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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-25
(45)【発行日】2022-09-02
(54)【発明の名称】伝送用の電力線構造
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/04 20060101AFI20220826BHJP
   H01B 7/18 20060101ALI20220826BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20220826BHJP
   H01B 5/08 20060101ALI20220826BHJP
   H01B 7/06 20060101ALI20220826BHJP
   D07B 1/06 20060101ALI20220826BHJP
【FI】
H01B7/04
H01B7/18 D
H01B7/00 310
H01B5/08
H01B7/06
D07B1/06 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019004297
(22)【出願日】2019-01-15
(65)【公開番号】P2020113468
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2021-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】500543775
【氏名又は名称】株式会社ジーエスエレテック
(74)【代理人】
【識別番号】100188075
【弁理士】
【氏名又は名称】石黒 修
(72)【発明者】
【氏名】奥田 信吾
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特許第6457145(JP,B1)
【文献】特開2007-026714(JP,A)
【文献】特開2014-073034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/04
H01B 7/18
H01B 7/00
H01B 5/08
H01B 7/06
D07B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素線を螺旋コイル状に連続捲回して形成し、内部の中空軸(12a)を長手方向(L)とするコイル巻線(12)と、
前記コイル巻線(12)の外表面に密着状態に設け、前記コイル巻線(12)を一体的に内包し、自らの変形に対する弾性蓄勢力を保有する弾性樹脂製の被覆コイル層(13)とを備え、
前記被覆コイル層(13)の互いに隣接する単一ピッチのコイル層部(13a)同士が前記弾性蓄勢力に抗して、前記長手方向(L)に沿って当接する当接位置(H1)と、前記単一ピッチのコイル層部(13a)同士が前記弾性蓄勢力により、前記長手方向(L)に対して直交する第1径方向(R)に位置ずれ変形し、前記コイル層部(13a)同士が前記第1径方向(R)に沿って伸長して離れ合う伸長位置(H2)との間で弾性変位可能に構成されており、
前記互いに隣接する単一ピッチのコイル層部(13a)同士を当接させた前記当接位置(H1)に保持するとともに、前記互いに隣接する単一ピッチのコイル層部(13a)同士の前記当接する前記当接位置(H1)から解放して前記伸長位置(H2)に変位させる着脱手段(13x、13y)を備え、
前記伸長位置(H2)において、前記コイル層部(13a)の前記位置ずれ変形により捻じれた部分のうち一方(13A)は、所定の角度(θ)を成すように曲成状態にされ、他方(13B)は曲成されて細径ループ線を有し、
前記被覆コイル層(13)の外周表面で前記着脱手段(13x、13y)を除く部分に、被せて設けられた単一層あるいは複数層から成り、可撓性でかつ屈曲性に富む筒状の電磁波シールド層(50)を備え、
前記コイル巻線(12)は、撚線(16、17、18)を複数層に積層された多芯積層部(15)から成り、前記多芯積層部(15)の各層(15a、15b、15c)は同芯的に配置され、前記各層(15a、15b、15c)の前記撚線の径寸法が内層から外層にゆくに従って漸増するように設定したことを特徴とする伝送用の電力線構造。
【請求項2】
素線を螺旋コイル状に連続捲回して形成し、内部の中空軸(12a)を長手方向(L)とするコイル巻線(12)と、
前記コイル巻線(12)の外表面に密着状態に設け、前記コイル巻線(12)を一体的に内包し、自らの変形に対する弾性蓄勢力を保有する弾性樹脂製の被覆コイル層(13)とを備え、
前記被覆コイル層(13)の互いに隣接する単一ピッチのコイル層部(13a)同士が前記弾性蓄勢力に抗して、前記長手方向(L)に沿って当接する当接位置(H1)と、前記単一ピッチのコイル層部(13a)同士が前記弾性蓄勢力により、前記長手方向(L)に対して直交する第1径方向(R)に位置ずれ変形し、前記コイル層部(13a)同士が前記第1径方向(R)に沿って伸長して離れ合う伸長位置(H2)との間で弾性変位可能に構成されており、
前記互いに隣接する単一ピッチのコイル層部(13a)同士を当接させた前記当接位置(H1)に保持するとともに、前記互いに隣接する単一ピッチのコイル層部(13a)同士の前記当接する前記当接位置(H1)から解放して前記伸長位置(H2)に変位させる着脱手段(13x、13y)を備え、
前記伸長位置(H2)において、前記コイル層部(13a)の前記位置ずれ変形により捻じれた部分のうち一方(13A)は、所定の角度(θ)を成すように曲成状態にされ、他方(13B)は曲成されて細径ループ線を有し、
前記コイル巻線(12)は、撚線(16、17、18)を複数層に積層された多芯積層部(15)から成り、前記多芯積層部(15)の各層(15a、15b、15c)は同芯的に配置され、前記各層(15a、15b、15c)の前記撚線の径寸法が内層から外層にゆくに従って漸増するように設定しており、
単一層あるいは複数層から成り、可撓性でかつ屈曲性に富む筒状の電磁波シールド層(50)を前記多芯積層部(15)の外周表面を覆うように装着して設け、前記電磁波シールド層(50)が前記被覆コイル層(13)と前記多芯積層部(15)との間に存するように配置したことを特徴とする伝送用の電力線構造。
【請求項3】
素線を螺旋コイル状に連続捲回して形成し、内部の中空軸(12a)を長手方向(L)とするコイル巻線(12)と、
前記コイル巻線(12)の外表面に密着状態に設け、前記コイル巻線(12)を一体的に内包し、自らの変形に対する弾性蓄勢力を保有する弾性樹脂製の被覆コイル層(13)とを備え、
前記被覆コイル層(13)の互いに隣接する単一ピッチのコイル層部(13a)同士が前記弾性蓄勢力に抗して、前記長手方向(L)に沿って当接する当接位置(H1)と、前記単一ピッチのコイル層部(13a)同士が前記弾性蓄勢力により、前記長手方向(L)に対して直交する第1径方向(R)に位置ずれ変形し、前記コイル層部(13a)同士が前記第1径方向(R)に沿って伸長して離れ合う伸長位置(H2)との間で弾性変位可能に構成されており、
前記互いに隣接する単一ピッチのコイル層部(13a)同士を当接させた前記当接位置(H1)に保持するとともに、前記互いに隣接する単一ピッチのコイル層部(13a)同士の前記当接する前記当接位置(H1)から解放して前記伸長位置(H2)に変位させる着脱手段(13x、13y)を備え、
前記伸長位置(H2)において、前記コイル層部(13a)の前記位置ずれ変形により捻じれた部分のうち一方(13A)は、所定の角度(θ)を成すように曲成状態にされ、他方(13B)は曲成されて細径ループ線を有し、
長尺な複数の金属細線(52a、52b)を筒状に編み上げて成り、可撓性でかつ屈曲性に富み、径方向に拡縮変形可能な網状ジャケット(52)を構成し、前記網状ジャケット(52)を縮径変形状態で前記被覆コイル層(13)の外周表面で、前記着脱手段(13x、13y)を除く部分に、緊縛状態に被せて装着したことを特徴とする伝送用の電力線構造。
【請求項4】
前記コイル層部(13a)同士の一方には、突部(13x)が形成され、他方には凹部(13y)が形成されており、前記突部(13x)および前記凹部(13y)は前記着脱手段を構成し、前記突部(13x)と前記凹部(13y)との着脱可能な係合により前記コイル層部(13a)同士を前記当接位置(H1)に位置保持し、前記凹部(13y)に対する前記突部(13x)の離脱時に、前記コイル層部(13a)同士を前記係合から解放して自身の前記弾性蓄勢力により前記第1径方向(R)に引き延ばして前記伸長位置(H2)に変形配置する構成であることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか一つに記載の伝送用の電力線構造。
【請求項5】
前記所定の角度(θ)は、40°~120°の範囲内に設定されていることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか一つに記載の伝送用の電力線構造。
【請求項6】
前記各層(15a、15b、15c)の前記撚線は、前記多芯積層部(15)の周方向(Cs)に沿って外接状態に配置され、前記各層の前記撚線の各径方向は、前記多芯積層部(15)の第2径方向(Rs)に沿って直線状態に重なるように合致していることを特徴とする請求項または請求項のいずれか一つに記載の伝送用の電力線構造。
【請求項7】
前記各層(15a、15b、15c)の前記撚線は周方向(Cs)に沿って外接状態に配置され、前記各層(15a、15b、15c)の前記撚線の配置本数は本数に差のない同一数であることを特徴とする請求項または請求項のいずれか一つに記載の伝送用の電力線構造。
【請求項8】
前記多芯積層部(15)の中心部は、前記多芯積層部(15)の軸方向(Ax)に沿って延出する中空の空間部(Sp)を形成した構成であることを特徴とする請求項または請求項のいずれか一つに記載の伝送用の電力線構造。
【請求項9】
前記空間部(Sp)には、チューブ(20)に封入された通信線(21)が前記軸方向(Ax)に沿って配置されていることを特徴とする請求項8に記載の伝送用の電力線構造。
【請求項10】
前記多芯積層部(15)は、所定の圧縮率に設定されて所望の断面積を有し、前記所望の断面積は15~25平方mmの範囲内であり、前記圧縮率は60~80%の範囲内であることを特徴とする請求項または請求項のいずれか一つに記載の伝送用の電力線構造。
【請求項11】
前記被覆コイル層(13)の樹脂材料は、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレンおよびポリ塩化ビニールから成るビニール系ポリマー群、ならびにポリエステルおよびポリアミドから成る縮合系ポリマー群のうち選択された一つであることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか一つに記載の伝送用の電力線構造。
【請求項12】
長尺な複数の金属細線(52a、52b)を筒状に編み上げて成り、可撓性でかつ屈曲性に富み、径方向に拡縮変形可能な網状ジャケット(52)を構成し、前記電磁波シールド層(50)の外周表面で、前記着脱手段(13x、13y)を除く部分に、前記網状ジャケット(52)を縮径変形状態で緊縛状態に被せて装着したことを特徴とする請求項1または請求項2のいずれか一つに記載の伝送用の電力線構造。





【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気系統に適用される電送用の電力線構造の改良に係り、とりわけ、高電気容量を必要とし、電磁波シールド機能を有する伝送用の電力線構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車業界では、電装品への電力供給のため、種々の電線が接続用のワイヤーハーネスとして使用されている。この種の適用例としては、ABS(アンチロック・ブレーキング・システム)、EPB(エレクトリック・パーキングブレーキ)、AVS(アダプティブ・バリアブル・サスペンションシステム)やWSS(ホイール・スキッドシステム)等に対するセンサーへの接続がある。
【0003】
将来的な適用としては、EMB(エレクトリック・モータブレーキ)に対するセンサーへの接続がある。また、他の適用例としては、コンピュータを内蔵した電子制御ユニット(ECU)と各種の車載センサーとの接続に用いられている。
【0004】
自動車うちでもEV車やPHEV車などの蓄電池を電源とする車両では、回転速度の変速調整を図るため、インホイールモータなどの駆動モータに高電気容量で給電する必要がある(特許文献1参照)。このため、駆動モータへの電力線を多芯積層電線とし、真円形状に近くて崩れ難く、かつ変形し難い稠密充填として構成する必要がある(特許文献2~5参照)。
【0005】
ちなみに、特許文献2の撚線導体では、複数層から成る外層を有し、外層の各層は複数本の素線を同一周円上に配設されている。外層において、各層を構成する素線の数は全て同一で、各層の素線の直径も同一寸法に設定している。この構造により、素線の接触面での滑り現象が起き難く、撚り戻りが生じ難く、撚り目の開きも起き難くしている。
【0006】
電力線を集合線として利用した場合、表皮および近接効果に起因する渦電流の発生を抑制して、電力伝送効率が低下しないようにする必要がある(特許文献6参照)。
また、特許文献7には編組やメッシュによる遮蔽電線ケーブルが記載され、特許文献8には電磁波遮蔽のシールド線が記載されている。これらの特許文献7、8では、編組、メッシュおよびシールド層により、電磁波ノイズを遮蔽し、電気伝導部材に対する電気信号の妨害を阻止している。また、特許文献9には、複数の細線による電線編み部を巻いたブレーキホースが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-131629号公報
【文献】特開2009-158331号公報
【文献】特開2017-183086号公報
【文献】特開2008-21603号公報
【文献】特開2001-35260号公報
【文献】特開2013-207907号公報
【文献】特開平05-120930号公報
【文献】特開2015-153497号公報
【文献】特開2006-236861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、近時の自動車業界では車両の軽量化に重点をおいていることから、電線に対する軽量化も要請されており、配索電線を用いたものでは、高屈曲性能の確保を目指すものの、高電気容量化を確保した軽量化という観点からは不十分である。
このため、電線の配索は、電線構造の軽量化を図りながらも、稠密充填として多芯積層電線を構成し、高電気容量化の給電を実現した上で、伝送損失を抑制可能な電力線構造の実現化が望まれている。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、電磁波ノイズを遮蔽することをはじめ、高電気容量化の給電を可能とした上で、表皮および近接効果に起因する渦電流の発生を抑制して、電力伝送効率の低下を抑えて伝送損失を最小限に止めることができる伝送用の電力線構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
素線を螺旋コイル状に連続捲回して形成し、内部の中空軸を長手方向とするコイル巻線を設けている。このコイル巻線の外表面に密着状態に設け、コイル巻線を一体的に内包する弾性樹脂製の被覆コイル層を構成している。被覆コイル層は、自らの変形に対する付勢力を弾性蓄勢力として保有する。
被覆コイル層の互いに隣接する単一ピッチのコイル層部同士が、その弾性蓄勢力に抗して長手方向に沿って当接する状態を当接位置としている。
単一ピッチのコイル層部同士が長手方向に対して直交する径方向に位置ずれ変形し、コイル層部同士が、その弾性蓄勢力により径方向に沿って伸長して離れ合う状態を伸長位置としている。コイル層部同士は、当接位置と伸長位置との間で弾性変位可能に構成されている。
被覆コイル層の外周表面には、複数の金属細線を編組として構成され、あるいは複数の金属細線を網状に編み合わせて成り、単一層あるいは複数層とした筒状の電磁波シールド層を被せている。
着脱手段は、互いに隣接する単一ピッチのコイル層部同士を当接させて当接位置に保持するとともに、互いに隣接する単一ピッチのコイル層部同士の当接を解放して伸長位置に変位させる。
コイル層部の位置ずれ変形により捻じれた部分のうち一方は、所定の角度を成すように曲成され、他方は曲成されて細径ループ線を有する構造となっている。
【0011】
上記構成では、コイル層部の位置ずれ変形により捻じれた部分のうち一方は、所定の角度を成すように曲成されている。
コイル層部の捻じれた部分における「捻じれ前部」と「捻じれ後部」とでは、電流の流れる方向が相反する。「捻じれ前部」で生じる磁束が集まって形成する磁束前面とし、「捻じれ後部」で生じる磁束が集まって形成する磁束後面とする。
電流の流れる方向が相反することにより生じる磁束前面と磁束後面とは、同一面上にはなく所定の角度を成すようになる。
【0012】
この結果、磁束前面と磁束後面とが同一面上になるものと異なり、コイル層部におけるコイル巻線の表皮および近接効果に起因する渦電流の発生を抑制して、電力伝送効率の低下を抑えて伝送損失を最小限に止めることができる。
また、コイル巻線は、撚線が複数層に積層された多芯積層部から成り、多芯積層部の各層は撚線を構成し、各層の撚線の径寸法は内層から外層にゆくに従って漸増するように設定している。このため、各層の稠密充填が実現し、多芯積層部の高電気容量化を確保することができる。
【0013】
被覆コイル層の外周表面で着脱手段を除く部分には、複数の金属細線を編組として構成され、あるいは複数の金属細線を網状に編み合わせて成り、可撓性かつ屈曲性に富む筒状の電磁波シールド層を被せている。電磁波シールド層により、多芯積層部内への電磁波ノイズ(例えばRFI、EMIなど)を遮蔽し、各撚線に対する電気信号の妨害を阻止することができる。
【0014】
コイル層部同士の一方には、突部が形成され、他方には凹部が形成されている。突部と凹部との着脱手段を介しての着脱可能な係合によりコイル層部同士を当接位置に位置保持する。凹部に対する突部の離脱時に、コイル層部同士を自身の弾性蓄勢力により径方向に引き延ばして伸長位置に変形配置する。
【0015】
この構成では、当接位置において、コイル層部同士が長手方向に当接状態に重なり合ったコンパクトなコイル層構造体を成す。
凹部に対する突部の離脱時により、コイル層部同士を自身の弾性蓄勢力により径方向に引き延ばして伸長位置に変形配置することができる。このため、コンパクトなコイル層構造体であっも、コイル層部同士を伸長位置に変形配置することで、長区間に存する端子間の電気接続に用いることができる。
【0016】
長尺な複数の金属細線を筒状に編み上げて成り、可撓性かつ屈曲性に富み、径方向に沿って拡縮変形可能な網状ジャケットを構成し、被覆コイル層の外周表面で着脱手段を除く部分には、網状ジャケットを縮径変形状態にして被せて締め付けて緊縛状態に装着している。
これにより、各撚線を有する多芯積層部を備えた被覆コイル層の一体性を強固にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】電気系統に用いられる伝送用の電力線構造をインホイールモータに適用した構造を示す縦断面図である(参考例1)。
図2】(a)は当接位置にある被覆コイル層を示す正面図、(b)、(c)は伸長位置にある被覆コイル層を示す正面図である(参考例1)。
図3】(a)~(c)は被覆コイル層が伸長位置から当接位置に変位する態様を示す説明図である(参考例1)。
図4】(a)はコイル巻線の多芯積層部を一部破断して示す斜視図、(b)はコイル巻線の多芯積層線を示す横断面図である(参考例1)。
図5】コイル巻線の多芯積層部を一部破断して示す斜視図である(参考例2)。
図6】コイル巻線の多芯積層部を示す横断面図である(参考例3)。
図7】コイル巻線の多芯積層部を示す横断面図である(参考例4)。
図8】電磁波シールド層を装着した被覆コイル層を示すための斜視図である(実施例)。
図9】外被層および電磁波シールド層を装着した被覆コイル層を示すための斜視図である(実施例)。
図10】網状ジャケットを装着した被覆コイル層を示すための斜視図である(実施例)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る伝送用の電力線構造では、コイル層部の位置ずれ変形により捻じれた部分のうち一方は、所定の角度を成すように曲成されている。コイル層部において、電流の流れる方向が相反することにより生じる磁束前面と磁束後面とは、同一面上にはなく所定の角度を成すようになり、コイル層部におけるコイル巻線の表皮および近接効果に起因する渦電流の発生を抑制して伝送損失を最小限に止め、併せて電磁波シールド層によるシールド機能を付与している。
[参考例1
【実施例1】
【0019】
図1ないし図4に基づいて本発明の参考例1を説明する。
本発明に係る伝送用の電力線構造では、例えば、自動車に装備されたABS(アンチロック・ブレーキングシステム)やEPB(エレクトリック・パーキングブレーキ)などの電装品の駆動用のセンサー(図示せず)から制御コンピュータとしての電気制御ユニット(ECU)への信号伝送に有用である。なかでも、EV車やPHEV車などの電気自動車のインホイールモータへの電力線として好適とする。
電源としては、例えば、薄型矩形状の電池を単体の二次電池として左右方向に沿って複数個並列させて重ね合せた電池集合体(セル一列積層体)を後述する蓄電池8として用いている。
【0020】
伝送用の電力線構造1Aは、例えば図1に示すように、電気自動車におけるタイヤ1のホイール2の直流(DC)あるいは交流(AC)のインホイールモータ3に適用されている。ホイール2の内方には、サスペンション機構3Aが配置され、ダンパーから成るショックアブゾーバ4を囲繞するように圧縮コイルスプリング5が配置されている。
【0021】
インホイールモータ3の入力端子T1、T2、T3、T4には、給電線Lu、Lv、Lw、Lsがそれぞれ電力線6として接続されている。電力線6は、インバータ7の出力端子u1、u2、u3、u4を順に入力端子T1、T2、T3、T4に接続している。
【0022】
バッテリーとしての蓄電池8は、システム・メインリレー9および電力コントロールユニット10を介してインバータ7に接続されている。電気制御ユニット11は、システム・メインリレー9(SMR)および電力コントロールユニット10(PCU)にそれぞれ接続されている。
【0023】
給電線Lu、Lv、Lw、Lsとしての電力線6は、図2(a)に示すように、素線を螺旋コイル状に連続捲回して形成し、内部の中空軸12aを長手方向Lとするコイル巻線12を設けている。このコイル巻線12の外表面に被覆層12Aを密着状態に設け、コイル巻線12を一体的に内包する弾性樹脂製の被覆コイル層13を構成している。
【0024】
コイル巻線12の素線としては、銅あるは銅合金などの同一径で平等断面の金属線であり、金属線の表面に錫、ニッケル、銀、アルミニウムあるいは各種の合金をメッキしたものでもよい。この金属線に代わって、例えば、ポリアセチレンやポリチオフェンなどの導電性の合成樹脂線を用いてもよい。
【0025】
被覆コイル層13における被覆層12Aの樹脂材料は、弾性に富むポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレンおよびポリ塩化ビニールから成るビニール系ポリマー群、ならびにポリエステルおよびポリアミドから成る縮合系ポリマー群のうち選択された一つとしている。
【0026】
被覆コイル層13の互いに隣接する単一ピッチのコイル層部13a同士が、その弾性蓄勢力に抗して長手方向Lに沿って当接あるいは密接する状態を当接位置H1としている(図2(a)参照)。
ここで、被覆コイル層13は、被覆層12Aを一体的に内包することから、被覆コイル層13は、自らの変形に対して前述の弾性蓄勢力を付勢力として保有することになる。
【0027】
被覆コイル層13の互いに隣接する単一ピッチのコイル層部13a同士が、その弾性蓄勢力により長手方向Lに対して直交する第1径方向Rに位置ずれ変形し、コイル層部13a同士が径方向Rに沿って伸長して離れ合う状態を伸長位置H2としている(図2(b)、(c)参照)。被覆コイル層13のコイル層部13a同士は、当接位置H1と伸長位置H2との間で弾性変位可能に構成されている。
【0028】
すなわち、被覆コイル層13は自由状態では、図3(a)に示すように、伸長位置H2で所定の形状に付形されたものであり、被覆コイル層13を伸長位置H2から当接位置H1に弾性変位させる際、被覆コイル層13の弾性蓄勢力に抗して押し戻している(図3(b)、(c)参照)。
【0029】
なぜなら、伸長位置H2から当接位置H1に弾性変位させる過程で、被覆コイル層13は弾性蓄勢力が与えられため、その弾性蓄勢力でもって被覆コイル層13が当接位置H1から伸長位置H2に引き延ばされることとなる。
【0030】
被覆コイル層13を当接位置H1から伸長位置H2に変位するには、図1(a)に矢印E1、E2で示すように、被覆コイル層13を引っ張るか、あるいは同図に矢印Mで示すように曲げる。これにより、後述する突部13xが凹部13yから抜け出て離脱するため、被覆コイル層13が自由になって弾性蓄勢力により伸長位置H2に引き延ばされる。
【0031】
コイル層部13a同士の一方には、突部13xが形成され、他方には凹部13yが形成されている。突部13xおよび凹部13yは着脱手段を構成し、突部13xと凹部13yとの着脱可能な係合によりコイル層部13a同士を当接により当接位置H1に位置保持する。凹部13yに対する突部13xの離脱時に、コイル層部13a同士を当接から解放して自身の弾性蓄勢力により当接位置H1から第1径方向Rに引き延ばして伸長位置H2に変形配置する。
【0032】
すなわち、着脱手段は、互いに隣接する単一ピッチのコイル層部13a同士を当接させて当接位置H1に保持するとともに、互いに隣接する単一ピッチのコイル層部13a同士の当接を解放して伸長位置H2に変位させる。
【0033】
伸長位置H2において、コイル層部13aの位置ずれ変形により捻じれた部分が図示上下の双方に生じる。捻じれた部分のうち一方13Aは、先行線素13bと後行線素13cとが所定の角度θ(例えば45°~120°の角度範囲内)を成すように曲成状態にされている(図2(b)参照)。捻じれた部分の他方13Bは、曲成されて先短線素13dと後短線素13eとにより細径ループ線(13B)を有するように構成されている。
【0034】
コイル巻線12は、図4(a)、(b)に示すように、撚線を複数層に積層された多芯積層部15から成っている。多芯積層部15の外層15a、中層15bおよび内層15cは同芯的に配置され、外層15a、中層15b、内層15cの径寸法が多芯積層部15の第2径方向Rsに沿って内層から外層にゆくに従って漸増するように設定されている。
この漸増割合は、任意に設定できる他、例えば、等差級数あるいは等比級数として漸増するように設定してもよい。
【0035】
多芯積層部15の一例として、外層15aは、径寸法(φ)が0.08mmの細線を多数束ねた内撚線16を撚線として7本設けている。
中層15bは、径寸法(φ)が0.05mmの細線を多数束ねた中撚線17を撚線として9本設けている。内層15cは、径寸法(φ)が0.03mmの細線を多数束ねた外撚線18を撚線として12本設けている。
【0036】
この場合、外撚線16、中撚線17および内撚線18の各径方向は、その全てが多芯積層部15の第2径方向Rsに沿って直線状態に重なるように合致している。
すなわち、各層(外層15a、中層15b、内層15c)の撚線(外撚線16、中撚線17および内撚線18)は、多芯積層部15の周方向Csに沿って外接状態で、かつ第2径方向Rsに沿って外接状態に配置されている。
【0037】
なお、多芯積層部15においては、外層15a、中層15bおよび内層15cの同芯三層に限らず、その層数は使用状況などに応じて増減してもよい。また、外層15a、中層15bおよび内層15cの各層の外撚線16、中撚線17および内撚線18の各本数も所望に応じて増減してもよい。
【0038】
内撚線16は互いに同一径寸法で同一円上に配置され、中撚線17も互いに同一径寸法で同一円上に配置され、外撚線18も互いに同一径寸法で同一円上に配置され、外層15a、中層15bおよび内層15cの各層が同芯配置となっている。
多芯積層部15の中心部は、多芯積層部15の軸方向Axに沿って延出する中空の空間部Spを形成し、多芯積層部15の高屈曲性能の確保を可能としている。
【0039】
多芯積層部15の断面積は、15~25平方mm(好ましくは20平方mm)の範囲内であり、多芯積層部15の圧縮率は60~80%(好ましくは70%)の範囲内に設定している。これは多芯積層部15の高電気容量化を確保するためである。
多芯積層部15を上記と同面積に設定して、0.05mm~0.08mmの径寸法を有する細線により構成すると、細線が5万本程度必要となると目算され、実現化を阻む要因となっている。
【0040】
参考例1の作用効果〕
参考例1では、コイル層部13aの位置ずれ変形により捻じれた部分のうち一方の捻じれ部13cは、所定の角度θを成すように曲成されている(図2(b)参照)。
コイル層部13aの捻じれた部分13Aにおける「先行素線13b(捻じれ前部)」と「後行素線13c(捻じれ後部)」とでは、電流Iの流れる方向が相反する。「先行素線13b」で生じる磁束が集まって形成する磁束前面13fとし、「後行素線13c」で生じる磁束が集まって形成する磁束後面13gとする。
【0041】
この場合、電流Iの流れる方向が相反することにより生じる磁束前面13fと磁束後面13gとは、同一面上にはなく所定の角度φを成すようになる。
この結果、磁束前面13fと磁束後面13gとが同一面上になるものと異なり、コイル層部13aにおけるコイル巻線の表皮および近接効果に起因する渦電流の発生を抑制して、電力伝送効率の低下を抑えて伝送損失を最小限に止めることができる。
【0042】
また、コイル巻線12は、撚線(外撚線16、中撚線17、内撚線18)が複数層に積層された多芯積層部15から成り、多芯積層部15の各層15a、15b、15cは撚線を構成し、各層の撚線の径寸法は内層から外層にゆくに従って漸増するように設定している。このため、各層の稠密充填が実現し、多芯積層部15の高電気容量化を確保することができる。
【0043】
また、当接位置H1において、コイル層部13a同士が長手方向Lに当接あるいは密接状態に重なり合ったコンパクトなコイル層構造体を成す。凹部13yに対する突部13xの離脱時により、コイル層部13a同士を自身の弾性蓄勢力により第1径方向Rに引き延ばして伸長位置H2に変形配置することができる。
このため、コンパクトなコイル層構造体であっも、コイル層部13a同士を伸長位置H2に変形配置することで、長距離区間に端子間の電気接続に用いることができる。
[参考例2
【実施例2】
【0044】
図5は本発明の参考例2を示す。この参考例2が参考例1と異なるところは、多芯積層部15の空間部Spに、ゴムチューブ20に封入された通信線21を軸方向Axに沿って配置したことである。これにより、通信機能が追加されて多芯積層部15の多用途ないしは多機能化を実現することができる。
[参考例3
【実施例3】
【0045】
図6は本発明の参考例3を示す。この参考例3が参考例1と異なるところは、外層15aにおける外撚線16の本数を中層15bにおける中撚線17の本数および内層15cにおける内撚線18の本数と同数にしたことである。
中層15bの中撚線17は、外層15aの外撚線16および内層15cの内撚線18と周方向Csに沿って相互に外接する状態に配置されている。
【0046】
すなわち、各層(外層15a、中層15b、内層15c)の撚線(外撚線16、中撚線17、内撚線18)は周方向Csに沿って外接状態に配置され、各層の撚線の配置本数は本数に差のない同一数である。
このため、中撚線17、外撚線16および内撚線18の各径方向の全てが、多芯積層部15の第2径方向Rsに沿って必ずしも合致するわけではない。
【0047】
参考例3では、多芯積層部15に対する外層15a、中層15bおよび内層15cの充填率が格段に向上して優れた高電気容量化を実現することができる。この際、多芯積層部15の空間部Spには、参考例2と同様にチューブ20に封入された通信線21を配しているが、通信線21は省略し、空間部Spはスペースとして明けたままでもよい。
【0048】
なお、図6に示す参考例3の発明は、[背景技術]の欄に[特許文献2]として掲載の特開2009-158331号公報(特許第4673361号公報)に記載の発明に相当する。
[特許文献2]に係る特許権者は、三洲電線株式会社であるため、本発明の実施に当たっては、三洲電線株式会社からの実施許諾について契約で別段の定めをすることに同意をしている。
[参考例4
【実施例4】
【0049】
図7は本発明の参考例4を示す。この参考例4が参考例1と異なるところは、外撚線16、中撚線17および内撚線18の相互間に生じた空洞部に伝導線を配置したことである。
すなわち、内撚線18と中撚線17との相互間には、第1伝導線K1を外接状態に配置し、中撚線17と外撚線16との相互間には、第2伝導線K2を外接状態に配置し、被覆層12Aと外撚線16との相互間には、第3伝導線K3を外接状態に配置している。
【0050】
この場合、多芯積層部15の中空部Spには、参考例2と同様に、ゴムチューブ20内に封入した通信線21を配置している。
実施例4では、外撚線16、中撚線17および内撚線18に加えて第1伝導線~第3伝導線(K1~K3)を高密度に稠密充填することが可能となる。
実施例1]
【実施例5】
【0051】
図8は本発明の実施例を示す。実施例参考例1と異なるところは、被覆コイル層13の外周表面に電磁波シールド層50を同芯状態に装着して設けたことである。
【0052】
電磁波シールド層50は、可撓性でかつ屈曲性に富む素材からなり、例えば直径が0.5~1.5mm程度である複数の金属細線50a、50bから編組として筒状に構成され、あるいは金属細線50a、50bを網状(メッシュ状)に編み合わすことで筒状に構成されている。
この電磁波シールド層50は、特に細径で長尺となる場合、管状となってもよく、要は被覆コイル層13に被せることができる中空構造であればよい。また、電磁波シールド層50は単一層に限らず、二層あるいは三層など複数層に重ね合わされた重層構造であってもよい。この重層構造は、後述する実施例においても適用できるものである。
【0053】
この電磁波シールド層50は、被覆コイル層13の外周表面で着脱手段(突部13xおよび凹部13y)を除く部分を被覆する状態に装着されている。電磁波シールド層50を構成する金属細線50a、50bには、例えば銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金などを導電性材料として用いることができる。
被覆コイル層13に対する電磁波シールド層50の装着にあたっては、被覆コイル層13をコイル状に曲成する加工前の直線状態で装着してもよい。
【0054】
実施例では、電磁波シールド層50により、多芯積層部15内への電磁波ノイズ(例えばRFI、EMIなど)を遮蔽し、各撚線17~19に対する電気信号の妨害を阻止することができる。
なお、電磁波シールド層50は、被覆コイル層13の外周表面に限らず、多芯積層部15の外周表面を覆うように装着して設け、被覆コイル層13と多芯積層部15との間に存するように配置してもよい。
実施例2]
【実施例6】
【0055】
図9は本発明の実施例を示す。実施例が実施例と異なるところは、電磁波シールド層50の外周表面で着脱手段(突部13xおよび凹部13y)を除く部分に絶縁性の外被層51を被覆層として装着したことである。
外被層51は、例えば、円錐筒状の成型ダイスを用いてポリエチレンテレフタレート(PET)やポリプロピレン系樹脂で形成してもよい。電磁波シールド層50に対する外被層51の装着にあたっては、被覆コイル層13をコイル状に曲成する前の直線状態で合成樹脂の押し出成形などにより装着してもよい。
【0056】
なお、外被層51は、長尺帯状のテープ包装材を用いて電磁波シールド層50の外周表面で着脱手段(突部13xおよび凹部13y)を除く部分に螺旋状に巻き付けて装着してもよい。
また、外被層51をポリアニリン系樹脂などの導電性ポリマーにより形成することにより、外被層51が電磁波シールド層50と協働して遮蔽機能を相乗的に向上させることができる。
実施例3]
【実施例7】
【0057】
図10は本発明の実施例を示す。実施例が実施例と異なるところは、電磁波シールド層50に代わって、筒状の網状ジャケット52を拘束被覆手段として設けたことである。網状ジャケット5は、可撓性でかつ屈曲性に富む素材から成るもので、例えば、長尺な複数の金属細線52a、52bを筒状に編み上げられて構成されている。
【0058】
例えば専用工具などを用いることで、網状ジャケット52の両端部を軸方向Yに沿って互いが反対となるように引張り合うように設定し、隣接する金属細線52a、52b間の間隔(距離)を強制的に縮小させる。
【0059】
これにより、網状ジャケット52を径寸法Dfの方向(径方向)に沿って拡縮変形可能に設定している。網状ジャケット52の縮径変形操作を行う際、網状ジャケット52に対する引張り操作と同時に捩じり操作を加えてもよいし、引張り操作に代わって、捩じり操作だけによってもよい。
被覆コイル層13に同芯状態に被せた網状ジャケット52は、これを縮径変形状態にすることで、被覆コイル層13に緊縛状態に締め付けて被覆コイル層13の外周表面で着脱手段(突部13xおよび凹部13y)を除く部分に装着される。
【0060】
これにより、多芯積層部15における各撚線17~19同士の密着性が良好になり、各撚線17~19を有する多芯積層部15を備えた被覆コイル層13の一体性を強固にすることができる。被覆コイル層13に対する網状ジャケット52の装着は、被覆コイル層13をコイル状に曲成する加工前の直線形状の状態で行なってもよい。この場合は、図8から図10に示す態様に相当し、被覆コイル層13を直線状態で示している。
【0061】
被覆コイル層13の全長寸法が大きくなる場合、網状ジャケット52を長手方向に複数区間にわたって分割して複数の網状ジャケット部を形成し、これら複数の網状ジャケット部をそれぞれ個別に被覆コイル層13に被せて装着してもよい。
被覆コイル層13を締め付ける緊縛状態とは、網状ジャケット52の金属細線52a、52bが少なくともぴんと張って弛緩しない程度の緊張状態を意味するものとする。
【0062】
網状ジャケット52については、実施例の電磁波シールド層50および実施例の外被層51の各外周表面に被せ、この状態で網状ジャケット52を縮径変形させることにより、外被層51に緊縛状態に締め付けて装着してもよい。
網状ジャケット52を電磁波シールド層50に被せた場合には、電磁波シールド層50、多芯積層部15の隣接相互間の密着性が良くなり、電磁波シールド層50および多芯積層部15の被覆コイル層13の一体性を強固にすることができる。
【0063】
また、網状ジャケット52を外被層51の各外周表面に被せた場合には、外被層51、電磁波シールド層50および多芯積層部15の隣接相互間の密着性が良くなる。これにより、外被層51、電磁波シールド層50および多芯積層部15の被覆コイル層13の一体性を強固にすることができる。
【0064】
この際、金属細線52a、52bについては、強度的に高い(高張力鋼(HTSS)の)ステンレス鋼(SUS)やピアノ線などを用いてもよい。
実施例の発明は、参考例2~4に適用してもよく、実施例の発明は、参考例2~4に適用してもよく、実施例の発明は、参考例2~4に適用してもよい。
【0065】
なお、外被層51、電磁波シールド層50および網状ジャケット52を設ける場合、これら外被層51、電磁波シールド層50および網状ジャケット52は、いずれも厚みが小さいものであり、着脱手段の突部13xおよび凹部13yは、これら外被層51、電磁波シールド層50および網状ジャケット52に覆われることなく外部に露出した構造となっている。
【0066】
また、網状ジャケット52は、拡縮変形可能に設けることに限らず、太径から細径へと径寸法が径小方向に連続的に変形するよう、網状ジャケット52の径寸法Dfの中心方向に向けて縮径変形可能に設けてもよい。
【0067】
〔変形例〕
(a)伝送用の電力線構造としては、インホイールモータ3に限らず、コンピュータを内蔵した電子制御ユニット(ECU)と各種の車載センサーとの接続は勿論、ドライブモニター、車載ナビィゲーション装置、データ処理部、セキュリティ機器などの電子回路への接続、あるいは車体周りの構成部品やワイヤハーネスで接続可能な電装部品一般に適用してもよい。
【0068】
(b)突部13xと凹部13yとから成るは着脱手段に代わって、隣接するコイル層部13a同士を剥離可能な接着剤を介して当接位置H2に位置保持してもよい。この場合、当該接着剤の接着力に抗して隣接するコイル層部13a同士を剥離により放すことで、被覆コイル層13をその弾性蓄勢力の解放により伸長位置H1に引き延ばす。
【0069】
(c)また、被覆コイル層13の樹脂材料としては、ポリウレタン樹脂や塩素化ポリオレフィンに代わって、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエン・メチレンゴム)でもよく、あるいはポリアミド(PA)、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアセタール、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)あるいはシンジオタクチックポリスチレン(SPS)などのエンジニアリングプラスチック材料を用いてもよい。また、絶縁塗料層4としても、上記プラスチック材料から所望のものを選択してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明に係る伝送用の電力線構造では、コイル層部におけるコイル巻線の表皮および近接効果に起因する渦電流の発生を抑制して、電力伝送効率の低下を抑えて伝送損失を最小限にし、併せて電磁波シールド機能を付与している。これらの有用性に着目した関連事業からの需要が喚起され、関連部品の流通を介して機械産業に貢献することができる。
【符号の説明】
【0071】
1A 伝送用の電力線構造
3 インホイールモータ
6 電力線
12 コイル巻線
12a 中空軸
13 被覆コイル層
13A 捻じれた部分
13a コイル層部
13x 突部(着脱手段)
13y 凹部(着脱手段)
15 多芯積層部
15a 外層
15b 中層
15c 内層
16 外撚線
17 中撚線
18 内撚線
50 電磁波シールド層
51 外被層
52 網状ジャケット
Ax 多芯積層部の軸方向
Df 網状ジャケットの径寸法
H1 伸長位置
H2 当接位置
L 長手方向
R 第1径方向
Rs 第2径方向
Sp 空間部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10