が印加され、湿潤剤が、メラミン、硫酸アンモニウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ナトリウム(エチレンジアミン)、テトラアルキルアンモニウム、アンモニア、カルバミド、ヘキサメチレンテトラミン、有機アミン、ピレン、1-ピレンカルボン酸(PCA)、1-ピレン酪酸(PBA)、1-ピレンアミン(PA)、ポリ(ナトリウム-4-スチレンスルホネート)、またはそれらの組合せから選択されるステップと;
(b)超音波処理、熱衝撃曝露、機械的剪断処理、またはそれらの組合せを用いて、インターカレートされた石炭/コークスの化合物から六角形炭素原子中間層を剥離し分離して、単離グラフェンシートを製造するステップとを含む、方法を提供する。
【0039】
好ましくは、液体溶液電解質中のコークス/石炭の粉末の濃度は、(たとえばアノード集電体を介して)アノードに電子的に接触するが、カソードには電子的に接触しない電子伝導経路の網目構造を実現するのに十分高い濃度である。
【0040】
別の電気化学的インターカレーション構成の1つでは、インターカレートされ、次に剥離されるすべてのコークス/石炭の粉末材料から、アノード電極として機能する棒または板を形成することができる。金属または黒鉛の棒または板はカソードとして機能する。アノードおよびカソードの両方は、溶解したインターカレーティング剤および湿潤剤を含む液体溶液電解質に接触する、またはその中に分散する。この別の構成では、インターカレートされるコークス/石炭の材料は液体電解質中に分散されない。次に、電流をアノードおよびカソードに印加することで、インターカレーティング剤および/またはグラフェン面湿潤剤のアノード活物質(コークス/石炭材料)中への電気化学的インターカレーションが可能となる。好都合な条件(たとえば十分高い電流密度)下では、直接コークス/石炭の粉末からグラフェンシートへの剥離が起こる。これとは別に好ましくは、剥離せずにインターカレーションを実現するため(インターカレートされた化合物を形成するために)、電気化学的インターカレーション条件が細かく制御される。インターカレートされた化合物は、ステップ(b)に記載の手順を用いることによって剥離される。このような2段階手順は直接剥離手順よりも好ましいが、その理由は、後者は制御できない方法で起こることが多く、棒全体の中へのインターカレーションが完了するまでに、電極(たとえばアノード)が破壊または崩壊する場合があるからである。
【0041】
黒鉛フレークをさらに分離し、場合によりフレークサイズを減少させるために使用される機械的剪断処理は、好ましくはエアミル粉砕(エアジェットミル粉砕など)、ボールミル粉砕、機械的剪断(回転ブレード流体粉砕など)、あらゆる流体エネルギーに基づくサイズ減少プロセス、超音波処理、またはそれらの組合せを用いるステップを含む。
【0042】
インターカレーティング剤は、リン酸(HPO)、ジクロロ酢酸(ClCHCOOH)から選択されるブレンステッド酸、またはメタンスルホン酸(MeSOH)、エタンスルホン酸(EtSOH)、もしくは1-プロパンスルホン酸(n-PrSOH)から選択されるアルキルスルホン酸、またはそれらの組合せを含むことができる。
【0043】
ある実施形態では、インターカレーティング剤は金属ハロゲン化物を含む。特に、インターカレーティング剤は、MCl(M=Li、Na、K、Cs)、MCl(M=Zn、Ni、Cu、Mn)、MCl(M=Al、Fe、Ga)、MCl(M=Zr、Pt)、MF(M=Zn、Ni、Cu、Mn)、MF(M=Al、Fe、Ga)、MF(M=Zr、Pt)、およびそれらの組合せからなる群から選択される金属ハロゲン化物を含む。
【0044】
あるいは、インターカレーティング剤はアルカリ金属塩を含むことができ、この塩は有機溶媒またはイオン液体中に分散させることができる。好ましくは、アルカリ金属塩は、過塩素酸リチウム(liClO)、過塩素酸ナトリウム(NaClO)、過塩素酸カリウム(KClO)、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム(NaPF)、ヘキサフルオロリン酸カリウム(KPF)、ホウフッ化ナトリウム(NaBF)、ホウフッ化カリウム(KBF)、ヘキサフルオロヒ化ナトリウム、ヘキサフルオロヒ化カリウム、トリフルオロメタスルホン酸ナトリウム(NaCFSO)、トリフルオロメタスルホン酸カリウム(KCFSO)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドナトリウム(NaN(CFSO)、トリフルオロメタンスルホンイミドナトリウム(NaTFSI)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドカリウム(KN(CFSO)、ナトリウムイオン液体塩、過塩素酸リチウム(LiClO)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、ヘキサフルオロヒ化リチウム(LiAsF)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCFSO)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム(LiN(CFSO)、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiBOB)、オキサリルジフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、オキサリルジフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、硝酸リチウム(LiNO)、Li-フルオロアルキル-ホスフェート(LiPF(CFCF)、ビスパーフルオロエチスルホニルイミドリチウム(LiBETI)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム、ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウム、トリフルオロメタンスルホンイミドリチウム(LiTFSI)、イオン液体リチウム塩、またはそれらの組合せから選択される。
【0045】
好ましくは、アルカリ金属塩を溶解させるために使用する有機溶媒は、1,3-ジオキソラン(DOL)、1,2-ジメトキシエタン(DME)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)、ポリ(エチレングリコール)ジメチルエーテル(PEGDME)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(DEGDBE)、2-エトキシエチルエーテル(EEE)、スルホン、スルホラン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル、γ-ブチロラクトン(γ-BL)、アセトニトリル(AN)、酢酸エチル(EA)、ギ酸プロピル(PF)、ギ酸メチル(MF)、トルエン、キシレン、酢酸メチル(MA)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ビニレンカーボネート(VC)、アリルエチルカーボネート(AEC)、ヒドロフロロエーテル(hydrofloroether)、またはそれらの組合せから選択される。これらの溶媒の実質的にすべてを、アルカリ金属イオン(たとえばLi、Na、またはK)のグラフェン面間の空間内へのインターカレーションを促進するための本発明の電気化学的インターカレーション方法に使用することができる。好都合な電気化学的条件下では、これらの有機溶媒のほとんどは、これらの面間の空間内へのインターカレーションが可能である。
【0046】
湿潤剤は、メラミン、硫酸アンモニウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ナトリウム(エチレンジアミン)、テトラアルキルアンモニウム、アンモニア、カルバミド、ヘキサメチレンテトラミン、有機アミン、ポリ(ナトリウム-4-スチレンスルホネート)、またはそれらの組合せから選択される。本発明者らは、驚くべきことに、インターカレーティング剤に加えて、電解質中に湿潤剤を添加することによって実現可能となるいくつかの利点を確認した。典型的には、湿潤剤を液体溶液電解質に添加することによって、湿潤剤を含まない電気化学的インターカレーション電解質よりも薄いグラフェンシートが得られる。これは、典型的には、周知のBET法によって測定される、剥離後に形成されるグラフェンシート材料の塊のより大きな比表面積によって反映される。湿潤剤は、層間空間内に容易に広がり、グラフェン面に付着し、グラフェンシートの形成後に互いに再結合することを防止することができると思われる。グラフェン面は、分離されると、再び再積層する傾向が強いことを考慮すると、このことは特に望ましい特徴となる。これらのグラフェン面湿潤剤の存在は、グラフェンシートの再結合を防止する役割を果たす。
【0047】
一部の湿潤剤(たとえばアミン基を含有するもの)は、単離グラフェンシートを化学的に官能化する役割も果たし、それによって複合材料中のマトリックス樹脂(たとえばエポキシ)とのグラフェンシートの化学的または機械的適合性が改善される。
【0048】
ナトリウムイオンおよびカリウムイオンは、イオン半径に関してリチウムイオンよりもかなり大きいにもかかわらず、本発明の電気化学的構成および方法を用いてすべての種類のコークス/石炭材料中のグラフェン面間の空間にインターカレートできることは非常に驚くべきことである。さらに予期せぬことに、コークス/石炭材料のグラフェン面間にインターカレートした混合イオン(たとえばLi+Na、またはLi+K)は、1つのイオン種(たとえばLiのみ)よりも、黒鉛を剥離してより薄いグラフェンシートを形成するために有効である。
【0049】
本発明者らは、本発明の電気化学的インターカレーション(ある種のアルカリ金属塩およびある種の溶媒および/または湿潤剤を使用)および熱剥離によって、5nm未満の平均厚さを有するグラフェンシートの形成が可能であることを見出した。しかし、ステージ2およびステージ3のコークスインターカレーション化合物からは、5nmを超える厚さのグラフェンプレートレットが形成されうる。プレートレットの厚さをさらに減少させるために、本発明者らはさらなる研究を行い、電気化学的インターカレーション/剥離の繰り返しが、2nm未満または5つ未満の、各シートまたはプレートレットにおけるグラフェン面の平均厚さを有し、多くの場合でほとんどが単層グラフェンである非常に薄いグラフェンシートの製造に有効な方法となることを見出した。
【0050】
コークス材料(たとえばニードルコークス)のインターカレーションによって得られるコークスインターカレーション化合物(CIC)中では、インターカラント種は、層間空間またはギャラリー内に完全または部分的な層を形成しうることに留意されたい。2つの隣接するインターカラント層の間に1つのグラフェン層が常に存在する場合、結果として得られるコークスはステージ1のCIC(すなわち、平均で、グラフェン面1つ当たり1つのインターカレーション層が存在する)と呼ばれる。2つのインターカラント層の間にn個のグラフェン層が存在する場合、ステージnのCICを有することになる。アルカリ金属がインターカレートされたコークス化合物は、使用されるインターカレーティング剤の種類によりステージ2、ステージ3、ステージ4、またはステージ5となることが分かった。黒鉛(石炭およびコークスではなく)からすべて単層のグラフェンを形成するために必要な条件は、完全なステージ1のGIC(黒鉛インターカレーション化合物)を剥離のために有することであると一般に考えられる。ステージ1のGICを有しても、理由は不明なままであるが、すべてのグラフェン層が剥離するとは限らない。同様に、ステージnのGIC(n>5)の剥離では、グラフェンシート厚さの分布が広くなる傾向にある(ほとんどがn層をはるかに超える)。言い換えると、ステージ5のGICの剥離によって、10または20層よりもはるかに厚いグラフェンシートが得られることが多い。したがって、十分制御された寸法を有する(好ましくは非常に薄い)グラフェンシートを、酸がインターカレートされた黒鉛から一貫して製造可能となることは大きな課題である。この状況において、本方法によって、電気化学的な方法を使用し、濃硫酸などの望ましくない化学物質を使用せずに、数層グラフェンおよび/または単層グラフェンを一貫して形成可能であることは本発明者らにとって驚くべきことであった。製造収率は、典型的には70%を超え、より典型的には80%を超え、最も典型的には90%を超える。
【0051】
以下の実施例は、本発明の実施の最良の形態を提供する役割を果たすものであり、本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。
実施例1:粉砕されたニードルコークス粉末からの単離グラフェンシートの製造
平均長さ<10μmまで粉砕したニードルコークスをアノード材料として使用し、1,000mLの液体溶液電解質(有機溶媒中典型的には0.5~3Mのアルカリ金属塩)を使用した。エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、およびジエチルカーボネート(DEC)を溶媒として使用した。この実施例で使用したアルカリ金属塩としては、過塩素酸リチウム(LiClO)、過塩素酸ナトリウム(NaClO)、過塩素酸カリウム(KClO)、およびそれらの混合物が挙げられる。選択したグラフェン面湿潤剤としては、メラミン、ナトリウム(エチレンジアミン)、およびヘキサメチレンテトラミンが挙げられる。
【0052】
アノード支持要素はステンレス鋼板であり、カソードは、リチウムまたはナトリウムを含浸させた直径約4cmおよび厚さ0.2cmの黒鉛発泡体である。カソード板を粉砕したニードルコークス粒子から分離し、これらの粒子を下のアノード支持要素に押し付けることで、粒子がアノード支持要素と良好に電気的に接触してアノードとして機能することを確実にするため、ガラス繊維布のセパレータを使用した。電極、電解質、およびセパレータは、電気化学セルを形成するためにブフナー型漏斗内に収容される。インターカレート(電解質中に含まれる)が、コークスを飽和させ、セルを上部から底部まで移動することができるようにするため、アノード支持要素、カソード、およびセパレータは多孔質である。
【0053】
粉砕したニードルコークス粒子に対して電気化学的充填処理を行った(すなわち0.5アンペアの電流(約0.04アンペア/cmの電流密度)および約4~6ボルトのセル電圧で2~5時間、コークス構造中のグラフェン面間の空間にアルカリ金属イオンを充填した。これらの値は、セルの構成および構造の変化とともに変動しうる。電気化学的充填処理の後、結果として得られたインターカレートされた粒子(ビーズ)を水で洗浄し、乾燥させた。
【0054】
続いて、アルカリ金属イオンがインターカレートされたコークス化合物の一部を水浴に移した。化合物を水と接触させると、黒鉛微結晶の非常に急速で大きな膨張が誘発されることが分かった。続いて、この膨張/剥離黒鉛溶液の一部に対して音波処理を行った。種々の試料を収集し、それらの形態をSEMおよびTEM観察によって調べ、それらの比表面積を周知のBET法により測定した。
【0055】
この表中のデータからいくつかの重要な所見を得ることができる:
1)グラフェン面湿潤剤を含む電解質のインターカレーションによって、このような湿潤剤を含まない電解質よりも薄い(ほとんどが単層)グラフェンシートが得られる。
2)Liよりも大きなアルカリ金属イオン(NaおよびK)も、非常に薄いグラフェンシートの製造において有効なインターカラントとなる。実際、Naイオンは、この点においてLiよりも予想外に有効である。
3)単層グラフェンシートの製造において、2種類のアルカリ金属塩の混合物(たとえばLiClO+NaClO)は、1種類の成分単独よりも効果的である。
4)ECはPCよりも有効であると思われる。
5)含有する大部分のグラフェンシートが単層グラフェンである生成物は、本発明による電気化学的インターカレーション方法を用いて容易に製造することができる。
【0056】
ある量のほとんどが多層のグラフェンシートに対して、次に、同等の電気化学的インターカレーション条件下で再インターカレーションを行って、再インターカレートされたNGPを得た。続いて、これらの再インターカレートされたNGPは、超薄グラフェンシートを生成するために超音波処理浴に移した。選択された試料の電子顕微鏡検査によって、結果として得られたNGPの大部分が単層グラフェンシートであることが示される。
【0057】
比較例1:濃硫酸-硝酸がインターカレートされたニードルコークス粒子
実施例1で使用したものと同様の1グラムの粉砕したニードルコークス粒子に、4:1:0.05の重量比の硫酸、硝酸、および過マンガン酸カリウムの混合物(黒鉛対インターカレートの比は1:3)を4時間インターカレートさせた。インターカレーション反応の終了後、混合物を脱イオン水中に注ぎ、濾過した。次に、試料を5%HCl溶液で洗浄して、硫酸イオンおよび残留塩の大部分を除去し、次に、濾液のpHが約5となるまで脱イオン水で繰り返し洗浄した。乾燥させた試料を次に1,000℃で45秒間剥離させた。得られたNGPをSEMおよびTEMを用いて検査し、それらの長さ(最大横寸法)および厚さを測定した。グラフェンを製造するための従来の強酸方法と比較すると、本発明による電気化学的インターカレーション方法によって、同等の厚さ分布であるが、はるかに大きい横寸法(3~5μm対200~300nm)のグラフェンシートが得られることが確認された。周知の真空支援濾過手順を用いて、グラフェンシートからグラフェン紙層を作製した。ヒドラジン還元酸化グラフェン(硫酸-硝酸がインターカレートされたコークスから作製)から作製したグラフェン紙は11~143S/cmの導電率値を示す。本発明による電気化学的インターカレーションによって作製された比較的酸化のないグラフェンシートから作製されたグラフェン紙は1,500~3,600S/cmの導電率値を示す。
【0058】
実施例2:粉砕した褐炭粉末からのグラフェンシート
一例において、それぞれ2グラムの褐炭の試料を、平均直径25.6μmの粒度まで粉砕した。得られた粉末試料を、実施例1に記載されるが異なるアルカリ金属塩および溶媒を使用する同様の電気化学的インターカレーション条件に曝露した。褐炭粉末試料に対して、0.5アンペアの電流(約0.04アンペア/cmの電流密度)および約5ボルトのセル電圧における3時間の電気化学的インターカレーション処理を行った。電気化学的インターカレーション処理後、結果として得られたインターカレートされた粉末を電気化学反応器から取り出し、乾燥させた。
【0059】
続いて、石炭インターカレーション化合物を、950℃の温度にあらかじめ設定された炉に45秒間入れた。化合物は、黒鉛様微結晶の急速で大きな膨張が誘発され、膨張比が30を超えることが分かった。高剪断回転ブレード装置中で15分間の機械的剪断処理の後、得られたグラフェンシートは、SEMおよびTEM観察に基づくと、単層グラフェンシートから8層グラフェンシートの範囲の厚さを示す。結果を以下の表2にまとめている。
【0060】
2つの六角形炭素原子面(グラフェン面)の間の介在空間はわずか約0.28nmであることに留意されたい(面間距離は0.34nmである)。より大きな分子および/またはイオン(Liに対するK)は、層状黒鉛材料の介在空間中にインターカレートできないと、当業者は予測されよう。徹底的な研究開発努力の後、本発明者らは、アルカリ金属塩および溶媒の適切な組合せ、ならびに印加電流密度の適切な大きさを用いた電気化学的方法によって、はるかに大きな分子および/またはイオンを収容するためにグラフェン様領域における介在空間を広げることができることを見出した。グラフェン面湿潤剤の存在は、剥離したグラフェンシートが再積層して黒鉛構造に戻るのを防止する役割を果たす。
【0061】
これらの多層グラフェンプレートレットの再インターカレーションおよび引き続く剥離によって、約0.75nmの平均厚さ(平均で約2個のグラフェン面)のプレートレット厚さにさらに減少した。
【0062】
実施例3:水性電解質溶液中の粉砕された石油ニードルコークスの電気化学的相互作用、剥離、および分離からの単離グラフェンシートの製造
それぞれ2グラムの黒鉛鉱石粉末の試料を36μmの平均長さまで粉砕した。これらの粉末試料に対して、水性電解質中の電気化学的インターカレーションを行った。多岐にわたる金属ハロゲン化物塩を脱イオン水中に溶解させて液体電解質を形成した。調査した湿潤剤としては、アンモニア、硫酸アンモニウム、およびドデシル硫酸ナトリウムが挙げられる。黒鉛鉱石に対して、0.5アンペアの電流(約0.04アンペア/cmの電流密度)および約1.8ボルトのセル電圧における3時間の電気化学的インターカレーション処理を行った。電気化学的インターカレーション処理後、結果として得られたインターカレートされたコークス(ほとんどがステージ1のCIC、一部がステージ2)を電気化学反応器から取り出し、乾燥させた。
【0063】
続いて、インターカレートされた化合物を、1,025℃の温度にあらかじめ設定された炉に60秒間入れた。化合物は、黒鉛微結晶の急速で大きな膨張が誘発され、膨張比が80を超えることが分かった。高剪断回転ブレード装置中で15分間の機械的剪断処理の後、得られたグラフェンシートは、SEMおよびTEM観察に基づくと、単層グラフェンシートから5層グラフェンシートの範囲の厚さを示す。結果を以下の表3にまとめている。これらのデータは、選択した溶媒(たとえば水)中に溶解させた多種多様な金属塩(MCl、MCl、およびMClなど;M=金属)を本発明による方法におけるインターカレーティング剤として使用することができ、それによってこれが汎用性が高く環境に優しい方法(たとえば濃硫酸および酸化剤を使用する従来方法とは対照的である)となることを示している。グラフェン面湿潤剤を使用して、非常に薄いグラフェンシートを製造するための電気化学的インターカレーションおよび剥離プロセスを顕著に改善できるという発見も驚くべきことである。
【0064】
比較例3:従来のHummers方法
Hummersの方法[米国特許第2,798,878号明細書、1957年7月9日]に準拠して硫酸、硝酸塩、および過マンガン酸カリウムを用いて粉砕されたニードルコークス粒子(実施例3と同じ)を酸化させることによって、高度にインターカレートされかつ酸化された黒鉛を調製した。反応終了後(10時間が考慮される)、混合物を脱イオン水中に注ぎ、濾過した。試料を次に5%HCl溶液で洗浄して、硫酸イオンおよび残留塩の大部分を除去し、次に、濾液のpHが約5となるまで脱イオン水で繰り返し洗浄した。この意図はすべての硫酸および硝酸の残留物を黒鉛の間隙から除去することであった。得られたスラリーを噴霧乾燥し、65℃の真空オーブン中で24時間保管した。得られた粉末の層間隔をDebey-ScherrerのX線技術によって測定すると、約0.76nm(7.6Å)であり、黒鉛が酸化黒鉛(ステージ1およびステージ2のGIC)に変換されたことを示している。インターカレートされた化合物を乾燥させたものを石英管中に入れ、1050℃にあらかじめ設定された水平管状炉中に45秒間挿入した。剥離したワームを水と混合し、次に高剪断分散機を用いて20分間の機械的剪断処理を行った。得られたグラフェンシートは2.2~7.9nmの厚さ(198~332m/gの比表面積)を有することが分かった。これらの値は、環境にもより優しい本発明の方法によって実現される値にはとても及ばない。
【0065】
実施例4:無煙炭からの単離グラフェンシートの製造
Shanxi,ChinaのTaixi石炭を単離グラフェンシートの調製のための出発物質として使用した。この原炭を粉砕し、200μm未満の平均粒度を有する粉末にふるい分けした。この石炭の粉末をボールミル粉砕によってさらに2.5時間粉砕すると、90%を超える粉末粒子の直径が粉砕後に15μm未満となる。この原炭粉末を50℃のビーカー中の塩酸塩で4時間処理して、改質石炭(MC)を形成し、次にこれを濾液中にClが検出されなくなるまで蒸留水で洗浄した。この改質石炭をFeの存在下で熱処理して、石炭を黒鉛様炭素に変換させた。MC粉末およびFe(SO4)[TX-de:Fe(SO4)=16:12.6]をボールミル粉砕によって2分間十分に混合し、次にその混合物に対してアルゴン下2400℃で2時間の接触黒鉛化を行った。
【0066】
これらの石炭由来の粉末試料に対して、実施例1で使用したものと同等の条件下で電気化学的インターカレーションを行った。続いて、インターカレートされた化合物を、1,050℃の温度にあらかじめ設定された炉に60秒間移した。この化合物は、200を超える膨張比で黒鉛微結晶の迅速で大きな膨張が誘発されることが分かった。高剪断回転ブレード装置中で15分間の機械的剪断処理後、結果として得られるグラフェンシートは、SEMおよびTEM観察に基づく単層グラフェンシートから5層グラフェンシートの範囲の厚さを示す。
【0067】
実施例5:瀝青炭からの単離グラフェンシートの製造
一例において、300mgの瀝青炭をアノード材料として使用し、有機溶媒中の1,000mLおよび1Mのアルカリ金属塩を液体溶液電解質として使用した。エチレンカーボネート(EC)およびプロピレンカーボネート(PC)を別々に溶媒として使用した。この実施例で使用したアルカリ金属塩は、過塩素酸リチウム(LiClO)および過塩素酸ナトリウム(NaClO)を含む。
【0068】
アノード支持要素はステンレス鋼板であり、カソードは、リチウムまたはナトリウムを含浸させた直径約4cmおよび厚さ0.2cmの黒鉛発泡体である。ガラス繊維布のセパレータを使用することで、カソード板を石炭粒子から分離し、これらの粒子をアノード支持要素に対して押し付けて、アノードとして機能させるために粒子のアノード支持要素との電気的接触が良好となるようにした。これらの電極、電解質、およびセパレータがブフナー型漏斗中に収容されて電気化学セルが形成される。インターカレート(電解質中に含まれる)がコークスを飽和させ、セルを上部から底部まで通過できるようにするため、アノード支持要素、カソード、およびセパレータは多孔質である。
【0069】
石炭粒子に対して、0.5アンペアの電流(約0.04アンペア/cmの電流密度)および約4~5ボルトのセル電圧において2時間の電気化学的充填処理を行った。これらの値は、セルの構成および組立の変化によって変動しうる。電気化学的充填処理の後、結果として反応した粒子を水で洗浄した。その溶液を室温まで冷却し、100mlの氷が入ったビーカー中に注ぎ、続いてpH値が7に到達するまでNaOH(3M)を加えるステップを行った。この中性混合物に対してクロスフロー限外濾過を2時間行った。精製後、回転蒸発を用いて溶液を濃縮して固体フミン酸シートを得た。
図1
図2