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特許7129988ナノ硫黄充填カソードを含むアルカリ金属-硫黄二次電池及び製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-25
(45)【発行日】2022-09-02
(54)【発明の名称】ナノ硫黄充填カソードを含むアルカリ金属-硫黄二次電池及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/587 20100101AFI20220826BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20220826BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20220826BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20220826BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20220826BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20220826BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220826BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20220826BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20220826BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20220826BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20220826BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20220826BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20220826BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20220826BHJP
   H01M 4/1393 20100101ALI20220826BHJP
   H01M 4/1397 20100101ALI20220826BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20220826BHJP
【FI】
H01M4/587
H01M4/58
H01M4/38 Z
H01M4/133
H01M4/136
H01M4/13
H01M10/052
H01M10/054
H01M10/058
H01M10/0562
H01M10/0565
H01M10/0568
H01M10/0569
H01M4/485
H01M4/1393
H01M4/1397
H01M4/139
【請求項の数】 46
(21)【出願番号】P 2019543359
(86)(22)【出願日】2018-02-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-03-12
(86)【国際出願番号】 US2018016376
(87)【国際公開番号】W WO2018148090
(87)【国際公開日】2018-08-16
【審査請求日】2020-11-18
(31)【優先権主張番号】15/431,231
(32)【優先日】2017-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518190776
【氏名又は名称】ナノテク インストゥルメンツ,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Nanotek Instruments,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ツァーム,アルナ
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ボア ゼット.
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0294000(US,A1)
【文献】特開2011-184293(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M10/00-10/39
H01G11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード活物質層と、前記アノード活物質層を支持するアノード集電体と、カソード活物質層と、前記アノード活物質層及び前記カソード活物質層とイオン接触する多孔質セパレータ層を有する電解質と、前記カソード活物質層を支持するカソード集電体とを含み、前記カソード活物質層は、X線回折で測定される、0.43nm~2.0nmの面間隔d002を有する膨張グラフェン間面間隔と、前記膨張グラフェン間面間隔に存在する1重量%~95重量%の硫黄又は金属ポリスルフィドを有する黒鉛又は炭素材料を含むことを特徴とする、リチウム-硫黄セル、ナトリウム-硫黄セル、又はカリウム-硫黄セルから選択される充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項2】
請求項1に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記金属ポリスルフィドはMを含み、xは1~3の整数であり、yは1~10の整数であり、Mは、アルカリ金属、Mg又はCaから選択されるアルカリ金属、遷移金属、周期表の13~17族の金属、或いはこれらの組み合わせから選択される金属元素であることを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項3】
請求項2に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記金属元素Mは、Li、Na、K、Mg、Zn、Cu、Ti、Ni、Co、Fe、又はAlから選択されることを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項4】
請求項1に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記金属ポリスルフィドは、Li、Li、Li、Li、Li10、Na、Na、Na、Na、Na10、K、K、K、K、又はK10を含むことを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項5】
請求項1に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記カソード活物質層の前記黒鉛又は炭素材料は、メソフェーズピッチ、メソフェーズカーボン、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス粒子、膨張黒鉛フレーク、人工黒鉛粒子、天然黒鉛粒子、高配向熱分解黒鉛、軟質炭素粒子、硬質炭素粒子、多壁カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、炭素繊維、黒鉛ナノファイバー、黒鉛繊維、炭化ポリマーファイバー、カーボンエアロゲル、カーボンキセロゲル、又はこれらの組み合わせから選択され、前記黒鉛又は炭素材料は、化学的又は物理的膨張処理前の0.27nm~0.42nmの面間隔d002を有し、前記膨張処理後に、前記面間隔d002は0.43nmから2.0nmに増加することを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項6】
請求項1に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記黒鉛又は炭素材料は、細孔及び細孔壁を有する黒鉛発泡体又はグラフェン発泡体から選択され、前記細孔壁は、0.45nm~1.5nmの膨張面間隔d002を有する結合グラフェン面のスタックを含むことを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項7】
請求項6に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記スタックは2~100のグラフェン面を含むことを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項8】
請求項1に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記面間隔d002は0.5nm~1.2nmであることを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項9】
請求項1に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記面間隔d002は1.2nm~2.0nmであることを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項10】
請求項5に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記膨張処理は、前記黒鉛又は炭素材料の、酸化、フッ素化、臭素化、塩素化、窒素化、インターカレーション、複合酸化インターカレーション、複合フッ素化インターカレーション、複合臭素化インターカレーション、複合塩素化インターカレーション、又は複合窒素化インターカレーションを含むことを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項11】
請求項10に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、制約熱膨張処理を更に含むことを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項12】
請求項1に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記黒鉛又は炭素材料は、酸素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、窒素、水素、又はホウ素から選択される非炭素元素を含むことを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項13】
請求項1に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記セルは、85%を超える硫黄利用効率を有することを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項14】
充電式アルカリ金属-硫黄セルにおけるカソード活物質層において、前記カソード活物質層は、X線回折で測定される、0.43nm~2.0nmの面間隔d002を有する膨張グラフェン間面間隔と、前記膨張グラフェン間面間隔に存在する1重量%~95重量%の硫黄又は金属ポリスルフィドを有する黒鉛又は炭素材料を含むことを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セルにおけるカソード活物質層。
【請求項15】
請求項14に記載のカソード活物質層において、前記金属ポリスルフィドはMを含み、xは1~3の整数であり、yは1~10の整数であり、Mは、アルカリ金属、Mg又はCaから選択されるアルカリ金属、遷移金属、周期表の13~17族の金属、及びこれらの組み合わせから選択される金属元素であることを特徴とするカソード活物質層。
【請求項16】
請求項15に記載のカソード活物質層において、前記金属元素Mは、Li、Na、K、Mg、Zn、Cu、Ti、Ni、Co、Fe、又はAlから選択されることを特徴とするカソード活物質層。
【請求項17】
請求項14に記載のカソード活物質層において、前記金属ポリスルフィドは、Li、Li、Li、Li、Li10、Na、Na、Na、Na、Na10、K、K、K、K、又はK10を含むことを特徴とするカソード活物質層。
【請求項18】
請求項14に記載のカソード活物質層において、前記カソード活物質層の前記黒鉛又は炭素材料は、メソフェーズピッチ、メソフェーズカーボン、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス粒子、膨張黒鉛フレーク、人工黒鉛粒子、天然黒鉛粒子、高配向熱分解黒鉛、軟質炭素粒子、硬質炭素粒子、多壁カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、炭素繊維、黒鉛ナノファイバー、黒鉛繊維、炭化ポリマーファイバー、カーボンエアロゲル、カーボンキセロゲル、又はこれらの組み合わせから選択され、前記黒鉛又は炭素材料は、化学的又は物理的膨張処理前の0.27nm~0.42nmの面間隔d002を有し、前記膨張処理後に、前記面間隔d002は、0.43nmから2.0nmに増加することを特徴とするカソード活物質層。
【請求項19】
請求項14に記載のカソード活物質層において、前記黒鉛又は炭素材料は、細孔及び細孔壁を有する黒鉛発泡体又はグラフェン発泡体から選択され、前記細孔壁は、0.45nm~1.5nmの膨張面間隔d002を有する結合グラフェン面のスタックを含むことを特徴とするカソード活物質層。
【請求項20】
請求項19に記載のカソード活物質層において、前記スタックは2~100のグラフェン面を含むことを特徴とするカソード活物質層。
【請求項21】
請求項14に記載のカソード活物質層において、前記面間隔d002は0.5nm~1.2nmであることを特徴とするカソード活物質層。
【請求項22】
請求項14に記載のカソード活物質層において、前記面間隔d002は1.2nm~2.0nmであることを特徴とするカソード活物質層。
【請求項23】
請求項18に記載のカソード活物質層において、前記膨張処理は、前記黒鉛又は炭素材料の、酸化、フッ素化、臭素化、塩素化、窒素化、インターカレーション、複合酸化インターカレーション、複合フッ素化インターカレーション、複合臭素化インターカレーション、複合塩素化インターカレーション、又は複合窒素化インターカレーションを含むことを特徴とするカソード活物質層。
【請求項24】
請求項23に記載のカソード活物質層において、制約熱膨張処理を更に含むことを特徴とするカソード活物質層。
【請求項25】
請求項14に記載のカソード活物質層において、前記黒鉛又は炭素材料は、酸素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、窒素、水素、又はホウ素から選択される非炭素元素を含むことを特徴とするカソード活物質層。
【請求項26】
請求項1に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記電解質は、ポリマー電解質、ポリマーゲル電解質、複合電解質、イオン液体電解質、非水性液体電解質、ソフトマター相電解質、固体電解質、又はこれらの組み合わせから選択されることを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項27】
請求項1に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記電解質は、過塩素酸リチウム(LiClO)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、六フッ化ヒ化リチウム(LiAsF)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCFSO)、ビス-トリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム(LiN(CFSO)、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiBOB)、オキサリルジフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、オキサリルジフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、硝酸リチウム(LiNO)、Li-フルオロアルキル-リン酸(LiPF(CFCF)、リチウムビスペルフルオロエチルスルホニルイミド(LiBETI)、イオン液体塩、過塩素酸ナトリウム(NaClO)、過塩素酸カリウム(KClO)、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム(NaPF)、ヘキサフルオロリン酸カリウム(KPF)、ホウフッ化ナトリウム(NaBF)、ホウフッ化カリウム(KBF)、ヘキサフルオロヒ化ナトリウム、ヘキサフルオロヒ化カリウム、トリフルオロメタスルホン酸ナトリウム(NaCFSO)、トリフルオロメタスルホン酸カリウム(KCFSO)、ビス-トリフルオロメチルスルホニルイミドナトリウム(NaN(CFSO)、トリフルオロメタンスルホンイミドナトリウム(NaTFSI)、及びビス-トリフルオロメチルスルホニルイミドカリウム(KN(CFSO)、又はこれらの組み合わせから選択されることを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項28】
請求項27に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記電解質の非水性溶媒は、炭酸エチレン(EC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸メチルエチル(MEC)、炭酸ジエチル(DEC)、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル、炭酸プロピレン(PC)、γ-ブチロラクトン(γ-BL)、アセトニトリル(AN)、酢酸エチル(EA)、ギ酸プロピル(PF)、ギ酸メチル(MF)、トルエン、キシレン又は酢酸メチル(MA)、炭酸フルオロエチレン(FEC)、炭酸ビニレン(VC)、炭酸アリルエチル(AEC)、1,3-ジオキソラン(DOL)、1,2-ジメトキシエタン(DME)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)、ポリ(エチレングリコール)ジメチルエーテル(PEGDME)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(DEGDBE)、2-エトキシエチルエーテル(EEE)、スルホン、スルホラン、室温イオン液体、又はこれらの組み合わせから選択されることを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項29】
請求項1に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記アノード活物質層は、リチウム金属、ナトリウム金属、カリウム金属、リチウム金属合金、ナトリウム金属合金、カリウム金属合金、リチウムインターカレーション化合物、ナトリウムインターカレーション化合物、カリウムインターカレーション化合物、リチウム化化合物、ナトリウム化化合物、カリウムドープト化合物、リチウム化二酸化チタン、チタン酸リチウム、マンガン酸リチウム、リチウム遷移金属酸化物、LiTi12、又はこれらの組み合わせから選択されるアノード活物質を含むことを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項30】
請求項1に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記セルは、リチウムイオン-硫黄セルであり、前記アノード活物質層は、
(a)シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、及びカドミウム(Cd)、並びにこれらのリチウム化バージョン、
(b)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、又はCdの他の元素との合金又は金属間化合物、並びにこれらのリチウム化バージョン、前記合金又は化合物は化学量論的又は非化学量論的である、
(c)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Fe、Ni、Co、Ti、Mn、又はCdの酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、リン化物、セレン化物、及びテルル化物、並びにこれらの混合物又は複合体、並びにこれらのリチウム化バージョン、
(d)Snの塩及び水酸化物、並びにこれらのリチウム化バージョン、
(e)黒鉛又は炭素材料及びこれらのプレリチウム化バージョン、並びに
これらの組み合わせからなる群から選択されるアノード活物質を含むことを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項31】
請求項1に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記セルは、ナトリウムイオン-硫黄セル又はカリウムイオン-硫黄セルであり、前記アノード活物質層は、
(a)ナトリウム又はカリウムをドープしたシリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、カドミウム(Cd)、及びこれらの混合物、
(b)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Ti、Co、Ni、Mn、Cd、及びこれらの混合物のナトリウム又はカリウム含有合金又は金属間化合物、
(c)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Fe、Ti、Co、Ni、Mn、sd、及びこれらの混合物又は複合体のナトリウム又はカリウム含有酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、リン化物、セレン化物、テルル化物、又はアンチモン化物、
(d)ナトリウム又はカリウム塩、
(e)黒鉛の粒子、硬質炭素、軟質炭素又は炭素粒子、及びこれらのプレナトリウム化バージョン、並びに
これらの組み合わせからなる群から選択されるアノード活物質を含むことを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項32】
請求項1に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記カソード活物質層は80%以上の活物質利用効率を有することを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項33】
請求項1に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記カソード活物質層は90%以上の活物質利用効率を有することを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項34】
請求項1に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記カソード活物質層は、前記黒鉛又は炭素材料と前記硫黄又は金属ポリスルフィドを合わせた総重量に基づいて、少なくとも80重量%の硫黄又は金属ポリスルフィドを含むことを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項35】
請求項1に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、前記カソード活物質層は、前記黒鉛又は炭素材料と前記硫黄又は金属ポリスルフィドを合わせた総重量に基づいて、少なくとも90%の硫黄又は金属ポリスルフィドを含むことを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セル。
【請求項36】
請求項1に記載の充電式アルカリ金属-硫黄セルを製造する方法において、
(a)Li、Na、K、又はこれらの組み合わせから選択されるアルカリ金属を提供する工程と、
(b)0.43nm~2.0nmの膨張面間隔d002、及び前記膨張面間隔に存在する硫黄又は金属ポリスルフィドを有する黒鉛又は炭素材料を含むカソードを提供する工程と、
(c)アルカリ金属イオンを輸送できる電解質を提供する工程と、
を含むことを特徴とする充電式アルカリ金属-硫黄セルを製造する方法。
【請求項37】
請求項36に記載の製造方法において、カソードを提供する前記工程は、気相浸透手順、液体溶液浸透手順、電気化学的手順、化学的浸透及び堆積手順、液体浸漬手順、又はこれらの組み合わせを使用して、前記膨張面間隔を前記硫黄又は金属ポリスルフィドで含浸する工程を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項38】
請求項37に記載の製造方法において、前記電気化学的手順は、
(a)0.43nm~2.0nmの膨張面間隔d002を有する黒鉛又は炭素材料を含む電気化学カソード層を調製する工程と、
(b)非水性溶媒と、前記溶媒に溶解又は分散した硫黄源とを含む電解質を調製する工程と、
(c)アノードを調製する工程と、
(d)前記電気化学カソード層と前記アノードを前記電解質とイオン接触させ、前記膨張面間隔に硫黄を電気化学的に含浸させて前記カソード活物質層を形成するのに十分な時間の間十分な電流密度で、前記アノードと前記電気化学カソード層の間に電流を流す工程と、
を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項39】
請求項38に記載の製造方法において、前記硫黄源はMから選択され、xは1~3の整数であり、yは1~10の整数であり、Mは、アルカリ金属、Mg又はCaから選択されるアルカリ金属、遷移金属、周期表の13~17族の金属、或いはこれらの組み合わせから選択される金属元素であることを特徴とする製造方法。
【請求項40】
請求項38に記載の製造方法において、前記アノードは、アルカリ金属、アルカリ金属、遷移金属、周期表の13~17族の金属、及びこれらの組み合わせから選択されるアノード活物質を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項41】
請求項39に記載の製造方法において、前記金属元素Mは、Li、Na、K、Mg、Zn、Cu、Ti、Ni、Co、Fe、Al、及びこれらの組み合わせから選択されることを特徴とする製造方法。
【請求項42】
請求項39に記載の製造方法において、前記Mは、Li、Li、Li、Li、Li10、Na、Na、Na、Na、Na10、K、K、K、K、K10、及びこれらの組み合わせから選択されることを特徴とする製造方法。
【請求項43】
請求項38に記載の製造方法において、前記電解質は、過塩素酸リチウム(LiClO)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、六フッ化ヒ化リチウム(LiAsF)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCFSO)、ビス-トリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム(LiN(CFSO)、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiBOB)、オキサリルジフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、オキサリルジフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、硝酸リチウム(LiNO)、Li-フルオロアルキル-リン酸(LiPFCF(CF)、リチウムビスペルフルオロエチルスルホニルイミド(LiBETI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムトリフルオロメタンスルホンイミド(LiTFSI)、イオン液体系リチウム塩、過塩素酸ナトリウム(NaClO)、過塩素酸カリウム(KClO)、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム(NaPF)、ヘキサフルオロリン酸カリウム(KPF)、ホウフッ化ナトリウム(NaBF)、ホウフッ化カリウム(KBF)、ヘキサフルオロヒ化ナトリウム、ヘキサフルオロヒ化カリウム、トリフルオロメタスルホン酸ナトリウム(NaCFSO)、トリフルオロメタスルホン酸カリウム(KCFSO)、ビス-トリフルオロメチルスルホニルイミドナトリウム(NaN(CFSO)、ナトリウムトリフルオロメタンスルホンイミド(NaTFSI)、ビス-トリフルオロメチルスルホニルイミドカリウム(KN(CFSO)、又はこれらの組み合わせから選択される金属塩を更に含むことを特徴とする製造方法。
【請求項44】
請求項43に記載の製造方法において、前記溶媒は、1,3-ジオキソラン(DOL)、1,2-ジメトキシエタン(DME)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)、ポリ(エチレングリコール)ジメチルエーテル(PEGDME)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(DEGDBE)、2-エトキシエチルエーテル(EEE)、スルホン、スルホラン、炭酸エチレン(EC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸メチルエチル(MEC)、炭酸ジエチル(DEC)、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル、炭酸プロピレン(PC)、γ-ブチロラクトン(γ-BL)、アセトニトリル(AN)、酢酸エチル(EA)、ギ酸プロピル(PF)、ギ酸メチル(MF)、トルエン、キシレン、酢酸メチル(MA)、炭酸フルオロエチレン(FEC)、炭酸ビニレン(VC)、炭酸アリルエチル(AEC)、ハイドロフルオロエーテル、室温イオン液体溶媒、又はこれらの組み合わせから選択されることを特徴とする製造方法。
【請求項45】
請求項38に記載の製造方法において、前記アノード、前記電解質、及び前記電気化学カソード層は、アルカリ金属-硫黄セルの外側の外部容器に配置され、硫黄を前記膨張面間隔に電気化学的に含浸させる前記工程は、前記アルカリ金属-硫黄セルの外側で実施されることを特徴とする製造方法。
【請求項46】
請求項38に記載の製造方法において、前記アノード、前記電解質、及び前記電気化学カソード層は、アルカリ金属-硫黄セル内に配置され、前記アルカリ金属-硫黄セルが作製された後に、前記膨張面間隔に硫黄を電気化学的に含浸する前記工程が実施されることを特徴とする製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により本明細書に援用する、どちらも2017年2月13日に出願された米国特許出願第15/431,231号明細書に対する優先権を主張する。
【0002】
本発明は、リチウム-硫黄電池、ナトリウム-硫黄電池、及びカリウム-硫黄電池を含む、二次又は充電式アルカリ金属-硫黄電池における特異的なカソード組成及び構造を提供する。リチウム-硫黄電池は、リチウム金属-硫黄電池(アノード活物質としてリチウム金属、及びカソード活物質として硫黄を有する)並びにリチウムイオン-硫黄電池(例えば、アノード活物質としてSi又は黒鉛、及びカソード活物質として硫黄)を含み得る。ナトリウム-硫黄電池は、ナトリウム金属-硫黄電池(アノード活物質としてナトリウム金属、及びカソード活物質として硫黄を有する)並びにナトリウムイオン-硫黄電池(例えば、アノード活物質として硬質炭素、及びカソード活物質として硫黄)を含み得る。
【背景技術】
【0003】
充電式リチウムイオン(Liイオン)及びリチウム金属電池(Li-硫黄及びLi金属-空気電池を含む)が、電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)、及びポータブル電子デバイス、例えばラップトップコンピュータ及び携帯電話用の有望な電源とみなされている。金属元素としてのリチウムは、アノード活性材料としての任意の他の金属又は金属インターカレーション化合物(4,200mAh/gの比容量を有するLi4.4Siを除く)と比較して最高の容量(3,861mAh/g)を有する。したがって、一般に、Li金属電池は、リチウムイオン電池よりも大幅に高いエネルギー密度を有する。
【0004】
歴史的には、充電式リチウム金属電池は、リチウム金属アノードと結合されたカソード活性材料として、TiS、MoS、MnO、CoO、及びVなど、比較的高い比容量を有する非リチウム化化合物を使用して製造された。電池が放電されると、リチウム金属アノードから電解質を通ってカソードにリチウムイオンが移動され、カソードがリチウム化された。残念ながら、充放電を繰り返すと、リチウム金属がアノードでデンドライトを形成し、このデンドライトは、最終的にはセパレータを貫通して成長し、内部短絡及び爆発を引き起こした。この問題に関連した一連の事故の結果、1990年代初頭にこれらのタイプの二次電池の生産が中止され、リチウムイオン電池に取って代わられた。
【0005】
リチウムイオン電池では、純粋なリチウム金属のシート又はフィルムが、アノードとしての炭素質材料によって置換された。炭素質材料は、(例えば、グラフェン面間でのリチウムイオン又は原子のインターカレーションにより)リチウムを吸収し、リチウムイオン電池動作のそれぞれ再充電段階中及び放電段階中にリチウムイオンを脱着する。炭素質材料は、リチウムとインターカレートすることができる黒鉛を主に含むことがあり、得られる黒鉛インターカレーション化合物は、Liとして表すことができ、ここで、xは典型的には1未満である。
【0006】
リチウムイオン(Liイオン)バッテリは、電気駆動車用の有望なエネルギー貯蔵デバイスであるが、現況技術のLiイオン電池は、コスト面及び性能面での目標をまだ満たしていない。Liイオンセルは、典型的には、炭素負極(アノード)に対して高電位でLi+を脱/再インターカレートする正極(カソード)としてリチウム遷移金属酸化物又はリン酸塩を使用する。リチウム遷移金属酸化物又はリン酸塩ベースのカソード活性材料の比容量は、典型的には140~170mAh/gの範囲内である。その結果、市販のLiイオンセルの比エネルギーは、典型的には120~220Wh/kg、最も典型的には150~180Wh/kgの範囲内である。これらの比エネルギー値は、バッテリ駆動式電気自動車が広く受け入れられるために必要とされるよりも2~3倍低い。
【0007】
ハイブリッド(HEV)、プラグインハイブリッド電気自動車(HEV)、全電池電気自動車(EV)の急速な発展に伴って、大幅に高い比エネルギー、より高いエネルギー密度、より高いレート性能、長いサイクル寿命、及び安全性を備える充電式電池を提供するアノード及びカソード材料が緊急で必要である。最も有望なエネルギー貯蔵デバイスの1つは、リチウム-硫黄(Li-S)セルである。これは、Liの理論容量が3,861mAh/gであり、Sの理論容量が1,675mAh/gであるからである。Li-Sセルは、その最も単純な形態では、正極としての元素硫黄と、負極としてのリチウムとからなる。リチウム-硫黄セルは、Li/Liに対して2.2Vに近い反応S+16Li⇔8LiSで表される酸化還元対で動作する。この電気化学電位は、従来の正極(例えば、LiMnO)によって示される電位の約2/3である。しかし、この欠点は、LiとSの両方の非常に高い理論容量によって相殺される。したがって、従来のインターカレーションに基づくLiイオン電池と比較して、Li-Sセルは、大幅に高いエネルギー密度(容量と電圧の積)を提供する可能性を有する。LiSへの完全な反応を仮定すると、エネルギー密度値は、Li及びSの合計重量又は体積に基づいて、それぞれ2,500Wh/kg及び2,800Wh/Lに近づき得る。総セル重量又は体積に基づく場合、エネルギー密度はそれぞれ約1,000Wh/kg及び1,100Wh/Lに達し得る。しかし、硫黄カソード技術の業界リーダーによって報告された現在のLi硫黄セルは、(総セル重量に基づいて)250~400Wh/kgの最大セル比エネルギーを有しており、これは、可能な値よりもかなり低い。
【0008】
要約すると、かなりの利点があるにもかかわらず、Li-Sセルには、いくつかの主な技術的問題があり、したがってそれらがLi-Sセルの広範な商業化を妨げている。
(1)従来のリチウム金属セルは、デンドライト形成及び関連の内部短絡の問題を依然として有する。
(2)硫黄又は硫黄含有有機化合物は、電気的にもイオン的にも高い絶縁性を有する。高い電流密度又は充放電レートで可逆電気化学反応を可能にするために、硫黄は、導電性添加剤との密接な接触を維持しなければならない。この目的のために様々な炭素-硫黄複合体が利用されているが、接触面積のスケールが限られているため、限られた成功しか収めていなかった。報告されている典型的な容量は、中程度のレートで、(カソード炭素-硫黄複合体重量に基づいて)300~550mAh/gである。
(3)このセルは、放電-充電サイクル中に大幅な容量減衰を示す傾向がある。これは主に、電解質に使用される極性有機溶媒中での放電プロセスと充電プロセスの両方において反応中間体として形成されるポリ硫化リチウムアニオンの高い可溶性によるものである。サイクリング中、ポリ硫化リチウムアニオンは、セパレータを通ってLi負極に移動することがあり、そこで還元されて固体の沈殿物(Li及び/又はLiS)となり、活性質量損失を引き起こす。さらに、放電中に正極の表面に析出する固体生成物が電気化学的に不可逆的になり、これも活性質量損失の一因となる。
(4)より一般的に言えば、元素硫黄、有機硫黄、及び炭素-硫黄材料を含むカソードを含むセルの大きな欠点は、カソードからセルの残りの部分への、可溶性硫化物、ポリ硫化物、オルガノスルフィド、硫化炭素、及び/又はポリ硫化炭素(本明細書では以後、アニオン性還元生成物と呼ぶ)の溶解及び過剰な外方拡散に関する。この現象は一般的にシャトル効果と呼ばれる。このプロセスは、以下のようないくつかの問題を生じる:高い自己放電率、カソード容量の損失、活性セル構成要素への電気的接触の喪失をもたらす集電体及び電気的リードの腐食、アノードの機能不全をもたらすアノード表面の汚れ、並びに、イオン輸送の喪失及びセル内の内部抵抗の大きな増加をもたらすセル膜セパレータの細孔の目詰まり。
【0009】
これらの課題に対応して、新規の電解質、リチウムアノード用の保護フィルム、及び固体電解質が開発されている。いくつかの興味深いカソードの開発が最近報告されており、ポリ硫化リチウムを含む。しかし、それらの性能は、まだ実用的な用途に必要な性能に至っていない。
【0010】
例えばJiらは、ナノ構造化硫黄/メソポーラス炭素材料に基づくカソードがこれらの課題を大幅に克服でき、安定した高い可逆容量を示し、レート特性とサイクリング効率が優れていることを報告した[Xiulei Ji,Kyu Tae Lee,& Linda F.Nazar,“A highly ordered nanostructured carbon-sulphur cathode for lithium-sulphur batteries,”Nature Materials 8,500-506(2009)]。しかし、提案されている高度に秩序化されたメソポーラス炭素構造の作製には、単調であり高い費用がかかるテンプレート支援プロセスが必要である。また、物理気相成長法又は溶液沈殿法を使用して、これらのメソスケールの細孔に高比率の硫黄を装填することも困難である。
【0011】
Zhangら(米国特許公開第2014/0234702号明細書;2014年8月21日)は、単離された酸化グラフェン(GO)シートの表面上に微細S粒子を堆積させる化学反応法を利用する。しかし、この方法は、GO表面上に高比率のS粒子(すなわち、典型的にはGO-Sナノコンポジット組成物中で66%未満のS)を作成することができない。得られるLi-Sセルはまた、レート性能が低い;例えば、0.02Cのレートで(Sの重量に基づいて)1,100mAh/gの比容量が、1.0Cのレートで<450mAh/gに低下される。実現可能な最高の比容量1,100mAh/gは、そのような低い充放電レートでさえ、1,100/1,675=65.7%の硫黄利用効率を示すことに留意されたい(0.02Cは、1/0.02=50時間で充電又は放電プロセスを完了することを意味する。同様に、1C=1時間、2C=1/2時間、3C=1/3時間などである)。さらに、そのようなS-GOナノコンポジットカソードベースのLi-Sセルは、非常に短いサイクル寿命を示し、容量は、典型的には、40回未満の充放電サイクルでその元の容量の60%未満に低下する。そのような短いサイクル寿命のため、このLi-Sセルは実用的な用途には有用でない。酸化グラフェン表面上にS粒子を堆積させる別の化学反応法をWangらが開示している(米国特許出願公開第2013/0171339号明細書;2013年7月4日)。このLi-Sセルも依然として同じ問題を抱えている。
【0012】
Li-Sセル中のカソード材料として使用するための(GO表面上に吸着された硫黄粒子を有する)グラフェン-硫黄ナノコンポジットを調製するための溶液沈殿法をLiuらが開示している(米国特許出願公開第2012/0088154号明細書;2012年4月12日)。この方法は、GOシートと溶媒(CS)中のSとを混合して懸濁液を形成することを含む。次いで溶媒を蒸発させて固体ナノコンポジットを得て、次いでこれを粉砕して、平均直径が約50nm未満の一次硫黄粒子を有するナノコンポジット粉末を得る。残念ながら、この方法は、40nm未満のS粒子を生成することはできないようである。得られたLi-Sセルは、サイクル寿命が非常に短い(わずか50サイクル後に50%の容量減衰)。これらのナノコンポジット粒子がポリマーにカプセル化されているときでさえ、Li-Sセルは、100サイクル後にその元の容量の80%未満しか保たない。また、このセルは、レート性能が低い(0.1Cのレートで1,050mAh/g(S重量)の比容量。1.0Cのレートで<580mAh/gに低下)を示す。ここでも、これは、高比率のSがリチウム貯蔵に寄与せず、その結果、S利用効率が低いことを示唆する。
【0013】
更に、前述の方法は全て、単離されたグラフェンシートの表面に対してS粒子を堆積させることを伴う。グラフェン表面に付着したS粒子(最も絶縁性の高い材料の1つ)が存在すると、複数のSが結合したグラフェンシートがともに詰め込まれたときに、得られる電極構造が非導電性になる。これらのS粒子は、グラフェンシートが互いに接触するのを防ぎ、それ以外ではグラフェンシートを導電してカソードに電子導電経路の3-Dネットワークを形成することを不可能にする。この意図せず予期しない結果は、これらの従来技術のLi-Sセルの性能が非常に低いもう1つの理由である。
【0014】
高エネルギー密度のLi-Sセルの製造に様々な手法が提案されているが、これらのセルにおける、カソードコンパートメントから他のコンポーネントへのS又はリチウムポリスルフィドの外方拡散を遅らせるカソード材料、製造プロセス、及びセル操作方法の必要性が残っており、電気活性カソード材料の利用効率(S利用効率)を改善し、多数のサイクルにわたって高容量の充電式Li-Sセルを提供する。
【0015】
最も重要なことに、リチウム金属(純リチウム、他の金属元素との高いリチウム含有量のリチウム合金、又は高いリチウム含有量を有するリチウム含有化合物を含む;例えば、>80重量%以上、又は好ましくは>90重量%のLi)は、実質的に全ての他のアノード活性材料(純粋なシリコンを除く。しかし、シリコンは粉末化の問題を有する)と比較して、最高のアノード比容量を依然として提供する。デンドライト関連の問題に対処することができれば、リチウム金属は、リチウム-硫黄二次電池における理想的なアノード材料となる。
【0016】
ナトリウム金属(Na)とカリウム金属(K)は、Liと同様の化学的特性を有し、室温ナトリウム-硫黄セル(RT Na-S電池)又はカリウム-硫黄セル(K-S)での硫黄カソードは、(i)低い活性材料利用率、(ii)低いサイクル寿命、及び(iii)低いクーロン効率など、Li-S電池で観察される同じ問題に直面する。ここでも、これらの欠点は、主にSの絶縁性、液体電解質中のS及びポリ硫化Na又はK中間体の溶解(及び関連するシャトル効果)、並びに充放電中の大きな体積変化により生じる。
【0017】
したがって、本発明の目的は、並外れて高い比エネルギー又は高いエネルギー密度を示す充電式アルカリ金属電池(例えば、Li-S、Na-S、及びK-S電池)を提供することである。本発明の1つの特定の技術的目標は、400Wh/kgを超える、好ましくは500Wh/kgを超える、より好ましくは600Wh/kgを超えるセル比エネルギー(全てセルの総重量に基づく)を有するアルカリ金属-硫黄又はアルカリイオン-硫黄セルを提供することである。
【0018】
本発明の別の目的は、高いカソード比容量(硫黄重量に基づいて1,200mAh/gより高い、或いは、硫黄、導電性添加剤又は基材、及びバインダーの重量を組み合わせたものを含むが、カソード集電体の重量を除く、カソード複合体重量に基づいて1,000mAh/gより高い)を示すアルカリ金属-硫黄セルを提供することである。比容量は、硫黄重量のみに基づいて1,400mAh/gより高い、又はカソード複合体重量に基づいて1,200mAh/gより高いことが好ましい。これには、高い比エネルギー、デンドライト形成に対する良好な耐性、及び長く安定したサイクル寿命が伴わなければならない。
【0019】
公開されている文献レポート(科学論文)及び特許文献のほとんどにおいて、科学者ら又は発明者らは、(カソード複合体の総重量ではなく)硫黄又はポリ硫化リチウムの重量のみに基づいてカソード比容量を表現することを選択しているが、残念ながら、典型的にはそれらのLi-Sセルでは高比率の非活性材料(導電性添加剤及びバインダーなど、リチウムを貯蔵することができない材料)が使用されることに留意されたい。実用の目的では、カソード複合体の重量に基づく容量値を使用することがより有意義である。
【0020】
したがって、本発明の特定の目的は、従来のLi-Sセルに一般的に関連する以下の問題を克服又は大幅に低減する合理的な材料及び電池設計に基づく充電式のアルカリ金属-硫黄セルを提供することである:(a)デンドライト形成(内部短絡);(b)硫黄の非常に低い電気及びイオン伝導度。これは、大きな比率(典型的には30~55%)の非活性導電性フィラーを必要とし、且つかなりの比率のアクセス不可能な又は到達不可能な硫黄又はアルカリ金属ポリ硫化物を有する;(c)電解質中へのS及びアルカリ金属ポリ硫化物の溶解、並びにカソードからアノードへのポリ硫化物の移動(これは、アノードでリチウム又はNa又はKと不可逆反応する)。これは、活性材料の喪失及び容量減衰(シャトル効果)をもたらす;及び(d)短いサイクル寿命。
【0021】
前述の問題を克服することに加えて、本発明の別の目的は、Li金属-硫黄電池の潜在的なアルカリ金属デンドライトによって誘発される内部短絡及び熱暴走の問題を防ぐ、簡易で費用効果が高く実施が容易な手法を提供することである。
【発明の概要】
【0022】
本発明は、アルカリ金属-硫黄セル(例えば、リチウム-硫黄セル、ナトリウム-硫黄セル、及びカリウム-硫黄セル)を提供する。このような電池セルは、支持するホスト(黒鉛又は炭素材料の構造)に対してS(カソード活物質)の大部分を有する黒鉛又は炭素材料系カソードに超薄型の硫黄(S)コーティング層又は超小型の小さいS粒子(<2.0nm)を含む。又、超薄型の寸法により、アルカリ金属イオン(Li、Na、及び/又はK)の高い貯蔵/放出速度、及びひいては、例外的な速度能力又は出力密度が可能になる。
【0023】
充電式アルカリ金属-硫黄セル(リチウム-硫黄セル、ナトリウム-硫黄セル、又はカリウム-硫黄セル)は、アノード活物質層と、アノード活物質層を支持する任意選択のアノード集電体と、カソード活物質層と、アノード活物質層及びカソード活物質層とイオン接触する任意選択の多孔質セパレータ層を有する電解質と、カソード活物質層を支持する任意選択のカソード集電体とを含み、この場合に、カソード活物質層は、X線回折で測定される、0.43nm~2.0nmの面間隔d002を有する膨張グラフェン間面間隔と、1重量%~95重量%の膨張グラフェン間面間隔に存在する硫黄又は金属ポリスルフィドを有する黒鉛又は炭素材料を含む。
【0024】
特定の実施形態においては、金属ポリスルフィドはMを含み、この場合に、xは1~3の整数であり、yは1~10の整数であり、Mは、アルカリ金属、Mg又はCaから選択されるアルカリ金属、遷移金属、周期表の13~17族の金属、或いはこれらの組み合わせから選択される金属元素である。好ましくは、金属元素Mは、Li、Na、K、Mg、Zn、Cu、Ti、Ni、Co、Fe、又はAlから選択される。更に好ましくは、金属ポリスルフィドは、Li、Li、Li、Li、Li10、Na、Na、Na、Na、Na10、K、K、K、K、又はK10を含む。
【0025】
前述のカソード活物質層の炭素又は黒鉛材料は、メソフェーズピッチ、メソフェーズカーボン、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス粒子、膨張黒鉛フレーク、人工黒鉛粒子、天然黒鉛粒子、高配向熱分解黒鉛、軟質炭素粒子、硬質炭素粒子、多壁カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、炭素繊維、黒鉛繊維、黒鉛繊維、炭化ポリマーファイバー、又はこれらの組み合わせから選択されることができ、この場合に、前述の炭素又は黒鉛材料は、化学的又は物理的膨張処理前に0.27nm~0.42nmの面間隔d002を有し、面間隔d002は、膨張処理後に0.43nmから2.0nmに増加する。
【0026】
特定の実施形態では、充電式アルカリ金属-硫黄セルでは、炭素又は黒鉛材料は、細孔及び細孔壁を有する黒鉛発泡体又はグラフェン発泡体から選択され、細孔壁は、0.45nm~1.5nmの膨張面間隔d002を有する結合グラフェン面のスタックを含む。好ましくは、スタックは2~100のグラフェン面を含む。
【0027】
本発明の充電式アルカリ金属-硫黄セルでは、面間隔d002は0.5nm~1.2nmであり得る。好ましくは、面間隔d002は1.2nm~2.0nmである。
【0028】
いくつかの好ましい実施形態では、膨張処理は、前述の黒鉛又は炭素材料の、酸化、フッ素化、臭素化、塩素化、窒素化、インターカレーション、複合酸化インターカレーション、複合フッ素化インターカレーション、複合臭素化インターカレーション、複合塩素化インターカレーション、又は複合窒素化インターカレーションを含み得る。これらの膨張処理に続いて、制約熱膨張処理が更に続き、d間隔を0.5~1.2nmのより典型的な範囲から1.2~2.0nmの範囲に増加させることができる。
【0029】
炭素又は黒鉛材料は、酸素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、窒素、水素、又はホウ素から選択される非炭素元素を含み得る。
【0030】
本発明の充電式アルカリ金属-硫黄セルは、典型的には硫黄利用効率が85%を超える、より典型的には90%を超える。
【0031】
又、本発明は、充電式アルカリ金属-硫黄セルにおけるカソード活物質層を提供する。このカソード活物質層は、X線回折で測定される、0.43nm~2.0nmの面間隔d002を有する膨張グラフェン間面間隔と、1重量%~95重量%の膨張グラフェン間面間隔に存在する硫黄又は金属ポリスルフィドを有する黒鉛又は炭素材料を含む。
【0032】
金属ポリスルフィドは、好ましくはMを含み、この場合に、xは1~3の整数であり、yは1~10の整数であり、Mは、アルカリ金属、Mg又はCaから選択されるアルカリ金属、遷移金属、周期表の13~17族の金属、或いはこれらの組み合わせから選択される金属元素である。金属元素Mは、Li、Na、K、Mg、Zn、Cu、Ti、Ni、Co、Fe、又はAlから選択されることができる。カソード活物質層において、金属ポリスルフィドは、好ましくは、Li、Li、Li、Li、Li10、Na、Na、Na、Na、Na10、K、K、K、K、又はK10を含む。
【0033】
前述のカソード活物質層の炭素又は黒鉛材料は、メソフェーズピッチ、メソフェーズカーボン、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス粒子、膨張黒鉛フレーク、人工黒鉛粒子、天然黒鉛粒子、高配向熱分解黒鉛、軟質炭素粒子、硬質炭素粒子、多壁カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、炭素繊維、黒鉛ナノファイバー、黒鉛繊維、炭化ポリマーファイバー、カーボンエアロゲル、カーボンキセロゲル、又はこれらの組み合わせから選択されることができ、炭素又は黒鉛材料は、化学的又は物理的膨張処理前の0.27nm~0.42nmの面間隔d002を有し、この膨張処理後に、面間隔d002は、0.43nmから2.0nmに増加する。
【0034】
特定の好ましい実施形態では、カソード活性層における炭素又は黒鉛材料は、細孔及び細孔壁を有する黒鉛発泡体又はグラフェン発泡体から選択され、細孔壁は、0.45nm~1.5nmの膨張面間隔d002を有する結合グラフェン平面のスタックを含む。好ましくは、スタックは2~100のグラフェン面を含む。
【0035】
特定の実施形態では、面間隔d002は0.5nm~1.2nmである。他の実施形態では、面間隔d002は1.2nm~2.0nmである。膨張処理は、好ましくは、黒鉛又は炭素材料の酸化、フッ素化、臭素化、塩素化、窒素化、インターカレーション、複合酸化インターカレーション、複合フッ素化インターカレーション、複合臭素化インターカレーション、複合塩素化インターカレーション、又は複合窒素化インターカレーションを含む。これらの処理に続いて、制約熱膨張処理が更に続くことができる。カソード活物質層において、炭素又は黒鉛材料は、酸素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、窒素、水素、又はホウ素から選択される非炭素元素を含む。
【0036】
充電式アルカリ金属-硫黄セルでは、電解質は、ポリマー電解質、ポリマーゲル電解質、複合電解質、イオン液体電解質、非水性液体電解質、ソフトマター相電解質、固体電解質、又はこれらの組み合わせから選択されることができる。
【0037】
特定の実施形態では、電解質は、過塩素酸リチウム(LiClO)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、六フッ化ヒ化リチウム(LiAsF)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCFSO)、ビス-トリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム(LiN(CFSO、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiBOB)、オキサリルジフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、オキサリルジフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、硝酸リチウム(LiNO)、Li-フルオロアルキル-リン酸(LiPF(CFCF)、リチウムビスパーフルオロエチルスルホニルイミド(LiBETI)、イオン液体塩、過塩素酸ナトリウム(NaClO)、過塩素酸カリウム(KClO)、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム(NaPF)、六フッ化リン酸カリウム(KPF)、ホウフッ化ナトリウム(NaBF)、ホウフッ化カリウム(KBF)、六フッ化ヒ化ナトリウム、ヘキサフルオロヒ化カリウム、トリフルオロメタスルホン酸ナトリウム(NaCFSO)、トリフルオロメタスルホン酸カリウム(KCFSO)、ビス-トリフルオロメチルスルホニルイミドナトリウム(NaN(CFSO)、ナトリウムトリフルオロメタンスルホンイミド(NaTFSI)、ビス-トリフルオロメチルスルホニルイミドカリウム(KN(CFSO)、又はこれらの組み合わせから選択される塩を含む。
【0038】
電解質の溶媒は、炭酸エチレン(EC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸メチルエチル(MEC)、炭酸ジエチル(DEC)、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル、炭酸プロピレン(PC)、γ-ブチロラクトン(γ-BL)、アセトニトリル(AN)、酢酸エチル(EA)、ギ酸プロピル(PF)、ギ酸メチル(MF)、トルエン、キシレン又は酢酸メチル(MA)、炭酸フルオロエチレン(FEC)、炭酸ビニレン(VC)、炭酸アリルエチル(AEC)、1,3-ジオキソラン(DOL)、1,2-ジメトキシエタン(DME)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)、ポリ(エチレングリコール)ジメチルエーテル(PEGDME)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(DEGDBE)、2-エトキシエチルエーテル(EEE)、スルホン、スルホラン、室温イオン液体、又はこれらの組み合わせから選択されることができる。
【0039】
充電式アルカリ金属-硫黄セルにおいて、アノード活物質層は、リチウム金属、ナトリウム金属、カリウム金属、リチウム金属合金、ナトリウム金属合金、カリウム金属合金、リチウムインターカレーション化合物、ナトリウムインターカレーション化合物、カリウムインターカレーション化合物、リチウム化化合物、ナトリウム化化合物、カリウムドープト化合物、リチウム化二酸化チタン、チタン酸リチウム、マンガン酸リチウム、リチウム遷移金属酸化物、LiTi12、又はこれらの組み合わせから選択されるアノード活物質を含む。
【0040】
いくつかの実施形態では、充電式アルカリ金属-硫黄セルは、リチウムイオン-硫黄セルであり、アノード活物質層は、(a)シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、及びカドミウム(Cd)、並びにこれらのリチウム化バージョン、(b)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、又はCdと他の元素との合金又は金属間化合物、並びにこれらのリチウム化バージョン、この場合に、前述の合金又は化合物は化学量論的又は非化学量論的である、(c)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Fe、Ni、Co、Ti、Mn、又はCdの酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、リン化物、セレン化物、及びテルル化物、並びにこれらの混合物又は複合体、並びにこれらのリチウム化バージョン、(d)Snの塩及び水酸化物、並びにこれらのリチウム化バージョン、(e)炭素又は黒鉛材料及びこれらのプレリチウム化バージョン、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択されるアノード活物質を含む。
【0041】
特定の実施形態では、充電式アルカリ金属-硫黄セルは、ナトリウムイオン-硫黄セル又はカリウムイオン-硫黄セルであり、前述のアノード活物質層は、(a)ナトリウム又はカリウムをドープしたシリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、カドミウム(Cd)、及びこれらの混合物、(b)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Ti、Co、Ni、Mn、Cd、及びこれらの混合物のナトリウム又はカリウム含有合金又は金属間化合物、(c)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Fe、Ti、Co、Ni、Mn、Cd、及びこれらの混合物又は複合体のナトリウム又はカリウム含有の、酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、リン化物、セレン化物、テルル化物、又はアンチモン化物、(d)ナトリウム又はカリウム塩、(e)黒鉛の粒子、硬質炭素、軟質炭素又は炭素粒子、及びこれらのプレナトリウム化バージョン、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択されるアノード活物質を含む。
【0042】
本発明の充電式アルカリ金属-硫黄において、カソード活物質層は、80%以上、好ましくはより典型的には90%以上の活物質利用効率を有する。カソード活物質層は、前述の炭素又は黒鉛材料と硫黄又は金属ポリスルフィドを合わせた総重量に基づいて、少なくとも80重量%(好ましくは少なくとも90%)の硫黄又は金属ポリスルフィドを含む。
【0043】
又、本発明は、充電式アルカリ金属-硫黄セルの製造方法を提供する。この方法は、
(a)Li、Na、K、又はこれらの組み合わせから選択されるアルカリ金属を提供する工程と、
(b)0.43nm~2.0nmの膨張面間隔d002、及び膨張面間隔に存在する硫黄又は金属ポリスルフィドを有する炭素又は黒鉛材料を含むカソードを提供する工程と、
(c)アルカリ金属イオンを輸送できる電解質を提供する工程と、
を含む。
【0044】
好ましくは、カソードを提供する工程は、気相浸透手順、液体溶液浸透手順、電気化学的手順、化学的浸透及び堆積手順、液体浸漬手順、又はこれらの組み合わせを使用して、膨張面間隔を硫黄又は金属ポリスルフィドで含浸する工程を含む。電気化学的手順が、最も効果的であり最も好ましい。好ましくは、電気化学的手順は、
(a)0.43nm~2.0nmの膨張面間隔d002を有する炭素又は黒鉛材料を含む電気化学カソード層を調製する工程と、
(b)非水性溶媒と、この溶媒に溶解又は分散した硫黄源を含む電解質を調製する工程と、
(c)アノードを調製する工程と、
(d)電気化学カソード層とアノードを電解質とイオン接触させ、膨張した間隔に硫黄を電気化学的に含浸させるのに十分な時間の間十分な電流密度でアノードと電気化学カソード層の間に電流を流してカソード活物質層を形成する工程と、を含む。
【0045】
硫黄源は、好ましくはMから選択され、この場合に、xは1~3の整数であり、yは1~10の整数であり、Mは、アルカリ金属、Mg又はCaから選択されるアルカリ金属、遷移金属、周期表の13~17族の金属、或いはこれらの組み合わせから選択される金属元素である。この電気化学的手順では、アノードは、アルカリ金属、アルカリ金属、遷移金属、周期表の13~17族の金属、又はこれらの組み合わせから選択されるアノード活物質を含む。金属元素Mは、Li、Na、K、Mg、Zn、Cu、Ti、Ni、Co、Fe、又はAlから選択される。硫黄源Mは、Li、Li、Li、Li、Li10、Na、Na、Na、Na、Na10、K、K、K、K、又はK10から選択される。
【0046】
電気化学的手順では、電解質は、過塩素酸リチウム(LiClO)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、六フッ化ヒ化リチウム(LiAsF)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCFSO)、ビス-トリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム(LiN(CFSO)、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiBOB)、オキサリルジフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、オキサリルジフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、硝酸リチウム(LiNO)、Li-フルオロアルキル-リン酸(LiPF(CFCF)、リチウムビスパーフルオロエチルスルホニルイミド(LiBETI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムトリフルオロメタンスルホンイミド(LiTFSI)、イオン液体系リチウム塩、過塩素酸ナトリウム(NaClO)、過塩素酸カリウム(KClO)、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム(NaPF)、ヘキサフルオロリン酸カリウム(KPF)、ホウフッ化ナトリウム(NaBF)、ホウフッ化カリウム(KBF)、ヘキサフルオロヒ化ナトリウム、ヘキサフルオロヒ化カリウム、トリフルオロメタスルホン酸ナトリウム(NaCFSO)、トリフルオロメタスルホン酸カリウム(KCFSO)、ビス-トリフルオロメチルスルホニルイミドナトリウム(NaN(CFSO)、ナトリウムトリフルオロメタンスルホンイミド(NaTFSI)、ビス-トリフルオロメチルスルホニルイミドカリウム(KN(CFSO)、又はこれらの組み合わせから選択される金属塩を更に含み得る。
【0047】
使用する溶媒は、1,3-ジオキソラン(DOL)、1,2-ジメトキシエタン(DME)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)、ポリ(エチレングリコール)ジメチルエーテル(PEGDME)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(DEGDBE)、2-エトキシエチルエーテル(EEE)、スルホン、スルホラン、炭酸エチレン(EC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸メチルエチル(MEC)、炭酸ジエチル(DEC)、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル、炭酸プロピレン(PC)、γ-ブチロラクトン(γ-BL)、アセトニトリル(AN)、酢酸エチル(EA)、ギ酸プロピル(PF)、ギ酸メチル(MF)、トルエン、キシレン、酢酸メチル(MA)、炭酸フルオロエチレン(FEC)、炭酸ビニレン(VC)、炭酸アリルエチル(AEC)、ハイドロフルオロエーテル、室温イオン液体溶媒、又はこれらの組み合わせから選択されることができる。
【0048】
好ましくは、電気化学的方法では、アノード、電解質、及び電気化学カソード層は、アルカリ金属-硫黄セルの外側の外部容器(電気化学反応器)に配置され、硫黄を膨張した間隔に電気化学的に含浸させる工程が、アルカリ金属-硫黄セルの外側で実施される。
【0049】
或いは、この電気化学的含浸手順は、目的の電池セル内で内部的に行われる。この状況では、アノード、電解質、及び電気化学カソード層が、アルカリ金属-硫黄セル内に配置され、アルカリ金属-硫黄セルが作製される後に、炭素又は黒鉛材料の膨張した間隔に硫黄を電気化学的に含浸する工程が実行される。
【0050】
より典型的に好ましくは、硫黄カソードの可逆的比容量は、1グラム当たり1,000mAh以上であり、多くの場合、カソード層全体の1グラム当たり1,200又は更には1500mAhを超える。本発明のカソードの高い比容量は、リチウムアノードと組み合わせた場合、アノード、カソード、電解質、セパレータ、及び集電体の組み合わせた重量を含む総セル重量に基づいて600Wh/kg以上のセル比エネルギーをもたらす。この比エネルギー値は、カソード活物質の重量又はカソード層の重量のみに基づいていない(公開文献又は特許出願で行われる場合があった)。代わりに、これはセル重量全体に基づく。多くの場合、セルの比エネルギーは500Wh/kgより高く、一部の例では600Wh/kgを超える。
【0051】
本発明のこれら及び他の利点及び特徴は、以下の最良の形態の実施及び例示的な例の説明によってより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1A図1Aは、インターカレーションされた及び/又は酸化された黒鉛、その後剥離された黒鉛ワーム、及び単純に凝集した黒鉛又はグラフェンフレーク/プレートレットの従来の紙、マット、フィルム、及び膜の作製プロセスを示す概略図である。
図1B図1Bは、黒鉛ワームのSEM画像である。
図1C図1Cは、黒鉛ワームの別のSEM画像である。
図1D図1Dは、膨張面間隔を含む黒鉛構造を作製する手法を示す概略図である。
図2図2は、層間隔d002の関数としてプロットされた、Sを収容するために膨張面間隔を有する炭素/黒鉛材料を含むカソード層の硫黄重量比率である。
図3図3は層間隔d002の関数としてプロットされた、Sを収容するために膨張面間隔を有する炭素/黒鉛材料を含むカソード層を備えた一連のLi-Sセルのカソード比容量である。
図4図4は、3つのLi-Sセルの比容量(対充電/放電サイクルの数)である:1つは、膨張d間隔(d=1.2nm)を有する細孔壁を含むグラフェン発泡体を備え、1つは、密に結合したグラフェン面(d=0.34nm)から構成される細孔壁を有する従来のグラフェン発泡体を含み、1つは、膨張層間隔、d=1.22nmを有する黒鉛粒子を含む。硫黄は、電気化学的手順を介して面間隔に含浸された。
図5図5は、2つのLi金属-硫黄セルのラゴーンプロット(セル出力密度対セルエネルギー密度)である:1つは、膨張面間隔(d=1.35nm)を有するMCMBからなるカソード層を備え、もう1つは、膨張面間隔(d=0.72nm)を有するMCMBからなるカソード層を備える。
図6図6は、4つのアルカリ金属-硫黄セルのラゴーンプロット(セル出力密度対セルエネルギー密度)である:電気化学的に含浸した硫黄を含むニードルコークス系カソードを備えたNa-Sセル(d=1.77nm)、電気化学的に含浸した硫黄を含むニードルコークス系カソードを備えたNa-Sセル(d=0.65nm)、電気化学的に含浸した硫黄を含むニードルコークス系カソードを備えたK-Sセル(d=1.77nm)、及び電気化学的に含浸した硫黄を含むニードルコークス系カソードを備えたK-Sセル(d=0.65nm)。
【発明を実施するための形態】
【0053】
便宜上、好ましい実施形態の以下の考察は、主にLi-Sセルのカソードに基づいているが、同じ又は類似の構造又は方法が、Na-S及びK-SセルのカソードへのSの含浸に適用可能である。Li-Sセル、室温のNa-Sセル、K-Sセルの例を示す。
【0054】
このセクションの冒頭で、グラフェン面(六角形の炭素原子面)の膨張d002間隔を有する黒鉛又は炭素材料は、黒鉛産業のいわゆる「膨張黒鉛」とは等しくない、又は類似していないことに留意することが重要である。膨張黒鉛は、剥離黒鉛ワームの構成フレークを粉砕することにより得られる。膨張黒鉛は、膨張d002間隔を有さず、代わりに、そのd002間隔は、典型的には元の黒鉛材料が有する0.335nm~0.36nmの範囲に留まる。これについては後で詳細に考察する。
【0055】
A.アルカリ金属-硫黄セル(例としてリチウム-硫黄セルを使用)
Li-Sセル(又はNa-S、又はK-Sセル)の比容量及び比エネルギーは、カソード活性層に実装できる硫黄の実際の量(他の非活性成分と比較して、バインダー樹脂及び導電性フィラーなど)、並びにこの硫黄量の利用効率(即ち、カソード活物質の利用効率又はリチウムイオンの貯蔵と放出に積極的に関与するSの実際の比率)によって決まる。Li-Sセルを例示的な例として使用すると、高容量及び高エネルギーのLi-Sセルは、カソード活性層における大量のS(即ち、バインダー樹脂、導電性添加剤、及びその他の改質又は支持材料などの非活性材料の量に対して)並びに高いS利用効率を必要とする。本発明は、このようなカソード活性層、及びプレ硫化された活性カソード層であるこのようなカソード活性層の作製方法を提供する。
【0056】
本発明の充電式アルカリ金属-硫黄セル(リチウム-硫黄セル、ナトリウム-硫黄セル、又はカリウム-硫黄セル)は、アノード活物質層、アノード活物質層を支持する任意選択のアノード集電体、カソード活物質層、アノード活物質層及びカソード活物質層とイオン接触する任意選択の多孔質セパレータ層を有する電解質、並びにカソード活物質層を支持する任意選択のカソード集電体を含み、この場合に、X線回折で測定される、0.43nm~2.0nmの面間隔d002を有する膨張グラフェン間面間隔と、1重量%~95重量%の膨張グラフェン間面間隔に存在する硫黄又は金属ポリスルフィドを有する黒鉛又は炭素材料を含む。
【0057】
金属ポリスルフィドはMを含み、この場合に、xは1~3の整数であり、yは1~10の整数であり、Mは、アルカリ金属、Mg又はCaから選択されるアルカリ金属、遷移金属、周期表の13~17族の金属、又はこれらの組み合わせから選択される金属元素を含む。好ましくは、金属元素Mは、Li、Na、K、Mg、Zn、Cu、Ti、Ni、Co、Fe、又はAlから選択される。更に好ましくは、金属ポリスルフィドは、Li、Li、Li、Li、Li10、Na、Na、Na、Na、Na10、K、K、K、K、又はK10を含む。
【0058】
カソード活物質層の炭素又は黒鉛材料は、メソフェーズピッチ、メソフェーズカーボン、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス粒子、膨張黒鉛フレーク、人工黒鉛粒子、天然黒鉛粒子、高配向熱分解黒鉛、軟質炭素粒子、硬質炭素粒子、多壁カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、炭素繊維、黒鉛ナノファイバー、黒鉛繊維、炭化ポリマーファイバー、カーボンエアロゲル、カーボンキセロゲル、又はこれらの組み合わせから選択されることができ、この場合に、前述の炭素又は黒鉛材料は、化学的又は物理的膨張処理前に0.27nm~0.42nmの面間隔d002を有し、面間隔d002は、膨張処理後に0.43nmから2.0nmに増加する。本発明の充電式アルカリ金属-硫黄セルでは、面間隔d002は0.5nm~1.2nmであり得る。好ましくは、面間隔d002は1.2nm~2.0nmである。
【0059】
特定の実施形態では、充電式アルカリ金属-硫黄セルでは、炭素又は黒鉛材料は、細孔及び細孔壁を有する黒鉛発泡体又はグラフェン発泡体から選択され、この場合に、細孔壁は、0.45nm~1.5nmの膨張面間隔d002を有する結合グラフェン面のスタックを含む。好ましくは、スタックは2~100のグラフェン面を含む。
【0060】
B.膨張面間隔を有する様々なカソード活物質の作製
図1(A)の上部に概略的に示されているように、バルク天然黒鉛は、各黒鉛粒子が複数の結晶粒(黒鉛単結晶又は微結晶である結晶粒)からなる3-D黒鉛材料であり、粒界(非晶質又は欠陥ゾーン)が隣接する黒鉛単結晶を画定している。結晶粒はそれぞれ、互いに平行に配向された複数のグラフェン面からなる。黒鉛微結晶のグラフェン面又は六角形の炭素原子面は、二次元の六角形格子を占める炭素原子からなる。所与の結晶粒又は単結晶では、グラフェン面が、結晶学的c方向(グラフェン面又は底面に垂直)にファンデルワールス力によって積層され結合される。天然黒鉛材料のグラフェン間面間隔は約0.3354nmである。
【0061】
又、人工黒鉛材料は、構成グラフェン面を含むが、X線回折で測定される、典型的には0.32nm~0.36nm(より典型的には0.3339~0.3465nm)のグラフェン間面間隔d002を有する。又、多くの炭素又は準黒鉛材料は、積層グラフェン面からそれぞれなる黒鉛結晶(黒鉛微結晶、ドメイン、又は結晶粒とも呼ばれる)を含む。これらは、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズカーボン、軟質炭素、硬質炭素、コークス(例えば、ニードルコークス)、炭素又は黒鉛繊維(気相成長カーボンナノファイバー又は黒鉛ナノファイバーを含む)、及び多壁カーボンナノチューブ(MW-CNT)を含む。MW-CNTにおける2つのグラフェン環又は壁の間隔は、約0.27~0.42nmである。MW-CNTにおける最も一般的な間隔の値は、0.32~0.35nmの範囲であり、合成方法に強く依存しない。
【0062】
「軟質炭素」は、黒鉛ドメインを含む炭素材料を指し、この場合に、2,000℃を超える温度(より典型的には2,500℃を超える)に加熱された場合に、これらのドメインは容易にともに融合されることができるように、1つのドメインの六方晶炭素面(又はグラフェン面)の配向と、隣接する黒鉛ドメインの配向が、互いにあまりに不一致ではないことに留意されたい。このような熱処理は、一般に黒鉛化と呼ばれる。したがって、軟質炭素は、黒鉛化できる炭素質材料として定義できる。対照的に、「硬質炭素」は、より大きなドメインを得るために熱的に融合することができない、非常に誤って配向された黒鉛ドメインを含む炭素質材料として定義できる、即ち、硬質炭素は黒鉛化できない。
【0063】
上記のリストの天然黒鉛、人工黒鉛、及び他の黒鉛炭素材料における黒鉛微結晶の構成グラフェン面間の間隔は、黒鉛又は炭素材料の酸化、フッ素化、塩素化、臭素化、ヨウ素化、窒素化、インターカレーション、複合酸化インターカレーション、複合フッ素化インターカレーション、複合塩素化インターカレーション、複合臭素化インターカレーション、複合ヨウ素-インターカレーション、又は複合窒素化インターカレーションを含む、いくつかの膨張処理手法を用いて膨張できる(即ち、d002間隔は、0.27~0.42nmの元の範囲から0.42~2.0nmの範囲まで増加する)。
【0064】
より具体的には、平行なグラフェン面をともに保持するファンデルワールス力が比較的弱いため、天然黒鉛を処理して、グラフェン面間の間隔を広げてc軸方向に顕著な膨張をもたらすことができる。これにより、膨張した間隔を有する黒鉛材料が得られるが、六角形炭素層の層状特性は実質的に保持される。黒鉛微結晶の面間隔(グラフェン間間隔とも呼ばれる)は、黒鉛の酸化、フッ素化、及び/又はインターカレーションを含むいくつかの手法によって拡大(膨張)することができる。これは図1(D)に概略的に示される。インターカラント、酸素含有基、又はフッ素含有基の存在は、黒鉛微結晶の2つのグラフェン面間の間隔を広げるのに役立つ。インターカレーション、酸化、又はフッ素化された黒鉛が一定体積条件で中程度の温度(150~800℃)に曝される場合、この面間隔は更に広がり1.2nm~2.0nmになることができる。これは本明細書では制約膨張処理と呼ばれる。
【0065】
1つの方法では、図1(A)に示されるように、膨張面間隔を有するグラフェン材料は、天然黒鉛粒子を強酸及び/又は酸化剤でインターカレーションして黒鉛インターカレーション化合物(GIC)又は酸化黒鉛(GO)を得ることによって得られる。グラフェン面間の間隙空間に化学種又は官能基が存在することが、X線回折によって決定されるグラフェン間隔d002を増加させる働きをし、それにより、通常であればc軸方向に沿ってグラフェン面を一体に保持するファンデルワールス力を大幅に減少させる。GIC又はGOは、硫酸、硝酸(酸化剤)、及び別の酸化剤(例えば、過マンガン酸カリウム又は過塩素酸ナトリウム)の混合物中に天然黒鉛粉末(図1(A)での参照番号100)を浸漬することによって生成されることが最も多い。インターカレーション手順中に酸化剤が存在する場合、得られるGIC(102)は、実際には、ある種の酸化黒鉛(GO)粒子である。次いで、このGIC又はGOを繰り返し洗浄し、水中ですすいで余剰の酸を除去すると、酸化黒鉛懸濁液又は分散液が得られ、これは、水中に分散された、離散した視覚的に区別可能な酸化黒鉛粒子を含む。
【0066】
水を懸濁液から除去して「膨張性黒鉛」を得ることができ、これは本質的に乾燥GIC又は乾燥酸化黒鉛粒子の塊である。乾燥したGIC又は酸化黒鉛粒子のグラフェン間間隔d002は、典型的には0.42~2.0nmの範囲、より典型的には0.5~1.2nmの範囲にある。「膨張性黒鉛」は「膨張黒鉛」ではないことに留意されたい(後に更に説明する)。
【0067】
膨張性黒鉛を、約30秒~2分間、典型的には800~1,050℃の範囲の温度に曝すと、GICは30~300倍に急速に体積膨張し、「剥離黒鉛」又は「黒鉛ワーム」(104)を形成し、黒鉛ワームはそれぞれ、相互に接続されたままの、剥離したが大部分は分離されていない黒鉛フレークの集まりである(図1(B)及び図1(C))。剥離黒鉛では、個々の黒鉛フレーク(それぞれ1~数百のともに積層されたグラフェン面を含む)が互いに大きく間隔を空けており、間隔は典型的には2.0nm~200μmである。しかしながら、物理的に相互に接続されたままであり、アコーディオン又はワーム状の構造を形成する。
【0068】
黒鉛産業では、黒鉛ワームを再圧縮して、典型的には0.1mm(100μm)~0.5mm(500μm)の範囲の厚さを有する柔軟な黒鉛シート又は箔(106)を得ることができる。本発明において、カソード活物質又はその前駆体は、所望の多孔度レベル又は物理密度のカソード層を形成するためにこの塊が再圧縮される前に黒鉛ウォームの塊の細孔に組み込まれる。
【0069】
或いは、黒鉛産業では、ほとんどが100nmより厚い黒鉛フレーク又はプレートレット(したがって、定義によりナノ材料ではない)を含むいわゆる「膨張黒鉛」フレーク(108)を作製する目的で、低い強度のエアミル又はせん断機を使用して黒鉛ワームを簡単に粉砕することを選択できる。「膨張黒鉛」は「膨張性黒鉛」ではなく、「剥離黒鉛ワーム」でもないことは明らかである。むしろ、「膨張性黒鉛」を熱剥離して「黒鉛ワーム」を得ることができ、次いでこれを機械的せん断にかけ、相互に接続された黒鉛フレークを粉砕して「膨張黒鉛」フレークを得ることができる。これらの膨張黒鉛フレークは、膨張d002間隔を有さない。これらのd002間隔は、0.335~0.36nmの範囲のままである。
【0070】
或いは、2005年12月8日付けの我々の米国特許出願公開第2005/0271574号明細書に開示されるように、剥離した黒鉛又は黒鉛ワームを高強度の機械的せん断にかけて(例えば、超音波装置、高せん断ミキサー、高強度エアジェットミル、又は高エネルギーボールミルを使用)、分離した単層及び多壁グラフェンシート(総称してNGP、112と呼ばれる)を形成することができる。単層グラフェンは、0.34nmほどの薄い厚さであり得、多層グラフェンは、100nmまで、より典型的には3nm未満の厚さを有することができる(一般に数層グラフェンと呼ばれる)。複数のグラフェンシート又はプレートレットは、製紙プロセスを使用してNGP紙のシート(114)に作製することができる。
【0071】
GIC又は酸化黒鉛では、グラフェン間面分離が、天然黒鉛の0.3354nmから高度に酸化された酸化黒鉛の0.5~1.2nmに増加し、隣接する面をともに保持するファンデルワールス力が大幅に弱った。酸化黒鉛は、2~50重量%、より典型的には20重量%~40重量%の酸素含有量を有し得る。GIC又は酸化黒鉛は、本明細書で「制約熱膨張」と呼ばれる特別な処理を受けることができる。GIC又は酸化黒鉛が炉内の熱衝撃に曝され(例えば、800~1,050℃で)、自由に膨張できる場合、最終生成物は剥離された黒鉛ワームである。しかしながら、GIC又は酸化黒鉛の塊が、150℃~800℃(より典型的には300℃~600℃)の温度に加熱されている間に、制約条件(例えば、定体積条件下のオートクレーブ内又は鋳型内の一軸圧縮下で制約される)に曝される場合、膨張の範囲を制約でき、生成物は1.0nm~3.0nm、又は1.2nm~2.0nmの面間隔を有することができる。
【0072】
GOの代わりに、フッ化黒鉛(GF)を形成することにより、「膨張性黒鉛」又は膨張面間隔を有する黒鉛を得ることもできることに留意されたい。低温で黒鉛インターカレーション化合物(GIC)CF(2≦x≦24)が生成されるのに対し、フッ素ガス中の高温でのFと黒鉛との相互作用は、(CF)から(CF)への、共有結合性フッ化黒鉛をもたらす。(CF)では、炭素原子はsp3混成であり、したがって、フルオロカーボン層は波形であり、トランスリンクされたシクロヘキサンのいす型立体配座からなる。(CF)では、C原子の半分のみがフッ素化され、隣接する炭素シートの対はどれもC-C共有結合により結合される。フッ素化反応に関する系統的研究から、得られたF/C比が、フッ素化温度、フッ素化ガス中のフッ素の分圧、並びに黒鉛前駆体の物理的特性、例えば黒鉛化度、粒度、及び比表面積に大きく依存することが示された。フッ素(F)に加え、他のフッ素化剤(例えばFとBr、Cl、又はIとの混合)も使用することができるが、入手できる文献のほとんどは、時としてフッ化物の存在下で、Fガスによるフッ素化を含む。
【0073】
電気化学的フッ素化から得られる、軽度にフッ素化された黒鉛、CF(2≦x≦24)は、典型的には0.37nm未満、より典型的には0.35nm未満のグラフェン間間隔(d002)を有することが認められた。CFのxが2未満(即ち0.5≦x<2)の場合にのみ、0.5nmを超えるd002間隔を認めることができる(気相フッ素化又は化学フッ素化手順によって生成されたフッ素化黒鉛で)。CFのxが1.33未満(即ち0.5≦x<1.33)の場合、0.6nmを超えるd002間隔を認めることができる。この高度にフッ素化された黒鉛は、高温(>>200℃)で十分に長い時間、好ましくは1気圧超、より好ましくは3気圧超でフッ素化によって得られる。理由は不明のままであり、黒鉛の電気化学的フッ素化により、生成物CFが、1~2のx値を有していても、0.4nm未満のd間隔を有する生成物が得られる。黒鉛に電気化学的に導入されたF原子は、グラフェン面間ではなく、粒界などの欠陥に存在する傾向があり、その結果、グラフェン間面間隔を膨張するように作用しない可能性がある。
【0074】
黒鉛の窒素化は、高温(200~400℃)で黒鉛酸化物材料をアンモニアに曝すことで実施できる。又、窒素化は、例えば、GOとアンモニアをオートクレーブにて密封し、次いで温度を150~250℃に上昇させるなどの熱水法により低温で実施できる。
【0075】
N、O、F、Br、Cl、又はHに加えて又、グラフェン面間の他の化学種(例えば、Na、Li、K、Ce、Ca、Fe、NH等)の存在は、面間隔を膨張するのに役立つことができ、その中の電気化学的に活性な材料を収容するための空間を生成する。この検討では、グラフェン面(六角形の炭素面又は底面)間の膨張格子間隔が、驚くべきことに、Al+3イオン並びに他の陰イオン(電解質成分に由来)を収容できることが判明した。黒鉛は、Na、Li、K、Ce、Ca、NH、又はこれらの組み合わせなどの化学種で電気化学的にインターカレートでき、次いで金属元素(Bi、Fe、Co、Mn、Ni、Cu等)と化学的又は電気化学的にイオン交換可能であることに留意されたい。これらの化学種は全て、面間隔を膨張するのに役立つことができる。
【0076】
天然黒鉛と人工黒鉛に加えて、軟質炭素、硬質炭素、メソフェーズカーボン、コークス、炭化ピッチ、カーボンブラック、活性炭、炭素エアロゲル、炭素キセロゲル、部分黒鉛化カーボン(一般に無秩序炭素材料と呼ばれる)などの炭素質材料の幅広い配列が存在し、膨張間隔を有する炭素材料を得るために同様の膨張処理に供されることができる。無秩序炭素材料は、典型的には2つの相から形成され、この場合に、第1の相は、小さい黒鉛結晶又は黒鉛面の小さいスタックであり(典型的には、10までの黒鉛面又は芳香環構造がともに重なり合って小さい秩序ドメインを形成する)、第2の相は、非結晶性炭素であり、第1の相は、第2の相に分散される又は第2の相によって結合される。第2の相は、ほとんど、より小さい分子、より小さい芳香環、欠陥、及び非晶質炭素からなる。典型的には、無秩序炭素は、非常に多孔質(例えば、剥離活性炭)である、又はナノスケールの特徴を有する(例えば、メソスケールの細孔、ひいては高い比表面積を有する)超微細粉末形態(例えば、化学エッチングされたカーボンブラック)で存在する。
【0077】
軟質炭素は、小さい黒鉛結晶からなる炭素質材料を指し、この場合に、材料内のこれらの黒鉛結晶又はグラフェン面のスタックの配向は、高温熱処理を用いて、隣接するグラフェンシートの更なる融合、又はこれらの黒鉛結晶又はグラフェンスタックの更なる成長を助長する。この高温熱処理は一般に黒鉛化と呼ばれ、したがって、軟質炭素は黒鉛化可能であると言われる。硬質炭素は、小さい黒鉛結晶からなる炭素質材料を指し、この場合に、これらの黒鉛結晶又は材料内のグラフェン面のスタックは、好ましい方向(例えば、互いにほぼ垂直)に配向されていないため、隣接するグラフェン面の更なる融合、又はこれらの黒鉛結晶又はグラフェンスタックの更なる成長を助長しない(即ち、黒鉛化されない)。
【0078】
特定のグレードの石油ピッチ又はコールタールピッチは、一般にメソフェーズと呼ばれる液晶タイプの光学異方性の構造を得るために熱処理されることができる(典型的には250~500℃)。このメソフェーズ材料を混合物の液体成分から抽出して、単離されたメソフェーズ粒子又は球体を生成することができ、これらは更に炭化及び黒鉛化することができる。
【0079】
C.炭素/黒鉛の膨張面間隔への硫黄又は金属ポリスルフィドの含浸
膨張d間隔を有する黒鉛/炭素材料の層(例えば、多孔質シート、紙、ウェブ、フィルム、布、不織布、マット、凝集体、又は発泡体の形態で)が調製されたら、この層を、溶媒と溶媒に溶解又は分散した硫黄源を含む、電解質(好ましくは液体電解質)に浸漬することができる。この層は、基本的に、外部電気化学堆積チャンバーのカソード又は目的のアルカリ金属-硫黄セルのカソードとして機能する(電池の包装又は筐体内に収容される)。
【0080】
その後、又、アノード層はチャンバーに浸漬される、又は、電池セル内に入れられる。任意選択の導電性材料をアノード材料として使用できるが、好ましくはこの層は、いくらかのリチウム(又はナトリウム又はカリウム)を含む。このような配置では、炭素/黒鉛構造(電気化学カソード層)及びアノードは電解質とイオン接触している。次いで、膨張格子間隔に硫黄を電気化学的に含浸させてプレ硫化活性カソード層を形成するのに十分な時間十分な電流密度で電流がアノードとカソードの間に供給される。必要な電流密度は、堆積した材料の堆積と均一性の所望の速度に依存する。
【0081】
この電流密度は、制御された量のS粒子又はコーティングを2つの六角形の炭素面間(グラフェン面間)の膨張間隔に含浸するように容易に調整できる。得られるナノスケールの硫黄粒子又はコーティングは、硫黄粒子又はコーティング及び黒鉛/炭素材料を合わせた総重量に基づいて、少なくとも70%(好ましくは>80%、より好ましくは>90%、最も好ましくは>95%)の重量分率を占める。
【0082】
好ましい一実施形態では、硫黄源はMから選択され、xは1~3の整数であり、yは1~10の整数であり、Mは、アルカリ金属、Mg又はCaから選択されるアルカリ金属、遷移金属、周期表の13~17族の金属、或いはこれらの組み合わせから選択される金属元素である。望ましい実施形態では、金属元素Mは、Li、Na、K、Mg、Zn、Cu、Ti、Ni、Co、Fe、又はAlから選択される。特に望ましい実施形態では、Mは、Li、Li、Li、Li、Li10、Na、Na、Na、Na、Na10、K、K、K、K、又はK10から選択される。
【0083】
一実施形態では、アノードは、アルカリ金属、アルカリ金属、遷移金属、周期表の13~17族の金属、又はこれらの組み合わせから選択されるアノード活物質を含む。このアノードは、Li-Sセルに含めるためのものと同じアノードであり得る。
【0084】
溶媒は、1,3-ジオキソラン(DOL)、1,2-ジメトキシエタン(DME)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)、ポリ(エチレングリコール)ジメチルエーテル(PEGDME)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(DEGDBE)、2-エトキシエチルエーテル(EEE)、スルホン、スルホラン、炭酸エチレン(EC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸メチルエチル(MEC)、炭酸ジエチル(DEC)、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル、炭酸プロピレン(PC)、γ-ブチロラクトン(γ-BL)、アセトニトリル(AN)、酢酸エチル(EA)、ギ酸プロピル(PF)、ギ酸メチル(MF)、トルエン、キシレン、酢酸メチル(MA)、炭酸フルオロエチレン(FEC)、炭酸ビニレン(VC)、炭酸アリルエチル(AEC)、ハイドロフルオロエーテル、室温イオン液体溶媒、又はこれらの組み合わせから選択されることができる。
【0085】
セルにおけるカソード層の膨張格子間隔へのSの内部電気化学的含浸の目的で、電解質は、過塩素酸リチウム(LiClO)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、六フッ化ヒ化リチウム(LiAsF)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCFSO)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム(LiN(CFSO)、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiBOB)、オキサリルジフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、オキサリルジフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、硝酸塩(LiNO)、Li-フルオロアルキル-リン酸(LiPF(CFCF)、リチウムビスパーフルオロ-エチルスルホニルイミド(LiBETI)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムトリフルオロメタンスルホンイミド(LiTFSI)、イオン液体系リチウム塩、過塩素酸ナトリウム(NaClO)、過塩素酸カリウム(KClO)、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム(NaPF)、ヘキサフルオロリン酸カリウム(KPF)、ホウフッ化ナトリウム(NaBF)、ホウフッ化カリウム(KBF)、ナトリウムヘキサフルオロヒ素、カリウムヘキサフルオロヒ素、ナトリウムトリフルオロ-メタスルホネート(NaCFSO)、カリウムトリフルオロ-メタスルホネート(KCFSO)、ビス-トリフルオロメチルスルホニルイミドナトリウム(NaN(CFSO)、ナトリウムトリフルオロメタンスルホンイミド(NaTFSI)、及びビス-トリフルオロメチルスルホニルイミドカリウム(KN(CFSO)、又はこれらの組み合わせから選択されるアルカリ金属塩を更に含み得る。
【0086】
好ましい一実施形態では、前述のように、電気化学的含浸は、カソード活性層が目的のアルカリ金属-硫黄(例えば、Li-S)電池セルに組み込まれる前に行われる。言い換えれば、アノード、電解質、及び膨張格子間隔を有する黒鉛/炭素材料層(カソード層として機能する)は、目的の電池セルの外側の外部容器に配置される。必要な装置は、電気めっきシステムに類似している。硫黄を電気化学的に含浸させる工程は、電池セルの外部で電池セルの作製前に行われる。
【0087】
別の実施形態では、アノード、電解質、及び黒鉛/炭素材料層は、アルカリ金属-硫黄セルの内部に配置される。言い換えれば、電池セル自体が、カソードのプレ硫化のための電気化学的堆積システムであり、電池セルの作製後に硫黄粒子又はコーティングを電気化学的に含浸する工程が生じる。この電気化学的堆積手順は、Li-Sセル、Na-Sセル、又はK-Sセルの最初の充電サイクル中に実行される。
【0088】
広範囲にわたる綿密な研究努力の後、我々は、グラフェン面間の膨張格子間隔のこのようなプレ硫化は、現在のLi-S、Na-S、及びK-Sセルに関連するいくつかの最も重要な課題を驚くほど解決することを認識することに至った。例えば、この方法では、硫黄を薄いコーティング又は超微粒子の形態で堆積させることができ、したがって、Li/Na/Kイオンの拡散経路が非常に短くなるため、高速電池充電及び放電のための超高速反応時間となる。これは、比較的高い比率の硫黄(Li、Na、又はKの貯蔵に関与する活物質)、並びにしたがって、高い比容量に関して得られるカソード活性層の高い比Li/Na/K貯蔵容量(mAh/g、活物質、S、支持黒鉛/炭素材料、任意選択のバインダー樹脂、及び任意選択の導電性フィラーの塊を含むカソード層の総重量に基づく)を維持しながら達成される。
【0089】
高いS比率ではなく小さいS粒子を堆積するために従来技術の手順を使用できること、又は大きな粒子又は厚膜形態でのみ高い比率を達成できることに留意することは重要である。しかし、従来技術の手順では、両方を同時に達成することはできなかった。高い硫黄充填を得ると同時に、エネルギー密度と出力密度を大幅に向上させるために硫黄の極薄/小さい厚さ/直径を維持することは非常に有利である。これは、任意の従来技術の硫黄充填技術では不可能であった。例えば、カソード層の90重量%を超える比率を占めるナノスケールの硫黄を堆積させることができたが、コーティングの厚さ又は粒子径は2nm未満を維持した。これは、リチウム-硫黄電池の当技術分野ではまったくの偉業である。
【0090】
Li-S電池の当技術分野の電気化学者又は材料科学者ならば、カソード活性層に大量の高導電性炭素又は黒鉛材料(ひいては、少量のS)があれば、特に高い充電/放電速度条件で、Sのより良好な利用に結びつくはずであることを予想するであろう。これらの予想に反して、高いSの利用効率を達成するための鍵は、Sコーティング又は粒子サイズを最小化することであり、Sコーティング又は粒子の厚さ/直径が十分に小さい(例えば、グラフェン面間の膨張格子間隔に閉じ込められた、<2nm)という条件で、カソードに充填されるSの量から独立していることが認められた。ここでの問題は、Sが50重量%を超える場合、事前に薄いSコーティング又は小さい粒子サイズを維持することができなかったことである。ここで更に驚くべきことに、高い充電/放電速度条件でカソードで高い比容量を実現するための鍵は、高いSの充填を維持し、Sコーティング又は粒子サイズを可能な限り小さく保つことであり、本発明の膨張d間隔法を使用することによって、これが達成されることが認められた。
【0091】
外部の充填又は回路から出入りする電子は、導電性添加剤(従来の硫黄カソードで)又は導電性フレームワーク(例えば、本明細書で開示される導電性黒鉛/炭素骨格構造)を通りカソード活物質に達する必要がある。カソード活物質(例えば、硫黄やリチウムポリスルフィドなど)は導電性が低いため、必要な電子の移動距離を短縮するには、活物質の粒子又はコーティングをできるだけ薄くする必要がある。限られた間隔(わずか2nmまで)がこの要件を満たしている。
【0092】
更に、従来のLi-S電池のカソードは、典型的には硫黄と導電性添加剤/支持体からなる複合カソードで70重量%未満の硫黄を有する。従来技術の複合カソードの硫黄含有量が70重量%に達する又はそれを超える場合でも、複合カソードの比容量は、典型的には理論的予測に基づいて予想されるものより著しく低い。例えば、硫黄の理論比容量は1,675mAh/gである。バインダーがない70%の硫黄(S)と30%のカーボンブラック(CB)からなる複合カソードは、1,675×70%=1,172mAh/gまで貯蔵できる必要がある。残念ながら、認められる比容量は、典型的には達成できるものの75%又は879mAh/g(この例では多くの場合50%又は586mAh/g未満)未満である。言い換えれば、活物質(S)の利用率は、典型的には75%未満(又は50%未満)である。これは、Li-Sセルの当技術分野における大きな課題であり、この問題に対する解決策はなかった。最も驚くべきことに、硫黄又はリチウムポリスルフィドを受け入れるために膨張面間隔を有する導電性炭素/黒鉛材料の実装により、典型的には>>80%、より多くは90%を超える、多数の場合99%に近い、活物質利用率を達成することが可能になった。
【0093】
本方法の更に別の予期せぬ結果は、本戦略が、Li-S電池の完全な商業化に対する長年の障害であったシャトル効果を大幅に低減したより安定した充電/放電サイクルにつながるという認識である。我々は、この問題を克服すると同時に高い比容量を実現している。全ての従来技術のLi-Sセルでは、S充填が高いほど容量減衰が速くなる。
【0094】
シャトル効果は、カソードで形成される硫黄又はアルカリ金属ポリスルフィドが溶媒に溶解する傾向、及び溶解したリチウムポリスルフィド種がカソードからアノードに移動し、そこでリチウムと不可逆的に反応して、Li-Sセルのその後の放電動作中に硫化物がカソードに戻るのを防ぐ種を形成する傾向に関連している(有害なシャトル効果)。グラフェン面の間の膨張格子間隔は、硫黄と金属ポリスルフィドをその中に効果的に閉じ込めており、これによりこのような溶解及び移動の課題を防止又は低減しているようである。
【0095】
非水電解質に組み込まれる電解質塩は、過塩素酸リチウム(LiClO)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、六フッ化ヒ化リチウム(LiAsF)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCFSO)、ビス-トリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム(LiN(CFSO)、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiBOB)、オキサリルジフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、オキサリルジフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、硝酸リチウム(LiNO)、Li-フルオロアルキル-リン酸(LiPF(CFCF)、リチウムビスペルフルオロエチルスルホニルイミド(LiBETI)、イオン液体塩、過塩素酸ナトリウム(NaClO)、過塩素酸カリウム(KClO)、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム(NaPF)、ヘキサフルオロリン酸カリウム(KPF)、ホウフッ化ナトリウム(NaBF)、ホウフッ化カリウム(KBF)、ヘキサフルオロヒ化ナトリウム、ヘキサフルオロヒ化カリウム、トリフルオロメタスルホン酸ナトリウム(NaCFSO)、トリフルオロメタスルホン酸カリウム(KCFSO)、ビス-トリフルオロメチルスルホニルイミドナトリウム(NaN(CFSO)、トリフルオロメタンスルホンイミドナトリウム(NaTFSI)、及びビス-トリフルオロメチルスルホニルイミドカリウム(KN(CFSO)などのリチウム塩から選択されることができる。なかでも、Li-SセルにはLiPF、LiBF、及びLiN(CFSO、Na-SセルにはNaPF及びLiBF、並びにK-SセルにはKBFが好ましい。非水溶媒中の上記電解質塩の含有量は、カソード側で0.5~3.0M(モル/L)、及びアノード側で3.0から>10Mであることが好ましい。
【0096】
イオン液体はイオンのみから構成されている。イオン液体は、所望の温度を超えたときには融解状態又は液体状態になる低融解温度の塩である。例えば、塩は、その融点が100℃未満である場合にイオン液体とみなされる。融解温度が室温(25℃)以下である場合、塩は室温イオン液体(RTIL)と呼ばれる。IL塩は、大きなカチオンと電荷非局在化アニオンとの組合せによる弱い相互作用によって特徴付けられる。これは、可撓性(アニオン)及び非対称性(カチオン)による結晶化の傾向を低減する。
【0097】
1-エチル-3-メチル-イミダゾリウム(EMI)カチオンとN,N-ビス(トリフルオロメタン)スルホンアミド(TFSI)アニオンとの組合せによって、典型的なよく知られたイオン液体が生成される。この組合せにより、最大約300~400℃で、多くの有機電解質溶液と同等のイオン導電率、並びに低い分解性及び低い蒸気圧を有する流体が得られる。これは、一般に低い揮発性及び非引火性、したがって電池に関してはるかに安全な電解質を示唆する。
【0098】
イオン液体は、基本的には、多様な成分の調製が容易であることにより、本質的に無制限の数の構造変化を生じる有機イオンから構成される。したがって、様々な種類の塩を使用して、所与の用途に合わせて所望の特性を有するイオン液体を設計することができる。これらは、とりわけ、カチオンとしてのイミダゾリウム、ピロリジニウム、及び第四級アンモニウム塩と、アニオンとしてのビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ビス(フルオロスルホニル)イミド、及びヘキサフルオロホスフェートとを含む。有用なイオン液体ベースのナトリウム塩(溶媒ではない)は、カチオンとしてのナトリウムイオンと、アニオンとしてのビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ビス(フルオロスルホニル)イミド、又はヘキサフルオロリン酸塩とから構成することができる。その組成に基づいて、イオン液体は、基本的に非プロトン性、プロトン性、両性イオン型を含む様々な部類に分類され、それぞれが特定の用途に適している。
【0099】
室温イオン液体(RTIL)の一般的なカチオンとしては、限定はしないが、テトラアルキルアンモニウム、ジ-、トリ-、及びテトラ-アルキルイミダゾリウム、アルキルピリジニウム、ジアルキルピロリジニウム、ジアルキルピペリジニウム、テトラアルキルホスホニウム、並びにトリアルキルスルホニウムが挙げられる。RTILの一般的なアニオンとしては、限定はしないが、BF 、B(CN) 、CHBF 、CH2CHBF 、CFBF 、CBF 、n-CBF 、n-CBF 、PF 、CFCO 、CFSO 、N(SOCF 、N(COCF)(SOCF、N(SOF) 、N(CN) 、C(CN) 、SCN、SeCN、CuCl 、AlCl 、F(HF)2.3 などが挙げられる。相対的に言えば、イミダゾリウム又はスルホニウムベースのカチオンと、AlCl 、BF 、CFCO 、CFSO 、NTf 、N(SOF) 、又はF(HF)2.3 などの錯体ハロゲン化物アニオンとの組合せが、良好な動作伝導率を有するRTILをもたらす。
【0100】
RTILは、高い固有のイオン導電率、高い熱安定性、低い揮発性、低い(実質的にゼロの)蒸気圧、非引火性、室温よりも上及び下の広い温度範囲で液体を維持する機能、高い極性、高い粘度、及び広い電気化学的窓など、典型的な特性を有することができる。高い粘度を除いて、これらの特性は、Li-Sセルにおける電解質成分(塩及び/又は溶媒)としてRTILを使用する際に望ましい特性である。
【0101】
一実施形態では、カソード層の作製前に、カソード層に30%まで(好ましくは<15%、より好ましくは<10%)の活物質(硫黄又はリチウムポリスルフィド)を予備充填することができる。更に別の実施形態では、カソード層は、カーボンブラック(CB)、アセチレンブラック(AB)、黒鉛粒子、活性炭、メソポーラスカーボン、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)、炭素繊維、又はこれらの組み合わせなどの導電性フィラーを含み得る。これらの材料(膨張d間隔を有さない)は、Sの支持体としてではなく、導電性フィラーとして使用される。
【0102】
アノード活物質は、例として、大量のリチウムを貯蔵することができるリチウム金属箔又は大容量のSi、Sn、又はSnOを含み得る。カソード活物質は、純粋な硫黄(アノード活物質がリチウムを含む場合)、リチウムポリスルフィド、又は任意選択の硫黄含有化合物、分子、又はポリマーを含み得る。セルの作製時にカソード活物質がリチウム含有化学種(例えば、リチウムポリスルフィド)を含む場合、アノード活物質は、大量のリチウムを貯蔵できる任意選択の材料(例えば、Si、Ge、Sn、SnO等)であり得る。
【0103】
アノード側では、リチウム金属がLi-Sセルの唯一のアノード活物質として使用される場合、リチウムデンドライトの形成が懸念され、これは内部短絡と熱暴走を引き起こす可能性がある。本明細書では、このデンドライトの形成の課題に対処するために、2つの手法を別々に又は組み合わせて使用した。1つはアノード側に高濃度電解質を使用することを伴い、もう1つは導電性ナノフィラメントからなるナノ構造体を使用することを伴う。後者の場合、複数の導電性ナノフィラメントを処理して、好ましくは密集したウェブ、マット、又は紙の形態の統合された凝集構造を形成し、これらのフィラメントが交差、重なり、又は何らかの方法で相互に結合して(例えば、バインダー材料を使用して)、電子導電経路のネットワークを形成することを特徴とする。統合された構造は、電解質を収容するために実質的に相互接続された細孔を有する。ナノフィラメントは、例として、カーボンナノファイバー(CNF)、黒鉛ナノファイバー(GNF)、カーボンナノチューブ(CNT)、金属ナノワイヤ(MNW)、エレクトロスピニングにより得られた導電性ナノファイバー、導電性エレクトロスピニング複合ナノファイバー、ナノスケール化グラフェンプレートレット(NGP)、又はこれらの組み合わせから選択されることができる。ナノフィラメントは、ポリマー、コールタールピッチ、石油ピッチ、メソフェーズピッチ、コークス、又はこれらの誘導体から選択されるバインダー材料によって結合されることができる。
【0104】
ナノファイバーは、導電性エレクトロスピニングポリマーファイバー、導電性フィラーを含むエレクトロスピニングポリマーナノコンポジットファイバー、エレクトロスピニングポリマーファイバーの炭化から得られたナノ炭素繊維、エレクトロスピニングピッチファイバー、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されることができる。例えば、ナノ構造電極は、ポリアクリロニトリル(PAN)をポリマーナノファイバーにエレクトロスピニングし、続いてPANを炭化することで得られることができる。炭化された構造の細孔のいくつかは、100nmより大きく、いくつかは100nmより小さいことに留意されたい。
【0105】
本発明のカソード活性層は、少なくとも4つの広範な部類の充電式リチウム金属セル(又は同様に、ナトリウム金属又はカリウム金属セルにおいて)の1つに組み込まれることができる:
(A)従来のアノード構成を有するリチウム金属-硫黄:セルは、任意選択のカソード集電体、本発明のカソード層、セパレータ/電解質、及びアノード集電体を含む。潜在的なデンドライトの形成は、アノードで高濃度電解質を使用することにより克服できる。
(B)ナノ構造アノード構成を有するリチウム金属-硫黄電池:セルは、任意選択のカソード集電体、本発明のカソード、セパレータ/電解質、任意選択のアノード集電体、及び充電又は再充電動作中にアノードに堆積されるリチウム金属を収容するナノ構造を含む。ナノフィラメントのこのナノ構造(ウェブ、マット、又は紙)は、均一なリチウム金属の堆積を可能にする均一な電界を提供し、デンドライトを形成する傾向を低減する。この構成は、長く安全なサイクル挙動のためのデンドライトのないセルを提供できる。
(C)従来のアノードを有するリチウムイオン-硫黄セル:例えば、セルは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)又はスチレンブタジエンゴム(SBR)などのバインダーで結合されたアノード活性黒鉛粒子からなるアノードを含む。又、セルは、カソード集電体、本発明のカソード、セパレータ/電解質、及びアノード集電体を含む。
(D)ナノ構造アノードを有するリチウムイオン-硫黄セル:例えば、セルは、Siコーティングでコーティングされた、又はSiナノ粒子で結合されたナノファイバーのウェブを含む。又、セルは、任意選択のカソード集電体、本発明のカソード、セパレータ/電解質、及びアノード集電体を含む。この構成は、超高容量、高エネルギー密度、及び安全で長いサイクル寿命を提供する。
【0106】
リチウムイオン硫黄セル(例えば、上記の(C)及び(D)に記載される)では、アノード活物質は、(a)シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、及びカドミウム(Cd)、並びにこれらのリチウム化バージョン、(b)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、又はCdの他の元素との合金又は金属間化合物、及びこれらのリチウム化バージョン、この場合に、前述の合金又は化合物は化学量論的又は非化学量論的である、(c)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Fe、Ni、Co、Ti、Mn、又はCd、及びこれらの混合物又は複合体の酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、リン化物、セレン化物、及びテルル化物、並びにこれらのリチウム化バージョン、(d)Snの塩及び水酸化物、並びにこれらのリチウム化バージョン、(e)炭素又は黒鉛材料及びこれらのプレリチウム化バージョン、並びにこれらの組み合わせを含む、広範囲の高容量材料から選択されることができる。リチウムイオン化されていないバージョンは、セルの作製時にカソード側がリチウムポリスルフィド又はその他のリチウム源を含む場合に使用できる。
【0107】
考えられるリチウム金属セルは、アノード集電体、電解質相(任意選択によりしかし好ましくは、多孔質ポリエチレン-ポリプロピレンコポリマーフィルムなどの多孔質セパレータで支持される)、本発明のカソード、及び任意選択のカソード集電体からなることができる。本発明の多孔質黒鉛/グラフェン構造の層は、適切に設計されていれば、集電体又は集電体の延長として機能することができるため、このカソード集電体は任意選択である。
【0108】
ナトリウムイオン-硫黄セル又はカリウムイオン-硫黄セルの場合、アノード活物質層は、以下からなる群から選択されるアノード活物質を含み得る:(a)ナトリウム又はカリウムをドープしたシリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、カドミウム(Cd)、及びこれらの混合物、(b)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Ti、Co、Ni、Mn、Cd、及びこれらの混合物のナトリウム又はカリウム含有合金又は金属間化合物、(c)Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Zn、Al、Fe、Ti、Co、Ni、Mn、Cd、及びこれらの混合物又は複合体のナトリウム又はカリウム含有酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、リン化物、セレン化物、テルル化物、又はアンチモン化物、(d)ナトリウム又はカリウム塩、(e)黒鉛の粒子、硬質炭素、軟質炭素又は炭素粒子、及びこれらのプレナトリウム化バージョン(プレドープ又はNaで予備充填された)、並びにこれらの組み合わせ。
【0109】
以下の実施例は、主に本発明の最良の形態の実施を例示する目的で提示され、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例
【0110】
実施例1:膨張d間隔を有する黒鉛粒子を生成するための黒鉛の酸化
Asbury Carbons(405 Old Main St.、Asbury、N.J.08802、USA)が提供する公称サイズ45μmの天然フレーク黒鉛を粉砕して、サイズを約14μmに縮小した(試料1a)。発煙硝酸(>90%)、硫酸(95~98%)、塩素酸カリウム(98%)、及び塩酸(37%)などの本検討で使用した化学物質は、Sigma-Aldrichから購入し受け取ったまま使用した。以下の手順に従って酸化黒鉛(GO)試料を調製した。
【0111】
試料1A:磁気撹拌棒を含む反応フラスコに硫酸(176mL)と硝酸(90mL)を入れ、氷浴に浸して冷却した。酸混合物を攪拌し15分間冷却し、凝集を避けるために激しく攪拌しながら黒鉛(10g)を加えた。黒鉛粉末を十分に分散した後、温度の急激な上昇を避けるために、塩素酸カリウム(110g)を15分かけてゆっくりと加えた。反応フラスコにゆるく蓋をして、反応混合物からガスを発生させ、室温で24時間攪拌した。反応が完了したら、混合物を脱イオン水8Lに注ぎ濾過した。GOを再分散し、5%塩酸溶液で洗浄して硫酸イオンを除去した。硫酸イオンが存在するかを判定するために、濾液を塩化バリウムで断続的に試験した。この試験が陰性になるまで、塩酸洗浄工程を繰り返した。次いで、濾液のpHが中性になるまで、GOを脱イオン水で繰り返し洗浄した。GOスラリーを噴霧乾燥し、使用するまで60℃の真空オーブンに保存した。
【0112】
試料1B:試料1Aと同じ手順に従ったが、反応時間は48時間であった。
【0113】
試料1C:試料1Aと同じ手順に従ったが、反応時間は96時間であった。
【0114】
X線回折の検討では、24時間の処理後、かなりの割合の黒鉛が酸化黒鉛に変換されたことを示した。純粋な天然黒鉛の0.335nm(3.35Å)の面間隔に対応する2θ=26.3度のピークは、24時間の深度酸化処理後に強度が大幅に減少し、典型的には2θ=9~14度付近のピーク(酸化の程度に応じて)が現れた。本検討では、48時間と96時間の処理時間の曲線は、本質的に同一であり、本質的に全ての黒鉛結晶が、6.5~7.5Åの面間隔で黒鉛酸化物に変換されたことを示している(26.3度のピークは完全に消失し、およそ2θ=11.75~13.7度でのピークが現れた)。
【0115】
実施例2:様々な黒鉛カーボン及び黒鉛材料の酸化及びインターカレーション
試料2A、2B、2C、及び2Dは、試料1Bと同じ手順に従って調製したが、出発となる黒鉛材料は、それぞれ、高配向熱分解黒鉛(HOPG)、黒鉛繊維、黒鉛カーボンナノファイバー、及び球状黒鉛の片である。これらの最終的な面間隔は、それぞれ6.6Å、7.3Å、7.3Å、及び6.6Åである。これらの未処理の対応物は、それぞれ試料2a、2b、2c、及び2dと呼ばれる。
【0116】
実施例3:変更したハマー法を使用した天然黒鉛及びニードルコークスからの酸化黒鉛の調製
酸化黒鉛(試料3A)を、ハマー法[米国特許第2,798,878号明細書、1957年7月9日]に従って、天然黒鉛フレーク(Huadong Graphite Co.,Pingdu,Chinaの、約15μmに粉砕された、元のサイズ200メッシュ、試料3aと呼ばれる)並びにニードルコークスの硫酸、硝酸ナトリウム、及び過マンガン酸カリウムでの酸化により調製した。異方性ニードルコークスは、完全に開発された光学異方性のニードル形テクスチャーを有する。原料のままのコークスの揮発性種は、約5重量%と推定された。
【0117】
この実施例では、黒鉛又はニードルコークス1グラムごとに、濃硫酸22ml、過マンガン酸カリウム2.8グラム、及び硝酸ナトリウム0.5グラムの混合物を使用した。黒鉛フレークを混合溶液に浸漬し、反応時間は35℃で約1時間であった。過熱及びその他の安全上の問題を回避するために、過マンガン酸カリウムを十分に制御された方法で硫酸に徐々に加える必要があることに注意することが重要である。反応が完了したら、混合物を脱イオン水に注ぎ濾過した。次いで、濾液のpHが約5になるまで、試料を脱イオン水で繰り返し洗浄した。スラリーを噴霧乾燥し、60℃の真空オーブンに24時間保存した。得られた層状黒鉛酸化物の層間隔を、デバイシェラーX線技術により約0.73nm(7.3Å)であると決定した。
【0118】
実施例4:メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)及び硬質炭素粒子の酸化
酸化黒鉛(試料4A)を、実施例3で使用した同じ手順に従って、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)の酸化により調製した。MCMBマイクロビーズ(試料4a)は、China Steel Chemical Co.Taiwanにより供給された。この材料は、約2.24g/cmの密度、37ミクロンの粒子の少なくとも95重量%の最大粒子サイズ、約22.5ミクロンの中央サイズ、及び約0.336nmの面間距離を有する。深度酸化処理後、得られた黒鉛酸化物マイクロビーズの面間隔は約0.76nmである。
【0119】
ピッチ試料(Ashland Chemical Co.のA-500)を管状炉で900℃で2時間炭化し、続いて1,200℃で4時間更に炭化して硬質炭素粒子を生成した。硬質炭素粒子は、MCMBの同じ酸化処理を受けた。酸化された硬質炭素粒子の膨張間隔は約0.83nmである。
【0120】
実施例5:炭素繊維の臭素化及びフッ素化
面間隔3.37Å(0.337nm)及び繊維径10μmを有する、黒鉛化炭素繊維(試料5a)を、最初に75℃から115℃の範囲の温度で臭素とヨウ素を組み合わせてハロゲン化し、中間生成物として黒鉛の臭素-ヨウ素インターカレーション化合物を形成した。次いで、中間生成物を、275℃~450℃の範囲の温度でフッ素ガスと反応させCFを形成した。CF試料のyの値は、約0.6~0.9であった。典型的には、X線回折曲線は、それぞれ0.59nmと0.88nmに対応する2つのピークの共存を示している。試料5Aは、実質的に0.59nmのピークのみを示し、試料5Bは、実質的に0.88nmのピークのみを示す。
【0121】
実施例6:炭素繊維のフッ素化
実施例5で得られたCF0.68試料を、250℃及び1気圧で1,4-ジブロモ-2-ブテン(BrHC-CH=.CH--CHBr)の蒸気に3時間暴露した。フッ化黒鉛試料からフッ素の3分の2が失われていることがわかった。1,4-ジブロモ-2-ブテンは、フッ化黒鉛と活発に反応し、フッ化黒鉛からフッ素を除去し、黒鉛格子内の炭素原子への結合を形成すると推測される。得られた生成物(試料6A)は、混合されたフッ化黒鉛であり、フッ化黒鉛と臭化黒鉛の組み合わせと思われる。d間隔は0.65nm~1.22nmであった。
【0122】
実施例7:面間隔を増加させる黒鉛のフッ素化
天然黒鉛フレーク、ふるいサイズ200~250メッシュを、真空中(10-2mmHg未満)で約2時間加熱して、天然黒鉛フレークに含まれる残留水分を除去した。フッ素ガスを反応器に導入し、フッ素圧を200mmHgに維持しながら、375℃で120時間反応を進行させた。これは、米国特許第4,139,474号明細書で開示される、Watanabeらによって提案された手順に基づいた。得られた粉末生成物は、黒色であった。生成物のフッ素含有量は以下のように測定した。酸素フラスコ燃焼法に従って生成物を燃焼させ、フッ素をフッ化水素として水に吸収させた。フッ素の量は、フッ素イオン電極を使用して決定した。結果から、実験式(CF0.75を有するGF(試料7A)を得た。X線回折は、6.25Åの面間隔に対応する2θ=13.5度の主要な(002)ピークを示した。
【0123】
試料7Bは、試料7Aと同様の方法で得られたが、反応温度640℃、5時間であった。化学組成は(CF0.93と決定された。X線回折は、9.2Åの面間隔に対応する、2θ=9.5度での主要な(002)ピークを示した。
【0124】
実施例8:制約膨張を受けた炭素コーティングされたGO粒子の調製
それぞれの場合に、GO粒子(それぞれ実施例3及び実施例4で調製)をフェノール樹脂と混合して、20体積%のフェノール樹脂を含む混合物を得ることにより、2つのポリマー炭素コーティングされたGO試料(試料8-A及び8-B)を調製した。この混合物を200℃で1時間硬化させ、次いで一定体積の条件で、500℃の温度でアルゴン雰囲気中で炭化させた。次いで、炭化した生成物を潰し粉砕して、平均直径が約13μmの1~23μmの粒子を得た。面間隔は、制約膨張処理の前に、それぞれ約0.73nmと0.76nmであると決定された。この制約膨張処理の後、GO粒子のd間隔は、それぞれ1.27nm及び1.48nmに増加した(試料8-C及び8-D)。
【0125】
実施例9:炭素コーティングされたGF粒子の調製
約14ミクロンの平均サイズに粉砕された天然フレーク黒鉛を、実施例7に記載されているのと同じフッ素化処理に供し、(CF0.75(試料7B)であると決定された。得られた粉末を、Tanakaらの米国特許第5,344,726号明細書により示唆された手順に従って、非晶質炭素の化学蒸着(CVD)に供した。50mgの(CF0.75試料粉末を、石英管反応器に入れ、次いでアルゴンガスとプロパンガスをそれぞれアルゴン供給ラインとプロパン供給ラインから供給した。次いで、ニードルバルブを操作して、原料ガスのプロパン濃度を10モル%に設定した。原料ガスの流速を12.7cm/分に設定し、プロパンの供給量を0.05モル/時間に設定した。プロパン以外の炭化水素又はその誘導体を原料として使用できることに留意されたい。より具体的には、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂環式炭化水素などを使用することができる。更に具体的には、メタン、エタン、ブタン、ベンゼン、トルエン、ナフタレン、アセチレン、ビフェニル及びこれらの置換生成物を使用することができる。この粉末を一定体積条件で約750℃の炉で加熱し、これにより、パイレックスチューブから供給されたプロパンが熱分解され、フッ化黒鉛粉末の表面に熱分解炭素が堆積した。得られた材料を粉砕して、約16.5ミクロンの微粒子にし、これは、本質的に非晶質の炭素コーティングされたGF粒子である(試料9B)。
【0126】
実施例10:膨張面間隔を備えた細孔壁を有するグラフェン発泡体の調製
1つの試料では、5グラムの酸化黒鉛を、15:85の比でアルコールと蒸留水からなる2,000mlのアルコール溶液と混合してスラリーの塊を得た。次いで、混合物スラリーを、様々な長さの時間、200Wの電力で超音波照射に供した。超音波処理の20分後、GO繊維は効果的に剥離され、酸素含有量が約23重量%~31重量%の薄い酸化グラフェンシートに分離された。得られた懸濁液は、水中に懸濁されたGOシートを含んだ。化学発泡剤(ヒドラゾジカルボンアミド)を、キャストの直前に懸濁液に加えた。
【0127】
次いで、得られた懸濁液をドクターブレードを使用してガラス表面にキャストしてせん断応力を加え、GOシートの配向を誘導した。得られたGOコーティングフィルムは、液体の除去後、約5から500μm(好ましくは、典型的には10μm~50μm)まで変動することができる厚さを有する。
【0128】
グラフェン発泡体試験片を作製するために、次いでGOコーティングフィルムを、典型的には、1~8時間、80~350℃の初期熱還元温度を伴う熱処理に供し、続いて0.5~5時間、1,500~2,850℃の第2の温度で熱処理した。
【0129】
その後、GO由来のグラフェン発泡体のいくつかの片を酸化処理して、膨張面間隔を有するグラフェン細孔壁を含むGO発泡体を生成した。
【0130】
実施例11:膨張面間隔を備えた細孔壁を有する黒鉛発泡体の調製
ピッチパウダー、顆粒、又はペレットを、発泡体の所望の最終形状を有するアルミニウム鋳型に入れる。Mitsubishi ARA-24メソフェーズピッチを利用した。試料を1トール未満に排気し、次いで約300℃の温度に加熱する。この時点で、真空を解放して窒素ブランケットとし、次いで1,000psiまでの圧力を加えた。次いで、系の温度を800℃に上昇させた。これは2℃/分の速度で行った。温度を少なくとも15分間保って浸漬を実現し、次いで炉の電力を切って約1.5℃/分の速度で室温まで冷却し、それと共に約2psi/分の速度で圧力を解放した。最終的な発泡体の温度は、630℃及び800℃であった。冷却サイクル中、圧力は大気条件まで徐々に解放される。次いで、発泡体を窒素ブランケット下で1050℃まで熱処理(炭化)し、次いで、黒鉛るつぼ内で、アルゴン中で2500℃及び2800℃(黒鉛化)まで別々に熱処理した。
【0131】
実施例7で使用した手順に従って、黒鉛発泡体のいくつかの片をフッ素化に供しフッ化黒鉛発泡体を得た。
【0132】
実施例12:Li-S、Na-S、及びK-S電池における前述の実施例(外部電気化学的堆積)で調製された様々なカソード構造におけるSの電気化学的含浸
電気化学的堆積は、カソード活性層がアルカリ金属-硫黄電池セル(Li-S、Na-S又はK-Sセル)に組み込まれる前に行ってもよい。この手法では、アノードと、電解質と、膨張d間隔を有する黒鉛/炭素又は(カソード層として機能する)グラフェン発泡体の層とは、リチウム-硫黄セルの外の外部容器内に位置決めされる。必要とされる装置は、当技術分野でよく知られている電気めっきキシステムに類似している。
【0133】
典型的な手順では、金属ポリ硫化物(M)を溶媒(例えば、1:3~3:1の体積比でのDOL/DMEの混合物)に溶解して電解質溶液を生成する。任意選択で、ある量のリチウム塩を添加してもよいが、これは外部電気化学的堆積に必要ではない。この目的のために広範な溶媒を利用することができ、どのような種類の溶媒を用いることができるかについての理論上の制限はない。この所望の溶媒への金属ポリ硫化物のいくらかの可溶性があれば、任意の溶媒を使用することができる。より大きな可溶性は、より多量の硫黄を電解液から導出することができることを意味する。
【0134】
次に、電解液を、乾燥した制御雰囲気下(例えば、He又は窒素ガス)のチャンバー又は反応器に注入する。アノードとして金属箔を使用し、カソードとして多孔質グラフェン構造の層を使用することができ、(細孔壁に膨張面間隔を含むかあるいは含まない)どちらも電解液に浸漬されている。電気化学カソード層は、バインダー樹脂により結合された黒鉛/炭素粒子の層(膨張d間隔を有する)から選択されることができる。この構成は、電気化学的含浸及び堆積システムを構成する。硫黄を膨張面間隔に電気化学的に含浸させる工程は、多孔質グラフェン構造の層重量に基づいて、好ましくは1mA/g~10A/gの範囲の電流密度で行われる。
【0135】
この反応器で起こる化学反応は、以下の式で表されることができる:M→My-z+zS(典型的にはz=1-4)。まったく驚くべきことに、得られたSは膨張した間隔に容易に浸透し、グラフェン発泡体又は黒鉛発泡体の場合、硫黄は優先的に核生成し、塊状のグラフェン表面に成長してナノスケールのコーティング又はナノ粒子を形成する。コーティングの厚さ又は粒子径、及びSコーティング/粒子の量は、比表面積、電気化学反応電流密度、温度及び時間によって制御できる。典型的には、電流密度と反応温度が低いほど、Sのインターカレーションがより均一になり、反応の制御がより容易になる。より長い反応時間は、膨張面間隔で飽和したSの量を増やし、グラフェン発泡体の場合、グラフェン表面にも堆積し、硫黄源が消費される、又は所望の量のSが堆積される場合、反応が停止する。
【0136】
又、膨張格子間隔へのSの含浸は、液体溶液含浸、化学インターカレーション、及び気相インターカレーションを使用して実施された。例えば、硫黄は116℃より高い温度で昇華して、S蒸気を受け取るために目的のカソード層も配置されている低圧チャンバー内で硫黄蒸気を生成できる。S蒸気が黒鉛又は炭素材料の膨張間隔に容易に浸透することが認められることは非常に驚くべきことである。しかしながら、液体溶液の含浸、化学的インターカレーション、及び気相インターカレーションは、Sのそれぞれ45%、48%、及び64%までのみを炭素/黒鉛材料の膨張面間隔に含浸することがわかった。対照的に、電気化学的含浸法は、1重量%~99重量%のS(典型的には>65重量%、より典型的には>75重量%、更により典型的には>85重量%、更に>95重量%)を容易に含浸できる。更に、電気化学的方法は、含浸されたSを金属ポリスルフィド(ポリスルフィド、ポリスルフィドナトリウム、及びポリスルフィドカリウム等)に迅速に変換することができる。
【0137】
実施例13:化学反応で誘発された硫黄の含浸
本明細書では、化学的含浸法を利用して、実施例6で調製した膨張面間隔を有するS含浸炭素繊維を調製する。この手順は、25mlの蒸留水で満たされたフラスコに0.58gのNaSを加えてNaS溶液を生成することから始めた。次いで、S元素0.72gをNaS溶液中に懸濁させ、室温で約2時間、マグネチックスターラで撹拌した。硫黄が溶解するにつれて、溶液の色はゆっくりとオレンジ-黄色に変化した。硫黄の溶解後、ポリ硫化ナトリウム(Na)溶液が得られた(x=4~10)。
【0138】
その後、硫黄を含浸させた炭素繊維試料を、水溶液での化学的含浸法によって調製した。最初に、180mgの膨張処理した炭素繊維を、界面活性剤を有する180mlの超純水に懸濁し、次いで50℃で5時間超音波処理して安定した炭素繊維分散液を形成した。その後、上記のように調製した分散液に、5重量%の界面活性剤セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)の存在下でNa溶液を添加し、調製後の炭素繊維/Na混合溶液をさらに2時間超音波処理し、次いで2mol/L HCOOH溶液100mlを30~40滴/分の割合で滴定し、2時間撹拌した。最後に、沈殿物を濾過し、アセトン及び蒸留水で数回洗浄して塩及び不純物を除去した。濾過後、沈殿物を乾燥オーブン内で50℃で48時間乾燥させた。この反応は、反応:S 2-+2H→(x-1)S+HSで表すことができる。
【0139】
実施例14:酸化MCMB及び酸化ニードルコークスにおける酸化還元化学反応により誘導された硫黄の含浸
この化学反応に基づく堆積プロセスでは、硫黄源としてチオ硫酸ナトリウム(Na)を、反応物として塩酸を使用した。酸化MCMB-水又は酸化ニードルコークス-水懸濁液を調製し、次いで2つの反応物(塩酸及びNa)をこの懸濁液に注いだ。反応を25~75℃で1~3時間進行させ、Sを膨張間隔に含浸させ、粒子表面にいくつかのS粒子を沈殿させた。この反応は、以下の反応で表すことができる。
2HCl+Na→2NaCl+S↓+SO↑+H
【0140】
実施例15:Li-S、Na-S、又はK-S電池の様々なカソード構造へのSの電気化学的含浸(内部電気化学的堆積)
外部電気化学的堆積の代替として又、膨張間隔での電解質由来硫黄源からの内部電気化学的変換とSの堆積を、黒鉛/炭素材料構造の幅広い配列を使用して行った。典型的な手順として、アノード、電解質、及び膨張処理された構造は、アルカリ金属-硫黄セルを形成するために筐体内に収容される。このような構成では、電池セル自体が、カソードの硫化のための電気化学的含浸システムであり、電池セルの最初の充電サイクル中に電池セルが作製及び実施された後に、硫黄を電気化学的含浸又はインターカレーションする工程が生じる。
【0141】
一連の実施例として、DOL/DME(1:1、体積:体積)における0.5M LiTFSI+0.2M LiNO(又は0.5M NaTFSI+0.2M NaNO)のポリスルフィドを含まない電解質における化学量論量の硫黄及びLiS又はNaSを化学反応させることにより、溶媒に溶解した所望のx及びy値(例えば、x=2及びy=6~10)を有するポリ硫化リチウム(Li)及びポリ硫化ナトリウム(Na)を含む電解質を調製した。電解質を75℃で3~7時間攪拌し、次いで室温で48時間攪拌した。得られた電解質は、様々なLi又はNa種(例えば、反応時間及び温度に応じてx=2及びy=6~10)を含み、これらは、電池セルの硫黄源として使用するためのものである。
【0142】
Li-S又はNa-Sセルでは、これらの電解質の1つを選択して、アノード集電体(Cu箔)、アノード層(例えば、Li金属箔又はNa粒子)、多孔質セパレータ、膨張処理された黒鉛構造の層、及びカソード集電体(Al箔)と組み合わされて、Li-S又は室温のNa-Sセルを形成する。次いで、5mA/g~50A/gの範囲の電流密度を使用して、セルに最初の充電手順を行った。最適な電流密度の範囲は、50mA/g~5A/gであることがわかった。
【0143】
本検討で使用した金属ポリスルフィド(M)材料、溶媒、膨張処理黒鉛/炭素材料の例を以下の表1に示し、以下の略語を使用する:天然黒鉛(NG)、軟質炭素粒子(SC)、硬質炭素(HC)、活性炭(AC)、多壁カーボンナノチューブ(CNT)、炭素繊維(CF)、炭化ポリマーファイバー(PF)、ニードルコークス(コークス)、メソフェーズカーボン(MC)、気相成長炭素又は黒鉛ナノファイバー(VG-CNF又はVG-GNF)、金属ナノワイヤ(MNW)、導電性ポリマーコーティングされたナノファイバー(CP-NF)。
【0144】
例えば、S又は金属ポリスルフィド粉末のカーボンブラック粒子との直接混合、カーボンペーパー(例えば、カーボンナノファイバー、CNF)へのSの物理蒸着、リチウムポリスルフィド粒子と導電性フィラー(例えば、カーボンナノチューブ)の直接混合などの、カソード層に硫黄又は金属ポリスルフィド(カソード活物質)を組み込むために使用できるいくつかの従来技術の方法がある。比較の目的のために、3つの方法を選択した。
【0145】
実施例16:簡易な液体溶液の浸漬
導電性CNFシートの予備作製されたウェブに硫黄又はリチウムポリスルフィド粒子を組み込む1つの方法は、浸漬コーティングプロセスを使用することである。典型的な手順では、CNF系ウェブを、例えば、後にポリマーゲル相の一部になる可能性がある低分子量ポリエチレンオキシド(PEO)などの液体に分散したリチウムポリスルフィド粒子を含む懸濁液に浸漬した(漬けた)。このPEOは、60℃より低い融点を有し、90℃で比較的低粘度の流体が得られた。ポリ硫化リチウム粒子の濃度(典型的には5体積%~40体積%)及び浸漬時間(典型的には1~10秒)を調整して、個々のCNF間の細孔に埋め込まれたポリ硫化リチウム粒子の望ましい量を達成した。しかしながら、ポリ硫化リチウムは、膨張間隔を有するCNFの面間隔に浸透しない。
【0146】
実施例17:カソードにおける硫黄含浸ウェブの調製
この工程は、例えば、昇華に基づく物理蒸着による炭素/黒鉛構造への元素硫黄の含浸を伴う。固体硫黄の昇華は40℃を超える温度で起こるが、温度が100℃を超えるまで(典型的には117~160℃を使用した)、重要であり実用的で有用な昇華速度は、典型的には生じない。典型的な手順では、膨張面間隔を有する炭素/黒鉛構造又はナノフィラメントウェブは、チューブの一端に固体硫黄が配置され、他端の近くにウェブが配置されたガラスチューブに密封される。硫黄蒸気の暴露時間は、典型的には数分から数時間であった。
【0147】
比較例18C:ボールミル粉砕による硫黄の炭素/黒鉛粒子との混合
硫黄粒子及び軟質炭素又は天然黒鉛粒子(得られた複合体中の0重量%~49重量%のS)を物理的にブレンドし、次いで2~24時間ボールミル粉砕にかけ、S-SC複合粒子(典型的にはボール又はジャガイモの形状)を得た。次いで、様々なS含有量を含む粒子をカソードの層に作製した。
【0148】
実施例19:使用した電解質のいくつかの例
広範囲のリチウム塩は、個々に又は混合物の形態で、幅広い溶媒に溶解することができる。以下は、選択した溶媒に高濃度でよく溶解するリチウム塩の適切な選択である:ホウフッ化リチウム(LiBF)、リチウムトリフルオロ-メタスルホネート(LiCFSO)、リチウムビス-トリフルオロメチルスルホニルイミド(LiN(CFSO又はLITFSI)、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiBOB)、オキサリルジフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、及びリチウムビスペルフルオロエチ-スルホニルイミド(LiBETI)。これらの選択された溶媒は、DME/DOL混合物、TEGDME/DOL、PEGDME/DOL、及びTEGDMEである。Li金属の安定化に役立つ良好な電解質添加剤はLiNOである。有用なナトリウム塩及びカリウム塩としては、過塩素酸ナトリウム(NaClO)、過塩素酸カリウム(KClO)、ヘキサフルオロリン酸ナトリウム(NaPF)、ヘキサフルオロリン酸カリウム(KPF)、ホウフッ化ナトリウム(NaBF)、ホウフッ化カリウム(KBF)、ヘキサフルオロヒ化ナトリウム、ヘキサフルオロヒ化カリウム、トリフルオロメタスルホン酸ナトリウム(NaCFSO)、カリウムトリフルオロメタスルホネート(KCFSO)、ビス-トリフルオロメチルスルホニルイミドナトリウム(NaN(CFSO)、ナトリウムトリフルオロメタンスルホンイミド(NaTFSI)、及びビス-トリフルオロメチルスルホニルイミドカリウム(KN(CFSO)が挙げられる。良好な溶媒は、DME/DOL混合物、TEGDME/DOL、PEGDME/DOL、及びTEGDMEである。
【0149】
室温のイオン液体(RTIL)は、揮発性が低く不燃性であるため、非常に興味深い。特に有用なイオン液体に基づく電解質システムは、N-n-ブチル-N-エチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドにおけるリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(BEPyTFSIにおけるLiTFSI)、LiTFSIを含むN-メチル-N-プロピルピペリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(PP13TFSI)、LiTFSIを含むN,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(DEMETFSI)を含む。
【0150】
実施例20:様々なLi-S、Na-S、及びK-Sセルの電気化学的性能の評価
本調製されたカソード層を使用して、いくつかの一連のLi金属及びLiイオンセルを調製した。第1のシリーズは、アノード集電体として銅箔を含むLi金属セルであり、又、第2のシリーズは、導電性フィラメントのナノ構造アノード(エレクトロスピニング炭素繊維又はCNFに基づく)を含むLi金属セルである。第3のシリーズは、導電性フィラメントのナノ構造アノード(CVDを使用してSiの薄層でコーティングされたエレクトロスピニング炭素繊維に基づく)と銅箔集電体を有するLiイオンセルである。第4のシリーズは、より一般的なアノードの例として、プレリチウム化された黒鉛に基づくアノード活物質を有するLiイオンセルである。多数の充電/放電サイクルの後、ナノ構造アノードを含むセルは本質的にデンドライトを含まないことがわかった。
【0151】
電荷貯蔵容量を定期的に測定しサイクル数の関数として記録した。本明細書で言及される比放電容量は、複合カソードの単位質量当たり、放電中にカソードに挿入される総電荷である(カソード活物質、導電性添加剤又は支持体、バインダー、及び任意の任意選択の添加剤を組み合わせた重量をカウントする)。比電荷容量は、複合カソードの単位質量当たりの電荷量を指す。このセクションに示される比エネルギー及び比出力値は、総セル重量に基づく。透過型電子顕微鏡(TEM)及び走査型電子顕微鏡(SEM)の両方を使用して、所望の回数の充電及び再充電サイクルを繰り返した後、選択した試料の形態学的又は微細構造の変化が認められた。
【0152】
調査した多くの試料からの硫黄利用効率データを以下の表2に要約する。
【0153】
以下の考察は、表2及び図2図6のデータから行うことができる:
1)その中に硫黄を収容するために膨張面間隔を有する全ての炭素/黒鉛材料は、高レベルの硫黄利用効率を与える。試料NG-1を例にとると、1.22nmのd間隔は、膨張間隔における硫黄(S)の比率が高く(91重量%)、1410mAh/gの高いカソード比容量になる(カソード活性層の総重量に基づく)。このことは、S材料の重量のみに基づいて、比容量は1,549mAh/gであり、これはSの理論容量(1,675mAh/g)からの1,549/1,675=92.5%に等しいことを意味する。このことは、膨張間隔に存在するSの92.5%までが、Liの貯蔵に関与すること、又は全てのSがLi貯蔵能力の92.5%をカソードに寄与すること、又はこれら2つのメカニズムのいくつかの組み合わせを意味する。全ての本発明の炭素/黒鉛材料は、88%~94%の範囲のS利用効率を与える。対照的に、従来のグラフェン発泡体は、77.8%のS利用効率しか与えず、天然黒鉛粒子(ボールミル粉砕を使用してSと混合した場合)はS利用効率<30%を示す。
【0154】
2)この手法の重要性を更に説明するために、図2は、層間隔d002の関数としてプロットされた、Sを収容するために膨張面間隔を有する炭素/黒鉛材料を含むカソード層の硫黄重量比率を示す。面間隔に保存されたSの量がd間隔に比例することは明らかである。図3は、その中にSを収容するために膨張面間隔を有する炭素/黒鉛材料を含むカソード層を備えた一連のLi-Sセルのカソード比容量を示す。繰り返すが、カソード比容量は、層間隔d002にほぼ比例する。
【0155】
3)又、本発明の手法により、Li-S、Na-S、及びK-S電池で高いサイクル安定性を実現できる。例えば、図4は、3つのLi-Sセルの比容量(対充電/放電サイクル数)を示す:1つは、膨張d間隔(d=1.2nm)を有する細孔壁を含むグラフェン発泡体を備え、1つは、密接に結合したグラフェン面(d=0.34nm)からなる細孔壁を有する従来のグラフェン発泡体を含み、1つは、膨張層間隔d=1.22nmを有する黒鉛粒子を含む。硫黄を電気化学的手順を介して面間隔に含浸した。
【0156】
4)又、本発明の手法は、並外れたエネルギー密度及び出力密度を有するアルカリ金属-硫黄電池をもたらす。例えば、図5は、2つのLi金属-硫黄セルのラゴーンプロット(セル出力密度対セルエネルギー密度)を示している。1つは、膨張面間隔(d=1.35nm)を有するMCMBからなるカソード層を備え、もう1つは、膨張面間隔(d=0.72nm)を有するMCMBからなるカソード層を備える。膨張d間隔を有するカソード活物質を備えるLi-Sセルで、542Wh/kgほどの高いセルレベルのエネルギー密度が達成された。これは、リチウムイオン電池のエネルギー密度の3倍高い。
【0157】
又、驚くべきことに、セルは、リチウムイオン電池の典型的な出力密度及び従来のLi-Sセルの出力密度の4~5倍高い、2879W/kgほどの高い出力密度をもたらす。この出力密度の向上は、変換タイプのセルであるLi-Sセルが、充電/放電中にいくつかの化学反応で作動し、したがって典型的には、非常に低い出力密度(典型的には<<500W/kg)をもたらすという概念に照らして非常に重要である。これは、膨張間隔内の極薄のSが、潜在的に短いLiイオン拡散経路を意味し、全てのSが、高度に導電性の六方晶炭素面と良好に接触しているという概念に起因し得る。
5)又、同様の有利な特徴は、Na-Sセル及びK-Sセルで観察される。これは図6によって証明され、4つのアルカリ金属-硫黄セルのラゴーンプロット(セル出力密度対セルエネルギー密度)を示す:電気化学的に含浸された硫黄粒子(d=1.77nm)を含むニードルコークス系カソードを備えたNa-Sセル、電気化学的に含浸された硫黄粒子(d=0.65nm)を含むニードルコークス系カソードを備えたNa-Sセル、電気化学的に含浸された硫黄粒子(d=1.77nm)を含むニードルコークス系カソードを備えたK-Sセル、並びに電気化学的に含浸された硫黄粒子(d=0.65nm)を含むニードルコークス系カソードを備えたK-Sセル。本発明のセルは、優れたエネルギー密度及び出力密度を実現する。
【0158】
要約すると、本発明は、優れたアルカリ金属-硫黄充電式電池の設計及び製造を可能にする革新的で多用途で驚くほど効果的なプラットフォーム材料技術を提供する。膨張面間隔を有する炭素/黒鉛材料を含むカソード層を備えるアルカリ金属-硫黄セルは、高いカソード活物質利用効率、高い比容量、高い比エネルギー、高い出力密度、シャトル効果がほとんど又はまったくないこと、及び長いサイクル寿命を示す。ナノ構造カーボンフィラメントウェブがアノードに実装されて、リチウムフィルム(例えば、箔)を支持する場合、リチウムデンドライトの問題も抑制又は解消される。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3
図4
図5
図6