(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-25
(45)【発行日】2022-09-02
(54)【発明の名称】MFIゼオライト分離膜中の欠陥構造を調節する方法
(51)【国際特許分類】
C01B 39/36 20060101AFI20220826BHJP
B01D 65/00 20060101ALI20220826BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20220826BHJP
【FI】
C01B39/36
B01D65/00
B01D71/02
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021004715
(22)【出願日】2021-01-15
【審査請求日】2021-02-03
(31)【優先権主張番号】10-2020-0005589
(32)【優先日】2020-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】510273880
【氏名又は名称】コリア ユニバーシティ リサーチ アンド ビジネス ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】KOREA UNIVERSITY RESEARCH AND BUSINESS FOUNDATION
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】チェ ジュンギュ
(72)【発明者】
【氏名】イ クァンニョン
(72)【発明者】
【氏名】ホン ソンウォン
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0045174(US,A1)
【文献】特表平10-502573(JP,A)
【文献】特開2010-180080(JP,A)
【文献】米国特許第05681789(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0366274(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 39/36
B01D 65/00
B01D 71/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MFIゼオライト分離膜を150~300℃の温度及びオゾン雰囲気下で焼成させる段階を含む、MFIゼオライト分離膜の欠陥構造を調節するMFIゼオライト分離膜の欠陥構造の調節方法であって、
0.001~1.5g/minのオゾンの注入速度でオゾンの総注入量が
注入気体の総量に対して0.05~75vol%となるように注入され、0.1~20℃/minの昇温速度で0.5~168時間焼成させ、
前記MFIゼオライト分離膜が10~4100のp-キシレン/o-キシレン分離係数を有する、前記方法。
【請求項2】
前記MFIゼオライト分離膜は、MFI種層が形成された支持体上に、有機構造指向剤:SiO
2:H
2O:Al
2O
3:Na
2O=1~100:5~500:1,000~50,000:0~100:0~1,000のモル比で構成された二次成長溶液を添加し、水熱合成させる段階を含む方法によって製造されることを特徴とする、請求項1に記載のMFIゼオライト分離膜の欠陥構造の調節方法。
【請求項3】
前記有機構造指向剤は、TPAOH(tetrapropylammonium hydroxide)、TPABr(tetrapropylammonium bromide)、TPAF(tetrapropylammonium fluoride)、TPACl(tetrapropylammonium chloride)、TPAI(tetrapropylammonium iodide)、TEAOH(tetraethylammonium hydroxide)、TEABr(tetraethylammonium bromide)、TEAF(tetraethylammonium fluoride)、TEACl(tetraethylammonium chloride)及びTEAI(tetraethylammonium iodide)からなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする、請求項2に記載のMFIゼオライト分離膜の欠陥構造の調節方法。
【請求項4】
前記水熱合成は、80~200℃の温度で12~240時間行われることを特徴とする、請求項2に記載のMFIゼオライト分離膜の欠陥構造の調節方法。
【請求項5】
前記水熱合成後に、分離膜を30~200℃の温度で1~24時間乾燥させる段階をさらに含む、請求項2に記載のMFIゼオライト分離膜の欠陥構造の調節方法。
【請求項6】
前記支持体は、α-アルミナ、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリイミド、シリカ、ガラス、ガンマアルミナ、ムライト(mullite)、ジルコニア(zirconia)、チタニア(titania)、イットリア(yttria)、セリア(ceria)、バナジア(vanadia)、シリコン、ステンレススチール及びカーボンからなる群から選ばれる1種以上であることを特徴とする、請求項2に記載のMFIゼオライト分離膜の欠陥構造の調節方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の方法によって製造されたMFIゼオライト分離膜を用いて、C8芳香族異性体の混合物からp-キシレンを分離する、p-キシレンの分離方法。
【請求項8】
前記C8芳香族異性体は、p-キシレン、m-キシレン、o-キシレン、またはエチルベンゼンであることを特徴とする、請求項7に記載のp-キシレンの分離方法。
【請求項9】
50℃以上の温度で行われることを特徴とする、請求項7に記載のp-キシレンの分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MFIゼオライト分離膜中の欠陥構造を調節する方法に関し、より詳細には、オゾンを用いた低温での焼成によって分離膜中の有機構造指向剤を除去するとき、MFI分離膜構造中に形成される欠陥の量及びサイズを減らし、キシレン異性体分離性能を向上させる、MFIゼオライト分離膜中の欠陥構造を調節する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトは、固有な構造とそれによる気孔サイズを有する無機多孔性物質であり、現在、200余種がある。これらのうち、分離しようとする物質に適する気孔サイズと構造を有するゼオライトを選択する場合、混合物をサイズによって分離する分子体分離膜を作ることができる。例えば、0.55nmの気孔サイズを有するMFI構造のゼオライト分離膜は、沸点が類似しているために既存の蒸留ベースの分離工程では分離し難いp-キシレン(0.58nm)とo-キシレン(0.68nm)混合物を、サイズベースで分離することができる。
【0003】
微細気孔を有するゼオライトを用いて作製した分子体分離膜は、サイズベースで混合物を分離できるので、非常に高い分離性能を示す。しかし、ゼオライト分離膜が形成される過程及び焼成過程において欠陥は不回避に形成される。ゼオライト分離膜中に存在する欠陥は分離膜の性能を悪化させ、分離膜本然の分子体役割を妨害することが知られている。また、欠陥は非選択的な通路を提供し、分離しようとする分子の他に不所望の分子まで透過させてしまい、分離係数を低下させる要因となる。欠陥を最小化させてゼオライトの分子体役割を極大化した分離膜を得るために様々な研究が着実に報告されている。分離膜作製過程中の二次成長過程と分離膜合成以後の熱ベース焼成過程などで生じ得る欠陥を減らす研究と、分離膜の作製後に追加の過程を導入して欠陥を減らす後処理方法への研究が様々に行われている(Zhang et al.,Journal of Membrane Science 358.1(2010)7-12;Zhu et al.,Microporous and Mesoporous Materials 237(2017)140-150;Maghsoudi,Separation & Purification Reviews 45.3(2016)169-192;Choi et al.,Science 325(2009)590-593)。
【0004】
ゼオライト分離膜の分離性能を低下させる欠陥を除去するための様々な技術が研究されている。ゼオライト気孔よりもサイズの大きい陽イオン粒子を欠陥に選択的に挿入して欠陥を防ぐか、ゼオライト気孔よりも大きい有機シラン(organosilane)が極性と無極性溶媒間の界面において化学的反応を起こすようにして欠陥を減らす研究が報告されている(Zhang et al.,Journal of Membrane Science 358.1(2010)7-12)。また、ゼオライト分離膜中に存在する有機構造指向剤を除去する焼成過程に先立て急速熱処理を行い、ゼオライト中の粒子-界面(grain-boundary)欠陥を減らす方法も報告されている(Choi et al.,Science 325(2009)590-593)。しかし、これらの方法は、ゼオライト分離膜合成過程に追加の工程を必要とし、この過程で、ゼオライト分離膜が持つ固有の透過度が減少することになる。実の工程に適用可能な、追加の工程を必要としない上に、ゼオライト中の欠陥を効果的に制御できる技術に対する研究が切に望まれる。
【0005】
そこで、本発明者らは、上記の問題点を解決するために鋭意努力した結果、MFI分離膜の焼成工程において注入気体にオゾンを含む場合、気孔中の有機構造指向剤の焼成をより低い温度である100~300℃で行うことができ、追加の工程無しで、高温焼成で発生する分離膜中の欠陥を制御して最適のキシレン異性体分離性能を有するゼオライト分離膜を製造できることを確認し、本発明を完成するに至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、MFI分離膜の有機構造指向剤の高温焼成工程で発生する分離膜中の欠陥を制御し、追加の工程無しで、p-/o-キシレン分離性能を有する分離膜を製造する方法を提供することにある。
【0007】
また、本発明の他の目的は、上記の分離膜を用いたキシレンの分離方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、MFIゼオライト分離膜を100~300℃の温度及びオゾン雰囲気下で焼成させる段階を含む、MFIゼオライト分離膜の欠陥構造の調節方法を提供する。
【0009】
本発明はまた、上記の方法によって製造されたMFIゼオライト分離膜を用いて、C8芳香族異性体の混合物からp-キシレンを分離する、p-キシレンの分離方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施例において、一般焼成及びオゾン焼成によるMFI分離膜AとBのp-/o-キシレン混合物分離性能を示すグラフである。
【
図2】本発明の一実施例において、オゾン焼成温度によるMFI分離膜Aのp-/o-キシレン混合物分離性能を示すグラフである。
【
図3】本発明の一実施例において、オゾン焼成温度によるMFI分離膜Bのp-/o-キシレン混合物分離性能を示すグラフである。
【
図4】本発明の一実施例において、一般焼成及びオゾン焼成温度によるMFI分離膜AとBの分離性能変化を示すグラフである。
【
図5】本発明の一実施例において、一般焼成及びオゾン焼成によるMFI分離膜AとBの蛍光共焦点光学顕微鏡写真である。
【
図6】本発明の一実施例において、一般焼成及びオゾン焼成によるMFI分離膜AとBの蛍光共焦点光学顕微鏡イメージの映像処理から得られた欠陥写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
別に断らない限り、本明細書で使われる全ての技術的及び科学的用語は、本発明の属する技術の分野における熟練した専門家に通常理解されるのと同じ意味を有する。一般に、本明細書で使われる命名法は、本技術分野によく知られており、通常用いられるものである。
【0012】
MFI分離膜の焼成工程において、注入気体中にオゾンを含む場合、気孔中の有機構造指向剤の焼成を、既存工程に比べて低い温度である100~300℃で行うことができるため、高温焼成で発生する分離膜中の欠陥を制御でき、最適のp-/o-キシレン異性体分離性能を示すことを確認した。
【0013】
したがって、本発明は、一観点において、MFIゼオライト分離膜を100~300℃の温度及びオゾン雰囲気下で焼成させる段階を含むMFIゼオライト分離膜の欠陥構造の調節方法に関する。
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
一般に、MFI分離膜の焼成は、480~600℃で空気を酸化剤として用いて行う。しかし、注入気体中にオゾンを含む場合には、気孔中の有機構造指向剤の焼成を遥かに低い温度(100~300℃)で行うことができるので、高温焼成で発生する分離膜中の欠陥を制御することができる。本発明は、分離膜の欠陥を単純に除去するものではなく、欠陥の構造を調節する効果がある。
【0016】
また、本発明では、様々な厚さを有するMFI分離膜のオゾン焼成を行い、分離膜中の欠陥構造を制御及び分析して、分離膜の厚さによって最も効果的な最適のキシレン異性体分離性能を示すことができる焼成温度及び時間の焼成条件を提示する。この時、オゾン焼成を行ったそれぞれの分離膜中の欠陥を、FCOM(Fluorescence Confocal Optical Microscopy、共焦点光学顕微鏡)分析から確認した。MFI分離膜Aをオゾン焼成する場合、一般の焼成におけるように連結されている欠陥ではなく、点状の欠陥が低い密度で形成された。また、MFI分離膜Bでは、一般焼成を行う場合、大きいサイズのクラック(crack)状の欠陥が形成されていることが確認できた。しかし、オゾン焼成を行う場合、小さいサイズの粒子界面(grain boundary)欠陥が形成された。MFI分離膜Aは、90℃の温度で5日間水熱合成をして1~2μmの厚さを有するMFI分離膜であり、MFI分離膜Bは、140℃の温度で1日間水熱合成をして4~6μmの厚さを有するMFI分離膜である。
【0017】
本発明において、気孔中の有機構造指向剤の焼成を100~300℃、好ましくは150~275℃の非常に低い温度で行い、高温焼成で発生する分離膜中の欠陥を制御することができる。
【0018】
本発明において、ゼオライト分離膜中の欠陥構造を調節する、又は分離膜中の欠陥を制御するということは、分離膜中に存在する欠陥の数とサイズを減少させることを意味し、4~10nmサイズの欠陥を2nm以下、好ましくは1nm以下に減少させることができる。具体的な本発明の一実施例によれば、4~5nm及び8~10nmの欠陥を1nm及びその以下に減少させることができる。
【0019】
本発明において、0.001~1.5g/minのオゾンの注入速度でオゾンの総注入量が0.05~75vol%となるように注入され、0.1~20℃/minの昇温速度で0.5~168時間焼成させることができ、オゾンと酸素を共に注入することができる。
【0020】
本発明において、前記MFIゼオライト分離膜は、MFI種層が形成された支持体上に、有機構造指向剤:SiO2:H2O:Al2O3:Na2O=1~100:5~500:1,000~50,000:0~100:0~1,000のモル比で構成された二次成長溶液を添加し、水熱合成させることができる。
【0021】
本発明において、前記有機構造指向剤は、TPAOH(tetrapropylammonium hydroxide)、TPABr(tetrapropylammonium bromide)、TPAF(tetrapropylammonium fluoride)、TPACl(tetrapropylammonium chloride)、TPAI(tetrapropylammonium iodide)、TEAOH(tetraethylammonium hydroxide)、TEABr(tetraethylammonium bromide)、TEAF(tetraethylammonium fluoride)、TEACl(tetraethylammonium chloride)、及びTEAI(tetraethylammonium iodide)からなる群から選ばれる1種以上でよく、好ましくはTPAOHを用いるが、これに限定されるものではない。
【0022】
本発明において、前記水熱合成は、80~200℃の温度で12~240時間行うことができ、好ましくは、90~140℃の温度で24~240時間行うことができる。前記温度及び時間の範囲で行うとき、MFI種層内の隙間が水熱合成によって密に埋められ、連続するMFI分離膜を合成できる効果がある。
【0023】
本発明において、前記水熱合成は、1回又は2回行うことができるが、これに限定されない。
【0024】
本発明において、前記水熱合成後に、分離膜を30~200℃の温度で1~24時間、好ましくは、50~100℃の温度で5~12時間乾燥させる段階をさらに含むことができる。
【0025】
本発明において、前記支持体は、α-アルミナ、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリイミド、シリカ、ガラス、ガンマアルミナ、ムライト(mullite)、ジルコニア(zirconia)、チタニア(titania)、イットリア(yttria)、セリア(ceria)、バナジア(vanadia)、シリコン、ステンレススチール及びカーボンからなる群から選ばれる1種以上でよいが、これに限定されるものではない。
【0026】
本発明の一実施例で製造されたMFIゼオライト分離膜を用いてp-キシレンとo-キシレン混合物の分離性能を測定した結果、オゾン焼成を行う場合、一般焼成に比べて、MFIゼオライト分離膜のp-キシレンの透過度及び分離係数に優れることを確認した。
【0027】
したがって、本発明は、他の観点において、前記方法によって製造されたMFIゼオライト分離膜を用いて、C8芳香族異性体の混合物からp-キシレンを分離するp-キシレンの分離方法に関する。
【0028】
本発明によるゼオライト気孔のサイズは0.55nmであり、p-キシレン(0.58nm)と類似であり、o-キシレン(0.68nm)よりは小さい。したがって、分離膜を用いれば、キシレン異性体混合物をサイズベースで分離することができる。MFIゼオライト分離膜は、分離膜中の欠陥の量を調節でき、これによって、分離工程に適する最小限の欠陥を有することによって、より高い透過度を得ることができ、向上した工程安定性を示すことができる。
【0029】
本発明において、前記キシレン異性体は、p-キシレン、m-キシレン、o-キシレン、エチルベンゼンでよい。
【0030】
また、本発明は、50℃以上の温度、好ましくは100℃以上の温度、より好ましくは100~400℃の温度、さらに好ましくは100~275℃の温度で行うことができる。
【0031】
以下、実施例を用いて、本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は単に本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されないことは、当業界における通常の知識を有する者にとって明らかであろう。
【0032】
[実施例]
実施例1:MFI粒子の製造
分離膜を合成するための種として用いられるMFI粒子を合成するために、既存に報告された方法を用いて100nm程度の粒子を得た(Choi et al.,Adsorption,2006,12,339-360)。このように得た粒子を支持台上に蒸着させ、種層を形成する。均一に形成されたMFIゼオライト種層は、水熱合成を経て支持台上に分離膜を形成する。
【0033】
実施例2:二次成長を用いたMFI分離膜の製造
二次成長のためにMFI粒子を合成する時に用いられる有機構造指向剤であるTPAOHを用いて二次成長溶液を作製した(Choi et al.,Adsorption,2006,12,339-360)。用意した溶液に種層を入れ、二次成長のための水熱合成を行うことで、MFIゼオライト分離膜を得ることができる。この時、二次成長は、2つの条件で行った。90℃の温度で5日間水熱合成をして1~2μm厚のMFI分離膜(MFI分離膜A)を合成し、140℃の温度で1日間水熱合成をして4~6μ厚のMFI分離膜(MFI分離膜B)を合成した。
【0034】
実施例3:MFI分離膜の一般焼成及びオゾン焼成
MFI分離膜AとBを合成した後、2つの方法で焼成を行った。まず第一に、一般焼成は、空気を200cc/minで流しながら480℃で10時間維持しつつ行った。この時、480℃まで昇温速度は0.5℃/minに維持した。第二に、オゾン焼成は、100~300℃で12時間行った。オゾンはオゾン発生器で生成されるが、このとき、酸素は1L/minで流し、合計0.1g/min(5vol%)のオゾンが焼成時に分離膜に注入された。この時、100~300℃までの昇温速度は0.5℃/minに維持した。
【0035】
実施例4:キシレン混合物の分離性能確認
MFI分離膜AとMFI分離膜Bとを合成し、一般焼成及びオゾン焼成を行って、p-キシレンとo-キシレン混合物の分離性能を測定し、
図1に示した。MFI分離膜Aは、一般焼成を行う場合、150℃で2.2×10
-7mol・m
-2・s
-1・Pa
-1のp-キシレンの透過度と3.2の分離係数を得た。しかし、200℃で12時間オゾン焼成を行う場合、150℃で2.0×10
-7mol・m
-2・s
-1・Pa
-1のp-キシレンの透過度と608の分離係数を得た。MFI分離膜Bは、一般焼成を行う場合、150℃で1.3×10
-7mol・m
-2・s
-1・Pa
-1のp-キシレンの透過度と6.2の分離係数を得た。しかし、150℃で12時間オゾン焼成を行う場合、150℃で1.06×10
-7mol・m
-2・s
-1・Pa
-1のp-キシレンの透過度と4,103の分離係数を得た。
【0036】
また、100~300℃の範囲においてオゾン焼成温度によるMFI分離膜Aのp-/o-キシレン混合物分離性能を測定して
図2に示し、MFI分離膜Bのp-/o-キシレン混合物分離性能を測定して
図3に示した。
【0037】
MFI分離膜AとBはいずれも、100℃で行ったオゾン焼成では、分離膜中の有機構造指向剤が十分に除去されず、非常に低いキシレン透過度及び分離係数を得た。しかし、150~250℃で行ったオゾン焼成では、分離膜中の有機構造指向剤が十分に除去され、150℃でp-キシレン透過度が、MFI分離膜Aでは1.5~2.0×10-7mol・m-2・s-1・Pa-1、そしてMFI分離膜Bでは0.8~1.2×10-7mol・m-2・s-1・Pa-1を示した。また、150℃における分離係数も、MFI分離膜Aでは150~600の値を得、MFI分離膜Bでは700~4100の値を得た。オゾン焼成によって得た分離係数は、一般焼成を行った分離膜の分離係数として3~6が得られる点からして、非常に高い値であることが分かる。
【0038】
一般焼成及びオゾン焼成温度によるMFI分離膜AとBの、p-キシレン及びo-キシレンの透過度とp-/o-キシレン分離係数を
図4に示した。また、
図4では、分離膜の性能変化を正確に比較するために、一般焼成を行った分離膜と温度別オゾン焼成を行った分離膜のp-キシレンの透過度とp-/o-キシレン分離係数をかけた値を比較した。p-キシレンの透過度×p-/o-キシレン分離係数の値を比較すれば、100℃では、オゾン焼成を行った分離膜は非常に低い値を有するが、MFI分離膜Aでは150~275℃、MFI分離膜Bでは150~250℃でオゾン焼成を行う時、非常に高い値を示すことが分かる。また、これらの値は、一般焼成を行った分離膜の値に比較しても、非常に向上した値であることが確認できる。
【0039】
実施例5:MFI分離膜の欠陥構造確認
実施例1~3の方法で作製されたMFI分離膜AとBの欠陥特性を把握するためにFCOM測定を行った。~1nmサイズを有する染料を用いて分離膜を染色する場合、分離膜において1nm以上のサイズを有する欠陥を、FCOMを用いて選択的に分析することができる。このことから、分離膜中の欠陥構造を確認することができる。FCOMを用いてオゾン焼成を行って作製されたMFI分離膜と一般焼成によって作製されたMFI分離膜の欠陥構造を確認し、それを
図5に示した。FCOM分析から、一般焼成を行ったMFI分離膜Aの欠陥を確認する場合、分離膜全般にわたって欠陥が分布していることが確認できた。しかし、MFI分離膜Aをオゾン焼成する場合、一般焼成におけるように連結されている欠陥ではなく、点状の欠陥が低い密度で形成された。また、MFI分離膜Bでは、一般焼成を行う場合、大きいサイズを有するクラック(crack)状の欠陥が形成されていることが確認できた。しかし、オゾン焼成を行う場合、小さいサイズの粒子界面(grain boundary)欠陥が形成された。
【0040】
FCOMから得たMFI分離膜AとBのイメージを映像処理して分離膜中の欠陥を定量的に分析した。まず、MFI分離膜AとBのFCOMイメージから映像処理によって得られた欠陥を、
図6に概略的に示した。
【0041】
映像処理によって抽出した欠陥のデータに基づいて定量的な特徴、湾曲性(tortuosity)及び部分面積(area fraction)を得ることができ、1-D透過モデルから各分離膜の欠陥サイズ及び気孔度(porosity)を計算した。関連属性は表1に要約されている。
【0042】
【0043】
MFI分離膜Aの一般焼成とオゾン焼成結果を比較する場合、両分離膜中の欠陥のピクセルベースの部分面積(area fraction)は、10倍程度の差が見られる。MFI分離膜Aのオゾン焼成サンプルのFCOMイメージが、連続するクラック状ではなく、散在する点状を帯びているためである。定量分析の結果、MFI分離膜Aの一般焼成サンプルは4~5nmの欠陥サイズを有するが、オゾン焼成を行う場合には、欠陥が減少し、染色分子で確認されない1nm以下のサイズに減少した。
【0044】
MFI分離膜Bの一般焼成とオゾン焼成の結果を比較する場合、一般焼成を行った分離膜において、大きいサイズを有するクラック状の欠陥が見られる。定量分析で分析する場合、一般焼成分離膜に見られる大きいクラックのサイズは8~10nmであることを確認した。オゾン焼成分離膜中に存在する小さい欠陥のサイズが、染色分子のサイズと類似な1nmであるとすれば、オゾン焼成によって欠陥のサイズが~10倍も減少したことが分かる。
【0045】
本発明によれば、ゼオライト分離膜作製過程中の焼成段階で形成される分離膜中の欠陥のサイズ及び量を調節する方法は、既存の一般焼成方法に比べて低い温度で焼成を行うため、高温工程で形成される欠陥の量を減らすことができる。
【0046】
本発明は、オゾンを用いて低い温度でも分離膜中の有機構造指向剤を焼成させる方法を用いる。オゾン焼成が行われる温度及び時間を調節して分離膜中の欠陥の量を調節でき、これによって、分離工程に適する最小限の欠陥を有する分離膜を合成することができる。
【0047】
以上、本発明内容の特定の部分を詳細に記述してきたが、当業界における通常の知識を有する者にとって、このような具体的記述は単に好ましい実施様態に過ぎず、これによって本発明の範囲が制限されない点は明らかであろう。したがって、本発明の実質的な範囲は、請求項及びそれらの等価物によって定義されるといえよう。