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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-25
(45)【発行日】2022-09-02
(54)【発明の名称】シューアッパーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A43B 23/02 20060101AFI20220826BHJP
【FI】
A43B23/02 101C
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020561839
(86)(22)【出願日】2019-12-20
(86)【国際出願番号】 JP2019050030
(87)【国際公開番号】W WO2021124541
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2020-11-02
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000310
【氏名又は名称】株式会社アシックス
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】若杉 晋作
【審査官】遠藤 邦喜
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/115284(WO,A1)
【文献】西独国特許出願公開第02621195(DE,A1)
【文献】特開2002-045780(JP,A)
【文献】特開2014-083498(JP,A)
【文献】特開2001-276674(JP,A)
【文献】特開平08-173858(JP,A)
【文献】特開昭59-162017(JP,A)
【文献】特開昭62-221302(JP,A)
【文献】特開2019-055244(JP,A)
【文献】特表2015-526316(JP,A)
【文献】特開平11-320707(JP,A)
【文献】特開昭62-119026(JP,A)
【文献】特表2019-501723(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被補強部を一部に含むアッパー材と、前記被補強部を覆うことで前記アッパー材を補強する補強部とを備えたシューアッパーの製造方法であって、
前記アッパー材を準備する工程と、
前記補強部となる熱可塑性樹脂粉末を準備する工程と、
前記アッパー材を立体成形する工程と、
立体成形された前記アッパー材の前記被補強部のみに、後工程において選択的に前記熱可塑性樹脂粉末を付着させることができるように、前記アッパー材に所定の前処理を施す工程と、
立体成形されるとともに前記所定の前処理が施された前記アッパー材に前記熱可塑性樹脂粉末を接触させることにより、前記アッパー材の前記補強部のみに前記熱可塑性樹脂粉末を選択的に付着させる工程と、
前記熱可塑性樹脂粉末が選択的に付着した前記アッパー材を加熱して、前記熱可塑性樹脂粉末を溶融させる工程と、
溶融した前記熱可塑性樹脂粉末を固化させることで前記アッパー材に前記補強部を固着させる工程とを備え
前記所定の前処理が、立体成形された前記アッパー材を予備加熱する工程を含み、
立体成形された前記アッパー材を予備加熱する工程が、前記アッパー材の前記被補強部が前記熱可塑性樹脂粉末の融点以上の温度になるとともに、前記アッパー材の前記被補強部以外の部分が前記熱可塑性樹脂粉末の融点未満の温度になるように、前記アッパー材を加熱する工程であり、
前記アッパー材の前記被補強部のみに前記熱可塑性樹脂粉末を選択的に付着させる工程が、前記アッパー材が予備加熱された状態で行なわれ、
前記熱可塑性樹脂粉末を溶融させる工程が、前記アッパー材の前記被補強部が前記熱可塑性樹脂粉末の融点以上の温度になるように前記アッパー材をさらに加熱して、前記熱可塑性樹脂粉末を再溶融させる工程である、シューアッパーの製造方法。
【請求項2】
前記アッパー材を予備加熱する工程が、前記アッパー材にラストが挿入された状態で行なわれる、請求項1に記載のシューアッパーの製造方法。
【請求項3】
前記補強部によって補強される前記アッパー材の前記被補強部の厚みが、前記アッパー材の前記被補強部以外の部分の厚みよりも小さい、請求項またはに記載のシューアッパーの製造方法。
【請求項4】
前記補強部によって補強される前記アッパー材の前記被補強部の熱伝導率が、前記アッパー材の前記被補強部以外の部分の熱伝導率よりも高い、請求項からのいずれかに記載のシューアッパーの製造方法。
【請求項5】
前記アッパー材の前記被補強部のみに前記熱可塑性樹脂粉末を選択的に付着させる工程が、対流した状態にある前記熱可塑性樹脂粉末の中に前記所定の前処理が施された前記アッパー材を浸漬することで行なわれる、請求項1からのいずれかに記載のシューアッパーの製造方法。
【請求項6】
前記アッパー材の前記被補強部のみに前記熱可塑性樹脂粉末を選択的に付着させる工程、および、前記熱可塑性樹脂粉末を溶融させる工程が、前記アッパー材にラストが挿入された状態で行なわれる、請求項1からのいずれかに記載のシューアッパーの製造方法。
【請求項7】
前記補強部が、前記アッパー材のうちの足の爪先を覆う部分、前記アッパー材のうちの足の中足部の側面を覆う部分、および、前記アッパー材のうちの足の踵を覆う部分に設けられる、請求項1からのいずれかに記載のシューアッパーの製造方法。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂粉末を準備する工程において、前記熱可塑性樹脂粉末として、相対的に粒径の大きい第1樹脂粉末と、相対的に粒径の小さい第2樹脂粉末とが準備され、
前記アッパー材の前記被補強部のみに前記熱可塑性樹脂粉末を選択的に付着させる工程において、前記アッパー材のうちの足の踵を覆う部分に前記第1樹脂粉末が付着され、
前記アッパー材の前記被補強部のみに前記熱可塑性樹脂粉末を選択的に付着させる工程において、前記アッパー材のうちの足の爪先を覆う部分および前記アッパー材のうちの足の中足部の側面を覆う部分に前記第2樹脂粉末が付着される、請求項に記載のシューアッパーの製造方法。
【請求項9】
前記補強部が、前記アッパー材の繋ぎ目を跨ぐように設けられる、請求項1からのいずれかに記載のシューアッパーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シューアッパーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シューアッパーの爪先部分や踵部分、アイレット部分、側面部分等には、補強部が設けられる場合がある。この補強部は、アッパー材の当該部分の外側表面に補強部材を設けることで形成される場合が多く、近年においては、当該補強部として熱可塑性樹脂が利用される場合がある。
【0003】
たとえば、米国特許公開公報第2018/0235320号明細書(特許文献1)には、熱可塑性樹脂粉末を利用してシューアッパーに補強部を設ける具体的な製造方法が開示されている。当該公報に開示の製造方法は、コンベヤ上を搬送される平らに配置されたアッパー材に、まず熱可塑性樹脂粉末を振りかけることでこれを付着させ、次にこれを加熱することで熱可塑性樹脂粉末をアッパー材上において溶融させ、次にこれを冷却することでアッパー材に付着した補強部を形成し、その後、アッパー材の裁断や縫製等を行なってシューアッパーを立体成形するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許公開公報第2018/0235320号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記公報に開示の製造方法は、アッパー材に補強部を設けた後にシューアッパーを立体成形するものであるため、補強部の形成後において当該補強部に形状加工を施すことが必要になってしまう場合がある。その場合、この補強部の形状加工に伴い、当該補強部が設けられた部分およびその周囲部分において、シューアッパーに意図しない張力が発生することがあり、補強部の機能が損なわれてしまったりフィッティング性に欠けることになってしまったりするおそれもある。
【0006】
この点、アッパー材に補強部を設ける前にアッパー材を立体成形し、立体成形後の当該アッパー材に熱可塑性樹脂粉末を付着させることとすれば、このような問題の発生は回避できる。しかしながら、立体成形後のアッパー材の所定位置に必要量の熱可塑性樹脂粉末を再現性よく付着させることは容易ではなく、これを実現するためには、何らかの工夫が必要である。
【0007】
また、これとは別に、上記公報に開示の製造方法に従ってシューアッパーを製造した場合には、立体成形時に生じるアッパー材の繋ぎ目部分において当該繋ぎ目部分を跨ぐように補強部が形成できないため、この繋ぎ目部分において十分な補強効果を得ることができない問題も発生する。
【0008】
したがって、本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、フィッティング性を高めつつ十分な補強効果が得られるシューアッパーの製造方法を提供することにある
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に基づくシューアッパーの製造方法は、被補強部を一部に含むアッパー材と、上記被補強部を覆うことで上記アッパー材を補強する補強部とを備えたシューアッパーを製造するための方法であって、上記アッパー材を準備する工程と、上記補強部となる熱可塑性樹脂粉末を準備する工程と、立体成形された上記アッパー材の上記被補強部のみに、後工程において選択的に上記熱可塑性樹脂粉末を付着させることができるように、上記アッパー材に所定の前処理を施す工程と、立体成形されるとともに上記所定の前処理が施された上記アッパー材に上記熱可塑性樹脂粉末を接触させることにより、上記アッパー材の上記補強部のみに上記熱可塑性樹脂粉末を選択的に付着させる工程と、上記熱可塑性樹脂粉末が選択的に付着した上記アッパー材を加熱して、上記熱可塑性樹脂粉末を溶融させる工程と、溶融した上記熱可塑性樹脂粉末を固化させることで上記アッパー材に上記補強部を固着させる工程とを備えている。上記所定の前処理は、立体成形された上記アッパー材を予備加熱する工程を含んでいる。立体成形された上記アッパー材を予備加熱する工程は、上記アッパー材の上記被補強部が上記熱可塑性樹脂粉末の融点以上の温度になるとともに、上記アッパー材の上記被補強部以外の部分が上記熱可塑性樹脂粉末の融点未満の温度になるように、上記アッパー材を加熱する工程である。上記アッパー材の上記被補強部のみに上記熱可塑性樹脂粉末を選択的に付着させる工程は、上記アッパー材が予備加熱された状態で行なわれる。上記熱可塑性樹脂粉末を溶融させる工程は、上記アッパー材の上記被補強部が上記熱可塑性樹脂粉末の融点以上の温度になるように上記アッパー材をさらに加熱して、上記熱可塑性樹脂粉末を再溶融させる工程である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、フィッティング性を高めつつ十分な補強効果が得られるシューアッパーの製造方法を提供することが可能になる
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施の形態に係る靴の斜視図である。
図2図1に示す靴の背面図である。
図3図1に示す靴の分解斜視図である。
図4図1に示すシューアッパーの補強部の端部の拡大図である。
図5図4中に示すV-V線に沿ったシューアッパーの模式的な断面図である。
図6図1に示すシューアッパーのアッパー材の継ぎ目部分の模式的な断面図である。
図7】実施の形態に係るシューアッパーの製造方法を示すフロー図である。
図8】実施の形態に係るシューアッパーの製造装置を示す概念図である。
図9図8に示す粉末付着装置の概略図である。
図10】第1および第2変形例に係る靴のシューアッパーの模式的な断面図である。
図11】第3および第4変形例に係る靴のシューアッパーの模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態においては、同一のまたは共通する部分について図中同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0016】
図1は、実施の形態に係る靴の斜視図であり、図2は、図1に示す靴の背面図である。図3は、図1に示す靴の分解斜視図であり、図4は、図1に示すシューアッパーの補強部の端部の拡大図である。また、図5は、図4中に示すV-V線に沿ったシューアッパーの模式的な断面図であり、図6は、図1に示すシューアッパーのアッパー材の継ぎ目部分の模式的な断面図である。以下においては、本実施の形態に係るシューアッパーの製造方法について説明するに先立って、まずは、これら図1ないし図6を参照して、当該製造方法に従って製造された本実施の形態に係るシューアッパー10およびこれを備えた靴1について説明する。
【0017】
図1ないし図3に示すように、靴1は、シューアッパー10と、靴底20と、中敷き30とを備えている。シューアッパー10は、挿入された足の甲側の部分の全体を少なくとも覆う形状を有している。靴底20は、足の足裏を覆うようにシューアッパー10の下方に位置している。中敷き30は、シューアッパー10の内底面を覆うようにシューアッパー10の内部に収容されている。
【0018】
シューアッパー10は、アッパー本体であるアッパー材11と、シュータン12と、補強部13としての爪先側補強部13A、踵側補強部13B、アイレット補強部13Cおよび側面補強部13Dと、シューレース14とを含んでいる。このうち、シュータン12、爪先側補強部13A、踵側補強部13B、アイレット補強部13C、側面補強部13Dおよびシューレース14は、いずれもアッパー材11に固定または取り付けられている。
【0019】
アッパー材11の上部には、足首の上部と足の甲の一部とを露出させる上側開口部が設けられている。一方、アッパー材11の下部には、一例としては、靴底20によって覆われる下側開口部が設けられており、他の例としては、アッパー材11の下部には、当該アッパー材11の下端が袋縫いされることで底部が形成されている。ここで、アッパー材11の下部に底部を設ける場合としては、上述した袋縫いを適用する以外にも、靴下編みや丸編み等によってアッパー材11の全体を予め袋状に形成してもよい。
【0020】
シュータン12は、アッパー材11に設けられた上側開口部のうち、足の甲の一部を露出させる部分を覆うようにアッパー材11に縫製、溶着あるいは接着またはこれらの組み合わせ等によって固定されている。アッパー材11およびシュータン12としては、たとえば織地や編地、不織布、合成皮革、樹脂等が用いられ、好適には、ポリエチレンテレフタラート(PET)やナイロン等の合成樹脂製の繊維材料からなる織地や編地等が用いられる。なお、織地の場合の織り方や編地の場合の編み方は、特にこれが制限されるものではなく、たとえば、編地の場合には、メッシュ状、平編み、丸編み等、様々な形態のものが利用できる。
【0021】
爪先側補強部13Aおよび踵側補強部13Bは、特に耐久性が求められる部分であるアッパー材11の足の爪先を覆う部分および足の踵を覆う部分をそれぞれ補強するために設けられたものであり、被補強部11aとしてのこれら部分のアッパー材11の外側表面を覆うように位置している。
【0022】
アイレット補強部13Cは、爪先側補強部13Aおよび踵側補強部13Bと同様に、特に耐久性が求められる部分である、アッパー材11に設けられた足の甲の一部を露出させる上側開口部の周縁(すなわち、シューレース14が取り付けられる部分)を補強するために設けられたものであり、被補強部11aとしての当該部分のアッパー材11の外側表面を覆うように位置している。
【0023】
側面補強部13Dは、爪先側補強部13A、踵側補強部13Bおよびアイレット補強部13Cと同様に、特に耐久性が求められる部分である、アッパー材11の後述する中足部の側面を覆う部分を補強するために設けられたものであり、被補強部11aとしての当該部分のアッパー材11の外側表面を覆うように位置している。
【0024】
補強部13としてのこれら爪先側補強部13A、踵側補強部13B、アイレット補強部13Cおよび側面補強部13Dは、アッパー材11の外側表面に固着した樹脂製の部材からなる。より詳細には、補強部13は、後述するように熱可塑性樹脂粉末をアッパー材11の被補強部11aに付着させてこれをアッパー材11に固着させることで形成されたものであるが、その詳細については後述することとする。
【0025】
シューレース14は、アッパー材11に設けられた足の甲の一部を露出させる上側開口部の周縁を足幅方向において互いに引き寄せるための紐状の部材からなり、当該上側開口部の周縁に設けられた複数の孔部に挿通されている。アッパー材11に足が挿入された状態においてこのシューレース14を締め付けることにより、アッパー材11を足に密着させることが可能になる。
【0026】
靴底20は、アウトソール21およびミッドソール22を含んでいる。アウトソール21およびミッドソール22は、これらが一体化されてなる全体として略偏平な形状を有している。アウトソール21は、その下面に接地面を有しており、ミッドソール22は、アウトソール21の上方に位置している。
【0027】
アウトソール21は、耐摩耗性やグリップ性に優れていることが好ましく、当該観点から、アウトソール21としては、たとえば、主成分としてのゴム材料と、副成分としての可塑剤や補強剤、架橋剤とを含む材料からなる部材が用いられる。
【0028】
ミッドソール22は、適度な強度を有しつつも緩衝性に優れていることが好ましく、当該観点から、ミッドソール22としては、たとえば、主成分としての樹脂材料と、副成分としての発泡剤や架橋剤とを含む樹脂製のフォーム材が用いられる。また、これに代えて、主成分としてのゴム材料と、副成分としての可塑剤や発泡剤、補強剤、架橋剤とを含むゴム製のフォーム材を用いてもよい。
【0029】
上記樹脂材料としては、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂が利用でき、熱可塑性樹脂としては、たとえばエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)が好適に利用でき、熱硬化性樹脂としては、たとえばポリウレタン(PU)が好適に利用できる。上記ゴム材料としては、たとえばブタジエンゴムが好適に利用できる。
【0030】
靴底20は、上述したアウトソール21およびミッドソール22に加えて、図示するように中底23を有していてもよい。靴底20が中底23を有している場合には、中底23は、上述したアッパー材11の下側開口部を覆うようにアッパー材11に取り付けられるか、あるいは、上述したアッパー材11の下端が袋縫いされることで形成された底部を覆うようにアッパー材11に取り付けられる。
【0031】
より詳細には、中底23は、アッパー材11に縫製等によって固定されるとともに、ミッドソール22の上面に接着または溶着等によって固定される。中底23は、たとえばポリエステル等の合成樹脂繊維で構成された織地、編地または不織布、あるいは、主成分としての樹脂材料と、副成分としての発泡剤や架橋剤とを含む樹脂製のフォーム材からなる。
【0032】
中敷き30は、上述したようにシューアッパー10の内部に収容されており、シューアッパー10の内底面上に着脱自在に取り付けられるか、あるいは、シューアッパー10の内底面に溶着または接着等によって固定されている。中敷き30は、たとえばポリエステル等の合成樹脂繊維で構成された織地、編地または不織布、あるいは、主成分としての樹脂材料と、副成分としての発泡剤や架橋剤とを含む樹脂製のフォーム材からなり、足当たりをよくする目的で配置されるものである。なお、中敷き30は、必須の構成ではなく、これを設けないこととしてもよい。
【0033】
ここで、図4ないし図6に示すように、本実施の形態に係る靴1においては、上述したように、補強部13が、熱可塑性樹脂粉末をアッパー材11の被補強部11aに付着させてこれをアッパー材11に固着させることで形成されたものからなる。なお、図4は、アッパー材11が編地にて構成された場合を比較的忠実に表わしたものであり、図5および図6においては、アッパー材11および補強部13の形状を大幅に簡素化して表わしている。
【0034】
図4に示すように、補強部13は、必ずしもアッパー材11の被補強部11aを完全に覆っている必要はなく、その被覆率(すなわち、被補強部11aの総面積に対して実際にこれを覆っている部分の面積の比率)は、たとえば50%以上100%以下とされる。ここで、被覆率を100%とした場合あるいはこれに近づけた場合には、高い補強効果が得られることになる。一方で、被覆率をある程度小さくした場合には、補強部13が設けられる部分の弾性変形のし易さをある程度維持しつつも、補強効果を得ることが可能になる。
【0035】
また、図5および図6においては、補強部13の厚みがおおよそ一定に構成されている場合を例示しているが、補強部13の厚みは、必ずしも一定である必要はなく、これに多少のムラがあってもよい。ここで、補強部13の厚みをおおよそ一定に構成した場合には、安定した補強効果が得られることになる。一方で、補強部13の厚みに多少のムラを持たせた場合には、補強部13が設けられる部分の弾性変形のし易さをある程度維持しつつも、補強効果を得ることが可能になる。
【0036】
補強部13の材質としては、上述したように熱可塑性樹脂からなる。当該熱可塑性樹脂としては、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、熱可塑性エラストマー(TPE)等が好適に利用できる。なお、当該熱可塑性樹脂の融点は、特にこれが制限されるものではないが、80℃以上120℃以下であることが好ましい。
【0037】
また、補強部13の原料となる熱可塑性樹脂粉末の粒径は、特にこれが制限されるものではないが、たとえば0.1mm以上5mm以下とされることが好ましい。粒径が1mm以上の熱可塑性樹脂粉末を利用することとすれば、補強部13およびこれが設けられた部分のシューアッパー10の弾性を高く維持しつつ、補強効果を得ることができる。一方、粒径が1mm未満の熱可塑性樹脂粉末を利用することとすれば、高い補強効果を得ることができ、補強部13およびこれが設けられた部分のシューアッパー10の低歪み時と高歪み時とにおいて効果の差が生じ易くなる。
【0038】
なお、補強部13の原料となる熱可塑性樹脂粉末は、所定の色に着色されていてもよい。このようにすれば、補強部13の色を種々変更することができ、意匠性に優れたものとすることができる。特に、当該効果は、側面補強部13Dにおいて顕著となる。
【0039】
ここで、図5に示すように、補強部13の端部においては、アッパー材11の所定位置において補強部13による被覆が途切れることでアッパー材11が露出している。すなわち、補強部13が設けられた部分においては、アッパー材11の外側表面が補強部13によって覆われることにより、当該補強部13によって覆われていない部分のアッパー材11よりも強度が高められることになる。
【0040】
一方、図6に示すように、本実施の形態に係る靴1にあっては、アッパー材11の繋ぎ目11bが位置する部分においても、補強部13が設けられている。当該繋ぎ目11bは、たとえば図2に示すように、シューアッパー10の足の踵を覆う部分に設けられており、補強部13は、この繋ぎ目11bに跨がって設けられている。
【0041】
このように構成することにより、シューアッパー10の繋ぎ目11bが設けられる部分において当該繋ぎ目11bを跨がるように補強部13が設けられることにより、高い補強効果が得られるシューアッパー10とすることができる。
【0042】
図7は、本実施の形態に係るシューアッパーの製造方法を示すフロー図である。また、図8は、本実施の形態に係るシューアッパーの製造装置を示す概念図であり、図9は、図8に示す粉末付着装置の概略図である。次に、これら図7ないし図9を参照して、本実施の形態に係るシューアッパーの製造方法について説明するとともに、当該製造方法を実現するための製造装置の一構成例について説明する。
【0043】
上述した本実施の形態に係るシューアッパー10は、図7に示す製造フローに従って製造することができる。以下、当該製造フローにつき、ステップ毎にその説明を行なう。
【0044】
まず、図7に示すように、ステップST1において、アッパー材11が準備される。ステップST1において準備されるアッパー材11は、上述したようにたとえば織地や編地、不織布、合成皮革、樹脂等である。
【0045】
次に、図7に示すように、ステップST2において、補強部13となる熱可塑性樹脂粉末が準備される。ステップST2において準備される熱可塑性樹脂粉末は、上述したようにたとえばEVA、TPU、TPE等である。この熱可塑性樹脂粉末を準備するステップは、後述するアッパー材11を予備加熱するステップの前であれば、いずれのタイミングで行なわれてもよい。
【0046】
次に、図7に示すように、ステップST3においてアッパー材11の立体成形が行なわれ、続いて、ステップST4において、立体成形後のアッパー材11にラスト300(図8等参照)が挿入される。
【0047】
ここで、アッパー材11の立体成形は、たとえば生地等を所定の形状に裁断すること等によってアッパー材11を取り出し、これを立体的にかたち作って必要箇所を縫合、溶着あるいは接着またはこれらの組み合わせ等によって接合することで行なわれる。なお、靴下編みや丸編み等によってアッパー材11の全体を予め袋状に形成した場合には、上述した縫合等は不要である。
【0048】
ラスト300は、立体成形後のアッパー材11の形状を最終製品の形状に成形して維持するためのものであり、足の形を模した型である。ここで、上述したように、ラスト300は、立体成形後においてアッパー材11に挿入されてもよいし、立体成形時においてアッパー材11がラスト300に巻き付けられることで立体的にかたち作られ、その結果、立体成形後のアッパー材11にラスト300が挿入された状態となるようにされてもよい。
【0049】
次に、図7に示すように、ステップST5において、アッパー材11の予備加熱が行なわれ、ステップST6において、アッパー材11への熱可塑性樹脂粉末の付着が行なわれ、ステップST7において、アッパー材11がさらに加熱され、ステップST8においてアッパー材11の冷却が行なわれる。これら一連の工程は、たとえば図8に示す製造装置において実施される。
【0050】
図8に示すように、本実施の形態に係るシューアッパーの製造装置は、予備加熱装置110と、粉末付着装置120と、本加熱装置130とを備えている。当該製造装置は、いわゆるライン生産方式のものであり、コンベヤやピッキングアーム等の搬送装置を用いてワークとしてのアッパー材11を自動搬送可能に構成したものである。
【0051】
予備加熱装置110は、上述したステップST5におけるアッパー材11の予備加熱を行なうための装置であり、コンベヤ111と予備加熱炉112とを主として有している。予備加熱装置110においては、ラスト300が挿入されたアッパー材11がコンベヤ111の搬入部に搬入され、これがコンベヤ111によって搬送されることで予備加熱炉112に投入される。予備加熱炉112を通過することにより、ラスト300が挿入されたアッパー材11の予備加熱が終了し、予備加熱が終了した後のアッパー材11は、コンベヤ111の搬出部から、図示しないピッキングアームによって搬出される。
【0052】
ここで、ステップST5においては、アッパー材11が加熱され、これにより、特にアッパー材11の被補強部11aが、熱可塑性樹脂粉末200の融点以上の温度に達することになる。その際、アッパー材11のうちの被補強部11aのみが選択的に熱可塑性樹脂粉末200の融点以上の温度となるように加熱する方法としては、種々の方法が想定されるため、この点については後において詳述することとする。
【0053】
粉末付着装置120は、上述したステップST6におけるアッパー材11への熱可塑性樹脂粉末の付着を行なうための装置であり、流動槽121を主として有している。粉末付着装置120においては、予備加熱装置110によって予備加熱されたアッパー材11が、上述した図示しないピッキングアームによって保持されたままラスト300ごと流動槽121に投入され、その後、当該流動槽121から取り出される。
【0054】
より具体的には、図9に示すように、粉末付着装置120は、上面開口の容器状の流動槽121を有しており、当該流動槽121は、その底部に複数の孔部122を有している。流動槽121の内部は、多量の熱可塑性樹脂粉末200によって充填されており、当該流動槽121の内部には、上述した複数の孔部122からブロア等によってエアが吹き入れられる。
【0055】
これにより、粉末付着装置120においては、流動槽121の内部において熱可塑性樹脂粉末200が流動的に対流した状態とされており、この流動槽121に予備加熱後のアッパー材11が浸漬されることにより、熱可塑性樹脂粉末200がアッパー材11に付着されることになる。
【0056】
より詳細には、ステップST6においては、アッパー材11のうちの被補強部11aを覆うように熱可塑性樹脂粉末200が選択的に付着することになる。これは、アッパー材11のうちの被補強部11aが、上述したように熱可塑性樹脂粉末200の融点以上の温度に加熱されている一方、アッパー材11のうちの被補強部11a以外の部分が、熱可塑性樹脂粉末200の融点以上に加熱されていないことによる。
【0057】
すなわち、被補強部11aに接触した熱可塑性樹脂粉末200は、当該被補強部11aの熱を受け取ることによって溶融し、その粘度が下がることにより、あるいはそれに加えてその後温度が下がることにより、被補強部11aに付着する。また、完全には溶融していないものや全く溶融していないものも、既に溶融した熱可塑性樹脂粉末200の粘着力によって被補強部11aに付着する場合もある。一方、被補強部11a以外の部分に接触した熱可塑性樹脂粉末200は、当該部分から熱を受け取るものの、受け取った熱が溶融するには十分な熱ではないため、当該部分に付着することはない。
【0058】
これにより、立体成形されたアッパー材11のうちの被補強部11aにおいてのみ、熱可塑性樹脂粉末200が付着することになり、補強が必要な箇所への選択的な熱可塑性樹脂粉末の付着が実現できることになる。なお、熱可塑性樹脂粉末200をアッパー材11の被補強部11aに付着させる方法としては、上述した方法以外の方法も種々想定されるため、この点については後において詳述することとする。
【0059】
上述したステップS6において、意図せずに被補強部11a以外の部分に留まってしまった余分な熱可塑性樹脂粉末200(たとえばアッパー材11の繊維の間に挟まったもの等)は、たとえばエアブローや振動の付与等により、アッパー材11から除去するようにしてもよい。
【0060】
本加熱装置130は、上述したステップST7におけるアッパー材11のさらなる加熱を行なうための装置であり、コンベヤ131と本加熱炉132とを主として有している。本加熱装置130においては、熱可塑性樹脂粉末200が付着されたアッパー材11が、上述した図示しないピッキングアームによってコンベヤ131の搬入部に搬入され、当該アッパー材11がコンベヤ131によって搬送されることで本加熱炉132に投入される。
【0061】
ここで、ステップST7においては、アッパー材11がさらに加熱されることになり、これによりアッパー材11の被補強部11aが、熱可塑性樹脂粉末200の融点以上の温度に再度到達することになる。これにより、被補強部11aに付着していた熱可塑性樹脂粉末200が溶融し、被補強部11a上において濡れ広がることによって層状の形態をなし、これにより被補強部11aが熱可塑性樹脂の層によって覆われることになる。
【0062】
この本加熱によって溶融する熱可塑性樹脂粉末200には、上述した予備加熱において既に溶融してその後固化することで被補強部11aに付着したものや、上述したように完全にはあるいは全く溶融することなく被補強部11aに付着したもの等が含まれる。なお、このときの加熱方法としては、上述した加熱方法以外にも種々の方法が想定されるため、この点については後において詳述することとする。
【0063】
本加熱炉132を通過することにより、ラスト300が挿入されたアッパー材11の本加熱は終了する。本加熱が終了した後のアッパー材11は、コンベヤ131の搬出部に搬送される。これにより、ステップST8におけるアッパー材11の冷却が行なわれることになり、アッパー材11の被補強部11aを覆う熱可塑性樹脂の層が固化することでアッパー材11に補強部13が固着することになる。
【0064】
その後、コンベヤ131の搬出部からアッパー材11が搬出されるとともに、図7に示すように、ステップST9において、アッパー材11からラスト300が取り出される。これにより、被補強部11aが補強部13によって覆われてなるアッパー材11の製作が完了することになる。
【0065】
ここで、ステップST5におけるアッパー材11の加熱方法(すなわち予備加熱方法)としては、上述した加熱炉を用いた加熱方法以外にも、オーブン加熱、ヒーター加熱、ヒートガン加熱、マイクロ波加熱、レーザー加熱等の各種の加熱方法が利用できる。
【0066】
オーブン加熱を利用した場合には、アッパー材11の全体に対して一様な加熱が行なわれることになるため、アッパー材11の被補強部11aとそれ以外の部分とにおいて、材質を変える(すなわち熱伝導率の異なる材質を使う)ことにより、加熱温度に差をもたせることができる。また、アッパー材11の被補強部11aとそれ以外の部分とにおいて、厚みを変えることでも加熱温度に差をもたせることもできる。この点は、オーブン加熱に限らず、上述した加熱炉を用いた加熱の場合も同様であるが、その詳細については後述することとする。
【0067】
ヒーター加熱やヒートガン加熱を利用した場合には、アッパー材11に対する部分加熱が可能になるため、被補強部11aのみを選択的に局所加熱することが可能になり、これによってアッパー材11の被補強部11aとそれ以外の部分とにおいて加熱温度に差をもたせることができる。
【0068】
マイクロ波加熱を利用した場合には、アッパー材11の全体に対して一様な加熱が行なわれることになるため、アッパー材11の被補強部11aとそれ以外の部分とにおいて、材質を変える(すなわち誘電率が異なる材質を使う)ことにより、加熱温度に差をもたせることができる。また、アッパー材11の被補強部11aとそれ以外の部分とを同じ材質にて構成した場合にも、アッパー材11に挿入したラスト300の、被補強部11aに対応した位置と、被補強部11a以外の部分に対応した位置とにおいて、材質を変える(すなわち誘電率が異なる材質を使う)ことにより、加熱温度に差をもたせることができる。
【0069】
レーザー加熱を利用した場合には、アッパー材11に対する部分加熱が可能になるため、被補強部11aのみを選択的に局所加熱することが可能になり、これによってアッパー材11の被補強部11aとそれ以外の部分とにおいて加熱温度に差をもたせることができる。
【0070】
また、ステップST7におけるアッパー材11の加熱方法(すなわち本加熱方法)としては、上述した加熱炉を用いた加熱方法以外にも、前述の予備加熱方法と同様に、オーブン加熱、ヒーター加熱、ヒートガン加熱、マイクロ波加熱、レーザー加熱等の各種の加熱方法を利用することができる。
【0071】
一方で、ステップST6におけるアッパー材11への熱可塑性樹脂粉末200の付着方法としては、上述した流動槽を用いた付着方法以外にも、カーテン式またはスプレー式の吹き付け装置を用いて熱可塑性樹脂粉末200をアッパー材11へ吹き付け、これによって熱可塑性樹脂粉末200をアッパー材11に付着させる方法を利用することができる。
【0072】
また、立体成形後のアッパー材11の被補強部11aにのみ選択的に熱可塑性樹脂粉末200を付着させる方法としては、上述した予備加熱を利用する方法以外にも、各種の方法が利用でき、たとえば静電気を利用する付着方法や、液体を利用する付着方法、表面加工を利用する付着方法等が利用できる。
【0073】
静電気を利用する付着方法とは、アッパー材11の被補強部11aおよび熱可塑性樹脂粉末200の少なくともいずれかを予め静電帯電させておき、この状態においてアッパー材11の被補強部11aに対して熱可塑性樹脂粉末200を供給することにより、静電吸引力を利用して立体成形後のアッパー材11の被補強部11aにのみ選択的に熱可塑性樹脂粉末200を付着させるものである。この静電気を利用する付着方法を利用した場合には、補強部13の厚みの制御が容易に行なえるため、所望の補強効果を確実に得ることができる。
【0074】
なお、アッパー材11の被補強部11aおよび熱可塑性樹脂粉末200の少なくともいずれかを予め静電帯電させる方法としては、電圧の印可や摩擦が利用でき、一例としては、静電スプレーガンを用いた静電塗装技術に近似の技術を利用することができる。
【0075】
液体を利用する付着方法とは、アッパー材11の被補強部11aに予め液体を塗布しておき、この状態においてアッパー材11の被補強部11aに対して熱可塑性樹脂粉末200を供給することにより、液体の表面張力を利用して立体成形後のアッパー材11の被補強部11aにのみ選択的に熱可塑性樹脂粉末200を付着させるものである。ここで、液体としては、常圧100℃以下の環境下であれば水を有効に利用することができるが、これ以外にも各種の油や粘着剤等を利用することができる。
【0076】
表面加工を利用する付着方法とは、熱可塑性樹脂粉末200に予め表面加工を行なうことにより、そのアッパー材11への付着力を高め、これにより立体成形後のアッパー材11の被補強部11aにのみ選択的に熱可塑性樹脂粉末200を局所的に吹き付けて付着させるものである。当該表面加工としては、アッパー材11に付着し易い官能基を熱可塑性樹脂粉末200の表面に付与する加工が想定される。
【0077】
さらには、アッパー材11の被補強部11aおよび熱可塑性樹脂粉末200の表面を微細な凹凸形状にしてもよい。そのようにすれば、アッパー材11の被補強部11aに対する熱可塑性樹脂粉末200の付着力を高めることができ、立体成形後のアッパー材11の被補強部11aにのみ選択的に熱可塑性樹脂粉末200を付着させることが可能になる。
【0078】
なお、以上において説明した、立体成形後のアッパー材11の被補強部11aにのみ選択的に熱可塑性樹脂粉末200を付着させる方法としての、静電気を利用する付着方法や、液体を利用する付着方法、表面加工を利用する付着方法等は、これのみを単独で用いてもよいし、相互に組み合わせることとしてもよい。さらには、これらの付着方法を上述した予備加熱を利用する方法に組み合わせることとしてもよい。
【0079】
上述した本実施の形態に係るシューアッパーの製造方法は、アッパー材11に補強部13を設ける前にアッパー材11を立体成形し、立体成形後のアッパー材11に熱可塑性樹脂粉末200を付着させるものであるところ、立体成形後のアッパー材11の被補強部11aに必要量の熱可塑性樹脂粉末200を再現性よく付着させることができるものである。
【0080】
そのため、補強部13自体がその形成時において所望の形状となるよう形成されることになり、補強部13が設けられた部分やその周囲部分において、シューアッパー10に意図しない張力が発生することが防止できる。したがって、本実施の形態に係るシューアッパーの製造方法とすることにより、フィッティング性を高めつつ十分な補強効果が得られるシューアッパーの製造方法とすることができる。
【0081】
また、上述した本実施の形態に係るシューアッパー10およびこれを備えた靴1とすることにより、高い補強効果が得られるシューアッパーおよびこれを備えた靴とすることができる。
【0082】
ここで、上述した本実施の形態においては、アッパー材11を予備加熱する工程(ステップST5)、熱可塑性樹脂粉末200をアッパー材11に付着させる工程(ステップST6)、および、アッパー材11に付着した熱可塑性樹脂粉末200を溶融させる工程(ステップST7)が、いずれもアッパー材11にラスト300が挿入された状態で行なわれている。このようにすれば、アッパー材11の形状変化や温度変化を抑制することが可能になり、各工程における作業がより容易に行なえることになる。さらには、ラスト300を金属製の部材にて構成することとすれば、アッパー材11の加熱効率を高めることもできるため、熱可塑性樹脂粉末200の溶融がよりスムーズに生じることにもなる。
【0083】
また、上述した本実施の形態においては、熱可塑性樹脂粉末200として、一種のものを利用する場合を例示して説明を行なったが、これに代えて複数種のものを利用することとしてもよい。すなわち、一種のものを利用した場合には、複数の補強部13が基本的にはすべて同等の性能を有するものとなるが、複数種のものを利用した場合には、補強部13ごとに性能を異ならしめることができる。
【0084】
たとえば、熱可塑性樹脂粉末200として、相対的に粒径の大きい第1樹脂粉末(たとえば粒径が1mm以上)と、相対的に粒径の小さい第2樹脂粉末(たとえば粒径が1mm未満)とを用いることとし、踵側補強部13Bを第1樹脂粉末にて形成し、爪先側補強部13Aおよび側面補強部13Dを第2樹脂粉末にて形成することとすることができる。
【0085】
このように構成した場合には、高強度での補強が必要となる踵側補強部13Bにおいて当該性能を満たすことができるようになるとともに、アッパー材11と補強部13との間での剥離等を防止することでその耐久性を高めることが必要になる爪先側補強部13Aおよび側面補強部13Dにおいて当該性能を満たすことができるようになる。
【0086】
なお、踵側補強部13Bは、靴の用途(すなわち当該靴が使用される競技等)に応じて、ヒールカウンターとして様々な形状や厚み、位置等に成形することができる。
【0087】
図10(A)および図10(B)は、それぞれ第1および第2変形例に係る靴のシューアッパーの模式的な断面図である。また、図11(A)および図11(B)は、それぞれ第3および第4変形例に係る靴のシューアッパーの模式的な断面図である。以下、これら図10(A)、図10(B)、図11(A)および図11(B)を参照して、上述した実施の形態に基づいた第1ないし第4変形例に係る靴のシューアッパー10A,10A’,10B,10B’について説明する。
【0088】
上述したように、加熱炉を用いた加熱またはオーブン加熱を利用して予備加熱を行なう場合には、アッパー材11の被補強部11aとそれ以外の部分とにおいて、材質を変えるあるいは厚みを変えることで、加熱温度に差をもたせることがきる。
【0089】
図10(A)に示す第1変形例に係るシューアッパー10Aにおいては、アッパー材11が、異なる材質からなる被補強部11a1,11a2を含んでおり、これら被補強部11a1,11a2が繋ぎ目11bを介して接合されている。ここで、被補強部11a1の熱伝導率は、被補強部11a2の熱伝導率よりも高い。
【0090】
このように構成した場合には、アッパー材11の全体に対して一様な加熱が行なわれた場合にも、被補強部11a1の温度が被補強部11a2の温度よりも高くなる。そのため、これら被補強部11a1,11a2上に付着される樹脂量が変化することになり、結果として補強部13の厚みを相互に異ならしめることができ、より高温に加熱される被補強部11a1上の補強部13の厚みT1を、より低温に加熱される被補強部11a2上の補強部13の厚みT2よりも大きくすることができる。
【0091】
図10(B)に示す第2変形例に係るシューアッパー10A’においては、アッパー材11が、異なる材質からなる被補強部11a1と非被補強部11a2’とを含んでおり、これら被補強部11a1と非被補強部11a2’とが繋ぎ目11bを介して接合されている。ここで、被補強部11a1の熱伝導率は、非被補強部11a2’の熱伝導率よりも高い。
【0092】
このように構成しつつ、予備加熱時において、より熱伝導率が高い被補強部11a1が熱可塑性樹脂粉末の融点よりも高い温度となるとともに、より熱伝導率が低い非被補強部11a2’が熱可塑性樹脂粉末の融点よりも低い温度となるように加熱条件を調整すれば、被補強部11a1上のみに選択的に補強部13を形成することが可能になり、非被補強部11a2’上には、補強部13が形成されなくなる。
【0093】
図11(A)に示す第3変形例に係るシューアッパー10Bにおいては、アッパー材11が、異なる厚みを有する被補強部11a3,11a4を含んでいる。ここで、被補強部11a3の厚みt3は、被補強部11a4の厚みt4よりも大きい。
【0094】
このように構成した場合には、アッパー材11の全体に対して一様な加熱が行なわれた場合にも、被補強部11a4の温度が被補強部11a3の温度よりも高くなる。これは、アッパー材11自体の厚みの差に起因した熱容量の差や、ラスト300からアッパー材11への熱伝導の差に基づき、より厚みの薄い被補強部11a4において表面温度が高くなるためである。そのため、これら被補強部11a3,11a4上に形成される補強部13の厚みを相互に異ならしめることができ、より高温に加熱される被補強部11a4上の補強部13の厚みT4を、より低温に加熱される被補強部11a3上の補強部13の厚みT3よりも大きくすることができる。
【0095】
図11(B)に示す第4変形例に係るシューアッパー10B’においては、アッパー材11が、異なる厚みを有する非被補強部11a3’と被補強部11a4とを含んでいる。ここで、非被補強部11a3’の厚みt3’は、被補強部11a4の厚みt4よりも大きい。
【0096】
このように構成しつつ、予備加熱時において、より厚みの小さい被補強部11a4が熱可塑性樹脂粉末の融点よりも高い温度となるとともに、より厚みの大きい非被補強部11a3’が熱可塑性樹脂粉末の融点よりも低い温度となるように加熱条件を調整すれば、被補強部11a4上のみに選択的に補強部13を形成することが可能になり、非被補強部11a3’上には、補強部13が形成されなくなる。
【0097】
(実施の形態等における開示内容の要約)
上述した実施の形態およびその変形例において開示した特徴的な構成を要約すると、以下のとおりとなる。
【0098】
本開示のある態様に従ったシューアッパーの製造方法は、被補強部を含むアッパー材と、上記被補強部を覆うことで上記アッパー材を補強する補強部とを備えたシューアッパーを製造するための方法であって、上記アッパー材を準備する工程と、上記補強部となる熱可塑性樹脂粉末を準備する工程と、上記アッパー材を立体成形する工程と、立体成形された上記アッパー材の上記被補強部が上記熱可塑性樹脂粉末の融点以上の温度となるように、上記アッパー材を予備加熱する工程と、予備加熱された上記アッパー材の上記被補強部を少なくとも覆うように、上記熱可塑性樹脂粉末を上記アッパー材に付着させる工程と、上記熱可塑性樹脂粉末が付着された上記アッパー材をさらに加熱して上記アッパー材に付着した上記熱可塑性樹脂粉末を溶融させる工程と、溶融した上記熱可塑性樹脂粉末を固化させることで上記アッパー材に上記補強部を固着させる工程とを備えている。
【0099】
上記本開示のある態様に従ったシューアッパーの製造方法にあっては、上記熱可塑性樹脂粉末を上記アッパー材に付着させる工程が、上記アッパー材および上記熱可塑性樹脂粉末の少なくともいずれかを静電帯電させた状態で行なわれてもよい。
【0100】
上記本開示のある態様に従ったシューアッパーの製造方法にあっては、上記熱可塑性樹脂粉末を上記アッパー材に付着させる工程が、上記アッパー材の上記被補強部に予め液体が塗布された状態で行なわれてもよい。
【0101】
上記本開示のある態様に従ったシューアッパーの製造方法にあっては、上記アッパー材の上記被補強部の表面および上記熱可塑性樹脂粉末の表面の少なくともいずれか一方が、凹凸形状を有していてもよい。
【0102】
上記本開示のある態様に従ったシューアッパーの製造方法にあっては、上記熱可塑性樹脂粉末を上記アッパー材に付着させる工程が、上記熱可塑性樹脂粉末を上記アッパー材に吹き付けることで行なわれてもよい。
【0103】
上記本開示のある態様に従ったシューアッパーの製造方法にあっては、上記熱可塑性樹脂粉末を上記アッパー材に付着させる工程が、対流した状態にある上記熱可塑性樹脂粉末の中に上記アッパー材を浸漬することで行なわれてもよい。
【0104】
上記本開示のある態様に従ったシューアッパーの製造方法にあっては、上記アッパー材を予備加熱する工程、および、上記アッパー材に付着した上記熱可塑性樹脂粉末を溶融させる工程が、オーブン加熱、ヒーター加熱、ヒートガン加熱、マイクロ波加熱およびレーザー加熱のいずれかにて行なわれてもよい。
【0105】
上記本開示のある態様に従ったシューアッパーの製造方法にあっては、上記アッパー材を予備加熱する工程、上記熱可塑性樹脂粉末を上記アッパー材に付着させる工程、および、上記アッパー材に付着した上記熱可塑性樹脂粉末を溶融させる工程が、上記アッパー材にラストが挿入された状態で行なわれてもよい。
【0106】
上記本開示のある態様に従ったシューアッパーの製造方法にあっては、上記補強部が、上記アッパー材のうちの足の爪先を覆う部分、および、上記アッパー材のうちの足の踵を覆う部分に設けられてもよい。
【0107】
上記本開示のある態様に従ったシューアッパーの製造方法にあっては、上記補強部が、上記アッパー材のうちの足の爪先を覆う部分、上記アッパー材のうちの足の中足部の側面を覆う部分、および、上記アッパー材のうちの足の踵を覆う部分に設けられてもよい。
【0108】
上記本開示のある態様に従ったシューアッパーの製造方法にあっては、上記熱可塑性樹脂粉末を準備する工程において、上記熱可塑性樹脂粉末として、相対的に粒径の大きい第1樹脂粉末と、相対的に粒径の小さい第2樹脂粉末とが準備されてもよく、その場合には、上記熱可塑性樹脂粉末を上記アッパー材に付着させる工程において、上記アッパー材のうちの足の踵を覆う部分に上記第1樹脂粉末が付着されてもよく、また、上記熱可塑性樹脂粉末を上記アッパー材に付着させる工程において、上記アッパー材のうちの足の爪先を覆う部分および上記アッパー材のうちの足の中足部の側面を覆う部分に上記第2樹脂粉末が付着されてもよい。
【0109】
上記本開示のある態様に従ったシューアッパーの製造方法にあっては、上記補強部が、上記アッパー材の繋ぎ目を跨ぐように設けられてもよい。
【0110】
上記本開示のある態様に従ったシューアッパーの製造方法にあっては、上記補強部によって補強される上記アッパー材の上記被補強部の厚みが、上記アッパー材の上記被補強部以外の部分の厚みよりも小さくてもよい。
【0111】
本開示のある態様に従ったシューアッパーは、被補強部を含むアッパー材と、上記被補強部を覆うことで上記アッパー材を補強する補強部とを備えており、上記補強部は、上記アッパー材に付着させた熱可塑性樹脂粉末を溶融させた後に固化させることで上記アッパー材に固着されたものからなり、上記補強部は、上記アッパー材の繋ぎ目を跨ぐように設けられている。
【0112】
本開示の他の態様に従ったシューアッパーは、被補強部を含むアッパー材と、上記被補強部を覆うことで上記アッパー材を補強する補強部とを備えており、上記補強部は、上記アッパー材に付着させた熱可塑性樹脂粉末を溶融させた後に固化させることで上記アッパー材に固着されたものからなり、上記補強部によって補強される上記アッパー材の上記被補強部の厚みは、上記アッパー材の上記被補強部以外の部分の厚みよりも小さい。
【0113】
上記本開示のある態様および他の態様に従ったシューアッパーにあっては、上記補強部が、上記アッパー材のうちの足の爪先を覆う部分、上記アッパー材のうちの足の中足部の側面を覆う部分、および、上記アッパー材のうちの足の踵を覆う部分のいずれかに位置していてもよい。
【0114】
本開示のある態様に従った靴は、上述した本開示のある態様または他の態様に従ったシューアッパーと、当該シューアッパーの下方に設けられた靴底とを備えてなるものである。
【0115】
(その他の形態等)
上述した実施の形態およびその変形例においては、補強部として、爪先側補強部、踵側補強部、アイレット補強部および側面補強部が設けられた場合を例示して説明を行なったが、これら補強部のうちのいずれか1つのみあるいはいずれか2つまたは3つのみが設けられるようにしてもよいし、これら以外の部分に補強部が設けられるようにしてもよい。これら以外の部分に補強部を設ける場合の一例としては、たとえばテニス用等の球技用靴のシューアッパーにおいて、アッパー材のうちの足の足趾の上面等を覆う部分に補強部が設けられる例が挙げられる。
【0116】
また、上述した実施の形態およびその変形例においては、側面補強部が、アッパー材の中足部のうちの外足側の部分にのみ設けられた場合を例示して説明を行なったが、これに加えてあるいはこれに代えて、側面補強部が、アッパー材の中足部のうちの内足側の部分に設けられてもよい。
【0117】
ここで、アッパー材の被補強部とは、補強部が設けられることによって補強されることが意図された部分のみならず、製造時において熱可塑性樹脂粉末が意図せずに付着することにより、結果的に補強されることとなった部分をも含む意味である。また、被補強部は、アッパー材のうちの一部である必要もなく、アッパー材の全体が被補強部であってもよい。
【0118】
さらには、上述した実施の形態およびその変形例においては、シューレースを用いることでアッパー本体が足に密着させられるように構成された靴を例示して説明を行なったが、アッパー本体が面ファスナによって足に密着させられるように構成された靴としてもよいし、シュータンを備えないソック状のアッパー本体とすることで足をアッパー本体に挿入するのみでアッパー本体が足に密着させられるように構成された靴としてもよい。
【0119】
加えて、本発明は、顧客からの要望に応じてカスタマイズ品として靴を受注生産する場合に好適に利用できるものである。すなわち、既に所定の補強部が設けられてなるシューズアッパー(または靴)、あるいは、補強部が未だ一切設けられていないシューズアッパー(または靴)を予めまたは受注後に準備し、顧客からの要望に応じてこれらに対して本発明を適用することによって付加的に補強部を形成してこれをカスタマイズ品として生産して出荷することができる。なお、その場合の補強部の形成位置や色等の指定は、店頭やインターネット上において店員あるいは顧客が、画面上に表示される補強部の形成位置の選択肢や色の選択肢から希望のものを選択する方法等が想定される。
【0120】
このように、今回開示した上記実施の形態およびその変形例はすべての点で例示であって、制限的なものではない。本発明の技術的範囲は請求の範囲によって画定され、また請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0121】
1 靴、10,10A,10A’,10B,10B’ シューアッパー、11 アッパー材、11a,11a1~11a4 被補強部、11a2’,11a3’ 非被補強部、11b 繋ぎ目、12 シュータン、13 補強部、13A 爪先側補強部、13B 踵側補強部、13C アイレット補強部、13D 側面補強部、14 シューレース、20 靴底、21 アウトソール、22 ミッドソール、23 中底、110 予備加熱装置、111 コンベヤ、112 予備加熱炉、120 粉末付着装置、121 流動槽、122 孔部、130 本加熱装置、131 コンベヤ、132 本加熱炉、200 熱可塑性樹脂粉末、300 ラスト。
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