(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-25
(45)【発行日】2022-09-02
(54)【発明の名称】可溶塩基性金属炭酸塩を含む排気ガス汚染防止流体、その調製プロセス、および内燃機関におけるその使用
(51)【国際特許分類】
B01J 27/236 20060101AFI20220826BHJP
F01N 3/08 20060101ALI20220826BHJP
F01N 3/029 20060101ALI20220826BHJP
F01N 3/035 20060101ALI20220826BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20220826BHJP
【FI】
B01J27/236 A
F01N3/08 B ZAB
F01N3/029 B
F01N3/035 A
B01D53/94 241
B01D53/94 400
B01D53/94 222
(21)【出願番号】P 2019530729
(86)(22)【出願日】2017-10-31
(86)【国際出願番号】 EP2017077851
(87)【国際公開番号】W WO2018103955
(87)【国際公開日】2018-06-14
【審査請求日】2020-10-21
(32)【優先日】2016-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】591007826
【氏名又は名称】イエフペ エネルジ ヌヴェル
【氏名又は名称原語表記】IFP ENERGIES NOUVELLES
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】ゴンザレス、 セルジュ
(72)【発明者】
【氏名】パスキエ、 ダヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】ヴァレ、 ジャック
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2003/0226312(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0334466(US,A1)
【文献】米国特許第3449063(US,A)
【文献】国際公開第2016/091657(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
F01N 3/08,3/029,3/035
B01D 53/86-53/90,53/94-53/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関からの、排気ガスの汚染除去用の流体であって、排気ガスに含有される窒素酸化物NOxを除去する少なくとも1つの還元剤または還元剤前駆体の均質水溶液から成り、前記水溶液は、微粒子フィルタ内の排気ガス粒子の酸化を触媒する金属添加剤を含み、前記金属添加剤は、前記水溶液に溶解可能な塩基性金属炭酸塩であり、
前記塩基性金属炭酸塩は、化学式Cu
3(CO
3)
2(OH)
2の塩基性銅炭酸塩、化学式Cu
2(CO
3)(OH)
2の塩基性銅炭酸塩、化学式Ni
2(CO
3)(OH)
2の塩基性ニッケル炭酸塩、化学式(Cu,Ni)
2(CO
3)(OH)
2の塩基性銅・ニッケル炭酸塩から選択される、流体。
【請求項2】
前記少なくとも1つの還元剤または還元剤前駆体は、尿素、ホルムアミド、アンモニウム塩、グアニジン塩で構成されたリストから選択される、請求項1に記載の流体。
【請求項3】
前記還元剤または還元剤前駆体は尿素である、請求項1または2に記載の流体。
【請求項4】
前記少なくとも1つの還元剤または還元剤前駆体は、純水による溶液中の尿素である、請求項3に記載の流体。
【請求項5】
前記少なくとも1つの還元剤または還元剤前駆体は、純水による溶液中の32.5±0.7質量%の尿素であり、ISO22241-1規格の仕様を満たす、請求項4に記載の流体。
【請求項6】
前記還元剤または還元剤前駆体の均質水溶液は、
32.5質量%尿素水溶液から調製される、請求項5に記載の流体。
【請求項7】
前記塩基性金属炭酸塩は、前記化学式Cu
2(CO
3)(OH)
2の前記塩基性銅炭酸塩である、請求項1に記載の流体。
【請求項8】
前記金属添加剤の金属イオンを錯化し、リガンド付加し、キレートする追加の薬剤を含まない、請求項1から7のいずれか一項に記載の流体。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の排気ガス汚染除去流体を調製する方法であって、少なくとも1つの還元剤または還元剤前駆体化合物の水溶液に溶解可能な塩基性金属炭酸塩は、均質溶液を形成するように前記水溶液に添加される調製方法。
【請求項10】
前記塩基性金属炭酸塩の前記水溶液への添加は、攪拌しながら行われ、炭酸塩添加ステップの後に追加の攪拌ステップを含む、請求項9に記載の調製方法。
【請求項11】
微粒子と窒素酸化物NOxとを含む排気ガスを汚染除去するための、内燃機関における請求項1から8のいずれか一項に記載の流体の使用であって、前記流体は、粒子濾過と窒素酸化物NOxの選択触媒還元とを含む排気ガス処理システムの上流側で前記排気ガス中に噴射され、噴射は、前記内燃機関の動作条件に応じて、実施される、流体の使用。
【請求項12】
噴射は、事前に判定された排気ガス温度がしきい値を超え、前記窒素酸化物NOxの処理を開始することが可能になった場合に実施される、請求項11に記載の流体の使用。
【請求項13】
粒子濾過および窒素酸化物NOxの選択触媒還元は、単一の装置、触媒式SCRFフィルタにおいて実施される、請求項11および12のいずれか一項に記載の流体の使用。
【請求項14】
粒子濾過は、窒素酸化物NOxの選択触媒還元用の触媒装置の上流側の微粒子フィルタPAFにおいて行われ、前記流体の前記噴射は前記微粒子フィルタPAFの上流側で実施される、請求項11および12のいずれか一項に記載の流体の使用。
【請求項15】
窒素酸化物NOxの選択触媒還元は、微粒子フィルタPAFにおける前記粒子濾過の上流側のSCR触媒装置において実施され、前記流体の前記噴射は、前記SCR触媒装置の上流側で実施される、請求項11および12のいずれか一項に記載の流体の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、具体的には自動車用の、特には内燃機関の、排気ガスの汚染除去(depollution)の分野に関する。
【0002】
詳細には、本発明は、2つの異なる動作、すなわち、選択触媒還元(SCR)技術を使用した、NOxと呼ばれる窒素酸化物の選択触媒還元と、微粒子(particulate)フィルタ(PAF)再生補助(aid)とを実施するのを可能にする自動車汚染除去用の単一の流体に関する。再生補助は、連続的な微粒子フィルタ再生を推進すること、または能動的な(active)PAF再生段階の間粒子燃焼を加速すること、またはこの2つの利点の組合せから成ってもよい。
【0003】
本発明による流体は、均質であり、経時的に、または温度もしくはpHの変化が生じたときに安定性を有する。
【0004】
本発明では、流体を調製する方法と、その流体の使用についても説明する。
【背景技術】
【0005】
公知のように、ディーゼル式内燃機関からの排気ガスは、未燃炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物NOx(たとえば、NOおよびNO2)のような気体状の汚染物質や、粒子(particles)などの、多数の汚染物質を含有する。これらの粒子は、主に煤粒子(炭素化合物)である。煤粒子はまた、エンジンの摩耗によって生じる無機化合物、または潤滑油およびその添加剤、もしくは燃料に含有される無機化合物を含むことがある。煤およびこれらの無機化合物は、フィルタ内に残りエンジンの寿命にわたって蓄積する灰を形成する。
【0006】
NOx排出が高温において酸素の存在下で起こる燃焼によって生じることが広く認められている。これらの条件は一般に、あらゆる種類の燃焼に見られ、特に、どんな燃料を使用するかにかかわらず希薄燃焼モードにおける直接噴射などの希薄燃焼条件下で生じる燃焼に見られる。現在、NOx排出は、特にNO2は、直接人間の健康に悪影響を及ぼし、かつ対流圏のオゾンを二次的に形成することによって間接的に人間の健康に悪影響を及ぼすので重大な不利益を有する。
【0007】
排出基準に適合し、環境および人間の健康を維持するために、排気ガスを大気中に排出する前にこれらの汚染物質を処理することが必要になっている。
【0008】
公知のように、このことは一般に、エンジンの排気配管内を流通する排気ガスの汚染除去を行う処理手段によって実現される。
【0009】
したがって、希薄混合物によって作動するエンジンからの未燃炭化水素および一酸化炭素を処理するために、酸化触媒などの触媒手段が排気配管上に配置される。
【0010】
特にディーゼルエンジンの場合の排気ガスに関しては、排気ガス中に存在する粒子を捕集して除去し、したがって、粒子を大気中に排出するのを回避するように微粒子フィルタPAFをこの配管上に配置すると有利である。
【0011】
このフィルタは、後述のような選択触媒NOx還元用の触媒式フィルタ(SCRF)であってもよく、このフィルタ内に保持される微粒子の燃焼を実現することによってフィルタの濾過機能のすべてを維持するために定期的に再生する必要がある。これらの再生動作は主として、フィルタ温度を上昇させることから成り、この温度上昇は、エンジンを高負荷において使用したときに自発的に生じてもよく、またはフィルタの上流側に配置された触媒上において、燃焼から得られる、又はエンジン制御によってトリガされる排気への直接噴射から得られる、還元性化学種の発熱酸化によって生じてもよい。
【0012】
NOx排出に関しては、排気ガスはまた、他の触媒手段、特にSCR型の触媒を通って流れる。このSCR触媒は、還元剤の作用によって選択的にNOxを窒素に還元するのを可能にする。この還元剤は、一般にSCR触媒の上流側で噴射され、アンモニアもしくは尿素などの分解によってアンモニアを生成する化合物、または酸素添加されているか否かにかかわらず炭化水素含有物質から得られる炭化水素であってもよい。現在、NOx汚染除去の最も一般的な技術は、アンモニアを使用するSCR触媒である。このアンモニアは、液体形態で噴射される前駆体、一般には商品名AdBlue(登録商標)(またはAUS32またはARLA32)として公知の32.5質量%尿素水溶液の分解によって間接的に得られる。したがって、尿素溶液は、SCR触媒の上流側で排気配管内に噴射される。この溶液に含有される水は、排気ガス温度の作用を受けて急速に蒸発し、次いで、各尿素分子が2段階で2つのアンモニア分子に分解する。
(NH2)2CO(尿素)→NH3(アンモニア)+HNCO(イソシアン酸) (1)
HNCO+H2O→NH3+CO2 (2)
代替として、アンモニアは、SCR触媒の上流側で排気配管に気体状態で直接噴射することができる。
【0013】
排気ガス汚染除去を改善するために排気ガス中に添加剤が噴射されることがあるシステムが公知である。
【0014】
微粒子フィルタ再生用の添加剤と、SCRFフィルタの上流側で噴射されるNOx除去用の還元剤と、の混合物の例は、ヨーロッパ特許出願第2541012号に記載されている。この添加剤は、セリウムまたは鉄を含有する材料であってもよく、酸素貯蔵・放出能力を有し、SCRFフィルタに酸素を供給し、微粒子フィルタ内の再生温度を低下させるのを可能にし、したがって、SCRFフィルタ内の選択NOx還元に使用される触媒を劣化しないように保護する。このシステムは満足いくものであるが、些細とはいえない不利益を有する。すなわち、この事例は希薄燃焼エンジンの排気配管であるので、この添加剤を使用しても、すでに酸素リッチな媒体ではほとんど利点がもたらされない。さらに、SCR触媒の触媒相が保護されるのは、SCR触媒が微粒子フィルタ内で被覆されているときだけである。これにより、微粒子濾過およびSCR機能によるNOx触媒還元が別々のエレメントで実行される構成は除外される。さらに、このシステムは、排気ガス温度が高い状況にのみ関する。したがって、粒子の燃焼によってSCRFフィルタ内の温度がさらに上昇し、触媒相の劣化が生じることがありそうである。
【0015】
これらの欠点のうちのいくつかを解消するために、特許出願第WO2016/091657号は、ガス処理システムの上流側で内燃機関の排気ガス配管内に噴射することができる、窒素酸化物還元機能と微粒子フィルタに捕集された粒子に対する微粒子再生補助機能とを組み合わせた単一の流体を提供する。この単一の流体は、アンモニアを含有する還元剤またはAdBlue(登録商標)などの分解によってアンモニアを発生させる化合物と、粒子の酸化を触媒する(catalyze)添加剤との混合物であってもよい。
【0016】
15/60906号、15/60907号、および15/60908号として2015年末に提出された各特許出願は、排気ガス汚染除去用のそのような流体、特にコロイド粒子の安定した懸濁液の形をした流体または均質溶液の形をした流体または乳濁液の形をした流体の様々な形態に関する。
【0017】
本出願は、特許出願WO2016/091657号および15/60907号の改良と見なされてもよい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、特に、特許出願WO2016/091657号および第15/60907号に記載された再生補助機能と窒素酸化物還元機能を組み合わせた、実施が容易であり効果的な排気ガス汚染除去を可能にする単一の流体、特に、粒子の懸濁液もしくは乳濁液の場合によっては煩雑な調製を必要とせず、または金属化合物を溶解するために特定の錯化剤、キレート剤、もしくはリガンドを使用することなく得ることができる流体を提供することである。
【0019】
したがって、前述の課題のうちの少なくとも1つを実現するために、本発明は、特に第1の態様によれば、特に内燃機関の排気ガスの、汚染除去に適した流体であって、排気ガスに含有される窒素酸化物NOxを除去する少なくとも1つの還元剤または還元剤前駆体の均質水溶液から成り、前記水溶液が、微粒子フィルタ内の排気ガス粒子(exhaust gas particles)の酸化を触媒する金属添加剤を含み、前記金属添加剤が、前記水溶液に溶解可能な塩基性金属炭酸塩である流体を提供する。
【0020】
本発明の一実施形態によれば、還元剤または還元剤前駆体は、尿素、ホルムアミド、アンモニウム塩、グアニジン塩で構成されたリストから選択され、好ましくは還元剤または還元剤前駆体は尿素である。
【0021】
本発明の実施によれば、還元剤または還元剤前駆体は、純水による溶液中の尿素である。
【0022】
還元剤または還元剤前駆体は、ISO22241-1規格の仕様を満たす、純水による溶液中の32.5±0.7質量%の尿素であることが好ましい。
【0023】
有利には、還元剤の均質水溶液は市販品のAdBlue(登録商標)から調製される。
【0024】
本発明の一実施態様によれば、塩基性金属炭酸塩は、シュツルンツ分類における05.BA族に属する。
【0025】
塩基性金属炭酸塩は、好ましくは、化学式Cu3(CO3)2(OH)2の塩基性銅炭酸塩、化学式Cu2(CO3)(OH)2の塩基性銅炭酸塩、化学式Ni2(CO3)(OH)2の塩基性ニッケル炭酸塩、化学式(Cu,Ni)2(CO3)(OH)2の塩基性銅・ニッケル炭酸塩で構成されたリストから選択され、より好ましくは、化学式Cu3(CO3)2(OH)2の塩基性銅炭酸塩および化学式Cu2(CO3)(OH)2の塩基性銅炭酸塩で構成されたリストから選択される。
【0026】
したがって、塩基性金属炭酸塩は好ましくは、化学式Cu2(CO3)(OH)2の塩基性銅炭酸塩である。
【0027】
有利には、汚染除去流体は、金属添加剤の金属イオンを錯化し、リガンド付加し(liganding)、キレートする追加の薬剤を含まない。
【0028】
第2の態様によれば、本発明は、本発明による汚染除去流体を調製する方法であって、少なくとも1つの還元剤または還元剤前駆体化合物の水溶液に溶解可能な塩基性金属炭酸塩が、均質溶液を形成するように前記水溶液に添加される。
【0029】
一実施によれば、塩基性金属炭酸塩の水溶液への添加は、攪拌しながら行われ、好ましくは、炭酸塩添加ステップの後に追加の攪拌ステップを含む。
【0030】
第3の態様によれば、本発明は、微粒子と窒素酸化物NOxとを含む排気ガスを汚染除去するための、内燃機関における本発明による流体の使用であって、流体が、粒子濾過と窒素酸化物NOxの選択触媒還元とを含む排気ガス処理システムの上流側で排気ガス中に噴射され、噴射が、内燃機関の動作条件に応じて好ましくは一様に(in a uniform manner)実施される、流体の使用に関する。
【0031】
噴射は、事前に判定された(previously determined)排気ガス温度がしきい値を超え、窒素酸化物NOxの処理を開始することが可能になった場合に実施されることが好ましい。
【0032】
粒子濾過および窒素酸化物NOxの選択触媒還元は、単一の装置、触媒式SCRFフィルタにおいて実施され得る。
【0033】
代替として、粒子濾過は、窒素酸化物NOxの選択触媒還元用の触媒装置の上流側の微粒子フィルタPAFにおいて行われ、次いで、流体噴射が微粒子フィルタPAFの上流側で実施され得る。
【0034】
窒素酸化物NOxの選択触媒還元も、微粒子フィルタPAFにおける粒子濾過の上流側のSCR触媒装置において実施することができ、次いで、流体噴射がSCR触媒装置の上流側で行われ得る。
【0035】
本発明の他の特徴および利点は、添付の図面を参照しながら非制限的な例による以下の説明を読んだときに明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】ディーゼル型内燃機関の排気配管における本発明による流体の使用例を示す図である。
【
図2】従来技術による汚染除去流体および本発明による汚染除去流体に関する、煤投入(loading)段階の間のディーゼルエンジンのガス排気配管のSCRFフィルタにおける時間の関数としての圧力降下を示すグラフである。
【
図3】従来技術による汚染除去流体および本発明による汚染除去流体に関する、能動的再生段階の間のディーゼルエンジンのガス排気配管のSCRFフィルタにおける時間の関数としての圧力降下を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明は、特には内燃機関の、排気ガスの汚染除去のための流体であって、排気ガスに含有される窒素酸化物NOxの選択触媒還元を実施すること(SCR機能)と、フィルタ内に溜まった粒子の触媒酸化によって微粒子フィルタ(PAF)再生補助を行うこと(PAF再生補助と呼ばれる機能)の両方を可能にする流体を提供し、この再生補助は、連続的な微粒子フィルタ再生を推進すること、または能動的PAF再生段階の間煤燃焼を加速すること、またはこの2つの利点の組合せを行うことから成ってもよい。
【0038】
排気ガスに含有される粒子は、主に煤粒子(炭素化合物)である。粒子はまた、エンジンの摩耗によって生じる無機化合物、または潤滑油と燃料とそれらの添加剤のうちの少なくとも1つに含有される無機化合物を含んでもよい。この説明において言及されるPAFにおける粒子の酸化は、煤粒子の酸化である。
【0039】
本発明者は、主要な2つの汚染除去機能、すなわち、NOx還元と触媒粒子酸化を組み合わせ、経時的に安定で、好ましくは温度およびpH安定性であり、調製が容易な流体を提供することが可能であることを示している。
【0040】
より具体的には、本発明は、特に自動車用の、ディーゼル型内燃機関の排気ガスに含有される汚染物質を処理するための流体と、その調製方法および使用に関するが、しかし、特には希薄燃焼条件において、例えば気体燃料またはガソリンで作動する、火花点火エンジンへのこれらの適用が除外されることはない。
【0041】
したがって、内燃機関は、ディーゼル機関として理解されるが、しかし、ガソリンまたは気体で作動するエンジンなどの他のすべての内燃機関が除外されることはない。
【0042】
本発明による流体の利用原理については、以下において特に
図1に関連して詳細に説明する。
【0043】
本発明による流体の原理は、排気ガスに含有されるNOxを除去する還元剤または還元剤前駆体として働く化合物、たとえば尿素と、金属添加剤であって、排気配管内において、温度および排気ガスの残留酸素の作用を受けて、触媒プロセスによって煤粒子の酸化率を高め、場合によっては煤粒子の酸化温度を低下させ、したがってPAF再生補助を行うことができる化合物に転換する金属添加剤とを単一の水溶液において組み合わせることである。
【0044】
したがって、本発明による流体の1つの利点は、この流体の組成が、両方のエンジン汚染除去機能を単一の流体において累積することである。
【0045】
本発明による流体は、排気ガスに含有される窒素酸化物NOxを除去する少なくとも1つの還元剤または還元剤前駆体の均質水溶液から成る。この溶液は、微粒子フィルタにおける排気ガスに含有される粒子の酸化を触媒する金属添加剤を含む。この金属添加剤は、水溶液に溶解可能な塩基性金属炭酸塩である。
【0046】
本発明によれば、金属添加剤を含有する流体は、微粒子フィルタ内の粒子の酸化を触媒するのを可能にし、排気に直接噴射され、特許出願EP1378560号に記載されたシステムなどのいくつかの公知のシステムとは異なり、エンジンの燃焼室内を流れることはない。
【0047】
排気ガスに含有される窒素酸化物NOxを除去する還元剤または還元剤前駆体の水溶液で可溶化された塩基性金属炭酸塩は、化学組成に基づいて鉱物を分類するシュツルンツ分類の05.BA族に属する。この族の化合物では、排気ガスに含有される窒素酸化物NOxを除去する還元剤または還元剤前駆体の水溶液に溶解可能な化合物のみを、本発明による流体用の金属添加剤として選択することができる。この分類によれば、05.BA族は、さらなるアニオンを含みさらなるH2Oを含まず、Cu、Co、Ni、Zn、Mg、Mnの各元素のうちの少なくとも1つを含む炭酸塩に関する。
【0048】
金属ヒドロキシ炭酸塩という用語は、塩基性金属炭酸塩を示すために使用されることがある。
【0049】
有利には、可溶化された塩基性金属炭酸塩は、
アズライトと呼ばれ、シュツルンツ分類では05.BA.05群に分類される、化学式Cu3(CO3)2(OH)2の塩基性銅炭酸塩、
マラカイトと呼ばれ、シュツルンツ分類では05.BA.10群に分類される、化学式Cu2(CO3)(OH)2の塩基性銅炭酸塩、
ヌラギナイトと呼ばれ、シュツルンツ分類では05.BA.10群に分類される、化学式Ni2(CO3)(OH)2の塩基性ニッケル炭酸塩、および
グロウコスファエライトと呼ばれ、シュツルンツ分類では05.BA.10群に分類される、化学式(Cu,Ni)2(CO3)(OH)2の塩基性銅・ニッケル炭酸塩
で構成されたリストから選択される。
【0050】
可溶化された塩基性金属炭酸塩は、化学式Cu3(CO3)2(OH)2(アズライト)の塩基性銅炭酸塩、化学式Cu2(CO3)(OH)2(マラカイト)の塩基性銅炭酸塩、またはそれらの混合物であることが好ましく、化学式Cu2(CO3)(OH)2(マラカイト)の塩基性銅炭酸塩であることがより好ましい。
【0051】
前述の塩基性金属炭酸塩は、排気ガスに含有される窒素酸化物NOxを除去する還元剤または還元剤前駆体の水溶液に添加され、十分な濃度の少なくとも1つの金属イオン、たとえば、ニッケルと銅の少なくとも一方、好ましくは銅を生成し、排気配管上に配置されたPAF内の煤粒子の酸化を推進する。
【0052】
有利には、本発明による流体は、還元剤水溶液または還元剤前駆体水溶液中の錯化金属イオン、リガンド結合金属イオン、またはキレート化イオンを形成する追加の錯化剤、キレート剤、もしくはリガンドを含まない。すなわち、前述の1つまたは2つ以上の塩基性金属炭酸塩は、前述の還元剤水溶液または還元剤前駆体水溶液に直接溶解可能である。したがって、本発明の1つの利点は、汚染除去流体が容易に使用可能になることにある。本発明によれば、界面活性剤の使用、または還元剤水溶液もしくは還元剤前駆体水溶液に金属イオンを溶解させるための特定の錯化剤、キレート剤、またはリガンドの添加と同様に、乳濁液のおそらくは複雑な調製が不要になる。そのような特定の錯化剤またはキレート剤またはリガンドの使用に関する追加のコストに加えて、錯化剤またはキレート剤またはリガンドは、触媒性能を阻害する可能性がある不要な硫黄、リン、またはナトリウムを含む酸化触媒「毒」となることがある。本発明は、一般に沈降しないように安定化する必要があるコロイド懸濁液の形の流体に対して容易に実現できる利点ももたらす。この説明では、「溶液」という用語は、液相中の固相、コロイド懸濁液または乳化液タイプ(不混和性の複数の液相の混合物)の形態を除外する。したがって、本発明による溶液は単一相溶液である。したがって、得られる溶液は透明である。
【0053】
さらに、本発明による均質水溶液は、7~12のpH範囲において、特に60℃までの温度で、経時的に安定性を示す。
【0054】
本発明による汚染除去流体は、-11℃~+60℃の温度範囲において安定であることが好ましい。
【0055】
還元剤または還元剤前駆体は、尿素、ホルムアミド、およびアンモニウム塩、特にギ酸(formiate)アンモニウム、カルバミン酸アンモニウム、グアニジン塩、特にギ酸グアニジウム(guanidinium formiate)で構成されたリストから選択されることが好ましく、還元剤または還元剤前駆体は尿素であることが好ましい。
【0056】
本発明の形態によれば、還元剤または還元剤前駆体は、純水による溶液中の尿素である。
【0057】
還元剤または還元剤前駆体は有利には、ISO22241-1規格の仕様を満たす溶液を提供するように、純水による溶液中の32.5±0.7質量%の尿素である。
【0058】
たとえば、還元剤の均質水溶液は、市販品のAdBlue(登録商標)から調製される。
【0059】
AdBlue(登録商標)という用語は、この説明では、AdBlue(登録商標)、DEF、AUS32、ARLA32、またはDiaxolの各製品を区別なしに指定するために使用される。
【0060】
本発明によれば、この流体は以下のように得られる。少なくとも1つの還元剤または還元剤前駆体化合物の水溶液に溶解可能な塩基性金属炭酸塩を、前記水溶液に添加して均質水溶液を形成する。上述のように、溶解可能な塩基性金属炭酸塩は金属塩である。得られる溶液は透明である。
【0061】
いくつかの変形実施形態に対応する、還元剤または還元剤前駆体の水溶液に関する選択に応じた、本発明による流体を調製するいくつかの異なる方法がある。
【0062】
最も単純な方法は、可溶塩基性金属炭酸塩を添加することによって市販のAdBlue(登録商標)溶液を変更することから成る。
【0063】
本発明の1つの利点は、AdBlue(登録商標)の密度、粘度、および保存特性を実質的に変更しないことであり、このことは、実際的には、本発明の利点から利益を得るために、AdBlue(登録商標)溶液をエンジン内に噴射するシステムを変更する必要が無いことを意味する。
【0064】
ISO22241-1仕様を満たす尿素水溶液を調製するか、または別の還元剤を使用して水溶液を形成し、前記溶液に可溶塩基性金属炭酸塩を添加して均質水溶液を形成することも可能である。
【0065】
したがって、本発明の好ましい変形実施形態によれば、ISO22241-1規格の仕様を満たす製品、たとえば、市販品のAdBlue(登録商標)、DEF、AUS32、またはARLA32、好ましくは市販品のAdBlue(登録商標)から、1つもしくは2つ以上の還元剤または1つもしくは2つ以上の還元剤前駆体を含有する水溶液が調製される。
【0066】
本発明の別の好ましい変形実施形態によれば、ISO22241-1規格の物理的特性および化学的特性を満たす製品、たとえば、市販品のDiaxol(登録商標)から、1つもしくは2つ以上の還元剤または1つもしくは2つ以上の還元剤前駆体を含有する溶液が調製される。
【0067】
還元剤水溶液または還元剤前駆体水溶液に塩基性金属炭酸塩を添加するステップを攪拌しながら実施して、溶液の均質化を向上させることができる。
【0068】
塩基性金属炭酸塩を添加した後で攪拌ステップを実施して、溶解をたとえば少なくとも30分早めることができる。
【0069】
本発明による流体を構成する均質水溶液は透明である。
【0070】
最終的な流体組成におけるイオン形態の溶液中の金属の比率は、1ppmから1000ppmの間、好ましくは1ppmから5000ppmの間、より好ましくは10ppmから2000ppmの間の範囲とすることができる。金属含有量を減らすとPAFに金属灰が蓄積するのが防止されるので金属含有量を減らすことが好ましい。
【0071】
本発明において説明する流体は、7~12のpH範囲において経時的に安定である。本発明によれば、本発明による流体の安定性には、このpH範囲において不溶金属水酸化物析出物が出現しないことが含まれる。
【0072】
本発明による汚染除去流体は、良好な耐光性を有する。光の作用によって溶液の安定性が変化することはなく、尿素の結晶化および安定性条件が影響を受けることはない。
【0073】
60℃までの温度に長時間さらされてもこの安定性が損なわれることはない。有利には、本発明による汚染除去流体は-11℃~+60℃の範囲の温度で安定することが好ましい。
【0074】
溶液を完全に冷凍した後に解凍すると、溶液の冷凍前の特性を回復することができる(析出なし)。最後に、流体が尿素溶液またはAdBlue(登録商標)溶液から調製される場合、溶液に添加される1つまたは2つ以上の薬剤の量は、少ないままであり、32.5±0.7%の標準化された(normalized)尿素濃度を満たすのを可能にする。
【0075】
本発明によれば、前述のような汚染除去流体は、粒子とNOxとを含む排気ガスの汚染除去を目的として内燃機関において使用され、微粒子濾過(PAF)と選択触媒NOx還元(SCR)とを含む排気ガス処理システムの上流側で排気ガスに噴射される。噴射は、内燃機関の動作条件に応じて、好ましくは一様に実行される。
【0076】
図1は、たとえば自動車用のディーゼル型内燃機関12からの排気ガス用の汚染除去処理設備における本発明による流体の使用例を示す。そのような設備は、流体利用原理とともに公知であり、特許出願WO2016/091657号に記載された設備に類似している。
【0077】
汚染除去設備は、エンジンの燃焼室からの排気ガスを大気中に運ぶ排気配管10を有している。
【0078】
排気配管10は、排気ガス中に存在する粒子を濾過する手段と、同じくこのガスに含有される窒素酸化物NOxの選択触媒還元を行う手段とを有する排気ガス処理システムを有している。
【0079】
具体的には、排気配管10は、エンジンの排気マニフォルド16の近くの入口14から、大気解放される出口18までの排気ガスの流通方向において、粒子を捕集し除去する少なくとも1つの手段と、NOx還元手段とを有している。
【0080】
必ずしも必要ではないが、これらの手段は、SCR触媒式フィルタ20またはSCRFフィルタとしてよりよく知られている単一のエレメントの中で組み合わされると有利である。
【0081】
このSCRFフィルタ20は、排気ガスがSCRFフィルタを通過する前に排気ガスに含有される未燃炭化水素および一酸化炭素を処理することを目的とする酸化触媒22の下流側に配置されることが好ましい。この酸化触媒22はまた、一酸化窒素NOを二酸化窒素NO2に部分的に転換することを目的とし、理想的なケースでは、SCRFフィルタの効率を最大にするようにSCRFフィルタの入口において一酸化窒素と二酸化窒素を等モルに分配する。
【0082】
排気配管は、微粒子フィルタ再生およびNOx除去を目的とした本発明による汚染除去流体を供給する手段、好ましくは噴射装置24を有している。
【0083】
この噴射装置は、SCRFフィルタの上流側に配置されている。噴射装置は、この混合物と排気ガスを、SCRFフィルタに供給される前にできるだけ均質に合わせることができるように入口26の近くに配置されることが好ましい。
【0084】
一般によく知られているように、この配管は、SCRFフィルタの入口26とその出口30との間の差圧を判定する手段28を有している。
【0085】
一例として、この手段は、SCRFフィルタの入口26に配置され、この入口における排気ガス圧力を測定する上流側圧力検出器32と、下流側検出器と呼ばれ、SCRFフィルタの出口30に配置され、この出口における排気ガス圧力を測定する別の検出器34と、SCRFフィルタの入口と出口との間の差圧を決定する演算ユニット36とを有している。これによって、粒子によるSCRFフィルタ目詰まり率を知ることが可能になる。
【0086】
基本的に公知のように、排気配管は、排気配管上に、詳細にはSCRFフィルタ入口に配置され、任意の時間にこの配管内を流通する排気ガスの温度を知るのを可能にする温度検出器(不図示)を保持している。代替として、任意の時間に配管内を流通する排気ガスの温度を推定するのを可能にする論理及び/又はコンピュータ手段を設けることができる。
【0087】
この配管はまた、SCRFフィルタ20の出口に配置され、任意の時間にSCRFフィルタから流れるNOxの量を知るのを可能にするNOx検出器(不図示)を有することができる。同様に、任意の時間にNOxの量を推定するのを可能にする論理及び/又はコンピュータ手段を設けることができる。
【0088】
噴射装置24によって排気配管に供給される流体は、この流体を収容する槽40とこの噴射装置を連結する管38を通って、運ばれる。この流体は、定量ポンプ42などのポンピング手段の作用を受けてタンクと噴射装置との間を流通する。
【0089】
本発明による流体の噴射は、たとえば、有効なNOx還元を実施するために、SCR触媒上の流体に関して必要な量の要件を満たすように、エンジン制御ユニットによってトリガされる。
【0090】
流体は、内燃機関の動作条件に応じて噴射される。
【0091】
噴射は、エンジンの動作条件に応じて、定期的に実施することができ、たとえば、一般には数ミリ秒から数10秒の間の範囲の周期(period)で実施することができ、それによって、触媒と煤粒子との均質な混合を推進し、かつ粒子と触媒の密な混和を行うことを可能にする。
【0092】
要するに、本発明による流体を噴射すると、微粒子フィルタにおける連続的な再生現象を推進し、それによって、PAF能動的再生周期を長くすることが可能になるか、またはPAF能動的再生段階の間粒子の酸化を加速し、したがって、温度およびガス組成条件がこの能動的再生に好ましいものであるときにこの段階に対する燃料消費量の制限と大量の煤粒子を燃焼する機会の最大化の少なくとも一方が可能になり、またはこの2つの利点の組合せが可能になる。
【0093】
動作に関しては、あらゆるエンジンが通常備えるエンジン制御ユニットが、任意の時間に排気ガス温度およびSCRFフィルタ出口におけるNOxの量を認識する。
【0094】
したがって、噴射はたとえば、事前に判定された排気ガス温度がしきい値を超え、窒素酸化物NOx処理が開始可能になった場合に実施することができる。
【0095】
有利には、排気配管に噴射される流体の量は、NOxの形成に実質的に比例し、エンジン制御ユニットによって判定される。
【0096】
粒子フィルタ投入(loading)段階の全体にわたってSCRFフィルタの上流側で流体を噴射すると、SCRFフィルタ内で触媒再生添加剤と粒子を密に混合することが可能になる。添加剤の触媒活性と、粒子とこの触媒添加剤との密な接触とを組み合わせることによって、エンジンの排気において通常見られる温度に適合するように、粒子の燃焼が開始する温度を低下させることが可能になる。必要に応じて、酸化触媒22上で炭化水素が酸化される後噴射(post-injection)を追加することによって追加の熱供給を行うことができ、したがって、SCRFフィルタの入口26において熱放出(heat release)が行われる。
【0097】
変形実施形態によれば、排気ガス処理システムは、触媒式SCRFフィルタから成る単一の装置ではなく、NOx選択触媒還元装置とは異なる粒子濾過装置を有する。この構成によれば、SCR触媒型の触媒がPAFの上流側に配置されている。この構成では、噴射装置はSCR触媒の上流側に配置されている。
【0098】
別の変形実施形態によれば、対照的に、SCR型触媒の上流側にPAFが配置されている。この構成では、噴射装置はPAFの上流側に配置されている。
【0099】
排気配管は、この2つの変形実施形態のいずれにおいても、微粒子フィルタの粒子を再生するための金属化合物とSCR触媒によるNOx除去を目的とした還元剤とを含む本発明による流体用の噴射装置を有している。この噴射装置は、酸化触媒22のより近くに位置する排気ガス処理手段(SCR触媒またはPAF)の上流側に配置されている。
【0100】
もちろん、本発明の範囲から逸脱することなく、SCRFフィルタ20を有する排気配管またはSCR触媒と微粒子フィルタとを有する排気配管は、追加の触媒、例えばSCRFフィルタに加えてSCR触媒及び/又は浄化(clean-up)触媒を有することができる。
【0101】
実施例
以下の実施例では、非制限的な例によって、本発明による汚染除去流体の調製(実施例1~3)、およびディーゼルエンジンの排気ガスの汚染除去(実施例4)に関する本発明による流体の例のいくつかの性能を示す。
【0102】
各流体は、環境温度、または60℃よりも低く尿素の結晶化温度(-11℃)よりも高い温度で調製することができる。
【0103】
実施例1~3は、経時的に安定する均質水溶液を得ることが可能であることを示す。後述の実施例1~3はすべて、市販のAdBlue(登録商標)および塩基性銅炭酸塩を使用して行われる。
【0104】
実施例1:350ppmの銅イオンを含有する溶液
この例では、流体は以下のように調整される。棒磁石を含む250cm3ガラス瓶に100gのAdBlue(登録商標)を導入し、化学式Cu2(CO3)(OH)2の0.061gの塩基性銅炭酸塩(マラカイト)を攪拌しながら添加する。このマラカイトの量は、350ppmのイオン形態の銅の溶液の最終濃度に相当する。環境温度で15分攪拌した後、溶液を調製した直後および環境温度で貯蔵してから1週間後に溶液の様相を評価する。
【0105】
溶液が均質であり、1週間後も依然として均質であることが分かる。析出は観測されていない。
【0106】
実施例2:500ppmの銅イオンを含む溶液
この実施例では、流体を以下のように調製する。棒磁石を含む2リットルの三角フラスコに1000gのAdBlue(登録商標)を導入し、化学式Cu2(CO3)(OH)2の0.87gの塩基性銅炭酸塩(マラカイト)を攪拌しながら添加する。この量のマラカイトは、500ppmのイオン形態の銅の溶液の最終濃度に相当する。環境温度で2時間攪拌した後、溶液を調製した直後および環境温度で貯蔵してから1週間後に溶液の様相を評価する。
【0107】
溶液が均質であり、1週間後も依然として均質であることが分かる。析出は観測されていない。
【0108】
実施例3:80ppmの銅イオンを含有する溶液
この実施例では、調製モードは実施例1と同様であるが、AdBlue(登録商標)溶液に添加される塩基性銅炭酸塩Cu2(CO3)(OH)2の量は0.0139gである。この量のマラカイトは、80ppmのイオン形態の銅の溶液の最終濃度に相当する。
【0109】
溶液を調製した直後および環境温度で貯蔵してから1週間後に溶液の様相を評価する。溶液が均質であり、1週間後も依然として均質であることが分かる。析出は観測されていない。
【0110】
実施例4
この実施例は、熱機関、より厳密にはディーゼルエンジンの排気ガスの汚染除去に適用される。このディーゼルエンジンは、酸化触媒と、その後段に配置されたミキサおよび選択触媒還元フィルタSCRFとを含む排気配管を備えている。この構成は、酸化触媒22と、その後段に配置されたミキサ(参照番号なし)およびSCRFフィルタ20とを示す
図1に示す構成に類似する。
【0111】
実施例3に従って調製された流体を噴射装置24によってミキサおよびSCRF触媒の上流側で噴射し、一方では、尿素水溶液(AdBlue(登録商標))の分解に起因するアンモニアによる選択NOx還元反応を生じさせ、他方では、SCRFフィルタに貯蔵された煤粒子の再生を補助する。NOx還元と、従来のPAFまたは触媒式SCRFフィルタに貯蔵された煤に対する再生補助と、の両方を目的とする単一の製品を使用するこの汚染除去方法について、特許出願WO2016/091657号と同様、上記において詳細に説明した。
【0112】
図2および
図3は、市販のAdBlue(登録商標)のみ(可溶塩基性金属炭酸塩を添加しない)を比較することによる実施例3の流体の効率を示している。
【0113】
図2は、煤粒子を含有する排気ガスが通過する際の、SCRFフィルタによる経時的な圧力降下の評価を示している(投入(loading)時間を横軸として%単位で表し、無次元圧力降下を縦軸として%単位で表している)。厳密に同一のエンジン・排気条件(排気ガス温度、ガスおよび粒子の量)の下で、実施例3の汚染除去流体(曲線100)を使用すると、AdBlue(登録商標)のみの場合(曲線200)と比較して圧力降下の増大が抑えられることが容易にわかる。この圧力降下は、フィルタに捕集される煤粒子の量に関係しており、実施例3による流体を使用するとSCRFフィルタにおける煤粒子の量が少なくなり、前記流体が、当業者には連続再生と呼ばれる煤粒子の部分酸化(PAF投入段階またはSCRF投入段階の間の連続再生)を可能にすると結論付けてもよい。圧力降下が軽減されることに伴って、投入段階の終了時に煤質量が30%程度低下する。
【0114】
PAF再生またはSCRF再生を完了するには、一般に能動的再生と呼ばれる、貯蔵された煤粒子のより完全な酸化を定期的に実施する必要がある。
図3は、排気ガス温度が600℃である場合のこの能動的再生段階中の経時的な圧力降下の評価を表している(能動的再生時間が横軸として%単位で表され、無次元圧力降下が縦軸として%単位で表されている)。
図3では、最大値の後の圧力降下の低下は、実施例3による流体(曲線110)を使用すると、参照のAdBlue(登録商標)溶液(曲線210)と比較してずっと高速になることに留意されたい。この能動的再生の間、実施例3の流体を使用すると、PAF再生補助またはSCRF再生補助を表す上述の触媒現象によって煤粒子燃焼速度を高めることが可能になる。
【0115】
圧力降下の推移に加えて、30分間の能動的再生の終了時の残留煤粒子質量も測定した。未燃煤は、純粋なAdBlue(登録商標)溶液(曲線210)を使用する基準ケースでは投入された煤粒子の質量の68%であるが、実施例3による流体を使用すると22%に過ぎない。