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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-25
(45)【発行日】2022-09-02
(54)【発明の名称】電動車両
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/28 20060101AFI20220826BHJP
   B60K 6/46 20071001ALI20220826BHJP
   B60L 1/00 20060101ALI20220826BHJP
   B60L 50/15 20190101ALI20220826BHJP
   B60L 50/61 20190101ALI20220826BHJP
   B60L 58/10 20190101ALI20220826BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20220826BHJP
   B60W 10/26 20060101ALI20220826BHJP
   B60W 20/00 20160101ALI20220826BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20220826BHJP
【FI】
H02M3/28 K
B60K6/46
B60L1/00 L
B60L50/15 ZHV
B60L50/61
B60L58/10
B60W10/08 900
B60W10/26 900
B60W20/00 900
H02J7/00 B
H02J7/00 H
H02J7/00 R
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019137191
(22)【出願日】2019-07-25
(65)【公開番号】P2021022988
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2021-12-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】門田 充弘
(72)【発明者】
【氏名】荒井 雅嗣
(72)【発明者】
【氏名】北口 篤
(72)【発明者】
【氏名】福田 直紀
【審査官】猪瀬 隆広
(56)【参考文献】
【文献】実開平6-70198(JP,U)
【文献】特開2010-098888(JP,A)
【文献】特開2019-064450(JP,A)
【文献】特開2002-330554(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00
H02M 3/28
B60L 1/00
B60L 50/15
B60L 50/61
B60L 58/10
B60K 6/46
B60W 10/08
B60W 10/26
B60W 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、該エンジンによって駆動される第一の発電機と、該第一の発電機の出力に接続される第一の整流回路と、該第一の整流回路の直流出力が入力される第一の直流ラインと、該第一の直流ラインに接続される走行モータと、前記第一の直流ラインの電圧を変換する電力変換装置と、該電力変換装置で電圧が変換された直流出力が入力される第二の直流ラインと、該第二の直流ラインに接続される補機装置と、前記電力変換装置を制御する制御装置と、を備えた電動車両であって、
前記制御装置は、前記第一の直流ラインの電圧が第一の閾値以下のときは前記電力変換装置の出力電力を予め設定された定格電力に制御し、前記第一の直流ラインの電圧が第一の閾値より大きいときは前記電力変換装置の出力電力を前記定格電力よりも小さくする制御を行うことを特徴とする電動車両。
【請求項2】
前記制御装置は、前記第一の直流ラインの電圧が前記第一の閾値より大きい領域において、前記第一の直流ラインの電圧が大きくなるに応じて前記電力変換装置の出力電力を小さくする制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の電動車両。
【請求項3】
前記制御装置は、前記電力変換装置の温度を検出し、該電力変換装置の温度が高くなるに応じて前記第一の閾値を小さくする制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の電動車両。
【請求項4】
前記制御装置は、前記電力変換装置の出力電力を前記定格電力より小さくするとき、前記補機装置の消費電力を制御して、前記電力変換装置の出力電力を小さくした分だけ前記補機装置の消費電力を小さくすることを特徴とする請求項1に記載の電動車両。
【請求項5】
前記エンジンによって駆動される第二の発電機と、該第二の発電機の出力に接続される第二の整流回路とを備え、
該第二の整流回路の直流出力は前記第二の直流ラインに入力され、
前記制御装置は、前記第二の発電機の出力を制御し、前記電力変換装置の出力電力を前記定格電力より小さくするとき、前記電力変換装置の出力電力を小さくした分だけ前記第二の発電機の出力を大きくする制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の電動車両。
【請求項6】
前記第二の直流ラインに接続される充放電装置と、該充放電装置によって充放電される蓄電デバイスと、を備え、
前記制御装置は、前記充放電装置による前記蓄電デバイスの充放電電力を制御し、前記電力変換装置の出力電力を前記定格電力より小さくするとき、前記電力変換装置の出力電力を小さくした分だけ前記充放電装置の放電電力を大きくする制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の電動車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
化石燃料の枯渇や地球環境問題の悪化を背景として、ハイブリッド自動車や電気自動車といった電動車両が普及している。鉱山現場における搬送用ダンプトラックやホイールローダのような大型の作業車両においても電気駆動システムを用いる場合があり、エンジンで駆動される発電機の発電電力を利用して走行モータを駆動する方式のものがある。
【0003】
電気駆動システムを用いた大型作業車両では、リタード(制動)時に走行モータが生み出す回生電力を補機や蓄電デバイスに供給するシステムを搭載することによって、省エネルギー化・燃料消費量低減を実現できると考えられる。以下では、このようなシステムを回生制動システムと記す。回生制動システムには、走行モータ用インバータが接続される直流ライン(以下、主機直流ラインと記す)の電圧を変換し、補機が接続される直流ライン(以下、補機直流ラインと記す)に出力するDC/DCコンバータが必要となる。以下では、これを電力変換装置と記す。
【0004】
特許文献1には、ハイブリッド自動車や電気自動車の電気駆動システムを対象として、その主機系と補機系を接続するDC/DCコンバータの構成が記載されている。上述の回生制動システム、及び電力変換装置は、これを大型の作業車両に応用するものと言える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-74913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ダンプトラックのような大型電動車両では、運転状態によって主機直流ラインの電圧が大きく変動する。そのため、電力変換装置(DC/DCコンバータ)は入力電圧の変動に対応する必要がある。入力電圧の変動に対応する場合の課題として、入力電圧が大きいほど電力変換装置を構成するスイッチング素子の損失、及びこれに伴う発熱が大きくなる。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、電動車両の省エネルギー化を実現するとともに、スイッチング素子の発熱低減を実現することができる電動車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一様態によると、エンジンと、該エンジンによって駆動される第一の発電機と、該第一の発電機の出力に接続される第一の整流回路と、該第一の整流回路の直流出力が入力される第一の直流ラインと、該第一の直流ラインに接続される走行モータと、前記第一の直流ラインの電圧を変換する電力変換装置と、該電力変換装置で電圧が変換された直流出力が入力される第二の直流ラインと、該第二の直流ラインに接続される補機装置と、前記電力変換装置を制御する制御装置と、を備えた電動車両であって、前記制御装置は、前記第一の直流ラインの電圧が第一の閾値以下のときは前記電力変換装置の出力電力を予め設定された定格電力に制御し、前記第一の直流ラインの電圧が第一の閾値より大きいときは前記電力変換装置の出力電力を前記定格電力よりも小さくする制御を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電動車両の省エネルギー化を実現するとともに、スイッチング素子の発熱低減を実現できる。本発明に関連する更なる特徴は、本明細書の記述、添付図面から明らかになるものである。また、上記した以外の、課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1及び2における電動車両の電気駆動システムのハードウェア構成図。
図2】電力変換装置の構成例を示す図。
図3】電力変換装置の基本的な動作と従来の問題点を説明する動作波形の図。
図4】実施例1における制御装置のブロック図のうち、電力変換装置の制御に関連する部分を示す図。
図5】本発明における電力変換装置の動作波形の図。
図6】実施例1におけるタイミングチャート。
図7】実施例1及び2における機器電力を定義するための図。
図8】実施例1におけるタイミングチャートの別例。
図9】実施例2における制御装置のブロック図のうち、電力変換装置の制御に関連する部分を示す図。
図10】実施例3における電動車両の電気駆動システムのハードウェア構成図。
図11】実施例3における制御装置のブロック図のうち、充放電装置の制御に関連する部分を示す図。
図12】実施例3におけるタイミングチャート。
図13】実施例3における機器電力を定義するための図。
図14】ダンプトラックの構成図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明に係る電動車両の実施の形態について説明する。なお、各図において同一要素については同一の符号を記し、重複する説明は省略する。本発明は以下の実施例に限定されることなく、本発明の技術的な概念の中で種々の変形例や応用例をもその範囲に含むものである。
【0012】
(実施例1)
(電気駆動システムのハードウェア構成)
図1を用いて、電気駆動システムのハードウェア構成を説明する。図1の構成は、本発明の実施例1と実施例2で用いられる。
【0013】
電気駆動システムは、例えば大型のダンプトラックやホイールローダなどの電動作業車両に用いられるものである。電気駆動システムは、エンジン11により駆動される主機発電機(第一の発電機)12及び補機発電機(第二の発電機)31と、主機発電機12により発電された電力を用いて駆動される走行モータ10と、車両制動時における走行モータ10の回生電力の電圧をより低い電圧に変換する電力変換装置20と、補機発電機31により発電された電力と電力変換装置20により電圧が変換された電力の少なくとも一方の供給を受けることにより駆動される補機装置33を有している。
【0014】
主機発電機(第一の発電機)12と補機発電機(第二の発電機)31は、エンジン11に接続され、エンジン11によって駆動される。主機発電機12の出力は、交流電力であり、主機整流回路(第一の整流回路)14に入力される。主機整流回路14では、入力された交流電力を直流電力に整流する。主機整流回路14の直流出力は、主機直流ライン(第一の直流ライン)16に入力される。主機直流電圧Vi(第一の直流電圧)は、主機直流ライン16に発生する直流電圧であり、電圧検出器17によって検出される。走行モータ用インバータ(第一のインバータ)13の直流入力は、主機直流ライン16に出力される。
【0015】
インバータ13の交流出力は、走行モータ10に入力される。走行モータ10は、図示しない電動車両の車輪を駆動し、電動車両を前進または後進させる。主機直流ライン16には、主機整流回路14やインバータ13の他に、電力消費装置15と電圧検出器17が接続される。電力消費装置15は、スイッチング素子とダイオードから成るチョッパに、抵抗が接続された構成を有しており、走行モータ10の回生エネルギーを熱に変換して大気と熱交換を行う。
【0016】
図1では、インバータ13、及び、電力消費装置15のスイッチング素子(以下、素子と略す場合がある。)としてIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を想定し、IGBTの回路記号を示した。スイッチング素子は、IGBTに限られるものではなく、電力用半導体素子或いはパワー半導体と呼ばれるものであればよく、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)、バイポーラトランジスタ、サイリスタなど他種の素子を利用してもよい。また、主機整流回路14として、スイッチング素子を用いたAC/DCコンバータを利用してもよい。図1では省略したが、主機直流ライン16には、平滑コンデンサ及びその放電抵抗、サージプロテクタなどの保護デバイスが接続されていてもよい。
【0017】
補機発電機31の出力は、交流電力であり、補機整流回路(第二の整流回路)32に入力される。補機整流回路32では、入力された交流電力を直流電力に整流する。補機整流回路32の直流出力は、補機直流ライン(第二の直流ライン)34に入力される。補機直流電圧Vo(第二の直流電圧)は、補機直流ライン34に発生する直流電圧であり、電圧検出器35によって検出される。補機直流ライン34には、補機装置33が接続される。補機装置33は、電気駆動システムの電装負荷を構成する。
【0018】
補機装置33の例として、エアコン用のインバータ及びコンプレッサモータシステム、機器冷却用のインバータ及びブロアモータシステムなどが挙げられる。図1では、これらを1個の等価インピーダンスにまとめて、補機装置33として記載した。補機装置33の消費電力は、後述のように制御装置によって制御することも可能である。補機直流ライン34には、補機整流回路32や補機装置33の他に、電圧検出器35と電流検出器36が接続される。電流検出器36の機能については後述する。図1では省略したが、補機直流ライン34には、平滑コンデンサ及びその放電抵抗、サージプロテクタなどの保護デバイスが接続されていてもよい。
【0019】
電力変換装置20は、DC/DCコンバータによって構成されており、後述のように主機直流電圧Viを補機直流電圧Voに変換する。電力変換装置20は、電力変換装置20の入力部が主機直流ライン16に接続され、電力変換装置20の出力部が補機直流ライン34にそれぞれ接続されている。上述の電流検出器36は、電力変換装置20の出力電流Ioを検出する。温度検出器27は、電力変換装置20の温度Toを検出する。この温度Toは、電力変換装置20の周囲温度であっても、電力変換装置が備える特定の部品の温度であってもよい。したがって、温度検出器27は、電力変換装置20の周囲に搭載されていても、電力変換装置20に内蔵されていてもよい。ただし、実施例1では、温度検出器27による温度検出値は利用されず、後述の実施例2で利用される。電気駆動システムは、インバータ13など他の機器用に温度検出器を備えていてもよい。
【0020】
制御装置40は、電圧検出器17から主機直流電圧Viの情報を取得し、電圧検出器35から補機直流電圧Voの情報を取得し、電流検出器36から出力電流Ioの情報を取得し、温度検出器27からToの情報を取得する。また、図1では省略したが、制御装置40は、インバータ13の交流出力電流、走行モータ10の回転速度、電動車両の車体速度など、他の情報を取得してもよい。制御装置40は、これらの検出結果の情報、及び、オペレータの操作入力に基づいて上述の各機器に制御信号を出力し、電気駆動システム内のエネルギーフローを制御する。
【0021】
図1では、制御装置40からエンジン11、主機発電機12、インバータ13、電力消費装置15、電力変換装置20、補機発電機31、及び、補機装置33への制御信号を示した。ここで、主機発電機12と補機発電機31については、励磁装置などのアクチュエータがそれぞれ内蔵されていると考える。すなわち、制御装置40から制御信号として電圧指令値を出力すれば、これらの発電機12、31の出力電圧は、電圧指令値にしたがって制御されると考える。図1では、制御装置40から電力変換装置20への制御信号を1本の矢印で示した。しかし、電力変換装置20が複数の素子を備える場合、制御信号も複数であってよい。
【0022】
(電気駆動システムのエネルギーフローと回生制動システム)
まず、加速時における電気駆動システムのエネルギーフローについて説明する。エンジン11により主機発電機12が駆動されると、主機発電機12が出力する交流電圧は主機整流回路14によって主機直流電圧Viに変換され、インバータ13に入力される。オペレータがアクセルペダルを踏み込むと、インバータ13から走行モータ10に交流電力が供給され、走行モータ10は車輪を駆動して車体を加速させる。この場合、主機直流電圧Viは主機発電機12によって制御される。
【0023】
次に、制動時のエネルギーフローについて説明する。オペレータがブレーキペダルを踏み込むと、走行モータ10は車体の運動エネルギーを電気エネルギーに変換し、インバータ13を介して主機直流ライン16へ回生電力を出力する。すなわち、走行モータ10は発電機として動作する。電力消費装置15は、回生電力を熱エネルギーに変換し、主機直流電圧Viが過大になることを防ぐ。したがって、この場合の主機直流電圧Viは電力消費装置15によって制御される。
【0024】
電力変換装置20は、主機直流電圧Viを補機直流電圧Voに変換し、回生電力の一部を補機装置33に供給する。電力消費装置15と補機装置33によって回生電力が消費されることで、車体は減速する。図示しない機械式ブレーキを併用してもよい。
【0025】
補機系のエネルギーフローについて説明する。エンジン11により補機発電機31が駆動されると、補機発電機31が出力する交流電圧は補機整流回路32によって補機直流電圧Voに変換され、補機装置33に入力される。したがって、補機直流電圧Voは補機発電機31によって制御される。制動時では、電力変換装置20が補機装置33に給電するため、その分だけ補機発電機31、ひいてはエンジン11の負荷が低減される。このような動作によって、制動時に発生する回生電力を補機で有効利用でき、その分だけ電動車両の省エネルギー化・燃料消費量低減を実現できる。これが本実施形態における回生制動システムである。
【0026】
(電力変換装置の入力電圧変動)
上述のように、加速時には主機発電機12が主機直流電圧Viを制御し、制動時には電力消費装置15が主機直流電圧Viを制御する。ここで、ダンプトラックのように重量が大きい電動車両では、電気駆動システムの各機器が大容量化、及び、高電圧化する。走行モータ10の回転速度が高い場合、インバータ13が走行モータ10に供給すべき交流電圧の振幅が大きくなり、主機直流電圧ViをkVクラスの高圧にする必要がある。また、オペレータによるアクセルペダルの踏み込み量が大きく、走行モータ10のトルクが大きい場合についても、主機直流電圧Viを高圧にして主機直流ライン16の電流を抑える必要がある。
【0027】
一方、発進時のように走行モータ10が停止している、または、低速回転している場合、インバータ13は走行モータ10に高電圧を供給する必要はない。そのため、このような場合では主機直流電圧Viを低減し、インバータ13の損失を低減する。以上の理由から、主機直流電圧Viは、電動車両の速度やアクセルペダルの踏み込み量に応じて幅広い範囲で変動する。主機直流電圧Viは、電力変換装置20の入力電圧でもあるため、電力変換装置20は、入力電圧の変動に対応する必要がある。なお、以下では主機直流電圧Viの変動範囲をV1~V2と定義する。
【0028】
(電力変換装置の構成例)
図2は、電力変換装置20の構成例である。電力変換装置20の入力端子は、インバータ21(第二のインバータ)とコンデンサ22に接続される。図2では、インバータ21の回路方式として4個の素子(M1~M4)を備えるフルブリッジインバータ回路を示したが、他の回路方式であってもよい。インバータ21の交流出力端子は、トランス23の一次巻線に接続される。トランス23の二次巻線は、整流回路24(第三の整流回路)の交流入力端子に接続される。図2では、整流回路24の回路方式として4個のダイオード(D1~D4)で構成されるフルブリッジ整流回路を示したが、他の回路方式であってもよい。整流回路24の直流出力端子は、チョークコイル25とコンデンサ26から成るフィルタ回路を介して電力変換装置20の出力端子に接続される。
【0029】
インバータ21は、電力変換装置20に入力される主機直流電圧Viを交流電圧Vtrに変換し、トランス23の一次巻線に印加する。このとき、トランス23の一次巻線に流れる交流電流を一次巻線電流Itrと定義する。トランス23は、電力変換装置20の入出力間を絶縁しつつ、一次巻線に印加された電圧を変圧して二次巻線に交流電圧を発生させる。この交流電圧は、整流回路24によって直流電圧に変換され、フィルタ回路を介して電力変換装置20から出力される。
【0030】
図2では、素子M1~M4をMOSFETとしたが、電力用半導体素子或いはパワー半導体と呼ばれるものであればよく、IGBTなど他種の素子を利用してもよい。電力変換装置20は以上の要素の他にも、ブレーカやリレーなどの制御部品、ヒューズやサージプロテクタなどの保護部品、ノイズフィルタを備えていてもよい。
【0031】
(従来の回生制動システムにおける電力変換装置の動作波形と電圧変動による問題)
図3は、従来の回生制動システムにおける電力変換装置20の動作波形である。図3を用いて、電力変換装置20の基本的な動作、及び、主機直流電圧Viが変動する場合の具体的な問題について説明する。電力変換装置20は素子M1~M4のスイッチング動作によって電力変換を行うものであり、図3ではスイッチング2周期分の動作波形を示した。図3の縦軸項目として、素子M1~M4の駆動信号(オン・オフ信号)、トランス23の一次巻線電圧Vtr、トランス23の一次巻線電流Itr、及び、電力変換装置20の出力電流Ioを示した。
【0032】
図3(a)では主機直流電圧Viが最小値V1であり、図3(b)では主機直流電圧Viが最大値V2である場合を想定した。また、図3(a)と(b)の両者において、電力変換装置20の出力電力Poが定格値(定格電力)P1に制御されることを想定した。補機直流電圧Voは補機発電機31によって主機直流電圧Viに依らず一定に制御される。そのため、図3(a)と(b)で出力電流Ioは等しくなり、その値をI1(= P1/Vo)とした。
【0033】
図3では、インバータ21(フルブリッジインバータ回路)の具体的な制御方式として、位相シフト制御を用いることを想定した。位相シフト制御では、M1~M4のターンオンをソフトスイッチングとすることができ、ターンオン損失をほぼゼロにすることができる。位相シフト制御は公知技術であるため、動作モードや電流経路などの詳細な説明については省略し、動作の概要と主機直流電圧Viの変動が及ぼす影響を中心に説明する。
【0034】
図2の左レグの素子M1とM2は、図3に示すように、デッドタイムtdを挟んで相補的にオン・オフ制御される。図2の右レグの素子M3とM4についても同様である。図3(b)から分かるように、インバータ21は、素子M1と比べて素子M4のスイッチングをシフト量θだけ遅らせ、同様に、素子M2と比べて素子M3のスイッチングをシフト量θだけ遅らせる。インバータ21は、シフト量θを可変することにより、電力変換装置20の出力を制御する。電力変換装置20の出力が同じ条件であれば、主機直流電圧Viが大きいほどシフト量θは大きくなる。図3(a)のように主機直流電圧Viが最小となる条件では、シフト量θがほぼゼロとなるようにトランス23の巻数比を設計することが望ましい。このとき、素子M1とM4、素子M2とM3がそれぞれほぼ同時にスイッチングする。
【0035】
トランス23の一次巻線電圧Vtrは矩形パルス電圧となり、その振幅は主機直流電圧Viとほぼ等しくなる。図3(b)から分かるように、位相シフト動作(θの生成)によって一次巻線電圧Vtrがゼロとなる期間が発生する。この期間では、トランス23の一次側から二次側へと電力が伝送されない。主機直流電圧Viが大きくなるほどシフト量θが増大するため、一次巻線電圧Vtrの振幅は増大するが、一方で一次巻線電圧Vtrがゼロとなる期間も増大する。
【0036】
一次巻線電流Itrは、インバータ21に流れる電流でもある。一次巻線電流Itrの振幅は主に出力電流Ioとトランス23の巻数比によって決まり、主機直流電圧Viには殆ど依存しない。図3(a)、(b)には、素子M1のターンオフ電流Ioff1、Ioff2を示したが、ターンオフ電流Ioff1、Ioff2もまた主機直流電圧Viには殆ど依存しない。
【0037】
一方、図3(a)に示す場合、素子M1がターンオフする直前まで、素子M1には主機直流電圧Viとほぼ同じ電圧が印加されている。したがって、主機直流電圧Viが大きくなるほど、素子M1のターンオフ損失、及び、これによる素子M1の発熱が大きくなる。他の素子M2~M4についても同様である。このように、従来の回生制動システムでは、主機直流電圧Viが変動する場合の具体的な問題点として、主機直流電圧Viが大きくなるほど電力変換装置20における素子の発熱が大きくなる。なお、電力変換装置20の回路方式や制御方式として、上述とは異なる方式を用いる場合であっても、主機直流電圧Viが大きい条件における素子発熱の問題は発生する。
【0038】
(制御装置のブロック図)
本実施形態の回生制動システムは、上述の問題を解決するために、主機直流電圧Viが所定の閾値(第一の閾値)より大きいときは、主機直流電圧Viが所定の閾値以下のときよりも、電力変換装置20の出力電力Poを低減させる。上述のように、図1の制御装置40は、同図に示した電気駆動システムの各機器を制御する。図4は、そのうち電力変換装置20を制御する部分のブロック図である。制御装置40は、出力電力テーブル41、出力電力演算部42、及び制御演算部43を備える。
【0039】
出力電力テーブル41は、入力される主機直流電圧Viにしたがってテーブルを参照し、出力電力の指令値Porefを出力する。所定の閾値をVc(V1≦Vc≦V2)として、主機直流電圧Viが閾値Vc以下(Vi≦Vc)の場合、出力電力指令値Porefを定格出力電力P1とする。そして、主機直流電圧Viが閾値Vcよりも大きい(Vi>Vc)場合、出力電力指令値Porefを定格値P1より小さくする。
【0040】
このとき、出力電力指令値Porefが定格値P1よりも小さくなっていれば(Poref<P1)、主機直流電圧Viと出力電力指令値Porefの詳細な関係については任意である。図4(a)では、その一例として、出力電力指令値Porefを主機直流電圧Viの一次関数として、主機直流電圧Viが最大値V2となる場合の出力電力指令値Porefを下限値P2とした。なお、以下では、主機直流電圧Viが閾値Vcよりも大きくかつ出力電力指令値Porefが定格値P1よりも小さい領域、つまり、Vi>Vcであり、Poref<P1とする領域を出力低減領域と定義する。
【0041】
図4(a)には、主機直流電圧Viと出力電力指令値Porefとの関係として、主機直流電圧Viが閾値Vcよりも大きくなるに応じて出力電力指令値Porefを定格値P1から一定の割合で小さくする一次関数の関係とする場合を示した。しかしながら、主機直流電圧Viが閾値Vcよりも大きい(Vi>Vc)場合における主機直流電圧Viと出力電力指令値Porefとの関係は、図4(a)に示す一次関数の関係に限定されるものではなく、主機直流電圧Viが閾値Vcよりも大きい(Vi>Vc)場合に出力電力指令値Porefを定格値P1より小さくする(Poref<P1)関係を有するものであればよい。
【0042】
出力電力演算部42は、補機直流電圧Voと電力変換装置20の出力電流Ioから、出力電力Po(=VoIo)を演算する。制御演算部43は、出力電力Poと出力電力指令値Porefに基づいて電力変換装置20に対しての制御信号を生成する。図4(a)では、制御信号として素子M1~M4の駆動信号を示した。また、上述の位相シフト制御を想定し、制御演算部43の内部構成としてシフト量演算部44と駆動信号生成部45を示した。つまり、本実施形態では、制御演算部43は、シフト量演算部44と駆動信号生成部45を備える。
【0043】
シフト量演算部44は、比例・積分制御(PI制御)などの制御演算を用いてシフト量θを演算する。ここでは、出力電力Poが出力電力指令値Porefによりも小さい(Po<Poref)場合、シフト量θを減少させ、出力電力Poが出力電力指令値Poref以上(Po≧Poref)の場合、シフト量θを増大させるように演算を行う。シフト量演算部44は、出力電力Poを一定に保つようにするシフト量θを演算する。例えば電動車両の制動により主機直流電圧Viが増大するのに応じて、シフト量θも増大されて出力電力Poが一定に保たれる。駆動信号生成部45は、シフト量θから素子M1~M4の駆動信号を生成する。なお、本実施形態では、制御演算部43による出力電力Poの制御応答が十分に高いとして、出力電力Poは出力電力指令値Porefに一致すると考える。
【0044】
制御演算部43の駆動信号生成部45には、電力変換装置20の動作または停止を制御するためのイネーブル信号(図4(a)のEnable)が入力される。イネーブル信号は、制御装置40の内部で生成されるディジタル信号であり、その論理レベルが電力変換装置20の動作または停止を表す。この構成によって、加速時では電力変換装置20を停止させる、すなわち、素子M1~M4が全てオフとなるように駆動信号を生成することができる。
【0045】
(本実施形態による電力変換装置の動作波形)
図5は、本実施形態における電力変換装置20の動作波形である。図3と共通する点については説明を省略する。図5(a)に示す例では、主機直流電圧Viが閾値Vcよりも小さな最小値V1であり、電力変換装置20の出力電力Poが定格値P1に制御されている。一方、図5(b)に示す例では、主機直流電圧Viが閾値Vcよりも大きな値V2であり、図4で説明した構成によって出力電力Poが定格値P1より小さい値である下限値P2に制御される。なお、図5(a)と図3(a)では同じ主機直流電圧Vi及び出力電力Poの条件となるため、これらの図で動作波形も同一になる。図5(b)では図5(a)に比べて出力電力Poが小さい条件となるため、電力変換装置20の出力電流Ioもこれに比例して小さくなる。図5(b)では、出力電流Ioの値をI2(=P2/Vo<I1)とした。
【0046】
図3の説明で述べたように、トランス23の一次巻線電流Itrの振幅、及び、素子M1のターンオフ電流Ioff1、Ioff2は出力電流Ioによって決まる。図5(b)では図5(a)と比べて出力電流Ioが小さいため、一次巻線電流Itrの振幅やターンオフ電流Ioff2も小さくなる(Ioff1>Ioff2)。図3(b)と図5(b)を比較した場合でも、図5(b)の方が出力電流Io、Itr振幅及びターンオフ電流Ioff2がそれぞれ小さくなる。以上から、図4で説明した出力電力Poを低減する制御によって、主機直流電圧Viが大きい条件における素子のターンオフ損失、及び、これに伴う発熱を低減することができる。また、出力電力Poの、すなわち出力電流Ioの低減量を大きくするほど、電力変換装置20の発熱の低減効果も大きくなる。
【0047】
(動作タイミングチャート)
図6は、主機直流電圧Viが変動する場合における各機器の電力変化を示すタイミングチャートである。具体的には、電力変換装置20の出力電力Po、補機発電機31の出力電力Pg、及び補機装置33の消費電力Paを示した。図7は、図1から図6に関連する機器のみを抜粋し、各電力を矢印で定義した図である。図7は、電動車両の制動時における電力の流れを示したものであり、電力変換装置20が出力可能であるとした。また、図6のように、補機装置33の消費電力Paは一定であり、出力電力Poより大きいものとした。図7では、補機整流回路32の損失を無視し、補機整流回路32から補機直流ライン34に出力される電力を補機出力電力Pgとした。図7から、Pa=Po+Pgの関係が成立して電力がバランスしていれば、補機直流電圧Voは変化せず、安定して補機装置33に給電される。
【0048】
主機直流電圧Viが最小値V1から最大値V2へと徐々に増大する期間に着目する。制御装置40は、主機直流電圧Viが閾値Vc以下(Vi≦Vc)の場合、出力電力Poを定格値P1に制御する。補機装置33の消費電力Paが出力電力Poより大きい(Pa>Po(=P1))ので、補機発電機31は、その差分を出力することにより、Pa=Po+Pgの関係を維持し、補機直流電圧Voを一定に制御する。すなわち、Pg=Pa-Po=Pa-P1となる。
【0049】
主機直流電圧Viが閾値Vcよりも大きく(Vi>Vc)なると、図4の出力電力テーブル41にしたがって主機直流電圧Viが大きくなるに応じて出力電力指令値Porefを低減して定格値P1よりも小さくするため、図6のように出力電力Poも徐々に減少する。補機発電機31は補機直流電圧Voを一定に制御するために、補機出力電力Pgを徐々に増大させる。制御装置40は、電力変換装置20の出力電力Poを定格値P1より小さくするとき、補機発電機31を制御して、電力変換装置20の出力電力Poを小さくした分だけ補機発電機31の補機出力電力Pgを大きくする制御を行う。
【0050】
図6のように電力変換装置20が出力電力Poを定格値P1からΔPだけ低減するとき、補機発電機31がΔPだけ電力を増大させることで、補機装置33に供給される電力Paが一定に保たれる。主機直流電圧Viが最大値V2に達すると、出力電力Poは定格値P1より小さい値の下限値P2に制御される。また、Pg=Pa-P2となる。主機直流電圧Viが最大値V2から最小値V1へと徐々に減少する期間についても、同じ要領で各電力が変化する。詳細な説明については省略する。
【0051】
(効果)
以上、実施例1では、電力変換装置20、及びこれを用いた回生制動システムによって電動車両の省エネルギー化を実現するとともに、電力変換装置20の入力電圧変動に対応し、特に入力電圧が大きい場合におけるスイッチング素子の発熱を低減できる。このことは、素子の長寿命化、長期信頼性の向上に対して有効である。または、素子の温度制約の範囲中で、冷却システムを小型化、及び、低コスト化できる。本実施例1では、素子の発熱要因としてターンオフ損失に着目した。ターンオフ損失とこれに伴う発熱を低減できれば、素子のスイッチング周波数を高めることができる。これによって、電力変換装置20におけるトランス23、チョークコイル25、コンデンサ26を小型化、及び、低コスト化できる。
【0052】
(補足)
実施例1の補足事項や別例について説明する。図8は、タイミングチャートの別例であり、補機装置33の消費電力制御を行う場合のタイミングチャートである。図6と共通する点については説明を省略する。図1に示したように、制御装置40は、補機装置33の消費電力Paを制御できる。制御装置40は、電力変換装置20の出力電力Poを定格値P1より小さくするとき、電力変換装置20の出力電力Poを小さくした分だけ補機装置33の消費電力Paを小さくする。つまり、制御装置40は、電力変換装置20の出力電力PoをΔPだけ低減する際、消費電力PaについてもΔPだけ低減する。これによって、補機発電機31は補機出力電力Pgを増大させることなく、補機直流電圧Voを一定に制御できる。消費電力Paを低減する際、エアコンのように、車両の走行に大きく影響しない補機の消費電力を低減することが考えられる。
【0053】
図4(a)に示した出力電力テーブル41について補足する。主機直流電圧Viの値に依らず出力電力Poを定格値P1に制御する場合、主機直流電圧Viが大きくなるにつれて、素子のターンオフ損失、及び、これに伴う発熱が大きくなる。そのため、図4(a)の出力電力テーブル41に示したように、主機直流電圧Viが閾値Vcより大きい出力低減領域では、主機直流電圧Viが大きいほど出力電力Poを小さくして、発熱低減の効果を大きくする構成が有効である。主機直流電圧Viが閾値Vcより僅かに大きいような状況では、出力電力Poの低減量ΔPを小さくするため、回生制動システムによる省エネルギー効果を高めることができる。図4(a)の出力電力テーブル41では、出力低減領域において、出力電力Poが主機直流電圧Viの一次関数となるようにしたが、この領域において出力電力Poが主機直流電圧Viに反比例するようにしてもよい。素子の発熱要因としてターンオフ損失が支配的であり、発熱が主機直流電圧Viに比例する場合、出力低減領域において素子の発熱をほぼ一定にすることができる。
【0054】
例えば、主機直流電圧Viが閾値Vcよりも大きい(Vi>Vc)場合における主機直流電圧Viと出力電力指令値Porefとの関係の他の例について図4(b)から(d)にそれぞれ示す。図4(b)は、主機直流電圧Viが閾値Vcよりも大きくなるに応じて出力電力指令値Porefが反比例して、定格値P1から減少する双曲線関数の関係(Poref=k/Vi、k=P1Vc)とする場合を示す。図4(c)は、主機直流電圧Viが閾値Vcよりも大きくなるに応じて出力電力指令値Porefが低下する割合が二次曲線的に増加する場合を示す。そして、図4(d)は、主機直流電圧Viが閾値Vcよりも大きくなると出力電力指令値Porefを定格出力電力P1から小さい値にステップ状に変化させる場合を示す。
【0055】
(実施例2)
(制御装置のブロック図)
本発明の実施例2では、実施例1と同様に、図1に示した電気駆動システムを利用する。ただし、実施例2では、実施例1と比べて制御装置40の内部構成(ブロック図)が異なる。また、実施例2では、温度検出器27によって検出される電力変換装置20の温度Toを、電力変換装置20の出力電力Poの制御に利用する。図9は、実施例2における制御装置40のうち、電力変換装置20を制御する部分のブロック図である。出力電力演算部42、制御演算部43については図4(実施例1)と同一であるため説明を省略する。
【0056】
実施例2の制御装置40は、出力電力テーブル46を備える。出力電力テーブル46は、図4(a)(実施例1)の出力電力テーブル41と同様に、主機直流電圧Viに基づいて電力変換装置20の出力電力指令値Porefを生成する。出力電力テーブル41は、2個の内部パラメータとして、閾値Vc(主機直流電圧Viに関する閾値)と下限値P2(主機直流電圧Viが最大値V2の条件における出力電力指令値Poref)を利用する。図9(実施例2)の出力電力テーブル46では、閾値Vcの代わりに閾値Vc’(第一の閾値)を利用し、下限値P2の代わりに下限値P2’を利用する。これらのパラメータは、後述するように電力変換装置20の温度Toによってそれぞれ変化する。
【0057】
実施例2の制御装置40は、電力変換装置20の温度Toに基づいて閾値Vc’を生成する閾値テーブル47、及び、温度Toに基づいて下限値P2’を生成する出力下限値テーブル48を備える。閾値テーブル47は、温度Toが高くなるに応じて閾値Vc’を小さくする。出力下限値テーブル48は、温度Toが高くなるに応じて下限値P2’を小さくする。同じ主機直流電圧Viの条件であり、かつ、主機直流電圧Viが閾値Vc’よりも大きい(Vi>Vc’)とき、温度Toが高いほど出力電力指令値Porefは小さくなる。温度Toが高いほど、実施例1で説明した素子の発熱低減の効果を大きくする。言い換えれば、温度Toが低く、素子の温度に余裕のある場合においては、出力電力Poの低減量を小さくして、回生制動システムによる省エネルギー効果を高めることができる。
【0058】
なお、閾値テーブル47と出力下限値テーブル48の何れか一方を用いない構成としてもよい。例えば、出力下限値テーブル48を用いない構成とした場合、出力低減領域において出力電力Poを主機直流電圧Viの一次関数として、さらにその傾きが温度Toに依らず一定になるようにする。このとき、出力下限値テーブル48を用いずとも、主機直流電圧Viが最大値V2の条件における出力電力指令値Porefは温度Toが高いほど小さくなる。出力低減領域において出力電力Poを主機直流電圧Viに反比例させる場合も同様である。
【0059】
(実施例3)
(電気駆動システムのハードウェア構成)
図10を用いて、実施例3における電気駆動システムのハードウェア構成を説明する。図1(実施例1または2)と共通する点については説明を省略する。
【0060】
図10(実施例3)の電気駆動システムは、補機直流ライン34に接続される蓄電デバイス51とその充放電装置52を備える。また、蓄電デバイス51の電圧Vb(第三の直流電圧)を検出するための電圧検出器53、蓄電デバイス51の充放電電流Ibを検出するための電流検出器54を備える。蓄電デバイス51は、電流検出器54を介して充放電装置52の入力に接続される。充放電装置52の出力は、補機直流ライン34に接続される。蓄電デバイス51とその充放電装置52は、電気駆動システムの電装負荷を構成する。
【0061】
蓄電デバイス51の例として、ニッケル水素バッテリやリチウムイオンバッテリといったバッテリ、または、電気二重層コンデンサやリチウムイオンキャパシタといったコンデンサがある。充放電装置52は双方向動作可能なDC/DCコンバータであり、出力側から入力側へと電力を伝送することで蓄電デバイス51を充電し、入力側から出力側へと電力を伝送することで蓄電デバイス51を放電できる。充放電装置52の回路方式として双方向チョッパがあるが、他の方式であってもよい。
【0062】
図10では、充放電装置52のスイッチング素子としてIGBTを想定し、IGBTの回路記号を示したが、MOSFETなど他種の素子を利用してもよい。蓄電デバイス51の充放電電流Ibの正負極性については、蓄電デバイス51が放電するときに充放電電流Ibが正となるように定義する。蓄電デバイス51の充放電電力Pb=VbIbについても、蓄電デバイス51が放電するときに正となる。
【0063】
図10(実施例3)の電気駆動システムは、制御装置60を備える。図1(実施例1または2)に示した制御装置40との違いとして、制御装置60は、電圧検出器53から蓄電デバイス51の電圧Vbの情報を取得し、電流検出器54から充放電電流Ibの情報を取得する。また、制御装置60は、充放電装置52に制御信号を出力する。図10では、制御装置60から充放電装置52への制御信号を1本の矢印で示した。しかし、充放電装置52が複数の素子を備える場合、制御信号も複数であってよい。このように蓄電デバイス51を備えることにより、電力変換装置20の出力電力Poのうち一部を蓄電デバイス51に蓄え、車両の加速時などに利用できる。
【0064】
(制御装置のブロック図)
図11は、制御装置60のうち、充放電装置52を制御する部分のブロック図である。制御装置60は、充放電指令補正部61、充放電電力演算部62、及び制御演算部63を備える。
【0065】
充放電指令補正部61には、電力変換装置20の出力電力指令値Poref、補正前の充放電指令値Pbref0が入力される。出力電力指令値Porefの生成方式については、実施例1または2と同様であり、例えば図4(a)または図9に示す出力電力テーブルによって生成される。以下では、図4(a)(実施例1)の出力電力テーブル41によって出力電力指令値Porefが生成され、充放電指令補正部61に入力される場合を例に説明する。補正前の充放電指令値Pbref0は、図11のブロック図よりさらに上位のシステムで生成され、充放電指令補正部61に入力される。
【0066】
充放電指令補正部61では、出力電力指令値Porefとその定格値P1から、出力電力Poの低減分ΔPを演算する。出力制限領域(Vi>Vc)であれば低減分ΔPは0よりも大きく(ΔP>0)なる。一方、主機直流電圧Viが閾値Vc以下(Vi≦Vc)であれば低減分ΔPは0(ΔP=0)となる。充放電指令補正部61では、補正前の充放電指令値Pbref0と低減分ΔPを加算し、補正後の充放電指令値Pbrefを演算する。補正前の段階で放電状態、すなわちPbref0>0であった場合、上述の加算によって放電電力がさらに大きくなる。
【0067】
一方、補正前の段階で充電状態、すなわち補正前の充放電指令値Pbref0が0よりも小さい(Pbref0<0)場合、|Pbref0|≧ΔPであれば(充電電力が低減分ΔPより大きければ)、上述の加算によって充電電力が小さくなる。また、補正前の段階では充電状態であったとしても、|Pbref0|<ΔPであれば(充電電力が低減分ΔPより小さければ)、上述の加算によって充放電装置52は蓄電デバイス51を放電する。いずれの場合においても、充放電指令補正部61は、電力変換装置20の出力電力を低減する際、補機直流ライン34に供給される電力の変動を抑制するように、充放電装置52の充放電指令値を補正する。
【0068】
充放電電力演算部62は、蓄電デバイス51の電圧Vbと充放電電流Ibから、充放電電力Pb(=VbIb)を演算する。制御演算部63は、充放電電力Pbと補正後の充放電指令値Pbref0に基づいて充放電装置52に対しての制御信号を生成する。なお、本実施例では、制御演算部63による充放電電力Pbの制御応答が十分に高いとして、充放電電力Pbは補正後の充放電指令値Pbref0に一致すると考える。
【0069】
(動作タイミングチャート)
図12は、主機直流電圧Viが変動する場合における各機器の電力変化を示すタイミングチャートである。図12では、図6及び図8と比較して、電力変換装置20の出力電力Po、補機発電機31の補機出力電力Pg、及び補機装置33の消費電力Paに加えて、蓄電デバイス51の充放電電力Pbを追加して示した。図13は、図10から図12に関連する機器のみを抜粋し、上述の各電力を矢印で定義した図である。
【0070】
図13は、電動車両の制動時における電力の流れを示したものであり、電力変換装置20が出力可能であるとした。また、図12のように、補機装置33の消費電力Paは一定であり、出力電力Poより大きいものとした。さらに、図11に示した補正前の充放電指令値Pbref0はゼロであり、電力変換装置20の出力電力低減が行われない場合、充放電装置52は充電も放電もしないものとした。図13では、充放電装置52の損失を無視し、充放電装置52から補機直流ライン34に出力される電力を充放電電力Pbとした。図13に示すように、Pa=Po+Pg+Pbの関係が成立して電力がバランスしていれば、補機直流電圧Voは変化しない。
【0071】
図12において、主機直流電圧Viが閾値Vc以下(Vi≦Vc)の期間では、電力変換装置20の出力電力低減は行われず、出力電力Poは定格値P1に制御される。また、上述の前提条件から、充放電電力Pbはゼロに制御される。以上をまとめると、Po=P1、Pb=0が成り立つ。このとき、上述の電力バランスに関する式は、Pa=P1+Pgとなる。図12のようにPa>P1であるため、補機発電機31はその差分を出力する、すなわちPg=Pa-P1とすることで電力バランスを維持し、補機直流電圧Voを一定に保つ。
【0072】
主機直流電圧Viが閾値Vcよりも大きくなる、つまり、Vi>Vc(出力低減領域)になると、図4(a)の出力電力指令テーブル41にしたがって出力電力指令値Porefが低減されるため、図12のように出力電力Poが徐々に減少する。出力電力Poの低減分ΔPは、徐々に増大する。上述のようにPbref0=0であるため、図11の充放電指令補正部61は、補正後の充放電指令値Pbref0を低減分ΔPとする。そのため、図12のように充放電電力Pbが徐々に増大する。
【0073】
以上をまとめると、Po=P1-ΔP、Pb=ΔPが成り立つ。これらを電力バランスの関係式に代入すると、ΔPに依らずPg=Pa-P1となる。すなわち、補機発電機31が補機出力電力PgをPa-P1から変化させずとも、電力バランスが維持され、補機直流電圧Voと補機装置33に供給される電力が一定に保たれる。主機直流電圧Viが最大値V2(Vi=V2)になると、出力電力Poが下限値P2(Po=P2)に制御され、ΔP=P1-P2となる。また、Pb=ΔP=P1-P2となる。主機直流電圧Viが最大値V2から最小値V1へと徐々に減少する期間についても、同じ要領で各電力が変化する。詳細な説明については省略する。
【0074】
実施例1では、電力変換装置20の出力低減に対して、補機発電機31が出力を増大させてこれを補い、補機装置33に一定の電力を供給する構成を示した。しかし、主機直流電圧Viが急激に変化した場合、補機発電機31の制御が追従できず、補機直流電圧Voが一時的に減少する問題が考えらえる。補機直流ライン34に大容量の平滑コンデンサを接続する方法も考えられるが、平滑コンデンサの分だけシステムが大型化、高コスト化する。これに対して実施例3では、補機発電機31の代わりに蓄電デバイス51と充放電装置52が、電力変換装置20の出力低減を補う。蓄電デバイス51のパワー密度が年々向上していることから、補機発電機31よりも高速に出力を制御できる。これにより、主機直流電圧Viが急激に変化した場合でも補機直流電圧Voを一定に制御できる。
【0075】
(ダンプトラック外観)
全ての実施例に共通する構成として、図14を用いてダンプトラックの基本的な構成を説明する。ダンプトラックは、フレーム1上に土砂等を積載するためのボディ5が搭載され、両者がホイストシリンダ6により連結されている。またフレーム1には、図示しない機構部品を介して前輪2、後輪3、燃料タンク9などが取り付けられている。後輪3の回転軸部には、後輪3を駆動するための走行モータ10と、後輪3の回転数を調整する減速機が収められている。フレーム1にはさらに、オペレータが歩行可能なデッキが取り付けられている。デッキにはダンプトラックの操作を行うためにオペレータが搭乗するためのキャブ4、各種電力機器が収納されたコントロールキャビネット8、及び、余剰エネルギーを熱として放散するための複数のグリッドボックス7が搭載されている。図1図10に示した電力消費装置15の抵抗は、グリッドボックス7に収納される。また、図14で前輪2により隠れた部分には、エンジンおよび主に走行モータ用電力源としての主機発電機、主に補機類用電力源としての補機発電機、及び、主に油圧機器用油圧源としての不図示のメインポンプなどが搭載されている。
【0076】
次に、オペレータがダンプトラックの操作方法について説明する。キャブ4内には不図示のアクセルペダル、ブレーキペダル、ホイストペダル、及び、ハンドルが設置されている。また、オペレータはキャブ4内のアクセルペダルの踏み込み量、及びブレーキペダルの踏み込み量によりダンプトラックの加速力、制動力を制御することができる。さらにオペレータはハンドルを左右に回転させることによって油圧駆動による操舵操作を行い、ホイストペダルを踏み込むことにより油圧駆動によるダンプ操作を行うが、操舵操作、ダンプ操作のシステムについては本発明において従来同様のため、詳述しない。
【0077】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。例えば、前記した実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。さらに、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0078】
1 フレーム
2 前輪
3 後輪
4 キャブ
5 ボディ
6 ホイストシリンダ
7 グリッドボックス
8 コントロールキャビネット
9 燃料タンク
10 走行モータ
11 エンジン
12 主機発電機(第一の発電機)
13 インバータ(第一のインバータ)
14 主機整流回路(第一の整流回路)
15 電力消費装置
16 主機直流ライン(第一の直流ライン)
17、35、53 電圧検出器
20 電力変換装置
21 インバータ(第二のインバータ)
22、26 コンデンサ
23 トランス
24 整流回路(第三の整流回路)
25 チョークコイル
27 温度検出器
31 補機発電機(第二の発電機)
32 補機整流回路(第二の整流回路)
33 補機装置
34 補機直流ライン(第二の直流ライン)
36、54 電流検出器
40、60 制御装置
41、46 出力電力テーブル
42 出力電力演算部
43、63 制御演算部
44 シフト量演算部
45 駆動信号生成部
47 閾値テーブル
48 出力下限値テーブル
51 蓄電デバイス
52 充放電装置
61 充放電指令補正部
62 充放電電力演算部
M1~M4 スイッチング素子
Vi 主機直流電圧
Vc 閾値
P1 定格値(定格電力)
P2 下限値
Poref 出力電力指令値
θ シフト量
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14