(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-25
(45)【発行日】2022-09-02
(54)【発明の名称】椅子
(51)【国際特許分類】
A47C 3/026 20060101AFI20220826BHJP
【FI】
A47C3/026
(21)【出願番号】P 2021100363
(22)【出願日】2021-06-16
(62)【分割の表示】P 2019524759の分割
【原出願日】2017-06-20
【審査請求日】2021-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001351
【氏名又は名称】コクヨ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000108627
【氏名又は名称】タカノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137486
【氏名又は名称】大西 雅直
(72)【発明者】
【氏名】矢島 敏城
(72)【発明者】
【氏名】菅野 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】柴本 康広
(72)【発明者】
【氏名】徐 飛
(72)【発明者】
【氏名】塩澤 健太
(72)【発明者】
【氏名】市川 智昭
(72)【発明者】
【氏名】中村 謙介
【審査官】黒田 正法
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-129(JP,A)
【文献】特開2011-161123(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0113143(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C 3/026
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着座荷重を受けた状態で動く可動部分が支持部分に対して前
後に動作可能な椅子において、前記可動部分または前記支持部分の
左右に離間させて配置される板材の縦面にフランジ部が設けられ、当該フランジ部は横方向に延びて長手方向に転動体を移動させるガイド面を有し、そのガイド面の横方向寸法は前記板材の厚みよりも大きく、前記フランジ部およびその周辺の前記縦面をなす板材部は金属により一体に形成されて、前記フランジ部は前記縦面に開口する
ほぼ一定幅で延びるガイド孔の周辺
に上下一対のフランジ領域を有したもので、ガイド面に沿って転動体を左右独立して転動可能に設けたことを特徴とする椅子。
【請求項2】
ガイド面の横方向寸法は、
全域に亘ってほぼ均一とされている請求項1に記載の椅子。
【請求項3】
前記フランジ部は、前記ガイド孔の周辺の板材を塑性変形加工したものである請求項1又は2に記載の椅子。
【請求項4】
前記フランジ部は、ガイド孔から椅子の左右外側に向けて延びる形状である請求項1~3の何れかに記載の椅子。
【請求項5】
前記ガイド孔は前端側と後端側で緩やかに湾曲する形状をなしている請求項1~4の何れかに記載の椅子。
【請求項6】
座を前後揺動させる前後揺動部は、前後方向に対して移動先端側がより低くなるように傾斜する請求項1~5の何れかに記載の椅子。
【請求項7】
前記転動体は、金属製のベアリングで構成されている請求項1~
6の何れかに記載の椅子。
【請求項8】
可動部分は前後2箇所において支持部分に支持されており、前後何れか一方の支持構造は転動体とガイド面から
なる請求項1~7に記載の椅子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフィス等において好適に利用される椅子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
事務用椅子には、着座者を適切にサポートするために座や背などの支持部分に可動部が設けられたものがある。
【0003】
そのうち、フォロアをガイド面に沿って移動させることで所望の動作を実現するものとして、特許文献1、2に示すものが挙げられる。
【0004】
これらの文献のものは、背座の前傾、後傾動作と背座の前後移動動作とを関連づけるべく、座の後部に設けた第1の軸を支持基部側に設けた第1のガイド溝に移動可能に係合させ、座の前部に設けた第2の軸を支持基部側に設けた第2のガイド溝に移動可能に係合させることによって構成されている。
【0005】
しかしながら、このものはガイド溝が立壁をなすガイド板に孔を開けることによって構成されているため、所要の強度を確保するためにガイド板が厚肉になるという課題がある。
【0006】
これに対して特許文献2のものは、立壁の外側に所要の幅のガイド溝を形成した樹脂製のガイド板を取り付け、立壁にはそのガイド溝よりも大きい孔を設けて、ガイド溝を挿通した軸をガイド板のガイド溝に支持させるように構成されている。
【0007】
特許文献2の構成によれば、受圧面積の確保のためには樹脂部材のみを厚肉にすれば足りる。
【0008】
しかしながら、かかる可動部は着座者の荷重を受けて移動する部分であり、長期間の過酷な使用に耐えなければならないことに鑑みた場合、軸の方がガイド溝よりも硬度が高いと、柔らかい方のガイド溝が変形したり削られたりして、可動部のガタつきや損傷につながるおそれがある。また、部品点数も増えるため、コストアップの要因にもなる。
【0009】
これに対して、特許文献3のものは、金属板製の部材に軸が移動自在に嵌まる筒状部をバーリング加工によって形成し、バーリング工程での破断を招来することなく筒状部の突出高さを大きくして、軸の支持強度を向上できるようにしている。
【0010】
具体的には、長穴の長さを、軸の移動ストロークよりも相当に大きくし、筒状部のうち長穴の両端部の箇所では突出寸法を小さくし、軸の移動範囲では突出寸法を大きくしている。筒状部は、長穴の両端部では突出寸法は小さいため、バーリング工程で筒状部が破断することはない。軸のストローク規制は、長穴以外の部位で行うか、または、ブッシュの左右両端部の肉厚を厚くすることによって行うようにされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】米国特許公開第5603551号公報
【文献】特許第6000085号公報
【文献】特開2002-34708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、かかる特許文献3のものは、座の前後動作を支持するにあたり、長穴に対して軸がスライド移動しているに過ぎない。
【0013】
このため、座が着座荷重を受けた状態で前後に動作可能な椅子を構成しようとした場合、左右の長穴に対して軸がねじれると動きにくい状態になる。また、座が前後に動作すると、座の左右一方が他方に対して高くなるような状態になることが考えられ、そうすると軸は左右の長穴の一方には下縁で、他方には上縁で接することがあるうえに、軸には左右一方が前進又は前回転し他方が後退または後回転するような力が加わることも考えられる。
【0014】
そこで、このような椅子を支持するためには、長穴と軸によるガイド構造の見直しが不可欠となる。
【0015】
本発明は、このような課題に着目し、座が前後に動作する椅子を簡単な構造で適切に支持できる椅子を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、かかる目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0017】
すなわち、本発明の椅子は、着座荷重を受けた状態で動く可動部分が支持部分に対して前後に動作可能な椅子において、前記可動部分または前記支持部分の左右に離間させて配置される板材の縦面にフランジ部が設けられ、当該フランジ部は横方向に延びて長手方向に転動体を移動させるガイド面を有し、そのガイド面の横方向寸法は前記板材の厚みよりも大きく、前記フランジ部およびその周辺の前記縦面をなす板材部は金属により一体に形成されて、前記フランジ部は前記縦面に開口するほぼ一定幅で延びるガイド孔の周辺に上下一対のフランジ領域を有したもので、ガイド面に沿って転動体を左右独立して転動可能に設けたことを特徴とする。
【0018】
このようにすれば、転動体と接するガイド孔の受圧面積が大きくなり、負荷分散が図れる結果、耐久性が向上する。しかも、可動部分の板材に対してフランジ部を金属により一体に設けることで、高い強度が確保できるとともに、フランジ部によるリブ効果も期待できる。その結果、板材を厚肉にすることなく、転動体を確実に支持して、転がり易いものになる。また、座りながら動くものは特に高荷重が掛かるため、本発明が特に有効となる。さらに、可動部分が着座荷重を受けた状態で前後に動作する場合、ガイド面に対して左右の転動体の軸心位置がずれるような状態になっても動作を確保することができる。さらにまた、可動部分が前後に動作する際に可動部分の左右一方が他方に対して高くなるような状態になっても、転動体の一方はガイド面の下縁で、他方には上縁で接することができるうえに、転動体は左右一方が前進又は前回転し他方が後退または後回転する動作が行えるため、左右アンバランスな外力や移動に対しても適切に対応することができる。
【0019】
転動体が接する領域を考慮すれば、ガイド面の横方向寸法は、全域に亘ってほぼ均一とされていることが望ましい。
【0020】
ガイド面の高度と平滑さを得るためには、前記フランジ部は、前記ガイド孔の周辺の板材を塑性変形加工したものであることが望ましい。
【0021】
椅子の左右の振れを考慮すれば、前記フランジ部は、ガイド孔から椅子の左右外側に向けて延びる形状であることが望ましい。
【0022】
前記ガイド孔は前端側と後端側で緩やかに湾曲する形状をなしていることが望ましい。あるいは、座を前後揺動させる前後揺動部は、前後方向に対して移動先端側がより低くなるように傾斜していることが望ましい。
【0023】
円滑な回転とガイド面に負けない強度を確保するためには、前記転動体は、金属製のベアリングで構成されていることが望ましい。
【0025】
本発明は、可動部分が前後2箇所において支持部分に支持され、前後何れか一方の支持構造は転動体とガイド面からなる椅子に適用して極めて有用となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、座が前後に動作する椅子を簡単な構造で適切に支持できる、新たな椅子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一実施形態に係る椅子の斜め前方斜視図。
【
図3】同椅子における前後左右の支持部分を分解した斜視図。
【
図4】同椅子の支持基部に左右揺動部を組み込んだ状態を示す斜視図。
【
図5】同左右揺動部に前後揺動部を組み込んだ状態を示す斜視図。
【
図8】
図4に左右ストッパー機構を組み込んだ状態の斜視図。
【
図11】一部を透視して示す前後揺動部の動作説明図。
【
図12】一部を透視して示す前後揺動部の動作説明図。
【
図13】一部を透視して示す前後揺動部の動作説明図。
【
図16】前後動作を抑制する前後ストッパー機構及び制御機構の分解斜視図。
【
図17】前後動作を抑制する前後ストッパー機構及び制御機構の組立斜視図。
【
図19】左右動作を抑制する左右ストッパー機構の分解斜視図。
【
図20】左右動作を抑制する左右ストッパー機構の一部組立斜視図。
【
図26】着座状態に応じて動作する制御機構の動作説明図。
【
図27】同実施形態におけるベアリングとガイド孔の係合部分を示す一部破断した斜視図。
【
図36】背の動作を規制する規制部分を示す分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0029】
この椅子は、
図1~
図5に示すように、キャスター11に支持された脚羽根12の中心部に昇降機構を内設した脚支柱13を立設し、この脚支柱13の上端側に支持基部2を回転可能に取り付けることによって構成される事務用椅子である。支持基部2には交差する2方向である前後方向(図中X方向)および左右方向(図中Y方向)の何れか一方向に動作可能な一方向動作部(可動部)としての前後揺動部3、および、前後左右何れか他方向に動作可能な他方向動作部(支持部)である左右揺動部4を介して、可動部である座5が支持され、座5は支持基部2に対して前後左右に揺動可能とされる。具体的には、座5と座5を支持する支持基部2の間に前後揺動部3が設けられ、前後揺動部3と支持基部2の間に左右揺動部4が設けられている。座5の後方には背6が配置されている。
【0030】
支持基部2は、着座者の荷重を受ける構造体としての役割を担うもので、支柱13の上端が挿入される上下方向の貫通孔21aを有する支基本体21の左右両側に軸受ベース部22を介して左右一対の肘取付部23が一体に成形されている。支基本体21の前後方向の面に開口する孔21aには軸揺れダンパー21bが取り付けられ、軸受ベース部22の前後面に開口する孔22aには左右揺動リンクL1、L2の上端部が揺動支軸S1、S2を介して取り付けられている。
【0031】
左右揺動部4は、支持基部2に対して左右に揺動動作を行うべく、前後に離間させて配置される板状をなす一対のリンクベース41と、これら一対のリンクベース41、41間を接続する左右揺動本体42とを備えたもので、リンクベース41の左右両端部には孔41a、41aが開口し、左右揺動リンクL1、L2の下端部が揺動軸S3、S4を介して取り付けられる。
図4はリンクL1、L2を揺動軸S1~S4を介して取り付けた状態を示している。左右揺動本体42には
図7及び
図8に示すように上下方向に貫通するユニット取付孔42aが設けられ、このユニット取付孔42aに後述する左右ロックユニット7が取り付けられている。すなわち、左右揺動本体42は左右揺動リンクL1、L2を介して支持基部2に左右揺動可能に吊り下げた状態に配され、左右揺動リンクL1、L2は
図4等に示すように上端間の距離よりも下端間の距離が小さくなる状態で取り付けられている。
【0032】
すなわち、左右揺動部4が揺動するときは、
図9~
図10に示すように揺動先に位置するリンクL2(L1)が鉛直姿勢に近づき、もう一方のリンクL1(L2)が水平姿勢に近づく結果、移動先端側がより低くなるように傾斜しつつ、当該左右揺動部4の重心が持ち上がる動作を行う。
【0033】
リンクベース41の中央部には窓41cが開口しており、この窓41c内に横揺れダンパー44が位置づけられて、横揺れダンパー44が窓41c内で相対移動し得る範囲に、左右揺動部4の揺動範囲が規制されている。
【0034】
前後揺動部3は、左右揺動部4に対して前後に揺動動作を行うべく、左右に離間させて配置される板状をなす一対のレールプレート31、31と、一対のレールプレート31、31間を接続する上接続板32及び前接続板33を備える。レールプレート31の前側にはガイド孔34が貫通させて設けてあり、このガイド孔34に、左右揺動本体42の前端側の側面に左右独立して転動可能に設けた転動体45であるベアリング45aが係合される。図中符号45zで示すものは、レールプレート31の内面側に配置されてベアリング45aよりも径の大きいスペーサである。レールプレート31の後端側は後下方に延びて、その延出端に揺動軸S5を介して揺動可能な前後揺動リンクであるリンクアームLAの下端部が取り付けられており、このリンクアームLAの上端部は左右揺動体4の後端部に揺動軸S6を介して支持される。すなわち、前後揺動部3の後端部はリンクアームLAを介して左右揺動部4に前後揺動可能に吊り下げられた状態に配されている。ガイド孔34は後端側から前端側に向かうほど前下方に緩やかに湾曲する形状をなしており、後端部には座5とともに前後揺動部3が前方へ移動した際の衝撃を緩和するショックレス部SLが形成されている。上接続板32には上下方向に貫通するユニット取付孔32aが設けられ、このユニット取付孔32aに
図16に基づいて後述する前後ロックユニット8が取り付けられる。図示例では転動体45であるベアリング45aの車軸は左右分離している。ただし、転動体45であるベアリング45aが左右独立して転動可能であれば、車軸は共通化してもよい。
【0035】
すなわち、前後揺動部3の上面が略水平姿勢をとる
図11の状態から、前後揺動部3が
図12に示すように後方へ移動すると、前端部のガイド孔34の前端側にベアリング45aが相対移動して前後揺動部3の前端側が高い位置に持ち上げられるとともに、リンクアームLAが垂直姿勢に近づく結果、前後揺動部3の後端側が低い位置に導かれる動作を行う。逆に、
図11の状態から前後揺動部3が
図13に示すように前方へ移動すると、前端部のガイド孔34の後端側にベアリング45が相対移動して前後揺動部3の前端側を低い位置に導くとともに、リンクアームLAが水平姿勢に近づく結果、前後揺動部3の後端部が高い位置に持ち上げられる動作を行う。すなわち、前後揺動部3は前後方向に対しても移動先端側がより低くなるように傾斜する動作を行う。
【0036】
前後揺動部3を構成するレールプレート31の前端側には、一部を折り曲げて縦揺れダンパー31cが設けられ、前後揺動部3が後方へ揺動したときに揺動端近傍で左右揺動部4の前端下部4z(
図3参照)に当接して、後方移動端でのショックが緩和される。
【0037】
図14に示すように、背6を構成する背フレーム61は前後揺動体3を構成する上接続板32の後部に取り付けられ、座5を構成する座アウターシェル51(
図15参照)はその上から接続板32に取り付けられる。すなわち、座5の後方に背凭れ62を支持する背フレーム61が一体に起立し、座5が支持基部2に対して図中X、Yに示すように前後・左右方向に揺動すると、背フレーム61も一緒になって移動するが、本実施形態の背凭れ62は後述のように背フレーム61や座5に対して切り離した動作を行う。
【0038】
支持基部2に対する座5の前後方向の揺動については、
図15に示す操作部材152の操作を通じて予め定めた位置で抑制し得るように
図16~
図18に示す前後ロックユニット8を利用した前後ストッパー機構8Mが設けられており、支持基部2に対する座5の左右方向の揺動については、
図15に示す操作部材151(実際には操作部材152とともに共通の操作部材が兼用)の操作を通じて予め定めた位置で抑制し得るように
図19及び
図20に示す左右ロックユニット7を利用した左右ストッパー機構7Mが設けられている。
【0039】
この実施形態では、支持基部2に左右揺動部4が支持され、左右揺動部4に前後揺動部3が支持されるという重層構造をなしている関係上、支持基部2と左右揺動部4の間に左右ストッパー機構7Mが設けられ、左右揺動部4と前後揺動部3の間に前後ストッパー機構8Mが設けられている。
【0040】
左右ストッパー機構7Mは、
図15に示す操作部材151の操作により、
図21(a)に示す係合部71と被係合部72を係合させるか係合解除するかを通じて、座5の左右方向の揺動を許容するか抑制するかを切り替えるものである。具体的には、左右揺動部4側に設けた係合部71である係合ピン71aと、この係合ピン71aの対向位置である支持基部2側にあって相対動作する摺動面20に設けた被係合部72である溝72aとを備え、係合ピン71aは摺動面20に向かって弾性付勢されるとともに、所定位置で係合ピン71aが溝72aに嵌り込むように構成されている。溝72aは
図3及び
図7に示すように左右揺動部4の開口4tを介して上方に露出する支持基部2の左右方向の中央基準位置に設けられた平面視矩形状のものであり、この溝72aに、
図20に示す係合ピン71aが係脱する。係合ピン71aを摺動面20に向かって突出する方向に付勢する役割は弾性部材73であるコイルスプリング73aが担っている。また、左右ストッパー機構7Mは、操作部材151の操作を係合ピン71aが摺動面20から離れる方向の動作に変換する
図19及び
図20に示す変換機構74を有し、変換機構74、係合ピン71a及びコイルスプリング73aを左右ロックユニット7のケーシング70に一体に組み込んでユニット化している。
【0041】
図19に示すようにケーシング70は半割構造をなすもので、係合ピン71aはその幅広部71awがケーシング70の側壁70a、70bの内面にガイドされてケーシング70の下端から一部である先端部71asを突出させた状態で昇降可能に配されている。変換機構74は、係合ピン71aの上端とケーシング70の上壁70pとの間に圧縮状態で弾設される前述したコイルスプリング73aと、水平軸70cを介し係合ピン71aの隣接位置でケーシング70の側壁70a、70b間に回転可能に支持されたストッパー操作アーム75と、このストッパー操作アーム75とともに回転可能に取り付けられた捩りコイルバネ76と、ストッパー操作アーム75に球状のワイヤ先端77aが取り付けられるとともにチューブ先端77bがケーシング70に係止されたワイヤチューブ77とから構成されている。ワイヤチューブ77の他端は
図15に示すように座5に設けた操作部材151である操作レバー151aの近傍に係止され、そこから引き出されたワイヤ基端77cが操作レバー151aに接続されている。捩りコイルバネ76の先端76bは係合ピン71aに設けた孔71a1に係合している。
【0042】
このケーシング70を
図7に示す左右揺動部4を構成する揺動本体部42のユニット取付孔42aに嵌め込んで
図8の状態にし、ケーシング70に設けた取付部70mを揺動本体部42の上面に載置してねじ止め固定している。ケーシング70の左右の側壁70a、70bはユニット取付孔42aの左右の側壁間42a1、42a2に緊密に収容され、係合ピン71aはケーシング70内においてケーシング70の側壁70a、70bの内面に緊密にガイドされる。このように係合ピン71aは左右にガタつきが抑えられていることから、
図7に示す左右揺動部13のユニット取付孔42aは左右の側壁42a1、42a2と後壁42a3及び傾斜した前壁42a4のみから構成されて底壁を有さずに下側開口4tを形成しており、係合ピン71aはユニット取付孔42aの下側開口4tから底壁にガイドされることなく直接垂下して摺動面20に当接し、溝72aに係合するように構成されている。係合ピン71aの前後方向はケーシング70内に形成した前後のガイド壁に支持されている。溝72aは、支持基部2に設けた縦リブr1、r1間に形成されたもので、縦リブr1、r1の周囲には横リブr2が設けられ、溝72aに係合するまでは縦リブr1及び横リブr2の上面が摺動面20となって係合ピン71aを摺動させる。
【0043】
図22に示すように、操作レバー151aがロック解除位置にあるときは、ワイヤチューブ77がストッパー操作アーム75を回転させることでコイルスプリング73aを圧縮しつつ捩りコイルバネ76の先端76bで係合ピン71aを上方へ引き上げた状態になり、操作レバー151aがロック位置に操作されると、
図23に示すように、コイルスプリング73aの反発力でストッパー操作アーム75とともに捩りコイルバネ76の先端76bが回転して係合ピン71aが下方に押し付けられ、これが支持基部2の溝72aに係合したときに左右方向のロック状態が実現される。
【0044】
前後ストッパー機構8Mは、
図15に示す操作部材152の操作により、
図21(b)に示す係合部81と被係合部82を係合させるか係合解除するかを通じて、座5の前後方向の揺動を許容するか抑制するかを切り替えるものである。具体的には、前後揺動部3側に設けた係合部81である係合ピン81aと、この係合ピン81aの対向位置である左右揺動部4側にあって相対動作する摺動面40に設けた被係合部82である溝82aとを備え、係合ピン81aは摺動面40に向かって弾性付勢されるとともに、所定位置で係合ピン81aが溝82aに嵌り込むように構成されている。溝82aは
図7に示すように左右揺動部4の揺動本体部42の上面において、この上に載せられる前後揺動部3の係合ピン81aが前後方向に移動する際の移動範囲のうち1つ以上の所定箇所(本実施形態では1つ)に設けられたもので、左右方向に延びる形状をなし、揺動本体部41の上面が摺動面40をなす。係合ピン81aを摺動面40に向かって突出する方向に付勢する役割は弾性部材83であるコイルスプリング83aが担っており、操作部材152の操作を係合ピン81aが摺動面40から離れる方向の動作に変換する
図16及び
図17に示す変換機構84を有し、変換機構84、係合ピン81a及びコイルスプリング83aをケーシング80片半部に一体に組み込んでユニット化している。
【0045】
ケーシング80は上方に開放された扁平な受け皿状のもので、係合ピン81aはケーシング80内のガイド80g1にガイドされてケーシング80の下端から一部を突出させた状態で昇降可能に配されている。変換機構84は、係合ピン81aの上端とケーシング80の上方開口を閉止するカバー80aとの間に圧縮状態で弾設される前述したコイルスプリング83aと、係合ピン81aの隣接位置でケーシング80の側壁80b、80b間に架設した水平軸80cに回転可能に支持されたストッパー操作アーム85と、このストッパー操作アーム85とともに回転可能に取り付けられた捩りコイルバネ86と、ストッパー操作アーム85に球状のワイヤ先端87aが取り付けられるとともにチューブ先端87bがケーシング80に係止されたワイヤチューブ87とから構成されている。ワイヤチューブ87の他端は
図15に示すように座5に設けた操作部材152である操作レバー152aの近傍に係止され、そこから引き出されたワイヤ基端87cが操作レバー152aに接続されている。捩りコイルバネ86の先端86aは係合ピン81aの下向面81a1に常時、円滑に摺動可能に係合している。
【0046】
図15に示す操作レバー152aがロック解除位置にあるときは、
図17に示すワイヤチューブ87が
図24に示すようにストッパー操作アーム85を回転させることでコイルスプリング83aを圧縮しつつ捩りコイルバネ86の先端86aで係合ピン81aを上方へ引き上げた状態にし、操作レバー152aがロック位置に操作されると、
図25に示すようにコイルスプリング83aの反発力でストッパー操作アーム85とともに捩りコイルバネ86の先端86aが回転して係合ピン81aが下方に押し付けられ、これが左右揺動部4の溝82aに係合したときに前後方向のロック状態が実現される。
【0047】
なお、この実施形態の椅子には、前後ストッパー機構8Mのユニット8の片半部に、離席時に座5の前後方向の移動を所定位置で自動的に抑制するための制御機構8Xが併設されている。
【0048】
先ず、着座を検知するために、座面への着座によって高さ位置が変化する体重受け部50(
図15参照)を座5のほぼ中央位置に設け、高さ位置の変化を、可動部である前後揺動部3の動作を制御するための
図16及び
図18に示す制御機構8Xに機械的に伝達し、制御機構8Xによって前後揺動部3の動作すなわち座5の前後動作を許容と抑制の間でその状態を変更するように構成されている。
【0049】
制御機構8Xは、着座荷重により可動部である前後揺動部3に設けられた
図21(c)に示す係合部81Xと前後揺動部3を支持する支持部である左右揺動部4に設けられた被係合部82Xの係合状態が変化して前後揺動部3の動作の許容/抑制状態を変更し、着座荷重が無くなったときに弾性部材83Xによって許容された動作状態を元の抑制された動作状態に復帰させる。
【0050】
係合部81X、被係合部82Xは、着座荷重で係合が外れ、着座荷重がなくなると弾性力によって係合して前後揺動部3を動作抑制状態にすべく、被係合部82Xが凹部82aXであり、係合部81Xが凹部82aXに嵌合した状態から着座荷重を受けて嵌合状態が解除されるように構成される。
【0051】
制御機構8Xは、係合部81Xである係合ピン81aXと、この係合ピン81Xの対向位置にあって相対動作する摺動面40Xに設けた被係合部82Xである溝状の凹部82aXとを備え、係合ピン81aXは摺動面40Xに向かって弾性付勢されるとともに、所定位置で係合ピン81aXが溝状の凹部82aXに嵌り込むように構成される。そして、座5が中央部に着座荷重を受けたことを検知して、
図16~
図17に示す制御機構8Xが係合ピン81aXを溝状の凹部82aXから離脱させる。係合ピン81aXを摺動面40Xに向かって突出する方向に付勢する役割は弾性部材83Xであるコイルスプリング83aXが担っており、制御機構8Xは着座による体重受け部50の動作を係合ピン81aXが摺動面40Xから離れる方向の動作に変換する変換機構84Xを有し、変換機構84X、係合ピン81aX及びコイルスプリング83aXを
図16に示したケーシング80の他半部に一体に組み込んでユニット化している。
【0052】
係合ピン81aXは、前後ストッパー機構8Mを構成する扁平なケーシング80内に係合ピン81と並列な関係でケーシング80の前後左右のガイド80g2に沿って昇降可能に配されている。変換機構84Xは、前記変換機構84と一部においてほぼ同様に、係合ピン81aXの上端とケーシング80の上方開口を閉止するカバー80aとの間に圧縮状態で弾設されるコイルスプリング83aXと、係合ピン81aXの隣接位置でケーシング80の側壁80b、80b間に架設した前記水平軸80cに回転可能に支持されたセーフティ操作アーム85Xと、このセーフティ操作アーム85Xとともに回転可能に取り付けられた捩りコイルバネ86Xとから構成されている。一方、体重受け部50は、
図15に示すように座5を構成する座アウターシェル51に回転可能に嵌め合わせて取り付けた受圧板52aであり、この受圧板52aの下方に設けた凸部52bがセーフティ操作アーム85Xの回転中心から変位した
図16に示す被押下部85xtを押下し得る位置に配されている。捩りコイルバネ86Xの先端86aXは係合ピン81aXの下向面に常時、円滑に摺動可能に係合している。受圧板52aは
図26に示す弾性体であるコイルバネ52cによってセーフティ操作アーム85Xから離れる方向に付勢されている。
図37に示すように、座インナーシェル53の対応位置には、受圧板52aとの干渉を避ける孔部53xが設けてある
【0053】
図26(b)に示すように、体重受け部50が体重を感知してないときは、セーフティ操作アーム85Xとともに捩りコイルバネ85Xの先端85aXが回転しつつ係合ピン81Xがコイルスプリング83aXにより下方に押し付けられ、これが前後揺動部4の溝82aXに係合したときに前後方向のロック状態が実現され、
図26(a)に示すように体重受け部50が体重を検知して、捩りコイルバネ86Xの先端86aXで係合ピン81Xをコイルスプリング83aXを圧縮しつつ上方へ引き上げたときには、係合ピン81Xが溝状の凹部82aXから外れて、前後方向のロック状態が解除される。
【0054】
すなわち、利用者が着座すると制御機構8Xのロックが解除されて、後は着座者が前後方向にロックするか否かは操作部材152の操作を通じた前後固定ストッパー機構8Mの状態により、着座者が離席する際には、前後固定ストッパー機構8Mがロック解除されていなければその状態を保ち、前後固定ストッパー機構8Mがロック解除されていれば制御機構8Xが作動して座5の前後動作にロックを掛けることになる。
【0055】
特にこの椅子は、座5が少なくとも前後に傾動するものであり、着座者が立ち上がり動作を始めることで座5が前後揺動部3とともに
図13に示すように前方に傾きながら移動し、その状態で離席することで着座荷重が無くなると
図21(c)に示す係合部81Xである係合ピン81aXが被係合部82Xである凹部82aXの前方の摺動面40Xに着地するとともに、その後に背6の存在による背座の重心位置関係によって座5が後方へ傾動しながら移動を開始し、その途中で係合部81Xである係合ピン81aXが被係合部82Xである凹部82aXに係合する動作が見込まれる。凹部82aXには
図7に示すように直交方向に溝を連設してゴム等の緩衝材82zが埋設してある。この緩衝材82zは係合ピン81aXが凹部82aXの壁に衝突して衝撃や異音が生じることを回避するためのものであり、係合ピン81aXは緩衝材82zに衝突して凹部82aXに落ち込むようになっている。
【0056】
なお、着座する際には係合ピン81aXと凹部82aXとの係合が解除されるが、係合ピン81aXと凹部82aXがある程度の抵抗をもって係合し、着座後すぐにロック解除されず座5が少し動くことにより上記抵抗が少なくなったところでロック解除されるようになっている。
【0057】
すなわち制御機構8Xは、離席時と着席時で座5のロック状態を切り替える、いわば離着席時自動ストッパー機構とも言うべきものである。
【0058】
次に、
図3に示されるガイド孔34について説明する。受圧面積を確保するためにガイド孔34を設けるべく、板材PMであるレールプレート31を厚肉にしたり、レールプレート31に別部材を取り付けても、部品点数やコストの増大を招くだけで、必ずしも強度や耐久性の向上につながらない。
【0059】
そこで本実施形態は、
図27に示すように、ガイド孔34が設けられた可動部分である前後揺動部3の板材PMすなわちレールプレート31の縦面31aにフランジ部31bを設け、このフランジ部31bの横方向すなわち取付状態で水平方向に延びる位置に、転動体45であるベアリング45aを長手方向に移動させるガイド面31b1を設けている。
【0060】
このガイド面31b1は、横方向寸法w1が板材PMであるレールプレート31の厚みt1よりも大きく、レールプレート31とともに金属により一体に形成したものであり、
図3等に示すようにフランジ部31bは縦面に開口するガイド孔34の周辺を1周する形状をなしている。
【0061】
この実施形態のフランジ部31bは、ガイド孔34の周辺の板材PMを塑性変形加工することによって構成されたもので、具体的にはバーリング加工を採用している。総じてバーリング加工は、板材に下孔を開けて下穴の周囲を治具で固定し、その状態で下穴よりも大きい工具でプレスすることにより、下穴の縁を立ち上げてフランジ部とするもので、一般的には円筒状のフランジを形成するものであり、タップ孔加工等の際に利用されるだけで、転動体をガイドするといった発想はこれまでに全くない。
【0062】
そこで本実施形態は、新たな着眼に立って、
図28(a)に示すように非対称な孔、さらに言えばほぼ一定幅で延びるようなガイド孔34を形成するにあたり、そのガイド孔34の形状に対応して、
図28(b)に示すようにそれよりもやや小さめの下穴34xを開けて下穴34xの周囲をガイド孔34の形状に沿った治具34Zで固定し、その状態で下穴34xよりも大きくガイド孔34の内周形状に相当する工具34Yでプレスしている。これにより、
図27に示すように、縦面31aからR部分を経て横方向に延びるフランジ部31bがガイド孔34の全周に亘って形成され、この横方向に向いたフランジ部31bが実質的な受圧領域となる。ガイド面31b1の横方向寸法は、全周に亘ってほぼ均一とされている。
【0063】
ガイド孔34の加工手段の選定にあたっては、ガイド面31b1が滑らかであること、ガイド面31b1に強度が得られること、加工コストが低いことを条件とした。ファインブランキング加工やその他の加工も試みたが、そのなかで比較的採用可能性の高いファインブランキング加工においても、滑らかなガイド面を形成する点で優れるものの強度を得るには板材に相当の厚みを必要とし、コストも見合わないことから採用できず、その他の加工もこれらの条件を充足するものではなく、これにバーリング加工が極めて好適に適合することが判明した。
【0064】
ただし、バーリング加工にあたって、ガイド孔34から板材PMの最寄りの端縁までの最短距寸法Dが短いと、板材PMが加工時あるいは加工時の荷重に負けて変形してしまう。そこでこの実施形態は、種々の試験を試みた結果、安定的な形状を得るための条件として、適宜位置におけるガイド孔34から板材PMの端縁までの最短寸法D(
図28参照)は、2~6mmの薄板においては、少なくとも15mm以上に設定することが必要十分であるとの知見に至った。
【0065】
このように形成されたフランジ部31bは、椅子全体からみれば
図27に示すように一対のレールプレート31,31から左右方向の内側に向けてではなく、外側に向けて延びており、転動面であるガイド面31b1はレールプレート31の外側に形成されている。また、転動体45であるベアリング45aとの衝突による衝撃を緩和すべく、ガイド孔34の一方の端部(前端や後端)は曲率半径に変化をもたせたいわばショックレス部が形成されて、座5の動作でベアリング45aが端部に近づくに伴い、座5の重心が持ち上がるよう制御することで座5の動作速度が減衰するようになっている。バーリングによるフランジ部31b1はこのときの衝撃にも耐え得るように設計される。
【0066】
また、ガイド孔34の下側の領域は、左右揺動部4に対する前後揺動部3の左右支持状態がアンバランスになった際に転動体45であるベアリング45aをガイド孔34の下側の領域に当接させてこれを支持するものであり、フランジ部31bはその際の荷重支持に貢献する。
【0067】
総じて言えば、このフランジ部31bは、
図28(C)に示すように、座5の前後動作時に転動体45であるベアリング45aの前後動を支持する上側の第1フランジ領域A1と、背6に凭れた際に転動体45であるベアリング45aがガイド孔34の前端に到達する部位を支持する前側の第2フランジ領域A2と、着座者が前傾姿勢をとった際に転動体45であるベアリング45aがガイド孔34の後端に到達する部位を支持する後側の第3フランジ領域A3とを具備し、更に、左右の支持状態がアンバランスになった際に転動体45であるベアリング45aを支持する下側の第4フランジ領域A4を備えるものとなっている。このような構造は、ガイド孔34が支持部分側に形成され、転動体45であるベアリング45aが可動部分側に配されても同様である。
【0068】
このように、ガイド孔34は椅子の可動部分または支持部分の縦面に形成されたもので、着座荷重を受けた状態で動くものであり、可動部分はかかる転動体45とガイド孔34によるガイド構造を含む前後2箇所において支持部分に支持されている。本実施形態において椅子の他の可動部分はリンクアームLAによって支持されて、前後何れか一方の支持構造は前述した転動体45とガイド面31b1からなり、他方はこれとは異なる支持構造、すなわちこの実施形態はリンク構造からなっている。
【0069】
次に、背6の支持機構について説明する。この椅子は、
図2、
図14、
図30、
図29に示すように、背6が座5の後方に配置され、背フレーム61に動作機構6Mを介して背凭れ62を支持させることにより構成されたもので、背フレーム61には背インナーカバー63が取り付けられ、背インナーカバー63には開口63aが設けられて、この開口63aを介して背凭れ62が背フレーム61に動作可能に支持されている。
【0070】
背凭れ62は、背板62aの前面にクッションを配置し、全体を張地で覆ったもので、背凭れ62の下端が座面よりも上方へ所定距離離れた位置に配されて、背面側に動作機構6Mを介して背フレーム61の上端の背支持部61aに支持されている。
【0071】
動作機構6Mは、背凭れ62を構成する背板62aに固定若しくは一体形成され背面側に弾性部材65を配置したベース部64と、このベース部64に隣接する位置に配置されて背面側にテーパ状に凹むガイド部65aを有しその中央が前後方向に開口したチルト部65と、前面側に前記ガイド部65aに対応する凸状のガイド部66aを有しそのガイド部66aが前記ガイド部65aに嵌め込まれた状態で
図29に矢印Jで示すように前記チルト部65の開口を介して前記ベース部64に固定される押え具66とを備え、前記チルト部65を、
図29及び
図30に矢印Kで示すように背インナーカバー63の開口を貫通して背フレーム61の上端側の背支持部61aにねじで引き寄せて固定することにより構成されている。すなわち、
図31に示すように、押え具66はチルト部65を挟んだ状態でベース部64に固定されることによりベース部64と一体となってベース部64の一部を構成し、チルト部65はベース部64と押え具66の隙間で遊動可能とされるが、遊動にあたって、チルト部65とベース部64の間に介在させた弾性体67を弾性力に抗して圧縮することが必要となるように構成されている。チルト部65のガイド部65aには、弾性体67によって押え具66のガイド部66aに常時嵌め込まれる方向の力が働いている。
【0072】
より具体的には、
図32に示すように、チルト部65の凹状をなすガイド部65aは少なくとも1つの谷線65ax(この実施形態では2つ)を有するほぼ部分的に楕円すり鉢状であり、押え具66の凸状のガイド部66aはそれに緩やかに嵌り合う少なくとも1つの稜線66ax(この実施形態では2つ)を有する山形をなしており、前記谷線65axと稜線66axが嵌り合うことが可能な形状をなす。凸状のガイド部66aは、楕円球の一部を切断した形状に類しており、楕円球の長軸側におけるガイド面66aとガイド面66aが交叉する部位に稜線66axが形成されている。対する凹状のガイド部65aにも対応位置においてガイド面65aとガイド面65aが交叉する部位に谷線65axが形成されている。球体と球面受座では方向性が出ず、位置決め機能が果たせないからである。その意味では、凸状のガイド部66aと凹状のガイド部65aは、嵌め合い時の方向性が一意に定まる異形な形状であれば、すり鉢状の形状、楕円球の形状に限られない。但し、ガイドの円滑性に鑑み、ガイド部66a、65aは滑らかな連続面で構成されている必要がある。稜線66axや谷線65axを設けているのは、嵌め合い時の位置決め機能を高めるためである。
【0073】
弾性体67には、この実施形態ではウレタンが用いられ、
図29に示すように矩形板状をなすベース部64の上半分における左右のコーナー部から上縁部分に亘って配置されている。厚み寸法は、
図31に示すように押え具66がベース部64に取り付けられ、チルト部65が背フレーム61の背支持部61aに取り付けられ、押え具66のガイド部66aとチルト部65のガイド部65aが嵌り合った状態で、適宜に圧縮されている状態となるように設定されている。背凭れ62に凭れるときは動作機構6Mの中心よりも上方に荷重が掛かることに鑑みて、実質的に機能する機会の少ないベース部64の下半部には弾性体67は設けていないが、この位置に弾性体67を設けることを妨げるものではない。
【0074】
図33は背6の上部に荷重が掛かったときの後傾状態を示しており、
図34はその平断面である。また、
図35は着座者が体を捩る動作を行った場合等における背6の旋回動作を示している。
【0075】
すなわち、背凭れ62は弾性体67に支持された状態で後方向及び旋回方向に弾性反力に抗して移動する位置関係に配されて、前後左右方向への旋回移動量に応じて弾性体67が前後左右に変形し、背凭れ62が中立位置に戻る反力が大きくなるように構成される。旋回方向には、
図35に示すような正面視左右方向、さらには正面視時計回り又は反時計回りへの旋回移動が含まれる。
【0076】
ベース部64を構成する押え具66のガイド部66aとチルト部65側のガイド部65aは、弾性体67によって圧接されることでそのガイド部66a、65a同士の形状によって
図31に示す基準位置に誘導されて静止する。そして、着座者からの受圧により荷重が掛かることで弾性部材67が圧縮されることにより圧接が緩んだ場合、チルト部65のガイド部65aとベース部64を構成する押え具66のガイド部66aが
図33、
図34、
図35のように少なくとも一部において離反して背凭れ62が自由に動く状態になり、受圧の程度に応じてベース部64とチルト部65が基準位置から相対変化し、荷重が取り去られた際に、動作位置をガイド部66a、65aに沿って自動的に稜線66axと谷線65axが合致する
図31の中立位置に復帰させる。その際、背凭れ62は、背フレーム61に対する後方向の移動に伴ってガイド部66a、65a間の隙間SPが広がり、その結果左右方向への旋回範囲が大きくなるように構成されており、荷重が取り去られた際の復帰反力は、左右両方向への旋回移動量に応じて大きくなるように構成されている。
【0077】
なお、ベース部64及びチルト部65には、
図36に示すように、ガイド部65a、66aと共同してベース部64及びチルト部65の相対移動を規制する係合部64b、65bが設けてある。ベース部64は縁辺に立壁64cを有するもので、その立壁64cには係合部64bとなる窓64b1が矩形状に開口している。一方、チルト部65には、正面側下方へ変位した位置に係合部65bとなるL字形の爪65b1が形成してある。そして、ベース部64とチルト部65は爪65b1が窓64b1に遊嵌された状態で組み付けられて、爪65b1が窓64b1の中を移動できる範囲に、ベース部64に対するチルト部65の可動範囲が規制されている。可動範囲が規制されると、背凭れ荷重の一部はその規制部位においても支持される。
【0078】
以上のように、背6の左右旋回動作は背フレーム61に対して生じ、背フレーム61が取り付けられた前後揺動部3には座5が取り付けられるため、背フレーム61と座5は正面視左右方向に一体となって揺動するが、背凭れ62はさらに座5及び背フレーム61の左右旋回動作とは切り離して異なる動きをすることになる。
【0079】
なお、この実施形態ではベース部64を背凭れ62に取り付け、チルト部65を背フレーム61側に取り付けたが、ベース部64を背フレーム61側に取り付け、チルト部65を背凭れ62側に取り付けて構成してもよい。
【0080】
次に、座の前部支持機構について説明する。
【0081】
上述したようにこの椅子は、座5を支持基部2に対して前後左右に揺動可能に支持するものであるが、前後左右に揺動する椅子に着座した着座者は、体勢によっては左右の脚の大腿部への圧迫感がアンバランスに変化してくる。また、この椅子は、座5の後方に背6を後傾可能に設けるとともに、背6が後傾すると座5は連動して相対的に前部が上昇し後部が下降する動作を行うため、後傾時に脚の大腿部への圧迫感や、脚が浮くことにより不安感、不安定感を生じる可能性がある。
【0082】
そこでこの椅子は、
図38、
図37及び
図39に示すように、座5の前部5fに着座荷重を受けて上下方向に形状を変える変形部5Xを設けている。
【0083】
この変形部5Xは、着座者の脚の重みを受ける位置に設けられ、脚の重みを受けると下方に向かって変形し、脚の重みが外れると上方に向かって復帰するように構成される。
【0084】
具体的には、座5は
図38に示すように、座インナーシェル53の上にクッション材54を配置し、図示しない張地で覆うとともに、座インナーシェル53の下方に座アウターシェル51を取り付けたものである。座インナーシェル53は、後方部53aと前方部53bの間が樹脂ヒンジ部53cで接続されることにより構成され、前方部53bが後方部53aに対して樹脂ヒンジ部53cを境に弾性変形するようになっている。これに伴いクッション材54も変形するため、これらの部位が変形部5xを構成する。
【0085】
そして、座アウターシェル51を前後揺動部3に固定し、座アウターシェル51の上方に座インナーシェル53の後方部53aを取り付けている。これにより、座インナーシェル53の前方部53bを含む変形部5xが座アウターシェル51に向かって変形する。
【0086】
そしてこの実施形態では、座アウターシェル51を挟むようにして座インナーシェル53の変形部5xとなる前方部53bに前部座下カバー55を取り付けるようにしている。
図15は座アウターシェル51の前部に前部座下カバー55が取り付けられているように見えるが、実際には
図39、
図40に示すように座アウターシェル51の前部の下に非連結状態で前部座下カバー55が配置され、上方の座インナーシェル53の変形部5xに接続されている。この前部座下カバー55は、
図15に示すように座インナーシェル53の前方部53bの左右寸法に略対応する左右寸法のもので、座アウターシェル51を挟んだ状態で、基端55aを座インナーシェル53の前方部53bに設定した被係合部53b1(
図39及び
図40参照)に取り付け、後端55b側を座アウターシェル51に沿って後下方に延びる形状とされている。
【0087】
座アウターシェル51の前部における左右2箇所には、座インナーシェル53の前方部53bとの間で圧縮される位置に弾性体である圧縮バネ56を配置している。
【0088】
そして、座インナーシェル53側の変形部5xが
図39~
図40に示すように座アウターシェル51に近づいたとき、すなわち座インナーシェル53の変形部5xが圧縮バネ56を圧縮しながら下方に変形したときに、座インナーシェル53の前方部53bの適宜部位が座アウターシェル51の前部上面に当接し(当接点T1)、逆に圧縮バネ56によって変形部5xの変形が
図40~
図39に示すように解消する方向に向かって座インナーシェル53の前方部53bが上方に移動したときに、前部座下カバー55が座アウターシェル51の前部下面に当接する(当接点T2)ようにしている。すなわち、座インナーシェル53bの変形部5xの変形範囲が下方にも上方にも規制されている。
【0089】
ここで、
図37及び
図39に示すように、樹脂ヒンジ53cは数条の凹凸を連ねた波板状のものであり、変形部5xは、座5の左側の領域と右側の領域に受ける偏荷重に応じて、上下方向のみならず、座5の左右方向の一方が他方よりも高くなるようなねじれ変形も引き起こし易い構造とされている。
【0090】
なお、本実施形態の椅子には、
図1及び
図2に示すように、支持基部2の肘取付部23に座5を迂回するようにして上方に延びる固定肘部91が取り付けてあり、座5が前後左右に揺動しても固定肘部91は座5と干渉しない定位置に存するようにしている。また、座5の下方には、前後揺動部3および左右揺動部4の相対動作と干渉せずにこれらを目隠しすべく、複数のカバーを組み合せた可動カバー機構92が配されている。
【0091】
以上のように、本実施形態の椅子は、着座荷重を受けた状態で動く可動部分である前後揺動部3が支持部分である左右揺動部4を介して前後左右に動作可能な椅子において、可動部分である前後揺動部3の板材MPの縦面31aにフランジ部31bが設けられ、このフランジ部31bは横方向に延びて長手方向に転動体45を移動させるガイド面31b1を有し、そのガイド面31b1の横方向寸法は板材MPの厚みよりも大きく、フランジ部31bおよびその周辺の縦面31aをなす板材MPの部分は金属により一体に形成されて、フランジ部31bは縦面31aに開口するガイド孔34の周辺を1周する形状をなし、ガイド面31b1に沿って転動体45を左右独立して転動可能に設けたものである。
【0092】
このようにすれば、転動体45と接するガイド孔34の受圧面積が大きくなり、負荷分散が図れる結果、耐久性が向上する。しかも、可動部分である板材MPに対してフランジ部31bを金属により一体に設けることで、高い強度が確保できるとともに、フランジ部31bによるリブ効果も期待することもできる。その結果、板材MPを厚肉にすることなく、転動体45を確実に支持して、転がり易い状態にすることができる。また、座りながら動くものは特に高荷重が掛かるため、本発明が特に有効となる。さらに、可動部分である前後揺動部3が着座荷重を受けて左右揺動部4の支持のもとに前後左右に動作する場合、ガイド面31b1に対して左右の転動体45の軸心位置がずれるような状態になっても動作を確保することができる。さらにまた、可動部分である前後揺動部3が前後左右に動作する際に可動部分である前後揺動部3の左右一方が他方に対して高くなるような状態になっても、転動体45の一方はガイド面31bの下縁で、他方には上縁で接することができるうえに、転動体45は左右一方が前進又は前回転し他方が後退または後回転する動作が行えるため、左右アンバランスな外力や移動が生じても適切に対応することができる。
【0093】
また、ガイド面31b1の横方向寸法は、全周に亘ってほぼ均一とされているので、転動体45が接する領域を全周に亘って確保することができる。
【0094】
またフランジ部31bは、ガイド孔34の周辺の板材MPを塑性変形加工したものであるので、全周に亘って加工硬化によりフランジ部31bの硬度を上げることができると同時に、加工時のしごき効果で全周に亘って平滑な面を得ることができる。
【0095】
またフランジ部31bは、ガイド孔34から椅子の左右外側に向けて延びる形状であるので、ガイド孔34から椅子の左右内側に向けて延びる形状に比べて、支持幅が広くなり安定した支持が可能になる。
【0096】
また、ガイド孔34の端部は転動体45との衝突による衝撃を緩和すべく可動部分の重心を持ち上げるショックレス形状を有しているので、フランジ部31bの形成とショックレス形状の相乗効果によって、耐久性・強度を向上させることができる。
【0097】
またガイド面31b1をいくら強固に作っても、転動体45が樹脂等であると転動体が強度的に負けてしまうが、転動体45を金属製のベアリング45aとすることで、円滑な回転とガイド面に負けない強度を確保することができる。
【0098】
また、ガイド孔34の両端部から板材MPの端縁までの最短寸法Dは、少なくとも15mm以上に設定されている。かかる寸法が小さいと、板材が加工時あるいは使用時の荷重に負けて変形してしまうが、2~6mmの薄板においては15mm以上に設定しておけば、板材MPを変形させずに適正な加工を行うことができる。
【0099】
また、可動部分である前後揺動部3は前後2箇所において支持部分である左右揺動部4に支持されており、前後何れか一方の支持構造すなわちこの実施形態では前方の支持構造は転動体45とガイド面31b1からなり、他方すなわちこの実施形態では後方の支持構造はこれとは異なるリンク支持構造からなるものであり、前後の支持構造が異なると、前後に偏った荷重が掛かり、転動体とガイド面の間の荷重負担が増え、左右のアンバランスな挙動が集まり易いため、本発明を適用することが特に有効となる。
【0100】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではない。
【0101】
例えば、上記実施形態では、ガイド孔34は椅子の可動部分に形成され、転動体45であるベアリング45aが支持部分となっているが、ガイド孔34を支持部分側に設け、転動体45であるベアリング45aを椅子の可動部分とする逆の構成によってもよい。
【0102】
さらに、可動部分と支持部分の間に適用されるものであれば、可動部分は上記実施形態のように前後揺動部に限られず、左右揺動部をガイド穴とベアリングで支持する場合には、この左右揺動部に上記バーリング構造を適用してもよい。
【0103】
その他の構成も、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0104】
3…可動部分(前後揺動部)
4…支持部分(左右揺動部)
31a…縦面
31b…フランジ部
31b1…ガイド面
34…ガイド孔
45…転動体
45a…ベアリング
D…最短寸法
MP…板材