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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-25
(45)【発行日】2022-09-02
(54)【発明の名称】スプリットサイクルエンジン
(51)【国際特許分類】
   F02D 13/02 20060101AFI20220826BHJP
   F02B 75/18 20060101ALI20220826BHJP
   F02B 33/18 20060101ALI20220826BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20220826BHJP
   F02D 19/12 20060101ALI20220826BHJP
   F01N 3/20 20060101ALI20220826BHJP
   F02F 1/00 20060101ALI20220826BHJP
   F02M 25/028 20060101ALI20220826BHJP
   F02M 25/00 20060101ALI20220826BHJP
【FI】
F02D13/02 H
F02B75/18 C
F02B75/18 P
F02B33/18
F02D45/00 360A
F02D45/00 360Z
F02D19/12 A
F02D19/12 Z
F01N3/20 D
F02F1/00 D
F02M25/028
F02M25/00 Z
【請求項の数】 29
(21)【出願番号】P 2019534284
(86)(22)【出願日】2017-12-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-21
(86)【国際出願番号】 GB2017053831
(87)【国際公開番号】W WO2018115863
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-12-18
(31)【優先権主張番号】1622114.5
(32)【優先日】2016-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】1706792.7
(32)【優先日】2017-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】504189391
【氏名又は名称】リカルド ユーケー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100141173
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 啓一
(72)【発明者】
【氏名】ロバート モーガン
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ イートウェル
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー アトキンズ
(72)【発明者】
【氏名】アダム ガー
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-505396(JP,A)
【文献】特開2013-002403(JP,A)
【文献】特開2007-247438(JP,A)
【文献】特表2012-511664(JP,A)
【文献】特表2014-511976(JP,A)
【文献】特表2013-502534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 13/02
F02B 75/18
F02B 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼ピストンを収容する燃焼シリンダと、
圧縮ピストンを収容し、前記燃焼シリンダに圧縮流体を供給するように配置される圧縮シリンダと、
前記燃焼シリンダおよび/またはこれに付随する流体に関連するパラメータの値を受信し、
前記パラメータの値が前記パラメータの目標値より小さいとき、前記燃焼ピストンのリターンストローク中に、前記燃焼ピストンがその上死点位置(TDC)に達する前に、前記燃焼シリンダの排気弁を閉じさせ、
前記パラメータの値が前記パラメータの前記目標値と等しいか、または前記パラメータの前記目標値より大きいとき、前記燃焼ピストンがその前記上死点位置(TDC)に達するときに、前記燃焼ピストンのリターンストロークの終了時に、前記燃焼シリンダの前記排気弁を閉じさせる、
ように、前記パラメータの値に基づいて、前記排気弁を制御するように構成される制御部と、
を備え
前記パラメータは、前記燃焼シリンダおよび/またはこれに付随する流体に関連する温度であり、
前記パラメータの前記目標値は、目標温度である、
ことを特徴とするスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項2】
前記目標温度は、燃焼のための目標温度である、
請求項記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項3】
前記制御部は、
前記目標温度と等しいか、または前記目標温度より高い前記温度の値について通常駆動モードを規定し、前記目標温度より低い前記温度の値について少なくとも1つのコールドスタートモードを規定するメモリ、
を備える、
請求項または記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項4】
前記コールドスタートモードにおいて、
前記制御部は、前記燃焼ピストンが前記TDC前にある初期閉位置で前記排気弁を閉じるように構成され、
最大初期閉位置は、前記TDC前の位相角z°にある前記燃焼ピストンにより与えられる、
請求項記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項5】
前記制御部は、前記温度の値と前記目標温度との間の差に従って、前記最大初期閉位置と、前記燃焼ピストンが前記TDCにある通常モード閉位置と、の間で前記排気弁の前記初期閉位置を連続的に変更するように構成される、
請求項記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項6】
前記制御部は、前記温度の値と前記目標温度との間の差に従って、前記TDC前の位相角z°から前記TDCまでの間の前記燃焼ピストンの位置について、前記排気弁に対して複数の別個の初期閉位置の1つを選択するように構成される、
請求項乃至のいずれかに記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項7】
前記制御部は、ルックアップテーブルを用いて、別個の前記初期閉位置を選択するように構成される、
請求項記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項8】
前記ルックアップテーブルに従って、
第1初期閉位置は、前記TDC前の位相角x°にある前記燃焼ピストンに対応し、
第2初期閉位置は、前記TDC前の位相角y°にある前記燃焼ピストンに対応し、
第3初期閉位置は、前記TDC前の位相角z°にある前記燃焼ピストンに対応し、
前記第1初期閉位置は、前記目標温度よりx℃低い温度までの前記温度の値についてマッピングされ、
前記第2初期閉位置は、前記目標温度よりy℃からx℃まで低い前記温度の値についてマッピングされ、
前記第3初期閉位置は、前記目標温度よりz℃からy℃まで低い前記温度の値についてマッピングされる、
請求項記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項9】
前記制御部は、前記スプリットサイクル内燃エンジンまたはその中の流体に関連する圧力の値を受信し、前記圧力の値に基づいて、前記排気弁を制御するように構成される、
請求項乃至のいずれかに記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項10】
前記制御部は、前記スプリットサイクル内燃エンジンまたはその中の流体に関連する酸素濃度の値を受信し、前記酸素濃度の値に基づいて、前記排気弁を制御するように構成される、
請求項乃至のいずれかに記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項11】
前記圧縮シリンダは、冷却プロセスを介して液相に圧縮された液体を受け入れるように配置され、その結果、前記圧縮ピストンの圧縮ストローク中に、前記液体が気相へと蒸発し、その結果、前記圧縮ストロークにより生じる温度上昇が、前記液体による熱吸収により制限される、
請求項乃至10のいずれかに記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項12】
前記液体は、
液体窒素と、液体アルゴンと、液体ネオンと、のうち少なくとも1つ、
を含む、
請求項11記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項13】
前記制御部は、前記温度の値に基づいて、前記圧縮シリンダに供給される前記液体の量を制御するように構成される、
請求項11または12記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項14】
前記制御部は、
前記目標温度より高い閾値温度を超える前記温度の値について、ホットモードの操作を規定するメモリ、
を備え、
前記制御部は、前記ホットモードにおいて、
前記温度の値に基づいて、前記圧縮シリンダに供給される前記液体の速度と量とのうち少なくとも1つを制御し、
前記温度の値に基づいて、前記スプリットサイクル内燃エンジンのレキュペレータへの水の注入を制御する、
ように構成される、
請求項13記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項15】
前記制御部は、前記スプリットサイクル内燃エンジンまたはその中の流体に関連する圧力の値を受信し、前記圧力の値に基づいて、前記圧縮シリンダに供給される前記液体の量を制御するように構成される、
請求項11乃至14のいずれかに記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項16】
前記制御部は、前記スプリットサイクル内燃エンジンまたはその中の流体に関連する酸素濃度の値を受信し、前記酸素濃度の値に基づいて、前記圧縮シリンダに供給される前記液体の量を制御するように構成される、
請求項11乃至15のいずれかに記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項17】
前記燃焼シリンダに供給される前記圧縮流体を加熱するために、前記燃焼シリンダの排気生成物に前記圧縮流体を熱的に連結するように構成される前記レキュペレータ、
を備える、
請求項14、または、請求項14の従属項としての請求項15または16、のいずれかに記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項18】
触媒被膜は、使用時に前記排気生成物と接触する前記レキュペレータの表面上に設けられる、
請求項17記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項19】
前記触媒被膜は、前記触媒のライトオフを促進するために前記圧縮流体と前記排気生成物との両方により加熱されるために、使用時に前記圧縮流体および前記排気生成物と熱的に連通している状態であるように設けられる、
請求項18記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項20】
前記目標温度より高い閾値温度を超える前記温度の値について、前記制御部は、前記レキュペレータへの水の注入を制御するように構成される、
請求項17乃至19のいずれかに記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項21】
前記燃焼シリンダに関連する前記温度の値は、前記圧縮シリンダの出口での温度と、前記燃焼シリンダの入口での温度と、前記燃焼シリンダの出口での温度と、前記レキュペレータでの温度と、のうち少なくとも1つを検知するように配置されるセンサにより与えられる、
請求項17乃至20のいずれかに記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項22】
前記燃焼シリンダの前記温度の値は、前記触媒の位置での温度を検知するように配置されるセンサにより与えられる、
請求項18記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項23】
前記燃焼シリンダの入口弁は、前記圧縮流体が前記燃焼シリンダに入ることを可能にするために、前記燃焼シリンダの内側に向けて開放するように配置される、
請求項1乃至22のいずれかに記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項24】
前記燃焼シリンダの入口弁は、前記圧縮流体が前記燃焼シリンダに入ることを可能にするために、前記燃焼シリンダから外側に向けて開放するように配置される、
請求項1乃至23のいずれかに記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項25】
前記圧縮シリンダは、1つ以上の層で断熱され、
各層は、鋼鉄またはセラミックからなる、
請求項1乃至24のいずれかに記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項26】
前記燃焼シリンダは、1つ以上の層で断熱され、
各層は、鋼鉄またはセラミックからなる、
請求項1乃至25のいずれかに記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項27】
燃焼ピストンを収容する燃焼シリンダと、
圧縮ピストンを収容し、前記燃焼シリンダに圧縮流体を供給するように配置される圧縮シリンダと、
前記燃焼シリンダおよび/またはこれに付随する流体に関連する温度の値を受信し、
前記温度の値が目標温度より低いとき、前記燃焼ピストンのリターンストローク中に、前記燃焼ピストンがその上死点位置(TDC)に達する前に、前記燃焼シリンダの排気弁を閉じさせ、
前記温度の値が前記目標温度と等しいか、または前記目標温度より高いとき、前記燃焼ピストンがその前記上死点位置(TDC)に達するときに、前記燃焼ピストンのリターンストロークが終了したら、前記燃焼シリンダの前記排気弁を閉じさせる、
ように、前記温度の値に基づいて、前記排気弁を制御するように構成される制御部と、
を備える、
ことを特徴とするスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項28】
スプリットサイクル内燃エンジンを操作する方法であって、
前記スプリットサイクル内燃エンジンは、
燃焼ピストンを収容する燃焼シリンダと、
圧縮ピストンを収容し、前記燃焼シリンダに圧縮流体を供給するように配置される圧縮シリンダと、
を備え、
前記方法は、
燃焼シリンダおよび/またはこれに付随する流体に関連するパラメータの値を受信する工程と、
前記パラメータの値に基づいて、前記燃焼シリンダの排気弁を制御する工程であって、
前記パラメータの値が前記パラメータの目標値より小さいとき、前記燃焼ピストンのリターンストローク中に、前記燃焼ピストンがその上死点位置に達する前に、前記燃焼シリンダの前記排気弁を閉じさせ、
前記パラメータの値が前記パラメータの前記目標値と等しいか、または前記パラメータの前記目標値より大きいとき、前記燃焼ピストンがその上死点位置に達するときに、前記燃焼ピストンの前記リターンストロークが終了したら、前記燃焼シリンダの前記排気弁を閉じさせる、
工程と、
を含み
前記パラメータは、前記燃焼シリンダおよび/またはこれに付随する流体に関連する温度であり、
前記パラメータの前記目標値は、目標温度である、
ことを特徴とする方法。
【請求項29】
請求項28記載の方法を実施するプロセッサをプログラミングするように構成されるコンピュータプログラム命令、
を含む、
ことを特徴とする非一時的コンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スプリットサイクル内燃エンジンと、スプリットサイクル内燃エンジンの操作方法と、に関する。
【背景技術】
【0002】
スプリットサイクル内燃エンジンにおいて、空気を含む作動流体は、第1圧縮シリンダで圧縮され、第2燃焼シリンダに供給される。第2燃焼シリンダにおいて、燃料が注入され、燃料と高圧流体との混合物が燃焼して、駆動を生み出す。熱力学的利点は、圧縮と膨張/燃焼プロセスとをこの様式で分離することに由来し得る。特許文献1は、スプリットサイクルエンジンと、関連する熱力学的な長所と、を記載している。
【0003】
スプリットサイクルエンジンにおいて、さらなる熱力学的利点は、圧縮ストローク中に極低温流体を圧縮シリンダに注入することにより達成され得る。このようなシステムと方法とが、特許文献2に記載されている。
【0004】
特に、寒剤が使用されるエンジンでは、圧縮流体を燃焼シリンダに運ぶ途中で加熱するために、圧縮シリンダから膨張シリンダに圧縮流体を運ぶ第1流体経路と、燃焼シリンダの出口から排気ガスを運ぶ第2流体経路と、を有するレキュペレータが設けられてもよい。このことは、燃焼シリンダに到達する圧縮流体が、燃料が注入されたときに、燃焼が起こり得るほど十分に熱くなることを確実にすることに役立ち得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2010/067080号
【文献】WO2016/016664号
【発明の概要】
【0006】
本願発明者は、レキュペレータ内に排熱がほとんどないか、または全くないときに、圧縮流体が燃焼にとって最適ではない温度で燃焼シリンダに到達する、エンジンのスタートアップ(「コールドスタート」)中に、効率的な燃焼の達成が困難である場合があることを認識している。
【0007】
本明細書に記載される実施形態は、これらの困難に対処するものである。
【0008】
本発明は、添付の特許請求の範囲に示される。
【0009】
以下の記載において、「極低温」流体または「極低温」液体という用語は、冷却プロセスを介して、液相に圧縮された流体を指すために用いられる。
【0010】
本明細書に記載される実施形態は、圧縮ストローク中に極低温流体が注入されるスプリットサイクルエンジンに関する。他の例では、本明細書に記載される方法は、寒剤の注入なく行われてもよい。さらに、レキュペレータからの出口で最終温度を制御するために、他の流体(一例として水)がレキュペレータに加えられてもよい。
【0011】
本明細書に記載のとおり、スプリットサイクルエンジンは、燃焼シリンダおよび/またはこれに付随する流体に関連するパラメータの指示を受信し、指示されたパラメータ(指示パラメータ)に基づいて、エンジンの特徴を制御するように構成される制御部を備える。
【0012】
パラメータは、温度と、圧力と、酸素濃度と、のうち1つ以上であってもよい。したがって、パラメータの指示は、温度データと、圧力データと、酸素濃度データと、のうち1つ以上を含んでもよい。
【0013】
制御部は、温度と圧力とのデータ、温度と酸素濃度とのデータ、圧力と酸素濃度とのデータ、または温度と圧力と酸素濃度とのデータ、を受信し、寒剤注入と、排気弁のタイミングと、レキュペレータへの水注入と、のうち1つ以上を個々に、または組み合わせて制御するために、このデータを使用してもよい。
【0014】
パラメータが温度である場合には、指示された温度(指示温度)は、燃焼シリンダの内温、スプリットサイクルエンジンのレキュペレータ(特に、触媒で被覆されたレキュペレータの表面)の内温、レキュペレータ内の圧縮流体の温度、燃焼シリンダの入口での圧縮流体の温度、または排気ガスの温度、のうち少なくとも1つでもよい。
【0015】
パラメータが圧力である場合には、指示圧力は、燃焼シリンダの内圧、スプリットサイクルエンジンのレキュペレータの内圧、レキュペレータ内の圧縮流体の圧力、燃焼シリンダの入口での圧縮流体の圧力、または排気ガスの圧力、のうち少なくとも1つでもよい。
【0016】
パラメータが酸素濃度である場合には、指示された酸素濃度(指示酸素濃度)は、燃焼シリンダ内の酸素濃度、スプリットサイクルエンジンのレキュペレータ内の酸素濃度、レキュペレータ内の圧縮流体の酸素濃度、燃焼シリンダの入口での圧縮流体の酸素濃度、または排気ガスの酸素濃度、のうち少なくとも1つでもよい。
【0017】
制御されるスプリットサイクルエンジンの特徴は、排気弁の閉操作のタイミング、圧縮ストローク中の寒剤注入の量、または速度と、燃焼シリンダへの燃料注入の速度、量、またはタイミングと、のうち1つ以上でもよい。
【0018】
いくつかの実施形態では、エンジンの特徴は、パラメータの指示とそのパラメータの目標値との比較に基づいて、制御される。
【0019】
いくつかの実施形態では、エンジンの特徴は、パラメータの指示とそのパラメータの目標値との間の差に基づいて、制御される。
【0020】
いくつかの実施形態では、制御部は、燃焼シリンダの入口での圧縮流体の温度の指示を受信し、燃焼シリンダの入口での圧縮流体の指示温度と目標温度との比較に基づいて、燃焼シリンダの排気弁の閉操作を制御するように構成される。目標温度は、燃焼シリンダ内の燃焼にとって望ましい温度に基づいて、規定されてもよい。本明細書に記載のとおり、制御部は、指示温度がある温度より低いとき、燃焼ピストンがその上死点位置(TDC)に達する前に、燃焼ピストン(108,128)のリターンストローク中に排気弁を閉じさせ、指示温度が目標温度と等しいか、または目標温度より高いとき、燃焼ピストンがその上死点位置(TDC)に達したとき、燃焼ピストンのリターンストロークの終了時に排気弁を閉じさせるように構成される。
【0021】
指示温度がある温度より低い場合、燃焼ピストンがその上死点位置(TDC)に達する前に排気弁を閉じることは、「コールドスタート」モードの操作として記載されてもよい。この操作は、燃焼にとって最適ではない指示温度に対応し、このことは、レキュペレータ内に、収集に利用可能な熱がないことに起因し得る。燃焼ピストンがTDCに達する前に排気弁を閉じることにより、次のエンジンサイクルにおける燃焼を補助するためにシリンダの温度を上げるために、燃焼の熱い排気ガスの一部が、燃焼シリンダの内部に保持され、圧縮されてもよい。
【0022】
燃焼ピストンがその上死点位置(TDC)に達したときに、燃焼ピストンのリターンストロークの終了時に排気弁を閉じることは、「通常モード」の操作として記載されてもよい。この操作は、燃焼にとって許容され得る指示温度に対応する。この条件は、通常、レキュペレータの後に達すると予想される。それにより、燃焼シリンダの入口に供給される圧縮流体の温度は、レキュペレータを通る熱い排気ガスの流れとして温められる。排気弁は、この条件下で、燃焼ピストンがそのリターンストロークを終了したときに閉じられてもよく、燃焼シリンダからレキュペレータ経路へと全ての排気ガスを排出する。
【0023】
他の例では、弁のタイミング制御は、場合により温度測定に加え、圧力および/または酸素濃度の測定に基づく。
【0024】
いくつかの実施形態では、制御部は、燃焼シリンダの入口での圧縮流体の温度の指示を受信し、圧縮ストローク中に圧縮シリンダに供給される極低温流体の量を制御するように構成される。これにより、燃焼シリンダの入口での圧縮流体を目標燃焼温度まで上げるための熱がレキュペレータ内で不十分である「コールド」サイクル中の圧縮流体の温度上昇に対する制限は、低減される。
【0025】
制御は、燃焼シリンダの入口での圧縮流体の指示温度と目標温度との比較に基づいてもよい。目標温度は、シリンダ内の燃焼にとって望ましい温度に基づいて、規定されてもよい。本明細書に記載のとおり、制御部は、指示温度が目標温度と等しいか、または目標温度より高い場合、「通常モード」の量の極低温液体が圧縮シリンダに供給され、指示温度が目標温度より低い場合、「通常モード」の量より少ない「コールドモード」の量の極低温液体が圧縮シリンダに供給されるように、圧縮シリンダ内に注入される極低温流体の量を制御するように配置されてもよい。
【0026】
「通常モード」の量の寒剤は、一般的に、圧縮ピストンの圧縮ストローク中に、極低温液体が気相へと蒸発し、圧縮ストロークにより生じる温度上昇が、極低温液体による熱吸収により、略0に制限されるような、寒剤注入の速度と量とであると理解されよう。これは、さらに効率的な圧縮を可能にし得る。これは、排気ガスから戻される熱の量が最大になることも可能にし得る。
【0027】
指示温度が、「通常モード」の操作の目標温度よりも高い場合、「ホットモード」の操作が利用可能でもよい。このモードでは、加えられる極低温液体の量は入口での温度に基づいて最適化されてもよく、そのため、高負荷条件下でより多くの熱が利用可能な場合には、温度は、圧縮作業が行われる前よりも、圧縮終了時の方が低い。「ホットモード」の寒剤の量は、「通常モード」の量よりも大きい、圧縮ストロークあたりの寒剤注入の量および/または速度であり、その結果、圧縮シリンダ内の流体の温度は、安全限界内に制御可能であることが理解されよう。さらなる温度制御とハードウェア保護とのために、高負荷条件下で、レキュペレータに水が加えられてもよい。
【0028】
「コールドモード」の量の寒剤は、「通常モード」の量よりも小さい、圧縮ストロークあたりの寒剤注入の量および/または速度であり、その結果、圧縮シリンダ内の流体の温度が圧縮の結果として上がることを可能にすることが理解されよう。これは、圧縮流体がより熱い状態で圧縮シリンダを出て、レキュペレータ内で利用可能な熱の不足を補うことを可能にする。
【0029】
他の例では、寒剤注入の制御は、場合により温度測定に加え、圧力および/または酸素濃度の測定に基づく。
【0030】
他の例では、排気弁のタイミングと寒剤注入とは、両方とも1つ以上の測定されたエンジンパラメータに基づいて、制御される。
【0031】
ここで、本発明の実施形態を、以下の添付の図面を参照ながら、例示として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1は、スプリットサイクル内燃エンジンの模式図を示す。
図2a図2aは、コールドスタートモード中のスプリットサイクルエンジンの燃焼シリンダの操作における段階を示す。
図2b図2bは、通常駆動モード中の燃焼シリンダの操作における段階を示す。
図3図3は、燃焼シリンダの排気弁を制御する判定チャートを示す。
図4図4は、燃焼シリンダにおける相対的な弁のタイミングを表す。
図5a図5aは、燃焼シリンダ内の燃焼ピストンの位置により示される排気弁閉位置の例を示す。
図5b図5bは、排気弁を制御する制御部判定プロセスを示す。
図5c図5cは、排気弁を制御する際に使用されるルックアップテーブルを示す。
図6図6は、スプリットサイクルエンジンの圧縮シリンダの寒剤入口弁を制御する判定プロセスを示す。
図7図7は、燃焼シリンダのシリンダヘッド内の弁の配置例を示す。
図8図8は、スプリットサイクル内燃エンジンの模式図を示す。
図9a図9aは、コールドスタートモード中のスプリットサイクルエンジンの燃焼シリンダの操作における段階を示す。
図9b図9bは、通常駆動モード中の燃焼シリンダの操作における段階を示す。
図10a図10aは、コールドスタートモード中のスプリットサイクルエンジンの燃焼シリンダの操作における段階を示す。
図10b図10bは、通常駆動モード中の燃焼シリンダの操作における段階を示す。
図11図11は、通常駆動モード中のスプリットサイクル内燃エンジンの最適操作のための理想的な圧力トレースを示す。
図12図12は、入口弁の開操作と排気弁の閉操作とのタイミングを変更することによる結果を示すグラフを示す。
図13図13は、入口弁の開操作と排気弁の閉操作とのタイミングを変更することによる結果を示すグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1は、スプリットサイクル内燃エンジン101の模式図を示す。図示されるとおり、スプリットサイクル内燃エンジンは、圧縮シリンダ104と燃焼シリンダ126とを備える。各シリンダは、その中を往復運動するように構成される関連するピストンを有する。当業者は、複数の同様の圧縮シリンダと燃焼シリンダとが存在してもよいことを理解するだろう。圧縮シリンダ104は、寒剤容器112に接続される寒剤入口弁110を備える。圧縮シリンダ104は、圧縮空気供給を受け入れるため、ターボチャージャ102に接続される流体入口弁106と、流体出口弁116と、を有する。燃焼シリンダ126の流体入口弁124は、圧縮シリンダ104からの圧縮流体を受け入れるため、流体出口弁116に連結される。燃焼シリンダは、燃料源132に連結される燃料入口弁130と、排気弁134と、も有する。
【0034】
圧縮流体は、圧縮シリンダの流体出口弁116と燃焼シリンダの流体入口弁124との間の経路120に沿って、レキュペレータ118を通る。このレキュペレータ118は、燃焼シリンダ排気弁134から排気経路136を通って排気口138を通る排気ガスにより加熱される。
【0035】
スプリットサイクルエンジン101は、制御部100を備える。制御部100は、少なくとも1つのセンサ122に接続される。いくつかの例では、少なくとも1つのセンサ122は、温度センサ、圧力センサ、酸素濃度センサ、またはこれらの任意の組み合わせ、でもよい。図示される例では、温度センサ122は、燃焼シリンダ126付近に配置され、レキュペレータ118と燃焼シリンダ流体取込弁124との間の圧縮流体の経路120に沿った点で、流体を取り込む。このセンサ122は、圧縮流体の温度を検知し、検知した温度データを制御部100に戻して報告するように操作可能である。制御部100は、この温度データを受信し、受信した温度データに少なくとも部分的に基づいて、燃焼シリンダ126上の排気弁134のタイミングを制御するように構成される。制御部100はまた、圧縮シリンダ104に注入される寒剤の量を制御するために、寒剤入口弁110の操作を調節するように操作可能でもよい。
【0036】
燃焼シリンダ126内で燃焼が起こった後、排気ガスは、排気弁134を介して燃焼シリンダ126を出て行き、圧縮シリンダの出口弁116と燃焼シリンダの入口弁124との間の経路120に沿って移動する圧縮流体を加熱するため、レキュペレータ118と熱連結する排気経路136に沿って移動する。
【0037】
前述の1つ以上のセンサは、数多くの場所に配置されてもよい。特に、1つ以上のセンサが、図1に示されるとおり燃焼シリンダ上の入口弁124付近、レキュペレータ118内、または圧縮シリンダの出口弁116の付近、に配置されてもよい。
【0038】
図2aは、段階200a,202a,204a,206aおよび208aを含む、コールドスタートモードの操作中に燃焼シリンダを制御するプロセスを、通常駆動モードの段階200b,202b,204b,206bおよび208bを示す図2bと比較することにより、模式的に示す。段階200aでは、燃焼ピストン128がTDCにあるとき、圧縮された流体-燃料混合物が発火する。エンジンの燃料の種類に応じて、この発火は、スパークプラグまたは自動発火により開始されてもよい。燃料燃焼から放出されるエネルギーに起因する圧力上昇は、燃焼ピストンを下死点(BDC)に向かって駆動させ、クランクシャフト114をさらに駆動させる。一旦燃焼ピストンがBDCに達すると、燃焼混合物が膨張し、燃焼シリンダ126を満たし、排気弁134が開く(段階202a)。次いで、燃焼ピストンがTDCに向かって進み、排気ガスを排気弁134から排出する。
【0039】
コールドスタートモードにおいて、燃焼ピストンがTDCに達する前に、排気弁134は、閉じられる。このことは段階204aで示され、排気弁134は、燃焼ピストンがBDCからTDCまでの道程の約65%に達したときに、閉じられる。次いで、ピストンがTDCに達すると、残りの排気ガスは圧縮され、段階206aで示されるとおり、入口弁は、圧縮流体が燃焼シリンダ126内に流れることを可能にするように、開かれる。入口弁124が閉じられ、注入された燃料が点火され(段階208a)、サイクルが再び開始する。燃焼シリンダ126内に残る排気ガスは、排気弁134が閉じられるとき、圧縮流体を加熱する。これは、エンジン内、特にレキュペレータ118内の熱の不足を補うことにより、エンジンの効率における上昇を導き得る。したがって、圧縮流体は、十分に高い温度で燃焼シリンダの入口に達し、排気ガスからの熱も戻される。
【0040】
これは、図2bの通常駆動モードとは対照的である。このサイクルでは、段階200b,202b,206bおよび208bは、それぞれ、200a,202a,206aおよび208aに対応する。コールドスタートモードと通常駆動モードとの間の差は、段階204bで強調される。ここで、燃焼ピストンがTDCに達するまで、排気弁134は、排気ガスの大部分が燃焼シリンダから排出されるように、開いている。このモードにおいて、エンジンは「通常」駆動しており、それにより、排気ガスの全て、または大部分がレキュペレータ内へと排出される。
【0041】
図3は、制御部100で生じる制御プロセスのフロー図を示す。制御部100は、燃焼シリンダ126の入口付近に配置される温度センサから、燃焼シリンダ126の入口温度の指示を受信する。次いで、この温度Tは、目標温度Ttargetと比較される。この例では、Ttargetは、例えば、燃料が注入されたときに効率的な燃焼を可能にし得る、燃焼シリンダの入口124での圧縮流体にとって望ましい温度である。
【0042】
がTtargetより低いか、またはTtargetと等しい場合(「コールドスタート」モードに対応する)、制御部は、燃焼ピストンがTDCに達する前に排気弁134を閉じるように、排気弁134のタイミングを制御し、排気ガスの一部を燃焼シリンダ126内に捕捉させる。
【0043】
がTtargetより高いか、またはTtargetと等しいとき(「通常駆動」モードに対応する)、制御部は、燃焼ピストンがTDCにある時点で排気弁134が閉じられるように、排気弁134の操作タイミングを制御し、この時点で、大部分の排気ガスは、圧縮ガスがレキュペレータにより十分に加熱されるため、排出される。
【0044】
図4は、通常駆動モードでの燃焼シリンダ弁の開閉操作の相対的なタイミング(位相角/クランク角度として)の代表例を示す。長い方の放射状直線(400,404および408)は、弁制御事象を表す。全体で360°の時計回りの円移動が、全ピストンサイクルを表す。
【0045】
位相角408で、燃焼シリンダ126の全ての弁が閉じられ、燃焼シリンダ内に燃焼性混合物が存在する。燃焼ピストンは、TDCにある。次いで、この混合物が点火され、ピストンはBDCへ向かって移動する。
【0046】
時計回りに移動すると、位相角400は、燃焼ピストンがBDCに達する少し前に生じる排気弁の開状態(EVO)を表す。この位置は、垂直線からの時計回りの度数により表されることができ、TDCからの燃焼ピストンの位相角のオフセットに対応する。例えば、EVOは、図4に示される例では、170°で生じてもよい。
【0047】
排気弁134は、排気弁の閉(EVC)事象が生じる位相角404(図示されている例では約340°)までは開いている。これは、EVCの直後に生じる流体取込弁の開事象(IVO)の直前である。図4において、この事象の線は、この事象と、排気弁閉(EVC)事象と、の間の時間が短すぎて明確に示すことができないため、別個には示されていない。次いで、入口弁はサイクル全体が360°で終了するまでは開いており、この時点で、入口弁は閉じ(IVC)、燃焼ピストンはTDCにあり、燃焼性混合物は0°/360°で点火され、その後、サイクルが繰り返される。
【0048】
コールドスタートモードにおいて、EVC/IVOの位相角度は、排気弁134が開いている時間が短くなるに連れて、変化する。これは、EVC/IVOが、より小さな位相角オフセットで生じることを意味する。この位相角オフセットは、TDC(0°)前の複数の角度として記載され得る。一例が図4に点線403として示され、EVO/IVOは、TDC前の約60°で生じる。
【0049】
図5aは、燃焼シリンダ126内の燃焼ピストン128を示す。排気弁134の初期閉位置に対応する、点線で示される種々の可能な燃焼ピストン128の位置が示される。
【0050】
TDCは、最上部点線500により示される。これは、排気弁の「通常の閉」位置に対応するピストン位置である。指示温度は十分に高いことが分かっており、排気ガスの全ては燃焼ピストン(128)の一連の全リターンストローク中に燃焼シリンダから排出される。種々のコールドスタートモードの操作に対応する種々の初期排気弁閉位置のピストン位置は、さらなる点線(501,502および503)により示される。
【0051】
第1初期排気弁閉位置は、線501により表され、TDC前の位相角x°である燃焼ピストンに対応する(この例では、x°と示される位置は、図4を参照して記載すると、円の周りを時計回りに(360-x)°の位置を表す。)。
【0052】
第2初期排気弁閉位置は、線502により表され、TDC前の位相角y°である燃焼ピストンに対応する。y°は、TDCオフセットからの角度がx°よりも大きい。この位置は、第1閉位置よりも初期弁閉位置に対応する。
【0053】
第3初期排気弁閉位置は、線503により表され、TDC前の位相角z°である燃焼ピストンに対応する。TDCで、z°は、TDCオフセットからの角度がy°よりも大きい。この位置は、第1排気弁閉位置と第2排気弁閉位置とよりも初期排気弁閉位置に対応している。この例では、第3初期排気弁閉位置は、最大初期排気弁閉位置を表す。これは、排気弁134が閉じることができる最も初期であり、燃焼シリンダ126内に大部分の排気ガスを残し、入口弁が開いているときに燃焼シリンダに取り込まれる圧縮流体が、可能な限り多く加熱される。しかしながら、より多量の排気ガスの保持は、有害な影響を有し得る。
【0054】
排気弁134が閉じる位置の選択は、制御部100が任意の付属のセンサから受信するデータに基づいて変化する。前述のとおり、排気弁134が閉じる点は、温度センサからの温度データに応じて変化してもよい。温度センサが目標温度より高い温度、または目標温度と等しい温度を示すとき、通常駆動モードが使用され、排気弁134はTDCで閉じる。この目標温度は、液体燃料混合物が発火前にこの温度になるような、燃焼のための目標温度でもよい。
【0055】
この温度がTtargetより低い場合、排気弁134は、例えば、TDC前のz°、y°またはx°位置(位相角)で閉じられてもよい。適切な初期排気弁閉点(コールドスタートモード)の選択は、異なる初期閉位置が、異なる指示温度範囲でマッピングされたルックアップテーブル(例えば、図5cに示されるもの)を参照することにより決定されてもよい。一般的に、Tが通常その最低温度であるスタートアップ時に、制御部100は、最大の加熱効果のために燃焼シリンダ内に最大の許容可能な量の排気ガスを保持するため、最大初期排気弁閉位置z°503を選択してもよい。その後のエンジンサイクルで、Tが上昇したものの、まだTtargetより低い場合、制御部は、y°502などの中間の初期排気弁閉位置を選択してもよい。再び、その後のサイクルで、Tがさらに上昇したものの、まだTtargetより低い場合、制御部100は、TDCにより近い、別の初期排気弁閉位置x°501を選択してもよい。その後のエンジンサイクルで、TがTtargetと一致するか、またはTtargetを超えた場合、制御部は、さらなる加熱を必要としないため、ピストンがTDCにあり、排気ガスの全てがリターンストローク終了時に排出される、通常の閉位置を選択してもよい。
【0056】
制御部の判定プロセスは、図5bのフローチャートにより示される。制御部100は、温度センサから温度データを受信する。指示温度Tは、目標温度Ttargetと比較される。指示温度TがTtargetより高いか、またはTtargetと等しい場合、制御部100は、燃焼ピストンがTDCに達したときに、排気弁134を閉じるように制御する。TがTtargetより低い場合、制御部100は、Tを目標温度より低い第2温度Tと比較する。TがTより高い場合、制御部100は、図5aから分かるように、燃焼ピストンがTDCに達する前に、位相角x°で排気弁134を閉じるように制御する。制御部100は、この比較の後、Tがカットオフ温度Tcut offであるか否かが分かるように調べる。これらの温度が同じである場合、これがそのエンジンのカットオフ位置、すなわち、「最大初期排気弁閉位置」であるため、制御部100は、対応する位置で排気弁を閉じるように制御する。この判定ツリーは図5bに続き、Tは、連続してTおよびTと比較される。これらはそれぞれ、TDC前の位相角y°およびz°である燃焼ピストンにそれぞれ対応して関連づけられた位置を有する。いくつかの例では、TtargetからTcut offまでの範囲のさらなる温度閾値が存在し得る。最後に、Tは、最大初期閉位置に対応するカットオフ温度と等しくなり、そのため、制御部100は、燃焼シリンダがTDC前の位相角z°にある最大初期排気弁閉位置で、排気弁134を閉じるように制御する。
【0057】
最大初期排気弁閉位置は、燃焼シリンダ内により多くの排気ガスを保持してもそれより多くの値が誘導され得ない点、または排気ガスを保持する負の影響が温度の利益を上回る点、であると定義されてもよい。この判定プロセスは、制御部100が、それぞれのピストンサイクルについて更新初期閉位置を与えることができるように、燃焼ピストンのそれぞれのサイクルの後に行われてもよい。
【0058】
図5cは、設定温度点およびその対応する排気弁134の閉位置と共に、これらの値のルックアップテーブルを示す。このルックアップテーブルは、制御部100によりメモリに格納され、目標温度と他の閾値温度とがルックアップテーブルから呼び戻され、指示温度と比較されることを可能にする。例えば、z°=120°、y°=80°、x°=40°の状況が存在し得る。他の例では、最大初期閉位置とTDCとの間に、これより多く、またはこれより少ない中間位置が存在し得る。
【0059】
他の実施形態では、初期閉位置は、指示温度および/または目標温度を考慮したアルゴリズムに基づいて、計算される。この初期閉位置は、単純な比例依存関係でもよく、またはさらに複雑な形態でもよい。
【0060】
図6は、圧縮シリンダに注入される寒剤の量が、温度指示に基づいて制御される実施形態を示す。制御部100は、温度指示を受信すると、Tを目標温度Ttargetと比較する。指示温度の方が高い場合、制御部100は、圧縮シリンダ104への寒剤入口を、「通常操作」の量の寒剤が圧縮シリンダ104に入ることを可能にするように制御する。その量は、寒剤の量を決定づける制御部により制御されてもよい。
【0061】
いくつかの実施形態では、これは、排気弁のタイミングを操作する制御部により使用されるものと同じ温度データを使用してもよく、弁のタイミングとレキュペレータの水注入とに加えて行われてもよい。他の例では、制御部は、異なるセンサにより集められた別個の温度データを使用してもよい。当然のことながら、この内容は、圧力センサデータと酸素濃度センサデータと、これらのデータが集められる実施形態の対応するセンサの両方と、に当てはまる。
【0062】
指示温度が目標温度より低い場合、制御部100は、「コールドスタート」の量の寒剤が圧縮シリンダ104に入ることを可能にするように寒剤入口を制御してもよい。この量は、さらなる判定を行うことにより、例えば、指示温度と、ある設定温度値の範囲と、を比較するか、または計算により、決定されてもよい。いくつかのある実施形態では、寒剤は、コールドスタートモード中に、圧縮シリンダ104に注入されない。
【0063】
検知されたパラメータが、目標温度と比較される指示温度である前述のプロセスは、検知されたパラメータが圧力または酸素濃度である状況に適用されてもよい。これらの場合に、圧力または酸素濃度のセンサ指示は、当然のことながら、目標圧力または目標酸素濃度と比較されるであろう。場合によっては、制御部100が、これらのパラメータまたは指示に基づいて、排気弁134の初期排出閉位置を判定することを可能にする。
【0064】
指示温度が「通常モード」の操作の目標温度よりも高い場合、「ホットモード」の操作が利用可能でもよい。このモードでは、加えられる極低温液体の量は入口での温度に基づいて最適化されてもよく、そのため、より多くの熱が利用可能な高負荷条件下では、温度は圧縮作業が行われる前よりも、圧縮終了時の方が低い。「ホットモード」の寒剤の量は「通常モード」の量よりも、圧縮ストロークあたりの寒剤注入の量および/または速度が大きいと理解され、その結果、圧縮シリンダ内の流体の温度は安全限界内に制御可能である。さらなる温度制御とハードウェア保護とのために、高負荷条件下で、水がレキュペレータに加えられてもよい。図7は、スプリットサイクルエンジンに使用され得る燃焼シリンダ126のヘッドの一例を示し、入口124および出口134の弁を含む断面図を示す。この図では、入口弁124は、燃焼シリンダ126から離れる方向に開放する。入口弁124は、第1閉位置710と第2開位置712との間を移動するように操作可能である。排気弁134は、内側に開く弁であり、排気ガスを燃焼シリンダ126から外に、レキュペレータ118に連結する排気経路136へと排出するように操作可能である。これらの弁は、図1で図示される制御部100に接続される弁制御装置により操作される。
【0065】
図8は、スプリットサイクル内燃エンジン101の模式図を示す。図8は、図1と似ており、同じ要素または類似の要素は、同じ機能または類似の機能を有する。図8は、入口弁124に接続される制御部100を示す。図示される例では、温度センサ122は、燃焼シリンダ126付近に配置され、レキュペレータ118と燃焼シリンダ流体取込弁124との間の圧縮流体の経路120に沿ったポイントで、流体を取り込む。このセンサ122は、圧縮流体の温度を検知し、検知した温度データを制御部100に戻して報告するように操作可能である。制御部100は、この温度データを受信し、受信した温度データに少なくとも部分的に基づいて、燃焼シリンダ126上の入口弁124のタイミングを制御するように構成される。本開示の観点で、センサは、燃焼シリンダおよび/またはこれに付随する流体に関連するパラメータの指示を検知するように、任意の適切な位置に配置されてもよいことが理解されるべきである。例えば、センサは、レキュペレータ内、または燃焼シリンダからの排出口内に配置されてもよい。
【0066】
入口弁124は、燃焼シリンダへの流体の流れを制御するように構成される。制御部は、操作中、燃焼シリンダおよび/またはこれに付随する流体に関連するパラメータの指示を受信するように構成される。制御部は、指示の受信に応じて、指示パラメータが閾値基準を満たすか否か、例えば、指示パラメータの値が目標値と等しいか、または目標値より大きいかを判定するように構成される。制御部100は、入口弁の開閉を制御するために、入口弁124に接続される。
【0067】
この例では、ピストンのサイクルは、その下死点位置(「BDC」)で燃焼ピストン128と共に開始すると考えられてもよい。燃焼ピストン128は、クランクシャフト114の回転に従って、BDCへと下側に戻る前に、BDCから上死点位置(「TDC」)に向かって上方に移動する。したがって、ピストンのサイクルは、BDCからTDCを介してBDCへと移動する燃焼ピストン128を備えると考えられてもよい。燃焼ピストン128は、燃焼シリンダの長手方向軸である1つの軸のみに沿って移動するように拘束される。燃焼ピストン128の移動は、円形の様式で回転するクランクシャフト114の回転に従う。そのため、TDCとBDCとの付近での燃焼ピストンの移動は、クランクシャフトの円形運動がその領域でのそれぞれの回転角度について前述の1つの軸の方向にほんの小さな移動しか生じさせないため、遅い。したがって、TDCとBDCとの付近で、燃焼ピストンにより囲まれるシリンダの体積変化はゆっくりと変化し、クランクシャフト114の単位回転(すなわち「位相角」または「クランク角」)あたりの燃焼シリンダ126の圧力変化は小さい。燃焼シリンダ126内の燃焼ピストン128の位置は、クランクシャフトの回転角度という観点で表現されてもよいことが理解されよう。
【0068】
制御部100は、燃焼ピストン128が燃焼シリンダ126内の異なる位置にあるときに、入口弁124が開かれ得るように、入口弁124の開閉を動的に制御するように構成される。したがって、入口弁124は、ピストンのサイクル中の異なる段階で開かれてもよい。スプリットサイクル内燃エンジンの「コールドスタート」中、制御部100は、例えば、入口弁124をピストンサイクル中に初期開位置で開けさせるように、入口弁124を制御するように構成される。スプリットサイクル内燃エンジンの「通常」駆動条件中、作動流体が十分な燃焼が生じるほど十分に温かい場合、制御部100は、後期開位置で入口弁124が開くように制御する。制御部100は、受信した指示パラメータに基づいて、スプリットサイクル内燃エンジンをコールドスタートモードで操作するか、または通常モードで操作するかを判定するように構成される。
【0069】
制御部100により受信される指示パラメータは、燃焼シリンダおよび/またはこれに付随する流体の性質の指示である。安定で迅速な燃焼の達成は、スプリットサイクル内燃エンジンでは問題となってきた。特に、スプリットサイクル内燃エンジンのコールドスタート中、作動流体は比較的冷たくてもよいが、多くが燃焼不良を引き起こし、そのため、スプリットサイクル内燃エンジンは適切にスタートアップすることができない場合がある。さらに、多すぎる水の存在、および/または十分な酸素が存在しないことは、適切な燃焼が生じることを妨げ得る。
【0070】
このことを説明するために、制御部100により受信される指示パラメータは、燃焼シリンダ126内の作動流体に関連する温度、圧力、酸素濃度、または水濃度のうち1つを含んでもよい。パラメータの目標値は、指示パラメータに対応するであろう。目標値を満たしている指示パラメータは、燃焼シリンダ126内の条件が燃焼に適していることを示す指示パラメータを表すであろう。したがって、目標値が温度、圧力、または酸素濃度である場合、目標パラメータより大きな値または目標パラメータと等しい値が、適切な燃焼条件を示すであろう。指示パラメータが水濃度である場合、目標パラメータより小さな値が、適切な燃焼条件を示すであろう。
【0071】
受信された指示パラメータが目標値を満たしておらず、条件が燃焼に適していないことを示す場合、制御部100は、「コールドスタート」モードの操作に従って入口弁124を操作するように制御する。このモードにおいて、制御部100は、ピストンのサイクル中、入口弁124を「初期開位置」で開くように制御する。初期開位置は、TDC前であり、燃焼ピストン128のリターンストローク中、燃焼ピストン128がそのTDCに達する前である。初期開位置の位置は、燃焼ピストン128の連続的な移動が作動流体に対してかなりの圧縮効果を与えるような位置である。制御部100は、燃焼ピストン128がTDC後のクランク角x°にある初期開位置で入口弁124を開けるように構成される。初期開位置は、例えば、TDC前に5°、TDC前に10°、TDC前に20°、TDC前に30°、でもよい。入口弁124をTDC前に開くことは、燃焼ピストン128がまだTDCに向かって移動している間に、作動流体が燃焼シリンダ126へと流れることを可能にする。燃焼ピストン128の連続的な移動により、作動流体が圧縮され、その温度が上昇するだろう。作動流体の温度上昇は、燃焼シリンダ126内の燃焼条件を改善し得る。
【0072】
図8に示されるスプリットサイクル内燃エンジン101について、燃焼シリンダ126からの排気は、燃焼シリンダ126に吸入される作動流体に熱的に連結されるレキュペレータ118を通じて、フィードバックされる。したがって、レキュペレータ118は、燃焼シリンダ126に流入される流体を十分に温めるため、燃焼シリンダ126から十分に熱い排出液体を受け入れることが望ましい。例えば、燃焼シリンダ126内の不十分な燃焼に起因して、この熱移動が不十分な場合、スプリットサイクル内燃エンジンの操作を維持することが不可能な場合がある。したがって、作動流体は、適切な燃焼を可能にし、それ故、エンジンの連続的な操作を可能にするほど十分に温かいことが重要である。
【0073】
燃焼ピストン128からの余剰な圧縮が作動流体の必要な加熱を与え得るため、十分に温かい作動流体を供給することは、入口弁124の初期開放により達成されてもよい。加圧流体の入口に起因して、あまりに初期に開放し、燃焼ピストン128の動きを妨げることと、作動流体の十分な加熱を達成するために十分なほど初期に開放することとの間は、トレードオフの関係になり得ることが理解されるべきである。したがって、制御部100は、入口弁124がTDCよりz°後ろで開く、入口弁124の最大初期開位置が存在するように構成されてもよい。
【0074】
したがって、制御部は、指示パラメータを連続的に監視し、指示パラメータに基づいて、入口弁124の開位置を変更することにより、動的な監視と、入口弁124の制御と、を行うように構成されてもよい。例えば、燃焼ピストン128がTDC前のx°にある、初期開位置についての値xは、指示パラメータと、そのパラメータの目標値と、の間の差に基づいて、継続的に変化されてもよい。したがって、制御部100は、ピストンのサイクルにおいて、燃焼シリンダおよび/または作動流体の指示パラメータが目標値からさらに離れるとき、入口弁124をより初期に開くように制御してもよい。したがって、流体が非常に冷たい場合、制御部100は、作動流体により多量の圧縮を加え、それにより加熱するように、入口弁124を非常に初期に(例えば、z°で)開けるように制御する。
【0075】
ある実施形態では、制御部100は、ピストンのサイクルの連続した位置で、入口弁124を開けるように構成されてもよい。他の実施形態では、制御部100は、指示温度と目標温度との間の差に従って、TDC前の位相角z°とTDCとの間の燃焼ピストン128の位置について、入口弁124の複数の別個の初期開位置のうち1つを選択するように構成されてもよい。制御部100は、排気弁について前述したものと同様の様式で、この操作を行ってもよい。
【0076】
受信した指示パラメータが、目標値を満たしており、燃焼に適した条件が存在することを示す場合、制御部100は、「通常操作モードの操作」に従って、入口弁124を操作するように制御する。この態様では、入口弁124は、ピストンのサイクル中、「後期開位置」の位置で、燃焼シリンダ126への流体の流れを可能にするように開く。後期開位置は、ピストンのサイクルにおいて、初期開位置よりも後ろである。典型的には、この位置は、初期開位置よりもTDCに近く、TDCでもよく、またはTDC直前でもよい。
【0077】
点火が起こる前にクランク角が大き過ぎないように、燃焼ピストン128がそのTDCに達した後可能な限り迅速に、レキュペレータ118内の全ての作動流体が、燃焼シリンダ126へと移されていることが望ましい。制御部100は、入口弁124をTDCで、またはTDCより非常にわずかに後ろで開くように制御してもよい。あるいは、制御部100は、燃焼ピストンがそのTDCに達するわずかに前に入口弁124を開くように制御してもよい。例えば、入口弁124は、燃焼ピストンのリターンストローク中、燃焼ピストンがそのTDCに達するよりも前に開くように制御されてもよい。例えば、入口弁124は、TDCより1°前、TDCより3°前、TDCより5°前に開くように制御される。燃焼シリンダ126において、TDC前のこれらの位置での燃焼ピストン128の移動がクランクシャフト114の角回転に関連して非常に小さいため、燃焼シリンダ126内の作動流体に対して行われる圧縮は、微々たる量しか存在しない。したがって、作動流体の温度上昇または燃焼ピストン128の移動に対する流体抵抗の上昇は、顕著な問題ではない。一旦流体の全てが燃焼シリンダ126に入ると、制御部100は、入口弁124を閉じるように制御する。
【0078】
ここで、スプリットサイクル内燃エンジンの操作方法を、図9a,9bを参照しながら説明する。図9aは、段階900a,902a,904a,906aおよび908aを含む、コールドスタートモードの操作中に燃焼シリンダを制御するプロセスを、通常駆動モードの段階900b,902b,904b,906bおよび908bを示す図9bと比較することにより、模式的に示す。図9a,9bにおいて、燃焼シリンダおよび/またはこれに付随する流体に関連するパラメータの指示が受信され、燃焼シリンダ126の入口弁124は、指示パラメータに基づいて制御される。図9aでは、指示パラメータは目標値より小さく、入口弁124は初期開位置で開くように制御される。図9bでは、指示パラメータは目標値と等しいか、または目標値より大きく、入口弁124は後期開位置で開くように制御される。
【0079】
図9aでは、段階900aで、圧縮流体と燃料との混合物(「作動流体」)は、燃焼ピストン128がTDCにあるか、またはTDCのわずかに後ろにあるときに発火する。スプリットサイクル内燃エンジンの燃料の種類に応じて、この発火は、スパークプラグまたは自動発火により開始されてもよい。燃料の燃焼から放出されるエネルギーに起因する圧力上昇は、燃焼ピストンを下死点(BDC)に向かって駆動させ、さらにクランクシャフト114を駆動させる。一旦燃焼ピストンがBDCに達すると、燃焼混合物が膨張し、燃焼シリンダ126を満たし、排気弁134が開く(段階902a)。次いで、燃焼ピストンがTDCに向かって進み、排気ガスを排気弁34から排出する。
【0080】
コールドスタートモードにおいて、入口弁124は、燃焼ピストン128がTDCに達する前に開く。入口弁124は、排気弁134が閉じられたわずかに後に開けられる。このことは、段階904aで示され、入口弁124は、燃焼ピストンがBDCからTDCまでの道のりの約65%に達するときに開く。これは、圧縮シリンダ/レキュペレータからの圧縮流体が燃焼シリンダ126に流れることを可能にする。次いで、段階906aに示されるとおり、燃焼ピストンがTDCに達するまで、この注入流体は、さらに圧縮される。入口弁124が閉じられ、注入された燃料が点火され(段階908a)、サイクルが再び開始する。作動流体の余剰な加熱/圧縮を行うことは、スプリットサイクル内燃エンジン内(特にレキュペレータ188内)の熱の不足を補うことにより、スプリットサイクル内燃エンジンの効率を上げ得る。
【0081】
これは、図9bにおける通常駆動モードとは対照的である。このサイクルでは、段階900b,902b,906bおよび908bは、それぞれ900a,902a,906aおよび908aに対応する。コールドスタートモードと通常駆動モードとの間の差は、段階904bで強調される。ここで、注入流体のさらなる圧縮が燃焼ピストン128を用いて達成され得ないように、入口弁124は、燃焼ピストンがTDCに達するまでは閉じられる。このモードにおいて、エンジンは、「通常」駆動し、これにより、TDCよりかなり前に圧縮シリンダに注入される流体はほとんどないか、または全くない。ここで、前述のとおり、TDCよりかなり前とは、流体が燃焼ピストン128からかなりの量の圧縮を受け得るような流体の注入のタイミングを指す。
【0082】
ここで再び図8を参照しながら、本開示の別の態様について説明する。この態様において、制御部100は、燃焼シリンダ128および/またはこれに付随する流体のパラメータの受信した指示に基づいて、入口弁124と排気弁134との両方を制御するように構成される。入口弁124の初期開放について前述したとおり、制御部100は、ピストンのサイクル中、受信した指示パラメータの値がそのパラメータの目標値より小さいとき、燃焼シリンダ126の入口弁124を初期開位置で開けるように制御するように構成される。さらに、排気弁134の初期閉操作について前述したとおり、制御部100は、ピストンのサイクル中、受信した指示パラメータの値がそのパラメータの目標値より小さい場合に、燃焼シリンダ126の排気弁134を、初期閉位置で閉じるように制御するように構成される。これに対応して、制御部は、目標値と等しいか、または目標値より大きい受信した指示パラメータに応答して、入口弁124を後期開位置で開けるように制御してもよい。同様に、制御部は、目標値と等しいか、または目標値より大きい受信した指示パラメータに応答して、排気弁134を後期閉位置で閉じるように制御してもよい。
【0083】
制御部100は、他の弁の決定された開位置および/または閉位置に少なくとも部分的に基づいて、それぞれの弁の開閉について、ピストンのサイクル中の位置を決定するように構成されてもよい。制御部100は、入口弁124が開かれる前に、排気弁134が確実に閉じるように構成される。そうでない場合、圧縮空気の流入は、入口弁124内を通って流れてもよく、燃焼ピストン128でかなりの作業を実行するために使用されることなく、排気弁134から直接的に出てもよい。同様に、燃焼中および/または燃焼後、燃焼ピストン128がBDCに移動するに連れて、制御部100は、可能な最大量の作業が燃焼ピストン128で確実に行われるために、両方の弁が確実に閉じたままになるように構成される。他の位置では、ピストンのサイクル中、2つの弁のうち1つの弁だけが開いている。制御部100は、受信した指示パラメータに基づいて、どの位置で、どれくらい長く、どの弁を開けるべきかを判定してもよい。
【0084】
したがって、制御部100は、ピストンのサイクル中、入口弁124の開操作よりも初期に排気弁134を閉じるように制御するように構成される。排気弁134が閉じられることを示す信号の受信に応答して、制御部100は、入口弁124を開くように制御するように構成されてもよい。排気弁134を閉じるように制御する制御部100と、入口弁124を開くように制御する制御部100と、の間の差は、2つの事象が起こる間のタイムラグとして、または2つの異なる事象が起こるピストンのサイクル内の位置の差として表現されてもよい。例えば、排気弁134はTDC前のa°で閉じられてもよく、入口弁124はTDC前の(a-b)°で開けられてもよく、ここで、bは108
であるか、または可変である。bの値は、受信した指示パラメータに応じて変わってもよい。例えば、bは、スプリットサイクル内燃エンジンのセットアップと制御システムとにより許容可能な最短時間でこの2つの状態の間を遷移することを表し、一定であってもよい。例えば、bは、指示パラメータの値と目標値との間の値の差に比例して可変でもよい。この2つの状態の間の遷移が可能な限り短時間で行われることが、望ましい場合がある。
【0085】
この弁設定を用いたランニングテストから得られる科学データは、エンジンが冷たいときに燃焼条件を向上させるためのより効果的な様式が、入口弁124を初期に開けることであることを示唆する。制御部100は、例えば、ルックアップテーブルの形態のデータを含むメモリを備えてもよい。制御部100は、指示パラメータに基づいて、選択した燃焼条件を達成するために、燃焼シリンダおよび/またはこれに付随する流体をどの程度加熱することが必要かを判定してもよい。制御部100は、この判定に基づいて、ルックアップテーブルを使用し、発熱に対するそれぞれのアプローチ(流入/排出)の相対的な寄与を決定してもよい。例えば、排出流体を圧縮する(例えば、排気弁134の初期閉操作から)ことによりどれほど多くの熱が発生するか、作動流体のさらなる圧縮により(例えば、入口弁124の初期開操作から)どれほど多くの熱が発生するか。制御部は、この決定に従って、この2種類のアプローチからの発熱の所望の比率を達成するように、両方の弁を制御してもよい。あるいは、制御部は、一方のアプローチを他方のアプローチよりも好み、その手段による発熱が最大になるように弁を制御してもよい。したがって、制御部100は、所望の加熱レベルを達成するために、排出と流入とからの発熱を選択した比率で達成するために、判定し、弁を制御してもよい。
【0086】
例えば、燃焼シリンダ126内の熱の所望の増加の大部分が、排気弁134を初期に閉じることのみにより達成可能である場合には、制御部100は、余剰な発熱のわずかな部分のみが吸入流体の圧縮からくるように、排気弁134の閉操作と入口弁124の開操作との間の時間差を遅くするように構成されてもよい。したがって、制御部100は、受信した指示パラメータに基づいて、排気弁134の閉操作に対する入口弁124の開操作を動的に制御してもよい。
【0087】
制御部100は、スプリットサイクル内燃エンジンの操作の通常の駆動段階中、排気弁がTDC前に、できるだけ遅く閉じるように、弁の開/閉を制御するように構成されてもよい。前述のとおり、入口弁124は、所望の燃焼効果を達成するために、全ての作動流体が燃焼シリンダ126に注入されることを可能にするために、TDCのわずかに前に開かれてもよい。したがって、制御部100は、入口弁124を開けるように制御してから可能な限り直後に、排気弁134を閉じるように制御してもよい。
【0088】
ここで、図10a,10bを参照しながら、本開示の前述の態様の操作方法を説明する。図10a,10bは図9a,9bの方法と非常に密接に対応しており、そのため、同様の工程は再び記載されない。同様に、図10aは「コールドスタート」中のスプリットサイクル内燃エンジンの操作方法を示し、図10bは「通常の駆動条件」中の方法を示す。図10aにおいて、この方法は、燃焼シリンダおよび/またはこれに付随する流体に関連するパラメータの指示を受信する工程と、指示パラメータがそのパラメータの目標値よりも小さいと判定する工程と、を含む。図10bは、指示パラメータが目標値と等しいか、または目標値よりも大きいと判定する工程を含む方法の例示として含まれている。
【0089】
この2図の主な違いは、工程1004,1006で生じる。工程1004aでは、排気弁134は、燃焼ピストン128がTDCに達する前に閉じるように制御される。工程1006aでは、入口弁124は、燃焼ピストン128がTDCに達する前であるが、排気弁134が閉じた後に開くように制御される。対照的に、燃焼ピストン128bがTDCにあるか、またはTDC付近にある工程1004bでは、排気弁134は開状態のままであり、工程1006bにおいてのみ閉められる。次いで、入口弁124は、燃焼ピストン128がTDCにある工程1008bで開く。
【0090】
図11は、通常駆動モード中のスプリットサイクル内燃エンジンの最適操作のための圧力トレースの一例を示す。左から右に移動すると、燃焼ピストン128の戻り区間中、排気弁134が開き、入口弁124が閉じた状態で燃焼ピストン128がBDCからTDCに向かって移動するため、シリンダ圧力は、かなり一定のままである。点Aでは、排気弁134は閉じ始め、点Bでは、排気弁134は完全に閉じている。排気弁134の閉操作に応答して、シリンダ圧力が上昇し始める。TDCよりわずかに前の点Cでは、入口弁124は、TDCで完全に開状態になるように、開き始める。入口弁124は、TDCより少し後の点Dまでは完全に開いたままであり、ここで閉じ始める。点Eでは、入口弁124は、完全に閉じる。シリンダ圧力は、入口弁の開閉中、燃焼が始まるまで徐々に増加し、この点で、F点での最大まで迅速に上昇する。点Fの後、シリンダ圧力は、燃焼ピストン128がTDCからBDCに向かって移動するに連れて、徐々に減少する。
【0091】
図12は、入口弁の開操作と排気弁の閉操作とのタイミングを変更したときの結果を示すグラフを示す。図12に示される結果は、800rpmで駆動するスプリットサイクル内燃エンジンに基づいて得られた。実線は入口弁の初期開状態と排気弁の初期閉状態とを表し、点線は後期開状態と後期閉状態とを表す。
【0092】
線A,Bは、排気弁の開/閉を表す。線AはTDCより約65°前に初期開状態にある排気弁を示し、一方、線BはTDCより約35°前に開状態にある排気弁を示す。両方の場合において、グラフは、排気弁が完全に開いた状態から完全に閉じた状態へと移動するために、約5°-10°の回転が必要であることを示す。両方の場合において、排気弁の初期での閉操作の効果は、それぞれ線G,Hにより図示されるシリンダ圧力の対応する増加をもたらす。線C,Dは、入口弁の開/閉を表す。線Cでは、入口弁はTDCより約23°前に開き始め、一方、線Dでは、入口弁はTDCより約13°前に開き始める。両方の場合において、完全に開いた状態に達するために約13°かかり、この時点で、弁が再び閉じ始め、完全に閉じるために約13°かかる。線E,Fは、シリンダへの燃料の注入を表す。両方の場合において、この注入は短時間で、一瞬であり、ゼロからそのピークレベルまでに約2°以内で進み、その後、再び約2°以内でゼロまで戻る。線EはTDCより約10°前に開始する注入を表し、一方、線FはTDCから3°後ろに開始する注入を表す。
【0093】
この2つのタイミングの効果はそれぞれ線G,Hにより示され、これらはシリンダ圧力を表す。図から分かるように、線Gは、排気弁の初期閉操作と入口弁の初期開操作とに対応し、線Hの遅れた小さなピーク(41bar)と比較すると、約51barのかなり大きなピーク(したがって、より高い温度)に達する。したがって、このグラフは、入口弁の初期開操作と排気弁の初期閉操作とに関連する利益を示す。
【0094】
図13は、入口弁の開操作と排気弁の閉操作とのタイミングを変更したことにより生じる結果を示すグラフを示す。図13に示される結果は、1200rpmで駆動するエンジンに基づいて得られた。ここでも、実線は入口弁の初期開状態と排気弁の初期閉状態とを表し、点線は後期開状態と後期閉状態とを表す。
【0095】
図13の線とその参照文字とは、図12に関連して前述された線とその参照文字とに対応するため、説明は繰り返さない。図13の線AはTDCの約75°前に初期の閉状態にある排気弁を示し、一方、線BはTDCより約60°前に閉状態にある排気弁を示す。両方の弁の閉状態は、シリンダ圧力のわずかな増加(それぞれ線G,H)をもたらす。線C,Dの両方は、TDCより約30°前で、入口弁が開いていることを示し、線Dにおける開操作がわずかに先である。TDCより約3°前に入口弁が完全に閉じている状態の線Cと比較して、線Dにおいても、入口弁は、さらに長く開いたままであり、TDCより約3°後ろに完全に閉じている。線EはTDCより約14°前に開始している注入を示し、一方、線FはTDCより約8°前に開始している注入を示す。
【0096】
図12と同様に、線G,Hは、シリンダ圧力を表し、線Gが線H(約50bar)よりも高い圧力(約53bar、よってより高い温度)に達していることが明らかである。さらに、線Gのピークは線Hのピークより約5°前で達し、線GはTDC直後にピークに達する。したがって、このグラフは、スプリットサイクル内燃エンジンのより初期のタイミングシステムがもたらす利益を示す。
【0097】
スプリットサイクルエンジンの効率を高めるために、寒剤注入と、排気弁のタイミングと、レキュペレータの水注入と、のいずれかの制御が、個々に、または組み合わせて実行されてもよい。
【0098】
いくつかの例では、スプリットサイクルエンジンは、圧縮シリンダへの寒剤注入を使用する必要がない。
【0099】
いくつかの例では、スプリットサイクルエンジンは、ガソリン、ディーゼル、または別の燃料を使用可能である。
【0100】
いくつかのある例では、1つ以上のメモリ要素は、本明細書に記載される操作を実行するために使用されるデータおよび/またはプログラム命令を格納することができる。本開示の実施形態は、プロセッサをプログラミングし、本明細書に記載および/または請求される方法の任意の1つ以上を実施し、および/または本明細書に記載および/または請求されるデータ処理装置を提供するように操作可能なプログラム命令を含む、有形の非一時的記憶媒体を提供する。
【0101】
本明細書で概説される活性および装置は、論理ゲートのアセンブリなどの固定論理、またはプロセッサにより実行されるソフトウェアおよび/またはコンピュータプログラム命令などのプログラマブルロジックを用いて実行されてもよい。他の種類のプログラマブルロジックは、プログラマブルプロセッサ、プログラマブルデジタル論理(例えば、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、消去可能プログラマブル読み出し専用メモリ(EPROM)、電気的消去可能プログラマブル読み出し専用メモリ(EEPROM))、特定用途向け集積回路ASIC、または任意の他の種類のデジタルロジック、ソフトウェア、コード、電子的命令、フラッシュメモリ、光ディスク、CD-ROM、DVD ROM、磁気カードまたは光学カード、電子的命令を格納することに適した他の種類の機械可読媒体、またはこれらの任意の適切な組み合わせを含む。
【0102】
図面に示される実施形態は、単なる例示であり、本明細書に記載され、特許請求の範囲に示されたとおり、一般化されてもよく、除去されてもよく、または交換されてもよい特徴を含むことが、前述の説明から理解されよう。本開示の観点で、本明細書に記載される装置と方法との他の例と変形例とは、当業者には明らかであろう。

図1
図2a
図2b
図3
図4
図5a
図5b
図5c
図6
図7
図8
図9a
図9b
図10a
図10b
図11
図12
図13