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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-25
(45)【発行日】2022-09-02
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/13 20060101AFI20220826BHJP
   B60C 5/00 20060101ALI20220826BHJP
   B60C 11/12 20060101ALI20220826BHJP
   B60C 11/24 20060101ALI20220826BHJP
【FI】
B60C11/13 C
B60C5/00 H
B60C11/12 A
B60C11/13 D
B60C11/24 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019111354
(22)【出願日】2019-06-14
(65)【公開番号】P2020203537
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2021-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100169111
【弁理士】
【氏名又は名称】神澤 淳子
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 耕平
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-501769(JP,A)
【文献】特表2014-522772(JP,A)
【文献】特表2014-523366(JP,A)
【文献】国際公開第2017/103460(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/103457(WO,A1)
【文献】特開2003-159910(JP,A)
【文献】特開平11-151913(JP,A)
【文献】特開2017-193222(JP,A)
【文献】特開2014-97697(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/13
B60C 5/00
B60C 11/12
B60C 11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤのトレッド(7)にタイヤ周方向に延びる複数本の周方向溝(11i,11o)により区画されて複数本のタイヤ周方向に延びる陸部(12a,12b;42a,42b;72a,72b)が形成され、
前記陸部(12a,12b;42a,42b;72a,72b)にはタイヤ幅方向に延びる複数本の幅方向細溝(13a,13b;43a,43b;73a,73b)が形成される空気入りタイヤにおいて、
前記幅方向細溝(13a,13b;43a,43b;73a,73b)は、溝底に溝幅が拡大した拡幅溝部(13ae,13be;43ae,43be;73ae,73be)を有し、
タイヤ幅方向の中央のタイヤ赤道線(Le)よりタイヤ幅方向片側で互いに隣合う前記陸部(12a,12b;42a,42b;72a,72b)のうちタイヤ赤道線(Le)側の陸部を内側陸部(12a;42a;72a)とし、そのタイヤ幅方向外側の陸部を外側陸部(12b;42b;72b)とすると、
未使用のタイヤのトレッド踏面からトレッドウエアインジケータ(16)の端面までの深さの50%の深さまでタイヤが摩耗した状態で、
タイヤ幅方向に垂直な平面で前記内側陸部(12a;42a;72a)を切断したトレッド環状断面における前記幅方向細溝(13a;43a;73a)を含む環状断面積に対する前記幅方向細溝(13a;43a;73a)を含まない環状断面積の割合である内側陸部断面積比(Pa)と、
タイヤ幅方向に垂直な平面で前記外側陸部(12b;42b;72b)を切断したトレッド環状断面における前記幅方向細溝(13b;43b;73b)を含む環状断面積に対する前記幅方向細溝(13b;43b;73b)を含まない環状断面積の割合である外側陸部断面積比(Pb)とを対比して、
前記外側陸部断面積比(Pb)の方が前記内側陸部断面積比(Pa)よりも大きいことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記外側陸部(12b)における前記幅方向細溝(13b)の拡幅溝部(13be)の方が、前記内側陸部(12a)における前記幅方向細溝(13a)の拡幅溝部(13be)よりも溝幅が幅狭であることを特徴とする請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記外側陸部(42b)における前記幅方向細溝(43b)の方が、前記内側陸部(42a)における前記幅方向細溝(43a)よりも数が少ないことを特徴とする請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記陸部のうちタイヤ幅方向中央の前記内側陸部(72a)における前記幅方向細溝(73a)は、未使用のタイヤのトレッド踏面から拡幅溝部(73ae)の最大幅まで徐々に溝幅が大きくなる形状をなすことを特徴とする請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記空気入りタイヤは、車両の操舵輪に装着されることを特徴とする請求項1記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車輪に用いられる空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
排水性を考慮して、タイヤトレッドにタイヤ周方向に延びる複数本の周方向溝を形成したタイヤは、同周方向溝により区画された陸部が形成され、この陸部にタイヤ幅方向に延びる溝幅が狭い幅方向細溝を形成することで、陸部剛性の低下を抑制しながら、排水性とエッヂ成分を確保して、路面との摩擦力(ウエットグリップ性能)の向上を図ろうとする例(例えば、特許文献1参照)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-24792号公報
【0004】
特許文献1に開示されたタイヤは、タイヤトレッドに周方向に延びる4本の周方向溝により区画されて、タイヤ幅方向中央のセンタ領域のセンタ陸部と、タイヤ幅方向の両端ショルダ領域のショルダ陸部と、センタ陸部とショルダ陸部との間のセカンド陸部が形成されている。
【0005】
すべての陸部には、タイヤ幅方向に延びる幅方向細溝(サイプ)が形成されている。
溝幅の狭い幅方向細溝(サイプ)は、排水性とエッヂ成分を確保しながら接地したときに閉じることで陸部剛性の低下を抑制することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
車両を支持しながら回転する空気入りタイヤは、動力が伝達されて回転する駆動輪に装着される空気入りタイヤの場合、タイヤトレッドの接地圧が大きく回転による摩擦力が加わるセンタ領域がショルダ領域よりも摩耗の進行が早い。
一方、操舵される操舵輪に装着される空気入りタイヤの場合、タイヤトレッドの操舵による大きな摩擦力が加わるショルダ領域がセンタ領域よりも摩耗の進行が早い。
【0007】
上記のように、車両の走行により空気入りタイヤは、センタ領域とショルダ領域とでは摩耗速度が異なり、摩耗が偏り、すなわち偏摩耗が生じる。
特に、摩耗の中期までは、偏摩耗はあまり目立たないが、摩耗中期を過ぎると、通常偏摩耗は目立ち始め、商品性を低下させるとともに品質上も好ましくない。
【0008】
特許文献1に開示されたタイヤは、特に、操舵輪に装着された場合、タイヤトレッドのショルダ領域がセンタ領域よりも摩耗の進行が早い。
それでも摩耗中期までは偏摩耗が目立たないが、摩耗中期以後は、ショルダンタ陸部の耗が益々進行して、偏摩耗が目立つようになる。
また、特許文献1は、陸部に幅方向細溝(サイプ)が形成されて、剛性の低下を抑制しながら排水性を確保しているが、摩耗末期まで排水性を維持することは難しい。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みなされたもので、その目的とする処は、常にウエットグリップ性能を良好に保ちながら摩耗中期以後の偏摩耗を抑制することができる空気入りタイヤを供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、
タイヤのトレッドにタイヤ周方向に延びる複数本の周方向溝により区画されて複数本のタイヤ周方向に延びる陸部が形成され、
前記陸部にはタイヤ幅方向に延びる複数の幅方向細溝が形成される空気入りタイヤにおいて、
前記幅方向細溝は、溝底に溝幅が拡大した拡幅溝部を有し、
タイヤ幅方向の中央のタイヤ赤道線よりタイヤ幅方向片側で互いに隣合う前記陸部のうちタイヤ赤道線側の陸部を内側陸部とし、そのタイヤ幅方向外側の陸部を外側陸部とすると、
未使用のタイヤのトレッド踏面からトレッドウエアインジケータの端面までの深さの50%の深さまでタイヤが摩耗した状態で、
タイヤ幅方向に垂直な平面で前記内側陸部を切断した環状断面の前記幅方向細溝を含む環状断面積に対する前記幅方向細溝を含まない環状断面積の割合である内側陸部断面積比と、
タイヤ幅方向に垂直な平面で前記外側陸部を切断した環状断面の前記幅方向細溝を含む環状断面積に対する前記幅方向細溝を含まない環状断面積の割合である外側陸部断面積比とを対比して、
前記外側陸部断面積比の方が前記内側陸部断面積比よりも大きい空気入りタイヤを供する。
【0011】
この構成によれば、未使用のタイヤのトレッド踏面からトレッドウエアインジケータの端面までの深さの50%の深さまでタイヤが摩耗した状態で、外側陸部断面積比の方が内側陸部断面積比よりも大きいので、外側陸部の方が内側陸部より剛性が高く、操舵される操舵輪に装着された場合に、摩耗中期以後に内側陸部より外側陸部の摩耗の進行が抑えられて、偏摩耗を抑制することができ、商品性と品質を維持することができる。
【0012】
また、陸部に形成される溝幅が狭い幅方向細溝は、接地時に陸部の圧縮変形によりトレッド踏面側の溝部分が塞がるが、溝底に溝幅が拡大した拡幅溝部を有するので、摩耗中期以後も拡幅溝部が維持されて、拡幅溝部により排水性が確保され、エッヂ成分とともに、ウエットグリップ性能を良好に保つことができる。
【0013】
本発明の好適な実施形態では、
前記外側陸部における前記幅方向細溝の拡幅溝部の方が、前記内側陸部における前記幅方向細溝の拡幅溝部よりも溝幅が幅狭である。
【0014】
この構成によれば、外側陸部における幅方向細溝の拡幅溝部の方が、内側陸部における幅方向細溝の拡幅溝部よりも溝幅が幅狭とすることにより、未使用のタイヤのトレッド踏面からトレッドウエアインジケータの端面までの深さの50%の深さまでタイヤが摩耗した状態で、外側陸部断面積比の方を内側陸部断面積比よりも大きくすることが容易にでき、外側陸部の方が内側陸部より剛性が高く、操舵される操舵輪に装着された場合に、摩耗中期以後に内側陸部より外側陸部の摩耗の進行が抑えられて、偏摩耗を抑制することができる。
【0015】
本発明の好適な実施形態では、
前記外側陸部における前記幅方向細溝の方が、前記内側陸部における前記幅方向細溝よりも数が少ない。
【0016】
この構成によれば、外側陸部における幅方向細溝の方が、内側陸部における幅方向細溝よりも数を少なくすることにより、未使用のタイヤのトレッド踏面からトレッドウエアインジケータの端面までの深さの50%の深さまでタイヤが摩耗した状態で、外側陸部断面積比の方が内側陸部断面積比よりも大きくすることが容易にでき、外側陸部の方が内側陸部より剛性が高く、操舵される操舵輪に装着された場合に、摩耗中期以後に内側陸部より外側陸部の摩耗の進行が抑えられて、偏摩耗を抑制することができる。
【0017】
本発明の好適な実施形態では、
前記陸部のうちタイヤ幅方向中央の前記内側陸部における前記幅方向細溝は、未使用のタイヤのトレッド踏面から拡幅溝部の最大幅まで徐々に溝幅が大きくなる形状をなす。
【0018】
この構成によれば、陸部のうちタイヤ幅方向中央の内側陸部における幅方向細溝は、未使用のタイヤのトレッド踏面から拡幅溝部の最大幅まで徐々に溝幅が大きくなる形状をなすので、操舵輪に装着された場合に、偏摩耗が目立ち始める摩耗中期から中央の内側陸部の摩耗速度が、徐々に早くなり、外側陸部の進行の早い摩耗速度との速度差を小さくして、偏摩耗をより一層抑制し、摩耗中期からの偏摩耗を益々目立ち難くすることができる。
【0019】
本発明の好適な実施形態では、
前記空気入りタイヤは、車両の操舵輪に装着される。
【0020】
前記空気入りタイヤは、車両の操舵輪に装着されるので、摩耗中期以後に内側陸部より外側陸部の摩耗の進行が抑えられて、偏摩耗を抑制することができ、商品性と品質を維持することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、未使用のタイヤのトレッド踏面からトレッドウエアインジケータの端面までの深さの50%の深さまでタイヤが摩耗した状態で、外側陸部断面積比の方が内側陸部断面積比よりも大きいので、外側陸部の方が内側陸部より剛性が高く、操舵される操舵輪に装着された場合に、摩耗中期以後に内側陸部より外側陸部の摩耗の進行が抑えられて、偏摩耗を抑制することができ、商品性と品質を維持することができる。
【0022】
陸部に形成される幅方向細溝は、溝底に溝幅が拡大した拡幅溝部を有するので、摩耗中期以後も摩耗末期まで拡幅溝部により排水性が確保され、エッヂ成分とともにウエットグリップ性能を良好に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施の形態に係る空気入りタイヤの左半分を示す概略断面図である。
図2】同空気入りタイヤのトレッドの部分平面図である。
図3】同トレッドの摩耗中期における内側陸部のタイヤ幅方向に垂直な平面で切断したタイヤ周方向断面(図2のIII-III矢視の断面)の部分断面図である。
図4】同トレッドの摩耗中期における外側陸部のタイヤ周方向断面(図2のIV-IV矢視の断面)の部分断面図である。
図5】別の実施の形態に係る空気入りタイヤのトレッドの部分平面図である。
図6】同トレッドの摩耗中期における内側陸部のタイヤ周方向断面(図5の VI-VI矢視の断面)の部分断面図である。
図7】同トレッドの摩耗中期における外側陸部のタイヤ周方向断面(図5の VII-VII矢視の断面)の部分断面図である。
図8】さらに別の実施の形態に係る空気入りタイヤのトレッドの摩耗中期における内側陸部のタイヤ周方向断面の部分断面図である。
図9】同トレッドの摩耗中期における外側陸部のタイヤ周方向断面の部分断面図である。
図10】別の実施の形態に係る空気入りタイヤのトレッドの部分平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る一実施形態について図1ないし図4に基づいて説明する。
図1は、本実施形態に係るトラック・バス用の重荷重用ラジアルタイヤである空気入りタイヤ1のタイヤ幅方向断面図(タイヤ回転中心軸を含む平面で切断したときの断面図)である。
【0025】
空気入りタイヤ1は、金属線がリング状に巻回されて形成された左右一対のビードリング2,2に、両側縁をそれぞれ巻き付けて両側縁間をタイヤ径方向外側に膨出してトロイダル状にカーカスプライ3が形成されている。
【0026】
カーカスプライ3の内表面には耐空気透過性のインナライナ部4が形成されている。
カーカスプライ3のクラウン部の外周には、ベルトプライ6が複数重ねられるように巻き付けられてベルト層5を形成しており、そのタイヤ径方向外側にトレッド7が覆いかぶさるように形成されている。
ベルト層5はベルトプライ6が複数層に重ねられたもので、各ベルトプライ6はベルトコードをベルト用ゴムにより被覆して帯状にしたものである。
【0027】
カーカスプライ3の両サイド部の外表面には、サイドウォール部8が形成されている。
カーカスプライ3のビードリング2に巻き付けられて折り返された環状端部を覆うビード部9は、内側がインナライナ部4に連続し、外側がサイドウォール部8に連続する。
【0028】
図1およびトレッド7の部分平面図である図2を参照して、トレッド7には、タイヤ幅方向の中央のタイヤ赤道線Leの上にタイヤ周方向に延びる中央周方向溝11iが形成され、同中央周方向溝11iのタイヤ幅方向両側にそれぞれタイヤ周方向に延びる外側周方向溝11o,11oが形成されている。
中央周方向溝11iと外側周方向溝11o,11oは、タイヤ幅方向に振れながらジグザグ状にタイヤ周方向に延びている。
【0029】
この3本の周方向溝11o,11i,11oにより区画されて4本のタイヤ周方向に延びる陸部12b,12a,12a,12bが形成されている。
中央周方向溝11iと外側周方向溝11o,11oにより区画されて内側陸部12a,12aが形成され、外側周方向溝11o,11oにより区画されてタイヤ幅方向外側のショルダ領域に外側陸部12b,12bが形成されている。
【0030】
内側陸部12aは、タイヤ幅方向の内外両側にジグザグに変化する側壁を有する。
ショルダ領域の外側陸部12bは、タイヤ幅方向の内側にジグザグに変化する側壁を有する。
【0031】
陸部12b,12a,12a,12bには、それぞれにタイヤ幅方向に延びる溝幅が狭い幅方向細溝13b,13a,13a,13bがタイヤ周方向に複数本形成されている。
内側陸部12aの内側幅方向細溝13aは、両端が中央周方向溝11iと外側周方向溝11oに抜けて連通している。
外側陸部12bの外側幅方向細溝13bは、一端が外側周方向溝11oに連通し、他端がショルダ領域の外側陸部12bの外側面に抜けている。
【0032】
図3および図4を参照して、幅方向細溝13b,13a,13a,13bは、それぞれ溝底に接して溝幅が拡大した拡幅溝部13be,13ae,13ae,13beを有する。
拡幅溝部13be,13ae,13ae,13beは、断面が矩形をしている。
内側幅方向細溝13aの拡幅溝部13aeの方が、外側幅方向細溝13bの拡幅溝部13beよりも幅狭である。
【0033】
本トレッド7の外側周方向溝11o,11oには、溝底から僅かに所定量突出した突起部であるトレッドウエアインジケータ16がタイヤ周方向に数か所形成されている。
走行によりトレッド7の摩耗が進行し、トレッド踏面がトレッドウエアインジケータ16の突出端面と同一面になったときを、100%摩耗として摩耗末期と判断される。
【0034】
図3および図4を参照して、未使用のタイヤのトレッド踏面からトレッドウエアインジケータ16の突出端面までの深さDに対し、未使用のタイヤのトレッド踏面から摩耗が進行したトレッド踏面までの摩耗した深さdの比率(d/D)で摩耗の進行度を示している。
すなわち、摩耗した深さdが深さDに達したときが、100%摩耗である。
したがって、摩耗中期の摩耗した深さdが深さDの半分の深さD/2に達したときは、50%摩耗である。
【0035】
未使用のタイヤのトレッド踏面からトレッドウエアインジケータ16の端面までの深さDの50%の深さまでタイヤが摩耗した50%摩耗状態で、タイヤ幅方向に垂直な平面で内側陸部12aを切断したトレッド環状断面の一部を、図3に示す。
また、50%摩耗状態で、タイヤ幅方向に垂直な平面で外側陸部12bを切断したトレッド環状断面の一部を、図4に示す。
【0036】
図3および図4は、中心角が約40度の範囲の50%摩耗状態のトレッド環状断面が実線で示されており、2点鎖線で未使用のタイヤのトレッド環状断面が示されている。
図3に示される内側陸部12aのトレッド環状断面には、中心角が40度の範囲で3本の幅方向細溝13aが周方向に等間隔に形成されている。
幅方向細溝13aは、溝底に接して溝幅が拡大した断面矩形の拡幅溝部13aeを有する。
【0037】
図4に示される外側陸部12bのトレッド環状断面には、中心角が40度の範囲で3本の幅方向細溝13bが周方向に等間隔に形成されている。
幅方向細溝13bは、溝底に接して溝幅が拡大した断面矩形の拡幅溝部13beを有する。
【0038】
図3に示す内側陸部12aにおける幅方向細溝13aの拡幅溝部13aeと、図4に示す外側陸部12bにおける幅方向細溝13bの拡幅溝部13beとを比較すると、ともに溝深さの等しい断面矩形状をしているが、外側陸部12bの拡幅溝部13beの溝幅Wbの方が内側陸部12aの拡幅溝部13aeの溝幅Waより幅狭である。
【0039】
内側陸部12aの幅方向細溝13aと外側陸部12bの幅方向細溝13bは、拡幅溝部13ae,13be以外は、同じ形状をしている。
したがって、トレッド7の50%摩耗状態で、外側陸部12bの幅方向細溝13bの断面積の方が、内側陸部12aの幅方向細溝13aの断面積より小さい。
【0040】
図3を参照して、トレッド7の50%摩耗状態で、内側陸部12aのトレッド環状断面における幅方向細溝13aを含む環状断面積(図3においてハッチの施された部分に幅方向細溝13a部分を加えた環状断面積)Sに対する幅方向細溝13aを含まない環状断面積(図3においてハッチの施された部分の環状断面積)Saの割合を、内側陸部断面積比Pa(=Sa/S)とする。
【0041】
同様に、図4を参照して、トレッド7の50%摩耗状態で、外側陸部12bのトレッド環状断面における幅方向細溝13bを含む環状断面積(図4においてハッチの施された部分に幅方向細溝13b部分を加えた環状断面積)S´に対する幅方向細溝13bを含まない環状断面積(図4においてハッチの施された部分の環状断面積)Sbの割合を、外側陸部断面積比Pb(=Sb/S´)とする。
【0042】
上記の内側陸部断面積比Pa(=Sa/S)と外側陸部断面積比Pb(=Sb/S´)とを対比すると、幅方向細溝13bの合計断面積の方が幅方向細溝13aの合計断面積より小さいので、外側陸部断面積比Pbの方が内側陸部断面積比Paより大きい(Pa<Pb)。
【0043】
トレッド7の50%摩耗状態で、外側陸部断面積比Pbの方が内側陸部断面積比Paより大きいので、外側陸部12bの方が、内側陸部12aより剛性が高い。
【0044】
車両における操舵される操舵輪に装着された空気入りタイヤは、タイヤトレッドの操舵による大きな摩擦力が加わるショルダ領域がセンタ領域よりも摩耗の進行が早く、特に摩耗中期を過ぎると、通常偏摩耗が目立ち始める。
【0045】
本空気入りタイヤ1は、50%摩耗状態で、ショルダ領域の外側陸部12bの方が、センタ領域の内側陸部12aより剛性が高いので、操舵輪に装着された場合、偏摩耗が目立ち始める摩耗中期以後にセンタ領域の内側陸部12aよりショルダ領域の外側陸部12bの摩耗の進行を抑えて偏摩耗を抑制することができ、タイヤの商品性および品質を維持することができる。
【0046】
陸部12a,12bに形成される幅方向細溝13a,13bは、溝底に溝幅が拡大した拡幅溝部13ae,13beを有するので、摩耗初期は元より摩耗中期以後も拡幅溝部13ae,13beが維持されて、同拡幅溝部13ae,13beにより排水性が確保され、エッヂ成分とともに、ウエットグリップ性能を良好に保つことができる。
【0047】
次に、別の実施の形態に係る空気入りタイヤ31について図5ないし図7に基づいて説明する。
空気入りタイヤ31のトレッド37には、前記トレッド7における中央周方向溝11i,外側周方向溝11o,11oと同じ形状の中央周方向溝41i,外側周方向溝41o,41oが形成されており、この3本の周方向溝41o,41i,41oにより区画されてセンタ領域の内側陸部42a,42aとショルダ領域の外側陸部42b,42bの4本が形成されている(図5参照)。
【0048】
本トレッド37の外側周方向溝41o,41oには、溝底から僅かに所定量突出した突起部であるトレッドウエアインジケータ46がタイヤ周方向に数か所形成されている。
図5を参照して、陸部42b,42a,42a,42bには、それぞれにタイヤ幅方向に延びる溝幅が狭い幅方向細溝43b,43a,43a,43bがタイヤ周方向に複数本形成されている。
【0049】
内側陸部42aの内側幅方向細溝43aは、両端が中央周方向溝41iと外側周方向溝41oに抜けて連通している。
外側陸部42bの外側幅方向細溝43bは、一端が外側周方向溝41oに連通し、他端がショルダ領域の外側陸部42bの外側面に抜けている。
【0050】
図6および図7を参照して、幅方向細溝43b,43a,43a,43bは、それぞれ溝底に接して溝幅が拡大した拡幅溝部43be,43ae,43ae,43beを有する。
拡幅溝部43be,43ae,43ae,43beは、断面が矩形をしている。
図6および図7に示されるように、内側幅方向細溝43aと外側幅方向細溝43bは、各拡幅溝部43ae,43beとともに、同じ断面形状をしている。
【0051】
しかし、図6に示される内側陸部42aのトレッド環状断面には、中心角が40度の範囲で3本の幅方向細溝43aが周方向に間隔を開けて形成されている。
これに対して、図7に示される外側陸部42bのトレッド環状断面には、中心角が40度の範囲で2本の幅方向細溝43bが周方向に等間隔に形成されている。
【0052】
したがって、外側陸部42bにおける幅方向細溝43bの方が、内側陸部42aにおける幅方向細溝43aよりも数が少ない。
そのため、外側陸部42bの幅方向細溝43bの断面積の方が、内側陸部42aの幅方向細溝43aの断面積より小さい。
【0053】
図6を参照して、トレッド37の50%摩耗状態で、内側陸部42aのトレッド環状断面における幅方向細溝43aを含む環状断面積(図6においてハッチの施された部分に幅方向細溝13a部分を加えた環状断面積)Sに対する幅方向細溝43aを含まない環状断面積(図6においてハッチの施された部分の環状断面積)Saの割合を、内側陸部断面積比Pa(=Sa/S)とする。
【0054】
同様に、図7を参照して、トレッド7の50%摩耗状態で、外側陸部42bのトレッド環状断面における幅方向細溝43aを含む環状断面積(図7においてハッチの施された部分に幅方向細溝13b部分を加えた環状断面積)S´に対する幅方向細溝43aを含まない環状断面積(図7においてハッチの施された部分の環状断面積)Sbの割合を、外側陸部断面積比Pb(=Sb/S´)とする。
【0055】
上記の内側陸部断面積比Pa(=Sa/S)と外側陸部断面積比Pb(=Sb/S´)とを対比すると、幅方向細溝43bの合計断面積の方が幅方向細溝43aの合計断面積より小さいので、外側陸部断面積比Pbの方が内側陸部断面積比Paより大きい(Pa<Pb)。
【0056】
トレッド37の50%摩耗状態で、外側陸部断面積比Pbの方が内側陸部断面積比Paより大きいので、外側陸部42bの方が内側陸部42aより剛性が高い。
【0057】
本空気入りタイヤ31は、50%摩耗状態で、ショルダ領域の外側陸部42bの方が、センタ領域の内側陸部42aより剛性が高いので、操舵輪に装着された場合、偏摩耗が目立ち始める摩耗中期以後にセンタ領域の内側陸部42aよりショルダ領域の外側陸部42bの摩耗の進行を抑えて偏摩耗を抑制することができ、タイヤの商品性と品質を維持することができる。
【0058】
次に、さらに別の実施の形態に係る空気入りタイヤ61について図8および図9に基づいて説明する。
本実施の形態に係る空気入りタイヤ61は、前述の実施の形態に係る空気入りタイヤ1と外側幅方向細溝の断面形状が異なる以外は、概ね似た構造をしている。
本トレッド67の外側周方向溝には、溝底から僅かに所定量突出した突起部であるトレッドウエアインジケータ76がタイヤ周方向に数か所形成されている。
【0059】
図8は、トレッド67の摩耗中期における内側陸部72aのタイヤ幅方向に垂直な平面で切断したタイヤ周方向断面の部分断面図である。
タイヤ幅方向中央の内側陸部72aに形成される内側幅方向細溝73aは、内側幅方向細溝73aのトレッド踏面から溝底の拡幅溝部73aeの最大幅まで溝幅が徐々に大きくなる形状をしている。
【0060】
図9は、トレッド67の摩耗中期における最外側の外側陸部72bのタイヤ幅方向に垂直な平面で切断したタイヤ周方向断面の部分断面図である。
外側陸部72bに形成される外側幅方向細溝73bは、溝底の拡幅溝部73beを含め前述の内側幅方向細溝13bと略同じである。
【0061】
したがって、本空気入りタイヤ61を操舵輪に装着された場合に、偏摩耗が目立ち始める摩耗中期から中央の内側陸部72aの摩耗速度が、徐々に早くなり、外側陸部72bの進行の早い摩耗速度との速度差を小さくして、偏摩耗をより一層抑制することができ、摩耗中期から偏摩耗を益々目立ち難くすることができる。
【0062】
以上、本発明に係る3つの実施の形態に係る空気入りタイヤについて説明したが、本発明の態様は、上記実施の形態に限定されず、本発明の要旨の範囲で、多様な態様で実施されるものを含むものである。
【0063】
なお、本発明における内側陸部と外側陸部は、タイヤ赤道線よりタイヤ幅方向片側で3本以上の陸部がある場合は、そのうちのタイヤ幅方向片側で互いに隣合う2本の陸部の間で、タイヤ赤道線側の陸部を内側陸部とし、そのタイヤ幅方向外側の陸部を外側陸部とする。
したがって、タイヤ赤道線側の陸部からタイヤ幅方向の最外側の陸部に順に並ぶ陸部は、このタイヤ幅方向外側に順に剛性が高くなる。
【0064】
本実施の形態では、陸部に形成される幅方向細溝が溝底に有する拡幅溝部は、断面が円形あるいは長円状をしていてもよい。
また、本実施の形態では、周方向主溝がタイヤ幅方向に振れながらジグザグ状にタイヤ周方向に延びる形態であるが、タイヤ幅方向に振れずに直線状にタイヤ周方向に延びる形態であってもよい。
【0065】
本実施の形態では、3本の周方向主溝によりタイヤ周方向に延びる陸部が4本形成されているが、3本以上の周方向主溝等、取り得る形態としては、この限りではない。
【0066】
さらに、本実施の形態において、複数本の周方向溝により区画された複数本の陸部がタイヤ周方向に連続して延びるリブ状陸部であったが、図10に示されるように、周方向溝とともにタイヤ幅方向に延びる幅方向溝14a,14bによって区画されたブロック状陸部15a,15bに、タイヤ幅方向に延びる幅方向細溝13a,13bが形成される形態であってもよい。
図10には、図2に示す実施の形態の符号を用いている。
【0067】
なお、本発明の空気入りタイヤは、トラック・バス用タイヤに限らず、乗用車用タイヤにも適用できる。
【符号の説明】
【0068】
Le…タイヤ赤道線、
1…空気入りタイヤ、2…ビードリング、3…カーカスプライ、4…インナライナ部、5…ベルト層、6…ベルトプライ、7…トレッド、8…サイドウォール部、9…ビード部、
11i…中央周方向溝、11o…外側周方向溝、
12a…内側陸部、12b…外側陸部、
13a…内側幅方向細溝,13ae…拡幅溝部、13b…外側幅方向細溝、13be…拡幅溝部、
14a,14b…幅方向溝、15a,15b…ブロック状陸部、
16…トレッドウエアインジケータ、
31…空気入りタイヤ、37…トレッド、
41i…中央周方向溝、41o…外側周方向溝、
42a…内側陸部、42b…外側陸部、
43a…内側幅方向細溝,43ae…拡幅溝部、43b…外側幅方向細溝、43be…拡幅溝部、
46…トレッドウエアインジケータ、
61…空気入りタイヤ、67…トレッド、
72a…内側陸部、72b…外側陸部、
73a…内側幅方向細溝,73ae…拡幅溝部、73b…外側幅方向細溝、73be…拡幅溝部、
76…トレッドウエアインジケータ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10