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特許7129946内面反射防止黒色塗料、内面反射防止黒色塗膜および光学素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-25
(45)【発行日】2022-09-02
(54)【発明の名称】内面反射防止黒色塗料、内面反射防止黒色塗膜および光学素子
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20220826BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20220826BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20220826BHJP
   G02B 5/00 20060101ALI20220826BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D5/00 Z
C09D7/63
G02B5/00 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019090073
(22)【出願日】2019-05-10
(65)【公開番号】P2020186289
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2021-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】393002634
【氏名又は名称】キヤノン化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(72)【発明者】
【氏名】中谷 直治
(72)【発明者】
【氏名】井野口 翔大
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-258005(JP,A)
【文献】特開昭53-134036(JP,A)
【文献】特開昭55-155063(JP,A)
【文献】特開2012-155180(JP,A)
【文献】特開昭54-010337(JP,A)
【文献】特開2013-024988(JP,A)
【文献】特開2009-282488(JP,A)
【文献】特開2011-186438(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0200810(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第101294089(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 201/00
C09D 5/00
C09D 7/63
G02B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダ樹脂、コールタールピッチ、染料および溶剤を含有する内面反射防止黒色塗料であって、
前記コールタールピッチは、トルエン不溶分が20質量%以上50質量%以下であり、
前記内面反射防止黒色塗料の粒ゲージ測定により求められる分散度が、5μm以上50μm以下であることを特徴とする内面反射防止黒色塗料。
【請求項2】
前記コールタールピッチの含有量が、全固形分に対して20質量%以上50質量%以下である請求項1に記載の内面反射防止黒色塗料。
【請求項3】
前記染料が有する波長555nmの光に対する吸収係数が10L/(g・cm)以上である請求項1または2に記載の内面反射防止黒色塗料。
【請求項4】
さらにシリカ微粒子を全固形分に対して3質量%以上25質量%以下の割合で含有する請求項1~のいずれか一項に記載の内面反射防止黒色塗料。
【請求項5】
バインダ樹脂、コールタールピッチおよび染料を含有する内面反射防止黒色塗膜であって、
請求項1~4のいずれか一項に記載の内面反射防止黒色塗料を塗布してなることを特徴とする内面反射防止黒色塗膜。
【請求項6】
請求項に記載の内面反射防止黒色塗膜を有することを特徴とする光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内面反射防止黒色塗料、内面反射防止黒色塗膜および光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズやプリズム等の光学素子を組み合わせて構成された光学系において、各光学素子の縁や稜部、コバ等の周辺部で光が散乱して迷光を生じると、光学系により結像される画像にゴーストやフレアが発生し、画質を低下させる原因となる。
【0003】
そこで、このような迷光による画質の低下を抑制するため、光学素子の周辺部に内面反射防止黒色塗料を塗工し、内面反射防止黒色塗膜を形成することで、ゴーストやフレアの発生を抑制した光学素子が用いられている。
【0004】
特許文献1には、コールタールまたはコールタールピッチと、ビニルエステルまたはアクリロニトリルとの共重合体である塩化ビニリデン系共重合体とを含有する光学ガラス用内面反射防止塗料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公昭58-4946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の光学ガラス用内面反射防止塗料を用いて形成される塗膜は、光学素子における内面反射を防止する性能に優れているが、耐溶剤性および高温高湿環境下での長期に亘る使用における反射防止性能に未だ改善の余地があった。
具体的には、光学素子の製造において、特許文献1に記載の光学ガラス用内面反射防止塗料を塗工して形成された塗膜は、溶剤を用いて洗浄する工程において塗膜中のコールタールピッチが溶け出し、光学素子の表面を汚染する場合があった。また、特許文献1に記載の光学ガラス用内面反射防止塗料を塗工して形成された塗膜を有する光学素子を、高温高湿環境下で長期に亘って使用したときに、塗膜と光学素子の境界面に微小な斑点が生じ、これにより反射防止性能が低下する場合があった。
【0007】
したがって、本発明は、高い耐溶剤性を有し、高温高湿環境下での長期に亘る使用においても内面反射防止性能に優れた塗膜を形成可能な内面反射防止黒色塗料を提供することを目的とする。
さらに本発明は、上記内面反射防止黒色塗料を用いて形成された内面反射防止黒色塗膜および、該内面反射防止黒色塗膜を有する光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。即ち、本発明の一態様に係る内面反射防止黒色塗料は、バインダ樹脂、コールタールピッチ、染料および溶剤を含有する内面反射防止黒色塗料であって、前記コールタールピッチは、トルエン不溶分が20質量%以上であることを特徴とする。
また、本発明の別の態様に係る内面反射防止黒色塗膜は、バインダ樹脂、コールタールピッチおよび染料を含有する内面反射防止黒色塗膜であって、
前記コールタールピッチは、トルエン不溶分が20質量%以上であることを特徴とする。
さらに、本発明の別の態様に係る光学素子は、上記内面反射防止黒色塗膜を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高い耐溶剤性を有し、高温高湿環境下での長期に亘る使用においても内面反射防止性能に優れた塗膜を形成可能な内面反射防止黒色塗料を提供することができる。
また、本発明によれば、操作性および内面反射防止性能に優れた内面反射防止黒色塗膜および光学素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る光学素子における内面反射防止機能を説明するための模式図である。
図2】本発明に係る光学素子における内面反射を説明するための模式図である。
図3】内面正反射光の強度の測定に用いる直角プリズムの模式図である。
図4】内面正反射光の強度を測定する方法を説明するための模式図である。
図5】内面拡散反射光の強度を測定する装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。以降、内面反射防止黒色塗料を単に「塗料」、内面反射防止黒色塗膜を単に「塗膜」と表現する場合がある。
【0012】
本発明の一態様に係る内面反射防止黒色塗料は、バインダ樹脂、コールタールピッチ、染料および溶剤を含有する。
以下に塗料が含有する各成分について詳述する。
【0013】
(コールタールピッチ)
本発明の一態様に係る内面反射防止黒色塗料が含有するコールタールピッチは、トルエン不溶分が20質量%以上である。
コールタールピッチは石炭をコークス炉で乾留する際に生成するコールタールを出発原料として得られる。コールタールに含まれるスラッジやアンモニア水を除去、もしくは特殊なプロセスによる蒸留と熱処理等を組合せた処理を行った後、蒸留して得られる残渣分がコールタールピッチである。コールタールピッチは、熱改質や減圧蒸留といった2次処理を施すことによりトルエン不溶分の割合を調節することができる。
なお、コールタールピッチのトルエン不溶分の割合は、JIS K2425:2006 14.2に従って定めることができる。
【0014】
従来、塗料には、塗料中に分子レベルで溶解させる観点から、トルエン不溶分の割合が低いコールタールピッチが用いられている。本発明者らは、あえてトルエン不溶分が20質量%以上という溶剤への溶解性が低いコールタールピッチを塗料成分として用いることで、従来技術と同等以上の内面反射防止性能が得られるだけでなく、さらに従来技術にあった課題を解決できることを見出した。すなわち、該塗料により形成された塗膜は、耐溶剤性および、高温高湿環境下における長期使用での内面反射防止性能の維持に優れているという効果を奏する。
【0015】
塗料に用いるコールタールピッチは、トルエン不溶分が25質量%以上50質量%以下であることが好ましい。トルエン不溶分が25質量%以上であることで、得られる塗膜の耐溶剤性をより高いものとすることができる。またトルエン不溶分が50質量%以下であることで、得られる塗膜を高温高湿環境下で長期に亘って使用した場合に、内面反射防止性能を維持する効果をより高く得ることができる。
【0016】
複数種類のコールタールピッチを合わせて使用する場合のトルエン不溶分は、下記の通り算出することができる。例えば、コールタールピッチA(トルエン不溶分20%)を10gと、コールタールピッチB(トルエン不溶分40%)を10gとを合わせて使用する場合は、(20%×10g+40%×10g)/20g=30%と算出することができる。
【0017】
塗料に用いるコールタールピッチの含有量は、塗料中の全固形分に対して20質量%以上50質量%以下であることが好ましい。
コールタールピッチの含有量が20質量%以上であることで、得られる塗膜の耐溶剤性をより高いものとすることができる。また、コールタールピッチの含有量が50質量%以下であることで、得られる塗膜を高温高湿環境下で長期に亘って使用した場合に、内面反射防止性能を維持する効果をより高く得ることができる。
塗料に用いるコールタールピッチの含有量は、塗料中の全固形分に対して25質量%以上40質量%以下であることがより好ましい。
【0018】
本発明において、塗料中の少なくとも一部のコールタールピッチは粒子状で分散していると考えられる。すなわち、塗料は、粒ゲージ測定により求められる分散度が5μm以上50μm以下であることが好ましい。粒ゲージ測定は、JIS K5600-2-5に従って行うことができる。
分散度が5μm以上であることで、塗料の塗工性と得られる塗膜の表面の艶消し効果が良好となる。また、分散度が50μm以下であることで、得られる塗膜を高温高湿環境下で長期に亘って使用した場合に、内面反射防止性能を維持する効果をより高く得ることができる。塗料は、粒ゲージ測定により求められる分散度が10μm以上30μm以下であることがより好ましい。
塗料の分散度が適切な値となるようにするために、コールタールピッチを他の材料と混合する前に予め粉砕しても良いし、他の材料と混合した後に分散処理する過程でコールタールピッチを粉砕しても良い。
【0019】
(染料)
染料が有する波長555nmの光に対する吸収係数は10L/(g・cm)以上であることが好ましい。これにより、高い内面反射防止性能を有する塗膜を得ることができる。ここで、吸収係数とは、染料1gを1Lの溶剤に溶解して得られた溶液について、光路長1cmとして測定される吸光度に対応し、ランベルト-ベールの法則に従って求めることができる。
染料としては、通常市販されているものが使用できる。用いることができる染料としては、例えばアゾ系、アントラキノン系、フタロシアニン系、トリアリルメタン系、インジゴ系および金属錯塩系等の染料が挙げられる。
【0020】
具体的な染料としては、以下に限定されるものではないが、C.I.Solvent Yellow 2、13、14、16、21、25、29、33、56、60、88、89、93、104、105、112、113、114、157、160、163、C.I.Solvent Red 3、18、22、23、24、27、49、52、60、111、122、125、127、130、132、135、149、150、168、179、207、214、225、233、C.I.Solvent Blue 7、14、25、35、36、58、59、63、67、68、70、78、87、94、95、132、136、197、C.I.Solvent Black 3、5、7、27、28、29、34、C.I.Solve nt Violet 8、13、31、33、36、C.I.Solvent Orange 11、55、60、63、80、99、114、C.I.Solvent Brown 42、43、44、C.I.Solvent Green 3、5、20 、C.I.Acid Yellow42、C.I.Acid Black1、52、C.I.Basic Red1、1:1、C.I.Basic Violet1、10、17、C.I.Basic Blue7、C.I.Direct Blue87等がある。また、C.I. No. が付与されていない市販の染料も使用することができる。
【0021】
塗料中の染料の含有量は、全固形分に対して3質量%以上20質量%以下であることが好ましい。染料の含有量が3質量%以上であることで高い内面拡散反射防止性能を有する塗膜を得ることができる。また、染料の含有量が20質量%以下であることで、高い耐溶剤性を有する塗膜を得ることができる。
塗料中の染料の含有量は、全固形分に対して5質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。
【0022】
(バインダ樹脂)
バインダ樹脂は、光学素子等の被塗工体の表面に密着し、被塗工体を使用する上で弊害がない程度に塗膜の強度を確保できる樹脂であれば特に限定されない。
具体的なバインダ樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂、ニトロセルロース等が挙げられる。中でも、好ましくは、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、であり、より好ましくはエポキシ樹脂である。
【0023】
エポキシ樹脂は、分子内に2個以上のオキシラン環(エポキシ基)を有する化合物の総称であり、通常、硬化剤と併用して硬化される。
エポキシ樹脂としては、例えば、次のようなものを挙げることができる。ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ジフェニルエーテル型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型ノボラック系エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール型エポキシ樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、3官能型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂、4官能型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールA含核ポリオール型エポキシ樹脂、ポリプロピレングリコール型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリオキザール型エポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂、脂環式多官能エポキシ化合物、トリグリシジルイソシアネート(TGIC)等の複素環型エポキシ樹脂。
【0024】
硬化剤としては、例えば、アミン系硬化剤、酸または酸無水物系硬化剤、塩基性活性水素化合物、イミダゾール類等の活性水素化合物が挙げられる。また硬化剤としてケチミン化アミン、三フッ化ホウ素-アミン錯体、ジシアンジアミド、有機酸ヒドラジッド等の潜在性硬化剤を用いることもでき、塗料ポットライフを確保するためにはこの潜在性硬化剤を用いることが好ましい。中でもケチミン化アミンが特に好ましい。
【0025】
アミン系硬化剤としては、例えば、次のようなものを挙げることができる。エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等の脂肪族ポリアミン;イソホロンジアミン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン等の脂環族ポリアミン;ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォン等の芳香族ポリアミン;直鎖状ジアミン、テトラメチルグアニジン、トリエタノールアミン、ピペリジン、ピリジン、ベンジルジメチルアミン等の2級アミン類または3級アミン類;ダイマー酸とジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のポリアミンとを反応させて得たポリアミドアミン。
【0026】
酸または酸無水物系硬化剤としては、例えば、次のようなものを挙げることができる。アジピン酸、アゼライン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、デカンジカルボン酸等のポリカルボン酸;無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物等の芳香族無水物;無水マレイン酸、無水コハク酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸等の環状脂肪族酸無水物;ポリアジピン酸無水物、ポリアゼライン酸無水物、ポリセバシン酸無水物、ドデセニル無水コハク酸、ポリ(エチル)オクタデカン二酸無水物等の脂肪族酸無水物。
【0027】
塩基性活性水素化合物としては、例えば、有機酸ジヒドラジド等が挙げられる。
イミダゾール類としては、例えば、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-ヘプタンデシルイミダゾール等が挙げられる。
【0028】
硬化剤の他に、硬化反応の速度を制御するために触媒を用いても良い。
触媒としては、例えば、3級アミン、イミダゾール、三フッ化ホウ素-アミン錯体、有機酸化合物、フェノール類、有機金属化合物等が挙げられる。
【0029】
ポリウレタン樹脂は、水酸基を2個以上有する化合物(ポリオール)に、2個以上のイソシアネート基を有する化合物(イソシアネート化合物)を硬化剤として用いて硬化される。このとき、硬化反応速度を制御するために、触媒を用いても良い。
【0030】
イソシアネート化合物は、水酸基以外にも、アミノ基、メルカプト基、カルボキシル基等の官能基をもつ活性水素化合物とも硬化反応する。そのため、例えば、ポリオールとこれら活性水素化合物とを併用する、あるいはポリオール分子中にこれら活性水素官能基を導入することにより、硬化後の塗膜の強度や塗料の安定性を調整することができる。
【0031】
イソシアネート化合物は、あらかじめイソシアネート基をブロック剤によりマスキングしておくことで、塗料中でポリオールと共存させておき、塗膜を形成する際に加熱による硬化を可能としても良い。また、分子量の大きいイソシアネート化合物を用いることで硬化反応を遅くさせ、大気中の水分と反応させて硬化しても良い。
【0032】
ポリオールとしては、例えば、以下のものを挙げることができる。
比較的低分子量の1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン等の多価アルコールや、比較的高分子量のポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、縮合系ポリエステルポリオール、ラクトン系ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリブタジエンポリオール、水添ポリブタジエンポリオール、アクリルポリオール、含リンポリオール、ひまし油ポリオール、水添ひまし油ポリオール、フェノール系ポリオール。
【0033】
上記で挙げたポリオールのうち、好ましいものは、プロピレングリコールとの付加重合体、縮合系ポリエステルポリオール、ラクトン系ポリエステルポリオール、アクリルポリオール、ポリカーボネートポリオール、フェノール系ポリオールである。また、これらポリオールは、必要により、2種以上を混合して用いても良い。
【0034】
イソシアネート化合物としては、1分子中に2個のイソシアネート基を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、以下のものを挙げることができる。
ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)等の脂肪族ジイソシアネート類;イソホロンジイソシアネート(IPDI)等の脂環族ジイソシアネート類;キシリレンジイソシアネート(XDI)等の芳香族-脂肪族ジイソシアネート類;トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等の芳香族ジイソシアネート類;ダイマー酸ジイソシアネート(DDI)、水添TDI(HTDI)、水添XDI(H6XDI)、水添MDI(H12MDI)等の水添ジイソシアネート類;これらの2量体、3量体、4量体以上の多量体のポリイソシアネート類;これらとトリメチロールプロパン等の多価アルコール、水または低分子量ポリエステル樹脂との付加物等。
【0035】
ポリオールとイソシアネート化合物は、塗料中に混合した時点からウレタン硬化反応が開始するため、ポットライフが短い。このポットライフを延長させるため、イソシアネート化合物の反応基(イソシアネート基)を適当なブロック剤でブロックしたブロックイソシアネート化合物として用いても良い。
【0036】
ブロック剤としては特に限定されず、例えば、以下のものを挙げることができる。
メチルエチルケトオキシム、アセトキシム、シクロヘキサノンオキシム、アセトフェノンオキシム、ベンゾフェノンオキシム等のオキシム系ブロック剤;m-クレゾール、キシレノール等のフェノール系ブロック剤;メタノール、エタノール、ブタノール、2-エチルヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコールモノエチルエーテル等のアルコール系ブロック剤;ε-カプロラクタム等のラクタム系ブロック剤;マロン酸ジエチル、アセト酢酸エステル等のジケトン系ブロック剤;チオフェノール等のメルカプタン系ブロック剤;チオ尿素等の尿素系ブロック剤;イミダゾール系ブロック剤;カルバミン酸系ブロック剤等を挙げることができる。中でも、ラクタム系ブロック剤、オキシム系ブロック剤、アルコール系ブロック剤、ジケトン系ブロック剤が好ましい。
【0037】
アクリル樹脂は、(メタ)アクリレートの重合体およびその共重合体として用いることができる。なお、本明細書中では、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートおよび/またはメタクリレートを意味する。
【0038】
(メタ)アクリレートとしては、例えば、以下のものを挙げることができる。メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート。
【0039】
(溶剤)
溶剤は、塗料としての流動性の確保のために用い、塗料に用いられる一般に公知の溶剤が適用できる。具体的な溶剤としては、以下のものが挙げられる。
ネオペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、ソルベッソ等の鎖状炭化水素;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;トリクロロエチレン、パークロロエチレン等のハロゲン化炭化水素;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸n-ブチル等のエステル類;セロソルブ、ブチルソルブ、セロソルブアセテート等のエーテル類;ミネラルスピリット(炭化水素油)。
なお、上記溶剤は1種を単独で用いても、2種以上を任意の比率の任意の組み合わせで併用しても良い。
【0040】
(シリカ微粒子)
塗料は、さらにシリカ微粒子を全固形分に対して3質量%以上25質量%以下の割合で含有することが好ましい。これにより塗料の粘度を好適に調整することができ、また、得られる塗膜の表面の艶消し効果を高めることができる。すなわち、シリカ微粒子の含有量が3質量%以上であれば、塗料の粘度が十分に高くなり、塗工する際に垂れにくく、一定以上の膜厚の塗工膜を形成するために何度も塗り重ねる必要がないため、作業効率が低下することを防止できる。また、シリカ微粒子の含有量が25質量%以下であれば、過度に粘度が上昇せず、塗工スジによる膜厚ムラの発生を抑制できる。
【0041】
塗料は、シリカ微粒子を全固形分に対して5質量%以上20質量%以下の割合で含有することがより好ましい。シリカ微粒子の含有量が5質量%以上であることで、塗工性がさらに向上し、また、得られる塗膜の表面の艶消し効果をさらに高めることができる。また、シリカ微粒子の含有量が20質量%以下であることで、塗料の保存安定性を良好なものとすることができる。
【0042】
塗料が含有するシリカ微粒子の粒子径は5nm以上50nm以下であることが好ましい。ここで、シリカ微粒子の粒子径とは、体積平均の一次粒子径である。シリカ微粒子の粒子径が5nm以上であれば、シリカ微粒子の添加量に応じた塗料の粘度増加の割合が大きくなり過ぎることがなく、塗料の粘度調整が容易となる。また、シリカ微粒子の粒子径が50nm以下であれば、得られる塗膜の内面拡散反射率がシリカ微粒子の添加により増加することを抑制することができる。
【0043】
(シランカップリング剤)
塗料は、さらにシランカップリング剤を含有してもよい。シランカップリング剤を含有することにより、本発明に係る光学素子が高温高湿環境下で長期間保管された場合でも、得られる塗膜の内面反射防止性能が低下することを抑制することができる。
【0044】
内面反射防止黒色塗膜を有する光学素子を高温高湿環境下で長期間保管すると、塗膜と光学素子との界面に1μm~50μm程度の大きさの微小な斑点が発生することがあり、この微小な斑点は顕微鏡により観察することができる。この微小な斑点は、微小な界面における剥離によるものであると考えられ、この斑点が発生した箇所は、内面反射防止機能を有さず、全体として内面反射率が上昇する原因となる。
【0045】
そこで、高温高湿環境下で長期間保管された場合でも、微小な界面における剥離を抑制するために、塗膜と光学素子との密着性を高めることを目的として、シランカップリング剤を用いることが好ましい。また、シランカップリング剤は、反応性の官能基として活性水素基または電子吸引性基を少なくとも一つ有することが好ましい。
【0046】
活性水素基としては、水酸基、アミノ基およびメルカプト基が挙げられ、電子吸引性基としてはイソシアネート基、エポキシ基、(メタ)アクリル基、スチリル基およびビニル基が挙げられる。
【0047】
これらシランカップリング剤は、特にガラス製の光学素子に塗膜を形成する際に、光学素子表面とカップリング反応により化学結合を形成するとともに、活性水素化合物や電子吸引性化合物とも付加反応による化学結合を形成する。この両者の化学結合により、塗膜内部から光学素子表面まで連続した化学結合を形成し、光学素子を高温高湿環境下で長期間保管した場合でも、塗膜と光学素子との界面における微小な斑点の発生を抑制することができる。
【0048】
水酸基含有シランカップリング剤としては、以下のものを例示できる。N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、2,2-ビス(3-トリエトキシシリルプロポキシメチル)ブタノール、N-(2-ヒドロキシエチル)-N-メチルアミノプロピルトリメトキシシラン。
【0049】
アミノ基含有シランカップリング剤としては、以下のものを例示できる。3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルメチルジメトキシシラン、3-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリメトキシシリルプロピル)アミン、n-ブチルアミノプロピルトリメトキシシラン、N-メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、ケチミンシラン。
【0050】
メルカプト基含有シランカップリング剤としては、例えば、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシランが挙げられる。
【0051】
イソシアネート基含有シランカップリング剤としては、例えば、3-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアナトプロピルトリエトキシシランが挙げられる。
【0052】
エポキシ基含有シランカップリング剤としては、以下のものを例示できる。2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン。
【0053】
(メタ)アクリル基含有シランカップリング剤としては、例えば、以下のものが挙げられる。3-メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン。
【0054】
スチリル基含有シランカップリング剤としては、例えば、p-スチリルトリメトキシシランが、ビニル基含有シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが挙げられる。
【0055】
また、これらモノマータイプのシランカップリング剤だけでなく、比較的低分子のシリコーン骨格中に、アルコキシ基を含有するシリコーンアルコキシオリゴマーをシランカップリング剤として用いてもよい。このようなシリコーンアルコキシオリゴマーの具体例としては、例えば以下のものを挙げることができる。X-40-2651(製品名、アミノ基含有)、X-41-1805(製品名、メルカプト基含有)、X-41-1818(製品名、メルカプト基含有)、X-41-1810(製品名、メルカプト基含有)、X-41-1053(製品名、エポキシ基含有)、X-41-1059A(製品名、エポキシ基含有)、X-40-2655A(製品名、メタクリル基含有)、KR-513(製品名、アクリル基含有)(いずれも信越化学工業社製)。これらシリコーンアルコキシオリゴマーの分子中のアルコキシ基量は、5質量%以上80質量%以下が好ましく、活性基当量は、100g/eq以上1000g/eq以下が好ましい。
【0056】
塗料は、塗料全体に対して0.5質量%以上10.0質量%以下の割合でシランカップリング剤を含有することが好ましい。0.5質量%以上であれば、光学素子を高温高湿環境下で長期間保管した場合でも、得られる塗膜の内面反射防止性能が低下する効果を高く得ることができる。また、10.0質量%以下であれば、塗工の際に、溶剤蒸発後においてもしばらくは未反応のカップリング剤が液状として残ることに起因する「たれ」の発生を防ぐことができる。
【0057】
これらシランカップリング剤は、1種を用いても良いし、2種以上を同時に用いても良い。
【0058】
(その他添加剤)
塗料は、本発明の効果を妨げない範囲で、上記の材料の他に各種の添加剤を含んでも良い。各種の添加剤は、例えば、塗料の粘度調整、得られる塗膜の基材への密着性向上、得られる塗膜のレベリング性向上、得られる塗膜の表面艶消し、黒色の色調調整、得られる塗膜の耐光性向上、防カビ、防錆等を図るために用いられる。
【0059】
塗料の粘度調整のためには、例えば、ベントナイト、シリコーン系エラストマー、増粘多糖類、グリコール類等の増粘剤や希釈溶剤を用いても良い。
得られる塗膜の基材への密着性向上のためには、上記のシランカップリング剤の他、シリコーン系カップリング剤、アルミネートカップリング剤、チタネートカップリング剤等を用いてもよい。
得られる塗膜のレベリング性向上のためには、シリコーンオイル、界面活性剤等のレベリング剤を用いても良い。
得られる塗膜の表面の艶消し性を高めるためには、0.1μm以上20μm以下程度の樹脂粒子やガラス粉末、石英粉末、雲母粉末、マイカ粉末等を用いても良い。
黒色の色調調整のためには、補色としての染料や有機顔料、無機顔料を用いても良い。
得られる塗膜の耐光性向上のためには、紫外線吸収剤としてベンゾフェノン系、サリシレート系、トリアジン系ベンゾトリアゾール系等や、酸化亜鉛微粒子、酸化チタン微粒子等を用いても良い。
防カビのためには防カビ剤を、また防錆のためには防錆剤を用いても良い。
【0060】
図1は、本発明に係る光学素子における内面反射防止機能を説明するための模式図である。図1において、本発明に係る光学素子としてのレンズ1は、そのコバ部に本発明に係る内面反射防止黒色塗膜2を有する。また、内面反射防止黒色塗膜2は、本発明の一態様に係る内面反射防止塗料を用いて形成された塗膜である。すなわち、内面反射防止黒色塗膜2は、バインダ樹脂、コールタールピッチおよび染料を含有し、前記コールタールピッチは、トルエン不溶分が20質量%以上である。
【0061】
レンズ1がそのコバ部に有する内面反射防止黒色塗膜2は、レンズ1の外から差し込む入射光3のうち、コバ部に到達して内面反射する光(迷光)4を抑制・防止する。これにより、レンズ1で構成される光学系により結像される画像にゴーストやフレアが発生することを抑制することができる。
【0062】
図2は、本発明に係る光学素子における内面反射を説明するための模式図である。レンズ1の外から差し込む入射光3のうち、コバ部に到達して内面反射する光(迷光)4は、内面正反射光4aと、内面拡散反射光4bとの2種類に分けることができる。内面正反射光4aは、レンズ1内部に入射した光がレンズ1のコバ部に到達した時の角度(入射角)と同じ角度でレンズ内側にはね返る光である。また、内面拡散反射光4bは、入射角とは異なるさまざまな角度にはね返る光である。ここで内面正反射光4aは、入射角度が大きくなる(入射角度が90°に近くなる)につれ強度が増しやすい。一方、内面拡散反射光4bは、入射角度が小さくなる(入射角度が0°に近くなる)につれ強度が増しやすい。
【0063】
内面正反射光は、主にカメラで撮影した画像へのゴーストやフレアといった異常画像の発生に大きく影響を与える。これに対し、内面拡散反射光は、フレアによる異常画像の発生以外にも、カメラのレンズを外部から目視した際に反射防止膜部分の漆黒性が得られないという、美観が損なわれる原因ともなる。
【0064】
内面正反射光の抑制の度合いは、例えば、図3に示すような塗膜2をその底面全面に有する直角プリズム5を用い、図4に示す測定法にて内面正反射光の強度を測定することで評価することができる。
【0065】
すなわち、光源6から放出された光をN偏光に設定した偏光板12に通し、スリット13にて集光した入射光7を、直角プリズム5内に差込ませ、塗膜2にて内面反射させる。続いて、直角プリズム5から放出された内面正反射光8を、光受光器14を備えた積分球9で受光し、光強度を計測する。この時、次に挙げる条件は、内面正反射光8の測定値に影響を及ぼすので注意が必要である。偏光板12の向き、スリット13による入射光7の集光の程度、直角プリズム5の大きさ、プリズム底面に対する鉛直線(垂線)10から積分球入り口との接面11までの距離A、積分球9の大きさや同開口径の大きさB。
【0066】
なお、塗膜2のない直角プリズム5において、直角プリズム5の底面での入射光7の全反射の臨界角は、スネルの法則により、下記式Aで求まる。
θ=sin-1(sin90°/n) 式A
ここで、nは直角プリズム5の屈折率、θはプリズム底面に対する鉛直線(垂線)10とのなす角度であり、空気の屈折率は1.0とする。
【0067】
すなわち、例えば、n=1.8の直角プリズム5では、
θ=sin-1(sin90°/1.8)≒33.7°
が全反射の臨界角であり、入射光7は入射角33.7°~90°の範囲で全反射を起こす。
【0068】
このような全反射を起こす角度の範囲を狭くするためには、塗膜2の屈折率を直角プリズム5の屈折率に近づけるか、それ以上にすることが有効とされている。
【0069】
また、内面拡散反射光の抑制の度合いは、例えば、図5に示す装置を用いて内面拡散反射光に基づく光の強度を測定することで評価することができる。
【0070】
すなわち、まず、分光光度計内に、受光部15および光トラップ部17を備え、入射光開口部19、正反射光トラップ開口部20および試料設置開口部21を有する積分球9を設置する。続いて、試料設置開口部21の外側に、塗膜2を備えた円盤状のガラス板18を設置する。このとき、円盤状のガラス板18は、塗膜2を有する面と反対側の面を積分球に接触させて設置する。これにより、光源6からの入射光22を、塗膜2を有する面と反対側の面から円盤状のガラス板18に入り込ませ、塗膜2に到達させて内面反射させる。この時、内面正反射光23を正反射光トラップ16で吸収させ、内面拡散反射光24は積分球9の内部に放出・集積させて各波長における光の強度を受光部15で測定する。
【実施例
【0071】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されることは無い。
【0072】
(実施例1)
まず、以下の材料を用意した。
・バインダ樹脂A(製品名:jER828、三菱ケミカル社製、エポキシ樹脂):32.0g
・硬化剤A(製品名:jERキュア H3、三菱ケミカル社製):22.5g
・コールタールピッチA(製品名:MCP-110、JFEケミカル社製、トルエン不溶分30質量%):35.0g
・染料A(製品名:VALIFAST BLACK 3810、オリヱント化学工業社製、波長555nmの光に対する吸収係数:31L/(g・cm)):10.0g
・シリカ微粒子(製品名:アエロジル#200、日本アエロジル社製):12.0g
・シランカップリング剤A(製品名:KBM-403、信越化学工業社製、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン):11.0g
・溶剤としての1-メトキシ-2-プロパノール(溶剤A):50.0g
・溶剤としてのトルエン(溶剤B):50.0g
上記材料のうち硬化剤A以外の材料をすべて計量し、1.5Lボールミルポットの中に直径20mmの磁性ボール30個とともに入れた。その後、ボールミルポットをポットミル回転架台に乗せ、60rpmで適当な分散度が得られるまで撹拌した。
続いて、撹拌後の混合溶液に硬化剤Aを加え、さらに5分間撹拌することで実施例1に係る塗料を得た。
【0073】
(実施例2~27、比較例1および2)
実施例1において、塗料の調製に用いる材料の種類と量を表1に示すように変更した。それ以外は実施例1と同様にして実施例2~27、比較例1および2に係る塗料を得た。
ここで、実施例および比較例で用いた上記以外の材料は以下のとおりである。
・バインダ樹脂B(製品名:ニッポラン983、東ソー社製、ポリオール)
・硬化剤B(製品名:デュラネートTPA-100、旭化成社製)
・コールタールピッチB(製品名:PK-U、JFEケミカル社製、トルエン不溶分20質量%)
・コールタールピッチC(製品名:MCP-150、JFEケミカル社製、トルエン不溶分40質量%)
・コールタールピッチD(製品名:MCP-250、JFEケミカル社製、トルエン不溶分65質量%)
・コールタールピッチE(製品名:MCP-350、JFEケミカル社製、トルエン不溶分82質量%)
・コールタールピッチF(製品名:PK-QL、JFEケミカル社製、トルエン不溶分10質量%)
・染料B(製品名:VALIFAST BLUE 603、オリヱント化学工業社製、波長555nmの光に対する吸収係数:9.5L/(g・cm))
・染料C(製品名:ORASOL BROWN 324、BASF社製、波長555nmの光に対する吸収係数:10L/(g・cm))
・染料D(製品名:OIL BLACK HBB、オリヱント化学工業社製、波長555nmの光に対する吸収係数:55L/(g・cm))
・シランカップリング剤B(製品名:KBE-9007N、信越化学工業社製、3-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン)
・(溶剤A)として1-メトキシ-2-プロパノール
・(溶剤B)としてトルエン
【0074】
なお、実施例および比較例において、分散度の調整は以下のようにして行った。硬化剤以外の材料を磁性ボールとともにボールミルポットの中に入れた後、表2に示す分散度になるまで60rpmで撹拌した。分散度は、ボールミルポット内から混合溶液5gをサンプリングし、分散度を測定した。測定の結果が、所望の分散度よりも大きかった場合は、さらに撹拌を追加で実施し、再び混合溶液5gをサンプリングして分散度を測定した。追加撹拌とサンプリングによる分散度測定を、所望の分散度が得られるまで繰り返した。分散度が所定の値よりも小さくなり過ぎた場合は、各材料をボールミルポットに入れ直し、追加の撹拌時間を短めに設定して、撹拌およびサンプリングによる分散度測定を繰り返した。また硬化剤は、表1の各実施例および比較例に記載の重量比になるように添加量を調節して用いた。
【0075】
【表1】
【0076】
また、上記実施例および比較例で得られた塗料が含有するコールタールピッチのトルエン不溶分および含有量、分散度、染料の波長555nmの光に対する吸収係数および含有量、シリカ微粒子の含有量をまとめて表2に示す。
【0077】
【表2】
【0078】
[評価]
(内面正反射率)
全ての面を予め鏡面に研磨した評価用の直角プリズム(製品名:S-LAH53、オハラ社製、n=1.8、直角を挟む2辺の長さそれぞれ30mm)を、底面が上向き水平になるようスピンコータの回転台にセットした。続いて、各実施例および比較例に係る塗料を底面全体に、膜厚が均一となるようにスピンコートにより塗工した。その後、室温で30分間乾燥した後、電気炉にて140℃で1時間硬化して、図3に示すような内面正反射率評価用試料を得た。塗膜の厚みは塗膜の透明性が無くなる膜厚10μm以上となるよう調整した。
【0079】
続いて、分光光度計内に塗膜2を設けない直角プリズム5を設置し、先に述べた図4に示す測定法により、あらかじめ波長400nm~700nmの光に対する内面正反射光強度を5nm間隔で測定した。
【0080】
次に塗膜2を有する直角プリズム5(内面正反射率評価用試料)を設置し、先に述べた図4に示す測定法により波長400nm~700nmの光に対する内面正反射光強度を5nm間隔で測定した。予め、分光光度計内に塗膜2を設けない直角プリズム5で測定した各波長における光強度を内面正反射率100%とし、内面正反射率評価用試料の内面正反射率を求めた。各波長における内面正反射率の算術平均値を、当該試料の内面正反射率とした。各実施例および比較例に係る試料について得られた内面正反射率の値から、以下の基準により評価した。
A:35%未満
B:35%以上45%未満
C:45%以上55%未満
D:55%以上
結果を表3に示す。
【0081】
(内面拡散反射率)
各実施例および比較例に係る塗料を、予め両面を光学研磨した円盤状のガラス板(製品名:S-LAH53、オハラ社製、n=1.8、φ30mm、厚さ1.5mm)の片面に、内面正反射率評価用試料の作製と同様にして塗工した。その後、内面正反射率評価用試料の作製と同様にして塗膜を乾燥および硬化し、内面拡散反射率評価用試料を作製した。
【0082】
続いて、図5に示す装置を用い、内面拡散反射率を測定した。
まず、試料設置開口部21に円盤状のガラス板18として標準白板を設置し、波長400nm~700nmの光に対する内面拡散反射光強度を5nm間隔で測定し、この各波長の光強度を内面拡散反射率100%とした。続いて円盤状のガラス板18として上記で作製した内面拡散反射率評価用試料を設置し、波長400nm~700nmの光に対する内面拡散反射光強度を5nm間隔で測定し、内面拡散反射率を求めた。各波長における内面拡散反射率の算術平均値を、当該試料の内面拡散反射率とした。各実施例および比較例に係る試料について得られた内面拡散反射率の値から、以下の基準により評価した。
A:0.20%未満
B:0.20%以上0.25%未満
C:0.25%以上0.30%未満
D:0.30%以上
結果を表3に示す。
【0083】
(高温高湿環境下での経時保管耐久性)
円盤状のガラス平板(製品名:S-LAH53、オハラ社製、n=1.8、φ30mm、厚さ1.5mm)の片面に対してフロスト加工を行い(番手#600)、フロスト加工した面に対し、内面正反射率評価用試料の作製と同様にして塗工した。その後、90℃で1時間加熱硬化させて高温高湿環境下での経時保管耐久性評価用試料を作製した。続いて、得られた耐久性評価用試料を高温高湿環境(温度60℃湿度90%)下に200時間置いた後、ガラスと塗膜との界面について4mmの領域を顕微鏡にて観察し、直径0.02mm以上の白い斑点の個数をカウントした。得られた結果について、以下の基準により評価した。
A:10個以下
B:11個以上30個以下
C:31個以上50個以下
D:51個以上
結果を表3に示す。
【0084】
(耐溶剤性)
上記の高温高湿環境下での経時保管耐久性評価用試料と同様の試料を作製し、得られた試料をメチルエチルケトン50gに3分間浸漬させた。その後、メチルエチルケトンの着色状態を目視により観察した。得られた結果について、以下の基準により評価した。
A:着色がほぼない
B:少し黄味がかった着色
C:少し黒味がかった着色
D:強い黒味の着色
結果を表3に示す。
【0085】
【表3】
【符号の説明】
【0086】
1 レンズ
2 内面反射防止黒色塗膜
3、7、22 入射光
4 内面反射する光(迷光)
4a、8、23 内面正反射光
4b、24 内面拡散反射光
5 直角プリズム
6 光源
9 積分球
10 プリズム底面に対する鉛直線(垂線)
11 積分球入り口との接面
12 偏光板
13 スリット
14 光受光器
15 受光部
16 正反射光トラップ
17 光トラップ部
18 ガラス板
19 入射光開口部
20 正反射光トラップ開口部
21 試料設置開口部
図1
図2
図3
図4
図5