(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-25
(45)【発行日】2022-09-02
(54)【発明の名称】水電解装置の性能回復方法及び水電解装置
(51)【国際特許分類】
C25B 15/021 20210101AFI20220826BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20220826BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20220826BHJP
C25B 15/02 20210101ALI20220826BHJP
【FI】
C25B15/021
C25B1/04
C25B9/00 E
C25B15/02
(21)【出願番号】P 2019076644
(22)【出願日】2019-04-12
【審査請求日】2022-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】▲吉▼田 哲也
【審査官】松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-277870(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00- 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子膜と、前記固体高分子膜の一方の面に設けられた陽極と、前記固体高分子膜の他方の面に設けられた陰極と、を有する水電解槽を備える水電解装置の性能回復方法であって、
前記水電解装置の運転状態を、前記水電解槽に供給される水の温度が前記水電解槽による水電解が行われる通常運転での前記水電解槽に供給される水の温度よりも低い状態となる低温運転の状態にする工程と、
前記低温運転の状態であるときに前記陽極及び前記陰極間に通電する工程と、を含むことを特徴とする水電解装置の性能回復方法。
【請求項2】
前記通常運転の状態であるときに前記陽極及び前記陰極間に発生する電圧を測定する工程と、
前記陽極及び前記陰極間に発生する電圧と第1閾値とを比較する工程と、をさらに含み、
前記陽極及び前記陰極間に発生する電圧が第1閾値以上である場合、前記水電解装置の運転状態を前記低温運転の状態にすることを特徴とする請求項1に記載の水電解装置の性能回復方法。
【請求項3】
前記水電解槽の前記陰極側で生成された水素ブロー水の導電率を測定する工程と、
前記導電率と第3閾値とを比較する工程と、をさらに含み、
前記導電率が第3閾値以下である場合、前記水電解装置における前記低温運転を終了させることを特徴とする請求項2に記載の水電解装置の性能回復方法。
【請求項4】
前記通常運転の状態であるときに前記陽極及び前記陰極間に発生する電圧を測定する工程と、
前記水電解槽の前記陰極側で生成された水素ブロー水の導電率を測定する工程と、
前記陽極及び前記陰極間に発生する電圧と第1閾値とを比較する工程と、
前記導電率と第2閾値とを比較する工程と、をさらに含み、
前記陽極及び前記陰極間に発生する電圧が第1閾値以上であり、かつ、前記導電率が第2閾値以上である場合、前記水電解装置の運転状態を前記低温運転の状態にすることを特徴とする請求項1に記載の水電解装置の性能回復方法。
【請求項5】
前記導電率と第3閾値とを比較する工程をさらに含み、
前記導電率が第3閾値以下である場合、前記水電解装置における前記低温運転を終了させることを特徴とする請求項4に記載の水電解装置の性能回復方法。
【請求項6】
固体高分子膜を用いて水を電解する水電解装置であって、
前記固体高分子膜と、前記固体高分子膜の一方の面に設けられた陽極と、前記固体高分子膜の他方の面に設けられた陰極と、を有する水電解槽と、
前記水電解槽に供給される水を冷却する冷却装置と、
前記冷却装置を制御することにより、前記水電解装置の運転状態を、前記水電解槽に供給される水の温度が前記水電解槽による水電解が行われる通常運転での前記水電解槽に供給される水の温度よりも低い状態となる低温運転の状態にする制御部と、
前記低温運転時に前記陽極及び前記陰極間に通電することにより、前記通常運転時よりも高い電圧を前記陽極及び前記陰極間に発生し得る電源と、を備えることを特徴とする水電解装置。
【請求項7】
前記水電解槽の前記陰極側で生成された水素ブロー水の導電率を測定する第1測定部と、
前記陽極及び前記陰極間に発生する電圧を測定する第2測定部と、をさらに備えることを特徴とする請求項6に記載の水電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水電解装置の性能回復方法及び水電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子膜を用いて水を電解する水電解装置が従来技術として知られている。水電解装置では、設計寿命よりも早い段階で水電解装置が備える水電解槽のセル電圧が上昇し、水電解装置が劣化するという問題がある。そこで、このような問題を解決する水電解装置として、特許文献1には、定格電流以上の所定の電流で電解を行うことにより水電解性能を回復させて、運転を継続する水電解装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水電解装置が流すことが可能な電流の最大値は、整流器の仕様等で制限されるが、水電解運用時の定格電流を目安に整流器の選定がなされることが一般的である。特許文献1に開示されている水電解装置では、定格電流以上の所定の電流で電解を行うことにより水電解性能を回復させているが、一般的な水電解装置では、電流の最大値が制限されるため、特許文献1に開示されている方法では、水電解性能を十分に回復させることができない場合がある。
【0005】
また、特許文献1に開示されている水電解装置では、定格電流以上の所定の電流で電解を行うため、消費電力が多くなるという問題がある。本発明の一態様は、省エネルギーで水電解装置の電解性能を回復させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る水電解装置の性能回復方法は、固体高分子膜と、前記固体高分子膜の一方の面に設けられた陽極と、前記固体高分子膜の他方の面に設けられた陰極と、を有する水電解槽を備える水電解装置の性能回復方法であって、前記水電解装置の運転状態を、前記水電解槽に供給される水の温度が前記水電解槽による水電解が行われる通常運転での前記水電解槽に供給される水の温度よりも低い状態となる低温運転の状態にする工程と、前記低温運転の状態であるときに前記陽極及び前記陰極間に通電する工程と、を含む。
【0007】
また、本発明の一態様に係る水電解装置は、固体高分子膜を用いて水を電解する水電解装置であって、前記固体高分子膜と、前記固体高分子膜の一方の面に設けられた陽極と、前記固体高分子膜の他方の面に設けられた陰極と、を有する水電解槽と、前記水電解槽に供給される水を冷却する冷却装置と、前記冷却装置を制御することにより、前記水電解装置の運転状態を、前記水電解槽に供給される水の温度が前記水電解槽による水電解が行われる通常運転での前記水電解槽に供給される水の温度よりも低い状態となる低温運転の状態にする制御部と、前記低温運転時に前記陽極及び前記陰極間に通電することにより、前記通常運転時よりも高い電圧を前記陽極及び前記陰極間に発生し得る電源と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、省エネルギーで水電解装置の電解性能を回復させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る水電解装置の構成を示すフロー図である。
【
図2】
図1に示す水電解装置の低温運転試験を実施した結果において、通常運転時のセルの運転電圧を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<水電解装置100の構成>
水電解装置100の構成について
図1に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る水電解装置100の構成を示すフロー図である。水電解装置100は、
図1に示すように、水電解槽10と、電源20と、供給水タンク30と、冷却装置40と、循環ポンプ60と、供給水ポンプ70と、フィルタ80と、酸素気液分離器C1と、水素気液分離器C2と、制御部110と、を備えている。
【0011】
また、水電解装置100は、循環ラインA1と、酸素ラインB1と、水素ラインB2と、水素ブロー水ラインB3と、分岐ラインB4と、酸素ブロー水ラインB5と、第1測定部M1と、第2測定部M2と、切り替え弁90と、を備えている。水電解装置100は、固体高分子膜11を用いて水を電解する装置である。
【0012】
水電解槽10は、固体高分子膜11と、陽極12と、陰極13と、を備えている。水電解槽10は、固体高分子膜11を用いて水を電解し、陽極12に酸素を発生させ、陰極13に水素を発生させる。固体高分子膜11は、水素イオンを伝導する水素イオン伝導性の膜である。
【0013】
陽極12は、固体高分子膜11の一方の面に設けられ、陰極13は、固体高分子膜11の他方の面に設けられている。水電解槽10の内部は、固体高分子膜11により陽極室14と陰極室15とに区画されている。電源20は、直流電源であり、配線によって陽極12と陰極13とに接続されている。
【0014】
供給水タンク30は、水電解の処理で使用された分の水を補充するために、系外から供給された純水を蓄える。供給水タンク30に蓄えられた水は、供給水ポンプ70に流れる。供給水ポンプ70は、供給水タンク30から酸素気液分離器C1に水を供給するポンプである。供給水ポンプ70は、酸素気液分離器C1と供給水タンク30との間に設けられている。
【0015】
冷却装置40は、水電解槽10に供給される水を冷却する装置である。換言すると、冷却装置40は、循環ラインA1に流れる水を冷却する装置である。循環ラインA1は、陽極室14と、冷却装置40と、循環ポンプ60と、酸素気液分離器C1と、に水が循環するラインである。
【0016】
冷却装置40は、例えば、熱交換器であり、装置内にクーリングタワーやチラーから冷媒を導入することで系内の冷却を行う。冷却装置40は、陽極室14と循環ポンプ60との間にある循環ラインA1上に設けられている。これにより、気液2相流となることを防ぎ、かつ、圧損が高くなりすぎることを防ぐことにより、熱交換器に水が円滑に流れるようにすることができる。
【0017】
酸素気液分離器C1は、陽極室14からの水と、供給水タンク30からの水と、を蓄える。酸素気液分離器C1は、陽極室14と循環ポンプ60との間にある循環ラインA1上に設けられている。ただし、酸素気液分離器C1は、循環ラインA1上において、循環ポンプ60を基準として冷却装置40が設けられている側とは反対側に設けられている。酸素気液分離器C1に蓄えられた水は、循環ポンプ60に流れる。循環ポンプ60は、酸素気液分離器C1から陽極室14に水を供給することにより循環ラインA1に流れる水を循環させる循環ポンプである。循環ポンプ60は、酸素気液分離器C1と冷却装置40との間にある循環ラインA1上に設けられている。
【0018】
フィルタ80は、冷却装置40と循環ポンプ60との間にある循環ラインA1から分岐する酸素ブロー水ラインB5上に設けられている。フィルタ80は、酸素ブロー水ラインB5に流れる水に含まれる汚染物を除去するフィルタである。
【0019】
第1測定部M1は、水電解槽10の陰極13側、つまり、陰極室15で生成された陰極室15側での水素ブロー水の導電率(比抵抗)を測定する。第1測定部M1は、導電率計であるが、比抵抗計であってもよい。第2測定部M2は、陽極12及び陰極13間に発生する電圧を測定する電圧計である。陰極室15側での水素ブロー水は、陽極12側から陰極13側に通過する水である。制御部110は、水電解装置100の各部を制御することにより、水電解装置100の運転を制御する制御装置である。
【0020】
<水電解装置100の通常運転時の処理>
次に、水電解装置100の通常運転時の処理について説明する。ここで、水電解装置100の定格水素発生量が10(Nm3/h)であり、水電解槽10の定格電流密度が2(A/cm2)であり、定格温度が80℃である場合を考える。
【0021】
この場合、水電解装置100の通常運転時では、水電解槽10内の水温が80℃となる。水電解槽10内の水温は、水電解槽10が備えるセル(図示せず)が発熱することにより上昇する。通常運転時において、制御部110は、冷却装置40を制御することにより、水電解槽10内の水温が80℃よりも大幅に上昇し過ぎないように、冷却装置40に水を冷却させる。
【0022】
循環ポンプ60によって陽極室14に供給される水は、電源20によって陽極12及び陰極13間が通電されることにより、水電解される。これにより、陽極室14では酸素が発生し、陰極室15では水素が発生する。陽極室14に供給される水が水電解されたとき、水素イオンが陽極室14から陰極室15へ移動する。具体的には、陽極室14では、以下の式(1)に示す化学反応が発生し、陰極室15では、以下の式(2)に示す化学反応が発生する。
【0023】
2H2O→O2+4H++4e-・・・(1)
4H++4e-→2H2・・・(2)
陽極室14で発生した酸素は、酸素気液分離器C1に送られ、酸素気液分離器C1は、陽極室14で発生した酸素と水とを分離する。循環ポンプ60によって酸素気液分離器C1から陽極室14へ水が供給され、その水は、陽極室14側での酸素ブロー水として供給水タンク30及び冷却装置40に流れる。その酸素は、酸素気液分離器C1に接続された酸素ラインB1から系外へ排出される。
【0024】
陰極室15で発生した水素は、水素気液分離器C2に送られ、水素気液分離器C2は、陰極室15で発生した水素と水とを分離する。水素気液分離器C2に蓄えられた水は、水素ブロー水として水素ブロー水ラインB3を流れる。陰極室15側での水素ブロー水は、水素ブロー水ラインB3を流れて、切り替え弁90を通過して供給水タンク30に供給される。つまり、通常運転時では、陰極室15側での水素ブロー水は再利用される。その水素は、水素気液分離器C2に接続された水素ラインB2から系外へ排出される。切り替え弁90は、制御部110に制御されることにより、流路を供給水タンク30側と分岐ラインB4側とで切り替える。
【0025】
また、固体高分子膜11には、カルシウムイオンまたはマグネシウムイオン等のコンタミネーション(カチオン)のような汚染物質が蓄積される。これは、循環ラインA1を流れる水に含まれる汚染物質が固体高分子膜11に付着するためである。固体高分子膜11に汚染物質が蓄積されることにより、水電解槽10のセル電圧が上昇する。
【0026】
ここで、水電解装置100が通常運転の状態であるときに、水電解装置100は、第2測定部M2によって陽極12及び陰極13間に発生する電圧を測定し、第1測定部M1によって水電解槽10の陰極13側、つまり、陰極室15で生成された陰極室15側での水素ブロー水の導電率を測定する。なお、第1測定部M1が水電解装置100に備えられない場合、ユーザは、陰極室15側での水素ブロー水を適宜抽出して、抽出した陰極室15側での水素ブロー水に対して導電率計を用いて導電率を測定してもよい。
【0027】
また、ユーザは、第2測定部M2によって測定された陽極12及び陰極13間に発生する電圧と第1閾値とを比較し、第1測定部M1によって測定された導電率と第2閾値とを比較する。ユーザは、陽極12及び陰極13間に発生する電圧が第1閾値以上であり、かつ、前記導電率が第2閾値以上である場合、水電解装置100の運転状態を低温運転の状態にする。
【0028】
第1閾値の一例としては、通常運転時における陽極12及び陰極13間に発生する電圧の105%が挙げられる。第1閾値の値は、ユーザの欲しい性能に応じて任意に設定されてもよい。第2閾値の一例としては、1.5(μS/cm)が挙げられる。この場合、水素ブロー水の導電率が1.5(μS/cm)以上となった場合に、水電解装置100の運転状態を低温運転の状態にする。低温運転を開始すると、汚染物質が固体高分子膜11から水素ブロー水内に出てくるようになる。このため、低温運転を開始した際の水素ブロー水の導電率は、第2閾値より大きく上昇する。第2閾値の値は、ユーザの欲しい性能に応じて任意に設定されてもよい。
【0029】
前記構成において、陽極12及び陰極13間に発生する電圧が第1閾値以上であり、かつ、陰極室15側での水素ブロー水の導電率が第2閾値以上であるか否かを確認することで、水電解装置100の性能が劣化しているか否かを判断する。よって、水電解装置100の性能が劣化したことを確認できる場合のみ、水電解装置100の運転状態を低温運転の状態にするため、適切なタイミングで水電解装置100の電解性能を回復させることができる。
【0030】
また、水電解装置100が第1測定部M1と第2測定部M2とを備えることにより、陰極室15側での水素ブロー水の導電率と、陽極12及び陰極13間に発生する電圧と、を測定することができる。よって、水電解装置100の性能が劣化したか否かを適切に判断することができる。
【0031】
なお、ユーザは、陽極12及び陰極13間に発生する電圧が第1閾値以上である場合のみ、水電解装置100の運転状態を低温運転の状態にしてもよい。この場合、ユーザは、第2測定部M2によって測定された陽極12及び陰極13間に発生する電圧と第1閾値とを比較することにより、水電解装置100の運転状態を低温運転の状態にするか否かを判断する。また、この場合、第1測定部M1は水電解装置100に備えられていなくてもよい。
【0032】
さらに、ユーザは、第1測定部M1によって測定された導電率と第3閾値とを比較する。ユーザは、前記導電率が第3閾値以下である場合、水電解装置100における低温運転を終了させる。水電解装置100における低温運転を終了させた後、水電解装置100における通常運転を開始してもよい。第3閾値の一例としては、1.0(μS/cm)が挙げられる。この場合、以下の2つの条件のいずれかで水電解装置100の運転状態が低温運転の状態になったとすると、水素ブロー水の導電率が1.0(μS/cm)以下となった場合に、水電解装置100における低温運転を終了させる。
【0033】
前記2つの条件は、陽極12及び陰極13間に発生する電圧が第1閾値以上である場合と、陽極12及び陰極13間に発生する電圧が第1閾値以上であり、かつ、水素ブロー水の導電率が第2閾値以上である場合と、の2つである。第3閾値の値は、ユーザの欲しい性能に応じて任意に設定されてもよく、第2閾値よりも低い値であってもよい。
【0034】
前記構成において、陰極室15側での水素ブロー水の導電率が第3閾値以下であるか否かを確認することで、水電解装置100の性能が十分回復したか否かを判断する。よって、水電解装置100の性能が十分回復したことを確認できる場合のみ、水電解装置100における低温運転を終了させるため、適切なタイミングで水電解装置100における低温運転を終了させることができる。
【0035】
<水電解装置100の低温運転時の処理>
次に、水電解装置100の低温運転時の処理、つまり、水電解装置100の性能回復方法について説明する。具体的には、ユーザは、水電解装置100の運転の設定を変更することにより、水電解装置100の運転の設定が、通常運転の設定から低温運転の設定に切り替わる。水電解装置100の運転の設定が低温運転の設定になると、冷却装置40は、制御部110に制御されることにより、水電解槽10に供給される水を通常運転時よりも過剰に冷却する。
【0036】
これにより、制御部110は、冷却装置40を制御することにより、水電解装置100の運転状態を、水電解槽10に供給される水の温度が水電解槽10による水電解が行われる通常運転での水電解槽10に供給される水の温度よりも低い状態となる低温運転の状態にする。このとき、制御部110は、冷却装置40を制御することにより、水電解槽10に供給される水の温度を、例えば、5℃以上60℃以下にすることが好ましい。また、制御部110は、冷却装置40を制御することにより、水電解槽10に供給される水の温度を、15℃以上35℃以下にすることがより好ましい。
【0037】
水電解装置100の低温運転時に、電源20は、陽極12及び陰極13間に通電する。このように、電源20は、水電解装置100の低温運転時に陽極12及び陰極13間に通電することにより、水電解装置100の通常運転時よりも高い電圧を陽極12及び陰極13間に発生し得る。
【0038】
前記構成によれば、水電解槽10に供給される水の温度を通常運転での水の温度より低い状態にして通電することにより、通常運転における水電解槽10に生じる電圧よりも高い電圧が水電解槽10に生じる。これにより、低温運転において水電解槽10内の汚染物質が除去されるため、通常運転において水電解槽10に生じる電圧を低減することができる。
【0039】
よって、水電解槽10に供給する電流の電流値を上げることなく、省エネルギーで水電解装置100の電解性能を回復させることができる。また、従来の水電解装置では、使用される整流器の電流の最大値が制限されることにより、電解性能を十分に回復させることができないことに対し、本発明の一態様に係る水電解装置100では、低温運転にすることにより電解性能を十分に回復させることができる。
【0040】
電源20が陽極12及び陰極13間に通電するとき、固体高分子膜11内の汚染物質が除去され、当該汚染物質が固体高分子膜11を通過して陰極室15に移動する。このとき、前記汚染物質を含む陰極室15側での水素ブロー水は、水素ブロー水ラインB3を流れる。前記汚染物質を含む陰極室15側での水素ブロー水は、水素ブロー水ラインB3から分岐する分岐ラインB4から系外へ排出される。水素ブロー水ラインB3と分岐ラインB4との接続箇所には、切り替え弁90が設けられている。低温運転時では陰極室15から排出される陰極室15側での水素ブロー水は、切り替え弁90によって供給水タンク30には流れずに、分岐ラインB4に流れるようになっている。
【0041】
なお、分岐ラインB4が設けられていない水電解装置100について通常運転を行い、低温運転を行う前に、水素ブロー水ラインB3に分岐ラインB4を設けて、低温運転時に分岐ラインB4から陰極室15側での水素ブロー水を系外へ排出してもよい。
【0042】
また、水電解装置100に分岐ラインB4及び切り替え弁90を設ける代わりに、水素ブロー水ラインB3にフィルタ(図示せず)を設けてもよい。このフィルタにより、低温運転時において陰極室15側での水素ブロー水に含まれる汚染物質を除去し、低温運転後にこのフィルタを交換してもよい。
【0043】
<水電解装置100の低温運転試験>
次に、水電解装置100の低温運転試験を実施した場合について説明する。使用する水電解装置100については、水電解槽10の定格電流密度が2(A/cm2)であり、定格温度が80℃である。水電解装置100を低温運転で運転した。このとき、水電解槽10内の水の温度を25℃以上30℃以下にした。水電解装置100の低温運転試験の開始前において通常運転時のセルの運転電圧は、1.92(V)であり、通常運転時の初期のセルの運転電圧は、1.80(V)である。
【0044】
また、水素ブロー水ラインB3に分岐ラインB4を設けて陰極室15側での水素ブロー水を系外へ排出することにした。水電解装置100の運転については、水電解槽10に供給される水の温度を低温に維持した状態でDSS(Daily Start and Stop)運転を実施し、各試験日の終了時に、水電解槽10内の水の温度を80℃まで上昇させて、
図2に示すグラフを取得した。また、通常運転中における陰極室15側での水素ブロー水を適宜抽出して、抽出した陰極室15側での水素ブロー水に対して導電率計を用いて導電率を測定し、通常運転と並行して汚染物質の存在の有無を確認した。
【0045】
図2は、
図1に示す水電解装置100の低温運転試験を実施した結果において、通常運転時のセルの運転電圧を示すグラフである。
図2において、横軸は、運転時の電流密度(A/cm
2)を示し、縦軸は、運転時において水電解槽10が備えるセルの運転電圧(V)を示している。
図2に示すように、特に電流密度が高い場合のセルの運転電圧が、低温運転試験を繰り返すごとに、初期の通常運転時におけるセルの運転電圧に近づいていくことが確認された。
【0046】
さらに、低温運転試験の開始時の陰極室15側での水素ブロー水の導電率が8.0(μS/cm)であったが、陰極室15側での水素ブロー水の導電率は、低温運転試験の繰り返しとともに徐々に低下し、最終的には0.9(μS/cm)まで低減した。よって、低温運転による固体高分子膜11からの汚染物質の排出によって陰極室15側での水素ブロー水の導電率が低減し、水電解装置100の性能が回復することが確認された。
【0047】
以上により、水電解装置100の性能の回復は、水電解槽10内の水の温度を低温に維持しながら、セル電圧を高い電圧に維持した状態で通電することにより、固体高分子膜11に蓄積された汚染物質を排出することできる。また、陰極室15側での水素ブロー水を供給水タンク30に戻さず、陰極室15側での水素ブロー水の導電率がある指標以下に下がるまで、陰極室15側での水素ブロー水を系外へ排水し続けることにより、セル電圧を初期のセル電圧に近い値まで低減させることができる。
【0048】
本発明は前述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、固体高分子膜を用いることによる水の電解に利用することができる。
【符号の説明】
【0050】
10 水電解槽
11 固体高分子膜
12 陽極
13 陰極
20 電源
40 冷却装置
100 水電解装置
110 制御部
M1 第1測定部
M2 第2測定部