(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-25
(45)【発行日】2022-09-02
(54)【発明の名称】ヒトEPOを発現する遺伝子改変された非ヒト動物
(51)【国際特許分類】
A01K 67/027 20060101AFI20220826BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20220826BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20220826BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20220826BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20220826BHJP
【FI】
A01K67/027 ZNA
C12N15/12
C12N15/09 Z
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
(21)【出願番号】P 2020036588
(22)【出願日】2020-03-04
(62)【分割の表示】P 2016565240の分割
【原出願日】2015-05-18
【審査請求日】2020-04-01
(32)【優先日】2014-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507302748
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】503469393
【氏名又は名称】イエール ユニバーシティ
(73)【特許権者】
【識別番号】512089900
【氏名又は名称】インスティテュート フォー リサーチ イン バイオメディシン (アイアールビー)
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】マーフィー アンドリュー ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】スティーブンズ ショーン
(72)【発明者】
【氏名】フラベル リチャード
(72)【発明者】
【氏名】マンツ マルクス
(72)【発明者】
【氏名】シェーン リアン
【審査官】幸田 俊希
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/071397(WO,A2)
【文献】国際公開第2012/051572(WO,A1)
【文献】PNAS, 2009, Vol.106, pp.21783-21788
【文献】Trends in Immunol., 2011, Vol.32, pp.321-327
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 67/027
C12N 15/00
C07K 14/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
齧歯類EPO遺伝子座にある内在性齧歯類EPO遺伝子プロモーターに機能的に連結されたヒトEPOタンパク質(hEPO)をコードする核酸配列であって、該機能的連結が、齧歯類EPO遺伝子座における齧歯類EPO遺伝子のヌル変異をもたらす、核酸配列、
齧歯類M-csf遺伝子座にある内在性齧歯類M-csfプロモーターに機能的に連結されたヒトM-CSF(hM-CSF)タンパク質をコードする核酸配列であって、該齧歯類が、齧歯類M-csf遺伝子についてヘテロ接合性ヌルまたはホモ接合性ヌルである、核酸配列、
齧歯類IL-3遺伝子座にある内在性齧歯類IL-3プロモーターに機能的に連結されたヒトIL-3(hIL-3)タンパク質をコードする核酸配列であって、該齧歯類が、齧歯類IL-3遺伝子についてヘテロ接合性ヌルまたはホモ接合性ヌルである、核酸配列、
齧歯類Gm-csf遺伝子座にある内在性齧歯類Gm-csfプロモーターに機能的に連結されたヒトGM-CSF(hGM-CSF)タンパク質をコードする核酸配列であって、該齧歯類が、齧歯類Gm-csf遺伝子についてヘテロ接合性ヌルまたはホモ接合性ヌルである、核酸配列、
齧歯類TPO遺伝子座にある内在性齧歯類TPOプロモーターに機能的に連結されたヒトTPO(hTPO)タンパク質をコードする核酸配列であって、該齧歯類が、齧歯類TPO遺伝子についてヘテロ接合性ヌルまたはホモ接合性ヌルである、核酸配列、ならびに
ヒトSirpa(hSirpa)タンパク質をコードするSIRPaトランスジーンであって、該齧歯類がhSirpaタンパク質を発現する、SIRPaトランスジーン
を含み、
免疫不全であ
り、かつヒトIL-6を発現しない、遺伝子改変された齧歯類。
【請求項2】
hEPOをコードする核酸配列を含む対立遺伝子についてヘテロ接合性である、請求項1に記載の齧歯類。
【請求項3】
hEPOをコードする核酸配列を含む対立遺伝子についてホモ接合性である、請求項1に記載の齧歯類。
【請求項4】
hEPOをコードする核酸配列が、ヒトEPOゲノムのコード配列および非コード配列を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の齧歯類。
【請求項5】
hEPOをコードする核酸配列がヒトEPO cDNA配列を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の齧歯類。
【請求項6】
hTPOをコードする核酸、hM-csfをコードする核酸、hIL-3をコードする核酸、およびhGm-csfをコードする核酸についてホモ接合性である、請求項1~5のいずれか一項に記載の齧歯類。
【請求項7】
ヒト造血細胞の生着をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の齧歯類。
【請求項8】
ヒト造血細胞が、ヒトCD34陽性細胞、ヒト造血幹細胞、ヒト骨髄系前駆細胞、ヒト赤血球前駆細胞、ヒト骨髄系細胞、ヒト樹状細胞、ヒト単球、ヒト顆粒球、ヒト赤血球、ヒト好中球、ヒトマスト細胞、ヒト胸腺細胞、およびヒトBリンパ球からなる群より選択される1種または複数種の細胞を含む、請求項7に記載の齧歯類。
【請求項9】
クロドロン酸を含む、請求項8に記載の齧歯類。
【請求項10】
赤血球系統のヒト細胞を標的とする病原体による感染をさらに含む、請求項9に記載の齧歯類。
【請求項11】
病原体が、マラリア原虫(Plasmodium)属の種、バベシア(Babesia)属の種、およびタイレリア(Theileri)属の種より選択される、請求項10に記載の齧歯類。
【請求項12】
マウスである、請求項1~11のいずれか一項に記載の齧歯類。
【請求項13】
以下の工程を含む、赤血球系統のヒト細胞を標的とする病原体による感染を阻害する薬剤を同定する方法:
(a)遺伝子改変された齧歯類へ候補薬剤を投与する工程であって、該齧歯類が、以下:
齧歯類EPO遺伝子座にある内在性齧歯類EPO遺伝子プロモーターに機能的に連結されたヒトEPOタンパク質(hEPO)をコードする核酸配列であって、該機能的連結が、齧歯類EPO遺伝子座における齧歯類EPO遺伝子のヌル変異をもたらす、核酸配列、
齧歯類M-csf遺伝子座にある内在性齧歯類M-csfプロモーターに機能的に連結されたヒトM-CSF(hM-CSF)タンパク質をコードする核酸配列であって、該齧歯類が、齧歯類M-csf遺伝子についてヘテロ接合性ヌルまたはホモ接合性ヌルである、核酸配列、
齧歯類IL-3遺伝子座にある内在性齧歯類IL-3プロモーターに機能的に連結されたヒトIL-3(hIL-3)タンパク質をコードする核酸配列であって、該齧歯類が、齧歯類IL-3遺伝子についてヘテロ接合性ヌルまたはホモ接合性ヌルである、核酸配列、
齧歯類Gm-csf遺伝子座にある内在性齧歯類Gm-csfプロモーターに機能的に連結されたヒトGM-CSF(hGM-CSF)タンパク質をコードする核酸配列であって、該齧歯類が、齧歯類Gm-csf遺伝子についてヘテロ接合性ヌルまたはホモ接合性ヌルである、核酸配列、
齧歯類TPO遺伝子座にある内在性齧歯類TPOプロモーターに機能的に連結されたヒトTPO(hTPO)タンパク質をコードする核酸配列であって、該齧歯類が、齧歯類TPO遺伝子についてヘテロ接合性ヌルまたはホモ接合性ヌルである、核酸配列、
ヒトSirpa(hSirpa)タンパク質をコードするSIRPaトランスジーンであって、該齧歯類がhSirpaタンパク質を発現する、SIRPaトランスジーン、
ヒト造血細胞の生着、ならびに
赤血球系統のヒト細胞を標的とする病原体による感染
を含み、
該遺伝子改変された齧歯類が免疫不全であ
り、かつ該遺伝子改変された齧歯類がヒトIL-6を発現しない、工程;
(b)薬剤が、工程(a)の病原体に感染した齧歯類における病原体の量を低下させるか否かを決定する工程;ならびに
(c)病原体に感染した齧歯類における病原体の量を低下させる薬剤を、赤血球系統のヒト細胞を標的とする病原体による感染を阻害する薬剤として同定する工程。
【請求項14】
以下の工程を含む、赤血球系統のヒト細胞を標的とする病原体による感染を防止する薬剤を同定する方法:
(a)遺伝子改変された齧歯類をクロドロン酸と接触させる工程であって、該齧歯類が、以下:
齧歯類EPO遺伝子座にある内在性齧歯類EPO遺伝子プロモーターに機能的に連結されたヒトEPOタンパク質(hEPO)をコードする核酸配列であって、該機能的連結が、齧歯類EPO遺伝子座における齧歯類EPO遺伝子のヌル変異をもたらす、核酸配列、
齧歯類M-csf遺伝子座にある内在性齧歯類M-csfプロモーターに機能的に連結されたヒトM-CSF(hM-CSF)タンパク質をコードする核酸配列であって、該齧歯類が、齧歯類M-csf遺伝子についてヘテロ接合性ヌルまたはホモ接合性ヌルである、核酸配列、
齧歯類IL-3遺伝子座にある内在性齧歯類IL-3プロモーターに機能的に連結されたヒトIL-3(hIL-3)タンパク質をコードする核酸配列であって、該齧歯類が、齧歯類IL-3遺伝子についてヘテロ接合性ヌルまたはホモ接合性ヌルである、核酸配列、
齧歯類Gm-csf遺伝子座にある内在性齧歯類Gm-csfプロモーターに機能的に連結されたヒトGM-CSF(hGM-CSF)タンパク質をコードする核酸配列であって、該齧歯類が、齧歯類Gm-csf遺伝子についてヘテロ接合性ヌルまたはホモ接合性ヌルである、核酸配列、
齧歯類TPO遺伝子座にある内在性齧歯類TPOプロモーターに機能的に連結されたヒトTPO(hTPO)タンパク質をコードする核酸配列であって、該齧歯類が、齧歯類TPO遺伝子についてヘテロ接合性ヌルまたはホモ接合性ヌルである、核酸配列、
ヒトSirpa(hSirpa)タンパク質をコードするSIRPaトランスジーンであって、該齧歯類がhSirpaタンパク質を発現する、SIRPaトランスジーン、ならびに
ヒト造血細胞の生着
を含み、該遺伝子改変された齧歯類が免疫不全であ
り、かつ該遺伝子改変された齧歯類がヒトIL-6を発現しない、工程;
(b)工程(a)の遺伝子改変された齧歯類へ候補薬剤を投与する工程;
(c)工程(a)の遺伝子改変された齧歯類へ、寄生された網状赤血球または赤血球を注入する工程;
(d)薬剤が、工程(a)の齧歯類の、ヒト網状赤血球および/または赤血球の感染を防止するか否かを決定する工程;ならびに
(e)工程(a)の齧歯類の、ヒト網状赤血球および/または赤血球の感染を防止する薬剤を、赤血球系統のヒト細胞を標的とする病原体による感染を防止する薬剤として同定する工程。
【請求項15】
齧歯類が、hEPOをコードする核酸配列を含む対立遺伝子についてヘテロ接合性である、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
齧歯類が、hEPOをコードする核酸配列を含む対立遺伝子についてホモ接合性である、請求項13または14に記載の方法。
【請求項17】
hEPOをコードする核酸配列が、ヒトEPOゲノムのコード配列および非コード配列を含む、請求項13~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
hEPOをコードする核酸配列がヒトEPO cDNA配列を含む、請求項13~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
齧歯類が、hTPOをコードする核酸、hM-csfをコードする核酸、hIL-3をコードする核酸、およびhGm-csfをコードする核酸配列についてホモ接合性である、請求項13~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
ヒト造血細胞が、ヒトCD34陽性細胞、ヒト造血幹細胞、ヒト骨髄系前駆細胞、ヒト赤血球前駆細胞、ヒト骨髄系細胞、ヒト樹状細胞、ヒト単球、ヒト顆粒球、ヒト赤血球、ヒト好中球、ヒトマスト細胞、ヒト胸腺細胞、およびヒトBリンパ球からなる群より選択される1種または複数種の細胞を含む、請求項13~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
病原体が、プラスモディウム属の種、バベシア属の種、およびタイレリア属の種より選択される、請求項13~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
病原体がプラスモディウム属の種であり、プラスモディウム属の種が熱帯熱マラリア原虫(P.falciparum)および三日熱マラリア原虫(P.vivax)より選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
齧歯類がマウスである、請求項13~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
以下の工程を含む、ヒト造血系を含む齧歯類を作製する方法:
請求項1~6のいずれか一項に記載の遺伝子改変齧歯類へ、ヒト造血始原細胞を含む細胞の集団を移植する工程。
【請求項25】
移植する工程が、尾静脈注入、胎児肝臓注入、または後眼窩注入を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
遺伝子改変齧歯類が、移植前に致死線量未満の照射を受ける、請求項24または25に記載の方法。
【請求項27】
ヒト造血始原細胞がCD34+細胞である、請求項24~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
ヒト造血始原細胞が、胎児肝臓、成人骨髄、または臍帯血に由来する、請求項24~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
齧歯類がマウスである、請求項24~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
以下の工程を含む、赤血球系統のヒト細胞を標的とするヒト病原体に感染した齧歯類を作製する方法:
請求項1~6のいずれか一項に記載の遺伝的改変齧歯類へ、ヒト造血始原細胞を含む細胞の集団を移植する工程;
クロドロン酸を齧歯類へ注入する工程;および
寄生されたヒト赤血球(PRBC)を齧歯類へ注入する工程。
【請求項31】
健常ヒト赤血球を齧歯類へ注入する工程をさらに含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
寄生虫が、プラスモディウム属の種、バベシア属の種、およびタイレリア属の種より選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
寄生虫がプラスモディウム属の種であり、プラスモディウム属の種が熱帯熱マラリア原虫および三日熱マラリア原虫より選択される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
齧歯類がマウスである、請求項30~33のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
相互参照
本願は、参照によってその開示全体が本明細書に組み入れられる、2014年5月19日に出願された米国仮出願第62/000,460号の恩典を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、遺伝子改変された非ヒト動物の分野に関係する。
【背景技術】
【0003】
導入
遺伝子改変マウス、改変され生着がなされたマウス、およびヒト疾患のモデル化におけるそれらの使用は、当技術分野において公知である。しかしながら、現在まで、ヒト赤血球系統の細胞を標的とする病原体によるヒト感染をモデル化する遺伝子改変マウスの生成は、ほとんど成功していない。そのような病原体、例えば、プラスモディウム(Plasmodium)属、バベシア(Babesia)属、およびタイレリア(Theileria)属の原虫は、ヒトにおいて生命に関わる疾患を引き起こし得る。
【0004】
例えば、プラスモディウム属の原虫は、マラリアを引き起こす。2010年、世界中の全部で106の国が、マラリアが蔓延していると見なされ、疾患発症のリスクを有する人々は33億人と推定された。2010年の世界中の疾病負荷は、2億1600万例と推定され、死亡数は655,000と推定され、そのうち86%は5歳未満の子供であった。現在、マラリアの防止および処置のための薬物およびワクチンは、未だに極めて限定されている。さらに、一般的に使用されているマラリア治療薬に対する寄生虫耐性が出現しており、不断の課題を提示する。従って、ヒト赤血球を標的とする病原体のコントロールおよび処置のための新たな薬物およびワクチンの開発が、緊急に必要とされている。
【0005】
これらの病原体の多くは実験用齧歯類の赤血球に感染しないため、インビボ研究は、伝統的に、齧歯類寄生虫プラスモディウム・ベルゲイ(berghei)ANKAによって引き起こされたマラリアの研究、または多数のヒト赤血球を毎日の注入によって急性に生着させ、同時にもしくはその後に、寄生された赤血球を注入によって感染させた、NOD/SCIDマウス、NOD/SCID/IL2rgnull(NSG)マウス、もしくはBXNマウスの研究に限定されてきた(Angulo-Barturen et al.(2008) A murine model of falciparum-malaria by in vivo selection of competent strains in non-myelodepleted mice engrafted with human erythrocytes. PLoS One 3:e2252(非特許文献1);Jimenez-Diaz et al.(2009) Improved murine model of malaria using Plasmodium falciparum competent strains and non-myelodepleted NOD-scid IL2Rgnull mice engrafted with human erythrocytes. Antimicrob Agents Chemother 53:4533-4536(非特許文献2);Badell et al.(2000) Human malaria in immunocompromised mice:an in vivo model to study defense mechanisms against Plasmodium falciparum. JEM 192(11):1653-1660(非特許文献3);Moreno et al.(2006) The course of infections and pathology in immunomodulated NOD/LtSz-SCID mice inoculated with Plasmodium falciparum laboratory lines and clinical isolates. Int.J.Parasitol.36:361-369(非特許文献4))。ヒトに対するマラリア原虫およびその他の病原体の効果を研究し、これらおよびその他の病原体による感染の防止および感染したヒトの処置における効力についてワクチンおよび薬物を試験するためには、そのような病原体に感染しやすいよう、または伝統的な齧歯類モデルにおいて行われるように感染前に動物へ急性に移植されるヒト赤血球をよりよく支持するよう、遺伝子改変マウスのような非ヒト動物を有することが有用であろう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Angulo-Barturen et al.(2008) A murine model of falciparum-malaria by in vivo selection of competent strains in non-myelodepleted mice engrafted with human erythrocytes. PLoS One 3:e2252
【文献】Jimenez-Diaz et al.(2009) Improved murine model of malaria using Plasmodium falciparum competent strains and non-myelodepleted NOD-scid IL2Rgnull mice engrafted with human erythrocytes. Antimicrob Agents Chemother 53:4533-4536
【文献】Badell et al.(2000) Human malaria in immunocompromised mice:an in vivo model to study defense mechanisms against Plasmodium falciparum. JEM 192(11):1653-1660
【文献】Moreno et al.(2006) The course of infections and pathology in immunomodulated NOD/LtSz-SCID mice inoculated with Plasmodium falciparum laboratory lines and clinical isolates. Int.J.Parasitol.36:361-369
【発明の概要】
【0007】
概要
動物ゲノムからヒトEPOを発現する遺伝子改変された非ヒト動物が提供される。非ヒト動物ゲノムからヒトEPOを発現する非ヒト動物を作製する方法、および非ヒト動物ゲノムからヒトEPOを発現する非ヒト動物を使用する方法も、提供される。これらの動物および方法は、例えば、ヒトの赤血球生成および赤血球機能のモデル化;赤血球のヒト病原体感染のモデル化;例えば、健常または疾患の状態における、赤血球生成および/または赤血球機能をモジュレートする薬剤についてのインビボスクリーニング;赤血球または赤血球始原細胞に対して毒性である薬剤についてのインビボスクリーニング;赤血球または赤血球始原細胞に対する毒性薬剤の毒性作用を防止するか、和らげるか、または逆転させる薬剤についてのインビボスクリーニング;疾患治療に対する個体の応答性を予測するための個体由来の赤血球または赤血球始原細胞のインビボスクリーニングを含む、当技術分野における多くの用途を有する。
【0008】
本発明のいくつかの局面において、非ヒト動物のゲノムからヒトEPOを発現する遺伝子改変された非ヒト動物が提供される。換言すると、非ヒト動物は、ヒトEPOタンパク質をコードする核酸配列を含む。
【0009】
いくつかの態様において、ヒトEPOタンパク質をコードする核酸配列は、EPO遺伝子プロモーターに機能的に連結される。いくつかの態様において、EPO遺伝子プロモーターは、ヒトEPOプロモーターである。他の態様において、EPOプロモーターは、内在性、即ち、非ヒトのEPOプロモーターである。ある種のそのような態様において、内在性EPOプロモーターは、非ヒト動物EPO遺伝子座にある。換言すると、ある種の態様において、ヒトEPOタンパク質をコードする核酸配列は、非ヒト動物EPO遺伝子座において非ヒト動物EPOプロモーターに機能的に連結される。いくつかのそのような態様において、機能的連結は、非ヒトEPO遺伝子座における非ヒトEPO遺伝子のヌル変異をもたらす。
【0010】
いくつかの態様において、本発明の非ヒト動物は、ヒトEPOタンパク質をコードする核酸配列を含む対立遺伝子についてヘテロ接合性である。他の態様において、非ヒト動物は、ヒトEPOタンパク質をコードする核酸配列を含む対立遺伝子についてホモ接合性である。
【0011】
いくつかの態様において、ヒトEPOタンパク質をコードする核酸配列は、ヒトEPOゲノムのコード配列および非コード配列を含む。他の態様において、ヒトEPOタンパク質をコードする核酸配列は、ヒトEPO cDNA配列を含む。
【0012】
いくつかの態様において、本発明の非ヒト動物は、M-csfプロモーターの調節下で核酸によってコードされたM-CSFタンパク質、Il-3プロモーターの調節下で核酸によってコードされたIL-3タンパク質、Gm-csfプロモーターの調節下で核酸によってコードされたGM-CSFタンパク質、TPOプロモーターの調節下で核酸によってコードされたTPOタンパク質、およびSirpaプロモーターの調節下で核酸によってコードされたSirpaタンパク質からなる群より選択される1種または複数種の付加的なヒトタンパク質を発現する。いくつかのそのような態様において、プロモーターは、対応する非ヒト動物遺伝子座にある内在性非ヒト動物プロモーターであり、非ヒト動物は、非ヒト遺伝子についてヘテロ接合性ヌルである。他の態様において、プロモーターは、対応する非ヒト動物遺伝子座にある内在性非ヒト動物プロモーターであり、非ヒト動物は、非ヒト遺伝子についてホモ接合性ヌルである。ある種の態様において、非ヒト動物は、ヒトTPO、例えば、ヒト化TPO;ヒトIL-3、例えば、ヒト化IL-3;ヒトGM-CSF、例えば、ヒト化GM-CSF;ヒトEPO、例えば、ヒト化EPO;およびヒトSirpa、例えば、ヒト化Sirpa;ならびにそれらの組み合わせからなる群より選択されるヒトタンパク質、例えば、ヒト化タンパク質を発現する。
【0013】
いくつかの態様において、本発明の遺伝子改変された非ヒト動物は、対応する非ヒト動物プロモーター、例えば、それぞれ、Sirpaプロモーター、IL-3プロモーター、GM-CSFプロモーター、M-CSFプロモーター、TPOプロモーター、またはIL-6プロモーターに機能的に連結された、ヒトタンパク質、例えば、ヒト化タンパク質をコードする核酸配列、例えば、ヒトEPO、例えば、ヒト化EPO;ヒトSirpa、例えば、ヒト化Sirpa;ヒトIL-3、例えば、ヒト化IL-3;ヒトGM-CSF、例えば、ヒト化GM-CSF;ヒトM-CSF、例えば、ヒト化M-CSF;ヒトTPO、例えば、ヒト化TPO;ヒトIL-6、例えば、ヒト化IL-6等をコードする核酸を含むゲノムを有し、コードされたヒトタンパク質およびネイティブのマウスタンパク質を発現するマウスである。他の態様において、本発明の遺伝子改変された非ヒト動物は、対応する非ヒト動物プロモーター、例えば、それぞれ、Sirpaプロモーター、IL-3プロモーター、GM-CSFプロモーター、M-CSFプロモーター、またはTPOプロモーターに機能的に連結された、ヒトタンパク質、例えば、ヒト化タンパク質をコードする核酸配列、例えば、ヒトEPO、例えば、ヒト化EPO;ヒトSirpa、例えば、ヒト化Sirpa;ヒトIL-3、例えば、ヒト化IL-3;ヒトGM-CSF、例えば、ヒト化GM-CSF;ヒトM-CSF、例えば、ヒト化M-CSF;ヒトTPO、例えば、ヒト化TPOをコードする核酸を含むゲノムを有し、コードされたヒトタンパク質を発現し、ネイティブのマウスタンパク質を発現しないマウスである。従って、いくつかの態様において、遺伝子改変された非ヒト動物は、マウスであり、マウスは、本明細書に開示されたヒト遺伝子、例えば、ヒト化遺伝子のいくつかまたは全てについてヘテロ接合性である。いくつかの態様において、遺伝子改変された非ヒト動物は、マウスであり、マウスは、本明細書に開示されたヒト遺伝子、例えば、ヒト化遺伝子のいくつかまたは全てについてホモ接合性である。
【0014】
いくつかの態様において、本発明の非ヒト動物は、内在性免疫系について免疫不全である。いくつかのそのような態様において、免疫不全は、Rag2およびIL2rgの一方または両方の欠損によって引き起こされる。
【0015】
いくつかの態様において、本発明の遺伝子改変された免疫不全非ヒト動物は、ヒト造血細胞の生着をさらに含む。いくつかのそのような態様において、ヒト造血細胞は、ヒトCD34陽性細胞、ヒト造血幹細胞、ヒト骨髄系前駆細胞、ヒト赤血球前駆細胞、ヒト骨髄系細胞、ヒト樹状細胞、ヒト単球、ヒト顆粒球、ヒト赤血球、ヒト好中球、ヒトマスト細胞、ヒト胸腺細胞、およびヒトBリンパ球からなる群より選択される1種または複数種の細胞を含む。
【0016】
本明細書中の実施例において証明されるように、内在性遺伝子座においてEPOプロモーターに機能的に連結されたヒトEPOタンパク質をコードする核酸配列を含む、ヒト造血細胞が生着した遺伝子改変免疫不全非ヒト動物は、骨髄における高レベルのヒト赤血球生成、およびヒトEPOを発現しない対照マウスと比較した骨髄内の赤血球系統のヒト細胞の2~5倍の増加を示す。いくつかの態様において、内在性遺伝子座においてEPOプロモーターに機能的に連結されたヒトEPOタンパク質をコードする核酸配列を含む、ヒト造血細胞が生着した遺伝子改変免疫不全非ヒト動物は、骨髄における高レベルのヒト赤血球生成、およびヒトEPOを発現しない対照マウスと比較した骨髄内の赤血球系統のヒト細胞の約2~約10倍の増加、例えば、ヒトEPOを発現しない対照マウスと比較した骨髄内の赤血球系統のヒト細胞の約2倍、約3倍、約4倍、約5倍、約6倍、約7倍、約8倍、約9倍、または約10倍の増加を示す。従って、いくつかの態様において、本発明の、生着がなされた遺伝子改変免疫不全動物は、赤血球細胞(CD235+)の20%以上がヒト赤血球細胞である骨髄を含む。いくつかの態様において、本発明の、生着がなされた遺伝子改変免疫不全動物は、赤血球細胞(CD235+)の約10%以上、例えば、約20%以上、約30%以上、約40%以上、または約50%以上がヒト赤血球細胞である骨髄を含む。
【0017】
いくつかのそのような態様において、本発明の遺伝子改変動物は、非ヒト動物EPO遺伝子座において非ヒト動物EPOプロモーターに機能的に連結されたヒトEPOタンパク質をコードする核酸、非ヒト動物TPO遺伝子座において非ヒト動物TPOプロモーターに機能的に連結されたヒトTPOタンパク質をコードする核酸、非ヒト動物Il-3遺伝子座において非ヒト動物Il-3プロモーターに機能的に連結されたヒトIl-3タンパク質をコードする核酸、非ヒト動物GM-CSF遺伝子座においてGM-CSFプロモーターに機能的に連結されたヒトGM-CSFタンパク質をコードする核酸、および非ヒト動物M-CSF遺伝子座において非ヒト動物M-CSFプロモーターに機能的に連結されたヒトM-CSFタンパク質をコードする核酸を含む免疫不全マウス、例えば、Rag2-/-IL2rgy/-Tpoh/hMcsfh/hIl3h/hGmcsfh/hEpoh/h(「MITER-G」)マウスである。
【0018】
いくつかのそのような態様において、本発明の遺伝子改変動物は、非ヒト動物EPO遺伝子座において非ヒト動物EPOプロモーターに機能的に連結されたヒトEPOタンパク質をコードする核酸、非ヒト動物TPO遺伝子座において非ヒト動物TPOプロモーターに機能的に連結されたヒトTPOタンパク質をコードする核酸、非ヒト動物Il-3遺伝子座において非ヒト動物Il-3プロモーターに機能的に連結されたヒトIl-3タンパク質をコードする核酸、非ヒト動物GM-CSF遺伝子座においてGM-CSFプロモーターに機能的に連結されたヒトGM-CSFタンパク質をコードする核酸、および非ヒト動物M-CSF遺伝子座において非ヒト動物M-CSFプロモーターに機能的に連結されたヒトM-CSFタンパク質をコードする核酸、および非ヒト動物ゲノムへランダムに組み込まれた非ヒト動物SIRPaプロモーターに機能的に連結されたヒトSIRPaタンパク質をコードする核酸を含む免疫不全マウス、例えば、Rag2-/-IL2rgy/-Tpoh/hMcsfh/hIl3h/hGmcsfh/hEpoh/hhSIRPα+(「MISTER-G」)マウスである。他のそのような態様において、ヒトSIRPaタンパク質、例えば、ヒト化SIRPaタンパク質をコードする核酸が、非ヒト動物遺伝子座において非ヒト動物SIRPaプロモーターに機能的に連結されている(例えば、Rag2-/-IL2rgy/-Tpoh/hMcsfh/hIl3h/hGmcsfh/hEpoh/hSIRPαh/h(「SupER-G」)マウス)。
【0019】
いくつかのそのような態様において、本発明の遺伝子改変動物は、非ヒト動物EPO遺伝子座において非ヒト動物EPOプロモーターに機能的に連結されたヒトEPOタンパク質をコードする核酸の一つの対立遺伝子(即ち、マウスはヒトEPOについてヘテロ接合性である)、非ヒト動物SIRPa遺伝子座において非ヒト動物SIRPaプロモーターに機能的に連結されたヒトSIRPaタンパク質、例えば、ヒト化SIRPaタンパク質をコードする核酸、非ヒト動物TPO遺伝子座において非ヒト動物TPOプロモーターに機能的に連結されたヒトTPOタンパク質をコードする核酸、非ヒト動物Il-3遺伝子座において非ヒト動物Il-3プロモーターに機能的に連結されたヒトIl-3タンパク質をコードする核酸、および非ヒト動物GM-CSF遺伝子座においてGM-CSFプロモーターに機能的に連結されたヒトGM-CSFタンパク質をコードする核酸を含む免疫不全マウス、例えば、Rag2-/-IL2rgy/-Tpoh/hIl3h/hGm-csfh/hEpoh/mSIRPαh/h(「TIES」)マウスである。
【0020】
いくつかの態様において、内在性遺伝子座においてEPOプロモーターに機能的に連結されたヒトEPOタンパク質をコードする核酸配列を含む、ヒト造血細胞が生着した遺伝子改変免疫不全非ヒト動物は、EPOタンパク質をコードする核酸配列を1コピーのみ含む時、および内在性M-csfを含む時、よりよい生存およびヒト赤血球の生着を示し得る。これは、ノックインにおいてヒトM-CSFによって支持される高レベルのヒト骨髄系細胞生着が、マウス赤血球の破壊をもたらし、それが、次には、生着がなされたマウスの貧血および死亡をもたらすためである。さらに、ヒトEPO対立遺伝子についてのヘテロ接合性は、ヒトEPOについてホモ接合性であってマウスEPOについてヌルのマウスより、繁殖性、発達能力、および生存率を改善する。そのため、いくつかの態様において、本発明の、生着がなされた遺伝子改変易感染性動物は、EPOを構成的に発現するマウス、例えば、トランスジェニックマウス、またはヒトEPOを2コピー含むマウス、例えば、EPOh/hより改善された生存率を示す。いくつかのそのような態様において、遺伝子改変された免疫不全非ヒト動物は、TIESマウス(Rag2-/-IL2rgy/-Tpoh/hIl3h/hGm-csfh/hEpoh/mSIRPαh/h)である。
【0021】
いくつかの態様において、クロドロン酸リポソームを注入された、ヒト造血細胞が生着した遺伝子改変免疫不全非ヒト動物は、注入されていない動物と比較して、末梢血中のヒト赤血球細胞(CD235+)の数の1000倍の増加を示す。いくつかの態様において、クロドロン酸リポソームを注入された、ヒト造血細胞が生着した遺伝子改変免疫不全非ヒト動物は、注入されていない動物と比較して、末梢血中のヒト赤血球細胞(CD235+)の数の約10倍以上、約50倍以上、約100倍以上、約500倍以上、または約1000倍以上の増加を示す。これらのヒト赤血球細胞のうち、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、または50%以上は、網状赤血球(赤血球前駆細胞、CD71+)であり得る。従って、いくつかの態様において、本発明の、生着がなされた遺伝子改変免疫不全動物は、赤血球細胞(CD235+)の1%以上、例えば、5%以上または10%以上がヒト赤血球細胞であり、これらのヒト赤血球細胞の10%以上、例えば、20%以上、30%以上、40%以上、または50%以上がヒト網状赤血球(CD71+)である末梢血を含む。いくつかのそのような態様において、本発明の、生着がなされた遺伝子改変免疫不全非ヒト動物は、MISTER-Gマウス、SupER-Gマウス、またはTIESマウスである。
【0022】
いくつかの態様において、非ヒト動物は、赤血球系統のヒト細胞を標的とする病原体による感染をさらに含む。いくつかのそのような態様において、病原体は、プラスモディウム属の種、バベシア属の種、およびタイレリア属の種より選択される。いくつかの態様において、感染は、寄生虫を非ヒト動物へ注入することによって作製される。いくつかの態様において、感染は、寄生されたヒト赤血球細胞を非ヒト動物へ注入することによって作製される。いくつかの態様において、感染は、寄生されたヒト赤血球細胞および健常なヒト赤血球細胞を非ヒト動物へ注入することによって作製される。
【0023】
本発明のいくつかの局面において、赤血球系統のヒト細胞を標的とする病原体による感染を阻害する薬剤を同定する方法が提供される。
【0024】
いくつかの態様において、方法は、EPO遺伝子プロモーターに機能的に連結されたヒトEPOタンパク質をコードする核酸配列、非ヒト動物において免疫不全をもたらす1個または複数個の遺伝子変異、ヒト造血細胞の生着、および赤血球系統のヒト細胞を標的とする病原体による感染を含む遺伝子改変された非ヒト動物へ候補薬剤を投与する工程;ならびに薬剤が、病原体に感染した非ヒト動物における病原体の量を低下させるか否かを決定する工程を含む。
【0025】
いくつかの態様において、方法は、EPO遺伝子プロモーターに機能的に連結されたヒトEPOタンパク質をコードする核酸配列を含む、ヒト造血細胞が生着した遺伝子改変免疫不全非ヒト動物を、クロドロン酸と接触させる工程;クロドロン酸と接触させられた非ヒト動物へ候補薬剤を投与する工程;寄生された網状赤血球または赤血球を遺伝子改変された非ヒト動物へ注入する工程;ならびに薬剤が非ヒト動物のヒト網状赤血球および/または赤血球の感染を防止するか否かを決定する工程を含む。
【0026】
いくつかの態様において、病原体は、プラスモディウム属の種、バベシア属の種、およびタイレリア属の種より選択される。いくつかのそのような態様において、病原体は、熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)および三日熱マラリア原虫(P.vivax)より選択される。いくつかの態様において、非ヒト動物は、哺乳動物である。いくつかのそのような態様において、哺乳動物は、齧歯類である。ある種のそのような態様において、齧歯類は、マウスである。
【0027】
本発明のいくつかの局面において、ヒトEPOタンパク質を発現するマウスを作製する方法が提供される。いくつかの態様において、方法は、EPOプロモーター配列に機能的に連結されたヒトEPOタンパク質のコード配列またはその断片を含む核酸配列と、マウス多能性幹細胞を接触させる工程であって、該コード配列とEPOプロモーター配列が、内在性マウスEPO遺伝子座と相同である配列が隣接しているカセットを形成する、工程;相同組換えによる内在性マウスEPO遺伝子座におけるマウスゲノムへの核酸配列の組み込みを促進する条件の下で多能性幹細胞を培養する工程;およびヒトEPOタンパク質をコードする核酸配列を含むマウス多能性幹細胞からマウスを作製する工程を含む。
【0028】
いくつかの態様において、マウス多能性幹細胞は、胚性幹(ES)細胞または誘導多能性幹(iPS)細胞である。いくつかの態様において、マウス多能性幹細胞は、Rag2および/またはIL2rgを欠いている。いくつかの態様において、EPOプロモーター配列は、ヒトEPOプロモーターの配列である。他の態様において、EPOプロモーター配列は、内在性非ヒトEPOプロモーターの配列である。いくつかの態様において、組み込みは、非ヒトEPO遺伝子座における非ヒトEPO遺伝子の置換をもたらす。いくつかの態様において、ヒトEPOタンパク質をコードする核酸配列は、ヒトEPOゲノムのコード配列および非コード配列を含む。いくつかの態様において、ヒトEPOタンパク質をコードする核酸配列は、ヒトEPO cDNA配列を含む。
【0029】
本発明のいくつかの局面において、ヒトEPOタンパク質を発現し、かつヒト造血系を含むマウスを作製する方法が提供される。いくつかの態様において、方法は、本開示の方法によって作製された遺伝子改変免疫不全マウスへ、ヒト造血始原細胞を含む細胞の集団を移植する工程を含む。いくつかの態様において、移植は、尾静脈注入、胎児肝臓注入、または後眼窩注入を含む。いくつかの態様において、遺伝子改変マウスは、移植前に致死線量未満の照射を受ける。いくつかの態様において、移植されるヒト造血始原細胞は、CD34+細胞である。いくつかの態様において、ヒト造血始原細胞は、胎児肝臓、成人骨髄、または臍帯血に由来する。
【0030】
本発明のいくつかの局面において、赤血球系統のヒト細胞を標的とするヒト病原体に感染したマウスを作製する方法が提供される。いくつかの態様において、方法は、本開示の方法に従って、ヒトEPOタンパク質を発現し、かつヒト造血系を含むマウスを作製する工程、生着がなされたマウスへクロドロン酸を注入する工程、およびクロドロン酸を注入されたマウスへ寄生されたヒト赤血球(PRBC)を注入する工程を含む。いくつかの態様において、方法は、健常なヒト赤血球をマウスへ注入する工程をさらに含む。いくつかの態様において、寄生虫は、プラスモディウム属の種、バベシア属の種、およびタイレリア属の種より選択される。ある種の態様において、マラリア原虫は、熱帯熱マラリア原虫および三日熱マラリア原虫より選択される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
本発明は、添付の図面と共に参照された時、以下の詳細な説明から、最もよく理解される。一般的な実務に従い、図面の様々な特色は、一定の縮尺ではないことが強調される。反対に、様々な特色の寸法が、明確のため、任意で拡大または縮小されている。図面には以下の図が含まれる。
【0032】
【
図1】マウスEpo(SEQ ID NO:2)のヒトEPO(SEQ ID NO:4)とのタンパク質アライメントを提供する。下線付きの残基は、種間で保存されている残基である。
【
図2】ヒトEPOをコードする核酸配列のノックインの前および後の野生型マウスEPO遺伝子座の概略図を提供する。
【
図3】ヒトEPOノックイン対立遺伝子の概略図を提供する。
【
図4】ヒト化Sirpaをコードする核酸配列のノックインの前(上)および後(下)の野生型マウスSirpa遺伝子座の概略図を提供する。
【
図5】パネルAおよびBは、HSCが生着したマウスにおけるヒト赤血球細胞の頻度を示す。(パネルA)マウスEPO遺伝子座から発現されたヒトEPO(「hEPO+」)および/またはマウスゲノムへのランダムな組み込み体として発現されたヒトSIRPa(「hSIRPa+」)の示された組み合わせを含むRag2
-/-Il2rg
-/-Tpo
h/hIL3
h/hGmcsf
h/hMcsf
h/hマウス(「MITRGマウス」)へのHSC生着の6~8週後の骨髄におけるヒトCD235a
+赤血球生着。(パネルB)Rag2
-/-Il2rg
nullTpo
h/hMcsf
h/hIl3
h/hGmcsf
h/hEpo
h/hSIRPα
h/h(「SupER-G」)マウス対Rag2
-/-Il2rg
nullTpo
h/hIl3
h/hGmcsf
h/hSirpa
h/h(「RGSKI-TI」)対照マウスへのHSC生着の6~8週後のhEPOの存在下対非存在下における末梢血中のヒトCD235a
+赤血球の頻度。
【
図6】パネルAおよびBは、クロドロン酸処置が、HSCが生着したマウスにおいて循環ヒト赤血球細胞および網状赤血球を増加させることを証明する。HSC生着の7週後に、SupER-Gマウスを、連続3~5日間、50μlのクロドロン酸リポソームの毎日の後眼窩注入によって処置した。末梢血中のヒトCD235
+細胞(赤血球および網状赤血球)(パネルA)およびCD235
+/CD71
+細胞(網状赤血球)(パネルB)の頻度を、FACSによって測定した。パネルB:クロドロン酸による処置の後の異なる3匹のマウス。
【
図7】パネルA~Cは、生着がなされたマウスから産生されたヒトRBCが、熱帯熱マラリア原虫に感染しやすい様子を例示する。SupER-Gマウスに胎児肝臓HSCまたは成人HSCを生着させた。生着の7週後、マウスを、連続3日間、50μlのクロドロン酸リポソームの毎日の後眼窩注入によって処置した後、血液を収集した。次いで、血液試料を、精製された熱帯熱マラリア原虫3D7赤血球期寄生虫に感染したRBC(99%の純度)と共に培養した。感染の48時間後に新鮮なヒトRBCを培養物へ添加し、さらに10日間感染培養を維持した。寄生虫血症を定量化するため、ギムザ染色および定量的PCRを実施した。ヒトRBC対照:ヒトRBC;マウスRBC対照:生着がなされていないマウスに由来するRBC;マウスRBC添加対照:0.1%hRBCが添加された、生着がなされていないマウスに由来するRBC。(パネルA)において、赤:抗ヒトBand3;青:ヘキスト。パネルCにおいて、上から下へリストされた説明は、左から右への棒グラフx軸に対応する。
【
図8】クロドロン酸の非存在下でのマウス末梢血中のヒトRBCの破壊を示す。生着がなされていないマウスを、クロドロン酸またはPBSによって処置した。クロドロン酸処置の場合、マウスは、連続3日間、50μlのクロドロン酸の毎日の後眼窩注入を受容した。PBSの処置の場合、500μl PBSのみを、ヒトRBC輸注の1時間前に送達した。ヒトRBCを予め処置されたマウスへ輸注し、示された時点で末梢血を収集した。クロドロン酸およびPBSの曲線が示される。
【発明を実施するための形態】
【0033】
詳細な説明
動物ゲノムからヒトEPOを発現する遺伝子改変された非ヒト動物が提供される。非ヒト動物ゲノムからヒトEPOを発現する非ヒト動物を作製する方法、および非ヒト動物ゲノムからヒトEPOを発現する非ヒト動物を使用する方法も、提供される。これらの動物および方法は、例えば、ヒトの赤血球生成および赤血球機能のモデル化;赤血球のヒト病原体感染のモデル化;例えば、健常または疾患の状態における、赤血球生成および/または赤血球機能をモジュレートする薬剤についてのインビボスクリーニング;赤血球または赤血球始原細胞に対して毒性である薬剤についてのインビボスクリーニング;赤血球または赤血球始原細胞に対する毒性薬剤の毒性作用を防止するか、和らげるか、または逆転させる薬剤についてのインビボスクリーニング;疾患治療に対する個体の応答性を予測するための個体由来の赤血球または赤血球始原細胞のインビボスクリーニングを含む、当技術分野における多くの用途を有する。本発明のこれらおよびその他の目的、利点、および特色は、以下により完全に記載される組成物および方法の詳細を参照することによって当業者に明白になるであろう。
【0034】
本発明の方法および組成物が記載される前に、本発明は、記載された具体的な方法または組成物に限定されず、従って、当然、変動し得ることが理解されるべきである。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるため、本明細書において使用される用語法は、具体的な態様を記載するためのものに過ぎず、限定するためのものではないことも理解されるべきである。本発明は、記述された具体的な態様に限定されず、特許査定された特許請求の範囲によって記載される。
【0035】
値の範囲が提供される場合、前後関係が明白にそうでないことを指示しない限り、その範囲の上限値と下限値との間に入る各値も、下限値の単位の10分の1まで、具体的に開示されていることが理解される。明記された値または明記された範囲に入る値と、他の明記された値または明記された範囲に入る値との間のより小さい範囲が、各々、本発明に包含される。これらのより小さい範囲の上限値および下限値は、独立に、範囲に含まれていてもよいしまたは除外されていてもよく、より小さい範囲に極限値の一方が含まれるか、両方とも含まれないか、もしくは両方とも含まれる各範囲も、本発明に包含され、明記された範囲における具体的に除外された極限値に従う。明記された範囲が極限値の一方または両方を含む場合、それらの含まれる極限値の一方または両方を除外する範囲も本発明に含まれる。
【0036】
他に定義されない限り、本明細書において使用される技術用語および科学用語は、全て、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同一の意味を有する。本明細書に記載されたものに類似しているかまたは等価である任意の方法および材料が、本発明の実施または試行において使用され得るが、いくつかの可能性のある好ましい方法および材料が以下に記載される。本明細書において言及された刊行物は、全て、刊行物の引用に関連した方法および/または材料を開示し説明するため、参照によって本明細書に組み入れられる。矛盾が存在する場合には、組み入れられた刊行物の開示より本開示が優先されることが理解される。
【0037】
本開示を参照することによって当業者に明白となるように、本明細書に記載され例示された個々の態様の各々は、本発明の範囲または本旨を逸脱することなく、他のいくつかの態様のいずれかの特色から容易に分離されてもよいしまたはそれと組み合わせられてもよい別個の成分および特色を有する。記された方法は、記されたイベントの順序で実施されてもよいし、または論理的に可能である他の順序で実施されてもよい。
【0038】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用されるように、単数形「一つの(a)」、「一つの(an)」、および「その(the)」には、前後関係がそうでないことを明白に指示しない限り、複数の指示対象が含まれることに注意しなければならない。従って、例えば、「細胞(a cell)」との言及には、複数のそのような細胞が含まれ、「ペプチド(the peptide)」との言及には、一つまたは複数のペプチドおよびそれらの等価物、例えば、当業者に公知のポリペプチドへの言及が含まれ、他も同様である。
【0039】
本明細書に記述された刊行物は、本願の出願日より前のそれらの開示のためにのみ提供される。本発明が先行発明のためそのような刊行物に先行している資格を有しないことの承認として解釈されるべきものは本明細書中に存在しない。さらに、提供された刊行日は、実際の刊行日と異なる可能性があり、それは独立に確認される必要がある。
【0040】
遺伝子改変された非ヒト動物
本発明の一つの局面において、ゲノムから1種または複数種のヒトタンパク質を発現するよう遺伝子改変された非ヒト動物が提供される。本発明のいくつかの局面において、ヒトタンパク質は、ヒトエリスロポエチン(hEPO)タンパク質(SEQ ID NO:4)である。換言すると、遺伝子改変された非ヒト動物は、ヒトEPO(hEPO)タンパク質をコードする核酸配列をゲノムに含む。例えば、非ヒト動物は、ヒトEPOゲノムのコード配列および非コード配列、例えば、7番染色体ヌクレオチド100318423~100321323の配列またはその画分を含む核酸配列をゲノムに含み得る。あるいは、非ヒト動物は、ヒトEPO cDNA配列(SEQ ID NO:3)またはその画分を含む核酸配列をゲノムに含んでいてもよい。いくつかの場合において、非ヒト動物は、非ヒト動物のゲノムから1種または複数種の付加的なヒトタンパク質を発現するようさらに遺伝子改変される。いくつかのそのような態様において、これらの1種または複数種の付加的なヒトタンパク質は、ヒト造血細胞の発達および/または機能を促進するヒトタンパク質、例えば、ヒトシグナル制御タンパク質α(hSIRPa)タンパク質(NCBI Gene ID:140885、GenBankアクセッション番号NM_080792.2、NM_001040022.1、NM_001040023.1)、ヒトインターロイキン3(hIL-3)タンパク質(NCBI Gene ID:3562、GenBankアクセッション番号NM_000588.3)、ヒトコロニー刺激因子2(顆粒球マクロファージ)(hGM-CSF)タンパク質(NCBI Gene ID:1437、GenBankアクセッション番号NM_000758.3)、ヒトコロニー刺激因子1(マクロファージ)(hM-CSF)タンパク質(NCBI Gene ID:1435、GenBankアクセッション番号NM_000757.5、NM_172210.2、NM_172211.3、およびNM_172212.2)、ヒトトロンボポエチン(hTPO)タンパク質(NCBI Gene ID:7066、GenBankアクセッション番号NM_000460.3、NM_001177597.2、NM_001177598.2、NM_001289997.1、NM_001290003.1、NM_001290022.1、NM_001290026.1、NM_001290027.1、NM_001290027.1)、ヒトインターロイキン6(hIL6)タンパク質(NCBI Gene ID:3569、GenBankアクセッション番号NM_000600.3)等である。
【0041】
「ヒト核酸」および「ヒトタンパク質」という用語には、「野生型」または「ネイティブ」のヒト核酸およびヒトタンパク質に加えて、野生型のヒト核酸およびヒトタンパク質のバリアントも同様に包含されることを、当業者は認識するであろう。本明細書において使用されるように、「バリアント」という用語は、対応する野生型のヒト核酸またはヒトポリペプチドの配列と比較して、各々、1個または複数個の変異を含有している、ヒトポリペプチドもしくはヒト核酸の配列の単離された天然に存在する遺伝学的変異体、またはヒトポリペプチドもしくはヒト核酸の配列の組換えによって調製された変種のいずれかを定義する。例えば、そのような変異は、1個または複数個のアミノ酸の置換、付加、および/または欠失であり得る。「バリアント」という用語には、ヒトの相同体およびオルソログも含まれる。いくつかの態様において、本発明のバリアントポリペプチドは、野生型ヒトポリペプチドとの70%以上の同一性、例えば、75%、80%、または85%以上の同一性、例えば、野生型ヒトポリペプチドとの90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有する。
【0042】
2種の配列の間の同一性パーセントは、当技術分野における任意の便利な技術、例えば、公に入手可能なソフトウェアを使用した、配列の整列を使用して、例えば、決定され得る。変異は、部位特異的変異誘発、PCRによって媒介される変異誘発、定向進化等のような標準的な分子生物学的技術を使用して導入され得る。当業者は、アミノ酸配列を改変することなく、1個または複数個の核酸置換が導入され得ること、およびヒトタンパク質の機能的特性を改変することなく、1個または複数個のアミノ酸変異が導入され得ることを認識するであろう。
【0043】
ヒトタンパク質バリアントを作製するため、ヒトタンパク質において保存的アミノ酸置換を作製することができる。保存的アミノ酸置換は、当技術分野において認識されている、あるアミノ酸の、類似した特徴を有する別のアミノ酸への置換である。例えば、各アミノ酸は、以下の特徴のうちの一つまたは複数を有していると記載され得る:正の電荷を有する、負の電荷を有する、脂肪族、芳香族、極性、疎水性、および親水性。保存的置換は、指定された構造的または機能的な特徴を有するあるアミノ酸の、同一の特徴を有する別のアミノ酸への置換である。酸性アミノ酸には、アスパラギン酸、グルタミン酸が含まれ;塩基性アミノ酸には、ヒスチジン、リジン、アルギニンが含まれ;脂肪族アミノ酸には、イソロイシン、ロイシン、およびバリンが含まれ;芳香族アミノ酸には、フェニルアラニン、グリシン、チロシン、およびトリプトファンが含まれ;極性アミノ酸には、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、リジン、アスパラギン、グルタミン、アルギニン、セリン、トレオニン、およびチロシンが含まれ;疎水性アミノ酸には、アラニン、システイン、フェニルアラニン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、プロリン、バリン、およびトリプトファンが含まれ;保存的置換には、各群内のアミノ酸同士の置換が含まれる。アミノ酸は、相対的なサイズに関しても記載され得、アラニン、システイン、アスパラギン酸、グリシン、アスパラギン、プロリン、トレオニン、セリン、バリンは、全て、典型的には、小さいと見なされる。
【0044】
ヒトバリアントには、合成のアミノ酸類似体、アミノ酸誘導体、および/または非標準アミノ酸が含まれ得、例示的には、αアミノ酪酸、シトルリン、カナバニン、シアノアラニン、ジアミノ酪酸、ジアミノピメリン酸、ジヒドロキシ-フェニルアラニン、ジエンコル酸、ホモアルギニン、ヒドロキシプロリン、ノルロイシン、ノルバリン、3-ホスホセリン、ホモセリン、5-ヒドロキシトリプトファン、1-メチルヒスチジン、メチルヒスチジン、およびオルニチンが含まれるが、これらに限定されない。
【0045】
ヒトバリアントは、野生型ヒトをコードする核酸との高度の同一性を有する核酸によってコードされると考えられる。ヒトバリアントをコードする核酸の相補鎖は、高ストリンジェンシー条件下で、野生型ヒトタンパク質をコードする核酸と特異的にハイブリダイズする。ある態様において、ヒトバリアントをコードする核酸は、周知の方法論を使用して、単離されてもよいし、または組換えもしくは合成によって生成されてもよい。
【0046】
例えば、「ヒトEPOタンパク質(hEPO)」、「ヒトSIRPaタンパク質(hSIRPa)」、「ヒトIL-3タンパク質(hIL-3)」、「ヒトGM-CSFタンパク質(hGM-CSF)」、「ヒトM-CSFタンパク質(hM-CSF)」、「ヒトTPOタンパク質(hTPO)」、および「ヒトIL-6タンパク質(hIL-6)」に関して、「ヒトタンパク質」という用語には、本明細書において使用されるように、「野生型」または「ネイティブ」のヒトタンパク質およびそれらの「バリアント」に加えて、野生型ヒトタンパク質(またはそのバリアント)の1個または複数個の断片を含み、かつ野生型ヒトタンパク質の1種または複数種の機能、例えば、1種または複数種のシグナリング機能および/または受容体機能を保持している融合タンパク質、即ち、キメラタンパク質が包含される。例えば、1種または複数種の非ヒトのペプチドまたはポリペプチドと組み合わせて野生型ヒトタンパク質(またはそのバリアント)の1個または複数個の断片を含む融合タンパク質は、本明細書において「ヒト化タンパク質」とも呼ばれ得る。従って、例えば、野生型マウスSIRPαタンパク質のシグナリングドメインと融合した野生型ヒトSIRPαタンパク質の細胞外ドメインのアミノ酸配列を含むタンパク質は、「ヒトSIRPαタンパク質」という用語に包含される。
【0047】
従って、ヒトタンパク質をコードする核酸配列は、ヒトタンパク質、例えば、野生型ヒトタンパク質、野生型ヒトタンパク質の1種もしくは複数種の機能、例えば、1種もしくは複数種のシグナリング機能および/もしくは受容体機能を保持する野生型ヒトタンパク質のバリアント、野生型ヒトタンパク質(もしくはそのバリアント)の断片、または野生型ヒトタンパク質(もしくはそのバリアント)の1個もしくは複数個の断片を含み、かつ野生型ヒトタンパク質の1種もしくは複数種の機能、例えば、1種もしくは複数種のシグナリング機能および/もしくは受容体機能を保持する融合タンパク質、例えば、キメラタンパク質のコード配列を含むポリヌクレオチドである。
【0048】
典型的には、本開示の遺伝子改変動物において、ヒトタンパク質、例えば、hEPOタンパク質、hSIRPaタンパク質、hIL-3タンパク質、hGM-CSFタンパク質、hM-CSFタンパク質、hTPOタンパク質、hIL-6タンパク質等をコードする核酸は、1種または複数種のDNA制御要素に機能的に連結されている。DNA制御要素には、宿主細胞におけるコード配列の発現を提供しかつ/または制御する、プロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、ターミネーター等のような転写および翻訳の調節配列が含まれる。例えば、「プロモーター」または「プロモーター配列」とは、細胞においてRNAポリメラーゼに結合し、下流(3'方向)コード配列の転写を開始することができるDNA制御領域をさす。プロモーター配列は、3'末端において転写開始部位と隣接しており、バックグラウンドを超えた検出可能なレベルで転写を開始するのに必要な最少数の塩基または要素を含むために上流(5'方向)に及ぶ。プロモーター配列内には、転写開始部位に加えて、RNAポリメラーゼとの結合を担うタンパク質結合ドメインも見出されるであろう。真核生物プロモーターは、常にではないが、しばしば、「TATA」ボックスおよび「CAT」ボックスを含有しているであろう。本開示にとって特に重要であるのは、対応する内在性タンパク質で観察されるのと同一の空間的および時間的な発現パターンで、即ち、同一の細胞および組織において、同一の時点で、ヒトタンパク質の転写を促進するDNA制御要素、例えば、プロモーターである。
【0049】
いくつかの態様において、例えば、ヒトプロモーターが非ヒト動物におけるヒトタンパク質の正確な空間的および時間的な発現を促進する場合、本発明の非ヒト動物におけるヒトタンパク質をコードする核酸配列は、その遺伝子のためのヒトプロモーターに機能的に連結される。あるいは、本発明の非ヒト動物におけるヒトタンパク質をコードする核酸配列は、対応する非ヒト動物遺伝子のための非ヒト動物プロモーターに機能的に連結される。従って、例えば、hEPOタンパク質を発現する非ヒト動物に関して、いくつかの態様において、hEPOタンパク質をコードする核酸は、ヒトEPOプロモーターに機能的に連結される。他の場合において、ヒトEPOタンパク質をコードする核酸は、非ヒトEPOプロモーターに機能的に連結される。さらに他の場合において、ヒトEPOタンパク質をコードする核酸は、内在性非ヒトEPOプロモーターに機能的に連結される。
【0050】
いくつかの場合において、ヒトタンパク質は、非ヒト動物における対応する遺伝子座から発現される。ある種の場合において、対応する非ヒト動物タンパク質をコードする核酸配列が、ヒトタンパク質をコードする核酸配列に置換される。他の場合において、ヒトタンパク質は、対応する非ヒト遺伝子のための遺伝子座以外の非ヒト動物におけるゲノム部位から発現される。従って、例えば、hEPOタンパク質を発現する非ヒト動物に関して、いくつかの態様において、hEPOタンパク質は非ヒト動物ゲノムのEPO遺伝子座から発現される。ある種の態様において、非ヒト動物は、内在性EPOをコードする核酸配列のhEPOタンパク質をコードする核酸配列への置換を含む。他の態様において、hEPOは、非ヒト動物EPO遺伝子座以外の非ヒト動物におけるゲノム部位から発現される。
【0051】
いくつかの場合において、遺伝子改変された非ヒト動物は、ヒトタンパク質をコードする核酸配列を1コピー含む。例えば、非ヒト動物は、ヒトタンパク質をコードする核酸配列についてヘテロ接合性であり得、即ち、遺伝子座における一方の対立遺伝子は遺伝子改変されており、他方の対立遺伝子は内在性対立遺伝子であり得る。他の場合において、遺伝子改変された非ヒト動物は、ヒトタンパク質をコードする核酸配列を2コピー含む。例えば、非ヒト動物は、ヒトタンパク質をコードする核酸配列についてホモ接合性であり得、即ち、二倍体ゲノムにおいて遺伝子座についての両方の対立遺伝子が、ヒトタンパク質をコードするよう遺伝子改変されていてよく、例えば、両方の対立遺伝子が、内在性タンパク質をコードする核酸配列のヒトタンパク質をコードする核酸配列への置換を含んでいてよい。従って、例えば、hEPOタンパク質を発現する非ヒト動物に関して、前述のように、hEPOをコードする核酸配列は、非ヒト動物EPO遺伝子座へ組み込まれ得る。いくつかのそのような態様において、遺伝子改変された非ヒト動物は、hEPOタンパク質をコードする核酸配列についてヘテロ接合性である、即ち、遺伝子改変された非ヒト動物は、hEPOをコードする核酸を含む一つの対立遺伝子および内在性EPOをコードする一つの対立遺伝子を含む。換言すると、動物はEPOh/m動物である。ここで、「h」はヒト配列を含む対立遺伝子を表し、「m」は内在性対立遺伝子を表す。他のそのような態様において、遺伝子改変された非ヒト動物は、hEPOタンパク質をコードする核酸配列についてホモ接合性である、即ち、二倍体ゲノムにおいて遺伝子座についての両方の対立遺伝子が、hEPOタンパク質をコードする核酸配列を含むであろう。換言すると、動物はEPOh/h動物である。
【0052】
いくつかの場合において、非ヒト動物は、対応する非ヒト動物タンパク質も発現する。例えば、ヒトタンパク質、例えば、hEPOをコードする核酸配列は、非ヒト動物遺伝子についての遺伝子座、例えば、mEPO遺伝子座以外の動物のゲノム内の部位に位置し得る。第二の例として、ヒトタンパク質、例えば、hEPOをコードする核酸配列は、対応する動物遺伝子座、例えば、mEPO遺伝子座に位置し、動物コード配列の継続的な発現を可能にする様式で動物遺伝子座へ組み込まれていてもよく、例えば、ヒトコード配列が動物コード配列の上流または下流に挿入され、2Aペプチド配列またはIRES配列が2種のコード配列の間に含まれていてもよい。第三の例として、ヒトタンパク質、例えば、hEPOをコードする核酸配列は、動物コード配列の発現を破壊する方式で、例えば、動物コード配列のいくつかまたは全部の置換として、対応する動物遺伝子座、例えば、mEPO遺伝子座に位置していてもよいが、非ヒト動物は、挿入対立遺伝子、即ち、「ノックイン」対立遺伝子についてヘテロ接合性であるよう、即ち、一つのノックイン対立遺伝子および一つの野生型対立遺伝子を保持するよう交雑させられる。他の場合において、非ヒト動物は、対応する非ヒト動物タンパク質を発現しない。例えば、ヒトタンパク質、例えば、hEPOをコードする核酸配列は、動物コード配列の発現を破壊する方式で、例えば、動物コード配列のいくつかまたは全部の置換として、例えば、非ヒト動物コード配列を置換することによって、対応する動物遺伝子座、例えば、mEPO遺伝子座に位置していてもよく、動物は、挿入対立遺伝子、即ち、「ノックイン」対立遺伝子についてホモ接合性である。
【0053】
任意の非ヒト哺乳動物が、本開示に従って遺伝子改変され得る。非限定的な例には、実験動物、飼育動物、家畜等、例えば、マウス、齧歯類、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、非ヒト霊長類等のような種;例えば、マウス、ラット、ウサギ、ハムスター、モルモット、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、および当技術分野において公知であるようなその他のトランスジェニック動物種、具体的には、哺乳動物種が含まれる。他の態様において、非ヒト動物は、トリ、例えば、ニワトリ、シチメンチョウ、ウズラ、キジ、またはコジュケイのようなキジ目(Galliformes);例えば、アヒル、ガチョウ、またはハクチョウのようなガンカモ目(Anseriformes)、例えば、ハト(pigeon)またはハト(dove)のようなハト目(Columbiformes)のものであり得る。様々な態様において、本発明の遺伝子改変動物は、マウス、ラット、またはウサギである。
【0054】
一つの態様において、非ヒト動物は哺乳動物である。いくつかのそのような態様において、非ヒト動物は、例えば、ドビネズミ上科(Dipodoidea)またはネズミ上科(Muroidea)の小型哺乳動物である。一つの態様において、遺伝子改変動物は、げっ歯類である。一つの態様において、げっ歯類は、マウス、ラット、およびハムスターより選択される。一つの態様において、げっ歯類は、ネズミ上科より選択される。一つの態様において、遺伝子改変動物は、ヨルマウス科(Calomyscidae)(例えば、カンガルーハムスター(mouse-like hamsters))、キヌゲネズミ科(Cricetidae)(例えば、ハムスター、新世界ラット、新世界マウス(New World rats and mice)、ハタネズミ)、ネズミ科(Muridae)(典型的な(true)マウスおよびラット、スナネズミ、トゲマウス(spiny mice)、タテガミネズミ(crested rats))、アシナガマウス科(Nesomyidae)(キノボリマウス(climbing mice)、イワマウス(rock mice)、オジロネズミ(white-tailed rats)、マダガスカルラットおよびマウス(Malagasy rats and mice))、トゲヤマネ科(Platacanthomyidae)(例えば、トゲヤマネ(spiny dormice))、ならびにメクラネズミ科(Spalacidae)(例えば、デバネズミ(mole rates)、タケネズミ(bamboo rats)、およびモグラネズミ(zokors))より選択された科に由来する。具体的な態様において、遺伝子改変されたげっ歯類は、典型的なマウスおよびラット(ネズミ科)、スナネズミ、トゲマウス、ならびにタテガミネズミより選択される。
【0055】
一つの態様において、本発明の遺伝子改変された非ヒト動物は、ラットである。一つのそのような態様において、ラットは、ウィスター(Wistar)ラット、LEA系統、スプラーグドーリー(Sprague Dawley)系統、フィッシャー(Fischer)系統、F344、F6、およびダークアグーチ(Dark Agouti)より選択される。別の態様において、ラット系統は、ウィスター、LEA、スプラーグドーリー、フィッシャー、F344、F6、およびダークアグーチからなる群より選択される2種以上の系統の混合型である。
【0056】
別の態様において、本発明の遺伝子改変された非ヒト動物は、マウス、例えば、C57BL系統のマウス(例えば、C57BL/A、C57BL/An、C57BL/GrFa、C57BL/KaLwN、C57BL/6、C57BL/6J、C57BL/6ByJ、C57BL/6NJ、C57BL/10、C57BL/10ScSn、C57BL/10Cr、C57BL/Ola等);129系統のマウス(例えば、129P1、129P2、129P3,129X1、129S1(例えば、129S1/SV、129S1/SvIm)、129S2、129S4、129S5、129S9/SvEvH、129S6(129/SvEvTac)、129S7、129S8、129T1、129T2);BALB系統のマウス;例えば、BALB/c等である。例えば、Festing et al.(1999)Mammalian Genome 10:836を参照し、Auerbach et al(2000)Establishment and Chimera Analysis of 129/SvEv- and C57BL/6-Derived Mouse Embryonic Stem Cell Linesも参照すること。ある態様において、遺伝子改変マウスは、前述の129系統および前述のC57BL/6系統の混合型である。別の態様において、マウスは、前述の129系統の混合型または前述のBL/6系統の混合型である。さらに別の態様において、マウスは、BALB系統および別の前述の系統の混合型である。
【0057】
いくつかの態様において、本発明の遺伝子改変された非ヒト動物は、免疫不全でもある。「免疫不全」には、動物のネイティブのまたは内在性の免疫系の一つまたは複数の局面の欠損が含まれ、例えば、動物は、機能性の宿主免疫細胞の一つまたは複数の型を欠いており、例えば、非ヒトB細胞の数および/または機能、非ヒトT細胞の数および/または機能、非ヒトNK細胞の数および/または機能等を欠いている。
【0058】
本発明の動物における免疫不全を達成する一つの方法は、致死線量未満の照射である。あるいは、免疫不全は、当技術分野において公知の多数の遺伝子変異のいずれかによって達成され得、それらは、本開示の本発明の遺伝子改変された非ヒト動物と単独でもしくは組み合わせて交雑させられてもよいし、または本開示の遺伝子改変が導入され得る幹細胞の起源として使用されてもよい。非限定的な例には、IL2RG遺伝子変異に関連しておりリンパ球表現型T(-)B(+)NK(-)を特徴とするX連鎖SCID;Jak3遺伝子変異に関連しておりリンパ球表現型T(-)B(+)NK(-)を特徴とする常染色体劣性SCID;リンパ球表現型T(-)B(-)NK(-)を特徴とするADA遺伝子変異;リンパ球表現型T(-)B(+)NK(+)を特徴とするIL-7Rα鎖変異;リンパ球表現型T(-)B(+)NK(+)を特徴とするCD3δまたはεの変異;リンパ球表現型T(-)B(-)NK(+)を特徴とするRAG1およびRAG2の変異;リンパ球表現型T(-)B(-)NK(+)を特徴とするアルテミス(Artemis)遺伝子変異;リンパ球表現型T(-)B(+)NK(+)を特徴とするCD45遺伝子変異;ならびにリンパ球表現型T(-)B(-)を特徴とするPrkdcscid変異が含まれる。従って、いくつかの態様において、遺伝子改変された免疫不全非ヒト動物は、IL2受容体γ鎖(Il2rγy/-)欠損、Jak3欠損、ADA欠損、IL7R欠損、CD3欠損、RAG1および/またはRAG2の欠損、アルテミス欠損、CD45欠損、ならびにPrkdc欠損より選択される1種または複数種の欠損を有する。これらおよびその他の免疫不全の動物モデルは、当業者に公知であり、それらのいずれかが本開示の免疫不全動物を生成するために使用され得る。
【0059】
いくつかの態様において、本発明による遺伝子改変された非ヒト動物は、生着がなされたヒト造血細胞からヒト免疫細胞を発達させることができるヒト造血細胞のレシピエントとしての用途を有する。そのため、本発明のいくつかの局面において、本発明の遺伝子改変動物は、ヒト造血細胞が生着した遺伝子改変免疫不全非ヒト動物である。
【0060】
当技術分野において公知であるかまたは本明細書に記載されるようなヒト造血細胞、ヒト造血幹細胞(HSC)、および/または造血幹始原細胞(HSPC)の任意の起源が、本開示の遺伝子改変された免疫不全非ヒト動物へ移植され得る。当技術分野において公知のヒト造血細胞の一つの適当な起源は、ヒト臍帯血細胞、具体的には、CD34陽性(CD34+)細胞である。ヒト造血細胞の別の起源は、ヒト胎児肝臓である。別の起源は、ヒト骨髄である。例えば、当技術分野において公知の方法によって、体細胞の脱分化によって作製された誘導多能性幹細胞(iPSC)および誘導造血幹細胞(iHSC)も、包含される。ヒト細胞の非ヒト動物への移植の方法は、当技術分野において、そして本明細書中の他の箇所において十分に記載されており、それらのいずれかが、本発明の、生着がなされた遺伝子改変非ヒト動物に到達するため、当業者によって利用され得る。
【0061】
移植されたヒト造血細胞は、遺伝子改変された非ヒト動物において、ヒトCD34陽性細胞、ヒト造血幹細胞、ヒト造血細胞、骨髄系始原細胞、赤血球始原細胞、骨髄系細胞、樹状細胞、単球、好中球、マスト細胞、赤血球、およびそれらの組み合わせより選択される1種または複数種の生着ヒト細胞を生じる。一つの態様において、ヒト細胞は、生着後、4ヶ月目、5ヶ月目、6ヶ月目、7ヶ月目、8ヶ月目、9ヶ月目、10ヶ月目、11ヶ月目、または12ヶ月目に存在する。具体的な態様において、ヒト細胞は、赤血球系統の細胞を含む。
【0062】
いくつかの態様において、移植されたヒト造血細胞は、遺伝子改変された非ヒト動物において、ヒト造血幹細胞・始原細胞、ヒト骨髄系始原細胞、ヒト骨髄系細胞、ヒト樹状細胞、ヒト単球、ヒト顆粒球、ヒト好中球、ヒトマスト細胞、ヒト赤血球、ヒト胸腺細胞、ヒトT細胞、ヒトB細胞、およびヒト血小板を含む、生着ヒト血液リンパ系を生じる。一つの態様において、ヒト血液リンパ系は、生着後、4ヶ月目、5ヶ月目、6ヶ月目、7ヶ月目、8ヶ月目、9ヶ月目、10ヶ月目、11ヶ月目、または12ヶ月目に存在する。具体的な態様において、ヒト血液リンパ系は、赤血球系統の細胞を含む。
【0063】
赤血球系統の細胞には、赤血球および赤血球を生じる細胞が含まれる。「赤血球」には、赤血球(red cells)または赤血球(red corpuscles)とも呼ばれる成熟赤血球(red blood cells)が含まれる。赤血球を生じる細胞には、赤血球始原細胞、即ち、増殖性の多能性細胞、および赤血球前駆細胞、即ち、赤血球になるよう運命付られた増殖性または非増殖性の細胞が含まれる。
【0064】
赤血球は、循環血の主要な細胞要素であり、主な機能として、酸素を輸送する。血液1立方ミリメートル当たりの赤血球の数は、一般的に、男性においては450万~550万、女性においては420万~480万に維持されている。それは、年齢、活動量、および環境条件によって変動する。例えば、標高10,000フィートを超えると、通常、800万/mm3のレベルへの増加が起こり得る。赤血球は、通常、110~120日間生存し、その後、血流から除去され、細網内皮系によって分解される。1日当たり1%よりわずかに多い速度で新しい赤血球が産生され;従って、一般的には一定のレベルが維持される。急性の失血、溶血性貧血、または慢性酸素欠乏は、赤血球生成の大幅な増加を引き起こし得る。
【0065】
赤血球は、長骨の骨髄内の造血幹細胞に起因し、骨髄系共通始原細胞(CD123+,CD34+,c-kit+,Flt3+);巨核球・赤芽球始原細胞(CD34+,CD38+,CD45RA-);前赤芽球(正常の場合、前正赤芽球とも呼ばれ、異常の場合、前巨赤芽球とも呼ばれる;大きいCD71+,EpoR+,c-kit+,Ter119+始原細胞);好塩基性赤芽球(細胞質が好塩基性であり、核が大きく凝集染色質を有し、核小体が消失している);多染性赤芽球(中間正赤芽球とも呼ばれ、核染色質が増加した凝集を示し、細胞質がヘモグロビンを獲得し始め、好酸性の色合いを呈する);正染性正赤芽球(核が小さく、最終的には、青~黒色の均質で無構造の塊になる、核損失の前の最終段階);ならびに網状赤血球(循環CD235+,CD71+細胞;細胞は以前の核の部位における糸および粒子の綱目状パターンを特徴とする)を含む連続的な細胞段階を通して赤血球へと発達する
【0066】
成熟赤血球は、直径約6~8μmの両凹の円型または卵形の円盤として末梢スメアに出現する。それらは、ヘモグロビンを含有しており、細胞の両凹性による中心の青白いゾーンを有し、非赤血球細胞と比べて上昇した細胞表面マーカーCD235およびCD59の発現によって、フローサイトメトリーまたは免疫組織化学ベースの方法によって容易に同定され得る。
【0067】
例えば、本開示の
図5、パネルAおよび
図5、パネルBにおいて証明されるように、本開示の、生着がなされた非ヒト動物のゲノムからのEPOプロモーターの調節下でのhEPOの発現は、骨髄内の赤血球系統のヒト細胞(CD235a+)の数を平均で約2倍(例えば、約11%から約22%へ)増加させる。ヒトSirpaの発現は、この効果を増強し、ヒトEPOもヒトSirpaも発現しない動物と比べて、骨髄内のヒトCD235a+細胞の提示の平均で3倍以上(即ち、約11%から約33%へ)の増加をもたらす(
図5、パネルA)。従って、本開示の、生着がなされた、hEPOを発現する免疫不全の遺伝子改変非ヒト動物は、ヒト赤血球生成の研究、ヒト赤血球生成をモジュレートする(例えば、促進するかまたは抑制する)薬物の開発における用途を有する。
【0068】
さらに、例えば、
図6において証明されるように、ヒトHSCが生着したhEPOを発現する動物のクロドロン酸処置は、これらの動物の末梢血中のCD235+赤血球細胞(CD71+網状赤血球を含む、
図6、パネルB)の数を、未処置対照と比較して、1000倍に、即ち、末梢の全赤血球の約1%へと増加させる。重要なこととして、例えば、
図7において証明されるように、HSCが生着したヒトEPOを発現する動物において、これらの生着レベルで産生されたヒト赤血球は、熱帯熱マラリア原虫に感染しやすい。従って、本明細書に記載されるhEPOを発現する遺伝子改変された非ヒト動物は、赤血球系統のヒト細胞を標的とする寄生虫、例えば、マラリアまたはマラリア様疾患をもたらす病原体による感染の動物モデルの生成における具体的な用途を有する。
【0069】
従って、本発明のいくつかの局面において、本発明の遺伝子改変動物は、ヒト造血細胞が生着しており、ヒト病原体による感染を含む非ヒト動物である。これらの態様において特に関心対象となるのは、赤血球系統のヒト細胞を標的とするヒト病原体である。そのような病原体の非限定的な例には、プラスモディウム属、バベシア属、タイレリア属等の原虫が含まれる。より詳細に以下に説明されるように、ヒト造血細胞が生着した本発明の遺伝子改変された非ヒト動物は、関心対象の病原体に動物を感染させるための当技術分野において公知であるかまたは本明細書に記載される任意の適切な方法を使用して、ヒト病原体に感染させられ得る。そのように感染した動物は、典型的には、ギムザ染色血液スメアによる改変された形態学を含む寄生虫血症の兆候、ならびに全赤血球濃度の重度の減少(例えば、50%)および貧血を示すであろう。
【0070】
本発明の遺伝子改変マウスを作製する方法
本発明のいくつかの局面において、本開示の本発明の非ヒト動物を作製する方法が提供される。本発明の方法の実施において、例えば、非ヒト動物ゲノムのEPO遺伝子座において、EPOプロモーター、例えば、非ヒト動物EPOプロモーターに機能的に連結されたhEPOタンパク質をコードする核酸配列を含む非ヒト動物が生成される。
【0071】
EPOプロモーターに機能的に連結されたhEPOタンパク質をコードする核酸配列を含む非ヒト動物の生成は、例えば、当技術分野において公知であるかまたは本明細書に記載されるような、遺伝子改変動物を作製する任意の便利な方法を使用して、達成され得る。
【0072】
例えば、hEPOタンパク質をコードする核酸を、宿主細胞のゲノムへの挿入および非ヒト宿主細胞におけるヒトタンパク質の発現のために適当な形態で、組換えベクターへ組み入れることができる。様々な態様において、組換えベクターは、上記のように、核酸のmRNAへの転写およびmRNAのヒトタンパク質への翻訳を可能にする様式で、ヒトタンパク質をコードする核酸に機能的に連結された1種または複数種の制御配列を含む。ベクターの設計は、トランスフェクトされるべき宿主細胞の選択、および/または発現されるべきヒトタンパク質の量のような因子に依り得ることが理解されるであろう。
【0073】
次いで、ヒト遺伝子を発現する遺伝子改変動物を作製するため、ヒト核酸配列を動物細胞へ導入するために、様々な方法のいずれかを使用することができる。そのような技術は、当技術分野において周知であり、前核微量注入、胚性幹細胞の形質転換、相同組換え、およびノックイン技術を含むが、これらに限定されない。使用され得る遺伝子改変動物を生成する方法には、SundbergおよびIchiki(2006,Genetically Engineered Mice Handbook,CRC Press)、Hofkerおよびvan Deursen(2002,Genetically modified Mouse Methods and Protocols,Humana Press)、Joyner(2000,Gene Targeting:A Practical Approach,Oxford University Press)、Turksen(2002,Embryonic stem cells:Methods and Protocols in Methods Mol Biol.,Humana Press)、Meyerら(2010,Proc.Nat.Acad.Sci.USA 107:15022-15026)、ならびにGibson(2004,A Primer Of Genome Science 2nd ed.Sunderland,Massachusetts:Sinauer)、米国特許第6,586,251号、Rathinamら(2011,Blood 118:3119-28)、Willingerら(2011,Proc Natl Acad Sci USA,108:2390-2395)、Rongvauxら(2011,Proc Natl Acad Sci USA,108:2378-83)、ならびにValenzuelaら(2003,Nat Biot 21:652-659)に記載されたものが含まれるが、これらに限定されない。
【0074】
例えば、本発明の遺伝子改変動物は、例えば、微量注入によって、ヒトタンパク質をコードする核酸を卵母細胞へ導入し、卵母細胞を雌養育動物において発達させることによって作製され得る。好ましい態様において、発現物は、受精卵母細胞へ注入される。過排卵雌から、交配の翌日に、受精卵母細胞を収集し、発現構築物を注入することができる。注入された卵母細胞を、一晩培養するか、または交尾後0.5日の偽妊娠雌の卵管へ直接移入する。過排卵、卵母細胞の採集、発現構築物注入、および胚移入のための方法は、当技術分野において公知であり、Manipulating the Mouse Embryo(2002,A Laboratory Manual,3rd edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press)に記載されている。DNA分析(例えば、PCR、サザンブロット、DNA配列決定等)またはタンパク質分析(例えば、ELISA、ウエスタンブロット等)によって、導入された核酸の存在について、派生動物を評価することができる。
【0075】
別の例として、電気穿孔、リン酸カルシウム沈殿、およびリポフェクション等のような周知の方法を使用して、ヒトタンパク質をコードする核酸配列を含む構築物を、幹細胞(例えばES細胞またはiPS細胞)へトランスフェクトすることができる。DNA分析(例えば、PCR、サザンブロット、DNA配列決定等)またはタンパク質分析(例えば、ELISA、ウエスタンブロット等)によって、導入された核酸の存在について、細胞を評価することができる。次いで、発現構築物が組み入れられたと決定された細胞を、着床前胚へ微量注入することができる。本発明の組成物および方法のために有用な当技術分野において公知の方法の詳細な説明については、Nagyら(2002,Manipulating the Mouse Embryo:A Laboratory Manual,3rd edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press)、Nagyら(1990,Development 110:815-821)、米国特許第7,576,259号、米国特許第7,659,442号、米国特許第7,294,754号、およびKrausら(2010,Genesis 48:394-399)を参照すること。
【0076】
さらに、下記の実施例のいくつかにおいて記載されるように、VELOCIGENE(登録商標)遺伝子工学テクノロジー(例えば、Valenzuela et al.(2003)高分解能発現分析とカップリングされたマウスゲノムのハイスループット工学(High throughput engineering of the mouse genome coupled with high-resolution expression analysis)Nature Biotech.21(6):652-59および米国特許第6,586,251号を参照すること)を使用して核酸構築物を構築し、幹細胞(例えば、ES細胞)へ導入し、正確にターゲティングされたクローンを、対立遺伝子喪失アッセイおよび対立遺伝子獲得アッセイ(Valenzuela et al.(前記))を使用して決定することができ;正確にターゲティングされたES細胞を、VELOCIMOUSE(登録商標)法(例えば、米国特許第7,294,754号およびPoueymirou et al.2007,直接表現型分析を可能にするドナー遺伝子によってターゲティングされたES細胞に本質的に完全に由来するF0世代マウス(F0 generation mice that are essentially fully derived from the donor gene-targeted ES cells allowing immediate phenotypic analyses)Nature Biotech.25(1):91-99を参照すること)を使用して、8細胞期マウス胚へ導入するためのドナーES細胞として使用することができる。
【0077】
遺伝子改変された初代動物を、遺伝子改変を保持する付加的な動物と交雑させることができる。本開示のヒトタンパク質をコードする核酸を保持する遺伝子改変動物を、さらに、他の遺伝子改変を保持する他の遺伝子改変動物、例えば、hSIRPaノックインマウス、hIL-3ノックインマウス、hGM-CSFノックインマウス、hM-CSFノックインマウス、hTPOノックインマウス、hIL-6ノックインマウス等と交雑させるか、またはノックアウト動物、例えば、1種もしくは複数種のタンパク質を欠いており、例えば、その遺伝子のうちの1種もしくは複数種を発現しない非ヒト動物、例えば、Rag2欠損動物、Il2rg欠損動物と交雑させることができる。
【0078】
別の態様において、いくつかの遺伝子改変、例えば、本明細書に記載されたヒト化または遺伝子欠失を含むよう、幹細胞、例えば、ES細胞を生成することができ、いくつかの遺伝子改変を有する遺伝子改変動物を生成するため、そのような幹細胞を胚へ導入することができる。
【0079】
前述のように、いくつかの態様において、本発明の遺伝子改変された非ヒト動物は、免疫不全動物である。免疫不全であり、1種または複数種のヒトタンパク質、例えば、hEPO、hSIRPa、hIL-3、hGM-CSF、hM-CSF、および/またはhTPOを含む、遺伝子改変された非ヒト動物は、例えば、当技術分野において公知であるかもしくは本明細書に記載されるような、遺伝子改変動物の生成のための任意の便利な方法を使用して生成され得る。例えば、遺伝子改変された免疫不全動物の生成は、本明細書中の前記および実施例においてさらに詳細に記載されるような、ホモ接合性である時に免疫不全をもたらすであろう変異SCID遺伝子対立遺伝子を含む卵母細胞または幹細胞への、ヒトタンパク質をコードする核酸の導入によって達成され得る。次いで、例えば、本明細書に記載され当技術分野において公知である方法を使用して、改変された卵母細胞またはES細胞を有するマウスを生成し、所望の遺伝子改変を含む免疫不全マウスを作製するため、交尾させる。別の例として、遺伝子改変された非ヒト動物を、免疫適格バックグラウンドで生成し、ヘミ接合性またはホモ接合性である時に免疫不全をもたらすであろう変異遺伝子対立遺伝子を含む動物と交配させ、その子孫を交尾させて、少なくとも1種の関心対象のヒトタンパク質を発現する免疫不全動物を作製することができる。
【0080】
いくつかの態様において、遺伝子改変マウスは、マウスに存在する可能性のある内在性造血細胞を排除するために処置される。一つの態様において、処置は、遺伝子改変マウスに照射する工程を含む。具体的な態様において、遺伝子改変された新生仔マウスに致死線量未満を照射する。具体的な態様において、新生仔は、4時間間隔で、200cGyを2回照射される。
【0081】
本発明の様々な態様は、実質的に全ての細胞にヒト核酸を含む遺伝子改変動物、および全てではなく一部の細胞にヒト核酸を含む遺伝子改変動物を提供する。いくつかの場合、例えば、標的特異的な組換えにおいては、ヒト核酸の1コピーが、遺伝子改変動物のゲノムへ組み込まれるであろう。他の場合、例えば、ランダム組込みにおいては、互いに隣接しているかまたは離れているヒト核酸の複数コピーが、遺伝子改変動物のゲノムへ組み込まれ得る。
【0082】
従って、いくつかの態様において、本発明の遺伝子改変された非ヒト動物は、対応する非ヒト動物プロモーターに機能的に連結されたヒトポリペプチドをコードする核酸を含むゲノムを含み、かつコードされたヒトポリペプチドを発現する免疫不全動物であり得る。換言すると、本発明の遺伝子改変された免疫不全非ヒト動物は、対応する非ヒトプロモーターおよびポリアデニル化シグナルに機能的に連結された、少なくとも1種のヒトポリペプチドをコードする核酸を含むゲノムを含み、かつコードされたヒトポリペプチドを発現する。
【0083】
前述のように、いくつかの態様において、本発明の遺伝子改変された非ヒト動物は、ヒト造血細胞が生着している。当技術分野において公知であるかもしくは本明細書に記載されるような、ヒト造血細胞、ヒト造血幹細胞(HSC)、および/またはヒト造血幹始原細胞(HSPC)の任意の起源、例えば、臍帯血、胎児肝臓、骨髄、iPSC等が、本開示の遺伝子改変された非ヒト動物へ移植され得る。一つの態様において、造血細胞は、ヒト臍帯血細胞およびヒト胎児肝臓細胞より選択される。移植される細胞の量は、当業者によって十分に理解されるか、または経験的に決定され得る。一つの態様において、生着は、約1~2×105個のヒトCD34+細胞による。細胞は、当技術分野において公知の任意の便利な技術、例えば、尾静脈注入、後眼窩注入、新生仔肝臓への注入等を使用して、宿主である本発明の非ヒト動物へ移植され得る。細胞は、任意の便利な緩衝溶液、例えば、PBS、ダルベッコ改変培地、イスコフ改変培地等で宿主へ移植され得る。いくつかの場合において、免疫不全を改善するため、例えば、前記のように、生着前に動物を照射することができる。
【0084】
そのように生着がなされたヒト造血細胞は、CD34+細胞、造血幹細胞、造血細胞、骨髄系前駆細胞、骨髄系細胞、樹状細胞、単球、顆粒球、好中球、マスト細胞、胸腺細胞、T細胞、B細胞、血小板、赤血球、およびそれらの組み合わせより選択される1種または複数種のヒト細胞を生じる。一つの態様において、ヒト細胞は、生着後、4ヶ月目、5ヶ月目、6ヶ月目、7ヶ月目、8ヶ月目、9ヶ月目、10ヶ月目、11ヶ月目、または12ヶ月目に存在する。例えば、関心対象の様々なヒト造血細胞についてのフローサイトメトリーアッセイ、血液スメア、および免疫組織化学を含む多数のアッセイのいずれかを、生着が成功したことを確認するため、実施することができる。
【0085】
前述のように、いくつかの態様において、ヒト造血細胞が生着した本発明の遺伝子改変された非ヒト動物は、ヒト病原体に感染している。これらの態様において特に関心対象となるのは、赤血球系統のヒト細胞を標的とするヒト病原体である。そのような病原体の非限定的な例には、プラスモディウム属、バベシア属、タイレリア属等の原虫が含まれる。いくつかの態様において、使用される病原体の株は、天然に存在する株である。ある種の態様において、使用される株は、ヒト赤血球が生着した免疫不全マウスにおいて繁殖可能に増殖する能力についてインビボで選択されたもの、例えば、熱帯熱マラリア原虫株Pf3D70087/N9またはPf3D70087/N5である。
【0086】
本発明の、生着がなされた免疫不全動物は、赤血球系統の細胞を標的とする病原体に動物を感染させるための当技術分野において公知の任意の方法を使用して感染させられ得る。例えば、本発明の、生着がなされた免疫不全動物に、寄生された赤血球(PRBC)を腹腔内接種することができる。例えば、Badell et al.(2000)免疫低下マウスにおけるヒトマラリア:熱帯熱マラリア原虫に対する防御機序を研究するためのインビボモデル JEM 192(11):1653-1660;およびMoreno et al.(2006)熱帯熱マラリア原虫実験株および臨床単離物を接種された免疫調節NOD/LtSz-SCIDマウスにおける感染および病理の経過 Int.J.Parasitol.36:361-369を参照すること。別の例として、本発明の、生着がなされた免疫不全動物に、寄生された赤血球を血管内接種することができる。例えば、Angulo-Barturen et al.(2008)ヒト赤血球が生着した骨髄非枯渇マウスにおけるコンピテント株のインビボ選択による熱帯熱マラリアのマウスモデル PLoS One 3:e2252;およびJimenez-Diaz et al.(2009) 熱帯熱マラリア原虫コンピテント株およびヒト赤血球が生着した骨髄非枯渇NOD-scid IL2Rgヌルマウスを使用したマラリアの改良されたマウスモデル Antimicrob Agents Chemother 53:4533-4536を参照すること。いくつかの態様において、感染は、非ヒト動物へ寄生虫を注入することによって作製され、即ち、赤血球細胞に関連しない。いくつかの態様において、本発明の、生着がなされた免疫不全動物は、感染前および/または感染中にインビボの食細胞の化学的枯渇を受ける。そのような態様において、例えば、本明細書中の実施例において記載されるようなクロドロン酸;例えば、Badell et al.(前記)およびMoreno et al.(前記)に記載されたようなジクロロメチレン二リン酸;Badell et al.(前記)およびMoreno et al.(前記)に記載されたような多形核好中球に特異的なモノクローナル抗体、例えば、NIMP-R14等を例えば含む、宿主の食細胞を選択的に枯渇させる任意の化学療法剤を、本発明の動物へ投与することができる。
【0087】
本開示の感染した遺伝子改変非ヒト動物における寄生虫血症のパーセントは、当技術分野における任意の便利な方法によって、例えば、注入の3日後、例えば、ギムザ染色血液スメアから顕微鏡によって;または、例えば、TER-119 mAbの存在下もしくは非存在下で、フローサイトメトリーによって、例えば、核酸色素YOYO-1もしくは細胞透過性色素SYTO-16の発光の測定によって評価され得る。例えば、Jimenez-Diaz et al. SYTO-16蛍光の二次元査定を使用したフローサイトメトリーによるマラリアのマウスモデルにおけるマラリア原虫感染赤血球の定量的測定(Quantitative measurement of Plasmodium-infected erythrocytes in murine models of malaria by flow cytometry using bidimensional assessment of SYTO-16 fluorescence.)Cytometry A 2009,75:225-235を参照すること。
【0088】
本発明の遺伝子改変マウスの使用
マウスのインビボ環境においてヒト組織を研究する能力は、一連の可能性のある研究の道を開いた。主要な限界が、アプローチの適用を妨害しており、これらのうち最も重要な欠損の一つは、マウス因子がヒト細胞を支持することができないことであった。実際、免疫系において、ヒト免疫細胞の発達および機能のために必要とされる多くの必須の因子が、種特異的であり、マウスによって効果的に提供され得ない。従って、マウス遺伝子をヒトカウンターパートに置換して、ヒト細胞のよりよい発達および機能を可能にし、対応するマウス細胞のそれを潜在的に不可能にする戦略をとることを決定した。この概念をヒトサイトカインEPOに適用することによって、マウスEPOタンパク質をコードする核酸配列の、ヒトEPOタンパク質をコードする核酸配列への置換が、マウスにおいて、生着させられたヒト免疫系における赤血球系統の細胞の発達および機能を改善することが、本明細書において示される。
【0089】
例えば、実施例は、例えば、
図5において、非ヒト動物のゲノムにおけるEPOプロモーターの調節下での核酸配列からのhEPOの発現が、ヒトHSCが生着した動物の骨髄において発達する赤血球系統のヒト細胞(CD235a+)の数を、約2倍(即ち、約11%から約22%へ)増加させることを証明する。ヒトSirpaの発現は、この効果を増強し、ヒトEPOもヒトSirpaも発現しない動物と比較して、骨髄内のヒトCD235a+細胞の提示の全部で3倍(即ち、約11%から約33%へ)の増加をもたらす(
図4a)。さらに、例えば、
図6において証明されるように、ヒトEPOを発現するヒトHSCが生着した動物のクロドロン酸処置は、これらの動物の末梢血中のCD235+赤血球細胞(CD71+網状赤血球を含む、
図6、パネルB)の数を、未処置対照より、1000倍、即ち、全赤血球の約1%へと増加させる。重要なこととして、例えば、
図7において証明されるように、ヒトEPOを発現するHSCが生着した動物におけるこれらの生着レベルで産生されたヒト赤血球は、熱帯熱マラリア原虫のようなプラスモディウム属の種に感染しやすい。従って、本明細書に記載されるようなヒトEPOを発現する遺伝子改変された非ヒト動物は、マラリア原虫に感染しやすいか、または現在の齧歯類モデルにおいて感染前に動物へ急性に移植されるヒト赤血球をよりよく支持するであろう動物の生成における具体的な用途を有する。
【0090】
従って、本開示の遺伝子改変された非ヒト動物は、当技術分野における多くの用途を有する。例えば、本開示の、生着がなされた遺伝子改変動物は、ヒト赤血球生成およびヒト赤血球の機能を研究するために有用である。別の例として、本開示の、生着がなされた遺伝子改変マウスは、インビボの所望の活性について候補薬剤をスクリーニングするため、例えば、健康もしくは疾患の状態における、例えば、癌細胞としての、病原体感染中等の、例えば、ヒト赤血球生成および/もしくはヒト赤血球の機能をモジュレートする(即ち、促進するかもしくは抑制する)ことができる薬剤を同定するため、例えば、新規治療薬を同定するため;または別の例として、赤血球系統のヒト細胞にとって毒性である薬剤を同定し、赤血球系統のヒト細胞に対する毒性薬剤の毒性作用を防止するか、和らげるか、もしくは逆転させる薬剤を同定するため等に有用な系を提供する。さらに別の例として、本開示の、生着がなされた遺伝子改変動物は、例えば、個体の薬剤に対する応答性を予測するための、薬剤、例えば、治療剤に対する個体の免疫系の応答性をスクリーニングするためのインビボのプラットフォームを提供することによって、疾患治療に対する個体の応答性を予測するために有用な系を提供する。
【0091】
一つの非限定的な例として、本開示の、生着がなされた遺伝子改変マウスは、ヒト赤血球細胞を標的とする寄生虫、例えば、マラリア原虫、バベシア、タイレリア等による病原体感染のマウスモデルの生成における用途を有する。そのような感染のマウスモデルは、例えば、ヒトにおける感染の進行をよりよく理解するための研究においても、例えば、そのような寄生虫による感染に対して保護するかまたはそれを処置する候補薬剤を同定するための薬物発見においても有用であろう。
【0092】
プラスモディウム属の原虫は、ヒトにおけるマラリアの原因である。マラリアは、感染したハマダラカ属(Anopheles)の蚊による刺咬から開始し、それらが唾液を介して原虫を循環系へ導入し、最終的には肝臓へ導入し、そこで、原虫が成熟し繁殖する。次いで、原虫は血流に入り、様々な成熟段階の赤血球系統の細胞を感染させる。
【0093】
マラリア原虫の五つの種が、ヒトを感染させ、ヒトによって伝達され得る。死亡の大部分は、熱帯熱マラリア原虫によって引き起こされ、三日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫(P.ovale)、および四日熱マラリア原虫(P.malariae)は、ほとんど致命的でない一般により軽度の型のマラリアを引き起こす。これは、各種によって標的とされる細胞の型に少なくとも一部分よると考えられる:熱帯熱マラリア原虫は、全ての成熟度の赤血球(RBC)において成長するが、例えば、三日熱マラリア原虫は、末梢の全RBCのおよそ1%~2%のみを表す網状赤血球における成長に制限されている。さらに、熱帯熱マラリア原虫は、他のヒトマラリアには共有されない特徴的な特性、即ち、血管付着(sequestration)という特性を介して重度のマラリアを引き起こす。48時間の無性赤血球期サイクル内で、成熟型は、感染赤血球の表面特性を変化させ、血管への付着を引き起こす(細胞接着と呼ばれる過程)。これは、微小循環系の閉塞をもたらし、複数の器官の機能障害をもたらす。
【0094】
マラリアの症状には、発熱、悪寒、頭痛、発汗、疲労、貧血、悪心、乾性(痰を伴わない)咳嗽、筋肉痛および/または腰痛、ならびに脾腫が含まれる。マラリアに関連したその他の症状および合併症には、脳感染(脳炎)、溶血性貧血、腎不全、肝不全、髄膜炎、肺水腫、および脾臓からの出血が含まれる。一般に、マラリア発症のリスクを有する個体は、感染の7日後以降、例えば、熱帯熱マラリア原虫による初感染の9~14日後、三日熱マラリア原虫もしくは卵形マラリア原虫による初感染の12~18日後、四日熱マラリア原虫による初感染の18~40日後、または二日熱マラリア原虫(P.knowlesi)による初感染の11~12日後に症状を示し始めるであろう。マラリアを処置するかまたは防止するために当技術分野において使用される抗マラリア剤には、クロロキン、キニジン、ドキシサイクリン、テトラサイクリン、クリンダマイシン、アトバコン+プログアニル(Malarone)、メフロキン、アーテスネート、およびピリメタミン+スルファドキシン(Fansidar)が含まれる。
【0095】
対象がマラリア原虫に感染しているか否かを決定する方法は、当技術分野において周知であり、例えば、血液フィルムを使用した血液の顕微鏡検査、抗原ベースの迅速診断テスト(RDT)、例えば、イムノクロマトグラフィベースのRDT、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による寄生虫DNAの検出等を含む。任意の便利な方法が、対象のヒト赤血球が病原体に感染しているか否かを決定するため、使用され得る。
【0096】
関心対象の病原体の別の例は、バベシア属の原虫である。バベシア感染は、バベシア症と呼ばれるマラリア様疾患をもたらす。バベシア症は、クロアシマダニ(Ixodes scapularis)というマダニによって一般的に伝達される昆虫媒介病である。この疾患は、典型的には、ヒトにおいては、B.ミクロチ(microti)によって、イヌにおいては、B.カニスロッシ(canis rossi)およびB.カニスカニス(canis canis)によって、雌ウシにおいては、B.ボビス(bovis)によって、ウシにおいては、B.ビゲミナ(bigemina)によって引き起こされる。ヒトを感染させるバベシア・ミクロチは、ライム病およびエーリキア症と同一の媒介マダニを使用し、これらの他の疾患と共に起こる場合がある。原虫は輸血によっても伝達され得る。
【0097】
ヒトにおいて、バベシア症は、無症候性の場合もあるし、または軽度の発熱および下痢から高熱、悪寒戦慄、および重度の貧血にまで及ぶ症状を特徴とする場合もある。重症例においては、呼吸促迫症候群を含む臓器不全が起こり得る。重症例は、最も多くは、脾臓摘出を受けた人々、またはHIV/エイズ患者のような免疫不全を有する人において起こる。処置は、典型的には、キニーネおよびクリンダマイシンまたはアトバコンおよびアジスロマイシンの2剤併用計画を含む。バベシア症が生命に関わると考えられた場合には、感染赤血球を除去し、未感染赤血球に交換する、交換輸血が実施される。
【0098】
バベシア感染の確定診断は、ギムザ染色された薄い血液スメアにおける寄生虫の同定による。寄生虫は、ヒトにおいては「マルタクロス形成」または動物においては「双梨」を形成するメロゾイト対として赤血球中に現れる。他の診断法には、末梢血のPCRおよびバベシアに対する抗体(IgG、IgM)についての血清学的試験が含まれる。
【0099】
さらに別のマラリア様疾患、タイレリア症は、タイレリア属の原虫によって引き起こされる。タイレリア症は、ヒトにおいては、T.ミクロチによって;ウマにおいては、T.エクイ(equi)によって(「ウマピロプラズマ症」);ヒツジおよびヤギにおいては、T.レストクアルジ(lestoquardi)によって;ウシ、アフリカスイギュウ、スイギュウ、およびウォーターバックにおいては、T.アヌラタ(annulata)(「地中海タイレリア症」としても公知の「熱帯タイレリア症」)またはT.パルバ(parva)(「コリドー(Corridor)病」としても公知の「東海岸熱」)によって引き起こされる。タイレリア症は、クロアシマダニ、コイタマダニ(Rhipicephalus)、カクマダニ(Dermacentor)、チマダニ(Haemaphysalis)、およびイボマダニ(Hyalomma)を含む様々なマダニ種によって宿主へ伝達される。これらの生物は、ライフステージが進むにつれ、マダニにおいて繁殖し、マダニが宿主に付着した後、成熟し、唾液に侵入する。一般的には、マダニが数日間付着した後、初めて、感染性になる。しかしながら、環境温度が高い場合には、感染性スポロゾイトが、地面上のマダニにおいて発達することができ、付着から数時間以内に宿主に侵入することができる。
【0100】
ヒトにおけるタイレリア症は、典型的には、発熱および溶血を呈する。タイレリア感染の確定診断は、ギムザ染色された薄い血液スメアにおける寄生虫の同定による。
【0101】
本開示の、生着がなされた遺伝子改変動物は、ヒト赤血球を標的とするマラリア原虫、バベシア、タイレリア、およびその他の寄生虫による感染を防止するもの(例えばワクチン)または処置するものを同定するための、候補薬剤のスクリーニングにおける用途を有する。「処置」、「処置する」等の用語は、一般に、所望の薬理学的効果および/または生理学的効果の入手を含むよう、本明細書において使用される。効果は、疾患もしくはその症状の完全なもしくは部分的な防止という点で予防的であってもよいし、かつ/または疾患および/もしくは疾患に起因する有害効果の部分的なもしくは完全な治癒という点で治療的であってもよい。「処置」には、本明細書において使用されるように、哺乳動物における疾患の任意の処置が含まれ、以下のことが含まれる:(a)疾患の素因を有し得るが、まだそれを有していると診断されていない対象において疾患の発生を防止すること;(b)疾患を阻害すること、即ち、その発症を阻止すること;または(c)疾患を軽減すること、即ち、疾患の退行を引き起こすこと。抗寄生虫治療薬として重要な候補薬剤には、寄生虫感染の前、途中、または後に投与され得、有効量で投与された時に、例えば、寄生虫または寄生虫に感染した細胞の死滅、寄生虫の伝播の防止、個体に対して毒性の寄生虫によって産生される薬剤(即ち、毒素)の産生または作用の防止等によって、個体(即ち、宿主)における寄生虫の効果を阻害するものが含まれる。「個体」、「対象」、「宿主」、および「患者」という用語は、本明細書において交換可能に使用され、診断、処置、または治療が望まれる任意の哺乳動物対象、具体的には、ヒトを含む。
【0102】
生物学的活性を有する薬剤についてのスクリーニングアッセイにおいて、本開示のヒト造血細胞が生着した遺伝子改変非ヒト動物、例えば、生着がなされたRag2-/-Il2rgnullEpoh/mマウス、生着がなされたRag2-/-Il2rgnullTpoh/hIl3/Gmcsfh/hEpoh/mSIRPαh/h(「TIES」)マウス、生着がなされたRag2-/-IL2rgy/-Tpoh/hMcsfh/hIl3h/hGmcsfh/hEpoh/hhSIRPα+(「MISTER-G」)マウス、生着がなされたRag2-/-Il2rgnullTpoh/hMcsfh/hIl3/Gmcsfh/hEpoh/hSIRPα-tg+(「SupER-G」)マウス等を、関心対象の候補薬剤と接触させ、1種または複数種のアウトプットパラメータをモニタリングすることによって、候補薬剤の効果を査定する。これらのアウトプットパラメータは、当技術分野において周知の方法によって、細胞の生存率、例えば、造血細胞の総数もしくは特定の造血細胞型の細胞の数、または細胞のアポトーシス状態、例えば、DNA断片化の量、細胞小疱形成の量、細胞表面上のホスファチジルセリンの量等を反映し得る。あるいはまたはさらに、アウトプットパラメータは、細胞の分化能、例えば、分化細胞および分化細胞型の割合を反映し得る。あるいはまたはさらに、アウトプットパラメータは、細胞の機能、例えば、細胞によって産生されたサイトカインおよびケモカイン、細胞によって産生された抗体(例えば、量または型)、チャレンジの部位へホーミングし血管外遊出する細胞の能力、インビトロまたはインビボで他の細胞の活性をモジュレートする、即ち、促進するかまたは抑制する細胞の能力、ヘモグロビンを取り込む能力等を反映してもよい。さらに他のパラメータは、動物における感染、例えば、病原体感染に対する薬剤の効果、例えば、実施されている研究に関連する、マウスにおける病原体の力価等を反映し得る。
【0103】
パラメータは、ハイスループット系において望ましいように、細胞の定量可能な成分、特に、正確に測定することが可能な成分である。パラメータは、細胞表面決定因子、受容体、タンパク質もしくはその立体構造的修飾もしくは翻訳後修飾、脂質、炭水化物、有機もしくは無機の分子、核酸、例えば、mRNA、DNA等を含む細胞成分もしくは細胞産物、またはそのような細胞成分に由来する一部、またはそれらの組み合わせであり得る。大部分のパラメータは定量的リードアウトを提供すると考えられるが、いくつかの場合においては、半定量的または定性的な結果が許容されると考えられる。リードアウトには、単一の決定値が含まれてもよいし、または平均値、中央値、もしくは分散等が含まれてもよい。特徴的に、多数の同一アッセイから、各パラメータについて、一連のパラメータリードアウト値が入手されると考えられる。可変性があることが予想され、単一の値を提供するために使用された一般的な統計法と共に標準的な統計法を使用して、テストパラメータのセットの各々についての一連の値が入手されると考えられる。
【0104】
スクリーニングのための関心対象の候補薬剤には、多数の化学的クラス、主として有機分子を包含する公知および未知の化合物が含まれ、有機金属分子、無機分子、遺伝子配列、ワクチン、抗生物質または抗菌特性を有すると推測されるその他の薬剤、ペプチド、ポリペプチド、抗体、ヒトにおいて使用するために認可された医薬品である薬剤等が含まれ得る。本発明の重要な局面は、例えば、毒性試験等を含む候補薬物の評価である。
【0105】
候補薬剤には、構造的相互作用、具体的には、水素結合のために必要な官能基、典型的には、少なくとも1個のアミン基、カルボニル基、水酸基、またはカルボキシル基を含み、多くの場合、少なくとも2個の官能性化学基を含む有機分子が含まれる。候補薬剤は、しばしば、上記の官能基のうちの1種または複数種によって置換された環式炭素構造もしくは複素環式構造および/または芳香族構造もしくは多環芳香族構造を含む。候補薬剤は、ペプチド、ポリヌクレオチド、糖類、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、それらの誘導体、構造的類似体、または組み合わせを含む生体分子の中にも見出される。薬理活性を有する薬物、遺伝学的活性を有する分子等が含まれる。関心対象の化合物には、化学療法剤、ホルモン、またはホルモンアンタゴニスト等が含まれる。本発明のために適当な薬学的薬剤の例は、"The Pharmacological Basis of Therapeutics,"Goodman and Gilman,McGraw-Hill,New York,N.Y.,(1996),Ninth editionに記載されたものである。毒素ならびに生物兵器剤および化学兵器剤も含まれる。例えば、Somani,S.M.(Ed.),"Chemical Warfare Agents,"Academic Press,New York,1992)を参照のこと。
【0106】
スクリーニングのための関心対象の候補薬剤には、核酸、例えば、siRNA、shRNA、アンチセンス分子、もしくはmiRNAをコードする核酸、またはポリペプチドをコードする核酸も含まれる。標的細胞へ核酸を移入するために有用な多くのベクターが入手可能である。ベクターは、エピソームとして、例えば、プラスミド、ミニサークルDNA、サイトメガロウイルスもしくはアデノウイルス等のようなウイルス由来ベクターとして維持されてもよいし、または相同組換えもしくはランダム組込みを通して、標的細胞ゲノムへ組み込まれてもよい(例えば、MMLV、HIV-1、ALV等のようなレトロウイルス由来ベクター)。ベクターは、本発明の細胞へ直接提供され得る。換言すると、ベクターが細胞によって取り込まれるよう、多能性細胞が、関心対象の核酸を含むベクターと接触させられる。
【0107】
電気穿孔、塩化カルシウムトランスフェクション、およびリポフェクションのような、細胞、例えば、培養細胞またはマウス体内の細胞を、核酸ベクターと接触させる方法は、当技術分野において周知である。あるいは、関心対象の核酸はウイルスを介して細胞へ提供され得る。換言すると、細胞は、関心対象の核酸を含むウイルス粒子と接触させられる。レトロウイルス、例えば、レンチウイルスは、本発明の方法にとって特に適当である。一般に使用されるレトロウイルスベクターは、「欠陥を有する」、即ち、生産的な感染のために必要とされるウイルスタンパク質を産生することができない。その代わり、ベクターの複製は、パッケージング細胞株における増殖を必要とする。関心対象の核酸を含むウイルス粒子を生成するため、その核酸を含むレトロウイルス核酸は、パッケージング細胞株によってウイルスカプシドへパッケージングされる。異なるパッケージング細胞株は、カプシドへ組み入れられる異なるエンベロープタンパク質を提供し、このエンベロープタンパク質が、細胞のためのウイルス粒子の特異性を決定する。エンベロープタンパク質には、同種指向性、両指向性、および異種指向性という少なくとも三つの型がある。同種指向性エンベロープタンパク質によってパッケージングされるレトロウイルス、例えば、MMLVは、大部分のマウスおよびラットの細胞型を感染させることができ、BOSC23のような同種指向性パッケージング細胞株を使用することによって生成される(Pear et al.(1993)P.N.A.S.90:8392-8396)。両指向性エンベロープタンパク質を保持するレトロウイルス、例えば、4070A(Danos et al(前記))は、ヒト、イヌ、およびマウスを含む大部分の哺乳動物細胞型を感染させることができ、PA12(Miller et al.(1985)Mol.Cell.Biol.5:431-437);PA317(Miller et al.(1986)Mol.Cell.Biol.6:2895-2902);GRIP(Danos et al.(1988)PNAS 85:6460-6464)のような両指向性パッケージング細胞株を使用することによって生成される。異種指向性エンベロープタンパク質、例えば、AKR envによってパッケージングされるレトロウイルスは、マウス細胞以外の大部分の哺乳動物細胞型を感染させることができる。関心対象の細胞、いくつかの場合においては、生着させられた細胞、いくつかの場合においては、宿主、即ち、遺伝子改変動物の細胞が、パッケージングされたウイルス粒子によって標的とされることを確実にするため、適切なパッケージング細胞株が使用され得る。
【0108】
関心対象の核酸を本発明の細胞へ提供するために使用されるベクターは、典型的には、関心対象の核酸の発現、即ち、転写を活性化させるために適当なプロモーターを含むと考えられる。これには、遍在性に作用するプロモーター、例えば、CMV-βアクチンプロモーター、または特定の細胞集団において活性であるか、もしくはテトラサイクリンのような薬物の存在に応答するプロモーターのような誘導可能プロモーターが含まれ得る。転写活性化とは、転写が、標的細胞における基底レベルより少なくとも約10倍、少なくとも約100倍、より一般的には、少なくとも約1000倍増加するであろうことを意味する。さらに、本発明の細胞へ再プログラム因子を提供するために使用されるベクターは、例えば、Cre/Loxのようなリコンビナーゼ系を使用して、後に除去されなければならないか、または、例えば、ヘルペスウイルスTK、bcl-xs等のような選択毒性を可能にする遺伝子を含めることによってそれらを発現する細胞が破壊されなければならない遺伝子を含み得る。
【0109】
スクリーニングのための関心対象の候補薬剤には、ポリペプチドも含まれる。そのようなポリペプチドは、任意で、産物の可溶性を増加させるポリペプチドドメインと融合されてもよい。ドメインは、明確なプロテアーゼ切断部位、例えば、TEVプロテアーゼによって切断されるTEV配列を通して、ポリペプチドに連結され得る。リンカーは、1個または複数個のフレキシブルな配列、例えば、1~10個のグリシン残基を含んでいてもよい。いくつかの態様において、融合タンパク質の切断は、産物の可溶性を維持する緩衝液において、例えば、0.5~2M尿素の存在下、可溶性を増加させるポリペプチドおよび/またはポリヌクレオチドの存在下等で実施される。関心対象のドメインには、エンドソーム溶解ドメイン、例えば、インフルエンザHAドメイン;および産生を補助するその他のポリペプチド、例えば、IF2ドメイン、GSTドメイン、GRPEドメイン等が含まれる。さらにまたはあるいは、そのようなポリペプチドは、改善された安定性のために製剤化され得る。例えば、ペプチドはPEG化され得、その場合、ポリエチレンオキシ基は、血流中での増強された寿命を提供する。ポリペプチドは、追加の機能性を提供するため、例えば、インビボの安定性を増加させるため、別のポリペプチドに融合されてもよい。一般に、そのような融合パートナーは、例えば、融合物として存在する時にポリペプチドのインビボ血漿中半減期を延長することができる安定血漿タンパク質であり、具体的には、そのような安定血漿タンパク質は、免疫グロブリン定常ドメインである。同一または異なるポリペプチド鎖が、組み立てられた多鎖ポリペプチドを形成するよう通常ジスルフィド結合および/または非共有結合している多量体形態、例えば、免疫グロブリンまたはリポタンパク質として安定血漿タンパク質が通常見出されるほとんどのケースにおいて、ポリペプチドを含有している本明細書中の融合物も、安定血漿タンパク質前駆体と実質的に同一の構造を有する多量体として作製され、利用されるであろう。これらの多量体は、それらが含むポリペプチド薬剤に関して均質であろう。または、それらは複数種のポリペプチド薬剤を含有していてもよい。
【0110】
候補ポリペプチド薬剤は、真核細胞から産生されてもよいし、または原核細胞によって産生されてもよい。それを、アンフォールド、例えば、熱変性、DTT還元等によってさらに加工してもよく、当技術分野において公知の方法を使用して、さらにリフォールドしてもよい。一次配列を改変しない関心対象の改変には、ポリペプチドの化学的誘導体化、例えば、アシル化、アセチル化、カルボキシル化、アミド化等が含まれる。グリコシル化の修飾、例えば、哺乳動物のグリコシル化酵素または脱グリコシル酵素のようなグリコシル化に影響を与える酵素へポリペプチドを曝すことによって、例えば、合成およびプロセシングの間、またはさらなるプロセシング工程においてポリペプチドのグリコシル化パターンを改変することによって作製されたものも含まれる。リン酸化されたアミノ酸残基、例えば、ホスホチロシン、ホスホセリン、またはホスホトレオニンを有する配列も、包含される。ポリペプチドは、タンパク質分解に対する抵抗性を改善するか、または溶解特性を最適化するか、または治療剤としてより適当なものにするため、通常の分子生物学的技術および合成化学を使用して改変されていてもよい。そのようなポリペプチドの類似体には、天然に存在するL-アミノ酸以外の残基、例えば、D-アミノ酸または天然には存在しない合成アミノ酸を含有しているものが含まれる。D-アミノ酸は、アミノ酸残基のいくつかまたは全部の代わりに用いられ得る。
【0111】
候補ポリペプチド薬剤は、当技術分野において公知であるような従来の方法を使用して、インビトロ合成によって調製され得る。様々な市販の合成装置、例えば、Applied Biosystems,Inc.、Beckman等による自動合成装置が利用可能である。合成装置を使用することによって、天然に存在するアミノ酸を、非天然アミノ酸に置換することができる。特定の配列および調製の様式は、利便性、経済性、必要とされる純度等によって決定されると考えられる。あるいは、候補ポリペプチド薬剤は、従来の組換え合成の方法に従って単離され精製されてもよい。発現宿主の溶解物を調製し、HPLC、排除クロマトグラフィ、ゲル電気泳動、アフィニティクロマトグラフィ、またはその他の精製技術を使用して、溶解物を精製することができる。大部分の場合、使用される組成物は、産物の調製およびその精製の方法に関連した汚染物質に関係して、少なくとも20重量%、より一般的には、少なくとも約75重量%、好ましくは、少なくとも約95重量%、治療目的の場合には、一般的に少なくとも約99.5重量%の所望の生成物を含むと考えられる。一般的には、百分率は全タンパク質に基づくと考えられる。
【0112】
いくつかのケースにおいて、スクリーニングされる候補ポリペプチド薬剤は、抗体である。「抗体」または「抗体部分」という用語には、エピトープに適合し、それを認識する特別な形を有する分子構造を含有しており、1個または複数個の非共有結合性の結合相互作用が、分子構造とエピトープとの間の複合体を安定化する、任意のポリペプチド鎖が含まれるものとする。所定の構造とその特異的なエピトープとの特異的または選択的な適合は、「鍵と鍵穴」適合と時に呼ばれる。原型抗体分子は免疫グロブリンであり、全ての起源、例えば、ヒト、げっ歯類、ウサギ、ウシ、ヒツジ、ブタ、イヌ、他の哺乳動物、ニワトリ、その他のトリ等に由来する全ての型の免疫グロブリン、IgG、IgM、IgA、IgE、IgD等が、「抗体」であると見なされる。本発明において利用される抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体のいずれかであり得る。抗体は、典型的には、細胞が培養された培地中に提供される。抗体の産生およびスクリーニングは、より詳細に以下に記述される。
【0113】
候補薬剤は、合成または天然の化合物のライブラリーを含む多様な起源から入手され得る。例えば、ランダム化されたオリゴヌクレオチドおよびオリゴペプチドの発現を含む多数の手段が、生体分子を含む多様な有機化合物のランダム合成および特異的合成のために利用可能である。あるいは、細菌、真菌、植物、および動物の抽出物の形態の天然化合物のライブラリーが、入手可能であるか、または容易に作製される。さらに、天然のまたは合成的に作製されたライブラリーおよび化合物が、従来の化学的手段、物理的手段、および生化学的手段を通して容易に改変され、コンビナトリアルライブラリーを作製するために使用され得る。既知の薬理学的薬剤を、構造的類似体を作製するため、アシル化、アルキル化、エステル化、アミド化等のような特異的なまたはランダムな化学的改変に供することができる。
【0114】
候補薬剤は、時に、薬剤を欠く試料と共に、少なくとも1個、一般的には、複数個の試料へ薬剤を投与することによって、生物学的活性についてスクリーニングされる。薬剤に応答したパラメータの変化を測定し、参照試料、例えば、薬剤の存在下および非存在下での培養物、他の薬剤によって入手された培養物等との比較によって結果を評価する。病原体の影響を防止するか、和らげるか、または逆転させるであろう候補薬剤を同定するためにスクリーニングが実施される場合において、スクリーニングは、典型的には、病原性物質の存在下で実施され、その場合、病原性物質は、決定されるべき結果にとって最も適切な時点で添加される。例えば、候補薬剤の防御/防止能力が試験されるケースにおいて、候補薬剤は、病原体の前に、病原性物質と同時に、または病原性物質による感染の後に添加され得る。別の例として、病原体の影響を逆転させる候補薬剤の能力が試験されるケースにおいて、病原性物質は、病原体による処理の後に添加され得る。上述のように、いくつかの場合において、「試料」とは、細胞が生着している遺伝子改変された非ヒト動物であり、例えば、候補薬剤は、ヒト造血細胞が生着している、EPOプロモーターに機能的に連結されたヒトEPOをコードする核酸を含む免疫不全動物、例えば、マウスへ提供される。いくつかの場合において、試料は、生着させられるべきヒト造血細胞であり、即ち、候補薬剤は、免疫不全の、遺伝子改変動物への生着より前に細胞、例えば網状赤血球、赤血球などへ提供される。
【0115】
生着がなされた遺伝子改変動物へ候補薬剤が直接投与される場合、薬剤は、ペプチド、低分子、および核酸のマウスへの投与のための当技術分野において周知の多数の方法のいずれかによって投与され得る。例えば、薬剤は、経口的に、粘膜に、局所的に、皮内に、または注入、例えば、腹腔内注入、皮下注入、筋肉内注入、静脈内注入、もしくは頭蓋内注入等によって投与され得る。薬剤は、緩衝液で投与されてもよいし、または、例えば、適切な薬学的に許容される媒体との組み合わせによって、多様な製剤のいずれかへ組み入れられてもよい。「薬学的に許容される媒体」とは、ヒトのような哺乳動物において使用するため、連邦政府もしくは州政府の規制当局によって認可されているか、またはU.S.Pharmacopeiaもしくはその他の一般に認識されている薬局方にリストされている媒体であり得る。「媒体」という用語は、哺乳動物への投与のために本発明の化合物を製剤化するための希釈剤、佐剤、賦形剤、または担体をさす。そのような薬学的媒体は、脂質、例えば、リポソーム、例えば、リポソームデンドリマー;水、および落花生油、大豆油、鉱物油、ゴマ油等のような石油、動物、植物、または合成起源のものを含む油、生理食塩水のような液体;アラビアゴム、ゼラチン、デンプンペースト、タルク、ケラチン、コロイダルシリカ、尿素等であり得る。さらに、助剤、安定剤、濃化剤、滑沢剤、および着色剤が使用されてもよい。薬学的組成物は、錠剤、カプセル、粉末、顆粒、軟膏、溶液、坐薬、注射用、吸入剤、ゲル、マイクロスフェア、およびエアロゾルのような、固体、半固体、液体、または気体の形態で調製物へ製剤化され得る。薬剤は、投与後に全身性であってもよいし、または局部投与、壁内投与の使用、もしくは植え込みの部位に活性用量を保持するよう作用するインプラントの使用によって局所性であってもよい。活性薬剤は、即時活性のために製剤化されてもよいし、または徐放のために製剤化されてもよい。いくつかの状態、具体的には、中枢神経系状態のためには、脳血液関門(BBB)を通過する薬剤を製剤化することが必要であり得る。脳血液関門(BBB)を通した薬物送達のための1種の戦略は、マンニトールもしくはロイコトリエンのような浸透圧性の手段によって、またはブラジキニンのような血管作用物質の使用によって生化学的に、BBBを破壊することを要する。組成物が血管内注入によって投与される時、BBB破壊剤は、薬剤と同時投与され得る。BBBを通り抜ける他の戦略は、カベオリン1によって媒介される経細胞輸送、グルコースおよびアミノ酸の担体のような担体によって媒介されるトランスポーター、インスリンまたはトランスフェリンのための受容体によって媒介される経細胞輸送、ならびにp-糖タンパク質のような能動的な排出トランスポーターを含む、内在性の輸送系の使用を要し得る。血管の内皮壁を横切る輸送を容易にするため、能動輸送部分を、本発明において使用するための治療用化合物にコンジュゲートしてもよい。あるいは、BBB後への薬剤の薬物送達は、局所送達、例えば、くも膜下腔内送達、例えば、オマヤ(Ommaya)レザバーを通したもの(例えば、参照によって本明細書に組み入れられる米国特許第5,222,982号および第5385582号を参照のこと);例えば、硝子体内または頭蓋内への、例えば、注射器による、ボーラス注入によるもの;例えば、カニューレ挿入による、例えば、対流による、連続注入によるもの(例えば、参照によって本明細書に組み入れられる米国出願第20070254842号を参照のこと);または薬剤が可逆的に付着した装置の植え込みによるもの(例えば、参照によって本明細書に組み入れられる米国出願第20080081064号および第20090196903号を参照のこと)であり得る。
【0116】
生着前に細胞へ薬剤を提供する場合、便利には、培養細胞の培地へ、溶液または易溶性の形態で薬剤を添加することができる。断続的または連続的な流れとしてフロースルー系を通して薬剤を添加してもよいし、あるいは単回でまたは漸増的に化合物のボーラスを静止溶液へ添加してもよい。フロースルー系においては、2種の液が使用され、一方は生理学的に中性の溶液であり、他方は試験化合物が添加された同一の溶液である。第1の液を、細胞上に通し、続いて第2の液を通す。単一溶液法においては、試験化合物のボーラスを、細胞の周囲の培地の体積へ添加する。培養培地の成分の全体濃度は、ボーラスの添加によって、またはフロースルー法における2種の溶液の間に有意に変化するべきでない。
【0117】
様々な濃度に対する差異的な応答を入手するため、異なる薬剤濃度を用いた複数のアッセイを平行に実行することができる。当技術分野において公知であるように、薬剤の有効濃度の決定は、典型的には、1:10または他の対数スケールの希釈に起因する一連の濃度を使用する。必要であれば、第2の希釈系列によって、濃度をさらに精密にすることができる。典型的には、これらの濃度のうちの一つは、陰性対照として役立ち、即ち、ゼロ濃度、または薬剤の検出のレベル未満、または表現型の検出可能な変化を与えない薬剤の濃度もしくはそれ未満である。
【0118】
生着がなされた遺伝子改変動物における候補薬剤に対する細胞の応答の分析は、薬剤による処理の後の任意の時点で実施され得る。例えば、細胞は、候補薬剤との接触から1日後、2日後、または3日後、時には、4日後、5日後、または6日後、時には、8日後、9日後、または10日後、時には、14日後、時には、21日後、時には、28日後、時には、1ヶ月以上後、例えば、2ヶ月後、4ヶ月後、6ヶ月後、またはそれ以降に分析され得る。いくつかの態様において、分析は、多数の時点での分析を含む。分析のための時点の選択は、当業者によって容易に理解されるように、実施される分析の型に基づくと考えられる。
【0119】
分析は、細胞生存率、細胞増殖、細胞同一性、細胞形態学、および細胞機能を測定するための、本明細書に記載されたまたは当技術分野において公知のパラメータのいずれかの測定を含み得、具体的には、免疫細胞の細胞に関係するものであり得る。例えば、造血細胞の総数または特定の造血細胞型の細胞の数を決定するため、フローサイトメトリーを使用することができる。組織化学または免疫組織化学、例えば、DNA断片化を測定するための末端デオキシヌクレオチドトランスフェラーゼdUTPニック末端標識(TUNEL)または細胞表面上のホスファチジルセリンへのアネキシンVの結合を検出するための免疫組織化学を、細胞のアポトーシス状態を決定するために実施することができる。例えば、薬剤の存在下での造血細胞の生存能および/または分化能を決定するため、分化細胞および分化細胞型の割合を査定するため、フローサイトメトリーを利用することもできる。例えば、生着がなされた細胞の機能の査定、赤血球の生存の査定等のため、生着がなされた遺伝子改変マウスにおいて発現されたサイトカイン、ケモカイン、免疫グロブリン等のレベルを決定するため、ELISA、ウエスタン、およびノーザンブロットを実施することができる。免疫細胞の機能を試験するインビボアッセイ、および貧血、例えば、鎌状赤血球貧血等のような関心対象の特定の疾患または障害に関連したアッセイも、実施され得る。例えば、Current Protocols in Immunology(Richard Coico,ed.John Wiley & Sons,Inc.2012)およびImmunology Methods Manual(I.Lefkovits ed.,Academic Press 1997)(これらの開示は参照によって本明細書に組み入れられる)を参照すること。
【0120】
従って、例えば、ヒトの網状赤血球および/または赤血球が生着したヒトEPOマウス、例えば、Rag2-/-IL2rg-/-EPOm/hマウスへ薬剤を投与する工程;薬剤の存在下で経時的に生着細胞の生存率のパラメータを測定する工程;ならびにその測定を、薬剤に曝されていない、生着がなされたヒトEPOマウスからの測定と比較する工程を含む、病原体に感染可能なまたは感染した赤血球細胞に対する薬剤の効果を決定する方法が提供される。単回投与または選択された期間での2回以上の薬剤の投与の後、少なくとも20%、30%、40%、またはそれ以上、いくつかの場合において、50%、60%、70%、またはそれ以上、例えば、80%、90%、または100%、即ち、検出不可能な量にまで、マウスの末梢血中のヒト赤血球の感染および/または死を低下させる場合、その薬剤は抗病原性であると決定される。具体的な態様において、薬物または薬物の組み合わせの投与は、ヒト造血細胞の生着の少なくとも3日後、少なくとも1週後、少なくとも10日後、例えば、ヒト造血細胞の生着の2週後、3週後、または4週後、例えば、ヒト造血細胞の生着の6週後、8週後、10週後、またはそれ以降である。
【0121】
本発明のマウスの用途の他の例は、本明細書中の他の箇所に提供される。本開示に記載された、遺伝子改変され生着がなされたマウスの付加的な適用は、本開示を参照することによって、当業者に明白になるであろう。
【0122】
本開示の非限定的な局面の例
前記の本発明の主題の態様を含む局面は、単独で有益である場合もあるし、または一つもしくは複数の他の局面もしくは態様と組み合わせられて有益である場合もある。前述の説明を限定するものではないが、1~58と番号付けられた本開示のある種の非限定的な局面が、以下に提供される。本開示を参照することによって当業者に明白になるように、個々に番号付けられた局面の各々が使用されてもよいし、または前後の個々に番号付けられた局面のいずれかと組み合わせられてもよい。これは、局面のそのような組み合わせの全ての支持を提供するためのものであって、以下に明示的に提供される局面の組み合わせに限定されない:
1. EPO遺伝子プロモーターに機能的に連結されたヒトEPOタンパク質(hEPO)をコードする核酸配列を含む、遺伝子改変された非ヒト動物。
2. EPO遺伝子プロモーターが内在性非ヒトEPOプロモーターである、1に記載の非ヒト動物。
3. 前記機能的連結が、非ヒト動物EPO遺伝子座において内在性非ヒトEPOプロモーターとなされている、1に記載の非ヒト動物。
4. 前記機能的連結が、非ヒトEPO遺伝子座における非ヒトEPO遺伝子のヌル変異をもたらす、3に記載の非ヒト動物。
5. hEPOをコードする核酸配列を含む対立遺伝子についてヘテロ接合性である、4に記載の非ヒト動物。
6. hEPOをコードする核酸配列を含む対立遺伝子についてホモ接合性である、4に記載の非ヒト動物。
7. hEPOをコードする核酸配列がヒトEPOゲノムのコード配列および非コード配列を含む、1~6のいずれか一項に記載の非ヒト動物。
8. hEPOをコードする核酸配列がヒトEPO cDNA配列を含む、1~6のいずれか一項に記載の非ヒト動物。
9. M-csfプロモーターの調節下で核酸によってコードされたhM-CSFタンパク質;
Il-3プロモーターの調節下で核酸によってコードされたhIL-3タンパク質;
Gm-csfプロモーターの調節下で核酸によってコードされたhGM-CSFタンパク質;
TPOプロモーターの調節下で核酸によってコードされたhTPOタンパク質;および
Sirpaプロモーターの調節下で核酸によってコードされたhSirpaタンパク質
からなる群より選択される1種または複数種の付加的なヒトタンパク質を発現する、1~8のいずれか一項に記載の非ヒト動物。
10. プロモーターが、対応する非ヒト動物遺伝子座にある内在性非ヒト動物プロモーターであり、非ヒト動物が、非ヒト遺伝子についてヘテロ接合性ヌルである、9に記載の非ヒト動物。
11. プロモーターが、対応する非ヒト動物遺伝子座にある内在性非ヒト動物プロモーターであり、非ヒト動物が、非ヒト遺伝子についてホモ接合性ヌルである、9に記載の非ヒト動物。
12. ヒトタンパク質が、少なくともhTPO、hIL3、hGM-CSF、およびhSirpaを含む、9に記載の非ヒト動物。
13. 免疫不全である、1~12のいずれか一項に記載の非ヒト動物。
14. 免疫不全が、Rag2およびIl2rgの一方または両方の欠損によって引き起こされる、13に記載の非ヒト動物。
15. 哺乳動物である、1~14のいずれか一項に記載の非ヒト動物。
16. 哺乳動物が齧歯類である、15に記載の非ヒト動物。
17. 齧歯類がマウスである、16に記載の非ヒト動物。
18. ヒト造血細胞の生着をさらに含む、1~17のいずれか一項に記載の非ヒト動物。
19. ヒト造血細胞が、ヒトCD34陽性細胞、ヒト造血幹細胞、ヒト骨髄系前駆細胞、ヒト赤血球前駆細胞、ヒト骨髄系細胞、ヒト樹状細胞、ヒト単球、ヒト顆粒球、ヒト赤血球、ヒト好中球、ヒトマスト細胞、ヒト胸腺細胞、およびヒトBリンパ球からなる群より選択される1種または複数種の細胞を含む、18に記載の非ヒト動物。
20. クロドロン酸を含む、19に記載の非ヒト動物。
21. 赤血球系統のヒト細胞を標的とする病原体による感染をさらに含む、20に記載の非ヒト動物。
22. 病原体が、マラリア原虫(Plasmodium)属の種、バベシア(Babesia)属の種、およびタイレリア(Theileri)属の種より選択される、21に記載の非ヒト動物。
23. 以下の工程を含む、赤血球系統のヒト細胞を標的とする病原体による感染を阻害する薬剤を同定する方法:
(a)遺伝子改変された非ヒト動物へ候補薬剤を投与する工程であって、該動物が、以下:
(i)EPO遺伝子プロモーターに機能的に連結されたヒトEPOタンパク質(hEPO)をコードする核酸配列;
(ii)非ヒト動物において免疫不全をもたらす1個または複数個の遺伝子変異;
(iii)ヒト造血細胞の生着;および
(iv)赤血球系統のヒト細胞を標的とする病原体による感染
を含む、工程、ならびに
(b)薬剤が、病原体に感染した非ヒト動物における病原体の量を低下させるか否かを決定する工程。
24. 以下の工程を含む、赤血球系統のヒト細胞を標的とする病原体による感染を防止する薬剤を同定する方法:
(a)遺伝子改変された非ヒト動物をクロドロン酸と接触させる工程であって、該非ヒト動物が、以下:
(i)EPO遺伝子プロモーターに機能的に連結されたヒトEPOタンパク質(hEPO)をコードする核酸配列;
(ii)非ヒト動物において免疫不全をもたらす1個または複数個の遺伝子変異;および
(iii)ヒト造血細胞の生着
を含む、工程、
(b)遺伝子改変された非ヒト動物へ候補薬剤を投与する工程、
(c)遺伝子改変された非ヒト動物へ、寄生された網状赤血球または赤血球を注入する工程、ならびに
(d)薬剤が、非ヒト動物の、ヒト網状赤血球および/または赤血球の感染を防止するか否かを決定する工程。
25. EPO遺伝子プロモーターが内在性非ヒトプロモーターである、23または24に記載の方法。
26. 前記機能的連結が、非ヒト動物EPO遺伝子座において内在性非ヒトEPOプロモーターとなされている、23または24に記載の方法。
27. 前記機能的連結が、非ヒトEPO遺伝子座における非ヒトEPO遺伝子のヌル変異をもたらす、26に記載の方法。
28. 非ヒト動物が、hEPOをコードする核酸配列を含む対立遺伝子についてヘテロ接合性である、27に記載の方法。
29. 非ヒト動物が、hEPOをコードする核酸配列を含む対立遺伝子についてホモ接合性である、27に記載の方法。
30. hEPOをコードする核酸配列がヒトEPOゲノムのコード配列および非コード配列を含む、23~29のいずれか一項に記載の方法。
31. hEPOをコードする核酸配列がヒトEPO cDNA配列を含む、23~29のいずれか一項に記載の方法。
32. 非ヒト動物が、
M-csfプロモーターの調節下で核酸によってコードされたhM-CSFタンパク質;
Il-3プロモーターの調節下で核酸によってコードされたhIL-3タンパク質;
Gm-csfプロモーターの調節下で核酸によってコードされたhGM-CSFタンパク質;
TPOプロモーターの調節下で核酸によってコードされたhTPOタンパク質;および
Sirpaプロモーターの調節下で核酸によってコードされたhSirpaタンパク質
からなる群より選択される1種または複数種の付加的なヒトタンパク質を発現する、23~31のいずれか一項に記載の方法。
33. プロモーターが、対応する非ヒト動物遺伝子座にある内在性非ヒト動物プロモーターであり、非ヒト動物が、非ヒト遺伝子についてヘテロ接合性ヌルである、32に記載の方法。
34. プロモーターが、対応する非ヒト動物遺伝子座にある内在性非ヒト動物プロモーターであり、非ヒト動物が、非ヒト遺伝子についてホモ接合性ヌルである、33に記載の方法。
35. 非ヒト動物がRag2およびIl2rgの一方または両方を欠いている、23~34のいずれか一項に記載の方法。
36. ヒト造血細胞が、ヒトCD34陽性細胞、ヒト造血幹細胞、ヒト骨髄系前駆細胞、ヒト赤血球前駆細胞、ヒト骨髄系細胞、ヒト樹状細胞、ヒト単球、ヒト顆粒球、ヒト赤血球、ヒト好中球、ヒトマスト細胞、ヒト胸腺細胞、およびヒトBリンパ球からなる群より選択される1種または複数種の細胞を含む、23~35のいずれか一項に記載の方法。
37. 病原体が、プラスモディウム属の種、バベシア属の種、およびタイレリア属の種より選択される、23~36のいずれか一項に記載の方法。
38. 病原体がプラスモディウム属の種であり、プラスモディウム属の種が熱帯熱マラリア原虫(P.falciparum)および三日熱マラリア原虫(P.vivax)より選択される、37に記載の方法。
39. 非ヒト動物が哺乳動物である、23~38のいずれか一項に記載の方法。
40. 哺乳動物が齧歯類である、39に記載の方法。
41. 齧歯類がマウスである、40に記載の方法。
42. 以下の工程を含む、ヒトEPOタンパク質(hEPO)を発現するマウスを作製する方法:
EPOプロモーター配列に機能的に連結されたhEPOのコード配列またはその断片を含む核酸配列と、マウス多能性幹細胞を接触させる工程であって、該コード配列とEPOプロモーター配列が、内在性マウスEPO遺伝子座と相同である配列が隣接しているカセットを形成する、工程;
相同組換えによる内在性マウスEPO遺伝子座におけるマウスゲノムへの核酸配列の組み込みを促進する条件の下で多能性幹細胞を培養する工程;および
hEPOをコードする核酸配列を含むマウス多能性幹細胞からマウスを作製する工程。
43. マウス多能性幹細胞がES細胞またはiPS細胞である、42に記載の方法。
44. マウス多能性幹細胞がRag2および/またはIL2rgを欠いている、42または43に記載の方法。
45. EPOプロモーター配列がヒトEPOプロモーターの配列である、42~44のいずれか一項に記載の方法。
46. EPOプロモーター配列が内在性非ヒトEPOプロモーターの配列である、42~44のいずれか一項に記載の方法。
47. 組み込みが、非ヒトEPO遺伝子座における非ヒトEPO遺伝子の置換をもたらす、42~46のいずれか一項に記載の方法。
48. hEPOをコードする核酸配列がヒトEPOゲノムのコード配列および非コード配列を含む、42~47のいずれか一項に記載の方法。
49. hEPOをコードする核酸配列がヒトEPO cDNA配列を含む、42~48のいずれか一項に記載の方法。
50. 以下の工程を含む、ヒトEPOタンパク質(hEPO)を発現し、かつヒト造血系を含むマウスを作製する方法:
42~49のいずれか一項に記載の方法によって作製された遺伝子改変マウスへ、ヒト造血始原細胞を含む細胞の集団を移植する工程。
51. 移植する工程が、尾静脈注入、胎児肝臓注入、または後眼窩注入を含む、50に記載の方法。
52. 遺伝子改変マウスが、移植前に致死線量未満の照射を受ける、50または51に記載の方法。
53. ヒト造血始原細胞がCD34+細胞である、50~52のいずれか一項に記載の方法。
54. ヒト造血始原細胞が、胎児肝臓、成人骨髄、または臍帯血に由来する、50~53のいずれか一項に記載の方法。
55. 以下の工程を含む、赤血球系統のヒト細胞を標的とするヒト病原体に感染したマウスを作製する方法:
50~54のいずれか一項に記載の方法に従って、ヒトEPOタンパク質(hEPO)を発現し、かつヒト造血系を含むマウスを作製する工程;
クロドロン酸をマウスへ注入する工程;および
寄生されたヒト赤血球(PRBC)をマウスへ注入する工程。
56. 健常ヒト赤血球をマウスへ注入する工程をさらに含む、55に記載の方法。
57. 寄生虫が、プラスモディウム属の種、バベシア属の種、およびタイレリア属の種より選択される、55に記載の方法。
58. 寄生虫がプラスモディウム属の種であり、プラスモディウム属の種が熱帯熱マラリア原虫および三日熱マラリア原虫より選択される、57に記載の方法。
【実施例】
【0123】
以下の例は、本発明を作製し使用する方法の完全な開示および説明を当業者に提供するために提示され、本発明者らが本発明と見なすものの範囲を限定するためのものではなく、下記の実験が実施された全てのまたは唯一の実験であることを表すためのものでもない。使用された数(例えば、量、温度等)に関しては正確さを確実にする努力が成されたが、いくつかの実験誤差および偏差が斟酌されるべきである。他に示されない限り、部分は重量部分であり、分子量は重量平均分子量であり、温度は摂氏度であり、圧力は大気圧またはほぼ大気圧である。
【0124】
分子生化学および細胞生化学における一般法は、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd Ed.(Sambrook et al.,HaRBor Laboratory Press 2001);Short Protocols in Molecular Biology,4th Ed.(Ausubel et al.eds.,John Wiley & Sons 1999);Protein Methods(Bollag et al.,John Wiley & Sons 1996);Nonviral Vectors for Gene Therapy(Wagner et al.eds.,Academic Press 1999);Viral Vectors(Kaplift & Loewy eds.,Academic Press 1995);Immunology Methods Manual(I.Lefkovits ed.,Academic Press 1997);およびCell and Tissue Culture:Laboratory Procedures in Biotechnology(Doyle & Griffiths,John Wiley & Sons 1998)のような標準的な教科書に見出され得、それらの開示は、参照によって本明細書に組み入れられる。本開示において言及された遺伝子操作のための試薬、クローニングベクター、およびキットは、BioRad、Stratagene、Invitrogen、Sigma-Aldrich、およびClonTechのような商業的な供給元から入手可能である。
【0125】
実施例1
ヒトEPOノックインマウスの生成
マウスエリスロポエチン遺伝子座(マウスNCBI Gene ID:13856;MGI:95407;NM_007942.2におけるRefSeq転写物cDNA(SEQ ID NO:1)およびNP_031968におけるコードされたタンパク質(SEQ ID NO:2))のコード配列を、ヒトエリスロポエチン遺伝子座(ヒトNCBI Gene ID:2056;HGNC:3415;NM_000799.2におけるRefSeq cDNA転写物(SEQ ID NO:3)およびNP_000790におけるコードされたタンパク質(SEQ ID NO:4))に由来するコード配列に交換した。
【0126】
【0127】
具体的には、GRCm38:ch5:137482017:137485745(マイナス鎖)のマウスゲノム領域を欠失させ、GRCh37:ch7:100318604:100321567(プラス鎖)由来のヒトゲノム配列をその場所に挿入した。これは、マウスEpo遺伝子のコードエクソン1~5(コード領域全体)の、ヒトEPO遺伝子のエクソン1~5+3'ヒト非翻訳領域への置換をもたらした。全部で、3729ntのマウス配列が、2964ntのヒト配列に置換された。
【0128】
簡単に説明すると、単一のターゲティング工程でマウスEPO遺伝子をヒトEPO遺伝子に置換するためのターゲティング構築物を、VELOCIGENE(登録商標)遺伝子工学テクノロジー(Valenzuela et al.(2003)(前記)および米国特許第6,586,251号を参照すること)を使用して構築した。マウスおよびヒトのEPO DNAを、それぞれ、細菌人工染色体bMQ-386K4およびRP11-797M3から入手した。エクソン1内のATGからエクソン5内の終止コドンにまで及ぶ(即ち、3'下流配列を含む)2964ntのヒトEPO配列+loxPが導入されたneo選択カセットに隣接するマウスEPOの上流および下流の相同性アームを含有している、ギャップ修復クローニングによって生成された、PspXIによって直鎖化されたターゲティング構築物を、Rag2
-/-IL2rg
Y/-ES細胞へ電気穿孔した(
図2および
図3)。マウスEPO 5'非翻訳領域(UTR)とヒトEPOのエクソン1との間のジャンクションは、SEQ ID NO:5として提供され、ヒト遺伝子の最初のヌクレオチドの前の最後のマウスヌクレオチドは、下記表2中のSEQ ID NO:5の太字でない部分における(括弧で示された)「G」であり、ヒト配列の最初のヌクレオチドは、下記表2中のSEQ ID NO:5の太字部分における(括弧で示された)「A」である。
【0129】
【0130】
ヒト3'UTRと選択カセットの5'末端との間のジャンクションは、SEQ ID NO:6として提供され、ヒト配列の最後のヌクレオチドは、下記表3中のSEQ ID N:6の太字部分における(単一の括弧で示された)「C」であり、選択カセット配列の最初のヌクレオチドは、下記表3中のSEQ ID NO:6の太字でない部分における(二重括弧で示された)「C」であり;下流ジャンクション領域は、loxPが導入されたユビキチンプロモーターによって駆動されるneoカセットの除去のためのloxP部位も3'末端に含有していた。
【0131】
【0132】
選択カセットの3'末端とマウスゲノムとの間のジャンクションは、SEQ ID NO:7として提供され、下記表4に示されるように、単一括弧で示された「C」がneoカセットの最後のヌクレオチドであり、カセットの後のマウスゲノムの最初のヌクレオチドが二重括弧で示された「G」である。
【0133】
【0134】
欠失の標的とされたマウスEPO遺伝子の中の配列に特異的な2種のTaqMan(商標)定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)によって、ネイティブの未改変EPO遺伝子のコピーの数を決定する、ネイティブ対立遺伝子喪失アッセイ(LONA)(Valenzuela et al.(2003)(前記))によって、正確にターゲティングされたhEPO ES細胞クローンを同定した。qPCRアッセイは、(5'から3'へ書かれた)以下のプライマー-プローブセットを含んでいた:
上流順方向プライマー
;上流逆方向プライマー
;上流プローブ
;下流順方向プライマー
;下流逆方向プライマー
;下流プローブ
。FAMとは5-カルボキシフルオレセイン蛍光プローブをさし、BHQとはブラックホールクエンチャー型の蛍光クエンチャー(Biosearch Technologies)をさす。ターゲティングベクターを取り込みゲノムに組み込んだES細胞クローンから精製されたDNAを、384穴PCRプレート(MicroAmp(商標)Optical 384-Well Reaction Plate、Life Technologies)において、製造業者の指示に従ってTaqMan(商標)Gene Expression Master Mix(Life Technologies)と合わせ、PCRの途中に蛍光データを収集し、蓄積された蛍光が予定された閾値に達する時のフラクショナルPCRサイクルである閾値サイクル数(Ct)を決定するApplied Biosystems Prism 7900HTにおけるサイクリングに供した。上流および下流のEPO特異的なqPCRならびに非標的参照遺伝子についての2種のqPCRを、各DNA試料について実行した。各EPO特異的qPCRと各参照遺伝子qPCRとの間のCt値の差(ΔCt)を計算し、次いで、アッセイされた全ての試料について、各ΔCtとメジアンΔCtとの間の差を、各試料についてのΔΔCt値を入手するために計算した。各試料中のEPO遺伝子のコピー数を、以下の式から計算した:コピー数=2・2
-ΔΔCt。ネイティブコピーのうちの1個を失った正確にターゲティングされたクローンは、1に等しいEPO遺伝子コピー数を有するであろう。ヒト化対立遺伝子において、ヒトEPO遺伝子配列が、欠失したマウスEPO遺伝子配列に取って代わったことの確認を、(5'から3'へ書かれた)以下のプライマー-プローブセットを含むTaqMan(商標)qPCRアッセイによって確認した:
ヒト順方向プライマー
;ヒト逆方向プライマー
、およびヒトプローブ
。
【0135】
正確にターゲティングされたES細胞を、薬物選択カセットを除去するため、一過性Cre発現ベクターによって電気穿孔した。ヒトEPOを含み、Rag2およびIl2rgを欠いているマウスを生成するため、正確にターゲティングされたES細胞を前記のように同定し、当技術分野において公知の技術を使用して、着床前胚へ導入した。次いで、ヒトEPOノックイン(KI)マウスを、Rag2およびIl2rgを欠いており、ヒトEPOを発現するマウスを生成するため、戻し交配させた。
【0136】
実施例2
ヒトSIRPαマウスの生成
本明細書に記載された実施例のいくつかに関して、遺伝子改変マウスのゲノムへランダムに組み込まれたヒトSIRPαをコードする核酸配列を含む遺伝子改変マウスを、米国特許出願公開第2013-0340105号(この開示は参照によって本明細書に組み入れられる)に記載されるように調製した。
【0137】
本明細書に記載された実施例のいくつかに関して、下記のように、ヒトSIRPαノックインマウスを調製した。ヒトSIRPαは少なくとも10種の対立形質型で存在することが公知である。この具体的な実施例においては、ヒトSIRPαバリアント1が、マウスの内在性SIRPα遺伝子をヒト化するために利用される。
【0138】
SIRP(例えば、SIRPα)遺伝子の細胞外領域のヒト化のためのターゲティングベクターを、VELOCIGENE(登録商標)テクノロジー(例えば、米国特許第6,586,251号およびValenzuela et al.(2003)(前記)を参照すること)を使用して構築した。
【0139】
簡単に説明すると、ヒトBACクローンCTD-3035H21を使用して、内在性SIRPα遺伝子のエクソン2~4を含有している配列を欠失させ、ヒトSIRPα遺伝子のエクソン2~4を挿入するため、マウス細菌人工染色体(BAC)クローンbMQ-261H14を改変した。BACクローンbMQ-261H14において、内在性SIRPα遺伝子のエクソン2~4に相当するゲノムDNA(およそ8555bp)を、BACクローンCTD-3035H21由来のヒトSIRPα遺伝子のエクソン2~4を含有しているおよそ8581bpのDNA断片に交換した。BACクローンCTD-3035H21に含有されていたヒトSIRPα対立遺伝子の配列分析は、対立遺伝子がヒトバリアント1に相当することを明らかにした。loxP部位が隣接しているネオマイシンカセットを、ヒトSIRPα遺伝子のエクソン2~4を含有しているおよそ8581bpのヒトDNA断片の末端に付加した(
図4)。
【0140】
5'から3'へ、内在性SIRPα遺伝子のエクソン2の5'に19kbのマウスDNAを含有している5'相同性アーム、ヒトSIRPα遺伝子のエクソン2~4を含有しているおよそ8581bpのDNA断片、loxP部位が隣接しているネオマイシンカセット、および内在性SIRPα遺伝子のエクソン4の3'に21kbのマウスDNAを含有している3'相同性アームを含有している内在性SIRPα遺伝子のヒト化のための最終ターゲティングベクターを作製するため、それぞれ、エクソン2および4の5'および3'の位置にある上流および下流の相同性アームを、マウスBAC DNAから入手し、およそ8581bpのヒト断片-ネオマイシンカセットに付加した。ターゲティングベクターのターゲティングされた挿入は、エクソン4とエクソン5との間のマウスSIRPα遺伝子の5番目のイントロンにネオマイシンカセットを位置付けた。ターゲティングベクターをSwaIによって消化することによって直鎖化し、次いで、マウスSIRPα遺伝子のエクソン2~4のヒトSIRPα遺伝子のエクソン2~4へのターゲティングされた置換を達成するため、細菌細胞における相同組換えにおいて使用した(
図4)。
【0141】
内在性マウスSIRPα遺伝子のエクソン2~4の、ヒトSIRPα遺伝子のエクソン2~4を含むゲノム断片への置換を含む、改変ES細胞を作製するため、(前記の)ターゲティングされたBAC DNAを、マウスES細胞を電気穿孔するために使用した。ヒトSIRPα遺伝子のエクソン2~4を含むゲノム断片を含有している陽性ES細胞を、TAQMAN(商標)プローブ(Lie and Petropoulos,1998.Curr.Opin.Biotechnology 9:43-48)を使用した定量的PCRによって同定した。上流挿入点にかかるヌクレオチド配列は、挿入点に存在するヒトSIRPαゲノム配列に連続的に連結された(括弧内に含有されている)挿入点の上流の内在性マウス配列を示す以下のものを含んでいた。
ネオマイシンカセットの5'末端の下流挿入点にかかるヌクレオチド配列は、(括弧内に含有されており、loxP配列がイタリック体である)挿入点の下流のカセット配列と連続しているヒトSIRPαゲノム配列を示す以下のものを含んでいた。
ネオマイシンカセットの3'末端の下流挿入点にかかるヌクレオチド配列は、(括弧内に含有されている)内在性SIRPα遺伝子のエクソン4の3'のマウスゲノム配列と連続しているカセット配列を示す以下のものを含んでいた。
次いで、マウスの内在性SIRPα遺伝子へのヒトSIRPα遺伝子のエクソン2~4の挿入を含有している同腹仔を生成するため、VELOCIMOUSE(登録商標)法(例えば、米国特許第7,294,754号およびPoueymirou et al.2007 直接表現型分析を可能にするドナー遺伝子によってターゲティングされたES細胞に本質的に完全に由来するF0世代マウス Nature Biotech.25(1):91-99(前記)を参照すること)を使用して、雌マウスへ植え込むため、陽性ES細胞クローンを使用した。
【0142】
前記のターゲティングされたES細胞を、ドナーES細胞として使用し、VELOCIMOUSE(登録商標)法(前記)によって8細胞期マウス胚へ導入した。内在性SIRPα遺伝子のエクソン2~4のヒト化を保持するマウスを、ヒトSIRPα遺伝子配列の存在を検出する対立遺伝子アッセイ(Valenzuela et al.(2003)(前記))の変法を使用して、遺伝子型決定によって同定した。
【0143】
例えば、ES細胞期に、または胚において、除去されていないターゲティングベクターによって導入されたloxPが導入されたネオマイシンカセットを除去するため、ヒト化SIRPα遺伝子構築物を保持する(即ち、マウスSIRPα遺伝子にヒトSIRPαエクソン2~4を含有している)マウスを、Cre欠失(deletor)マウス系統(例えば、国際特許出願公開番号WO 2009/114400を参照すること)と交雑させることができる。任意で、ネオマイシンカセットはマウスにおいて保持される。
【0144】
実施例3
複合ノックインマウスの生成
ヒトEPOノックインマウスを、マウスゲノムへのランダムな組み込み体として、またはノックインとして、即ち、対応するマウス遺伝子座から、他の関心対象のヒト遺伝子を発現するマウスと交配させた。例えば、Rag2-/-,IL-2rgY/-,hEPO KIマウスを、マウスTPO遺伝子座からヒトTPOを発現するマウス(Rongvaux et al.,2011,Proc Natl Acad Sci USA,108(6):2378-2383)、マウスIL-3/GM-CSF遺伝子座からヒトIL-3およびヒトGM-CSFを発現するマウスWillinger et al,2011,Proc Natl Acad Sci USA,108(6):2390-2395)、マウスM-CSF遺伝子座からヒトM-CSFを発現するマウス(Rathinam et al,2011,Blood,118(11):3119-3128)、および/またはランダムな組み込み体として(Strowig et al.,2011,Proc Natl Acad Sci USA,108(32):13218-13223)もしくは前記のマウス遺伝子座から発現されるヒトSIRPaを発現するマウスと交配させて、これらのヒトタンパク質の組み合わせを発現するマウス(Rag2-/-Il2rgnullhSIRPah/ Tpoh/hMcsfh/hIl3/Gmcsfh/hEPOh/h)を生成した。ヒトTPO、ヒトIL-3、ヒトGM-CSF、ヒトM-CSF、およびヒトSIRPaのうちの1種または複数種を発現する遺伝子改変マウスは、米国特許第8,541,646号および第8,847,004号;米国特許出願公開第2014/0134662号;ならびにPCT国際公開番号WO/2014/039782(これらの各々の開示は参照によって本明細書に組み入れられる)に、より詳細に記載されている。
【0145】
実施例4
熱帯熱マラリア原虫および三日熱マラリア原虫の赤血球期のヒト化マウスモデルの開発
マウスからヒトへの限定された交差反応性を有する増殖因子を提供することによるマウス宿主の遺伝学的ヒト化が、ヒト造血幹細胞(HSC)が生着したマウスにおいて、一般には、ヒト細胞生着、具体的には、赤血球生成を成功裡に強化し得ることが、ここで証明される。
【0146】
(最終赤血球生成を増強するために)ヒトEPOをゲノムから発現し、(HSC維持および初期赤血球生成を増強するために)ヒトのTPO、MCSF、およびIL-3も発現するMITERGマウスは、ヒトHSCが生着したマウスの骨髄において、実際、同動物におけるマウス赤血球生成と等価な、hEPOを発現しないマウスより高レベルのヒト赤血球生成を特色とする(
図5A、「hSIRPa-,hEPO+」(即ち、「MITERGマウス」)を「hSIRPa-,hEPO-」(即ち、「MITRGマウス」)と比較すること)。しかしながら、これらのマウスは、有意なレベルの循環ヒト赤血球細胞を欠く(示されないデータ)。
【0147】
末梢の循環ヒト赤血球細胞の低いレベルは、マウスマクロファージによる末梢ヒトRBCの破壊(赤血球貪食)に起因するとの仮説を立てた。この過程におけるSIRPaの役割を、mSIRPa遺伝子座以外のマウスゲノム内の遺伝子座から、即ち、ランダムに組み込まれたトランスジーンとして、hSIRPaが発現されるマウス、即ち、hSIRPa-tg(Rag2-/-Il2rgnullTpoh/hMcsfh/hIl3h/hGmcsfh/hEpoh/hSIRPα-tg+、即ち、「MISTER-Gマウス」)およびmSIRPa遺伝子座からのノックイン(KI)として、即ち、hSIRPa KIとしてhSIRPaが発現されるマウス(Rag2-/-Il2rgnullTpoh/hMcsfh/hIl3h/hGmcsfh/hEpoh/hSIRPαh/h、即ち、「SupER-Gマウス」)を生成することによって評価した。
【0148】
例えば、MISTER-Gマウスにおけるランダムに組み込まれたトランスジーンとしてのヒトSIRPaの発現は、ヒトEPOを発現するヒトHSCが生着したマウスの骨髄におけるヒト赤血球細胞の数のさらなる増加を促進した(
図5、パネルA、「hSIRPa+,hEPO+」を「hSIRPa-,hEPO+」と比較すること)。ヒトSIRPaの導入は、末梢における大部分の造血細胞の生存を有意に改善し、末梢血中のリンパ系細胞および骨髄系細胞を含むヒトCD45
+細胞の頻度は、hSIRPaを発現しないマウスにおいて観察されたものより少なくとも10倍増加した。しかしながら、hSIRPa KIは、末梢血中のヒトRBCの生着レベルに対してほとんど効果を及ぼさない(
図5、パネルB)。
【0149】
ヒトSIRPαノックインが末梢血中のヒト赤血球細胞を増加させるために十分ではないため、マクロファージ、具体的には、脾臓の赤色髄マクロファージおよび肝臓のクッパー細胞の枯渇のため、クロドロン酸リポソームを使用した。クロドロン酸リポソームによる組織常在性マクロファージの枯渇の後、SuPER-Gマウスにおいて、赤血球系統の循環ヒト細胞の全循環赤血球細胞の1%への劇的な増加が観察された(
図6、パネルA)。さらに、クロドロン酸処置の後の末梢の大部分のヒト赤血球細胞が、網状赤血球(CD71
+)であった(
図6、パネルB)。これは、これらのマウスが、網状赤血球を優先的に感染させる三日熱マラリア原虫感染を支持するための良好な候補になるであろうということを示すので、刺激的な観察結果である。
【0150】
赤血球細胞の感染は、プラスモディウム属の種のライフサイクルの必須部分である。しかしながら、異なるプラスモディウム属の種によるインビボ感染成功のために必要なヒトRBCの必要とされる頻度は、確立されていない。現在入手可能な熱帯熱マラリア原虫のための唯一のインビボモデルは、NOD/scidまたはNSGのような免疫不全系統へのヒトRBCの移入に基づく。これらのマウスにおいて、メロゾイトによる感染は、多数のヒト赤血球の毎日の注入の後にのみ、感染赤血球のi.v.注入によって達成され得る。感染の時点で、ヒトRBCは、これらの動物における全赤血球数のおよそ半分を構成する。
【0151】
前記において証明されたように、ヒト造血幹細胞(HSC)が生着したSupER-Gマウスは、骨髄においてヒト赤血球細胞を発達させ(
図5B)、(ii)クロドロン酸処置は、生着がなされたSupER-Gマウスの末梢のヒト赤血球細胞の頻度を増加させた(
図6)。生着がなされクロドロン酸処置されたSupER-Gマウスが、インビボで成功したマラリア原虫感染を持続させるために十分な数のヒト赤血球細胞を末梢に含むか否かを決定するため、胎児肝臓または成人のHSCが生着したSupER-Gマウスから末梢血を収集し、血液を熱帯熱マラリア原虫株3D7に感染した血液と共にインビトロで培養した。その後に添加されたヒトRBCの再感染による増幅は、HSCが生着したSupER-Gマウスから採集されたヒトRBCが熱帯熱マラリア原虫の完全な感染サイクルを生じた場合にのみ起こるであろうと予想して、複数回の寄生虫複製を容易にするため、新鮮なヒト赤血球を48時間後に感染培養物へ添加した。感染の12日後、生着がなされたSuPER-Gマウスに由来する全ての血液試料(「生着マウスRBC、成人1」、「生着マウスRBC、成人2」、および「生着マウスRBC、胎児肝臓」)において、寄生虫感染の進行した段階、およびシゾントからのメロゾイトの増幅が観察されたが、生着がなされていない対照マウス、または注入によって0.1%hRBCを急性に生着させた対照マウス(「添加対照」)からは観察されなかった(
図7Aおよび示されないデータ)。寄生虫血症の指数関数的な増加が、ギムザ染色および定量的PCRによって観察された(
図7B)。これは、クロドロン酸によって処置された、生着がなされたSupER-Gが、熱帯熱マラリア原虫による感染を持続させるために十分な数のヒト赤血球を産生することを示している。このことから、クロドロン酸を投与された、生着がなされたマウスの熱帯熱マラリア原虫および三日熱マラリア原虫のメロゾイトによるインビボ感染が成功するであろうことが予想される。
【0152】
実施例5
TIESマウス(Rag2-/-Il2rgnullTpoh/hIl3/Gmcsfh/hEpoh/mSIRPαh/h)
低い繁殖性、発達機能不全、および高い死亡率のため、Epoh/hを有するマウスは感染研究にとって理想的ではない。代わりに、hEPO遺伝子についてヘテロ接合性のマウス(即ち、Epoh/m、例えば、TIESマウス)は、エリスロポエチン(EPO)を産生する完全な能力を有し、赤血球生成の全ての段階を支持する。ヒトマクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)ノックインによって支持される高レベルのヒト骨髄系細胞生着は、生着がなされたマウスの貧血および死をもたらすマウス赤血球の破壊を引き起こすため、マウスM-CSF遺伝子をヒトM-CSFに交換するのではなくマウス遺伝子座に保持することによって、8~10週からの4ヶ月への生存期間のさらなる改善が達成された。
【0153】
SupER-Gマウスと同様に、TIESマウスは、ヒト赤血球生成を支持し、クロドロン酸を投与された場合、末梢血中の1%ヒト赤血球細胞という頻度を維持する。さらに、クロドロン酸処置後の末梢中の大部分のヒト赤血球細胞は、網状赤血球(CD71+)であった。これは、これらのマウスが三日熱マラリア原虫感染を支持するための良好な候補であろうことを示唆している。
【0154】
生着がなされたTIESマウスは、クロドロン酸を投与された場合、末梢血中の1%ヒト赤血球細胞という頻度を維持することができることが証明された。さらに、TIESマウスのヒトRBCの輸注を支持する能力を決定した。
図8に示されるように、クロドロン酸処置は、末梢の細胞の全集団の20%を超えて、輸注された集団を安定化した。輸注後、約4時間目に実現されたこれらのレベルは、輸注後、少なくとも12時間持続した。これらのRBC頻度は、異なる種のマラリア原虫のインビボ感染を支持するのに十分であろうと予想される。
【0155】
以上は、本発明の原理を例示するものに過ぎない。当業者は、本明細書に明示的に記載されず示されないが、本発明の原理を具現化し、その本旨および範囲に含まれる、様々な配置を考案し得るであろうことが認識されるであろう。さらに、本明細書に記された例および条件を表す言語は、全て、読み手が、本発明の原理および当技術分野を進歩させるため本発明者らによって提案された概念を理解するのを助けることを主な目的とし、そのような具体的に記された例および条件に限定されることなく解釈されるべきである。さらに、本発明の原理、局面、および態様、ならびにそれらの具体的な例を記す本明細書中の全ての記述は、それらの構造的等価物および機能的等価物の両方を包含するものとする。さらに、そのような等価物は、現在公知の等価物、および将来開発される等価物の両方、即ち、構造に関わらず、同一の機能を果たす、開発される任意の要素を含むものとする。従って、本発明の範囲は、本明細書に示され記載された例示的な態様に限定されないものとする。むしろ、本発明の範囲および本旨は、添付の特許請求の範囲によって具現化される。
【配列表】