(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-25
(45)【発行日】2022-09-02
(54)【発明の名称】試料処理のためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/30 20060101AFI20220826BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20220826BHJP
G01N 1/36 20060101ALI20220826BHJP
G01N 29/024 20060101ALI20220826BHJP
【FI】
G01N1/30
G01N1/28 J
G01N1/36
G01N29/024
(21)【出願番号】P 2019533406
(86)(22)【出願日】2017-12-21
(86)【国際出願番号】 US2017067819
(87)【国際公開番号】W WO2018119194
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-12-08
(32)【優先日】2016-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507179346
【氏名又は名称】ベンタナ メディカル システムズ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100119781
【氏名又は名称】中村 彰吾
(72)【発明者】
【氏名】オッター,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】バウアー,ダニエル
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/128299(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/120195(WO,A1)
【文献】特表2013-521506(JP,A)
【文献】特表2014-505890(JP,A)
【文献】特開2008-139327(JP,A)
【文献】米国特許第05089288(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00- 1/44
G01N 29/00-29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織試料を処理する方法であって、
a.第1の組織試料が第1の処理液中に浸漬されている間に、前記第1の組織試料を飛行時間分析(time of flight analysis)にかけるステップであって、前記飛行時間が、試薬の中の関心の物質から反射された音響波の飛行時間であるステップと、
b.予め決定された量の前記第1の処理液が前記第1の組織試料の中に拡散するのに十分な第1の処理時間を決定するステップと、
c.予め決定された量の第2の処理液が前記第1の
組織試料の中に拡散するのに十分な第2の処理時間を決定するステップであって、前記第2の処理時間は、前記第1の処理時間、及び、前記第1の処理時間から前記第2の処理時間を計算するための、予め決定された機能的関係に基づいて計算される、第2の処理時間を決定するステップであって、前記予め決定された機能的関係が、複数のデータの組の対応関係を表し、前記複数のデータの組の各々が、前記予め決定された量の前記第1の処理液が特定のタイプの組織試料の中に拡散するのに十分な測定された処理時間を示す第1のデータと、前記予め決定された量の前記第2の処理液が前記特定のタイプの組織試料の中に拡散するのに十分な測定された処理時間を示す測定された処理時間を示す第2のデータと、を備える、ステップと、
d.前記第2の処理時間にわたって前記第2の処理液中に前記第1の組織試料を浸漬するステップと、を含み、
前記予め決定された量の前記第1の処理液が前記第1の組織試料の中に拡散するのに十分な前記第1の処理時間を決定する前記ステップは、
(i)前記第1の
組織試料が前記第1の処理液中に浸漬されている間に、前記第1の
組織試料を通過する測定されたTOF信号の減衰時間の予め決定された変化を観察するのにかかる時間、
(ii)前記第1の
組織試料が前記第1の処理液中に浸漬されている間に、前記第1の
組織試料を通過する測定されたTOF信号の減衰振幅の予め決定された変化を観察するのにかかる時間、
(iii)前記第1の処理液中に浸漬されている間に、前記第1の
組織試料を通過する測定されたTOF信号から計算される拡散率の予め決定された変化を観察するのにかかる時間、または
(iv)前記第1の処理液中に浸漬されている間に、前記第1の
組織試料を通過する測定されたTOF信号から計算される前記
第1の組織
試料の中心における試薬濃度の予め決定された変化を観察するのにかかる時間,
のうちの1つまたは複数を決定することを含む、
方法。
【請求項2】
前記第1の処理液は約70%エタノールで構成され、前記第2の処理液は約90%エタノール、約100%エタノール、キシレン、およびパラフィンからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の処理時間は、複数の第2の処理液についての第2の処理時間を決定するために使用される、請求項1又は2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
前記第1の処理液は約70%エタノールで構成され、
前記第2の処理液が、少なくとも90%の濃度のエタノール、又は、少なくとも90%の濃度のキシレンを含み、少なくとも90%の濃度のエタノールに対する第2の処理時間、及び、少なくとも90%の濃度のキシレンに対する第2の処理時間が決定され、
前記第1の組織試料をその決定された第2の処理時間にわたって約90%エタノール中に浸漬するステップと、
前記第1の組織試料をその決定された第2の処理時間にわたってキシレン中に浸漬するステップと、
をさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の処理液は約70%エタノールで構成され、
前記第2の処理液が、約90%の濃度のエタノール、約100%の濃度のエタノール、キシレン、又は、パラフィンを含み、
約90%の濃度のエタノールに対する第2の処理時間、約100%の濃度のエタノールに対する第2の処理時間、キシレンに対する第2の処理時間、及び、パラフィンに対する第2の処理時間、が決定され、
前記第1の組織試料を約90%エタノール、約100%エタノール、キシレン、およびパラフィンについて前記決定された第2の処理時間にわたってそれぞれ約90%エタノール、約100%エタノール、キシレン、およびパラフィン中に連続的に浸漬するステップ、
をさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の組織試料のものとほぼ同様である拡散特性を有するタイプ、形状および/またはサイズの第2の組織試料を選択するステップと、
前記第2の組織試料を前記第1の処理時間にわたって前記第1の処理液中に浸漬するとともに、前記第2の処理時間にわたって前記第2の処理液中に浸漬するステップと、
をさらに含む、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記第1の組織試料が前記第1の処理液中に浸漬されている間に、前記第1の組織試料をTOF分析に前記かけるステップ、および、予め決定された量の前記第1の処理液が前記第1の組織試料の中に拡散するのに十分な前記第1の処理時間を決定するステップは、特定のタイプ、サイズ、および/または形状についての組織試料のための第1の処理時間のルックアップテーブルを与えるように複数の組織タイプ、複数の組織サイズ、および複数の組織形状にわたって実行され、
a.第2の組織試料を選択するステップと、
b.前記ルックアップテーブルから前記第2の組織試料のための第1の処理時間を選択するステップと、をさらに含み、前記第1の処理時間を選択するステップは、前記第2の組織試料の前記タイプ、サイズ、および/または形状に基づく、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
ほぼ同様の第1の処理時間を有する2つ以上の第2の組織試料に基づいて処理するために前記2つ以上の第2の組織試料を一緒にバッチ処理するステップをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
飛行時間イネーブルド組織処理システムであって、
a.組織試料が第1の処理液中に浸漬されている第1の槽と、
b.前記組織試料が前記第1の処理液中に浸漬されている間に、前記組織試料からTOFデータを得るように構成されている音響モニタリングデバイスであって、前記TOFデータが、試薬の中の関心の物質から反射された音響波のTOFデータであるものと、
c.前記TOFデータを受信し、予め決定された量の前記第1の処理液が前記組織試料の中に拡散するのに十分な第1の処理時間を計算するように構成され、予め決定された量の第2の処理液が前記組織試料の中に拡散するのに十分な第2の処理時間を計算するようにさらに構成されているプロセッサであって、前記第2の処理時間は、前記第1の処理時間、および、前記第1の処理時間から前記第2の処理時間を計算するための、予め決定された機能的関係に基づいて計算される、プロセッサであって、
前記予め決定された機能的関係が、複数のデータの組の対応関係を表し、前記複数のデータの組の各々が、前記予め決定された量の前記第1の処理液が特定のタイプの組織試料の中に拡散するのに十分な測定された処理時間を示す第1のデータと、前記予め決定された量の前記第2の処理液が前記特定のタイプの組織試料の中に拡散するのに十分な測定された処理時間を示す測定された処理時間を示す第2のデータと、を備える、プロセッサと、
d.前記組織試料が前記第2の処理液中に浸漬されている第2の槽であって、前記プロセッサは、前記第2の処理液中の前記組織試料の浸漬の時間をモニタし、前記第2の処理時間に到達するときに、前記第2の槽から前記組織試料を除去するようにユーザに警告する、または前記システムに前記第2の槽の前記第2の処理液から前記組織試料を自動的に除去させる、第2の槽と、
を備える飛行時間イネーブルド組織処理システム
【請求項10】
前記第1の処理液は約70%エタノールで構成され、前記第2の処理液は約90%エタノール、約100%エタノール、キシレン、およびパラフィンからなる群から選択される、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
予め決定された量の前記第1の処理液が前記組織試料に中に拡散するのに十分な前記第1の処理時間を前記計算することは、
前記
組織試料が前記第1の処理液中に浸漬されている間に、前記
組織試料を通過する測定されたTOF信号の減衰時間の予め決定された変化を観察するのにかかる時間、
前記
組織試料が前記第1の処理液中に浸漬されている間に、前記
組織試料を通過する測定されたTOF信号の減衰振幅の予め決定された変化を観察するのにかかる時間、
前記第1の処理液中に浸漬されている間に、前記
組織試料を通過する測定されたTOF信号から計算される拡散率の予め決定された変化を観察するのにかかる時間、および、
前記第1の処理液中に浸漬されている間に、前記
組織試料を通過する測定されたTOF信号から計算される前記組織
試料の中心における試薬濃度の予め決定された変化を観察するのにかかる時間、
のうちの1つまたは複数を決定することを含む、請求項9または10に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
[0001]本開示は、2016年12月22日に出願された米国仮特許出願第62/438,152号の利益、および2016年12月22日に出願された米国仮特許出願第62/437,962号の利益を主張するものであり、その両方は、全体として参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
[0002]本開示は、一般に、生体試料が分析のために適切に処理されることを確実にするシステムおよび方法に関する。詳細には、本開示は、細胞試料が顕微鏡分析のために適切に処理されることを確実にするシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0003】
[0003]組織生検の適切な組織学的染色は、依然として臨床診断にとっての判断基準である。組織試料が光学顕微鏡法を用いて調べられ得る前に、まず、組織試料は、固定され、処理され、薄いスライスに切断され、このスライスは、顕微鏡スライドに配置され、染色され、それによって診断マーカーの存在を強調するために形態学的特徴を強化しなければならない。現在の臨床診療は、手術後に、標本が中性緩衝ホルマリン(NBF)などの固定剤中に配置される。組織の中に拡散した後、ホルムアルデヒドは、組織を安定させ、組織の内部の生体構造を架橋して下流の顕微鏡切片製作法のために試料を硬化させることによってさらなる劣化を防ぎ、続く処理用化学薬品から組織を保護する。次に、試料は、濃度が増加しこれによって組織内部から全ての水溶液を徐々に除去する一連の段階的なエタノールによって脱水される。パラフィンおよびエタノールは、大部分が非混和性であるので、組織は、一連のキシレンなどの洗浄剤中に配置されて、エタノールを除去し、包埋剤が浸潤するように試料を用意する。最も一般的な包埋剤は、加熱された液体パラフィンであり、この加熱された液体パラフィンは、試料に浸潤し、次いで素早く冷却されることで、顕微鏡切片製作法のための支持構造を与え、標本の長期保存を実現する。
【0004】
[0004]組織学的標本の固定および処理は、組織が被験者からどのように除去されたのか示す状態で組織を保とうとするが、これらのステップは、因果関係がないわけではない。不完全なエタノールの脱水またはキシレンの洗浄は、パラフィンが試料に浸潤する能力を損ない、標本を柔らかくし、切断を難しくさせる。逆に、脱水剤および洗浄剤へ露出し過ぎると、組織は固くて脆くなり、組織の引き裂き、マイクロチャタリング、またはいわゆる「ベネチアンブラインド」効果などの顕微鏡切片製作法アーチファクトをもたらし得る。自由水を洗浄し、生体分子から結合水分子を剥ぐことによって、エタノールなどのアグレッシブな脱水用化学薬品が作用する。しかしながら、水はこれらの分子を互いから絶縁するので、水が除去されると、隣接した分子は、静電気力によって近くされ得るとともに、結果として、組織は収縮し、形態学的な変形を引き起こす。エタノール溶液の濃度を高めるように注意が払われなければならず、そうしなければ細胞膜における変形も起こり得る。短い処理プロトコル、またはあるいは使い切った試薬の使用は、構成的細部の損失という結果にもなり得る。
【0005】
[0005]固定剤の選択、固定剤の温度、固定剤の時間の長さ、および温虚血および冷虚血などの他の解析前の変数により、試料の抗原性がかなり変わる可能性があるというかなりの証拠が存在する。残念ながら、続く処理ステップが組織の完全性および抗原賦活化に関して有する影響は、あまり理解されていない。しかしながら、処理ステップが染色品質に実際に影響を与え得るという証拠が増えている。例えば、不完全な脱水および脱水し過ぎは、ターゲット細胞に関する弱い免疫認識、およびバックグラウンド信号の増加に相関しているのに対して、完全な脱水および湿潤は、L26およびカッパ(Kappa)などのいくつかのターゲットについての染色の改善という結果になった。脱水および洗浄のために使用される特定の試薬は、試薬の温度に加えて、免疫組織化学(IHC:immunohistochemistry)の染色の強度および流行に影響を与える可能性もある。長い脱水時間は優れたRNAおよびたんぱく質の保存をもたらすといういくつかの研究が報告されている。伝えられるところによれば、低温ワックスは、優れたIHCの結果をもたらし、断片化RNAをあまりもたらさないので、パラフィンさえも、染色品質に影響を与え得る。
【0006】
[0006]さらに、処理ステップは抗原賦活化における交絡因子であり、試料が完全固定される程度、とそれが処理された程度との間には相乗効果が存在すると思われる。例えば、エタノールの存在中では、リボヌクレアーゼA分子は、それらの天然α+βたんぱく質立体配座から純粋β状態へ崩壊し、この立体配座の変化は、実際に抗原賦活化にとって重要であり得る。この発見は、熱誘起された抗原賦活化をより受け入れることによっても支持されるとやはり思われる。エタノールは、それらが安定した架橋を形成する機会を得る前に、別のアミンを結合することによってN-ヒドロキシメチル付加物を取り去る役割を果たす。したがって、ラッシュされたまたは不十分に架橋された試料の場合には、エタノールは、試料が十分に架橋および安定化されることを防ぐ役割を果たすことができる。不十分に固定された組織は、エタノールが結合水分子を取る去るときにやはり変質を特に受けやすく、組織の生体構造の疎水性反転を引き起こし、形態学的な変形、フェードした核、乏しい染色質パターン、およびコラーゲンの異常な色などの問題をもたらす。逆に、適切に架橋された試料は、処理により変形をほとんど受けない。
【0007】
[0007]現在の臨床組織処理は、数十の組織カセットを同時に固定および処理する組織プロセッサを用いてバッチで行われる。典型的には、臨床標本は、一緒にグループ化され、全ての針コア生検はラピッドプロトコルによって処理され、より大きい試料は別個のより長いプロトコルによって処理される。グループ処理は、特にラピッドプロトコルを用いて、組織をゆっくり拡散している組織が処理によるリスクにある間に、脱水化学薬品および洗浄化学薬品に露出され過ぎる試料を素早く拡散させる。さらに、固定および処理は遅いプロセスであり、通常これは、解析前のフェーズのボトルネックである。例えば、小さい3mmのバイオプシーは、最適な処理を12時間受けることが推奨され、一方、標準サイズの組織学的カセットにはめ込まれるより大きい標本は、顕微鏡切片製作法のために最適に調製されるのに数日を要し得るとともに、さらなる下流染色アッセイを要し得る。さらに、バッチモード処理時間は、非常に変わりやすく、かつ本質的に実験室特有であり、これは、組織に対する処理ステップから解析前のバリエーションをもたらし得る。組織学的標本を組織またはバイオマーカーの品質を損なうことなく処理を早めることができる技術は、現在のプラクティスにおいて幅広い適用可能性を有する。
【0008】
[0008]現在、静的と動的のどちらでも、試料が脱水、洗浄、または包埋される程度を定量化することができる技術は存在しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願発明の一実施例は、例えば、試料処理のためのシステムおよび方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[0009]いくつかの異なるタイプの組織の中への組織処理液、例えば、ホルマリンに加えて、段階的なエタノール、およびキシレンの拡散速度を飛行時間(TOF)モニタするシステムおよび方法が本明細書中に開示されている。前記開示されたシステムおよび方法は、試料が脱水、洗浄、および包埋される程度を測定、モニタ、および/または予測するために使用することができ、それによってそのような処理が、例えば、組織全体の品質およびバイオマーカーの下流免疫認識に関して有する有害な影響を最小にする。さらに、いくつかの実施形態では、開示されたシステムおよび方法は、組織を処理するのに必要な時間を早める役割を有するとともに、十分にトレース可能および/または繰り返し可能な解析前ワークフローにおける組織学的標本の処理を標準化するためのガイドを与えることができる。
【0011】
[0010]驚いたことに、(例えば、測定によって得られる、以下に述べるように拡散定数によって予測される、または以下にやはり開示される試料の中心でなどの試料内の特定の点で濃度70%エタノールを実現するのにかかる時間によって)70%エタノールが試料の中に拡散する速度に基づいて組織処理のために使用される他の化学薬品について前記拡散速度を正確に予測することができることが分かった。
【0012】
[0011]本開示の一態様では、組織を処理する方法は、第1の組織試料が第1の処理液中に浸漬されている間に、第1の組織試料をTOF分析にかけるステップと、予め決定された量の第1の処理液が第1の組織試料の中に拡散するのに十分な第1の処理時間を決定するステップと、予め決定された量の第2の処理液が第1の試料の中に拡散するのに十分な第2の処理時間を決定するステップであって、第2の処理時間は、第1の処理時間、および第1の処理時間と第2の処理時間の間の予め決定された機能的関係に基づいて計算される、第2の処理時間を決定するステップと、第2の処理時間にわたって第2の処理液中に第1の組織試料を浸漬するステップと、を含む。
【0013】
[0012]いくつかの実施形態では、予め決定された量の第1の処理液が第1の組織試料の中に拡散するのに十分な第1の処理時間を決定するステップは、(i)第1の試料が第1の処理液中に浸漬されている間に、第1の試料を通過する測定されたTOF信号の減衰時間の予め決定された変化を観察するのにかかる時間、(ii)第1の試料が第1の処理液中に浸漬されている間に、第1の試料を通過する測定されたTOF信号の減衰振幅の予め決定された変化を観察するのにかかる時間、(iii)第1の処理液中に浸漬されている間に、第1の試料を通過する測定されたTOF信号から計算される拡散率の予め決定された変化を観察するのにかかる時間、および(iv)第1の処理液中に浸漬されている間に、第1の試料を通過する測定されたTOF信号から計算される組織の中心における試薬濃度の予め決定された変化を観察するのにかかる時間のうちの1つまたは複数を決定することを含む。
【0014】
[0013]いくつかの実施形態では、第1の処理液は約70%エタノールで構成され、第2の処理液は、90%エタノール、約100%エタノール、キシレン、およびパラフィンのうちの1つで構成される。いくつかの実施形態では、第1の処理時間は、複数の第2の処理液についての第2の処理時間を決定するために使用される。いくつかの実施形態では、第1の処理液は約70%エタノールで構成され、第2の処理時間は少なくとも約90%エタノールおよびキシレンについて決定され、方法は、第1の組織試料を約90%エタノールの決定された第2の処理時間にわたって約90%エタノール中に浸漬するステップと、第1の組織試料をキシレンの決定された第2の処理時間にわたってキシレン中に浸漬するステップとをさらに含む。いくつかの実施形態では、第1の処理液は約70%エタノールで構成され、第2の処理時間は、約90%エタノール、約100%エタノール、キシレン、およびパラフィンごとに決定され、方法は、約90%エタノール、約100%エタノール、キシレン、およびパラフィンについて決定された第2の処理時間にわたって第1の組織試料をそれぞれ約90%エタノール、約100%エタノール、キシレン、およびパラフィン中に連続的に浸漬するステップをさらに含む。
【0015】
[0014]いくつかの実施形態では、方法は、第1の組織試料のものとほぼ同様である拡散特性を有するタイプ、形状、およびサイズの第2の組織試料を選択するステップと、第2の組織試料を第1の処理時間にわたって第1の処理液中に浸漬するとともに、第2の処理時間にわたって第2の処理液中に浸漬するステップとをさらに含んでもよい。
【0016】
[0015]いくつかの実施形態では、方法は、第1の組織試料が第1の処理液中に浸漬されている間に、第1の組織試料をTOF分析にかけるステップと、予め決定された量の第1の処理液が第1の組織試料の中に拡散するのに十分な第1の処理時間を決定するステップとをさらに含み、ステップは、特定のタイプ、サイズ、および形状についての組織試料のための第1の処理時間のルックアップテーブルを与えるように複数の組織タイプ、複数の組織サイズ、および複数の組織形状にわたって実行される。ルックアップテーブルが確立されると、いくつかの実施形態では、方法は、第2の組織試料を選択するステップと、ルックアップテーブルから第2の組織試料のための第1の処理時間を選択するステップとをさらに含んでもよく、第1の処理時間の選択は、第2の組織試料のタイプ、サイズ、および/または形状に基づく。代替として、やはり確立されたルックアップテーブルの使用に基づいて、方法は、ほぼ同様の第1の処理時間を有する2つ以上の第2の組織試料に基づいて処理するために2つ以上の第2の組織試料を一緒にバッチ処理するステップをさらに含むことができる。本明細書中に使用されるとき、「ほぼ同様の」は、互いに±20%以内である(時間、サイズ、形状、拡散特性、処理時間、プロトコル等などの)パラメータを指す。例えば、2つの組織試料は、(70%エタノールなどの)特定の処理液中の処理時間がその2つのプロトコル間で異なり、約±10%未満または約±5%未満などの約±20%未満だけ異なる場合、ほぼ同様の処理プロトコルを有し得る。
【0017】
[0016]本開示の別の態様では、システムは、組織処理システムと、非一時的なメモリと、組織処理システムおよび非一時的なメモリに通信可能に結合されたプロセッサとを備えている。このメモリは、特定のタイプ、形状、および/またはサイズの組織試料、ならびに/あるいはほぼ同様の処理プロトコルを共有する特定のタイプ、サイズ、および/または形状の組織試料の1つまたは複数の群についての組織処理ステップおよび時間もしくはタイミングなどの他のデータを含むプロトコル命令のデータベースをそこに記憶して含むことができる。システムは、ユーザにデータ入力機能を提供するユーザインタフェースを備えることができ、データ入力機能が、ユーザが組織試料のタイプ、形状、およびサイズを入力する、または組織試料のタイプ、形状、およびサイズが属する群を選択することを可能にし、組織試料のタイプ、サイズ、および形状の入力、または組織試料のタイプ、形状、および/またはサイズが属する群の選択があると、プロセッサは、入力された組織タイプ、形状、およびサイズ、または選択された群について、データベースに記憶されたプロトコルに従って、組織を処理するように組織処理システムを制御する。いくつかの実施形態では、組織試料のタイプ、形状、およびサイズに関するユーザによる入力によって、プロセッサに組織試料とほぼ同じ処理プロトコルを共有する組織試料の特定のタイプ、サイズ、および形状の群を受信させ、ユーザインタフェース上でユーザに表示させる。いくつかの実施形態では、システムは、並列におよび異なるプロトコル命令に従ってほぼ同様の処理プロトコルを共有する複数の異なる試料および/または複数の異なる試料群を処理するように構成されている。
【0018】
[0017]本開示の別の態様では、飛行時間イネーブルド組織処理システムがある。飛行時間イネーブルド組織処理システムは、組織試料が第1の処理液中に浸漬され得る第1の槽と、組織試料が第1の処理液中に浸漬されている間に、組織試料からTOFデータを得るように構成されている音響モニタリングデバイスと、TOFデータを受信し、予め決定された量の第1の処理液が組織試料の中に拡散するのに十分な第1の処理時間を計算するように構成され、予め決定された量の第2の処理液が組織試料の中に拡散するのに十分な第2の処理時間を計算するようにさらに構成されているプロセッサであって、第2の処理時間は、第1の処理時間、および第1の処理時間と第2の処理時間の間の予め決定された機能的関係に基づいて計算される、プロセッサと、組織試料が第2の処理液中に浸漬されている第2の槽であって、プロセッサは、第2の処理液中の組織試料の浸漬の時間をモニタし、第2の処理時間に到達するときに、第2の槽から組織試料を除去するようにユーザに警告する、またはシステムに第2の槽の第2の処理液から組織試料を自動的に除去させる、第2の槽と、を備える。いくつかの実施形態では、第1の処理液は約70%エタノールであり、第2の処理液は約90%エタノール、約100%エタノール、キシレン、およびパラフィンのうちの1つである。いくつかの実施形態では、予め決定された量の第1の処理液が組織試料の中に拡散するのに十分な第1の処理時間を計算することは、第1の試料が第1の処理液中に浸漬されている間に、第1の試料を通過する測定されたTOF信号の減衰時間の予め決定された変化を観察するのにかかる時間、第1の試料が第1の処理液中に浸漬されている間に、第1の試料を通過する測定されたTOF信号の減衰振幅の予め決定された変化を観察するのにかかる時間、第1の処理液中に浸漬されている間に、第1の試料を通過する測定されたTOF信号から計算される拡散率の予め決定された変化を観察するのにかかる時間、および第1の処理液中に浸漬されている間に、第1の試料を通過する測定されたTOF信号から計算される組織の中心における試薬濃度の予め決定された変化を観察するのにかかる時間のうちの1つまたは複数を決定することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】[0018]本主題の開示の例示的な実施形態による最適化された組織固定のための組織処理システム100を示す図である。
【
図2A】[0019]バイオプシーカプセルからの超音波スキャンパターンを表す図である。
【
図2B】標準サイズのカセットからの超音波スキャンパターンを表す図である。
【
図2C】[0020]本主題の開示の例示的な実施形態についてのタイミング図である。
【
図3】[0021]本主題の開示の例示的な実施形態による組織試料についての拡散係数を得る方法を示す図である。
【
図4】[0022]組織試料についての拡散係数を得る代替の方法を示す図である。
【
図5】[0023]
図5Aは、実験している間の第1の時点についてのシミュレートされた濃度の傾きを示すグラフである。
図5Bは、実験している間のいくつかの時点についてのシミュレートされた濃度の傾きを示すグラフである。
【
図6】[0024]
図6Aは、実験している間の超音波によって検出されるNBF濃度のシミュレートされた量を示すグラフである。
図6Bは、第1の候補拡散定数についてシミュレートされたTOF信号を示すグラフである。
【
図7】[0025]全ての潜在的な拡散定数について計算された時間変化するTOF信号を示すグラフである。
【
図8】[0026]
図8Aは、6mm片の人間の扁桃試料から収集された経験的に計算されたTOFの傾向を示すグラフである。
図8Bは、6mm片の人間の扁桃試料から収集された空間的に平均化されたTOF信号の傾向を示すグラフである。
【
図9】[0027]
図9Aは、候補拡散定数の関数としてのシミュレートされたTOF信号と経験的に測定されたTOF信号との間の計算された誤差関数のグラフである。
図9Bは、この誤差関数の拡大図である。
【
図10】[0028]経験的なTOFと比べてグラフで描かれたモデル化された拡散定数を用いて計算されたTOFの傾向を示すグラフである。
【
図11】[0029]
図11Aは、複数の組織試料について再構築された拡散定数を示すグラフである。
図11Bは、複数の組織試料について再構築された拡散定数を示すグラフである。
【
図12】[0030]
図12Aは、位相シフトによってTOFを測定する送信機と受信機のペアを備えたシステムを示す図である。
図12Bは、位相シフトによってTOFを測定する送信機と受信機のペアを備えたシステムを示す図である。
【
図13】[0031]円筒形の組織コアなどの円筒形の対象の中への試薬の拡散のモデルを示すグラフである、
【
図14】[0032]約3時間および約5時間における組織試料の中心への試薬の拡散率の典型的な分布を示すグラフである。
【
図15】[0033]組織試料の中心における拡散率に基づく(感度および特異性に基づく)染色品質の典型的なROC曲線を示すグラフである。
【
図16】[0034]約3時間の試薬への露出と5約時間の試薬への露出の間の組織試料の中心における拡散率の差の典型的なグラフを示すグラフである。
【
図17】[0035]開示された1つの実施形態により決定された扁桃組織体積多孔率の生データ分布を示すグラフである。
【
図18】[0036]開示された1つの実施形態により決定された扁桃組織体積多孔率の箱ひげの分布を示すグラフである。
【
図19】[0037]約3時間および約5時間における、開示された1つの実施形態により決定されるときの組織試料の中心におけるホルムアルデヒド濃度の典型的な分布を示すグラフである。
【
図20】[0038]組織試料の中心におけるホルムアルデヒド濃度に基づく(感度および特異性に基づく)染色品質の典型的なROC曲線を示すグラフである。
【
図21】[0039]約3時間のNBF溶液中の浸漬と約5時間のNBF溶液中の浸漬との間の組織試料の中心におけるホルムアルデヒド濃度の差の典型的なグラフである。
【
図22】[0040]開示された1つの実施形態により決定されるときのいくつかの組織タイプについての生の多孔率の分布を示すグラフである。
【
図23】[0041]開示された1つの実施形態により決定されるときのいくつかの組織タイプについての多孔率の箱ひげの分布のセットを示すグラフである。
【
図24】[0042]いくつかの組織タイプについての拡散定数の分布を示すグラフである。
【
図25】[0043]いくつかの組織タイプについての拡散定数の箱ひげの分布のセットを示すグラフである。
【
図26】[0044]いくつかの組織タイプについての約3、約5、および約6時間における組織試料の中心における生の拡散率の分布を示すグラフである。
【
図27】[0045]いくつかの組織タイプについての約3、約5、および約6時間における組織試料の中心における拡散率の箱ひげの分布のセットを示すグラフである。
【
図28】[0046]いくつかの組織タイプについての3、5、および6時間における組織試料の中心における生のホルムアルデヒド濃度の分布を示すグラフである。
【
図29】[0047]いくつかの組織タイプについての約3、約5、および約6時間における組織試料の中心におけるホルムアルデヒド濃度の箱ひげの分布のセットを示すグラフである。
【
図30】[0048]示された浸漬時間の後のいくつかの組織タイプについての組織試料の中心における生のホルムアルデヒド濃度の分布を示すグラフである。
【
図31】[0049]示された浸漬時間の後のいくつかの組織タイプについての組織試料の中心におけるホルムアルデヒド濃度の箱ひげの分布のセットを示すグラフである。
【
図32】[0050]約5または約6時間の10%NBF中の浸漬の後の最適な染色をもたらす組織タイプを分ける
図31のラベル付きバージョンを示すグラフである。
【
図33】[0051]約6時間の10%NBF中の浸漬の後の全ての組織についての組織試料の中心におけるホルムアルデヒド濃度の生の分布を示すグラフである。
【
図34】[0052]約6時間の10%NBF中の浸漬の後の全ての組織についての組織試料の中心におけるホルムアルデヒド濃度の箱ひげの分布を示すグラフである。
【
図35-1】[0053]本主題の開示の例示的な実施形態による組織試料の中心における拡散係数、多孔率、およびホルムアルデヒド濃度を得る方法を示す図である。
【
図35-2】本主題の開示の例示的な実施形態による組織試料の中心における拡散係数、多孔率、およびホルムアルデヒド濃度を得る方法を示す図である。
【
図36A】[0054]TOFイネーブルド組織処理システムの斜視概略図である。
【
図36C】[0056]数片の組織を保持する組織処理カセットを示す図である。
【
図36D】[0057]音響モニタリングデバイスの送信機部分および受信機部分に対して試料を移動させることによって収集される単一片の組織について得られるいくつかのTOFトレースを示すグラフである。
【
図36E】[0058]試料について観察された空間的に平均化されたTOF信号(実線)およびその指数曲線フィット(破線)を示すグラフである。
【
図37A】[0059]10%NBF中に浸漬されている約6mmの腎臓試料についての生のTOF信号(上枠)および空間的に平均化されたTOF信号(下枠)を示すグラフである。
【
図37B】[0060]70%EtOH中に浸漬されている約6mmの腎臓試料についての生のTOF信号(上枠)および空間的に平均化されたTOF信号(下枠)を示すグラフである。
【
図37C】[0061]90%EtOH中に浸漬されている6mmの腎臓試料についての生のTOF信号(上枠)および空間的に平均化されたTOF信号(下枠)を示すグラフである。
【
図37D】[0062]100%EtOH中に浸漬されている約6mmの腎臓試料についての生のTOF信号(上枠)および空間的に平均化されたTOF信号(下枠)を示すグラフである。
【
図37E】[0063]キシレン中に浸漬されている約6mmの腎臓試料についての生のTOF信号(上枠)および空間的に平均化されたTOF信号(下枠)を示すグラフである。
【
図37F】[0064]x軸上に示される処理溶液ごとにモニタされた全ての試料にわたって平均化された信号誤差を示すグラフである。
【
図37G】[0065]x軸上に示される処理溶液ごとにモニタされた全ての試料にわたって平均化された決定係数(R-squared)を示すグラフである。
【
図37H】[0066]x軸上に示される処理溶液ごとにモニタされた全ての試料にわたって平均化された信号対ノイズ比を示すグラフである。
【
図38A】[0067]10%NBF、70%エタノール、90%エタノール、100%エタノール、および100%キシレンにおける正常な腎臓組織についての絶対的なTOF信号を経時的に示すグラフである。黒い実線は平均信号を表し、陰影エリアは±σである。
【
図38B】[0068]10%NBF、70%エタノール、90%エタノール、100%エタノール、および100%キシレンにおける正常な乳房組織について絶対的なTOF信号を経時的に示すグラフである。黒い実線は平均信号を表し、陰影エリアは±σである。
【
図38C】[0069]10%NBF、70%エタノール、90%エタノール、100%エタノール、および100%キシレンにおける正常な結腸組織について絶対的なTOF信号を経時的に示すグラフである。黒い実線は平均信号を表し、陰影エリアは±σである。
【
図38D】[0070]10%NBF、70%エタノール、90%エタノール、100%エタノール、および100%キシレンにおける腎臓癌組織について絶対的なTOF信号を経時的に示すグラフである。黒い実線は平均信号を表し、陰影エリアは±σである。
【
図38E】[0071]10%NBF、70%エタノール、90%エタノール、100%エタノール、および100%キシレンにおける乳癌組織について絶対的なTOF信号を経時的に示すグラフである。黒い実線は平均信号を表し、陰影エリアは±σである。
【
図38F】[0072]10%NBF、70%エタノール、90%エタノール、100%エタノール、および100%キシレンにおける脂肪組織について絶対的なTOF信号を経時的に示すグラフである。黒い実線は平均信号を表し、陰影エリアは±σである。
【
図39A】[0073]10%NBF、70%エタノール、90%エタノール、100%エタノール、および100%キシレンにおける正常な腎臓組織について正規化されたTOF信号を経時的に示すグラフである。黒い実線は平均信号を表し、陰影エリアは±σである。
【
図39B】[0074]10%NBF、70%エタノール、90%エタノール、100%エタノール、および100%キシレンにおける正常な乳房組織について正規化されたTOF信号を経時的に示すグラフである。黒い実線は平均信号を表し、陰影エリアは±σである。
【
図39C】[0075]10%NBF、70%エタノール、90%エタノール、100%エタノール、および100%キシレンにおける正常な結腸組織について正規化されたTOF信号を経時的に示すグラフである。黒い実線は平均信号を表し、陰影エリアは±σである。
【
図39D】[0076]10%NBF、70%エタノール、90%エタノール、100%エタノール、および100%キシレンにおける腎臓癌組織について正規化されたTOF信号を経時的に示すグラフである。黒い実線は平均信号を表し、陰影エリアは±σである。
【
図39E】[0077]10%NBF、70%エタノール、90%エタノール、100%エタノール、および100%キシレンにおける乳癌組織について正規化されたTOF信号を経時的に示すグラフである。黒い実線は平均信号を表し、陰影エリアは±σである。
【
図39F】[0078]10%NBF、70%エタノール、90%エタノール、100%エタノール、および100%キシレンにおける脂肪組織について正規化されたTOF信号を経時的に示すグラフである。黒い実線は平均信号を表し、陰影エリアは±σである。
【
図40A】[0079]試薬によってグループ化された全ての減衰振幅の分布を示すグラフである。実線は中心値であり、実線の箱は25から75百分位数を表し、ひげは1.5×四分位数間範囲まで延び、ひげの外側のデータは円によって表されている。
【
図40B】[0080]試薬および組織タイプによる減衰振幅の分布を示すグラフである。負の振幅は増加するTOFであり、正の振幅は減少するTOFである。実線は中心値であり、実線の箱は25から75百分位数を表し、ひげは1.5×四分位数間範囲まで延び、ひげの外側のデータは円によって表されている。Ca=癌(cancer)である。
【
図40C】[0081]試薬によってグループ化された90%拡散するのに要する時間の分布を示すグラフである。実線は中心値であり、実線の箱は25から75百分位数を表し、ひげは1.5×四分位数間範囲まで延び、ひげの外側のデータは円によって表されている。
【
図40D】[0082]試薬および組織タイプによる組織が90%拡散するのに要する時間の分布を示すグラフである。実線は中心値であり、実線の箱は25から75百分位数を表し、ひげは1.5×四分位数間範囲まで延び、ひげの外側のデータは円によって表されている。Ca=癌である。
【
図41A】[0083]ラベル付けされたようないくつかの組織タイプについての90%エタノールの拡散時間対70%エタノールの拡散時間を示すグラフである。円は平均拡散時間を表し、水平の破線は水平軸の±σを表し、垂直の実線は垂直軸の±σであり、特定の組織タイプはそのようなものとしてラベル付けされている。
【
図41B】[0084]ラベル付けされたようないくつかの組織タイプについての90%エタノールの拡散時間対100%エタノールの拡散時間を示すグラフである。円は平均拡散時間を表し、水平の破線は水平軸の±σを表し、垂直の実線は垂直軸の±σを表す。
【
図41C】[0085]ラベル付けされたようないくつかの組織タイプについてのキシレンの拡散時間対70%エタノールの拡散時間を示すグラフである。円は平均拡散時間を表し、水平の破線は水平軸の±σを表し、垂直の実線は垂直軸の±σを表す。
【
図42】[0086]70%エタノール対90%エタノールが90%拡散されるまでの時間をグラフ化するペアのデータとともに、べき回帰フィット(実線)、およびその99%予測間隔(破線)を示すグラフである。
【
図43A】[0087]
図42に示す回帰について示される統計的フィットの品質尺度を示すグラフである。
【
図43B】
図42に示す回帰について示される統計的フィットの品質尺度を示すグラフである。
【
図43C】
図42に示す回帰について示される統計的フィットの品質尺度を示すグラフである。
【
図43D】
図42に示す回帰について示される統計的フィットの品質尺度を示すグラフである。
【
図44】[0088]70%エタノール対約100%エタノールが90%拡散されるまでの時間をグラフ化するペアのデータとともに、べき回帰フィット(実線)、およびその99%予測間隔(破線)を示すグラフである。
【
図45A】[0089]
図44に示す回帰について示される統計的フィットの品質尺度を示すグラフである。
【
図45B】
図44に示す回帰について示される統計的フィットの品質尺度を示すグラフである。
【
図45C】
図44に示す回帰について示される統計的フィットの品質尺度を示すグラフである。
【
図45D】
図44に示す回帰について示される統計的フィットの品質尺度を示すグラフである。
【
図46】[0090]70%エタノール対純キシレンが90%拡散されるまでの時間をグラフ化するペアのデータとともに、べき回帰フィット(実線)、およびその99%予測間隔(破線)を示すグラフである。
【
図47A】[0091]
図46に示された回帰について示される統計的フィットの品質尺度を示すグラフである。
【
図47B】
図46に示された回帰について示される統計的フィットの品質尺度を示すグラフである。
【
図47C】
図46に示された回帰について示される統計的フィットの品質尺度を示すグラフである。
【
図47D】
図46に示された回帰について示される統計的フィットの品質尺度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[0092]2つ以上のステップまたは行為を含む本明細書で権利主張された任意の方法では、逆に明確に示さない限り、その方法のステップまたは行為の順序は、方法のステップまたは行為が列挙された順序に必ずしも限定されるものではないということも理解されたい。
【0021】
[0093]本明細書中に使用されるとき、単数形の用語「a」、「an」、および「the」は、文脈上別段明確に示さない限り、複数の指示語を含む。同様に、単語「または(or)」は、文脈上別段明確に示さない限り、「および(and)」を含むことが意図される。用語「含む(includes)」は、「AまたはBを含む」が、A、B、またはAおよびBを含むことを意味するように包括的に定義される。
【0022】
[0094]本明細書中に使用されるとき、本明細書および特許請求の範囲において、「または(or)」は、先に定義したように「および/または」と同じ意味を有するものと理解されたい。例えば、リストの中の項目を分けるとき、「または」または「および/または」は、包括的なものとして解釈するものとし、すなわち、いくつかの要素またはリストの要素、および任意選択でさらなる列挙されていない項目のうちの少なくとも1つ(しかし、2つ以上も含む)を含むものとして解釈すべきである。「のうちのただ1つ(only one of)」または「のうちの正確な1つ(exactly one of)」、あるいは特許請求の範囲で使用されるとき「からなる(consisting of)」などの逆に明確に示された用語のみが、いくつかの要素またはリストの要素のうちの正確な1つの要素を含むことを指す。一般に、本明細書中に使用される「または」という用語は、「いずれか(either)」、「のうちの1つ(one of)」、「のうちのただ1つ」、または「のうちの正確に1つ」などの排他的な用語が先行するとき、排他的な選択肢(すなわち、「一方または他方であるが、両方ではない」)を示すものとしてもっぱら解釈されるものとする。特許請求の範囲で使用されるとき、「から本質的になる(consisting essentially of)」は、特許法の分野で使用される通常の意味を有するものとする。
【0023】
[0095]用語「備える(comprising)」、「含む(including)」、「有する(having)」などは、交換可能に使用され、同じ意味を有する。同様に、「備える(comprises)」、「含む(includes)」、「有する(has)」などは、交換可能に使用され、同じ意味を有する。特に、これらの用語の各々は、「備える(comprising)」に関する一般的な米国特許法の定義と一致して定義され、したがって「少なくとも以下のもの」を意味するオープンターム(open term)であると解釈され、さらなる特徴、限定、態様などを除外しないとやはり解釈される。したがって、例えば、「構成要素a、bおよびcを有するデバイス」は、少なくとも構成要素a、bおよびcを含むデバイスを意味する。同様に、フレーズ:「ステップa、bおよびcを含む方法」は、この方法が少なくともステップa、bおよびcを含むことを意味する。また、ステップおよびプロセスは、特に順序で本明細書に概説され得るが、当業者は、ステップおよび処理の順序は、変わってもよいことを認識しよう。
【0024】
[0096]本明細書中に使用されるとき、本明細書および特許請求の範囲において、1つまたは複数の要素のリストに関して、フレーズ「少なくとも1つの」は、複数の要素からなるリストにおける要素の任意の1つまたは複数から選択される少なくとも1つの要素を意味するが、少なくとも1つの要素のリスト内に具体的に挙げられた全ての要素のうちの少なく1つを必ずしも含むとは限らず、要素のリストの中の要素の任意の組み合わせを排除するものではないことを意味すると理解されたい。この定義は、具体的に特定されたそれらの要素に関連していても関連していなくても、任意選択で要素が、フレーズ「少なくとも1つの」が指す要素のリスト内で具体的に特定される要素以外に存在してもよいことも可能にする。したがって、非限定の例として、「AおよびBのうちの少なくとも1つ」(または、同じ意味合いで、「AまたはBのうちの少なくとも1つ」、または均等に「Aおよび/またはBのうちの少なくとも1つ」)は、一実施形態では、Bは存在せず2つ以上のAを任意選択で含む(およびB以外の要素を任意選択で含む)少なくとも1つを指すことができ、別の実施形態では、Aは存在せず2つ以上のBを任意選択で含む(およびA以外の要素を任意選択で含む)少なくとも1つを指すことができ、さらに別の実施形態では、2つ以上のAを任意選択で含む少なくとも1つ、および2つ以上のBを任意選択で含む(および他の要素を任意選択で含む)少なくとも1つなどを指すことができる。
【0025】
[0097]I.技術的実施
[0098]本開示は、組織試料にわたって空間と時間の濃度プロファイルを再構築するために、拡散モデルと相関する音響飛行時間(TOF)ベースの情報を用いて試料の(「拡散係数」としても知られている)拡散定数および多孔率を計算するシステムおよびコンピュータによって実行される方法を提示する。いくつかの実施形態では、本明細書中に開示された組織調製システムおよび方法は、予め決定された濃度レベルに到達するまで、組織試料の中への固定剤流体の拡散をモニタするようになされ得る。例えば、ホルマリンが組織を貫いて入るとき、それは間質液に取って代わる。この流体交換は、組織体積の組成を少なくとも部分的に変化させ、この変化はモニタすることができる。例として、間質液およびホルマリンが導入された超音波パルスにそれぞれ異なるように反応する(すなわち、各流体が離散的な「音速」特性を有する)としたら、出力超音波パルスは、より多くの流体交換が生じるにつれて、すなわち、より多くのホルマリンが間質液に取って代わるのにつれて増加する小さい通過時間差分を蓄積する。これは、組織試料の幾何学的形状に基づく拡散により累積された位相差を決定し、TOFへの拡散の影響をモデル化し、および/または後処理アルゴリズムを使用して結果を相関させ、それによって拡散定数を決定することなどの動作を可能にする。また、開示されたTOF計器の感度は、拡散定数および多孔率に関して潜在的により正確な特徴付けを可能にする10パーツ・パー・ミリオン未満の変化を検出することができる。ナノ秒TOFスケールに関して、全ての流体および組織は、離散的な音速を有し、したがって開示された動作は、水の拡散を定量化するだけに限定されず、全ての組織の中への全ての流体の拡散、例えば、(段階的なエタノールなどの)脱水用試薬、(キシレンなどの)洗浄剤、および組織試料の包埋のために使用されるパラフィンの拡散をモニタするために使用することができる。
【0026】
[0099]拡散速度は、ホルマリンに濡れた組織試料の異なる音響特性に基づいて音響プローブのシステムによってモニタすることができる。拡散モニタリングおよび経験的なTOF測定のためのそのようなシステムは、米国特許出願公開第2013/0224791号、第2017/0284969号、第2017/0336363号、第2017/0284920号、および第2017/0284859号においてさらに詳細に記載されており、それらの内容は、全体として参照により本明細書中にそれぞれ組み込まれる。拡散モニタリングおよび経験的なTOF測定に適した別のシステムは、2015年12月17日に出願されたACCURATELY CALCULATING ACOUSTIC TIME-OF-FLIGHTという名称の国際特許出願にやはり記載されており、その各々の内容は、全体として本明細書中に参照により本明細書によって組み込まれる。
【0027】
[0100]TOFモニタリングに適したシステムおよび方法のさらなる例は、PCT国際公開のWO2016/097163、および米国特許出願公開第2017/0284859号に記載されており、その内容は、本開示と相反しない程度まで参照により本明細書にやはり組み込まれる。参照された出願は、組織試料を通じて移動する液体固定剤と接触させられ、組織試料の厚さほぼ全体にわたって拡散し、処理全体を通じて組織試料の状態および条件を評価するために連続的または定期的にモニタされる音響特性に基づいて解析される固体組織試料を説明する。例えば、間質液より大きい体積弾性率を有するホルマリンなどの固定剤は、それが間質液を置き換えるので、TOFをかなり変え得る。得られた情報に基づいて、固定プロトコルは、処理の一貫性を高め、処理時間を減少させ、処理品質を改善するなどのように調整することができる。音響測定は、組織試料を非侵襲的に解析するために使用することができる。組織試料の音響特性は、液体試薬(例えば、液体固定剤)が試料を通じて移動するときに変化し得る。試料の音響特性は、例えば、予浸プロセス(例えば、低温固定剤の拡散)、固定プロセス、色付けプロセスなどの間に変化し得る。固定プロセス(例えば、架橋結合プロセス)では、組織試料はより重く架橋結合されるので、音響エネルギーの伝達の速さは変化し得る。リアルタイムモニタリングは、試料を通じての固定剤の移動を正確に追跡するために使用することができる。例えば、生体試料の拡散または固定のステータスは、音響波の飛行時間(TOF)に基づいてモニタすることができる。測定の他の例には、音響信号振幅、減衰、散乱、吸収、音響波の位相シフト、またはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0028】
[0101]いくつかの実施形態では、組織試料を通じての固定剤の移動は、リアルタイムでモニタすることができる。
[0102]II.システムおよび方法
[0103]本明細書中に使用される用語「飛行時間」または「TOF」は、例えば、物体、粒子、または音響波、電磁波、もしくは他の波が媒体を通じてある距離移動するのにかかる時間を指す。このTOFは、例えば、送信機によって発せられた音響信号(「送信された信号」)の位相と流体中に浸漬されている物体を通過した受信機によって受信された音響信号(「受信された信号」)および流体のみを通過した音響信号の位相との間の位相差を決定することによって経験的に測定することができる。本明細書中に使用される「試料」は、例えば、複数の細胞を含む生体標本である。例には、組織生検試料、外科標本試料、羊水穿刺試料、および検死物質が含まれるが、これらに限定されない。試料は、例えば組織試料スライド上に封じ込まれ得る。
【0029】
[0104]本明細書中に使用されるとき、用語「生体試料」、「生体標本」、「組織試料」、「試料」などは、ウィルスを含む任意の有機体から得られる(たんぱく質、ペプチド、核酸、脂質、炭水化物、またはそれらの組み合わせなどの)生体分子を含む任意の試料を指す。有機体の他の例には、(人間;猫、犬、馬、牛、豚などの家畜動物;およびマウス、ラット、霊長類などの実験動物などの)哺乳類、昆虫、環形動物、クモ形類動物、有袋類、爬虫類、両生類、バクテリア、真菌が挙げられる。生体試料には、(組織切片および組織の針生検などの)組織試料、(パップスメアまたは血液塗抹標本、または顕微解剖によって得られた細胞の試料などの細胞学的塗抹標本などの)細胞試料、または(細胞を溶解させ、遠心分離機または別の方法によってそれらの成分を分離することによって得られるなどの)細胞分画、断片、もしくは細胞小器官が挙げられる。生体試料の他の例には、血液、血清、尿、精液、排泄物、脳脊髄液、間質液、粘液、涙、汗、膿、(例えば、外科生検または針生検によって得られる)生検組織、乳頭吸引液、耳垢、乳汁、膣液、唾液、(口腔スワブなどの)スワブ、または第1の生体試料から得られる生体分子を含む任意の物質が挙げられる。いくつかの実施形態では、本明細書中に使用される用語「生体試料」は、被験者から得られる腫瘍またはその一部から調製される(均質化または液化された試料などの)試料を指す。試料は、例えば、組織試料スライド上に封じ込まれ得る。
【0030】
[0105]用語「多孔率」は、物質中の空隙(すなわち、「空の」)空間の測度を指し、0から1の間の、もしくは0から100%の間のパーセンテージとしての、対象の全体積に対する空隙の体積の割合である。本明細書中に使用される「多孔性物質」は、例えば、0よりも大きい多孔率を有する三次元物体を指す。
【0031】
[0106]本明細書中に使用される用語「拡散係数」または「拡散定数」は、例えば、分子拡散によるモル流束と拡散が観察される対象の濃度の傾き(または拡散のための駆動力)との間の比例定数を指す。拡散率は、例えば、フィックの法則の中など、物理化学の中の数多くの式の中で出会う。(ある物質の別の物質に対する)拡散率が高くなるほど、化合物/物質は互いにより速く拡散する。典型的には、空気中の化合物の拡散定数は、水中の約10,000×である。空気中の二酸化炭素は、16mm2/sの拡散定数を有し、水中ではその拡散定数は0.0016mm2/sである。
【0032】
[0107]本明細書中に使用されるフレーズ「位相差」は、例えば、同じ周波数を有し同じ時点で参照される2つの波の間の、度または時間の単位で表される差を指す。
[0108]本明細書中に使用されるフレーズ「バイオプシーカプセル」は、例えば、生検組織試料のための容器を指す。典型的には、バイオプシーカプセルは、試料を保持し、液体試薬、例えば緩衝液、固定液、または染色液を組織試料を囲ませ、その中に拡散させるためのメッシュを備える。バイオプシーカプセルは、試料を特定の形状に維持することができ、有利には、この形状は、開示された方法によりモデル化して計算するのがより容易である形状を試料に与えることができ、したがって、開示されたシステムにおける使用により適している。本明細書中に使用される「カセット」は、例えば、バイオプシーカプセル、またはバイオプシーカプセル内に封じ込められていない組織試料のための容器を指す。好適には、カセットは、カセットが超音波送信機/受信機ペアのビーム経路に対して自動的に選択され移動させられ、例えば昇降することができるように設計および成形され、カセットに出入りする液体試薬の移動、およびしたがって内部に保持される組織試料のさらなる出入りを可能にする開口部をさらに有する。例えば、この移動は、カセットが装着されるデバイスのロボットアームまたは別の自動化された可動構成部品によって実行することができる。他の実施形態では、カセットはそれだけで組織試料を収容するために使用され、カセットの形状は、組織試料の形状を少なくとも一部決定することができる。例えば、カセットの深さよりもわずかに厚い矩形の組織ブロックをカセットの中に置き、カセット蓋を閉じることによって、カセットの内部空間のより大きい部分を満たすように組織試料を圧縮して広げ、したがって、より大きい高さおよび幅を有するがカセットの深さにおおよそ対応する厚さを有するより薄い一片に変形させることができる。
【0033】
[0109]いくつかの実施形態では、ホルムアルデヒド濃度または他の試薬を計算するシステムが開示される。本明細書に説明されるように、このシステムは、プロセッサとこのプロセッサに結合されたメモリとを含む信号解析器を備え、このメモリは、プロセッサによって実行されるときに、音響データのセットからホルマリン濃度を計算することを含む動作をプロセッサに実行させるコンピュータ実行可能命令を記憶するためのものである。
【0034】
[0110]いくつかの実施形態では、信号解析器に入力されるデータは、音響モニタリングシステムによって生成される音響データセットであり、音響データセットは、音響信号が関心の物質に遭遇するように音響信号を送信し、次いで音響信号が関心の物質に遭遇した後に音響信号を検出することによって生成される。したがって、いくつかの実施形態では、本明細書中に開示されたような信号解析器と音響モニタリングシステムとを備えたシステムが提供される。それに加えて、または代替として、システムは、信号解析器と、音響モニタリングシステムから得られる音響データセットを含む非一時的なコンピュータ可読媒体とを備えてもよい。いくつかの実施形態では、音響モニタリングシステムによって送受信される音響データは、周波数掃引によって生成される。本明細書中に使用されるとき、用語「周波数掃引」は、第1のセットの音響波が第1の一定の持続期間の間に一定の周波数で媒体を通じて発せられ、後続のセットの音響波が後続の(好ましくは等しい)持続期間の間に一定の周波数間隔で発せされるように、媒体を通じて一定の周波数の間隔で送信される一連の音響波を指す。
【0035】
[0111]いくつかの実施形態では、システムは、多孔性物質の中への流体の拡散をモニタするようになされている。いくつかの実施形態では、(a)信号解析器、(b)音響モニタリングシステムおよび/または音響モニタリングシステムによって生成される音響データセットを含む非一時的なコンピュータ可読媒体、および(c)流体の体積中に浸漬された多孔性物質を保持するための機器を備えるシステムが提供され得る。いくつかの実施形態では、システムは、織試料の中への固定剤の拡散をモニタするようになされている。
【0036】
[0112]いくつかの実施形態では、ホルマリン濃度または他の試薬濃度は、試薬が多孔性物体に浸透する程度を特徴付けするために決定される。例えば、この方法は、物体、例えば布地、プラスチック、セラミックス、組織、または他のものの染色プロセスをモニタするために、固定プロセスをモニタするために、または脱水、洗浄、およびパラフィン包埋などの他の組織処理ステップをモニタするために使用することができる。
【0037】
[0113]いくつかの実施形態では、本開示は、音響データセットを収集するための音響モニタリングシステムを提供し、この音響モニタリングシステムは、送信機および受信機を備えており、送信機および受信機は、送信機によって生成される音響信号が受信機によって受信されコンピュータ可読信号に変換されるように配置される。1つの実施形態では、システムは、超音波送信機および超音波受信機を備える。本明細書中に使用されるとき、「送信機」は、電気信号を音響エネルギーに変換することができるデバイスであり、「超音波送信機」は、電気信号を超音波音響エネルギーに変換することができるデバイスである。本明細書中に使用されるとき、「受信機」は、音響波を電気信号に変換することができるデバイスであり、「超音波受信機」は、超音波音響エネルギーを電気信号に変換することができるデバイスである。
【0038】
[0114]電気信号から音響エネルギーを生成するのに役立つある種の物質は、音響エネルギーから電気信号を生成するのにも役立つ。したがって、送信機および受信機は、必ずしも別個の構成部品とする必要はないが、送信機および受信機は、別個の構成部品とすることができる。送信機および受信機は、送信された波が関心の物質に遭遇した後に受信機が送信機によって生成された音響波を検出するように配置することができる。いくつかの実施形態では、受信機は、関心の物質によって反射された音響波を検出するように配置される。他の実施形態では、受信機は、関心の物質を通じて送信された音響波を検出するように配置される。
【0039】
[0115]いくつかの実施形態では、送信機は、変換器に動作可能にリンクされた少なくとも波形発生器を備え、波形発生器は、変換器と通信する電気信号を生成するように構成され、変換器は、電気信号を音響信号に変換するように構成される。いくつかの実施形態では、波形発生器はプログラム可能であり、例えば、開始周波数および/または終了周波数、周波数掃引の周波数の間のステップサイズ、周波数ステップの個数、および/または各周波数を送信する持続期間を含む周波数掃引のいくつかのパラメータをユーザが修正することを可能にする。他の実施形態では、波形発生器は、1つまたは複数の予め決定された周波数掃引パターンを生成するように事前プログラムされる。他の実施形態では、波形発生器は、事前プログラムされた周波数掃引とカスタマイズされた周波数掃引の両方を送信するように構成され得る。送信機は、集束要素を含むこともでき、この集束要素は、変換器によって生成される音響エネルギーが物体の特定のエリアへ予測可能に集束および方向付けされることを可能にする。
【0040】
[0116]いくつかの実施形態では、送信機は媒体を通じて周波数掃引を送信することができ、次いでこの周波数掃引は受信機によって検出され、非一時的なコンピュータ可読記憶媒体に記憶されるおよび/または解析のために信号解析器へ送信される音響データセットに変換される。音響データセットが送信された音響波と受信された音響波の間の位相差を表すデータを含む場合、音響モニタリングシステムは位相比較器を含むこともでき、この位相比較器は、送信された音響波と受信された音響波の間の位相差に対応する電気信号を生成する。したがって、いくつかの実施形態では、音響モニタリングシステムは、送信機および受信機に通信可能にリンクされた位相比較器を備える。位相比較器の出力がアナログ信号である場合、音響モニタリングシステムは、位相比較器のアナログ出力をデジタル信号へ変換するアナログ/デジタル変換器を備えることもできる。次いで、デジタル信号は、例えば、非一時的なコンピュータ可読媒体に記憶することができ、または解析のために信号解析器へ直接通信することができる。代替として、送信機は特定の周波数で音響エネルギーを送信することができ、受信機によって検出される信号は、そのピーク強度について記憶および解析される。
【0041】
[0117]いくつかの実施形態では、プロセッサとこのプロセッサに結合されたメモリとを含む信号解析器が提供され、上述したように、このメモリは、プロセッサによって実行されるときに、音響モニタリングシステムによって生成された音響データセットに少なくとも一部基づいてホルマリン濃度をプロセッサに計算させるコンピュータ実行可能命令を記憶するためのものである。
【0042】
[0118]用語「プロセッサ」は、例として、プログラム可能なマイクロプロセッサ、コンピュータ、システムオンチップ、または複数のもの、あるいは前述のものの組み合わせを含むデータを処理する全ての種類の機器、デバイス、および機械を包含する。機器は、専用論路回路、例えば、FPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)またはASIC(特定用途向け集積回路)を備えることができる。機器は、ハードウェアに加えて、問題のコンピュータプログラムのための実行環境を生成するコード、例えば、プロセッサファームウェア、プロトコルスタック、データベース管理システム、オペレーティングシステム、クロスプラットフォームルーチン環境、仮想マシン、またはそれらのうちの1つまたは複数の組み合わせを構成するコードを含むこともできる。機器および実行環境は、ウェブサービスインフラストラクチャ、分散コンピューティングインフラストラクチャ、グリッドコンピューティングインフラストラクチャなどの様々な異なるコンピューティングモデルインフラストラクチャを実現することができる。
【0043】
[0119](プログラム、ソフトウェア、ソフトウェアアプリケーション、スクリプト、またはコードとしても知られる)コンピュータプログラムは、コンパイルされたまたは解釈された言語、宣言型言語または手続き型言語を含む任意の形態のプログラミング言語で記述することができ、それは、スタンドアローンプログラムとして、またはモジュール、コンポーネント、サブルーチン、オブジェクト、またはコンピューティング環境における使用に適した他のユニットとしてなどの任意の形態で展開することができる。コンピュータプログラムは、必要ではないが、ファイルシステム中のファイルに対応することができる。プログラムは、他のプログラムまたはデータ(例えば、マークアップ言語ドキュメントに記憶される1つまたは複数のスクリプト)を保持するファイルの一部に、問題のプログラムに専用の単一ファイルに、または複数の調整されたファイル(例えば、1つまたは複数のモジュール、サブプログラム、またはコード部分を記憶するファイル)に記憶することができる。コンピュータプログラムは、1つのコンピュータ上、または1つにサイトに位置するもしくは複数のサイトにわたって分散し通信ネットワークによって相互接続された複数のコンピュータ上で実行されるように展開することができる。
【0044】
[0120]本明細書中に記載されたプロセスおよび論理の流れは、入力データを演算し出力を生成することによってアクションを実行するように1つまたは複数のコンピュータプログラムを実行する1つまたは複数のプログラム可能なプロセッサによって実行することができる。プロセスおよび論理の流れは、専用論路回路、例えば、FPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)またはASIC(特定用途向け集積回路)によって実行することもでき、機器は、専用論路回路、例えば、FPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)またはASIC(特定用途向け集積回路)として実装することもできる。
【0045】
[0121]コンピュータプログラムの実行に適したプロセッサは、例として、汎用マイクロプロセッサと専用マイクロプロセッサの両方、および任意の種類のデジタルコンピュータの任意の1つまたは複数のプロセッサを含む。一般に、プロセッサは、読出し専用メモリもしくはランダムアクセスメモリまたは両方から命令およびデータを受信する。コンピュータの必須の要素は、命令に従ってアクションを実行するプロセッサ、ならびに命令およびデータを記憶する1つまたは複数のメモリデバイスである。一般に、コンピュータは、例えば磁気ディスク、光磁気ディスク、または光ディスクなどのデータを記憶するための1つまたは複数の大容量記憶デバイスも備え、あるいはそれらからデータを受信しもしくはそれらにデータを送信しまたは両方を行うように動作可能に結合される。しかしながら、コンピュータは、そのようなデバイスを有することを必要としない。また、コンピュータは、別のデバイス、例えば、いくつか例を挙げると、携帯電話、携帯情報端末(PDA)、携帯オーディオまたは動画プレイヤ、ゲーム機、全地球測位システム(GPS)受信機、またはポータブル記憶デバイス(例えば、ユニバーサルシリアルバス(USB)フラッシュドライブ)に組み込むことができる。コンピュータプログラム命令およびデータを記憶するのに適したデバイスは、全ての形態の不揮発性メモリ、媒体、およびメモリデバイスを含み、例として半導体メモリデバイス、例えば、EPROM、EEPROM、およびフラッシュメモリデバイス、磁気ディスク、例えば、内蔵ハードディスクまたはリムーバブルディスク、光磁気ディスク、ならびにCD-ROMディスクおよびDVD-ROMディスクが含まれる。プロセッサおよびメモリは、専用論路回路に補足されてもよく、または専用論路回路に組み込まれてもよい。
【0046】
[0122]ユーザとのやり取りを行うために、本明細書中に記載された本主題の各実施形態は、表示デバイス、例えば、ユーザに情報を表示するためのLCD(液晶ディスプレイ)、LED(発光ダイオード)ディスプレイ、またはOLED(有機発光ダイオード)ディスプレイ、ならびにキーボード、およびポインティングデバイス、例えば、マウスまたはトラックボール(これによってユーザはコンピュータに入力を行うことができる)を有するコンピュータ上で実施することができる。いくつかの実施では、タッチスクリーンが、情報を表示するとともにユーザから入力を受け取るために使用され得る。他の種類のデバイスが、同様にユーザとのやり取りを行うために使用されてもよく、例えば、ユーザに送られるフィードバックは、感覚フィードバック、例えば、視覚フィードバック、聴覚フィードバック、または触覚フィードバックの任意の形態とすることができ、ユーザからの入力は、音響入力、音声入力、または触覚入力を含む任意の形態で受け取ることができる。加えて、コンピュータは、ユーザによって使用されるデバイスへドキュメントを送信し、ユーザによって使用されるデバイスからドキュメントを受信することによって、例えば、ウェブブラウザから受信した要求に応じてウェブページをユーザのクライアントデバイス上のウェブブラウザへ送信することによって、ユーザとやり取りすることができる。
【0047】
[0123]本明細書中に記載された本主題の各実施形態は、例えばデータサーバとしてバックエンドコンポーネントを含む、またはミドルウェアコンポーネント、例えばアプリケーションサーバを含む、またはフロントエンドコンポーネント、例えば、ユーザが本明細書中に記載された本主題の実施とのやり取りすることができるグラフィカルユーザインタフェースもしくはウェブブラウザを有するクライアントコンピュータを含む、あるいは1つまたは複数のそうしたバックエンドコンポーネント、ミドルウェアコンポーネント、またはフロントエンドコンポーネントの任意の組み合わせを含むコンピューティングシステムにおいて実施することができる。システムのコンポーネントは、デジタルデータ通信、例えば、通信ネットワークに関する任意の形態または媒体によって相互接続することができる。通信ネットワークの例には、ローカルエリアネットワーク(「LAN」)および広帯域ネットワーク(「WAN」)、相互接続ネットワーク(例えば、インターネット)、ならびにピアツーピアネットワーク(例えば、アドホックピアツーピアネットワーク)が含まれる。
【0048】
[0124]コンピューティングシステムは、任意の個数のクライアントおよびサーバを含むことができる。一般に、クライアントおよびサーバは、互いから遠く離れており、典型的には通信ネットワークを介して相互作用する。クライアントとサーバの関係は、それぞれのコンピュータ上で実行するとともに互いにクライアントサーバ関係を有するコンピュータプログラムによって生じる。いくつかの実施形態では、サーバは、(例えば、クライアントデバイスへデータを表示するために、およびクライアントデバイスとやり取りするユーザからのユーザ入力を受信するために)データ(例えば、HTMLページ)をクライアントデバイスへ送信する。クライアントデバイスで生成されたデータ(例えば、ユーザのやり取りの結果)は、サーバでクライアントデバイスから受信することができる。
【0049】
[0125]いくつかの実施形態では、信号解析器は、試験物質から記録された音響データセットを入力として受け入れる。音響データセットは、周波数掃引が関心の物質に遭遇した後に検出される周波数掃引の少なくも一部を表す。いくつかの実施形態では、検出される周波数掃引の一部は、関心の物質によって反射される音響波を構成する。他の実施形態では、検出される周波数掃引の一部は、関心の物質を通過した音響波を構成する。代替として、音響データセットは、関心の物質を介して反射されるまたは関心の物質を通過した単一周波数の音響エネルギーのバーストを表す。
【0050】
[0126]
図1は、本主題の開示の例示的な実施形態による(例えば、最適化された組織固定、脱水、洗浄、または包埋のための)組織処理に役立つシステム100の一実施形態を示す。システム100は、コンピュータ101に結合されたプロセッサ105によって実行される複数の処理モジュールまたは論理命令を記憶するためのメモリ110に通信可能に結合された音響モニタリングデバイス102を備える。音響モニタリングデバイス102は、1つまたは複数の送信機および1つまたは複数の受信機を含む前述の音響プローブを備えることができる。いくつかの実施形態では、組織試料は、送信機および受信機が音響波の飛行時間(TOF)を検出するために通信している間に、液体固定剤の中に浸漬することができる
[0127]いくつかの実施形態では、システム100は、1つまたは複数のプロセッサ105と少なくとも1つのメモリ110とを用い、この少なくとも1つのメモリ110は、1つまたは複数のプロセッサによる実行によって1つまたは複数のプロセッサに1つまたは複数のモジュール内で命令(または記憶されたデータ)を実行させるための非一時的なコンピュータ可読命令を記憶するものであり、1つまたは複数のモジュールは、ユーザ入力または電子入力によって組織ブロックについての情報を受信し組織の音響速度などの組織特徴を決定する組織解析モジュール111と、時間変化する(「予期された」または「モデル化された」)TOF信号を生成するために様々な時間およびモデルの拡散定数についての相対的な固定剤または試薬濃度の空間依存性をシミュレートしモデル減衰定数を出力するTOFモデリングモジュール112と、組織の実際のTOF信号を決定し、空間的な平均を算出し、組織特徴(例えば、実際の細胞タイプ、細胞密度、細胞サイズ、ならびに試料調製および/または試料染色の効果)ならびに音響モニタリングデバイス102からの入力に依存する経験的な減衰定数を生成するためにTOF測定モジュール113と、相関モジュール114とを備え、この相関モジュール114は、経験的なTOFデータとモデル化されたTOFデータを相関させ(例えば比較し)、相関性の誤差関数の最小値に基づいて組織試料についての拡散定数を決定し、モデリングモジュール112において決定された拡散定数を組織試料についての候補多孔率値とともに使用して第2のモデルTOF信号を生成し、再び相関モジュール114を使用して決定された拡散定数および試料についての候補多孔率に基づく第2のモデルTOF信号と経験的なTOFデータとの間の第2の相関を行い、経験的なTOFデータと決定された拡散定数を用いて生成されたモデルTOF信号との間の第2の相関の誤差関数の最小値に基づいて組織試料の多孔率を決定し、経験的なTOF信号基づいて、決定された拡散定数および決定された多孔率、空間および時間の特定の点における試料内の試薬の濃度を計算する。これらのモジュールによって実行されるこれらおよび他の動作によって、定量的な結果またはグラフィカルな結果がユーザまたはコンピュータ101へ出力され得る。したがって、
図1に示されていないが、コンピュータ101は、キーボード、マウス、スタイラス、およびディスプレイ/タッチスクリーンなどのユーザ入出力デバイスも備えることができる。
【0051】
[0128]上述したように、モジュールは、プロセッサ105によって実行される論理を備える。「論理」は、本明細書中に使用されるときおよびこれらの開示全体を通じて、プロセッサの演算に影響を与えるように適用され得る命令信号および/またはデータの形態を有する任意の情報を指す。ソフトウェアは、そのような論理の一例である。プロセッサの例は、コンピュータプロセッサ(処理ユニット)、マイクロプロセッサ、デジタル信号プロセッサ、コントローラ、およびマイクロコントローラなどである。論理は、1つの例示的な実施形態では、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読出し専用メモリ(ROM)、消去可能/電気的消去可能プログラマブル読出し専用メモリ(EPROM/EEPROM)、フラッシュメモリなどであり得るメモリ110などのコンピュータ可読媒体に記憶される信号から形成することができる。論理は、デジタルハードウェア回路および/またはアナログハードウェア回路を備えることもでき、例えば、ハードウェア回路は、論理AND、OR、XOR、NAND、NOR、および他の論理演算を備える。論理は、ソフトウェアとハードウェアの組み合わせから形成されてもよい。ネットワーク上で、論理は、1つのサーバ上または複数のサーバの複合体上にプログラムされてもよい。特定の論理ユニットは、ネットワーク上の単一の論理位置に限定されない。また、モジュールは、いずれかの特定の順序で実行される必要はない。各モジュールは、実行される必要があるときには、別のモジュールを呼び出すことができる。
【0052】
[0129]いくつかの実施形態では、音響モニタリングデバイス102は、Electron Microscopy Sciences(RTM)によるLynx IIなどの市販のディップ・アンド・ダンク(dip-and-dunk)組織プロセッサ上へ後付けすることができる。Solidworks(登録商標)ソフトウェアを用いて設計された機械的ヘッドは、標準的な試薬キャニスタにぴったり合いそれを封止することができる。封止されると、外部真空システムは、バルク試薬とともに組織を含むカセットの内容についてガス抜きを開始することができる。より小さい組織試料のためにCellPath(RTM)によるCellSafe 5などの標準的なサイズの組織学的カセット、またはCellPath(RTM)によるCellSafe Biopsy Capsulesなどのバイオプシーカプセルのいずれかとともに使用されるように設計されたカセットホルダが、利用されてもよい。各ホルダは、実験中に試料が滑るのを防ぐために組織をしっかりと保持する。カセットホルダは、一方向にカセットホルダを滑らせる垂直並進運動アームに取り付けることができる。機械的ヘッドは、2つの金属ブラケットを組織カセットの両側に備えて設計することができ、一方のブラケットは5つの送信変換器を収容し、他方のブラケットは5つの受信変換器を収容し、これらはそれらのそれぞれの送信変換器に空間的に並べられている。受けブラケットは、他方の変換器の伝搬軸に直交するように向けられた変換器のペアを収容することもできる。各取得後、直交センサは、音速に重大な影響がある流体内の空間と時間のばらつきを検出するために基準TOF値を計算することができる。さらに、各2次元取得の終わりに、カセットは持ち上げることができ、第2の基準の取得が得られる。これらの基準TOF値は、環境的に誘起されるホルマリンのばらつきを補償するために使用することができる。環境的に誘起されるホルマリンまたは任意の他の固定剤のばらつきは、例えば、多孔性物質を含む容器内の温度の変動、振動などであり得る。
【0053】
[0130]
図2Aおよび
図2Bは、バイオプシーカプセルからの超音波スキャンパターンおよび標準サイズのカセットからの超音波スキャンパターンの例をそれぞれ示す。組織例について本明細書に説明される測定手順およびモデリング手順は、多孔性物質の他の形態に適用することも可能である。したがって本開示は組織試料の内容におけるモデリングを示し得るが、そのような例は、非限定であり、本教示は、任意の多孔性物質などの他の材料に適用されてもよい。
【0054】
[0131]本明細書中に記載されるように、音響モニタリングデバイスにおける音響センサからの測定値は、組織試料を通じての音響信号のTOFの変化および/または変化の速度を追跡するために使用することができる。これは、経時的に拡散を決定するまたは拡散の速度を決定するために、経時的に異なる位置で組織試料をモニタすることを含む。
【0055】
[0132]例えば、「異なる位置」は、「候補拡散位置(candidate diffusivity position)」とも呼ばれ、組織試料の表面内または表面上の位置であり得る。いくつかの実施形態によれば、試料は、バイオプシーカプセルおよび音響ビーム経路の相対移動によって異なる「試料位置」に配置することができる。相対移動は、段階的にまたは連続的なやり方で試料上を「スキャニング」するために、受信機および/または変換器を移動させることを含み得る。代替として、カセットは、移動可能なカセットホルダによって位置を移し変えることができる。
【0056】
[0133]
図2Aおよび
図2Bに示されるように、例えば、カセット内の全ての組織を撮像するために、カセットホルダは、垂直方向に≒1mmだけ連続的に持ち上げることができ、TOF値は、新しい位置ごとに必要とされる。このプロセスは、カセットの開放穴全体を覆うまで繰り返され得る。
図2Aを参照すると、バイオプシーカプセル220内の組織を撮像するとき、信号は、5つの変換器ペア全てから計算され、
図2Aに示されたスキャンパターンになる。代替として、
図2Bに示された標準的なサイズのカセット221内の組織を撮像するとき、第2および第4の変換器ペアはオフにすることができ、TOF値は、標準的なサイズのカセット221の3つの中央区画のそれぞれ中心に位置する第1、第3、および第5の変換器ペアの間で取得される。次いで、2つの組織コアは、列ごとに配置することができ、一方は上部にあり、一方は底部にあり、6つの試料(2行×3列)からのTOFトレースが同時に得られることを可能にし、ラン・ツー・ランのばらつきをかなり減少させ、スループットを増加させる。この例示的な実施形態では、超音波ビームの半値全幅は約2.2mmである。
【0057】
[0134]音響モニタリングデバイスにおける音響センサは、空間的に並べられているCNIRHurricane Tech(Shenzhen)Co.,Ltd.(RTM)によるTA0040104-10などの4MHzの集束変換器のペアを備えることができ、組織試料はそれらの共通の焦点に配置される。1つの変換器、指定された変換器は、結合流体(すなわち、ホルマリン)および組織を横断するとともに受信変換器によって検出される音響パルスを送出することができる。
【0058】
[0135]
図2Cは、本主題の開示の1つの例示的な実施形態についてのタイミング図を示す。初めに、送信変換器は、数百マイクロ秒間に正弦波を送信するために、Analog Devices(RTM)によるAD5930などの波形発生器を用いてプログラムされ得る。次いで、そのパルス列は、流体および組織を横断した後に受信変換器によって検出することができる。受信された超音波の正弦波および送信された正弦波は、Analog DevicesによるAF8302などの例えばデジタル位相比較器を用いて比較される。位相比較器の出力は、送信されたパルスと受信されたパルスの間に時間的重なりの領域中に有効な読取値をもたらす。位相比較器の出力は、Atmel(RTM)によるATmega2560などのマイクロコントローラ上の統合型アナログ/デジタル変換器で出力が照会される前に、安定することができる。次いで、プロセスは、周波数範囲にわたって入力正弦波と出力正弦波の間の位相関係を構築するために、変換器の帯域幅にわたって複数の音響周波数で繰り返され得る。この音響位相周波数掃引は、音響干渉計に類似しサブナノの第2の精度で通過時間を検出することができる後処理アルゴリズムを用いてTOFを計算するのに直接使用される。
【0059】
[0136]いくつかの実施形態では、特定の時点および特定の候補拡散点について得られた「測定されたTOF」、すなわち、「測定されたTOF値」は、送信された超音波信号と対応する受信された超音波信号との間で測定された位相シフトから算出され、それによって超音波信号のビーム経路は特定の候補拡散点を横切り、それによって位相シフトは特定の時点で測定された。
【0060】
[0137]
図3は、本主題の開示の例示的な実施形態による組織試料についての拡散係数を得る方法を示す。本実施形態に関連して開示された動作は、
図1のシステムに含まれる任意の電子またはコンピュータベースのシステムによって実行することができる。いくつかの実施形態では、これらの動作は、メモリなどのコンピュータ可読媒体上に符号化することができ、プロセッサによって実行され、人間の操作者に提示できるまたは続く動作に使用できる出力になる。また、これらの動作は、本主題の開示の精神が維持されるならば、本明細書中に開示された順序に加えて任意の順序で実行することができる。
【0061】
[0138]いくつかの実施形態では、この方法は、組織試料についての音響速度の計算を含むことができる(S330)。この動作は、組織試料が内部に浸漬される試薬内の音の速さを計算することを含む。例えば、超音波変換器間の距離dsensor、すなわち、送信変換器と受信変換器の間の距離は、正確に測定することができ、純粋な試薬中の超音波送信機と超音波受信機の間の通過時間treagentが測定され、ここで、試薬中の音の速さrreagentは、
【0062】
【0063】
を用いて計算される。
[0139]いくつかの実施形態では、組織の厚さは、測定またはユーザ入力によって得ることもできる。超音波方法、機械的方法、および光学的方法を含む様々な適切な技法が、組織の厚さを得るために利用できる。最後に、音響速度が、
【0064】
【0065】
を用いてバルク試薬(例えば固定液)に対して非拡散組織(すなわち、固定液がまだ適用されていない組織試料)から位相遅れを得ることによって決定される(S330)。
[0140]いくつかの実施形態では、特定の式は、組織試料の知られている幾何学的形状に基づいて得られ、一般に、この式は、時間t=0における非拡散組織試料(すなわち、試薬を欠いている、例えば固定液を欠いている組織試料)中の音の速さを表す。実験的な実施形態では、例えば、組織試料の音響速度は、較正されたカリパスを用いるようにして正確に測定される(本明細書中では「センサ」とも呼ばれる)2つの超音波変換器間の距離(dsensor)に基づいてまず試薬中の音の速さを計算することによって計算することができる。この例では、センサの隔離距離は、カリパスを用いて測定され、センサの隔離距離dsensor=22.4mmだった。次に、センサ間の(組織を欠いている)試薬を横断する音響パルスに必要とされる通過時間(treagent)は、適用可能なプログラムで正確に記録することができる。実験的な例では、10%NBF(中性緩衝ホルマリン)のバルク試薬についてtreagent=16.71μsである。次いで、試薬(rreagent)中の音速は、
【0066】
【0067】
のように計算することができる。
[0141]この特定の実験では、扁桃の試料片は、正確で標準化された試料厚さ(dtissue=6mm)を確実にするように6mmの組織学的生検コアパンチのコアをなし、TOF差(Δt)は、音響センサ間で、組織が存在する状態(ttissue+reagent)および組織が存在しない状態(treagent)、すなわち、
Δt=ttissue+reagent-treagent
Δt=16921.3-16709.7=211.6ns
で計算された。
【0068】
[0142]いくつかの実施形態では、時間treagentは、送信変換器から受信変換器までの距離を横断するために超音波信号が必要とする時間であり、それによって信号は、試薬体積を通るが組織試料を通らない。この横断時間は、例えば、組織と同じ直径、例えば6mmを有するバイオプシーカプセルを2つのセンサ間に置き、組織ではなく試薬だけを通る信号についてTOF測定を実行することによって測定することができる。
【0069】
[0143]いくつかの実施形態では、時間ttissueは、送信変換器から受信変換器までの距離を横断するために超音波信号が必要とする時間であり、それによって信号は、試薬を含まないかつ試薬によって囲まれていない組織試料を通る。いくつかの実施形態では、上記横断時間は、例えば、試薬をカプセルに加える前に2つのセンサ間にバイオプシーカプセルを置き、組織だけを通過する信号についてTOF測定を実行することによって測定することができる。
【0070】
[0144]いくつかの実施形態では、組織の厚さおよび試薬中の音の速さに加えて組織によって引き起こされる時間差(または「TOF差」)Δtは、試料の知られている幾何学的形状(例えば円筒形形状、立方体形状、箱形状など)から得られる以下の式、すなわち、
【0071】
【0072】
を用いて非拡散組織(ttissue(t=0))の音速を計算するために使用することができる。
[0145]その後、モデリングプロセスが、様々な候補拡散定数に関してTOFをモデル化するために実行される。いくつかの実施形態では、候補拡散定数は、文献から得られた組織特性の知られているまたは従来の知識から選択される定数の範囲を含む(S331)。いくつかの実施形態では、候補拡散定数は、正確でないが、どんな範囲が観察下の特定の組織または物質についてあり得るのかの大まかな見積りに単に基づいている。いくつかの実施形態では、これらの評価された候補拡散定数は、モデリングプロセスへ送られ(ステップS332~S335)、組織の真の拡散定数を得るために誤差関数の最小が決定される(S337)。言い換えると、方法は、拡散定数を変えることで経験的に測定されたTOF拡散曲線と一連のモデル化された拡散曲線の間の差を追跡する。
【0073】
[0146]例えば、複数の候補拡散定数のうち1つを選択すると、組織試料中の試薬濃度の空間依存性は、円筒形の対象についての熱方程式
【0074】
【0075】
の解を用いて時間および空間の関数として試薬濃度creagentの計算に基づいてシミュレートされる(S332)。
[0147]ただし、xは組織の深さ方向の空間座標であり、R0は試料の半径であり、Dは候補拡散定数であり、tは時間であり、J0は第1種および0次のベッセル関数であり、J1は第1種および1次のベッセル関数であり、αnは0次ベッセル関数のn次の根の位置であり、cmaxは試薬の最大濃度である。言い換えると、これらのベッセル関数(高次微分方程式)の各々の係数の合計は、空間、時間、および速度の関数としての定数、すなわち拡散定数を与える。この式はこれらの実験的な実施形態に開示された円筒形組織試料に特有であるが、式は形状または境界条件に応じて変化し、任意の形状についての熱方程式の解はその形状についての拡散定数を与えることができる。例えば、球形、立方形、または矩形のブロック形状を有する物体についての熱方程式は、開示された方法においてやはり利用することができる。
【0076】
[0148]いくつかの実施形態では、このステップは、複数の時点について繰り返されて(S333~S334)、(特定の時点における予期された試薬濃度の積分は音の速さの微分を算出するために使用することができるので、予期された試薬濃度に対応する)時間変化するTOFを得る(S335)。例えば、拡散時間が完了したか否かについての判定がなされる。いくつかの実施形態では、この拡散時間は、使用されるハードウェアまたはシステムのタイプに基づくことができる。時間間隔Tごとに、ステップS333、S334、およびS332は、モデル化された試料濃度が時間変化するTOF信号へ変換されてモデリング時間が完了するまで繰り返される(S335)。
【0077】
[0149]実験的な実施形態では、使用される各候補拡散定数Dcandidateは、以下の値、すなわち
0.01≦Dcandidate≦2μm2/ms
の範囲内に含まれる。
【0078】
[0150]いくつかの実施形態では、組織試料は、円筒形生検コアパンチのコアをなし、したがって円筒形によってよく近似され得る。いくつかの実施形態では、次いで、上記熱方程式の解を使用して組織試料中の試薬の予期された濃度(c
reagent)を計算し、実験の第1の時点について、すなわち、(開示された実験を実行するシステムに使用されるTOF取得間の時間間隔に基づいて)拡散の104秒後、組織の深さ方向の試薬の濃度を表す解は、
図5Aに示されている。例えば、特定のシステムは、ここでは「ピクセル」とも呼ばれるいくつかの異なる空間位置ごとに新しいTOF値を規則的に測定することができる。したがって、各「ピクセル」は、例えば104秒ごとに新しいTOF値を割り当てる更新レートを有することができる。
【0079】
[0151]
図5Aは、実験的な実施形態における熱方程式から計算される受動的拡散の104秒後の組織の6mmの試料の中への10%NBFのシミュレートされた濃度の傾きを示す。また、これらのステップは、実験している間(実験的な実施形態においては8.5時間の長さ)の104秒ごとに繰り返される組織全体を通じての試薬の濃度を決定することが繰り返され、その結果は
図5Bに示されている。
【0080】
[0152]
図5Bは、組織中(水平方向軸)の全ての位置ならびに全ての時間における(「予期された」、「モデル化された」、または「熱方程式ベースの」)試薬の濃度を表示するc
reagent(t,r)のグラフを示す(上向きに移動する曲線)。
【0081】
[0153]
図3に戻って参照すると、試薬モデリングステップ(S332~S334)の結果を使用して、超音波検出機構が組織の深さに関して位相遅れを線形的に構築することに基づいて超音波信号への寄与を予測することができる。
【0082】
[0154]超音波は、深さ方向に、すなわちUSビームの伝搬軸に沿って全ての組織からの積分信号を検出し、したがって深さ方向に流体交換の積算量に影響されやすいので、「積分され予期された」試薬濃度cdetectedは、「検出された試薬濃度」とも呼ばれ、計算され得る。いくつかの実施形態では、「検出された試薬濃度」は、経験的に検出された値ではない。むしろ、それは、特定の時点tおよび特定の候補拡散定数について算出された全ての予期された試薬濃度を空間的に積分することによって生成される微分値である。いくつかの実施形態では、空間的積分は、例えば、組織試料の半径を覆うことができる。
【0083】
[0155]例えば、検出された試薬濃度cdetectedは、
【0084】
【0085】
を用いて計算することができる。
[0156]いくつかの実施形態では、統合された試薬濃度cdetectedは、特定の時点における試薬の総量を計算するために使用される。例えば、試料のさらなる体積および/または重量の情報は、絶対的な試薬の量を計算するのに使用することができる。代替として、いくつかの実施形態では、試薬の量は、例えば、試薬によってすでに拡散させられている試料の体積分率[%]を示す、例えば百分率値として、相対的単位で算出される。
【0086】
[0157]シミュレーション(すなわち、熱方程式モデルに基づく算出)の後、所与の候補拡散定数および所与の時点についての試薬の検出された濃度は、次いで、
【0087】
【0088】
を用いて非拡散組織と試薬の線形結合としてTOF信号に変換することができる(S335)。
[0158]ただし、rtissue(t=0)は、非拡散組織の音の速さであり、ρは、バルク試薬と流体交換できる組織試料の体積分率を表す組織の気孔率である。したがって、この式は、2つの別個の音速(組織および試薬)の線形結合として拡散からのTOF信号の変化をモデル化する。一方で純粋な組織および他方で純粋な試薬のそれぞれの音速のTOFは、(例えば、それぞれの位相シフトベースのTOF測定によって)経験的に容易に決定することができるので、特定の時点で試料の中にすでに拡散させられた試薬の量は、容易に決定することができる。
【0089】
[0159]いくつかの実施形態では、(試料緩衝液または組織流体などのバルク流体のTOF寄与がない)純粋な組織試料のTOF寄与は、バルク流体だけで満たされている対応する変換器間距離を横切った超音波信号について測定されたTOF寄与からバルク流体を含むおよび/またはバルク流体によって囲まれる組織試料について測定されたTOF寄与を差し引くことによって得ることができる。
【0090】
[0160]
図6Aおよび
図6Bは、それぞれ、実験している間の超音波によるシミュレートされた、「検出された」、または「統合された」NBFの濃度のグラフ(
図6A)と、第1の候補拡散定数についてシミュレートされた(または「予期された」)TOF信号のグラフ(
図6B、ただしD=0.01μm2/ms)とを示す。
図6BのTOF信号は、試薬のそれぞれの積分濃度の微分として算出される。
【0091】
[0161]この点で、この方法は、概して、モデル化された(または「シミュレートされた」もしくは「予期された」)TOFを、組織試料内の「候補拡散点」とも呼ばれる異なる空間的な関心領域(ROI:regions of interest)を測定し真の拡散定数を得るために誤差関数の最小値を決定することによって決定された経験的なTOFと相関させる(S336)。この例では、(S322)によって特定された範囲内で選択された特定の拡散定数について各モデル化されたTOFは、経験的なTOFと相関(S336)し、誤差が最小化されるか否かについての決定がされる(S337)。いくつかの実施形態では、誤差が最小化されない場合、次の拡散定数が選択され(S338)、モデリングプロセスが新しい拡散定数について繰り返される(S332~S335)。いくつかの実施形態では、誤差が最小化される(S337)ことが相関性(S336)に基づいて決定される場合、真の拡散定数が決定され(S339)、この方法は終わる。
【0092】
[0162]
図4は、代替の方法を示しており、それによって全ての候補拡散定数は、まず、ステップS446~S447に基づいてモデリングを実行するために使用され、全ての拡散定数が処理された後、相関性が実行される(S448)。全ての潜在的な拡散定数について計算された時間変化するTOF信号の図が
図7に示されている。例えば、
図7は、6mmの組織試料について8.5時間の実験に関してシミュレートされたTOFトレースを示しており、拡散定数は0.01から2.0μm2/msの範囲であった。
図4の実施形態では、誤差最小化は、真の拡散定数決定ステップS439内で実行される。
【0093】
[0163]いずれにしても、経験的なTOFは、相関性が生じることについて決定されなければならない。いくつかの実施形態では、経験的なTOFは、組織内の異なる空間的な関心領域(ROI)を測定することによって決定することができる。いくつかの実施形態では、各信号は、組織の中への活性拡散から寄与を分離するために減じられたバックグラウンド試薬からの寄与を有する。いくつかの実施形態では、個々のTOF傾向は、フィルタリングによって時間的に滑らかにされる。次いで、いくつかの実施形態では、これらの空間的に別個のTOF傾向は、組織の中への10%NBFの拡散の平均速度を決定するために空間的に平均化される。
【0094】
[0164]
図8Aおよび
図8Bは、6mm片の人間の扁桃試料から収集された経験的に計算されたTOFの傾向(
図8A)、および組織の中への10%NBFの流体交換の平均速度および量を表す空間的に平均化されたTOF信号(
図8B)をそれぞれ示す。
【0095】
[0165]いくつかの実施形態では、組織の中への拡散の平均速度は、(
図8Bに破線によって示された)単一の指数信号に非常に相関しており、
【0096】
【0097】
によって得られる。
[0166]ただし、Aはナノ秒単位のTOFの振幅(すなわち、拡散されていない組織試料と完全に拡散された組織試料の間のTOF差)であり、τexperimentalは、TOFがその振幅の37%まで減衰するのに必要な時間、すなわち63%減衰されるのに必要な時間を表す試料の減衰定数であり、オフセットは上記の所与の減衰関数の垂直オフセットである。
【0098】
[0167]この63%は、以下の計算、すなわち、
時間t=τにおいて、TOF(T)=Ae(-tau/tau)=Ae-1=A/e=A/2.72=0.37*A
によって得ることができる。
【0099】
[0168]試料中の試薬濃度が増加するにつれてTOFが減少するとここで仮定されるが、この方法は同様に試薬に適用可能であり、これによって試料の中に拡散すると測定されたTOFを増大させる。実験的な実施形態の6mm片の人間の扁桃では、τexperimental=2.83時間である。したがって、複数の連続した時点について経験的に決定された複数のTOFから、組織試料の減衰定数は、例えば、経時的にTOF信号の振幅をグラフで描き、オフセットを特定するグラフを解析し、減衰定数についての上記解を解くことによって算出することができる。
【0100】
[0169]いくつかの実施形態では、誤差相関性(
図3のS336、
図4のS448)は、モデル化された(「予期された」)TOF対経験的なTOFの誤差を決定するために実行される。計算されたTOF信号、シミュレートされたTOF信号、および経験的なTOF信号を有すると、2つの信号の間の差は、候補拡散定数が2つの信号の間の差を最小化するか否か見るために計算することができる(S337)。
【0101】
[0170]いくつかの実施形態では、誤差関数は、例えば、以下のもの、すなわち、
【0102】
【0103】
Error(D)=(τsimulated(D)-τexperimental)2
を用いて一組の異なるやり方で算出することができる。
【0104】
[0171]いくつかの実施形態では、第1の誤差関数は、シミュレートされた(「モデル化された」、「予期された」)TOF信号と経験的に測定されたTOF信号との間の差を一つ一つ計算する。
【0105】
[0172]いくつかの実施形態では、第2の誤差関数は、それぞれの減衰定数の間の差の二乗の和を計算することによってシミュレートされたTOF信号とモデル化されたTOF信号との間の拡散の速度を排他的に比較する。経験的な減衰定数τexperimentalは、上述したように、経験的に得ることができる。「モデル化された」、「予期された」、または「シミュレートされた」減衰定数τsimulatedは、減衰関数にやはり従う連続した時点のモデル化された(「予期された」)TOF信号から類似的に得ることができる。
【0106】
[0173]誤差関数の出力に基づいて、真の拡散定数を決定することができる(S339)。真の拡散定数は、例えば、
Dreconstructed=arg min(Error(D))
のように誤差関数の最小値として計算される。
【0107】
[0174]この式は、経験的データにできる限り近いTOF信号を生成する候補拡散係数の決定を可能にする。
[0175]例えば、
図3に示された方法に関して、誤差関数は、誤差が最小化される(S337)まで候補拡散定数ごとに決定することができる。代替として、
図4の方法では、経験的なTOFとの相関性は、全ての候補拡散定数が処理された後に実行することができ、これに関し、真の拡散定数の決定(S439)は、誤差関数の最小値を決定することを含む。いくつかの実施形態では、誤差関数の最小値は、理想的にゼロまたは可能な限りゼロの近くである。いくつかの実施形態では、当業界で知られている何らかの誤差関数を使用することができ、その目標は本明細書中に開示されるようにモデル化された係数と経験的な係数の間の誤差を最小化することである。
【0108】
[0176]
図9Aおよび
図9Bは、それぞれ、候補拡散定数の関数としてシミュレートされたTOF信号と経験的に測定されたTOF信号との間の計算された誤差関数のグラフ(
図9A、ΔD≒10
e~5μm
2/ms)、および誤差関数の拡大図(
図9B)を示す。実験的な実施形態では、誤差関数の最小値は、D=0.1618μm
2/msにおけるものであるように計算された。再構築された定数の有効性は、試験され、TOF傾向をバックシミュレートするために使用される。
図10は、この拡散定数を用いて計算されるとともに6mm片の人間の扁桃で測定された経験的なTOFに沿ってグラフで描かれたTOF傾向を示す。
図10では、グラフは、10%NBFの6mm片の人間の扁桃から経験的に計算されたTOF傾向(破線)と、D
reconstructed=0.168μm
2/msについてのモデル化されたTOF傾向(実線)とを示す。この実施形態では、τ
experimental=2.830時間およびτ
simulated=2.829時間である。
【0109】
[0177]さらに、この同じ手順は、
図11Aおよび
図11Bに示されるように、全ての試料についてうまく再構築された拡散定数を有する6mmの人間の扁桃試料のいくつかの標本について繰り返された。
図11Aは、6mmの人間の扁桃の23個の試料について再構築された拡散定数を示す。線1151は平均を表す。
図11Bは、再構築された拡散定数の分布を示す箱ひげ図を示す。線1152は中央値を表し、箱1153は25~75百分位数から延び、ひげ1154は5~95百分位数から延びる。全体的に、アルゴリズムで予測された6mmの扁桃試料は、0.1849μm2/msの平均拡散定数を有し、比較的きつく分布しており、標準偏差0.0545μm2/msをもたらす。
【0110】
[0178]
図12Aは、本開示の実施形態による超音波信号の飛行時間をモニタするためのシステムを示す。超音波ベースの飛行時間(TOF)モニタリングシステムは、超音波信号の位相シフトに基づいて飛行時間の測定を実行するための一対または複数対の変換器(例えば、TA0040104-10、CNIRHurricane Tech)を備えることができる。
図12Aに示される実施形態では、システムは、超音波(「US」)送信機902と超音波受信機904とからなる少なくとも1対の変換器を備え、超音波(「US」)送信機902および超音波受信機904は、送信機から受信機までのビーム経路914内に配置される組織試料910が2つの変換器902、904の共通焦点の近くに位置するように、互いに対して空間的に配列される。組織試料910は、例えば、固定液で満たされている試料容器912(例えば、CellPathの「セルセーフ(CellSafe)5」のような標準的な組織カセット、またはCellPathの「セルセーフ・バイオプシー・カプセル(CellSafe Biopsy Capsules)」のようなバイオプシーカプセル)内に収容することができる。位相シフトベースのTOF測定は、バイオプシーカプセル912が固定液で満たされる前後に、この液が試料の中にゆっくりと拡散する間に実行される。送信機として働く一方の変換器は、組織を横断する音響パルスを送出し、受信機として働く他方の変換器によって検出される。送信機受信機変換器ペアを構成する2つの変換器の間の総距離は「L」と呼ばれる。超音波信号が送信機902と受信機904の間の距離を横断するのに必要とする合計時間は、信号の飛行時間と呼ぶことができる。送信機902は、例えば、4MHzに集中され、3.7~4.3MHzの周波数掃引範囲をサポートすることができる。
【0111】
[0179]いくつかの実施形態では、距離Lは、ここでは少なくとも概算で知られていると仮定される。例えば、変換器の距離は、(例えば、光学的測定技法、超音波ベースの測定技法、または他の測定技法によって)正確に測定することができ、または音響モニタリングシステムの製造業者によって開示することができる。
【0112】
[0180]いくつかの実施形態では、送信変換器902は、定められた時間間隔、例えば数百マイクロ秒の間に、定められた周波数について正弦波(または「正弦波信号」)を送信するように波形発生器(例えば、Analog DevicesからのAD5930)を用いてプログラム可能である。いくつかの実施形態では、この信号は、流体および/または組織を横断した後に受信変換器904によって検出される。いくつかの実施形態では、受信された超音波信号922および発せられた(「送信された」とも呼ばれる)正弦波信号920は、デジタル位相比較器(例えば、AD8302、Analog Devices)を用いて電子的に比較される
[0181]本明細書中に使用されるとき、用語「受信された」「信号」(または波)は、変換器、例えば信号を受信する受信機904によって特定され提供される特性(位相、振幅、および/または周波数など)を有する信号を指す。したがって、信号特性は、信号が試料または任意の他の種類の物質を通った後に特定される。
【0113】
[0182]本明細書中に使用されるとき、「送信された」または「発せられた」「信号」(または波)は、変換器、例えば信号を発する送信機902によって特性される特性(位相、振幅、および/または周波数など)を有する信号を指す。いくつかの実施形態では、信号特性は、信号が試料または任意の他の種類の物質を通ってしまう前に特定される。
【0114】
[0183]例えば、送信された信号は、送信変換器によって特定される信号特性によって特徴付けすることができ、受信された信号は、受信変換器によって測定された信号特性よって特徴付けすることができ、そしてそれによって送信変換器および受信変換器は、音響モニタリングシステムの位相比較器に動作可能に結合される。
【0115】
[0184]
図12Bは、試料のない純粋な試薬を横切るビーム経路についての音波の速さを推論することができる純粋な試薬についてのTOFの決定を示す。本実施形態では、1つまたは複数の変換器ペア902、904および試料容器912は、互いに対して移動することができる。いくつかの実施形態では、システムは、USビームが固定液だけを含むが組織を含まない容器の領域914を横断するように容器912の位置を移し変えることができる容器ホルダを備える。
【0116】
[0185]時間Aにおいて、組織が固定液中にまだ浸漬されていないとき、変換器間の距離を横断する音信号についてのTOFは、
図12Aに説明されたように、測定された位相シフトψexpによって得られる。この場合には、ビーム経路は、試薬がない試料を横切る。Lが知られているので、測定されたTOFは、非拡散試料の存在中の距離を横断する音信号の速さを算出するために使用することができる。
【0117】
[0186]時間Bにおいて、組織が固定液中に浸漬されるとき、変換器間の距離を横断する音信号についてのTOFは、測定された位相シフトψexpによって得られる。この場合には、ビーム経路は、試薬だけを含み試料を含まない試料容器を横切る(または、試料がない位置で試料容器を横切る)。Lが知られているので、測定されたTOFは、ビーム経路中に試薬(および試料容器)だけが存在する距離、すなわち、試料が存在しない距離を横切るための音信号の速さを算出するために使用することができる。
【0118】
[0187]時間Aおよび時間Bは、さらなる変換器ペアが並列で2つの測定を実行するように構成されている場合に、同一の時点を表すことができる。
[0188]III.実施例
[0189]試料内の空間および時間にわたっておよび組織試料タイプにわたって試薬濃度を決定する開示された方法の調査が行われた。上述したように、試料はTOFシステムを用いてNBF内で低温浸漬中にモニタされ、経時的に抽出された経験的なTOFデータが得られた。TOF分析の後。試料は、組織を固定するために温められ、次いで試料パラフィンブロックを調製するために組織プロセッサにおいて処理された。いくつかの実施形態では、このブロックはミクロトーム上でスライスされ、顕微鏡スライド上に装着され、標準プロトコルにより染色され、いくつかの例では染色品質を評価するために適したスライドリーダによって読まれた。
【0119】
[0190]
図13は、円筒形の組織コアなどの円筒形の対象の中への試薬の拡散のモデルを示す。見ることができるように、試薬濃度は、まず組織試料の縁で急速に増加し、(そうであるとしても)最初に中心での試薬の濃度が最初ゆっくり増加し、濃度変化の遅れが試料の縁で見られ、次いで再び遅くし始める前に後の時点で加速する。このモデルでは、
TOF∝∫c(試薬)
である。
【0120】
[0191]
図5Bと比較すると、経時的な濃度の変化は、拡散されたパーセンテージについて見られる変化よりも速度が変わりやすい。これは、拡散率が試料全体にわたって測定された平均であるので、予期されないものではなく、これに対して、濃度変化は、位置固有である。
【0121】
[0192]さらに、試料多孔率は、以下の式、すなわち、
【0122】
【0123】
のAに比例するので、
[0193]拡散定数が知られると、候補多孔率を使用してシミュレートされたTOF曲線を計算し、経験的なTOF曲線と比較されて誤差を生じさせることができ、この誤差は最小化することができる。誤差関数は、例えば、以下のもの、すなわち、
【0124】
【0125】
Error(D)-(τsimulated(porosity)-τexperimental)2
の1つを用いて異なるやり方で算出することができる。
【0126】
[0194]いくつかの実施形態では、第1の誤差関数は、シミュレートされた(「モデル化された」、「予期された」)TOF信号と経験的に測定されたTOF信号との間の点ごとの差を計算する。
【0127】
[0195]いくつかの実施形態では、第2の誤差関数は、それぞれの減衰定数の間の差の二乗の和を計算することによってシミュレートされたTOF信号とモデル化されたTOF信号との間の拡散速度を排他的に比較する。経験的な減衰定数τexperimentalは、上述したように、経験的に得ることができる。「モデル化された」、「予期された」、または「シミュレートされた」減衰定数τsimulatedは、減衰関数にやはり従う連続した時点のモデル化された(「予期された」)TOF信号から類似的に得ることができる。
【0128】
[0196]いくつかの実施形態では、誤差関数の出力に基づいて、真の拡散定数を決定することができる。真の多孔率は、誤差関数の最小値、例えば、
ρconstructed=arg min(error(porosity))
として計算される。
【0129】
[0197]いくつかの実施形態では、試料の多孔率が決定されると、空間および時間の特定の点における試薬の濃度は、以下の式、すなわち、
【0130】
【0131】
を用いて計算することができる。
[0198]
図14は、約3時間および約5時間における扁桃組織コア試料(約6mmの円筒形)の中心へのホルマリン溶液の拡散率の典型的な分布を比較的に示しており、約3時間において、試料の浸漬はまあまあの染色をもたらすのに対して、約5時間において、浸漬は「理想的な」染色をもたらす。平均すると、約3時間の浸漬を受けた試料は、組織中心で約52.6%の拡散率に到達し、5時間の浸漬の浸漬を受けた試料は、拡散された約76.9%の平均拡散率に到達する。約5時間での約95%予測間隔は、病理学者の検査によって判定されるときに、「理想的な」染色を実現するために中心で試料が少なくとも約52.45%拡散されることを必要とすることを示す。
【0132】
[0199]
図15は、比較のために、組織試料の中心における拡散率に基づく染色品質(感度および特異性)の受信機動作特性(「ROC:receiver operating characteristic」)曲線を示す。この例では、組織中心で拡散率を用いることで、染色品質の予測のために、組織中心で拡散されたパーセンテージの測定値に基づいて、曲線下エリア(AUC:Area Under the Curve)0.8926をもたらす。
【0133】
[0200]
図16は、比較のために、試薬への露出3時間と5時間の間の組織試料の中心における測定された拡散率の差(その結果、3時間の拡散と5時間の拡散の間の平均の差が組織の中心で24.3%となる)の典型的なグラフを示す。
【0134】
[0201]次に、TOFデータから組織試料内の特定の空間の点で試薬濃度を決定する開示された方法を用いて得られる結果を見ると、
図17は、いくつかの試料についての決定された扁桃組織の体積の多孔率の生のデータ分布を示す。
図18は、決定された扁桃組織の体積の多孔率についての
図17のデータの対応する箱ひげの分布を示す。見ることができるように、扁桃組織は、特に、約0.15の平均多孔率を示す。
【0135】
[0202]
図19は、約3時間および約5時間における扁桃組織コア試料(約6mmの円筒形)についての組織試料の中心におけるホルムアルデヒド濃度の典型的な分布を示しており、3時間の試料の浸漬はまあまあの染色をもたらすのに対して、5時間の浸漬は「理想的な」染色をもたらす。平均すると、3時間の浸漬を受けた試料は、組織中心で92.3mMのホルムアルデヒド濃度に到達し、5時間の浸漬を受けた試料は、137.5mMの組織中心で平均濃度に到達する。5時間における95%予測間隔は、病理学者の検査によって判定されるときに、「理想的な」染色を実現するために、試料は固定中にホルマリン組織中心で少なくとも91.07mMを実現しているべきであることを示す。
【0136】
[0203]
図20は、組織試料の中心におけるホルムアルデヒド濃度に基づいて染色品質(感度および特異性)のROC曲線を示す。この場合のAUCは0.9256であり、これは、
図15に示すように、染色品質の指標としての組織中心における拡散されたパーセンテージの使用(AUC-0.8926)と比較して、染色品質の指標として組織中心でホルムアルデヒド濃度を使用することの優位性を示す。
【0137】
[0204]同様に、
図21は、染色品質の指標としての組織中心における試薬濃度の優位性を示す。したがって、
図21は、NBF溶液中の約3時間の浸漬と約5時間の浸漬との間の組織試料の中心におけるホルムアルデヒド濃度の差のグラフを示す。全体期には、濃度に見られる平均の差は、約45mMである。拡散されたパーセンテージの差(24%;
図16)と比較すると、約3時間と約5時間の間の組織中心における濃度の差は、組織中心で染色品質に影響を与えることができる浸漬中の後で生じる試薬濃度の差を反映する約33%(45mM/137mM×100%)でより劇的である。やはり、これは、(拡散されたパーセンテージ測定単独の場合におけるように)試料体積全体にわたっての平均測度とは対照的に、試料体積内の特定の位置および時間である測度(この場合は濃度)を与える方法を用いることの利点を示す。
【0138】
[0205]扁桃組織についての多孔率を決定するために開示された方法を使用できることが確立されているので、多孔率は、約10個の異なる組織タイプ(約80個の試料)について測定され、その結果は、いくつかの組織タイプについての生の多孔率の分布を示す
図22に示されている。
図23は、いくつかの組織タイプについての多孔率の箱ひげの分布のセットを示すグラフである。見ることができるように、大部分の組織タイプについて、平均多孔率(箱の線)は、約0.1から約0.2の間であるのに対して、皮膚は、約0.3よりも大きいずっと高い多孔率を有する。
【0139】
[0206]比較のために、
図24は、いくつかの組織タイプについての決定された拡散定数の分布を示し、
図25は、いくつかの組織タイプについての拡散定数の箱ひげの分布のセットを示すグラフである。いくつかの組織タイプの間で決定される平均多孔率と比較すると、拡散定数は、より変わりやすい。
【0140】
[0207]
図26は、いくつかの組織タイプについて決定された約3、約5、および約6時間における組織試料の中心での生の拡散率の分布を示し、
図27は、いくつかの組織タイプについての約3、約5、および約6時間における組織試料の中心での拡散率の箱ひげの分布のセットを示すグラフである。
図28は、いくつかの組織タイプについての約3、約5、および約6時間における決定された組織試料の中心におけるような生のホルムアルデヒド濃度の分布を示し、
図29は、いくつかの組織タイプについての約3、約5、および約6時間における組織試料の中心でのホルムアルデヒド濃度の箱ひげの分布のセットを示すグラフである。組織の中心での拡散率の測定に基づく生のデータおよび箱ひげの分布と試薬濃度の測定に基づく生のデータおよび箱ひげの分布との比較から、濃度が利用されるときにデータはよりきつく密集する傾向があることが分かり得る。
【0141】
[0208]
図30は、示された浸漬時間の後のいくつかの組織タイプについての組織試料の中心における生のホルムアルデヒド濃度の分布を示し、
図31は、示された浸漬時間の後のいくつかの組織タイプについての組織試料の中心におけるホルムアルデヒド濃度の箱ひげの分布のセットを示すグラフである。これらの結果は、より早期の研究が、低温+高温の固定プロトコルの低温ステップにおける少なくとも約6時間(扁桃について約5時間)の固定により「理想的な」染色を確実にすることを示したので、約90mMを超える(100mMを超えるなど)組織中心のホルムアルデヒド濃度と「理想的な」染色との相関性を裏付ける。この結果は、顕微鏡分析によってさらに裏付けられ、
図32に示された組織を決定する適したリーダは、示された時間の後に「理想的な(最適な)」染色を実際に示した。
【0142】
[0209]
図33は、6時間の10%NBF中の浸漬の後の組織試料の中心における全ての組織タイプにわってのホルムアルデヒド濃度の生の分布を示し、
図34は、6時間の10%NBF中の浸漬の後の全ての組織についての組織試料の中心におけるホルムアルデヒド濃度の箱ひげの分布を示す。「理想的な染色」の実現のための90mM(または100mM)のホルムアルデヒド濃度レベルは、全ての組織タイプにわたって裏付けられる。TOFデータに基づく組織の中心におけるホルムアルデヒド濃度の計算と単に標準固定時間プロトコルを用いた組織の中心におけるホルムアルデヒド濃度の計算との間の差は、約6時間の浸漬は、径約6mmよりも大きい試料にとって理想的な染色を実現するには十分でないかもしれないが、組織中心における少なくとも90mM(または100mM)のホルムアルデヒドを実現するのに十分な時間は、試料の「理想的な」染色を確実にするというものである。逆に、約6時間の標準固定時間を用いて潜在的に固定され過ぎである可能性があるより小さい試料(例えば、針コア生検)は、単に組織中心における濃度が少なくとも約90mMに到達するまで処理されればよく、したがって解析時間全体がより短くなる。
【0143】
[0210]
図35は、組織試料の中心における拡散係数、多孔率、およびホルムアルデヒド濃度を得る開示された方法の一実施形態を示す。S430において、試料の音響速度は、
図3の内容で前述したように測定される。また、
図3の実施形態のように、動作および決定S431、S432、S433、S434、S435、S436、S437、およびS438は、拡散定数を特定するために実行される。S439において拡散定数が決定されると、試料に中への試薬溶液の拡散をモデル化するために使用される多孔率の範囲は、S440で設定される。この範囲は、デフォルトで設定されてもよく、またはユーザによって入力されてもよい。例えば、
図22に関して上述した経験的に決定された多孔率の値に基づいて、0.05から0.50(またはより狭い)の範囲までは、全部ではないが、ほとんどの組織タイプをカバーするはずである。組織タイプが前に試験されているとき、より狭い範囲が設定されてもよく、例えば、ユーザは、モデルが探索する適切な値の範囲を与えるように組織タイプを入力することができる。S441、S442、およびS443において、S439からの拡散定数、およびS440で設定された候補多孔率は、一連の時点TからT+nにわたって試薬の空間依存性をモデル化するために使用される。次いで、一連の時点にわたって構築されたこのモデルは、S444において予期されたTOF曲線を生成するために使用され、S445において経験的なTOF曲線と相関される。S446において、予期されたTOF曲線と経験的なTOF曲線との間の誤差は、それが最小であるのか見るために確認され、そうである場合、S448において、候補組織の多孔率は、実際の組織の多孔率であるように決定される。そうでない場合、S447において、プロセスが第2の候補多孔率を用いて繰り返される。拡散定数(S439)と多孔率(S448)の両方が定められると、時間にわたる試薬濃度の空間モデルが、S449において生成可能である。経時的な試薬濃度の空間モデルが確立されると、試料中心における濃度など、特定の時間における試料内の特定の点での濃度は、モデルから抽出することができる。
【0144】
[0211]第2の実験のセットでは、試料が固定された後の組織試料調製ワークフローをモニタするTOF測定の適用可能性が試験された。組織試料は、匿名化された物質として得られた。試料は、外科的切除から、ならびに新たな外科物質を得るのが難しいときには検死物質から新たに収集された。全ての標本が、6mmパンチのコアをなすか、または最大厚さ約6mmであるように切断される。実際には、組織のゼリー状の性質により、厚さ4~7mmの試料が研究に含まれているが、大部分の試料(85%)が、6mmの厚さであると概算される。全体としては、合計250個の組織が、正常なおよび癌にかかった乳房、正常なおよび癌にかかった結腸、正常なおよび癌にかかった腎臓、正常なおよび癌にかかった肺、肝臓、脂肪、皮膚、および扁桃を含む8つの異なる器官から収集された。全ての組織が試薬ごとにモニタされるのではなかったが、これは、研究が当初NBFから開始され、次いで3×エタノール脱水のモニタリングを追加し、最後に、キシレン洗浄のモニタリングを追加したからである。組織が失われた場合、試薬が誤って蒸発した場合、またはTOF計器が誤差を有する場合、データを収集することができず、したがって、全ての試薬が全ての組織についてうまくモニタされているのではない。全体としては、170、113、123、98、および31個の組織試料が、NBF、70%エタノール、90%エタノール、100%エタノール、およびキシレンの中でそれぞれモニタされた。
【0145】
[0212]先に説明したように、市販のディップ・アンド・ダンク組織プロセッサ(Lynx II, Electron Microscopy Sciences)は、音響モニタリング技術で改良された。別のところに記載したカスタム開発されたデジタル音響干渉計アルゴリズムは、サブナノ秒の精度(25)で組織内の流体交換から生じるわずかな音響位相の遅延を検出するために使用された。4MHz集束変換器のペアが特別に配列され、組織試料がそれらの共通の焦点の近くに配置された、送信用変換器は、試薬および組織を横断した後に受信用変換器によって検出される正弦波パルスを送出するようにプログラムされ、受信されたパルスを使用して通過時間を計算した。組織は、メッシュの生検カセット(CellSafe 5生検カセット、CellPath USA)内に保持され、複数の試料を一度に測定するようになっている(
図1d参照)。カセットホルダは、組織試料全体にわたっての拡散を空間分解能1mmでモニタすることができるように機構的に並進された。ベースラインTOF値が、試薬だけを通じてTOFを測定することによって取得され、この基準値はTOFから減算され、組織は、位相遅延を組織から分離するように示すとともに、環境的に誘起される試薬のばらつきを補償する。
【0146】
[0213]
図36Aは、TOFイネーブルド組織処理システム100の一実施形態斜視概略図を示し、このTOFイネーブルド組織処理システム100は、音響モニタリングデバイス102と、処理用化学薬品を保持する槽を備えたいくつかのチャンバ120とを備え、それらの間では、音響モニタリングデバイス102が、組織処理プロトコルの実行のために、試料とともに移動させられることが可能である。他の実施形態では、音響モニタリングデバイスは、特定の槽の壁の中に組み込むことができ、試料は、組織処理プロトコルに従ってTOF槽および他の槽に出入りするように移動させられる。特定の実施形態では、TOFイネーブルド槽は、70%EtOH槽であり、これは、有利なことに70%エタノール中の組織のTOF挙動に基づく続き処理ステップの自動設定を可能にする。本明細書中に使用されるとき、「槽」は、組織処理ステップが内部で実行される任意のエンクロージャを指す。1つまたは複数の槽内にTOF測定容積を含むように改良または他の方法で再設計できる多くの異なる設計の組織プロセッサが存在することが当業者によって認識されよう。TOFイネーブルド組織処理システムから得られるデータを使用して、ユーザが特定のタイプおよびサイズの組織、または同様の処理要件を共有する特定のタイプおよびサイズの組織のグループのための組織処理プロトコルをプログラムすることを可能にする自動化システムのためのルックアップテーブルを開発することも考えられる。このシステムは、特定の選択されたプロトコルが含まれ得る組織タイプに類似する案内をユーザに与えることもできる。例えば、ユーザは、特定の組織タイプおよびサイズの第1の試料を選択し、次いで第1の試料とともにバッチするための他の適切な試料のリストが示され得る。このようにして、同様に処理時間を必要とする試料だけが、同じペースの処理を通じて進むことができ、これによってラボワークフロー効率全体を向上させることができる。
【0147】
[0214]
図36Bは、例示的な音響モニタリングデバイス102の斜視概略図を示す。組織カセット150は、超音波送信機130と超音波受信機140との間にモニタリングデバイス内に移動可能に保持される。
図36Cは、数片の組織160を保持する組織処理カセット150を示す。超音波送信機130および受信機140ペアとカセット150との間の相対的な動きにより、単一の組織試料の異なる部分においてTOFを測定すること、または同じカセット内の異なる組織片についてのTOF信号の測定が可能になる。
【0148】
[0215]例えば、
図36Dは、10%NBF中に浸漬されている単一片の組織について得られ、音響モニタリングデバイスの送信機部分および受信機部分に対して試料を移動させることによって収集されるいくつかのTOFトレースを示す。個々のTOF信号は、ノイズを低減するために、低次メディアンフィルタ、および3次バターワースフィルタを用いてフィルタ処理された。流体交換の速度の代表的な計量を得るために、全ての個々のTOF信号は、標本全体の平均拡散速度を表す単一のTOF曲線を生成するために共に平均化された。
図36Eは、単一片の組織について観察された空間的に平均化されたTOF信号(実線)、およびその指数曲線フィット(破線)を示す。音の速さは、組織内の交換可能な流体よりもホルマリン中で速いので、組織の中への受動的ホルマリン拡散は、試料の音速を徐々に増加させる。この速度の増加は、組織を通じての音響通過時間を次第に減少させる結果となる。フィックの法則による予期と一致し、試料は、最初に大きい濃度の傾きから急速な変化を受け、拡散性の平衡状態が実現されるにつれて、徐々に流体交換がなくなる方へ向かう傾向がある(
図36E参照)。この手法は、組織内の実質的な空間異質性の影響も軽減する。最後に、TOFの予測において、低温ホルマリン拡散中の変化は、単一指数減衰とよく相関し、したがって平均拡散曲線は、非線形回帰を用いて単一指数関数にフィットされた。組織の音響特性は、組織の収縮、変形、または低い圧縮性になるなどの組織処理中の様々な理由で変化し得るが、TOF信号は、完全でない場、組織に出入りする流体の拡散により、優勢であることが前もって示されている。
【0149】
[0216]いくつかの実施形態では、カスタム組織処理プロトコルは、我々のTOFモニタリング技術は処理試薬の拡散から生じる組織の変化を検出することができるというコンセプトの証明を確立するために使用された。組織を単一の試薬に複数回かけるのに代えて、本開示によるカスタムプロトコルは、特定の試薬ごとの拡散速度に関連した連続的な信号の検出を可能にするために、組織を長時間にわたって各試薬に一度かける。連続した順序で、TOFモニタリングは、低温10%NBF、70%エタノール、90%エタノール、100%エタノール、および純キシレンにおける各組織試料について使用された。カスタムTOFプロトコルにおける全ての試薬についての時間および温度は、下の表1に示される。組織は、組織が当初低温NBF中に置かれる2温度固定法を用いてホルマリン中に固定され、架橋を素早く開始するために加熱NBFへ移動される前に、ホルムアルデヒドの制限されない拡散を可能にする。組織はバルク試薬を用いてすでに拡散性の平衡状態にあり、したがって拡散は起こらないので、TOF信号は加熱NBFにおいて報告されない。TOF技術は、原理ではこの手法は、キシレンおよびパラフィンの差のある音速に基づいてパラフィン包埋の進行を検出することができるが、実際の検討のためには、ワックスが超音波変換器を包むなどのパラフィン包埋をモニタするためには使用されなかった。
【0150】
【0151】
[0217]表1は、ホルマリン、約70%エタノール、約90%エタノール、約100%エタノール、および純キシレンの拡散速度を研究するために使用されるカスタムTOFプロトコルについての固定ステップおよび組織処理ステップを示す。csは音の速さであり、Δcsは続く2つの試薬間の音の速さの差である。音速は、様々な源(25~27)から参照され、約70%および約90%の音速が、水と純エタノールの線形な組み合わせとして計算された。
【0152】
[0218]TOFシステムは、カスタム組織処理プロトコルを用いて複数の試薬からいくつかの異なるタイプの組織の中への流体交換の測度を研究するために使用された。腎臓試料全体にわたって小さい領域からのTOF曲線の例が示されており、全部について、モニタされた5つの試薬が
図37A、
図37B、
図37C、
図37D、および
図37Eの生のTOF信号(上枠)および空間的に平均化されたTOF信号(下枠)の両方に示されている。試料がより高いエタノールの濃度へ移動されたとき、組織を通じてのTOFは、超音波はホルマリン中よりもエタノール中でよりゆっくり移動するので、予期されたように連続的に増加した(すなわち、スローダウンした)。NBF拡散に関するTOFの極性の反転、およびエタノール信号の減少する振幅は、共に、これらの試薬の音速からの予期と一致した。最後に、試料が絶対的なエタノールから絶対的なキシレンへ移動されたとき、音速が絶対的なエタノールよりも絶対的なキシレンの中で大きいので、TOFは減少した。NBFにおける先の発見に従っているとき、約70%エタノール、約90%エタノール、約100%エタノール、および絶対的なキシレンからのTOF拡散ベースの信号は、
図37A、
図37B、
図37C、
図37D、および
図37Eの下図に見ることができるように、単一の指数関数と全部よく一致している。全ての組織および試薬にわたっての各指数フィット(S誤差)からの平均偏差は、せいぜい3.22ns(
図37F参照)であるとともに。数百ピコ秒ほどである。全ての組織および試薬にわたってのTOF信号からの調整されたR2価は、0.98より大きかった(
図37G参照)。全ての組織および試薬にわたっての信号対ノイズ比(SNR)は、
図37Hに示されている。全体としては、典型的には調製されたR2が0.98より大きく、かつフィットからの平均偏差が全ての試薬について50から100の間にあるSNRによって示されるようにTOFの振幅のたった1~2%であるとき、全ての組織および試薬からのTOF信号は、単一指数関数ととてもよく相関した。注目すべきは、約70%エタノールにおけるTOF測定について高いSNRであり、これは、有利には、典型的な組織処理プロトコルに使用される第1の試薬である約70%エタノールとともに一致し、以下に示すように観察した場合、続く組織処理プロトコルステップの拡散速度(およびしたがって完了時間)は、70%エタノールにおいて測定されたTOFから予測することができる。
【0153】
[0219]
図38Aは、約10%NBF、約70%エタノール、約90%エタノール、約100%エタノール、および約100%キシレンにおける正常な腎臓組織についての絶対的なTOF信号を経時的に示す。黒い実線は平均信号を表し、陰影エリアは±σである。
図38Bは、約10%NBF、約70%エタノール、約90%エタノール、約100%エタノール、および約100%キシレンにおける正常な乳房組織についての絶対的なTOF信号を経時的に示す。黒い実線は平均信号を表し、陰影エリアは±σである。
図38Cは、約10%NBF、約70%エタノール、約90%エタノール、約100%エタノール、および約100%キシレンにおける正常な結腸組織についての絶対的なTOF信号を経時的に示す。黒い実線は平均信号を表し、陰影エリアは±σである。
図38Dは、約10%NBF、約70%エタノール、約90%エタノール、約100%エタノール、および約100%キシレンにおける腎臓癌組織についての絶対的なTOF信号を経時的に示す。黒い実線は平均信号を表し、陰影エリアは±σである。
図38Eは、約10%NBF、約70%エタノール、約90%エタノール、約100%エタノール、および約100%キシレンにおける乳癌組織についての絶対的なTOF信号を経時的に示す。黒い実線は平均信号を表し、陰影エリアは±σである。
図38Fは、約10%NBF、約70%エタノール、約90%エタノール、約100%エタノール、および約100%キシレンにおける脂肪組織についての絶対的なTOF信号を経時的に示す。黒い実線は平均信号を表し、陰影エリアは±σである。
【0154】
[0220]これらの化学薬品の音速から予期されるように、TOFは、約10%NBFにおいて減少し、段階的なエタノールの濃度が増加するにつれて次第に増加し、最終的にキシレンにおいて減少する。約90%エタノールを約100%に置き換えることで、約70%と約90%エタノールを交換するよりも小さい音速差を生成するので、エタノール濃度が増加するにつれて3つのエタノール信号の振幅も減少することを理解されたい。興味深いことに、キシレン中の脂肪試料は、一貫してTOF信号の増加を示した。完全に説明することはできないが、この直観に反した結果は、脂肪試料のキシレンを失った部分(xylene stripping part)の結果であり得、これは、キシレンよりも速い音速を有し、したがって試料中の音の速さを減少させ、観察されたTOFを増加させる。正確な機構にかかわらず、信頼できるかつ安定したTOF信号は、試料およびキシレンが平衡状態であるときを示す。TOFモニタリングは、組織標本に生じた流体交換の量、およびそれが生じている速度の定量的な追跡を可能にする。
【0155】
[0221]
図39Aは、約10%NBF、約70%エタノール、約90%エタノール、約100%エタノール、および約100%キシレンにおける正常な腎臓組織について正規化されたTOF信号を経時的に示す。黒い実線は平均信号を表し、陰影エリアは±σである。
図39Bは、約10%NBF、約70%エタノール、約90%エタノール、約100%エタノール、および約100%における正常な乳房組織について正規化されたTOF信号を経時的に示す。キシレン黒い実線は平均信号を表し、陰影エリアは±σである。
図39Cは、約10%NBF、約70%エタノール、約90%エタノール、約100%エタノール、および約100%キシレンにおける正常な結腸組織について正規化されたTOF信号を経時的に示す。黒い実線は平均信号を表し、陰影エリアは±σである。
図39Dは、約10%NBF、約70%エタノール、約90%エタノール、約100%エタノール、および約100%キシレンにおける腎臓癌組織について正規化されたTOF信号を経時的に示す。黒い実線は平均信号を表し、陰影エリアは±σである。
図39Eは、約10%NBF、約70%エタノール、約90%エタノール、約100%エタノール、および約100%キシレンにおける乳癌組織についての正規化されたTOF信号を経時的に示す。黒い実線は平均信号を表し、陰影エリアは±σである。
図39Fは、約10%NBF、約70%エタノール、約90%エタノール、約100%エタノール、および約100%キシレンにおける脂肪組織についての正規化されたTOF信号を経時的に示す。黒い実線は平均信号を表し、陰影エリアは±σである。
【0156】
[0222]同じ例の組織タイプが、
図38A~
図38F、および
図39A~
図19Fに示されている。TOF信号は、流体交換の速度の視覚化を助け、プロセスが完了するまでのどのくらいの長くかかるのか見るのを容易にするために、化学薬品ごとに平均の値に正規化された。視覚的に、試料が化学薬品を拡散させる速度の差を示すことができ、例えば、癌にかかった腎臓試料と乳房試料の両方は、それらの正常な対応部分と比較してより変わりやすい処理速度であり、一般に、エタノールの拡散速度は、濃度とともに増加するように生じる。
【0157】
[0223]手短にまとめると、修正された組織プロセッサを用いて収集された全てのデータ、ならびにTOFの減衰時間および振幅の分布が計算された。
図40Aは、試薬によってグループ化された全ての減衰振幅の分布を示す。実線は中心値であり、実線の箱は25から75百分位数を表し、ひげは1.5×四分位数間範囲まで延び、ひげの外側のデータは円によって表され、これに対して、
図40Bは、試薬および組織タイプによる減衰振幅の分布を示す。負の振幅は増加するTOFであり、正の振幅は減少するTOFである。実線は中心値であり、実線の箱は25から75百分位数を表し、ひげは1.5×四分位数間範囲まで延び、ひげの外側のデータは円によって表される(Ca=癌)。組織学的標本がエタノール中で脱水されるべきおよびキシレン中で洗浄されるべき程度または割合についての認められた標準が今まで設けられていなかったので、ここで、我々は、90%拡散される試料に要求される時間を表示するように選ぶ。
図40Cは、試薬によってグループ化された90%拡散するのに要する時間の分布を示す。実線は中心値であり、実線の箱は25から75百分位数を表し、ひげは1.5×四分位数間範囲まで延び、ひげの外側のデータは円によって表されている。
図40Dは、試薬および組織タイプによる組織が90%拡散するのに要する時間の分布を示す。実線は中心値であり、実線の箱は25から75百分位数を表し、ひげは1.5×四分位数間範囲まで延び、ひげの外側のデータは円によって表されている。Ca=癌である。皮膚および脂肪などの、いくつかの試料は、より高いエタノール濃度およびキシレンをきれいにするのに比較的長い時間がかかるが、典型的には、約70%エタノールの拡散は、他の3つの試薬の拡散よりも遅いことを理解できる。もう一度、異なる器官が処理剤をきれいにする速度にかなり大きいばらつきがある。注目すべきは、脂肪試料がどのくらいゆっくり3つのエタノール溶液全部をきれいにするのかとともに、皮膚試料の処理で非常に変わりやすいことである。
【0158】
[0224]約90%エタノール、100%エタノール、およびキシレンにおける特定のタイプの組織についての約90%拡散時間が、約70%エタノールを用いて約90%拡散されるのに試料が必要とする時間がどのくらい必要であったのかということと比較される。
図41Aは、ラベル付けされたようないくつかの組織タイプについて、約90%エタノールの拡散時間対約70%エタノールの拡散時間を示す。円は平均拡散時間を表し、水平の破線は水平軸の±σを表し、垂直の実線は垂直軸の±σであり、特定の組織タイプはそのようなものとしてラベル付けされている。
図41Bは、ラベル付けされたようないくつかの組織タイプについて、約90%エタノールの拡散時間対約100%エタノールの拡散時間を示す。円は平均拡散時間を表し、水平の破線は水平軸の±σを表し、垂直の実線は垂直軸の±σを表す。
図41Cは、ラベル付けされたようないくつかの組織タイプについて、キシレンの拡散時間対約70%エタノールの拡散時間を示す。円は平均拡散時間を表し、水平の破線は水平軸の±σを表し、垂直の実線は垂直軸の±σを表す。十分な処理をするためにより長い時間を必要とする組織は、後続処理ステップの全部または大部分についてもより長いことを要求する傾向もある。完全な相関性ではないが、脂肪および皮膚などの約70%エタノールをゆっくり拡散する傾向がある組織タイプ、ならびにそれには及ばないものの乳房も、約90%エタノール、約100%エタノール、およびキシレンを拡散するのにより長くかかる傾向がある。この目的で、続く試薬を通じての拡散速度が約70%エタノールにおける拡散速度と相関することを示し傾向が見られ得る。
【0159】
[0225]最適な処理時間についての予測基準が開発された。
図42、
図44、および
図46のグラフは、収集された全てのデータの平均偏差および標準偏差を示すが、
図43A~
図43D、
図45A~
図45D、および
図47A~
図47Dにそれぞれ示される対応する予測統計解析におけるペアのデータ点だけが含まれた。ペアのデータは、両試薬が研究されている間に拡散時間がうまく記録されたことを示す。1つの組織タイプ内でも、試料ごとのばらつきはかなり大きいものであり、紛らわしい結果をもたらす可能性があるので、これは重要である。
図42、
図44、および
図46では、ペアのデータ点だけが3つの試薬ペアごとにグラフで描かれ、それぞれのデータ点のセットは、変動定数を用いてべき関数と最もよく相関するように経験的に決定された。約90%エタノール、約100%エタノール、およびキシレンそれぞれについて20分、29分、および8分のフィットからのばらつきを伴う曲線フィットの正確さは、非常に強かった。これは、べき関数を用いた曲線フィッティングの使用および70%エタノール拡散が生じる速度の知識により、他の化学薬品について拡散速度を正確に予測することができることを示す。さらに、統計的解析は、経験的なペアのデータセットごとに行われ、予測間隔が各ベストフィットラインのあたりで計算された。予測間隔は、
図42、
図44、および
図46の3つのグラフ全部に破線として示される。
図42および
図44では、99%信頼区間に対するベストフィットラインは、約1時間であり、試料が約70%エタノールを拡散する速度を示すこと使用して、1時間までの範囲内で組織試料の99%が約100%エタノールの拡散約90%になるのにのどくらいかかるかを予測することができる。キシレン(
図46)の場合、相関性がいっそうより強く、そのため約70%エタノールの拡散の速度の知識を用いて、30分未満までの範囲内で試料がキシレンを拡散するのにかかる時間を予測する。この堅固な相関性は、70%エタノールについて拡散速度が決定されると、以下のステップは正確に予測できることを示す。
【0160】
【0161】
[0227]全体として、8つの異なる器官からの126個の試料が、癌にかかった乳房、結腸、腎臓、および肺に加えてモニタされた。エタノール脱水およびキシレン洗浄は、音響TOF検出を用いて堅固に特徴付けることができ、信号の振幅および流体交換の速度は、試料ごとにおよび様々なタイプの組織間で大きく変動する。全ての処理試薬からの流体交換の関数形態は、単一指数と非常に相関した(R2adj=0.992±0.02;信号振幅の=1.5%±1のフィットからの偏差)。いくつかの実施形態では、技術は、処理試薬が組織の品質およびFoxP3などの癌バイオマーカーの下流免疫認識の全体に与える影響を定量的に評価するために使用することができる。さらに、開示された方法は、組織処理時間を早め、完全にトレース可能および繰り返し可能な解析前ワークフローにおける組織学的標本の処理を標準化することに向けたガイドを与えるやり方を提供する。本開示は、正確な音響TOF検出を用いて多数の異なるタイプの組織からのex vivo組織試料におけるホルマリン、段階的なエタノール、およびキシレンの拡散、脱水、および洗浄のリアルタイムモニタリングを示す。処理試薬からのTOF拡散の傾向は、修正された組織プロセッサおよび正確TOF計算アルゴリズムを用いて組織中のNBFの拡散をリアルタイムでモニタした先の結果と一致する。試料品質の経験測度(例えば、病理学者の採点)と組み合わせたこの技術は、相対的量の流体交換、交換の速度、さらに組織内の濃度プロファイルが、様々な試料のタイプ、サイズ、形状などについて標本が最適に処理されるのに必要な時間と相関し、異なる形状の試料について熱方程式を用いて他の形状の組織試料に拡張されることを可能にする。例えば、複雑な試料形状でも、各試薬中で最も長い時間を必要とし、したがってこの特定の試料について処理時間全体を設定する試料の一部を各サブ形状が決定するようになされた3次元画像および計算に基づくサブ形状に分解され得る。同様に、開示された方法は、異なる区画内で同様の処理時間を必要とする試料のバッチを別々かつ同時に処理するための区画を備えた組織処理システムを可能にする。この能力を用いた流体湿潤のリアルタイム検出は、第1の時間にわたって試料が処理される程度の定量化を可能にし、処理が組織学的組織および下流診断アッセイに与え得る影響を研究するために使用することができる定量的な品質測定基準の開発を助けることができる。この能力は、組織が拡散を終える正確な時間を決定することができるので、組織標本のより高速な処理を可能にすることができる。バッチモード処理を用いても、この技法は、プロセスの繰り返し精度および品質保証を改善するために、臨床用の組織試料についてより高速で、より一貫し、標準化された処理プロトコルを開発するために使用することができる。上記の例には示されていないが、キシレンおよびパラフィンの音速が異なる場合、この技術は、パラフィン包埋をモニタすることに拡張することができ、これによって組織学的標本の固定および処理の全体を定量的に追跡および研究することが可能になる。いくつかの実施形態では、開示されたシステムおよび方法は、骨部位の石灰質除去を最適化するために使用されてもよく、これは、石灰質除去が不十分な試料はIHCに適さず、一脱石灰化剤への過剰露出により組織形態、核染色質、および核酸を損なう可能性があるので、有用であることが分かっている可能性がある。
【0162】
[0228]さらに、記載された全ての組織処理TOFの研究は、減衰時間および振幅に関して説明されるが、TOFモニタリングは、試料の中への試薬の拡散の程度の他の測度に基づいてもよく、使用することができる。例えば、拡散率、組織の中心における試薬濃度、または試料の中への試薬拡散の程度に関する任意の他のTOFから得られる測度を使用して、完了までの時間の情報を与えることができる。
【0163】
[0229]さらに、TOF技術は、処理試薬への露出と組織学的標本の品質および/または下流アッセイの結果との間の相関性を決定するために使用することができる。例えば、処理過剰および処理不足の試料と柔らか過ぎるまたは過度に脆い組織学的組織から生じる顕微鏡法アーチファクトとの間の相関性を、決定することができる。この情報を用いて、最良の実施および組織処理基準は、アーチファクトを防ぐことができるように試料を理想的に処理するために開発することができる。さらに、処理が染色または抗原賦活化に与え得る影響を理解するための定量的な研究は、不十分に固定された試料が、なぜ処理試薬に露出することから生じるアーチファクトをより受けやすいのか、そしてどの程度かを解明するために使用されてもよい。
【0164】
[0230]IV.さらなる実施形態
[0231]別の実施形態では、約70%エタノールの最適な拡散が達成され得る時間を決定するために、特定のタイプ、サイズ、および形状の第1の試料をTOF分析にかける方法が開示されており、組織処理における全ての他のステップに最適な時間が計算される。この方法は、経験的に決定された約70%エタノールの時間と、組織処理における他のステップについて計算された時間とに基づいて、第1の試料とほぼ同じ形状を有する第2の試料を処理プロトコルにかけるステップをさらに含むことができる。例えば、腫瘍試料からの隣接したコアを得ることができ、あるものは、約70%エタノールの拡散に最適な時間を得るためにTOF分析によって試験され、および次いで第2のものは、約70%エタノールの注入のために経験的に決定されたプロトコルと、約90%エタノール、約100%エタノール、キシレン、およびパラフィンなどの他の試薬のための対応する計算されたプロトコルとに基づいて処理を受けることができる。
【0165】
[0232]さらに別の実施形態では、組織処理システムが開示されており、このシステムは、組織処理ステップおよび時間を含むプロトコル命令のデータベースを記憶した(または外部ストレージから取り出し可能な)コントローラ(例えば、マイクロプロセッサ)と、特定のタイプ、形状、およびサイズの組織試料、または特定の最適化された処理プロトコルを共有する特定のタイプ、サイズ、および形状の組織試料のグループと、特定のタイプ、形状、およびサイズの組織試料の各々に対応するユーザに選択可能なプロトコルを与えるユーザインタフェースとを備え、ユーザが特定のタイプ、形状、およびサイズの試料を選択すると、コントローラは組織処理システムを制御して選択されたプロトコルに従って組織を処理する。特定の実施形態では、開示された組織処理システムは、特定のタイプ、サイズ、および形状の組織試料または特定のタイプ、サイズ、および形状の組織試料のグループに対応する異なるユーザ選択可能なプロトコルに従って異なるグループの組織試料を処理することができる複数のチャンバを備える。特定の最適化された処理プロトコルを共有する。別の特定の実施形態では、システムは、TOF測定チャンバを備える計器の第1の部分を備えることができ、計器の第2の部分は、組織プロセッサを備えており、特定のタイプ、サイズ、および形状を有する第1の試料についての第1の部分において得られる経験的なTOFの結果は、第1の試料が代表するものである対応するタイプ、サイズ、および形状の試料、またはタイプ、サイズ、および形状の試料のグループについての組織処理プロトコルを自動的に選択する(または、ユーザによって表示および選択される)ために使用される。代替として、開示された組織処理システムは、1つまたは複数のチャンバにおけるTOFモニタリングに必要なハードウェアを備えることができ、それによってプロセスのリアルタイムモニタリングを可能にするとともに、試料の予め選択された部分において特定の試薬の量または濃度に関して予め決定された測度が実現されると特定の処理ステップを停止させる。
【0166】
[0233]別の実施形態では、所与の時間で試薬内に浸漬された試料内の特定の点で試薬濃度を決定する方法が提供され、この方法は、モデル飛行時間を生成するために複数の時点にわたっておよび複数の候補拡散定数ごとに試料の中への拡散の空間依存性をシミュレートするステップと、誤差関数を得るためにモデル飛行時間を経験的な飛行時間と比較するステップとを含み、誤差関数の最小値が試料についての拡散定数をもたらす。この方法は、複数の候補組織の多孔率を用意して拡散定数を用いてモデル飛行時間を生成するステップと、モデル飛行時間を経験的な飛行時間と比較して第2の誤差関数を得るステップとをさらに含み、誤差関数の最小値が試料の多孔率をもたらす。試料の拡散定数および多孔率から、特定の時間での試料内の特定の1つまたは複数の点での濃度を計算することができる。
【0167】
[0234]いくつかの実施形態では、上記方法を用いて組織試料の中心で実現される決定された試薬濃度についての経験的結果を比較することによって、異なるサイズ、形状、およびタイプの組織試料に最適化された組織処理プロトコルを生成することを可能にする。したがって、別の実施形態では、モジュール式組織プロセッサは、同様の最適化された処理プロトコルを有する試料を一緒に処理する別個のチャンバを備える。例えば、1つのチャンバが、同様の多孔率を示す同様のサイズおよび形状の組織の試料を含むこと、または異なる多孔率を有するが、異なるサイズを有する試料の混合物を含むことが可能である。そのような組織プロセッサの利点は、組織処理時間が、現在の実施である最も長い処理手順を必要とする試料によってもはや決定されないことであり、むしろ、あるグループの試料についてプロセス(しばしば、最も長いステップの1つは、組織の外科的除去と患者の結果の間にある)をスピードアップし、様々な処理試薬中でそのような長い処理時間を必要としない試料がそのような試薬に過度にさらされ、それによって損傷を受けないことを確実にすることができる。
【0168】
[0235]本開示は、組織試料を通じて移動した音響波を検出する音響モニタリングデバイスと、音響モニタリングデバイスに通信可能に結合されたコンピューティングデバイスとを備えるシステムも提供し、このコンピューティングデバイスは、飛行時間に基づいて音響波の速さを評価するように構成され、実行されるときに、組織試料についての候補拡散定数の範囲の設定、複数の時点についてのおよび候補拡散点の第1の範囲についての組織試料内の試薬の空間依存性のシミュレーティング、空間依存性に基づくモデル化された飛行時間の決定、複数の拡散定数ごとの空間依存性シミュレーションの繰り返し、および複数の拡散定数についてのモデル化された飛行時間と組織試料についての経験的な飛行時間の誤差の決定を含む各動作を処理システムに実行させる命令を含み、この誤差に基づく誤差関数の最小値が組織試料についての拡散定数をもたらす。このシステムは、実行されるときに、(約0.05から約0.50の間、例えば約0.05から約0.40の間、または約0.05から約0.30の間などの)複数の候補多孔率を含む組織試料についての候補多孔率の範囲の設定、試料の拡散定数および第1の複数の候補多孔率に基づく第2のモデル化された飛行時間の決定、ならびに経験的な飛行時間と第2のモデル化された飛行時間の間の第2の誤差の決定、他の複数の候補多孔率についての第2のモデル化された飛行時間および対応する第2の誤差の決定の繰り返しを含む各動作を処理システムに実行させる命令をさらに含み、誤差の最小値は、試料の多孔率を特定する。より特定の実施形態では、システムは、実行されるとき、特定の時間で試料内に試薬の空間濃度分布をもたらす命令をさらに含む。さらにより特定の実施形態では、このシステムは、実行されるとき、特定の時間で試料の中心に試薬濃度を与える命令をさらに含む。まださらにより特定の実施形態では、そのような試薬濃度は、試料の中心などの試料内の特定の点または領域で予め決定された濃度に到達するときに、試薬を用いて試料の注入を終わらせるように利用することができる。
【0169】
[0236]本主題の開示は、生体の内容と非生体の内容の両方に当てはまり、音響TOF曲線に基づいて任意の物質の拡散に従う能力を提供する。上述した動作は、TOF曲線を単一指数関数にフィットすることを与えたが、内容次第では、ベッセル関数の和、二重指数関数、または2次関数がより適切である可能性がある。したがって、式自体は変わってもよく、一方、本明細書中に開示された新奇な特徴は、当業者によって読まれるときにその発明の精神および範囲を維持することができる。
【0170】
[0237]拡散測定値および試薬濃度の計算は、組成解析を含む多くの応用に役立つことが知られている。本システムおよび方法は、拡散測定値および試薬濃度の測定を利用する任意のシステムに使用されることが考えられる。1つの特定の実施形態では、本システムおよび方法は、流体が多孔性物質の中へ拡散するのをモニタリングする分野に適用される
[0238]いくつかの実施形態では、多孔性物質は組織試料である。多くの一般的な組織解析法では、組織試料は、流体溶液で拡散される。例えば、Hine(Stain Technol.1981 Mar;56(2):119~23)は、固定後または埋め込みおよび切断前に、ヘマトキシリン溶液およびエオシン溶液の中に組織試料を浸漬することによって組織ブロック全体を色付けする方法を開示する。さらに、固定は、固定されていない組織試料を固定剤溶液の体積の中に浸漬することによってしばしば実行され、固定剤溶液は、組織試料の中に拡散することが許可される。Chafinら(PLoS ONE 8(1):e54138.doi:10.1371/journal.pone. 0054138(2013年))によって示されるように、固定剤が組織の中に十分に拡散したことを確実にすることができないことは、組織試料の完全性を損ない得る。したがって、一実施形態では、本システムおよび方法は、組織試料の中への固定剤の十分な拡散時間を決定するために適用される。そのような方法では、ユーザは、組織試料内の特定の点(組織試料の厚さの中心など)で実現される最小固定剤濃度を選択する。少なくとも組織の厚さ、組織の幾何学的形状、および計算された真の拡散率を知っていれば、組織試料の中心での最小(周囲流体に対して)相対固定剤濃度に到達するための最小時間を決定することができる。したがって、固定剤は、少なくとも最小時間の間に組織試料の中に拡散させることが可能にされる。しかしながら、これをリアルタイムモニタリングに使用することができる方法に拡張するために、本明細書中に開示された組織試料多孔率の決定は、試料の完全性を確実にすることを実現するのに必要な実際の固定剤濃度の決定を可能にする。したがって、本明細書中に開示されたシステムおよび方法に基づいて、放射標識されたトレース、中赤外評価、およびMRIなどの他の技法が、固定剤などの特定の試薬を用いる特定の処理に適切な時間を決定するために使用されてもよい。
【0171】
[0239]いくつかの実施形態では、本開示のシステムおよび方法は、組織試料に対して2つの温度浸漬固定法を実施するために使用される。本明細書中に使用されるとき、「2温度固定法」は、第1の期間の間に低温固定剤溶液中に組織がまず浸漬され、続いて第2の期間の間に組織を加熱する固定法である。低温ステップは、架橋結合を実質的に引き起こすことなく、固定剤溶液が組織全体を通じて拡散することを可能にする。次いで、組織が組織全体にわたって十分に拡散されると、加熱ステップは、固定剤によって架橋結合をもたらす。いくつかの実施形態では、低温拡散、それに続く加熱ステップの組み合わせは、標準的な方法を用いるよりもより完全に固定される組織試料をもたらす。いくつかの実施形態では、組織試料は、(1)低温固定剤溶液中に固定されていない組織試料を浸漬するとともに、本明細書中に開示されたようなシステムおよび方法を用いて組織試料におけるTOFをモニタすることによって組織試料の中への固定剤の拡散をモニタする(拡散ステップ)、および(2)閾値TOFが測定された後に、組織試料の温度が上昇することを可能にする(固定ステップ)ことによって固定される。いくつかの実施形態では、拡散ステップは、20℃未満、15℃未満、12℃未満、10℃未満、約0℃から約10℃の範囲内、約0℃から約12℃の範囲内、約0℃から約15℃の範囲内、約2℃から約10℃の範囲内、約2℃から約12℃の範囲内、約2℃から約15℃の範囲内、約5℃から約10℃の範囲内、約5℃から約12℃の範囲内、約5℃から約15℃の範囲内である固定剤溶液中で実行される。例示的な各実施形態では、組織試料を囲む環境は、固定ステップ中に約20℃から約55℃の範囲内で上昇することが許容される。いくつかの実施形態では、固定剤は、グルタルアルデヒドおよび/またはホルマリン基の溶液などのアルデヒド基の架橋結合固定剤である。浸漬固定にしばしば使用されるアルデヒドの例は、以下に挙げるものである。
【0172】
[0240]ホルムアルデヒド(ほとんどの組織について、標準作用濃度約5~約10%ホルマリンであるが、いくつかの組織には約20%ホルマリンと同程度高さの濃度が使用されている);グリオキサール(標準作用濃度17から86mM);グルタルアルデヒド(標準作用濃度200mM)。
【0173】
[0241]アルデヒドは、しばしば互いに組み合わされて使用される。標準的なアルデヒドの組み合わせは、10%ホルマリン+1%(w/v)グルタルアルデヒドを含む。典型的なアルデヒドがある特殊化された固定応用に使用されており、フマルアルデヒド、12.5%ヒドロキシアジポアルデヒド(pH7.5)、10%クロトンアルデヒド(pH7.4)、5%ピルビンアルデヒド(pH5.5)、10%アセトアルデヒド(pH7.5)、10%アクロレイン(pH7.6)、および5%メタアクロレイン(pH7.6)を含む。免疫組織化学に使用されるアルデヒド基固定剤溶液の他の特定の例は、表2に記載されている。
【0174】
【0175】
[0242]いくつかの実施形態では、固定剤溶液は、表2から選択される。いくつかの実施形態では、使用されるアルデヒド濃度は、上述した標準的な濃度よりも高い。例えば、ほぼ同様の組成を有する免疫組織化学のために選択された組織を固定するために使用される標準的な濃度より少なくとも1.25倍も高いアルデヒド濃度を有する高濃度アルデヒド基固定剤溶液が使用され得る。いくつかの例では、高濃度アルデヒド基の固定剤溶液は、20%より多いホルマリン、約25%以上のホルマリン、約27.5%以上のホルマリン、約30%以上のホルマリン、約25%から約50%ホルマリン、約27.5%から約50%ホルマリン、30%から約50%ホルマリン、約25%から約40%ホルマリン、約27.5%から約40%ホルマリン、および約30%から約40%ホルマリンから選択される。この文脈で使用されるとき、用語「約」は、Bauerら、Dynamic Subnanosecond Time-of-Flight Detection for Ultra-precise Diffusion Monitoring and Optimization of Biomarker Preservation、Proceedings of SPIE、Vol.9040、90400B-1(2014年3月20日)によって測定されるように、4℃における拡散において統計的にかなり大きい差とならない濃度を包含するものとする。
【0176】
[0243]いくつかの実施形態では、2温度固定プロセスは、例えばリン酸化たんぱく質、DNA、および(miRNAおよびmRNAなどの)RNA分子が含まれる組織試料中のある種の不安定生物指標化合物を検出する方法に特に役立つ。PCT/EP2012/052800(参照により本明細書中に組み込まれる)を参照されたい。いくつかの実施形態では、これらの方法を用いて得られる固定された組織試料は、そのような不安定標識の存在について分析を受けることができる。したがって、いくつかの実施形態では、試料中の不安定標識を検出する方法が提供され、この方法は、本明細書中に開示されたように2温度固定に従って組織を固定し、固定した組織試料をFOXP3などの不安定標識に特に結合することができる分析物結合実体に接触させることを含む。分析物結合実体の例は、標的抗原に結合する抗体および抗体フラグメント(一本鎖抗体を含む)、MHC:抗原複合体に結合するT細胞受容体(単一鎖受容体を含む)、(特定のT細胞受容体に結合する)MHC:ペプチドマルチマー、特定の核酸またはペプチドターゲットに結合するアプタマー、特定の核酸、ペプチド、および他の分子に結合するジンクフィンガー、受容体リガンドに結合する(単一の鎖受容体およびキメラ受容体を含む)受容体複合体、受容体複合体に結合する受容体リガンド、および特定の核酸に混成させる核酸プローブを含む。例えば、組織試料中のリン酸化たんぱく質を検出する免疫組織化学的方法が提供され、この方法は、前述の2温度固定法に従って得られた固定された組織をリン酸化たんぱく質に特有の抗体と接触させ、リン酸化たんぱく質への抗体の結合を検出することを含む。いくつかの実施形態では、核酸分子を検出するin situ混成法が提供され、方法は、前述の2温度固定法に従って得られた固定された組織を関心の核酸に特有の核酸プローブと接触させ、関心の核酸へのプローブの結合を検出することを含む。
【0177】
[0244]本主題の開示の例示的な各実施形態の前述の開示は、例示および記述のために示された。網羅的であることまたは開示された精密な形態に本主題の開示を限定することは意図されていない。本明細書中に記載された実施形態の多くの変形形態および修正形態は、上記の開示の観点で当業者に明らかであろう。本主題の開示の範囲は、本明細書に添付された特許請求の範囲によっておよびその均等物によってのみ定められるものである。
【0178】
[0245]さらに、本主題の開示の説明している代表的な実施形態では、本明細書は、本主題の開示の方法および/またはプロセスを特定の一連のステップとして示すことができる。しかしながら、方法またはプロセスが本明細書中に記載されたステップの特定の順序に頼らない限りにおいては、方法またはプロセスに記載されたステップの特定の順番に限定されるべきではない。当業者は、他の順番のステップも可能であり得ることを理解されよう。したがって、本明細書中に記載されたステップの特定の順序は、特許請求の範囲の限定とみなされるべきではない。加えて、本主題の開示の方法および/またはプロセスに向けられた特許請求の範囲は、記載された順序のステップの実施に限定されるべきではなく、当業者は、順番は変更されてもよく、本主題の開示の精神および範囲内のままであり得ることを容易に理解できよう。
【0179】
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